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【南方舞踏伝】MirrorMist! 自分自身との戦い!



●自分を映す霧
 南方海域で大陸共通言語が通用する部族が四つある。
 独特な文化を持つ褐色女性の集団、ノウブルの女傑部族。
 ゾーエと呼ばれる巨大なエイを崇めるミズビトのゾーエ族。
 一定海域を旋回しながら過ごすソラビトのぐるぐる族。
 近寄る船に絡みつき、航海を阻む幻想種のナガヘビ族。
 自由騎士はその活動の間に女傑部族とゾーエ族と交友を持っていた。その縁故もあってオラトリアオデッセイで踊りを披露してもらったのだ。女傑部族の踊りを教えてもらった後にゾーエ族に向かったのは、自然な流れともいえる。
「その節はお世話になりました」
 自由騎士の到来を聞いて、ゾーエ族は歓迎するように出迎えた。彼らは自由騎士に代々崇めているサンショクエイのゾーエを救ってもらった恩がある。その事もあってか、交渉はスムーズに進んだ。
「我々の踊りですか? 構いませんが……」
 だが踊りを教えてもらおうと言う流れになると、少し難色を示した顔になる。
「いえ。拒むつもりはありません。ですが伝授方法が特殊というか……。
 我々の踊りは心を穏やかにすることが大前提となります。それは如何なる状況においても心を乱さないことです」
 ミズビト達の案内に従い、自由騎士達は海を渡る。少しずつ霧が濃くなってきたきがする。
「その為に『心を乱してしまう状況』に身を置いてもらうことになります。
 この霧は『鏡の霧』と言いまして、精神に作用して自分自身の幻影を見せます。この霧が見せる自分自身に心乱されないようになれば、踊りの会得は難しくありません」
 霧が見せる己自身は、幻ではあるがコピー元に勝負を挑み、打ち負かすことで本物になろうとするという。ある者は力で。ある者は知で。ある者は心で。
「人によっては恐怖で戦えなくなるものもいます。どうなさるかは、お任せします」
 ゾーエ族は道を開け、自由騎士の選択を待っていた。もし霧を進むのなら船員を巻き込まないように小舟で進むことになる。霧から落ちてもすぐに助けに行けるように、同行するつもりのようだ。
 奇妙な会得方向だ。ここで回れ右をしても誰も文句は言わないだろう。
 貴方はこの霧を前に――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
シリーズシナリオ
シナリオカテゴリー
新天地開拓σ
担当ST
どくどく
■成功条件
1.自分自身と対峙する
 どくどくです。
 南方舞踏第二段。今度は心情系です。

●敵情報
・鏡の霧(×参加者人数分)
 鏡の霧が見せる幻影です。ぶっちゃけ、ただの映像です。ですが見ている本人には『本物』のように感じてしまいます。幻影に殴られれば幻痛を感じるほどです。強さは本人とほぼ同等。幻影に合わせて、周囲の風景も幻影に彩られて変化します。
 幻影が見えるのは本人だけですので、他人の幻影に干渉はできません。あくまで自分自身との戦いです。
 霧の行動はコピー元様々ですが、共通事項として『本人を痛めつけて、本物と入れ替わろうとする』ことがあります。戦って勝利しようとしたり、本人の誇りを否定したり、過去をなじったりなどです。

例1:「魔術を極めても、何の意味もなさない。戦争という大波に消されるだけだ」
例2:「自由騎士を名乗ったところで、所詮は(過去の立場)。お前の本質は何も変わらない」
例3:「亜人が何をしたところで、ノウブルに利用されるだけ。戦いに勝っても、栄誉を得るのはあの王様だ」

 それを乗り越える強い心を持つ(メタな事を言うとそういうプレイングを書く)ことで、霧の汚染を乗り越えることができます。乗り越えられなかった場合、フラグメンツが大きく減少します。
 めんどくさかったら、普通に自分自身と殴り合ってもいいです。

●場所情報
 イ・ラプセル南方海域。霧立ち込める大海原。
 船の上ですが、見せられる幻影は各キャラ様々。
 戦闘になる場合、便宜上10×10mの正方形フィールドとします。事前付与を行えば、相手も同じ付与を行います。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  2個  6個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2019年02月09日

†メイン参加者 8人†

『未来の旅人』
瑠璃彦 水月(CL3000449)
『慈悲の刃、葬送の剣』
アリア・セレスティ(CL3000222)
『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)



「本当はどうして良いのか分からないんでしょう? 愛してくれた母も、寄り添ってくれた先生も、皆貴女を置いて逝ってしまった。貴女は置いてけきぼり」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が霧の中で見た『ツボミ』は、静かにそう問いかける。小ぶりな角と第三の目。幻想種とのマザリビトであるツボミの人生がどれほどのものだったか。それを語るように『ツボミ』は言葉を続ける。
「怖いのでしょう? 手を引いてくれる人が居なくなって、否定して来る世界も期待される事も皆怖い。みっともなく縮こまって震えてる」
 自分が接する世界の反応。それは優しいばかりではない。その出自の問題もあり、ツボミは世界から様々な傷をつけられてきた。傷つけられないようにするには、世界から距離を離すしかない。
 山にこもり、自然と共に過ごす。薬草の知識を高め、それを記録することで医術を高めていく。そういう生活を行えば世界に傷つけられることはない。この世界は生きるにはあまりにも狭すぎる。
「誰も傷つかない檻の中に籠り、穏やかに過ごす。そうしたいんでしょう?」

「風景も見慣れた岩肌と森に変わってますな、これは面白い」
 瑠璃彦 水月(CL3000449)の目の前には故郷であるアマノホカリの風景が広がっていた。厳密にはこれも霧が見せる幻覚なのだが、思わず郷愁の想いに老けてしまう。あの道を曲がったところにある我が家。それさえも正確に表現されている。
 目の前には自分と同じ姿をした『水月』がいる。ネコのケモノビトである耳と尻尾を生やし、アマノホカリの着物を羽織った姿。瑠璃色の髪が故郷の風に吹かれて静かに薙いだ。さて、団子の大食いでも始めるかと思った矢先に、
「こんな所で寄り道をしていて『あの男』を殺せるわけがない」
『水月』は静かにそう告げる。
「一つの国に留まるよりも、多くの国を回れ。高い戦闘技術、強い武器、そう言った物が他の国にあるやもしれぬ。貪欲にならねばあの男に勝てるわけがない。
 それは『あっし』自身も分かっていることであろうに」

「いつも仲間と一緒に戦ってるから、ひとりでなんかするのって珍しーかもー」
 見渡す限りの荒野を歩く『限界へのあくなき挑戦』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。何処を見ても地平線というのは、ある意味恐ろしくもある。これが厳格だと分かっていても、歩き続けても何もないのではという錯覚が起きてくる。
「よー、私! 無駄な努力したって無駄だからやめよーよー」
 そんなカーミラの目の前に現れる『カーミラ』。
「マザリビトがどれだけ努力したって結局は意味ないんだしさ。イ・ラプセルが亜人を受け入れるのも、使いやすいだけなんだし」
 イ・ラプセルは亜人の受け入れ口が広い。より正確に言えば、イ・ラプセル以外の国は亜人の扱いはひどく、特にマザリビトは生存権すらないとまで言われている。イ・ラプセルが亜人を受け入れるのは、脆弱な軍事力を支える兵力を整える為だ、とも言われているのだ。
「最後は酷い戦場に送られて、使い捨てられるんだよ」

 炎が村を侵略する。村人の悲鳴は既になく、ただ死体だけが転がっていた。
「この村は……この前の……?」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)はこの場所に見覚えがあった。かつて殉教者部隊と戦った場所。村を焼いた者達を襲撃し、そして――
「私は……救えなかった……?」
 転がる子供の遺体。それは村を焼いた殉教者部隊。だけどこの子には未来があった。正しく教育すれば、真っ直ぐに歩める未来があったかもしれないのに。
「そう。『私』は救えなかった。弱いから。こんな細腕で守れるものはないわ」
 それはアリアの目の前に現れた『アリア』の言葉。弱いから守れない。それは事実だった。
「子供を救いたかったら春を売ってお金を稼げばいい。この体で貴族に取り入り、権力を得ればいい。なのに『私』は前に出る。効率悪く、馬鹿みたいに叫んで。
 ねえ、もっと簡単に生きましょう?」

「あんた、センセーのおヨメさんになるとか言ってるけどなれる訳ないでしょ!」
『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)は霧の中で出会った『カノン』に指を刺されて、そう告げられる。
 センセー。武術の師匠でありカノンの後継人的な存在だ。センセーから武を学び、文を学び、そして恋を知った。子の胸に宿るほのかな灯。それは誰にも否定できないカノンの宝物だ。
「そんな事ないもん! カノンはセンセーのお嫁さんになるって決めたんだから!」
「センセーがあんたを育ててるのは兄弟子の子だって以上の理由なんかないよ」
 優しくされたのは同情から。両親の縁で知り合い、縁で育てられた。
「それにあんたがいるお陰で好きな人がいても一緒になれない」
 カノンがいるからセンセーは他の人と付き合えない。その人生をカノンに向けなくてはいけないからだ。
「あんたは唯の厄介者だよ!」
『カノン』の言葉はカノン自身懸念していたことだった。
 センセーにとって、自分は邪魔者でしかないのか、と。

 火薬と血と土の匂い。爆発が起き、人が死ぬ場所。
 ああ、戦場だな。アデル・ハビッツ(CL3000496)が見た光景はまさにそれだった。傭兵団に拾われ、物心つくころから戦場にいたアデルは、戦場以外の光景を知らなかった。知識として知ってはいるが、そちらに目を向けなかった。
(俺は戦場でしか生きられない)
「いいや。『俺』は戦場以外を選ばなかっただけだ」
 そんなアデルに声をかける『アデル』。アデル同様に機械の身体を持つ『アデル』は、ゆっくりと距離を詰めてくる。
「戦場から逃げ、スラムで生きる選択肢もあった。機械の肉体を非戦闘用にし、静かに余生を過ごす生き方もあった。
 しかし『俺』はそれを選ばなかった。槍を捨てず、失われた肉体を機械に変え、戦場に身を投じた。戦いを選んだのは『俺』だ」
 ああ、それは間違いない。アデルはもう一人の自分の言い分に納得する。戦いにしか生きられないのではない。闘い以外に目を向けなかっただけなのだと。
「返す言葉はないな」
 アデルは素直に首肯した。

「自分との対峙……そっか、そうなるよなぁ」
『暗金の騎士』ダリアン オブゼタード(CL3000458)は目の前に現れた『ダリアン』の姿に驚くことはなかった。キジンではない自分。事故にあわず、音楽の道を突き進めた自分。
「やあ。音楽を諦めた『俺』。この武器は何だ? 未練がましく音楽にしがみついているのか?」
「かもな。だがその身体でその武器は重くないか? 指折ったら大変だぞ」
 軽口を叩きながらダリアンは陰鬱になる自分自身を感じていた。心を乱される自分自身と聞いた時に想像はしていたが、まさか本当に出てくるとは。
 あの日、失ったモノ。あの日、諦めたコト。
 後悔なんてしていないつもりだった。音楽を捨て前に進んでいるつもりだった。
 それでも心のどこかで、音楽を続けていた未来を思っていたのだ。目の前の『ダリアン』がその証拠。機械化されていない右目と肉体。それが奏でる音楽はどのようなものなのだろうか。
 もう、ダリアンがその可能性に届くことはない。

「ヘルメリアか……」
 蒸気配管が至る所に伸び、建物から飛び出た歯車が回る。蒸気自動車が舗装された道路を走り、工場からの煤煙は灰色の空を生み出していた。
 これは『密着王』ニコラス・モラル(CL3000453)が知るヘルメリアの光景そのものだ。表は蒸気文明の最新鋭。そしてその裏では――
「ヘルメリアで亜人がどんな扱いなのか、分かっているのにな」
 裏路地に目を向ければそこに立つ『ニコラス』と目が合う。その傍らには薄汚れた衣装を着た少女。亜人であることを隠そうと服装は何十にも重ねられている。
「『俺』は見捨てた」
『ニコラス』の言葉が胸に突き刺さる。それでもなお、ニコラスは少女から視線を逸らすことが出来なかった。ヘルメリアを出るときに置き去りにしたもの。ヘルメリアで亜人がどういう生き方をし、どういう末路をたどるかを知っているのに。
「分かってたんだろう? 満足に生きられないって。よくて貴族の玩具。悪ければどこまで尊厳を踏みにじられるか」
 分かっている。ニコラスはよく知っている。『ニコラス』の指摘は正しく、現実の少女がどうなっているかなんて希望的に見ても――


「独りぼっちが寂しいのに、手を伸ばす勇気も無い臆病者。『私』はずうっと、仲間外――あたぁ!?」
 語る『ツボミ』の両目に躊躇なく眼突きをするツボミ。
「うっせえ馬鹿何泣いてんだいい年して! 怖いだの寂しいだの見っとも無いだの! 全部その通りだわぐうの音も出んわ!」
 自分自身を写した神秘に向かい、居丈だけに言い放つツボミ。
「この性格は生まれつきだ! 筋金入りだ、行き成り治ってたまるか! 
 つーか開幕即毒塗りナイフ突き立てて来る位のガッツ見せなさいよ、この根性無し! 何日和ってんの。流石私だなヘタレめ、ペッ!」
 言っている相手は自分自身なのだが。
「だから責任転嫁して目を逸らしてマウント取って、傍目に自信満々げに見える様に取り繕って上手い事やり過ごしてんだよ私は!
 目を伏せろ耳を塞げ歯を食いしばれガタガタ震えろ。そうしなきゃ進めないのだからそうするんだよ。在りもしない勇気は振り絞れん。翼も無いのに飛べる物か」
 ツボミは自分が弱いことなど知っている。認めようが認めまいがそれは事実だ。
 だからどうした。
 ないならないままで、歩いていくしかないのだ。

「いや全く。そちらの方が出てくるとは。それじゃぁ戦いますか」
 水月は『水月』の言葉を受けて一つ頷き構えを取る。
 イ・ラプセルに留まるか離れるか。どちらの方が強くなれるか。どちらの方が『あの男』を倒せるか。
 そんなことはどうでもいい。それはあくまで過程だ。効率よく強くなろうが回り道をしようが、最終的に『あの男』を倒せるまで強くなっていればいい。
 その証明は簡単だ。戦って、勝った方が強い。
「『あっし』もあっしなら、わかっているとは思いますが」
「無論。されど問わせてもらうぞ。何故あの国に留まるのでござる?」
『水月』の問いに、軽く肩をすくめる水月。
「さて、あっしは猫ゆえ気まぐれですからなぁ。ふらりと出ていくやもしれませんぞ。
 それに自由に旅し理不尽に死ぬこと、それがアマノホカリでの旅路だったはず。ならばそれはこの国でも変わらぬことですぞ」
「然り。愚問だったでござるな。では――」
「「参る!」」
 水月と『水月』の言葉が重なり、互いの武をむき出しにして動き出す。

「そうかもねー。でも、もしかしたらイケるかもしれないじゃん?」
 カーミラは『カーミラ』の問いに頷き、そして拳を構える。
 いいように兵力として使われ、廃棄される。そういう未来もあるのかもしれない。だけど――
「水鏡に映った未来だって、頑張ったら変えられるんだよ? んじゃー、無駄に終わるかもって未来も変えられるかもでしょ」
 未来は変えられる。今まで何度も変えてきた。この拳は神にさえ届き、この世の常識を一変させた。
「挑まなかったら可能性はゼロだけど、挑み続ける限りはゼロじゃない。ゼロじゃないなら、あとは望む未来を手繰り寄せるだけだよ!
 今の私に無理でも、もっと強くなった私なら。もっともっと強くなった私なら!」
 カーミラに諦めるという選択肢はない。仮に力及ばず倒れたとしても、再起して立ち上がる元気がある。
「そんな事より、私とおんなじくらい強いんでしょ? ちょーどいいから練習相手になってよ」
「いーよー!」
『カーミラ』はカーミラの言葉に元気よく返し、拳を構える。
 荒野の中、二人の元気ある拳がぶつかりあう。

「ごめんね、ごめんね……」
 子供の亡骸を前に泣き崩れるアリア。これが戦争だと割り切れるほどアリアの心は達観していない。達観できるはずがない。
 なぜなら、善を為すことこそがアリアという少女の戦う理由なのだから。
「謝ってもこの子は生き返らない。自己満足で泣き崩れて、それで満足?」
「……うん、自己満足だけど少しすっきりした」
『アリア』の言葉に頷き、立ち上がるアリア。分かっている。答えなんか一つしかない。アリア・セレスティが歩く道なんて始めから一つしかない。
「絶望、諦観、達観。そういうのは大人に任せておけば良いのよ」
 この手は動く。この足は動く。この剣は動く。だったら精一杯動かして、助けることができる人を助ける。
「私はカッコ良いお姉ちゃんじゃなきゃダメなのよ!」
 それがどれだけ非効率でも、胸を張って子供達に前に立てるおねえちゃんでいたい。
 回り道だってするだろう。うだうだ悩むことだってあるだろう。こうしてまた泣くこともあるだろう。それでも――

(カノンは厄介者なのかな……?)
 カノンはセンセーと過ごした年月を思い出す。生きる為に必要な教育を施してくれたり、格闘術を教えてくれたり。大事なことは、皆センセーから教わった。
 その間、センセーは自分の楽しみを放棄していたのではないのか?
 その時間を自分のために費やしていればセンセーの人生は華やかになっていたのではないか?
 ひざを折りそうになるカノンの耳に、懐かしい声が届く。
『本当に好きなら、何があってもその思いを貫きなさい』
 それは今は亡き母の言葉。夢を語った時に教えてくれた言葉。
「厄介者だってゆーなら厄介にならないくらい強くなる! センセーが他に誰か好きな人がいるなら、それ以上にカノンを好きにさせて見せる!」
 忘れない。この胸に宿ったほのかな思いを。それだけは誤魔化せない。
 センセーの時間を奪ったというのなら、返すために尽くそう。恩は恩でしか返せない。育ててくれてありがとうの一言を。そしてこれからも――
「その思いを貫く事が、カノンの生きる意味なんだ!」
 霧は、いつの間にか晴れていた。

 確かに返す言葉はない。アデルは素直に認める。
 戦いに身を投じ、以外の生き方を見つけようとしなかった。 戦うためだけに戦場で生き、次の戦場に行くために生き残り続けてきた。
 ――死んでも構わなかったとさえ思っていた。俺が死んでも何も変わらないと。それは自分自身の未来に希望が持てなかったからだ。
「だけど、この国の者は違う。戦いの先で世界を変え、未来を創ろうとしている。
 種族は垣根を超え、人は自由意志で人たらんとする」
 それは、戦い続ける傭兵が見た希望の未来。そうあってほしいと願う羨望。その未来の為なら、戦い続けることも悪くない。アデルはそう思っていた。
 たとえそこにたどり着けなかったとしても、その未来が正しいと信じたのだから。
「戦い続けた先にその未来があるのなら。俺は『俺』を倒し、この先も戦い続ける。それだけだ」
 ランスを構えるアデル。その穂先が導く未来は――

「さて困ったな。でも試験は試験だらぁ!」
 ダリアンは予告なしで『ダリアン』に武器を振るう。加減無しのフルスイングだ。
「はっはっは、まさか殴り掛かってくるとは思わなかったか? そういう自分を見て手が出せないかと思ってたか?
 俺もな、自由騎士になるまでは考えもしなかったよ」
『ダリアン』が音楽家として華々しい経験を得ているのと同様に、ダリアンも音楽を諦めた道でいろいろな経験を得ている。
「案外やってみればやりがいなんてのは後から付いてくるものだったよ。だから俺はこれでいいと思っている。『俺』は不満なんだろうがな」
 音楽家としての道。ありえないイフ。それを思わなかったのかと言われればそんなことはない。今目の前に『ダリアン』がいることがその証左だ。
 だが、今の生き方を否定するつもりはない。この立ち位置になって分かったこともある。この立ち位置だから助けられた人がいる。
「お前みたいになれるかは分からないけれど、それでも諦めはしていないから。遥か先で待っててくれよ」
 じゃあな、とばかりにダリアンの武器が振り下ろされる。
 遠い未来、あの日のように音楽を奏でることができるその日まで。

(ざわつくのは仕方ない。その末路ぐらいは知りたいんだが……)
 少女と『ニコラス』を見ながらニコラスは、胸中にどうしようもない感情が渦巻くのを感じていた。捨てた者、連れていけなかった者。捨てなければ今はないが、それでももう少しうまくやれていたのではないかという後悔。
「んなもん、今更だな」
 唾棄するようにニコラスは吐き捨てる。捨てた、見捨てた、連れて行かなかった。少女がそう罵ってくれれば些か楽だった。だが彼女はそうしない。あの時と同じようにこちらを見ている。明日もまた一緒にいられると信じている眼。それが辛かった。
 権力を覆す力が欲しかったわけじゃない。欲しい者が何でも手に入る世界なんていらない。仮に過去をやりなせたとしても、それは『今』を少女と同じように見捨てるのと同じこと。
「全部抱えて歩いていくしかねーんだよな」
 頭を掻き、『ニコラス』と少女に向かって歩き出す。ぶつかる寸前でその姿は消え、それを気にすることなくニコラスは歩き続ける。
(いつかヘルメリアに行ったとき、どうなったかを知りないんだけど……遠いよなぁ)
 遠く霧の向こうを見据えるニコラス。その方角には蒸気と鉄の国家があった。


 霧は晴れ、自由騎士達は我に返る。
 自身との対峙は、確かに心の糧となっていた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

この邂逅が、貴方の歩みの助けになりますように
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