MagiaSteam




Luxurious! 豪華な家具は如何?

●フリーエンジンからの依頼
「Why!? ガジェットが欲しいだと!? あんな爆発しないものをか、信じられん!」
フリーエンジン代表のニコラ・ウィンゲートはそう言った。
事の始まりはフリーエンジンのアジトまで連れてきたジョンが『ガジェットの設計図を彼らに見せてあげてください』と打診したことから始まる。以前から興味を持っていた自由騎士だが、予想外の――本当に予想外の――言葉に面食らっていた。
「I understand! そうか、イ・ラプセルには自爆の美しさを知る教育がなされていなかったのだな! なら仕方ない! ここはみっちり十二時間コースで――え? 違う? むぅ……ではお手軽六時間で……ぐぬぅ……。
しかしタダで見せてやるわけにはいかん! あれは龍語解析蓄音機を作っている際になんとなく思いついたもの! あの後ワイバーンの群れに襲われて酷い目にあったが、その時の経験を生かして対龍式死んだふり人形を開発し――あれ? なんのはなしだっけ?」
ガジェットガジェット。自由騎士がツッコむと、ポンと手を叩いてニコラは頷く。
「YesYes! だがあれは個人調整が大事だからレシピを見てもそう簡単に使えはしまい。具体的には収納だな。あれだけの器具を折りたたみ、装備内に収容する。そんな事は亜空間内にポケットでも作らない限りは不可能だ! ジョンやレティ嬢の荷物収集才能あっての活用なのだ!」
……それってマキナ=ギア使えば一発じゃね? 自由騎士達は口には出さずに思った。そう言えば誰もマキナ=ギアの事言ってなかったっけ?
「それでもいいというのなら少し待て。部屋の中から発掘してくるから。
その間、我がやるべきだった奴隷解放案件を頼むとしよう。ヘルメリア世情には不慣れだろうから、それなりに平穏な奴だな」
そうして渡された一枚の羊皮紙。そこには――
●とある館にて
「ふひひひひ。いいですなぁ、ケモノビトは」
泉のほとりにある別荘。そう表現できる館の一室に二人の男と複数のケモノビトの女性がいた。ケモノビトは様々な種族がいるが、二つの共通点を持っていた。
一つ。ほぼなにも着ておらず、裸体を晒していること。
一つ。椅子や蝋燭立てと言った家具の代わりをしていること。
「ええ。頑丈ですから多少の事では壊れません」
「ほほう。どのぐらい頑丈か、試してみましょう。そぉれ!」
『蝋燭立て』に振るわれる男の拳。それを受けて僅かにケモノビトが揺らぐが、無表情のまま姿勢を維持する。
「ほほう。見事見事。どうやら今夜は楽しめそうですな」
「ええ。存分にお楽しみください」
はっはっは。と笑う男達。
無表情でその笑いを聞くケモノビト達。その瞳は虚ろで、未来に何の希望を見いだせないでいた。
「Why!? ガジェットが欲しいだと!? あんな爆発しないものをか、信じられん!」
フリーエンジン代表のニコラ・ウィンゲートはそう言った。
事の始まりはフリーエンジンのアジトまで連れてきたジョンが『ガジェットの設計図を彼らに見せてあげてください』と打診したことから始まる。以前から興味を持っていた自由騎士だが、予想外の――本当に予想外の――言葉に面食らっていた。
「I understand! そうか、イ・ラプセルには自爆の美しさを知る教育がなされていなかったのだな! なら仕方ない! ここはみっちり十二時間コースで――え? 違う? むぅ……ではお手軽六時間で……ぐぬぅ……。
しかしタダで見せてやるわけにはいかん! あれは龍語解析蓄音機を作っている際になんとなく思いついたもの! あの後ワイバーンの群れに襲われて酷い目にあったが、その時の経験を生かして対龍式死んだふり人形を開発し――あれ? なんのはなしだっけ?」
ガジェットガジェット。自由騎士がツッコむと、ポンと手を叩いてニコラは頷く。
「YesYes! だがあれは個人調整が大事だからレシピを見てもそう簡単に使えはしまい。具体的には収納だな。あれだけの器具を折りたたみ、装備内に収容する。そんな事は亜空間内にポケットでも作らない限りは不可能だ! ジョンやレティ嬢の荷物収集才能あっての活用なのだ!」
……それってマキナ=ギア使えば一発じゃね? 自由騎士達は口には出さずに思った。そう言えば誰もマキナ=ギアの事言ってなかったっけ?
「それでもいいというのなら少し待て。部屋の中から発掘してくるから。
その間、我がやるべきだった奴隷解放案件を頼むとしよう。ヘルメリア世情には不慣れだろうから、それなりに平穏な奴だな」
そうして渡された一枚の羊皮紙。そこには――
●とある館にて
「ふひひひひ。いいですなぁ、ケモノビトは」
泉のほとりにある別荘。そう表現できる館の一室に二人の男と複数のケモノビトの女性がいた。ケモノビトは様々な種族がいるが、二つの共通点を持っていた。
一つ。ほぼなにも着ておらず、裸体を晒していること。
一つ。椅子や蝋燭立てと言った家具の代わりをしていること。
「ええ。頑丈ですから多少の事では壊れません」
「ほほう。どのぐらい頑丈か、試してみましょう。そぉれ!」
『蝋燭立て』に振るわれる男の拳。それを受けて僅かにケモノビトが揺らぐが、無表情のまま姿勢を維持する。
「ほほう。見事見事。どうやら今夜は楽しめそうですな」
「ええ。存分にお楽しみください」
はっはっは。と笑う男達。
無表情でその笑いを聞くケモノビト達。その瞳は虚ろで、未来に何の希望を見いだせないでいた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.敵全員の戦闘不能
どくどくです。
平穏ですよ。だってまだ誰も死んでませんし。
●敵情報
・『主』(×1)
この館の主です。40代男性ノウブル。避暑がてら、現地で奴隷を購入しました。
戦闘力は皆無です。戦闘中は悲鳴を上げながら右往左往しているでしょう。
・『奴隷商人』(×1)
ヘルメリアの奴隷商人です。30代男性ノウブル。『主』にケモノビトの奴隷を売りに来ました。戦闘中は隠し持っていた銃を使います。
『サテライトエイム Lv2』『ウェッジショット Lv2』等を使ってきます。
・『椅子』(×2)
ケモノビト(イヌ)です。椅子として耐えるよう教育された奴隷です。頑丈です。
戦闘中は『奴隷商人』の命令に従い防御タンクとして動きます。説得などは意味を成しません。
『パリィング Lv3』『サクリファイス Lv2』『バーチカルブロウ Lv2』等を活性化しています。
・『オルゴール』(×2)
ケモノビト(カナリア)です。オルゴールとして生きるように教育された奴隷です。
戦闘中は『奴隷商人』の命令に従い格闘家して動きます。説得などは意味を成しません。
『旋風腿 Lv2』『柳凪 Lv3』『龍氣螺合 Lv2』等を活性化しています。
・『蝋燭立て』(×1)
ケモノビト(ネコ)です。蝋燭立てとして生きるように教育されました。国外から誘拐されたものらしく、ヘルメリアでは珍しく魔術が使えます。
戦闘中は『奴隷商人』の命令に従い魔導士して動きます。説得などは意味を成しません。
『緋文字 Lv2』『アニマ・ムンディ Lv3』等を活性化しています。
『椅子』『オルゴール』『蝋燭立て』は『奴隷商人』の命令に従います。また、戦闘中に『奴隷商人』が倒れた場合、最後に受けた命令を最後まで忠実に実行しようとします。
●場所情報
ヘルメリアのとある泉近くにある別荘。その一室。明かりや足場などは戦闘に支障なし。全扉や窓は施錠済みです。
鍵開けなどをスムーズにできて激しい音もなく突入するなら、不意打ち可能です。その場合、全敵キャラが前衛に居るものとし、最初のターンは敵は行動できません(次のターンから、移動などを行います)。
扉を壊して侵入するなど音を立てた手侵入した時は相手に気付かれ、戦闘開始時に敵前衛に『椅子(×2)』『オルゴール(×2)』が、敵後衛に『主』『奴隷商人』『蝋燭立て』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
平穏ですよ。だってまだ誰も死んでませんし。
●敵情報
・『主』(×1)
この館の主です。40代男性ノウブル。避暑がてら、現地で奴隷を購入しました。
戦闘力は皆無です。戦闘中は悲鳴を上げながら右往左往しているでしょう。
・『奴隷商人』(×1)
ヘルメリアの奴隷商人です。30代男性ノウブル。『主』にケモノビトの奴隷を売りに来ました。戦闘中は隠し持っていた銃を使います。
『サテライトエイム Lv2』『ウェッジショット Lv2』等を使ってきます。
・『椅子』(×2)
ケモノビト(イヌ)です。椅子として耐えるよう教育された奴隷です。頑丈です。
戦闘中は『奴隷商人』の命令に従い防御タンクとして動きます。説得などは意味を成しません。
『パリィング Lv3』『サクリファイス Lv2』『バーチカルブロウ Lv2』等を活性化しています。
・『オルゴール』(×2)
ケモノビト(カナリア)です。オルゴールとして生きるように教育された奴隷です。
戦闘中は『奴隷商人』の命令に従い格闘家して動きます。説得などは意味を成しません。
『旋風腿 Lv2』『柳凪 Lv3』『龍氣螺合 Lv2』等を活性化しています。
・『蝋燭立て』(×1)
ケモノビト(ネコ)です。蝋燭立てとして生きるように教育されました。国外から誘拐されたものらしく、ヘルメリアでは珍しく魔術が使えます。
戦闘中は『奴隷商人』の命令に従い魔導士して動きます。説得などは意味を成しません。
『緋文字 Lv2』『アニマ・ムンディ Lv3』等を活性化しています。
『椅子』『オルゴール』『蝋燭立て』は『奴隷商人』の命令に従います。また、戦闘中に『奴隷商人』が倒れた場合、最後に受けた命令を最後まで忠実に実行しようとします。
●場所情報
ヘルメリアのとある泉近くにある別荘。その一室。明かりや足場などは戦闘に支障なし。全扉や窓は施錠済みです。
鍵開けなどをスムーズにできて激しい音もなく突入するなら、不意打ち可能です。その場合、全敵キャラが前衛に居るものとし、最初のターンは敵は行動できません(次のターンから、移動などを行います)。
扉を壊して侵入するなど音を立てた手侵入した時は相手に気付かれ、戦闘開始時に敵前衛に『椅子(×2)』『オルゴール(×2)』が、敵後衛に『主』『奴隷商人』『蝋燭立て』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年07月11日
2019年07月11日
†メイン参加者 8人†
●
――奴隷商人と館の主は殺していいのか?
「Sorry! 殺すか否かだと? 生殺与奪権がある程に実力があると、そういう悩みがあるんだな。確かに気が回らなかった!」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の問いに、フリーエンジン代表は笑いながら答えた。
「所でお前達はイ……なんとかで国防を担うと聞いたが、家具の泥棒と強盗殺人とだったらどっちに人を注いで捜査する?」
●
「ちょいちょいっと。ヘルメリアでもカギの構造はあまり変わらないねぇ~」
時間にすれば数秒程度の時間で『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は屋敷の鍵を開ける。鍵を開ける瞬間はいつだって解放感に満ちている。中に何があるかわかっていても、それをさらけ出す喜びは何事にも代えられない。
「行くぞ」
短くウェルスは告げて館の中に侵入する。商売を行っているような愛想の良さやおどけた様子はまるで見られない。それがウェルスがこの事件に対してどのような感情を持っているのかを示していた。
「女神よ、どうか彼らに救いを」
『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は短く祈りを捧げた後に突入する。この館の中でケモノビトに行われている所業。それがアンジェリカには受け入れられなかった。それがヘルメリアの『当然』だとしても。
(……使用人の気配はない。貴族のお忍び旅行と言った所か)
館の中を警戒する『活殺自在』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。ただの旅行なら使用人等を連れている可能性は高い。それが無いという事は、近いうちに密談があるのだろう。その時用に『家具』を使うと言った所か。
「フリーエンジンはこういった人達を開放してきたのね」
頼まれた内容を思い出し、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はうんざりした声をあげる。心を壊し、インテリアとしてケモノビトを使う。それが当然であるというノウブル。とても許すことはできないと、拳を握った。
「……まだマシな方なんだけどね。こいつは」
小さく呟く『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)。ヘルメリアに置ける亜人の立場は低い。ひどい扱いで命を落とすことなど日常茶飯事だ。そういう意味では『良質の』奴隷商人なのだろう。ヘルメリアを知るニコラスはそう溜息をついた。
「それがこの国の文化で、この国に住む人間の主観なのだろうよ」
ニコラスの言葉を聞いた『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が頷いた。あらゆる国があり、あらゆる価値観がある。事、亜人に対する態度はイ・ラプセルの方が少数派なのだ。そうと分かっていても、気に入らない事はある。
「ピンクの毛並みの魅惑のにゃんこ! 通りすがりのただのケモノビトだあー!」
扉を開けると同時にスピンキー・フリスキー(CL3000555)が叫ぶ。颯爽とポーズを決めて、自分を指差しながらそこに居る者の注目を集めた。『うなー!』と叫びながらケモノビト達を見る。焦点の合わない眼は、ゆっくりとこちらの方を向いてノロノロと動き出す。
「『自分達以外の者が現れたら戦え』……と言った命令でもされていたかな」
「構わん。今は一気に押さえるだけだ」
戦意をもったケモノビトの奴隷達と奴隷商人。それを見ながら自由騎士達は動く。相手がまだ戦闘態勢に移行するより先に、自由騎士達の武器が翻る。
戦いの火蓋は、きって落とされた。
●
「全員で壁になっ――――っ!?」
命令を下そうとした奴隷商人の周りにアンジェリカが作った音の壁が展開する。中途半端な命令では奴隷の指示変更はできない。ケモノビト達はただ、一番近くに来た相手を殴るだけになってしまった。
「悪逆非道。しかしそのような事でも神は御赦しになるのでしょう」
祈るように呟いて、アンジェリカは奴隷商人に近づく。巨大な十字架を振りかざし、その体躯からは想像できない力をもって奴隷商人に迫る。自由意思を奪い、道具のように扱う。ヘルメリア全ての亜人がこうならば、神の鉄槌を振るうのも致し方ない。
息を吸い、そして吐く。呼気と同時に十字架を振り上げるアンジェリカ。十字架の重さを感じさせない動きで一気に迫り、叩きつけるように『断罪と救済の十字架』を振り下ろした。三度翻った天罰が、奴隷商人を襲う。
「それでも、腐り穢れた根は摘み取らねばなりません」
「逃げ道はこことあそこと、あっちかな」
クイニィーは部屋の中を見て、間取りを想像していた。人が出入りできそうなのは自分達が入ってきたドアと、向かいの窓。あとは隣の部屋に通じる扉が見えた。皆が戦っている隙に、扉の方に向かう。
鍵穴に工具を差し込み、上下に動かすクイニィー。同時に魔力を展開して扉そのものの強度を増した。これでこのビラは鉄レベルに難くなり、容易に開ける事もできなくなった。次は窓かなー、とクイニィーは迂回しながら移動する。
「逃亡経路は全て塞いでおくから、戦いはおねがいねー」
「何が家具じゃ! 何がオルゴールじゃ!」
叫びながらスピンキーはケモノビト達に殴り掛かる。仲間に殴り掛かりに行くよりも早くケモノビト達の前に立ち、その攻撃の矛先になるためにスピンキーは動いていた。前に立った理由はそれだけではない。ケモノビト達に言いたいことがあるのだ。
拳を握り、力を込めて殴るスピンキー。殴られたケモノビトに反応はない。衝撃で体が揺らぐが、それでもすぐに姿勢を戻すように体を直す。その反応がスピンキーの感情を揺さぶった。違う、そうじゃない。なんで何も言わないんだ。
「おまえたちは! 生きものだべや! 左胸に手を当ててみろや! どくんどくんしてんべや!」
「聞こえないのだろうな。そのような言葉も」
スピンキーの言葉を意に介さないケモノビト達を見て、アリスタルフは短くそう告げた。人間がどこまで残酷になれるのか。どのような『教育』が施されれればこうなるのか。目の前のケモノビト達を見て、ヘルメリアの一端が垣間見えた。
ともあれ今は、とばかりにアリスタルフは戦いに挑む。ケモノビト達を押さえ、無力化しようと拳を振るう。拳を目の前のケモノビトに当て、衝撃を『通す』ように下半身を振るい拳を撃ち放った。貫通する衝撃がケモノビトの背後に居る主に叩き込まれる。
「すまない。些か痛むだろうが、すぐに終わらせる」
「こりゃおじさんも殴っておいた方がいいかな」
攻勢に出る自由騎士の勢いを見て、ニコラスは魔力の形を変える。不意打ちが成功したこともあり、回復の必要はあまりなさそうだ。それよりも今一気に攻め立てた方が戦いが早く終わるだろう。
魔導書を手にニコラスがマナを集める。大気に存在する色とりどりのマナ。そこから蒼のマナを集め、鋭角にとがらせていく。一呼吸の間に生まれた氷の矢は、一直線に奴隷商人に向かう。鋭い矢と冷気がその動きを封じた。
「ほいほいっと。じゃあ回復は任せたぜ」
「どちらかと言うと治療が必要なのはあいつ等だがな」
ため息と共にツボミが言い放つ。その視線の先には、無表情で戦う敵のケモノビトだった。肉体的なダメージは治療魔法で一時的に塞ぐことはできる。落ち着いたところで本格的に治療すれば快癒するだろう。だが心の傷はそうもいかない。
頭を掻いて、そこは後ろ送りにするツボミ。どうあれここを制しなければその治療すらできないのだから。ケモノビトに殴られた仲間に対し、治療の術を放つ。淡い光が仲間を包み込み、殴られた傷を癒していく。
「希望の見えない目か。ふん、希望ぐらいこちらが押し付けてやるさ」
「逃がさないわよ!」
一気呵成にエルシーが迫る。この機会を逃せば、奴隷商人はケモノビト達を盾に防衛に徹するだろう。女神の権能で殺すことなくケモノビトを伏すことはできるが、傷つけることに抵抗があった。戦いなく制することが出来るのなら、それに越したことはない。
ケモノビトの間をすり抜けるよう身をかがめて進みながら、奴隷商人の元にやってくる。赤い鱗の手甲を構え、叩きつけるように拳を振り下ろした。確かな手ごたえが手甲からエルシーに伝わり、奴隷商人を地に伏した。
「あ、気絶した?」
「問題ない。起こして命令させる」
気を失った奴隷商人に迫るウェルス。このまま殺してやりたいが、今はその衝動を押さえこむ。ケモノビトの奴隷が奴隷商人のいう事しか行かないというのなら、ここで殺してしまえばケモノビト達はずっと戦い続けることになる。それは、看過できなかった。
「おい、起きろ!」
奴隷商人の頬を叩き、意識を取り戻させる。奴隷商人は慌てて銃を構えようとするが、既に武装解除されて拘束されていることに気付き、顔を青ざめる。
「彼女達に『命令あるまで戦うな』と命令しろ」
「そんなこと聞くわけが……あいたたた! わかった、『朝食は銀のスプーンで』!」
奴隷商人の言葉と同時にそれまで暴れていたケモノビト達は動かなくなる。より正確には、『家具』のポーズを取って動かなくなった。
あとは――
「あわわわわわわ。どどどどどどういうことだ!?」
今だ事態を飲み込めない館の主。自由騎士が彼を拘束するのに、時間はかからなかった。
●
かくして戦いはあっさり終わった。
奴隷商人と館の主は拘束され、ケモノビトの奴隷は動くことなく待機している。後はこの奴隷達をフリーエンジンの所に連れていけばいいのだが――
「色々聞かせてもらおうか」
「そうね。少しばかり聞きたいことがあるんだけど」
「おじさんもご一緒させてもらうよ」
「ひ・み・つ♪ ひ・み・つ♪ 暴くのたのしーなー」
ウェルス、エルシー、ニコラス、クイニィーの四名は別室に奴隷商人と主を連れ込んで『取調べ』を開始していた。目隠しをして視界を奪ってからの問いかけだ。
「か、金ならある!」
「そーかいそーかい。それは後でいただくとして……」
騒ぐ主を無視して、奴隷商人の方に問いかけるウェルス。
「先ずは彼女達の命令権を俺達に譲渡してもらおうか」
うんざりした口調で問いかけるウェルス。何せ『家具』となったケモノビト達はその命令を頑として聞き、まったく動かないのだ。強引に引っ張っていくことはできるが、それは根本的な解決にはならない。
(まあ、命令を聞かせるっていうのも不満でしかないがな)
「へいへい。そいつは俺が命令すればすぐにでも。命あっての物種だしな」
「まだ他にも奴隷を持っているわよね? ドコにいるのかしら?」
エルシーの問いかけに、奴隷商人は眉をひそめた。例えるなら『あれ? こいつらただの泥棒じゃないのか?』という疑問である。
(うかつなことを聞きすぎると、ヘルメリアの人間じゃないってバレるかも?)
(かもな。だが毒食らわば皿だ)
ひそひそと耳打ちしあう自由騎士達。質問から出自がばれるという可能性もあるのだ。
「そいつは俺個人が、ってことかい? 生憎と俺は個人事業でね。
奴隷だったら協会に居るぜ」
「きょうかい?」
「奴隷協会知らないとかどんだけ田舎もんだよ? ヘルメリアの奴隷売買を担ってる協会のことだよ。俺はそこから売買許可を貰って、奴隷を卸してるんだ」
つまり、ヘルメリアの奴隷制度は奴隷協会と呼ばれる組織が一手に担っている。奴隷商人は依頼を受けて協会に赴き、奴隷を購入して客に売るというスタイルだ。
「れっきとした商売ルートが確立しているのか」
商人のウェルスはうんざりした顔でそれを理解する。養豚所の豚のような感覚でケモノビトが『流通』されているのだ。
「まあなあ。大手の奴隷商人や貴族なんかは協会から調教前の亜人を受け取って、自分で育ててるらしいぜ。
ただ奴隷の維持コストとかを考えると、ハイリスクハイリターンなんだとよ」
とはヘルメリア出身のニコラスの言葉である。……自らが貴族のお抱え兵だった、とは言わずに口を紡ぐ。
「ふーん、じゃあ彼女達の『教育』はその奴隷協会が行ってるの? どれぐらいの年月で? 奴隷にどの位のコストを掛けて? 後学のためにぜひ知りたいなぁ」
興味津々と言った感じでクイニィーが問いかける。
「ああ、一級奴隷商人が仕込んでるらしいぜ。詳しい事は俺も分からん」
「ちなみにあなたは何級?」
「……資格取れたての二級だ」
あら残念、と言う顔でクイニィーは肩をすくめた。望んだ情報は彼からは得られそうにない。
(聞けそうなのはこんな所か。後はこいつらの処分だが……)
(情報漏れを塞ぐために殺しておきたいが、そうすると治安組織が大きく動き出してこの地域での活動が難しくなる、ってニコラ嬢が言ってたからな)
(個人的には殺害は反対。正直、犯した罪に対して命を奪うのはやり過ぎよ)
(その法律にしたって、ヘルメリアの法律だと彼らは無罪なんだよね。むしろこっちが犯罪者だ)
(こいつは法律とは関係ない個人の怒りなんだよな)
再度ひそひそを話し合う自由騎士達。
その間、奴隷商人と主は目隠しされ、不安の中怯え続けていた。
「…………了解……しました。貴方達を……主と認めます」
奴隷商人に命令権を譲渡され、自由騎士達に従う旨を示すケモノビト達。
「感情の揺らぎはない。徹底的にそうしたものをもたないようにされてるんだろうな」
ニコラスは奴隷達の感情を調べたが、人らしいものは何も見られなかった。希望もない、絶望もない。今、命がある事だけが素晴らしい。そんな感情だ。他の事に興味を抱くことをしない。許されていないことはできない。
「ひとらしさ、か」
アリスタルフはそんなケモノビト達を見てため息をついた。徹底的に『道具』として扱われる亜人達。そこに人間らしい動きは何一つなかった。ノウブルに従い、生きている。ただそれだけの存在。この亜人達に何が出来るのだろうか。
「私には祈る事しか出来ませんが……」
アンジェリカは虚ろな目で立つケモノビト達を抱きしめる。暖かい感覚と心臓の脈動が伝わってきた。自分とこのケモノビトに違いはない。ただ生まれた国が違っただけ。ただそれだけの違いで、こうもひどい目に合わなくてはいけないのか。
「ふざけるなあああああ! お前達は生きてるんだろうがああああ!」
言いながら拳をケモノビトに叩きつけるスピンキー。言葉は届かない。叫びは届かない。そうと分かっていても叫びたくなる。悪人を倒す拳でも、このケモノビト達の心は取り戻せない。――そんなことは、わかっているのに。
「貴様らは人だ。医学上、何ら変わらない人間なんだ。ヘルメリアやお前達がどう言おうが、医者として人と断言する」
ツボミはケモノビト達の身体を調べながら、そう断言する。体に見られる幾つかの火傷と注射の跡。医学的に見られる暴行の跡。暴力と薬物で徹底的に精神を削り、出来るだけ肌に跡を残さない『教育』。それをツボミは体を診て理解する。
「人……私たちは、ノウブルでは……ありません。貴方様の、奴隷です」
「命令を……お願いします」
自由騎士達の言葉にケモノビト達が答える言葉はない。ただそれだけを返し、命令を待つように立ち尽くす。言葉は届かず、平等という常識は瓦解する。
イ・ラプセルとヘルメリア。その隔たりが大きく広がっている気がした。
●
「よし、これでOKじゃ! あとはケモノビト達を運べばいいんじゃな?」
機械の左腕で壁に大きく『フリーエンジン参上!』とペイントしたサポート要員は、満足したように頷いてケモノビト達を運ぶために部屋を去る。
「あいつらはあれでよかったのか?」
「連絡がなければ貴族の知り合いか、奴隷商人の仲間が館に向かうだろう。それまで生きてられるかは運だろうな」
フリーエンジンの意向で『殺すよりはフリーエンジンの証を残してほしい』という事になった。行方不明になれば大きく治安組織が動き出す。そうなれば活動もやりにくくなるからだ。
どの道こんなことをしていれば警邏に狙われるんじゃないか、と言う意見もあったが――
「あいつ等にとっては『家具泥棒』程度の認識なのがイラつくぜ」
ヘルメリアの法律に照らし合わせれば、今回の行動は『その程度』の認識になる。憲兵も調書を取って動くだろうが、二週間ほど動けばよく頑張った方だという。
「でもこのケモノビト達、どうなるんだろ? このままあの城に連れて行って……そのままインテリア?」
「そうではないと信じたいが……その辺りの手腕も見せてもらわないとな」
「あの爆発マニアにそこまでの手腕があるかは正直疑問だがな。しかし無策で奴隷開放しているわけではないかろう。多分」
多分、の言葉に首を捻る自由騎士達。フリーエンジンの代表の笑いを思い出し、いやいやと首を振った。なんとかなるなんとかなる。
こうして自由騎士達のヘルメリアでの活動は開始された。
救出した奴隷は五名。ヘルメリアの総奴隷数を考えれば、それはわずかな数だ。
しかし確かに助けた。僅かではあるが、間違いなく叛逆の牙は突き立てた。
蒸気国家(スチーム)叛逆(パンク)の始まりである。
余談だが、ガジェットの件はと言うと――
「Yea-Ha! 書類探索用のセンサーを作ろうと思ったら思いの他入れ込んでしまってな! なんと本のシミの大きさまで判別できる究極本探し機が出来てしまった!
まあ、自動探索装置が暴走していつの間にか城から出て行ってしまったがな!」
というわけで、まだまだ時間がかかりそうである。
――奴隷商人と館の主は殺していいのか?
「Sorry! 殺すか否かだと? 生殺与奪権がある程に実力があると、そういう悩みがあるんだな。確かに気が回らなかった!」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の問いに、フリーエンジン代表は笑いながら答えた。
「所でお前達はイ……なんとかで国防を担うと聞いたが、家具の泥棒と強盗殺人とだったらどっちに人を注いで捜査する?」
●
「ちょいちょいっと。ヘルメリアでもカギの構造はあまり変わらないねぇ~」
時間にすれば数秒程度の時間で『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は屋敷の鍵を開ける。鍵を開ける瞬間はいつだって解放感に満ちている。中に何があるかわかっていても、それをさらけ出す喜びは何事にも代えられない。
「行くぞ」
短くウェルスは告げて館の中に侵入する。商売を行っているような愛想の良さやおどけた様子はまるで見られない。それがウェルスがこの事件に対してどのような感情を持っているのかを示していた。
「女神よ、どうか彼らに救いを」
『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は短く祈りを捧げた後に突入する。この館の中でケモノビトに行われている所業。それがアンジェリカには受け入れられなかった。それがヘルメリアの『当然』だとしても。
(……使用人の気配はない。貴族のお忍び旅行と言った所か)
館の中を警戒する『活殺自在』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。ただの旅行なら使用人等を連れている可能性は高い。それが無いという事は、近いうちに密談があるのだろう。その時用に『家具』を使うと言った所か。
「フリーエンジンはこういった人達を開放してきたのね」
頼まれた内容を思い出し、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はうんざりした声をあげる。心を壊し、インテリアとしてケモノビトを使う。それが当然であるというノウブル。とても許すことはできないと、拳を握った。
「……まだマシな方なんだけどね。こいつは」
小さく呟く『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)。ヘルメリアに置ける亜人の立場は低い。ひどい扱いで命を落とすことなど日常茶飯事だ。そういう意味では『良質の』奴隷商人なのだろう。ヘルメリアを知るニコラスはそう溜息をついた。
「それがこの国の文化で、この国に住む人間の主観なのだろうよ」
ニコラスの言葉を聞いた『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が頷いた。あらゆる国があり、あらゆる価値観がある。事、亜人に対する態度はイ・ラプセルの方が少数派なのだ。そうと分かっていても、気に入らない事はある。
「ピンクの毛並みの魅惑のにゃんこ! 通りすがりのただのケモノビトだあー!」
扉を開けると同時にスピンキー・フリスキー(CL3000555)が叫ぶ。颯爽とポーズを決めて、自分を指差しながらそこに居る者の注目を集めた。『うなー!』と叫びながらケモノビト達を見る。焦点の合わない眼は、ゆっくりとこちらの方を向いてノロノロと動き出す。
「『自分達以外の者が現れたら戦え』……と言った命令でもされていたかな」
「構わん。今は一気に押さえるだけだ」
戦意をもったケモノビトの奴隷達と奴隷商人。それを見ながら自由騎士達は動く。相手がまだ戦闘態勢に移行するより先に、自由騎士達の武器が翻る。
戦いの火蓋は、きって落とされた。
●
「全員で壁になっ――――っ!?」
命令を下そうとした奴隷商人の周りにアンジェリカが作った音の壁が展開する。中途半端な命令では奴隷の指示変更はできない。ケモノビト達はただ、一番近くに来た相手を殴るだけになってしまった。
「悪逆非道。しかしそのような事でも神は御赦しになるのでしょう」
祈るように呟いて、アンジェリカは奴隷商人に近づく。巨大な十字架を振りかざし、その体躯からは想像できない力をもって奴隷商人に迫る。自由意思を奪い、道具のように扱う。ヘルメリア全ての亜人がこうならば、神の鉄槌を振るうのも致し方ない。
息を吸い、そして吐く。呼気と同時に十字架を振り上げるアンジェリカ。十字架の重さを感じさせない動きで一気に迫り、叩きつけるように『断罪と救済の十字架』を振り下ろした。三度翻った天罰が、奴隷商人を襲う。
「それでも、腐り穢れた根は摘み取らねばなりません」
「逃げ道はこことあそこと、あっちかな」
クイニィーは部屋の中を見て、間取りを想像していた。人が出入りできそうなのは自分達が入ってきたドアと、向かいの窓。あとは隣の部屋に通じる扉が見えた。皆が戦っている隙に、扉の方に向かう。
鍵穴に工具を差し込み、上下に動かすクイニィー。同時に魔力を展開して扉そのものの強度を増した。これでこのビラは鉄レベルに難くなり、容易に開ける事もできなくなった。次は窓かなー、とクイニィーは迂回しながら移動する。
「逃亡経路は全て塞いでおくから、戦いはおねがいねー」
「何が家具じゃ! 何がオルゴールじゃ!」
叫びながらスピンキーはケモノビト達に殴り掛かる。仲間に殴り掛かりに行くよりも早くケモノビト達の前に立ち、その攻撃の矛先になるためにスピンキーは動いていた。前に立った理由はそれだけではない。ケモノビト達に言いたいことがあるのだ。
拳を握り、力を込めて殴るスピンキー。殴られたケモノビトに反応はない。衝撃で体が揺らぐが、それでもすぐに姿勢を戻すように体を直す。その反応がスピンキーの感情を揺さぶった。違う、そうじゃない。なんで何も言わないんだ。
「おまえたちは! 生きものだべや! 左胸に手を当ててみろや! どくんどくんしてんべや!」
「聞こえないのだろうな。そのような言葉も」
スピンキーの言葉を意に介さないケモノビト達を見て、アリスタルフは短くそう告げた。人間がどこまで残酷になれるのか。どのような『教育』が施されれればこうなるのか。目の前のケモノビト達を見て、ヘルメリアの一端が垣間見えた。
ともあれ今は、とばかりにアリスタルフは戦いに挑む。ケモノビト達を押さえ、無力化しようと拳を振るう。拳を目の前のケモノビトに当て、衝撃を『通す』ように下半身を振るい拳を撃ち放った。貫通する衝撃がケモノビトの背後に居る主に叩き込まれる。
「すまない。些か痛むだろうが、すぐに終わらせる」
「こりゃおじさんも殴っておいた方がいいかな」
攻勢に出る自由騎士の勢いを見て、ニコラスは魔力の形を変える。不意打ちが成功したこともあり、回復の必要はあまりなさそうだ。それよりも今一気に攻め立てた方が戦いが早く終わるだろう。
魔導書を手にニコラスがマナを集める。大気に存在する色とりどりのマナ。そこから蒼のマナを集め、鋭角にとがらせていく。一呼吸の間に生まれた氷の矢は、一直線に奴隷商人に向かう。鋭い矢と冷気がその動きを封じた。
「ほいほいっと。じゃあ回復は任せたぜ」
「どちらかと言うと治療が必要なのはあいつ等だがな」
ため息と共にツボミが言い放つ。その視線の先には、無表情で戦う敵のケモノビトだった。肉体的なダメージは治療魔法で一時的に塞ぐことはできる。落ち着いたところで本格的に治療すれば快癒するだろう。だが心の傷はそうもいかない。
頭を掻いて、そこは後ろ送りにするツボミ。どうあれここを制しなければその治療すらできないのだから。ケモノビトに殴られた仲間に対し、治療の術を放つ。淡い光が仲間を包み込み、殴られた傷を癒していく。
「希望の見えない目か。ふん、希望ぐらいこちらが押し付けてやるさ」
「逃がさないわよ!」
一気呵成にエルシーが迫る。この機会を逃せば、奴隷商人はケモノビト達を盾に防衛に徹するだろう。女神の権能で殺すことなくケモノビトを伏すことはできるが、傷つけることに抵抗があった。戦いなく制することが出来るのなら、それに越したことはない。
ケモノビトの間をすり抜けるよう身をかがめて進みながら、奴隷商人の元にやってくる。赤い鱗の手甲を構え、叩きつけるように拳を振り下ろした。確かな手ごたえが手甲からエルシーに伝わり、奴隷商人を地に伏した。
「あ、気絶した?」
「問題ない。起こして命令させる」
気を失った奴隷商人に迫るウェルス。このまま殺してやりたいが、今はその衝動を押さえこむ。ケモノビトの奴隷が奴隷商人のいう事しか行かないというのなら、ここで殺してしまえばケモノビト達はずっと戦い続けることになる。それは、看過できなかった。
「おい、起きろ!」
奴隷商人の頬を叩き、意識を取り戻させる。奴隷商人は慌てて銃を構えようとするが、既に武装解除されて拘束されていることに気付き、顔を青ざめる。
「彼女達に『命令あるまで戦うな』と命令しろ」
「そんなこと聞くわけが……あいたたた! わかった、『朝食は銀のスプーンで』!」
奴隷商人の言葉と同時にそれまで暴れていたケモノビト達は動かなくなる。より正確には、『家具』のポーズを取って動かなくなった。
あとは――
「あわわわわわわ。どどどどどどういうことだ!?」
今だ事態を飲み込めない館の主。自由騎士が彼を拘束するのに、時間はかからなかった。
●
かくして戦いはあっさり終わった。
奴隷商人と館の主は拘束され、ケモノビトの奴隷は動くことなく待機している。後はこの奴隷達をフリーエンジンの所に連れていけばいいのだが――
「色々聞かせてもらおうか」
「そうね。少しばかり聞きたいことがあるんだけど」
「おじさんもご一緒させてもらうよ」
「ひ・み・つ♪ ひ・み・つ♪ 暴くのたのしーなー」
ウェルス、エルシー、ニコラス、クイニィーの四名は別室に奴隷商人と主を連れ込んで『取調べ』を開始していた。目隠しをして視界を奪ってからの問いかけだ。
「か、金ならある!」
「そーかいそーかい。それは後でいただくとして……」
騒ぐ主を無視して、奴隷商人の方に問いかけるウェルス。
「先ずは彼女達の命令権を俺達に譲渡してもらおうか」
うんざりした口調で問いかけるウェルス。何せ『家具』となったケモノビト達はその命令を頑として聞き、まったく動かないのだ。強引に引っ張っていくことはできるが、それは根本的な解決にはならない。
(まあ、命令を聞かせるっていうのも不満でしかないがな)
「へいへい。そいつは俺が命令すればすぐにでも。命あっての物種だしな」
「まだ他にも奴隷を持っているわよね? ドコにいるのかしら?」
エルシーの問いかけに、奴隷商人は眉をひそめた。例えるなら『あれ? こいつらただの泥棒じゃないのか?』という疑問である。
(うかつなことを聞きすぎると、ヘルメリアの人間じゃないってバレるかも?)
(かもな。だが毒食らわば皿だ)
ひそひそと耳打ちしあう自由騎士達。質問から出自がばれるという可能性もあるのだ。
「そいつは俺個人が、ってことかい? 生憎と俺は個人事業でね。
奴隷だったら協会に居るぜ」
「きょうかい?」
「奴隷協会知らないとかどんだけ田舎もんだよ? ヘルメリアの奴隷売買を担ってる協会のことだよ。俺はそこから売買許可を貰って、奴隷を卸してるんだ」
つまり、ヘルメリアの奴隷制度は奴隷協会と呼ばれる組織が一手に担っている。奴隷商人は依頼を受けて協会に赴き、奴隷を購入して客に売るというスタイルだ。
「れっきとした商売ルートが確立しているのか」
商人のウェルスはうんざりした顔でそれを理解する。養豚所の豚のような感覚でケモノビトが『流通』されているのだ。
「まあなあ。大手の奴隷商人や貴族なんかは協会から調教前の亜人を受け取って、自分で育ててるらしいぜ。
ただ奴隷の維持コストとかを考えると、ハイリスクハイリターンなんだとよ」
とはヘルメリア出身のニコラスの言葉である。……自らが貴族のお抱え兵だった、とは言わずに口を紡ぐ。
「ふーん、じゃあ彼女達の『教育』はその奴隷協会が行ってるの? どれぐらいの年月で? 奴隷にどの位のコストを掛けて? 後学のためにぜひ知りたいなぁ」
興味津々と言った感じでクイニィーが問いかける。
「ああ、一級奴隷商人が仕込んでるらしいぜ。詳しい事は俺も分からん」
「ちなみにあなたは何級?」
「……資格取れたての二級だ」
あら残念、と言う顔でクイニィーは肩をすくめた。望んだ情報は彼からは得られそうにない。
(聞けそうなのはこんな所か。後はこいつらの処分だが……)
(情報漏れを塞ぐために殺しておきたいが、そうすると治安組織が大きく動き出してこの地域での活動が難しくなる、ってニコラ嬢が言ってたからな)
(個人的には殺害は反対。正直、犯した罪に対して命を奪うのはやり過ぎよ)
(その法律にしたって、ヘルメリアの法律だと彼らは無罪なんだよね。むしろこっちが犯罪者だ)
(こいつは法律とは関係ない個人の怒りなんだよな)
再度ひそひそを話し合う自由騎士達。
その間、奴隷商人と主は目隠しされ、不安の中怯え続けていた。
「…………了解……しました。貴方達を……主と認めます」
奴隷商人に命令権を譲渡され、自由騎士達に従う旨を示すケモノビト達。
「感情の揺らぎはない。徹底的にそうしたものをもたないようにされてるんだろうな」
ニコラスは奴隷達の感情を調べたが、人らしいものは何も見られなかった。希望もない、絶望もない。今、命がある事だけが素晴らしい。そんな感情だ。他の事に興味を抱くことをしない。許されていないことはできない。
「ひとらしさ、か」
アリスタルフはそんなケモノビト達を見てため息をついた。徹底的に『道具』として扱われる亜人達。そこに人間らしい動きは何一つなかった。ノウブルに従い、生きている。ただそれだけの存在。この亜人達に何が出来るのだろうか。
「私には祈る事しか出来ませんが……」
アンジェリカは虚ろな目で立つケモノビト達を抱きしめる。暖かい感覚と心臓の脈動が伝わってきた。自分とこのケモノビトに違いはない。ただ生まれた国が違っただけ。ただそれだけの違いで、こうもひどい目に合わなくてはいけないのか。
「ふざけるなあああああ! お前達は生きてるんだろうがああああ!」
言いながら拳をケモノビトに叩きつけるスピンキー。言葉は届かない。叫びは届かない。そうと分かっていても叫びたくなる。悪人を倒す拳でも、このケモノビト達の心は取り戻せない。――そんなことは、わかっているのに。
「貴様らは人だ。医学上、何ら変わらない人間なんだ。ヘルメリアやお前達がどう言おうが、医者として人と断言する」
ツボミはケモノビト達の身体を調べながら、そう断言する。体に見られる幾つかの火傷と注射の跡。医学的に見られる暴行の跡。暴力と薬物で徹底的に精神を削り、出来るだけ肌に跡を残さない『教育』。それをツボミは体を診て理解する。
「人……私たちは、ノウブルでは……ありません。貴方様の、奴隷です」
「命令を……お願いします」
自由騎士達の言葉にケモノビト達が答える言葉はない。ただそれだけを返し、命令を待つように立ち尽くす。言葉は届かず、平等という常識は瓦解する。
イ・ラプセルとヘルメリア。その隔たりが大きく広がっている気がした。
●
「よし、これでOKじゃ! あとはケモノビト達を運べばいいんじゃな?」
機械の左腕で壁に大きく『フリーエンジン参上!』とペイントしたサポート要員は、満足したように頷いてケモノビト達を運ぶために部屋を去る。
「あいつらはあれでよかったのか?」
「連絡がなければ貴族の知り合いか、奴隷商人の仲間が館に向かうだろう。それまで生きてられるかは運だろうな」
フリーエンジンの意向で『殺すよりはフリーエンジンの証を残してほしい』という事になった。行方不明になれば大きく治安組織が動き出す。そうなれば活動もやりにくくなるからだ。
どの道こんなことをしていれば警邏に狙われるんじゃないか、と言う意見もあったが――
「あいつ等にとっては『家具泥棒』程度の認識なのがイラつくぜ」
ヘルメリアの法律に照らし合わせれば、今回の行動は『その程度』の認識になる。憲兵も調書を取って動くだろうが、二週間ほど動けばよく頑張った方だという。
「でもこのケモノビト達、どうなるんだろ? このままあの城に連れて行って……そのままインテリア?」
「そうではないと信じたいが……その辺りの手腕も見せてもらわないとな」
「あの爆発マニアにそこまでの手腕があるかは正直疑問だがな。しかし無策で奴隷開放しているわけではないかろう。多分」
多分、の言葉に首を捻る自由騎士達。フリーエンジンの代表の笑いを思い出し、いやいやと首を振った。なんとかなるなんとかなる。
こうして自由騎士達のヘルメリアでの活動は開始された。
救出した奴隷は五名。ヘルメリアの総奴隷数を考えれば、それはわずかな数だ。
しかし確かに助けた。僅かではあるが、間違いなく叛逆の牙は突き立てた。
蒸気国家(スチーム)叛逆(パンク)の始まりである。
余談だが、ガジェットの件はと言うと――
「Yea-Ha! 書類探索用のセンサーを作ろうと思ったら思いの他入れ込んでしまってな! なんと本のシミの大きさまで判別できる究極本探し機が出来てしまった!
まあ、自動探索装置が暴走していつの間にか城から出て行ってしまったがな!」
というわけで、まだまだ時間がかかりそうである。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
おまいら綿密に攻め過ぎだろうが。いや、隙を作ったのはどくどくなんだけど!
以上のような結果になりました。戦闘はさっくりと……ええ、さっくりやられました。
色々質問されることは想定していましたが、ほぼ尋問となるとは予想外でした。彼は(ヘルメリアの価値観では)真っ当な商人と顧客なのに。
MVPはオーディオエフェクト持ってきたヴァレンタイン様に。ええ、もうどうしようもなかったです。
それではまた、イ・ラプセルで。
おまいら綿密に攻め過ぎだろうが。いや、隙を作ったのはどくどくなんだけど!
以上のような結果になりました。戦闘はさっくりと……ええ、さっくりやられました。
色々質問されることは想定していましたが、ほぼ尋問となるとは予想外でした。彼は(ヘルメリアの価値観では)真っ当な商人と顧客なのに。
MVPはオーディオエフェクト持ってきたヴァレンタイン様に。ええ、もうどうしようもなかったです。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済