MagiaSteam




<シャンバラ>聖霊門を設置せよ!

●
「まじでか!」
シャンバラとの通信士の言葉をきいたアーウィン・エピ(nCL3000022)は大きな声を上げる。
「ふむ。あちらの聖霊門を奪うことができれば、こちらで建設を検討していた聖霊門を繋げることができるか。これで【距離】が一気に縮めれるわけだな」
後ろできいていた『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)がニヤリと笑う。
「フレデリックさん、じゃあ、これでアイツら、その門使って、かえって来れるってことか?」
アーウィンは嬉しそうに羽角をぴこぴこと揺らせて鼻息を荒げる。
「もちろんだ。それにはあいつらが門を確保することと、こちらの聖霊門の建設を急務で行う必要がある」
うんうんと頷きながらフレデリックは答えた。
「じゃあ!! よし! 聖霊門を組み立てるぞ!!」
いうが早いかアーウィンは、ギルドにむかって走っていったのだった。
「まったく、随分あいつもイ・ラプセルの自由騎士らしくなってきたものだな」
軍事顧問はアーウィンを見つめ苦笑したのであった。
●
一方その頃、イ・ラプセル監獄房にて。
「僕たちが協力するとでも思うのか?」
犬のケモノビトの少年が監獄の鉄柵を蹴りながら問いかける。その後ろでは猫のケモノビトの少年が三角座りで「ああ、ミトラース様」と祈りを捧げている。
彼らの主であったジェラルド・オーキスは資材を守っていることもあり、聖霊門の儀式を行うことができる。彼らもそれに習いある程度までは儀式を進行することは可能であろう。
イ・ラプセル側でジョセフ・クラーマーを除いた中で唯一【儀式】を知っているものになる。
「ふざけるな、イ・ラプセルが。我らが聖なる門を穢して! ふざけるな!! あろうことか解錠の手助けをしろと? 僕たちに背教の徒になれというのか」
犬の少年は噛みつかんばかりに怒りを露わにする。
「レイ、でも開けることができたら僕らはジェラルド様のところにかえれるんじゃないのかな? これは背教ではないとおもう。帰るための努力であればミトラース様も褒めてくれるはずだ」
ポツリと猫の少年が言った。
犬の少年はぱちくりと瞬くと、ニヤリと笑う。
「わかった、聖霊門の儀式に協力してもいい。だが、条件がある。僕らをシャンバラに帰せ」
「まじでか!」
シャンバラとの通信士の言葉をきいたアーウィン・エピ(nCL3000022)は大きな声を上げる。
「ふむ。あちらの聖霊門を奪うことができれば、こちらで建設を検討していた聖霊門を繋げることができるか。これで【距離】が一気に縮めれるわけだな」
後ろできいていた『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)がニヤリと笑う。
「フレデリックさん、じゃあ、これでアイツら、その門使って、かえって来れるってことか?」
アーウィンは嬉しそうに羽角をぴこぴこと揺らせて鼻息を荒げる。
「もちろんだ。それにはあいつらが門を確保することと、こちらの聖霊門の建設を急務で行う必要がある」
うんうんと頷きながらフレデリックは答えた。
「じゃあ!! よし! 聖霊門を組み立てるぞ!!」
いうが早いかアーウィンは、ギルドにむかって走っていったのだった。
「まったく、随分あいつもイ・ラプセルの自由騎士らしくなってきたものだな」
軍事顧問はアーウィンを見つめ苦笑したのであった。
●
一方その頃、イ・ラプセル監獄房にて。
「僕たちが協力するとでも思うのか?」
犬のケモノビトの少年が監獄の鉄柵を蹴りながら問いかける。その後ろでは猫のケモノビトの少年が三角座りで「ああ、ミトラース様」と祈りを捧げている。
彼らの主であったジェラルド・オーキスは資材を守っていることもあり、聖霊門の儀式を行うことができる。彼らもそれに習いある程度までは儀式を進行することは可能であろう。
イ・ラプセル側でジョセフ・クラーマーを除いた中で唯一【儀式】を知っているものになる。
「ふざけるな、イ・ラプセルが。我らが聖なる門を穢して! ふざけるな!! あろうことか解錠の手助けをしろと? 僕たちに背教の徒になれというのか」
犬の少年は噛みつかんばかりに怒りを露わにする。
「レイ、でも開けることができたら僕らはジェラルド様のところにかえれるんじゃないのかな? これは背教ではないとおもう。帰るための努力であればミトラース様も褒めてくれるはずだ」
ポツリと猫の少年が言った。
犬の少年はぱちくりと瞬くと、ニヤリと笑う。
「わかった、聖霊門の儀式に協力してもいい。だが、条件がある。僕らをシャンバラに帰せ」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.聖霊門の設置と儀式の成功
ねこてんです。
難易度は相談の難しさも踏まえたものになります。戦闘としてハードではないのでご安心ください。
書かれていない敵がでることはありません。
コメントにかかれていることを裏読みする必要はありません。
さてはてシャンバラのS級依頼もクライマックスです。
彼らがかえってこれるように、門をくみたててください。
前回あなた達が無事に解読し、封印を解いた資材はキッシェ学園においてあります。
門を組み立てると簡単にいっても、場所も大事です。
どこにたてるべきか、門の周りをどうするか。
そういったこともしっかりと考えるべきです。
場所についてはどこに立ててもいいと宰相さまは言っています。
マップをみてどのあたりがいいかきめてください。
狭すぎる場所ではシャンバラに送り込むことができないので、ある程度の広さがあったほうがいいでしょう。
また他の国にそのような門があることはわかりにくくしたほうがいいと思います。
門をつくるためにはある程度の建築の知識や、器用な方がいるといいかもしれません。(技能スキルによって頑丈になったりなどボーナスが付く場合があります)
付随する建物や施設を作ることについては、資材の提供などはありますのでご安心ください。
また、儀式を終えていない聖霊門をどうするかも決める必要があるでしょう。
現在は国防騎士たちに常に守られていますが、そこに守備をおくことで、他の守りが薄くなってしまう可能性はあります。
こちらの聖霊門の向こう側は聖央都に繋がっています。
放置すれば聖央都と繋げるためにシャンバラから刺客がこの先何度も来ることになるでしょう。
壊してしまえば突如聖央都からの進軍ということはなくなるでしょう。
開通した場合はシャンバラ軍にすぐにバレてしまって、向こうからも進軍ができるようになります。
それではマップに聖霊門を表示させるために、みなさんの知恵を絞ってみてください!
アーウィンとムサシマルもいますので、小間使いとして扱ってもらってもかまいません。基本あなた方の決定に関して異論を挟むことはありませんし従います。
特にはたらきかけがないばあいはふたりとも門の建設に力を割きます。
場所によっては周りに生息するイブリースや幻想種がいるかもしれません。
それほど強いものはいませんが戦闘の準備も忘れずに。
防衛計画などは国防騎士のみなさんとも話し合ってください。
現場には国防騎士のみなさんもいらっしゃいます。打ち合わせとして出た案に関してはそれなりに彼らも従うことになるでしょう。
すべてを網羅しようとするとプレイングが雑多になってしまうでしょうから、参加者でやるべきことをしっかりと分担して、各々が専門的に行動をすると良い結果になると思います。
・シャンバラの信徒の少年たちについて。
拙作【ペデラスティの褥】にて登場しています。作戦の成功によって彼らは捕虜になりました。
基本的に彼らはシャンバラを裏切ることはありませんが、シャンバラに帰りたいと思っています。
シャンバラに帰すことを条件に聖霊門の儀式の協力は取り付けることができました。
ちなみに名前は
ドクターの犬のケモノビトが レイノルズ・ライ
フェンサーの猫のケモノビトが カッツェ・マズル
といいます。
話しかけにいってもらっても構いませんが、条件を変えることも彼らを改宗することも叶わないと思ってください。
儀式をするときに彼らは暴れることも儀式を失敗させることもしません。
暴れても制圧されることはしっているからです。門を抜けるまでは大人しくしているでしょう。
しかし、儀式後彼らをそのまま帰せば、イ・ラプセルの聖霊門の場所と、聖霊門の向こう側の状況(ヨウセイと協力戦線をしていること)や、イ・ラプセルの戦力もばれることになります。
彼らをどうすべきかもはなしあってください。中央都とはかなり離れているので、彼らが情報をシャンバラに渡すまでには少しの猶予としての時間はあります。
普通に彼らを帰した場合にはシャンバラへの情報伝達もありますのでシャンバラ側の砦の要塞化は必要になることでしょう。兵士をイ・ラプセルから送り込むことも可能ですが、その分、暫くの間イ・ラプセル防衛力が下がります。
また、彼らを帰すことによって通商連の戦時国際法において、保釈金がだされます。(具体的には生産に大きくボーナスがはいります)
彼らの生死については問いません。
戦争はきれいごとだけではすませることはできません。
ときには非常な判断も必要になることはあります。どうすべきかはあなた達に一任されます。
シャンバラのみなさんと連携をするためにマキナ=ギアでの通信はできることとします。
シャンバラ側の状況とこちらの状況でタイミングは見極めてください。
大まかにきめておくことまとめ。
・どこに聖霊門を設置するか。
・設置する場所の整備
・前に立てられた聖霊門をどうするか
・今後の防衛計画打ち合わせ
・儀式の日取り(このタイミングまでに整備、整地はできるものとします)
・少年たちの処遇(牢獄から移送して、帰すかどうかなどの状況も含みます。国防騎士団に移送させることもできますし、自分たちが移送してもかまいません)
方針はしっかりと合わせてください。
難易度は相談の難しさも踏まえたものになります。戦闘としてハードではないのでご安心ください。
書かれていない敵がでることはありません。
コメントにかかれていることを裏読みする必要はありません。
さてはてシャンバラのS級依頼もクライマックスです。
彼らがかえってこれるように、門をくみたててください。
前回あなた達が無事に解読し、封印を解いた資材はキッシェ学園においてあります。
門を組み立てると簡単にいっても、場所も大事です。
どこにたてるべきか、門の周りをどうするか。
そういったこともしっかりと考えるべきです。
場所についてはどこに立ててもいいと宰相さまは言っています。
マップをみてどのあたりがいいかきめてください。
狭すぎる場所ではシャンバラに送り込むことができないので、ある程度の広さがあったほうがいいでしょう。
また他の国にそのような門があることはわかりにくくしたほうがいいと思います。
門をつくるためにはある程度の建築の知識や、器用な方がいるといいかもしれません。(技能スキルによって頑丈になったりなどボーナスが付く場合があります)
付随する建物や施設を作ることについては、資材の提供などはありますのでご安心ください。
また、儀式を終えていない聖霊門をどうするかも決める必要があるでしょう。
現在は国防騎士たちに常に守られていますが、そこに守備をおくことで、他の守りが薄くなってしまう可能性はあります。
こちらの聖霊門の向こう側は聖央都に繋がっています。
放置すれば聖央都と繋げるためにシャンバラから刺客がこの先何度も来ることになるでしょう。
壊してしまえば突如聖央都からの進軍ということはなくなるでしょう。
開通した場合はシャンバラ軍にすぐにバレてしまって、向こうからも進軍ができるようになります。
それではマップに聖霊門を表示させるために、みなさんの知恵を絞ってみてください!
アーウィンとムサシマルもいますので、小間使いとして扱ってもらってもかまいません。基本あなた方の決定に関して異論を挟むことはありませんし従います。
特にはたらきかけがないばあいはふたりとも門の建設に力を割きます。
場所によっては周りに生息するイブリースや幻想種がいるかもしれません。
それほど強いものはいませんが戦闘の準備も忘れずに。
防衛計画などは国防騎士のみなさんとも話し合ってください。
現場には国防騎士のみなさんもいらっしゃいます。打ち合わせとして出た案に関してはそれなりに彼らも従うことになるでしょう。
すべてを網羅しようとするとプレイングが雑多になってしまうでしょうから、参加者でやるべきことをしっかりと分担して、各々が専門的に行動をすると良い結果になると思います。
・シャンバラの信徒の少年たちについて。
拙作【ペデラスティの褥】にて登場しています。作戦の成功によって彼らは捕虜になりました。
基本的に彼らはシャンバラを裏切ることはありませんが、シャンバラに帰りたいと思っています。
シャンバラに帰すことを条件に聖霊門の儀式の協力は取り付けることができました。
ちなみに名前は
ドクターの犬のケモノビトが レイノルズ・ライ
フェンサーの猫のケモノビトが カッツェ・マズル
といいます。
話しかけにいってもらっても構いませんが、条件を変えることも彼らを改宗することも叶わないと思ってください。
儀式をするときに彼らは暴れることも儀式を失敗させることもしません。
暴れても制圧されることはしっているからです。門を抜けるまでは大人しくしているでしょう。
しかし、儀式後彼らをそのまま帰せば、イ・ラプセルの聖霊門の場所と、聖霊門の向こう側の状況(ヨウセイと協力戦線をしていること)や、イ・ラプセルの戦力もばれることになります。
彼らをどうすべきかもはなしあってください。中央都とはかなり離れているので、彼らが情報をシャンバラに渡すまでには少しの猶予としての時間はあります。
普通に彼らを帰した場合にはシャンバラへの情報伝達もありますのでシャンバラ側の砦の要塞化は必要になることでしょう。兵士をイ・ラプセルから送り込むことも可能ですが、その分、暫くの間イ・ラプセル防衛力が下がります。
また、彼らを帰すことによって通商連の戦時国際法において、保釈金がだされます。(具体的には生産に大きくボーナスがはいります)
彼らの生死については問いません。
戦争はきれいごとだけではすませることはできません。
ときには非常な判断も必要になることはあります。どうすべきかはあなた達に一任されます。
シャンバラのみなさんと連携をするためにマキナ=ギアでの通信はできることとします。
シャンバラ側の状況とこちらの状況でタイミングは見極めてください。
大まかにきめておくことまとめ。
・どこに聖霊門を設置するか。
・設置する場所の整備
・前に立てられた聖霊門をどうするか
・今後の防衛計画打ち合わせ
・儀式の日取り(このタイミングまでに整備、整地はできるものとします)
・少年たちの処遇(牢獄から移送して、帰すかどうかなどの状況も含みます。国防騎士団に移送させることもできますし、自分たちが移送してもかまいません)
方針はしっかりと合わせてください。
状態
完了
完了
報酬マテリア
5個
5個
3個
3個




参加費
150LP [予約時+50LP]
150LP [予約時+50LP]
相談日数
10日
10日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2019年01月11日
2019年01月11日
†メイン参加者 10人†
●
(向こうの技術を横取りして、敵陣を攻めるための下準備、ってところね)
『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は、慌ただしく準備をすすめる仲間たちを己の武器を整備しながらちらりとみる。自分に難しいことはわからない。武力が必要なところに向かうだけだ。
(だけれども……。先遣隊を帰還させる意味のほうが強いんでしょうね)
――そう思う。その非合理的なそれは、ライカにとっても嫌なものではない。
「よう、元気か?」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の声に個室に招致されたレイノルズは一瞬だけ目を向けるが答えはない。事前に差し入れておいた菓子に手をつけた様子もない。温かい飲み物が入っていたカップは冷え切っている。それをみてウェルスは肩をすくめる。近所のガキならこれでごきげんになっていたが、彼はそうでもないようだ。
「じゃあ、お前たちを国に戻すための儀式の予定と釈放までの手順を説明するぞ」
ウェルスは通商連と軍部とのすり合わせによる結果を説明する。
儀式の日取りはエックスデイ。その日が来たら彼らを移送する。門の建設予定地は秘密。
儀式の場所に行くまでは情報は与えない。その間数人単位での護衛兼お目付け役がつく。
儀式を終え、あちら側の門が開通したところで、通商連の担当者に引き渡して、通商連とシャンバラが捕虜解放に対する書類を認めることで引き渡しが完了する。国同士の捕虜返還は戦時中故に仲介役と手順が必要になるのだ。
引き渡しは要塞化してからという意見もでたが、通商連側から捕虜解放の手続きの時間を鑑みれば要塞化には十分の時間がイ・ラプセル側にはある。彼らの要求は儀式の完了後シャンバラへの帰還だ。時期も指定はされていない。
だが、言質をとり詭弁を呈して拘束をすればその分疑念を相手に抱かせることになる。その疑念はそのまま保釈金の金額に関わってくる。
取引とは『誠実』に行うから取引足り得る。戦争中のこの時期であるからこそ、国際基準を持つ通商連を通す以上は誠実に行う必要があるのだ。故に、開通したのを確認したところで通商連に引き渡すことになった。
捕虜の彼らとてバカ正直に聖霊門を通り帰ることができるとは思っていない。通商連経由で無事に自国に帰ることができるのであれば、それに従うと受諾した。
「で、儀式の手順を説明してもらいたい」
レイノルズは面倒そうに顔をむける。今まで何度もされた質問だ。
「そんなに難しいことじゃない。僕とカッツェがジェラルド様から教授された呪文の半分ずつを順番に唱えることだ。 向こう側にも術者は必要だ。それは宛があると聞いた。どんな方法で門を得たのかはわからないけれど、いつかその門の場所を探り出して壊してやる」
「門の使い方は?」
「門はその名の通り門だ。開いていれば通れる。何を誤解してるのかわからないが特別なことはない。ゲートを両方から開けばつながるそれだけだ」
使用時に特別な儀式も必要ない。開通すれば誰でも使える。それなりに高価な資材を費やして両方に同じものを立てて、七面倒臭い儀式を行う必要がある、というのがコストといえばコストだ。
移動に慣れないうちは気分が悪くなることはあるだろうが、その程度だ。
「門に有効な立地はあるのか?」
「それを答えたらそこに建てるのか? かまわない。それは僕たちにとって都合のいい場所だ。そうだな、王宮のど真ん中なんて最適だ!!」
挑発するように言うレイノルズにウェルスは湧き上がる思いを精神力で収める。
「無機物を移動させることは可能か?」
「やってみればいい。なんでも聞けば答えると思うな」
何かを盲信する敵との会話というものは忍耐力が試される。質問をする側より答える側にその有利が傾くのは当たり前の話だ。しかしそこでキレてしまってはもともこもない。ウェルスは忍耐強く質問を続ける。
「一度繋いだ門同士を後から別の門へつなぎなおせるのか? 一つの門で複数の別の門へ繋ぐことは可能なのか?」
「ここで、できるといえばアンタたちは無駄な努力をするんだろうな。そりゃあ傑作だ。面白い。詰まりはそういうことだ。僕たちは儀式を通すことしか教えない。無駄なことは教えない」
ウェルスはレイノルズへの聞き込みの後、カッツェにも同じことを聞き込みするがカッツェも答えはだいたいにおいて同じだった。
ウェルスは個室を退去し、妖精郷にいる仲間に通信する。ノイズが酷い状況ではあるが、ウィッチクラフトの中にいるという担当者からはレイノルズたちが答えた儀式の流れに齟齬はないということを確認した。
すでに立てられている聖霊門に関しては破壊することが決定した。
『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178) と『『狂拳』クラン』アダム・クランプトン(CL3000185)が現場に向かう。
アダムの足が遅いことにクイニィーはどうしたの? と尋ねる。それにアダムは少し考え事を、と答えた。
ふうん、と答えをきいたあと興味を失ったクイニィーは北の聖霊門への道をゆく。
思い起こすは昨日のこと。
アダムは少年たちの監獄房にて彼らに声をかけにいった。
「私は聖母セヴリーヌ様、大司教ジョセフ様とお話しする中でいかにこの身が穢れているかを知りました。そしてミトラース様の限りなき愛も」
そう語るアダムに二人は訝しそうな顔をむけた。
「本来であれば今すぐこの身の穢れを払う為自害すべきなのでしょうが。僅かでもミトラース様の愛を感じたい」
「貴方はイ・ラプセルを裏切るのか? ならば今すぐ密航でもしてシャンバラに下れ。そしてお前たちが秘密にしている聖霊門の建設地を教えろ。僕たちはその情報を持って帰る」
「それは……」
レイノルズの言葉にアダムは言葉に詰まる。
「出来ないんでしょ? 僕らはそういうのが一番キライだ。嘘はわかる。貴方にはミトラース様への思いがみえない」
カッツェは目も合わさずにそういう。
「僕らは約束した。儀式までは暴れないと。だから暴れないが、約束をしていなければ貴方の首を切り落としていたところだ」
冷静なカッツェの言葉をうけ、指が白くなるまで監房の檻を握りしめていたレイノルズがアダムの目をみる。レイノルズの目には敵対の――強い怒りの意志。
「貴方とはなすことはもうないよ。かえってくれ」
自分は間違えてしまったのだろう。歩み寄るためとはいえ、わかりやすい嘘は逆効果になってしまう。人の暖かさを教えるつもりだった。彼らを救いたいとおもったのは本当だ。なんとかしたいと思った。だけれども、あったのは拒絶。
「僕は……」
その続きをアダムは続けることができなかった。
「アダム」
クイニィーは振り返らないまま言う。
「嘘っていうのは嘘だけじゃだめだよ。本当を混ぜない嘘ってわかりやすいからね~。あとはタイミング。都合の良すぎる嘘はだめだよ」
「……」
「さあて! 門を破壊するぞー、前壊れなかったんだよねー。フーリィンが解体できるなら解体して資材にしたいっていってたっけ? どうせならこの門を使って中央に潜入したいんだけどなあ!」
「流石に無理だろうね。よしんば通じたとしても死ににいくようなものだよ」
「やだなあ! 冗談だよ、ジョーダン」
現場についた彼らは守衛の国防騎士たちと状況の確認をしあう。門の解体についての決定を伝えればわかり易いほどに国防騎士たちはほっとした表情を浮かべる。
「ほっとしたところ悪いのですが、次はもう一つの門の警備計画に付き合っていただきます」
アダムがそう言えば国防騎士たちの顔がうんざりとしたものになる。
「まあ、国を守るためじゃあ文句もいえないな。クランプトンもみない間に随分立派になったもんだ。では自由騎士殿、今後の計画を話しあおう」
門の警備隊長が促せば、アダムは今後の警備計画に必要な人員とローテーション計画の青写真を伝える。それに対して警備隊長は出せる兵力と希望のすり合わせをする。
「イ・ラプセル側とシャンバラ側に別れて防衛が必要かと」
「現地組織のウィッチクラフトとは足並みを揃えないとだな」
「とすれば、人員配置は――」
一方クイニィーは解体作業をすすめる。
その前にと、北の聖霊門の各所を蒸気写真を取る。すでに資料としての写真は何枚もキッシェの研究所に納められてはいるが個人的なものが欲しかったのだ。
「プロテクトを解除したから壊せるのか、構造解析が出来たから壊す方法が分かったのか知らないけど、新しい門が出来たらわざわざ敵の手中にある様な危ないもの使わなくても良いもんね」
「そうですね。プロテクトの解除によって、資材を研究し組み立てかたを逆算することで、構造解析によって解体方法もわかったと言う感じですね」
同行した国防軍の学者がクイニィーのその疑問にこたえた。
「ふうん、設計図はあるの? わたしも構造しりたい~!」
「ええ、設計図なら写しがありますので、後ほど届けさせていただきますが、建築学をご理解されていないと少しわかりにくいかもしれませんね。あとは魔導学も関わってきていますので、総合的な知識が必要になります」
解体作業は続く。念の為と解体資材を保存するが、解体することで魔導力が喪われ再使用については不可能だろうと結論づけられた。資材の一部は焼却、一部を資料としてキッシェ学院に届けることになった。
門の建設現場への下見には『黒道』ゼクス・アゾール(CL3000469)と『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)、真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)、『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)、ライカが向かう。
建設予定地は西の山脈とスペリール湖の間の平地に決まった。
案の定現場には幻想種の巣がある。勝手なことで申し訳ないが彼らには退去して貰う必要があるだろう。
「アタシにまかせて」
武闘派のライカが地を蹴り、剣を煌めかせる。
「ひとりでいっちゃきけんなのだわ!」
きゐこが焦って声を掛けるがライカは聞いてはいない。しかたないなとフーリィンとリュリュ、ゼクスも戦闘に参加する。
武闘派の彼らにとってはそれほどまでに厄介な敵ではない。あっという間に制圧はかなう。
「都合よく廃屋敷はないか」
リュリュは建設地と定めた近隣を探索するが観光地であるスペリール湖の奥、人の目の少ない場所を選んだのだから当然だろう。
「仮設で詰め所を作って、状況を整えてからしっかりと作り直すのがはやいかなあ。地盤についてはこの当たりで問題ないし、まずは環境を作るところからだねえ、とまれ詰め所の作成は最優先。そっから人員をあつめてってところか」
ゼクスが顎に手をあてて今後の計画を手早く組み上げた。仮設の詰め所については、資材が届くまでに、周囲の森から整地のために木を切り倒すついでにその材木で作り上げてしまえばいい。
「これは、完全に徹夜作業になりそうな吶喊ぶりですね。ごほごほ。私病弱でして」
「大丈夫なのだわ! 交代で作業をすれば、休めることはあるのだわ! フーリィンさん! それに楽しみだったのだわ!! 聖霊門をくみたてるの!」
テンションの高いきゐこが逃げようとするフーリィンの首根っこを掴む。
「うう、ですよね。がんばりますぅ~」
涙目でフーリィンは観念する。
「じゃあ、アタシは警らにまわるわ。何かあれば……たおせばいいわ」
ライカは踵をかえし警らに向かう。
「武闘派は心づよいねえ、じゃあムサシマル君、君は宰相サマに現状の連絡を。で、アーウィン君は今は……ライカ君のフォローをおねがい」
「ええ~、拙者パシリでござるかぁ?」
「ほんとお願い、良いじゃん良いじゃん! 暇でしょお?」
「拙者暇じゃないでござるもん!」
「ムサシマルはいいから行って来い、で、俺はライカと一緒だな? わかった」
ゴネるムサシマルと快諾するアーウィン。逆のほうがよかったかなと思いつつもゼクスはリュリュと計画を密にしていく。
まさかドウイットユアセルフの仕事をすることになるとはね。ゼクスはなんだかおかしくなって口の中で笑った。
本国で根回しをするのは『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。
今からやるべきことは山程ある。秘密を守れる大工の調達に資材の調達。できる限りあの場所に聖霊門を立てていることを知っているのはごく少数がいい。敵を欺くにはまずは味方から。
だからこの資材の運び込みの名目は『キッシェ学園による化石調査』だ。
ほとんどの作業員は自分たちがやっていることの正確な仕事を理解はしていない。テオドールはことさらその『キッシェ学園による化石調査』をそれらしく喧伝して回った。手伝いをしたいという学生は何人もいたので利用させてもらった。兎にも角にも人員は必要なのだ。
蒸気機関車を貸し切りにし、資材を運び込む。窓の向こうの景色が流れるのを目に映し、今後の計画を脳裏に浮かべる。
「ベルヴァルト卿、つきますよ」
いつの間にかうたた寝をしてしまっていたようで、学生の一人が自分にかけた呼び声でテオドールは目を覚ました。
「ああ、すまないね」
「いえ、お疲れだったのでしょう。ベルヴァルト卿は化石調査の根回しで忙しかったとききます。新しい化石燃料が見つかるといいですね」
そんなふうに無邪気にはしゃぐ学生にテオドールはすまない、と心の中で謝った。
「わぁ、届きましたね! 今日から……忙しくなりそうです」
フーリィンがテオドールと資材を迎える。次の便でアダムとクイニィーが到着すると連絡も来ている。
運び込まれた資材や天幕が第一便の列車できた人員の手で組み立てられていく。
重要な門の資材については化石調査のために来たものたちの目を盗んで、現場に運び込まれている。
天幕や、塀の骨組みが出来上がったところで、化石調査のためにきた人員にはテオドールから、帰還の命がだされる。学生たちは多少戸惑ったものの、『自由騎士』たちの作戦がこの国のためにあると察し帰還を許諾する。
「ベルヴァルト卿、『化石調査』がんばってください。どういう形であれ自由騎士のみなさんのお手伝いができたことは光栄です。だけど……次はちゃんと化石調査につれていってくださいね。楽しみだったですから!」
「わかった。次こそはちゃんとした化石調査を依頼するよ」
学生たちは大きく手を振って別れを告げる。そのうちのひとりはフーリィンの手を握って別れを惜しんでいる。フーリィンは力仕事が得意なわけではないのでその分大工や学生たちの作業中にお茶をだしたり優しい声をかけて応援していたこともあっていつのまにか彼らの女神様(マドンナ)となったのだ。
「みなさんもお気をつけて~」
フーリィンの言葉に未練たらたらまた会いましょうと声をかけて学生は退去していく。
「ここからは本格的に、お堀に、武器庫に、自爆装置!!」
「自爆装置はやめておけって! 浪漫だけど。もしものときの爆弾は用意してもいいけど、取扱には気をつけておかないと……」
テンションバク上がりのきゐこにゼクスがツッコミをいれる。
「えー、じゃあ落とし穴!」
「今つくったら、S級依頼の人たちがハマっちゃうだろう?」
リュリュも続いてツッコミをいれたらきゐこの頬がぷくうと膨らむ。
「スイッチひとつで武器庫に火薬が発火するようにするのはだめなのだわ?」
「もしもの時を考えるよりは強固な防衛を考えたほうがいいかな。スイッチひとつで爆破ってのは危険だ。こっち側にスパイでもいたら、それこそ利用されてしまう」
「ぶう」
「それより、門の組み立てが始まったみたいだぞ、私は整備を終えたら向かうからきゐこは記録をとってくれ」
「わかったのだわ!」
あっというまにニコニコ笑顔になり踵をかえし門を建設する天幕に向かうきゐこにゼクスとリュリュは苦笑した。
まだやることは山のようにある。ちょうど周囲警戒を終えたライカとアーウィンが帰ってきた。
こんどは力仕事で頑張ってもらうことにしよう。
門の組み立ては専門家と技術者に委ねられている。きゐこはちょこちょこと門の周囲を歩き回り目星で、強化できそうな部分を見つけると指摘していく。
「わー、もう組み立ててるの? 設計図は~?」
到着したクイニィーは一目散に天幕の中に入り、解体前北の聖霊門の写真を並べて設計図と見比べ始めた。
アダムと一緒に現地にきた北の聖霊門の国防騎士たちは詰め所に入り、リュリュの説明をうけている。
状況の確認、現場を視認することで浮かび上がる防衛面での問題点などのディスカッションをすすめる。
と同時にリュリュは今まで自分が交戦したときに得た情報を国防騎士たちと共有していく。
ミトラースの権能、ネクロマンサーのスキル、そしてシャンバラ民の精神性などを周知することを徹底する。
門の完成の報が王国に伝えられる。同時にシャンバラの仲間からも門を奪う正確な日時を告げられた。
まだ完璧とはいえないが、準備はほぼほぼ完了している。
ウェルスと『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はその報告を聞き、術者の少年たちを移送することになる。
エルシーはここまで少年たちへの食事当番や声掛けを行っていた。
しかしてかれらは世間話には耳はかさない。
唯一話した内容といえば、ライカが現地に行く前に尋ねたことくらいだ。
「本当にシャンバラは豊かな国なの?」
「聖櫃によって豊穣が約束されている。飢えなどはない。亜人であっても」
「最高司祭やミトラースはあなた達にとってどういうものなの?」
「改宗するのであれば今すぐしろ、早ければ早いほどに罪は贖える。司祭様は神の言葉を僕たちに告げてくださる素晴らしい方だ。ミトラース様について語ることはない。僕たち如きの舌があの方を評するなどあってはならない。僕たちはただあの方の御言葉に従い、この命を捧げられることに歓喜するだけだ」
その内容を思い出してエルシーはうんざりしてため息をつく。とはいえ、エルシーは列車に乗るその前日まで、他の兵士やウェルスと会話をするふりをして、偽情報を流していた。
そのたびに興味深そうな目をこちらに向けるので、段階的に、少しずつ偽情報を与えたのだ。
「ウェルス、聞いた? ヨウセイの話」
「ああ、戦いが始まったみたいだな、共同戦線は組めそうにない」
「おい、魔女がどうした! 誰と戦っている!」
そこで彼らは気づく。少年たちはS級依頼でイ・ラプセルとヨウセイが接触したことを知らないのだと。
「坊主、そんなに逸るな。水鏡に映ったらしいのさ」
言ってウェルスはエルシーに目配せする。
「まあ、あなた達に聞かせる話じゃないから」
「いい、きかせろ」
「随分都合がいいなあ……」
呆れた声のウェルスに、レイノルズは何度も同じことを問いかける。
「ヴィスマルクの兵士が接触したんだとさ」
「ウェルス……!」
焦った顔のエルシーを手で制して随分と勿体つけてからウェルスは秘密だぜ? 教えたのは内緒にしてくれと人差し指を口元にもっていく。
「これで恩を売ったと思うな」
「もちろんよ。あなた達が強情なのは知ってるわ。それにしてもウェルスったら口が軽いんだから」
「すまんすまんお嬢、次はきをつけるから」
そんなともすれば茶番にもなりそうな演技をレイノルズは信じてしまったようで、何度も口の中で反芻する。彼らとて術式を教えるということでシャンバラに対するリスクを背負っている。で、あれば有力な情報の持ち帰りは彼らの生命線でもあるのだ。
その後もさりげなくエルシーとウェルスは偽情報を掴ませる。
曰くイ・ラプセルとヘルメリアが同盟を組むかも知れない。
ヴィスマルクの海軍が積極的にイ・ラプセル領海を侵すため、海軍が多く出動させられている。
北にある聖霊門の守りを強固にする。などなど。
聞いているような素振りはなかったが気にしているのは明白だった。
そして、儀式のために移送のために列車に乗せる数時間前から彼らには目隠しと耳栓。そして手錠がつけられた。時間の類推や移動距離などで場所を悟られないためにダミーの時間も含め長時間の列車行になる。
数日かけて現地についたころにはエルシーの腰とおしりは鈍痛に苛まれていた。
眉を顰めるエルシーにウェルスは「大丈夫かい?」と尋ねるが、持ち前の負けず嫌いで「大丈夫、そっちこそどうなの?」と突っぱねる。
ウェルスは足元の感触で場所を悟られないように二人を肩に担いで移動する。その隣でエルシーは体を捻ってストレッチすることで鈍痛から逃れようとしていた。
「ほんとに! 皆無事なの?」
エルシーたちが天幕の中に入る少し前にシャンバラ側の仲間からマキナ=ギアからの通信が繋がったという報告が上がっていた。
「話すかい?」
友人に到着をねぎらう余裕もなくアダムが自らのマキナ=ギアを手渡せばエルシーは奪うようにして話はじめる。
「よかった、こっちも準備はできてるわ」
といっても、今ついたところだけれど。笑いながらエルシーは体から力が抜けていくのを感じた。本当によかった、また皆と会える。どんなお土産話を聞かせてもらおうか。
「じゃあ、儀式をはじめるのだわ!」
その場には結局の所全員が揃うことになった。なんだかんだ言ってもみな様子が気になって仕方ないのだ。儀式も。そして帰ってきた仲間たちの様子も。
少年たちは目隠しと耳栓をはずされると儀式の場に立つ。
手錠はつけたままでも術式を組み上げることはできるというのでそのままだった。
アダムはその姿に眉を顰める。
――国を守るため、望む世界にするため。それは何よりも大きくて尊い願いで誓いだ。
だというのにこんな年端もいかないような少年たちに非人道的な対応をしなくてはいけない。大事の前の小事といわれればそのとおりだ。だが、この先こんな残酷な小事をあといくつなさねば世界は平和にならないのだろうか?
アダムの問いに答えることはたとえ神でも、水鏡であっても無理だろう。
「アダム?」
エルシーが心配そうにこちらをみている。
「いや、大丈夫さ。無事に儀式が行われるかって心配になってね」
「そうよね。でも安心して! 私が儀式の手順をメモするから」
メモをするのはエルシーだけではない。クイニィーも蒸気カメラを構え、きゐこは鼻息あらく随分近くにまで近づいている、見ているうちに目深にかぶっていたフードが邪魔になったのだろう、可愛い瞳が露出しているが本人は気づいていないが美少女なのでしかたない。
少年たちは特に抵抗も怪しげな動きを見せる様子はない。
少年が呪言を唱える。ぼう、と組み立てられた門に刻まれた文様が輝く。
ウェルスもその状況を念写して状況を収め続けた。
リュリュは比較的門の直ぐ側。もし少年たちが開通と同時に向こう側に飛び込まないように控えているのだ。門を挟んで反対側にはアダムが控えている。
しばらくすると文様の光の色が赤から青に変わった。その変化にウェルスは少年たちを見る。カッツェが小声で呼応した、とつぶやいて、呪言を唱え始めた。
赤、青、赤、青と順番に文様が明滅する。
フーリィンは初めて見るその光景におおーっと興奮してキラキラした目を向ける。
光がどんどんと強く輝いていく。
門の向こう側の空間に魔力が満ちていく。魔力感知を活性化しているテオドールにはその魔力は質量さえも持つほどの濃密さであると感じる。
「魔力による次元の歪み……双方から、資材に対して順番に魔力を通すことで、資材内の魔力を循環増幅させて歪み(ポータル)を繋げるという技術でしょうか」
テオドールは観察して感じた雑感を述べた。
「よくわかんないですけど、すごいですねー」
フーリィンが隣にいるゼクスの袖を引っ張るとゼクスは「俺ちゃんの服がのびるってば」と文句を言うが、たぶんフーリィンは興奮しすぎて気づいてないだろう。
「――!」
最後の呪言をレイノルズが唱えたところで、聖霊門の魔力駆動が始まる。
「できたよ。たぶんね」
レイノルズが膝をつく。かなりの魔力を門に吸われてしまったのだろう。カッツェもにたような状態で今すぐ扉の向こうに飛び込む余裕はない。
リュリュとアダムは目配せをして目隠しと耳栓をしなおし、退出させ約束通りにエルシーたちと一緒に来た通商連に引き渡した。通商連の使者はまた後日と言って早々に少年たちを受け取り退去していった。
ライカは自分が別れ際に聖母を殺したと告げるつもりではあったが、耳栓をみて断念する。
どんな顔をするのか楽しみだったけれど仕方ない。
ウェルスは、はた、と気づく。通商連が早い返還をもとめたのは早く返還すればするほどに、本人たちに障害が無いほどに保釈金は跳ね上がる。そのマージンを得るためなのだろう。
まったく業突く張りが、と思うがそれが通商連だ。彼らは自分たちとは違う。自分たちが神を信仰するのと同じくらいの大切さで金を信仰しているのだ。
「で、誰がいくのだわ?」
ときゐこが問えば、フーリィンは首をふる。
「あ~あたしいきた~い」
「大丈夫だと思うけど、何があるかわからないわよ。通るときに気分が悪くなるとか?」
エルシーの言葉にクイニィーが止まる。
そして皆がとある一人に視線を集中させた。
「俺かよ!! まあいいけど、国防騎士の皆さんにも一緒にきてほしいんですけどねえ」
やけくそ気味に叫んだその瞬間。
「イ・ラプセルだ! ……うえっぷ。」
S級依頼のメンバーが門の向こうから帰ってくる。少々気分は悪いようだし、怪我は多いが元気のようだ。
あわててフーリィンが回復を施す。
「みなさん、おかえりなさい!」
「みんな! おかえり!」
「ふわー、ねえねえ、シャンバラどうだった?」
口々に彼らにねぎらいの言葉がかけられる。
「よう、久しぶりだな」
ウェルスはいろいろ言いたいことが浮かんでは消えてそして、ただその一言だけ彼らに伝えたのだった。
その後、テオドールとゼクスの指示によって、シャンバラ側に資材を送り込む実験が行われた。問題なく資材は移動でき、少年たちの精一杯の意地悪であったと一息つく。
一息ついたとはいえ、まだやることは沢山ある。教会をシャンバラへの橋頭堡として使用するために要塞化など建設予定が山のようにあるのだ。
「防衛施設はロジェ君の大工力次第だねえ。さぁこっからが本番だ。かったりぃけど頑張ろうかぁ」
ゼクスがリュリュの羽根を引っ張りながら門の向こうにつれていく。
「こら、羽根をひっぱるな! っていうかもっと門みたい!」
「はいはい、向こうでもみれるよお」
「塀に拠点設営に、やるべきことが山積みだな。カタリーナには帰還はまだ先と言っておくべきか……
ああ、そうだ、兵士諸君。今から作戦会議だ。
まずは最初に敵襲が会った場合は足止めで構わない、絶対に生気伸びることを優先してくれたまえ」
「ああ、そうだ。汽笛とか敵襲がすぐにわかるような設備も必要だし、連絡手段も。テオドール君。これめちゃくちゃ大変じゃないのぉ?」
テオドールの言葉にまたもタスクが積み上がったことにゼクスは大きな大きなため息を付いたのだった。
結論において、儀式の記録は多方面からの記録がかなった。
今すぐではないし、資材が必要ではあるが、イ・ラプセルが聖霊門を開くことは無理ではないという結論となった。
それは今後他国を攻める上において重要になることになるはずだ。
(向こうの技術を横取りして、敵陣を攻めるための下準備、ってところね)
『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は、慌ただしく準備をすすめる仲間たちを己の武器を整備しながらちらりとみる。自分に難しいことはわからない。武力が必要なところに向かうだけだ。
(だけれども……。先遣隊を帰還させる意味のほうが強いんでしょうね)
――そう思う。その非合理的なそれは、ライカにとっても嫌なものではない。
「よう、元気か?」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)の声に個室に招致されたレイノルズは一瞬だけ目を向けるが答えはない。事前に差し入れておいた菓子に手をつけた様子もない。温かい飲み物が入っていたカップは冷え切っている。それをみてウェルスは肩をすくめる。近所のガキならこれでごきげんになっていたが、彼はそうでもないようだ。
「じゃあ、お前たちを国に戻すための儀式の予定と釈放までの手順を説明するぞ」
ウェルスは通商連と軍部とのすり合わせによる結果を説明する。
儀式の日取りはエックスデイ。その日が来たら彼らを移送する。門の建設予定地は秘密。
儀式の場所に行くまでは情報は与えない。その間数人単位での護衛兼お目付け役がつく。
儀式を終え、あちら側の門が開通したところで、通商連の担当者に引き渡して、通商連とシャンバラが捕虜解放に対する書類を認めることで引き渡しが完了する。国同士の捕虜返還は戦時中故に仲介役と手順が必要になるのだ。
引き渡しは要塞化してからという意見もでたが、通商連側から捕虜解放の手続きの時間を鑑みれば要塞化には十分の時間がイ・ラプセル側にはある。彼らの要求は儀式の完了後シャンバラへの帰還だ。時期も指定はされていない。
だが、言質をとり詭弁を呈して拘束をすればその分疑念を相手に抱かせることになる。その疑念はそのまま保釈金の金額に関わってくる。
取引とは『誠実』に行うから取引足り得る。戦争中のこの時期であるからこそ、国際基準を持つ通商連を通す以上は誠実に行う必要があるのだ。故に、開通したのを確認したところで通商連に引き渡すことになった。
捕虜の彼らとてバカ正直に聖霊門を通り帰ることができるとは思っていない。通商連経由で無事に自国に帰ることができるのであれば、それに従うと受諾した。
「で、儀式の手順を説明してもらいたい」
レイノルズは面倒そうに顔をむける。今まで何度もされた質問だ。
「そんなに難しいことじゃない。僕とカッツェがジェラルド様から教授された呪文の半分ずつを順番に唱えることだ。 向こう側にも術者は必要だ。それは宛があると聞いた。どんな方法で門を得たのかはわからないけれど、いつかその門の場所を探り出して壊してやる」
「門の使い方は?」
「門はその名の通り門だ。開いていれば通れる。何を誤解してるのかわからないが特別なことはない。ゲートを両方から開けばつながるそれだけだ」
使用時に特別な儀式も必要ない。開通すれば誰でも使える。それなりに高価な資材を費やして両方に同じものを立てて、七面倒臭い儀式を行う必要がある、というのがコストといえばコストだ。
移動に慣れないうちは気分が悪くなることはあるだろうが、その程度だ。
「門に有効な立地はあるのか?」
「それを答えたらそこに建てるのか? かまわない。それは僕たちにとって都合のいい場所だ。そうだな、王宮のど真ん中なんて最適だ!!」
挑発するように言うレイノルズにウェルスは湧き上がる思いを精神力で収める。
「無機物を移動させることは可能か?」
「やってみればいい。なんでも聞けば答えると思うな」
何かを盲信する敵との会話というものは忍耐力が試される。質問をする側より答える側にその有利が傾くのは当たり前の話だ。しかしそこでキレてしまってはもともこもない。ウェルスは忍耐強く質問を続ける。
「一度繋いだ門同士を後から別の門へつなぎなおせるのか? 一つの門で複数の別の門へ繋ぐことは可能なのか?」
「ここで、できるといえばアンタたちは無駄な努力をするんだろうな。そりゃあ傑作だ。面白い。詰まりはそういうことだ。僕たちは儀式を通すことしか教えない。無駄なことは教えない」
ウェルスはレイノルズへの聞き込みの後、カッツェにも同じことを聞き込みするがカッツェも答えはだいたいにおいて同じだった。
ウェルスは個室を退去し、妖精郷にいる仲間に通信する。ノイズが酷い状況ではあるが、ウィッチクラフトの中にいるという担当者からはレイノルズたちが答えた儀式の流れに齟齬はないということを確認した。
すでに立てられている聖霊門に関しては破壊することが決定した。
『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178) と『『狂拳』クラン』アダム・クランプトン(CL3000185)が現場に向かう。
アダムの足が遅いことにクイニィーはどうしたの? と尋ねる。それにアダムは少し考え事を、と答えた。
ふうん、と答えをきいたあと興味を失ったクイニィーは北の聖霊門への道をゆく。
思い起こすは昨日のこと。
アダムは少年たちの監獄房にて彼らに声をかけにいった。
「私は聖母セヴリーヌ様、大司教ジョセフ様とお話しする中でいかにこの身が穢れているかを知りました。そしてミトラース様の限りなき愛も」
そう語るアダムに二人は訝しそうな顔をむけた。
「本来であれば今すぐこの身の穢れを払う為自害すべきなのでしょうが。僅かでもミトラース様の愛を感じたい」
「貴方はイ・ラプセルを裏切るのか? ならば今すぐ密航でもしてシャンバラに下れ。そしてお前たちが秘密にしている聖霊門の建設地を教えろ。僕たちはその情報を持って帰る」
「それは……」
レイノルズの言葉にアダムは言葉に詰まる。
「出来ないんでしょ? 僕らはそういうのが一番キライだ。嘘はわかる。貴方にはミトラース様への思いがみえない」
カッツェは目も合わさずにそういう。
「僕らは約束した。儀式までは暴れないと。だから暴れないが、約束をしていなければ貴方の首を切り落としていたところだ」
冷静なカッツェの言葉をうけ、指が白くなるまで監房の檻を握りしめていたレイノルズがアダムの目をみる。レイノルズの目には敵対の――強い怒りの意志。
「貴方とはなすことはもうないよ。かえってくれ」
自分は間違えてしまったのだろう。歩み寄るためとはいえ、わかりやすい嘘は逆効果になってしまう。人の暖かさを教えるつもりだった。彼らを救いたいとおもったのは本当だ。なんとかしたいと思った。だけれども、あったのは拒絶。
「僕は……」
その続きをアダムは続けることができなかった。
「アダム」
クイニィーは振り返らないまま言う。
「嘘っていうのは嘘だけじゃだめだよ。本当を混ぜない嘘ってわかりやすいからね~。あとはタイミング。都合の良すぎる嘘はだめだよ」
「……」
「さあて! 門を破壊するぞー、前壊れなかったんだよねー。フーリィンが解体できるなら解体して資材にしたいっていってたっけ? どうせならこの門を使って中央に潜入したいんだけどなあ!」
「流石に無理だろうね。よしんば通じたとしても死ににいくようなものだよ」
「やだなあ! 冗談だよ、ジョーダン」
現場についた彼らは守衛の国防騎士たちと状況の確認をしあう。門の解体についての決定を伝えればわかり易いほどに国防騎士たちはほっとした表情を浮かべる。
「ほっとしたところ悪いのですが、次はもう一つの門の警備計画に付き合っていただきます」
アダムがそう言えば国防騎士たちの顔がうんざりとしたものになる。
「まあ、国を守るためじゃあ文句もいえないな。クランプトンもみない間に随分立派になったもんだ。では自由騎士殿、今後の計画を話しあおう」
門の警備隊長が促せば、アダムは今後の警備計画に必要な人員とローテーション計画の青写真を伝える。それに対して警備隊長は出せる兵力と希望のすり合わせをする。
「イ・ラプセル側とシャンバラ側に別れて防衛が必要かと」
「現地組織のウィッチクラフトとは足並みを揃えないとだな」
「とすれば、人員配置は――」
一方クイニィーは解体作業をすすめる。
その前にと、北の聖霊門の各所を蒸気写真を取る。すでに資料としての写真は何枚もキッシェの研究所に納められてはいるが個人的なものが欲しかったのだ。
「プロテクトを解除したから壊せるのか、構造解析が出来たから壊す方法が分かったのか知らないけど、新しい門が出来たらわざわざ敵の手中にある様な危ないもの使わなくても良いもんね」
「そうですね。プロテクトの解除によって、資材を研究し組み立てかたを逆算することで、構造解析によって解体方法もわかったと言う感じですね」
同行した国防軍の学者がクイニィーのその疑問にこたえた。
「ふうん、設計図はあるの? わたしも構造しりたい~!」
「ええ、設計図なら写しがありますので、後ほど届けさせていただきますが、建築学をご理解されていないと少しわかりにくいかもしれませんね。あとは魔導学も関わってきていますので、総合的な知識が必要になります」
解体作業は続く。念の為と解体資材を保存するが、解体することで魔導力が喪われ再使用については不可能だろうと結論づけられた。資材の一部は焼却、一部を資料としてキッシェ学院に届けることになった。
門の建設現場への下見には『黒道』ゼクス・アゾール(CL3000469)と『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)、真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)、『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)、ライカが向かう。
建設予定地は西の山脈とスペリール湖の間の平地に決まった。
案の定現場には幻想種の巣がある。勝手なことで申し訳ないが彼らには退去して貰う必要があるだろう。
「アタシにまかせて」
武闘派のライカが地を蹴り、剣を煌めかせる。
「ひとりでいっちゃきけんなのだわ!」
きゐこが焦って声を掛けるがライカは聞いてはいない。しかたないなとフーリィンとリュリュ、ゼクスも戦闘に参加する。
武闘派の彼らにとってはそれほどまでに厄介な敵ではない。あっという間に制圧はかなう。
「都合よく廃屋敷はないか」
リュリュは建設地と定めた近隣を探索するが観光地であるスペリール湖の奥、人の目の少ない場所を選んだのだから当然だろう。
「仮設で詰め所を作って、状況を整えてからしっかりと作り直すのがはやいかなあ。地盤についてはこの当たりで問題ないし、まずは環境を作るところからだねえ、とまれ詰め所の作成は最優先。そっから人員をあつめてってところか」
ゼクスが顎に手をあてて今後の計画を手早く組み上げた。仮設の詰め所については、資材が届くまでに、周囲の森から整地のために木を切り倒すついでにその材木で作り上げてしまえばいい。
「これは、完全に徹夜作業になりそうな吶喊ぶりですね。ごほごほ。私病弱でして」
「大丈夫なのだわ! 交代で作業をすれば、休めることはあるのだわ! フーリィンさん! それに楽しみだったのだわ!! 聖霊門をくみたてるの!」
テンションの高いきゐこが逃げようとするフーリィンの首根っこを掴む。
「うう、ですよね。がんばりますぅ~」
涙目でフーリィンは観念する。
「じゃあ、アタシは警らにまわるわ。何かあれば……たおせばいいわ」
ライカは踵をかえし警らに向かう。
「武闘派は心づよいねえ、じゃあムサシマル君、君は宰相サマに現状の連絡を。で、アーウィン君は今は……ライカ君のフォローをおねがい」
「ええ~、拙者パシリでござるかぁ?」
「ほんとお願い、良いじゃん良いじゃん! 暇でしょお?」
「拙者暇じゃないでござるもん!」
「ムサシマルはいいから行って来い、で、俺はライカと一緒だな? わかった」
ゴネるムサシマルと快諾するアーウィン。逆のほうがよかったかなと思いつつもゼクスはリュリュと計画を密にしていく。
まさかドウイットユアセルフの仕事をすることになるとはね。ゼクスはなんだかおかしくなって口の中で笑った。
本国で根回しをするのは『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。
今からやるべきことは山程ある。秘密を守れる大工の調達に資材の調達。できる限りあの場所に聖霊門を立てていることを知っているのはごく少数がいい。敵を欺くにはまずは味方から。
だからこの資材の運び込みの名目は『キッシェ学園による化石調査』だ。
ほとんどの作業員は自分たちがやっていることの正確な仕事を理解はしていない。テオドールはことさらその『キッシェ学園による化石調査』をそれらしく喧伝して回った。手伝いをしたいという学生は何人もいたので利用させてもらった。兎にも角にも人員は必要なのだ。
蒸気機関車を貸し切りにし、資材を運び込む。窓の向こうの景色が流れるのを目に映し、今後の計画を脳裏に浮かべる。
「ベルヴァルト卿、つきますよ」
いつの間にかうたた寝をしてしまっていたようで、学生の一人が自分にかけた呼び声でテオドールは目を覚ました。
「ああ、すまないね」
「いえ、お疲れだったのでしょう。ベルヴァルト卿は化石調査の根回しで忙しかったとききます。新しい化石燃料が見つかるといいですね」
そんなふうに無邪気にはしゃぐ学生にテオドールはすまない、と心の中で謝った。
「わぁ、届きましたね! 今日から……忙しくなりそうです」
フーリィンがテオドールと資材を迎える。次の便でアダムとクイニィーが到着すると連絡も来ている。
運び込まれた資材や天幕が第一便の列車できた人員の手で組み立てられていく。
重要な門の資材については化石調査のために来たものたちの目を盗んで、現場に運び込まれている。
天幕や、塀の骨組みが出来上がったところで、化石調査のためにきた人員にはテオドールから、帰還の命がだされる。学生たちは多少戸惑ったものの、『自由騎士』たちの作戦がこの国のためにあると察し帰還を許諾する。
「ベルヴァルト卿、『化石調査』がんばってください。どういう形であれ自由騎士のみなさんのお手伝いができたことは光栄です。だけど……次はちゃんと化石調査につれていってくださいね。楽しみだったですから!」
「わかった。次こそはちゃんとした化石調査を依頼するよ」
学生たちは大きく手を振って別れを告げる。そのうちのひとりはフーリィンの手を握って別れを惜しんでいる。フーリィンは力仕事が得意なわけではないのでその分大工や学生たちの作業中にお茶をだしたり優しい声をかけて応援していたこともあっていつのまにか彼らの女神様(マドンナ)となったのだ。
「みなさんもお気をつけて~」
フーリィンの言葉に未練たらたらまた会いましょうと声をかけて学生は退去していく。
「ここからは本格的に、お堀に、武器庫に、自爆装置!!」
「自爆装置はやめておけって! 浪漫だけど。もしものときの爆弾は用意してもいいけど、取扱には気をつけておかないと……」
テンションバク上がりのきゐこにゼクスがツッコミをいれる。
「えー、じゃあ落とし穴!」
「今つくったら、S級依頼の人たちがハマっちゃうだろう?」
リュリュも続いてツッコミをいれたらきゐこの頬がぷくうと膨らむ。
「スイッチひとつで武器庫に火薬が発火するようにするのはだめなのだわ?」
「もしもの時を考えるよりは強固な防衛を考えたほうがいいかな。スイッチひとつで爆破ってのは危険だ。こっち側にスパイでもいたら、それこそ利用されてしまう」
「ぶう」
「それより、門の組み立てが始まったみたいだぞ、私は整備を終えたら向かうからきゐこは記録をとってくれ」
「わかったのだわ!」
あっというまにニコニコ笑顔になり踵をかえし門を建設する天幕に向かうきゐこにゼクスとリュリュは苦笑した。
まだやることは山のようにある。ちょうど周囲警戒を終えたライカとアーウィンが帰ってきた。
こんどは力仕事で頑張ってもらうことにしよう。
門の組み立ては専門家と技術者に委ねられている。きゐこはちょこちょこと門の周囲を歩き回り目星で、強化できそうな部分を見つけると指摘していく。
「わー、もう組み立ててるの? 設計図は~?」
到着したクイニィーは一目散に天幕の中に入り、解体前北の聖霊門の写真を並べて設計図と見比べ始めた。
アダムと一緒に現地にきた北の聖霊門の国防騎士たちは詰め所に入り、リュリュの説明をうけている。
状況の確認、現場を視認することで浮かび上がる防衛面での問題点などのディスカッションをすすめる。
と同時にリュリュは今まで自分が交戦したときに得た情報を国防騎士たちと共有していく。
ミトラースの権能、ネクロマンサーのスキル、そしてシャンバラ民の精神性などを周知することを徹底する。
門の完成の報が王国に伝えられる。同時にシャンバラの仲間からも門を奪う正確な日時を告げられた。
まだ完璧とはいえないが、準備はほぼほぼ完了している。
ウェルスと『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はその報告を聞き、術者の少年たちを移送することになる。
エルシーはここまで少年たちへの食事当番や声掛けを行っていた。
しかしてかれらは世間話には耳はかさない。
唯一話した内容といえば、ライカが現地に行く前に尋ねたことくらいだ。
「本当にシャンバラは豊かな国なの?」
「聖櫃によって豊穣が約束されている。飢えなどはない。亜人であっても」
「最高司祭やミトラースはあなた達にとってどういうものなの?」
「改宗するのであれば今すぐしろ、早ければ早いほどに罪は贖える。司祭様は神の言葉を僕たちに告げてくださる素晴らしい方だ。ミトラース様について語ることはない。僕たち如きの舌があの方を評するなどあってはならない。僕たちはただあの方の御言葉に従い、この命を捧げられることに歓喜するだけだ」
その内容を思い出してエルシーはうんざりしてため息をつく。とはいえ、エルシーは列車に乗るその前日まで、他の兵士やウェルスと会話をするふりをして、偽情報を流していた。
そのたびに興味深そうな目をこちらに向けるので、段階的に、少しずつ偽情報を与えたのだ。
「ウェルス、聞いた? ヨウセイの話」
「ああ、戦いが始まったみたいだな、共同戦線は組めそうにない」
「おい、魔女がどうした! 誰と戦っている!」
そこで彼らは気づく。少年たちはS級依頼でイ・ラプセルとヨウセイが接触したことを知らないのだと。
「坊主、そんなに逸るな。水鏡に映ったらしいのさ」
言ってウェルスはエルシーに目配せする。
「まあ、あなた達に聞かせる話じゃないから」
「いい、きかせろ」
「随分都合がいいなあ……」
呆れた声のウェルスに、レイノルズは何度も同じことを問いかける。
「ヴィスマルクの兵士が接触したんだとさ」
「ウェルス……!」
焦った顔のエルシーを手で制して随分と勿体つけてからウェルスは秘密だぜ? 教えたのは内緒にしてくれと人差し指を口元にもっていく。
「これで恩を売ったと思うな」
「もちろんよ。あなた達が強情なのは知ってるわ。それにしてもウェルスったら口が軽いんだから」
「すまんすまんお嬢、次はきをつけるから」
そんなともすれば茶番にもなりそうな演技をレイノルズは信じてしまったようで、何度も口の中で反芻する。彼らとて術式を教えるということでシャンバラに対するリスクを背負っている。で、あれば有力な情報の持ち帰りは彼らの生命線でもあるのだ。
その後もさりげなくエルシーとウェルスは偽情報を掴ませる。
曰くイ・ラプセルとヘルメリアが同盟を組むかも知れない。
ヴィスマルクの海軍が積極的にイ・ラプセル領海を侵すため、海軍が多く出動させられている。
北にある聖霊門の守りを強固にする。などなど。
聞いているような素振りはなかったが気にしているのは明白だった。
そして、儀式のために移送のために列車に乗せる数時間前から彼らには目隠しと耳栓。そして手錠がつけられた。時間の類推や移動距離などで場所を悟られないためにダミーの時間も含め長時間の列車行になる。
数日かけて現地についたころにはエルシーの腰とおしりは鈍痛に苛まれていた。
眉を顰めるエルシーにウェルスは「大丈夫かい?」と尋ねるが、持ち前の負けず嫌いで「大丈夫、そっちこそどうなの?」と突っぱねる。
ウェルスは足元の感触で場所を悟られないように二人を肩に担いで移動する。その隣でエルシーは体を捻ってストレッチすることで鈍痛から逃れようとしていた。
「ほんとに! 皆無事なの?」
エルシーたちが天幕の中に入る少し前にシャンバラ側の仲間からマキナ=ギアからの通信が繋がったという報告が上がっていた。
「話すかい?」
友人に到着をねぎらう余裕もなくアダムが自らのマキナ=ギアを手渡せばエルシーは奪うようにして話はじめる。
「よかった、こっちも準備はできてるわ」
といっても、今ついたところだけれど。笑いながらエルシーは体から力が抜けていくのを感じた。本当によかった、また皆と会える。どんなお土産話を聞かせてもらおうか。
「じゃあ、儀式をはじめるのだわ!」
その場には結局の所全員が揃うことになった。なんだかんだ言ってもみな様子が気になって仕方ないのだ。儀式も。そして帰ってきた仲間たちの様子も。
少年たちは目隠しと耳栓をはずされると儀式の場に立つ。
手錠はつけたままでも術式を組み上げることはできるというのでそのままだった。
アダムはその姿に眉を顰める。
――国を守るため、望む世界にするため。それは何よりも大きくて尊い願いで誓いだ。
だというのにこんな年端もいかないような少年たちに非人道的な対応をしなくてはいけない。大事の前の小事といわれればそのとおりだ。だが、この先こんな残酷な小事をあといくつなさねば世界は平和にならないのだろうか?
アダムの問いに答えることはたとえ神でも、水鏡であっても無理だろう。
「アダム?」
エルシーが心配そうにこちらをみている。
「いや、大丈夫さ。無事に儀式が行われるかって心配になってね」
「そうよね。でも安心して! 私が儀式の手順をメモするから」
メモをするのはエルシーだけではない。クイニィーも蒸気カメラを構え、きゐこは鼻息あらく随分近くにまで近づいている、見ているうちに目深にかぶっていたフードが邪魔になったのだろう、可愛い瞳が露出しているが本人は気づいていないが美少女なのでしかたない。
少年たちは特に抵抗も怪しげな動きを見せる様子はない。
少年が呪言を唱える。ぼう、と組み立てられた門に刻まれた文様が輝く。
ウェルスもその状況を念写して状況を収め続けた。
リュリュは比較的門の直ぐ側。もし少年たちが開通と同時に向こう側に飛び込まないように控えているのだ。門を挟んで反対側にはアダムが控えている。
しばらくすると文様の光の色が赤から青に変わった。その変化にウェルスは少年たちを見る。カッツェが小声で呼応した、とつぶやいて、呪言を唱え始めた。
赤、青、赤、青と順番に文様が明滅する。
フーリィンは初めて見るその光景におおーっと興奮してキラキラした目を向ける。
光がどんどんと強く輝いていく。
門の向こう側の空間に魔力が満ちていく。魔力感知を活性化しているテオドールにはその魔力は質量さえも持つほどの濃密さであると感じる。
「魔力による次元の歪み……双方から、資材に対して順番に魔力を通すことで、資材内の魔力を循環増幅させて歪み(ポータル)を繋げるという技術でしょうか」
テオドールは観察して感じた雑感を述べた。
「よくわかんないですけど、すごいですねー」
フーリィンが隣にいるゼクスの袖を引っ張るとゼクスは「俺ちゃんの服がのびるってば」と文句を言うが、たぶんフーリィンは興奮しすぎて気づいてないだろう。
「――!」
最後の呪言をレイノルズが唱えたところで、聖霊門の魔力駆動が始まる。
「できたよ。たぶんね」
レイノルズが膝をつく。かなりの魔力を門に吸われてしまったのだろう。カッツェもにたような状態で今すぐ扉の向こうに飛び込む余裕はない。
リュリュとアダムは目配せをして目隠しと耳栓をしなおし、退出させ約束通りにエルシーたちと一緒に来た通商連に引き渡した。通商連の使者はまた後日と言って早々に少年たちを受け取り退去していった。
ライカは自分が別れ際に聖母を殺したと告げるつもりではあったが、耳栓をみて断念する。
どんな顔をするのか楽しみだったけれど仕方ない。
ウェルスは、はた、と気づく。通商連が早い返還をもとめたのは早く返還すればするほどに、本人たちに障害が無いほどに保釈金は跳ね上がる。そのマージンを得るためなのだろう。
まったく業突く張りが、と思うがそれが通商連だ。彼らは自分たちとは違う。自分たちが神を信仰するのと同じくらいの大切さで金を信仰しているのだ。
「で、誰がいくのだわ?」
ときゐこが問えば、フーリィンは首をふる。
「あ~あたしいきた~い」
「大丈夫だと思うけど、何があるかわからないわよ。通るときに気分が悪くなるとか?」
エルシーの言葉にクイニィーが止まる。
そして皆がとある一人に視線を集中させた。
「俺かよ!! まあいいけど、国防騎士の皆さんにも一緒にきてほしいんですけどねえ」
やけくそ気味に叫んだその瞬間。
「イ・ラプセルだ! ……うえっぷ。」
S級依頼のメンバーが門の向こうから帰ってくる。少々気分は悪いようだし、怪我は多いが元気のようだ。
あわててフーリィンが回復を施す。
「みなさん、おかえりなさい!」
「みんな! おかえり!」
「ふわー、ねえねえ、シャンバラどうだった?」
口々に彼らにねぎらいの言葉がかけられる。
「よう、久しぶりだな」
ウェルスはいろいろ言いたいことが浮かんでは消えてそして、ただその一言だけ彼らに伝えたのだった。
その後、テオドールとゼクスの指示によって、シャンバラ側に資材を送り込む実験が行われた。問題なく資材は移動でき、少年たちの精一杯の意地悪であったと一息つく。
一息ついたとはいえ、まだやることは沢山ある。教会をシャンバラへの橋頭堡として使用するために要塞化など建設予定が山のようにあるのだ。
「防衛施設はロジェ君の大工力次第だねえ。さぁこっからが本番だ。かったりぃけど頑張ろうかぁ」
ゼクスがリュリュの羽根を引っ張りながら門の向こうにつれていく。
「こら、羽根をひっぱるな! っていうかもっと門みたい!」
「はいはい、向こうでもみれるよお」
「塀に拠点設営に、やるべきことが山積みだな。カタリーナには帰還はまだ先と言っておくべきか……
ああ、そうだ、兵士諸君。今から作戦会議だ。
まずは最初に敵襲が会った場合は足止めで構わない、絶対に生気伸びることを優先してくれたまえ」
「ああ、そうだ。汽笛とか敵襲がすぐにわかるような設備も必要だし、連絡手段も。テオドール君。これめちゃくちゃ大変じゃないのぉ?」
テオドールの言葉にまたもタスクが積み上がったことにゼクスは大きな大きなため息を付いたのだった。
結論において、儀式の記録は多方面からの記録がかなった。
今すぐではないし、資材が必要ではあるが、イ・ラプセルが聖霊門を開くことは無理ではないという結論となった。
それは今後他国を攻める上において重要になることになるはずだ。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
特殊成果
『聖霊門の設計図のうつし』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:クイニィー・アルジェント(CL3000178)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:クイニィー・アルジェント(CL3000178)
†あとがき†
皆様参加ありがとうございます。
長期間の相談お疲れ様でした。
無事シャンバラの聖霊門が繋がりました。
北の聖霊門は破壊されました。資材については使えないもの以外はキッシェに保存されています。
シャンバラ側の聖霊門のある教会は橋頭堡として要塞化されます。
逃げたシャンバラの兵の報告、およびレイノルズとカッツエの報告がなされる前には要塞として完成します。
シャンバラ側に伝わるはずの情報は
・ヨウセイたちが立ち上がり教会を奪った。
・ヴィスマルクがヨウセイと接触をもったが、戦闘になっているらしい。
(ヴィスマルク兵がシャンバラに派兵している)
・北の聖霊門の守りがかなり強固になっている。
・イ・ラプセルとシャンバラのどこかの聖霊門が繋がった。(結果としてそれが教会であることは類推されます)
・イ・ラプセルの聖霊門はわからず。温度は高くなかったから、山岳地帯かもしれない。
・イ・ラプセルとヘルメリアが同盟を結ぶらしい
・イ・ラプセル海軍はヴィスマルクとの戦闘に大多数を駆り出されている。
このあたりになります。
少年二人の処遇は、聖霊門をつなげたという重罪に問われることになりますが、情報収集をしたため、瞳をひとつ失うことで相殺され、彼らの主であるジェラルドに帰されることになります。
今後シャンバラとの戦争は激しいものになります。
実際にシャンバラにヴィスマルクは派兵されつつあるので、状況によってはシャンバラとヴィスマルク、双方との三つ巴の作戦もあるかもしれません。
長期間の相談お疲れ様でした。
無事シャンバラの聖霊門が繋がりました。
北の聖霊門は破壊されました。資材については使えないもの以外はキッシェに保存されています。
シャンバラ側の聖霊門のある教会は橋頭堡として要塞化されます。
逃げたシャンバラの兵の報告、およびレイノルズとカッツエの報告がなされる前には要塞として完成します。
シャンバラ側に伝わるはずの情報は
・ヨウセイたちが立ち上がり教会を奪った。
・ヴィスマルクがヨウセイと接触をもったが、戦闘になっているらしい。
(ヴィスマルク兵がシャンバラに派兵している)
・北の聖霊門の守りがかなり強固になっている。
・イ・ラプセルとシャンバラのどこかの聖霊門が繋がった。(結果としてそれが教会であることは類推されます)
・イ・ラプセルの聖霊門はわからず。温度は高くなかったから、山岳地帯かもしれない。
・イ・ラプセルとヘルメリアが同盟を結ぶらしい
・イ・ラプセル海軍はヴィスマルクとの戦闘に大多数を駆り出されている。
このあたりになります。
少年二人の処遇は、聖霊門をつなげたという重罪に問われることになりますが、情報収集をしたため、瞳をひとつ失うことで相殺され、彼らの主であるジェラルドに帰されることになります。
今後シャンバラとの戦争は激しいものになります。
実際にシャンバラにヴィスマルクは派兵されつつあるので、状況によってはシャンバラとヴィスマルク、双方との三つ巴の作戦もあるかもしれません。
FL送付済