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BBA!? ヨナキウグイスの鉄の技師!



●ブレインストーミングより
「魔導研究会があるみたいだし、蒸気技術の技師を集めた技術研究会を発足して新しい兵器とか装置を造るのはどうかな?」

●『鉄の』カタフラクト技師
 蒸気技術の聖地と言えば、その発祥であるヘルメリアである。
 しかしそこ以外の場所の技術が劣っているかと言うと、そうでもない。シャンバラのように蒸気技術そのものを忌事としている場所は除くが、伝わった技術は日々進化し発展している。その好例はヴィスマルクだろう。軍事力を総動員して作られた列車砲は各国の脅威であり、その他軍事に利用される蒸気兵器はヘルメリアさえも超えると言われている。
 そしてイ・ラプセルでもその技術は進化していく。国を挙げての目立った技術や開発は行われなかったが、カタフラクト技術の発達により多くのノウブルがその命を救われている。前王時代におけるノウブル至上主義の名残からか、ノウブルにかける医療の補助がふんだんにあったためだ。
 イ・ラプセルの歴史に名前を残さない数々のカタフラクト技師。そんな技師たちが師と呼び恐怖の代名詞と呼ぶ一人の女性がいた。『鉄の』と呼ばれたヨナキウグイスの羽根を持つ老婆だ。
 多くの人の義肢や体を作り、その生涯をカタフラクトによる肉体の代替に掲げた人。その働きがなければイ・ラプセルのカタフラクト技術はもう五十年遅れていただろうとまで言われている。同時に金銭管理が厳しく、弟子になるにも相応の金額を要求されてその上で厳しい修業が待っていた。
 そんな彼女だが決して国家に属することはなく、一個人の技師として今なお活動している。実のところ、国に迎え入れようとする案は何度かあったのだ。だがその度に、
「帰りな。国に首輪をつけられる趣味はないのさ」
 時の国王は多くの謝礼を用意したが、彼女は首を縦に振らなかった。
「アタシは金が欲しいんじゃない。『覚悟』が欲しいのさ。兵士になるつもりはないね。
 だが患者がいるなら受け入れてやる」
 とにべもない返事である。
 国家をあげての技師の研究会を立ち上げるのにこれ以上の人はそうはいない。しかし彼女が何を欲しているのか、まったくわからなかった。
 その答えは、まったく別分野から示される。

●意外な人物からの紹介
「『鉄の』ニーア・ナイチンゲイル女史だな。分野違いだが、話は聞いたことがある」
 黒いマントとペストマスク。 『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)が言うには、
「曰く『献身? ふざけるな、若造。人を救うのは手と金さ。知識や技術がなければ人は癒せない。そしてそれを継続させるのに金は欠かせない。犠牲を強いる献身なんざ、ただの共倒れだ』……実に現実的な女性だったな」
 技師と言ういわば閉じこもりがちな者達を束ね、経済的に破綻させないように金銭管理を厳しく教える。必死になって技術を覚えさせることで、自分の技術を劣化させることなく伝える。厳しくもあるが、それ故にその技術は正しく継承されて発展していくのだ。
「察するに、本当に欲しいのは金ではない。どれだけ真剣に蒸気技術の未来を語れるかだろうね。組織化によるメリットは理解しているはずだ。だが組織がつまらない理想で運営されるなら、メリットはデメリットに変わる。
 ただなんとなく、では手を貸してくれないだろうよ。国のため、ではない『自分』の覚悟を主張すれば、鉄の技師は動くんじゃないかな」
 紹介ぐらいはしてやろう、とサイラスは歩き出す。
 ついていくか行かないかは、貴方次第だ。覚悟を示すか否かも――



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
交渉
担当ST
どくどく
■成功条件
1.ナイチンゲイルを説得する
 どくどくです。
 堅物な技師の説得です。サイラスはそこにいるだけ。
 
 この依頼は『『ブレインストーミングスペース#1 ジーニアス・レガーロ(CL3000319) 2018年11月19日(月) 02:41:18』の発言を元に作られました。
 該当PCに参加優先権があるわけではありません。ご了承ください。

●三行でわかる説明!
 蒸気技師研究会を立ち上げよう!
 有名なカタフラクト技師は堅物だ!
『覚悟』を示して説得しよう!

●人物情報
・『鉄の』ニーア・ナイチンゲイル
 ヨナキウグイスの羽根を持つソラビトの老婆。非オラクル。189歳。病魔すら跳ねのけ、人生の全てをカタフラクトに費やしてきました。
 特定の組織に属することなく、しかし弟子達への繫がりを断つことなく技師として活動してきました。おそらくこれからもそうするつもりなのでしょう。彼女を蒸気技師研究会に迎え入れることが出来れば、その経験と技術がより多くの人に伝わっていくのは確実です。
 ただ損得を語っても耳を傾けてはくれません。『国家の発展のため』『国民が豊かになるから』……と言う大義名分ではなく、あくまで自分自身にとって蒸気技術とは何か。そこが肝になるとサイラスは言っています。自分にとって蒸気技術とは何か。どうして研究会を作ってまで技術を発達させたいのか。
 技能はある程度は説得に有利に働きますが、洗脳系は時間が経てば解けることは考慮に入れてください。たとえそれで誓約書を書かせようが、それを守るような人ではありません。最悪、命を絶ってしまうこともありえますので。

●NPC
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)
 ペストマスクの奇人医師です。ナイチンゲイルとは旧知だとか。案内役として同行します。
 あくまで紹介だけのつもりらしく、説得には一切かかわるつもりはないようです。

●場所情報
 イ・ラプセル西部の山中。いい鉱物が取れるという理由で街から離れてそこに住んでいます。最寄りの鉄道駅から車で三時間ほど。鉱山の入り口に建てられた小さな小屋。そこに数人の弟子に囲まれて住んでいます。
 説得に許された時間は半日のみです。客人として扱われるので、お茶などはきちんと出されます。ナイチンゲイル女史は自由騎士達の活躍を知っていますが、特別扱いはしません。あくまで一人の人として見てくれます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  4個  4個
12モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2018年12月08日

†メイン参加者 8人†




 証言者A:蒸気技術を教える先生
『ナイチンゲイル……!? いえ、心臓がすこし。薬飲んできますので失礼』
 証言者B:頑固な蒸気技師
『待ってくれ! 先生の使いか何か……じゃない? ないんだな? よーし、サービスしてやるからその話は後でな! な!』
 証言者C:騎士団の老技師
『………その名を出すな。古傷が疼く』

『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)が前もってナイチンゲイル女史について尋ねたところ、おおよそそんな反応だった。
「結局、何もわからなかったなぁ」


「初めましてニーア、私は非時香ツボミと言う医者だ」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)はそう挨拶した後に、随行したペストマスクを指さす。
「だがサイラスの奴と一緒にはするな? 私はあんな特攻野郎嫌いだ。
 だってあいつ良香詰めたマスク頼みに疫病の地に吶喊するんだぞ!」
「まだそんな事やってるのかい、坊やは」
「疫病地域への突貫は三回しかやってないよ。今月は」
「今月は、じゃないわこの無神経仕事馬鹿は!」
 興奮するツボミを他の自由騎士が引き離す。本題はそこじゃない。
「いいお茶だな。鮮度が違う」
 出されたお茶を口にして『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が感心したように唸った。
「採れたてだからね。庭で栽培しているのさ」
「何とカタフラクトだけではなく栽培も行うとは」
「まさか。弟子の修行の一環さ。生活能力つけとかないと、食い倒れるからね」
「成程、聞きしに勝る御方のようだ」
 噂通りだとテオドールは納得した。
「鉄の技師、か。まさしく女傑だな」
 話には聞いていたが実際に会ってみればその言葉以外に考えられない。納得するように『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)は頷いた。老いてなお衰えることなき技術への探求。それを後身に継ぎ続ける意欲。感服の一言だ。
「ハッキリと覚えてはおらなんだが、あるいはワシの鎧装も……?」
「いや。アンタのはジェフリーの作だろうね」
 家の中に並ぶ機械腕や足などを見て、『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が呟く。だがその言葉に答えるようにナイチンゲイルが否定した。
「軍役に耐えるる構造と歯車のリズム。あの出っ歯のやりそうなモンだ」
「ははあ。分かる者なんじゃなぁ。驚きじゃよ」
「十二年も一緒にいりゃ、正確と作品傾向ぐらいは嫌でもわかるもんさ。
 あんたのはフランシーヌのだね。あの子の趣味が良く出てるよ」
『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)を指差し、ナイチンゲイルは紅茶を口にする。自分をキジン化した技師の名前は覚えていないが、おそらく間違いはないのだろう。
「素晴らしい。弟子一人一人を覚えているんですね」
「出来の悪いのもいるけどね。鎧を見ればだいたいわかるさ」
「はー。動きを見て師匠が分かる、っていう格闘家がいるけどこういう世界でもそういうことがあるんだ」
 ナイチンゲイルの慧眼に驚く『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。実の所、カタフラクトそのものに執着はない。それで人生が救われた人もいるので、すごい人なんだなぁ。そんな物見遊山が強かった。なのでこの会話は驚きだ。
「しかし覚悟を示すですか。これは厄介そうですね」
 機械ではない腕で頭を掻きながらナイチンゲイルを見る『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)。蒸気技師研究会立ち上げに対し、実力と影響力を考慮すれば最適な人なのは間違いない。しかしどうやって説得するか。それが問題だった。
「…………(ちら)。…………(ちら)」
 ジーニアスは皆が自己紹介している間、機械腕や修理中のカタフラクトに目が行っていた。見たことのある物から見たことのない物まで。家じゅうの物に興味津々だ。
「蒸気技師研究会の話は分かったよ。でもアタシは国に属するつもりはない。そう言うだろうことは、他の人からも聞いているはずだ。アタシの恐れ荒れっぷりもね。
 なんでアタシを巻き込んでそんなモン立ち上げようとするんだい?」
 ペストマスクの医師は言った。理想や理念では彼女は動かない。動かすのは目的に対する強い『覚悟』だ。
 自由騎士達はそれをどう示すのだろうか?


「ところでナイチンゲイルさん。質問よろしいですか?」
 真っ先に手を挙げたのはエルシーだった。
「ゴーレムってあるじゃないですか。魔術で作られた人型の。ああいうの、蒸気技術でもできませんかね?」
 拳を握り、夢見る乙女のような顔でエルシーは質問する。いや、事実乙女なのだが。
「鉄で出来た人型二足歩行のカタフラクト! 命令したらその通りに動いてくれるの!
 あ、車みたいに人が乗って操作できるのもいいな。パンチが大砲みたいに飛んだら、なおいいですね!」
 ひとしきり主張した後に、質問の内容に戻る。
「そういうの、ナイチンゲイルさんなら実現可能ですか? もちろんお金はかかるでしょうけれど、そういうの抜きにして技術面だけを考慮したら、できますかね?」
「……何しに来たんだ、お前は」
「そういうのが作れるのなら、なお気合を入れてナイチンゲイルさんを説得しようかと!」
 仲間のツッコミに瞳を輝かせて答えるエルシー。
「そういうのを作ろうとした奴はいたねえ。ヘルメリアに行っちまったけど」
 顎に手を当てて答えるナイチンゲイル。その答えを聞いて、残念そうに落ち込むエルシー。肩を下し、席に着く。あとは任せたと手を振った。
「人型……ヘルメリア……SA-PR(サターン・プロメテウス)……いや、まさか……幾らなんでも……」
 そして何かぶつぶつと呟くザルク。蒸気の国には色々思う所があるようだ。
「話を戻させてもらおう。何の為に組織を作り貴女を求めるか、か。
 我がベルヴァルド家の財と繁栄の為だ。なに、おかしな事では無いだろう」
 一泊を置いてテオドールが話を戻す。交渉になれた間の取り方だ。
「技術に金はいる。これは確たる事実、そして自然を蹂躙するものだ。カタフラクト技術は人の死を歪め、不自然な形で命を留めるものだ。
 医術も然りだ。根源は変わらぬよ」
 一部仲間たちの反応を確認するようにテオドールは言葉を止める。反論がないことを確認して言葉を続けた。
「だが、ヒトが歩みを止める事は許されない。生きる事を諦めてはならない。犠牲を無には出来ない。ならば全てを飲み込み力強く歩を進めるのみだ」
「それにアタシが絡む必要は?」
「分かってはいるのだろう。これは貴女にも巡り回ってくる話だ。
 廻る輪ではなく繋がる螺旋を。それをよりよく回すために、貴女が必要なのだよ」
「そうだな。技術発展を己一人で完結させず、後続に任せる事を前提としている。そういう考えは非常に共感できる」
 テオドールの言葉に頷くツボミ。
「超凄い英雄的医者が1人いるより、凡百の医者100人がそこそこ凄げな医療を修めた方が効果が高かろ?
 私はな、医者を暇にしたいのだ。何なら全員失職させたい。一般民衆すら遍く医を成し傷病を退けれる程にまで医療技術が発達進化し切れば、それは成る」
 それがどれだけ難しいか。それは医術に携わるツボミには身に染みてわかっていることだ。
「で、その為に蒸気技術にも発達して貰わんと困る。貴様等の技術が前に進むほど、我等の技術も進む、正確には進み易くなる。多分他の技術もな。
 だから私は蒸気技術に、一分一秒でも早く発達して欲しい」
「傲慢だねぇ。医者が楽したいから技術屋に頑張れと?」
「当然だ。楽して傷が治せるなら、余力を他の患者に回せるしな。
 その為に、より効率的な環境に入ってくれ。恭順など要らん、便利に利用しろ。何でも良いから少しでも技術を発達させる為に」
「そうそう! いろんなことが出来るようになるっていいことだよね!」
 うんうんと頷くジーニアス。
「正直、僕にとっての蒸気技術とは何かって言われてもよくわからないんだ。正直考えたこと無かったから」
「じゃあなんで蒸気技術を続けてるんだい?」
「そりゃ楽しいからだよ。
 設計図を書いて、歯車と部品を組み合わせる。基本はそれなんだけど、どの部分にどんな歯車を組み込んで、どう動力を回すか。思ってたような結果にならなかったら、何処が悪かったか考える。
 歯車の大きさや歯の数、角度、強度、そういったことを考えて最適解を探す。すっごく難しいし面倒だよね」
 その時の自分を思い出しながら、ジーニアスは楽しそうに笑いながら喋る。
「でもそこが技師としての楽しい所だよ! 試行錯誤して完成を目指す。1つが完成すれば次はもっとすごいのを、そうやって際限なく先を目指す。失敗しても次に活かして、研鑽の果てに究極を目指す。
 えっとつまり……だから僕にとっての蒸気技術は可能性? であって希望? だよ、たぶん。ついでに他の人の役にも立つだろうし!」
「役立つのがついでとは。自分本位だねえ」
「かもね。でも僕にとっての蒸気技術はそうなんだ。作って作って作って。その中から役に立つ何かを誰かが拾ってくれればいい。
 だからもっと蒸気技術を発展させたいんだ!」
 ナイチンゲイルは何も言わず、唇を笑みの形にゆがめていた。


「技術が高いほどいいっていうのは賛成だ。医術に限らず戦闘面でも」
 ジーニアスの言葉を継いだのはザルクだ。キジンとして戦う彼にとって、蒸気技術の発達は無視できない話である。
「自分語りにもなるが、俺にとっての蒸気技術、カタクラフトは……そうだな、必要不可欠な道具、いや、身の一部か。
 体を動かすのも戦うのも女抱くのも、目的のために動くのも今の俺には、こいつがなければどれも成すことはできない。この世に存在してて、発展してくれてよかった技術の最たるものだ」
 自分自身の身体を見ながら、語り続けるザルク。カタフラクトがなければ車椅子生活を送っていただろう。
「カタクラフトがなければ戦えないのかって言われたら、無理だろうな。
 だからこそこの体を維持するために、より強くなるために。そのこれからに繋がるものが必要だし、その為なら老い先短いあんたみたいな技術者の手も欲しい。俺が歩き続けるために、戦い続けるために、だ」
「何のために戦うんだい、あんたは」
「――復讐さ」
 ナイチンゲイルの問いに、自分自身の身体を見ながら答えるザルク。瞳の奥でチリチリと炎が燃えている。
「戦う理由はそれぞれだね。僕も『優しい世界』を目指すために戦っているんだ」
 一礼してアダムが口を開く。
「ヒトとして生きるとは明日を夢見る事が出来るという事、希望を持てるという事。それが僕の目指す世界だ。だけど今の世界ではヒトとして生きるのは難しい。
 ゆえに僕は世界の変革を目指す」
 真っ直ぐにナイチンゲイルを見て、アダムは朗々と語り続ける。
「僕は別に戦争がしたいワケじゃない。兵器として蒸気技術を求めているワケじゃない。
 世界の変革とはヒトの意識の変革だ。僕は変革を促す事の出来る様な蒸気技術を求めている」
 ここまで語った後に、頭を掻いて苦笑するように唇をゆがめる。
「……ソレがどのようなものかは、実のところ分からないんだけどね」
「なんだいそれは? 絵に描いた餅ですらないのかい」
「そうだね。理想の形すらまだ見えない。だけどいつかそれを描いてみせる。その為にも蒸気技術の経験深い貴女に力を借りたい。
 僕一人では見えない未来も、貴女がいるのなら見えるかもしれないんだ」
「そうですね。ワタシも未来のためにアナタに顧問に来てもらいたい」
 お茶を口にして喉を潤し、アルビノが言葉を放つ。
「覚悟を見せろと言いましたね。では、お見せしましょう」
 言ってアルビノは機械化した自らの右腕を外し、地面に置いて叩き潰した。
「何のつもりだい?」
「この義手は自分でこしらえたものです。
 ですが蒸気技師研究会ができ、あなたを迎え入れる事でワタシは技師として一つも二つも成長してみせる」
「アタシが行かない、って言ったら?」
「勿論、頷いてくれるまで私は義肢無しでアナタに頭を下げましょう。
 そして必ずこれ以上のものを作り出してみせる。義手だけではありません。ゆくゆくは必ずアナタを超える。技師として人々に認められる存在になって見せます」
 アルビノの瞳が見るのはナイチンゲイルと、そしてそれを超える技術で発展した未来。その為なら、今の腕など不要。
「アナタにはすべての技師の礎になってもらうつもりですが……何よりもワタシがアナタを欲している」
「うむ! ワシも求めておるぞ!」
 鷹揚に頷くシノピリカ。
「ワシとて蒸気鎧無しで動くことはできる。右腕と両膝で膝行すれば這い歩く事は出来る。そのように鍛えた、訓練をした!
 じゃがな、歩きはすれど走れはせぬ。剣は執れども盾は持てぬ。一人の子の手は引けても、もう一人の子に乳を含ませる事は出来ぬ。
 それを救うてくれたのが鎧装! 『自分にとって蒸気技術とは何か』? 即ち、救いじゃ」
 体の半分が機械化したシノピリカにとって、カタフラクトの便利さは身にしみてわかっている。
「『どうして研究会を作ってまで技術を発達させたいのか』? それは『足らぬ』からじゃ。『まだまだ足らぬ』からじゃ。
 たとえ五体を失おうとたとえ五臓を引き出されようとたとえ頭蓋をカチ割られようと、そこに『生きたい』と望む意思ある限り補い支える! それがカタフラクトの本懐であるとワシは信ずる!」
「脳の代替までカタフラクトに求めるのかい」
「無論じゃ。ワシとてそうなる可能性はある。ワシだけではない。いずれ生まれ来るワシの子が失うかもしれぬ。あるいは我が友と、その子が失うかもしれぬ。
 確か189歳じゃったな。ならば残り11年を我らに寄越せ! その時間を我と我らが永遠の物としてくれるわ! 実験台が欲しいのであればワシの体を使え! 身体頑健にして鎧装の稼働実績も充分じゃ! いつ何時、如何様にもこの身を捧げようぞ!」
 自分の胸に手を置きながら、嘘偽りない瞳を向けてシノピリカはナイチンゲイルに言う。
「卵から出たばかりの分際で舐めた口をきくね。
 あたしが二百でくたばると思ってるのかい? 十一年どころかこの国が亡びるまで生きてやるよ」
 からからと笑いながらナイチンゲイルは自由騎士達を見た。
「それまで、あたしの技術をどれだけ受け継げるか。楽しみにさせてもらうよ」
「……と、言うことは?」
「そこまで啖呵を切ったんだ。『鉄の』意味をたっぷりと叩き込んでやるよ。
 お前ら、引っ越しの準備をしな! ぐずぐずしてると置いてくよ!」
「本気ですかぁ……」「俺、まだ途中の作品があるのに!?」「私の腕まだ型抜き途中……はい、わかりました」
 ナイチンゲイルの一言で周囲の弟子たちは顔を見合わせて慌てて走り出す。荷物をまとめ、下山の準備を始めた。
「途中で寄り道するよ。サンクディーゼルに着くまでにもう三人程、弟子を引っ張ってきてやる。
 おおっと。ここの採掘権利はまだあるから炭鉱夫を見繕ってくれ。枯れるまで掘り尽くすんだよ」
 動くと同時に様々な要求を突きつける自由騎士。そのメモを取り、首都に着くや否や奔走することになる。
 蒸気技術研究会の立上初期費用を見た大臣が、ひっそりと頭を抱えたのは小さな秘密。


 かくして蒸気技術研究会『クロックワークタワー』が発足する。機械仕掛けの塔と名付けられた三階建ての建物内は、多くの技師と工房で形成されている。研究会と言うよりは工房の趣が強く、勉学と実践を同時にこなす形式だ。
 学長であるナイチンゲイル自身が指導と経営を同時に行い、蒸気技術を教えていく。その内容は苛烈と言われているが、その分技術者のレベルは格段に増す。その技術者が成熟して世に出れば、イ・ラプセルの蒸気技術は更に発展するだろう。
 それは『蒸気王』の影響強いヘルメリアとは異なり、戦争に特化したヴィスマルクとは異なる技術進化だ。それが花開く時、どのような時代となっているのか。
 それはまだ見えない未来の話。

「よーし、今日の授業だ。その前に快眠快食してない奴は出ていきな! 自分の管理ができない奴が他人の身体を管理できるわけないだろうが!」
 今日も蒸気技術研究所に『鉄の』声が響き渡る――



†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
一番時間がかかったのは研究所名でした。

ナイチンゲイル氏の性格と言うか理念は、現実のフローレンス・ナイチンゲールを模しています。『犠牲を強いる奉仕は共倒れ同然』と言うのも、その一端です。
クロックワークタワーから如何なる技術が生まれるか。それを楽しみにしながら楽しみにしています……あれ、それもどくどくが書くの?

MVPは一番ナイチンゲイルの心を動かしたゼッペロン様に。

それではまた、イ・ラプセルで
FL送付済