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BoneKnight! 病振りまく骨の騎士!

●英雄エヴァンスと愛馬ジェフリー
五百年以上前の話。一人の英雄が龍を討った。
人々の安寧を脅かす龍が討たれたことで、人類の生息範囲は大きく広がる。龍の影響を受けて変性していた毒の沼地は浄化され、不毛の地は少しずつ正常な大地に戻っていく。それは人類だけではなく、そこに住むすべての生物にとっても恩恵と言える出来事だった。
だが竜は最後に呪いをかけた。
『許すべし! 我を討った汝はもっとも惨たらしく死を迎えるであろう!』
戯言と一蹴した三十年後、英雄は病魔に侵される。感染性のある病であったため祖の英雄は山奥に隔離され、看護されることもなくもだえ苦しんで死んだと言う。その死を看取ったのは、長年連れ添った愛馬だけだったと言う。
そして人々は発展する。かつての英雄に感謝を抱きながらも、今の生活を重視して生きていく。それはけして悪いことではない。今はセフィロトの海にあるであろう英雄の魂がその様子を見ることがあれば、おそらく微笑んでいただろう。
だが――そんな事とは無関係にイブリース化は起こる。僅かな骨片から膨れ上がるように体は再生される。墓標として突き刺されていたウォーハンマーを手にし、骨の英雄はゆっくりと歩き出す。その先には、骨の馬。骨の英雄は骨の馬に乗り、ゆっくりと進軍していく。
ゆっくりと、人里の方へ。
●階差演算室
「英雄エヴァンスと愛馬ジェフリー。それが還リビトになって蘇ったんだ」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は集まった自由騎士を前に、階差演算装置で見た未来の説明を開始する。
英雄エヴァンス。今では絵本にもなっているほどの人物だ。かつて毒の大地を生み出していた毒龍ジープアダベを討って平和を取り戻し、その後に病死したと言うのが話の概要だ。愛馬ジェフリーと共に戦場をかけ、紅のウォーハンマーを振るった英傑。
「エヴァンスの伝承の通りに馬に乗り、ウォーハンマーを振るってくるよ」
馬も英雄と共に戦うようだ。前足で踏みつけるほか、病魔の吐息を放ち、こちらを弱らせてくる。今の医学なら病自体は癒せるが、それでも戦闘中となれば障害になることには変わりない。
「こんなことで英雄の名が汚されるなんて在っちゃいけない事だよ。
しっかり退治してきて!」
クラウディアの言葉に背中を押されるように、自由騎士達は演算室を出た。
五百年以上前の話。一人の英雄が龍を討った。
人々の安寧を脅かす龍が討たれたことで、人類の生息範囲は大きく広がる。龍の影響を受けて変性していた毒の沼地は浄化され、不毛の地は少しずつ正常な大地に戻っていく。それは人類だけではなく、そこに住むすべての生物にとっても恩恵と言える出来事だった。
だが竜は最後に呪いをかけた。
『許すべし! 我を討った汝はもっとも惨たらしく死を迎えるであろう!』
戯言と一蹴した三十年後、英雄は病魔に侵される。感染性のある病であったため祖の英雄は山奥に隔離され、看護されることもなくもだえ苦しんで死んだと言う。その死を看取ったのは、長年連れ添った愛馬だけだったと言う。
そして人々は発展する。かつての英雄に感謝を抱きながらも、今の生活を重視して生きていく。それはけして悪いことではない。今はセフィロトの海にあるであろう英雄の魂がその様子を見ることがあれば、おそらく微笑んでいただろう。
だが――そんな事とは無関係にイブリース化は起こる。僅かな骨片から膨れ上がるように体は再生される。墓標として突き刺されていたウォーハンマーを手にし、骨の英雄はゆっくりと歩き出す。その先には、骨の馬。骨の英雄は骨の馬に乗り、ゆっくりと進軍していく。
ゆっくりと、人里の方へ。
●階差演算室
「英雄エヴァンスと愛馬ジェフリー。それが還リビトになって蘇ったんだ」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は集まった自由騎士を前に、階差演算装置で見た未来の説明を開始する。
英雄エヴァンス。今では絵本にもなっているほどの人物だ。かつて毒の大地を生み出していた毒龍ジープアダベを討って平和を取り戻し、その後に病死したと言うのが話の概要だ。愛馬ジェフリーと共に戦場をかけ、紅のウォーハンマーを振るった英傑。
「エヴァンスの伝承の通りに馬に乗り、ウォーハンマーを振るってくるよ」
馬も英雄と共に戦うようだ。前足で踏みつけるほか、病魔の吐息を放ち、こちらを弱らせてくる。今の医学なら病自体は癒せるが、それでも戦闘中となれば障害になることには変わりない。
「こんなことで英雄の名が汚されるなんて在っちゃいけない事だよ。
しっかり退治してきて!」
クラウディアの言葉に背中を押されるように、自由騎士達は演算室を出た。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.エヴァンスとジェフリーの打破
どくどくです。
たまにはシンプルなイブリース戦を。
●敵情報
・エヴァンス(×1)
骨の還リビト。錆びたウォーハンマーを両手に構え、攻撃をしてきます。かつて龍を討った英雄でしたが、病気のため孤独死したという非業の死を迎えました。
人里に入ればイブリースの習性に従い暴れ出し、、大惨事が起きるでしょう。
攻撃方法
薙ぎ払い 攻近範 ウォーハンマーを振り回し、広範囲を攻めます。
打ち下し 攻近単 ハンマー部分で叩きつけます。【ショック】
引っかけ 攻近単 ピック部分で引っかけ、バランスを崩します。【ブレイク1】
病魔の息 魔遠単 病を感染させ、苦しめます。【ポイズン1】
人馬一体 P 馬上においてバランスを崩しません。【ノックB】無効。
・ジェフリー
骨の還リビト。馬です。エヴァンスを乗せています。
攻撃方法
前足 攻近単 前足で踏んできます。
嘶き 味全 気合を入れるように声をあげます。攻撃力&魔法力UP
吐息 魔遠範 病を感染させ、苦しめます。【スロウ2】【グラビティ1】
●場所情報
墓地近くの獣道。そこで待っていれば還リビトは現れます。
戦闘開始時、敵前衛に『エヴァンス』『ジェフリー』がいます(エヴァンスはジェフリーに騎乗しているのですが、システム上はこのような形とさせていただきます。ご了承ください)。
事前付与は一度だけ可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
たまにはシンプルなイブリース戦を。
●敵情報
・エヴァンス(×1)
骨の還リビト。錆びたウォーハンマーを両手に構え、攻撃をしてきます。かつて龍を討った英雄でしたが、病気のため孤独死したという非業の死を迎えました。
人里に入ればイブリースの習性に従い暴れ出し、、大惨事が起きるでしょう。
攻撃方法
薙ぎ払い 攻近範 ウォーハンマーを振り回し、広範囲を攻めます。
打ち下し 攻近単 ハンマー部分で叩きつけます。【ショック】
引っかけ 攻近単 ピック部分で引っかけ、バランスを崩します。【ブレイク1】
病魔の息 魔遠単 病を感染させ、苦しめます。【ポイズン1】
人馬一体 P 馬上においてバランスを崩しません。【ノックB】無効。
・ジェフリー
骨の還リビト。馬です。エヴァンスを乗せています。
攻撃方法
前足 攻近単 前足で踏んできます。
嘶き 味全 気合を入れるように声をあげます。攻撃力&魔法力UP
吐息 魔遠範 病を感染させ、苦しめます。【スロウ2】【グラビティ1】
●場所情報
墓地近くの獣道。そこで待っていれば還リビトは現れます。
戦闘開始時、敵前衛に『エヴァンス』『ジェフリー』がいます(エヴァンスはジェフリーに騎乗しているのですが、システム上はこのような形とさせていただきます。ご了承ください)。
事前付与は一度だけ可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
7/8
7/8
公開日
2019年04月29日
2019年04月29日
†メイン参加者 7人†

●
『豪華絢爛にして才色兼備、羞花閉月の美しさをもち天下無敵の剣の技。その名を女騎士エヴァ! それに付き添うは鋼の身体を持つ機械仕掛けの馬。その蹄は天をかけ、時空すら跳躍する時計の守り手ジェイコブ! 彼らが挑むのは星空を蝕む夜龍ジープアダベ!』
「龍退治の英雄エヴァの話だろ! 知ってる知ってる! 婆さんがよく話してたよ! ……あれ? 違う?」
『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)は村の婆さんから聞かされたエヴァンスのあらすじを語り、その後の皆の視線に首をかしげる。何やら行き違いはあるようだが、まあ大筋は変わらないだろうと気にしない事にした。
「絵本もないほどの田舎だったのね……」
ほろり、と涙を流す『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。イ・ラプセルに住む人なら、名前を聞けばすぐにわかるほど有名な話なのに。墓に通じる道を進みながら、誤解を解くべきかどうか悩んでいた。
「……おねえちゃんがよんでくれたえほん」
ぼそりと『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)が呟く。『エヴァンスと毒龍』は孤児院で姉が読んでくれた絵本の一つ。あの時読んだ本は、最後は英雄は旅立って円満に終わった。少なくとも、還リビトになって人を襲う最後はあってはならない。
「ワシも良く聞かされたものよ。『どんなに勇敢な豪傑も、病魔には勝てない』『お外から帰ったら手洗いうがいをしましょう』……と言う様な教訓に繋げてのう」
貴族階級の『果たせし十騎士』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は絵本だけではなく伝承としてエヴァンスの最後を知っていた。その辺りを教訓として解釈するあたり、実利的な家系のようだ。
「最期の言葉からすると、龍自身も病魔の蔓延は自らの意志では無かったのやも知れんな」
頷くように『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は呟いた。毒龍ジープアダベ。大地を変えるほどの猛毒をもって暴威を示したが、三十年間も毒や病を潜伏させていたとは思えない。そんな厄介な病気など聞いたことはない。
「どんな立派な過去の英雄も、イブリース化には逆らえない。去年の前王やらの復活騒動でも思ったが、ほんとこればっかりはなあ」
『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)はそう言って、ため息を吐く。イブリース化は不明な点が多すぎる。性格にはその凶暴性と幽霊列車が係わっているだろう以外は何一つ分かっていないのだ。高潔な英雄さえも、成りうる可能性がある。
「でも元が英雄ってことは、さぞかし強ぇんだろ? だったら言うことはねぇ」
口元に笑みを浮かべて『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は銃を構える。発声した経緯や結末は二の次だ。強い者がいるなら、そこに挑んで勝利する。それこそがアンが銃を持つ理由だ。全て撃ち抜き、そして勝つ。
視界が広がり、墓地の入り口が見える。そこに骨の馬に騎乗した骸骨がいた。錆びたウォーハンマーを抱え、ゆっくりと歩を進める。虚ろの瞳が自由騎士達を認めたのか、足を止めて武器を構える。
自由騎士達もまた、その動きを見て武器を構える。英雄だった骨とその愛馬だった骨。病魔を宿した騎士を前に、じわりじわりと距離を詰めていく。
先に仕掛けたのは果たしてどちらからか。自由騎士と還リビトは、気が付けばぶつかりあっていた。
●
「安らかに眠らせてあげるわ」
最初に動いたのはエルシーだ。拳を構え、呼吸を整える。全身に宿る気を鋭角的に研ぎ澄ましながら、還リビトとの距離を詰めていく。拳に宿るのはアクアディーネの浄化の権能。この力をもって安寧をもたらそう。
ウォーハンマーの動きを見ながらエルシーは拳を繰り出す。動作の所作を見切り、瞬時に判断する。身軽なコスチュームはとっさの回避を邪魔することなく機能している。紅い竜の籠手が繰り出す一撃が還リビトの骨を削っていく。
「さすがは竜殺しの英雄。イブリース化したとはいえ、人馬一体ね」
「うむ。先達の馬さばき、見事である。だがこちらも負けてはおけぬ!」
愛馬ワッカの手綱を引き、シノピリカはサーベルを抜く。馬に乗っての攻防が上手いのではない。馬と息を合わせての攻撃が上手いのだ。馬の脚力を加味したハンマーの一撃。高い視線からの状況把握。地味だが、だからこそ今なお技術として残っている技法だ。
ワッカに合図を出し、地を駆ける。突撃の勢いを殺すことなく交差し、シノピリカは『Etupirka』を振りぬいた。馬の速度を生かした一撃離脱。刃はエヴァンスの兜を砕き、髑髏を白日に晒しだす。
「守りはまかせたぞ、新兵!」
「さあ来い! 英雄の体を借りただけの化け物! その体、返してもらうぞ!」
シノピリカの声にこたえるように盾を構えるナバル。その視線の先に英雄の姿はない。英雄の骨を動かし暴れる還リビトがいるだけだ。病魔の氾濫を防ぐために山にこもった英雄に敬意はある。だけど目の前のそれは、英雄ではない何かなのだ。
振り上げられるウォーハンマー。それを見てナバルは腰を下ろし、足を踏ん張る。ハンマーが振り下ろされる先を予測し、そちらに向けて動き出した。ライオットシールドを通じて伝わる重い衝撃。それに耐えながら、仲間を守れた安堵に笑みを浮かべていた。
「アンタは英雄なんだ。誰も傷つけさせないまま、もう一度静かに眠ってもらうぜ!」
「ん。しずかにねむらせてあげないと」
ナバルに同意するように頷くリムリィ。絵本で読んでもらったエヴァンスは皆の為に毒龍に挑む英雄だ。鍛えた力を正しい方向に使った存在だ。それは過剰な力が原因で虐待を受けたリムリィの一つの道になっていた。力は悪じゃない。そういう事もできるのだと。
だからこそここで止める。英雄を殺戮者にはさせはしない。ハンマーを握りしめ、踏み込むリムリィ。似た武器を使うため、ウォーハンマーの軌跡は予測が出来る。力を込めて回転するようにジェフリーに打撃を叩き込む。
「どくはがまん。くるしいのはなれてる。もうあんまりよくわかんないし」
「いや、治すからな。防疫も医者の仕事だ」
リムリィの言葉にツボミが口を開く。最後の言葉は引っかかったが、今は問い詰める時ではないかと脇に置いた。エヴァンスがかかった病は今では治療方法があるが、かといって広めていいものではない。
とは言ったものの、と戦場全体を見やるツボミ。治療には順列がある。全てを一気に癒すことなどできない。癒す優先度を決め、それに従い魔力を回していかなくては。展開される魔力が仲間達を癒し、還リビトに挑む力となる。
「500ウン年越しの残業御疲れ様だな英雄殿とその愛馬殿。だが貴様等の仕事はとっくに引き継ぎ完了しておってな? 端的に言ってロートルはすっこんどれ」
「そういう事だ。どんな理由があろうが、死んだってことは負けだろうが!」
言って銃を構えるアン。死生観は様々あるが、大前提として死者は蘇らない。死は終わりであり、負けである。それがアンの持つ持論だ。如何に大敗を喫しようが、生きていれば再戦の可能性もあり、同時に勝つ可能性もあるのだから。
黒瞳を見開き、強く集中するアン。走り回るジェフリーの前足の蹄を狙い撃っていく。強い集中とガンナーの技法。それがあっての針を通すほどの射撃。無論相手も案山子ではないから易々とはいかないが、アンはその動きすら予測して引き金を引く。
「負けて死んだ奴が、わざわざ還ってまで生きて勝ち続けている奴の邪魔をしてんじゃねぇよ!」
「特別な技法を持ってるんじゃなく、基本的な動きを極めたタイプか」
ザルクは還リビトの動きを注視して、そう結論する。独自の技をもっている英雄はいる。しかしそれをもたず、基礎の技を磨き上げたのがエヴァンスのようだ。払う、突く、叩く、引っかける。ウォーハンマーの基本動作を突き詰め、龍を討った英雄。
称賛に値するが、今は賛辞を贈るつもりはない。弾丸切れした銃のシリンダーごと交換しながら走るザルク。射線を確保し、二挺の銃を構える。今が好機とばかりに連続で引き金を引いた。叩き込まれる弾丸が還リビトを穿っていく。
「蹄と関節を撃てば、ちったぁ動きも止まるだろうよ!」
連携だって動く自由騎士。その動きは一糸乱れず、先ず馬のジェフリーを止めるべく動いていた。その動きは功を奏し、リムリィの一撃を受けて塵と化すジェフリー。言葉通り落馬するエヴァンスだが、嘆きも怒りもなくただ戦い続ける。
これが本物の英雄エヴァンスであったなら、あるいは何かしらの慟哭があったのだろう。あるいは戦意を喪失していたかもしれない。
だが目の前に居るのは還リビト。死体がイブリース化しただけの存在。その技法や在り方をある程度摸倣するだろうが、英雄本人では決してないのだ。
故に終わらせる。英雄だった存在を動かす何かを浄化し、埋葬する。それが自由騎士の努め。
骨の騎士が虚ろの瞳で自由騎士を見る。ウォーハンマーを振り上げ、挑みかかってくる。
戦いは少しずつ、終局へと向かっていた。
●
還リビトは自分にダメージを多く与えた者を狙っていた。
そしてそれを察したナバルはシノピリカとリムリィの二人を守ろうと動く。
「痛ってー! でもまだ負けねぇぞ!」
度重なる攻撃にナバルがフラグメンツを削られるが、戦う気力はまだ十分のようだ。盾を構えて立ち挑む。
「防御タンクの面目躍如と言う奴だ。気張れよ小僧」
ナバルの背を叩きながらツボミが防御の術をかけなおす。無形の魔力をナバルを中心にして螺旋を描くように回転させ、弾くように敵の攻撃を逸らす魔術。実際に癒すだけではなく、傷を減らすことも医者の知識だ。
「流石に硬いか!」
ウォーハンマーの錆びた部分を狙ううちするアン。だが龍を倒す為に作られた重量武器だ。五〇〇年の時を経てもなおその強度は健在だった。いくつかの弾丸がハンマーに埋め込まれるが、破壊には至らない。
「その体は、お前が自由にしていいもんじゃない! 自分の身も人生も顧みず、人々のために最後まで戦い抜いた英雄のものだ!」
挑発するようにナバルは還リビトに叫ぶ。それは確かに挑発の意味もあったが、ナバルの本心でもあった。エヴァンスがどういう思いで龍を討ち、どういう気持ちで病に伏したのかはわからない。それでもその人生は彼の物だ。それを使う権利は、ない。
(なにかをこわしてしまうくらいちからがつよくても。きみわるがられるくらいがんじょうでも)
ハンマーを振るいながらリムリィは思う。強さが尊ばれると言う事。その力ゆえに親に忌み嫌われ、虐待を受けていたリムリィにとって、力が羨望を浴びるという事を教えてくれたエヴァンスの話は希望の一つだった。この力は、自分はあっていいモノだと教えてくれたのだ。
「一気に行くぜ!」
休む間も与えない、とばかりにザルクは攻め立てる。脳内で弾丸数をカウントしながら引き金を引き、弾丸を再装填する。地道と思われる思考こそが攻撃に繋がる。引き金をただ引くだけのハッピートリガーではない。積み重ねあってのガンナースタイルなのだ。
「龍殺しの英雄。さすがね。あれだけ大きな武器を使っているのに、隙が少ない」
呼吸を整えながらエルシーは冷や汗を流していた。巨大武器ゆえの隙をつく。だが英雄レベルとなれば、その隙も僅かなものだ。気が付けばハンマーや石突が迫っている。所作の一つ一つを積み重ね、隙を無くしているのだ。それを知り、しかしエルシーは怯えず踏み込んでいく。
「離れておれ、ワッカ!」
馬から降りたシノピリカが還リビトに向かい突撃する。馬の安全を確保した後に一気に斬りかかった。軍刀の攻撃をウォーハンマーで受け止めさせ、機械の腕を還リビトに叩き込む。激しい蒸気排出音と共に衝撃が加速され、機械腕以上の重い一撃が骨を砕いた。
集中砲火で馬の還リビトを滅してから、怒涛の勢いで自由騎士達は騎士の還リビトを攻める。振るわれるウォーハンマーを避け、受け止め、そして傷を癒しながら確実に武器や弾丸を叩き込んでいく。
龍に対抗できるだけの英雄だったとはいえ、所詮は骨の還リビト。自由騎士達の攻撃を前に肋骨にひびが入り、骨の一部も切り取られている。それでもなお動きを止めないのは、イブリースゆえの理不尽か。
そんなことは自由騎士も理解している。故にイブリースが倒れ、動かなくなるまで油断はしない。こちらの常識をあっさり超えてくれるのがイブリースなのだ。
「あなたたちがあって、いまがある」
還リビトと砕け散った馬の骨をちらりと見て、リムリィが呟く。過去の人達の働きがあったから、今がある。親に虐待されて存在を否定され続けた子がこの一言を出せるようになったのは、如何なる愛を受けたのだろうか。忌み嫌った力を振るえるようになったのは、如何なる決意があったのだろうか。それは余人には分からない。ただ――
「だから……ありがとう」
振るわれるハンマーは暴力ではなく感謝。浄化の権能を乗せた強く優しい一打。その一言と一打が、還リビトを土に還した。
●
「ウォーハンマーって鎧着てる相手用の武器だったんだな……!」
敵を誘うように動いていたナバルが崩れ落ちるように座り込む。ただのハンマーのような重い攻撃だけではなく、ピック部分で鎧の関節を突き刺したり引っかけてバランスを崩したりと多種多様な攻め方だ。攻撃を一手に引き付けていたこともあって、その攻め方は重々理解できた。
「中々強かったぜ。ま、全盛期のアンタほどじゃないんだろうがな」
銃をホルスターに収め、アンが笑みを浮かべる。今倒したのは英雄由来の還リビトだ。経験豊富な龍殺しの英雄ではない。ただの還リビトよりは強かったが、それだけだ。生きていた頃と邂逅する事はないのは惜しいねぇ、と背を向ける。
「こればかりはどうしようもない……か」
還リビトに当人の意志は関係ない。ザルクもそれは理解している。だがもし自分の愛しい人や友人と死に分かれ、それが還リビトとなったら冷静に対処できるだろうか? ……首を振ってその『もし』を否定する。ありえないことなどありえない、からこそ――
「…………」
リムリィは武器をマキナギアに収めて目を閉じる。その表情は相変わらず無表情で、何を考えているのかわからない。だけど目を伏しているその様子は、祈っているかのように見えた。
「しかしウォーハンマーが墓標か……」
「救国の英雄の墓標がウォーハンマーだなんて、ちょっとあんまりよね」
地面に落ちた錆びたウォーハンマーをみながらツボミとエルシーは額にしわを寄せた。龍を倒し、国を救って発展させた騎士の末路が病死で、その墓標が無骨な鉄塊というのは如何なる事か。宰相にでも頼んできちんとした墓標を立ててもらおう。
「あー……それにはまあ、色々あるんじゃよ。一言でいえば当人の遺言でな」
ウォーハンマーを拾い上げ、シノピリカが苦笑する。過去、似たような陳情はいくつか上がってきたと言う。だがそれを行わなかった理由は、エヴァンス本人がそれを拒んだからなのだ。
『この武器は、平和のためとはいえ多くの命を奪ってきた。いわばこれは私が倒してきた者の墓なのだよ。奪ったことに後悔はない。だけど忘れてはいけない。私という騎士は戦いと共にあり、奪ったことが私の戦果なのだ。
私を弔うのなら、どうかこのハンマーを墓にしてほしい。奪ってきた者達への弔いの意味も含めて』
生前そう言付けし、エヴァンスは山に籠った。
殺さなければ人は死んでいた、奪わなければ人は奪われていた、そんな時代。それでもエヴァンスと呼ばれる騎士は命を奪ったことを忘れまいと自らに刻んだと言う。
かくして英雄は没し、人々は発展する。今を生きる騎士達も、同じように時代を切り開いていくのだろう。
だがそれは未来の話。いまはただ思うままに走り続けるだけ。
風は静かに、英雄の墓を撫でている――
『豪華絢爛にして才色兼備、羞花閉月の美しさをもち天下無敵の剣の技。その名を女騎士エヴァ! それに付き添うは鋼の身体を持つ機械仕掛けの馬。その蹄は天をかけ、時空すら跳躍する時計の守り手ジェイコブ! 彼らが挑むのは星空を蝕む夜龍ジープアダベ!』
「龍退治の英雄エヴァの話だろ! 知ってる知ってる! 婆さんがよく話してたよ! ……あれ? 違う?」
『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)は村の婆さんから聞かされたエヴァンスのあらすじを語り、その後の皆の視線に首をかしげる。何やら行き違いはあるようだが、まあ大筋は変わらないだろうと気にしない事にした。
「絵本もないほどの田舎だったのね……」
ほろり、と涙を流す『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。イ・ラプセルに住む人なら、名前を聞けばすぐにわかるほど有名な話なのに。墓に通じる道を進みながら、誤解を解くべきかどうか悩んでいた。
「……おねえちゃんがよんでくれたえほん」
ぼそりと『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)が呟く。『エヴァンスと毒龍』は孤児院で姉が読んでくれた絵本の一つ。あの時読んだ本は、最後は英雄は旅立って円満に終わった。少なくとも、還リビトになって人を襲う最後はあってはならない。
「ワシも良く聞かされたものよ。『どんなに勇敢な豪傑も、病魔には勝てない』『お外から帰ったら手洗いうがいをしましょう』……と言う様な教訓に繋げてのう」
貴族階級の『果たせし十騎士』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は絵本だけではなく伝承としてエヴァンスの最後を知っていた。その辺りを教訓として解釈するあたり、実利的な家系のようだ。
「最期の言葉からすると、龍自身も病魔の蔓延は自らの意志では無かったのやも知れんな」
頷くように『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は呟いた。毒龍ジープアダベ。大地を変えるほどの猛毒をもって暴威を示したが、三十年間も毒や病を潜伏させていたとは思えない。そんな厄介な病気など聞いたことはない。
「どんな立派な過去の英雄も、イブリース化には逆らえない。去年の前王やらの復活騒動でも思ったが、ほんとこればっかりはなあ」
『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)はそう言って、ため息を吐く。イブリース化は不明な点が多すぎる。性格にはその凶暴性と幽霊列車が係わっているだろう以外は何一つ分かっていないのだ。高潔な英雄さえも、成りうる可能性がある。
「でも元が英雄ってことは、さぞかし強ぇんだろ? だったら言うことはねぇ」
口元に笑みを浮かべて『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は銃を構える。発声した経緯や結末は二の次だ。強い者がいるなら、そこに挑んで勝利する。それこそがアンが銃を持つ理由だ。全て撃ち抜き、そして勝つ。
視界が広がり、墓地の入り口が見える。そこに骨の馬に騎乗した骸骨がいた。錆びたウォーハンマーを抱え、ゆっくりと歩を進める。虚ろの瞳が自由騎士達を認めたのか、足を止めて武器を構える。
自由騎士達もまた、その動きを見て武器を構える。英雄だった骨とその愛馬だった骨。病魔を宿した騎士を前に、じわりじわりと距離を詰めていく。
先に仕掛けたのは果たしてどちらからか。自由騎士と還リビトは、気が付けばぶつかりあっていた。
●
「安らかに眠らせてあげるわ」
最初に動いたのはエルシーだ。拳を構え、呼吸を整える。全身に宿る気を鋭角的に研ぎ澄ましながら、還リビトとの距離を詰めていく。拳に宿るのはアクアディーネの浄化の権能。この力をもって安寧をもたらそう。
ウォーハンマーの動きを見ながらエルシーは拳を繰り出す。動作の所作を見切り、瞬時に判断する。身軽なコスチュームはとっさの回避を邪魔することなく機能している。紅い竜の籠手が繰り出す一撃が還リビトの骨を削っていく。
「さすがは竜殺しの英雄。イブリース化したとはいえ、人馬一体ね」
「うむ。先達の馬さばき、見事である。だがこちらも負けてはおけぬ!」
愛馬ワッカの手綱を引き、シノピリカはサーベルを抜く。馬に乗っての攻防が上手いのではない。馬と息を合わせての攻撃が上手いのだ。馬の脚力を加味したハンマーの一撃。高い視線からの状況把握。地味だが、だからこそ今なお技術として残っている技法だ。
ワッカに合図を出し、地を駆ける。突撃の勢いを殺すことなく交差し、シノピリカは『Etupirka』を振りぬいた。馬の速度を生かした一撃離脱。刃はエヴァンスの兜を砕き、髑髏を白日に晒しだす。
「守りはまかせたぞ、新兵!」
「さあ来い! 英雄の体を借りただけの化け物! その体、返してもらうぞ!」
シノピリカの声にこたえるように盾を構えるナバル。その視線の先に英雄の姿はない。英雄の骨を動かし暴れる還リビトがいるだけだ。病魔の氾濫を防ぐために山にこもった英雄に敬意はある。だけど目の前のそれは、英雄ではない何かなのだ。
振り上げられるウォーハンマー。それを見てナバルは腰を下ろし、足を踏ん張る。ハンマーが振り下ろされる先を予測し、そちらに向けて動き出した。ライオットシールドを通じて伝わる重い衝撃。それに耐えながら、仲間を守れた安堵に笑みを浮かべていた。
「アンタは英雄なんだ。誰も傷つけさせないまま、もう一度静かに眠ってもらうぜ!」
「ん。しずかにねむらせてあげないと」
ナバルに同意するように頷くリムリィ。絵本で読んでもらったエヴァンスは皆の為に毒龍に挑む英雄だ。鍛えた力を正しい方向に使った存在だ。それは過剰な力が原因で虐待を受けたリムリィの一つの道になっていた。力は悪じゃない。そういう事もできるのだと。
だからこそここで止める。英雄を殺戮者にはさせはしない。ハンマーを握りしめ、踏み込むリムリィ。似た武器を使うため、ウォーハンマーの軌跡は予測が出来る。力を込めて回転するようにジェフリーに打撃を叩き込む。
「どくはがまん。くるしいのはなれてる。もうあんまりよくわかんないし」
「いや、治すからな。防疫も医者の仕事だ」
リムリィの言葉にツボミが口を開く。最後の言葉は引っかかったが、今は問い詰める時ではないかと脇に置いた。エヴァンスがかかった病は今では治療方法があるが、かといって広めていいものではない。
とは言ったものの、と戦場全体を見やるツボミ。治療には順列がある。全てを一気に癒すことなどできない。癒す優先度を決め、それに従い魔力を回していかなくては。展開される魔力が仲間達を癒し、還リビトに挑む力となる。
「500ウン年越しの残業御疲れ様だな英雄殿とその愛馬殿。だが貴様等の仕事はとっくに引き継ぎ完了しておってな? 端的に言ってロートルはすっこんどれ」
「そういう事だ。どんな理由があろうが、死んだってことは負けだろうが!」
言って銃を構えるアン。死生観は様々あるが、大前提として死者は蘇らない。死は終わりであり、負けである。それがアンの持つ持論だ。如何に大敗を喫しようが、生きていれば再戦の可能性もあり、同時に勝つ可能性もあるのだから。
黒瞳を見開き、強く集中するアン。走り回るジェフリーの前足の蹄を狙い撃っていく。強い集中とガンナーの技法。それがあっての針を通すほどの射撃。無論相手も案山子ではないから易々とはいかないが、アンはその動きすら予測して引き金を引く。
「負けて死んだ奴が、わざわざ還ってまで生きて勝ち続けている奴の邪魔をしてんじゃねぇよ!」
「特別な技法を持ってるんじゃなく、基本的な動きを極めたタイプか」
ザルクは還リビトの動きを注視して、そう結論する。独自の技をもっている英雄はいる。しかしそれをもたず、基礎の技を磨き上げたのがエヴァンスのようだ。払う、突く、叩く、引っかける。ウォーハンマーの基本動作を突き詰め、龍を討った英雄。
称賛に値するが、今は賛辞を贈るつもりはない。弾丸切れした銃のシリンダーごと交換しながら走るザルク。射線を確保し、二挺の銃を構える。今が好機とばかりに連続で引き金を引いた。叩き込まれる弾丸が還リビトを穿っていく。
「蹄と関節を撃てば、ちったぁ動きも止まるだろうよ!」
連携だって動く自由騎士。その動きは一糸乱れず、先ず馬のジェフリーを止めるべく動いていた。その動きは功を奏し、リムリィの一撃を受けて塵と化すジェフリー。言葉通り落馬するエヴァンスだが、嘆きも怒りもなくただ戦い続ける。
これが本物の英雄エヴァンスであったなら、あるいは何かしらの慟哭があったのだろう。あるいは戦意を喪失していたかもしれない。
だが目の前に居るのは還リビト。死体がイブリース化しただけの存在。その技法や在り方をある程度摸倣するだろうが、英雄本人では決してないのだ。
故に終わらせる。英雄だった存在を動かす何かを浄化し、埋葬する。それが自由騎士の努め。
骨の騎士が虚ろの瞳で自由騎士を見る。ウォーハンマーを振り上げ、挑みかかってくる。
戦いは少しずつ、終局へと向かっていた。
●
還リビトは自分にダメージを多く与えた者を狙っていた。
そしてそれを察したナバルはシノピリカとリムリィの二人を守ろうと動く。
「痛ってー! でもまだ負けねぇぞ!」
度重なる攻撃にナバルがフラグメンツを削られるが、戦う気力はまだ十分のようだ。盾を構えて立ち挑む。
「防御タンクの面目躍如と言う奴だ。気張れよ小僧」
ナバルの背を叩きながらツボミが防御の術をかけなおす。無形の魔力をナバルを中心にして螺旋を描くように回転させ、弾くように敵の攻撃を逸らす魔術。実際に癒すだけではなく、傷を減らすことも医者の知識だ。
「流石に硬いか!」
ウォーハンマーの錆びた部分を狙ううちするアン。だが龍を倒す為に作られた重量武器だ。五〇〇年の時を経てもなおその強度は健在だった。いくつかの弾丸がハンマーに埋め込まれるが、破壊には至らない。
「その体は、お前が自由にしていいもんじゃない! 自分の身も人生も顧みず、人々のために最後まで戦い抜いた英雄のものだ!」
挑発するようにナバルは還リビトに叫ぶ。それは確かに挑発の意味もあったが、ナバルの本心でもあった。エヴァンスがどういう思いで龍を討ち、どういう気持ちで病に伏したのかはわからない。それでもその人生は彼の物だ。それを使う権利は、ない。
(なにかをこわしてしまうくらいちからがつよくても。きみわるがられるくらいがんじょうでも)
ハンマーを振るいながらリムリィは思う。強さが尊ばれると言う事。その力ゆえに親に忌み嫌われ、虐待を受けていたリムリィにとって、力が羨望を浴びるという事を教えてくれたエヴァンスの話は希望の一つだった。この力は、自分はあっていいモノだと教えてくれたのだ。
「一気に行くぜ!」
休む間も与えない、とばかりにザルクは攻め立てる。脳内で弾丸数をカウントしながら引き金を引き、弾丸を再装填する。地道と思われる思考こそが攻撃に繋がる。引き金をただ引くだけのハッピートリガーではない。積み重ねあってのガンナースタイルなのだ。
「龍殺しの英雄。さすがね。あれだけ大きな武器を使っているのに、隙が少ない」
呼吸を整えながらエルシーは冷や汗を流していた。巨大武器ゆえの隙をつく。だが英雄レベルとなれば、その隙も僅かなものだ。気が付けばハンマーや石突が迫っている。所作の一つ一つを積み重ね、隙を無くしているのだ。それを知り、しかしエルシーは怯えず踏み込んでいく。
「離れておれ、ワッカ!」
馬から降りたシノピリカが還リビトに向かい突撃する。馬の安全を確保した後に一気に斬りかかった。軍刀の攻撃をウォーハンマーで受け止めさせ、機械の腕を還リビトに叩き込む。激しい蒸気排出音と共に衝撃が加速され、機械腕以上の重い一撃が骨を砕いた。
集中砲火で馬の還リビトを滅してから、怒涛の勢いで自由騎士達は騎士の還リビトを攻める。振るわれるウォーハンマーを避け、受け止め、そして傷を癒しながら確実に武器や弾丸を叩き込んでいく。
龍に対抗できるだけの英雄だったとはいえ、所詮は骨の還リビト。自由騎士達の攻撃を前に肋骨にひびが入り、骨の一部も切り取られている。それでもなお動きを止めないのは、イブリースゆえの理不尽か。
そんなことは自由騎士も理解している。故にイブリースが倒れ、動かなくなるまで油断はしない。こちらの常識をあっさり超えてくれるのがイブリースなのだ。
「あなたたちがあって、いまがある」
還リビトと砕け散った馬の骨をちらりと見て、リムリィが呟く。過去の人達の働きがあったから、今がある。親に虐待されて存在を否定され続けた子がこの一言を出せるようになったのは、如何なる愛を受けたのだろうか。忌み嫌った力を振るえるようになったのは、如何なる決意があったのだろうか。それは余人には分からない。ただ――
「だから……ありがとう」
振るわれるハンマーは暴力ではなく感謝。浄化の権能を乗せた強く優しい一打。その一言と一打が、還リビトを土に還した。
●
「ウォーハンマーって鎧着てる相手用の武器だったんだな……!」
敵を誘うように動いていたナバルが崩れ落ちるように座り込む。ただのハンマーのような重い攻撃だけではなく、ピック部分で鎧の関節を突き刺したり引っかけてバランスを崩したりと多種多様な攻め方だ。攻撃を一手に引き付けていたこともあって、その攻め方は重々理解できた。
「中々強かったぜ。ま、全盛期のアンタほどじゃないんだろうがな」
銃をホルスターに収め、アンが笑みを浮かべる。今倒したのは英雄由来の還リビトだ。経験豊富な龍殺しの英雄ではない。ただの還リビトよりは強かったが、それだけだ。生きていた頃と邂逅する事はないのは惜しいねぇ、と背を向ける。
「こればかりはどうしようもない……か」
還リビトに当人の意志は関係ない。ザルクもそれは理解している。だがもし自分の愛しい人や友人と死に分かれ、それが還リビトとなったら冷静に対処できるだろうか? ……首を振ってその『もし』を否定する。ありえないことなどありえない、からこそ――
「…………」
リムリィは武器をマキナギアに収めて目を閉じる。その表情は相変わらず無表情で、何を考えているのかわからない。だけど目を伏しているその様子は、祈っているかのように見えた。
「しかしウォーハンマーが墓標か……」
「救国の英雄の墓標がウォーハンマーだなんて、ちょっとあんまりよね」
地面に落ちた錆びたウォーハンマーをみながらツボミとエルシーは額にしわを寄せた。龍を倒し、国を救って発展させた騎士の末路が病死で、その墓標が無骨な鉄塊というのは如何なる事か。宰相にでも頼んできちんとした墓標を立ててもらおう。
「あー……それにはまあ、色々あるんじゃよ。一言でいえば当人の遺言でな」
ウォーハンマーを拾い上げ、シノピリカが苦笑する。過去、似たような陳情はいくつか上がってきたと言う。だがそれを行わなかった理由は、エヴァンス本人がそれを拒んだからなのだ。
『この武器は、平和のためとはいえ多くの命を奪ってきた。いわばこれは私が倒してきた者の墓なのだよ。奪ったことに後悔はない。だけど忘れてはいけない。私という騎士は戦いと共にあり、奪ったことが私の戦果なのだ。
私を弔うのなら、どうかこのハンマーを墓にしてほしい。奪ってきた者達への弔いの意味も含めて』
生前そう言付けし、エヴァンスは山に籠った。
殺さなければ人は死んでいた、奪わなければ人は奪われていた、そんな時代。それでもエヴァンスと呼ばれる騎士は命を奪ったことを忘れまいと自らに刻んだと言う。
かくして英雄は没し、人々は発展する。今を生きる騎士達も、同じように時代を切り開いていくのだろう。
だがそれは未来の話。いまはただ思うままに走り続けるだけ。
風は静かに、英雄の墓を撫でている――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
ウォーハンマーの騎士って憧れるよね!(むふー
以上のような結果になりました。
戦争もひと段落し、しばらくはのんびり……と行かないのが自由騎士です。
MVPは還リビトに一番思いを込めたアルカナム様に。この戦いを通じて、成長の兆しになれば幸いです。
それではまた、イ。ラプセルで。
ウォーハンマーの騎士って憧れるよね!(むふー
以上のような結果になりました。
戦争もひと段落し、しばらくはのんびり……と行かないのが自由騎士です。
MVPは還リビトに一番思いを込めたアルカナム様に。この戦いを通じて、成長の兆しになれば幸いです。
それではまた、イ。ラプセルで。
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