MagiaSteam




Dog! 生類憐れむ御犬様ツナヨシ!

●アマノホカリ戦局
アマノホカリ全土を巻き込んで数百年に及んだ内乱――千国時代。言葉通り、千の小国が争った時代を制し、アマノホカリ統一を果たした組織――宇羅幕府。
その二代将軍『黒鬼将軍』宇羅嶽丸。彼は更なる戦乱を求めてヴィスマルクと同盟を結び、神の蟲毒に参戦する。
その気配を察したのか、はたまたただの偶然か。神アマノホカリが再臨。神を擁する天津朝廷は神の名のもとに兵を集める。そしてイ・ラプセルはそこに参戦することとなった。
宇羅幕府と天津朝廷。アマノホカリを二分する内戦が、今静かに動き始めていた。
●御犬様ツナヨシ
「へっへっへ。あっしが嶽丸様に逆らうなんてできるわけないワン!」
ぺしん、と扇で頭を叩き、舌を出す犬のケモノビト。
かつて千国時代の際に覇を争ったトクガワ家。その家名を継ぐ存在である。圧倒的な武力を持つ宇羅家に叩きのめされ、忠義を誓ったのだ。
「なんとかかんとかっていう国が味方に付いたみたいですが、神殲組や御庭番衆の出る幕じゃありません! ええ、この忠犬ツナヨシが片づけてみせますワン!」
言って尻尾を振るケモノビト。そこには反逆の意志などまるで見られない。自ら幕府の忠犬を名乗り、頭を下げて生きていく。そんな卑屈な態度が見えた。
「で、ですねぇ。宇羅様の勝利は確定しているのですが……勝利の暁にはあの神アマノホカリ。あれを頂けませんかねぇ!
あの御耳をもふもふ愛でてみたいんです、へっへっへ!」
あまりと言えばあまりの卑屈さに、あきれ果てたのか適当に頷かれる。ツナヨシはそれを確認して、引き下がった。誰もいない廊下で表情を改め、口を開く。
「ふう。これで最低限アマノホカリ様の命は確保された、と。
戦争やだなぁ。生類憐み大事だよなぁ」
生類憐み。生きている者は大事にしようという考え方。戦乱の世を求める宇羅とは真逆の思考だ。だから――
「なので犠牲は最低限。速攻で背後の国を叩き潰して朝廷に降伏勧告。和議を結んで丸く収めますか。
ああ、もう。タヌキ親父は天ぷらにはまってるし。他の義兄弟たちは将棋やら世直し暴れん坊ツアーにでたりしてるし」
ツナヨシは愚痴りながらも兵を集める。千国の世で農民に帰依した忍者衆。少数ではあるが、ゲリラ戦に長けたガンナー集団。彼らを集め、幕府と朝廷の境界線に迫る。軍事拠点を襲撃し、支配下に納めることに成功するのであった。
●天津朝廷
天津朝廷から自由騎士達に話が来たのは、その数時間後。朝廷に占拠の報が届くと同時にすぐに使いの者がやってきた。
「敵は『御犬様』ツナヨシ。宇羅幕府の忠犬を名乗る武将です。
サイカと呼ばれる鉄砲集団を集め、南御屋(ナゴヤ)境の関所を押さえられました」
不意を突いての電撃作戦。そして関所の人間を全員解放し、文を朝廷に届けさせたという。
『やあああああああん! アマノホカリの御耳もふもふしたい! 尻尾もふもふしたい! 全身余すことなくなでなでしたい! ケモケモ美少女最高!
拙者が作ったお食事食べさせたい! 一緒に栄堂(えど)の街をお散歩したい! 原っぱで追っかけっこしたい! ボールを投げて取りに行かせたい! あ、拙者がそうされても構わないワン!』
頭が痛くなる内容だ。
「これは神に対する敬意を失墜させる内容。朝廷としては容認できません」
確かに失墜する。しかもあの神様はあっさり受け入れそうで困る。
「なによりも、関所を奪われて放置はできません。幕府の援軍が来る前に奪い返さなくては」
地の利がある朝廷軍は、ゲリラに徹するサイカ兵を押さえるという。その間に関所を奪還してほしいとの事だ。
ここで宇羅幕府の優勢を許すことは、ヴィスマルクの強化に繋がる。自由騎士達は武器を持ち、関所に向かった。
アマノホカリ全土を巻き込んで数百年に及んだ内乱――千国時代。言葉通り、千の小国が争った時代を制し、アマノホカリ統一を果たした組織――宇羅幕府。
その二代将軍『黒鬼将軍』宇羅嶽丸。彼は更なる戦乱を求めてヴィスマルクと同盟を結び、神の蟲毒に参戦する。
その気配を察したのか、はたまたただの偶然か。神アマノホカリが再臨。神を擁する天津朝廷は神の名のもとに兵を集める。そしてイ・ラプセルはそこに参戦することとなった。
宇羅幕府と天津朝廷。アマノホカリを二分する内戦が、今静かに動き始めていた。
●御犬様ツナヨシ
「へっへっへ。あっしが嶽丸様に逆らうなんてできるわけないワン!」
ぺしん、と扇で頭を叩き、舌を出す犬のケモノビト。
かつて千国時代の際に覇を争ったトクガワ家。その家名を継ぐ存在である。圧倒的な武力を持つ宇羅家に叩きのめされ、忠義を誓ったのだ。
「なんとかかんとかっていう国が味方に付いたみたいですが、神殲組や御庭番衆の出る幕じゃありません! ええ、この忠犬ツナヨシが片づけてみせますワン!」
言って尻尾を振るケモノビト。そこには反逆の意志などまるで見られない。自ら幕府の忠犬を名乗り、頭を下げて生きていく。そんな卑屈な態度が見えた。
「で、ですねぇ。宇羅様の勝利は確定しているのですが……勝利の暁にはあの神アマノホカリ。あれを頂けませんかねぇ!
あの御耳をもふもふ愛でてみたいんです、へっへっへ!」
あまりと言えばあまりの卑屈さに、あきれ果てたのか適当に頷かれる。ツナヨシはそれを確認して、引き下がった。誰もいない廊下で表情を改め、口を開く。
「ふう。これで最低限アマノホカリ様の命は確保された、と。
戦争やだなぁ。生類憐み大事だよなぁ」
生類憐み。生きている者は大事にしようという考え方。戦乱の世を求める宇羅とは真逆の思考だ。だから――
「なので犠牲は最低限。速攻で背後の国を叩き潰して朝廷に降伏勧告。和議を結んで丸く収めますか。
ああ、もう。タヌキ親父は天ぷらにはまってるし。他の義兄弟たちは将棋やら世直し暴れん坊ツアーにでたりしてるし」
ツナヨシは愚痴りながらも兵を集める。千国の世で農民に帰依した忍者衆。少数ではあるが、ゲリラ戦に長けたガンナー集団。彼らを集め、幕府と朝廷の境界線に迫る。軍事拠点を襲撃し、支配下に納めることに成功するのであった。
●天津朝廷
天津朝廷から自由騎士達に話が来たのは、その数時間後。朝廷に占拠の報が届くと同時にすぐに使いの者がやってきた。
「敵は『御犬様』ツナヨシ。宇羅幕府の忠犬を名乗る武将です。
サイカと呼ばれる鉄砲集団を集め、南御屋(ナゴヤ)境の関所を押さえられました」
不意を突いての電撃作戦。そして関所の人間を全員解放し、文を朝廷に届けさせたという。
『やあああああああん! アマノホカリの御耳もふもふしたい! 尻尾もふもふしたい! 全身余すことなくなでなでしたい! ケモケモ美少女最高!
拙者が作ったお食事食べさせたい! 一緒に栄堂(えど)の街をお散歩したい! 原っぱで追っかけっこしたい! ボールを投げて取りに行かせたい! あ、拙者がそうされても構わないワン!』
頭が痛くなる内容だ。
「これは神に対する敬意を失墜させる内容。朝廷としては容認できません」
確かに失墜する。しかもあの神様はあっさり受け入れそうで困る。
「なによりも、関所を奪われて放置はできません。幕府の援軍が来る前に奪い返さなくては」
地の利がある朝廷軍は、ゲリラに徹するサイカ兵を押さえるという。その間に関所を奪還してほしいとの事だ。
ここで宇羅幕府の優勢を許すことは、ヴィスマルクの強化に繋がる。自由騎士達は武器を持ち、関所に向かった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.幕府軍の打破(敵逃亡も含む)
どくどくです。
アホなキャラが書きたかったんだ……! あとちょうどDだったんで。
●敵情報
・『御犬様』ツナヨシ(×1)
犬のケモノビト。男性三十五歳。宇羅幕府に仕える武将です。サムライと呼ばれるジョブで戦います。
語尾にワンをつけ、宇羅に絶対忠誠を誓っています。その為、説得は不可。神アマノホカリを欲しているようです。ケモナー的に。
危なくなったら、三下っぽく捨て台詞を吐いて撤退します。
OP情報は既知で構いません。水鏡から速報が届いたのでしょう、きっと。
攻撃方法
一刀両断 近距離の攻撃。バッサリ切ります。 低命中高威力。【必殺】
心眼 強化。 命中、回避、速度が上昇します。
天逆鉾 近距離の突き攻撃。ブレイク効果を持つようです。
・シノブ サイカ(×1)
オニビト。女性二十歳。ツナヨシに仕えるガンナーです。ガンナーですがニンジャと呼ばれるジョブも使います。
危険領域に陥ったら、すぐに撤退します。そういう契約の傭兵のようです。
攻撃方法
隠形・遁法煙玉 遠距離範囲攻撃。ダメージなし。広域に毒の煙を展開します。
火遁・劫火焔舞 遠距離範囲攻撃。毒素に反応する魔導の炎を展開します。
瞳術・不動金縛 遠距離範囲攻撃。念を込めた視線によって、範囲内の敵の動きを縛ります。ダメージなしのパラライズ。
・サイカ衆(×6)
オニビト。男女入り混じり。ガンナー3名と、軽戦士3名です。全員ランク1までのスキルを使います。
危険領域に陥ったら、すぐに撤退します。そういう契約の傭兵のようです。
●場所情報
アマノホカリ。朝廷と幕府の勢力の境界にある南御屋(ナゴヤ)にある関所。門は開かれ、そこにツナヨシ達が門を守るように布陣しています。
時刻は昼。足場と広さは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『ツナヨシ(×1)』『サイカ衆軽戦士(×3)』が。敵後衛に『シノブ(×1)』『サイカ衆ガンナー(×3)』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
アホなキャラが書きたかったんだ……! あとちょうどDだったんで。
●敵情報
・『御犬様』ツナヨシ(×1)
犬のケモノビト。男性三十五歳。宇羅幕府に仕える武将です。サムライと呼ばれるジョブで戦います。
語尾にワンをつけ、宇羅に絶対忠誠を誓っています。その為、説得は不可。神アマノホカリを欲しているようです。ケモナー的に。
危なくなったら、三下っぽく捨て台詞を吐いて撤退します。
OP情報は既知で構いません。水鏡から速報が届いたのでしょう、きっと。
攻撃方法
一刀両断 近距離の攻撃。バッサリ切ります。 低命中高威力。【必殺】
心眼 強化。 命中、回避、速度が上昇します。
天逆鉾 近距離の突き攻撃。ブレイク効果を持つようです。
・シノブ サイカ(×1)
オニビト。女性二十歳。ツナヨシに仕えるガンナーです。ガンナーですがニンジャと呼ばれるジョブも使います。
危険領域に陥ったら、すぐに撤退します。そういう契約の傭兵のようです。
攻撃方法
隠形・遁法煙玉 遠距離範囲攻撃。ダメージなし。広域に毒の煙を展開します。
火遁・劫火焔舞 遠距離範囲攻撃。毒素に反応する魔導の炎を展開します。
瞳術・不動金縛 遠距離範囲攻撃。念を込めた視線によって、範囲内の敵の動きを縛ります。ダメージなしのパラライズ。
・サイカ衆(×6)
オニビト。男女入り混じり。ガンナー3名と、軽戦士3名です。全員ランク1までのスキルを使います。
危険領域に陥ったら、すぐに撤退します。そういう契約の傭兵のようです。
●場所情報
アマノホカリ。朝廷と幕府の勢力の境界にある南御屋(ナゴヤ)にある関所。門は開かれ、そこにツナヨシ達が門を守るように布陣しています。
時刻は昼。足場と広さは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『ツナヨシ(×1)』『サイカ衆軽戦士(×3)』が。敵後衛に『シノブ(×1)』『サイカ衆ガンナー(×3)』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2020年08月23日
2020年08月23日
†メイン参加者 8人†
●
「これは……私も後ろにコンと付けるべきなのでしょうか」
ツナヨシの喋り方に何かの衝撃を受けたのか、『てへぺろ狐』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は真剣な表情でそういった。ホンドキツネのケモノビトシスター。語尾にコン。人類は新たな世界を開発しそうである。
「あ、もこもこ感ならウェルス様とか良さそうなのですが、どうでしょうかコン?」
「もこもこともふもふは違う……違うのだワン!」
「いや、こちらからも丁重にお断りさせてもらう」
ツナヨシの言葉に手のひらを向けて断る『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。敵側の、それも男にモフられるなど論外だ。目の前のツナヨシはけして侮っていい敵ではない。
「迅速かつ適切な動き。さすがは幕府側の武将だけはあるな」
「へっへっへ。あっしの犬かきを見たんでやんすか? お褒め頂き感謝だワン!」
「いいえ。貴方の関所を攻めた手際のことを言っているのよ」
下手に出ようとするツナヨシにぴしゃりと言い放つ『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。実力もさることながら、水鏡の情報が正しければこの武将は最低限の犠牲で事態を収めようとしている。その為の演技であることは知っているのだ。
「悪いけど油断も慢心もないわ。そのつもりでかかってきなさい」
「あらまあ。聡い軍師がいるのか。それとも間者でも放たれたかね?」
「さぁ、どっちかしらねぇ?」
言って緑のフードの奥で笑みを浮かべる『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)。未来予知のデウスギアと言う存在に至るのは不可能だろうが、相手の思惑をかき乱しておくに越したことはない。
「そのへんはそこの鬼を捕まえて聞くとするか。ついでに色々罪も償ってもらおう」
「昔のことは忘れたわ!」
「何があったか気になるところですが、今はそれよりも」
動揺するきゐこを見ながら『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)はツナヨシを見る。気になることはいくつかあるが、今はアマノホカリの趨勢が大事だ。この場を制し、関所を奪還しなくては。
「全力で相手しないといけませんね」
「いやあ、出来ればアマノホカリの観光だけして帰ってくれませんかねえ?」
「そうだな。極東のガンナーとやり合えるんだ。楽しみだねぇ」
サイカ衆を見ながら『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)が笑みを浮かべる。聞けばこの地域の傭兵なのだとか。こちらの知らない術を使うという事もあり、アンは興味津々だった。強い相手と戦えるチャンスは逃さない。
「がっかりさせないでくれよ」
「拙者実力比べとかタイプじゃないんで。仕事はしますけど」
「サイカ衆って確か別の主君に仕えてなかったっけ?」
記憶をたどる天哉熾 ハル(CL3000678)。土着の傭兵団体の彼らは、契約料を受けてそこを主としていたという。今は千国の戦いによって勢力を弱め、農民へと帰依したという。それでもごく少数は傭兵として活動しているとか。
「ってことはお金払えばこっちにつくかも? 朝廷に出せるかはともかく」
「契約期間が終わるまでは倍額出されてもいきませんので。信頼問題とかありますから」
「そのような者などいなくとも、このジュリエット・ゴールドスミスがいれば十分ですわ
!」
言ってポーズを決めて高笑いする『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)。そしてジュリエットFCが彼女を褒めたたえる曲を流した。イ・ラプセルから遠く離れたアマノホカリでも彼女は変わらない。
「おーーーっほっほっほ! 胡散臭いキャラ作りで目立とうだなんて一億万年早いですわ!」
「くぅ。何たるキャラの濃さ! 流石はヴィスマルクに対抗する国なだけはあるワン!」
別にそんなもので張り合っているつもりはないが。
ともあれ自由騎士と宇羅幕府の武将ツナヨシとの戦いは、切って落とされるのであった。
●
「こーん。それでは殲滅と行きましょう……コン」
巨大な武器を構えるアンジェリカ。あと語尾にコンをつけるのを忘れない。魔力を体内に流し込み、特殊な技法で点在させる。シャンバラで生まれた魔剣の秘技により、その身体能力が活性化されていく。
地面にしっかり足をつけ、強く『断罪と救済の十字架』を握りしめる。全身に力を込めて、横なぎに武器を薙ぎ払った。生まれた衝撃が戦場を走って敵陣に迫る。圧倒的な爆風が、敵を薙ぎ払うかのように通り過ぎていく。
「先ずは先制コン。これで気勢を削げればいいのですが」
「おっとり感を出すなら間延びしたコーンを。凛とした様を際立たせたいのなら頷きや同意にコンコンと言うのがいいと思うワン!」
「それじゃあこちらもご教授願おうかしら。貴方達の戦い方をね!」
言いながらエルシーがツナヨシに迫る。相手の武器の見て、そこから間合いを目算する。武器の長さに相手の一歩分を加算した分が攻撃範囲。その範囲を意識しながら、自分の攻撃範囲をイメージする。ツナヨシを中心とした不可視のドーム。そこに足を踏み入れる。
ツナヨシの足が動き、同時に手首が動く。振りかぶったモーション。そこから予想される武器の軌跡。コンマ一秒未満の判断力で、エルシーはツナヨシの刀を避ける。そのまま一歩踏み込み、手甲を振るった。
「早っ! っていうか今の一瞬でフェイントまでいれてたの!?」
「コテメンだワン。大陸の武技にはないはずなのによく見切れたと感心するワン」
「小刻みに小さなポイントを打つとか、イ・ラプセルとかじゃ見られないわよね」
うんうん、と頷くハル。アマノホカリを出て大陸を旅して思ったことは、所変われば価値観も変わるという事だ。酒もつまみも大きく変わったが、武術に対する考えは顕著だった。急所を狙うような細かな動きよりは、胴体を狙っていく。そんな感じだ。
そんなことを思いながらハルは『倭刀・忠兵衛』を構える。鍛冶屋によって丹念に撃ち込まれた刃にハルの魔力が宿る。宿る力は生命を喰らう飢餓の力。魔力を乗せた刃を振るい、敵を切り裂いていく。
「生類憐れみって、どこまでが範囲内? 朝廷側とその民はソレに含まれないんでしょう……ホカリン以外は」
「まさかまさか! あっしはできるだけ血が流れないように尽力するワン! 戦場に出た者は、その覚悟ありと判断して斬るけど」
「相対するなら容赦なしか。大したモンだ」
改造した蒸気銃を構えてウェルスが言い放つ。ツナヨシの前に立ち、その動きを封じるように展開する。戦場に立てば覚悟あり。それが千国武将の価値観なのだろう。こちらを攻める動きに殺さないように立ちまわる手加減は見られなかった。
ウェルスはツナヨシを最大難敵と評価して立ち回る。刀の動きを注視しながら、銃を構えて狙う撃つ。接近距離からの銃の射撃。相手の攻撃をさばきながら、ウェルスは着実にダメージを重ねていく。
「大したものだな、ツナヨシの旦那! さあ、サムライの強さとやらを見せてもらおうか」
「ふ、こう見えてもあっしは宇羅幕府の武将では最弱! 参考になどならぬワン!」
「さりげなく情報隠そうとしてるのがムカつくわよねぇ……」
苛立ちの声をあげるきゐこ。こちらが水鏡などを含めたイ・ラプセルの情報を隠そうとしているように、あっちも情報を喋ろうとしない。よし、拷問しよう。にこやかにほほ笑むきゐこ。とりあえず熱した針からだ。眼球は二つあるんだし。
そんなことを思いながら魔力を練り上げるきゐこ。魔力強化した瞳で戦場を見つめ、赤のマナを自らに集める。掌で膨らむ熱気が紅色の球と化し、膨れ上がると同時に戦場に広がった。炎の舌が戦場を舐めるように走り、熱波が敵を一掃する。
「アマノちゃんを馬鹿にする輩は、こうなるのよ!」
「アマノちゃん……そうか、かの存在を斯様に呼ぶ親しき者が――あぎゃー!? 熱いワン!」
「ふ! 炎の次はこのジュリエットの刃の舞を披露して差し上げますわ!」
ふさぁ、とポーズを決めるジュリエット。そして湧き上がるアイドルオーラと囃し立てるジュリエットFC。そんなおぜん立ての後に『聖剣「ロミオ」』を手にするジュリエット。本国から遥か東方だが、ジュリエットがそれで変わることはない。
特殊な呼吸と魔力の流動。それにより生命と魔力の両方が刃に注がれる。その倦怠感に耐えながら、ジュリエットは笑みを浮かべて刃を振るう。軌跡から生まれし闇が敵に向かって飛び、触れた人間の生命を奪っていく。
「イ・ラプセルに咲き誇る一輪の薔薇たるこのわたくし! ジュリエット・ゴールドスミスの名を覚えていただきますわっ!」
「きゃー! ジュリエットちゃんきゃわわだワン! 優雅だワン! 乙女だワン!」
「……なんでしょう。ここまで情けないとむしろ清々しいというべきでしょうか」
ジュリエットに称賛を送るツナヨシを見て、マリアは何とも言えない表情を浮かべる。罵詈雑言を浴びせられるよりは精神的には楽ではあるが、これはこれで言葉に困る。演技かどうかの判断がつかないが、馬鹿にしているわけではないのは理解できた。
冷静に戦場を見て、傷が深い者を判断する。戦場を盤面に例え、人の流れを意識するマリア。かつて祖父に教えられた将棋をイメージし、もっとも危険な個所に魔力を注ぎ込む。癒しの光が仲間を包み込み、その傷を塞いでいく。
「サイカ衆とそれが与える悪影響はお任せします」
「いいねぇ。任されたよ!」
アマノホカリのガンナーたちと打ち合うアン。不慣れな地ではあるが、それなりに安定した場所を見つけて射撃戦を展開していた。サイカ衆の動きもアンに酷似しており、地の利を得てからの短期決戦を繰り返していた。
銃を撃ちあいながら笑みを浮かべるアン。意識を集中して敵の動きを注視し、連携と防御の隙をつくように引き金を引く。呼吸すら止めて繰り返す攻防。培った練度の差が少しずつ芽を出し始め、アンはサイカ衆を打ち崩していく。
「悪くない動きだけど、今回は俺の勝ちのようだな!」
少しずつツナヨシの軍勢を押し返す自由騎士達。
「これはこちらの戦力が完全に読まれてたな。バレない様に臨時で傭兵雇ったんだけど……だワン!」
自由騎士の適切な動きに疑問を抱くツナヨシ。さすがに未来予知と言う可能性には行きつかないだろうが。
関所をめぐる戦いは、佳境に迫っていく。
●
自由騎士達はツナヨシにウェルスとエルシーをぶつけ、他のメンバーはその周りのメンバーを攻撃している。
「では今のうちに」
サイカ衆のシノブは周囲に煙球を放ち、そこに炎を撃ち込む。煙には薬剤が含まれていたのか、炎はそれに反応して激しく燃え上がった。
「アマノホカリ様のもふもふの為に頑張るワン!」
そしてツナヨシは刀を振るい、着実に自由騎士達にダメージを重ねていく。
「やるわね!」
ツナヨシと相対していたエルシーが肩口を押さえてよろめく。フラグメンツを燃やして意識を保ち、拳を握りしめた。
「真っ向な打ち合いじゃなく、トリッキーな技を使うタイプか。悪くないね!」
他のサイカ衆を打ち倒したアンはシノブと相対する。ダメージではなく周囲にバッドステータス振りまく異色のガンナーだが、動きそのものは他のサイカ衆より一つ抜きんでている。血を滾らせ、銃撃に没頭する。
「どうだい旦那。俺達は簡単につぶせるような国か?」
挑発するようにウェスルはツナヨシに語りかける。宇羅幕府の背後にいるヴィスマルク。彼らからイ・ラプセルの事をどう聞いているかは知らないが、すぐに潰せると思われているのなら心外だ。その実力を示してやろう。
「死力を尽くすってカンジじゃないわね。手を抜いてるわけでもないけど……威力偵察かしら」
ツナヨシと交戦しながら、エルシーはその真意を測ろうとする。ある程度ダメージを与えたサイカ衆たちは引き、ツナヨシも退路を確保するような位置取りをしている。少なくとも宇羅幕府の為に命を賭けているとは思えない。
「犬だけに逃げ足は速そうね」
魔剣化した刀を振るいながらハルは笑みを浮かべる。前衛に立つことで敵に攻撃されたが、その分多くの血を吸い生命を喰らった。個人的には満足だ。後はこのまま勝利を奪い、凱旋するのみだ。
「逃がすつもりはないわぉ~。凍らせて足止めしてあげるから」
瞳に魔力を宿して未来を見ながら、きゐこが笑みを浮かべる。逃亡の兆しが見えればその瞬間に氷結魔術を放ち、足止めする算段だ。ツナヨシも逃亡の隙を伺おうとするが、きゐこからの気配を察して行動に移せずにいた。
「コンコン。アマノホカリ神を脅かす者に躾と説教が必要コン」
ふふふ、とたおやかに笑みを浮かべながらアンジェリカが言う。語尾のコンも手慣れたものである。表情と仕草こそ修道女を思わせる清楚なものだが、その一撃はまさに苛烈。一撃で戦いの流れを盛り返すほどだ。
「わたくしも対ワンちゃんに加わりますわよ! お座り!」
優雅に歩み出て、ツナヨシに一撃を加えるアンジェリカ。貴族としての教育。乙女としての美しさ。それらが噛み合ったジュリエットの命令は、正に自然たる動作。言葉とともに放たれる剣戟は華を形どり、六の花弁が戦場に舞う。
「戦いの趨勢は見えました。あとひと息です」
多くのサイカ衆は撤退し、その長であるシノブもすでに撤退している。マリアは勝利までの道筋をイメージし、そして油断せずに気を引き締める。勝ちが見えた事と勝利は違う。その僅かな差を覆されることは、将棋を通じて実感している。
「いつの間にかあっし一人!? 今日の所はくるぶしがかゆくなったので、帰らせてほしいワン!」
仮病(?)を使って停戦しようとするツナヨシだが、それを受け入れる自由騎士ではない。なんとか隙を見つけて逃げ出そうとするが、きゐこの視線を脱することもできずに逃げあぐねていた。
「けっ! やるじゃねぇか!」
「この距離まで届く突きですか。見事なものです」
ツナヨシの突き攻撃がアンとマリアの体力を削って追い込むが、ツナヨシの善戦もそこまで。
「それじゃあ、血を頂くわね」
ニィ、と笑みを浮かべたハルがツナヨシに迫る。ツナヨシは何とか刀を構えて対応しようとするがハルの方が一手早い。刃は袈裟懸けにツナヨシに振り下ろされる。
「ああ、美味ね」
ツナヨシの返り血を浴びながら、ハルは微笑んでいた。
●
戦い終わり、ツナヨシを確保する自由騎士達。
「拷問よ! 兎に角拷問よ!」
笑みを浮かべて近づくきゐこ。だがそれよりも早く――
「へっへっへ。ここから先に攻め入るのなら北ルートと海ルートがお勧めだワン。偏見ないなら妖怪達を仲間にするのもあり? あと神州ヤオヨロズの地下活動は注意してほしいワン!」
べらべらと情報を吐くツナヨシ。その口の速さにきゐこは口をパクパクさせる。拷問する理由がなくなった。
「まあ、信じる信じないはご自由に、だワン」
――実際の所、ツナヨシが嘘を言っている可能性もある。その精査は必要だ。情報とは時に侵攻の足を止める事もある。
「いいのかよ。そんな事喋って口封じされるかもしれないぜ」
「むしろ宇羅様は戦が加速する方がお喜びになるタイプだワン。おお、あっし忠犬じゃね?」
戦闘後にツナヨシに何かされると心配していた自由騎士だが、そんな性格の主でもないようだ。
周囲のサイカ衆を倒し得た朝廷軍と合流し、関所の確保に移る。さしたる時間を駆けることなく、関所奪還となった――
そして――
「ツナヨシが捕まっただと?」
「ふ、だがヤツは我らトクガワ義兄弟の中で最弱!」
「いや、最弱はこのイエツグだゲホゲホゴバハァ!」
「イエツグがしんだ! 早くオットセイの精力剤をもってこーい!」
「そうせいそうせい」
「うむ、出来ることはできる人間に任せるのが一番。将棋の如く」
「しかしこれは厄介なことになった。おちおち御菓子も作れぬではないか」
「おお、それはカステーラか。諸外国との貿易でござるな」
「うむ。私も貿易で象を買ってな。今度は象に乗って暴れん坊といこう!」
「じゃあ次はヨシムネの兄貴の出番という事で、かいさーん」
「いやいや、イエツナの相撲とか、ヨシノブの手裏剣術とかの出番かと」
「いい女がいるのなら私が出よう」
「いい男がいるのなら私が出よう」
「ええい、落ち着け義兄弟達。とにかくこの事態を放置はできぬ!」
「然り。千国を乗り越え平和になったアマノホカリ。外国の戦に荒らされるわけにはいかぬ」
「我が国を守るため、トクガワ義兄弟は此処に誓おう!」
「「「「「「「「「「「「「「「打倒、イ・ラプセルを!」」」」」」」」」」」」」」」
「……で、誰が行く?」
「…………くじでも引くか」
「これは……私も後ろにコンと付けるべきなのでしょうか」
ツナヨシの喋り方に何かの衝撃を受けたのか、『てへぺろ狐』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は真剣な表情でそういった。ホンドキツネのケモノビトシスター。語尾にコン。人類は新たな世界を開発しそうである。
「あ、もこもこ感ならウェルス様とか良さそうなのですが、どうでしょうかコン?」
「もこもこともふもふは違う……違うのだワン!」
「いや、こちらからも丁重にお断りさせてもらう」
ツナヨシの言葉に手のひらを向けて断る『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。敵側の、それも男にモフられるなど論外だ。目の前のツナヨシはけして侮っていい敵ではない。
「迅速かつ適切な動き。さすがは幕府側の武将だけはあるな」
「へっへっへ。あっしの犬かきを見たんでやんすか? お褒め頂き感謝だワン!」
「いいえ。貴方の関所を攻めた手際のことを言っているのよ」
下手に出ようとするツナヨシにぴしゃりと言い放つ『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。実力もさることながら、水鏡の情報が正しければこの武将は最低限の犠牲で事態を収めようとしている。その為の演技であることは知っているのだ。
「悪いけど油断も慢心もないわ。そのつもりでかかってきなさい」
「あらまあ。聡い軍師がいるのか。それとも間者でも放たれたかね?」
「さぁ、どっちかしらねぇ?」
言って緑のフードの奥で笑みを浮かべる『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)。未来予知のデウスギアと言う存在に至るのは不可能だろうが、相手の思惑をかき乱しておくに越したことはない。
「そのへんはそこの鬼を捕まえて聞くとするか。ついでに色々罪も償ってもらおう」
「昔のことは忘れたわ!」
「何があったか気になるところですが、今はそれよりも」
動揺するきゐこを見ながら『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)はツナヨシを見る。気になることはいくつかあるが、今はアマノホカリの趨勢が大事だ。この場を制し、関所を奪還しなくては。
「全力で相手しないといけませんね」
「いやあ、出来ればアマノホカリの観光だけして帰ってくれませんかねえ?」
「そうだな。極東のガンナーとやり合えるんだ。楽しみだねぇ」
サイカ衆を見ながら『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)が笑みを浮かべる。聞けばこの地域の傭兵なのだとか。こちらの知らない術を使うという事もあり、アンは興味津々だった。強い相手と戦えるチャンスは逃さない。
「がっかりさせないでくれよ」
「拙者実力比べとかタイプじゃないんで。仕事はしますけど」
「サイカ衆って確か別の主君に仕えてなかったっけ?」
記憶をたどる天哉熾 ハル(CL3000678)。土着の傭兵団体の彼らは、契約料を受けてそこを主としていたという。今は千国の戦いによって勢力を弱め、農民へと帰依したという。それでもごく少数は傭兵として活動しているとか。
「ってことはお金払えばこっちにつくかも? 朝廷に出せるかはともかく」
「契約期間が終わるまでは倍額出されてもいきませんので。信頼問題とかありますから」
「そのような者などいなくとも、このジュリエット・ゴールドスミスがいれば十分ですわ
!」
言ってポーズを決めて高笑いする『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)。そしてジュリエットFCが彼女を褒めたたえる曲を流した。イ・ラプセルから遠く離れたアマノホカリでも彼女は変わらない。
「おーーーっほっほっほ! 胡散臭いキャラ作りで目立とうだなんて一億万年早いですわ!」
「くぅ。何たるキャラの濃さ! 流石はヴィスマルクに対抗する国なだけはあるワン!」
別にそんなもので張り合っているつもりはないが。
ともあれ自由騎士と宇羅幕府の武将ツナヨシとの戦いは、切って落とされるのであった。
●
「こーん。それでは殲滅と行きましょう……コン」
巨大な武器を構えるアンジェリカ。あと語尾にコンをつけるのを忘れない。魔力を体内に流し込み、特殊な技法で点在させる。シャンバラで生まれた魔剣の秘技により、その身体能力が活性化されていく。
地面にしっかり足をつけ、強く『断罪と救済の十字架』を握りしめる。全身に力を込めて、横なぎに武器を薙ぎ払った。生まれた衝撃が戦場を走って敵陣に迫る。圧倒的な爆風が、敵を薙ぎ払うかのように通り過ぎていく。
「先ずは先制コン。これで気勢を削げればいいのですが」
「おっとり感を出すなら間延びしたコーンを。凛とした様を際立たせたいのなら頷きや同意にコンコンと言うのがいいと思うワン!」
「それじゃあこちらもご教授願おうかしら。貴方達の戦い方をね!」
言いながらエルシーがツナヨシに迫る。相手の武器の見て、そこから間合いを目算する。武器の長さに相手の一歩分を加算した分が攻撃範囲。その範囲を意識しながら、自分の攻撃範囲をイメージする。ツナヨシを中心とした不可視のドーム。そこに足を踏み入れる。
ツナヨシの足が動き、同時に手首が動く。振りかぶったモーション。そこから予想される武器の軌跡。コンマ一秒未満の判断力で、エルシーはツナヨシの刀を避ける。そのまま一歩踏み込み、手甲を振るった。
「早っ! っていうか今の一瞬でフェイントまでいれてたの!?」
「コテメンだワン。大陸の武技にはないはずなのによく見切れたと感心するワン」
「小刻みに小さなポイントを打つとか、イ・ラプセルとかじゃ見られないわよね」
うんうん、と頷くハル。アマノホカリを出て大陸を旅して思ったことは、所変われば価値観も変わるという事だ。酒もつまみも大きく変わったが、武術に対する考えは顕著だった。急所を狙うような細かな動きよりは、胴体を狙っていく。そんな感じだ。
そんなことを思いながらハルは『倭刀・忠兵衛』を構える。鍛冶屋によって丹念に撃ち込まれた刃にハルの魔力が宿る。宿る力は生命を喰らう飢餓の力。魔力を乗せた刃を振るい、敵を切り裂いていく。
「生類憐れみって、どこまでが範囲内? 朝廷側とその民はソレに含まれないんでしょう……ホカリン以外は」
「まさかまさか! あっしはできるだけ血が流れないように尽力するワン! 戦場に出た者は、その覚悟ありと判断して斬るけど」
「相対するなら容赦なしか。大したモンだ」
改造した蒸気銃を構えてウェルスが言い放つ。ツナヨシの前に立ち、その動きを封じるように展開する。戦場に立てば覚悟あり。それが千国武将の価値観なのだろう。こちらを攻める動きに殺さないように立ちまわる手加減は見られなかった。
ウェルスはツナヨシを最大難敵と評価して立ち回る。刀の動きを注視しながら、銃を構えて狙う撃つ。接近距離からの銃の射撃。相手の攻撃をさばきながら、ウェルスは着実にダメージを重ねていく。
「大したものだな、ツナヨシの旦那! さあ、サムライの強さとやらを見せてもらおうか」
「ふ、こう見えてもあっしは宇羅幕府の武将では最弱! 参考になどならぬワン!」
「さりげなく情報隠そうとしてるのがムカつくわよねぇ……」
苛立ちの声をあげるきゐこ。こちらが水鏡などを含めたイ・ラプセルの情報を隠そうとしているように、あっちも情報を喋ろうとしない。よし、拷問しよう。にこやかにほほ笑むきゐこ。とりあえず熱した針からだ。眼球は二つあるんだし。
そんなことを思いながら魔力を練り上げるきゐこ。魔力強化した瞳で戦場を見つめ、赤のマナを自らに集める。掌で膨らむ熱気が紅色の球と化し、膨れ上がると同時に戦場に広がった。炎の舌が戦場を舐めるように走り、熱波が敵を一掃する。
「アマノちゃんを馬鹿にする輩は、こうなるのよ!」
「アマノちゃん……そうか、かの存在を斯様に呼ぶ親しき者が――あぎゃー!? 熱いワン!」
「ふ! 炎の次はこのジュリエットの刃の舞を披露して差し上げますわ!」
ふさぁ、とポーズを決めるジュリエット。そして湧き上がるアイドルオーラと囃し立てるジュリエットFC。そんなおぜん立ての後に『聖剣「ロミオ」』を手にするジュリエット。本国から遥か東方だが、ジュリエットがそれで変わることはない。
特殊な呼吸と魔力の流動。それにより生命と魔力の両方が刃に注がれる。その倦怠感に耐えながら、ジュリエットは笑みを浮かべて刃を振るう。軌跡から生まれし闇が敵に向かって飛び、触れた人間の生命を奪っていく。
「イ・ラプセルに咲き誇る一輪の薔薇たるこのわたくし! ジュリエット・ゴールドスミスの名を覚えていただきますわっ!」
「きゃー! ジュリエットちゃんきゃわわだワン! 優雅だワン! 乙女だワン!」
「……なんでしょう。ここまで情けないとむしろ清々しいというべきでしょうか」
ジュリエットに称賛を送るツナヨシを見て、マリアは何とも言えない表情を浮かべる。罵詈雑言を浴びせられるよりは精神的には楽ではあるが、これはこれで言葉に困る。演技かどうかの判断がつかないが、馬鹿にしているわけではないのは理解できた。
冷静に戦場を見て、傷が深い者を判断する。戦場を盤面に例え、人の流れを意識するマリア。かつて祖父に教えられた将棋をイメージし、もっとも危険な個所に魔力を注ぎ込む。癒しの光が仲間を包み込み、その傷を塞いでいく。
「サイカ衆とそれが与える悪影響はお任せします」
「いいねぇ。任されたよ!」
アマノホカリのガンナーたちと打ち合うアン。不慣れな地ではあるが、それなりに安定した場所を見つけて射撃戦を展開していた。サイカ衆の動きもアンに酷似しており、地の利を得てからの短期決戦を繰り返していた。
銃を撃ちあいながら笑みを浮かべるアン。意識を集中して敵の動きを注視し、連携と防御の隙をつくように引き金を引く。呼吸すら止めて繰り返す攻防。培った練度の差が少しずつ芽を出し始め、アンはサイカ衆を打ち崩していく。
「悪くない動きだけど、今回は俺の勝ちのようだな!」
少しずつツナヨシの軍勢を押し返す自由騎士達。
「これはこちらの戦力が完全に読まれてたな。バレない様に臨時で傭兵雇ったんだけど……だワン!」
自由騎士の適切な動きに疑問を抱くツナヨシ。さすがに未来予知と言う可能性には行きつかないだろうが。
関所をめぐる戦いは、佳境に迫っていく。
●
自由騎士達はツナヨシにウェルスとエルシーをぶつけ、他のメンバーはその周りのメンバーを攻撃している。
「では今のうちに」
サイカ衆のシノブは周囲に煙球を放ち、そこに炎を撃ち込む。煙には薬剤が含まれていたのか、炎はそれに反応して激しく燃え上がった。
「アマノホカリ様のもふもふの為に頑張るワン!」
そしてツナヨシは刀を振るい、着実に自由騎士達にダメージを重ねていく。
「やるわね!」
ツナヨシと相対していたエルシーが肩口を押さえてよろめく。フラグメンツを燃やして意識を保ち、拳を握りしめた。
「真っ向な打ち合いじゃなく、トリッキーな技を使うタイプか。悪くないね!」
他のサイカ衆を打ち倒したアンはシノブと相対する。ダメージではなく周囲にバッドステータス振りまく異色のガンナーだが、動きそのものは他のサイカ衆より一つ抜きんでている。血を滾らせ、銃撃に没頭する。
「どうだい旦那。俺達は簡単につぶせるような国か?」
挑発するようにウェスルはツナヨシに語りかける。宇羅幕府の背後にいるヴィスマルク。彼らからイ・ラプセルの事をどう聞いているかは知らないが、すぐに潰せると思われているのなら心外だ。その実力を示してやろう。
「死力を尽くすってカンジじゃないわね。手を抜いてるわけでもないけど……威力偵察かしら」
ツナヨシと交戦しながら、エルシーはその真意を測ろうとする。ある程度ダメージを与えたサイカ衆たちは引き、ツナヨシも退路を確保するような位置取りをしている。少なくとも宇羅幕府の為に命を賭けているとは思えない。
「犬だけに逃げ足は速そうね」
魔剣化した刀を振るいながらハルは笑みを浮かべる。前衛に立つことで敵に攻撃されたが、その分多くの血を吸い生命を喰らった。個人的には満足だ。後はこのまま勝利を奪い、凱旋するのみだ。
「逃がすつもりはないわぉ~。凍らせて足止めしてあげるから」
瞳に魔力を宿して未来を見ながら、きゐこが笑みを浮かべる。逃亡の兆しが見えればその瞬間に氷結魔術を放ち、足止めする算段だ。ツナヨシも逃亡の隙を伺おうとするが、きゐこからの気配を察して行動に移せずにいた。
「コンコン。アマノホカリ神を脅かす者に躾と説教が必要コン」
ふふふ、とたおやかに笑みを浮かべながらアンジェリカが言う。語尾のコンも手慣れたものである。表情と仕草こそ修道女を思わせる清楚なものだが、その一撃はまさに苛烈。一撃で戦いの流れを盛り返すほどだ。
「わたくしも対ワンちゃんに加わりますわよ! お座り!」
優雅に歩み出て、ツナヨシに一撃を加えるアンジェリカ。貴族としての教育。乙女としての美しさ。それらが噛み合ったジュリエットの命令は、正に自然たる動作。言葉とともに放たれる剣戟は華を形どり、六の花弁が戦場に舞う。
「戦いの趨勢は見えました。あとひと息です」
多くのサイカ衆は撤退し、その長であるシノブもすでに撤退している。マリアは勝利までの道筋をイメージし、そして油断せずに気を引き締める。勝ちが見えた事と勝利は違う。その僅かな差を覆されることは、将棋を通じて実感している。
「いつの間にかあっし一人!? 今日の所はくるぶしがかゆくなったので、帰らせてほしいワン!」
仮病(?)を使って停戦しようとするツナヨシだが、それを受け入れる自由騎士ではない。なんとか隙を見つけて逃げ出そうとするが、きゐこの視線を脱することもできずに逃げあぐねていた。
「けっ! やるじゃねぇか!」
「この距離まで届く突きですか。見事なものです」
ツナヨシの突き攻撃がアンとマリアの体力を削って追い込むが、ツナヨシの善戦もそこまで。
「それじゃあ、血を頂くわね」
ニィ、と笑みを浮かべたハルがツナヨシに迫る。ツナヨシは何とか刀を構えて対応しようとするがハルの方が一手早い。刃は袈裟懸けにツナヨシに振り下ろされる。
「ああ、美味ね」
ツナヨシの返り血を浴びながら、ハルは微笑んでいた。
●
戦い終わり、ツナヨシを確保する自由騎士達。
「拷問よ! 兎に角拷問よ!」
笑みを浮かべて近づくきゐこ。だがそれよりも早く――
「へっへっへ。ここから先に攻め入るのなら北ルートと海ルートがお勧めだワン。偏見ないなら妖怪達を仲間にするのもあり? あと神州ヤオヨロズの地下活動は注意してほしいワン!」
べらべらと情報を吐くツナヨシ。その口の速さにきゐこは口をパクパクさせる。拷問する理由がなくなった。
「まあ、信じる信じないはご自由に、だワン」
――実際の所、ツナヨシが嘘を言っている可能性もある。その精査は必要だ。情報とは時に侵攻の足を止める事もある。
「いいのかよ。そんな事喋って口封じされるかもしれないぜ」
「むしろ宇羅様は戦が加速する方がお喜びになるタイプだワン。おお、あっし忠犬じゃね?」
戦闘後にツナヨシに何かされると心配していた自由騎士だが、そんな性格の主でもないようだ。
周囲のサイカ衆を倒し得た朝廷軍と合流し、関所の確保に移る。さしたる時間を駆けることなく、関所奪還となった――
そして――
「ツナヨシが捕まっただと?」
「ふ、だがヤツは我らトクガワ義兄弟の中で最弱!」
「いや、最弱はこのイエツグだゲホゲホゴバハァ!」
「イエツグがしんだ! 早くオットセイの精力剤をもってこーい!」
「そうせいそうせい」
「うむ、出来ることはできる人間に任せるのが一番。将棋の如く」
「しかしこれは厄介なことになった。おちおち御菓子も作れぬではないか」
「おお、それはカステーラか。諸外国との貿易でござるな」
「うむ。私も貿易で象を買ってな。今度は象に乗って暴れん坊といこう!」
「じゃあ次はヨシムネの兄貴の出番という事で、かいさーん」
「いやいや、イエツナの相撲とか、ヨシノブの手裏剣術とかの出番かと」
「いい女がいるのなら私が出よう」
「いい男がいるのなら私が出よう」
「ええい、落ち着け義兄弟達。とにかくこの事態を放置はできぬ!」
「然り。千国を乗り越え平和になったアマノホカリ。外国の戦に荒らされるわけにはいかぬ」
「我が国を守るため、トクガワ義兄弟は此処に誓おう!」
「「「「「「「「「「「「「「「打倒、イ・ラプセルを!」」」」」」」」」」」」」」」
「……で、誰が行く?」
「…………くじでも引くか」
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
元ネタがあるとキャラ作るの楽だわー。
以上のような結果になりました。
まあ、逃亡のタイミングを誤らなければ逃げれるかぁ……と高をくくっていましたが、未来視は予想外でした。そりゃ逃げるタイミングが分かれば押さえれるよね。
というわけでMVPはツナヨシ逃亡阻止に一番貢献した猪市様へ。
それではまた、イ・ラプセルで。
……え? トクガワシリーズ続くの?
元ネタがあるとキャラ作るの楽だわー。
以上のような結果になりました。
まあ、逃亡のタイミングを誤らなければ逃げれるかぁ……と高をくくっていましたが、未来視は予想外でした。そりゃ逃げるタイミングが分かれば押さえれるよね。
というわけでMVPはツナヨシ逃亡阻止に一番貢献した猪市様へ。
それではまた、イ・ラプセルで。
……え? トクガワシリーズ続くの?
FL送付済