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Corrupt! 堕落せしサキュバスの巣!

●女淫魔と呼ばれた幻想種
サキュバス――
夢魔と呼ばれる存在の中でも女性型で、主に男性を魅了して堕落させる。あるいは性的な行為により健康や精神面を悪化させ、最悪死に至らしめる存在である。その為、男性をその気にさせる術に精通している。
上位の霊的存在とも言われており、高度な魔術を扱うことで自らの領域内に獲物を誘いそのまま対象が死ぬまで捕え続けるという。非情に凶悪かつ、風紀に正しくない魔として世に知られていた――
「風ッ評ッ被ッ害ッよ!」
ごっきゅごっきゅとエールを飲み干し、思いっきりテーブルに叩きつけた。そのままため息をついて、お替りを要求する。
「アンタらが勝手に定めたイメージで、かってに種族を測るんじゃないわよ! 『君、サキュバスだからもう少し際どい恰好したらどう?』『えー、サキュバスのくせにガッツリこないの?』『体液でそういう気分にさせるとかマジっすか!?』……いい加減にしろ!」
やってきたエールをさらに一気飲みする。やってられるかー、と全身で示しながらさらに愚痴は続く。最もそれを聞いている者はやるせない顔をしていた。
「アタシは、もっとムーディに行きたいのよ! 綺麗な海を見ながらロマンティックな夜とか! 思い出の場所で待つ淡い恋とか! そういうシチュエーションを用意しても、コッチがサキュバスと分かるとすぐに豹変するのやめて!
がっつくだけの男とか! サキュバスと見るなりエロ解禁と勘違いする輩とか、もう飽き飽きなの!」
……その姿は何処からどう見ても仕事に疲れた女性である。あ、格好もそんなに珍しくないきちんとした仕事着です。表の仕事は役所の事務員だとか。
「…………よーし、わかったわ。そこまでアンタら言うのなら本気でやってやろうじゃないの。今まで流石に可哀想だよなぁ、って思ってたから殺さずに解放してあげたけど、もう来なったら加減しないわ!
この国の男どもを全員、骨抜きにしてやるあァ!」
エールを一気飲みし、そのサキュバスはイ・ラプセルの男性全滅宣言をした。
●自由騎士
「綺麗なお姉さんなんだけど、まあいろいろ仕事に疲れてるみたいで」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は集まった自由騎士達にそう告げる。
「場所は酒場を少し行ったところ。そこにある建物の中に結界を作ってるみたいだね。中に入ると拷問器具が並ぶ地下室ぽくなってる。で、そこでそのサキュバスが入ってきた得物をアレやコレやするみたい」
一部始終を聞いた自由騎士達は、何とも言えない気持ちになった。だが放置すれば犠牲者は出る。そう思うと無視もできなかった。
「戦闘になると分身して数が増えるので気を付けてね。
あと、酔ってるのかそういう性格なのかはわからないけど、結構挑発に乗りやすいっぽいね」
水鏡と噂話――要するにそのサキュバスに一度捕らわれたことのある男たち――の話から、情報を精査するヨアヒム。
「出来れば俺もそのおみ足を見たくてついていきたいけど、姐御に呼ばれててね。『アンタはコッチ』ってアクアフェスタの準備を手伝うことになって。非常に残念だけど!」
断腸の思いで情報を渡すヨアヒムであった。
サキュバス――
夢魔と呼ばれる存在の中でも女性型で、主に男性を魅了して堕落させる。あるいは性的な行為により健康や精神面を悪化させ、最悪死に至らしめる存在である。その為、男性をその気にさせる術に精通している。
上位の霊的存在とも言われており、高度な魔術を扱うことで自らの領域内に獲物を誘いそのまま対象が死ぬまで捕え続けるという。非情に凶悪かつ、風紀に正しくない魔として世に知られていた――
「風ッ評ッ被ッ害ッよ!」
ごっきゅごっきゅとエールを飲み干し、思いっきりテーブルに叩きつけた。そのままため息をついて、お替りを要求する。
「アンタらが勝手に定めたイメージで、かってに種族を測るんじゃないわよ! 『君、サキュバスだからもう少し際どい恰好したらどう?』『えー、サキュバスのくせにガッツリこないの?』『体液でそういう気分にさせるとかマジっすか!?』……いい加減にしろ!」
やってきたエールをさらに一気飲みする。やってられるかー、と全身で示しながらさらに愚痴は続く。最もそれを聞いている者はやるせない顔をしていた。
「アタシは、もっとムーディに行きたいのよ! 綺麗な海を見ながらロマンティックな夜とか! 思い出の場所で待つ淡い恋とか! そういうシチュエーションを用意しても、コッチがサキュバスと分かるとすぐに豹変するのやめて!
がっつくだけの男とか! サキュバスと見るなりエロ解禁と勘違いする輩とか、もう飽き飽きなの!」
……その姿は何処からどう見ても仕事に疲れた女性である。あ、格好もそんなに珍しくないきちんとした仕事着です。表の仕事は役所の事務員だとか。
「…………よーし、わかったわ。そこまでアンタら言うのなら本気でやってやろうじゃないの。今まで流石に可哀想だよなぁ、って思ってたから殺さずに解放してあげたけど、もう来なったら加減しないわ!
この国の男どもを全員、骨抜きにしてやるあァ!」
エールを一気飲みし、そのサキュバスはイ・ラプセルの男性全滅宣言をした。
●自由騎士
「綺麗なお姉さんなんだけど、まあいろいろ仕事に疲れてるみたいで」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は集まった自由騎士達にそう告げる。
「場所は酒場を少し行ったところ。そこにある建物の中に結界を作ってるみたいだね。中に入ると拷問器具が並ぶ地下室ぽくなってる。で、そこでそのサキュバスが入ってきた得物をアレやコレやするみたい」
一部始終を聞いた自由騎士達は、何とも言えない気持ちになった。だが放置すれば犠牲者は出る。そう思うと無視もできなかった。
「戦闘になると分身して数が増えるので気を付けてね。
あと、酔ってるのかそういう性格なのかはわからないけど、結構挑発に乗りやすいっぽいね」
水鏡と噂話――要するにそのサキュバスに一度捕らわれたことのある男たち――の話から、情報を精査するヨアヒム。
「出来れば俺もそのおみ足を見たくてついていきたいけど、姐御に呼ばれててね。『アンタはコッチ』ってアクアフェスタの準備を手伝うことになって。非常に残念だけど!」
断腸の思いで情報を渡すヨアヒムであった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.エンプーサの打破
どくどくです。
堕落っていうか、自棄? 色々あるのです。
●敵情報
・エンプーサ(×3)
幻想種。サキュバスと呼ばれる種族です。青銅の足鎧をつけ、背中にコウモリの翼を生やしています。淫らな夢を見せ、眠っている相手から血をすすると言われています。
戦闘開始と同時に数が3体に増えます。全部本体です。同空間同時空同一軸に同時に存在する魔術です。なので3体とも倒してください。
魅了魔術とか性的に堕落させる魔術とか使えますが、いろいろやさぐれているので使いたがりません。そういう感情を発露させて言われる事が、もういやになったとか。
言葉によるヘイトコントロールは可能です。
攻撃方法
青銅の蹴り 攻近単 足鎧で蹴ってきます。あと踏んできます。【二連】
拷問具投擲 攻遠範 近くにある拷問器具を投げつけてきます。
眠りの誘い 魔遠範 相手を眠りに誘います。【ヒュプノス2】【ダメージ0】
血をすする 魔遠単 魔術により血をすすります。対象が【ヒュプノス】状態だと、ダメージが1.5倍(乗算後、防御力を引く計算)になります。【スクラッチ2】
メスカマキリ P 夢魔は生気を吸い取る者。誰かを戦闘不能にしたとき(フラグメンツなどの復活時除く)、HPとMPが回復します。
●場所情報
イ・ラプセル領内。中規模程度の街中。街の歓楽街から少し離れた廃屋内に結界を展開して獲物を待っています。結界内は拷問室のような光景です。明かりや足場などは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、『エンプーサ(×2)』が前衛に。後衛に『エンプーサ(×1)』がいます。
事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
堕落っていうか、自棄? 色々あるのです。
●敵情報
・エンプーサ(×3)
幻想種。サキュバスと呼ばれる種族です。青銅の足鎧をつけ、背中にコウモリの翼を生やしています。淫らな夢を見せ、眠っている相手から血をすすると言われています。
戦闘開始と同時に数が3体に増えます。全部本体です。同空間同時空同一軸に同時に存在する魔術です。なので3体とも倒してください。
魅了魔術とか性的に堕落させる魔術とか使えますが、いろいろやさぐれているので使いたがりません。そういう感情を発露させて言われる事が、もういやになったとか。
言葉によるヘイトコントロールは可能です。
攻撃方法
青銅の蹴り 攻近単 足鎧で蹴ってきます。あと踏んできます。【二連】
拷問具投擲 攻遠範 近くにある拷問器具を投げつけてきます。
眠りの誘い 魔遠範 相手を眠りに誘います。【ヒュプノス2】【ダメージ0】
血をすする 魔遠単 魔術により血をすすります。対象が【ヒュプノス】状態だと、ダメージが1.5倍(乗算後、防御力を引く計算)になります。【スクラッチ2】
メスカマキリ P 夢魔は生気を吸い取る者。誰かを戦闘不能にしたとき(フラグメンツなどの復活時除く)、HPとMPが回復します。
●場所情報
イ・ラプセル領内。中規模程度の街中。街の歓楽街から少し離れた廃屋内に結界を展開して獲物を待っています。結界内は拷問室のような光景です。明かりや足場などは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、『エンプーサ(×2)』が前衛に。後衛に『エンプーサ(×1)』がいます。
事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
7/8
7/8
公開日
2020年08月17日
2020年08月17日
†メイン参加者 7人†

●
サキュバスの異空間に入った自由騎士達。その来訪に動揺することなくエンプーサは敵意を込めて笑みを浮かべ、臨戦態勢を取る。
そんな幻想種を前に自由騎士達は――
「わかる! ステレオタイプな反応しかしてこない男っているわよね!」
相手の情報を聞いて、うんうんと頷く『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。まるで判で押したかのような行動と言動で迫ってくるナンパ師。そういう指南書でもあるんじゃないかと疑いたくなるほどだ。
「ええ、ええ! 分かりますとも! 下らない先入観をもって決めつけてしまうやるせなさ!」
同じくエンプーサの境遇に同調する『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。デボラはデボラでキジンの身体になって婚約破棄という重い経験がある。その怒りに実感がこもっていた。
「あ、うん。あれ?」
なんか同意されて困惑する夢魔。
「種族差による偏見が生んだ問題と言えるな。ある意味、イ・ラプセル特有と言うべきか」
何とも言えない表情で『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は頷いた。他国なら無慈悲にサキュバス撲滅で終わる話だ。実際、そうしたところで大臣も何も言わないだろう。さてどうしたものかと頭を掻く。
「生まれで己の性質を決めつけられるのがムカ付くのは分かる。分かるが言いたいことは山のようにある!」
怒りの声をあげる『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。夢魔の境遇は理解した。その上で言ってやりたいことがる。それは境遇を理由に他者を虐げるのは間違っているという人道的見地ではない。もっと個人的な怒りだ。
「この国の男性を骨抜きにするなどという愚行、このわたくしが許しませんことよ!」
高笑いと共に『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)がサキュバスを指差す。特定の誰かが夢魔の魔術により骨抜きになるなど、決して許してはおけない。魔力を込めた剣に敵意を込めて、その切っ先を向けた。
「サキュバス討伐依頼……! ちがうんだきいてくれこれはまちのへいわをまもるためでけしてやましいきもちがあったわけではごめんそのしせんはつらいです」
女性からの視線に耐えきれず『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は頭を下げた。だってサキュバスですよ。どくどくSTの依頼ですよ。絶対何かあるって思ってたのに。男の子なら仕方ない事だよね!?
「……………」
そんなナバルを半眼で見る『決意なき力』アルミア・ソーイ(CL3000567)。『男ってどうしようもない』という呆れと『自分を見てくれない』嫉妬と『それも仕方ない』と思う諦念。それらがブレンドミックスされて渦巻いている心をネガティブに閉じ込めた無表情となっていた。
「あー。……ちょっと待って仕切り直すから。
来たわね、女神の祝福を受けた騎士達。この場所と計画を事前に察知できたことは敬意を表するわ。でも――それでこのアタシを止められると思わない事ね!」
言うと同時に三人に分身するエンプーサ。
「うわっ! 本当に3人に増えたわ! それどうやるのか教えてほしいわね……」
「? 存在いじくって肉体を希薄にして、精神体の階梯をあげたらいいんじゃないの?」
驚くエルシーに首をかしげて言い放つ夢魔。出来るかそんな事。
ともあれ、自由騎士と幻想種の戦いは幕をあげた。
●
「それじゃあ行くわよ!」
最初に動いたのはエルシーだった。紅色の手甲を打ち合わせ、エンプーサの一人に真っ直ぐに向かっていく。それに合わせて構えを取る夢魔。その動きにエルシーはへえと感心した。蹴りを間合とする格闘家。それと同じ構えだ。
エンプーサの軸足が動くと同時に、蹴りが放たれる。エルシーは手甲でそれを塞ぎつつ、間合いをさらに詰めた。拳を振るう直前に走る悪寒。それを信じてその場で身をかがめる。途中で軌道を変えたエンプーサの蹴りが、かがんだ場所を通過した。エルシーは身を起こしながら拳を振るう。
「あいたたた! 初見でこの蹴りかわすとかどういう勘の良さなの!?」
「やるわね! 翼を広げて回転を止めて、蹴りの軌道を変えたのね!」
「ハイレベルな攻防……! しっかり動きを見ておかないと!」
繰り広げられる攻防を前にナバルが目を見張る。魔術に特化していると思われたサキュバスが、自由騎士でも有数の強さを持つエルシーと同等の動きをしているのだ。油断はできない。あの足の動きをしっかりと見ておかないと、守り切れないだろう。
攻めるのではなく守る。それがナバルの戦いだ。敵の前に立ち間合を崩し、同時に仲間が責めやすいように配慮する。盾の大きさだけではなく、動きを予測してそこに武器を振るって牽制する。そうだ、その為に敵をしっかりと見ることは重要なのだ。特にあの足。あの足から目を離さず――
「戦闘時のオレの集中力を舐めるなうわ蹴りのときのモーションがきわどいきわどい脚も綺麗だなへぶっ!?」
「あ、ごめん。なんか隙だらけなんでまともに入っちゃった」
「誘惑……魅了……それが出来れば……出来れば……」
ナバルの様子を見ながらアルミアはブツブツと何かを呟いていた。自由騎士の中には際どい服装を着ている者も少なくない。そう考えればもう少し……と思う所でアルミアの決意は止まる。どうせ自分なんか。恥ずかしさよりもそんな想いが先走る。
アルミアの『バカでもわかる死霊術』が瘴気を発し、エンプーサと接しているナバルごと呪いの荊を突き立てる。範囲魔法は敵に接していれば味方も巻き込む。これは仕方のない事だ。ただナバルの背中を何か言いたげにして肩を震わせているアルミアの姿に、周囲の者達はいろいろ察して押し黙った。うん、範囲攻撃だから仕方ない。
「私なんか……ただの後輩だから……でも一度でもいいから……」
「そう思うのでしたら、行動あるのみですわ!」
アルミアのネガティブオーラを吹き飛ばすように、ジュリエットが声をあげる。彼女自身も恋に悩む乙女ではあるが、だからこそできるアドバイスもある。そうだ。行動しなければ恋は実らない。愛する人の気持ちがどこかに向いていたとしても、それでも走り続けるのが乙女なのだ。
そしてふわりと笑うジュリエット。それはいつもの高笑いではなく、自然な笑み。春に咲く花のような柔らかさを感じさせる笑みを浮かべ、剣の魔力を解放する。解き放たれた鋭い一撃が、夢魔を穿っていく。
「誰が何と言おうとも、貴女は貴女が望むように生きればいいのですわ。そこの夢魔も!」
「言っても聞いてくれないんだから、しょーがないでしょうが!」
「いや、それに関してはお前が悪い!」
腕を組んでツボミが叫ぶ。エンプーサを挑発し、自分に攻撃を向けさせるためだ。
「良いか良く聞け。綺麗な海のロマンティックな夜とか、思い出の場所で待ち合わせとか、そう言うシュチエーションをだな。貴様の様なイイ年こいた女が用意してな! ホイホイ着いてく様な男はな!
貴様の種族以前にハナから下心ありきのクズ何だよ!」
うわー、誰も言わなかったことをいいきったー。他の自由騎士達はそんな表情で固まった。
「10代の小娘なら兎も角、その年でその乙女趣味はな。高望み何だよ! 求められてないし認められても居ないの! 知ってるわ馬鹿!?」
「う、うっさい! いーじゃないのよ純愛! いちゃらぶしたいのよ! 甘酸っぱい言葉と胸いっぱいの暖かさで満たされたいのよ! 愛に気付いてほしいのよ!」
「それが無理だと言っとるんだ! 恋に幻想を抱くとか人生に疲れたか愛されなかったか愛されたいのかそのどれかだ! そのどれもが叶わないからそうなったのであって、そうなった時点でもうどうしようもないんだよ!」
口論続けるエンプーサとツボミ。喋るたびに互いの心にダメージが生まれていた。なんだこの自爆合戦。
「あの……ツボミ様、その辺にしておいた方が……。なんというか見るに堪えないというか」
口論を仲裁するデボラ。外敵からツボミを守ることはできるが、ツボミの心から生まれた彼女自身へのダメージは守れない。というか、デボラも恋愛関係では色々あるため迂闊な口出しが出来ないでいた。今愛する人のことを語れば、なんか集中攻撃されそうで怖い10代乙女であった。
ともあれ出来る仕事はこなそうと、盾を構えるデボラ。ツボミに向かって集中攻撃をする夢魔の攻撃を一手に引き受ける。飛んでくる拷問器具を盾で塞ぎ、陣形を敷いて味方の守りを強化していく。
「ええ、その……。ともあれ今は夢魔を倒しましょう!」
「そうだな。このまま暴れさせても問題解決にはならんだろうし」
いろいろ拗れてるなぁ、と思いながらウェルスは武器を構える。種族問題に恋愛問題。それもこれも一朝一夕で解決できる問題ではない。全部をいっぺんに書行けるすることはできないので、とりあえずできることから解決しよう。
蒸気式大型狙撃銃を手にして、狙いを定めるウェルス。専用の弾丸を装填し、呼吸を止めて狙いを定めた。銃は骨で固定し、僅かな揺れすら許さない狙撃体制を取る。不快集中の後に引き金を引き、夢魔全てを撃ち貫いていく。
「手加減できる余裕もなさそうだな。出来れば殺したくないが」
自由騎士と幻想種の戦いは、少しずつ佳境に入っていく。
●
エンプーサは三体いるが、全部同じ人格で知識を持っている。なので、言葉を交わさずとも連携だって攻めてくる。
「アタシが眠らせてー」
「血はアタシが貰うっちゃう!」
眠りに誘うと同時に魔術で血を奪う。その痛みで目が覚めるが、受けるダメージは大きい。
「はぐぅ……! これは厳しいですね」
「いい蹴りしてるじゃない!」
後衛を庇っているデボラと、前衛で奮戦しているエルシーがフラグメンツを削られるほどのダメージを受けていた。
「おーーーほっほっほ! 貴方の苛立ち、受け止めて差し上げますわ! 自由な恋は乙女の権利ですわ!」
高笑いし、夢魔に攻撃を続けるジュリエット。言って自分の心に活を入れる。恋する心を止めることはできない。その想いがジュリエットの原動力。愛する人がどこかに行くと言うのなら、それを負うのもまた恋なのだ。
「ええ、どれだけ離れていようともその想いだけは止められません!」
傷で痛む体を押して守りにつくデボラ。愛も恋も止められるものではない。そこにどんな障害が立ち塞がろうとも、それを押しのけて突き進むのだ。大事なのはその心。心が動けば、自然と体も動きそして事態も動いてくれる。
「そうね。気持ちだけは押さえられないものね」
二人の言葉を聞いて、うんと頷くエルシー。胸に秘めた思いの意味は理解している。それをどう形にするかはエルシー次第だ。このあたたかい気持ちを愛おしく抱きしめ、そして進んでいく。今は国の為に。そして――
「うぐ……! わ、分かっている。そうとも、そ、それが正しいのだという事は……!」
真っ直ぐ自分の恋に向き合う女性達を見て、ツボミはこっそりダメージを受けていた。自分の恋心に真っ直ぐ生きる。その眩しさを目の当たりにして、自分自身の所業を見直す。やめようもうそういう年齢じゃない。心にそっとフタをして仕事に専念する。
「うううううう……うううううう…………!」
同じく、真っ直ぐな恋心に進む乙女達を直視できないアルミアがいた。年齢的には変わらないが、様々な事情によりネガティブな鎖に捕らわれていた。こんな自分に振り向いてもらえるはずがない。かといって変わる勇気なんて持てない。だって私は――
「くっ! なんだかすごく重い物がのしかかっているような……! だけど目の前には綺麗なお姉さん×3! おっぱいおみあし×3! どうすればいいんだ……!?」
目に見えない何かと戦うナバル。前門のサキュバス、後門の同僚。まだ物理的に盾で防げる亜竜や虎の方がましだったのかもしれない。ともあれ様々な精神的重みに耐えながら、ナバルは縦を構えて仲間を守り続ける。
「いっそ吹っ切れば楽になれるぜ。それが出来ないからこその悩みなんだが」
ナバルを見ながらウェルスがため息をつく。女の愛は多く受け止めてこそ男の度量。強い甲斐性あってのハーレムエンドだ。それはナバル本人が解決することなので、それ以上は言わずに今の仕事に向き直る。弾丸をばらまき、サキュバスの体力を削っていく。
「申し訳ありません。後は任せます……」
エンプーサの魔力がデボラを倒し、夢魔の体力を少し盛り返すが反撃はそこまで。集中攻撃により、一人また一人と倒されていく。
「これでお終いですわ! 修行を終えてパワーアップした華麗なるわたくしの魔剣技を受けてなさい!」
ジュリエットの『聖剣「ロミオ」』が振るわれ、そこにジュリエットの魔力が乗せられる。生命を喰らう魔の力を帯びた刃が振るわれ、エンプーサの胴を薙ぐ。行為により生命を喰らうサキュバスは、己の業を受けるかのように崩れ落ちた。
「勝利! さぁ、ジュリエットちゃんFCの皆様、褒めたたえなさい!」
剣を収めてポーズを決めるジュリエット。それを称えるように美しい音色が場に響き渡った。
●
「あー、死ぬかと思った」
戦いが終わり、むくりと起き上がるエンプーサ。気が付くと分身も消え、結界も解除されたのか周囲も地下室から埃かぶった空き家に戻っていた。
「っていうか今から殺されるのかー。まあしょうがないわよねー」
人間に迷惑をかけた幻想種は討伐される。それは彼女自身も理解していた。だが、
「いやまあ、俺達のオーダーは再発防止なんで殺す必要はない」
「っていうか、まだ被害者いないしね」
自由騎士の大半はエンプーサを殺すつもりはなかった。戦闘行為で殺害する可能性はあったが、その程度である。
「とはいえ、即興の解決策はないんだよな。それこそ男皆殺しとかそういうのでなければ」
言ってうなりをあげるウェルス。種族による偏見をゼロにする事は難しい。新たなサキュバスの価値観を付与するぐらいだが、それでも過去からのイメージを消し去るには時間がかかる。……まあ、男性皆殺しもそれなりに時間がかかるが。
「なんかあったら連絡してくれ。相談に乗れることなら乗るぞ」
「……どーも」
言って自分の家の名刺を差し出すウェルス。エンプーサも人間形態で働いている役場の名刺を渡した。
「……あの」
ツボミが仲間を治療している隙にこっそりエンプーサに近づき、耳打ちするアルミア。
「魅了魔術、教えてください。……使いたい人が、いるんです」
「あー」
なんかいろいろ察したエンプーサ。呆れるような声を受けて、アルミアは涙声で続ける。
「『魅了で手に入れた愛は本物ではない』なんてわかっています。でも一押しが欲しい時あるじゃないですか。事実さえ、作れれば……!」
震える声で言葉を紡ぐアルミア。そんな彼女に気軽に言い放つ夢魔。
「告白すればいいじゃないの」
「そんなことが出来るなら……! だって、私はただの後輩でしかないし……」
「そーねー。シチュエーションは貴方達の宿舎かな? 満月の元、虫が鳴る程度のBGMでお祭りの後とかいいわね。手を取って相手の目を見てはっきりと告げればイチコロよ。じゃあ練習しましょうか」
「あ――」
言って亜空間を作りその中にエンプーサとアルミアが消え……二秒足らずで亜空間から戻ってくる二人。何をしていたかはわからないが、アルミアがかなり疲弊しているのを見て声をかけるのを止めた。
「あー。堪能した! やっぱり乙女ちっくっていいわね!」
「貴様……さてはそうやって若さを補充しているのか!? 若々しさを……うううう!」
元気になったエンプーサを見て、ツボミがダメージを受けたかのようにうずくまった。おかしい、彼女はカバーリングされてノーダメージのはずなのに?
「憧れを語れば鼻で笑われるし夢見れば流されるしちょっと思い切って可愛い服なんて着て見た日にゃ真顔で罰ゲームと判断されたりガチトーンで心配して来たりとか似合わなくて悪かったな畜生」
ネガティブオーラで押しつぶされるように横になるツボミ。
「よし、色々あるだろうけど飲みに行こう! 私でよければ付き合うわ!」
言って胸を叩くエルシー。
「……あと、モテる方法とか教えてもらえると嬉しいわね。魔術抜きで」
「告白したら?」
「そう簡単にいかない事情があるのよ!」
「その辺詳しく。障害のある恋とかワクワクするわ」
恋物語大好きなサキュバスであった。
「それじゃあ皆飲みにいくわよー。未成年はジュースね!」
「おーーーーーっほっほっほ! 凱旋ですわ!」
「…………そうだな、飲まんとやってれん」
そして、自由騎士達とエンプーサは平和な街に消えていく――
かくして、夢魔は誰一人殺すことなく騒動は収まった。
それ以降、サキュバスによる被害が発生することなく――まあ、男性が夢魔に捕らわれた的な事件はあったけど、健康に被害もなく幸せそうだったので不問となった――街は平和を取り戻す。
だが彼女達は人間と嗜好が違う。今は何とかバランスを保っているが、いずれそのバランスが崩れる時がくるやもしれない――
「えぇとぉ……『女の子が巨大化して、街を襲う巨大魔物と戦う』っていう性癖の人がいましてぇ……それを再現しようとしただけなんですぅ」
……もしかしたら、人間の欲望の方が問題なのかもしれない。
サキュバスの異空間に入った自由騎士達。その来訪に動揺することなくエンプーサは敵意を込めて笑みを浮かべ、臨戦態勢を取る。
そんな幻想種を前に自由騎士達は――
「わかる! ステレオタイプな反応しかしてこない男っているわよね!」
相手の情報を聞いて、うんうんと頷く『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。まるで判で押したかのような行動と言動で迫ってくるナンパ師。そういう指南書でもあるんじゃないかと疑いたくなるほどだ。
「ええ、ええ! 分かりますとも! 下らない先入観をもって決めつけてしまうやるせなさ!」
同じくエンプーサの境遇に同調する『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。デボラはデボラでキジンの身体になって婚約破棄という重い経験がある。その怒りに実感がこもっていた。
「あ、うん。あれ?」
なんか同意されて困惑する夢魔。
「種族差による偏見が生んだ問題と言えるな。ある意味、イ・ラプセル特有と言うべきか」
何とも言えない表情で『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は頷いた。他国なら無慈悲にサキュバス撲滅で終わる話だ。実際、そうしたところで大臣も何も言わないだろう。さてどうしたものかと頭を掻く。
「生まれで己の性質を決めつけられるのがムカ付くのは分かる。分かるが言いたいことは山のようにある!」
怒りの声をあげる『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。夢魔の境遇は理解した。その上で言ってやりたいことがる。それは境遇を理由に他者を虐げるのは間違っているという人道的見地ではない。もっと個人的な怒りだ。
「この国の男性を骨抜きにするなどという愚行、このわたくしが許しませんことよ!」
高笑いと共に『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)がサキュバスを指差す。特定の誰かが夢魔の魔術により骨抜きになるなど、決して許してはおけない。魔力を込めた剣に敵意を込めて、その切っ先を向けた。
「サキュバス討伐依頼……! ちがうんだきいてくれこれはまちのへいわをまもるためでけしてやましいきもちがあったわけではごめんそのしせんはつらいです」
女性からの視線に耐えきれず『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は頭を下げた。だってサキュバスですよ。どくどくSTの依頼ですよ。絶対何かあるって思ってたのに。男の子なら仕方ない事だよね!?
「……………」
そんなナバルを半眼で見る『決意なき力』アルミア・ソーイ(CL3000567)。『男ってどうしようもない』という呆れと『自分を見てくれない』嫉妬と『それも仕方ない』と思う諦念。それらがブレンドミックスされて渦巻いている心をネガティブに閉じ込めた無表情となっていた。
「あー。……ちょっと待って仕切り直すから。
来たわね、女神の祝福を受けた騎士達。この場所と計画を事前に察知できたことは敬意を表するわ。でも――それでこのアタシを止められると思わない事ね!」
言うと同時に三人に分身するエンプーサ。
「うわっ! 本当に3人に増えたわ! それどうやるのか教えてほしいわね……」
「? 存在いじくって肉体を希薄にして、精神体の階梯をあげたらいいんじゃないの?」
驚くエルシーに首をかしげて言い放つ夢魔。出来るかそんな事。
ともあれ、自由騎士と幻想種の戦いは幕をあげた。
●
「それじゃあ行くわよ!」
最初に動いたのはエルシーだった。紅色の手甲を打ち合わせ、エンプーサの一人に真っ直ぐに向かっていく。それに合わせて構えを取る夢魔。その動きにエルシーはへえと感心した。蹴りを間合とする格闘家。それと同じ構えだ。
エンプーサの軸足が動くと同時に、蹴りが放たれる。エルシーは手甲でそれを塞ぎつつ、間合いをさらに詰めた。拳を振るう直前に走る悪寒。それを信じてその場で身をかがめる。途中で軌道を変えたエンプーサの蹴りが、かがんだ場所を通過した。エルシーは身を起こしながら拳を振るう。
「あいたたた! 初見でこの蹴りかわすとかどういう勘の良さなの!?」
「やるわね! 翼を広げて回転を止めて、蹴りの軌道を変えたのね!」
「ハイレベルな攻防……! しっかり動きを見ておかないと!」
繰り広げられる攻防を前にナバルが目を見張る。魔術に特化していると思われたサキュバスが、自由騎士でも有数の強さを持つエルシーと同等の動きをしているのだ。油断はできない。あの足の動きをしっかりと見ておかないと、守り切れないだろう。
攻めるのではなく守る。それがナバルの戦いだ。敵の前に立ち間合を崩し、同時に仲間が責めやすいように配慮する。盾の大きさだけではなく、動きを予測してそこに武器を振るって牽制する。そうだ、その為に敵をしっかりと見ることは重要なのだ。特にあの足。あの足から目を離さず――
「戦闘時のオレの集中力を舐めるなうわ蹴りのときのモーションがきわどいきわどい脚も綺麗だなへぶっ!?」
「あ、ごめん。なんか隙だらけなんでまともに入っちゃった」
「誘惑……魅了……それが出来れば……出来れば……」
ナバルの様子を見ながらアルミアはブツブツと何かを呟いていた。自由騎士の中には際どい服装を着ている者も少なくない。そう考えればもう少し……と思う所でアルミアの決意は止まる。どうせ自分なんか。恥ずかしさよりもそんな想いが先走る。
アルミアの『バカでもわかる死霊術』が瘴気を発し、エンプーサと接しているナバルごと呪いの荊を突き立てる。範囲魔法は敵に接していれば味方も巻き込む。これは仕方のない事だ。ただナバルの背中を何か言いたげにして肩を震わせているアルミアの姿に、周囲の者達はいろいろ察して押し黙った。うん、範囲攻撃だから仕方ない。
「私なんか……ただの後輩だから……でも一度でもいいから……」
「そう思うのでしたら、行動あるのみですわ!」
アルミアのネガティブオーラを吹き飛ばすように、ジュリエットが声をあげる。彼女自身も恋に悩む乙女ではあるが、だからこそできるアドバイスもある。そうだ。行動しなければ恋は実らない。愛する人の気持ちがどこかに向いていたとしても、それでも走り続けるのが乙女なのだ。
そしてふわりと笑うジュリエット。それはいつもの高笑いではなく、自然な笑み。春に咲く花のような柔らかさを感じさせる笑みを浮かべ、剣の魔力を解放する。解き放たれた鋭い一撃が、夢魔を穿っていく。
「誰が何と言おうとも、貴女は貴女が望むように生きればいいのですわ。そこの夢魔も!」
「言っても聞いてくれないんだから、しょーがないでしょうが!」
「いや、それに関してはお前が悪い!」
腕を組んでツボミが叫ぶ。エンプーサを挑発し、自分に攻撃を向けさせるためだ。
「良いか良く聞け。綺麗な海のロマンティックな夜とか、思い出の場所で待ち合わせとか、そう言うシュチエーションをだな。貴様の様なイイ年こいた女が用意してな! ホイホイ着いてく様な男はな!
貴様の種族以前にハナから下心ありきのクズ何だよ!」
うわー、誰も言わなかったことをいいきったー。他の自由騎士達はそんな表情で固まった。
「10代の小娘なら兎も角、その年でその乙女趣味はな。高望み何だよ! 求められてないし認められても居ないの! 知ってるわ馬鹿!?」
「う、うっさい! いーじゃないのよ純愛! いちゃらぶしたいのよ! 甘酸っぱい言葉と胸いっぱいの暖かさで満たされたいのよ! 愛に気付いてほしいのよ!」
「それが無理だと言っとるんだ! 恋に幻想を抱くとか人生に疲れたか愛されなかったか愛されたいのかそのどれかだ! そのどれもが叶わないからそうなったのであって、そうなった時点でもうどうしようもないんだよ!」
口論続けるエンプーサとツボミ。喋るたびに互いの心にダメージが生まれていた。なんだこの自爆合戦。
「あの……ツボミ様、その辺にしておいた方が……。なんというか見るに堪えないというか」
口論を仲裁するデボラ。外敵からツボミを守ることはできるが、ツボミの心から生まれた彼女自身へのダメージは守れない。というか、デボラも恋愛関係では色々あるため迂闊な口出しが出来ないでいた。今愛する人のことを語れば、なんか集中攻撃されそうで怖い10代乙女であった。
ともあれ出来る仕事はこなそうと、盾を構えるデボラ。ツボミに向かって集中攻撃をする夢魔の攻撃を一手に引き受ける。飛んでくる拷問器具を盾で塞ぎ、陣形を敷いて味方の守りを強化していく。
「ええ、その……。ともあれ今は夢魔を倒しましょう!」
「そうだな。このまま暴れさせても問題解決にはならんだろうし」
いろいろ拗れてるなぁ、と思いながらウェルスは武器を構える。種族問題に恋愛問題。それもこれも一朝一夕で解決できる問題ではない。全部をいっぺんに書行けるすることはできないので、とりあえずできることから解決しよう。
蒸気式大型狙撃銃を手にして、狙いを定めるウェルス。専用の弾丸を装填し、呼吸を止めて狙いを定めた。銃は骨で固定し、僅かな揺れすら許さない狙撃体制を取る。不快集中の後に引き金を引き、夢魔全てを撃ち貫いていく。
「手加減できる余裕もなさそうだな。出来れば殺したくないが」
自由騎士と幻想種の戦いは、少しずつ佳境に入っていく。
●
エンプーサは三体いるが、全部同じ人格で知識を持っている。なので、言葉を交わさずとも連携だって攻めてくる。
「アタシが眠らせてー」
「血はアタシが貰うっちゃう!」
眠りに誘うと同時に魔術で血を奪う。その痛みで目が覚めるが、受けるダメージは大きい。
「はぐぅ……! これは厳しいですね」
「いい蹴りしてるじゃない!」
後衛を庇っているデボラと、前衛で奮戦しているエルシーがフラグメンツを削られるほどのダメージを受けていた。
「おーーーほっほっほ! 貴方の苛立ち、受け止めて差し上げますわ! 自由な恋は乙女の権利ですわ!」
高笑いし、夢魔に攻撃を続けるジュリエット。言って自分の心に活を入れる。恋する心を止めることはできない。その想いがジュリエットの原動力。愛する人がどこかに行くと言うのなら、それを負うのもまた恋なのだ。
「ええ、どれだけ離れていようともその想いだけは止められません!」
傷で痛む体を押して守りにつくデボラ。愛も恋も止められるものではない。そこにどんな障害が立ち塞がろうとも、それを押しのけて突き進むのだ。大事なのはその心。心が動けば、自然と体も動きそして事態も動いてくれる。
「そうね。気持ちだけは押さえられないものね」
二人の言葉を聞いて、うんと頷くエルシー。胸に秘めた思いの意味は理解している。それをどう形にするかはエルシー次第だ。このあたたかい気持ちを愛おしく抱きしめ、そして進んでいく。今は国の為に。そして――
「うぐ……! わ、分かっている。そうとも、そ、それが正しいのだという事は……!」
真っ直ぐ自分の恋に向き合う女性達を見て、ツボミはこっそりダメージを受けていた。自分の恋心に真っ直ぐ生きる。その眩しさを目の当たりにして、自分自身の所業を見直す。やめようもうそういう年齢じゃない。心にそっとフタをして仕事に専念する。
「うううううう……うううううう…………!」
同じく、真っ直ぐな恋心に進む乙女達を直視できないアルミアがいた。年齢的には変わらないが、様々な事情によりネガティブな鎖に捕らわれていた。こんな自分に振り向いてもらえるはずがない。かといって変わる勇気なんて持てない。だって私は――
「くっ! なんだかすごく重い物がのしかかっているような……! だけど目の前には綺麗なお姉さん×3! おっぱいおみあし×3! どうすればいいんだ……!?」
目に見えない何かと戦うナバル。前門のサキュバス、後門の同僚。まだ物理的に盾で防げる亜竜や虎の方がましだったのかもしれない。ともあれ様々な精神的重みに耐えながら、ナバルは縦を構えて仲間を守り続ける。
「いっそ吹っ切れば楽になれるぜ。それが出来ないからこその悩みなんだが」
ナバルを見ながらウェルスがため息をつく。女の愛は多く受け止めてこそ男の度量。強い甲斐性あってのハーレムエンドだ。それはナバル本人が解決することなので、それ以上は言わずに今の仕事に向き直る。弾丸をばらまき、サキュバスの体力を削っていく。
「申し訳ありません。後は任せます……」
エンプーサの魔力がデボラを倒し、夢魔の体力を少し盛り返すが反撃はそこまで。集中攻撃により、一人また一人と倒されていく。
「これでお終いですわ! 修行を終えてパワーアップした華麗なるわたくしの魔剣技を受けてなさい!」
ジュリエットの『聖剣「ロミオ」』が振るわれ、そこにジュリエットの魔力が乗せられる。生命を喰らう魔の力を帯びた刃が振るわれ、エンプーサの胴を薙ぐ。行為により生命を喰らうサキュバスは、己の業を受けるかのように崩れ落ちた。
「勝利! さぁ、ジュリエットちゃんFCの皆様、褒めたたえなさい!」
剣を収めてポーズを決めるジュリエット。それを称えるように美しい音色が場に響き渡った。
●
「あー、死ぬかと思った」
戦いが終わり、むくりと起き上がるエンプーサ。気が付くと分身も消え、結界も解除されたのか周囲も地下室から埃かぶった空き家に戻っていた。
「っていうか今から殺されるのかー。まあしょうがないわよねー」
人間に迷惑をかけた幻想種は討伐される。それは彼女自身も理解していた。だが、
「いやまあ、俺達のオーダーは再発防止なんで殺す必要はない」
「っていうか、まだ被害者いないしね」
自由騎士の大半はエンプーサを殺すつもりはなかった。戦闘行為で殺害する可能性はあったが、その程度である。
「とはいえ、即興の解決策はないんだよな。それこそ男皆殺しとかそういうのでなければ」
言ってうなりをあげるウェルス。種族による偏見をゼロにする事は難しい。新たなサキュバスの価値観を付与するぐらいだが、それでも過去からのイメージを消し去るには時間がかかる。……まあ、男性皆殺しもそれなりに時間がかかるが。
「なんかあったら連絡してくれ。相談に乗れることなら乗るぞ」
「……どーも」
言って自分の家の名刺を差し出すウェルス。エンプーサも人間形態で働いている役場の名刺を渡した。
「……あの」
ツボミが仲間を治療している隙にこっそりエンプーサに近づき、耳打ちするアルミア。
「魅了魔術、教えてください。……使いたい人が、いるんです」
「あー」
なんかいろいろ察したエンプーサ。呆れるような声を受けて、アルミアは涙声で続ける。
「『魅了で手に入れた愛は本物ではない』なんてわかっています。でも一押しが欲しい時あるじゃないですか。事実さえ、作れれば……!」
震える声で言葉を紡ぐアルミア。そんな彼女に気軽に言い放つ夢魔。
「告白すればいいじゃないの」
「そんなことが出来るなら……! だって、私はただの後輩でしかないし……」
「そーねー。シチュエーションは貴方達の宿舎かな? 満月の元、虫が鳴る程度のBGMでお祭りの後とかいいわね。手を取って相手の目を見てはっきりと告げればイチコロよ。じゃあ練習しましょうか」
「あ――」
言って亜空間を作りその中にエンプーサとアルミアが消え……二秒足らずで亜空間から戻ってくる二人。何をしていたかはわからないが、アルミアがかなり疲弊しているのを見て声をかけるのを止めた。
「あー。堪能した! やっぱり乙女ちっくっていいわね!」
「貴様……さてはそうやって若さを補充しているのか!? 若々しさを……うううう!」
元気になったエンプーサを見て、ツボミがダメージを受けたかのようにうずくまった。おかしい、彼女はカバーリングされてノーダメージのはずなのに?
「憧れを語れば鼻で笑われるし夢見れば流されるしちょっと思い切って可愛い服なんて着て見た日にゃ真顔で罰ゲームと判断されたりガチトーンで心配して来たりとか似合わなくて悪かったな畜生」
ネガティブオーラで押しつぶされるように横になるツボミ。
「よし、色々あるだろうけど飲みに行こう! 私でよければ付き合うわ!」
言って胸を叩くエルシー。
「……あと、モテる方法とか教えてもらえると嬉しいわね。魔術抜きで」
「告白したら?」
「そう簡単にいかない事情があるのよ!」
「その辺詳しく。障害のある恋とかワクワクするわ」
恋物語大好きなサキュバスであった。
「それじゃあ皆飲みにいくわよー。未成年はジュースね!」
「おーーーーーっほっほっほ! 凱旋ですわ!」
「…………そうだな、飲まんとやってれん」
そして、自由騎士達とエンプーサは平和な街に消えていく――
かくして、夢魔は誰一人殺すことなく騒動は収まった。
それ以降、サキュバスによる被害が発生することなく――まあ、男性が夢魔に捕らわれた的な事件はあったけど、健康に被害もなく幸せそうだったので不問となった――街は平和を取り戻す。
だが彼女達は人間と嗜好が違う。今は何とかバランスを保っているが、いずれそのバランスが崩れる時がくるやもしれない――
「えぇとぉ……『女の子が巨大化して、街を襲う巨大魔物と戦う』っていう性癖の人がいましてぇ……それを再現しようとしただけなんですぅ」
……もしかしたら、人間の欲望の方が問題なのかもしれない。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
おっかしぃなぁ。変なサキュバスの話なのに、なんでこんな流れに……ドロドロした悩みとか大好物ですけどね!
以上のような結果になりました。(心の)重傷にしてもいいんじゃね? って人がいましたが、優しくスルー。やさしいSTだなぁ、どくどくは。
MVPは色々大変な乙女のソーイ様に。立場上応援はできませんが、その想いを大事にしてください。……ネタになるので(駄目な書き手の言葉)。
ともあれお疲れさまです。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済