MagiaSteam
【メアリー】Barnearth! 焼けた大地と還リビト!



●ブレインストーミングより
「チャールズの屋敷から奪えた兵站軍の資料。精査したいよなー。
 調べりゃフリーエンジンが掴めてない情報が出てきそうな気がするんだよな」

●メアリー事変
「これは……<メアリー事変>の参加者ですね。おそらく奴隷協会から『兵站軍』に入った亜人の中で事件に関わった人をリストアップしたものです。
『兵站軍』……歯車騎士団に所属する亜人のことである。ヘルメリアのデウスギア『人機融合装置』によりキジン化させられており、定期的にメンテナンスを受けないと死亡してしまうのだ。
「奴隷協会はその性質上、奴隷の生死まできっちり管理します。死亡欄にチェックが入っていないのは、行方が分かっていないないからでしょうが……」
 奴隷協会の館から持ち出したリストを見て、ジョン・コーリナー(nCL3000046)は渋面を浮かべた。行方不明、と濁しているがおそらく生きてはいないだろうことはその表情から察することが出来る。
 メアリー事変。
 正式な事件名は『兵站軍反乱事件』。1809年にヘルメリアで起きた大規模反乱で、主導者であるメアリー・シェリーの名をとって、そう称された。言葉通り、『兵站軍』の扱いの悪さに一斉蜂起した事件である。
 反乱勃発当初は軽視されていたが、メアリーを中心とした元歯車騎士団率いる『兵站軍』は怒涛の勢いでヘルメリア西部地域を制圧。メアリーが作り出したといわれる『フランケンシュタイン』を中心とした軍事活動は、実に四か月も続いた。
 反乱勃発から四か月目に、『蒸気王』の命令によりプロメテウス/カーネイジ、及びロメテウス/フォースを西部に投入。『フランケンシュタイン』がカーネイジを大破に追い込むも、フォースと歯車騎士団はメアリー軍を打破。プロメテウス投入から7日ともたずに、反乱軍は鎮圧された。
 その結果、多くの元『兵站軍』が死に、西部の一部が焦土と化した。多くの村や町が焼け、国土の一部は海に帰す。特に戦区となった場所は、今なお人が住めない荒地となっているという。
 そして――首謀者ともいえるメアリー・シェリーは未だに見つかっていない。<事変>以降、『兵站軍』は反乱の牙を抜かれ、その扱いも一層ひどいものになった。
 皮肉な話だ。『兵站軍』を慮っての行動が、結果として彼らに反乱の無意味さと言う絶望を突きつける結果となってしまったのだから。
「メアリー・シェリー。少なくとも四か月の間、『兵站軍』を死なずにメンテナンスし続けた元歯車騎士団」
 もし彼女が生きているのなら『兵站軍』を癒すために協力してくれるかもしれない。死亡していたとしても、彼女のメモが残っていれば何らかのヒントが得られる可能性はゼロではない。
 雲を掴む話だ。だが彼女がいるとすれば戦禍となった西部地域だろう。当時10歳のメアリーに国外に逃げる伝手などないのだから。
 だが僅かだが『兵站軍』を救う術が得られる可能性があるならそれに賭けてみよう。大規模で動けば歯車騎士団に悟られる。少人数を編成し、西部に送り出した。
 そこで彼らを待つモノは――

●過去の亡霊、4つ
 歯車騎士団の哨戒を潜り抜け、自由騎士達は西部にやってくる。
 焦げた大地は砂漠にも似て、気を抜くと足元を取られかねない。木の一つもない地平線。かつては村だっただろう家の跡。それら一つ一つが、<メアリー事変>の――ひいてはプロメテウスの武力を示していた。
 生命の息吹すら感じさせない死の大地。そこで自由騎士は、動く何かを見つける。不規則に動く亜人。ボロボロになった機械の四肢。そして――死体特有の虚ろな瞳。
「還リビト!?」
「体が機械化した亜人達か……おそらくメアリー事変に参加したモノだろうな」
 焼けた大地。10年の時を経ても死の色が消えない場所で、彼らは10年前の亡霊と相対する。




†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
シリーズシナリオ
シナリオカテゴリー
S級指令
担当ST
どくどく
■成功条件
1.還リビト4体の打破
 どくどくです。
 もうヘルメリア暗部を書くのはやめよう、と思ったんだけどなぁ。しかたないなぁ(うきうき

 このシナリオは『ブレインストーミングスペース#1 ニコラス・モラル(CL3000453)2019年09月09日(月) 23:32:16』の発言より生まれました。発言者に優先権があるわけでも、参加義務があるわけでもありません。
 全三回のシリーズシナリオとなります。

●敵情報
・還リビト(×4)
 人の死体がイブリース化したものです。種族はノウブル以外まぜこぜ。体の一部が機械化しており、それもイブリース化しています。10年の恨みを鬱積しており、単純な身体能力では自由騎士を凌駕しています。

 攻撃方法
力任せ 攻近単 技術抜きで力任せに殴ってきます。【二連】
錆び  攻近単 錆びた機械部分で攻撃してきます。【ポイズン2】
投擲  攻遠単 自分の体の一部をちぎり、投げつけてきます。【HP消費50】【致命】
怨念  魔遠範 死の恨みを叫びます。【スロウ1】【ウィーク1】
死の姿 魔遠単 今なお苦しむ姿が不安を煽ります。【不安】

●場所情報
 ヘルメリア西部。かつて起きた<メアリー事変>と呼ばれる戦乱の跡地。焼けた大地と乾いた風。人が来る気配は皆無です。
 焼けた大地が熱でじわじわと体力を奪います。相応の装備がなければ、MPがターンごとに失われます。
 戦闘開始時、敵前衛に『還リビト(×4)』がいます。
 事前付与は一度だけ可能とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

 
状態
完了
報酬マテリア
4個  4個  4個  4個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2019年10月03日

†メイン参加者 8人†




 メアリー事変。ヘルメリアの歴史に残る軍のクーデター。その結果西部地域に深い傷跡を残し、プロメテウス二機を導入した大地は未だ人が住める状況ではない。
 そして、その傷を示すかのように当時の『兵站軍』が還リビトとなって彷徨っている。
「十年前の死者……か。死者にはあまりいい思い出もないのよね」
『遠き願い』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は目の前の還リビトを見て、深くため息をついた。目的のために命を奪う決意はしたが、それでも命を奪う意味まで忘れたわけではない。目の前の還リビトが戦禍によるものだと胸に刻み、武器を取る。
「痛ましいこと極まりない姿じゃ……」
 還リビトの傷を見ながら『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は嘆きの声をあげる。その表情は苦悶のままで固定されており、戦争で傷ついた体は真っ直ぐ立つことすら難しい。それでも動けるのはイブリースゆえか。
「左半身の火傷、銃創が十三、機械と肉体の結合部分は膿んだ跡だな。カタクラフトと肉体の拒絶反応か」
 冷静に死体の傷痕を診る『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。戦争の怪我人は何度も見てきた。帰らぬ人となった者も、また。深くため息をついて気分を切り替え、武器を手にする。死人は治せない。だから医者ではなく、自由騎士としての意識で。
「定期的なメンテナンスを怠ると、機械と肉体の接合部分がああなる……か」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はツボミの診断を聞き、沈痛な表情を浮かべる。反乱の規模を考えると、当時のメアリーたちはメンテナンスに忙殺されたのだろう。何が彼女をそこまで駆り立てたのか?
「その苦悶ゆえの還リビト化か。……やるせないな」
 還リビトを見ながら『百花の騎士』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)は瞑目する。自由を求めて起こした反乱。それが国の暴力で潰され、苦しみの中で死を迎える。その恨み故に還り、弔われることなく彷徨っているのだ。
「戦死者など幾らでもいる。生き延びて平和に帰れた者の方が少ないぐらいだ」
 傭兵暦が長かった『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は静かに告げる。戦争。この時代、大なり小なりどこにでもある悲劇だ。武器を持つ以上、死の覚悟はできている。それでも苦しみ、誰かを恨むのは人間ゆえに仕方ない事なのか。
「いや全く。おじさんは運がよかったと思うよ、ほんと」
 汗を拭きながら『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)はアデルの言葉に頷いた。もし『兵站軍』にいればどうなっていたか。もしかしたら、ああなっていたのは自分かもしれない。あるいは自分の娘が――首を振り、イフを振り払う。
「反乱軍……メアリ・シェリー……けっ!」
 還リビトの姿に苛立ちを隠すことなく銃を握る『帰還者』ザルク・ミステル(CL3000067)。『兵站軍』にどれだけの義があろうとも、ザルクは彼らを赦すつもりはない。この地をここまで破壊されたのは、彼らがここを戦場に選んだからだ。その恨みは、今も燃えている。
「アアアアアアアア……!」
 痛ましい声をあげる還リビト。声をあげる意志などない。肺から漏れる空気が笛のように焼けただれた喉元を通過しているだけの音だ。しゃがれて、ただ響いてるだけ。だからこそ、痛ましい。
 土は土に、灰は灰に、塵は塵に。死のイブリースを滅するために、自由騎士達は武器を取る。


「全力でいくわ」
 一番最初に動いたのはライカだった。魔力を神経系に通して反射速度を増し、一気に敵陣に踏み込んでいく。赤と黒の龍の意匠が施された手甲から伸びる刃は疾風の如く。ライカの速度を殺すことなく刃は振るわれる。
 一つ目の刃が還リビトを裂くと同時に、もう片方の刃が振るわれる。反撃とばかりに振るわれた還リビトの一撃を身をひねって躱すライカ。止まることなく動き回り、そして攻める。熱でいつも以上に消耗していることを感じながら、それでも足を動かし続ける。
「倒れる前に、倒せればいい」
「相変わらず無茶するな」
 ライカの動きを見ながらザルクは汗をぬぐう。かつて群生していた森や林。それが海側からの温風を防いでくれたのだと実感する。分かっていた。この地はプロメテウスに焼き払われたのだと。そして焼き払われたのはそこに住む人も――
 頭を振って思考を戦闘に戻すザルク。二挺の銃を構え、引き金を引いた。炎を宿した弾丸が還リビトの機械の腕に当たり、岩に反射して横に居る還リビトの頭蓋を穿った。予想外な弾道故に回避のいとまもない。燃え盛る炎と熱量が還リビトの体力を奪っていく。
「炎はお前達には効くだろ。あのプロメテウスの業火で命を落としてるならな」
「プロメテウス/カーネイジの『ルークブレイカー』か。えげつねぇよなあ」
 ニコラスは噂で聞いたメアリー事変の顛末を思い出す。ぶつかり合ったプロメテウス/カーネイジと『フランケンシュタイン』。互いの兵装が周囲の自然を破壊したという。数多の榴弾と雷を溜めこんだ鉄槌。そのエネルギーのぶつかり合いが、今の西部だ。
 ハチミツ入りのドリンクを口にしてから、呪文を口にするニコラス。飲み込んだ液体は体に染みわたり、熱で浮かされた意識をはっきりさせる。展開された魔術は還リビトから与えられる毒を癒し、死への不安を取り除いていく。
「んじゃ、傷の方は任せた」
「任されよう。あ、狙いはキツネのケモノビトからだ。そいつが一番ダメージを負ってる」
 仲間に指示を出しながら、冷えたドリンクを口にするツボミ。後ろから俯瞰的に事態を見て、最適な判断を下す。常に冷静であれと自分に言い聞かせながら、戦いに赴いていた。幸か不幸か、死体は他人よりも見慣れている。
 ツボミの魔力で形成された無数の糸が戦場に展開される。糸は重なり合い、紐となり、さらに重なり合って半透明の触手となる。触診により体の状態を確認し、著しいダメージから順番に癒しの魔力を仲間達に注ぎ込んでいく。
「コッチを庇う必要などない。あいにく、毒も呪いも効かんからな。ガンガン攻めろ!」
「うむ! 見敵必殺じゃ!」
 ツボミの言葉に頷くシノピリカ。帽子やマントで熱を遮ってはいるが、それでも消耗を押さえることはできなかった。自らのカタクラフトから排出される蒸気の熱がこもる。それを吐き出すように呼吸をし、軍刀を構えて還リビトに迫る。
 奮起し、自らを昂らせるシノピリカ。精神の高揚させ、その勢いを殺さぬように踏み込んでいく。還リビトの攻撃を機械の腕で受け止め、生まれた隙間を逃すことなく刃を振るう。渾身の一撃が還リビトを地に伏した。女神の権能がイブリース化を解除し、浄化する。
「先ずは一人! 続け続けー!」
「消耗する前に片を付けるぞ」
 南方諸島から輸入されたフルーツを咀嚼しながらアデルは槍を構える。瑞々しい味わいと溢れる果樹が熱で乾いたアデルの肉体に染みわたる。その癒しを感じながらキジン化した足を進めて敵陣に攻め入った。
 深く踏み込み、強く打つ。重戦士の基本にして最奥。アデルはその基本のままに突き進んでいた。還リビトの機械化された腕を弾き、そして槍を突き出す。鋭い一撃が還リビトの胴体を貫き、大きな穴をあける。
「脆いな。予想はしていたが、十年野ざらしにされれば機械部分も脆くなるか」
「時は無常だね。影響が及ぶのは肉体だけではなく、精神もかな」
 マグノリアは十年と言う年月を想像する。仮にメアリーが生きていたとするならば、彼女はこの土地で何を思って生きてきたのだろうか? 反乱者として裁かれることなく、自ら興した戦争の爪痕を見ながら。その心情は計り知れない。
 熱で乾いた空気を吸い、そして吐き出す。熱で水分が奪われている事を意識しながら、マグノリアは錬金術を行使する。理論の末に生まれた紅き癒しの秘術。その秘術を解き放ち、仲間の生命力を増幅させていく。
「何をきっかけに彼女が反乱を起こしたのか……それは今も続いているのか……」
「戦禍、か」
 短く、しかし重く告げるアリスタルフ。戦禍。戦いの禍。それはそこに住んでいた無辜の民だけが被る者ではない。戦った兵士も指揮官も等しくその災いを受けるのだ。それでも、大事な物を守るために戦わなくてはいけないのだ。
 拳を握り、還リビトに向き直るアリスタルフ。暑さの中でも平常心を保ち、表情一つ変えずに拳を振るう。体内で練り上げた気を叩きつけるように還リビトに突き出し、衝撃を与える。突き抜けた衝撃が、その後ろにいた還リビトを巻き込んだ。
「もう良い。戦わなくて良い。……ゆっくり休め」
 十年の恨みを蓄積している還リビト。アリスタルフの言葉は、自由騎士全員の言葉でもあった。もう苦しまなくていいのだ。
「……くっ!?」
「テメェらを前に倒れてられるか!」
 暑さで水分を奪われて失速したライカと、同じく熱で反応が遅れて攻撃を避けきれなかったザルクがフラグメンツを削られるが、自由騎士側は確実に還リビトを追い詰めていた。一体一体集中攻撃し、その数を減らしていく。
「この程度の環境など飽きるほど潜り抜けてきた」
 最後の還リビトを前にして、アデルが槍を構える。勝利を確信し、力を込めた。相手の反応速度を考えても、この一撃が避けられる道理はない。
「全弾開放!」
『ジョルトランサー改』内部にある爆発機構を全開放し、槍の穂先から追撃を加える。その衝撃に耐えきれず、還リビトは吹き飛び動かなくなった。


 戦いが終わり、応急手当などを終えた後に自由騎士達は還リビトだった死体を見る。アクアディーネの権能で浄化されており、自由騎士が与えた傷跡はない。だが、元から会った傷はそのままのようだ。
「死因は衰弱になるのか。こっちはショック死だな。推測だが、メンテナンスされなくなってカタクラフト部分との拒絶反応が原因だろうよ」
 ツボミは死体を検死していた。一〇年前のものだが、イブリース化していたこともあり腐敗はあまり進行していない。その為、検死自体は容易だった。傷つき、後方のベッドで治療中だったが、メアリーたちのメンテナンスが彼らまで届かなかった……そんなところだろう。
「機械化亜人のメンテナンスができないほどに戦況がひっ迫したかと考えるべきだろうな。戦いの経緯から察するに簡単に見捨てるような人物とは思えん」
 メアリーたちは『兵站軍』の扱いの悪さに不満を持ち、反逆した。そんな彼女達が救いたい亜人達を見捨てるとは思えない――結果として、そうなったわけなのだが。
「さてどうするか。仮埋葬するにせよ、目印がなければ探しようがないしなぁ」
 シノピリカは言って腕を組む。できる事ならしっかり弔ってやりたいが、これは任務。情報を得なければならないのだ。そしてこの遺体は当時の反乱兵士であり、情報そのものでもある。ただ埋葬するにしても、後で確認できる場所の方が好ましい。
「……あっちだ。記憶が正しければ、村があるはずだ。その残骸ぐらいは残ってるだろうよ」
 煙草に火を点け、ザルクが荒野の先を指差す。見渡す限りは焼けた大地の地平線だが、ザルクは土地勘を生かして歩き出す。十分ほど歩いたところで破壊された家の跡が見えてきた。なんとか原形をとどめている家を見つけ、とりあえずの休憩場にする。
「俺はそいつらを弔う気にはなれない。そいつらのせいでここら一帯はこうなったんだからな」
 死体を見ながらザルクは言い放つ。彼らの事情は理解できるが、かといって許せるかと言われれば別問題だ。『兵站軍』ごと故郷を焼かれ全てを失った過去は、なかったことにはできないのだから。
「里帰り、か」
 ザルクの背中を見ながらアデルが静かに呟いた。戦争で済む場所を失った者は珍しくはない。だがそういった人達が故郷に戻るのは武器を捨ててからだ。武器を持ちながら失った故郷を見る感覚。その心境を察し、アデルはそれ以上の追及を止めた。
「ともあれ、土地勘があるのはいい事だ。頼りにはさせてもらおう」
「……で? そいつらからカタクラフトを取って整備するのよね。もぎ取っていけばいいのかしら?」
 空気を変えるようにライカが口を開く。ここまで来て情報なし、というわけにはいかない。遺体を調べない、という選択肢はないのだ。なら早い方がいい。肉体部分から情報を得られないのなら、キジン化した部分を調べるしかないのだ。
「そう言えば、機械いじれる人っている?」
 ライカの問いに、自由騎士全員が首を横に振った。分解ぐらいはできるが、分解後に同じように組み立てて、というのは難しい。ましてや自国の者ではないカタクラフトなのだ。理論は同じでも細かな部分が異なる可能性がある。
「だが今回は分解せずともよさそうだ」
「だな。ヘルメリア軍の管理の良さはこういう時に助かる」
 アリスタルフとツボミはほぼ同時に機械化部分にある文字と紋章に気付く。歯車の紋章が削られ、七桁の数字が並んでいる。歯車の紋章はヘルメリアの国旗だ。それを潰しているのは、反乱軍の証のようなものなのだろう。
「認識票か。カタクラフトに刻んでおるとはなぁ」
 シノピリカは印を見て、頷いた。軍隊において個人を認識する物である。古くは体に入れ墨を刻んでいたが、最近は金属に個人情報を刻むのが主流だ。『兵站軍』は機械化した部位にそれを刻んでいたという事か。
 余談だが、現状自由騎士は身バレを恐れてその辺りの情報が分かる者は持ち合わせていない。公式の彼らの状態は『海戦の後、行方不明』となっている。
「ちょっと待て……『ケイン』『クライア』『カシュー』『ヘインズ』……よし、リストに乗っていた奴だ。当たり前だが、メアリー事変の参加者で間違いなさそうだ」
 ニコラスはリストをめくって、認識票に書かれてある名前があるかを調べる。一〇年の劣化もあって認識票の文字がかすれて読みにくいが、確かに同じ名前があった。メアリー事変と無関係の還リビト、という線はなさそうだ。
「特殊なメンテナンス跡とかは……なさそうだね」
 マグノリアは錬金術の観点からカタクラフトを見て、そう断言する。針の孔すら見落とさないほど注意してみたが、何か変わった点があるようには見えなかった。機械のことは専門外なので、別方向から情報を得ようと頭を回転させる。
「……メアリーが仮に生きていたとして、何処で雨露をしのぐかだね。こういった廃村が他にあるかもしれない。そこを拠点にしているんだろう」
 言ってマグノリアはザルクを見る。この辺りの土地勘に鋭い彼ならそういう場所を知っているのでは。その視線に気づき、ザルクは紫煙と共に言葉を放つ。
「確かにこの辺りにいくつか村はあった。だがこの状況だ。原型留めてる家がどれだけあるか……」
 だが捜索の手がかりはそこしかない。村があったと思われる場所を地図に書き、そこを目指す形で捜索を続ける方向で纏まった。
「認識票の部分を外して、持っていこうと思う」
 アリスタルフは言って工具を使ってカタクラフトを分解する。
「もし彼らの帰りたい場所が、帰れる場所がメアリーの所なら、連れていってやるのが人道ではないかと思う」
 その言葉に反対する自由騎士は一人もいなかった。


 そして遺体を埋葬し、自由騎士はそこで一時の宿を取る。
 捜索はまだ始まったばかりだ。すぐに成果が出るとは思わないが、それでも先の見えない調査に不安が募る。メアリーの手掛かりがあるのかどうかすらわからない。あったとしても、それが役立つかどうかさえ分からないのだ。
 ザルクは歩哨に立ちながら、夜空を見上げていた。故郷の空。灰色のくすんだ夜空だが、風の流れで星が見える事もある。今日はたまたまその日だったようだ。
(違うか……プロメテウス二基と『フランケンシュタイン』との戦いで生まれた気流が、空のスモッグを吹き飛ばしたってか)
 夜空にさえ、メアリー事変の影響が残っている。苛立ちのままにザルクは拳を握った
 あの日、全てを失った。故郷も、親も、友人も、平和な明日も――
 大地が焼けた日、建物の瓦礫に埋もれる形で助かったザルクは復讐を誓った。その炎は、いまだ消えてはいない。
「メアリー・シェリー」
 憎しみの感情を乗せて、ザルクはその単語を口にする。当時一〇歳の反乱軍指導者。この地が焼けた原因の一人。彼女を殺せば、この炎は少しは収まるのだろうか? あるいは死んでいたとわかれば、溜飲は下るのだろうか? 
 煙草を捨て、焼けた大地を見る。目の前の暗闇のように、この捜索も先が見えない。それでも前に進むしかなかった。

 朝日が昇り、自由騎士達は捜索を再開する。
 乾いた風が自由騎士の背中を押すように、静かに吹いた。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

To Be Continued...

(MVPは道案内に最適な技能を持ってきたミステル様に。あの設定でこの技能なら納得です)
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