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【レガート砦】X-Factor! 動き始める破壊工作!

●
レガート砦、宿舎内。自由騎士達は入念に盗聴などの可能性がないことを確認した後に、砦内で得た情報のすり合わせを始めた。
「兵士達はディークマン大佐の元に統率されております。練度は高く、戦闘になれば連携だった動きが出来るであります」
口火を切ったのはフリオ・フルフラット(CL3000454)だ。訓練所で兵たちと共に訓練し、体で感じた感想である。
「フライターク大尉との仲は悪いようですね。真面目な事務と現場の兵士の軋轢があるであります」
人間関係の弱点として、そこを上手く突けば混乱は起こせそうだ。
「フライターク大尉自身に戦闘力はないので、実際に襲われればひとたまりもないでしょう」
フライタークと接していたロザベル・エヴァンス(CL3000685)が言葉を継ぐ。フライターク大尉は本当に事務員で、銃も碌に撃ったことがない軍人のようだ。
「彼がいなくなれば、事務管理は滞ります」
物資の管理を疎かにすれば、兵士に食料や弾丸が届かなくなる。そうなれば戦闘に影響が出るだろう。
「実際に攻めるとなると骨だからな、この砦は。実際に反乱を起こさせなくとも、兵士と後方支援の信頼を崩すだけでも大きな効果がある」
元傭兵のアデル・ハビッツ(CL3000496)は砦内を見回った感想を告げる。管理人のディークマン大佐は予想以上に隙が無い。入念な準備をして、時を狙って動く。そんな将だ。
「――もっとも、その作戦はティラミスが見つけてくれたが」
「はい。危険を冒して執務室に侵入した甲斐がありました」
錬金術を駆使してディークマン大佐の執務室に潜入したティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は、ニルヴァン侵攻計画と抱えた書類を見たという。その内容によれば、
「沼の一部を埋め立てて、夏に干上がったところを戦車部隊で侵攻するようです。この時期なら、馬でそりを引けば通れるかもしれません」
「成程ね。沼の埋め立てはそう言う事か」
兵士達の会話を思い出して頷くニコラス・モラル(CL3000453)。大穴なように見えて、意味はあったのだ。
「んじゃま、動くとするか。救わねぇといけない奴らもいるしな」
「……そうだな。ウーリヒ中佐があそこまで危ないとは思わなかった」
ルエ・アイドクレース(CL3000673)は兵器開発の中佐の表情を思い出して背筋を凍らせる。兵士の見張りと周回がいない時間を教えてもらったが……。
「何も知らずに行けば、捕まっていたかもな。狼華みたいに」
「あの中佐のアイデアはイブリースの弾丸射出ときた。地下で何をしているのやら」
言ってアンが肩をすくめる。ベルネットから聞いた話が真実なら、制御不能のイブリースを敵陣に撃ちこむ研究をしているという。
「助けられなかったらどうなるか。恐ろしいもんだね」
「…………」
蔡 狼華(CL3000451)は地下の一室から、ウーリヒ中佐の『研究』を見ていた。天井近くにある小窓から隣の部屋声が聞こえてくる。
「痛い? 痛いでしょう? 苦しいのは誰のせい? 戦争が起きたのは誰のせい?
イ・ラプセルよ。あの国があるから、貴方達は苦しむの」
少年の肌にナイフで傷をつけながら、ウーリヒ中佐は熱のこもった声をあげていた。少年が傷つき、痛みに悶える姿がたまらないという表情を浮かべている。
(あれは洗脳やな。痛みで判断力奪って、そこに色々囁いて刷り込んで。
美しくないけど、効果的なんは確かやわ。相手を壊してもかまへん言うんならな)
ウーリヒの研究題材はイブリース。強く何かを恨む感情がイブリース化を生むのでは、というテーマなのだろう。とにかく殺さないように痛みを与え、悲鳴をあげさせていた。
(逃げるにしても、あの護衛といけすかへん女をどうにかせんと逃げれんか。……うち一人じゃキツイなぁ)
ここでウーリヒ中佐を倒すか『研究』内容を破棄すれば、この砦を攻める際に有利になるだろう。だが狼華一人では難しい。
(誰か助けに来てくれるまで待つしかないか。詮無いなぁ)
レガート砦、宿舎内。自由騎士達は入念に盗聴などの可能性がないことを確認した後に、砦内で得た情報のすり合わせを始めた。
「兵士達はディークマン大佐の元に統率されております。練度は高く、戦闘になれば連携だった動きが出来るであります」
口火を切ったのはフリオ・フルフラット(CL3000454)だ。訓練所で兵たちと共に訓練し、体で感じた感想である。
「フライターク大尉との仲は悪いようですね。真面目な事務と現場の兵士の軋轢があるであります」
人間関係の弱点として、そこを上手く突けば混乱は起こせそうだ。
「フライターク大尉自身に戦闘力はないので、実際に襲われればひとたまりもないでしょう」
フライタークと接していたロザベル・エヴァンス(CL3000685)が言葉を継ぐ。フライターク大尉は本当に事務員で、銃も碌に撃ったことがない軍人のようだ。
「彼がいなくなれば、事務管理は滞ります」
物資の管理を疎かにすれば、兵士に食料や弾丸が届かなくなる。そうなれば戦闘に影響が出るだろう。
「実際に攻めるとなると骨だからな、この砦は。実際に反乱を起こさせなくとも、兵士と後方支援の信頼を崩すだけでも大きな効果がある」
元傭兵のアデル・ハビッツ(CL3000496)は砦内を見回った感想を告げる。管理人のディークマン大佐は予想以上に隙が無い。入念な準備をして、時を狙って動く。そんな将だ。
「――もっとも、その作戦はティラミスが見つけてくれたが」
「はい。危険を冒して執務室に侵入した甲斐がありました」
錬金術を駆使してディークマン大佐の執務室に潜入したティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は、ニルヴァン侵攻計画と抱えた書類を見たという。その内容によれば、
「沼の一部を埋め立てて、夏に干上がったところを戦車部隊で侵攻するようです。この時期なら、馬でそりを引けば通れるかもしれません」
「成程ね。沼の埋め立てはそう言う事か」
兵士達の会話を思い出して頷くニコラス・モラル(CL3000453)。大穴なように見えて、意味はあったのだ。
「んじゃま、動くとするか。救わねぇといけない奴らもいるしな」
「……そうだな。ウーリヒ中佐があそこまで危ないとは思わなかった」
ルエ・アイドクレース(CL3000673)は兵器開発の中佐の表情を思い出して背筋を凍らせる。兵士の見張りと周回がいない時間を教えてもらったが……。
「何も知らずに行けば、捕まっていたかもな。狼華みたいに」
「あの中佐のアイデアはイブリースの弾丸射出ときた。地下で何をしているのやら」
言ってアンが肩をすくめる。ベルネットから聞いた話が真実なら、制御不能のイブリースを敵陣に撃ちこむ研究をしているという。
「助けられなかったらどうなるか。恐ろしいもんだね」
「…………」
蔡 狼華(CL3000451)は地下の一室から、ウーリヒ中佐の『研究』を見ていた。天井近くにある小窓から隣の部屋声が聞こえてくる。
「痛い? 痛いでしょう? 苦しいのは誰のせい? 戦争が起きたのは誰のせい?
イ・ラプセルよ。あの国があるから、貴方達は苦しむの」
少年の肌にナイフで傷をつけながら、ウーリヒ中佐は熱のこもった声をあげていた。少年が傷つき、痛みに悶える姿がたまらないという表情を浮かべている。
(あれは洗脳やな。痛みで判断力奪って、そこに色々囁いて刷り込んで。
美しくないけど、効果的なんは確かやわ。相手を壊してもかまへん言うんならな)
ウーリヒの研究題材はイブリース。強く何かを恨む感情がイブリース化を生むのでは、というテーマなのだろう。とにかく殺さないように痛みを与え、悲鳴をあげさせていた。
(逃げるにしても、あの護衛といけすかへん女をどうにかせんと逃げれんか。……うち一人じゃキツイなぁ)
ここでウーリヒ中佐を倒すか『研究』内容を破棄すれば、この砦を攻める際に有利になるだろう。だが狼華一人では難しい。
(誰か助けに来てくれるまで待つしかないか。詮無いなぁ)
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.レガート砦で破壊工作を行う
どくどくです。
レガート砦、工作開始。
このシリーズは全3回の最終回です。この依頼公開(RP的には工作による効果が出た)タイミングでレガート砦攻略の決戦依頼となります。
★仕掛けることが出来る工作
・訓練所にある砲台の不良化
砦の外に撃ちだす砲門に機械的な工作を仕掛け、一時的に使用できなくします。
技能やプレイング次第で、故障の度合いが変わります。
見張りが4名ほどいます。見つかれば、戦闘になるでしょう。
・地下牢襲撃
地下の牢屋に居るサイラスとジョンを救出します。酷く拷問されているため、戦力にはなりません。
見張りは二名ほど。時間をかければ援軍がやってきます。逃亡経路は確保済みです。
・フライターク大尉
一般兵たちとフライターク大尉の軋轢を増し、不信感を募らせます。
兵士達を煽って不真面目な素行(過剰な飲酒や、物資横流し等)をさせたり、その素行を大尉にチクったりなどです。それ以外でも兵士と大尉の性格差を利用すれば、軋轢は増します。
或いは、フライターク大尉を直接襲撃してもいいでしょう。護衛の兵士は3名ほどいます。フライターク大尉自身に戦闘力はありません。時間をかければ援軍がやってきます。
成功すれば、決戦時に戦闘可能な兵数が減ります。
・『病棟』襲撃
『病棟』に居るアミナを救出します。酷く拷問されているため、戦力にはなりません。
『病棟』に滞在する兵士は8名ほど。時間をかければ援軍がやってきます。逃亡経路は確保済みです。
・ウーリヒ中佐
地下に居るウーリヒ中佐、もしくは『研究』を破棄します。
壁に繋がれている『殺さないようにしている』少年4名を殺せば、研究は破棄できます。
またここにある牢屋には蔡 狼華(CL3000451)が捕らわれています。誰かが救出に向かえば、戦闘に参加できます(装備はマキナ=ギアから取り出すことが出来ます)。
ウーリヒ中佐には護衛の兵士が3名います。時間をかけても援軍はやってきません(そういう時間帯に襲撃します)。
・イブリース砲弾破棄(条件:蔡 狼華救出後)
ウーリヒ中佐の研究結果である『イブリースを閉じ込めた檻』を破壊します。
檻に閉じ込められた少年のイブリースが十体がはいった檻です。浄化すれば元に戻ります。そのまま殺しても何の問題もありません。
ウーリヒ中佐に『研究が見たい』と懇願した蔡 狼華のみが、その隠し通路の場所を知っています。
・その他 NPC襲撃
ベルネット軍曹及びディークマン大佐を襲撃します。
情報が不足しているため、何が起きるかはわかりません。ここが敵陣である以上、不利なのはこちら側です。
★蔡 狼華(CL3000451)
前シナリオの結果、ウーリヒ中佐に捕まっています。その為、このキャラのみ行動が制限されます。
地下の別室に閉じ込められ、移動が出来ません。部屋には他に絶望した少年たちがうずくまっています。広さはそこそこ。研究室の様子は見て取れます。扉自体は破壊可能ですが、そうするとウーリヒとその護衛が黙ってはいません。
手足の自由はありますが、アイテム類はすべて没収されています。その為、救出されるまではスキルのみ使用可能です。プレイング送信時にアイテムを装備しても問題ありません。アイテムなしの値を計算し、判定させていただきます。
些か厳しい状況ですが、ご了承ください。
該当PCが何らかの理由でシナリオに参加しなかった場合「移動せずに待機」という行動になります。
相談卓については狼華さんもご一緒に相談してくださって問題ありません。
自身の行動指針などを明かすことも問題ありません。
●要人
・モーリッツ・ディークマン
レガート砦の総責任者です。キジンの重戦士。スキルはRANK3まで使えます。
殺すか無力化すれば、決戦時の兵の士気に大きく影響します。
・フリーデグント・ウーリヒ
兵器開発などを担います。ノウブルのネクロマンサー。スキルはRANK3まで使えます。
殺すか無力化すれば、決戦時にイブリースが介入することがなくなります。
・オリヴァー・フライターク
後方支援の事務員です。ノウブルのガンナー……レベルは低いです。スキルもガンナーの初期所得のみ。
倒すか逃亡(あるいは兵士との軋轢を増す)させれば、決戦時の兵の継戦能力が下がります(メタな言い方をすると全兵士にMPロスがつきます)。
・オットー・ベルネット
一般兵を纏める立場です。ノウブルの蒸気騎士。スキルはRANK2まで使えます。
殺すか無力化すれば、決戦時の兵の統率が乱れます(メタな言い方をすると、速度が大きく下がります)。
・一般兵
種族は様々。階級は二等兵が多数です。種族はノウブルとキジンが中心です。
戦士系が6割。魔術師系が2割。あとは雑用の新兵です。スキルはRANK1まで使えます。
レガート砦攻略の決戦を容易にしたければ、多くの工作をこなす必要があります。
勿論、工作が失敗すれば意味をなしません。工作にかかった時間、使用する技能、人数の割り振り、そして何よりもプレイング。その全てが重要になります。しっかり吟味したうえで、決行してください。
皆様のプレイングをお待ちしています。
レガート砦、工作開始。
このシリーズは全3回の最終回です。この依頼公開(RP的には工作による効果が出た)タイミングでレガート砦攻略の決戦依頼となります。
★仕掛けることが出来る工作
・訓練所にある砲台の不良化
砦の外に撃ちだす砲門に機械的な工作を仕掛け、一時的に使用できなくします。
技能やプレイング次第で、故障の度合いが変わります。
見張りが4名ほどいます。見つかれば、戦闘になるでしょう。
・地下牢襲撃
地下の牢屋に居るサイラスとジョンを救出します。酷く拷問されているため、戦力にはなりません。
見張りは二名ほど。時間をかければ援軍がやってきます。逃亡経路は確保済みです。
・フライターク大尉
一般兵たちとフライターク大尉の軋轢を増し、不信感を募らせます。
兵士達を煽って不真面目な素行(過剰な飲酒や、物資横流し等)をさせたり、その素行を大尉にチクったりなどです。それ以外でも兵士と大尉の性格差を利用すれば、軋轢は増します。
或いは、フライターク大尉を直接襲撃してもいいでしょう。護衛の兵士は3名ほどいます。フライターク大尉自身に戦闘力はありません。時間をかければ援軍がやってきます。
成功すれば、決戦時に戦闘可能な兵数が減ります。
・『病棟』襲撃
『病棟』に居るアミナを救出します。酷く拷問されているため、戦力にはなりません。
『病棟』に滞在する兵士は8名ほど。時間をかければ援軍がやってきます。逃亡経路は確保済みです。
・ウーリヒ中佐
地下に居るウーリヒ中佐、もしくは『研究』を破棄します。
壁に繋がれている『殺さないようにしている』少年4名を殺せば、研究は破棄できます。
またここにある牢屋には蔡 狼華(CL3000451)が捕らわれています。誰かが救出に向かえば、戦闘に参加できます(装備はマキナ=ギアから取り出すことが出来ます)。
ウーリヒ中佐には護衛の兵士が3名います。時間をかけても援軍はやってきません(そういう時間帯に襲撃します)。
・イブリース砲弾破棄(条件:蔡 狼華救出後)
ウーリヒ中佐の研究結果である『イブリースを閉じ込めた檻』を破壊します。
檻に閉じ込められた少年のイブリースが十体がはいった檻です。浄化すれば元に戻ります。そのまま殺しても何の問題もありません。
ウーリヒ中佐に『研究が見たい』と懇願した蔡 狼華のみが、その隠し通路の場所を知っています。
・その他 NPC襲撃
ベルネット軍曹及びディークマン大佐を襲撃します。
情報が不足しているため、何が起きるかはわかりません。ここが敵陣である以上、不利なのはこちら側です。
★蔡 狼華(CL3000451)
前シナリオの結果、ウーリヒ中佐に捕まっています。その為、このキャラのみ行動が制限されます。
地下の別室に閉じ込められ、移動が出来ません。部屋には他に絶望した少年たちがうずくまっています。広さはそこそこ。研究室の様子は見て取れます。扉自体は破壊可能ですが、そうするとウーリヒとその護衛が黙ってはいません。
手足の自由はありますが、アイテム類はすべて没収されています。その為、救出されるまではスキルのみ使用可能です。プレイング送信時にアイテムを装備しても問題ありません。アイテムなしの値を計算し、判定させていただきます。
些か厳しい状況ですが、ご了承ください。
該当PCが何らかの理由でシナリオに参加しなかった場合「移動せずに待機」という行動になります。
相談卓については狼華さんもご一緒に相談してくださって問題ありません。
自身の行動指針などを明かすことも問題ありません。
●要人
・モーリッツ・ディークマン
レガート砦の総責任者です。キジンの重戦士。スキルはRANK3まで使えます。
殺すか無力化すれば、決戦時の兵の士気に大きく影響します。
・フリーデグント・ウーリヒ
兵器開発などを担います。ノウブルのネクロマンサー。スキルはRANK3まで使えます。
殺すか無力化すれば、決戦時にイブリースが介入することがなくなります。
・オリヴァー・フライターク
後方支援の事務員です。ノウブルのガンナー……レベルは低いです。スキルもガンナーの初期所得のみ。
倒すか逃亡(あるいは兵士との軋轢を増す)させれば、決戦時の兵の継戦能力が下がります(メタな言い方をすると全兵士にMPロスがつきます)。
・オットー・ベルネット
一般兵を纏める立場です。ノウブルの蒸気騎士。スキルはRANK2まで使えます。
殺すか無力化すれば、決戦時の兵の統率が乱れます(メタな言い方をすると、速度が大きく下がります)。
・一般兵
種族は様々。階級は二等兵が多数です。種族はノウブルとキジンが中心です。
戦士系が6割。魔術師系が2割。あとは雑用の新兵です。スキルはRANK1まで使えます。
レガート砦攻略の決戦を容易にしたければ、多くの工作をこなす必要があります。
勿論、工作が失敗すれば意味をなしません。工作にかかった時間、使用する技能、人数の割り振り、そして何よりもプレイング。その全てが重要になります。しっかり吟味したうえで、決行してください。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
5個
5個
5個
5個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2020年07月24日
2020年07月24日
†メイン参加者 8人†
●
破壊工作前に自由騎士達は動き出していた。
「横流し品なんで、大尉には秘密だぜ」
『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は兵士達に食料を配り、フライターク大尉への不安を煽っていた。アンの差し入れに感謝しながら、兵士達は大尉の不満を呟く。あの頭でっかちの紙兵隊が。軍やめる前に殴ってやる。そんな不満だ。
「息抜きは重要でありますよ」
フリオ・フルフラット(CL3000454)も手持ちの酒をふるまい、兵士達を煽っていく。『病棟』である程度の不満は解決できるが、それも充分ではない。そういう意味で酒の差し入れはありがたかった。精神のタガを外し、暴走しやすくなる。
「あの、お耳に挟んだことなのですが……」
そしてロザベル・エヴァンス(CL3000685)はフライターク大尉に横流しの事実を伝えていた。経路は伏せて、兵士達が食べ物や酒を得ていたという事のみを告げる。真面目な大尉と息抜きしたい兵士達。その軋轢を増すために。
「んー。いい感じでギスギスしてきてるなぁ」
そんな様子見ながら『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)は食堂でお茶を飲んでいた。訓練所帰りの兵士達。事務員たちの噂話。それらが工作の結果を示している。直接聞くわけにはいかないが、確実に不満は溜まっているようだ。
「上手くいくといいんだけど」
部屋で武器の手入れをしながら『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)は息を吐く。今夜、工作を決行する。この結果次第で戦いの有利不利が決まるのだ。出来るだけ有利に戦いたい所だ。
「今日の訓練は終わりだ」
汗を拭きながら『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は今夜のことを想う。自由騎士全員が一斉に動けば、ヴィスマルクに怪しまれる。何もしない事もまた、作戦の一つなのだ。事、怪しまれれば全て水泡に帰す。
「貴方は『砲台の見張りになって手を抜いてください』ね」
『ローリングラビットキック』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は周囲に注意しながら、暇そうな兵士に魔眼をかけ、催眠状態にして命令を与えていた。砲台と地下牢と病棟と。その三カ所に向かわせた。
そして――夜が来る
●
「そうか……。大変やったんやなぁ」
傷ついた少年たちを抱きしめる『虚実の世界、無垢な愛』蔡 狼華(CL3000451)。ウーリヒ中佐に目をつけられた村の子供や戦災孤児など過去は様々だ。何名かは此処に帰っておらず、外から聞こえる声からどうなったかを察して震えていた。
(おそらく死んだんやのうてイブリースになったんやろうなぁ。殺さへん、言うんは確かなようやけど。どの道、タダで済むと思ったら大間違いやえ、中佐はん?)
●
自由騎士達はまずウーリヒ中佐を討つべく動き出す。七人全員でルエが指定した時間に地下の研究室に向かい、臨戦態勢を取る。ルエが戸を叩き、中からウーリヒ中佐の声が聞こえて扉が開く。
「時間通りね。中々律儀正しいじゃな――」
扉が少し開いた瞬間に雪崩れ込む自由騎士七名。だが彼らもヴィスマルク軍人。一瞬で事態を把握し、臨戦態勢に取る――正直、あまり信用されていなかった部分もあるのだろう。対応は早かった。
だが――七名の動きを止めるには至らない。
「助けに来たぞ、ロウファ」
ルエは真っ先に狼華が閉じ込められている部屋に駆け寄り、扉を開ける。鍵の構造自体は特別なものを使っていたわけではないので、すぐに開いた。中に居る人間の無事を確認し、ウーリヒ中佐に向かう。
『アイス・ファルシオン』を手にして魔力を展開するルエ。刀身に宿る刃がその形を写し取り、その鋭さを映し出す。突き刺すようにルエが剣を振るえば、飛ぶように突きの形をした魔力が飛来した。
「こんな研究と知ったら協力なんてしないさ」
「……ふん、所詮は温室育ちね。いいわ、泣き叫ばせてあげる」
「叫ぶんは、そっちや」
声に怒りを乗せて狼華がウーリヒ中佐に迫る。踊りの技巧で攻撃の鋭さを増し、そのまま一気呵成に懐に飛び込む。魔術を展開させる隙さえ与えない。少年たちの涙を見た時に生まれた感情を乗せて踏み込んだ。
踊りの真価は動きの鋭さ。正しい姿勢で正しい動き。正しく鍛えた体幹で正しく舞う。そこに表情が乗れば完璧だ。怒りの感情を乗せた狼華の舞は、呪術を行使しようとしていたウーリヒ中佐の動きを止め、後ろによろめかせる。
「叫ぶこともできへんか。ほな、そのまま逝きなはれ」
「中佐……!」
「そちらには向かわせませんよ」
護衛の兵士達を足止めするロザベル。蒸気の鎧を稼働させ、重量のある武器を振るう。ヘルメリアの技術が生んだ『着るプロメテウス』こと蒸気騎士。その技術を纏いロザベルはイ・ラプセルのために戦う。裏切り者の汚名を喜んでかぶって。
エンジンを稼働させ、鎧全体に力を伝達させる。タービンが回転する音を聞きながら、ロザベルは腕を振り上げた。ロザベルの動きに合わせるように鎧部位も稼働し、力在る一撃をヴィスマルク兵士に叩き込む。
「これでお終いです!」
「ぐ……っ!」
「一気に決めさせてもらいます!」
同じく兵士を足止めしていたフリオがまだ戦闘可能なヴィスマルク兵に攻撃を仕掛ける。戦闘音を押さえる為の術式を展開し、外に音が漏れないように動いていた。気合を込めて、武器を握る。
相手の動きを逃さぬようにフリオは意識を集中する。『戦闘用蒸気鎧装Fleuret』が稼働し、四肢に熱気がこもる。そのまま両腕で剣を振るい、ヴィスマルク兵に振り下ろす。幼いころから積み重ねた修練が流れるような動きで敵を討つ。
「次!」
「くそ……! このままだと――」
「戦況が読めないほど愚かでもないか。悪いが降伏も認めん」
アデルは目の前のヴィスマルク兵にそう言い放つ。降伏して騒がれてしまえば作戦は水の泡となる。ここで確実に討ち取って、沈黙してもらわなくてはならない。運が悪かったと短く告げて、槍を振るう。
ナイフ二刀流。相手の間合を見ながら確実に追い詰めていくアデル。ナイフの間合に踏み込む瞬間に槍を振るって牽制し、封殺する。大事なのは『相手にベストな立ち位置を与えない事』だ。戦いも、作戦も、全て。
「仕えた相手が悪かったと思え。あの女を止めなかった時点で同罪だ」
「ちっ、使えない――甦れ!」
「おおっと、そう言えばネクロマンサーだったな」
倒れたヴィスマルク兵が蘇り、こちらに向かってくる。その姿を見てニコラスは呪文の手を止めた。あとはウーリヒを倒しておしまいと攻撃に転じる予定だったが、最後の抵抗を前に回復に移行する。
少年達から流れる血の匂いに不快感を感じながら、回復術を解き放つニコラス。仲間の傷を癒し、ウーリヒが与えた呪いを打ち払っていく。研究の為に少年の精神を壊すまでいたぶる軍人。そういう輩は何処にでもいるが、だからと言って許せるものでもない。
「ま、因果応報だな。そろそろ倒れときな」
「貴方達にはイブリースを利用するという素晴らしさが分からないようね。常識に縛られたクズどもが」
「ここまでわかりやすい相手だと、むしろありがたいですね」
自論を囀るウーリヒを見ながらティラミスが口を開く。相手の強さを測りながら、同時にこちらの戦力でどれだけ時間がかかるかを計算する。成程、ヴィスマルクの中佐になるだけの実力はあると頷いた。
ならば手加減をするつもりはない、と炎を展開するティラミス。魔力増幅器の指輪に魔力を集め、赤きマナを両手に展開する。生まれる炎はまさに煉獄。死者の霊を燃やす炎を生み出し、死霊術で操られた者達の動きを止める。
「これでお終いですね」
「…………っ! こうなったら一人でも!」
「遅いぜ」
せめてもの抵抗とばかりに魔力を集めるウーリヒに向かい、アンが銃口を向ける。魔力の展開速度、場の判断、そして身体能力。戦場で出会えば厄介な相手だったのは確かだ。こういう状況でなければ、それなりに苦戦した相手かもしれない。
だが運も含めて実力。それがアンの言う『戦い』だ。狙いは素早く、そして正確に。銃を持つ手をしっかり固定し、衝撃に耐えるよう僅かに腕を曲げる。何万回と構えたスタイル。それがアンというガンナーの基本にして究極。そのまま笑みを浮かべ、引き金を引く。
「あ……!」
「アンタとは出来れば戦場で出会いたかったね」
倒れるウーリヒに向けて、アンは静かに言い放った。
●
戦闘が終われば、自由騎士達は迅速に動き出す。ヴィスマルク兵とウーリヒにとどめを刺す。その後に狼華の導きでイブリース化した少年たちの元に向かったルエとアンとアデル。
「ここや」
元より戦闘力のない少年のイブリースだ。檻に閉じ込められていることもあって、自由騎士側の損傷は少ない。問題は、この少年たちをどうするか。つれていくのは流石に無理と判断し、少年達に騒がないように告げる。
「必ず助けに戻る。希望を捨てるな」
「なんやったら、イ・ラプセルに連れてってあげるで」
アデルと狼華はそう告げると、後で迎えに来ると約束する。動転しているのか反応は薄いが、小さく頷いたことは確認できた。
「フライターク大尉の工作は成功してるって感触だ」
ロザベルとフリオとアンの仕掛けたフライターク大尉と兵士達の軋轢を増す作戦は、ニコラスが見る限りではうまくいっている。大尉と兵士の両方に仕掛けたのが功を奏したのだろう。自由騎士達は頷きあい、二手に分かれる。
ロザベルとルエとフリオは砦の砲台に工作を仕掛ける側に。その後に地下牢に捕らわれた仲間を助ける形だ。
ティラミスとニコラスと狼華とアンとアデルの五人は『病棟』に向かい、そ子に捕らわれた者を助けた後に少年たちを連れて逃げる。
自由騎士達は頷きあい、行動を開始する。
●
「こっちです」
主に訓練所で行動していたフリオは見張りや詰め所の位置を把握していた。ルエとロザベルはその誘導に従い、見張りを制する。
その後にロザベルは蒸気技術を駆使して砲台に細工を仕掛ける。仕様書は見た。そう難しい事じゃない――
「そこまでだ」
そんな三人に明かりが照らされる。そこにはディークマン大佐と彼に連れられた兵士達が並んでいた。
「中には誰もいませんね……?」
ティラミスは『病棟』の中を透視で確認し、中にだれもいない事を確認する。そこに居るはずの仲間の姿もない。
「どういうことだ? 情報に誤りがあったのか?」
「いや。女なら少し前までは確かにいたぜ」
ティラミスたちを囲むように、ベルネット軍曹と彼が引き連れたヴィスマルク兵が陣を組んでいた。
バレていたのか? 自由騎士達は声にこそ出さないが息をのんだ。ヴィスマルク兵達は自由騎士達が襲撃するポイントを予測していた。この待ち伏せが何よりの証左だ。こちらが行動に移ったのを見計らって兵を展開したのだ。
今更何を言い訳しても効くつもりはない。そう告げるようにヴィスマルク兵は武器を構える。目に見える数だけでもこちらより多く、闇に潜んでどれだけいるのかわからない。敵陣であることを考慮すれば、もはや逃げの一手しかない。
「ウーリヒ中佐の死体を発見しました」
「そうか。残念だが仕方あるまい」
だが、ヴィスマルク兵はウーリヒ中佐の殺害は予測できなかったようだ。
――ここで時間を巻き戻す。自由騎士達がウーリヒ中佐と戦っている時間帯だ。
「あれ、お前今日当番だっけ?」
「いや、違うけど見張るぜ」
砲台の詰め所に現れた同僚。見張り当番のヴィスマルク兵は怪訝な顔をした。そしてあからさまに手を抜く態度を見て、軍曹に報告する。
「おい、お前何しに来たんだ?」
「え。見張りに来たんだけど」
地下牢にやってきた同僚。そしてあからさまに手を抜く態度。見張り当番の兵士は不審に思い軍曹に報告する。
「こりゃ変ですぜ、大佐」
「魔眼による催眠だな。新入りの傭兵達だろう。
イ・ラプセルの捕虜の移動、それと将校たちの安全を確認しろ。該当箇所の見張りも強化だ」
報告を受けたディークマン大佐は即座に動き出す。レガート砦のヴィスマルク兵は訓練された動きで非常事態に対応する。現在戦闘中のウーリヒ中佐を守ることはできなかったが、フライターク大尉の無事を確認。同時進行でイ・ラプセルの捕虜を別の場所に輸送。そして待ち伏せの準備――を始めたところで自由騎士達がやってくる。
もし催眠を施した兵士が混乱を生んだ時に行動していれば、その隙をつくことはできただろう。だがこの時自由騎士達は全員でウーリヒ中佐の元に向かっていた。その為、時間的な猶予を与えてしまったのだ。
結果、ヴィスマルク軍人達は自由騎士他狙うであろう捕虜を輸送し、捕虜がいた場所と砲台に十分な兵士を配置できたのである。
●
歴戦の自由騎士達の動きは、迅速だった。一瞬の判断の遅れが致命的になる。
幸いにして破壊工作がバレたのは数分前のようだ。まだ兵達の囲みは完成していない。完全に囲まれる前に突破しなくては。
砲台にいた自由騎士達は陣を組んで突破を開始する。
「セーフティ、アンロック! 全力で行きます! ジャヴァウォック・オーバードライブッ!」
蒸気鎧のリミッターを解除し、暴走するように刃を振るうロザベル。身体がきしみ、防御に隙が生まれる。だがここで手を抜いている余裕はなかった。迫る弾丸がロザベルを打つ。長くここに立ち止まれば、自分達も捕まってしまうだろう。
「幸い、逃走経路の方には兵はいない。今なら逃げられる」
魔力で瞳を強化して闇を見て、小声で仲間に告げるルエ。ヴィスマルクもこちらの動きを完全に把握しているわけではない。魔力の刃を振るい多数の兵士を薙ぎ払いながら、活路を生み出していく。
「ここで捕まるわけにはいきません!」
作戦半ばで逃げる事は口惜しいが、ここで捕まるわけにはいかない。迫るヴィスマルク兵の攻撃を受け流しながら進んでいく。一手の遅れが次に響く。四肢のカタクラフトを駆使して攻撃をさばきながら、少しずつ進んでいく。
そして『病棟』側も――
「最後尾は引き受ける。安心しろ、この程度は修羅場ですらない」
アデルは殿に立ち、槍を振るう。かつて捨て駒とされた戦いからすれば、敵の数も危険度も少ない。仲間を守りながらの撤退戦。飽きるほど潜り抜けてきた戦い。ヘルメットの奥から敵を見据え、痛みを堪えながら槍を振るう。
「一気に焼き払います。その隙に!」
攻撃の隙を縫うようにティラミスが魔力の焔を解き放つ。紅蓮が戦場に花咲き、熱波がヴィスマルク兵を押しとどめる。足止めできたのはわずか数秒。その数秒で戦況を立て直し、次の行動に移る。立ち止まっている余裕はないのだ。
「いい苦難じゃないか。滾ってくるぜ!」
鬼気迫るヴィスマルク兵達に笑みを浮かべ、アンは引き金を引く。強い相手との戦いも好きだが、こういう生き残るための戦いも悪くない。負けるつもりなど毛頭ない。生き延びれば勝ちなのだ。弾丸の雨を放ちながら、心臓の鼓動を感じる。
「悔しいけど、あの子らつれて逃げる余裕は在らへんなぁ……!」
狼華は唇をかみながら、地下に置いていった少年達のことを想う。ウーリヒがいなくなったので酷い目にあることはないが、かといって素直に解放されるかはわからない。それを見届けることが出来ないのは、残念だ。
「……こいつは辛いね」
皮肉気に笑みを浮かべ、ニコラスは仲間を回復させながら退却する。かつて娘を連れてヘルメリアから逃げることが出来なかったかのように、今仲間をヴィスマルクに奪われたまま去るしかない。そう言う仕事だと分かっていても、割り切れるものではなかった。
じわりじわりと移動する自由騎士達。予定されら脱出ポイント近くで二組は合流し、それと同時に煙幕弾が投擲された。
「これが最後の騎士活動です! 皆さん、早く!」
「目くらまし出来るのは一回だけですっ!」
サポートに来ていたノウブルの錬金術師と、ネズミのケモノビトのサポートによりヴィスマルク兵をいったん退ける。その隙に作製してあった脱出口から逃亡する。
遠くにはやってきたイ・ラプセルの軍勢。彼らに保護され、報告を行う。
こうしてレガート砦に参戦した自由騎士達は、報告と休養の後にそのままレガート砦攻略に参戦するのであった。
●
「逃げられたか」
「しくじりましたね。イ・ラプセルが攻めてきましたよ。ここまでが作戦だったようですね」
報告を聞いたディークマン大佐にベルネット軍曹が追加の報告をする。
「こちらの被害は?」
「中佐が管理していた研究関係は使えませんね。砲台は確認が要りますが使用可能です」
「よし、鋼炎機甲団を出せ。侵火槍兵団はパターンBで展開。砲火竜兵団は支援射撃を行え」
てきぱきと指示を出すディークマン大佐。ヴィスマルク兵達は即座に動き出す。
だがフライターク大尉に対する怒りが兵士達に募っており、兵站関係の動きに難があった。弾丸の流通が滞り、兵士達の動きに乱れが生じる。
「あれだけの数だ。いざとなれば砦を捨てる事も考えなくてはな」
「援軍が間に合えばいいんですがね。ま、どうにかしますよ」
ヴィスマルク軍も臨戦態勢を取る。将校が一人討たれたのは大きい。ウーリヒ中佐の兵装は、上手くすれば大きな戦力になったのだが仕方ない。
こうしてレガート砦をめぐる戦いは幕を開ける――
破壊工作前に自由騎士達は動き出していた。
「横流し品なんで、大尉には秘密だぜ」
『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は兵士達に食料を配り、フライターク大尉への不安を煽っていた。アンの差し入れに感謝しながら、兵士達は大尉の不満を呟く。あの頭でっかちの紙兵隊が。軍やめる前に殴ってやる。そんな不満だ。
「息抜きは重要でありますよ」
フリオ・フルフラット(CL3000454)も手持ちの酒をふるまい、兵士達を煽っていく。『病棟』である程度の不満は解決できるが、それも充分ではない。そういう意味で酒の差し入れはありがたかった。精神のタガを外し、暴走しやすくなる。
「あの、お耳に挟んだことなのですが……」
そしてロザベル・エヴァンス(CL3000685)はフライターク大尉に横流しの事実を伝えていた。経路は伏せて、兵士達が食べ物や酒を得ていたという事のみを告げる。真面目な大尉と息抜きしたい兵士達。その軋轢を増すために。
「んー。いい感じでギスギスしてきてるなぁ」
そんな様子見ながら『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)は食堂でお茶を飲んでいた。訓練所帰りの兵士達。事務員たちの噂話。それらが工作の結果を示している。直接聞くわけにはいかないが、確実に不満は溜まっているようだ。
「上手くいくといいんだけど」
部屋で武器の手入れをしながら『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)は息を吐く。今夜、工作を決行する。この結果次第で戦いの有利不利が決まるのだ。出来るだけ有利に戦いたい所だ。
「今日の訓練は終わりだ」
汗を拭きながら『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は今夜のことを想う。自由騎士全員が一斉に動けば、ヴィスマルクに怪しまれる。何もしない事もまた、作戦の一つなのだ。事、怪しまれれば全て水泡に帰す。
「貴方は『砲台の見張りになって手を抜いてください』ね」
『ローリングラビットキック』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は周囲に注意しながら、暇そうな兵士に魔眼をかけ、催眠状態にして命令を与えていた。砲台と地下牢と病棟と。その三カ所に向かわせた。
そして――夜が来る
●
「そうか……。大変やったんやなぁ」
傷ついた少年たちを抱きしめる『虚実の世界、無垢な愛』蔡 狼華(CL3000451)。ウーリヒ中佐に目をつけられた村の子供や戦災孤児など過去は様々だ。何名かは此処に帰っておらず、外から聞こえる声からどうなったかを察して震えていた。
(おそらく死んだんやのうてイブリースになったんやろうなぁ。殺さへん、言うんは確かなようやけど。どの道、タダで済むと思ったら大間違いやえ、中佐はん?)
●
自由騎士達はまずウーリヒ中佐を討つべく動き出す。七人全員でルエが指定した時間に地下の研究室に向かい、臨戦態勢を取る。ルエが戸を叩き、中からウーリヒ中佐の声が聞こえて扉が開く。
「時間通りね。中々律儀正しいじゃな――」
扉が少し開いた瞬間に雪崩れ込む自由騎士七名。だが彼らもヴィスマルク軍人。一瞬で事態を把握し、臨戦態勢に取る――正直、あまり信用されていなかった部分もあるのだろう。対応は早かった。
だが――七名の動きを止めるには至らない。
「助けに来たぞ、ロウファ」
ルエは真っ先に狼華が閉じ込められている部屋に駆け寄り、扉を開ける。鍵の構造自体は特別なものを使っていたわけではないので、すぐに開いた。中に居る人間の無事を確認し、ウーリヒ中佐に向かう。
『アイス・ファルシオン』を手にして魔力を展開するルエ。刀身に宿る刃がその形を写し取り、その鋭さを映し出す。突き刺すようにルエが剣を振るえば、飛ぶように突きの形をした魔力が飛来した。
「こんな研究と知ったら協力なんてしないさ」
「……ふん、所詮は温室育ちね。いいわ、泣き叫ばせてあげる」
「叫ぶんは、そっちや」
声に怒りを乗せて狼華がウーリヒ中佐に迫る。踊りの技巧で攻撃の鋭さを増し、そのまま一気呵成に懐に飛び込む。魔術を展開させる隙さえ与えない。少年たちの涙を見た時に生まれた感情を乗せて踏み込んだ。
踊りの真価は動きの鋭さ。正しい姿勢で正しい動き。正しく鍛えた体幹で正しく舞う。そこに表情が乗れば完璧だ。怒りの感情を乗せた狼華の舞は、呪術を行使しようとしていたウーリヒ中佐の動きを止め、後ろによろめかせる。
「叫ぶこともできへんか。ほな、そのまま逝きなはれ」
「中佐……!」
「そちらには向かわせませんよ」
護衛の兵士達を足止めするロザベル。蒸気の鎧を稼働させ、重量のある武器を振るう。ヘルメリアの技術が生んだ『着るプロメテウス』こと蒸気騎士。その技術を纏いロザベルはイ・ラプセルのために戦う。裏切り者の汚名を喜んでかぶって。
エンジンを稼働させ、鎧全体に力を伝達させる。タービンが回転する音を聞きながら、ロザベルは腕を振り上げた。ロザベルの動きに合わせるように鎧部位も稼働し、力在る一撃をヴィスマルク兵士に叩き込む。
「これでお終いです!」
「ぐ……っ!」
「一気に決めさせてもらいます!」
同じく兵士を足止めしていたフリオがまだ戦闘可能なヴィスマルク兵に攻撃を仕掛ける。戦闘音を押さえる為の術式を展開し、外に音が漏れないように動いていた。気合を込めて、武器を握る。
相手の動きを逃さぬようにフリオは意識を集中する。『戦闘用蒸気鎧装Fleuret』が稼働し、四肢に熱気がこもる。そのまま両腕で剣を振るい、ヴィスマルク兵に振り下ろす。幼いころから積み重ねた修練が流れるような動きで敵を討つ。
「次!」
「くそ……! このままだと――」
「戦況が読めないほど愚かでもないか。悪いが降伏も認めん」
アデルは目の前のヴィスマルク兵にそう言い放つ。降伏して騒がれてしまえば作戦は水の泡となる。ここで確実に討ち取って、沈黙してもらわなくてはならない。運が悪かったと短く告げて、槍を振るう。
ナイフ二刀流。相手の間合を見ながら確実に追い詰めていくアデル。ナイフの間合に踏み込む瞬間に槍を振るって牽制し、封殺する。大事なのは『相手にベストな立ち位置を与えない事』だ。戦いも、作戦も、全て。
「仕えた相手が悪かったと思え。あの女を止めなかった時点で同罪だ」
「ちっ、使えない――甦れ!」
「おおっと、そう言えばネクロマンサーだったな」
倒れたヴィスマルク兵が蘇り、こちらに向かってくる。その姿を見てニコラスは呪文の手を止めた。あとはウーリヒを倒しておしまいと攻撃に転じる予定だったが、最後の抵抗を前に回復に移行する。
少年達から流れる血の匂いに不快感を感じながら、回復術を解き放つニコラス。仲間の傷を癒し、ウーリヒが与えた呪いを打ち払っていく。研究の為に少年の精神を壊すまでいたぶる軍人。そういう輩は何処にでもいるが、だからと言って許せるものでもない。
「ま、因果応報だな。そろそろ倒れときな」
「貴方達にはイブリースを利用するという素晴らしさが分からないようね。常識に縛られたクズどもが」
「ここまでわかりやすい相手だと、むしろありがたいですね」
自論を囀るウーリヒを見ながらティラミスが口を開く。相手の強さを測りながら、同時にこちらの戦力でどれだけ時間がかかるかを計算する。成程、ヴィスマルクの中佐になるだけの実力はあると頷いた。
ならば手加減をするつもりはない、と炎を展開するティラミス。魔力増幅器の指輪に魔力を集め、赤きマナを両手に展開する。生まれる炎はまさに煉獄。死者の霊を燃やす炎を生み出し、死霊術で操られた者達の動きを止める。
「これでお終いですね」
「…………っ! こうなったら一人でも!」
「遅いぜ」
せめてもの抵抗とばかりに魔力を集めるウーリヒに向かい、アンが銃口を向ける。魔力の展開速度、場の判断、そして身体能力。戦場で出会えば厄介な相手だったのは確かだ。こういう状況でなければ、それなりに苦戦した相手かもしれない。
だが運も含めて実力。それがアンの言う『戦い』だ。狙いは素早く、そして正確に。銃を持つ手をしっかり固定し、衝撃に耐えるよう僅かに腕を曲げる。何万回と構えたスタイル。それがアンというガンナーの基本にして究極。そのまま笑みを浮かべ、引き金を引く。
「あ……!」
「アンタとは出来れば戦場で出会いたかったね」
倒れるウーリヒに向けて、アンは静かに言い放った。
●
戦闘が終われば、自由騎士達は迅速に動き出す。ヴィスマルク兵とウーリヒにとどめを刺す。その後に狼華の導きでイブリース化した少年たちの元に向かったルエとアンとアデル。
「ここや」
元より戦闘力のない少年のイブリースだ。檻に閉じ込められていることもあって、自由騎士側の損傷は少ない。問題は、この少年たちをどうするか。つれていくのは流石に無理と判断し、少年達に騒がないように告げる。
「必ず助けに戻る。希望を捨てるな」
「なんやったら、イ・ラプセルに連れてってあげるで」
アデルと狼華はそう告げると、後で迎えに来ると約束する。動転しているのか反応は薄いが、小さく頷いたことは確認できた。
「フライターク大尉の工作は成功してるって感触だ」
ロザベルとフリオとアンの仕掛けたフライターク大尉と兵士達の軋轢を増す作戦は、ニコラスが見る限りではうまくいっている。大尉と兵士の両方に仕掛けたのが功を奏したのだろう。自由騎士達は頷きあい、二手に分かれる。
ロザベルとルエとフリオは砦の砲台に工作を仕掛ける側に。その後に地下牢に捕らわれた仲間を助ける形だ。
ティラミスとニコラスと狼華とアンとアデルの五人は『病棟』に向かい、そ子に捕らわれた者を助けた後に少年たちを連れて逃げる。
自由騎士達は頷きあい、行動を開始する。
●
「こっちです」
主に訓練所で行動していたフリオは見張りや詰め所の位置を把握していた。ルエとロザベルはその誘導に従い、見張りを制する。
その後にロザベルは蒸気技術を駆使して砲台に細工を仕掛ける。仕様書は見た。そう難しい事じゃない――
「そこまでだ」
そんな三人に明かりが照らされる。そこにはディークマン大佐と彼に連れられた兵士達が並んでいた。
「中には誰もいませんね……?」
ティラミスは『病棟』の中を透視で確認し、中にだれもいない事を確認する。そこに居るはずの仲間の姿もない。
「どういうことだ? 情報に誤りがあったのか?」
「いや。女なら少し前までは確かにいたぜ」
ティラミスたちを囲むように、ベルネット軍曹と彼が引き連れたヴィスマルク兵が陣を組んでいた。
バレていたのか? 自由騎士達は声にこそ出さないが息をのんだ。ヴィスマルク兵達は自由騎士達が襲撃するポイントを予測していた。この待ち伏せが何よりの証左だ。こちらが行動に移ったのを見計らって兵を展開したのだ。
今更何を言い訳しても効くつもりはない。そう告げるようにヴィスマルク兵は武器を構える。目に見える数だけでもこちらより多く、闇に潜んでどれだけいるのかわからない。敵陣であることを考慮すれば、もはや逃げの一手しかない。
「ウーリヒ中佐の死体を発見しました」
「そうか。残念だが仕方あるまい」
だが、ヴィスマルク兵はウーリヒ中佐の殺害は予測できなかったようだ。
――ここで時間を巻き戻す。自由騎士達がウーリヒ中佐と戦っている時間帯だ。
「あれ、お前今日当番だっけ?」
「いや、違うけど見張るぜ」
砲台の詰め所に現れた同僚。見張り当番のヴィスマルク兵は怪訝な顔をした。そしてあからさまに手を抜く態度を見て、軍曹に報告する。
「おい、お前何しに来たんだ?」
「え。見張りに来たんだけど」
地下牢にやってきた同僚。そしてあからさまに手を抜く態度。見張り当番の兵士は不審に思い軍曹に報告する。
「こりゃ変ですぜ、大佐」
「魔眼による催眠だな。新入りの傭兵達だろう。
イ・ラプセルの捕虜の移動、それと将校たちの安全を確認しろ。該当箇所の見張りも強化だ」
報告を受けたディークマン大佐は即座に動き出す。レガート砦のヴィスマルク兵は訓練された動きで非常事態に対応する。現在戦闘中のウーリヒ中佐を守ることはできなかったが、フライターク大尉の無事を確認。同時進行でイ・ラプセルの捕虜を別の場所に輸送。そして待ち伏せの準備――を始めたところで自由騎士達がやってくる。
もし催眠を施した兵士が混乱を生んだ時に行動していれば、その隙をつくことはできただろう。だがこの時自由騎士達は全員でウーリヒ中佐の元に向かっていた。その為、時間的な猶予を与えてしまったのだ。
結果、ヴィスマルク軍人達は自由騎士他狙うであろう捕虜を輸送し、捕虜がいた場所と砲台に十分な兵士を配置できたのである。
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歴戦の自由騎士達の動きは、迅速だった。一瞬の判断の遅れが致命的になる。
幸いにして破壊工作がバレたのは数分前のようだ。まだ兵達の囲みは完成していない。完全に囲まれる前に突破しなくては。
砲台にいた自由騎士達は陣を組んで突破を開始する。
「セーフティ、アンロック! 全力で行きます! ジャヴァウォック・オーバードライブッ!」
蒸気鎧のリミッターを解除し、暴走するように刃を振るうロザベル。身体がきしみ、防御に隙が生まれる。だがここで手を抜いている余裕はなかった。迫る弾丸がロザベルを打つ。長くここに立ち止まれば、自分達も捕まってしまうだろう。
「幸い、逃走経路の方には兵はいない。今なら逃げられる」
魔力で瞳を強化して闇を見て、小声で仲間に告げるルエ。ヴィスマルクもこちらの動きを完全に把握しているわけではない。魔力の刃を振るい多数の兵士を薙ぎ払いながら、活路を生み出していく。
「ここで捕まるわけにはいきません!」
作戦半ばで逃げる事は口惜しいが、ここで捕まるわけにはいかない。迫るヴィスマルク兵の攻撃を受け流しながら進んでいく。一手の遅れが次に響く。四肢のカタクラフトを駆使して攻撃をさばきながら、少しずつ進んでいく。
そして『病棟』側も――
「最後尾は引き受ける。安心しろ、この程度は修羅場ですらない」
アデルは殿に立ち、槍を振るう。かつて捨て駒とされた戦いからすれば、敵の数も危険度も少ない。仲間を守りながらの撤退戦。飽きるほど潜り抜けてきた戦い。ヘルメットの奥から敵を見据え、痛みを堪えながら槍を振るう。
「一気に焼き払います。その隙に!」
攻撃の隙を縫うようにティラミスが魔力の焔を解き放つ。紅蓮が戦場に花咲き、熱波がヴィスマルク兵を押しとどめる。足止めできたのはわずか数秒。その数秒で戦況を立て直し、次の行動に移る。立ち止まっている余裕はないのだ。
「いい苦難じゃないか。滾ってくるぜ!」
鬼気迫るヴィスマルク兵達に笑みを浮かべ、アンは引き金を引く。強い相手との戦いも好きだが、こういう生き残るための戦いも悪くない。負けるつもりなど毛頭ない。生き延びれば勝ちなのだ。弾丸の雨を放ちながら、心臓の鼓動を感じる。
「悔しいけど、あの子らつれて逃げる余裕は在らへんなぁ……!」
狼華は唇をかみながら、地下に置いていった少年達のことを想う。ウーリヒがいなくなったので酷い目にあることはないが、かといって素直に解放されるかはわからない。それを見届けることが出来ないのは、残念だ。
「……こいつは辛いね」
皮肉気に笑みを浮かべ、ニコラスは仲間を回復させながら退却する。かつて娘を連れてヘルメリアから逃げることが出来なかったかのように、今仲間をヴィスマルクに奪われたまま去るしかない。そう言う仕事だと分かっていても、割り切れるものではなかった。
じわりじわりと移動する自由騎士達。予定されら脱出ポイント近くで二組は合流し、それと同時に煙幕弾が投擲された。
「これが最後の騎士活動です! 皆さん、早く!」
「目くらまし出来るのは一回だけですっ!」
サポートに来ていたノウブルの錬金術師と、ネズミのケモノビトのサポートによりヴィスマルク兵をいったん退ける。その隙に作製してあった脱出口から逃亡する。
遠くにはやってきたイ・ラプセルの軍勢。彼らに保護され、報告を行う。
こうしてレガート砦に参戦した自由騎士達は、報告と休養の後にそのままレガート砦攻略に参戦するのであった。
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「逃げられたか」
「しくじりましたね。イ・ラプセルが攻めてきましたよ。ここまでが作戦だったようですね」
報告を聞いたディークマン大佐にベルネット軍曹が追加の報告をする。
「こちらの被害は?」
「中佐が管理していた研究関係は使えませんね。砲台は確認が要りますが使用可能です」
「よし、鋼炎機甲団を出せ。侵火槍兵団はパターンBで展開。砲火竜兵団は支援射撃を行え」
てきぱきと指示を出すディークマン大佐。ヴィスマルク兵達は即座に動き出す。
だがフライターク大尉に対する怒りが兵士達に募っており、兵站関係の動きに難があった。弾丸の流通が滞り、兵士達の動きに乱れが生じる。
「あれだけの数だ。いざとなれば砦を捨てる事も考えなくてはな」
「援軍が間に合えばいいんですがね。ま、どうにかしますよ」
ヴィスマルク軍も臨戦態勢を取る。将校が一人討たれたのは大きい。ウーリヒ中佐の兵装は、上手くすれば大きな戦力になったのだが仕方ない。
こうしてレガート砦をめぐる戦いは幕を開ける――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
MVP
重傷
†あとがき†
Result!
ウーリヒ中佐を殺し、彼女の保有する兵器を決戦に使用できなくしました!
ウーリヒ中佐が所持していたイブリースを浄化し、決戦に乱入できなくしました!
フライターク大尉と兵士達の軋轢を増し、兵站計画に支障を与えました!
捕虜達はヴィスマルク領に移送されました!
ダンサースキルは捕虜の容態回復後、ヴィスマルクに伝授されます!
ウーリヒ中佐を殺し、彼女の保有する兵器を決戦に使用できなくしました!
ウーリヒ中佐が所持していたイブリースを浄化し、決戦に乱入できなくしました!
フライターク大尉と兵士達の軋轢を増し、兵站計画に支障を与えました!
捕虜達はヴィスマルク領に移送されました!
ダンサースキルは捕虜の容態回復後、ヴィスマルクに伝授されます!
FL送付済