MagiaSteam
Vagary! 予測不能の乱入者!




 ヴェスドラゴンに潜んだ自由騎士達は、とある孤児院跡を拠点としていた。ボロボロの教会とその地下室。訳アリものが流れ込むスラムにある場所だ。空き家に誰かが勝手に住み込んだところで、ヴィスマルク兵に通報したりはしない。
 だが、それまで誰もいなかった場所に誰かがいれば確認したくなるのが人の心理だ。そう言った人達には幻覚で誤魔化したりして気付かれずに帰ってもらった。ヴェスドラゴン攻略準備が整うまでの間誤魔化せればそれでいい。
 だが、誰もいないからこそやってくるヒトもいるわけで……。

「誰か、誰か助けて!」
「へっへっへ。叫んだって誰も来ねぇよ。ここはもう誰も住んでないからな」
「寂れた孤児院て聞いてるからな。住んでた女も戦争で死んだらしいぜ」
「いやあああああああ!」
 数名の男性が孤児院の扉を蹴り破る。そのまま抱えていた女性を床に投げ捨てた。必死で抵抗したのか、女性の身体には男達から受けた暴力の跡が見られる。叫び声は孤児院の外まで届くが、声に応じる者は誰もいない。
「来ないで、来ないでぇ!」
 必死に抵抗する女性。しかし複数の男性に手足を押さえ込まれる。これから起きる事に絶望の表情を浮かべる女性。これから起こることに愉悦の表情を浮かべる男性。暴力と肉欲の宴が始まろうとしていた。
「楽しませてもらうぜ。たっぷりとな」
「誰も来ないんだ。時間かけて遊ぼうぜ」
「いいな。じゃあ俺酒買ってくるわ。朝まで楽しもうぜ」


 さて、自由騎士達はそんな様子を隠し部屋から見ていた。
 ここには誰もいない。幻覚などを駆使してそうカモフラージュしている状況としては、ここで騒ぎを起こされることはあまりよろしくない。ましてや長時間滞在されるとなると、最悪誰かがヴィスマルク兵に通報する可能性もある。
 どうにかして排除したいのだが、彼らの前に姿を現すのは問題がある。誰もいない孤児院のはずなのに、助けが入る。ましてやそれが異国の兵士であると分かれば潜入作戦が台無しとなる。それは避けたい。
「つまり、こういう事ね」
 メアリー・シェリー(nCL3000066)は……メアリー・シェリーなんだろう『それ』はそう言った。全身を包む潜水服――彼女曰く『水着』なのだが――だ。確かにこれなら姿がばれることはない。ないんだけど……。
「……いや、逆にありか?」
「ありかなぁ?」
 自由騎士の正体がばれないほど奇異な格好をして、かつ幻覚などを駆使して恐怖を与える。そこまですれば逆にこういった犯罪に利用しようとする者はいなくなるだろう。最悪、身バレはしない。
 要は暫くの期間ここを調べられないようにすればいいのだ。少なくともこのままあんな連中に居座られるよりはマシと言えよう。幸か不幸か、イ・ラプセルには自らの姿を変えるお祭りには事欠かない。その手の衣装も持ってきている自由騎士もいるはずだ、多分。

「なんでこんな所で仮装してるんだろうなぁ……」
 急ぎ自由騎士達は準備を整えながら、冷静な部分ではこうも思っていたという。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
どくどく
■成功条件
1.チンピラ4名の戦闘不能
2.潜入していることがばれないようにする
 どくどくです。
 最初は変装して、という流れだったのですが、水着募集開始と聞いてこうなった。……すまん!

●説明ッ!
 ヴィスマルクの首都、ヴェスドラゴンに侵入した自由騎士達。来たるべき攻勢の時までスラムで潜伏しています。潜伏先のアジトを幻覚などを駆使し、『誰もいない孤児院』を維持してきました。
 しかしその潜伏場所に『誰もいない』ことを知ってスラムの悪党たちがやってきます。暫く根城にするつもりのようで、そんな事をされてはかなわないという事で追い出し工作にかかります。
 戦うにしても姿を現さないわけにもいかず、そんな中メアリーが提案したのは『姿を変えて戦う』事です。要は見た目で相手にバレない格好なら何でもアリです。WBRのコスプレでもOKですし、身バレしない自信があるならメアリーのように水着や浴衣でも構いません。嘘つきピンは嘘なんで不許可。当然、イラストで頼んでない仮装も大歓迎です。
 まあ、あれです。派手にコスプレして戦闘しよう、という息抜きシナリオ(でも一応身バレ判定はする)です。戦闘よりもいかに相手の度肝を抜くかを考えた方が活躍できるかもしれません。

●演出
『幻想』『オーディオエフェクト』等を使うNPCが居ますので、派手にしても外部に情報が洩れる事はありません。技能などを駆使して楽しんでください。

●NPC
 メアリー・シェリー(nCL3000066)。潜水服っぽい物を着て戦います。
『燃やせ、スチムマータ! Lv4(魔遠範 【ブレ2】【バーン3】)等を使いま
す。

 ぶっちゃけ、メアリーだけで戦闘は事足りるでしょう。なので戦闘プレイングは軽めでいいです。

●敵情報
・チンピラ(×4)
 スラムのチンピラです。全員ノウブル。オラクルなので、一部の技能は通じません。元ヴィスマルク兵でしたが、弾避けにされる扱いに反感して離脱。ヴィスマルク兵に見つからないようにしています。トンチキな格好を見れば、動揺するでしょう。
 軽戦士3、ガンナー1。ランク2までのスキルを持っています。

・女性(×1)
 スラムに住む女性。15歳。ノウブル。スキルも何もない一般人です。一点でもダメージを受ければ死亡します。トンチキな格好を見れば、動揺するでしょう。
 彼女の生死は依頼の成否に関係ありません。

●場所情報
 ヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。そのスラムにある孤児院跡。教会だった建物のエントランス。
 戦闘開始時、敵前衛に『チンピラ(×4)』が、敵後衛に『女性(×1)』がいます。
 事前付与は……うん、好きなだけしてください。ぶっちゃけ、戦闘で苦戦することはないと思います。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
1個  5個  1個  1個
2モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
4/6
公開日
2021年06月22日

†メイン参加者 4人†




「はあ……まったく……」
 やってきた者達に『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はため息をつく。潜入している身分でいえた義理ではないが、人がいない場所でこういう事をしないでほしい。早々に帰ってもらうに越したことはない。
「出て行く以上、『誰もいない』を押し通すのは流石に難しいでしょうね」
『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)は状況を鑑みてそう判断する。脅かして追い出す以上、誰もいないという風にはできない。なら、近づいてはいけないというふうに思わせなければいけないのだ。
「重要なのは如何に怖がらせるか、ということでありますね」
 うんうん、と頷く『鉄腕』フリオ・フルフラット(CL3000454)。怖がらせるだけなら、魔法なり剣で攻撃して傷つければ充分な脅威になる。だが、後で落ち着けば通報されるのは目に見えている。落ち着いて考えても理解できないように脅かすのがキモなのだ。
「要はトンチキに恐怖のどん底まで追い込めばいいんだろ? いいネタがあるんだ」
 むしろウキウキの表情で『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は指を立てる。こういうトラブルは御免だが、解決方法が実にウェルス好みだった。後の為に温めていたアイデアをここで披露してやるとマキナ=ギアから器具を取り出す。
「準備はいい? 行くわよ」
 メアリーの言葉に頷く自由騎士達。
 トンチキおバカな解決策ではあるが、潜伏先の秘密を守るための戦いの火ぶたが切って落とされたのであった。
 

「やめて、やめてよぉ!」
「もっと大声で泣き叫べ。無駄に足搔いて俺達を楽しませるんだな。どうせ誰も助けに来ねぇよ!」
 女性を襲う暴力の宴。そのボルテージは今最高潮だ。女性に抵抗するだけの力はなく、男性達が女を許す慈悲はない。欲望が尽きるまで宴は続くだろう。女性の心が壊れ、体が壊れてもそれさえも肴として男達は楽しむだろう。
 慈悲はない。ヴィスマルクの女神は彼女を助けない。ヴィスマルクの軍隊はここまでやってこない。正義の味方はここにはいない。そんな事は女性も男達も理解していた。我先にと女性に殺到し――はい、シリアスさんの出番はここでお終い。
「誰も助けに来ないって? いるさ、ここに三匹な!」
 宣言と共に孤児院のステンドグラスに浮かぶ影。そこから現れたのは、三匹のクマだった。ヒュー! という効果音と共に宙を舞う三匹のクマ。その鮮やかな登場に思わずチンピラたちは驚き叫ぶ。
「く、クマだァ! しかも空を飛んでいるぞ!」
「三匹もいるだと!?」
「しかも輝いている! 何なんだあのクマは!?」
 いや、本当になんなんだろう?
 一応説明すると、獣化変身で完全にクマの姿になったウェルスが羽ばたき飛行機で宙に浮かんでいるのである。それと同じ姿を夢幻映写機で映し出し、三匹いるように見せかけているのだ。あと回復スキルの演出とかその辺で光を放っている。
「落ち着け、あれはただのクマだ! 空飛んで三匹ぐらいいるだけだ!」
「落ち着けるかぁ!? 新手の幻想種とかそんな方がまだ納得できるわ!」
「クマのくせに飛ぶとか反則だろうが! こんなのどうしようもねぇ!」
「そもそもなんでこんな所にクマがいるんだよぉ!」
 混乱と恐怖に怯えるチンピラたち。そんな彼らにウェルスは近づき。一人抱えて宙を飛ぶ。POW112に抵抗できるはずもなく、そのまま天井近くまで運ばれ――一気に急降下する。
「うわああああああああああああああ!」
 ウェルスは激突寸前で軌道を変え、チンピラを地面に投げ捨てる。死の恐怖を味わったチンピラは涙を流しながら泡を吹いて気を失った。
「テメェ、何なんだよ!」
「ウグルルルルルル……」
 チンピラに問いかけられても、クマのふりをして唸り声をあげて答えないウェルス。徹底して情報は渡さないつもりのようだ。――出てくるときに、宇宙毒蛇っぽく叫んだ気もするけど、あれはスキル演出とかそんなので。
「ひぃぃ、ヤベェ。にげろぉ!」
「おおっと、逃がさないぴょん」
 逃げようとするチンピラの前に現れたのはバニーガールだった。違う、ウサミミとワンピーススーツを着たフリオだった。手にかぎ爪を付けたり、顔がばれないようにメモと口元を隠しているが、それはバニーガールだった。
 それが天井から降ってきて、挨拶と同時に斬りかかってくるのだ。驚きと同時に走る衝撃。しかもそれが魅惑のバニー。男達はどう反応すべきか戸惑う余裕すらなかった。
「楽しそうな声が聞こえて来ましたね。良いですね、宴。私も混ぜて欲しいのでありますぴょん」
「ぴ、ぴょん?」
「ウサギの跳躍を見せておあげるでぴょん」
 言うと同時に壁を蹴り、天井や壁を縦横無尽に駆け巡る。天然のウサギでもここまでは飛ばないだろう。そして交差の瞬間にかぎ爪を振るい、男達を傷つけていく。目で追う事すら難しい動きを前に、男達はなすすべもない。
「な、何なんだよテメェ!?」
「何、と言われれば応えるだぴょん。私の名前はスチームバニーだぴょん!」
「す、すちーむばにー!?」
「水と炎の力を融合させた蒸気鎧の力を借りたウサギだぴょん。さあ、一緒に遊ぶぴょん。楽しい楽しいパーティの始まりだぴょん」
「た、楽しくねぇ!」
 適当なのかノリノリなのか、ともあれ答えになっていない答えを返すフリオ。まあイ・ラプセルの騎士だなんて答えるわけにもいかないので、適当に答えるしかないのは確かだ。
「さあ、宴を続けるぴょん」
「クマにウサギに、ここは動物園かよ!?」
「いや、あんなウサギはいねぇだろうが! そもそもウサギは喋ったりぴょんとか言ったりしねぇ!」
「だったらあれ何なんだよ!?」
「知るかぁ!」
 自由騎士の攻撃に追い詰められていく男達。
「消えろ。ここは不埒物が近づく場所じゃない」
 鎧兜を身に纏い、男のように低い声を出すステラ。それでいてセクシーなフェロモンを外さないあたりが彼女のこだわりを感じる。凛とした声は混乱した状況の中で良く響き、聞き入る者達に恐怖とは違った精神的動揺を与える。
「な、何だあの野郎……!」
 男でも見惚れる、という状況はあるのだろう。性的な興味ではなく純粋に美意識的に飲まれてしまう。ステラの立ち様はまさにそれ。恐怖や混乱ではなく、心に染み入る美しさがそこにあった。
「…………」
 そしてそれは被害者である女性も同様だ。これまで男に襲われ、流されるだけの状況だった女性に訪れた明らかな救助の姿。この混沌とした空間から連れ出してくれるだろう救いの騎士がそこにいるのだ。気持ちも落ち着こうものだ。
「触るな、下郎」
 その空気を察して、ステラは冷たく女性に言い放つ。ここで甘い言葉を吐いてはいけない。二度とここに近づかないように、冷たく当たるのだ。この出会いはあってはならない事。そのことを示すように、できるだけ突き放したように言葉を続ける。
「お前が元の生活に戻りたいのなら、今見たことをすべて忘れろ。さもなくば、死がお前を襲うだろう」
 具体的にどうなるか、を示すようにステラは魔力の矢を放つ。普通の人間が喰らえば命はないだろう一撃。無慈悲な死神を思わせる怜悧な態度。これ以上話しかける事さえ許さないとばかりに、圧力をかける。
「…………」
 女性の瞳には助けてくれた人間の興味よりも、強者に対する恐怖の方が勝っていた。その気になれば自分の命などすぐに消せる。それだけの力を持つ相手なのだ。たまたまその興味が向かなかっただけ。その幸運に感謝すると同時にそんな存在が近くにいる事への恐怖が体を支配していた。
「……え?」
 そんな女性を一体のホムンクルスが背に抱える。マグノリアが作った体中にたくさんの眼がついた、長い髪をした女性型のホムンクルスだ。四つん這いになって背中に被害者の女性を抱え、壊れた人形とぬいぐるみを手に持っている。
「ぁ……!」
 あまりの事に恐怖で言葉を失う女性。そのままホムンクルスは女性を背に乗せたまま移動する。その動きは女性を戦場から離れさせるような動きだが、あまりの奇異な姿にそのことに気付かない。
「…………」
 そしてマグノリア本人は、メアリーが用意した潜水服の予備を借りて着込んでいた。その中身が身長100センチのマザリモノだとは想像もできないだろう。言葉なく手を掲げ、指先から光を放つように魔法の矢を撃つ。
「なんだあの……あのキジン? よくわからねぇのは!?」
「あの目玉一杯のもわけわからねぇ! おい、今目から光線撃ったぞ!」
「あ、新手の幻想種か!?」
 男達の反応はとにかく『理解不能』だった。自分達の知識では理解できない何かに対する恐怖。それが自分達を傷つけようとする恐怖。二つの恐怖が正確な思考力を奪っていく。泣き叫んでも必死に抵抗しても、事態は何も変わらない。
(折角だから、楽しまないとね)
 そして当のマグノリアは、そんな怯えるチンピラ達を見てうっぷんを晴らしていた。もちろん仕事の枠組みを外すことはない。趣味に傾倒して仕事を疎かにはしない。目的にそったうえで、十分に楽しむ。それが大事だ。
 三匹の空飛ぶクマ。
 かぎ爪で襲ってくるスチームバニー。
 魔力矢を放つカリスマ高い鎧兜。
 目玉のバケモノとキジンらしい何か。
 それらの猛攻は男達が恐怖に負けて気を失うまで続いたという。


 かくして戦いは終わった。
 いやこれ戦いじゃねーよ、というツッコミはさておき、ともあれ終わったのだ。
 チンピラたちは気を失い、殺してしまう程でもないので路地裏に放置する。女性も同じく気を失っているが男性たちとは別の所に寝かせておいた。
 仮に彼らがこの事を喋ったとしても、きっとこう言われるだろう。
「え、何言ってんだオマエ?」
「変なクスリでも決めたか?」
「酒の話にしちゃ上出来だな」
 少なくとも彼らの話を信じてじゃあ見に行こうと言うものはいないだろう。いたとしても、何もないようにとりつくろえばいい。何もないと分かれば、興味を失い去って行くのだから――

「ふう。なんとかなったな」
 安堵のため息をつくウェルス。幻覚のウェルスも同じようなポーズをとる。その後で三匹のクマは互いに腕を交差させて喜びの表現を行った。ガシガシビッババタバタ! そして最後に親指を立てる。
「これで秘密は守られたぴょん!」
 いってにぱっ、とポーズを決めるフリオ。もうスチームバニーの演技はいいのだが、毒喰らわば皿までである。胸とお尻を強調するようなポーズをとり、ウィンクをしてピースサイン。このどくどくノリノリである。
「ふう。とりあえず秘密は守られた、のかしら?」
 途中目を回していた女性のことを想いながら、ステラは不安に思う。目的は確かに達しただろう。だが、心に傷を残してしまったのではないだろうか? いや、男達にいいようにされるよりはマシなのだろうけど。
「そうだね。同じことがあれば、また同じように追い払おう」
 既に潜水服を脱いだマグノリアがうんうんと頷く。目玉多めのホムンクルスを作ったり、ホラーな恐怖演出をしたりと結構ノリノリだったマグノリア。もしかしたら一番はっちゃけていたのかもしれない。
 ともあれ、自由騎士の潜伏はバレることなく、ヴェスドラゴンの王城を攻める手筈は整いつつあった。
 決行まで、もはや秒読み段階である――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『ある日三匹のクマに出会った』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『すちーむばにーだぴょん』
取得者: フリオ・フルフラット(CL3000454)
『イケメン騎士』
取得者: ステラ・モラル(CL3000709)
『潜水服キジン』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
FL送付済