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ZERO/ALL 決戦ヴィスマルク




 その日、ヴェスドラゴンの城が最終決戦の場となる。
 自由騎士たちは多くの艱難辛苦と、そして死を乗り越えたどり着いた。
 最後の神をかけての決戦。

 帝国の皇帝と呼ばれた男に残された時間は少ない。
 もともと短いはずの人生だった。ハイオラクルだからこその短い命というだけではない。生まれ持った肺病が彼を苛んでいた。
 哀れに思った三位の女神モリグナのうち長女であるモーリアンがその体を支えることにした。ヴァハネは母として妻として支え、ネヴァンはワタリガラスの女神として帝国を支えた。
「アドルフ、随分追い込まれたものだな」
 今や三位の女神は一角が欠けたまま一つに融合している。
 つまりは、肺病の男を護るものはもうない。
「いえ、女神。これは運命です。我が帝国(ライヒ)にあなたがいる限り世界も、帝国も続きます」
「そんな状態で戦うつもり?」
 どこからか現れた道化師が問いかける。
「当然だ、道化師。私はこの帝国を背負う義務がある。そして母であり妻である女神を守る」
「まったくもって度し難いねえ。まあ男の子だもんねえ。わかるわかる」
「貴様はどうする?」
「どうするもなにも、僕ぁヴィスマルクの宮廷魔道士(笑)だろう? たしかにね、イ・ラプセルのこたちは僕の大事なシンユウだけど、存外に僕ぁ哀れなアドルフきゅんも好きだし、クソみたいな神造人形の中ではモリグナ、君のことはわりときにいってるんだぜ?」
「戯言を。ならば守るがいい」
「合点承知!!」

 さあ、道化師一世一代の大舞台だ。
 悪いね、アポトーシスたち。
 悪いね、青いネコちゃん。
 でもさ、ここまで届くための爪牙はプレゼントしてきたはずだぜ?
 この舞台が悲劇かそれとも喜劇かは、幕があいてのおたのしみ!!
 


「どうして……」
 赤い髪の女騎士は両手で顔を覆い崩れ落ちた。
 あの優しい自由騎士たちが来た。
 私達を殺すために。この愛しきライヒを陥落せんがために。
「やはり、わからなかったのですね。我がライヒこそが唯一の正義であることが」
 裏切られた気分だった。いつか優しくも正しい彼らは栄光を求めこの帝国に与するものだと信じていた。なのに、なのに――。
「当然です、ハインツェル中佐。彼らとて戦士であり兵士です」
 傍らの部下が当然の言葉を告げた。
「どうして、どうしてわかってくれないの? ねえ?!!」
 バラが咲いたかのように赤い髪が振り乱される。彼の――クルト・バッハマンの上司、ユリアーナ・ハインツェルの「発作」。
 迫りくるイ・ラプセルに心を痛めた上司はあろうことか、亡命してきた狂気と我が帝国の狂える科学者が生み出した悪意の果実『VF』を摂取したのだ。自分が強くなることで、この帝国を救うのだと。
 確かに強くはなることはできるだろう。人間性という担保を支払って……だが。
「キチキチキチ、教えたじゃ~~~ん、こういうときはね、クルトきゅん。
 ユリアーナ姫様! なんて! なんて不幸な悲劇のヒロイン!!! 救国の女騎士はどうしてこうも追い込まれていくのか」
 笑いながら現れたのは狂気の科学者ウィリアム・ギブスン。
「まああのこ、それ望んで気持ちよくなってるよね。悲劇のヒロイン症候群。くっさ、くっさ」
「貴様!」
「クルトきゅん、上司になんて口きくんだ~~~~い! 殺そうかな、そうだな殺そう。上司に逆らったら銃殺刑、そうなったらユリアーナちゃんがどうなっちゃうかなあ! もっと面白く脳をくちゅくちゅして改造するのもた~のしい~~~! 快楽もなにもかもを痛みに変えちゃおう。そうしよう。ソッチのほうが君には利くだろ??? キチキチ」
「も、申し訳ありません……」
「いいよいいよ~~~~僕ちんそんな心は狭くないしねぇ~~~~!
 ユリアーナちゃん~~~!」
 ウィリアムは三日月の形に口元を歪ませるとユリアーナの髪を乱暴に掴む。
「あぐっ」
「博士っ!! そのような狼藉は!」
「教育したよねえ???? わかるよねだまっててね~~」
 理想的な軍人であるクルトが上官であるウィリアムにこれ以上の行動を取ることができないことは知っている。というより理解させた。
「あっ、あっ」
 髪を掴まれ持ち上げられた痛みにも関わらずユリアーナの頬は高潮している。
「これは特別の『VF』でさあ。痛みを快楽に感じるように改造したやつ。量産できないのが残念!!! 材料も時間もた~~り~~な~~い!!
 じゃあ発作を止めてあげようか。かわいそうだもんね!」
 ウィリアムはユリアーナに投与したVFの『失敗作』達を閉じ込めた檻の前に彼女を連れていくとその檻に乱暴に放り込む。
 屈辱と恥辱と痛みを一定量与えれば女は『満足』して発作は止まる。いつもどおりの夢見がちで優しい上司に戻る。そうすることでしか発作を止めることはできないと理屈ではわかっているが――悔しさに握り込んだ拳から血がにじむ。
「ああああっ」
 いくつもの『失敗作』の手がユリアーナの体を蹂躙する。衣服を剥ぎ取られ獣欲の赴くままに好きにされるユリアーナは恍惚とした笑みを浮かべた。
「ユリアーナちゃん。君の愛でその不幸な失敗作の亜人達を慰めてあげてね! 仕事でしょ!! 薔薇騎士団の!! 彼らはユリアーナちゃんじゃないと慰めれないんだよぅ! がんばって! キチキチキチキチ」
「カワイソウな子、VFで、こんな、自由を奪われて、カワイソウに……私が慰めてさしあげっ……ああっ、ああっ!」
 ニヤニヤとその様子を楽しむウィリアムの横顔がクルツは悪魔のように醜悪に思えた。
 クルツは決断する。
「博士。あの失敗作は処分してもかまいませんか?」
「まあ、外に出したら敵味方関係なく暴れるからねぇ~」
「自分にVFを処方してください。失敗作を今から処分します」
「言ってる意味わかってるぅ?」
「もちろんです」
「いいねいいねキチキチ男の子だねぇ~~~~~~、上司に捧げる愛? それとも、君も上司を蹂躙したい側?」
「無駄話はしません」
「いいよ、んじゃこっちの完成形のVFでいいかな?」
「はい」


 数分後、檻の中は真っ赤に染まる。その中央で薔薇色の騎士がまるで幼女のような笑みを浮かべていた。
「クルト? クルト、可愛そうな子」
 ユリアーナが淫猥な笑みを浮かべ手を伸ばす。クルトはかすかに残る理性でその手を振り払い女を抱きしめる。
 女はゆるく笑むと気を失った。
「これが愛ってやつ??? キチキチキチ。くっさ~~~~~~~~~。狂気も愛もほんと、カミヒトエ!!!! まあいいや面白いじゃん」
 狂気は笑む。あと数刻もしないうちに自由騎士たちはこの城にたどり着くだろう。
 最終決戦を彩る舞台装置がこんな土壇場で完成するなんて!!! なんて! なんて! 喜劇!(ファルス)


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
大規模シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
■成功条件
1.女神モリグナ撃破
2.各ボスの撃破
 たぢまです。お久しぶりです。決戦です。
 帝国陥落してください。
 
 広い城内です。明かりや足場の不安はありません。
 散らばっていたら範囲攻撃は全員入らない場合もありますが、逆にその距離からでは攻撃も通りませんのでご注意を

 3つと女神決戦パートに別れています。
 前半は3つの戦場のうちどれかを選んで、後半は女神決戦パートに挑んでもらいます。
 前半のみにすべての力を集中しても構いません。後半のみに集中はできません
(後半のみをプレイングに描かれている場合はそこまでにどこかしらの戦闘を経由したということで、一度フラグメント復活をしたというペナルティがつきます)
 前哨戦パートが失敗した場合にはギリギリで敵をとどめている状態になりその番号の戦場のPCは女神戦に参加できません。
 書式
 【行きたい戦場番号】
 プレイング
 【女神】
 プレイング

 のようにお書きください。
 プレイングの配分についてはおまかせしますが前半が薄いとフラグメント復活をした状態で後半に挑むことになると思います。

 ※セリフなどは今回特別にEXの文字数を増やしておきましたのでそちらでご利用ください。


 くれぐれも残りフラグメントや残りアニムスの数値にはお気をつけくださいませ。
 戦場番号がかかれていない場合はランダムで振り分けられます。重傷のペナルティがつき、女神戦では体力マックスが1/4からスタートします。
 誰かと一緒に戦う場合は前半後半ごとに【】でくくってタグをいれてください。
 
 
 1:VFユリアーナとVFクルト戦
   拙作薔薇色のイノセントで登場しています。

 ユリアーナ・ハインツェル 
 フェンサー×ノウブル オラクル
 速度はそれなりで、攻撃力もあります。積極的に前衛にでます。逃げることはありません。
 薔薇騎士団、リコリス小隊の隊長で、中佐です。
 ランク3までのフェンサースキルを使います。
 軍師・威風急を活性化しています。
 EX:士気向上(P)
 周囲の仲間の士気をあげ命中と回避を上昇させることができます。
 赤い髪の美しく高潔な女性です。敵に囚われたのであればその生命を断つことでしょう。
 VFによって著しく強化されています。
 VFによって攻撃を受けるたびに攻撃力、命中が加算されていきます。
 一定量のダメージをうけると、上がった攻撃力と命中はなくなりますがVFでの強化値はかわりません。
 体力がなくなると下記薔薇騎士団の隊員を取り込んで回復します。

クルト・バッハマン
 ガーディアン×キジン オラクル
 防御力は高いです。基本的にはユリアーナを守ります。
 ランク3までのガーディアンスキルを使用します。
 VFによって著しく強化されています。ちなみに渡されたVFはユリアーナの改造とは違う改造品。
 痛みが3倍に感じられるようになる改造が施されています。
 ダメージが一定に達すると、2ターンに1回行動不能になります。
 EX:騎士の本分(わがとどかぬおもい)(A)
 ユリアーナがあと一撃で戦闘不能になる攻撃を食らった場合にはその攻撃を自らが受け死亡します。
 行動不能のターンであったとしても発動します。

 薔薇騎士団 リコリス部隊×10
 女性ノウブルで構成されています。全員見目麗しいです。
 雑多なバトルスタイル構成でランク2まで使用します。
 状況が悪くなれば逃げるという選択肢もとります。

 2:プロメテウス戦(ウィリアム戦)

 ウィリアム・ギブスン
 ガンナー×ノウブル オラクル
 狂気のマッドサイエンティスト。卑怯な手段や卑劣な手段も取ります。
 やばくなれば、騎乗しているプロメテウスを自爆させて逃げようとします。
 逃走経路を複数用意していますが探しているひとを見つけたら優先的に攻撃します
 ランク3までのガンナースキルは使用します
 EX:自爆(A)
 大ダメージプラス吹き飛ばしと煙幕で逃げる時間を稼ぎます。

 プロメテウス・シュッツェ
  大きさ4m近くの人型蒸気兵器です。ウィリアム・ギブスンが騎乗しています。
  様々な射撃兵器を搭載しています。HPを消費してバッドステータスを自動回復させる機構を持ち、装甲も厚く容易に攻略できない様になっています。

  攻撃方法
  アンターレス  攻近範 毒入りの針を飛ばしてきます。【ポイズン3】
  アルデバラーン 魔近範 強い衝撃波が周囲を襲います。【ノックB】【二連】
  ヴェーガ    魔遠全 音波兵器。上空からかかる音の圧力が敵を襲う。
  ベタイゴイツァ 攻近貫 光輝く一撃。その一撃を防ぐことはできない。(100%、100%)、溜1。【防御無】
  グローセ・ベーア P  自動詠唱システムによる魔術砲撃。7ターンごとに自動発動。敵全体に【ダメージ0】【生命逆転】の攻撃を行う。
  ユングフラウ   P  自動修復システム。プロメテウスのHPが0以下になった時に、自動発動。戦闘不能をキャンセルし、HPを全快します。一戦闘一度だけ発動。
  設定はどくどくSTです。ひどい。

  ヴェルナー・シュトルム・ヴィンター
  拙作【鉄血侵攻】積年の想いで登場しています。
  階級は大佐。ノウブルのガンナーです。少しばかりの魔導もかじっています。
  ランク3までのガンナースキルとアイスコフィン3 コキュートス3 ユピテルゲイヂ3 を使用してきます。物理魔導両面型タイプ。
  ライフルから銃弾型の魔導スキルを状況に応じて打ち出すスタイルで戦います。練度は高め。
  命中、攻撃力は高いです。ウィリアムをフォローする形で戦います。
  なお、テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)さんに対して
  「積年の約束を果たそう」と宣言をしていますが、無視をしてもらっても構いません。

  アードライ
  ヨウセイの軍人。ヴェルナーをサポートします。
  イェーガースキルをランク2まで使えます。ドクタースキルもかじっていますこちらもランク2まで。

  

 テオドール・ベルヴァルド(CL3000375) のアナザーである ヴェルナー・シュトルム・ヴィンター が登場していますが、該当PCの参加を強制するものではありません。
 

 3: アドルフ+クローリー戦

 ヴィスマルク五世 アドルフ
 フェンサー×ノウブル ハイオラクル
 体力値は1/4になっています。戦えはしますが全体的なステータスは高すぎるということはありません。
 ひくつもりはありません。最後まで帝国皇帝として戦うつもりです。
 20ターン戦闘が続けばその時点で死亡します。

 アレイスター・クローリー
 アルケミー×ノウブル ハイオラクル 不死
 帝国の宮廷魔道士(笑)です。
 普通に戦ってきます。だいたいのスキルはつかえちゃったりします。アドルフを守護します。
 流石に見たこともないようなメチャクチャな攻撃まではしてこないです。そこはルールに則って。
 一回戦闘不能にしたら降参します。そこがひきどころと考えています。
 皇帝が死亡してもクローリーが戦闘不能になってない場合、余ったデコイごと女神戦に向かいます。

 デコイ×30
 クローリーが作った人形っぽい泥人形。見た目は神造人形たちと同じような見た目。
 きもちアクアディーネが多いです。きっと他意はないんですがアクアディーネなぐりちらかす自由騎士を見て大笑いしたいようです。
 体力はそれほどですが組み付いたりして移動を防いだりとか自爆したりとかわりとめんどくさいです。
 アドルフを守るかんじです。





 
 【女神】
 女神モリグナです。
 戦の神ですので、本神も戦えます。
 単体攻撃が当たれば体力の90%はもっていかれます。
 防御力は高め。すべての攻撃が防御無視です。
 オラクルが止めをさせばその力はアクアディーネに帰属します。
 女神はクローリーも攻撃対象に含みます。 

 攻撃方法
 破壊の矛槍  攻近単 手にした矛槍を振るいます。高火力。【三連】
 紅き戦車   攻遠全 真っ赤な馬が引く戦車に乗り、戦場を蹂躙します。【ノックB】。【女神】にいる存在なら20m以上離れた場所でも攻撃は届きます。
 海蛇の呪い  魔遠範 海蛇に変化し、津波で動きを封じてきます。【移動不可】【シール2】
 烏の翼    魔近範 黒き烏の翼が不運を告げる。【アンラック3】【不安】
 女神の寵愛  魔遠単 女神の愛を受けた戦士は無双の力を得る。攻撃&魔導上昇。【魅了】。

赤髪のヴァハ  P  モリグナの側面。狂気が力を加速する。モリグナにかかっている精神系バッドステータス数に比例して、攻撃力増加。
バズヴ・カタ  P  モリグナの側面。死を予知する力。現在は失われている。
 
 スキルはたすけてどくえもんしました。


 友軍:
 アルヴィダ・スカンディナ
 フェンサー×ハネビト 色なしオラクル
 スカンディナ海賊団のボスです。フェンサーのスキルは3までつかえます。
 基本的には言うことは聞きますができればアドルフぶっ殺しにいきたいです。
 (PLの手柄を奪うような真似はしません)
 彼女たち色なしのオラクルががうっかり女神を殺すようなことになると状況は最悪になります。
 
 カーレント
 バスター×ケモノビト 色なしオラクル
 ランク3までつかえます。アルヴィダの副官でいっつも彼女をからかってるあのひとです。

 他三〇名ほど。オラクルは半数ほど
 ドクター3人
 フェンサー10人
 バスター10人
 ガンナー7人

 友軍は【友軍指示】のタグのある最新の発言を適用します。
 とくになければ10人くらいずつに別れて各所で戦います。
 アルヴィダは3
 カーレントは2に向かいます。

 持ち込めるアイテム兵は1つの戦闘地域で1つだけです。
 多数装備の場合は一番上から順に適用します。
(一番上が前哨戦、二番めが女神戦に使用します)
 
 アーウィンとムサシマル
 頑張って戦います。共闘したい場合はプレでどうぞ。
 アーウィンは1
 ムサシマルは3
 で戦いますです。
 状況によっては女神戦でも戦います。

 また、フレデリック、ヨアヒム、バーバラ、佐クラ、アンセム、ミズーリも参戦します。ランク3の各々のバトルスタイルスキルを使います。
 基本的には女神戦でのみ戦う予定ですが、【フレデリック指示 戦場1】などで指示があれば最新を参照して戦います。
 二箇所以上指示がある場合は最新の書き込みを参照します。
 アーウィンとムサシマルも上記の指示があれば従います。

 女神戦で【名前】のタグで呼んでいただければPCさんと共闘し、特に呼ばれなければ邪魔しないように戦闘しています。
 また、NPCは危険になれば即時撤退しますのでNPCを守る動きはしなくても大丈夫です。ご自身の戦いに専念していただけますようお願いします。


 ■■6/20追記要項■■
 【2】のプロメテウス戦において、ブレインストーミングでのアデル・ハビッツ(CL3000496)の申請により、戦場に「ベガ」が投入されます。  
 乗り込みを希望するPCは、相談卓で相談し
【ベガ/騎乗】のタグで発言してください。発言の早い順に2名まで交代で乗り込む形になります。発言なしに搭乗プレを描いた場合通常戦闘になります。
 使用回数については、乗り換えてもリチャージはしません。

●兵装
・貫通式兵装二足歩行兵器『ベガ』
 拙作『Weapon! 女神に恥じぬ兵器を作れ!』にて完成した兵器です。身長4mの人型兵器。近接と遠距離の貫通兵器を有します。
 この貫通兵器でプロメテウスの装甲を貫いたターンのみ、プロメテウス/ファッケルにダメージを与えることが出来ます。
 この兵装にPCの一人が乗り込むことが出来ます。その場合、貫通兵器の命中はそのキャラクターの数値が適応されます(CTとFBは10で固定になります)。誰も乗り込まない場合、名無しの騎士が搭乗します。
 搭乗者を交代する場合、降りる人と乗る人がそれぞれ行動を必要とします。
 スキルの使用は可能ですが、その場合『アン=ナスル』『アル=ワーキ』の貫通効果は使用しなかった者とみなします。

スペック
アン=ナスル 攻近単 装甲貫通に特化した兵器。火薬で杭を打ち出し、装甲を貫通します。命中80 攻撃力:搭乗者の2.5倍 CT10 FB10 使用回数6回
アル=ワーキ 攻遠単 装甲貫通に特化した砲撃。二重の弾薬で、命中箇所からゼロ距離で弾丸を放ちます。命中75 攻撃力:搭乗者の2倍 CT10 FB10 使用回数10回

HP:搭乗者の5倍(ドラマ復活、フラグメンツ復活、スキルによる戦闘不能回復は不可)
防御力&魔抵抗:搭乗者の2倍
反応速度:50
※一部非戦スキルはスペックに影響します。


 以上皆様の思いのこもったプレイングをお待ちしています。

●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
3モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
41/∞
公開日
2021年06月29日

†メイン参加者 41人†

『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)
『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『明日への導き手』
フリオ・フルフラット(CL3000454)
『アイドル』
秋篠 モカ(CL3000531)
『RE:LIGARE』
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『祈りは歌にのせて』
サーナ・フィレネ(CL3000681)
『平和を愛する農夫』
ナバル・ジーロン(CL3000441)
『罪を雪ぐ人』
ステラ・モラル(CL3000709)
『stale tomorrow』
ジャム・レッティング(CL3000612)
『天を癒す者』
たまき 聖流(CL3000283)
『おもてなしの和菓子職人』
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『イ・ラプセル自由騎士団』
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『異邦のサムライ』
サブロウ・カイトー(CL3000363)


●薔薇騎士団

 正直、薔薇騎士団のお嬢様のおもりを命じられたときはがっかりした。
 事実お嬢様は事あるごとに美しくあれ、正々堂々となどと非合理なことを朗々と嘯き、そのたびにうんざりとしていた。
 帝国の軍人たるもの、合理的であらねばいけない。
 彼女の行動は合理的原則とは正反対だ。奴隷亜人を見ればかわいそうだと涙するなど帝国軍人としてありえない。
 敵兵が子供であれば見逃そうとするなど、ともすれば軍規違反にも抵触するようなことも平気でする。
 まいど上官の始末書を書いてなんとかするのは自分の役目だった。
「なにが可愛そうなものか」
 彼は痛む体にムチをうち上官を睨む。そう彼女が美しいことを嘯くときには口角が上がっている。
 可愛そうだと憂う自分に酔いしれているだけだ。それに気づいたのは自分だけだろうけれど。
「何が高潔な聖女か」
 究極あのお嬢様にとっては亜人や敵兵など自分という高潔な女騎士を飾り立てるだけのアクセサリーに過ぎない。
 それでも、彼にとっての彼女は大切な上官なのだ。
 彼女は今目の前に立ちふさがる他国の兵を前に昂ぶっている。
「ああ、可愛そうなイ・ラプセル。帝国こそが世界を救うとまだ気づいていません」
 そうであってほしかった。しかし一介の兵士でもわかる。この国はもう泡沫の城を残すだけの死に体。
 我が帝国からの亡命者は日に日に増えているらしい。それは正しい。合理的であった結果だ。
 そして、自分もあるまじき程に非合理的で有ることを知った。
「リコリス部隊はハインツェル中佐殿を守れ。ここを通すなよ」
 そして、部下たちにも非合理な命令を飛ばす。なんならこんな命令など無視すればいい。

 ああ、帝国よ、永遠なれ。
 願わくば、我が愛する上官に開放(さち)あれ。


 高潔? 本当に高潔ならあんな薬は使わない。
 カノン・イスルギ(CL3000025)は憤りを胸に戦う。高潔であることが素晴らしいのはわかる。だけどそれは誰でもない自分のため。
 ひどいことを言っているのはわかっている。
 螺旋の軌跡を描くつま先が薔薇騎士たちを打ち据えた。
 クルト・バッハマンは部下ではカノンに対応できないと判断すると自らがカノンの前に立ちふさがる。
「カノン・イスルギか」
「カノンのこと知ってるんだ?」
「戦場に咲く向日葵か。さもありなん」
 止まれ、とカノンは奇々怪々を発するがクルトは止まらない。
「ねえ、あなたの犠牲精神、ユリアーナはどう返せばいいの? 返せない恩は呪いでしかないんだから」
 左フックがクルトに打ち込まれる。クルトが苦渋に満ちた顔になる。それは痛み。体ではない。心の痛みだ。
「あの方には呪いにはならんよ。あの方の悲しみは見せかけだ。自分が死んでも悲しい顔をするふりをするだけだ」
 カノンには絞り出されるようなその声が体の痛み以上のものがあるように思えた。

 タップするつま先が軽い。今日のライブはベストコンディションだ。トンと床を蹴り、リコリス小隊を軽く飛び越えるとクルトの前に立った。
 秋篠 モカ(CL3000531)はクルトの説得を考えるが難しいだろう。自分たちがもし帝国を諦めて帰れと説得されても聞き入れることはできない。
 彼から感じることは覚悟。
 ならば。
 モカは愛用のレイピアを持ち直すと、まるで踊るかのように疾風の刃を放つ。
 少女の脳裏を大切だった友人の笑顔がよぎる。彼女のほにゃっとしたかわいい笑顔はもう見ることはできない。
 一緒に歌った。他愛ないことで笑いあった。けれど、そんな彼女は帝国の刃に倒れた。
 もう、犠牲はだしたくない。
 そのために少女は何度も何度も刃を放つ。
 

「今度は私たちが攻め込む番だ! どりゃー!」
 カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は内なる獣を開放し、つま先を蹴って薔薇騎士に震撃を叩き込む。手応えは薄い。
 ヴィスマルクの女神の恩恵の力だ。
「ユリアァァァナッ!! 私だ! カーミラ・ローゼンタールだ! お前が「薔薇の谷の騎士」と呼んだ自由騎士だ!」
「ええ。可愛そうな女の子。子供なのに戦わされて。可愛そう可愛そう」
 手応えが薄かろうとそんなことは構わない。打って、打って、打って、打ち込むだけだ。相手が倒れるまで。
「うあっ」
 ユリアーナに打撃をあたえるカーミラを横合いからクルトが体当たりで妨害した。
 
「みんなをサポートするぞ!」
 サシャ・プニコフ(CL3000122)が即座に回復の術式を展開する。
 大丈夫だ。状況把握はできている。次は聖域を展開。
 この3年の戦いは少女を戦士に変えた。
「サシャはできる女だからな!」
 嘯きながらも、仲間の状況を常に意識し続ける。次はあちら、そして向こう。
 サシャに戦う力なんてない。それでも。戦場を支え続ける力はあるのだ。


 ユリアーナへの導線はクルトに妨害され届かない。ならば先にリコリス部隊を遊撃することがエイラ・フラナガン(CL3000406)にとっては最適解であると認識する。
「ああっ」
 リコリス部隊の兵士が高い声をあげて倒れた。
 チャンスがあればユリアーナにもその東方のシノビの技を届かせんと画策するがなかなかうまくはいかない。しかしエイラがだした最適解は的確に敵戦力を削っていく。
 エイラは自分は正規騎士ではないと思いこんでいる。しかし、彼女の見事な技を、戦略眼をイ・ラプセルの騎士が見ればその指揮下に入ることも吝かではないと思うだろう。
 
「ふふん、いいかしら? 10秒だけまつのだわ? それでも残るのなら私は知らないわよ?」
 デボラ・ディートヘルム(CL3000511) に守られた猪市 きゐこ(CL3000048)は数度目のフォーマルハウトの詠唱を始める。
 数度撃った広域魔道はリコリス部隊の士気を著しく下げている。
 イ・ラプセルが誇る魔道の名手と囁かれるきゐこの魔道力をその身に喰らえば、その噂が真実だと実感するしかない。
「きゐこさん、それ悪役側のセリフですよ」
「そ、そんなことないのだわ!」
 デボラのつっこみに緑のフードが揺れ頬を赤らめた幼いかんばせがちらりと覗く。
 数人のリコリスの兵士がきゐこの降伏勧告に応じその場を後にする。彼女たちの上官であるクルトはその行動を一瞥するものの咎めはしない。
(なるほどね、彼も部下を逃したい気持ちはあるのだわ)
 きゐこはにっと犬歯をむき出しにして笑う。そういうのは嫌いじゃない。
「貴方はいい人だったのかしら、クルトさん」
「無駄口はすかん」
 きゐこは発動をすこしくらいは待とうと思った。クルトの思いに報いるためにも。彼女らが逃げ切るまで。
「しかし薬物を使って、騎士として恥ずかしくないんですかね」
「追い詰められてるのだわ。そういうのが一番怖いのよ。私の故郷ではそういうの窮鼠猫を噛むっていうから、油断は禁物ね」
 ちっちっちと指を降って諭すきゐこ。
「はーい! わかってますよ!」
 目の端でなんだか甘い雰囲気の誰かさん達もきゐこ同様守らないとと思いつつデボラは守りの術式を組み上げていく。

 非時香・ツボミ(CL3000086)(だれかさん)は何時もの何倍もアーウィン・エピに無理をするなと言って辟易とした顔をされていた。
 それでいいのだ。やっと気持ちに気づいた。そんな状態でもし死なれでもしたら……そう一瞬でも思うたびに背中に冷たいものが走る。
 自分は医者だ。戦場で傷ついた仲間を癒すことが役目だ。
 そしてそんな自分の最優先事項はアーウィンの無事。ああ、そうだ贔屓だ。贔屓の引き倒しだ。
 目の前でお姫様を守る騎士殿のことを馬鹿になんてできない。同じだよ。まったく。
 望んだ生き様を貫いて殉じて……それは愚かで不幸に見えるものもいるだろう。しかし一寸先は闇。滅びの足跡が聞こえる今幸福なことのようにも見える。
「怪我人は下がれ! 回復してからまた前にでろ! 特にアーウィン」
 その言葉に赤い髪のライバル殿の肩がピクリと震えた。
「うっせーよ! バカ医者! 平等に回復しろ! 贔屓すんな。お前は俺のかーちゃんか!?」
 アーウィンがうるさそうに叫んだ。
 平等になんてするもんか。贔屓はする。それが私という「バカ医者」だから。
「なんだ、ほしけりゃ乳でもくれてやるぞ!」
「いるかばか!! みんなをしっかり回復してやれ!」
 こんな軽口なら簡単なのに。本当の気持ちを表に出すのは難しいにもほどがある。

「おっとドラマチック」
 戦争ってのはドラマチックからは程遠い悲劇みたいなものだ。そんな中ちいさなドラマにリュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)は苦笑する。
 少々気が緩みすぎとは思うが、これくらいのほうがいい。
 リコリス部隊はすでにこの戦場から離脱している。お姫様への攻撃は王子様だけが防御している状態だ。
 当のお姫様といえば馬鹿力で王子様より強いんじゃないかと思うほどだから、悲劇というよりはスラップスティックコメディにしか思えない。
 割とえげつないダメージは食らってはいるが、ツボミとサシャのおかげで十分に戦線は守られている。
 カノンとカーミラという小さな戦士たちは傷だらけになりながらも最前線で勇敢に戦っている。
「柄じゃないけど。この悲劇をおわらせに来たぜ!」
 語り部である自分が勇者(しゅやく)なんてミスキャストだけれど。
 それでも戦うと決めた。

「アッティーンの供給を断ち切るのは難しかったみたいですねぇ」
 フォーマルハウトの詠唱を紡ぎながら苦々しくつぶやくのはシェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。
 しかし自分たちの行動に無駄はなかった。この戦場に存在する最後のVFが彼らだと思う。
 だから、ここでアッティーンの悲劇は断つ。
「いややわぁ。艶やかからは遠いもん。あのVF」
 つま先でタップしながら、蔡 狼華(CL3000451)は愚痴る。
「同感ですぅ~~、終わらせますよぉ~~」
「ほな、いこか」
 シェリルの言葉に頷いた狼華は最後の悲劇に向かう。

「全く狂気の沙汰ですわ!」
 国も、人も。余裕がなくなっていけばいくほどに狂っていく。
 エリシア・ブーランジェ(CL3000661)は後衛で魔道を練り上げながらため息をつく。
 ぶっちゃけ前に飛び込んでいきたいが、どこかの赤髪の誰かさんがぶーぶー文句をいうからそれもできない。やっぱり怒られるのはわりかし心にくるのだ。エリシアでも。
「どかんどかんしますわよ~」
 ああ、狂っているのはどちらだろうか。
 ヒトがまるで価値のないおもちゃのように死ぬ戦場。こんな悲惨な戦場で自分は笑みすら浮かべている。
 ボロボロの姿で戦う彼らを馬鹿にする気はない。
 同じだ。戦争はヒトを狂わせる。自分もとうの昔に狂っていたのかもしれない。
 だからエリシアは過剰に笑う。本望だ。壊れた戦士。壊れた戦争。
 所詮できることしかできない。やることとできることが一緒なのだ。ならそれで十分ではないか。
 だから少女はことさら幸せそうに笑う。
 足手まといにだけはなりたくないから。

「なかなか足がとまりませんね」
 ダメージは十分に与えている。VFの騎士二人はまだ止まる様子はない。
 萎えそうになる気持ちを奮い立たせてナーサ・ライラム(CL3000594)はコキュートスを撃ち続ける。
 足止めできぬほどにクルトの信念は強いのだろうか?
 その強さがナーサには眩しく思える。

「ほんま厄介やわ!」
 辟易したような声のアリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)
 タンゴのステップで足を止めようとするがうまくはいかない。リュエルが惑わせるのに合わせて、踏み込んでは斬り込む。
 クルトとユリアーナの動きは鈍くはなってはきている。少しずつ、すこしずつだけど前には進んでいるのだ。この戦場のみんなが女神のもとに迎えるようにとアリシアは気持ちを奮い立たせた。
「ッ!?」
 一瞬の隙だった。ユリアーナと目があう。
「可愛そう。本当ならドレスをきて殿方とダンスしているのが似合っているのに」
 そういってふんんわりと笑む女騎士の切っ先がアリシアに向けられ神速の斬撃がアリシアを襲う――。
「おっとお嬢さんをまもるのがおまわりさんですからね」
 はずだったが、にぃっとサブロウ・カイトー(CL3000363)が武器でその斬撃を打ち払った。
「わぁっ、おおきにやでー!」
「いえいえ、もうすぐです。もうすぐおわりますから、まだ倒れさせはしません」
 それは守るものの矜持。
 アリシアは頷くとつま先を蹴って前に出る。


「アーウィン、ちょっとは私のこと、意識してくれるようになったか?」
 それは戦いが始まる数刻前。戦闘準備を続ける彼のとなりでグローリア・アンヘル(CL3000214)はマフラーを腕にまいて縛りながら問う。
「はい?」
 この答え次第で自分は戦う気持ちが萎えるかもしれない。けれど――。
「答えてくれ」
「なんだよ、グローリア。わかんねえけど、そんなん言われて意識しないほうがおかしいだろ……」
 言って耳まで染めるアーウィンに苦笑する。嬉しさがあふれる。一歩前に進めたのだ。これで。――私は騎士として戦える。
「死ぬなよ、アーウィン。死んだらお前の血を吸い尽くしてやる」
「はぁ? 死体蹴りはよくねえんだぞ! っていうか怖いわ」
 その返答にグローリアは少女のように笑った。失われていた時間を取り戻したかのように。
 
 キィン、キィンと赤髪の女騎士たちの剣戟の音が戦場に響く。
 貴族としての地位、矜持、そして女としての華やかさ。それはグローリアが求めてやまないそれ。
 理想の女騎士としての姿がユリアーナだった。
 しかし彼女の瞳は濁り、口元からは唾液が滴っている。彼女が「高潔」の末にたどり着いた答えが「これ」であるならば彼女が進んだ道は間違いなのだと断言できる。
 クルトはこの女を守ろうとして、カノンとカーミラの鉄拳によって倒れ伏した。鬼気怪々を発動し動きをとめようとしたが失敗におわった。
 ユリアーナは倒れた男を見向きもしない。グローリアはユリアーナと打ち合いながら、倒れたクルトにこんな形で勝つことが本懐なのかと問いかけた。答えはない。
「どうして上官を止めてやらなかったんだ」
 絞り出したもう一つのその問いかけにクルトは笑みを浮かべた。
 それが答えだ。グローリアと同じ思いだ。
 惚れた相手のために戦う。低劣な思い。
「ハインツェル中佐殿。……ご武運を」
 そう言って愛しい女に微笑んだ男は事切れた。
「クルト、可愛そう、ふふふ、私のことを愛していたのでしょう? それなら抱いてくれればよかったのに。意気地なしなんだから! 股くらいひらいてあげるわよ。ねえ知ってる? この男私が誘ってあげたのに、私を奪うこともできなかったのよ。本当に意気地なし。そんなのが美しいとでもおもっていたのかしら?
 どう想う? 私にそっくりな騎士さん?」
 ユリアーナは自らをかばって倒れた男の頭を踏みつける。パキリと軽い音。クルトの脳漿は頭蓋から飛び出し花火のように散った。
 数人の自由騎士が息を飲む。
「狂ってますわね」
 エリシアが呟く。
「ふざけるな」
 グローリアが吐き出すように言った。
 ユリアーナが踏みつけたものは低劣かもしれないが純粋な想いだ。それが許せなかった。
「なあに? なにを怒っているの?」
 グローリアは魂を燃やす。
 目の前の醜悪な女を終わらせるために。理想とは程遠いこの女を終わらせるために。
 グローリアの赤い髪が燃える。比喩などではない。烈火と化す。
「まあ、きれいだわ」
 それが女の最後の言葉だった。グローリアの軍刀(サーベル)が燃え盛りながら女の心臓を貫き焼き尽くす。
 女は貫かれたまま焼かれ、数秒後、黒炭となって零れ落ちた。クルトの亡骸と重なるように。
「なにが、きれい、だ。バカバカしい」
 グローリアの燃え盛る髪の先端から炭となって風に散っていく。体の力が抜けていく。奇跡が終わる。
「グローリア!」
 アーウィンが走り寄ってグローリアを抱きかかえた。まだ奇跡が続いているのかと思った。
 ああ。せっかくせめてもの女らしさだと髪の毛を伸ばしたのに短くなってしまったな。
 腰まであった髪は肩口まで焼ききれている。
 アーウィンは長い髪のほうがすきなのだろうか……そんな場違いなことを思いながらグローリアは意識を手放した。
 
 
●マッド
 戦端が切り開かれた戦場では激しく銃撃の音が響く。
「貴様の相手は俺だ。貴様の自慢のプロメテウス、俺達の愛機で鉄くずに変えてやる」
 ベガ開発者であるアデル・ハビッツ(CL3000496)の指先はコンソールを走れば、アル=ワーキが射出される。
 最初から弾数はすべて撃ち尽くすつもりだ。
「キチキチキチ。なにそれ。ボクチンちゃんのプロメテウスの劣化版じゃん! なにその砲塔。
 美しくな~~~~~~~~~~~~い。無駄だらけ無駄だらけ。俺様様のプロメテウスパクってそれ~~~~~~受ける~~~~」
 ウィリアム・ギブスンがダメ出しをしながら弾丸をばらまく。
「はいはい、やるけどさあ」
 激しい蒸気音。
 下手に手を出せば踏み潰されてしまいかねないと、リィ・エーベルト(CL3000628)は後衛からプロメテウスに狙いをつける。
「いつになったらヘルメリアとの戦いがおわるんだろうな」
 イカレ野郎めと毒づきながらザルク・ミステル(CL3000067)は腕部の関節を狙う。
 音波兵器の圧力の所為もあって、耳の調子が悪くなりそうだ。それに戦うだけでは足りない。
 事前に明示された逃げ道の存在。わからない。どうにも精巧に隠されているようだ。ならぶっ壊せばいい。
「まったく、ろくなやつがいねえな。薬中漫才に病人に。
 このデカブツが一番ましってもんだ!」
 卑怯卑劣で強い。結構結構。
「正面からたたきつぶしがいがあるってもんだ」
 ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は新しく得た東方の剣術をまるで幼い頃から使いこなしてきたかのように振るう。
「ギブスンはここで必ず殺す」
 守るために立ち上がった少年が今、その殺意を顕にする。
 ナバル・ジーロン(CL3000441)という少年はウィリアム・ギブスンによる悲劇を今までなんども見てきた。
 改心などする人格でもないことはよくわかった。
「よく言った。同意だ」
 アデルはナバルの意思に同意する。そのとおりだ。彼をこのまま生かせてはおけない。
「アンセムさん、大丈夫ですか? 怪我を治します」
 アンセム・フィンディングと並んで衛生部隊と共に回復を担うのはたまき 聖流(CL3000283)だ。
 彼女らの前にはナバルの大きな盾。盾があるから回復にも専念できる。
 ウィリアムの実験内容をたまきもまたよく知る。命はひとりひとりひとつしかない大切なものだ。それを消耗品のように使い捨てる悪魔の所業には怒りがこみ上げる。
「たまき。こっち、看て……」
 戦場にでることなんて少ないだろうアンセムの指先は震えている。
「わかりました」
 下がってきた自由騎士の怪我をたまきは癒やす。
「大丈夫、勝とうね……」
 たまきの手に触れアンセムも回復の術式を重ねる。
「はい」
 大切な人がそばにいることがどれほどまでに心強いか、彼はわかっているのだろうか?
「戦場から日常へ。終わったら一緒に絵をかいてくださいね」
「……わかった。きっと、この戦いの絵を、完成させる。こんどこそ……」

 神の蠱毒の勝利のために戦って――。
 そうなったらアクアディーネ様とエドワード様はどうなるのでしょうか?
 今までのハイオラクルは自らの神をまもりそして散った。
 じゃあ、エドワード様は? セアラ・ラングフォード(CL3000634)は頭を振ってその恐ろしい未来を振り払う。
 だめ、今は集中しなきゃ。
 ベガ搭乗者を守るべくセアラは術式を展開する。いつもより忙しく、いつもより丁寧に。
 不安を振り払うように。

「あまり壊さないでくださいね! あと私の分も弾丸のこしておいてください!」
 ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は普段とは大違いの大声でアデルに声をかける。
「善処する」
 言いながらも装甲弾を連発するアデルにほんとにわかってるんですか? と愚痴りながらもマーチラビットを炸裂させる。
 アン=ナスルの効果によりダメージの浸透はしているが自動修復システムが起動するまでにはまだ至らない。
「皆さん! 攻撃を集中させてください!」
「あいよ!」
「まかせて!」
「了解だ」
 ロザベルの指示に、ロンベルとリィ、ザルクが答え破損箇所にむけて攻撃を連ねさせる。
「はいはい、おまかせを」
 がしゃんと、巨大な十字架を構えたアンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は灼熱の弾丸を何度も放出する。
「ただひたすらに前へ!」
 そこにこそ未来があるのだから。
「装甲歩兵隊はブロックを!」
 ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は部隊に指示をおくると自らは獅子吼でのパラライズを狙う。
 バッドステータスを回復する手段があることはわかっている。その機能を誘発し、性能を低下させる目的だ。
 その作戦は意外にも有効に作用する。
 
「呼びかけに答えてくれて嬉しいよ」
 まったくもって嬉しくなさそうな声でヴェルナー・シュトルム・ヴィンターはかつての友人に答えた。
 テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は頷く。
「宣言通りだ。障壁になるなら排する」
「ああ。お前ならそういうと思った」
 ワインの封はまだ開けていない。自分が開けるか、それとも彼が開けることになるのか。それは終わってみないとわからない。
 テオドールは年若い妻とそして嫡子を思い出す。
 わからないではすませれない。と思い直す。彼らのために生きて帰らなければならない。
 テオドールの武器はたったひとり、ヴェルナーにだけ向けられる。欲張っていられる状況ではない。
 激しい魔弾戦が繰り広げられる。まるで世界が二人だけになったような気すらする。
「貴様、腕をおとしたな」
「冗談、貴様とて技のキレが昔のほうがあったぞ」
 あのときの、友として磨きあっていたあの頃を思い出す。

「アードライ、生きていた」
 敵国で出会った同族。名前を名乗ってくれた、同族。
 戦乱は激しくもう出会うことはなかったとおもっていたのに。サーナ・フィレネ(CL3000681)はほっとする。
 同族の少年はこちらにも気づいたようで、口を開こうとしたがそこで止まる。
「サーナ。サーナ・フィレネといいます。貴方の敵です」
 名乗ることができなかったのがずっと心に棘となってのこっていた。
 サーナが武器を構えれば、彼もまた同じように構える。同族とて戦場で出逢えば敵同士。殺し合いをすることになるのはわかっていた。
 (神様。 アクアディーネ様。権能をお貸しください)
 サーナは女神に祈り、術式を解き放った。
 
 状況は進む。お互い満身創痍のテオドールとヴェルナー。先に膝をついたのはテオドールの方だった。
 銃口が額に向けられ、引き金が引かれる。
 あっけない終わりだとテオドールは笑い目を閉じる。
「テオドール殿が諦めるとは珍しいこととがあるものだ!」
 大きな背中ときらめく金の髪。
 シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が両手を広げ友を守る。
「ゼッペロン卿……」
「テオドール殿のご本懐、遂げるための手伝いは厭わない!」
 そうだなと、テオドールは覚悟を決める。
 それは女神戦で切ろうとしていた切り札。このまま戦っていても自分は彼には勝てない。できて相打ちだろう。
 覚悟を決めた彼にリィはアンチトキシスをかけてウインクする。
 随分と不器用で愛らしいウィンクだなとテオドールは苦笑して仲間の支援をありがたく思う。
 テオドールは帰るべき場所がある。そして目の前の敵は排除する必要がある。
「死力を尽くして。
 それは脆弱な島国にとって最初からだった」
 切り札を切った。魂がきしむ音。
「漸く辿り着いた。
 犠牲もあった、何度『もしも』に焦がれただろうな。
 しかし現実はここだ」
 指先に闇が灯る。物質化した扉がテオドールの背で開き、呼び声が繋がる。
 黒い無数の手が、友を闇に引きずり込まんと伸ばされる。
「わが親友よ」
 死の概念が友を呼ぶ。ヴェルナーはその向こうに何かをみて、微笑む。そう、前妻と話すとき彼が彼女に向けていた微笑みだ。ヴェルナーの口が音もなくその名を呼んだ。
 テオドールは振り返りたい気持ちを抑え、親友の目を見つめそして――。
「「さよならだ」」
 死にゆく男と生きると決めた男。二人の男から別れの言葉が重なった。

「ああ、もう、厄介ね」
 リィがプロメテウスの自動修復プログラムで修復されていく装甲に毒づく。
 ここで戦う皆が同じことをおもっただろう。わかってはいたが目前にすると嫌になってくる。
 キチキチと不快な笑い声が苛立ちを募らせる。
「おうおう、おかわりかい?
 そりゃあイタレリツクセリだな。回復したならその倍ぶん殴ればいいだけだ」
 ロンベルだけは嬉しそうに笑う。
「後は力の限り打ち込むのみ!」
 力を使い尽くし倒れたテオドールを下がらせもどってきたシノピリカがバッシュを打ち込んで叫んだ。
 硝煙の匂いが充満するこの区画の壁はあちこちが崩れてきている。
 激しい戦いとザルクが怪しいと思う場所はとにかく壊しまくったからだ。
 そのせいもあってザルクはウィリアムから狙われたがナバルの防御でなんとか倒れずにはすんでいる。
 
「ロザベル! 夏の大三角は見えるか!」
 アデルが事前に決めておいた合言葉をアン=ナスルを撃ちながらロザベルに告げる。それは交代の合図。
「はいはい、よくよく見えます!」
 彼がやりたいことはおおよそ予想がつく。合言葉のあと空になったコクピットに乗り込んだロザベルはドライブテクニカを駆使し、繊細にコンソールに指を走らせ、手早くアデルの設定を自分の設定にセットアップする。
「弾数……少ない」
 けれど彼がやりたいことにつなげるくらいはなんとかできる。ロザベルは体当たりでプロメテウスにしがみつく。これでアデルは腕を伝って向こうに渡れるだろう。
「みんな! アン=ナスルを打ち込むタイミングで総攻撃して 場所は中央部下。そこにコクピットがあるはず」
 自分のもつ蒸気機関の知識とそして観察眼によりおおよその位置はわかった。
「キキイイイ!! なんなん?? こいつらうざーーーーー!!!!」
 装甲が剥がれ、ウィリアムの姿が顕になる。
 アデルが回り込んでいることにはまだ気づいていない。
「私達のベガの機能はすばらしいでしょう?」
 ロザベルがことさら大きな声でウィリアムの気を引く。アデルをウィリアムのそばに近づけるために。
 ロザベルは思う。彼が道を踏み外したのはなにも故郷(ヘルメリア)が滅びたせいではないだろう。元から備わっていた彼の狂気がそうさせているのだと今なら思う。
「きいいいい!!! クソだっつの! くそくそくそくそ」
 ダン!
 と、音をたててアデルがプロメテウスの壊れたコクピットの前にたちはだかり、ジョルトランサーを構えた。
「"機械野郎"がお前の十三階段だ。レイ・ブラッドベリと同じ地獄に送ってやる。長い刑期になりそうだな、クソ野郎」
「きいいいい!!! クソクソクソ糞クソ!! なんだよ!? お前ら! いやあああああああ!」
 追い詰められたウィリアムは叫びめちゃくちゃにコンソールを叩くが弾は明後日の方向にとんでいく。
「みっともないといいますか」
 ミルトスが往生際の悪さに半眼になる。
「来ます!!!」
 セアラが数秒先の未来を視て警告する。自爆し、アデルがもろともに吹き飛ぶ未来。
「させるわけ、ないでしょう!!!」
 ロザベルが叫ぶ。魂がギシギシときしむ。背筋が凍る。今、爆発するという宿業を捻じ曲げる。
「なんでだよおおお!! 自爆してにげないと死ぬじゃん研究できなくなるじゃんやめろよお! ふざけんなずるいじゃんか~~~~~」
 ウィリアムがコンソールをなぐりつけながら叫ぶ。自爆プロトコルを送信したはずなのに反応がない。
 それどころかエラーを表す表示が増えていく。
 ロザベルはこの見苦しい姿にせいせいとする。最高の技術者がなんだ。
 そうだ。お前の放つ言葉が虐げられたものの嘆きの声だ。
 そういってやろうと口をひらこうとしたらぐらりと目の前が霞む。
 まだ戦いは続くというのにとても眠い。
 神殺しをしなくてはいけないのに。宿業をまげるということはこれほどのダメージなのかとおもいつつ、せめてとアル=ワーキの残り弾数をすべて、プロメテウスの機関部に同時に打ち込んだ。まるでバターにナイフをいれるかのような容易さでプロメテウスが破壊されていく。
 プロメテウスのすべての機能が停止していく。
 技術者として奇跡が機構を凌駕することに思うことはないとはいえないけれど。でも、それでも、それが爽快でしかたなかった。
 
「くそう! 死ねシネシネシネシネ!!!!!」
 プロメテウスはロザベルの奇跡で完全停止した。機体を動かし機械野郎を振り払うこともできない。
 ウィリアムは拳銃を取り出し、目の前のアデルの腹部に向かって何度も引き金をひく。
「くず鉄になれよお!! 機械野郎!」
 アデルの腹部からは大量の出血。それでもアデルはウィリアムに近づき指向性ベアリング弾とジョルトランサーを同時に撃ち出す。
 その無茶は自分に跳ね返ってくることは覚悟の上だ。女神を倒す余力はない。が、それでかまわない。この悪魔を屠ることができるなら。
「ぐわあぁあ!」
 コクピットから人影が落下する。
 その人影をロンベルが一閃すれば――胴体から放たれた頭部が二度バウンドして落ちた。
 

●ヴィスマルクの皇帝という男

「君さ、無理したら死ぬよ。僕が完全無欠の天才アルケミーだと言っても死をどうにかすることだけはできない」
「余は貴様を完全無欠でも天才だとも思ったことはない。阿呆の道化師が関の山だ」
「おいおい、ユウジンにひどいなあ。まあ僕ぁ君のそんなところは大好きさ。死んでほしくないと思う程度にはね」
「戯言を」
「ここが君の死に場所でいいのかい?」
「何も守れずに死ぬくらいであれば、ここが余の散る場所で構わん」
「じゃあせめてさ、これくらいはさせてよ」
 アレイスター・クローリーがアドルフの背を軽くなでると、肺病の痛みがうすれていく。
「また面妖な術を」
「まあ、そういう面妖なのが僕の取り柄だからね。痛みはなくなっただろう? これなら戦える」
「礼を言う。友よ」
「どういたしまして、我がユウジン。君が死んだ後は任せてくれよ。ヴィスマルクの民を悪いようにはしないし君のご令息も悪いようにはしないよ」
 彼らイ・ラプセルの騎士なら。その言葉をクローリーは飲み込んだ。

 これも、クローリーさんなりのケジメ、でありますか。
 デコイの向こう、皇帝を守るようにニヤニヤ笑ういつもどおりの道化師を見てフリオ・フルフラット(CL3000454)は思う。
 武器を構えデコイごと砲撃をするが皇帝には届かない。

「佐クラ嬢はデコイを」
「わかったわぁ」
 佐クラ・グラン・ヒラガの前にたちウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はヴァレッジファイアを放つ。
「すごいねえ、ウェルスさんの戦ってるとこはじめてみたけど強いねえ」
 のんきな言葉に鼻を伸ばしている場合ではない。自分の任務は彼女を守ることだ。
 えいや、と佐クラがデコイをスパナで殴ればヒビが入る。そういえば彼女のスパナ捌きでなんども殴られた痛みはそれなり以上だったと思い出す。
 創造神側のオラクル――無印のオラクルもこの戦場にはいる。具体的にはアルヴィダだ。
 この状況で最高の邪魔はモリグナを横取りすること。だが――アルヴィダや彼女の仲間には女神には手出し無用と言ってある。それを破ることはないだろう。そもそも、創造神のハイオラクルであるアレイスター・クローリー本人は創造神を殺すことを目的に動いているのだ。創造神は無印のオラクルであれ個人を操ることができないというのが答えだろう。
 だとしたらもう一つの懸念はアクアディーネ神の暗殺。もし何かあるなら水鏡に反応はあるだろうし、護衛を信じるしかない。
「おっと、佐クラ嬢前に出すぎだ」
「あらら、気合はいりすぎたわぁ」
 ならば、自分ができることはウサギちゃんを守り女神を倒すことだけだ。

 思った以上にクローリーの攻撃は容赦がない。全体攻撃をしたとおもえば、皇帝に近づく敵を跳ね飛ばす。
 フロレンシス・ルベル(CL3000702)は必死で皆を回復させるように立ち回る。
 息がきれてくる。
 絡みついてくるアクアディーネの姿のデコイを振り払うのは流石にどうしても嫌な顔になってしまう。
「そうそう! そういうの! そういうの見たかった!!」
 器用に手を叩きながら攻撃魔道を展開するクローリーに眉根を寄せればもっと嬉しそうにするのがが憎たらしい。
 回復の手があいてたらエコーズでぶん殴ってやるのに。
 
 同じようにあえてミトラースに似たデコイを選んで壊すダナエ・アルジェント(CL3000616)にあえてクローリーはアクアディーネのデコイをけしかけた。
 ダナエの眉根がきゅっとシワをよせる。
「偽物だとわかってても嫌なんだよね! いいねいいね!」
 からかう声が鬱陶しくてユピテルゲイジをアクアディーネのデコイにぶつけて破壊する。
 これは偽物。本物のアクアディーネを、ひいては自分を受け入れてくれたイ・ラプセルを守るためにやるときはやるのだ。
 そもそも本物がこんな風に砕けるわけがないのだから。
「いくらでもけしかけてこればいいじゃない。この程度でなんともならないわよ」


「俺、アレイスターが真面目に戦ってるのはじめてみた」
 こんなときだというのにいつもどおりにマイペースにルエ・アイドクレース(CL3000673)は呟く。
 正直やってられない程に強い。反則だといいたいくらいだ。
 だけど、だからこそそのまま負けるのは癪だから、自分のもてる力を全部出して戦う。
「ルエ・アイドクレース。前に食べたヌードルはおいしかったよね」
「そうだな。それより美味しいのみつけたんだぜ! こんど食いにいこうよ」
 切り札のジュデッカを出したと言うのに彼はまだ倒れてくれない。余裕すらみえるのがムカつく。
「強いじゃん」
「そりゃどうも」
 それでもルエは楽しかった。余裕ぶってるだけで、ちゃんと自分の牙は届いているのだから。

 ハイオラクルは強いものだと思っていた。なんたって国の王様なのだ。
 けれど、数人しかあったことはないけど、悲しい人だとおもう。目の前の彼だって敗戦処理を押し付けられたようなものだ。
 最も神様にちかくてそして、最も愛されていない、道具。
 だとしたら――アレイスターさんも同じ、なのかもしれない。
 ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)はヨウセイでありながら、呪術師の力を放つ。
「貴方は神を愛していますか?」
 つい溢れた疑問に一瞬だけ皇帝が笑った気がした。
「もちろんだ」
「神に愛されていたと思いますか?」
「どういう形であれ、神たちはヒトを愛している。そうは見えなくてもな」
 真摯に返されたその言葉に自分の思い違いをティルダは恥じる。だとしたら、きっとエドワード陛下もアクアディーネ様に愛されている。そして私達も愛されているのだ。そう思えることは力になる。
「ありがとうございます。ならば、憂いなく戦えます」
 ティルダは皇帝を倒すための術式を練り始めた。
 

「悪趣味ね」
 泥人形を一瞥しながらステラ・モラル(CL3000709)は吐き捨てる。
 アクアディーネ様もヘルメス様も誰をかたどっていようが同じ。運命を狂わせたものたちだから。
 あんたが欲しがるような顔なんてみせてあげない!
「おいおい、ご機嫌ななめだね? ステラ・モラル」
 いつの間にやら背後に近づいてきたクローリーの頬をステラは振り向きざまに殴った。
 こういうのは得意じゃあない。手の甲が痛む。
「あんたはお父さんが死ぬって知ってたんでしょ」
「もちろん」
 パシン!
 やけに高い打撃音。何度も繰り返し殴る。顔の形が変わればいいとも思う。
「気が済んだ?」
「済むわけないわ」
 道化師は悔しいほどに変わらない。殴らせてくれたのだとわかる。それが悔しくてしかたなかった。

「皇帝として最期までこの場にいることは敬服するよ」
 マグノリア・ホワイト(CL3000242) は練り上げた術式をクローリーに向ける。
 当の本人はといえば涼しい顔なのが腹が立つ。
 なにより、彼が選んだのが自分たちではなくヴィスマルク皇帝だということ。それは幼稚な嫉妬かもしれない。
 自由騎士になったころの自分とは違う思いが胸に渦をまくがそれが何かはわからない。
「君はアドルフに、何を見るのだろう……?」
「ユウジョウさ! 僕らのユウジョウはだれにも打ち破れないんだぜ!」
 はぐらかすようなその言葉にちくりと胸が傷んだ。
  
「んも~~~!! アレイスター!!! あたしというものがありながらそんな男に肩入れするなんて酷いーー!! ブーブー!!」
 自らに眠る獣の力を開放して、ホムンクルスと突撃するのはクイニィー・アルジェント(CL3000178)。
 あれくらい素直に感情表現ができるのであればどれほど楽だったのだろうか。マグノリアは苦笑する。
「え? 誰だっけ? 君」
「あー、ムカつく! わかってていってるんでしょ?! 解剖してやるんだから!」
 キーキー叫びながらクイニィーがとびかかるのをひょいひょいとクローリーは避ける。
 若干クイニィーも楽しそうなのだからただのじゃれ合いにしか見えない。


 最期まで帝国の皇帝として、ですか?
 心底そう願ってるなら病床で死ぬのは救われない。なるほど、最期まで護国の王として気高く死ぬために「助ける」ってことなんでしょーね。
 ジャム・レッティング(CL3000612)はどう転んでも結果道化師が友人を『助ける』ことに相違ないとため息をつく。
「立派っすよ、ほんとに。国の核が、替えのきかない立場のものが戦ってる時点で戦略レベルでは敗北してるんじゃないですかね!」
 アクアディーネ似のデコイの首筋に牙を立てながらジャムは叫ぶ。なんとも背徳的なその姿にクローリーはにやけているが無視無視。
「そのとおりだ。
 我が帝国は貴様らにここに来られた時点でもう敗北している」
 アドルフは静かに答えた。
「だからこそ、余はここで貴様らの前に立つのだ」
「そりゃありがたいこった!」
 アルヴィダ・スカンディナが踏み込んで、皇帝を狙う。
 ギィン、とその刃が阻まれた。
「どういうことだい? あんたでもことによっちゃ許さないよ」
 アルヴィダの目が、細められ今皇帝をかばった男を睨みつける。
 その行動はアダム・クランプトン(CL3000185)のエゴでしかない。
 見てしまったのだ。水鏡で道化師と皇帝の会話を。
「わかってる、このエゴを貫くことでたくさんのヒトを裏切ることになることは」
「そのとおりさね。 アタシはあんたごとでも殺せるんだからね。いいかい? こいつはアタシを取り巻くすべてを奪った憎い敵だ」
「ひいてくれ、アルヴィダさん!! その代わり誰かを憎む以上の幸せを、僕が貴方に与えてみせるから!!!」
「はぁ????」
 アダムは自分の言葉が何を表すのかわかっていないのだろう。アルヴィダは目を白黒させている。この場にカーレントがいたらわざわざ曲解した理由を説明してくれるのだろうが、いかんせん戦場は別だ。
 毒気を抜かれてしまった。自分が彼をスキになってしまったあの時と同じように。惚れた相手には勝てない。
「ああ、もうやってらんないよ。バカバカしい。
 アタシはヴィスマルクがぶっ壊れたらそれでいい、ああ、もう! ほんとにもう!! ばかばかしい!!」
 アタシがスキになった男がここまで馬鹿だとは思わなかったと吐き捨てるとアルヴィダは踵をかえす。
「アルヴィダさん……ありがとう。すまない」
「それ以上喋ったら殺すよ、アダム! ひとついっておくよ。そいつはもう助からない。だからアタシはどうでもいいだけ」
 水鏡が告げた皇帝のタイムリミットは近い。
 だからアダムは奇跡を願おうとする。
「おいおい、美しくない奇跡だね。僕ぁそういうのはスキじゃない」
 クローリーはトン、とアダムを軽く押して突き放す。触られただけだというのにアダムの巨体は壁際にまで吹き飛ばされた。
「イ・ラプセルの白騎士よ。余を憐れむな。余を救おうとするな」
 それは拒絶だった。
「アレイスターさん、貴方は皇帝を助けるといった! このままじゃ彼は……! だったらその前に!」
「言ったよ。だから助けるのさ。彼の矜持をね。命なんかじゃない。それよりもっともっと大事なものだ」
 クローリーはいまだかつてないほどの冷たい目でアダムを睨みつけた。
「だからって死んでしまったら意味がないじゃないか」
 吐き出すようなアダムの言葉。何度も目の前で失われる命を見てきたからこその言葉。死んだものはなにがあっても生き返ることはない。
「貴様も知るがいい。意味のある死を。
 ……白騎士よ。ひとつ頼みがある……我が国の民の行く末を頼む」
 アダムは気づいてしまった。彼の命を自分がどうこうしても侮蔑を与えるだけで真の意味で救うことにはならないのだと。
「わかりました。アダム・クランプトン、貴方の願いを拝命いたします」
 アダムは地面を殴り、そして皇帝と目を合わせて頷いた。

「決着をつけさせてもらいますよ。貴方もそうすべきとおもっているようですので」
 デコイの数は少ない。皇帝への斜線は通りやすくなった。
 3年前女神の置き土産、鉄血の心を携えてフリオが皇帝に照準を合わせる。
「そろそろ終わりだ」
 ウェルスの胸で佐クラのお守りが揺れる。照準器のレティクルが敵を捉える。
「こっちもお手伝いしますよ」
 ジャムの指が引き金をひく。
 
「はは、彼ら本気だね」
 クローリーが自由騎士たちの猛攻を防御しながら頬に汗を浮かべた。ルエはその表情に満足気に笑う。一発かましてやったと。
「それでいい。そのために、倒すべき帝国の象徴として余はここにいる。
 我らの敵に我ら帝国民を託すことができた。
 そして……友よ。アレイスター・クローリー。貴様に願いがある」
 その後ろでアドルフは静かに言う。
「女神を頼む」
「合点承知」

「アレイスター!!」
 マグノリアがクローリーを呼び止めるがすでに残る数体のデコイともども姿を消していた。
 マグノリアはここでクローリーをとめるつもりだったが、そのためにはもう少し仲間とのコンセンサスが必要だった。
「アレイスター! もう!! こんどは追いかけっこ? いいよ!」
 誰よりもいち早くクイニィーはクローリーを追いかけていく。皇帝なんてどうでもいい。

「余はヴィスマルク五世。
 イ・ラプセルの騎士よ。女神を討たんとするなら余を倒せ!」
 そう言って自由騎士の前に立ちはだかる皇帝の顔はどこまでも満足げだった。
「騎士アダム・クランプトン! 我が信念全てを守り救う事也!」
 アダムが名乗りあげれば、皇帝は頷く。
「終わらせます」
 ティルダが親友の瞳の色を宿した杖の宝石を指先で撫で構える。貴方に友人がいたように、私も友人と共にある。
「……」
 今は回復の必要はない。フロレンシスは攻撃に転じる。
「悪いけど、私の目標はもっと先だから」
 ステラもまた武器を構える。
 自由騎士たちの攻撃は一点に収束する。

● 女神モリグナ
 
 ついに彼らはここまできた。
 最初は吹けば飛ぶような弱小国だった。彼らは奇跡を味方にし他の国々の神を殺しここまできた。
 なんという、ドラマティック。
 なあ、そうおもわないか? モリグナ!!
 ……もちろんそういった瞬間僕ぁ一度殺されたけどね。

 前哨戦を乗り越えやってくる自由騎士たち。少し目減りはしてるけどまあまあそこはご愛嬌。
 さあ、語ろう。
 騎士たちの勇敢な英雄譚を。
 さあ、幕の最期までごゆるりと。

「きたか。おまえたちすべて殺してやろう。アクアディーネはそのあとゆっくりと殺せばいい」

 ウェルスはマッドハッターで体能力を上げるとモリグナにはりつくように近づく。
「女神様と相乗りとは光栄だ中々スレンダーな寸胴じゃないか」
 彼の悪態に一瞥すると女神は破壊の矛槍を振るう。一瞬にしてウェルスの体力は削がれ膝をつく。

 その隙を縫うかのようにモカは攻撃をしかけるが避けられる。
 ロンベルの愚直な一刀両断は片手で止められた。
 エイラが正面から肉薄するが吹き飛ばされる。
 ザルクのパラライズショットも躱される。
 アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)がザルクの弾丸とタイミングをずらして射撃するが指先でその弾丸を捕まれ粉々になった。
 アンジェリカは連続攻撃で表裏快刀乱麻断ちを振るが手応えはない。
 クイニィーは修復中のクローリーの隣で観戦している。
 
 カノンの足がすくむ。
 怖くないと言えば嘘になる。だから無理矢理にでも前にでる。
 全力のクララノでの攻撃もどれほど効いているのかわからない。それでも!

「モリグナぁああ!! あの鴉女神の本体!
この拳に、この体捌きに、見覚えがあるだろう!」
 カーミラが鉄塊でもって突っ込む。なんなくあしらわれ、歯ぎしりする。
 
「さぁ皆! 3年前の借りを熨斗をマシマシで返してやろうじゃない! ってみんな待って! 猪突猛進すぎるのだわ!」
 そのまま突っ込んでいく仲間に焦り鬼斧神工のバフをきゐこがかける。
「アステリズムでお守りしますぅ~」
 大ダメージをうけたウェルスに急ぎシェリルはアステリズムの守りを展開する。
「では私もそのお手伝いを」
 エリシアはこの中で的に回られたら一番厄介なものを見繕ってアステリズムを展開した。
 
「わあ! みんな一気に突っ込んだらサンクチュアリがやりにくいぞ! でもサシャはできる女だから頑張るぞ!」
 慌てながらもサシャは前衛を守る。

「みなさん!
 ここが正念場です。回復はまかせてください。みなさんは前に!」
 たまきが叫ぶ。アンセムは負傷者を運ぶようにとお願いした。もしものことは起きることはない。
 ツボミ、ステラ、フロレンシス、サシャ、セアラが頷く。
 この戦場を支えるのは彼女らの仕事だ。憂いなく仲間が戦うための土台がどれほど大切かはこれまでの戦いでよく理解をしている。

 ダナエが新緑の風でみなを強化する。
 
 けれど、けれど。
 彼らの攻撃は届かない。
 戦女神を舐めていた。降り注ぐ攻撃に膝をつくものも多い。
 オラクルが神殺しができることは知っている。なのにその凶刃の前に自らが立つことのできる自信が女神モリグナにはあるのだ。
 絶望感。
 それは心を食い尽くす死に至る病。
 
 ミルトスが一歩前にでる。
「これですべてが終わるわけではないけれど」
 そのとおりだ。蠱毒の完遂は最初の一歩でしかない。
 カツン、と軍靴の足音。その足先から。
 修道服がましろの豪奢なドレスに變化していく。
「闘争、戦争。忌み嫌われるそれ。
 私はそれも世界のひとつとしてすべてとしてあいしています」
「貴様…っ?!」
 相対する黒の戦女神と酷似したそれは偽りの、奇跡の白の戦女神。
「闘争が誰にも愛されなかったというのなら。私はそれこそを救いたかった」
 神に使えるシスターとして祈りを捧げてきた、戦うことを愛した少女の最期(とうたつてん)。
「これが私の信仰」
 ドレスの裾が翻る。
 と同時に女神モリグナの纏うオーラが消える。
「これが私の誓い」
 手をのばす。
 モリグナの力が削がれていく。
 戦を司る神造人形の権能が大幅に低下していく。
 エピメテウスの焔はこの身に刻まれている。彼がエイドリアンが守りたかったもの。自分はそれを知っている。
 その為ならば。
 ここが果てでかまわない。
 戦いの女神に――戦いに果てをもたらす概念。少女はそれを願った。
 願いは叶う。
 答えはもうわかった。
「皆さん、今です。長い間は持ちません。終わりを。
 戦いを終わらせましょう!!!」
 そう叫んだ白の女神は不敵に。われこそが戦いの化身であると微笑む。

 カノンは神を殺すため、ずっと自らを磨いてきた。
「カノンはね、アクアディーネ様が神様だから従ってるんじゃない。アクアディーネ様がアクアディーネ様だから戦ってるんだよ」
 未だに神の蠱毒の意味なんてわからない。
 けれど。
 国をまもりたいという信念が彼女を強くした。
「くらえええ!!」
 叫び放った拳は女神を打ち据える。

「史上初、神を打ち破ったのは私だ!
 そして最期に打ち破るのも私なんだ!」
 カーミラもまた拳を振るう。打ち込んだ拳から血がにじむ。けれどかまわない。何度でも何度でもしぶとくぶっ叩いてやる!

「ふふ、ここがラグナロックとかいう場所かしら?
 おもしろいわね!」
 自分は勇者とかそういうのは似合わない。老獪な神の算段、鬼の謀が似合うのだ。
「千年鼬、いってくるのだわ」
 鼬の形をした稲妻が女神に体当たりしてスパークする。
 女神が怯む。それを見逃すアンジェリカではない。
「いくのだわ!」
 きゐこは魔法障壁をアンジェリカに付与する。これこそが大本命。
「はい! 
 前に。前に。
 たとえ世界が暗雲に飲み込まれようとも!
 ここに可能性(わたしたち)が存在(あ)るのだから!!!」
 振り上げるは勝利の剣。
「勝利へ導く金狐の輝撃(オーバーロード・エクスカリバー)!!!!」
 イ・ラプセルが誇る豪腕による斬撃が女神に振り下ろされた。

 三年前少女は奪われた。
 しかしそれこそが原点。失って、喪ってそうしてたどり着いた此処(いま)。
 つないでもらった命。散るはずだった木っ端の兵卒。
 その因果は神殺しにつながった。
「『私の戦』の決着、付けさせていただく!!! 貴女も創造神も乗り越えて、未来を掴んでみせる!!!」
 フリオは自らの家名を冠したその技を放つ。
 自らをすべてかけた最高の一撃。
「フルッッッッッッッ!!! フラットォオオオオ!!!!」

 彼女のやりかたも同じ。アクアディーネとかわらない。
 ヒトを維持するため必要だったたった1つの可能性。
 マグノリアは思う。
 違うことなんて本当はなかった。やり方がちがっただけだ。
 それももう破綻した。
 もう帝国は終わっている。だから徹底的に潰すのだ。
 不可視の弓矢が魔力で生成されるのを感じる。双矢は別々の軌道を描いて女神を貫いた。

 これで最期だ。
 思えば随分と長かったように思える。それとも短かったのか。
 増えた傷跡はいくつか。
 神殺しの刃が今届く。
 神をバラバラにするその刃。
「神滅ノ時・蒸動神様解体刃」
 ウェルスは静かにその技名をつぶやき今、神を解体する。

 小細工は無用。
 どうせ通じることはない。だったら。
 だったらそれでいい。
 もてる力すべてで。神を倒す!!!
『がんばってね』
 懐かしい声が、歌うような、楽器を奏でるようなそんな声が聞こえた気がした。
 うん、うん。がんばるよ。
 それは幻聴かもしれない。それでも今。彼女の声をきいたのだ。
 モカは疾風の刃を放つ

 ロンベルにできることはひとつだ。
 シンプルなそれ。
 近寄って一刀両断にする。
 それしかないならそれでいい。
 一撃でもぶちこめりゃあ御の字だ。
 自らの腕が折れてもかまわない。
 女神を断ち切る!

 敵だといっても女神のことは嫌いじゃない。罵る言葉もない。喜劇も悲劇もしらない。
 それを決めるのはきっと未来の歴史学者なのだ。
 だから
「道化師、宮廷魔道士。オマエも今回当事者。決メる権利無いゾ?」
 エイラは観戦中のクローリーに話しかける。
「そうなのかい? 僕ぁずっと蚊帳の外だったけどね」
「笑テも衒テも、友情は友情。誤魔化スな。……単に照れテるノと違ウかオマエ?」
 核心を継いたエイラの言葉にクローリーは困惑した顔をする。その顔をみてエイラは笑うと女神に向かって飛び込んでいく。
「――」
 母の名を呼び、母の苛烈さをその身に宿し、少女は神を殺す。

 アードライは倒した。気をつけて止めをさしたから命に別状はない。
 帝国がなくなったら彼は自由の身だ。そうなったら話をしよう。きっときっと話しても話しきれないたくさんの話があるから。
 そのためには女神を討つことは不可欠なのだ。
 サーナはその未来のため、大渦海域のタンゴのステップを踏む。
 
 見えない大渦を足場に飛ぶのはリュエルだ。
「語り継いでやるよ、あんたたちの戦いも! 信念も! 悲しみも! 理不尽も! 全部ひっくるめて!!」
 悲劇を終わらせるため彼はこの戦場に立つ。
 渾身の突きが女神に向かう。
 止めをさすとまではいかなくてもそこにつながる一撃になればいい。
 勇者(しゅやく)を輝かせるのは語り部(バイプレイヤー)なのだから!
 
「ボクの一番苦手なタイプだ」
 リィは半眼になりながらも攻撃の手はとめない。途中アンチトキシスで味方をまもったりと、派手ではないものの的確な判断は、ヒーラーとは違うかたちでこの戦場を支えている。クレバーだからこそ目立たない。目立たないからこそ気づかれずに支援をできる。
 そういった行動ができるものはそうそういるものではない。

 ヴィスマルクは親友を暗殺者という道具にした。本当に許せないしそんなことを繰り返させはしない!
 モリグナを倒すことでそれが叶うなら……!
 ティルダはトロメーアを練り上げる。 
 そうだ、この女神は強い。アクアディーネ様よりも強い。そんなのは明確だ。
 だけど。
 それだけでは足りない。強いだけの世界なんてまっぴらだ。

「そっすね、強いっすよ」
 ジャムは茫洋とした顔で呟く。
「で、だからなんすか?」
 自分たちは弾丸だ。放たれた弾丸。
 いつまでぶっ飛ばし続けれるかなんてわからない。だから試してみる。
 ただのヒトが、どこまでできるか。
 そっちが果てるかこっちが果てるか。
 そのどっちかまで引き金を引き続けるのだ。

 もはや死力を尽くすのみ!
 騎士団設立から常にその大柄な体躯と朗らかさで戦場を支えてきたシノピリカはひとつの区切りをつけるため剣を振るう。
 変わったことなんてできない。
 ただただ、己の力一撃に込めるだけのそのバッシュは今まで磨き上げてきた集大成。
 それをただ、ぶつけるのみだ。
 
 色気は断然あっち。けど可愛さや親しみやすさはどうかんがえてもアクアディーネ様だ。
 そして亜人にとって住みやすい世界をくれるのはアクアディーネにほかならない。
 のんきなことを思いつつもルエの攻撃はとまらない。
 ぶっちゃけもう力なんてのこってないけど、倒れてないなら上等。アレイスターみてろよ。
 すげえっていわせてやるんだ!

 余力はもうあと僅か。
 それでもダナエは攻撃し続ける。いつ終わるかなんてわからないけれど。それでもだ。
 砕いてやる! あの女神を。
 そうすれば、イ・ラプセルは守ることができるのだから。
 ちっぽけなひとりのヨウセイが国を守ることができるのだ!

「負けません!」
 ナーサは折れそうになる心を奮い立たせる。
 今までにないほどのたくさんの攻撃で目が回りそうだ。
 けれど、今までがんばってきたことは決してむだではない。現に今女神にダメージを与えることはできているのだから。

 ヘルメスだって命をかけて倒すことができた。
 今だってみんなが此処にいる。
 だったら倒せない理由などない。これがおわれば可愛い嫁が迎えてくれる。
 お前の旦那はかっこよく神を殺したのだと伝えたい。
 ザルクは研ぎ澄ませた弾丸で女神の頭を狙う。

「この、このこのこのこのこの!!!貴様ら! 貴様ら! 木っ端の、ヒトの分際で!!」
 女神は激高し真っ赤な馬がひく戦車に乗り込み縦横無尽に蹂躙する。

「まったく、女神様なのに荒々しいというか! うちのおしとやかな女神をみならってくださいよ」
 デボラがアタッカーを守りながら文句を言う。
「僕たちが守る!!」
 アダムが叫び防御を固める。
 しかし、女神の蹂躙はとまらない。
 守りきれないものが膝をつきヒーラーたちがエイルの右腕で回復するも、その技は何度でも使えるものではない。
 削られていく味方たち。
「させるかよ!!!!!」
 少年が叫ぶ。
「死ぬもんか!! 死なせるもんか!!!」
 オレは、オレ達はこの先にある場所に向かう。こんな女神前哨戦でしかない。
「ぶっちゃけてめぇなんざ!!! 眼中にないんだ!!」
「ほう?」
 クローリーが笑みを浮かべ拍手する。
「てめえは障害物だ!」
 女神の赤い馬がちぎれ飛んだ。
「邪魔だからどける」
 少年ナバルの叫びは魂の叫び。
 インデュアだって使う。
 フラグメンツだって使う。
 何度でも立ち上がってやる。
 耐える。
 ただの農夫でしかなかった少年は騎士として、大盾としてすべてを守る。
 その想いはこの戦場にいる仲間たちに届く。体力が、魔力が回復していく。
「お呼びじゃねえんだよ!! お前なんかに!! 誰も奪わせてたまるか!!!」
 叫んで盾をかまえ仁王立ちしたまま少年は意識を手放した。
 
 白い女神ミルトスはナバルが出した自分とは違う答えに微笑む。
 もちろんミルトスの答えがまちがっていたとは思わない。後悔なんてない。
 だけど、だけど。
 私はここで終わるけれど彼に託してみるのも悪くはないのだろう。
 ああ、見たかったな、私がえらんだ答えとは違う未来。
 ミルトスは残る幾ばくもない生命力を皆に分け与える。
 彼らが少しでも楽に戦う力になるように。
 ミルトスのドレスの末端から光の粒子になって消えていく。
 つま先が、指先が、髪が、ゆっくりと粒子になり。世界に溶けていく。
 おねがい。みんな戦って。
 そう言って笑った白い戦女神はこの世界から、永遠に喪われた。
 
 ヒーラーと魔道士、アルケミーたちは顔を見合わせ自分がやるべきことがなんであるかを理解し頷きあう。
 前衛とシューターたちは力を振り絞り戦う。

 さてここで顛末だ。喜劇か悲劇かは――僕がきめるものではないんだったね。
 もちろん当事者である君たちも。

 自由騎士たちは勝利する。
 消えゆく女神の言葉はない。あんな悔しそうな女神の顔がみれたのは痛快だっただろう?
 さよならモリグナ。
 帝国はいま此処にその歴史を終焉する。

 5柱の力がケセドに集約する。
 流石にそいつは、あいつにとっても見逃せないことだっていうのはわかるだろう?
 ソフ00が来る。
 休める時間なんてもうない。
 たったひとつの冴えないやり方しかできないアホな古きものだってもう抑えることはできないだろう。
 最期の戦いはもう目の前だ。

 さあさあ、きみたち!
 ここに帝国の最期の生き残りがいるよ!
 どうするかはきまってるよね。
 はいはい。手縄も足かせもなんなら首輪もセルフメイド。メイドイン僕さ。

 ジャジャ~ン!
 君たちはなんでも知ってる捕虜をゲットした! やったね!

 さあ、答え合わせをしようじゃないか?

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『偽りの白き戦女神』
取得者: ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『大いなる盾』
取得者: ナバル・ジーロン(CL3000441)
特殊成果
『女神の欠片』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

†あとがき†

ヴィスマルク決戦お疲れさまでした。

以上の結果になりました。
クローリーは捕虜として連行。数日間ではありますが聞きたいことは聞いていただいて構いません。
随時ご返答させていただきます。

アクアディーネが忽然と姿を消しました。
あなた方には何らかの強い力が宿っているように感じます。

ご参加ありがとうございました。







































エクストラステージ

 女神に呼ばれたエドワード・イ・ラプセルは時がきたのだと悟る。
 それは彼だけに告げられていた結果。
 5柱が裏側と均衡したその時点で始まる終わり。
 わかっていた。わかっていたのだ。
「ありがとう、エド。よくがんばったわね」
 母のように、姉のように、妹のように、恋人のように、ずっとそばにいた存在。
 滅びに抗うにはそうするしかないとわかっていた。
 しかし、しかしだ。
「別れたくはありません」
「大丈夫。私はあなた達の中に存在するから」
「お姿をもう見ることは、お声をきくことはかなわないのですが?」
「はい」
「どうにかすることはできないのですか?」
「はい。これが唯一の方法です」
「無念です」
「エド。貴方はこれからもっと大変になるわ。
 みんなを。世界中のみんなをまもってあげてね。
 ごめんなさい、オラクルの――自由騎士のみなさん。
 最期にみなさんの顔がみたかったのですが
 見てしまったら悔いがのこってしまうから」

 さよなら。

 と最期にのこった女神はつぶやいて。
 消えた。

 エドワードは声を殺して泣く。
 もう、二度とあえない女神を思って。
FL送付済