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Fanatic! その演技、迫真そのもの!

●次の公演の為に
『キャルタミナ劇団』――
その劇団はイ・ラプセル内でも決して大きな劇団ではないが、ここ数年『光る』役者がいると噂になっていた。
その役者の名前は、ロミオ・カンパネラ。演目のクライマックス。土壇場の演技が素晴らしいと貴族の間でも話題沸騰だ。
恋人に裏切られて刺される悲哀の動き。姉を救うために炎に飲まれてそのまま朽ちる嘆き。体中を槍に貫かれながらそれでも目に進もうと這う哀れみを生む動き。復讐を遂げようとして最後の一歩で親友に裏切られて届かなかった慟哭――
クライマックスを飾る演技において、彼は抜きんでていた。彼が最後を決めるだけで観客席は震え、我を忘れたかのように演技に飲み込まれる。まるで本当にその場面を遭遇しているかのような錯覚さえ覚えるほどに。
「次の演目は吹雪の中で春を待ちながら朽ち果てる兄妹なんだよね」
イ・ラプセルにある海辺。そこにロミオと彼が雇った者達がいた。その視線の先には、ずぶぬれになった幼い兄妹がいる。顔は青ざめ、冬の空気に晒されて体温が低下していっているのは明白だ。
なのに兄妹を助けようとする者はここにはいない。二人がこのまま凍死するのを待っているかのように。何故なら――
「そうそう! 兄なら妹を庇うよね! そうか、そういうふうに温めてあげるのか。参考になるなぁ。じゃあ次は強盗に引き裂かれてしまう所かな! どういうふうに抵抗するのか、見せてくれよ!」
「妹の方が先に凍死して、その時の顔も見せてもらわないとね」
「前までは奴隷が使えたんだけどなあ。全く演技の勉強も大変だ」
「まあしょうがない。これも芸術の為だ。ファンのためにいいものを見せてくれよ」
ロミオは演劇の参考にするために、その演目に模して人を殺す。
恋人に裏切られて刺される悲哀の動きも。姉を救うために炎に飲まれてそのまま朽ちる嘆きも。体中を槍に貫かれながらそれでも目に進もうと這う哀れみを生む動きも。復讐を遂げようとして最後の一歩で親友に裏切られて届かなかった慟哭も。
すべてリアリティを求めて殺してきた。演目に一致する人を探し、状況を似せて。
彼は熱狂的に、そして狂信的に演劇に対して真摯であった――
●時間はわずかに巻き戻り
「――ということが分かったの」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)に集められた自由騎士達はあまりの事実に顔をしかめていた。港に集められ、大型の蒸気自動車に乗せられて、移動しながらの説明だ。運転しながらバーバラは話を続ける。
「分かっているだけでも七件。もしかしたらもっと多いかもしれないわ。どちらにせよ許されることじゃない」
バーバラの言葉に頷く自由騎士達。証拠もそろっており、劇団への演目停止命令もすぐに出されるだろう。だがその前に――
「で、今まさに幼い子供を攫って凍死させようとしているの。急いで行って助けてきてあげて!」
蒸気自動車の窓から、海岸が見え始めていた――
『キャルタミナ劇団』――
その劇団はイ・ラプセル内でも決して大きな劇団ではないが、ここ数年『光る』役者がいると噂になっていた。
その役者の名前は、ロミオ・カンパネラ。演目のクライマックス。土壇場の演技が素晴らしいと貴族の間でも話題沸騰だ。
恋人に裏切られて刺される悲哀の動き。姉を救うために炎に飲まれてそのまま朽ちる嘆き。体中を槍に貫かれながらそれでも目に進もうと這う哀れみを生む動き。復讐を遂げようとして最後の一歩で親友に裏切られて届かなかった慟哭――
クライマックスを飾る演技において、彼は抜きんでていた。彼が最後を決めるだけで観客席は震え、我を忘れたかのように演技に飲み込まれる。まるで本当にその場面を遭遇しているかのような錯覚さえ覚えるほどに。
「次の演目は吹雪の中で春を待ちながら朽ち果てる兄妹なんだよね」
イ・ラプセルにある海辺。そこにロミオと彼が雇った者達がいた。その視線の先には、ずぶぬれになった幼い兄妹がいる。顔は青ざめ、冬の空気に晒されて体温が低下していっているのは明白だ。
なのに兄妹を助けようとする者はここにはいない。二人がこのまま凍死するのを待っているかのように。何故なら――
「そうそう! 兄なら妹を庇うよね! そうか、そういうふうに温めてあげるのか。参考になるなぁ。じゃあ次は強盗に引き裂かれてしまう所かな! どういうふうに抵抗するのか、見せてくれよ!」
「妹の方が先に凍死して、その時の顔も見せてもらわないとね」
「前までは奴隷が使えたんだけどなあ。全く演技の勉強も大変だ」
「まあしょうがない。これも芸術の為だ。ファンのためにいいものを見せてくれよ」
ロミオは演劇の参考にするために、その演目に模して人を殺す。
恋人に裏切られて刺される悲哀の動きも。姉を救うために炎に飲まれてそのまま朽ちる嘆きも。体中を槍に貫かれながらそれでも目に進もうと這う哀れみを生む動きも。復讐を遂げようとして最後の一歩で親友に裏切られて届かなかった慟哭も。
すべてリアリティを求めて殺してきた。演目に一致する人を探し、状況を似せて。
彼は熱狂的に、そして狂信的に演劇に対して真摯であった――
●時間はわずかに巻き戻り
「――ということが分かったの」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)に集められた自由騎士達はあまりの事実に顔をしかめていた。港に集められ、大型の蒸気自動車に乗せられて、移動しながらの説明だ。運転しながらバーバラは話を続ける。
「分かっているだけでも七件。もしかしたらもっと多いかもしれないわ。どちらにせよ許されることじゃない」
バーバラの言葉に頷く自由騎士達。証拠もそろっており、劇団への演目停止命令もすぐに出されるだろう。だがその前に――
「で、今まさに幼い子供を攫って凍死させようとしているの。急いで行って助けてきてあげて!」
蒸気自動車の窓から、海岸が見え始めていた――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ロミオ・カンパネラの拿捕
2.『兄妹』の生存
2.『兄妹』の生存
どくどくです。
道を究めようとする者は、いつしか常道から逸れていくものなのです。
●敵情報
・ロミオ・カンパネラ(×1)
歪んだ役者。演技のリアリティを求める為に人を殺す芸術系殺人者。前王政権時は奴隷を使っていたが、最近は『仕方なく』誘拐を行うようになったとか。
武器は人形。ランク1の錬金術スキルを使います。
会話はできますが、概ね狂っています。碌な答えは返ってこないでしょう。
・ゴロツキ(×8)
ロミオに雇われたゴロツキです。誘拐したり道具を揃えたり。投降を求めても、捕まるわけにはいかないので抵抗します。ロミオに忠義はありませんが、金回りがいいので従っている程度。
武器はナイフ。ランク1の軽戦士スキルを使います。
●NPC
・兄妹
10歳ぐらいの子供二人です。便宜上、二人で一キャラ扱い。冬空の下で濡れた状態でロミオに振り回され、死亡寸前です。一分(6ターン)以内に適切な処理(タオルで体を拭いたり、温めたり)をしなければ死亡するでしょう。スキルなどでは回復しません。
・蒸気自動車
皆さんを運んだ蒸気自動車です。三輪のトラック。ライトなどで明かりをつけることもできるし、荷台に毛布を引いて簡易の治療所を確保することもできます。
バーバラさんは車に残って待機しています。
●場所情報
海岸の砂浜。そこに兄妹を逃がさないように、劇団員が取り囲んでいます。時刻は夜。砂浜は相応の装備などがなければ回避にペナルティがつきます。
戦闘開始時、敵前衛に『ゴロツキ(×8)』。敵後衛に『ロミオ』『兄妹』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
道を究めようとする者は、いつしか常道から逸れていくものなのです。
●敵情報
・ロミオ・カンパネラ(×1)
歪んだ役者。演技のリアリティを求める為に人を殺す芸術系殺人者。前王政権時は奴隷を使っていたが、最近は『仕方なく』誘拐を行うようになったとか。
武器は人形。ランク1の錬金術スキルを使います。
会話はできますが、概ね狂っています。碌な答えは返ってこないでしょう。
・ゴロツキ(×8)
ロミオに雇われたゴロツキです。誘拐したり道具を揃えたり。投降を求めても、捕まるわけにはいかないので抵抗します。ロミオに忠義はありませんが、金回りがいいので従っている程度。
武器はナイフ。ランク1の軽戦士スキルを使います。
●NPC
・兄妹
10歳ぐらいの子供二人です。便宜上、二人で一キャラ扱い。冬空の下で濡れた状態でロミオに振り回され、死亡寸前です。一分(6ターン)以内に適切な処理(タオルで体を拭いたり、温めたり)をしなければ死亡するでしょう。スキルなどでは回復しません。
・蒸気自動車
皆さんを運んだ蒸気自動車です。三輪のトラック。ライトなどで明かりをつけることもできるし、荷台に毛布を引いて簡易の治療所を確保することもできます。
バーバラさんは車に残って待機しています。
●場所情報
海岸の砂浜。そこに兄妹を逃がさないように、劇団員が取り囲んでいます。時刻は夜。砂浜は相応の装備などがなければ回避にペナルティがつきます。
戦闘開始時、敵前衛に『ゴロツキ(×8)』。敵後衛に『ロミオ』『兄妹』がいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年01月02日
2019年01月02日
†メイン参加者 8人†
●
「EgRaaaaaaaa!」
咆哮するように奇声を上げる『空に舞う黒騎士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。その意味は誰にも理解できない。兄妹を弄るロミオに対する怒りか、それを手助けするチンピラたちへの恫喝か。兄妹に対する掛け声か。
「外道、と言う言葉以外思いつきません。こんなこと絶対に許されない」
鋭い瞳をゴロツキたちに向けて『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)は鋭く言い放つ。道から外れた者を外道と言うのなら、ロミオの所業は間違いなく外道だ。そしてそれを知りながら金でそれを手伝う者達もまた、同罪だ。
「何事も極める事を欲すのは自由だけれども、行き過ぎはあまり見ていて気持ちの良いものでは無いな」
機械腕の調子を確認しながら『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)はため息をつく。高い目標を持つことはいいことだ。しかしその為に何をしてもいいのか、と言うわけではない。何事も行き過ぎては良くないという一例だ。
「気持ちは分かります。が、それは人の道ではないですねぇ」
ため息をつき、構えを取る『飢えた白狼』リンネ・スズカ(CL3000361)。道を究めることにより、人道から離れるということはある。だがそれを為すことによるリスクも当然存在するのだ。そう、今自分に見つかった時のように。
「役者は想像力の具現化が仕事なわけで、実際見なきゃ出来ないのは、三流以下だよねぇ〜!」
言って笑う『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)。茶色の瞳でロミオを見て、可笑しそうにくすくすと笑う。見なければわからない等想像力の欠落。そんな三流に未来はないと罵っていた、
「ロミオのそれは摸倣であって演技ではない。確かに役者としては三流だな」
クイニィ―の言葉に頷く『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。演技とは役者の内包する何かを解放し、魅せるもの。役者自身のパワーと想像力が見る者を引き付けるのだ。何かを真似ることが演技とは思えない。
「実際にそれを見に来る観客がいるわけだが……まあ違法行為は違法行為。神妙にお縄についてもらうとするか」
『パンケーキ卓の騎士』ウィルフリード・サントス(CL3000423)は実際のロミオが人気があることを考慮に入れていた。狂気から生み出される演技は確かに人を引き付けている。だがどうあれ違法行為には違いない。ここで捕えて演目を終わらせなくては。
「まあ頭トんでるみたいだし何言ったって無駄だぜ」
言って軽く肩をすくめる『黒道』ゼクス・アゾール(CL3000469)。罪の意識を感じるのは、常識があるからだ。常識が欠落している相手には言葉で何を言っても聞いてはくれない。言葉が通じるのに、会話にならないのだ。
「やあやあ、君達は自由騎士の皆さんだね。このロミオ・カンパネラの練習を見学に来たのか。歓迎するよ。お題はセフィロトの海への片道切符で勘弁してくれ」
アリアやクイニィーを見て、ロミオは手を広げて歓迎するように手招きする。だが言葉には殺意が乗っており、雇われたゴロツキたちも一斉に武器を抜いた。ここでつかまればどうなるかは理解しているようだ。
「国を守るオラクルの騎士達。そんな危機を前にする……。これは何かに利用できそうなシチュエーションだ。さあ、幕を開けようじゃないか!」
ロミオの言葉にうんざりする自由騎士達。やはり会話が成り立っていない。
ともあれ、やっていることは犯罪だ。ここで凶行を止めなくては。
自由騎士達はマキナ=ギアから武器を取り、狂える役者と震える兄妹に向かい走り出した。
●
(大丈夫、すぐ助けに行くから、気を強く持って!)
一番最初に動いたのはアリアだ。ドレスを翻し、魔法剣士の靴で砂浜を蹴る。寒さに震える兄妹に思念を飛ばし、助けが来たことをロミオたちに悟らせないように伝えた。もう大丈夫。その言葉だけで絶望を払い、生きる為の力を与える。
ウィップを振るいゴロツキの腕に絡ませる。単純な力の比べあいではほぼ拮抗するが、隙を一瞬埋めればアリアには十分だった。生まれた隙を逃すことなく相手の間合に入り、手にした刃を翻した。夜に輝く銀閃が悪を裂く。
「そこをどきなさい!」
「あー……さすがに無理かぁ」
混乱に乗じてクイニィーは気配をけして姿を隠そうとしたが、見晴らしのいい砂浜で九人の目から逃れることは不可能だった。回り込んで移動しようとしても、逆に目立ってしまう。諦めたように肩をすくめて、戦闘に専念することにした。
錬金術によって生まれたかりそめの命。クイニィーは練度の高いホムンクルスを生成し、そして命なき兵と同時にけしかける。俯瞰する創造主の視界から相手の隙を見出し、五手先を読んだ人形達の連携。それがゴロツキに襲い掛かる。
「ま、これはこれでいい実験になりそうだよね。どうやれば効率よく痛みを与えられるかの」
「Saaaaaassshhhh!」
叫びと共に宙を舞うするナイトオウル。自由騎士とゴロツキが戦っている戦場を飛び越え、ロ美濃がいる後衛まで到達する。不安定な飛行中は回避不可能で、狙われれば致命傷を負うこともある。しかしそんなことなどお構いなしとばかりに躊躇のない行動だった。
ロミオと兄弟たちの間に割って入るナイトオウル。重厚な鎧に包まれたその身体は、飛行中に受けた攻撃でフラグメンツが削られるほどの傷を負っている。しかしそれを感じさせない力強い動きで兄妹を抱え、再度飛行して仲間の元に戻る。
「Eeerrrrraaaa!」
「ご苦労様です。あとはこちらで」
子供を受け取ったリンネは用意してあったタオルで兄妹の身体を拭いてやる。冷え切った肉体を回復させるには、先ずは水けを落として温めること。急いで身体を拭き、その摩擦で温める。その後に外気から守るためにタオルで包んだ。
二人を抱えて蒸気自動車に走るリンネ。治療は時間との戦いだ。やらなくてはいけない事はたくさんある。暖かい場所に連れて行き、温かいスープを飲ませる。凍傷の有無も調べなくては。やるべきことを頭の中でリストアップしていく。
「連れてきました。準備はどうですか?」
「おっけー。早く中に入れてね」
作業用の工具を手にゼクスが車の扉を開ける。のってきた蒸気自動車を改造し、車内に熱がこもるようにいじってある。冬の空気から遮断したうえで体温の確保が可能になる。作業する人は熱いだろうが、そこはまあ我慢してくれと。
ボールコックを回し、蒸気の送り先を変える。メーターを確認しながらバルブを少しずつ開き、車内に送られる熱量を調整していく。車内の兄妹とリンネの反応を見ながらの調節だ。微細なコントロールが必要だが、やれないことはないとゼクスは笑みを浮かべる。
「お仕事大変だねえ。俺もだけど」
「あちらは大丈夫のようですね」
蒸気自動車の方を見てアルビノは呟く。リンネ、ゼクス、サポートで来ていたオニビトの剣士の三人が治療に当たっている。これ以上戦線を抜ける者がいてはこちらが崩壊してしまうだろう。ロミオを逃がしてしまえば、新たな犠牲者が生まれてしまう。それは避けなければ。
蒼いオーラを放つ魚のようなホムンクルスがアルビノの周囲を泳ぐ。その軌跡を追うように白い癒しの光が走った。無から命を生み出す錬金術師の癒しの術。その光が仲間に触れ、傷を塞いで痛みを消していく。
「極めるために何をしてもいいというわけではありませんよ」
「ええ。貴方のやっていることはただの殺人です」
冷淡に事実を指摘するマグノリア。どんな正しい理由があろうとも、どれだけ崇高な目的があろうとも、それが行動を正当化することはない。死んだ命は生き返らない。だから殺人は忌み嫌われるのだ。
聖遺物に魔力を込めるマグノリア。強く強く強く。呪文と錬成された魔法陣により高まる魔力は低温を生み、マグノリアの意志に従って鋭い矢に形を変えていく。解き放たれた冷気の矢は真っ直ぐにゴロツキに向かって飛び、凍り付いてその動きを封じていく。
「逃がしやしないよ」
「うむ。全員法の下で罰されるがいい」
剣を構え、頷くウィルフリード。鹿の顔の表所は読めないが、静かに怒っていることは言葉の雰囲気から読み取れる。自分自身の欲望のために罪のない人に手をかけた犯罪者。それにかける情けはないとばかりに。
柄を強く握りしめて気合を入れ、ゴロツキたちに突撃するウィルフリード。砂を蹴って一気に迫り、手にした剣を振り下ろした。地面に叩きつけられた剣は砂を巻き上げるほどの爆発を生み、その衝撃波がゴロツキたちを一掃する。
「降伏は聞き入れよう。だが抵抗するなら五体の無事は保証しかねる」
降伏勧告を受けたゴロツキたちは一瞬揺らぐが、ロミオはむしろ喜々としていた。
「良いね。法に追い詰められると言うのはこういう感覚か! 今まで感じたことのない緊張感だ!」
未知を知り、喜ぶ役者。それが破滅の道であっても。
狂気の言葉を聞き流しながら、自由騎士達は戦い続ける。
●
自由騎士達は兄妹の治療にリンネとゼクスを割いている。つまり六名とサポートで九名の相手をしている。兄妹の回復には時間がかかり、少なくとも数十秒で終わるものではない。
その上で、兄妹救出の際にナイトオウルが深手を負っていた。数の暴力もあり、自由騎士達は少しずつ傷ついていく。前衛の壁を乗り越え、後衛の回復からゴロツキは叩き始める。
「もう! あたしばっかり狙うのはひどくない!?」
「数で圧して回復を行う後衛から狙うのは理にかなっています。私でもそうしますよ」
クイニィーとアルビノがゴロツキのナイフでフラグメンツを削られていた。
「演技をするのはストリップの様なもの。自身の内面をさらけ出しいくものだと、僕は思ってる。
それに役者自身パワーと想像力が、観る者に伝わるからこそ、感動に繋がるんだと思うよ」
回復を施しながらマグノリアはロミオに語りかける。
「ロミオは模倣は得意かも知れない。でも、それはロミオ自身の内面から出る『演技』では無いよね。その点で言えば役者としては三流以下だ」
「摸倣しちゃだめかい? なら過去の創作物は全て焚書しなくちゃ! マネしちゃダメならマネされるものを残しちゃいけないからね!」
「論点のすり替えだな。殺さないと見せられん芸術はどうなんだ、と言う話さ」
ロミオの言葉にため息をつきながら答えるウィルフリード。
「宮廷で暮らす騎士と、戦場で戦う騎士。どっちの方が戦いの事を理解していると思う? 綺麗事じゃ分からないことがある。実践すること、目で見ること。それが重要なんだよ」
「その為に殺していいと?」
「常識の壁を乗り越えたところに新たな世界が広がる。演技でもそう! 絵画も! 音楽も! そうやって進化していくのさ!」
「うんうんわかる。そうやって学問も進化していくものだしね!
あたしも色々実験したい! キミがどんな事をされたら泣いちゃうかとか、あたしが作った秘薬を飲んだらどうなっちゃうかとか! どのぐらいの量の毒なら即死なのかとか!」
笑いながらクイニィーが会話に加わる。
「良いよね! だってあたしにとってキミの価値は、実験の成果を示してくれる事くらいしかないもん! 極めるのは楽しいし、追求する者の義務だよね! キミなら分かってくれるよね!」
「分かるよ。だから僕のことも分かってくれるよね。僕のことが終わったら交換で君の興味も満たしてあげるよ。だからいろんな表情を見せてくれないか! 喜び、怒り、悲しみ、絶望! 同じ知識欲を持つ者がどんな表情を浮かべるのか見せてくれ!」
知識欲を満たそうとするクイニィーとロミオ。波長が合っているのか、互いの話を聞いていないのか。
「想像はしていましたが、本当に話になりませんね。人はここまで狂うのですか」
仲間を回復しながらアルビノは肩をすくめる。感情起伏が薄いのはアルビノの性格なのか特に気にした様子はない。その精神構造を分析する余裕はない。一秒の治療の遅れが致命的な一打を生みかねない。今はそういう状況なのだ。
「Arrrrrrrrrrraaaaaaaaaaa!」
唸り声をあげ『偽聖剣「アスカロン」』を振るうナイトオウル。ゴロツキから受けた傷は多く、足もふらついて来ている。だがそれでも狂ったように叫んで己を奮い立たせていた。そこにある感情が何なのか。余人には理解できぬ正体不明の激情が、確かにあった。
「させ……ません!」
後衛の仲間を守るために刃を振るうアリア。仲間を救うことを優先するために自分を狙うゴロツキは後回しにしており、その分狙われる率が高くなっていた。それでも外道には屈しないと誇りの光はその目に輝いている。
自由騎士は奮闘するが、手数の不利が少しずつ傷となって蓄積していく。ゴロツキも何人か倒れているが、自由騎士側の疲弊も激しい。
「少しばかり厳しいか」
「きゃあ!? 服裂かないで……!」
「まだまだ倒れないよ」
マグノリア、アリア、ウィルフリードがゴロツキのナイフでフラグメンツを削られてしまう。
「あう……」
「ここまでですね。あとは任せます」
既にフラグメンツを削られていたクイニィーとアルビノが力尽き、砂浜に倒れた。
「ロミオさん、こいつらは好きにしていいんですよね?」
「ああ。戦いに負けて絶望に染まる騎士。その表情と台詞も見てみたいからね」
下卑な笑い声で問うゴロツキと、真剣な表情で頷くロミオ。その言葉を受けてゴロツキたちもやる気を出したように自由騎士達を攻めてくる。
「勝利宣言には早いよお」
へらっとした口調の後に、氷雨の矢を降らすゼクス。不用意に前に出たゴロツキの隙をつくように矢は突き刺さり、冷気でその足を封じる。兄妹の治療に目途がついたので、あとはバーバラに任せて戻ってきたのだ。
「やれやれ。危ない所でしたね」
同じく治療を終えて戻ってきたリンネ。追い込まれている仲間を見て、札を振るい回復の術式を飛ばす。魔導医学の研究を重ねて作られた癒しの光。それが自由騎士全員の傷を癒し、反撃の礎を作る。
治療で抜けていたメンバーが戻ったことで、自由騎士に勢いが戻る。押された分を押し返すように武器を振るい、魔術を飛ばす。ゴロツキたちが倒れるたびにその勢いは強くなり、最後に残ったロミオにナイトオウルの剣が迫った。
「GiiiiiiYaaaooooH!」
奇声としか言いようのない声をあげて振り下ろされるナイトオウルの剣。理解などいらない。この一撃は女神の為の一撃。イ・ラプセルにはびこる悪を打つ刃なり。狂おしいまでに純粋な騎士の一撃が、純粋に狂っているロミオの意識を刈り取った。
●
セキセイインコのケモノビトとオニビトの剣士がゴロツキ及びロミオたちを捕縛していく。その間に治療を済ませ、動けるぐらいには回復していた。
「で、どうするこれ?」
縛り上げたゴロツキとロミオを指差し、ゼクスが問いかける。ここでトドメをさしても文句は言われないだろう。
「決まっている。牢に送り、罪を償ってもらうまでだ」
ウィルフリードはロミオたちに猿轡を噛ませて、自殺させないようにする。犯した罪の重さを牢の中で知ってもらう。
「あーぁ、捕まえて突き出しちゃうなんて残念。折角良い検体が手に入ると思ったのに」
残念そうに肩をすくめるクイニィー。皆の視線に気づき、冗談冗談と手を振った。本当に冗談だったのか、その笑顔からは判断がつかなかった。
「貴方が犯した罪。それは自分以外を演技の糧としか見なかったことです」
静かな口調でアルビノが告げる。ロミオは人を愛している。人の悲しみ、人の苦しみ、人の嘆き、人の絶望。それを含めて愛し、そして無残に殺していく。人として愛しているから、人を殺すのだ。……これが理解できれば狂人だが。
「ま。話せる程度には回復しておくよ。きつい取り調べが待っているから覚悟しておくんだね」
ゴロツキとロミオの傷を回復するマグノリア。自業自得とはいえ傷ついたまま放置することはマグノリアには憚られた。
「良かった……回復したんですね」
蒸気自動車の中で安らかに眠る兄妹を見て、アリアは安堵のため息をつく。未来ある幼い命が散らなくてよかった。
「迅速な救出が功を為しました。あとはゼクスさんの改造も」
一息つくようにリンネが口を開く。ナイトオウルの我が身を顧みない救出と、ゼクスの改造した蒸気自動車。この二つのうちどちらかが欠けていれば、治療にはもう少し時間がかかっていただろう。勿論、リンネ自身の応急処理の的確さも含めてだ。
「GGGG……!」
震える手で剣を鞘に納めるナイトオウル。女神の民を傷つける者は許しては置けない。しかし咎人を裁くのは法の役割。怒りに震える自分を律するように唸り、理性を取り戻していく。
事件の終わりを告げるように、車の中にいた兄妹が意識を取り戻した。
かくしてロミオ・カンパネラは捕縛され、彼の犯した様々な罪が暴露される。
役者としての地位ははく奪され、劇団も一度解散の憂き目となる。
ロミオは言った。
『常識の壁を乗り越えたところに新たな世界が広がる。演技でもそう! 絵画も! 音楽も! そうやって進化していくのさ!』
もしかしたら、狂った創作者はロミオだけではないのかもしれない。表に出ていないだけで、有名な芸術家はもしかしたら――
「EgRaaaaaaaa!」
咆哮するように奇声を上げる『空に舞う黒騎士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。その意味は誰にも理解できない。兄妹を弄るロミオに対する怒りか、それを手助けするチンピラたちへの恫喝か。兄妹に対する掛け声か。
「外道、と言う言葉以外思いつきません。こんなこと絶対に許されない」
鋭い瞳をゴロツキたちに向けて『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)は鋭く言い放つ。道から外れた者を外道と言うのなら、ロミオの所業は間違いなく外道だ。そしてそれを知りながら金でそれを手伝う者達もまた、同罪だ。
「何事も極める事を欲すのは自由だけれども、行き過ぎはあまり見ていて気持ちの良いものでは無いな」
機械腕の調子を確認しながら『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)はため息をつく。高い目標を持つことはいいことだ。しかしその為に何をしてもいいのか、と言うわけではない。何事も行き過ぎては良くないという一例だ。
「気持ちは分かります。が、それは人の道ではないですねぇ」
ため息をつき、構えを取る『飢えた白狼』リンネ・スズカ(CL3000361)。道を究めることにより、人道から離れるということはある。だがそれを為すことによるリスクも当然存在するのだ。そう、今自分に見つかった時のように。
「役者は想像力の具現化が仕事なわけで、実際見なきゃ出来ないのは、三流以下だよねぇ〜!」
言って笑う『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)。茶色の瞳でロミオを見て、可笑しそうにくすくすと笑う。見なければわからない等想像力の欠落。そんな三流に未来はないと罵っていた、
「ロミオのそれは摸倣であって演技ではない。確かに役者としては三流だな」
クイニィ―の言葉に頷く『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。演技とは役者の内包する何かを解放し、魅せるもの。役者自身のパワーと想像力が見る者を引き付けるのだ。何かを真似ることが演技とは思えない。
「実際にそれを見に来る観客がいるわけだが……まあ違法行為は違法行為。神妙にお縄についてもらうとするか」
『パンケーキ卓の騎士』ウィルフリード・サントス(CL3000423)は実際のロミオが人気があることを考慮に入れていた。狂気から生み出される演技は確かに人を引き付けている。だがどうあれ違法行為には違いない。ここで捕えて演目を終わらせなくては。
「まあ頭トんでるみたいだし何言ったって無駄だぜ」
言って軽く肩をすくめる『黒道』ゼクス・アゾール(CL3000469)。罪の意識を感じるのは、常識があるからだ。常識が欠落している相手には言葉で何を言っても聞いてはくれない。言葉が通じるのに、会話にならないのだ。
「やあやあ、君達は自由騎士の皆さんだね。このロミオ・カンパネラの練習を見学に来たのか。歓迎するよ。お題はセフィロトの海への片道切符で勘弁してくれ」
アリアやクイニィーを見て、ロミオは手を広げて歓迎するように手招きする。だが言葉には殺意が乗っており、雇われたゴロツキたちも一斉に武器を抜いた。ここでつかまればどうなるかは理解しているようだ。
「国を守るオラクルの騎士達。そんな危機を前にする……。これは何かに利用できそうなシチュエーションだ。さあ、幕を開けようじゃないか!」
ロミオの言葉にうんざりする自由騎士達。やはり会話が成り立っていない。
ともあれ、やっていることは犯罪だ。ここで凶行を止めなくては。
自由騎士達はマキナ=ギアから武器を取り、狂える役者と震える兄妹に向かい走り出した。
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(大丈夫、すぐ助けに行くから、気を強く持って!)
一番最初に動いたのはアリアだ。ドレスを翻し、魔法剣士の靴で砂浜を蹴る。寒さに震える兄妹に思念を飛ばし、助けが来たことをロミオたちに悟らせないように伝えた。もう大丈夫。その言葉だけで絶望を払い、生きる為の力を与える。
ウィップを振るいゴロツキの腕に絡ませる。単純な力の比べあいではほぼ拮抗するが、隙を一瞬埋めればアリアには十分だった。生まれた隙を逃すことなく相手の間合に入り、手にした刃を翻した。夜に輝く銀閃が悪を裂く。
「そこをどきなさい!」
「あー……さすがに無理かぁ」
混乱に乗じてクイニィーは気配をけして姿を隠そうとしたが、見晴らしのいい砂浜で九人の目から逃れることは不可能だった。回り込んで移動しようとしても、逆に目立ってしまう。諦めたように肩をすくめて、戦闘に専念することにした。
錬金術によって生まれたかりそめの命。クイニィーは練度の高いホムンクルスを生成し、そして命なき兵と同時にけしかける。俯瞰する創造主の視界から相手の隙を見出し、五手先を読んだ人形達の連携。それがゴロツキに襲い掛かる。
「ま、これはこれでいい実験になりそうだよね。どうやれば効率よく痛みを与えられるかの」
「Saaaaaassshhhh!」
叫びと共に宙を舞うするナイトオウル。自由騎士とゴロツキが戦っている戦場を飛び越え、ロ美濃がいる後衛まで到達する。不安定な飛行中は回避不可能で、狙われれば致命傷を負うこともある。しかしそんなことなどお構いなしとばかりに躊躇のない行動だった。
ロミオと兄弟たちの間に割って入るナイトオウル。重厚な鎧に包まれたその身体は、飛行中に受けた攻撃でフラグメンツが削られるほどの傷を負っている。しかしそれを感じさせない力強い動きで兄妹を抱え、再度飛行して仲間の元に戻る。
「Eeerrrrraaaa!」
「ご苦労様です。あとはこちらで」
子供を受け取ったリンネは用意してあったタオルで兄妹の身体を拭いてやる。冷え切った肉体を回復させるには、先ずは水けを落として温めること。急いで身体を拭き、その摩擦で温める。その後に外気から守るためにタオルで包んだ。
二人を抱えて蒸気自動車に走るリンネ。治療は時間との戦いだ。やらなくてはいけない事はたくさんある。暖かい場所に連れて行き、温かいスープを飲ませる。凍傷の有無も調べなくては。やるべきことを頭の中でリストアップしていく。
「連れてきました。準備はどうですか?」
「おっけー。早く中に入れてね」
作業用の工具を手にゼクスが車の扉を開ける。のってきた蒸気自動車を改造し、車内に熱がこもるようにいじってある。冬の空気から遮断したうえで体温の確保が可能になる。作業する人は熱いだろうが、そこはまあ我慢してくれと。
ボールコックを回し、蒸気の送り先を変える。メーターを確認しながらバルブを少しずつ開き、車内に送られる熱量を調整していく。車内の兄妹とリンネの反応を見ながらの調節だ。微細なコントロールが必要だが、やれないことはないとゼクスは笑みを浮かべる。
「お仕事大変だねえ。俺もだけど」
「あちらは大丈夫のようですね」
蒸気自動車の方を見てアルビノは呟く。リンネ、ゼクス、サポートで来ていたオニビトの剣士の三人が治療に当たっている。これ以上戦線を抜ける者がいてはこちらが崩壊してしまうだろう。ロミオを逃がしてしまえば、新たな犠牲者が生まれてしまう。それは避けなければ。
蒼いオーラを放つ魚のようなホムンクルスがアルビノの周囲を泳ぐ。その軌跡を追うように白い癒しの光が走った。無から命を生み出す錬金術師の癒しの術。その光が仲間に触れ、傷を塞いで痛みを消していく。
「極めるために何をしてもいいというわけではありませんよ」
「ええ。貴方のやっていることはただの殺人です」
冷淡に事実を指摘するマグノリア。どんな正しい理由があろうとも、どれだけ崇高な目的があろうとも、それが行動を正当化することはない。死んだ命は生き返らない。だから殺人は忌み嫌われるのだ。
聖遺物に魔力を込めるマグノリア。強く強く強く。呪文と錬成された魔法陣により高まる魔力は低温を生み、マグノリアの意志に従って鋭い矢に形を変えていく。解き放たれた冷気の矢は真っ直ぐにゴロツキに向かって飛び、凍り付いてその動きを封じていく。
「逃がしやしないよ」
「うむ。全員法の下で罰されるがいい」
剣を構え、頷くウィルフリード。鹿の顔の表所は読めないが、静かに怒っていることは言葉の雰囲気から読み取れる。自分自身の欲望のために罪のない人に手をかけた犯罪者。それにかける情けはないとばかりに。
柄を強く握りしめて気合を入れ、ゴロツキたちに突撃するウィルフリード。砂を蹴って一気に迫り、手にした剣を振り下ろした。地面に叩きつけられた剣は砂を巻き上げるほどの爆発を生み、その衝撃波がゴロツキたちを一掃する。
「降伏は聞き入れよう。だが抵抗するなら五体の無事は保証しかねる」
降伏勧告を受けたゴロツキたちは一瞬揺らぐが、ロミオはむしろ喜々としていた。
「良いね。法に追い詰められると言うのはこういう感覚か! 今まで感じたことのない緊張感だ!」
未知を知り、喜ぶ役者。それが破滅の道であっても。
狂気の言葉を聞き流しながら、自由騎士達は戦い続ける。
●
自由騎士達は兄妹の治療にリンネとゼクスを割いている。つまり六名とサポートで九名の相手をしている。兄妹の回復には時間がかかり、少なくとも数十秒で終わるものではない。
その上で、兄妹救出の際にナイトオウルが深手を負っていた。数の暴力もあり、自由騎士達は少しずつ傷ついていく。前衛の壁を乗り越え、後衛の回復からゴロツキは叩き始める。
「もう! あたしばっかり狙うのはひどくない!?」
「数で圧して回復を行う後衛から狙うのは理にかなっています。私でもそうしますよ」
クイニィーとアルビノがゴロツキのナイフでフラグメンツを削られていた。
「演技をするのはストリップの様なもの。自身の内面をさらけ出しいくものだと、僕は思ってる。
それに役者自身パワーと想像力が、観る者に伝わるからこそ、感動に繋がるんだと思うよ」
回復を施しながらマグノリアはロミオに語りかける。
「ロミオは模倣は得意かも知れない。でも、それはロミオ自身の内面から出る『演技』では無いよね。その点で言えば役者としては三流以下だ」
「摸倣しちゃだめかい? なら過去の創作物は全て焚書しなくちゃ! マネしちゃダメならマネされるものを残しちゃいけないからね!」
「論点のすり替えだな。殺さないと見せられん芸術はどうなんだ、と言う話さ」
ロミオの言葉にため息をつきながら答えるウィルフリード。
「宮廷で暮らす騎士と、戦場で戦う騎士。どっちの方が戦いの事を理解していると思う? 綺麗事じゃ分からないことがある。実践すること、目で見ること。それが重要なんだよ」
「その為に殺していいと?」
「常識の壁を乗り越えたところに新たな世界が広がる。演技でもそう! 絵画も! 音楽も! そうやって進化していくのさ!」
「うんうんわかる。そうやって学問も進化していくものだしね!
あたしも色々実験したい! キミがどんな事をされたら泣いちゃうかとか、あたしが作った秘薬を飲んだらどうなっちゃうかとか! どのぐらいの量の毒なら即死なのかとか!」
笑いながらクイニィーが会話に加わる。
「良いよね! だってあたしにとってキミの価値は、実験の成果を示してくれる事くらいしかないもん! 極めるのは楽しいし、追求する者の義務だよね! キミなら分かってくれるよね!」
「分かるよ。だから僕のことも分かってくれるよね。僕のことが終わったら交換で君の興味も満たしてあげるよ。だからいろんな表情を見せてくれないか! 喜び、怒り、悲しみ、絶望! 同じ知識欲を持つ者がどんな表情を浮かべるのか見せてくれ!」
知識欲を満たそうとするクイニィーとロミオ。波長が合っているのか、互いの話を聞いていないのか。
「想像はしていましたが、本当に話になりませんね。人はここまで狂うのですか」
仲間を回復しながらアルビノは肩をすくめる。感情起伏が薄いのはアルビノの性格なのか特に気にした様子はない。その精神構造を分析する余裕はない。一秒の治療の遅れが致命的な一打を生みかねない。今はそういう状況なのだ。
「Arrrrrrrrrrraaaaaaaaaaa!」
唸り声をあげ『偽聖剣「アスカロン」』を振るうナイトオウル。ゴロツキから受けた傷は多く、足もふらついて来ている。だがそれでも狂ったように叫んで己を奮い立たせていた。そこにある感情が何なのか。余人には理解できぬ正体不明の激情が、確かにあった。
「させ……ません!」
後衛の仲間を守るために刃を振るうアリア。仲間を救うことを優先するために自分を狙うゴロツキは後回しにしており、その分狙われる率が高くなっていた。それでも外道には屈しないと誇りの光はその目に輝いている。
自由騎士は奮闘するが、手数の不利が少しずつ傷となって蓄積していく。ゴロツキも何人か倒れているが、自由騎士側の疲弊も激しい。
「少しばかり厳しいか」
「きゃあ!? 服裂かないで……!」
「まだまだ倒れないよ」
マグノリア、アリア、ウィルフリードがゴロツキのナイフでフラグメンツを削られてしまう。
「あう……」
「ここまでですね。あとは任せます」
既にフラグメンツを削られていたクイニィーとアルビノが力尽き、砂浜に倒れた。
「ロミオさん、こいつらは好きにしていいんですよね?」
「ああ。戦いに負けて絶望に染まる騎士。その表情と台詞も見てみたいからね」
下卑な笑い声で問うゴロツキと、真剣な表情で頷くロミオ。その言葉を受けてゴロツキたちもやる気を出したように自由騎士達を攻めてくる。
「勝利宣言には早いよお」
へらっとした口調の後に、氷雨の矢を降らすゼクス。不用意に前に出たゴロツキの隙をつくように矢は突き刺さり、冷気でその足を封じる。兄妹の治療に目途がついたので、あとはバーバラに任せて戻ってきたのだ。
「やれやれ。危ない所でしたね」
同じく治療を終えて戻ってきたリンネ。追い込まれている仲間を見て、札を振るい回復の術式を飛ばす。魔導医学の研究を重ねて作られた癒しの光。それが自由騎士全員の傷を癒し、反撃の礎を作る。
治療で抜けていたメンバーが戻ったことで、自由騎士に勢いが戻る。押された分を押し返すように武器を振るい、魔術を飛ばす。ゴロツキたちが倒れるたびにその勢いは強くなり、最後に残ったロミオにナイトオウルの剣が迫った。
「GiiiiiiYaaaooooH!」
奇声としか言いようのない声をあげて振り下ろされるナイトオウルの剣。理解などいらない。この一撃は女神の為の一撃。イ・ラプセルにはびこる悪を打つ刃なり。狂おしいまでに純粋な騎士の一撃が、純粋に狂っているロミオの意識を刈り取った。
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セキセイインコのケモノビトとオニビトの剣士がゴロツキ及びロミオたちを捕縛していく。その間に治療を済ませ、動けるぐらいには回復していた。
「で、どうするこれ?」
縛り上げたゴロツキとロミオを指差し、ゼクスが問いかける。ここでトドメをさしても文句は言われないだろう。
「決まっている。牢に送り、罪を償ってもらうまでだ」
ウィルフリードはロミオたちに猿轡を噛ませて、自殺させないようにする。犯した罪の重さを牢の中で知ってもらう。
「あーぁ、捕まえて突き出しちゃうなんて残念。折角良い検体が手に入ると思ったのに」
残念そうに肩をすくめるクイニィー。皆の視線に気づき、冗談冗談と手を振った。本当に冗談だったのか、その笑顔からは判断がつかなかった。
「貴方が犯した罪。それは自分以外を演技の糧としか見なかったことです」
静かな口調でアルビノが告げる。ロミオは人を愛している。人の悲しみ、人の苦しみ、人の嘆き、人の絶望。それを含めて愛し、そして無残に殺していく。人として愛しているから、人を殺すのだ。……これが理解できれば狂人だが。
「ま。話せる程度には回復しておくよ。きつい取り調べが待っているから覚悟しておくんだね」
ゴロツキとロミオの傷を回復するマグノリア。自業自得とはいえ傷ついたまま放置することはマグノリアには憚られた。
「良かった……回復したんですね」
蒸気自動車の中で安らかに眠る兄妹を見て、アリアは安堵のため息をつく。未来ある幼い命が散らなくてよかった。
「迅速な救出が功を為しました。あとはゼクスさんの改造も」
一息つくようにリンネが口を開く。ナイトオウルの我が身を顧みない救出と、ゼクスの改造した蒸気自動車。この二つのうちどちらかが欠けていれば、治療にはもう少し時間がかかっていただろう。勿論、リンネ自身の応急処理の的確さも含めてだ。
「GGGG……!」
震える手で剣を鞘に納めるナイトオウル。女神の民を傷つける者は許しては置けない。しかし咎人を裁くのは法の役割。怒りに震える自分を律するように唸り、理性を取り戻していく。
事件の終わりを告げるように、車の中にいた兄妹が意識を取り戻した。
かくしてロミオ・カンパネラは捕縛され、彼の犯した様々な罪が暴露される。
役者としての地位ははく奪され、劇団も一度解散の憂き目となる。
ロミオは言った。
『常識の壁を乗り越えたところに新たな世界が広がる。演技でもそう! 絵画も! 音楽も! そうやって進化していくのさ!』
もしかしたら、狂った創作者はロミオだけではないのかもしれない。表に出ていないだけで、有名な芸術家はもしかしたら――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
まだ会話が成立しているだけまともな狂人。
以上のような結果になりました。
兄妹が治るまでの時間はプレイングと活性化スキルに依存しています。その間、人手を取られる流れにしました。
最後は若干ホラー風味に。似た芸術家の依頼が出るかもしれません。出ないかもしれません。
MVPは兄妹治療に最も貢献したアゾール様に。貢献度は活性化スキルとプレイングで判断させていただきました。
それではまたイ・ラプセルで。
まだ会話が成立しているだけまともな狂人。
以上のような結果になりました。
兄妹が治るまでの時間はプレイングと活性化スキルに依存しています。その間、人手を取られる流れにしました。
最後は若干ホラー風味に。似た芸術家の依頼が出るかもしれません。出ないかもしれません。
MVPは兄妹治療に最も貢献したアゾール様に。貢献度は活性化スキルとプレイングで判断させていただきました。
それではまたイ・ラプセルで。
FL送付済