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FalseFate!? 平和を望む還リビト!

●『聖母』と呼ばれたモノ
ミトラース消滅後、権能を失ったことにより進行を失うシャンバラの人達。
神を信仰していた彼らの記憶は失われたわけではなく、権能により従っていた時の行動を悔いる者もいれば、仕方なかったと切り捨てる者もいる。事、ヨウセイへの態度は様々だ。その軋轢は決して浅くはない。
もっとも、ミトラースの権能は人格を変えるものではない。行動指針が神優先になるだけで、根柢の性格が変わるわけではないのだ。
「全財産使っちゃったじゃないのよー」
ここはイ・ラプセルに向かう船の上。その甲板に三人の少女が座っていた。酒を飲みながら、愚痴りあっている。
「高いのよ、通商連! 人の足元みちゃてさ!」
「ヨウセイの奴隷も全部売っちゃったし。もう、最低!」
「でもヴィスマルクとかヘルメリアで変な扱いうけるよりましだもんねー。イ・ラプセル、亜人の扱いいいみたいだし」
騒いでいるのはかつてシャンバラに存在した魔女狩り。その中でも『土葬返し』と呼ばれた犬のケモノビト三姉妹である。戦争終結後に軍を逃亡し、三国が領地を取り合いしている隙を縫って、イ・ラプセル行きの船に乗り込んだのだ。
「身分誤魔化したり色々あったけど、これで安心ね」
「でもあの国、奴隷廃止してるみたいよ? どうやって遊ぶの?」
「大丈夫よ。禁止されてることをシタい人って多いわ。裏町に行けばそういう人、絶対いるわよ」
言って大笑いする三姉妹。このまま三人がイ・ラプセルにつけば『シャンバラから逃げてきた亜人』扱いとして受け入れられただろう。そして裏社会に紛れ、自分の欲望を満たしていただろう。
だが、その未来はなかった。
『ミトラース様の元……世界から争いを無くすために……』
甲板に聞こえてきたのはそんな声。それと同時に一人の女性が現れる。白を基調とした神官服。そしてそのシンボルは――
「ミトラースの神官服……まさか『聖母』!?」
「ウソ、あの平和バカなの!? でもあのビッチ、自由騎士相手に無様に死んだって……!」
「か、還リビトだ……!? この魔力、マズ……ッ!」
元魔女狩りの三姉妹は思いに取り憑いたイブリースを前に驚く。ミトラースの支配の元に世界平和を唱えていたと言う『聖母』セヴリーヌ・ピエロン。
還リビトは両手を広げ、魔力を展開する。ノウブルでありながら平和の為に戦いに身を投じたネクロマンサー。その培った戦闘経験と魔力がイブリース化して強化されていた。その力は『土葬返し』三人分を超えている。
『全ての人が飢えることなく平和に過ごせる世界を作る。その為に』
「あ、待ちなさいよ!? 一人で逃げるんじゃ――」
『皆、平等に――死を』
激しい爆発が甲板で炸裂した。
●階差演算室
「還リビト――というよりは幽霊船だ」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は集まった自由騎士を前に説明を開始する。
「かつてイ・ラプセルを襲おうとした魔女狩りの一人が還リビトとなった。近くを通っていた船に襲い掛かり、そこに乗っていた船員や乗客も還リビトとなったようだ。
イブリース化して強化されたネクロマンサーの影響なのかもしれないが、詳細は不明だ」
一般的に、イブリース化したものは元の存在よりも強くなる。また元より持っていた能力や技術が強化される傾向にあると言う。
「強力な相手だが諸君らなら掃討できるであろう。武運を祈る」
短く、しかし信頼を乗せた声でクラウスは自由騎士達を見送った。
ミトラース消滅後、権能を失ったことにより進行を失うシャンバラの人達。
神を信仰していた彼らの記憶は失われたわけではなく、権能により従っていた時の行動を悔いる者もいれば、仕方なかったと切り捨てる者もいる。事、ヨウセイへの態度は様々だ。その軋轢は決して浅くはない。
もっとも、ミトラースの権能は人格を変えるものではない。行動指針が神優先になるだけで、根柢の性格が変わるわけではないのだ。
「全財産使っちゃったじゃないのよー」
ここはイ・ラプセルに向かう船の上。その甲板に三人の少女が座っていた。酒を飲みながら、愚痴りあっている。
「高いのよ、通商連! 人の足元みちゃてさ!」
「ヨウセイの奴隷も全部売っちゃったし。もう、最低!」
「でもヴィスマルクとかヘルメリアで変な扱いうけるよりましだもんねー。イ・ラプセル、亜人の扱いいいみたいだし」
騒いでいるのはかつてシャンバラに存在した魔女狩り。その中でも『土葬返し』と呼ばれた犬のケモノビト三姉妹である。戦争終結後に軍を逃亡し、三国が領地を取り合いしている隙を縫って、イ・ラプセル行きの船に乗り込んだのだ。
「身分誤魔化したり色々あったけど、これで安心ね」
「でもあの国、奴隷廃止してるみたいよ? どうやって遊ぶの?」
「大丈夫よ。禁止されてることをシタい人って多いわ。裏町に行けばそういう人、絶対いるわよ」
言って大笑いする三姉妹。このまま三人がイ・ラプセルにつけば『シャンバラから逃げてきた亜人』扱いとして受け入れられただろう。そして裏社会に紛れ、自分の欲望を満たしていただろう。
だが、その未来はなかった。
『ミトラース様の元……世界から争いを無くすために……』
甲板に聞こえてきたのはそんな声。それと同時に一人の女性が現れる。白を基調とした神官服。そしてそのシンボルは――
「ミトラースの神官服……まさか『聖母』!?」
「ウソ、あの平和バカなの!? でもあのビッチ、自由騎士相手に無様に死んだって……!」
「か、還リビトだ……!? この魔力、マズ……ッ!」
元魔女狩りの三姉妹は思いに取り憑いたイブリースを前に驚く。ミトラースの支配の元に世界平和を唱えていたと言う『聖母』セヴリーヌ・ピエロン。
還リビトは両手を広げ、魔力を展開する。ノウブルでありながら平和の為に戦いに身を投じたネクロマンサー。その培った戦闘経験と魔力がイブリース化して強化されていた。その力は『土葬返し』三人分を超えている。
『全ての人が飢えることなく平和に過ごせる世界を作る。その為に』
「あ、待ちなさいよ!? 一人で逃げるんじゃ――」
『皆、平等に――死を』
激しい爆発が甲板で炸裂した。
●階差演算室
「還リビト――というよりは幽霊船だ」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は集まった自由騎士を前に説明を開始する。
「かつてイ・ラプセルを襲おうとした魔女狩りの一人が還リビトとなった。近くを通っていた船に襲い掛かり、そこに乗っていた船員や乗客も還リビトとなったようだ。
イブリース化して強化されたネクロマンサーの影響なのかもしれないが、詳細は不明だ」
一般的に、イブリース化したものは元の存在よりも強くなる。また元より持っていた能力や技術が強化される傾向にあると言う。
「強力な相手だが諸君らなら掃討できるであろう。武運を祈る」
短く、しかし信頼を乗せた声でクラウスは自由騎士達を見送った。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.還リビトの全滅
どくどくです。
この依頼はアナザー設定の『ライカ・リンドヴルム(CL3000405) 2019年01月30日(水) 15:10:18』の依頼から発生しました。
名前のある方が参加することを強要しているものではありません。参加を確定するものでもありません。
●敵情報
・『聖母』セヴリーヌ・ピエロン(×1)
還リビト。霊体状態ですが、物理攻撃は通じます。シャンバラの僧侶服を着た女性です。
かつて『北方迎撃戦』においてシャンバラからイ・ラプセルに派兵された一人で、その時の戦い(拙作、【北方迎撃戦】VenerableVirgin)で死亡しています。
生前は『皆がミトラースを信仰すれば、飢餓も戦争のない平和な世界が作れる』と言う思想を持っていました。
性格は好戦的。みんな還リビトになったら戦争とか飢えとかないよね。そんな精神性です。会話らしいことはできますが、会話になりません。
『因果逆転 Lv3』『ケイオスゲイト Lv3』『スペルカット Lv2』『愛に全てを(EX)』等を活性化しています。
EXスキル
愛に全てを 魔遠全 その慈愛の前に魔は退き、刃は鞘に納められるだろう。【ダメージ0】【ショック】【ブレイク1】反動2ターン
・『土葬返し』(×2)
還リビト。シャンバラから逃亡する予定だったネクロマンサー三姉妹です。種族はイヌのケモノビト。かつて非道な手段を用いて自由騎士と戦いました(拙作、【楽土陥落】Zombiewall! 土葬返し姉妹!)。
三姉妹のうち二名が死亡しており、『聖母』に操られるまま行動しています。残り一人がこのシナリオ内で出てくることはありません。
『リバースドレイン Lv3』を活性化し、近接魔力攻撃をしてきます。
・船員(×7)
還リビトとなった船員です。種族はミズビト。男性。すでに死亡しており、『聖母』に操られるまま行動しています。
曲刀(近接物理)と短銃(遠距離物理)を持ち、襲い掛かってきます。
●場所情報
イ・ラプセル-シャンバラ間の海洋。そこで漂う幽霊船の甲板上。そこに乗り込んでの戦いです。
時刻は夜。薄暗い明かりはありますが、相応の準備がなければ遠距離攻撃にマイナス補正がつきます。また足場も適度に揺れるでしょう。
戦闘開始時、敵前衛に『船員(×4)』『土葬返し(×2)』が、敵後衛に『聖母(×1)』『船員(×3)』がいます。
事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
この依頼はアナザー設定の『ライカ・リンドヴルム(CL3000405) 2019年01月30日(水) 15:10:18』の依頼から発生しました。
名前のある方が参加することを強要しているものではありません。参加を確定するものでもありません。
●敵情報
・『聖母』セヴリーヌ・ピエロン(×1)
還リビト。霊体状態ですが、物理攻撃は通じます。シャンバラの僧侶服を着た女性です。
かつて『北方迎撃戦』においてシャンバラからイ・ラプセルに派兵された一人で、その時の戦い(拙作、【北方迎撃戦】VenerableVirgin)で死亡しています。
生前は『皆がミトラースを信仰すれば、飢餓も戦争のない平和な世界が作れる』と言う思想を持っていました。
性格は好戦的。みんな還リビトになったら戦争とか飢えとかないよね。そんな精神性です。会話らしいことはできますが、会話になりません。
『因果逆転 Lv3』『ケイオスゲイト Lv3』『スペルカット Lv2』『愛に全てを(EX)』等を活性化しています。
EXスキル
愛に全てを 魔遠全 その慈愛の前に魔は退き、刃は鞘に納められるだろう。【ダメージ0】【ショック】【ブレイク1】反動2ターン
・『土葬返し』(×2)
還リビト。シャンバラから逃亡する予定だったネクロマンサー三姉妹です。種族はイヌのケモノビト。かつて非道な手段を用いて自由騎士と戦いました(拙作、【楽土陥落】Zombiewall! 土葬返し姉妹!)。
三姉妹のうち二名が死亡しており、『聖母』に操られるまま行動しています。残り一人がこのシナリオ内で出てくることはありません。
『リバースドレイン Lv3』を活性化し、近接魔力攻撃をしてきます。
・船員(×7)
還リビトとなった船員です。種族はミズビト。男性。すでに死亡しており、『聖母』に操られるまま行動しています。
曲刀(近接物理)と短銃(遠距離物理)を持ち、襲い掛かってきます。
●場所情報
イ・ラプセル-シャンバラ間の海洋。そこで漂う幽霊船の甲板上。そこに乗り込んでの戦いです。
時刻は夜。薄暗い明かりはありますが、相応の準備がなければ遠距離攻撃にマイナス補正がつきます。また足場も適度に揺れるでしょう。
戦闘開始時、敵前衛に『船員(×4)』『土葬返し(×2)』が、敵後衛に『聖母(×1)』『船員(×3)』がいます。
事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
7個
3個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年05月26日
2019年05月26日
†メイン参加者 8人†
●
「魔導には詳しくないけれど、強力な力を感じるわ」
幽鬼となった還リビトを見て、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は表情を引き締める。格闘家が構えで相手を推察するように、肌で感じる目に見えない何かで相手の強さを推し量っていた。どこか暴力的な、死の香りを。
「船一隻丸ごと還リビトか。なるほど確かに、幽霊船だな」
周囲を確認しながら『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)は頷く。船員もなく漂う船。そこに居る命なき者達。その雰囲気が伝播するように船の空気も淀んでいた。その原因であるのは『聖母』と呼ばれたイブリースだ。
「船の再利用は……無理だな。そこまで依頼されてるわけでもないし」
船の惨状を見て『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はため息をついた。『聖母』が甲板で魔力を放ったこともあり、船上は所々痛んでいた。船員によるメンテナンスも数日近くは行っていないのだから、復旧は困難だろう。
「案外早い再会ね……って一人足りないし還りビトになってるし」
『聖母』に使役される還リビトを見て『極光の魔法少女』モニカ・シンクレア(CL3000504)は頭を掻く。かつてシャンバラでの戦いで相対し、逃げられた相手だ。いつか決着をつけると意気込んでいたが、まさかこのような再会になろうとは。
「こんなのに苦渋を舐めさせられた思うとやり切れまへんなぁ!」
『艶師』蔡 狼華(CL3000451)も同じ還リビトを見て唾棄するように吐き捨てる。もはや生命を宿していない瞳と表情。かつて相対していた時の嫌味たらしい罵りはもう出てこない。ならばさっさと滅ぼしてやる、とばかりに武器を構える。
「国が滅びて尚信仰する者がいるであろう事は予測は出来たものの、還ってまでとはな」
『聖母』の僧侶服を見て『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は瞑目する。シャンバラと言う国はミトラースの信仰でまとまっていた国だ。その支柱にすがる者は存在するとは思っていたが、まさかこんな形でとは。
「錆止めは塗ったが、やっぱり海の戦いは嫌だよなぁ……」
機械鎧の関節稼働を気にしながら『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)は船上を見る。かつて戦った『聖母』にシャンバラ首都で自由騎士を足止めしていた『土葬返し』。それらが還リビトとなったのだ。楽な戦いではない、と気を引き締める。
「『聖母』……いえ、セヴリーヌ」
『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)はかつて打倒した相手を見て複雑な気持ちに捕らわれる。『神殺し』の邪魔をする相手として相対し、その信仰に触れた。相容れる事はなかったが、だからこそこうして出会ったからには思う所もたくさんあった。
『全ての人に……祝福を』
虚ろな瞳で自由騎士を見る『聖母』。彼女は死をもって平和を維持しようと動く。命ある者が、その平和を受け入れるわけにはいかない。
波が幽霊船を揺れ動かす。それを合図に生者と死者は動き出した。
●
「行くわよ」
一番最初に動いたのはライカだ。神経に魔力を通して活性化し、時間間隔を短縮していく。一の動作で二の挙動。速度と、そして確実な動作。片方だけを重視すればもう片方がおろそかになる。速度に振り回されない動きこそが速度特化のキモだ。
『土葬返し』の死角を取るように動き回るライカ。純粋な速度とフェイントを折りまぜて隙を生み出し、それを逃すことなく踏み込んだ。叩き込まれる一撃が還リビトを穿つ。その速度を殺すことなく、さらにライカは動き回る。
「殺したアタシの顔を覚えているかしら」
『咎人も、聖人も……すべて、等しく……』
「覚えちゃいねーようだな。まあ怨み骨髄で来られるよりはいいんだが」
『聖母』の反応を見てザルクが口を開く。元より人を恨むような人間ではなかったが、どうあれここで始末すればおしまいだ。撃ち尽くした弾倉を指で押して外し、手のひらに収めていた弾丸を一つずつ装填してく。金属が擦れる音がリズミカルに響いた。
両手を突き出すように構え、戦場を見るザルク。二挺の拳銃をどう動かし、どう引き金を引けば効率的かを脳内で標準を合わせ、それを追うように引き金を引いていく。クロスバレルが生み出す瞬間の芸術。弾丸は狙い外さず、還リビトを穿ちその動きを止めていく。
「広範囲の無力化技はこっちの専売特許だ!」
『誰もが愛される。ミトラース様の楽土を築きましょう』
「かの神はもういない。その高潔な精神性は立派だが」
会話にならない『聖母』の声に言葉を返すテオドール。高潔である、という事はけして悪いことではない。同時に良い事でもない。それはただの人間性であり、どう行動するかが大事なのだ。死の先にある平和など、誰も望んではいない。
『法の書』を手に魔力を高めていくテオドール。テオドールの体内にあるマナが大気に満ちたマナと反応し、紫電を生み出す。それは天空で荒れ狂う稲妻の如く、地上の不浄を焼き払うように暴れ回った。一秒にも満たない雷神の疾走が還リビトを蹂躙する。
「理想が歪んでしまっている以上、再び葬ってやるべきが筋か」
『争い、盗み、奪う。そんな世界を無くすために』
「そうね。そんな世界があるのなら確かに楽土なのかも。だけど――」
『聖母』の言葉に頷き、そして首を横に振るエルシー。戦争と日常は真逆の世界だ。誰もが戦争を望まず、手を取り合えれば平和な日常が続く。だけど、そういうわけにはいかない。矛盾していることなど分かっているが、戦わなければ平和な世界は来ないのだ。
祈るように拳を握り、アクアディーネに祈るエルシー。死した魂に安息を。せめてその魂がセフィロトの海に還りますように。拳を前に突き出し、強く踏み込む。女神の権能を乗せた一撃が還リビトを穿った。
「ヨウセイを盾にする非道な連中ときいていたけど、どうやらその報いは受けたようね」
「あんた達とは腐れ縁だし、モニカが浄化してあげる……光栄に思いなさいっ!」
『土葬返し』だった存在に向けて、モニカが指を指して叫ぶ。かつて相対し、決着をつけれなかった相手。自らの手で決着をつけれなかったのは残念だが、せめてもの情けで後始末ぐらいはつけてやろう。
リラを奏で、海に音を響かせる。その音に合わせるようにモニカはステップを踏む。五秒後の未来を見ながら、現在の戦場を音で彩っていく。その舞いは魔力の大渦を生み、還リビトを巻き込んでいく。
「浄化して最期くらい見届けてあげるわ」
「ほんまに。もうそれ以外に楽しみようがあらへんわ」
ため息をつくように狼華が呟いた。『聖母』の還リビトによって命を失った『土葬返し』。次に会ったらどうしてくれようと思っていたのだが、まさかこういう再会とは。死人を甚振る趣味はない。とっとと倒して、生き残った者を探すとしよう。
小太刀と短刀を手に狼華は戦場をかける。クールな表情とは裏腹の激しい剣舞。一閃振り終わる間に次の刃が翻り、休むことなく刀の回転演武が続いていく。優雅且つ残酷。血飛沫の中で狼華は静かにほほ笑んでいた。
「犬がもう一匹おる筈やわ。見つけ出して、生き残ったことを後悔させてやりましょ」
「そうだな。だがその前にこいつらを片付けないと」
宥めるようにウェルスが告げ、そして戦場を見やる。未来のことに思いをはせる事は悪くないが、現状をおろそかにしては意味がない。イブリース化して強化されたシャンバラの魔女狩り達。神の権能こそないものの、厄介な相手には違いないのだから。
息を吸い、そして吐く。その動作で体内の熱を吐き出すように意識し、冷静さを取り戻す。『聖母』が与えるネクロマンサーの術式。それが与える不調を癒す為に魔力を解き放つ。清らかな風が仲間を包み、呪いを取り払っていく。
「全く。攻撃する余裕がないな」
「お陰でこちらは攻撃に専念できる。感謝するよ」
回復に徹しているウェルスにアデルが礼を告げるように言葉を返す。揺れる船の動きを予測して重心を動かし、戦いを続けていく。通商連から学んだ海上での戦闘技法。さて値段に見合う買い物だったかどうか、試させてもらおう。
潮の香り、音、波のパターン。全ての現象には理由がある。アデルが学んだのはその基本原則。揺れる船の動きを先読みし、それに合わせるように突撃槍を突き出す。船上の揺れさえも味方にして、アデルは還リビトを討つ。
「高くついたが、悪くない」
『土葬返し』の一人を伏すアデル。だが、還リビトはそれを意に介することなく自由騎士に襲い掛かる。彼らには恐怖も怯えもない。ただ衝動のままに動き続けるのだ。
死者の行進は、まだ止まらない。
●
還リビトには恐怖も怯えもない。ただ衝動のままに動き続ける。
『皆が苦しむことのない、世界を』
その最たるは『聖母』の還リビトだった。戦争を憂い、平和を模索した魔女狩り。そこに神の権能と言うものがあったかもしれないが、ミトラースの権能は人格を変えるものではない。行動指針が神優先になるだけで、根柢の性格が変わるわけではないのだ。
『土葬返し』がヨウセイを弄るサディストであったように。『魔女狩り将軍』が愛する人を忘れなかったように。『聖母』の性格は権能と関係なく『ああ』だったのだ。そしてその想いが昇華した技こそが――
『愛に全てを』
「!?」
祈るように膝をつき、そして発せられる魔力の奔流。それが自由騎士達の構えや魔力付与を解除し、動きさえも封じる。その隙に後衛に雪崩れ込む還リビト。
「ブロックされていない還リビトが……!」
集中的に狙っている『土葬返し』はブロックされて後衛に雪崩れ込むことはなかったが、元船員の還リビトは後衛に雪崩れ込む。こうなっては後衛の仲間を巻き込みかねない為、不用意に範囲攻撃を仕掛けるわけにはいかない。
「くそっ! 予想はしていたが厄介な技だな!」
「マナ切れを起こす前に戦線を回復させたいが……!」
「痛い痛い! アイドルはおさわり禁止よ!」
後衛に陣取るザルクとテオドールとモニカがフラグメンツを削られる。
「愛やの平和やのうるさいお人おすな」
「セヴリーヌ、キミは……!」
「愛で戦いを収める『聖母』……死んでなければ、私よりもずっと神職向けじゃない……!」
『聖母』の放つ魔力で狼華とライカとエルシーの体力が削られ、フラグメンツを燃やすこととなった。
還リビトの前衛が後衛に雪崩れ込んだことで、『聖母』への道が開ける。一部の者がそれに気づくが、その足が動くより先にアデルの声が響いた。
「今狙いがばらけるのは拙い。数を減らさないと押し負けるぞ」
大きな声ではないが、その声は『聖母』を狙おうとした自由騎士達の足を止める。そのまま当初の予定通り、『土葬返し』と元船員の還リビトに刃を向ける。
「アタシは、聖母を救いたい。二度目の死はできるだけ安らかなものであって欲しい!」
自分が殺した相手を見てライカは拳を握る、死は覆らない。如何なる奇跡をもってしても、死者を蘇生することはできない。ならばできる事は安らかに眠らせること。それが殺してしまった者への償いになるかはわからないけど、それでも。
「アクアディーネ様の権能だから、きっと安らかな浄化よ」
ライカの言葉にエルシーが言葉を重ねる。死んだ人間の気持ちなど分からない。浄化された還リビトがどんな気持ちかなんてわかるはずがない。それでもイブリースとなってこの世に留まるよりは、ずっと自然なはずだ。不浄に鉄槌を。女神の慈愛を。
「ほな、さいなら。あの世で片割れが来るのを待っときんしゃいね」
狼華の刃が翻り、二人目の『土葬返し』の喉を裂く。返す刀で心臓に刃を突き立てる。既に死んでいる還リビトに急所はないが、それでも繰り返される斬撃に耐えきれずに、二度目の死を迎える。倒れるそれを冷たい目で見降ろす狼華。
「機は今か。リミッターを解除する」
『土葬返し』が倒れたのを機に、自由騎士達の矛先は『聖母』に向かう。『聖母』の魔力弾でフラグメンツを削られたアデルは、防御を捨てての攻撃に出た。内からくる狂気を力に変え、ランスを突き出す。接触と同時に槍の撃発機構を全弾使用して、追撃を加えた。
「じゃあモニカは回復に回るわねっ!」
謳うように宣言し、楽器を鳴らすモニカ。還リビトの攻撃で疲弊が重なる仲間に向けて、癒しの歌を歌い始める。もう誰がどれだけなどと言うレベルではないのはすぐにわかる。癒しの魔力が乗った歌声が甲板に響き渡った。
「急いでくれよ。早く『聖母』を倒さないとこっちが倒れる」
ウェルスはフラグメンツを燃やしながら、戦いの趨勢を口にする。『聖母』の魔力は侮れない。純粋なヒーラーや防御職がいない構成では長くは持たないだろう。だが、攻撃に傾いたしたパーティだからこその爆発力がある。
「他の還リビトは任せときな!」
『聖母』の挙動から目を離さずに、ザルクが二挺拳銃の引き金を引く。僅かに視線を向けて元船員の還リビトの位置を捕捉し、腕をそちらに伸ばして弾丸を放った。他の還リビトも同じように撃っていく。戦場全てを視界にとらえ、捕えた敵に銃口を向けていく。
「蒼きマナよ。魂を凍らせよ!」
テオドールの魔力が『聖母』の周囲を包みこみ、周囲の温度を一気に下げる。空気が氷結するどこかきしむような音が響いて、氷塊が生まれた。魔力の氷は一瞬で砕け散り、衝撃と低温で還リビトの体力を一気に奪っていく。
『土葬返し』消滅後、矢次に『聖母』に叩き込まれる自由騎士の攻撃。還リビトの魔力がどれだけ高かろうが、その数は一つ。団結して攻める騎士達の猛攻を完全に押さえれるはずもない。
仮に『聖母』への戦端が開いた時に火力が分散していれば、体力を奪って粘りながら戦う『土葬返し』を中心に敵に押されていた。そうなればこの結果はない。
「あかん……。任せたさかい、あとよろしゅう」
「無念。もう少し体を鍛えるべきか」
「海は苦手だぜ、ったく」
還リビトの攻撃で狼華とテオドールとザルクの体力が尽きるが、戦いの趨勢はほぼ決まっていた。消滅寸前の『聖母』がもう長くないのは、誰の目にも明らかだ。
「もうミトラースはいないわ。貴女ももう休んだらどうかしら?」
拳を構えたエルシーが『聖母』に迫る。世を憂いたか、ミトラース亡き世界に反応したか。『聖母』が還リビトになった理由はどうでもいい。ただいえる事は、彼女はこの世にいてはいけないという事だけ。
「おやすみなさい。安らかな旅路を」
真っ直ぐに突き出されるエルシーの拳。女神の権能が乗ったその一撃が、迷える聖職者の魂を浄化し、セフィロトの海へと旅立たせた。
●
全ての還リビトを伏し、一息つく自由騎士達。
「うむ。くーにまかせておくがいい」
「にゃあ」
やってきたサポートの自由騎士により応急処置が行われていた。
「この幽霊船……聖母を倒した瞬間崩壊して沈む、とかないよな?」
目を覚ましたザルクがそんな心配をする。前にも幽霊船の討伐に向かった時、そんな事故が起きたようだ。今回は船そのもののイブリース化が十分ではなかったため、そういったことはないようだ。
「名前と年齢体重3サイズ、っとこれじゃな――」
『ララ・オリオール、年齢体重は乙女のヒ・ミ・ツ。3サイズは上から88・76・89でぇ』
「ウソつけ子供体型」
『土葬返し』に対して交霊術をつかうウェルス。冗談で聞いたことに反応されて少しイラっとしたが、気を取り直して質問をする。
「ヨウセイを売った組織、もしくは買い取った商人の名前を教えてもらおうか」
『ヨウセイの奴隷が欲しかったの? 抱きたかったの? だったら売ってあげたのにー。熊のお兄さんたら、好奇心旺盛なんだからぁん』
イライラが募っていくウェルス。そう言えばこんな性格だった。
『ヘルメリアの奴隷商人よ。なんでも『じんきなんとかかんとか』っていうのをヨウセイで試したいとかって』
正確な名前は知らないそうだ。裏取引であるため互いの素性を詮索しないは、仕方のない事だが。
「ついでに伝えといて。もし、生まれ変わる事があったら……今度はもう少しまともな奴になりなさいよねって!」
交霊術を使うウェルスに伝言するモニカ。死者はセフィロトの海に還る。生まれ変わりがあるなんてわからないが、もしそうなら今度はまともになって出会いたい。そして首輪をつけて飼育……おおっと、妄想停止。
「逃げ延びた土葬返しはイ・ラプセルに向かったのだろう。彼女は一人でも罪を重ねるのだろうな……」
言ってため息をつくテオドール。ここ場所から一番近い土地がイ・ラプセルであることを考えれば、その推測は先ず間違っていないだろう。そしてその性格からトラブルを起こすことも容易に想像できる。
「もう着いてるかも知れまへんなぁ。見つけ出して、生き残ったことを後悔させてやりましょ」
刀をおさめ、薄く笑う狼華。『土葬返し』が裏社会に潜るのなら、狼華の人脈で見つけることは難しくない。イリーガルに生きる相手だからこそ分かる相手の動きがある。
「セヴリーヌ……キミは救われたのか?」
『聖母』が消滅した場所を見て呟くライカ。もう彼女がいた痕跡すら残っていない。それは魂が何者にも捕らわれていない事を証明していた。イブリースからの解放は、殺してしまった償いになったのだろうか? 答えはない。答える相手は、もう――
波がゆっくりと、死者なき甲板を揺らしていた。
「魔導には詳しくないけれど、強力な力を感じるわ」
幽鬼となった還リビトを見て、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は表情を引き締める。格闘家が構えで相手を推察するように、肌で感じる目に見えない何かで相手の強さを推し量っていた。どこか暴力的な、死の香りを。
「船一隻丸ごと還リビトか。なるほど確かに、幽霊船だな」
周囲を確認しながら『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)は頷く。船員もなく漂う船。そこに居る命なき者達。その雰囲気が伝播するように船の空気も淀んでいた。その原因であるのは『聖母』と呼ばれたイブリースだ。
「船の再利用は……無理だな。そこまで依頼されてるわけでもないし」
船の惨状を見て『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はため息をついた。『聖母』が甲板で魔力を放ったこともあり、船上は所々痛んでいた。船員によるメンテナンスも数日近くは行っていないのだから、復旧は困難だろう。
「案外早い再会ね……って一人足りないし還りビトになってるし」
『聖母』に使役される還リビトを見て『極光の魔法少女』モニカ・シンクレア(CL3000504)は頭を掻く。かつてシャンバラでの戦いで相対し、逃げられた相手だ。いつか決着をつけると意気込んでいたが、まさかこのような再会になろうとは。
「こんなのに苦渋を舐めさせられた思うとやり切れまへんなぁ!」
『艶師』蔡 狼華(CL3000451)も同じ還リビトを見て唾棄するように吐き捨てる。もはや生命を宿していない瞳と表情。かつて相対していた時の嫌味たらしい罵りはもう出てこない。ならばさっさと滅ぼしてやる、とばかりに武器を構える。
「国が滅びて尚信仰する者がいるであろう事は予測は出来たものの、還ってまでとはな」
『聖母』の僧侶服を見て『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は瞑目する。シャンバラと言う国はミトラースの信仰でまとまっていた国だ。その支柱にすがる者は存在するとは思っていたが、まさかこんな形でとは。
「錆止めは塗ったが、やっぱり海の戦いは嫌だよなぁ……」
機械鎧の関節稼働を気にしながら『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)は船上を見る。かつて戦った『聖母』にシャンバラ首都で自由騎士を足止めしていた『土葬返し』。それらが還リビトとなったのだ。楽な戦いではない、と気を引き締める。
「『聖母』……いえ、セヴリーヌ」
『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)はかつて打倒した相手を見て複雑な気持ちに捕らわれる。『神殺し』の邪魔をする相手として相対し、その信仰に触れた。相容れる事はなかったが、だからこそこうして出会ったからには思う所もたくさんあった。
『全ての人に……祝福を』
虚ろな瞳で自由騎士を見る『聖母』。彼女は死をもって平和を維持しようと動く。命ある者が、その平和を受け入れるわけにはいかない。
波が幽霊船を揺れ動かす。それを合図に生者と死者は動き出した。
●
「行くわよ」
一番最初に動いたのはライカだ。神経に魔力を通して活性化し、時間間隔を短縮していく。一の動作で二の挙動。速度と、そして確実な動作。片方だけを重視すればもう片方がおろそかになる。速度に振り回されない動きこそが速度特化のキモだ。
『土葬返し』の死角を取るように動き回るライカ。純粋な速度とフェイントを折りまぜて隙を生み出し、それを逃すことなく踏み込んだ。叩き込まれる一撃が還リビトを穿つ。その速度を殺すことなく、さらにライカは動き回る。
「殺したアタシの顔を覚えているかしら」
『咎人も、聖人も……すべて、等しく……』
「覚えちゃいねーようだな。まあ怨み骨髄で来られるよりはいいんだが」
『聖母』の反応を見てザルクが口を開く。元より人を恨むような人間ではなかったが、どうあれここで始末すればおしまいだ。撃ち尽くした弾倉を指で押して外し、手のひらに収めていた弾丸を一つずつ装填してく。金属が擦れる音がリズミカルに響いた。
両手を突き出すように構え、戦場を見るザルク。二挺の拳銃をどう動かし、どう引き金を引けば効率的かを脳内で標準を合わせ、それを追うように引き金を引いていく。クロスバレルが生み出す瞬間の芸術。弾丸は狙い外さず、還リビトを穿ちその動きを止めていく。
「広範囲の無力化技はこっちの専売特許だ!」
『誰もが愛される。ミトラース様の楽土を築きましょう』
「かの神はもういない。その高潔な精神性は立派だが」
会話にならない『聖母』の声に言葉を返すテオドール。高潔である、という事はけして悪いことではない。同時に良い事でもない。それはただの人間性であり、どう行動するかが大事なのだ。死の先にある平和など、誰も望んではいない。
『法の書』を手に魔力を高めていくテオドール。テオドールの体内にあるマナが大気に満ちたマナと反応し、紫電を生み出す。それは天空で荒れ狂う稲妻の如く、地上の不浄を焼き払うように暴れ回った。一秒にも満たない雷神の疾走が還リビトを蹂躙する。
「理想が歪んでしまっている以上、再び葬ってやるべきが筋か」
『争い、盗み、奪う。そんな世界を無くすために』
「そうね。そんな世界があるのなら確かに楽土なのかも。だけど――」
『聖母』の言葉に頷き、そして首を横に振るエルシー。戦争と日常は真逆の世界だ。誰もが戦争を望まず、手を取り合えれば平和な日常が続く。だけど、そういうわけにはいかない。矛盾していることなど分かっているが、戦わなければ平和な世界は来ないのだ。
祈るように拳を握り、アクアディーネに祈るエルシー。死した魂に安息を。せめてその魂がセフィロトの海に還りますように。拳を前に突き出し、強く踏み込む。女神の権能を乗せた一撃が還リビトを穿った。
「ヨウセイを盾にする非道な連中ときいていたけど、どうやらその報いは受けたようね」
「あんた達とは腐れ縁だし、モニカが浄化してあげる……光栄に思いなさいっ!」
『土葬返し』だった存在に向けて、モニカが指を指して叫ぶ。かつて相対し、決着をつけれなかった相手。自らの手で決着をつけれなかったのは残念だが、せめてもの情けで後始末ぐらいはつけてやろう。
リラを奏で、海に音を響かせる。その音に合わせるようにモニカはステップを踏む。五秒後の未来を見ながら、現在の戦場を音で彩っていく。その舞いは魔力の大渦を生み、還リビトを巻き込んでいく。
「浄化して最期くらい見届けてあげるわ」
「ほんまに。もうそれ以外に楽しみようがあらへんわ」
ため息をつくように狼華が呟いた。『聖母』の還リビトによって命を失った『土葬返し』。次に会ったらどうしてくれようと思っていたのだが、まさかこういう再会とは。死人を甚振る趣味はない。とっとと倒して、生き残った者を探すとしよう。
小太刀と短刀を手に狼華は戦場をかける。クールな表情とは裏腹の激しい剣舞。一閃振り終わる間に次の刃が翻り、休むことなく刀の回転演武が続いていく。優雅且つ残酷。血飛沫の中で狼華は静かにほほ笑んでいた。
「犬がもう一匹おる筈やわ。見つけ出して、生き残ったことを後悔させてやりましょ」
「そうだな。だがその前にこいつらを片付けないと」
宥めるようにウェルスが告げ、そして戦場を見やる。未来のことに思いをはせる事は悪くないが、現状をおろそかにしては意味がない。イブリース化して強化されたシャンバラの魔女狩り達。神の権能こそないものの、厄介な相手には違いないのだから。
息を吸い、そして吐く。その動作で体内の熱を吐き出すように意識し、冷静さを取り戻す。『聖母』が与えるネクロマンサーの術式。それが与える不調を癒す為に魔力を解き放つ。清らかな風が仲間を包み、呪いを取り払っていく。
「全く。攻撃する余裕がないな」
「お陰でこちらは攻撃に専念できる。感謝するよ」
回復に徹しているウェルスにアデルが礼を告げるように言葉を返す。揺れる船の動きを予測して重心を動かし、戦いを続けていく。通商連から学んだ海上での戦闘技法。さて値段に見合う買い物だったかどうか、試させてもらおう。
潮の香り、音、波のパターン。全ての現象には理由がある。アデルが学んだのはその基本原則。揺れる船の動きを先読みし、それに合わせるように突撃槍を突き出す。船上の揺れさえも味方にして、アデルは還リビトを討つ。
「高くついたが、悪くない」
『土葬返し』の一人を伏すアデル。だが、還リビトはそれを意に介することなく自由騎士に襲い掛かる。彼らには恐怖も怯えもない。ただ衝動のままに動き続けるのだ。
死者の行進は、まだ止まらない。
●
還リビトには恐怖も怯えもない。ただ衝動のままに動き続ける。
『皆が苦しむことのない、世界を』
その最たるは『聖母』の還リビトだった。戦争を憂い、平和を模索した魔女狩り。そこに神の権能と言うものがあったかもしれないが、ミトラースの権能は人格を変えるものではない。行動指針が神優先になるだけで、根柢の性格が変わるわけではないのだ。
『土葬返し』がヨウセイを弄るサディストであったように。『魔女狩り将軍』が愛する人を忘れなかったように。『聖母』の性格は権能と関係なく『ああ』だったのだ。そしてその想いが昇華した技こそが――
『愛に全てを』
「!?」
祈るように膝をつき、そして発せられる魔力の奔流。それが自由騎士達の構えや魔力付与を解除し、動きさえも封じる。その隙に後衛に雪崩れ込む還リビト。
「ブロックされていない還リビトが……!」
集中的に狙っている『土葬返し』はブロックされて後衛に雪崩れ込むことはなかったが、元船員の還リビトは後衛に雪崩れ込む。こうなっては後衛の仲間を巻き込みかねない為、不用意に範囲攻撃を仕掛けるわけにはいかない。
「くそっ! 予想はしていたが厄介な技だな!」
「マナ切れを起こす前に戦線を回復させたいが……!」
「痛い痛い! アイドルはおさわり禁止よ!」
後衛に陣取るザルクとテオドールとモニカがフラグメンツを削られる。
「愛やの平和やのうるさいお人おすな」
「セヴリーヌ、キミは……!」
「愛で戦いを収める『聖母』……死んでなければ、私よりもずっと神職向けじゃない……!」
『聖母』の放つ魔力で狼華とライカとエルシーの体力が削られ、フラグメンツを燃やすこととなった。
還リビトの前衛が後衛に雪崩れ込んだことで、『聖母』への道が開ける。一部の者がそれに気づくが、その足が動くより先にアデルの声が響いた。
「今狙いがばらけるのは拙い。数を減らさないと押し負けるぞ」
大きな声ではないが、その声は『聖母』を狙おうとした自由騎士達の足を止める。そのまま当初の予定通り、『土葬返し』と元船員の還リビトに刃を向ける。
「アタシは、聖母を救いたい。二度目の死はできるだけ安らかなものであって欲しい!」
自分が殺した相手を見てライカは拳を握る、死は覆らない。如何なる奇跡をもってしても、死者を蘇生することはできない。ならばできる事は安らかに眠らせること。それが殺してしまった者への償いになるかはわからないけど、それでも。
「アクアディーネ様の権能だから、きっと安らかな浄化よ」
ライカの言葉にエルシーが言葉を重ねる。死んだ人間の気持ちなど分からない。浄化された還リビトがどんな気持ちかなんてわかるはずがない。それでもイブリースとなってこの世に留まるよりは、ずっと自然なはずだ。不浄に鉄槌を。女神の慈愛を。
「ほな、さいなら。あの世で片割れが来るのを待っときんしゃいね」
狼華の刃が翻り、二人目の『土葬返し』の喉を裂く。返す刀で心臓に刃を突き立てる。既に死んでいる還リビトに急所はないが、それでも繰り返される斬撃に耐えきれずに、二度目の死を迎える。倒れるそれを冷たい目で見降ろす狼華。
「機は今か。リミッターを解除する」
『土葬返し』が倒れたのを機に、自由騎士達の矛先は『聖母』に向かう。『聖母』の魔力弾でフラグメンツを削られたアデルは、防御を捨てての攻撃に出た。内からくる狂気を力に変え、ランスを突き出す。接触と同時に槍の撃発機構を全弾使用して、追撃を加えた。
「じゃあモニカは回復に回るわねっ!」
謳うように宣言し、楽器を鳴らすモニカ。還リビトの攻撃で疲弊が重なる仲間に向けて、癒しの歌を歌い始める。もう誰がどれだけなどと言うレベルではないのはすぐにわかる。癒しの魔力が乗った歌声が甲板に響き渡った。
「急いでくれよ。早く『聖母』を倒さないとこっちが倒れる」
ウェルスはフラグメンツを燃やしながら、戦いの趨勢を口にする。『聖母』の魔力は侮れない。純粋なヒーラーや防御職がいない構成では長くは持たないだろう。だが、攻撃に傾いたしたパーティだからこその爆発力がある。
「他の還リビトは任せときな!」
『聖母』の挙動から目を離さずに、ザルクが二挺拳銃の引き金を引く。僅かに視線を向けて元船員の還リビトの位置を捕捉し、腕をそちらに伸ばして弾丸を放った。他の還リビトも同じように撃っていく。戦場全てを視界にとらえ、捕えた敵に銃口を向けていく。
「蒼きマナよ。魂を凍らせよ!」
テオドールの魔力が『聖母』の周囲を包みこみ、周囲の温度を一気に下げる。空気が氷結するどこかきしむような音が響いて、氷塊が生まれた。魔力の氷は一瞬で砕け散り、衝撃と低温で還リビトの体力を一気に奪っていく。
『土葬返し』消滅後、矢次に『聖母』に叩き込まれる自由騎士の攻撃。還リビトの魔力がどれだけ高かろうが、その数は一つ。団結して攻める騎士達の猛攻を完全に押さえれるはずもない。
仮に『聖母』への戦端が開いた時に火力が分散していれば、体力を奪って粘りながら戦う『土葬返し』を中心に敵に押されていた。そうなればこの結果はない。
「あかん……。任せたさかい、あとよろしゅう」
「無念。もう少し体を鍛えるべきか」
「海は苦手だぜ、ったく」
還リビトの攻撃で狼華とテオドールとザルクの体力が尽きるが、戦いの趨勢はほぼ決まっていた。消滅寸前の『聖母』がもう長くないのは、誰の目にも明らかだ。
「もうミトラースはいないわ。貴女ももう休んだらどうかしら?」
拳を構えたエルシーが『聖母』に迫る。世を憂いたか、ミトラース亡き世界に反応したか。『聖母』が還リビトになった理由はどうでもいい。ただいえる事は、彼女はこの世にいてはいけないという事だけ。
「おやすみなさい。安らかな旅路を」
真っ直ぐに突き出されるエルシーの拳。女神の権能が乗ったその一撃が、迷える聖職者の魂を浄化し、セフィロトの海へと旅立たせた。
●
全ての還リビトを伏し、一息つく自由騎士達。
「うむ。くーにまかせておくがいい」
「にゃあ」
やってきたサポートの自由騎士により応急処置が行われていた。
「この幽霊船……聖母を倒した瞬間崩壊して沈む、とかないよな?」
目を覚ましたザルクがそんな心配をする。前にも幽霊船の討伐に向かった時、そんな事故が起きたようだ。今回は船そのもののイブリース化が十分ではなかったため、そういったことはないようだ。
「名前と年齢体重3サイズ、っとこれじゃな――」
『ララ・オリオール、年齢体重は乙女のヒ・ミ・ツ。3サイズは上から88・76・89でぇ』
「ウソつけ子供体型」
『土葬返し』に対して交霊術をつかうウェルス。冗談で聞いたことに反応されて少しイラっとしたが、気を取り直して質問をする。
「ヨウセイを売った組織、もしくは買い取った商人の名前を教えてもらおうか」
『ヨウセイの奴隷が欲しかったの? 抱きたかったの? だったら売ってあげたのにー。熊のお兄さんたら、好奇心旺盛なんだからぁん』
イライラが募っていくウェルス。そう言えばこんな性格だった。
『ヘルメリアの奴隷商人よ。なんでも『じんきなんとかかんとか』っていうのをヨウセイで試したいとかって』
正確な名前は知らないそうだ。裏取引であるため互いの素性を詮索しないは、仕方のない事だが。
「ついでに伝えといて。もし、生まれ変わる事があったら……今度はもう少しまともな奴になりなさいよねって!」
交霊術を使うウェルスに伝言するモニカ。死者はセフィロトの海に還る。生まれ変わりがあるなんてわからないが、もしそうなら今度はまともになって出会いたい。そして首輪をつけて飼育……おおっと、妄想停止。
「逃げ延びた土葬返しはイ・ラプセルに向かったのだろう。彼女は一人でも罪を重ねるのだろうな……」
言ってため息をつくテオドール。ここ場所から一番近い土地がイ・ラプセルであることを考えれば、その推測は先ず間違っていないだろう。そしてその性格からトラブルを起こすことも容易に想像できる。
「もう着いてるかも知れまへんなぁ。見つけ出して、生き残ったことを後悔させてやりましょ」
刀をおさめ、薄く笑う狼華。『土葬返し』が裏社会に潜るのなら、狼華の人脈で見つけることは難しくない。イリーガルに生きる相手だからこそ分かる相手の動きがある。
「セヴリーヌ……キミは救われたのか?」
『聖母』が消滅した場所を見て呟くライカ。もう彼女がいた痕跡すら残っていない。それは魂が何者にも捕らわれていない事を証明していた。イブリースからの解放は、殺してしまった償いになったのだろうか? 答えはない。答える相手は、もう――
波がゆっくりと、死者なき甲板を揺らしていた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
最初は『土葬返し』三人をここで使う予定でした。でもまあ、姉妹見捨てて逃げる性格だよなぁ、と。
以上のような結果になりました。もう少し数増やしてもよかったやも知れぬ。
初のアナザー依頼となりましたが、お気に召せば幸いです。それとは関係ない方も、楽しんでもらえれたのなら幸いです。
『聖母』の魂は浄化され、セフィロトの海に還りました。あのおっぱいが見れないとなるとざんね――ゲフンゲフン。
MVPはハビッツ様へ。動きやスキル構成等を含めての結果です。
それではまた、イ・ラプセルで。
最初は『土葬返し』三人をここで使う予定でした。でもまあ、姉妹見捨てて逃げる性格だよなぁ、と。
以上のような結果になりました。もう少し数増やしてもよかったやも知れぬ。
初のアナザー依頼となりましたが、お気に召せば幸いです。それとは関係ない方も、楽しんでもらえれたのなら幸いです。
『聖母』の魂は浄化され、セフィロトの海に還りました。あのおっぱいが見れないとなるとざんね――ゲフンゲフン。
MVPはハビッツ様へ。動きやスキル構成等を含めての結果です。
それではまた、イ・ラプセルで。
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