MagiaSteam
Attack!竜牙艦隊を止めろ!



●竜牙艦隊
「オラクルによる電撃作戦だ」
 少将の勲章をつけた男が作戦を端的に告げる。
「イ・ラプセルとの船と撃ち合う横合いから、オラクルを乗せた船を突っ込ませる。真横からの攻撃を受けて分断された船を各個撃破だ」
「さすがクラウゼヴィッツ少将!」
「オラクルなど所詮弾避けの盾。有効活用するに越したことはありませんな」
「汚れた種族などどれだけ疲弊しようが構いませんしな」
 少将の言葉に同意する部下達。
 ヴィスマルクに限らず、ノウブル以外の種族の扱いは基本的に低い。身分社会において尊ぶべき血族以外は皆奉仕種族。国のために役立てるだけ幸せだろう、というのが一般的な考えであった。
 さらにいれば、オラクル盾をにすることも戦術的には正しい、神の加護を受けている彼らには砲撃などが直接当たることはない。それ故に船の砲弾が彼らを傷つけることはないため、こういった特攻部隊にはうってつけなのだ――ある程度近づかれればその加護は消えるため、死亡率が高いのは変わりないのだが。
「――待ってください。イ・ラプセルにもオラクルはいます。そちらに妨害されればこの作戦は崩壊します」
 そんな中で、一人異を唱えた者がいた。長い金髪を伸ばした女性だ。機械化した右腕を敬礼の姿に留め、少将に向かい進言する。
「数の上ではこちらが勝っています。下手に戦力を分ければ向こうに隙を見せてしまうでしょう。ここは堅実に撃ち合いを続け、左翼を突破後に龍鱗艦隊から兵士を陸上輸送し――」
「それでは美しくないのだよ、アンテス大尉」
 説明を続ける女性の言葉を、つまらなそうに遮る少将。
「この戦争は我が竜牙艦隊が決めなければいけない。しかも華麗に、だ。侵火槍兵団や飛空艇部隊などに決められてしまえば、今後の海軍の立場が危うくなる。
 鬼謀奇策からの電撃作戦。あの首都にヴィスマルクの旗を立てる私の姿は永遠に歴史に残るだろう。その為にも迅速かつ華麗に終わらせなければならないのだ。所詮平民で且つ女性の君には分からないだろうが、ね」
「所詮は機械交じりのオラクル。戦争の重要性を理解していないようだな」
「早く配置につきたまえ。せめてもの情けだ。作戦終了後は英霊として祀ってやろう」
 言って笑う部下達。アンテスと呼ばれた女性は拳を強く握りしめ、任務を承服する。相手は上官だ。軍役につく以上、逆らうことはできない。
(相手のオラクル兵団が少なければ、勝機はある。それに薄くなった右翼側をイ・ラプセルに奇襲されなければ大負けすることはないだろう)
 そう納得させながら、アンテスはオラクルを乗せた船に移動する。

●イ・ラプセル
「よくぞ集まってくれた自由騎士団の諸君」
 貴方達を出迎えたのは『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)だ。王国騎士団の長にしてこの国を守ってきた歴戦の勇士でもある。それを証明する数多の傷と鍛えられた肉体。
「ある程度聞いてはいると思うが、改めて状況を説明しよう。此度のヴィスマルクの攻勢についてだ。
 既に上陸したヴィスマルク軍、海からくる艦隊、そして飛空艇。戦場は大きくこの三カ所に分けられる」
 イ・ラプセルの地図をテーブルに敷き、その上で駒を用いて状況を説明するミハイロフ。その中で海上の駒に手をかけた。
「海上の闘いは一進一退……とはいいがたい。ヴィスマルクの方が数で優っているため、少しずつ押されているのが実情だ。
 だがここでヴィスマルク側に動きがあった。艦隊の一部が特攻を仕掛けてくる。こちら側の船団を横合いを分断し、連携を崩すつもりだ」
 船に取り付けられている大砲は、基本的に固定である。横から突撃された際、船を横にしないと攻撃が出来ない。そして海上において船をその場で横向けにすることは不可能であり、その分時間がかかってしまう。
「特攻してくるのはオラクルを乗せた船だ。神の加護を受けたオラクル兵は副砲で迎撃することもできず、突撃を許してしまうことになる。
 しかしこれは好機でもある。向こうの突撃を止め、同時に開いた敵右翼陣から攻めれば一気に敵を瓦解させることが出来る」
 殲滅させるほどではないだろうが、相手の兵力を削ることが出来れば充分。食料や石炭などを廃棄すれば、継戦能力を奪うこともできるだろう。
「我々は砲撃で敵本隊の足を止めておく。可能であればオラクルの力で兵を癒してほしくはあるが、こちらは余力でいい。本命は敵特攻船の迎撃、及び右翼の襲撃だ」
 楽な戦いではないぞ、と無言で語るミハイロフ。受けるも断るも貴方次第だ。
 貴方はこの戦いを――



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
大規模シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
どくどく
■成功条件
1.突撃してくるオラクル船の戦力を一定数削る
2.敵右翼を襲撃し、一定以上の損害を与える
 どくどくです。
 CL3「MagiaSteam(マギアスティーム)」の世界にようこそ!

 いきなり決戦! しかも本土襲撃! そんなホットスタートでございます。

●状況説明
 貴方達の国、イ・ラプセルに軍事国家のヴィスマルクが襲撃を仕掛けてきました。
 彼らの目的は貴方達の国の神である『アクアディーネ』の抹殺をはじめとした国家の蹂躙です。負ければ敗戦国として苦汁をなめることになるでしょう。
 空から陸から海からくるヴィスマルク兵を凌いでください。



★皆様の工作により、ニ次ボーナスが加えられました。

 煙幕などの支援物資により、此方の回避力が向上しています。
 薬草などの支援物資で、本船で長く戦えるということで継戦能力が増加しております。
 突撃船(戦場1の船)は特攻用の使い捨て用のため、船底がボロボロの船を宛がわれています。船底に穴を開ければ修理に手を割かれることになり戦う人数が減ります。
 (戦場3)ヴィスマルクはイ・ラプセル海軍本艦を集中放火しようとします。けが人はそこに集中するため、治療部隊がそこに多くいれば効率が上がるでしょう。





 本シナリオは海戦です。戦場は大きく三つに分かれます。
1:オラクル兵迎撃。
 イ・ラプセルの艦隊を横から突撃してくるオラクル兵団(30名ほど)を阻止します。蒸気船で並走或いは乗り込み、一定数オラクル兵を倒せば成功です。相手の船に乗り込むのに判定はいりませんが、皆が乗り込めばこちらの船の守りが薄くなります。
 オラクル兵の種族は様々ですが、ノウブルはいません。
『ウォーモンガー Lv1』『バッシュ Lv1』等を活性化しています。

ネームド:ロミルダ・アンテス(キジン/ガンナー)
 オラクル。階級は大尉。右腕を機械化した(クォーター:防御10%アップ 速度5%ダウン)女性です。作戦自体は不本意ですが、命令には従います。オラクル兵を指揮しながら、ブランダーパス(ラッパ銃)で後衛から銃撃してきます。
『ダブルシェル Lv1』『神速 序』等を活性化しています。

 推奨行動は、
『敵オラクル兵の打破』『敵蒸気船に乗り込み、動きを止める』あたりでしょう。

2:敵右翼襲撃
 艦隊が薄くなった敵右翼から迫り、敵本船に肉弾戦を仕掛けます。薄い、と言ってもそれなりの数はあります。敵少将の喉元にたどり着くのは容易ではありません。
 こちらも一定数のヴィスマルク兵を倒し、撤退できれば成功です。

ネームド:ガブリエーレ・クラウゼヴィッツ(ノウブル/マギアス)
 非オラクル。階級は少将。師団長です。クラウゼヴィッツ家は名の知れた軍人家系で、その一人でもあります。性格などはOP参照。我が身大事とばかりに自分の船まで乗り込まれたら撤退を考えます。

 海兵(ノウブル/フェンサー)(ノウブル/ガンナー)
 艦隊にいるヴィスマルク兵です。一つの船で戦闘要員が20名ほど。クラウゼヴィッツの船まで船は二つあります。

 推奨行動は、
『敵オラクル兵の打破』『船の荷を捨てる』あたりでしょう。

注意:一定時間が経過するとヴィスマルクも落ち着きを取り戻し、失敗の確率が高まります。

3:治療行為
 本船に残り、治療に専念します。スキルを使ってもいいですし、実際の行動で治療しても問題ありません。
 こちらの人数が一定数を超えると、『2:敵右翼襲撃』で混乱が収まるまでの時間が増えます(要するに失敗しにくくなります)。
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)がいます。

ネームド:『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)
 ペストマスクをかぶり、全身をフードで包んだオラクルです。治療のためなら危険地帯に踏み込むことなどいとわない(というか好んで進む)変人です。 



☆世界観的な補足
 貴方達オラクルは神の加護を受けています。その為、砲撃など一定距離以上離れた場所からの攻撃は当たりません。その為、本シナリオ内で味方からの砲撃で誤射される可能性は皆無です。
 オラクル自体は神の加護を受けていますが、特別に強いわけではありません。神の権能を行使できる特別性はありますが、他の人と比べて超人的というわけでもありません。

 また、スキルなどで船を沈めることは非常に困難です。機関部を壊せば……と思いの人もいるでしょうが、そういった場所は非情に強固に作られており(重さ数トンの船を動かす蒸気圧に耐える構造です)、破壊工作をする時間もありません。

 皆様のプレイングをお待ちしています。


 ■■■重要な注意■■■
 こちらは決戦シナリオになります。プレイングを白紙状態で提出した場合、リソース(フラグメンツ及びアニムス)を著しく減少するおそれがあります。プレイングの送り忘れにはくれぐれもご注意ください。

 *なお、この3種類の決戦依頼に重複して参加することは出来ません。参加する内容をよく確認のうえ参加ボタンを押してください。(途中での変更は不可能です)。


 新ゲーム開始のスタートダッシュキャンペーンとして、各依頼の参加人数によって報酬リソースにボーナスが追加されます。50人まで基礎EXPとGPが1.2倍、それ以上の場合は参加数にあわせて倍率が上昇し、オラクルの結束力によって成功時の報酬リソースが大きく変動致します。
ぜひお誘い合わせの上、ご参加ください。
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
31モル 
参加費
50LP
相談日数
14日
参加人数
28/∞
公開日
2018年05月29日

†メイン参加者 28人†

『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『イ・ラプセル自由騎士団』
薬師寺 麗羅(CL3000034)
『せかいいちのまどうし』
ツツジ フェヴリエ(CL3000009)
『祭りのあとは夢のように』
ローシャ・薔薇・ロジャー(CL3000157)
『炎の駿馬』
奥州 一悟(CL3000079)
『ひまわりの約束』
ナナン・皐月(CL3000240)
『みんなをまもるためのちから』
海・西園寺(CL3000241)
『「チューベローズ快賊団」団長』
リナ・チューベローズ(CL3000272)
『義賊「スカイエンジェル」』
ルナ・チューベローズ(CL3000273)
『おっとり系研究者』
ラナ・チューベローズ(CL3000271)
『ツンデレ魔法使い』
レナ・チューベローズ(CL3000274)



 イ・ラプセル海軍の船の上は、言葉通り戦場だった。
 砲弾が近くの海に落ちただけでも船は揺れ、船体に当たれば激しい衝撃で立ってられなくなる。甲板に当たれば破片が飛び散り、怪我人が続出することになる。オラクルによる加護で直撃だけは避けられるものの、ここが危険地帯なのは間違いない。
 だが事前に準備された救援物資等により継戦能力は高められている。何よりも国一丸となっていることが伝わることで。兵士達の士気も上がっていた。
「サシャはまだまだ出来る事が少ないぞ! だから、サシャが今一番精一杯できることをするんだぞ!」
 オオカミの尻尾と耳を揺らし、サシャ・プニコフ(CL3000122)はガッツポーズをとる。ケモノビトのマザリモノという生い立ちは、親の愛に恵まれた人生ではなかったはずだ。だがサシャにそれを思わせる様子はない。
「ケガしてる人はどこだー! サシャが癒すぞー!」
 戦場の空気を吹き飛ばすように元気に叫び、術を施してどんどん怪我人を癒していく。その動きは医療のプロとは言えないが、何かの教えを受けているのは明白な動きだった。兵士達の間をてきぱきと走り回るサシャ。
「司祭様に教えて貰った事が役に立ってるんだぞ。これからは面倒くさがらずに真面目に聞くんだぞ」
「む、オオカミ……いや、今はそれどころではない」
 走り回るサシャを見てウィルフレッド・オーランド(CL3000062)は一瞬心が動いたかのように動揺する。厳つい顔が崩れるが、すぐに元に戻った。ここは戦場。一秒の遅れが致命的になりかねない。
「こっちは応急処置で間に合うな。こっちはすぐに治療しよう」
 ウィルフレッドは怪我人の傷具合を見て、治療の優先度を定めていた。時間は無限ではない。治療の手も有限だ。できるならすべての怪我人に向かいたいが、それができない事は経験から知っている。できるだけ多くの怪我人を治す。それが戦場医の常識だ。様々な術を施し、的確に癒していく。
「水鏡の予知通り、本艦を集中放火しているようだな」
「みたいネ。同船同国、沈めばアタシも終わりヨ」
 独特のイントネーションで『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)が喋る。東方出を思わせる服は奇異に思われることも多いが、イ・ラプセルと自由騎士はそれを受け入れてくれた。ならその恩に報いるのが流儀だと頷く。
「痛み止め、止血薬、包帯、三角帯、もー売り物だけどドンドン使うネ!」
 マーチャントであるルーは、この時のためとばかりに医療道具や器具をどんどん使用して治療していた。一時的に体温をあげるために酒を持ち出し、安全に横になれるための簡易ベットを作る。術だけに頼らない治療が海兵たちを支えていた。まあ、
「あとであの若い王子様に請求してやるんだからネ!」
 損をしないように立ち回る様は、流石商人と言えよう。後日エドワードが苦笑することになったのは、後日談。
「あー……戦争とかだるいよねー。何でそんな事するんだろう?」
「初めての自由騎士団の仕事が戦争のお手伝いとは世も末だよねぇ」
 気怠そうに『おっとり系研究者』ラナ・チューベローズ(CL3000271)が呟き、同意するように『ピンクなビッチ天使』ロナ・チューベローズ(CL3000275)の【姉妹】が頷いた。ラナは研究だけすればいいのにと嘆き、ロナは色事だけにかまけたい、と内心思っていた。
「でも久々に『チューベローズ』姉妹で何か出来るって私ィは嬉しいよ。頑張ろうね、ラナ姉さん」
「まあ、仕方ないよねー」
 別戦場で戦っている姉妹達のことを思いながらラナとロナは治療に向かう。長女のラナは術を用いて怪我人を癒していたのだが――
「ロナちゃん、何で負傷兵達はロナちゃんのおっぱいに顔を埋めてるんだい?」
 ラナの視線の先では五女が兵士を抱き寄せ、顔を豊満な胸を押し付けるように抱きしめている姿があった。
「確か前に生存本能が高まると治癒が早まると聞いたしぃ。本当にそうかを試してるのぉ」
「性欲に寄って生存本能に訴えながら治癒魔法を掛ければ効果が高まると……それは貴重な意見だね。実際どうなるか実験してみよう……」
 頷くラナ。そして倒れている兵士を抱え、抱きしめる。
 おっぱい治療。それは人肌の温もりで包み込み、海のごとき柔らかさで心を癒す治療法。力を抜いて胸に頭を埋めれば、弾力をもって押し返してくる。それはそこに誰かがいるという証。繋がっているという証。その癒しは母の胎内の如き原初の癒しなのだ――
「色ボケしてないで真面目にやれ」
 そんな【姉妹】にげんこつを喰らわせる『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。全く、とばかりに息を吐いたのちに治療に戻る。バカ騒ぎ自体は嫌いではないが、今は戦時。一秒が千金となる時だ。
「おい、そこのお前手伝え。傷を拭いたりするだけで構わん」
 傷の浅い兵士に治療の手伝いを要求するツボミ。導線を意識した治療スペースを作り、最低限の衛生は動ける者に任せる。治療の優先度を定める等、効率重視で治療していた。吐きそうになるほど忙しいが、それを堪えて手を動かす。
「休むのは全員治療してからだ。吐いても続けるぞ。て言うか吐いてる暇があったら治療だ!
 あとこのマスク邪魔! 主に嘴が邪魔! そもそも何で疫病が発生してる訳でもない戦場で対瘴気マスク着けてんだ貴様は!?」
「治療に集中するためのモノだと思ってくれ。何、見た目以外は邪魔にはならないよ」
 隣で手伝うペストマスクに叫ぶツボミ。帰ってきたのマスクごしのぐもった声だった。
 海軍を支える自由騎士達。その献身が海軍を支え、継戦能力をさらに高めていた。


 イ・ラプセル海軍に迫る船がある。ヴィスマルクの突撃戦だ。
 硬直しつつある戦況を打破すべく、オラクルのみで編成された部隊だ。ヴィスマルク内でのオラクルの立場は弱い。神の加護を受けた道具程度の扱いだ。特攻に使うにはうってつけの存在と言えよう。
 そしてその突撃を防ぐために、一隻の船が迫る。自由騎士達を乗せた迎撃戦だ。
「アンテス大尉、敵船です!」
「此方の動きが読まれていたか……。迎撃しながら強引に突っ切れ!」
 ヴィスマルクの突撃船も此方の船に気づいたのか、戦闘態勢に入る。
「ナナンの初陣! 張り切っちゃうのだ!」
 ツヴァイハンダーを振り上げ、『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)は元気よくポーズを決める。その容貌と言動から幼さを感じさせるナナンだが、両手剣を振り回す姿を見ればその印象は消える。
「いっくよぉー! ぶぅんぶーん!」
 大きく叫んで自らに活を入れ、敵戦に乗り込むナナン。しっかりと甲板を足で踏みしめ、腰を下ろしての一撃。大剣に振り回されることなく、しっかりとした技術の元の一撃。虚を突かれたヴィスマルクの兵隊に深手を負わせる。
「ナナンたちの船を沈められたら困るの。大変なの。だからナナン達の船には行かさないの!」
「イ・ラプセルのオラクル兵……! 情報ではそう言った兵団はいないという話だったのに」
「自由騎士が結成されたのはそちらが攻め込んだタイミングだからな」
 ショートソードを手にアルビノ・ストレージ(CL3000095)が答える。癒し手として仲間の傷を癒しながら、突撃船のメンテナンスを行っていた。色々忙しいが、機械いじりが趣味ともいえるアルビノからすればそれほど苦でもない。
「流石ヴィスマルクのキジン。いい素材使ってるね」
 アルビノはアンテスの機械化した右腕を見て、称賛の声をあげる。
「貴公もキジンか? 投降すれば悪いようにはしない。こちらの技術で施術してもらうこともできるぞ」
「興味はあるけどお断りだね。自分の力でやりたいのさ」
 ヴィスマルクの誘いを、肩をすくめてアルビノは断った。
「そちらこそこんな雑な突撃なんかやめて、こちらに投降した方がいいわよ!」
 緑のフードを被った猪市 きゐこ(CL3000048)がそう告げて、敵戦に乗り込む。自己紹介の後に言葉を続けた。
「仮に貴方達が頑張って私達を退けたとするわ! それで貴方達はその頑張りに見合う栄誉か報酬が貰えるのかしら?
 精々良い処だけ上に取られ、また雑な作戦に放り出されるのじゃないかしら?」
「恩賞と罰は軍事機密だ。
 それに栄誉にも興味はない。国の民のために戦う。それが軍人の務めだ」
 きゐこの問いかけににべもなく答えるアンテス。他のオラクル兵たちもアンテスに同意のようだ。彼らは嫌々戦闘に参加した兵ではなく、自らの意志で軍服に袖を通した者達だ。その様子を見て、説得を諦めるきゐこ。
「まあ真面目。イ・ラプセルには種族の差別がない、と言おうと思ったけど……乗りそうにないわね」
「気遣い痛み入る。その気持ちだけは受け取ろう」
「こんな特攻をするなんて、最低で低能だぜ。やみくもに特攻しかけて兵の命を無駄にする。敵だが、お前の部下たちに深く同情するね」
 トンファーを手に『炎の駿馬』奥州 一悟(CL3000079)が敵大尉に対する感想を告げる。無能な情感に逆らうことをせず、その命令に従う低能な軍人。その特攻もこうして止められようとしているのだ。それに従う兵隊に憐れみを感じる。
「生憎と軍人でね。無謀は認めるが部下を見捨てるつもりはない。お前達を突破して、生きて帰る」
 言葉と共に放たれる弾丸。その意思を察し、一悟は考えを改める。この部隊を無能な突撃兵と侮れば、こちらが負けると。気持ちを切り替えてトンファーを握りしめた。イ・ラプセルを守る戦士として、敵を討つ。その決意を乗せて言葉を放った。
「ここを通すつもりはないぜ! お前達を止めて国を守るんだ!」
「あまり突出しないでね。孤立して大怪我したらおしまいよ」
 猛る味方を押さえるように薬師寺 麗羅(CL3000034)が告げる。突撃戦を支えるために船医として突撃戦に乗り込んだ麗羅。彼女の目的は味方の傷を癒すことだ。無謀な特攻など見過ごせるはずがない。
「怪我をしたらこちらに戻ってきてください。余力があればヴィスマルクの方も治しますよ」
 清潔な布を用意して麗羅は言う。命のやり取りをしている戦場において、些か気が抜けた言葉ではあるが麗羅は本気でそう思って口にしていた。命に差はない。それがたとえ宣戦布告無しで攻めてきた賊国であったとしても、だ。
「はい、そこの人。無理はしないでこっちに来なさい」
「了解致しました、薬師寺様。治療をお願いします」
 敵戦で戦っていたラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)は麗羅の言葉に従い、一時回復のために船に戻る。この女性に対する対応はラメッシュが受けた育の賜物だ。勿論戦術的に回復すべきだという判断もあるが。
(女神アクアディーネ様を始めとしたこの国の人達を助けるために)
 拳を握るラメッシュ。今自分達に出来ることは多くない。できることは少ししかないが、それでもその少しを重ねれば最悪の結果は防げるのかもしれない。今はそう信じて戦うのみだ。傷がいえたのを確認し、ラメッシュは立ち上がる。敵船に乗り込み、敵オラクルを打破するのだ。
「ラメッシュ・クラーク・ジェイン、参ります!」
「ミケの踊りを見るんだにゃーっ!」
 言って踊りかかるミケ・テンリュウイン(CL3000238)。くるり回転するように戦場に現れたかと思えば、そのまま敵陣の中で舞うように魔力を放出する。炎が戦場を彩り、氷が光を反射していく。リズミカルに繰り出される魔の踊りにヴィスマルク兵は翻弄されていた。
「にふふっ。稀有の踊り子であり、絶世の美少女でもあり、世紀の大魔道士でもあるミケの初舞台にゃっ。みんなカツモクせよっ! なのにゃっ」
 猫のように貌の近くで手を曲げてポーズを決めるミケ。この日のためにと整えていた尻尾と髪の毛が日を受けて映える。ミケにとって勝つことも重要だが、自らをアピールすることも大事だった。それは踊り子の職業由縁か。
「将来の夢は歌って踊れるマルチな踊り子だにゃ!」
「行くよ、イーちゃん!」
「グリ、一緒にがんばろうね」
 グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)と『春雷』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)が協力してオラクル兵を攻める。同じ苗字だが、血縁関係はない。二人は同じ孤児院の出で、苗字はその孤児院の名前だ。血のつながりはないが、その絆は実際の兄弟姉妹以上の強さを持っている。
「おれ、攻める。グリ、援護してくれ」
「わかった!」
 イーイーが言って敵船に乗り込み、グリッツが銃で援護する。二人で同じ敵を攻撃し、効率よく敵の数を減らしていく。
(わかってるけど……人を殺すのは……!)
 グリッツは恐怖で標準が乱れているのを感じていた。オラクルとはいえその心はまだ幼い。『人を殺す』ということに抵抗があるのは当然だ。そして銃という武器はそれを可能とする。その重さに心臓が跳ね上がる。
「おれ、まけない。今日は毛布のお洗濯の日だから、きっとふかふかで気持ちいい。
 みんなの所に、帰るんだ」
 イーイーが敵陣の中ではっきりと喋る。それはヴィスマルク兵からすれば意味の分からない言葉だ。
 だがグリッツにとっては大事な言葉。帰るべき場所。帰るべき家。この戦いはそれを守るための闘いなのだ。それに気づいた瞬間、手の震えが止まっていた。引き金を引き。イーイーの後ろから迫るヴィスマルク兵を打ち倒す。
(そうだ。殺したくない。だけど、戦意を奪えば撤退するかもしれない)
 グリッツは事前に聞いていた敵船の船底に狙いを定める。ボロボロになったそこは一発では破壊できない。
「船底、壊す」
 だけど二人なら――
 イーイーとグリッツの二人の攻撃を受けて、船底に穴が開いた。すぐに沈没はしないだろうが、修理のために敵兵が割かれる。
「ムーングロウとヴェスパーは修理に。五名ほど手伝いに向かえ。怪我人は下がって援護を」
「ロミルダ・アンテス、貴方を止める」
 大型の銃を持った海・西園寺(CL3000241)が、ヴィスマルク兵を指揮するアンテスを見る。双方の距離は離れているが、それでも銃の射程範囲内。その殺気に気づいたのか、アンテスもラッパ銃を構えて向き直った。
(西園寺はガンナーとして、出来る限りの全力をもってこの戦いに臨みます)
 ゴシックドレスを翻し、海が戦場を走る。こちらの動きに対応するようにアンテスもまた動く。遮蔽物の間を移動しながら弾を込め、銃を構えた。肩に走る激痛。アンテスの射撃が命中したのだ。海は強く銃座を握って集中を保つ。標準を合わせ、引き金を引いた。
「これが西園寺の全て」
 銃声。銃の反動が先ほどの傷に響くが、西園寺の目は銃撃でよろめくアンテスの姿を確かに捉えていた。
「まだ倒れないか。流石だね」
 銃を構えた『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)がアンテスの前に立つ。このまま倒れるか、と思ったがアンテスの瞳は死んではいない。その事実にアンは――むしろ歓喜した。
「こん中じゃあんたが一番強そうだな? 同じ銃使い同士、派手に撃ち合おうぜ!」
 挨拶とばかりにアンは銃撃を放つ。だがそれはアンテスの右腕で弾かれた。隻翼をはためかせ、アンは跳躍する。先ほどまでいた場所に、アンテスの銃弾が叩き込まれていたのだ。強い。相手の強さを肌で感じていた。
「心配しなくても、俺は他の連中にゃ手を出さねぇよ。俺はあんたと撃ち合いがしたいだけなんでね」
「果たし合いをしたければ正式な手順を踏んでもらいたいね」
 言いながらアンと打ち合うアンテス。拳銃使いのアン。ブランダーパスを使うアンテス。それは船上での戦いを意識しているのだろう。銃口が広いラッパ銃は、多少船が揺れても弾込め速度は変わらない。有利不利を語れば、拳銃で戦う方が不利だ。少しずつ、アンが追い込まれていく。
 だが――
 不利を覆してこそのネツァクのセフィラ。そしてガンナーというスタイル。
 揺れる船の中、アンの銃口は確かにアンテスの左肩に向けられていた。にやり、と笑みを浮かべてアンは引き金を引く。
 タン、乾いた音と共にアンテスの身体が大きく揺れた。そのまま甲板に膝をつく。
「アンテス大尉!?」
「……撤退だ」
 膝をついたアンテスが命令し、ヴィスマルク兵が船の向きを変える。ここが引き際。これ以上の戦闘は被害が大きくなると判断したのだろう。
 それを察したイ・ラプセルの自由騎士達はヴィスマルク突撃船から離脱した。このままだとヴィスマルクの所に戻りかねない。戦闘を続けて彼らをここで全滅させることもできるが、そうすればこちらも疲弊する。
「こちらも撤退だ。目的は果たした」
 ここが潮時かと撤退する自由騎士。敵の突撃を止めることが目的だ。これ以上の追撃に意味はない。傷ついた人達を回収し、自分達の船に戻る。
 あとは――右翼襲撃作戦が上手くいくことを祈るのみだ。


 ヴィスマルク海軍『竜牙艦隊』――
 魔道と蒸気の融合による融合技術は他国のそれを凌駕し、それにより軍事力を増している。その粋は蒸気飛空艇だが、竜牙艦隊もまたその影響を受けている。蒸気タービンのみではありえないエンジンの出力こそが、竜の牙を名乗る艦隊のキモでもある。
 その甲板に向けて申しあわせたかのようにイ・ラプセル艦隊から砲弾が飛ぶ。そのほとんどが外れるが、数発は甲板に落ちた。爆発はしない。代わりに白煙を噴出した。煙幕となった白のカーテンの中から、自由騎士達が突撃する。
「さあ、今こそ正義を示す時! 自分が特攻隊長を務める! 皆行くぞ!」
「敵は愚かにも戦争を吹っ掛けてきた帝国の船! これを見逃す手はねェ! 『チューベローズ快賊団』! 久々の略奪を開始するぜ!」
「はあ、よりにもよって戦争の時にまで『快賊団』やらなくてもイイじゃないあの姉……」
 一番槍を務めるのは『チューベローズ快賊団』こと『「チューベローズ快賊団」団長』リナ・チューベローズ(CL3000272)、『義賊「スカイエンジェル」』ルナ・チューベローズ(CL3000273)、『ツンデレ魔法使い』レナ・チューベローズ(CL3000274)の【姉妹炎上】三姉妹だ。『チューベローズ快賊団』は数年前まで大暴れしていた義賊だったが、やんごとなき理由から活動停止。しかしこの度リナが団長となって復活したのだ。
「我が名は『スカイエンジェル』! 正義の義賊だ!」
 名乗りを上げてルナが敵艦に乗り込む。虚を突かれたヴィスマルク海兵が浮足立っている隙を逃すことなく抜刀し、一気に攻め込んだ。弱者を守ることを良しとするルナにとって、ヴィスマルクの侵攻は許せざる行動だ。
「ヒャッハー! 奪え奪え! 積み荷は海に捨てろー!」
 ルナが気を引いている隙に甲板からめぼしいものを見つけるリナ。バラスト用の砂や頑丈なロープや火災発生時の消火斧など、とにかく航海に必要なものを優先的に捨てていく。金目の物を奪わないのは快賊団の正義ゆえか、それとも面白ければいいという精神からか。
「リナ姉さん、物資を無理に奪略しようとしない! ルナ姉さんは突出し過ぎ!」
 レナは戦闘と略奪に走る姉達のフォローに入っていた。姉のことをきつく叱咤してはいるが、決して姉たちのことは嫌いではない。少なくともこんな危険地域に心配になってどうこうする程度には好意がある。
 快進撃の【姉妹炎上】だが、突如発生した大波が彼女達の服を濡らす。ダメージはないが、服がぴったりと肌に張り付いて透けていた。
「これは……敵陣の中で水を株って羽根が濡れて動けなくなるシチュエーション! く、動けぬ私はこのまま敵兵に捕らわれて……!」
「ううう……こっち見ないで……」
 なんだか状況がドストライクだったのかルナは興奮し、レナは涙を流して華奢な体を隠すようにして崩れ落ちていた。
「はっはっは。やっぱりチューベローズの血だね! このままどうなるか見てみたいけど……そろそろ撤収するよ!」
 そんな妹たちを見てリナは面白そうに笑い、二人を抱えて撤収していった。
「初陣だと言うのに……なかなかハードな戦場なのだよ」
 赤い短髪を手櫛で整えながら『薔薇のウタウタイ』ローシャ・薔薇・ロジャー(CL3000157)は呟いた。普段のローシャを見る者はその姿に驚いただろう。平時であれば赤いツインテールの歌手として有名なのだが、戦時となればそうも言ってられないと姿を変えていた。
「親玉を倒したい気持ちはあるが……まぁ、今回は目的が別にある。見失ってはならんね」
 遠くの艦隊を見てため息を吐く。ここで敵将を討っておけば今後ヴィスマルクと交戦する際に有利に働くだろう。だが今はそれよりも敵兵を崩すことが重要だ。功を焦って本来の目的が達成できなければ意味はない。
「とにかく頭数を減らす。時間は限られているのだからね」
「ですが焦っては駄目です。落ち着いていきましょう」
 どこか和やかな雰囲気をだしながらエミリオ・ミハイエル(CL3000054)が微笑む。敵兵さえ和ませようとするその態度は、何処か場違いさを感じさせる。だが過剰な緊張が良くない結果を生むことを考えれば、エミリオの行動は間違ってはいない。
「ちくちく狙っていきますね」
 船上からマスケット銃で援護射撃をするエミリオ。ミズビトの特性を利用して、海中から撃つことも考えたが、船体が邪魔して甲板の兵士が狙えないことに気づいて諦めた。時折冷気を放ち、重戦士を足止めしていく。
「しかしヴィスマルクの海軍船ですか。少し興味がありますね。どのような兵器理論によって作られているのでしょうか? 鹵獲できれば……」
「正直めんどくさいけど……」
 頭を掻きながらサフィレット・ネオテーム(CL3000167)は船に乗り込む。技術屋として船の構造を調べてみたくもあるが、今は自重した。めんどくさくはあるが、やるからには全力で。術符を構え、魔力を込める。
「ボクの魔導がどれほど通用するかには興味があるかな」
 状況把握。魔力展開。座標固定。使い慣れた魔法の儀式を展開するサフィレット。愛国心や正義感がないわけではないが、自分の力がどれほどのものかを戦いの中で知りたいという好奇心の方が強かった。かざした手から吹き荒れる冷気。青きマナが敵兵を凍らせる・
「ボクのアイスコフィンのお味はいかがかな? できれば具体的に感想を聞きたい」
「カノンの故郷を守る為、センセーとのラブラブ生活の為、敵をコテンパンにしてやるんだよ!」
 緊張して震える足を叩いて気合を入れる『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)。センセーというのはカノンに武術を教えた者だ。その教えを守るように深呼吸をする。全力を出すために、力を抜く。笑顔を忘れることなく戦場に向かう。
「カノンは何時かセンセーのおヨメさんになってラブラブ生活を送るんだから! ヴィスマルクなんかに邪魔させないよー!」
 ヴィスマルクに国を奪われれば、亜人のカノンがどうなるか。そしてそれを庇おうとする『センセー』もまたどうなるか。それを想像し、否定する。拳を握り、呼気と共に突き出す。ヴィスマルク海兵がくの字に折れ、崩れ落ちた。
「亜人の子供に一撃喰らうなんてヴィスマルクのノウブルってたいした事ないなー」
「さてさて。頑張るとしますか」
 空から甲板に降りた『蒼穹を漂うはぐれ雲』ヒュパティア・バルフムテオン(CL3000096)。魔導書を手に周囲を確認し、行動を開始する。空中は不安定のため、敵少将がいる本船まで無策でいけば打ち落とされただろう。已む無く皆と合流する。
「クラウゼヴィッツの名も大したことないのよ」
 ヴィスマルクの軍人家系、クラウゼヴィッツ家。その戦術眼がこの程度とは。ヒュパティアはそう言いたげに肩をすくめて挑発する。魔術で炎を放って兵士達をけん制しながら、船の積み荷をどんどん捨てていく。
「あ、ヒューが間違っていました。ガブリエーレだけがおバカさんなんですね、わかります」
「さあ敵将、ガブリエーレ・クラウゼヴィッツ少将! 貴公に帝国軍人の誇りあるならここに出てその太刀筋を見せよ!」
 ヒュパティアの挑発に重ねるように『とても良い』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が叫ぶ。威風堂々としたシノピリカの立ち様と言葉。その返事は敵兵の弾丸で返される。ならばこちらも剣で返そうと突撃する。
「指揮官先頭・率先垂範の文字は帝国の辞書に記載なし、か!」
 叫びながら突き進むシノピリカ。挑発することで敵指揮官の臆病さをアピールし、不満を高めていた。そこまで計算しているのかはわからない。だがイ・ラプセルの自由騎士の在り方を示すように、シノピリカは突き進んでいく。
「この戦いの趨勢はこの場にある! それが分からぬならそのまま敗走するがいい!」
「まさかのデビュタントが防衛戦だなんてついてないなあ……」
 ため息を吐く『空を泳ぐ』ツツジ フェヴリエ(CL3000009)。社交界のデビューのように華々しくはいかないようだ。だがデビュタントが敗戦となればバツが悪い。決める所は決めなくてはと気合を入れる。
(うかつに空を飛べば、いい的になるよね……)
 肩を覆うペンギンの翼を広げながらツツジは考える。空を飛べるメリットは多いが、遮蔽物がなくバランスを崩しやすくて回避が難しいため射撃攻撃の的になる。人間の骨や筋肉は鳥のように『専門的に』空を飛ぶ構造をしていないのだ。
「だったら、こうすればいいのさ!」
 言ってツツジは聖書を広げ、魔力を纏う。自らを円錐状に包むように力場を纏い、翼で空気を叩いて跳躍した。矢のように宙を飛ぶツツジ。その速度を追える敵兵はいなかった。飛び交う矢や弾丸を回避しながらツツジは艦隊上空を飛び回り、炎と氷の弾丸を撃ち放つ。
「クラウゼヴィッツ少将、敵兵が上空から魔法で攻撃を仕掛けてきます!」
「なにをしている。打ち落とせ!」
「それが……非常に素早く銃で捕えきれません!」
「馬鹿な……!? そのようなことあるはずがない。それこそ神の奇跡でもない限りは!
 そうか。敵部隊にハイオラクルのラプセル王がいるということか。件の水鏡でこの私の才を見出して、神自ら電撃作戦を仕掛けたというのだな!?」
 などとヴィスマルク海軍少将がとんでもない勘違いをしている間にも、戦局は動く。
「うお、おお! おおおお!」
 雄たけびが響く。同時に何かを弾き飛ばす音が。
 騒動の中心には一人の男がいた。浅黒い肌、ギョロ目、鮫歯、折れた角、欠けた耳。『下水道暮らし』ダンケル・アルトマン(CL3000010)の姿は、決して美形とは言えない。だが戦場で雄々しく進む様は、見る者を勇気づけるものだった。
「オイラの、前に、立つ者、食っちまうぞおおおお!」
 オニビト。それは血を喰らう荒々しい種族。その象徴と言わんばかりにダンケルは暴れ、血を吸いヴィスマルク海兵をちぎっては投げて進んでいく。だがそれは祖国を守るため。獣のようにふるまうのは、敵兵を戦意喪失させて浅い傷で撤退させるため。
(オ、オイラみたいな下水道暮しには別にいいけど、そうじゃない奴等に、敗戦の惨めな思いは、つ、つらいから、な)
 日の当たらない下水での生活。しかしダンケルの心には太陽があった。イ・ラプセルの仲間という明るい光が。それを守るために己自身の何かを削り、突き進む。
 その歩み、まさに東方の鬼の如く。
「オニビト!? 止めろ! この船に近づけさせるな!」
「無理です! 右翼の兵力では止めきれません!」
「くそ、こういう時のためのアンテス大尉だろうが! 何をしている!」
 お忘れですか。アンテス大尉を突撃させたのは貴方です。伝令兵はのどまで出かかった言葉を寸前で止める。上官に意見できない立場的な所もあったが、轟音が船を揺らしたことが主な要因だった。
「イ・ラプセル兵、本艦に侵入しました!」
「なんだとぉ!?」
 クラウゼヴィッツは窓の外を見る。甲板でヴィスマルク兵と交戦しながら、船の物資等を破壊しているイ・ラプセルの自由騎士達が見えた。
「ここまでの侵入を許すなどとは……!」
 ヴィスマルク海軍竜牙艦隊が本丸まで攻められたことは一度もない。それがイ・ラプセル等という小国に成し遂げられるなど……。
「ふん、囮の役割は果たした」
 は? 伝令兵は怪訝な顔をする。
「敵精鋭部隊……しかも敵国王がいるであろう部隊をここまで引っ張ったのだ。ならば十分だろう。
 あとはエビングハウス准将が上手くやるだろうよ。イ・ラプセルの女神を倒してしまえば何ら問題はない」
 言ってクラウゼヴィッツは席を立つ。そのまま早足で別の蒸気船に向かう為に歩き出す。
「あの……」
「3番艦に指揮権を移す。左翼の兵隊をこちらに回し、敵兵を追い返せ!」
 あ、逃げるのか。納得する伝令兵。
 そのままクラウゼヴィッツは振り返ることなく3番艦に逃げて行った。

 イ・ラプセル強襲部隊も敵海軍が包囲する前に撤退する。
 そしてその結果――


「敵艦、退いていきます!」
 イ・ラプセル艦隊に報告が走る。ヴィスマルクの船が回頭し、外洋に去っていくのが見えた。
「自由騎士達が上手くやったか」
 胸をなでおろす海兵達。あと二時間戦えば、こちらの戦線が崩れていたかもしれない。緊張が解けたのか、座り込む者もいた。
 治療に当たった自由騎士のおかげで大怪我を負った者もなく、戦果としては上々だった。事前に用意されていた情報や物資もこの結果に一役かったと言えよう。
「後は……アデレードと飛空艇か」
 イ・ラプセルの方を見ながら、誰かが呟いた。南方から襲撃した部隊がどうなっているか。その知らせはまだ来ない。だが――
「凱旋だ! 汽笛を鳴らせ!」
 ピーッ!
 イ・ラプセル艦隊全ての船が汽笛を鳴らす。それは勝利を祝う掛け声でもあり、自由騎士達を称える号砲でもあった。彼らがいなければ、この勝利はなかった。

 傷ついた戦士達を乗せて船は急ぎ、イ・ラプセルに向かう。
 祖国の大地に降り立った自由騎士達が見た光景は――

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: 非時香・ツボミ(CL3000086)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: サシャ・プニコフ(CL3000122)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: アルビノ・ストレージ(CL3000095)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: 猪市 きゐこ(CL3000048)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: 薬師寺 麗羅(CL3000034)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ウィルフレッド・オーランド(CL3000062)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: アン・J・ハインケル(CL3000015)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ツツジ フェヴリエ(CL3000009)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ミケ・テンリュウイン(CL3000238)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: エミリオ・ミハイエル(CL3000054)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: サフィレット・ネオテーム(CL3000167)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ローシャ・薔薇・ロジャー(CL3000157)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: 奥州 一悟(CL3000079)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ナナン・皐月(CL3000240)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: 海・西園寺(CL3000241)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ダンケル・アルトマン(CL3000010)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ヒュパティア・バルフムテオン(CL3000096)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: リナ・チューベローズ(CL3000272)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ルナ・チューベローズ(CL3000273)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ラナ・チューベローズ(CL3000271)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: レナ・チューベローズ(CL3000274)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ロナ・チューベローズ(CL3000275)
『イ・ラプセル自由騎士団』
取得者: ルー・シェーファー(CL3000101)
FL送付済