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【白蒼激突】Oath! 再起する騎士の誓い!

●守れなかった騎士
ニルヴァンがイ・ラプセルにより陥落した。
シャンバラ聖央都ウァティカヌスに走った衝撃は大きく、その波紋は国中に広がった。ある者は嘆き、ある者は否定し、ある者は怯える。盤石ともいえる唯一神ミトラースの守りを突破した国がヴィスマルクではなく今まで意にも解さなかったイ・ラプセルだとは――
「……そうか。イ・ラプセルが――」
そんな中、嘆くでもなく否定する者でもなく怯えることのない男がいた。ただ無感情にその名前を呟き、そして俯くように首を垂れる。
かつてイ・ラプセルに戦いを挑み、敗走した騎士。守るべきものを守れなかった負い目からいまだに立ち直れない惨敗者。『青騎士』と呼ばれる所以の鎧兜は埃をかぶり、消極的に日々を過ごしていた。
「アムラン様――」
そんな男に声をかける女性がいた。空色の服は聖堂騎士団の『聖歌隊(ゴスペラ)』であることを示している。まだ若き女性だが、それでも聖歌隊を率いる統率力を感じさせる強い意志が感じられた。
「ニルヴァン小管区のイ・ラプセルを討つべく、聖歌隊に指令が下りました」
聖歌隊――シャンバラ聖堂騎士団の一つ。他の騎士団に追随し、その援護を行う役割だ。
端的に言えば後方支援で、聖歌隊自身が前に出ることはない。聖歌隊のみで戦うことはなく、必ず他の聖堂騎士と同行するのが常であった。
「アムラン様、どうか我々をお守りください」
しかし彼女は聖堂騎士ではなく、『青騎士』と同行することを選ぶ。先の討伐戦で『聖母』を守れなかった敗走兵を。
「良いのか。私は聖堂騎士団ではなくただの魔女狩り上がりだ。ましてや私は『聖母』様を守れなかった――」
「いいえ! 確かに姉様は異教徒の手に伏しました。でも……貴方がいるから姉様は戦場に出れたのです! 守られてなかった、などということはありません!」
己を卑下する様な『青騎士』の言葉を、全力で否定する女性。そこには騎士を思いやる期待と恋慕に似た感情が含まれていた。本人すら気づいていないその感情は、騎士の心を揺るがす。
「……ああ、そうかもしれない。『聖母』も私も誓ったのだ。ミトラース様の威光と慈悲をこの大陸に浸透させようと。その誓いを、忘れてはいけない」
騎士は立ち上がり、青の鎧に手をかける。埃を振り払い、その重さを確認するように持ち上げた。
「馬を出せ! 住民の避難を優先しながらニルヴァンの情報を集めよ!
イ・ラプセルに己の愚行を反省させるのだ!」
●ニルヴァン
数日後、ニルヴァンに『青騎士』率いる集団が攻め入った。イ・ラプセルが作り出した砦を一望でき、長期的に観察できる丘に布陣するために軍を進ませる。ここを占拠されれば砦を常に観察でき、情報戦でリードできる可能性がある。
自由騎士と接触時、『青騎士』は堂々たる声で宣言した。
「我が名は『青騎士』ジャン=ピエール・アムラン! 多くの『魔女』を狩った者なり! 聖歌の守りを受け、今汝らに相対しよう!
腕に覚えのある者よ、いざ我が前にいでよ! 堂々と打ち合おうではないか!」
――そこには同胞を討たれた恨みはなく、邪教徒を侮る慢心もない。
ミトラース様の加護を受け、その素晴らしさを示さんとする騎士の姿があった。
ニルヴァンがイ・ラプセルにより陥落した。
シャンバラ聖央都ウァティカヌスに走った衝撃は大きく、その波紋は国中に広がった。ある者は嘆き、ある者は否定し、ある者は怯える。盤石ともいえる唯一神ミトラースの守りを突破した国がヴィスマルクではなく今まで意にも解さなかったイ・ラプセルだとは――
「……そうか。イ・ラプセルが――」
そんな中、嘆くでもなく否定する者でもなく怯えることのない男がいた。ただ無感情にその名前を呟き、そして俯くように首を垂れる。
かつてイ・ラプセルに戦いを挑み、敗走した騎士。守るべきものを守れなかった負い目からいまだに立ち直れない惨敗者。『青騎士』と呼ばれる所以の鎧兜は埃をかぶり、消極的に日々を過ごしていた。
「アムラン様――」
そんな男に声をかける女性がいた。空色の服は聖堂騎士団の『聖歌隊(ゴスペラ)』であることを示している。まだ若き女性だが、それでも聖歌隊を率いる統率力を感じさせる強い意志が感じられた。
「ニルヴァン小管区のイ・ラプセルを討つべく、聖歌隊に指令が下りました」
聖歌隊――シャンバラ聖堂騎士団の一つ。他の騎士団に追随し、その援護を行う役割だ。
端的に言えば後方支援で、聖歌隊自身が前に出ることはない。聖歌隊のみで戦うことはなく、必ず他の聖堂騎士と同行するのが常であった。
「アムラン様、どうか我々をお守りください」
しかし彼女は聖堂騎士ではなく、『青騎士』と同行することを選ぶ。先の討伐戦で『聖母』を守れなかった敗走兵を。
「良いのか。私は聖堂騎士団ではなくただの魔女狩り上がりだ。ましてや私は『聖母』様を守れなかった――」
「いいえ! 確かに姉様は異教徒の手に伏しました。でも……貴方がいるから姉様は戦場に出れたのです! 守られてなかった、などということはありません!」
己を卑下する様な『青騎士』の言葉を、全力で否定する女性。そこには騎士を思いやる期待と恋慕に似た感情が含まれていた。本人すら気づいていないその感情は、騎士の心を揺るがす。
「……ああ、そうかもしれない。『聖母』も私も誓ったのだ。ミトラース様の威光と慈悲をこの大陸に浸透させようと。その誓いを、忘れてはいけない」
騎士は立ち上がり、青の鎧に手をかける。埃を振り払い、その重さを確認するように持ち上げた。
「馬を出せ! 住民の避難を優先しながらニルヴァンの情報を集めよ!
イ・ラプセルに己の愚行を反省させるのだ!」
●ニルヴァン
数日後、ニルヴァンに『青騎士』率いる集団が攻め入った。イ・ラプセルが作り出した砦を一望でき、長期的に観察できる丘に布陣するために軍を進ませる。ここを占拠されれば砦を常に観察でき、情報戦でリードできる可能性がある。
自由騎士と接触時、『青騎士』は堂々たる声で宣言した。
「我が名は『青騎士』ジャン=ピエール・アムラン! 多くの『魔女』を狩った者なり! 聖歌の守りを受け、今汝らに相対しよう!
腕に覚えのある者よ、いざ我が前にいでよ! 堂々と打ち合おうではないか!」
――そこには同胞を討たれた恨みはなく、邪教徒を侮る慢心もない。
ミトラース様の加護を受け、その素晴らしさを示さんとする騎士の姿があった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.20ターンの間、全滅しない
どくどくです。
教信者シリーズその三。威風堂々狂ってます編。
●敵情報
・『青騎士』ジャン=ピエール・アムラン(×1)
シャンバラ上級神民。多くの魔女を狩り首都入りを認められた青い鎧の騎士です。ノウブル男性オラクル。30代前半。拙作『【北方迎撃戦】VenerableVirgin』に出ていますが、見ずとも問題ありません。
重戦士。馬に乗り、騎乗槍を用いて重い一撃を仕掛けてきます。軍馬なので発砲音程度では怯えません(怯えないだけで、相応に攻撃を受ければ死にます)。
『ライジングスマッシュ Lv3』『バーサーク Lv2』『ウォーモンガー Lv3』『ライトニング・ジョスト』『ハップライト』『騎乗戦闘』『名乗り 序』等を活性化しています。
※ライトニング・ジョスト 攻近単 動物に騎乗している時のみ使用可能。鋭い突撃で相手を崩します。【ノックバック】【ショック】【ブレイク1】
・『スターオブハイ』クロエ・ピエロン(×1)
シャンバラ上級市民。聖堂騎士団聖歌隊の隊長です。ノウブル女性オラクル。ヒーラースタイル。20代前半。軍務上の指揮官は彼女に当たります。
『サンタフェの奇跡 Lv2』『アンチトキシス Lv3』『ハーベストレイン Lv3』『ブリギッテの祈り』『声域拡張』『歌姫』等を活性化しています。
・従者(×6)
アムランの従者です。馬に乗らず、槍をもって主を守ろうと奮起します。ケモノビトを中心とした軽戦士です。
『ブレイクゲイト Lv2』『ヒートアクセル Lv2』等を活性化しています。
・聖歌隊(×4)
聖堂騎士団の一つ、聖歌隊(ゴスペル)の一員です。後方より、仲間を支援するのが役割です。
『メセグリン Lv2』『クリアカース Lv2』等を活性化しています。
●味方NPC
・イ・ラプセル騎士団
後方から騎士団が援護射撃をしてくれます。『敵前衛』もしくは『敵後衛』にいる敵全員に攻撃ダメージを与えます。
また、ターン終了時に自由騎士のHPを50点回復してくれます。
20ターン後に援軍が到来します。そこまで耐えることが出来れば依頼成功です。
●場所情報
ニルヴァン内にある丘。そこを占拠しようとしています。不意を打つには身を隠す場所がないため、真正面からのぶつかり合いになる場所です。
時刻は昼。明かりや足場は戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『アムラン』『従者(×6)』が、敵後衛に『ピエロン』『聖歌隊(×4)』がいます。
事前付与は不可とします。んな準備してたら攻め入ってくるので。
この共通タグ【白蒼激突】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません。
皆様のプレイングをお待ちしています。
教信者シリーズその三。威風堂々狂ってます編。
●敵情報
・『青騎士』ジャン=ピエール・アムラン(×1)
シャンバラ上級神民。多くの魔女を狩り首都入りを認められた青い鎧の騎士です。ノウブル男性オラクル。30代前半。拙作『【北方迎撃戦】VenerableVirgin』に出ていますが、見ずとも問題ありません。
重戦士。馬に乗り、騎乗槍を用いて重い一撃を仕掛けてきます。軍馬なので発砲音程度では怯えません(怯えないだけで、相応に攻撃を受ければ死にます)。
『ライジングスマッシュ Lv3』『バーサーク Lv2』『ウォーモンガー Lv3』『ライトニング・ジョスト』『ハップライト』『騎乗戦闘』『名乗り 序』等を活性化しています。
※ライトニング・ジョスト 攻近単 動物に騎乗している時のみ使用可能。鋭い突撃で相手を崩します。【ノックバック】【ショック】【ブレイク1】
・『スターオブハイ』クロエ・ピエロン(×1)
シャンバラ上級市民。聖堂騎士団聖歌隊の隊長です。ノウブル女性オラクル。ヒーラースタイル。20代前半。軍務上の指揮官は彼女に当たります。
『サンタフェの奇跡 Lv2』『アンチトキシス Lv3』『ハーベストレイン Lv3』『ブリギッテの祈り』『声域拡張』『歌姫』等を活性化しています。
・従者(×6)
アムランの従者です。馬に乗らず、槍をもって主を守ろうと奮起します。ケモノビトを中心とした軽戦士です。
『ブレイクゲイト Lv2』『ヒートアクセル Lv2』等を活性化しています。
・聖歌隊(×4)
聖堂騎士団の一つ、聖歌隊(ゴスペル)の一員です。後方より、仲間を支援するのが役割です。
『メセグリン Lv2』『クリアカース Lv2』等を活性化しています。
●味方NPC
・イ・ラプセル騎士団
後方から騎士団が援護射撃をしてくれます。『敵前衛』もしくは『敵後衛』にいる敵全員に攻撃ダメージを与えます。
また、ターン終了時に自由騎士のHPを50点回復してくれます。
20ターン後に援軍が到来します。そこまで耐えることが出来れば依頼成功です。
●場所情報
ニルヴァン内にある丘。そこを占拠しようとしています。不意を打つには身を隠す場所がないため、真正面からのぶつかり合いになる場所です。
時刻は昼。明かりや足場は戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『アムラン』『従者(×6)』が、敵後衛に『ピエロン』『聖歌隊(×4)』がいます。
事前付与は不可とします。んな準備してたら攻め入ってくるので。
この共通タグ【白蒼激突】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年02月14日
2019年02月14日
†メイン参加者 8人†
●
「向こうが名乗るのなら、今度はこちらも名乗るべきかしらね」
『青騎士』の名乗りに合わせるように『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)も声を上げて名乗りを上げる。かつて相対したシャンバラの魔女狩り。その相方を葬ったライカはその意気に応じるように前に出た。
「『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム。アタシの顔を忘れたとは言わせない」
「忘れるものか。この奇跡を神に感謝する!」
「一番手は譲ったがね。正々堂々名乗るのなら俺も名乗らせてもらうよ」
帽子の位置を直しながら『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)は銃を構える。生き残れば正義、が信条のアンだがああいった正々堂々とした立ち様も嫌いではない。勝負に対するこだわり。それを持つ者はまた違った強さを持っている。
「俺はアン・J・ハインケル! この隻翼を脳裏に刻み付ける覚悟があるってんなら望むところ。相手になってやるぜ!」
「いいだろう。青雷の槍技をもってその翼に応えよう!」
「それじゃ、私は腕に覚えは無いので後ろにいますね!」
あははー、と笑いながら手を振る『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)。事実フーリィンは闘病生活も長く、きったはったは苦手であった。その分培われた魔力でどこまで渡り合えるか。冷や汗が頬を伝うのを感じていた、
「か弱い者にその槍を向けることはしませんよね、騎士様?」
「そちらが『聖歌隊』に手を出さぬと約束するなら、騎士としてその願いを聞こう」
「まあ、正しいよな」
『青騎士』の言葉に苦笑する『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)。とはいえ笑っていられる状況ではないのも確かだ。相手とは一度戦って、その強さは知っている。それが支援の騎士団を引き連れているのだ。
「厄介だよな、戦争は。早く終わらせたいもんだぜ。勿論、俺たちが勝って、な」
「同意だ。我々の勝利で幕を引かせてもらおう」
「お弁当トラップ……やめておこう」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)は弁当箱にアラームを仕掛け、音爆弾的に行動阻害を行おうとしていた。が、前もって行った実験の結果、味方もうるさくて気が散るという事で諦める。味方全員で息を合わせればあるいは行けたかもしれないが。
「上手くやらなきゃ。これでも知ある学徒なんだから」
「学徒ならば歴史に刻むがいい。ミトラース様の愛を」
「『腕に覚えのある者よ』……とは随分と大時代だな」
馬に乗り、戦い前に名乗りを上げる。そんな前世代的な『青騎士』を見て『信念の盾』ランスロット・カースン(CL3000391)はため息をつく。だが迅速に要の土地を押さえに来る当たり、侮っていい相手ではないことも確かだ。
「我らの道を此処で止める訳にはいかん。倒して先へ進むのみである」
「それはこちらも同じ事。ならば雌雄を決しようではないか」
「そうだな。それが戦争だ」
『青騎士』の言葉に頷く『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。この状況に置いて交渉など意味をなさない。戦争が起きてしまったのだから、負けるわけにはいかない。ただそれだけの話だ。
「勝って土地を守る。ただそれだけだ。軍人として務めを果たすのみ」
「然り。我々シャンバラの土地を返してもらおう」
「言っていることはまともなのですが……」
『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は『青騎士』の言葉を聞きながら眉を顰める。おかしなところはない。奪われた土地を取り戻そうとする騎士。だがその根本が相いれない。神の為にと戦うその姿。そこに違和感があった。
「どうあれ押し通します」
「そちらの援軍が来る前にここを押さえさせてもらおう」
遠目に見えるイ・ラプセルの援軍。それが到達する前にこの地を制すれば聖堂騎士団の勝ち。そして援軍が来れば自由騎士達の勝ちである。
どこか遠くで鳥の鳴き声が聞こえてきた。
その声が合図となって、二国の騎士達はぶつかり合う。
●
「行くわよ!」
一番最初に動いたのはライカだ。瞳を閉じて集中し、大きく息を吸い力を満たす。もっと早く、もっと鋭く。自らを刃のようにイメージし、それを研ぎ澄ますように力を体中に満たしていく。誰にも到達できない速度を求めるように。
瞳をあけると同時に踏み出すライカ。一足で『青騎士』との間合いを詰め、その側面に迫る。『青騎士』が反応するよりも早く、ライカは腰をひねって力を籠める。繰り出される拳の一撃が騎士が駆る軍馬を穿つ。
「聖母を殺したアタシに恨み言はないわけ?」
「ない。その遺志を継ぐ事が私の努め。そのためにこの槍を振るうまで」
「は。お綺麗な騎士様だな!」
『青騎士』の言葉を笑い飛ばすザルク。相対したのは一度だけだが、『聖母』とのコンビネーションは一朝一夕で築かれた物ではないのは明白だ。それを喪って恨まない? その在り方にひどく苛立った。――まるで復讐を否定されたかのような言いざまに。
銃を握り、乱れた心を落ち着かせる。今やるべきは戦いだ。戦場を見やり敵の一を把握する。一秒後の敵の動きをイメージしながら、そこに『置く』ように弾丸を放つ。拘束魔力が込められた弾丸が飛び、聖歌隊の動きを封じていく。
「聖女と同じ所に送ってやるよ」
「いいえ。そうはさせません! 聖歌隊の名に懸けて!」
「その気持ちは理解できます。でも――」
仲間を癒すという立場としてフーリィンが『スターオブハイ』の言葉に同意する。仲間の命を護りたい。それは誰もが持つ心だ。だから剣をもち、癒しの技術を高める。それは敵も味方も同じだと知っている。でも――
迷いはない。フーリィンは決意を籠めた瞳で戦場を見る。傷が深い者、数秒後に深く傷つくと思われる仲間。それを見逃さないように強く集中する。解き放たれた魔力は暖かい光となり、仲間の傷を癒す波動となって解き放たれる。
「私も負けてはいられません。皆は私が癒します」
「ならば受けてみるがいい。我が槍技を」
「そうはさせないよ! 俺の技を受けな!」
槍を振るう『青騎士』の真正面に立つようにアンが動く。狙いを自分に定め、仲間を護る囮となる為に。馬の動きや騎乗槍の扱い。明らかに馬上戦闘に慣れている動きだ。その強さに背筋が震え、歓喜の笑みを浮かべるアン。
馬からすれば一足の間合。アンはそれを意識しながら銃を構える。一瞬時が止まったかのように静まり、馬が地を蹴って『青騎士』の槍がアンに迫る――よりも刹那早くアンは引き金を引き、馬に弾丸を叩き込む。その衝撃で槍の軌跡がずれ、事なきを得る。
「折角の強敵だ。最高に楽しもうじゃないか!」
「いいだろう。歓喜のまま眠るがいい」
「そうはさせん」
『青騎士』の攻撃に割り込むようにランスロットが『蒸気式剣「ダスク」』を振るう。高重量の騎乗槍の下から撃ち合い、角度を付けて逸らすように。馬の脚力が加味された一撃を真正面から受けるつもりはない。力には技を。これが騎士の守り。
盾の裏側に記されたイ・ラプセルの紋章に目を向けるランスロット。敵に紋章を傷つけさせないと同時に、紋章を意識して己を鼓舞する為に。『青騎士』の攻撃を盾で払うようにして受け流し、蒸気式剣に仕込まれた銃を発射する。相手のバランスを崩し落馬を狙う。
「流石にこの程度では落ちないか」
「そちらこそ一介の騎士とは思えぬ守りの技術。殺すには惜しいがこれも運命」
「陳腐な言い回しだが、敵を廃するしかないという意見には同意だ」
アリスタルフは『青騎士』の言葉に頷く。引き金やきっかけなどどうでもいい。戦争が起きてしまったのなら戦うまで。それが軍人だ。容赦などしない。する意味はない。戦争に勝つためにこの拳は鍛えられたのだから。
従者に向かって突撃し、その拳を振るう。鍛え抜かれた肉体は相手との距離を一瞬でゼロにし、防御のいとまも与えない。殴る、と思ったときには既に行動は終了している。血反吐を吐くような軍の訓練により身についた格闘技術が炸裂した。
「お前らの愛する神の御許へ逝くが良い」
「その前に神の敵を道ずれにしてやる!」
「成程。これがシャンバラの兵なのですね」
ふむ、と頷くミルトス。伝聞を信用しないわけではないが、実際に見て判断するミルトス。シャンバラの考え方や環境を実際に見てきたが、決定的な部分で相容れない。価値観の相違ともいえる何かが胸の中にあった。
息を吸い、そして吐き出す。その動作でスイッチが入ったかのように、ミルトスは意識を切り替えて地面を蹴る。相手の攻撃をガントレットで受け止めると同時に、もう片方のガントレットが穿たれる。攻防同時。これが女神を護る修道士の格闘技術。
「多くの魔女を狩ったと言いましたね。その意味を理解しているのですか?」
「無論。シャンバラの大地を護る為だ」
「その為に多くのヨウセイを狩ったのね……!」
『青騎士』の言葉に怒りの声を上げるアリア。シャンバラの静謐を動かす動力として奪われたヨウセイの命。それを『価値観の違い』の一言で済ませれるほど、アリアは達観できなかった。
神経に魔力を通して速度を上げるアリア。その速度を殺さぬように走り回りながら、従者の数を減らすべく刃を振るう。『葬送の願い』と『萃う慈悲の祈り』。異なる間合をもつ二本の刃が戦場を斬り、従者達を傷つけていく。
「彼らは生きているのよ! どうしてそんなことができるの!?」
「魔女はミトラース様に祝福されていないモノだ」
だから殺す。生きる為に家畜を殺すように。それがごく当然とばかりに。
以前『青騎士』と相対したライカとザルクは、彼が復讐に走らない理由が理解できた。
狂信。
長年共にあったパートナーとの喪失は、ミトラースへの狂信で上書きされていた。神の為に、ミトラースの為に。復讐の黒い炎は、白の神への忠誠で塗りつぶされていた。立ち直ったきっかけは聖歌隊隊長の一言だが、『青騎士』を動かすのはミトラースへの狂信そのものだ。
「……憐れね」
同情に似たミルトスの言葉。それ以上の感情を抱いている余裕はない。
丘をめぐる戦いは、激化の一途をたどっていた。
●
自由騎士達は『青騎士』の馬を集中放火し、その動きを止める。落馬した『青騎士』はそれでも戦意を失うことなく戦い続ける。
「やるねぇ。そうでなくちゃ!」
「ジョストは封じたが、かといって楽観できる物でもないな……!」
『青騎士』の猛攻を受け、矢面に立っていたアンとランスロットのフラグメンツが削られる。
「動きが……読まれてる……?」
ライカは『青騎士』の背後に周り攻撃しようとするが、そこを抑えるように従者がいることに気付く。騎士をフォローするのが従者の役目だ。故に主の死角を護るのは当然の行動。フラグメンツを削られながら、ライカは『青騎士』しか見ていない失態を悔いた。
「躊躇などしてられませんね。けほけほ……」
体調維持に使用している魔力をカットして回し、癒しの術を行使するフーリィン。自由騎士チームに癒し手が一人しかない分、フーリィンの行動は回復一択になってしまう。出し惜しみしている余裕などなく……体調維持の魔力を使用したためめまいを起こす。
「……それでも、直視しなくてはいけない」
異常なまでの神への愛。シャンバラの在り方は理解の外だが、それでも目を逸らさないとミルトスは拳を握る。拳を振るい戦うと決めたのだから、その姿から目をそらしてはいけない。相手は人間で、彼らなりの正義や信念をもつのだから。
「ここは通さない」
敵の動きを封じるように動くランスロット。一瞬でも足止めできれば、相手のリズムを崩すことができる。崩れたリズムの隙を縫うように仲間が動いてくれる。それがランスロットの騎士の在り方。味方の盾となり、矢面に立つ。
「次に行きます!」
呼吸を整えながらアリアは刃を振るう。始終動き回り、従者を一人ずつ片づけていく。敵の位置取りに注意しながらの攻撃だが、それでも無傷というわけにはいかない。フラグメンツを燃やして意識を保ち、蛇腹剣を展開していく。
「お前らは動くな!」
『聖歌隊』の動きをけん制し続けるザルク。麻痺を伴う魔術弾と広範囲の弾幕で動きを制限しながらダメージを蓄積していく。だが二種の攻撃の火力差からか『聖歌隊』の動きこそ制限できても鎮圧にまでは至らない。
「流石に奇襲は無理か……!」
気配を断ち奇襲を仕掛けようとするアリスタルフだが、無理と悟り諦める。如何に目立たないように気配を絶とうとも、戦っていればその存在は浮き彫りになる。それを見逃すほど相手の知能は低くない。奇襲前提の作戦はこれで使えなくなった。
「流石に……やるねぇ……」
『青騎士』の槍を受けて、アンが意識を飛ばす。名乗りを上げて敵の注目を浴びた故に、他の自由騎士よりも狙われていた。だが不満はない。強い相手と戦うことがアンの生きがい。そういう意味では満足いく結果だったと言えよう。
従者と『青騎士』を中心に攻めていく自由騎士達。『聖歌隊』の回復よりも高い火力で押し、その数を少しずつ減らしていく。
だが、自由騎士も無傷とはいかない。アリスタルフ、ザルク、フーリィンがフラグメンツを削られるほどの傷を負う。だが――
「このまま耐えきれるか……」
肩で息をしながらランスロットが状況を鑑みる。イ・ラプセル騎士団の援軍が来るまであと少し。それまで耐える事自体は可能だろう。最も敵部隊の打破は諦めざるを得まい。
「敵援軍を確認。退却します!」
『スターオブハイ』もイ・ラプセルを攻めきれないと判断し、退却の報を出す。
(これで終わり?)
ライカは呼吸を整えながら殿に立つ『青騎士』を見る。親愛するものを喪い、その気持ちを神への愛で上塗りされた者を。
(それが、神の所業だっていうの……?)
ライカの脳裏に浮かぶのは家族を奪われた光景。大事なものを奪われた過去。それをなかったことになどできはしない。仮に相手を赦せたとしても、理不尽を許せるはずがない。失った命は戻らない。それは神の教えが違えど共通の事なのに。
「ふ……」
笑えない。
復讐が正しいとか間違っているとか、そんな問題ではない。
辛いことは忘れることが幸せかもしれない。下を向いて恨みを飲み込むのも仕方のないことだ。
だけどそれは――自分自身で選択しないと意味がない。都合よく神への愛を植え付けて忘れさせるのが神なのか。そうやって、都合よく人の心を利用するのが神なのか。
「ふざけるな……ミトラース!」
気がつけばライカは撤退する『青騎士』に向けて駆け出していた。気に入らない。シャンバラの正義も目の前の騎士も狂信に染まる者達もすべて気に入らない。神の愛で『正常』を保っている奴ら全てが気に入らない!
「貴様達が正義を掲げるなら――」
神の為に心身ともに尽くすのがシャンバラの正義なら。
「アタシは悪を為すだけよ!」
激情と共に突き出された拳。そこに込められたライカ・リンドヴルムという少女の譲れない悪(せいぎ)。
その一撃が神の愛により動く騎士の命を奪う。
『青騎士』の心を上書きしていた神の御業ごと――
●
「遺体は返却します」
『青騎士』を討たれて動揺する『聖歌隊』が踵を返すより前に、アリアがぴしゃりと言い放つ。今復讐に駆られた彼女たちに突撃されても負けはしないだろうが、こちらの被害も大きくなる。そうなる前にこの言葉が言えたのは大きかった。
「み、皆さん大丈夫ですか!? 早く治療をし、げほげほごふっ!」
『聖歌隊』が遺体をもって撤退したのを確認した後に、フーリィンは急ぎ怪我人に駆け付け治療を行う。自分の病魔を抑える為の魔力を使用してせき込んでしまうが、それでも仲間最優先で動いていた。
「やはりシャンバラの在り方は受け入れられません」
ミルトスは大きく息を吐き、近くの岩に座り込む。その心を支配し、神に従わさせる。それは確かに神が与えた幸福なのだろう。だがそれを良しと受け入れられるものではなかった。
「シャンバラの在り方など知った事ではない。軍人は敵を討つ。それでいい」
短く言い放つアリスタルフ。政治的な配慮などはそれが得意なものに任せればいい。軍人がやるべきことは国防であり、敵と戦う事だ。その為だけに、アリスタルフはひたすらに体を鍛えていく。
「任務完了だ。追撃の必要はない。先ずは丘の占拠を優先して――」
痛む体を押さえながら、ランスロットが援軍でやってきた騎士達と話し合う。敵を排して終わりではない。この地を護ることが重要なのだ。そのためにも慟哭の騎士同士互いに協力し合い、連携を密にとる必要がある。
「復讐を忘れる、か。……そりゃ辛いわな」
ザルクは煙草に火をつけ、紫煙を吸い込んだ。この胸に渦巻く感情が他の者により消されたら? それはもしかしたら幸せなのかもしれない。だけどその瞬間に自分は死ぬのだろう。肉体的にではなく、一人の個人として。
かくして『聖歌隊』は自由騎士の猛攻を前に撤退することになった。
国の威信ともいえる聖堂騎士団の撤退は、シャンバラ民に大きな衝撃を与えることになる。
しかしその程度でミトラースへの信仰が揺らぐわけではない。否、絶望が深まるほどにシャンバラ民はミトラースの起こすであろう奇跡を待望する。
その象徴ともいえるデウスギア――アルス・マグナ発射のカウントダウンは、少しずつ進んでいた――
「向こうが名乗るのなら、今度はこちらも名乗るべきかしらね」
『青騎士』の名乗りに合わせるように『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)も声を上げて名乗りを上げる。かつて相対したシャンバラの魔女狩り。その相方を葬ったライカはその意気に応じるように前に出た。
「『聖母殺し』ライカ・リンドヴルム。アタシの顔を忘れたとは言わせない」
「忘れるものか。この奇跡を神に感謝する!」
「一番手は譲ったがね。正々堂々名乗るのなら俺も名乗らせてもらうよ」
帽子の位置を直しながら『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)は銃を構える。生き残れば正義、が信条のアンだがああいった正々堂々とした立ち様も嫌いではない。勝負に対するこだわり。それを持つ者はまた違った強さを持っている。
「俺はアン・J・ハインケル! この隻翼を脳裏に刻み付ける覚悟があるってんなら望むところ。相手になってやるぜ!」
「いいだろう。青雷の槍技をもってその翼に応えよう!」
「それじゃ、私は腕に覚えは無いので後ろにいますね!」
あははー、と笑いながら手を振る『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)。事実フーリィンは闘病生活も長く、きったはったは苦手であった。その分培われた魔力でどこまで渡り合えるか。冷や汗が頬を伝うのを感じていた、
「か弱い者にその槍を向けることはしませんよね、騎士様?」
「そちらが『聖歌隊』に手を出さぬと約束するなら、騎士としてその願いを聞こう」
「まあ、正しいよな」
『青騎士』の言葉に苦笑する『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)。とはいえ笑っていられる状況ではないのも確かだ。相手とは一度戦って、その強さは知っている。それが支援の騎士団を引き連れているのだ。
「厄介だよな、戦争は。早く終わらせたいもんだぜ。勿論、俺たちが勝って、な」
「同意だ。我々の勝利で幕を引かせてもらおう」
「お弁当トラップ……やめておこう」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)は弁当箱にアラームを仕掛け、音爆弾的に行動阻害を行おうとしていた。が、前もって行った実験の結果、味方もうるさくて気が散るという事で諦める。味方全員で息を合わせればあるいは行けたかもしれないが。
「上手くやらなきゃ。これでも知ある学徒なんだから」
「学徒ならば歴史に刻むがいい。ミトラース様の愛を」
「『腕に覚えのある者よ』……とは随分と大時代だな」
馬に乗り、戦い前に名乗りを上げる。そんな前世代的な『青騎士』を見て『信念の盾』ランスロット・カースン(CL3000391)はため息をつく。だが迅速に要の土地を押さえに来る当たり、侮っていい相手ではないことも確かだ。
「我らの道を此処で止める訳にはいかん。倒して先へ進むのみである」
「それはこちらも同じ事。ならば雌雄を決しようではないか」
「そうだな。それが戦争だ」
『青騎士』の言葉に頷く『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。この状況に置いて交渉など意味をなさない。戦争が起きてしまったのだから、負けるわけにはいかない。ただそれだけの話だ。
「勝って土地を守る。ただそれだけだ。軍人として務めを果たすのみ」
「然り。我々シャンバラの土地を返してもらおう」
「言っていることはまともなのですが……」
『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は『青騎士』の言葉を聞きながら眉を顰める。おかしなところはない。奪われた土地を取り戻そうとする騎士。だがその根本が相いれない。神の為にと戦うその姿。そこに違和感があった。
「どうあれ押し通します」
「そちらの援軍が来る前にここを押さえさせてもらおう」
遠目に見えるイ・ラプセルの援軍。それが到達する前にこの地を制すれば聖堂騎士団の勝ち。そして援軍が来れば自由騎士達の勝ちである。
どこか遠くで鳥の鳴き声が聞こえてきた。
その声が合図となって、二国の騎士達はぶつかり合う。
●
「行くわよ!」
一番最初に動いたのはライカだ。瞳を閉じて集中し、大きく息を吸い力を満たす。もっと早く、もっと鋭く。自らを刃のようにイメージし、それを研ぎ澄ますように力を体中に満たしていく。誰にも到達できない速度を求めるように。
瞳をあけると同時に踏み出すライカ。一足で『青騎士』との間合いを詰め、その側面に迫る。『青騎士』が反応するよりも早く、ライカは腰をひねって力を籠める。繰り出される拳の一撃が騎士が駆る軍馬を穿つ。
「聖母を殺したアタシに恨み言はないわけ?」
「ない。その遺志を継ぐ事が私の努め。そのためにこの槍を振るうまで」
「は。お綺麗な騎士様だな!」
『青騎士』の言葉を笑い飛ばすザルク。相対したのは一度だけだが、『聖母』とのコンビネーションは一朝一夕で築かれた物ではないのは明白だ。それを喪って恨まない? その在り方にひどく苛立った。――まるで復讐を否定されたかのような言いざまに。
銃を握り、乱れた心を落ち着かせる。今やるべきは戦いだ。戦場を見やり敵の一を把握する。一秒後の敵の動きをイメージしながら、そこに『置く』ように弾丸を放つ。拘束魔力が込められた弾丸が飛び、聖歌隊の動きを封じていく。
「聖女と同じ所に送ってやるよ」
「いいえ。そうはさせません! 聖歌隊の名に懸けて!」
「その気持ちは理解できます。でも――」
仲間を癒すという立場としてフーリィンが『スターオブハイ』の言葉に同意する。仲間の命を護りたい。それは誰もが持つ心だ。だから剣をもち、癒しの技術を高める。それは敵も味方も同じだと知っている。でも――
迷いはない。フーリィンは決意を籠めた瞳で戦場を見る。傷が深い者、数秒後に深く傷つくと思われる仲間。それを見逃さないように強く集中する。解き放たれた魔力は暖かい光となり、仲間の傷を癒す波動となって解き放たれる。
「私も負けてはいられません。皆は私が癒します」
「ならば受けてみるがいい。我が槍技を」
「そうはさせないよ! 俺の技を受けな!」
槍を振るう『青騎士』の真正面に立つようにアンが動く。狙いを自分に定め、仲間を護る囮となる為に。馬の動きや騎乗槍の扱い。明らかに馬上戦闘に慣れている動きだ。その強さに背筋が震え、歓喜の笑みを浮かべるアン。
馬からすれば一足の間合。アンはそれを意識しながら銃を構える。一瞬時が止まったかのように静まり、馬が地を蹴って『青騎士』の槍がアンに迫る――よりも刹那早くアンは引き金を引き、馬に弾丸を叩き込む。その衝撃で槍の軌跡がずれ、事なきを得る。
「折角の強敵だ。最高に楽しもうじゃないか!」
「いいだろう。歓喜のまま眠るがいい」
「そうはさせん」
『青騎士』の攻撃に割り込むようにランスロットが『蒸気式剣「ダスク」』を振るう。高重量の騎乗槍の下から撃ち合い、角度を付けて逸らすように。馬の脚力が加味された一撃を真正面から受けるつもりはない。力には技を。これが騎士の守り。
盾の裏側に記されたイ・ラプセルの紋章に目を向けるランスロット。敵に紋章を傷つけさせないと同時に、紋章を意識して己を鼓舞する為に。『青騎士』の攻撃を盾で払うようにして受け流し、蒸気式剣に仕込まれた銃を発射する。相手のバランスを崩し落馬を狙う。
「流石にこの程度では落ちないか」
「そちらこそ一介の騎士とは思えぬ守りの技術。殺すには惜しいがこれも運命」
「陳腐な言い回しだが、敵を廃するしかないという意見には同意だ」
アリスタルフは『青騎士』の言葉に頷く。引き金やきっかけなどどうでもいい。戦争が起きてしまったのなら戦うまで。それが軍人だ。容赦などしない。する意味はない。戦争に勝つためにこの拳は鍛えられたのだから。
従者に向かって突撃し、その拳を振るう。鍛え抜かれた肉体は相手との距離を一瞬でゼロにし、防御のいとまも与えない。殴る、と思ったときには既に行動は終了している。血反吐を吐くような軍の訓練により身についた格闘技術が炸裂した。
「お前らの愛する神の御許へ逝くが良い」
「その前に神の敵を道ずれにしてやる!」
「成程。これがシャンバラの兵なのですね」
ふむ、と頷くミルトス。伝聞を信用しないわけではないが、実際に見て判断するミルトス。シャンバラの考え方や環境を実際に見てきたが、決定的な部分で相容れない。価値観の相違ともいえる何かが胸の中にあった。
息を吸い、そして吐き出す。その動作でスイッチが入ったかのように、ミルトスは意識を切り替えて地面を蹴る。相手の攻撃をガントレットで受け止めると同時に、もう片方のガントレットが穿たれる。攻防同時。これが女神を護る修道士の格闘技術。
「多くの魔女を狩ったと言いましたね。その意味を理解しているのですか?」
「無論。シャンバラの大地を護る為だ」
「その為に多くのヨウセイを狩ったのね……!」
『青騎士』の言葉に怒りの声を上げるアリア。シャンバラの静謐を動かす動力として奪われたヨウセイの命。それを『価値観の違い』の一言で済ませれるほど、アリアは達観できなかった。
神経に魔力を通して速度を上げるアリア。その速度を殺さぬように走り回りながら、従者の数を減らすべく刃を振るう。『葬送の願い』と『萃う慈悲の祈り』。異なる間合をもつ二本の刃が戦場を斬り、従者達を傷つけていく。
「彼らは生きているのよ! どうしてそんなことができるの!?」
「魔女はミトラース様に祝福されていないモノだ」
だから殺す。生きる為に家畜を殺すように。それがごく当然とばかりに。
以前『青騎士』と相対したライカとザルクは、彼が復讐に走らない理由が理解できた。
狂信。
長年共にあったパートナーとの喪失は、ミトラースへの狂信で上書きされていた。神の為に、ミトラースの為に。復讐の黒い炎は、白の神への忠誠で塗りつぶされていた。立ち直ったきっかけは聖歌隊隊長の一言だが、『青騎士』を動かすのはミトラースへの狂信そのものだ。
「……憐れね」
同情に似たミルトスの言葉。それ以上の感情を抱いている余裕はない。
丘をめぐる戦いは、激化の一途をたどっていた。
●
自由騎士達は『青騎士』の馬を集中放火し、その動きを止める。落馬した『青騎士』はそれでも戦意を失うことなく戦い続ける。
「やるねぇ。そうでなくちゃ!」
「ジョストは封じたが、かといって楽観できる物でもないな……!」
『青騎士』の猛攻を受け、矢面に立っていたアンとランスロットのフラグメンツが削られる。
「動きが……読まれてる……?」
ライカは『青騎士』の背後に周り攻撃しようとするが、そこを抑えるように従者がいることに気付く。騎士をフォローするのが従者の役目だ。故に主の死角を護るのは当然の行動。フラグメンツを削られながら、ライカは『青騎士』しか見ていない失態を悔いた。
「躊躇などしてられませんね。けほけほ……」
体調維持に使用している魔力をカットして回し、癒しの術を行使するフーリィン。自由騎士チームに癒し手が一人しかない分、フーリィンの行動は回復一択になってしまう。出し惜しみしている余裕などなく……体調維持の魔力を使用したためめまいを起こす。
「……それでも、直視しなくてはいけない」
異常なまでの神への愛。シャンバラの在り方は理解の外だが、それでも目を逸らさないとミルトスは拳を握る。拳を振るい戦うと決めたのだから、その姿から目をそらしてはいけない。相手は人間で、彼らなりの正義や信念をもつのだから。
「ここは通さない」
敵の動きを封じるように動くランスロット。一瞬でも足止めできれば、相手のリズムを崩すことができる。崩れたリズムの隙を縫うように仲間が動いてくれる。それがランスロットの騎士の在り方。味方の盾となり、矢面に立つ。
「次に行きます!」
呼吸を整えながらアリアは刃を振るう。始終動き回り、従者を一人ずつ片づけていく。敵の位置取りに注意しながらの攻撃だが、それでも無傷というわけにはいかない。フラグメンツを燃やして意識を保ち、蛇腹剣を展開していく。
「お前らは動くな!」
『聖歌隊』の動きをけん制し続けるザルク。麻痺を伴う魔術弾と広範囲の弾幕で動きを制限しながらダメージを蓄積していく。だが二種の攻撃の火力差からか『聖歌隊』の動きこそ制限できても鎮圧にまでは至らない。
「流石に奇襲は無理か……!」
気配を断ち奇襲を仕掛けようとするアリスタルフだが、無理と悟り諦める。如何に目立たないように気配を絶とうとも、戦っていればその存在は浮き彫りになる。それを見逃すほど相手の知能は低くない。奇襲前提の作戦はこれで使えなくなった。
「流石に……やるねぇ……」
『青騎士』の槍を受けて、アンが意識を飛ばす。名乗りを上げて敵の注目を浴びた故に、他の自由騎士よりも狙われていた。だが不満はない。強い相手と戦うことがアンの生きがい。そういう意味では満足いく結果だったと言えよう。
従者と『青騎士』を中心に攻めていく自由騎士達。『聖歌隊』の回復よりも高い火力で押し、その数を少しずつ減らしていく。
だが、自由騎士も無傷とはいかない。アリスタルフ、ザルク、フーリィンがフラグメンツを削られるほどの傷を負う。だが――
「このまま耐えきれるか……」
肩で息をしながらランスロットが状況を鑑みる。イ・ラプセル騎士団の援軍が来るまであと少し。それまで耐える事自体は可能だろう。最も敵部隊の打破は諦めざるを得まい。
「敵援軍を確認。退却します!」
『スターオブハイ』もイ・ラプセルを攻めきれないと判断し、退却の報を出す。
(これで終わり?)
ライカは呼吸を整えながら殿に立つ『青騎士』を見る。親愛するものを喪い、その気持ちを神への愛で上塗りされた者を。
(それが、神の所業だっていうの……?)
ライカの脳裏に浮かぶのは家族を奪われた光景。大事なものを奪われた過去。それをなかったことになどできはしない。仮に相手を赦せたとしても、理不尽を許せるはずがない。失った命は戻らない。それは神の教えが違えど共通の事なのに。
「ふ……」
笑えない。
復讐が正しいとか間違っているとか、そんな問題ではない。
辛いことは忘れることが幸せかもしれない。下を向いて恨みを飲み込むのも仕方のないことだ。
だけどそれは――自分自身で選択しないと意味がない。都合よく神への愛を植え付けて忘れさせるのが神なのか。そうやって、都合よく人の心を利用するのが神なのか。
「ふざけるな……ミトラース!」
気がつけばライカは撤退する『青騎士』に向けて駆け出していた。気に入らない。シャンバラの正義も目の前の騎士も狂信に染まる者達もすべて気に入らない。神の愛で『正常』を保っている奴ら全てが気に入らない!
「貴様達が正義を掲げるなら――」
神の為に心身ともに尽くすのがシャンバラの正義なら。
「アタシは悪を為すだけよ!」
激情と共に突き出された拳。そこに込められたライカ・リンドヴルムという少女の譲れない悪(せいぎ)。
その一撃が神の愛により動く騎士の命を奪う。
『青騎士』の心を上書きしていた神の御業ごと――
●
「遺体は返却します」
『青騎士』を討たれて動揺する『聖歌隊』が踵を返すより前に、アリアがぴしゃりと言い放つ。今復讐に駆られた彼女たちに突撃されても負けはしないだろうが、こちらの被害も大きくなる。そうなる前にこの言葉が言えたのは大きかった。
「み、皆さん大丈夫ですか!? 早く治療をし、げほげほごふっ!」
『聖歌隊』が遺体をもって撤退したのを確認した後に、フーリィンは急ぎ怪我人に駆け付け治療を行う。自分の病魔を抑える為の魔力を使用してせき込んでしまうが、それでも仲間最優先で動いていた。
「やはりシャンバラの在り方は受け入れられません」
ミルトスは大きく息を吐き、近くの岩に座り込む。その心を支配し、神に従わさせる。それは確かに神が与えた幸福なのだろう。だがそれを良しと受け入れられるものではなかった。
「シャンバラの在り方など知った事ではない。軍人は敵を討つ。それでいい」
短く言い放つアリスタルフ。政治的な配慮などはそれが得意なものに任せればいい。軍人がやるべきことは国防であり、敵と戦う事だ。その為だけに、アリスタルフはひたすらに体を鍛えていく。
「任務完了だ。追撃の必要はない。先ずは丘の占拠を優先して――」
痛む体を押さえながら、ランスロットが援軍でやってきた騎士達と話し合う。敵を排して終わりではない。この地を護ることが重要なのだ。そのためにも慟哭の騎士同士互いに協力し合い、連携を密にとる必要がある。
「復讐を忘れる、か。……そりゃ辛いわな」
ザルクは煙草に火をつけ、紫煙を吸い込んだ。この胸に渦巻く感情が他の者により消されたら? それはもしかしたら幸せなのかもしれない。だけどその瞬間に自分は死ぬのだろう。肉体的にではなく、一人の個人として。
かくして『聖歌隊』は自由騎士の猛攻を前に撤退することになった。
国の威信ともいえる聖堂騎士団の撤退は、シャンバラ民に大きな衝撃を与えることになる。
しかしその程度でミトラースへの信仰が揺らぐわけではない。否、絶望が深まるほどにシャンバラ民はミトラースの起こすであろう奇跡を待望する。
その象徴ともいえるデウスギア――アルス・マグナ発射のカウントダウンは、少しずつ進んでいた――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
どくどくです。
EX技は馬依頼の後に出すべきだったかな、と少し反省。
現実世界における騎士道とは、神の法に従い君主がそれに反すればこれを討つ、というものでした。
それをシャンバラ風に表現したのが『聖母』と『青騎士』です。第一義を神に置き、それを伝えることが正しい。彼らにしてみれば『人殺しは良くない』的な感覚でミトラースの教えを伝えているのです。
なので復讐よりも神の愛を説く。それが彼らにとって大事だったのです。
戦争はまだ続きます。この戦いの結果がどうなるか。それはどくどくにもまだわかりません。
ゆっくり傷を癒し、次の戦いに備えてください。
それではまた、イ・ラプセルで。
EX技は馬依頼の後に出すべきだったかな、と少し反省。
現実世界における騎士道とは、神の法に従い君主がそれに反すればこれを討つ、というものでした。
それをシャンバラ風に表現したのが『聖母』と『青騎士』です。第一義を神に置き、それを伝えることが正しい。彼らにしてみれば『人殺しは良くない』的な感覚でミトラースの教えを伝えているのです。
なので復讐よりも神の愛を説く。それが彼らにとって大事だったのです。
戦争はまだ続きます。この戦いの結果がどうなるか。それはどくどくにもまだわかりません。
ゆっくり傷を癒し、次の戦いに備えてください。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済