MagiaSteam
【レガート砦】Union! レガート砦の兵士達!



●ヴィスマルク
「以上が報告です。あいつら、結構使えますぜ」
「分かった」
 オットー・ベルネットの報告を受けてモーリッツ・ディークマンは短く頷いた。イ・ラプセルから裏切ったとされる者達。イ・ラプセルの建てようとしていた物見やぐら計画を阻止し、そこに居た者達を全員捕らえたという。
「……この女性はかなりの重体のようだが。確か未知の技を使うと聞いていたが大丈夫なのか?」
「まあ、無理っぽいです。それでその……別方向で役立ってもらおうかと思いまして」
 ベルネットの濁すような言葉を察したのか。ため息をついてディークマンは頷く。
「構わん。兵士にも娯楽は必要だしな」
「すみませんねぇ。とりあえずこの女は『病棟』の方に送っておきます。あとは地下の牢屋で。そんで例の裏切り者達は――」
「通常の傭兵枠を与えろ。あと進入禁止区域は教えておけ」
 ベルネットが意見を言う前に、ディークマンは割り込むように言葉を告げた。
「……おや、大佐にしては珍しい。あいつらを信じるんですか?」
「これだけの実力を示したのだ。相応に答えておく必要がある。それに――」
「それに?」
「国を裏切った、というのが本当かどうか確かめる必要がある。適度に泳がせておけば尻尾をだすだろう」
 資料を確認しながら、ディークマンはため息交じりに呟いた。信賞必罰を怠れば、人はついてこない。信じられないとはいえ、彼らはイ・ラプセルの軍事作戦を妨害してその要員を連れてきたのだ。そこを無視はできない。
 無論、手放しで信じるわけでもない。怪しい動きを見せれば、それなりの対応も必要となるだろう。
「ウーリヒ中佐の方はどうなっている?」
「それなりに研究は進んでいるようですぜ。とはいえ、趣味に傾倒しているのは確かです」
「上も難物を押し付けてきたな。どうあれ結果さえ出してくれればいい」
「フライターク大尉が泣き言言ってますよ。ま、書類のことはオレの剣じゃどうしようもありませんからね。とりあえず報告は以上です」

●イ・ラプセル
 レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)がまとめたレガート砦の需要人物は、大きく四名。
 モーリッツ・ディークマン大佐。このレガート砦の責任者だ。指揮官的な立場で、仕事に追われている。出会うなら食堂で同席するか、無理矢理仕事をしている所に乗り込むかだろう。
 フリーデグント・ウーリヒ中佐。ヴィスマルク首都ヴェスドラゴンから派遣された魔術師だ。何かしらの『研究』をする為にレガート砦にやってきたという。『趣味』と称して若い少年を地下牢に連れていくという。そこで何をしているかを問うと全員口を紡ぐ。
 オリヴァー・フライターク大尉。レガート砦の兵站全般を扱う。物品関係を担う、いわば事務長だ。真面目な性格らしく、彼の前では煙草一箱だろうが不正な入手は見逃さないと言われている。
 オットー・ベルネット軍曹。レガート砦の兵士を統括している。軍規をある程度守りさえすれば多少の不正を許す管理で、そう言った部分が荒くれな兵士達に好かれていた。傭兵の管理も行うため、レガート砦に傭兵として入った自由騎士達は世話になることになる。
 ベルネットの案内で傭兵用の宿舎と訓練所や資料室、食堂等を案内される。一階部分は自由に動いていいが、二階より上は立ち入り禁止とくぎを刺された。
 当然だが、これだけの情報ではこの砦攻略など夢のまた夢だ。何かしらの成果を得なければならない。
 要人に接触する? 施設を調べる? 一般兵を籠絡する? 動かなければ、何も得ることはできない。そして無策のまま挑めば、間違いなくイ・ラプセルは砦を落とすことはできないだろう。
 先の作戦で、自由騎士達はベルネット曹長からかなりの信頼を得ている。だが、全ての人間の信頼を得たわけではない。動き方によっては、疑いを持たれることもあるだろう。

 さて、どう動く?



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
シリーズシナリオ
シナリオカテゴリー
S級指令
担当ST
どくどく
■成功条件
1.レガート砦の情報を得る
 どくどくです。
 レガート砦二回目。まずは情報収集と行きましょう。

 このシリーズは全3回のシリーズ物です。そこで得られた情報を元に、ヴィスマルク領レガート砦攻略を行うことになります。
 本シナリオ参加時、次回同タグの依頼の参加優先権が得られます。

●説明っ!
 先の戦い(『【レガート砦】SpyMisson! 欺き欺かれて―― 』)でヴィスマルクのレガート砦にある程度の信頼を得て侵入することが出来た自由騎士達。
 しかしここからが作戦本番。要人に接触し、施設を調べ、様々な方向からこの砦を調べて情報を得ることで、後のレガート砦攻略を有利に進めることが出来ます。得ることが出来なくとも、問題ありません。砦攻略の難易度が上がるだけです。
 今回はあくまで情報収集がメインで、その情報を得て実際に破壊工作を仕掛けるのが次回になります。

●要人
・モーリッツ・ディークマン
 キジン(ハーフ)の重戦士。40代男性。所属は侵火槍兵団(歩兵科)。階級は大佐。レガート砦の総責任者です。成果さえ上げれば多少の軍規違反は目を瞑るタイプ。貴族等のコネがないので、上層部に厄介を押し付けられる形でこの砦に就任したようです。

・フリーデグント・ウーリヒ
 ノウブルのネクロマンサー。20代女性。所属は砲火竜兵団(砲兵科)。階級は中佐。兵器開発などを担います。レガート砦にある長距離砲も彼女の管轄。『研究』と称して若い少年を地下にある研究室に連れ込んでいるようです。なおその少年の姿を見た者はいないとか。

・オリヴァー・フライターク
 ノウブルのガンナー。20代男性。所属は侵火槍兵団(歩兵科)。階級は大尉。後方で食料や軍靴などの物品配給を担う事務員です。性格は真面目。小さなミスをも見逃さない鉄の事務員です。不真面目な軍人とは相性が悪いようで、色々衝突しています。

・オットー・ベルネット
 ノウブルの蒸気騎士。30代男性。所属は鋼炎機甲団(機甲科)。階級は軍曹。戦車の随伴歩兵として数多の戦場を戦車と共にわたりぬけた歴戦の軍人。一般兵を纏める立場です。酒と煙草と女はいい息抜きとばかりに、仕事の合間に楽しんでいます。

・一般兵
 種族は様々。階級は二等兵が多数です。非オラクル。
 派手な戦闘こそないものの最前線に送られていることもあり色々負荷がかかっていしたが、最近は『病棟』に行くことでその負荷が軽減されているようです。


●場所情報
・宿舎
 自由騎士達に割り当てられた宿舎の一室です。盗聴などの可能性はありません。

・訓練所
 グラウンドを含む兵の訓練所です。一般兵やベルネットなどがいます。砦を守る長距離砲や戦車などもこちらに並んでいます。

・資料室
 様々な資料が置いてあります。閲覧は自由です。フライタークが常駐しています。

・食堂
 食堂です。様々な兵士達が集まって食事をしています。全てのNPCと出会えます。

・地下区域(進入禁止)
 地下室です。牢屋に前回の話で捕えたサイラスとジョンと工作員達が投獄されています。理由なしに入ることは許可されません。また、ウーリヒも地下で『研究』しているようです。
 気付かれずに潜入するには、相応の技能とプレイングが必要になります。

・『病棟』(進入禁止)
 何処かにある部屋です。前回の話で捕えたアミナが投獄されています。何処にあるかすらわからないので、行くことはできません。

・執務室(進入禁止)
 ディークマンの仕事場です。入り口に兵士がいるなど、警備は厳重です。よほど上手くやらない限りは、侵入は不可能でしょう。

★その他
・あらゆる個所を回ることは可能ですが、その分一ヶ所に避けるプレイングは短くなります。担当を分けるのをお勧めします。
・行動時間はPC側で決定して構いません。ヴィスマルク兵は交代制で24時間哨戒しています。将校も必要あらば夜中でも起きているでしょう。
・訓練場以外での戦闘行為は処罰対象になります。ご注意ください。
・(進入禁止)の場所に行くこと自体は可能ですが、上手くやらないとつまみ出されます。
・名前付きのNPCは全員オラクルです。
・成功条件が大雑把ですが、訓練所の兵士や武装を見るだけでも一応の条件は満たされます。何処まで情報を手に入れるかは、お任せします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
4個  4個  4個  4個
7モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2020年07月10日

†メイン参加者 8人†




「はっ、とう!」
 ヴィスマルク、レガート砦の訓練所で汗を流すフリオ・フルフラット(CL3000454)。ヴィスマルクの訓練はイ・ラプセルの者と多少は異なる。だが基本的な部分は体力をつけて、局地戦に応じた動きを熟知することだ。
「フライターク大尉と皆さんはそこまで仲が悪いんですか?」
「まあな。あの真面目野郎は軍ってものを理解していない事務屋だからな」
 適度にレガート砦内の話をしていたフリオ。話題は一般兵と良く対立するフライタークの話になった。
「外から煙草を持ち込もうとしただけで怒られてなぁ。この前なんか腹減ったから村の羊捕まえようぜ、って言ったら『乾パンと魚肉があるでしょう!』とか言ってカチカチのパンとマズイ魚肉ミンチを出されたんだぜ。やってられねぇよ」
「それは酷いですね」
 話を合わせる為に頷くフリオ。実際、軍隊食はマズい。新鮮な肉があるならそれを食べたいのは当然の欲求だ。だがフライターク大尉はそれを許さないという。
(レガート砦周辺が平和なのは、この大尉のおかげなのかもしれませんね)
 最前線に送られた荒くれ者だらけのレガート砦のストッパー。階級と軍規で律する軍人。だがそれは、現場からすれば息がつまる思いなのだろう。
「大佐はある程度は見逃してくれる方針だったけど、大尉がしめるようになってからはガチガチになっちまって」
「はあ、ディークマン大佐はそうではなかったのですか?」
「どっちかっていうと黙認してる感じだったな。やりすぎると個別で呼ばれて重労働。飴と鞭を使い分けてた感じか」
 ふむふむ、とフリオは納得する。ディークマンは上手く兵の心を掴んでいたようだ。それでいて過剰にならないように占める統制。
(奇策を行うのではなく、上手く兵を扱うタイプの統率者。……こういうのが一番厄介でありますね)
 フリオはディークマン大佐をそう評した。奇策を行うタイプではなく、正攻法を主眼とするタイプ。その分兵の扱いにはスキがない。
(となると、他の方面から攻めるのが吉でありますね)
 兵の愚痴を聞きながら、フリオはそう結論付けた。


(ま、怪しまれない程度にやりますか)
『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)は心の中で気合を入れて、食堂に足を運ぶ。屈強な男からまだ若い新兵など様々な人間がごった返している。ニコラス達自由騎士のことは聞かされているのか、反応は様々だ。だがベルネットの統制が聞いているのか、露骨に罵倒してくるものはいなかった。
「よう、おっさん。煙草持ってるか?」
「生憎と水場の『作戦』が多かったんでね。湿気て不味くなるんで持ってねえのさ」
「ああ、ミズビトだからな」
 そんな当たり障りのない会話から、話を広げていくニコラス。方向性としては娯楽方面だ。どんなラジヲ番組があって、どんな賭けをして、どんなストレス解消法があるか――
「次攻める場所の賭けか。そいつはシビアだな」
「沼越えニルヴァンが本命で、イブリース退治が次点。大穴は沼の埋め立てだな」
「埋め立て? あんな沼埋まるのか?」
 ニルヴァンとレガート砦の間に広がる大湿原。これが埋まれば戦車による侵攻も可能となる。成功すれば面倒なことになるだろうが……。
「さあな? 軍曹は『フリだけしてれば上も納得するから土運んどけ』っておざなりだけど」
 大穴に分類されるだけの作戦のようだ。言うほど力はいれていないのだろう。
「ま、面倒な任務でも最近はいい『女』がいるしな。仕事するのもはかどるぜ」
「へぇ。商売女かい?」
「何言ってやがる。お前らが連れてきたあの褐色女だよ。わざわざ抵抗できなくしてくれるなんざ、いいサービスだぜ」
「ああ。そっちか」
 あたりだ。ニコラスは表情を変えずに頷いた。
「イ・ラプセルを裏切ったんだし、おっさんもどうだ?」
「いいねぇ。何処にいるんだ?」
「離れの塔だよ。病棟の地下に閉じ込めてるぜ」
 兵士が指差したのは、少し離れたところにある塔だ。上階は入院用のベッドがあるが、地下は『そういった』仕様になっているらしい。
「そりゃ楽しみだ。娘程離れた女を抱くなんざ、そうそうないからな」
 自分でも嫌悪を感じるようなセリフを吐きながら、ニコラスは相手に合わせる。今は怪しまれないことが大事だ。


「ウーリヒ中佐は兵器開発担当だそうですね。やっぱり強い兵器は憧れますよ。見てみたいなあ」
『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)はそうベルネットに告げると、眉を顰めるようは表情を浮かべた。疑われているわけではなく、どう言ったものか悩んでいる雰囲気だ。
「あー。中佐は今研究に専念してるからな。兵器なら訓練所から主砲が見れるぜ」
 ベルネットが指差したのはレガート砦に配置された砲門だ。その反応は予想通りなので、言葉を続ける。
「中佐は魔術師だともお聞きしました。砲門と魔術の組み合わせ、という事なのでしょうか? 俺も魔法っぽいのは使えるんでお役に立てませんかね」
「なんかそれっぽい戦いをしている所は見てたけどなぁ……まあ、会わせるだけならいいぜ」
 ベルネットの同行を条件に中佐会見の許可を得るルエ。些か想定外だが、流れとしては悪くない。しばし食堂で時間を潰し、ウーリヒが食事をする時間まで待った。そして――数名の護衛を伴って女性が歩いてくる。
「中佐に面会したいという者がいます」
「聞いてるわ、イ・ラプセルの騎士。ああ、もう裏切ったのね」
 値踏みするようにルエを見るウーリヒ。値踏みするような視線。男娼経験のあるルエは、その瞳から感じる自分への評価を見抜いていた。
(好印象、と言うよりは……)
 男娼として相手してほしいという視線ではなく、いい道具を見つけたという目である。上から見下ろす蛇の視線。
「こちらでは見られない魔術を使うと聞いたわ。出来るなら教えてもらえないかしら? 踊りの子が使えなくなって、手持無沙汰なのよ」
「踊り?」
「手足で魔力をコントロールする術。面白そうと思ったけど、あそこまで痛めつけられたらどうしようもないわ。でも、アナタが手に入るならそれもいいかもね」
 言ってウーリヒはルエにメモを渡す。時間と場所が書かれたメモだ。
「この時間は周回と見張りが途切れるわ。私の研究に興味があるなら、訪ねてきてね」
 言ってウーリヒは手を振り、食事の為にルエから離れる。
(ある程度の信頼は得られた……のかな?)
 メモを懐に収め、ルエは小さく頷いた。


(なるほどなぁ。そういう少年が好みなんかぁ。……連れ込まれて何されとるかはわからんかったけど)
 何名かの兵士達から情報収集をした『妖艶男娼』蔡 狼華(CL3000451)は、その情報を元にウーリヒ中佐の『好み』を推測する。男娼の狼華が趣味と実益を兼ねてどんな情報収集をしたかは……マギアスティームは全年齢! ともあれ情報に誤りがないのは事実だろう。
(ほな、いきますか。ちょうど通りかかりそうやし)
 呼吸を整え、自らの『設定』を心の中で反芻する。歩いてきた中佐の前に跪き、涙(演技)を流して狼華は懇願した。
「あのウーリヒ中佐殿ですよね。貴方の元に居れば、戦わずに済むって本当ですか? お願いします。貴方の元に置いてください」
 ――曰く、庇護欲を誘う少年。ウーリヒ中佐が好むのはそういう少年だ。あとは見た目麗しければなお良し。種族はキジンでなければいいとの事である。
「ええ、戦わずに済むわよ。私に従順なら少し痛い目を見るかもしれないけど、生かしてあげる」
「ありがとうございます!
 ウーリヒ中佐殿は研究者であらせられるとか。どんな研究をしていらっしゃるんです? ああ、でも軍事機密ですよね。ごめんなさい」
 狼華が顔を俯かせると、ウーリヒは狼華の頬を手で包むように持ち上げて告げる。
「いいわ。教えてあげる。私の研究室でね」
 ここまで来たら断るのは怪しまれるだろう。狼華は連れられるままに地下の施設に向かう。鉄の扉が開くと、中から血の匂いが漂ってきた。
「私の研究はイブリースの研究よ」
『研究室』の壁には鎖でつながれた少年達が並んでいた。ある者は血を流し、ある者は火傷の跡が残り、その口からは怨嗟や意味不明な呟きが聞こえてくる。
「その発生条件は不明だけど、強い恨みや感情を持つ者はイブリースになりやすくまた強いイブリースになると言われているわ。
 それを兵器として転用するのが私の最終目的。でも――」
 狼華は両脇を護衛の兵士に捕まれ、手錠を掛けられる。そのまま拘束され、別室に連れ込まれた。
「仕事は楽しんでこそよね。大丈夫、『死なない』ようにしてあげるわ。慣れているから大丈夫よ」
 サディスティックな表情を浮かべるウーリヒ中佐。成程そういう事か、と狼華は誰もが口を割らない理由を理解していた。


「機械のメンテナンスが出来ます」
 ――という触れこみでロザベル・エヴァンス(CL3000685)はフライターク大尉に近づく。どの程度できるかを質問・実技で示し、喜んでお願いしますと頭を下げられる。ヘルメリア出身という事とも功を奏したのだろう。
「節約できるところはしていかないと」
「大変なのですね、大尉殿は」
 ロザベルが感じたフライタークの印象は『低姿勢』だった。階級が下……というか傭兵であるロザベルに対しても丁寧に対応し、敬語まで使う。問題を起こした相手には怒りの言葉を発するが、権力を行使することはない。
「『紙戦士』なんて言われてるからね。事務屋は辛いですよ」
 曰く紙で戦う兵隊と言う意味だ。実際、銃を撃つ経験は少ないらしい。
「それは大変なんですね……っと、この資料はこちらで?」
 世間話をしながら兵器関係の資料を直すロザベル。メンテナンスに必要だ、と言ったら抵抗なく見せてもらえた資料だ。実際、重大機密と言えるものは書いていない。メンテナンスするならあるとわかりやすい程度のものだ。
(ヘルメリアやイ・ラプセルとネジの仕様が異なるぐらいで、基本的には同じ物みたいですね。長距離砲と戦車数両。……あれ? 訓練所で見た数と資料の数が合わない?)
 疑問に思ったロザベルが聞いたところ、
「ああ……ウーリヒ中佐の申請洩れしている兵器ですね。『まだ未完成だから』とかで書類を出してくれないんですよ」
「大変なんですね」
 心の底から同情するロザベル。こういった事務員がいるからこそ物資は周り、そして兵が戦えるのだ。
(物資関係は二階倉庫に納入。火薬関係は一回の訓練所近く。……気になるのは未申請の戦車と砲台ぐらいですね)
 しっかり記録されているからこそ、後追いも可能だった。そういう意味ではフライタークの几帳面さに感謝である。
 その後も書類整理を手伝うロザベル。機密自体に触れる音はできなかったが、物資の流れはある程度理解できた。


「中々の練度だが、それじゃまだまだだな」
 訓練所でヴィスマルク兵を鍛えていた『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は言って銃を下す。射撃訓練用の的を見ながら、ヴィスマルク兵の強さを測っていた。成程列強と呼ばれる軍隊だけはある、と頷きながら。
「大したもんだな。そんだけの腕の持ち主はヴィスマルクでもそうはいないぜ」
 アンの銃の腕を誉めるベルネット。銃使いにも色々いるが、アン程の命中精度を持つ相手はそう見かけない。その実力にベルネットは感服していた。
「おつかれさん。俺も新兵をこうして鍛えてやったことがあったよ」
「OK。イ・ラプセルとやり合う時は念頭に入れておくぜ」
 そんなやり取りから新兵の鍛え方を軸に話をするアンとベルネット。
「そういや、連戦で疲れた兵はどうしてるんだ? 士気とか下がって大変だろう?」
「状況よりけりだな。略奪できるから頑張れって励ますか、ここで倒れたらウーリヒ中佐のネクロマンサーでこき使われるぞ、ってケツ叩くか」
 基本は飴と鞭のようだ。程度の違いこそあれど、この辺りは他の軍隊と変わらない。
「ああ、そうだ。この砦の防空ってどうなってるんだ?」
 アンはかつてロンディアナを攻める際の話をする。『ティダルト』に兵を乗せ、打ち出した作戦だ。
「イカれた作戦だが、んなことされたら対応できるのか?」
「そりゃ事前に知ってりゃ砲撃で対応できるぜ。つーか、何処の軍にも同じようなこと考えるヤツはいるんだなぁ」
「おいおい。ヴィスマルクにもいるのかよ」
 呆れたような声を出しながら、アンは話を引き出すように会話を続ける。
「流石に兵じゃないけどな。イブリース化した死体や兵器を檻にまとめて敵陣に撃ちだす、っていうのをウーリヒ中佐が発案してるんだよ。
 還リビトを殺さずに捕らえたり、それを収納したり、それを撃ちだしたりと手間かかるんで難航してるみたいだけどな」
「そりゃ大変だ」
 聞くだに大変な作戦だが、実行されれば厄介な砲撃である。アンは苦笑しながら頭のメモにしっかりと記録する。


(思った以上に武装だな。流石は、最前線基地というわけだ)
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はレガート砦の訓練所と資料室を回り、そう結論付ける。ハリボテで誤魔化すような空城の策ではなく、訓練された兵士と相応の武装が存在している。真正面から攻めれば大きく疲弊していたのは確かだ。
「ディークマン大佐、だな」
 食堂でディークマンを待ち伏せしていたアデルは、哀惜の許可をとってから話を切り出す。護衛の数名がアデルの態度に表情を曇らせるが、ディークマンがそれを制して話を促す。
「イ・ラプセルのデウスギア――水鏡の機能を共有し、そこからイ・ラプセルが導き出す砦防衛計画の検討を行いたいのだが、時間をもらえないだろうか」
「食事の間だけなら構わない」
「デウスギアの能力は一言で言えば『予知』だ。だが万能ではなく、予知できる事象も選べないようだ。俺の体感から言うと『敵に動きがあり、何か仕掛けられる』場合に予知が働くらしい」
 アデルが説明をしている間、ディークマンは食事を続けている。首肯すらしないが、聞いてはいるのだろう。それを察してアデルは続ける。
「予知への対策は2つ。『下手に動かず、待ち構える』『予知されても覆せない戦力で迎撃する』だ」
「成程、パノプティコンのそれとは異なるわけか」
 思わぬ単語に聞き返そうとするアデル。駄目だ。ここで情報を渡せば不利になる。今は沈黙が金と判断し、相手の出方を待つ。
「どうあれ主導権を相手に渡せば戦争に勝ち目はない。待ちの戦略は不利だが、今は大軍を動かす機ではない。今は『時』を待つのみだ」
 時。アデルは心の中でその言葉を反芻する。時間が経てば、レガート砦の軍を動かすことが可能になるということか。
「時がくれば『予知』されても勝てると?」
「戦争に絶対はない。だが、仕掛けた時に九割は決まる。奇策や個人の奮闘など些細なものだ」
 戦争は始まる前の準備で全てが決まる。それは傭兵のアデルは十分に理解していた。
 ディークマンの脳内には、ニルヴァン侵攻の勝ち筋が既にある。アデルはそれを感じ取っていた。


(無事潜入出来ました。けど……)
 深夜。『ナニしてたんすか?』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はホムンクルスとスキルとアイテムを駆使してディークマンの仕事場である執務室に潜入していた。見張りのルートを調べてその合間を突き、見張りを魔眼で眠らせて沈黙させ、透視で罠がないことを入念に調べ上げて。
(見つからない事を考慮すれば、一〇分が限度。それも罠を調べるために費やした時間を含めてですから……資料を調べる時間は七分あるかないかですね)
 念のために見張りのホムンクルスを暗闇に紛れる保護色にして廊下に置いてある。最初は虫型にしようとしたが、大きさ的に不自然であったり魔術の心得があればあっさり看破される為、背景に紛れる形の方がいいと考え直した。相手はヴィスマルク兵。その辺の盗賊とは違うのだ。どうあれ、見張りが回ってくる前に事を済ませたいのだが……。
(全部を見るには時間が足りません。どれを見れば……?)
 執務室にある資料は、どれも重要そうに見える。限られた時間で全部見る事はできないし、ましてや覚えて帰るとなるとさらに時間がかかる。どれかに絞らないと――
『ニルヴァン攻略計画』
 そんな中、机の中を透視したティラミスはそんなタイトルの書類を見つける。これはと思いその内容を透視で確認する。紙一枚分を透視しながら文字を確認するのは神経を使うが、不可能ではない。
『温暖気候だったシャンバラに四季が戻り、夏になれば乾季が発生する。そうなれば沼は若干干上がるだろう。春季の間に沼に固まりやすくなるように加工した土壌を流し込んでおけば、夏には戦車が侵攻出来る『道』が出来る。その道を通ってニルヴァンに攻め込む』
 要約すれば、そんな内容だ。つまり夏になるまでに砦を落とさなければ、ニルヴァンにヴィスマルクの大軍が送られていた可能性がある。
(のんびりとはしていられませんね。ですがこれを利用すれば、イ・ラプセルからも大軍を送れるのでは? 戦車は無理でも、馬が進めるぐらいの足場はあるかもしれません)
 沼の地図を覚えるティラミス。そろそろ時間か、と証拠を消して執務室から立ち去る。
 見回りがドアを開け、執務室内の異常有無を確認したのは、ティラミスが去って少ししてからだった。


 宿舎に戻った自由騎士達
 だが、狼華の姿はそこにはなかった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

Result!
・訓練所の兵器を確認できました。次シナリオで工作可能です。
・『病棟』の場所を確認できました。次シナリオで目標に選べます。
・フライターク大尉と兵士の不仲を確認できました。次シナリオでその軋轢を増すことが出来ます。
・ウーリヒ中佐の研究室の見張りがいない時間を確認しました。
・ウーリヒ中佐の『研究』内容が確認できました。次シナリオで工作行為可能です。
・ニルヴァン侵攻計画を知りました。決戦時にイ・ラプセルの騎士団が応援に来れます。
・蔡 狼華(CL3000451)が捕まっています。

To be continued...
FL送付済