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Jailattack! ドルヒ収容所陽動作戦!

●
――ドルヒ収容所(ラーゲリ)。
ヴィスマルク南方に位置する収容所で、北方ほどの苛烈さこそないがヴィスマルクが侵略した国の重要人物や反抗勢力者などが収容されている場所である。
此処に送られた収容者の末路は三つ。鉄道で北方の収容所に送られて、冷える大地での強制労働か、軍役に服して雑兵として扱われるか、拷問と強制労働の末に土に還るか。
「いやはや。アミナさんが踊りの技術を教えてくれたおかげで、時間が稼げましたね」
ドルヒ収容所に送られたジョン・コーリナー(nCL3000046)は拷問で傷ついた体を起こしながらそう言った。ヘルメリアの諜報部で生き、反奴隷組織の実行犯として暗躍していた身だ。この程度の拷問はまだ耐えられる。
とはいえ、他の者はそうでもない。アミナ・ミゼット(nCL3000051)は傷が快癒すると同時に、ダンサーの技術を伝授することを条件に安全を確保させた。そしてもう一人――
「包帯がない? 仕方ない。マントを切って代用しよう。湯を沸かして洗った後に使用するんだぞ。あと清潔な水は常に確保しておこう」
そしてサイラス・オーニッツ(nCL3000012)はと言うと、医者の技術をアピールして収容所内の怪我人を癒していた。収容者だけではなくヴィスマスク兵士も癒しているため、兵士も表立っては何も言わない。
「私だけ拷問を受けているのは理不尽な気がしすが」
「キミもガジェット技術を売ればいいだろうに……と、こうなることを考慮して、あの時はガジェットを持っていなかったのか」
「ええ、まあ。しかし楽観はできませんね。兵士の話を聞く限りでは、来週あたりに大輸送があるようです。そうなれば北の収容所に送られて強制労働でしょう。
それまでに『外』で動きがあればいいのですが」
ジョンは痛む箇所を押さえて、ため息をつく。
当たり前だが、中からの脱出は不可能だ。武器もなく、兵士の数も多い。脱走を塞ぐために兵士達は目を光らせ、お手上げである。
だが兵士の目は『収容所内』に向けられている。それ以外の場所で騒動が起きれば、隙は生まれるかもしれない。
●
ドルヒ収容所を襲撃する軍事メリットは、それほど多くはない。そして軍事内情を正直に言えば、レガート砦修復に資源を注ぎたいため、一軍を派兵する余裕はない。
その為、自由騎士による陽動作戦が最も成功率が高いだろうと言う判断となった。
「ドルヒ収容所に向けて、この戦車で突貫する」
用意されたのは、レガート砦の広場で砦破壊に一躍買った『ドラード』だ。鹵獲して修理中だったが、今回の作戦の為に駆り出された。
「諸君らはこれに乗り、ドルヒ収容所の扉まで接近する。『ドラード』の砲撃で壁を壊して中に侵入する――ようにして敵兵を引き寄せてくれ。その隙に別動隊が中に侵入する」
戦車に乗り――とは言うが、戦車は基本三人乗りである。そして中に乗る人間は既に決まっている。何処に乗るのかというと、
「そこだ。戦車の装甲の上」
いわゆるタンクデザントである。オラクルは超遠距離の砲撃が当たらないとはいえ、派手に揺れる戦車にしがみつくのは辛いものがあるだろう。鉄板の上は固くて痛いので、座るのにも適さない。
だが、贅沢は言っていられない。むしろ頼りになる砲撃車両があるだけマシと言えよう。
自由騎士達は『ドラード』の装甲の上に乗り、ドルヒ収容所に突貫する――
――ドルヒ収容所(ラーゲリ)。
ヴィスマルク南方に位置する収容所で、北方ほどの苛烈さこそないがヴィスマルクが侵略した国の重要人物や反抗勢力者などが収容されている場所である。
此処に送られた収容者の末路は三つ。鉄道で北方の収容所に送られて、冷える大地での強制労働か、軍役に服して雑兵として扱われるか、拷問と強制労働の末に土に還るか。
「いやはや。アミナさんが踊りの技術を教えてくれたおかげで、時間が稼げましたね」
ドルヒ収容所に送られたジョン・コーリナー(nCL3000046)は拷問で傷ついた体を起こしながらそう言った。ヘルメリアの諜報部で生き、反奴隷組織の実行犯として暗躍していた身だ。この程度の拷問はまだ耐えられる。
とはいえ、他の者はそうでもない。アミナ・ミゼット(nCL3000051)は傷が快癒すると同時に、ダンサーの技術を伝授することを条件に安全を確保させた。そしてもう一人――
「包帯がない? 仕方ない。マントを切って代用しよう。湯を沸かして洗った後に使用するんだぞ。あと清潔な水は常に確保しておこう」
そしてサイラス・オーニッツ(nCL3000012)はと言うと、医者の技術をアピールして収容所内の怪我人を癒していた。収容者だけではなくヴィスマスク兵士も癒しているため、兵士も表立っては何も言わない。
「私だけ拷問を受けているのは理不尽な気がしすが」
「キミもガジェット技術を売ればいいだろうに……と、こうなることを考慮して、あの時はガジェットを持っていなかったのか」
「ええ、まあ。しかし楽観はできませんね。兵士の話を聞く限りでは、来週あたりに大輸送があるようです。そうなれば北の収容所に送られて強制労働でしょう。
それまでに『外』で動きがあればいいのですが」
ジョンは痛む箇所を押さえて、ため息をつく。
当たり前だが、中からの脱出は不可能だ。武器もなく、兵士の数も多い。脱走を塞ぐために兵士達は目を光らせ、お手上げである。
だが兵士の目は『収容所内』に向けられている。それ以外の場所で騒動が起きれば、隙は生まれるかもしれない。
●
ドルヒ収容所を襲撃する軍事メリットは、それほど多くはない。そして軍事内情を正直に言えば、レガート砦修復に資源を注ぎたいため、一軍を派兵する余裕はない。
その為、自由騎士による陽動作戦が最も成功率が高いだろうと言う判断となった。
「ドルヒ収容所に向けて、この戦車で突貫する」
用意されたのは、レガート砦の広場で砦破壊に一躍買った『ドラード』だ。鹵獲して修理中だったが、今回の作戦の為に駆り出された。
「諸君らはこれに乗り、ドルヒ収容所の扉まで接近する。『ドラード』の砲撃で壁を壊して中に侵入する――ようにして敵兵を引き寄せてくれ。その隙に別動隊が中に侵入する」
戦車に乗り――とは言うが、戦車は基本三人乗りである。そして中に乗る人間は既に決まっている。何処に乗るのかというと、
「そこだ。戦車の装甲の上」
いわゆるタンクデザントである。オラクルは超遠距離の砲撃が当たらないとはいえ、派手に揺れる戦車にしがみつくのは辛いものがあるだろう。鉄板の上は固くて痛いので、座るのにも適さない。
だが、贅沢は言っていられない。むしろ頼りになる砲撃車両があるだけマシと言えよう。
自由騎士達は『ドラード』の装甲の上に乗り、ドルヒ収容所に突貫する――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.30ターン戦線を維持し、陽動を続ける
どくどくです。
戦車に乗れるPBW、それがマギスチ! ……異論は認める!
この依頼は『Invisible! 収容所潜入ミッション!』と同時期に発生しています。その為、片側の依頼に入られた方はこちらの依頼に参加することはできません。
参加費などの返還はできませんので、ご了承のほどお願いいたします。
●説明!
ドルヒ収容所に捕らえられたイ・ラプセルの人間を救う作戦です。陽動として正面から収容所を攻め、その隙をついて侵入していきます。こちら側は陽動側です。
●敵情報
・ヴィスマルク軍(×8~)
ドルヒ収容所を警護するヴィスマルク兵です。歩兵がほとんどですが、しばらくすれば砲撃が飛んできます。5ターン毎に3名、敵後衛に追加されます。
軽戦士のランク2とガンナーのランク1を習得しています。
『欠けた盾』リュカ・ルベル
ノウブル。20歳男性。ヴィスマルクに滅ぼされた国の騎士です。せめてもの矜持として、ボロボロの盾に滅んだ国のエンブレムを刻んでいます。
『ファランクス Lv3』『バーチカルブロウ Lv3』等を活性化しています。
『囚人』ケヴィン・ヴェベール
ノウブル。10歳男性。戦争孤児。収容所に強制収容され、労働に伏しています。ダンサーの技法を覚えさせられ、前線に送られました。
『大渦海域のタンゴ Lv3』『ツイスタータップ Lv3』等を活性化しています。
★砲撃
7ターン経過後、ドルヒ収容所から砲撃が飛んできます。敵前衛、もしくは敵後衛のどちらかに攻遠範ダメージが飛んできます。
ドラードに命令して、砲撃してもらうことが可能です。タイプは攻遠範となります。範囲攻撃なので、味方を巻き込むことに注意してください。
ドラードの背後には最大3名まで隠れることが出来ます(システム的には防御タンクの『カバーリング』扱いです)。
一定のダメージを受けると、行動不能になります。HP回復スキルでダメージの回復はできません。
●場所情報
ヴィスマルク領、ドルヒ収容所正面門。時刻は夜。門扉は閉ざされており、警戒は十分されているため突破は不可能です。ある意味陽動は成功していると言えましょう。
戦闘開始時、敵前衛に『リュカ(×1)』『ヴィスマルク兵(×5)』が。敵後衛に『ケヴィン(×1)』『ヴィスマルク兵(×3)』がいます。
事前付与は可能です。ドラードは味方後衛に陣取っている扱いとします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
戦車に乗れるPBW、それがマギスチ! ……異論は認める!
この依頼は『Invisible! 収容所潜入ミッション!』と同時期に発生しています。その為、片側の依頼に入られた方はこちらの依頼に参加することはできません。
参加費などの返還はできませんので、ご了承のほどお願いいたします。
●説明!
ドルヒ収容所に捕らえられたイ・ラプセルの人間を救う作戦です。陽動として正面から収容所を攻め、その隙をついて侵入していきます。こちら側は陽動側です。
●敵情報
・ヴィスマルク軍(×8~)
ドルヒ収容所を警護するヴィスマルク兵です。歩兵がほとんどですが、しばらくすれば砲撃が飛んできます。5ターン毎に3名、敵後衛に追加されます。
軽戦士のランク2とガンナーのランク1を習得しています。
『欠けた盾』リュカ・ルベル
ノウブル。20歳男性。ヴィスマルクに滅ぼされた国の騎士です。せめてもの矜持として、ボロボロの盾に滅んだ国のエンブレムを刻んでいます。
『ファランクス Lv3』『バーチカルブロウ Lv3』等を活性化しています。
『囚人』ケヴィン・ヴェベール
ノウブル。10歳男性。戦争孤児。収容所に強制収容され、労働に伏しています。ダンサーの技法を覚えさせられ、前線に送られました。
『大渦海域のタンゴ Lv3』『ツイスタータップ Lv3』等を活性化しています。
★砲撃
7ターン経過後、ドルヒ収容所から砲撃が飛んできます。敵前衛、もしくは敵後衛のどちらかに攻遠範ダメージが飛んできます。
ドラードに命令して、砲撃してもらうことが可能です。タイプは攻遠範となります。範囲攻撃なので、味方を巻き込むことに注意してください。
ドラードの背後には最大3名まで隠れることが出来ます(システム的には防御タンクの『カバーリング』扱いです)。
一定のダメージを受けると、行動不能になります。HP回復スキルでダメージの回復はできません。
●場所情報
ヴィスマルク領、ドルヒ収容所正面門。時刻は夜。門扉は閉ざされており、警戒は十分されているため突破は不可能です。ある意味陽動は成功していると言えましょう。
戦闘開始時、敵前衛に『リュカ(×1)』『ヴィスマルク兵(×5)』が。敵後衛に『ケヴィン(×1)』『ヴィスマルク兵(×3)』がいます。
事前付与は可能です。ドラードは味方後衛に陣取っている扱いとします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
8日
8日
参加人数
10/10
10/10
公開日
2020年09月21日
2020年09月21日
†メイン参加者 10人†
●
「行きます」
言葉少なくティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は武器を構える。相手はヴィスマルク。先の戦いでも理解したが、手加減をする必要はない。余計なことを削ぎ落し、ただ目的の為に戦うために特化していた。
「カチコミじゃオラー! 真っ向攻めに来てやったぞ貴様等! 覚悟しろ!」
目立つように『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は叫ぶ。この作戦が陽動だ。自由騎士として名の売れたツボミの名声を利用しない手はない。事実、功をこうしたように銃口が向けられた気がする。自爆するぞ気をつけろとか解せぬこと言われた気もするが。
「相手は囚人を防衛戦に出すか。やるせないな」
敵陣に居る相手を見て『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は眉を顰める。おそらく逃亡と反乱防止用に人質を取っているのだろう。戦術としては有用だ。それを認めたうえで、何とも言えない気持ちになった。
「全てを救いましょう。その為の戦いです」
厳かに『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は告げる。捧げた祈りは信念。信じる道、今の心。それが正しい事だと選択し、その為に武器を振るう。盲目でもなく、妄信でもなく。自ら選んだ祈りを。
「潜入も面白そうだが、俺にはこっちの方が性に合ってるんでね」
ニヤリ、と笑みを浮かべる『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)。潜入隠密よりは、真正面からの戦い。それがアンの好みだった。統制の取れた動きをするヴィスマルク兵に、悪くないと嬉しそうに言葉を放つ。
「やはり距離を多くとる戦術は認められんか」
『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は自分を守らず、前線に出て盾になってほしいと盾兵に要望したが、それはできないと却下された。最優先で守るべきは自由騎士の身だ。それを放棄することは彼らにはできなかった。
「強制収容した子供を前線送りですか……」
ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は敵陣を見て、苦い表情を浮かべた。自分よりも年下の子供。それがいかなる理由でここに居るのかはわからない。だがそれが戦争なのかと、衝撃を受けていた。――ロザベル自身もまだ子供ではあるが。
「今度こそ、助けないとな」
言って剣の柄を握る『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)。レガート砦潜入作戦では、捕虜たちを助けることはできなかった。これが最後の機会になるかもしれない。それを思うと、気は抜けない。
「忙しいけど、負けてられないの」
パノプティコン戦の後にすぐにこちらに飛んできた『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)。忙しくはあるが、それでも守りたいと思う。この手が届く範囲なら、自らを削ってでも守ろう。握りしめた拳には、そんな意思が込められていた。
「目立てばいいんでしょ? りょーかい!」
陽動作戦と聞いて、『南方舞踏伝承者』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は元気よく頷いた。とにかく派手に戦えばいい。そうと分かれば全力で暴れるだけだ。拳を強く握りしめ、元気を爆発させるために力を溜めこむ。
「イ・ラプセルだと!? しかも戦車で来たのか!」
「各員、配置に着け!」
ヴィスマルク兵はサイレンと共に動き出していた。続々と集まる兵士達。それは陽動がある程度うまくいっていることを示していた。後はこの状況を維持するだけだ。
さあ、作戦開始だ――
●
「それでは参りましょう」
戦車の砲撃と同時にアンジェリカが抱える。手にした武器の重さを確認するかのように強く握り、敵陣へと駆け抜ける。ヴィスマルクではないエンブレムが書かれた盾。それを持つ騎士に向かい真っすぐ突き進む。
祈りをささげたアンジェリカの武器が金色に光る。光は力となって武器に宿り、祈りをかなえるためにささやかな奇跡を付与する。アンジェリカの祈りは全てを救う事。その想いを込められて振るわれる一撃が、ヴィスマルクを守る盾に襲い掛かる。
「平和の為にここで倒れてもらいます」
「イ・ラプセルも侵略行為か。エドワード王は噂に違わぬ覇王と言う事か」
「生きるってことは戦いさ。ならこいつも生き残るための手段なんだよ」
騎士の言葉に皮肉気な言葉を返すアン。生き残れば勝ち。死ねば負け。それはアンが持つ持論だ。どれだけ損益を出そうとも、生き残れば再戦の望みがある。勝率一割でも、その一割で決定打を出せばいいだけの話だ。
足場を確認し、銃を構える。弾丸を当てるには、出来るだけ揺れを減らすことが重要だ。安定した足場。揺れぬ重心。銃身を支える構え。そして狙い。どれかがずれて居れば弾丸は軌跡を外れ、その積み重ねが結果と出る。アンは何千何万と繰り返した構えで銃を撃つ。
「さあ、来るなら来なヴィスマルク!」
「全部燃やし尽くしてあげますわ」
金色の瞳で戦場を見つめるティラミス。その瞳に移るヴィスマルクに一切の情はなく、一切の配慮はない。敵兵だから殺す。潜入依頼を経てヴィスマルクへの憎悪を学んだティラミスは、ただ殺意をもって敵に挑む。
体内に流れる血液。そこに魔力を注ぎ込み、体中を駆け巡らせる。魔の血液が循環し、体内に染み入ると同時に炎を集めるティラミス。生まれた炎は戦場を包み込み、熱波がヴィスマルク達の体力を奪っていく。
「全て燃やし尽くします」
「おらおらおらぁ!」
ヴィスマルク兵に果敢に殴りかかるカーミラ。小さいながらもその動きは一流の格闘家そのもの。円と直線の動きを使い分ける央華大陸から伝わる格闘技術を、余すことなく戦場で披露していた。その腕が動くたびに打撃音が響き、敵が傷ついていく。
息を吸い、戦場の空気を肺一杯に取り入れるカーミラ。そのまま呼気と同時に踏み込み、拳を打ち放った。その拳は衝撃を伝える一撃。相手がどれだけ堅い鎧と盾で武装しようとも、伝達する衝撃までは防げない。ただ真っ直ぐに、拳を振るう。
「どけどけー! お前ら邪魔なんだよー!」
「うむ。イ・ラプセルの強さをここに刻もう」
カーミラの言葉に追うように頷くテオドール。とはいえ、勝てるなどとは思っていない。相手に本気であると思わせるための言葉だ。そして陽動であると同時に、敵兵にデータどりをさせないことを念頭にしていた。
ダンサーの技法を教え込まれた少年。テオドールの魔力の矛先は踊る少年に向けられた。呪いに返還されたテオドールの魔力は踊る少年を縛り、その体力を奪っていく。動けなくすれば、技法に対する評価も下がるだろう。
「年端もいかぬ少年か。自ら志願したか或いは何らかの取引があったか。どちらにせよ、軍人以外を前線に出すのは人道的とは言い難いな」
「この状況で逃げない所を見ると、それなりの理由はあるのだろうがな」
戦禍を前にしても逃げない少年を前に、ツボミが眉をひそめる。怖くないはずがないのに、戦いを放棄しない。逃げることで家族に不利益が生じるか、戦うことで多大な利益が生まれるか。無理矢理ここに居るようだから、人質かなと目測をたてる。
立てたところで、今ここでどうにかできるものではない。ツボミはそう割り切って戦場の方に目を向けた。傷ついた仲間達に目を向けて、医療の視点から適切な魔術を施していく。そして戦闘後に行わなければならない治療も。
「ええい、数が多い! 薬も包帯も足らんぞ!」
「錬金術で穴埋めしても難しいだろうな。……ヴィスマルク兵までの治療は」
ツボミの叫びに頷くリュリュ。医者として見方も敵も癒したいというツボミの信念。それに反対する理由はないが、それは『可能ならば』とお言うのが大前提だ。味方の治療を怠るつもりはないし、ましてや作戦を忘れるつもりもない。
作戦。その事をもう一度脳裏に刻むリュリュ。この作戦は陽動だ。敵兵をできるだけど止める必要がある。錬金術で生み出した薬品を魔力で生み出した矢じりに塗り、味方に向けて撃ち放つ。矢じりの先端の薬品が仲間の体内に染み入り、傷を癒していく。
「だがやるしかあるまい。甘いと言われても」
「お二人を助けて、みんなで笑うんです!」
ローブを手にしてキリは叫ぶ。水鏡から得た敵二人の状況。それはキリには無視できない事だった。たとえ敵兵で、たとえ当人が望んだことなのだとしても共に歌を歌えるかもしれない相手をただ『敵』と割り切ることはキリにはできなかった。
ローブを振るい、仲間を守るように立ちまわるキリ。ヴィスマルク兵のサーベルの軌跡を手首と足の角度から予測し、剣先が届くより一瞬ローブを振るって剣先に絡める。そのままローブを振るい、相手の攻撃を受け流した。
「キリみたいな子をこれ以上増やしたりはしないわ!」
「そうだな。10歳を前線に出すのは流石にな」
『アイス・ファルシオン』を振るいながらルエが呟く。自由騎士にも10代の子供はいる。だが彼らは自ら志願した兵士だ。囚人を無理やり戦いに強いるようなことはしない。たとえ大人であってもだ。
剣に魔力を宿し、戦場を疾駆するルエ。銃弾を交わしながら、敵陣に向けて魔力を込めた剣を振り払った。解き放たれた魔力が戦場を走り、ヴィスマルク兵を中心に魔力が爆ぜる。その結果を確認するより前にさらに剣に魔力を込め、次の動作に移るルエ。
「今度こそ、しっかり助けないとな」
「ええ。潜入作戦が失敗だった、とは言いませんが捕らわれているのは事実です」
ロザベルはルエの言葉に小さく頷いた。潜入作戦自体は終了したが、そこで囚われた人達は収容所に居る。彼らを助けるまでがロザベルにとっての作戦だ。色々思う所はあるが、今は目の前の作戦に集中しよう。
重量ある剣を振るい、敵前て戦うロザベル。敵の侵攻を妨げると同時に敵を穿ち、後衛を守る壁としての役割に徹していた。蒸気の鎧がうなりを上げて駆動し、そこに生まれる力を振るって敵を打ち倒していく。
「子供を前線に出す。……ヴィスマルクも変わらないじゃないですか」
ぼそりと呟いた言葉は、戦場の音にかき消されて消えた。
「敵は少数だ! 囲んで攻めろ!」
「砲撃開始!」
時間がたつにつれてやってくるヴィスマルク兵。だがそれは陽動が上手く言っている証左。その事に笑みを浮かべ、自由騎士達は戦いに挑む。
収容所の戦いは、まだまだ終わらない。
●
自由騎士達は戦車ドラードを盾にしながら、ヴィスマルク軍を攻め立てる。
前衛にアンジェリカ、ロザベル、ルエ、キリ、カーミラを布陣し、ツボミとリュリュのの回復を基点として、ティラミスとテオドールの魔法とアンの射撃が敵兵を穿っていく。
「まだまだ負けないよっ!」
「流石に楽には勝てないか」
前衛で戦うカーミラとルエがフラグメンツを削られるほどのダメージを負う。それでも戦う気力を失うことなく、武器を構えなおした。
「お前はヴィスマルク嫌いなくせに、なんでそっち居るんだよ! イ・ラプセルに来たら好きなだけ殴れるぞ!」
リュカを攻撃しながら叫ぶカーミラ。自らの国を失い、ヴィスマルクに恭順する騎士。その在り方が許せなかったのか、敵に対する単なる怒りか。叫ぶカーミラに対し、固く首を振るリュカ。
「逆らえば姉様の首が飛ぶ。国はなくとも家の血筋だけは絶やすわけにはいかん」
「……っ! だとしても、キリは!」
リュカに対する説得の言葉を持たないキリ。仮に強引にリュカを連れていったとしても、彼はヴィスマルクに戻るのだろう。大事な人を捨ててこちらに来いなどと、言えるはずがない。どうしようもない現実を前に、悔しくて唇をかみしめる。
「負ければすべてを奪われる、か。厳しいな、ヴィスマルクは」
孤児であるルエは、家族という概念が薄い。理屈として家族が大事だと理解しているが、そこまでだ。少なくとも、リュカの信念を共感できるとは言えなかった。ただあるのはヴィスマルクに対する怒り。それがふつふつと湧き上がってくる。
「これが、戦争だというのですね」
リュカやケヴィンを見て、ロザベルは感情を凍らせたような声をあげる。無理やり戦場に送り出される子供。人質を取られ、自由を失う騎士。戦争に勝つために行われる行為。それが戦争なのだと、まだ幼いロザベルの心に刻まれる。
「……そうだな。それが鉄血国家。大陸最強の軍隊なのだろう」
リュリュはこれまで戦った国とヴィスマルクを比較し、そう呟く。人を人と思わない国。その中でもヴィスマルクは『勝つ』事に特化している。だからこそ彼らは『強い』のだ。……唾棄するような事実だが、それを否定することはできなかった。
「いいじゃないか。最強の軍隊。だからこそ、戦いがいがあるんだよ」
額から血を流しながら笑みを浮かべるアン。戦術を練り、最適解を導いて勝利する。それの何処が悪い。勝つことが正義とは言わないが、正義は勝ったもののみが唱えることが出来る。先ず勝って生き延びる。そうやってアンも生き延びてきたのだから。
「そうですね。彼らは強いでしょう。ですが――」
苛烈に攻めてくるヴィスマルク軍。それを凌ぎながらアンジェリカは息を吐く。潜入部隊の活躍でようやく橋頭保を得られた戦い。おそらくヴィスマルク本陣は今以上の戦いになるだろう。それでも、戦わなければならないのだ。
「イ・ラプセルの勝利のために戦う。敵が強かろうがそれに変わりはない」
揺れることなくテオドールは宣言する。己の持ちうるすべての能力をもって、国を拓き民を導く。それが貴族の務め。それこそが、ベルヴァルド家の為すべき事。その信念は鉄血国家よりも固く、そして強い。
「面倒だな、鉄血国家。お陰で医者に休みがない」
言ってため息をつくツボミ。前衛で戦う者ほどひどくはないが、その高名とヒーラーであることも相まって狙われる率は高い。ドラードに身を隠しながら、仲間の傷を癒していた。どうにか戦線を維持しているが、医者に休みなしとは厄介極まりない。
「敵であるならば、一切容赦せず攻撃するだけです」
抑揚のない声で言い放つティラミス。魔力の炎を解き放ち、ただ敵を焼き払う。自分自身を殺し、ただヴィスマルクを討つだけの存在となっていた。それでいい、と自分に言い聞かせまるでそういう機構を持つ機械であるかのように炎を放つ。
「援軍まだか!」
「砲撃休めるな!」
自由騎士の攻めを前に、ヴィスマルク兵は押されていた。だが、収容所からの援軍もあり、敵全滅には至らない。自由騎士達は援軍を前に疲弊していくが、もともとここを突破する必要はない。
「ごめんなさい。キリは限界です」
これまで敵の攻撃を受け止めてきたキリがここで力尽きる。既に倒れているケヴィンとリュカに手を伸ばすが、その手は届くことなく意識を手放した。
「まだ、です」
「流石ヴィスマルク。だがまだだよ」
「貧弱なヒーラー一人が倒せないとか、大したことないな鉄血国家。ばーかばーか」
ヴィスマルク兵の攻撃と砲撃によりティラミスとテオドールとツボミのフラグメンツが削られる。だが、ちょうどそのタイミングでデウス=ギアに連絡が入る。侵入した自由騎士からだ。
『作戦成功。これより砦に帰還する』
見れば収容所から煙が上がり、遠くに逃げる人達が見える。自由騎士達は互いに頷きあい、離脱に走った。
「撤退だ!」
「オボエテロヨー!」
ボロボロのドラードに乗り込み、タンクデザントで撤退する自由騎士達。
かくして、歴史上はイ・ラプセルの惨敗と書かれることになるドルヒ収容所死襲撃計画は終わりを告げるのであった。
●
かくして、戦いを終えて撤退する自由騎士達。
歴史上の解釈としては『ドルヒ収容所を襲撃したイ・ラプセルは兵力差により攻略を断念』とある。その際に起きた火災で囚人が逃げた件との関連性はないモノとされる――仮にも一国家が他国の犯罪者逃亡に加担した等と言う事があれば大汚名である。捕虜を逃がしたヴィスマルクは名誉の為に、これらの関連性は秘されることとなった。
ともあれ、ドルヒ収容所潜入ミッションは幕を閉じる。
その功績はけして表には出ないが、これにより多くの人間が救われた――
「行きます」
言葉少なくティラミス・グラスホイップ(CL3000385)は武器を構える。相手はヴィスマルク。先の戦いでも理解したが、手加減をする必要はない。余計なことを削ぎ落し、ただ目的の為に戦うために特化していた。
「カチコミじゃオラー! 真っ向攻めに来てやったぞ貴様等! 覚悟しろ!」
目立つように『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は叫ぶ。この作戦が陽動だ。自由騎士として名の売れたツボミの名声を利用しない手はない。事実、功をこうしたように銃口が向けられた気がする。自爆するぞ気をつけろとか解せぬこと言われた気もするが。
「相手は囚人を防衛戦に出すか。やるせないな」
敵陣に居る相手を見て『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は眉を顰める。おそらく逃亡と反乱防止用に人質を取っているのだろう。戦術としては有用だ。それを認めたうえで、何とも言えない気持ちになった。
「全てを救いましょう。その為の戦いです」
厳かに『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は告げる。捧げた祈りは信念。信じる道、今の心。それが正しい事だと選択し、その為に武器を振るう。盲目でもなく、妄信でもなく。自ら選んだ祈りを。
「潜入も面白そうだが、俺にはこっちの方が性に合ってるんでね」
ニヤリ、と笑みを浮かべる『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)。潜入隠密よりは、真正面からの戦い。それがアンの好みだった。統制の取れた動きをするヴィスマルク兵に、悪くないと嬉しそうに言葉を放つ。
「やはり距離を多くとる戦術は認められんか」
『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は自分を守らず、前線に出て盾になってほしいと盾兵に要望したが、それはできないと却下された。最優先で守るべきは自由騎士の身だ。それを放棄することは彼らにはできなかった。
「強制収容した子供を前線送りですか……」
ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は敵陣を見て、苦い表情を浮かべた。自分よりも年下の子供。それがいかなる理由でここに居るのかはわからない。だがそれが戦争なのかと、衝撃を受けていた。――ロザベル自身もまだ子供ではあるが。
「今度こそ、助けないとな」
言って剣の柄を握る『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)。レガート砦潜入作戦では、捕虜たちを助けることはできなかった。これが最後の機会になるかもしれない。それを思うと、気は抜けない。
「忙しいけど、負けてられないの」
パノプティコン戦の後にすぐにこちらに飛んできた『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)。忙しくはあるが、それでも守りたいと思う。この手が届く範囲なら、自らを削ってでも守ろう。握りしめた拳には、そんな意思が込められていた。
「目立てばいいんでしょ? りょーかい!」
陽動作戦と聞いて、『南方舞踏伝承者』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は元気よく頷いた。とにかく派手に戦えばいい。そうと分かれば全力で暴れるだけだ。拳を強く握りしめ、元気を爆発させるために力を溜めこむ。
「イ・ラプセルだと!? しかも戦車で来たのか!」
「各員、配置に着け!」
ヴィスマルク兵はサイレンと共に動き出していた。続々と集まる兵士達。それは陽動がある程度うまくいっていることを示していた。後はこの状況を維持するだけだ。
さあ、作戦開始だ――
●
「それでは参りましょう」
戦車の砲撃と同時にアンジェリカが抱える。手にした武器の重さを確認するかのように強く握り、敵陣へと駆け抜ける。ヴィスマルクではないエンブレムが書かれた盾。それを持つ騎士に向かい真っすぐ突き進む。
祈りをささげたアンジェリカの武器が金色に光る。光は力となって武器に宿り、祈りをかなえるためにささやかな奇跡を付与する。アンジェリカの祈りは全てを救う事。その想いを込められて振るわれる一撃が、ヴィスマルクを守る盾に襲い掛かる。
「平和の為にここで倒れてもらいます」
「イ・ラプセルも侵略行為か。エドワード王は噂に違わぬ覇王と言う事か」
「生きるってことは戦いさ。ならこいつも生き残るための手段なんだよ」
騎士の言葉に皮肉気な言葉を返すアン。生き残れば勝ち。死ねば負け。それはアンが持つ持論だ。どれだけ損益を出そうとも、生き残れば再戦の望みがある。勝率一割でも、その一割で決定打を出せばいいだけの話だ。
足場を確認し、銃を構える。弾丸を当てるには、出来るだけ揺れを減らすことが重要だ。安定した足場。揺れぬ重心。銃身を支える構え。そして狙い。どれかがずれて居れば弾丸は軌跡を外れ、その積み重ねが結果と出る。アンは何千何万と繰り返した構えで銃を撃つ。
「さあ、来るなら来なヴィスマルク!」
「全部燃やし尽くしてあげますわ」
金色の瞳で戦場を見つめるティラミス。その瞳に移るヴィスマルクに一切の情はなく、一切の配慮はない。敵兵だから殺す。潜入依頼を経てヴィスマルクへの憎悪を学んだティラミスは、ただ殺意をもって敵に挑む。
体内に流れる血液。そこに魔力を注ぎ込み、体中を駆け巡らせる。魔の血液が循環し、体内に染み入ると同時に炎を集めるティラミス。生まれた炎は戦場を包み込み、熱波がヴィスマルク達の体力を奪っていく。
「全て燃やし尽くします」
「おらおらおらぁ!」
ヴィスマルク兵に果敢に殴りかかるカーミラ。小さいながらもその動きは一流の格闘家そのもの。円と直線の動きを使い分ける央華大陸から伝わる格闘技術を、余すことなく戦場で披露していた。その腕が動くたびに打撃音が響き、敵が傷ついていく。
息を吸い、戦場の空気を肺一杯に取り入れるカーミラ。そのまま呼気と同時に踏み込み、拳を打ち放った。その拳は衝撃を伝える一撃。相手がどれだけ堅い鎧と盾で武装しようとも、伝達する衝撃までは防げない。ただ真っ直ぐに、拳を振るう。
「どけどけー! お前ら邪魔なんだよー!」
「うむ。イ・ラプセルの強さをここに刻もう」
カーミラの言葉に追うように頷くテオドール。とはいえ、勝てるなどとは思っていない。相手に本気であると思わせるための言葉だ。そして陽動であると同時に、敵兵にデータどりをさせないことを念頭にしていた。
ダンサーの技法を教え込まれた少年。テオドールの魔力の矛先は踊る少年に向けられた。呪いに返還されたテオドールの魔力は踊る少年を縛り、その体力を奪っていく。動けなくすれば、技法に対する評価も下がるだろう。
「年端もいかぬ少年か。自ら志願したか或いは何らかの取引があったか。どちらにせよ、軍人以外を前線に出すのは人道的とは言い難いな」
「この状況で逃げない所を見ると、それなりの理由はあるのだろうがな」
戦禍を前にしても逃げない少年を前に、ツボミが眉をひそめる。怖くないはずがないのに、戦いを放棄しない。逃げることで家族に不利益が生じるか、戦うことで多大な利益が生まれるか。無理矢理ここに居るようだから、人質かなと目測をたてる。
立てたところで、今ここでどうにかできるものではない。ツボミはそう割り切って戦場の方に目を向けた。傷ついた仲間達に目を向けて、医療の視点から適切な魔術を施していく。そして戦闘後に行わなければならない治療も。
「ええい、数が多い! 薬も包帯も足らんぞ!」
「錬金術で穴埋めしても難しいだろうな。……ヴィスマルク兵までの治療は」
ツボミの叫びに頷くリュリュ。医者として見方も敵も癒したいというツボミの信念。それに反対する理由はないが、それは『可能ならば』とお言うのが大前提だ。味方の治療を怠るつもりはないし、ましてや作戦を忘れるつもりもない。
作戦。その事をもう一度脳裏に刻むリュリュ。この作戦は陽動だ。敵兵をできるだけど止める必要がある。錬金術で生み出した薬品を魔力で生み出した矢じりに塗り、味方に向けて撃ち放つ。矢じりの先端の薬品が仲間の体内に染み入り、傷を癒していく。
「だがやるしかあるまい。甘いと言われても」
「お二人を助けて、みんなで笑うんです!」
ローブを手にしてキリは叫ぶ。水鏡から得た敵二人の状況。それはキリには無視できない事だった。たとえ敵兵で、たとえ当人が望んだことなのだとしても共に歌を歌えるかもしれない相手をただ『敵』と割り切ることはキリにはできなかった。
ローブを振るい、仲間を守るように立ちまわるキリ。ヴィスマルク兵のサーベルの軌跡を手首と足の角度から予測し、剣先が届くより一瞬ローブを振るって剣先に絡める。そのままローブを振るい、相手の攻撃を受け流した。
「キリみたいな子をこれ以上増やしたりはしないわ!」
「そうだな。10歳を前線に出すのは流石にな」
『アイス・ファルシオン』を振るいながらルエが呟く。自由騎士にも10代の子供はいる。だが彼らは自ら志願した兵士だ。囚人を無理やり戦いに強いるようなことはしない。たとえ大人であってもだ。
剣に魔力を宿し、戦場を疾駆するルエ。銃弾を交わしながら、敵陣に向けて魔力を込めた剣を振り払った。解き放たれた魔力が戦場を走り、ヴィスマルク兵を中心に魔力が爆ぜる。その結果を確認するより前にさらに剣に魔力を込め、次の動作に移るルエ。
「今度こそ、しっかり助けないとな」
「ええ。潜入作戦が失敗だった、とは言いませんが捕らわれているのは事実です」
ロザベルはルエの言葉に小さく頷いた。潜入作戦自体は終了したが、そこで囚われた人達は収容所に居る。彼らを助けるまでがロザベルにとっての作戦だ。色々思う所はあるが、今は目の前の作戦に集中しよう。
重量ある剣を振るい、敵前て戦うロザベル。敵の侵攻を妨げると同時に敵を穿ち、後衛を守る壁としての役割に徹していた。蒸気の鎧がうなりを上げて駆動し、そこに生まれる力を振るって敵を打ち倒していく。
「子供を前線に出す。……ヴィスマルクも変わらないじゃないですか」
ぼそりと呟いた言葉は、戦場の音にかき消されて消えた。
「敵は少数だ! 囲んで攻めろ!」
「砲撃開始!」
時間がたつにつれてやってくるヴィスマルク兵。だがそれは陽動が上手く言っている証左。その事に笑みを浮かべ、自由騎士達は戦いに挑む。
収容所の戦いは、まだまだ終わらない。
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自由騎士達は戦車ドラードを盾にしながら、ヴィスマルク軍を攻め立てる。
前衛にアンジェリカ、ロザベル、ルエ、キリ、カーミラを布陣し、ツボミとリュリュのの回復を基点として、ティラミスとテオドールの魔法とアンの射撃が敵兵を穿っていく。
「まだまだ負けないよっ!」
「流石に楽には勝てないか」
前衛で戦うカーミラとルエがフラグメンツを削られるほどのダメージを負う。それでも戦う気力を失うことなく、武器を構えなおした。
「お前はヴィスマルク嫌いなくせに、なんでそっち居るんだよ! イ・ラプセルに来たら好きなだけ殴れるぞ!」
リュカを攻撃しながら叫ぶカーミラ。自らの国を失い、ヴィスマルクに恭順する騎士。その在り方が許せなかったのか、敵に対する単なる怒りか。叫ぶカーミラに対し、固く首を振るリュカ。
「逆らえば姉様の首が飛ぶ。国はなくとも家の血筋だけは絶やすわけにはいかん」
「……っ! だとしても、キリは!」
リュカに対する説得の言葉を持たないキリ。仮に強引にリュカを連れていったとしても、彼はヴィスマルクに戻るのだろう。大事な人を捨ててこちらに来いなどと、言えるはずがない。どうしようもない現実を前に、悔しくて唇をかみしめる。
「負ければすべてを奪われる、か。厳しいな、ヴィスマルクは」
孤児であるルエは、家族という概念が薄い。理屈として家族が大事だと理解しているが、そこまでだ。少なくとも、リュカの信念を共感できるとは言えなかった。ただあるのはヴィスマルクに対する怒り。それがふつふつと湧き上がってくる。
「これが、戦争だというのですね」
リュカやケヴィンを見て、ロザベルは感情を凍らせたような声をあげる。無理やり戦場に送り出される子供。人質を取られ、自由を失う騎士。戦争に勝つために行われる行為。それが戦争なのだと、まだ幼いロザベルの心に刻まれる。
「……そうだな。それが鉄血国家。大陸最強の軍隊なのだろう」
リュリュはこれまで戦った国とヴィスマルクを比較し、そう呟く。人を人と思わない国。その中でもヴィスマルクは『勝つ』事に特化している。だからこそ彼らは『強い』のだ。……唾棄するような事実だが、それを否定することはできなかった。
「いいじゃないか。最強の軍隊。だからこそ、戦いがいがあるんだよ」
額から血を流しながら笑みを浮かべるアン。戦術を練り、最適解を導いて勝利する。それの何処が悪い。勝つことが正義とは言わないが、正義は勝ったもののみが唱えることが出来る。先ず勝って生き延びる。そうやってアンも生き延びてきたのだから。
「そうですね。彼らは強いでしょう。ですが――」
苛烈に攻めてくるヴィスマルク軍。それを凌ぎながらアンジェリカは息を吐く。潜入部隊の活躍でようやく橋頭保を得られた戦い。おそらくヴィスマルク本陣は今以上の戦いになるだろう。それでも、戦わなければならないのだ。
「イ・ラプセルの勝利のために戦う。敵が強かろうがそれに変わりはない」
揺れることなくテオドールは宣言する。己の持ちうるすべての能力をもって、国を拓き民を導く。それが貴族の務め。それこそが、ベルヴァルド家の為すべき事。その信念は鉄血国家よりも固く、そして強い。
「面倒だな、鉄血国家。お陰で医者に休みがない」
言ってため息をつくツボミ。前衛で戦う者ほどひどくはないが、その高名とヒーラーであることも相まって狙われる率は高い。ドラードに身を隠しながら、仲間の傷を癒していた。どうにか戦線を維持しているが、医者に休みなしとは厄介極まりない。
「敵であるならば、一切容赦せず攻撃するだけです」
抑揚のない声で言い放つティラミス。魔力の炎を解き放ち、ただ敵を焼き払う。自分自身を殺し、ただヴィスマルクを討つだけの存在となっていた。それでいい、と自分に言い聞かせまるでそういう機構を持つ機械であるかのように炎を放つ。
「援軍まだか!」
「砲撃休めるな!」
自由騎士の攻めを前に、ヴィスマルク兵は押されていた。だが、収容所からの援軍もあり、敵全滅には至らない。自由騎士達は援軍を前に疲弊していくが、もともとここを突破する必要はない。
「ごめんなさい。キリは限界です」
これまで敵の攻撃を受け止めてきたキリがここで力尽きる。既に倒れているケヴィンとリュカに手を伸ばすが、その手は届くことなく意識を手放した。
「まだ、です」
「流石ヴィスマルク。だがまだだよ」
「貧弱なヒーラー一人が倒せないとか、大したことないな鉄血国家。ばーかばーか」
ヴィスマルク兵の攻撃と砲撃によりティラミスとテオドールとツボミのフラグメンツが削られる。だが、ちょうどそのタイミングでデウス=ギアに連絡が入る。侵入した自由騎士からだ。
『作戦成功。これより砦に帰還する』
見れば収容所から煙が上がり、遠くに逃げる人達が見える。自由騎士達は互いに頷きあい、離脱に走った。
「撤退だ!」
「オボエテロヨー!」
ボロボロのドラードに乗り込み、タンクデザントで撤退する自由騎士達。
かくして、歴史上はイ・ラプセルの惨敗と書かれることになるドルヒ収容所死襲撃計画は終わりを告げるのであった。
●
かくして、戦いを終えて撤退する自由騎士達。
歴史上の解釈としては『ドルヒ収容所を襲撃したイ・ラプセルは兵力差により攻略を断念』とある。その際に起きた火災で囚人が逃げた件との関連性はないモノとされる――仮にも一国家が他国の犯罪者逃亡に加担した等と言う事があれば大汚名である。捕虜を逃がしたヴィスマルクは名誉の為に、これらの関連性は秘されることとなった。
ともあれ、ドルヒ収容所潜入ミッションは幕を閉じる。
その功績はけして表には出ないが、これにより多くの人間が救われた――