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Training! 間違った奴隷の使い方



●1818年5月1日『奴隷解放宣言』時の声
「いきなり奴隷じゃないって言われてもなぁ……」
「俺ら、じーさんの代から奴隷だからどうしたらいいかわからねぇ……」
「つーか、自由って何したらいいんだ?」
「何処行ってもいいって……館周辺以外に何があるんだ?」

●それから4か月
 エドワード・イ・ラプセルの奴隷解放宣言により、イ・ラプセルの奴隷たちは自由を得た。奴隷達は不当な労働から解放され、自由を得た――
 これでめでたしめでたし、と行くのが歴史の話で現実はもう少しややこしくなる。奴隷たちは突然与えられた『自由』を受け入れられないでいた。
 今まで(不当さはさておき)奴隷の所得者が奴隷に与えていた衣食住がなくなったのだ。ましてや彼らは満足な教育を受けておらず、突然社会に放り出されても何もできない。親の代から奴隷と言う者もおり、奴隷以外の生き方を知らない者が多かったのだ。
 同時に奴隷解放により減じた労働者の代替も必要となる。今まで奴隷達が行っていた雑務などを誰かが行う必要があり、様々な業種が一気に疲弊した。事、一番被害を被ったのは軍隊で、荷役輸送を行っていた奴隷が使えなくなったことで一気に人手が不足する。自由騎士発足はその代替の意味もあったが、それでも十分とは言えない被害だった。
 結果として『国防が甘くなった』『隙あり過ぎ』『密入国者が増えた』などの弊害が生まれることになり、奴隷解放反対派の勢力を増すことになったのだが、それは今論じることではない。閑話休題。
 これらの事態はある程度予測されたことで、国も傍観していたわけではない。奴隷解放宣言と同時に奴隷たちに職業訓練を一般常識の教育を施していた。『奴隷時代と同じ仕事させればいいじゃないか』ということなかれ。あえて非効率でも『違うことをさせる』ことで世間を知り、脳と体を刺激することが肝要なのだ。
 こういった『混ぜっ返し』の教育を四ケ月行い、そろそろ最終調整である。気に入った肉体労働を行いたいものもいれば、まだ教育を続けたいものもいる。可能な限り希望に沿うように仕事を宛がうのだが……。

●そして現在
「そう言った元奴隷達の中に。軍役に就きたいという者もいるようだ」
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)は集まった自由騎士達にそう告げる。
「先のヴィスマルク防衛戦や還リビト戦役などで私達の活躍を見た者達が騎士団で働きたいと申し出てきた。その一部がオラクルなので自由騎士で教育してくれないか、という申し出があったのだよ。
 数は二〇名ほど。道徳などの基本的な教育は済ませてある」
 ずらりと並んでいるのは老若男女種族もばらばらの二〇名。装備も支給されたもので、騎士と呼ぶには心許無いものだ。
「教育と言っても深く考える必要はない。自分達が得意なことを示せばいい。戦士なら武技を、銃士なら銃を、魔術師なら魔法を。それ以外でもいい。私? 私はもちろん医術だ」
 夜道で見たら子供が泣き出しそうなペストマスクは、当然ではないかとばかりに言い切った。
「訓練なので多少の怪我は仕方ないが、やり過ぎて彼らの気力を削ぐような真似はやめてくれ。それさえ注意してくれればいい」
 言って『治療テント』と書かれた天幕に移動するサイラス。残されたのは貴方達と二〇名の新兵たち。
 さて、彼らをどのように教育すればいいのだろうか?


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
国力増強
担当ST
どくどく
■成功条件
1.元奴隷達を訓練する
 どくどくです。
「正しい奴隷の使い方って?」
「動かなくなるまでこき使うことです」(from ヘルメリア)

●三行でわかる説明っ!
 元奴隷達が騎士団に入りたいと言いました。
 その内のオラクル二〇名を教育してください。
 大怪我さえさせなければ、何を教えてもいいです。

●NPC
 元奴隷達(×20)
 オラクル。エドワード国王の奴隷解放宣言により世に解き放れた人達です。4ヶ月の基本的な教育を受けているため、基本的に常識人かつ先生には従順。強さはレベル1でステータスにまだ数値を振っていない状態。メタだ。
 全職業がいますので、好きな事を教えてあげてください。戦闘だけではなく、技能を駆使した生活術などでも構いません。
 近くでサイラスが治療班として待機していますので。大怪我させない限りは大丈夫です。

●場所情報
 首都サンクディゼール郊外にある広場。自由騎士が訓練場として使用可能な区域です。
 訓練で使える物は常識的な範囲で何でもあります。軍用の蒸気自動車がギリギリライン。時刻は昼。
 教育内容があまりに不適切な場合、サイラスあたりに止められる可能性があります。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
3個  3個  1個  1個
13モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年10月08日

†メイン参加者 8人†




「そうだよな、今までやったこと、考えたこともないこと。自由ってのをいきなり渡されてもな。……そうなんだろうな」
 教育の経緯を聞いた『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)は一つ頷いてから、小さくつぶやいた。自由の意味を知らない人に自由を渡しても、困惑するだけだ。どういう道があるかの選択肢を示すことが大事なのだ。
「確かにね。奴隷解放って聞こえは言いけれど、具体的にその元奴隷の人達の今後を示さなきゃ始まらないわ」
 集まった元奴隷のオラクルを見ながら『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は納得する。自分で考えて行動する。これがどれだけの下地の元に成り立っているのか。その重さに静かにため息をついた。
「たまにはこういうのも悪くないねぇ」
 唇を笑みの形に変えて『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)は銃を構える。強者を求めるアンだが、けして孤独を求めるわけではない。銃の教えを請われれば、自分の経験を伝えることはやぶさかではなかった。
(……隷属しか知らなかった者が、短期間で何処まで自立できるものだろうか)
 心の中で不安を呟く『砕けぬ盾』オスカー・バンベリー(CL3000332)。貴族として騎士として、国の為になるのなら協力は惜しまない。だが不安がないわけでもない。どうあれこれで視野が広がるならそれだけでも価値があるだろう。
「一人でも多くの訓練生を鍛え上げねば……!」
 拳を握り気合を入れる『折れぬ傲槍』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)。軍の輸送事情を知る者として、人手不足はもうギリギリであった。軍役者持ち前の体力で凌いでいるが、とにかく人手を増やさないときつすぎる。
「おいらは蒸気機関の事を教えるんだー」
 しゅた、と手をあげて『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)が宣言する。まだ子供のように見える――事実子供だが――ジーニアスだが、蒸気機関に関する見識は深い。好きこそものの上手なれ、だ。
「よーし! 特訓だー!」
 元気よく声をあげる『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。まだ子供のように見える――事実一部を除けば子供だが――カーミラだが、構えと繰り出す拳は素人のそれとは異なる。好きこそものの上手なれ、だ。
「貴様等の自己紹介に合わせて訓練内容を定める為の簡易診断を行わせて貰う。まあ、勝手に診るだけだがな」
 言って元奴隷達をスキャンする『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。適性などを見て、どの自由騎士に割り振ったらいいかを判断する。当人の希望も加味するが、そもそも習いたい事があるならこんな依頼は発生しないかと自分で納得した。
 さあ、教育開始である。


「まずは私だよ!」
 拳を握りカーミラが笑みを浮かべる。自分より小さな子供に格闘を教わるのか、と言う顔をした元奴隷もいたが、デモンストレーションとばかりに巨大な岩を殴って威力を示したことで不安は消え去った。
「格闘の基本は足! 鍛えて鍛えて鍛えぬくよ!」
 拳の技にせよ足技にせよ、格闘動作の根幹となるのは足である。素早く動くことではなく、どっしり構えること。体の中心に鉄の棒を入れ、そこを軸として動作をする。その為には下半身の鍛錬は不可欠なのだ。
「構えー! そのまま一分待機!」
 膝を曲げて重心を下し、そのままの格好でカーミラが告げる。俗にいう空気椅子だ。一分頑張って、一分休憩。緊張と弛緩を繰り返し、短期間で鍛えるトレーニング方法だ。これが長期間できる様になれば、問題ないという。
「大事なのはね、有名な武術や剣術を学ぶことじゃないんだよ! 体を鍛えて、どう動くかなんだ!」
 古くから存在する騎士道剣術や紳士杖術などは、貴族階級などしか学ぶことが出来ない。それ故に貴族でない者の格闘術は粗野と評されることもある。だが型にはまっていることと、その人が強いというのは別なのだ。
「よーし、じゃあ実戦だ! 遠慮なく突いて来ていいよ!」
 ある程度の訓練を終えた後に、カーミラは構えを取って訓練生に手招きする。彼らも最初は遠慮しながら拳を振るっていたが、カーミラがあっさり受け流すのを見て少しずつ熱が入ってくる。
「駄目駄目、前のめり過ぎ! 足の動きを忘れないで!
 はい、隙だらけだよ! どんな時でも腕で胸を守らないと危険だからね!」
 理論や理屈ではなく、体を動かし格闘術を教えるカーミラ。その元気さに引きずられるように、元奴隷達も体を動かしていた。

「と、言うわけで俺が教えるのは自動車の運転等だ」
 軍用の蒸気自動車の車体を叩き、ボルカスは説明を開始する。借りる際に『今車も足りないんだけどな』的な文句を言われたが、自由騎士の公用ということで押し切った。後で何か言われそうだが、それは上に押し付けよう。
「まず最初にボイラーを熱さなければいけない。当たり前だが蒸気機関を動かすには蒸気が必要だ。前もって火を灯し、ボイラー内の水を温めておくことが重要だ」
 実際に体を動かしながらボルカスは教える。分かりやすいようにボイラー部分を露出させ、皆に見えるようにしてわかりやすく説明していた。
「ボイラーが大きければ大きいほど水を蓄えられて長距離の運用ができるが、水が多ければその分水が蒸気になるのに時間がかかる。急ぐときは敢えて少量の水で動かす、と言うのもありだ。
 ボイラーを温めている間に積み荷を乗せる。こうした時間配分も重要だ」
 輸送は時間との戦いだ。何が最適なのかはその時によって変わる。時間、積み荷料、その両方のバランスを見極めるのは、やはり敬虔だろう。
「実際にボイラーが温まったら、回転棒を使ってギアを動かす。エンジン部分のこの穴に差し込み、回転させながらイグニションキーを回すんだ。
 そして実際の運転だが、一度実例を見せる。それを見てお前達にも同じ操作をやってもらおう」
 言ってボルカスは車に乗り込み、運転を開始する。目立つ色の柱を立て、それに触れないように動かしていく。見ている分にはすんなり進んでいるように見えるが、見る人が見ればその運転技術に舌を巻いていただろう。
「じゃあやってもらおう。最初は――」
 元奴隷達を運転席に乗せて、ボルカス自身は助手席に座る。流石に最初からうまくいくわけもなく、何度もつっかえながらの運用だ。
 だが確実に、運転の経験は重ねられていく。

「四か月計画の終着か。いや、これで終わりではなくここからが始まるなのだな」
 元奴隷を社会に馴染ませる計画の報告書内容を思い出しながらオスカーは頷く。奴隷解放宣言から――いや、おそらくそれよりも前から計画されていたプログラムだ。その総まとめともいえる事例に手は抜けない。
「俺は盾の扱いについて教える。防御は地味だ、というものもいるかもしれないが戦場においてはもっとも重要な役割だ」
 オスカーが手にするのは騎士の盾。自分自身の前面を守るタワーシールドだ。その大きさ故に重量もあり、地面に置いただけでその重さが伝わってくる。その盾を苦も無く構えるオスカー。
「大事なのは一人突出、及び出遅れない事だ。縦を並べて壁を作り、矢や弾丸を通さぬようにする。足並みが狂えばそこに穴が開き、陣が崩壊するからな」
 盾役の役割は『味方を守る』ことだ。自分一人を守るなら己だけの強さに邁進すればいい。しかし誰かを守るとなればそうもいかない。自分一人のミスが仲間に襲い掛かる。その自覚が重要なのだ。
「そして攻撃を受けるときは、足をしっかり踏みしめて目をつぶらずに受け止める。
 実際に攻撃するので、受け止める訓練だ」
 訓練生に盾を持たせ、オスカーは武器を手にする。掛け声と共に振り下ろした武器。その重い一撃を受けて、揺らぐ盾。
「初めてにしては上出来だ。だが完全に受け止めるには体を鍛えなくてはいけない。盾を持っての走り込んだり、各筋肉を鍛えたりだ。
 その基礎訓練は――」
 説明しながらオスカーは思う。どれだけの者が最後までついてこれるだろうかと。だが脱落することが悪い事ではない。こうした知識に触れることで、新たな可能性が生まれるのだ。軍役が駄目なら商売を。それが駄目な肉体労働を。
 どういう道に進むにせよ、こんな時代だから身を守る術の一つは知っていてもいいだろう。今日の訓練が生きる日があるかもしれない。


「おいらは蒸気機関に関することを教えるよ!」
 黒板を前にジーニアスが講義を開始する。広く蒸気機関が知れ渡って入るが、その原理を詳しく理化している者は少ない。なんとなく動き、なんとなく役に立つ程度の認識でも機械は動くのだから問題はないのだ。
「まず基本的な所から。蒸気とは何か?
 水を火で温めると、白い煙が出るよね。これが蒸気。この時、水が空気になって広がり、水だった時の一七〇〇倍になるって言われてるんだ。
 で、大きくなることで押し出す力。これが蒸気機関の原動力になるんだ」
 黒板に水の入った容器を書き、熱することで気体になる絵を書く。一七〇〇倍と言うのはかの『蒸気王』の言葉だ。
「膨れ上がった大きさの蒸気をこんな感じの風車で受け止める。そうすることで風車は回って、風車に繋がっている軸が回りその軸についていた歯車も回る。歯車は別の歯車に噛みあって動き……こうして機械を動かしていくのが蒸気機関なんだ」
 今度は模型をもってきて、それを机の上に置く。風車が回ると歯車が動き、隣のある歯車が動き出す。
「歯車の種類にもいくつかあるんだ。皆が『歯車』って言えばすぐに想像する平歯車。歯車の大きさを変化させて、力の加減を調整するんだ。
 そして内歯車。歯が外じゃなくて中にあるタイプだよ。これを組わせて作るのが遊星歯車機構。内歯車の中で小さな歯車が回転するんだ。蒸気鎧や蒸気自動車のモーターに取りつけられているよ」
 興が乗ったのか、ジーニアスの説明には熱が入っていた。本当に蒸気機関が大好きなのだろう。
「だけどいい事ばかりじゃないんだ。火を使って蒸気を作るから、熱が籠ってやけどをしてしまう。大量の水を用意するから重くなって倒れた時に危険だったりするんだ」
 メリットだけではなく、デメリットも。こうした注意を怠らないのは、一度痛い目を見たからか。ともあれ、蒸気機関の講義はまだまだ続く。

「では医療魔導の講義だ。まずはイ・ラプセルで使われる四種類の系統について教えるぞ」
 魔導の講義を買って出たのはツボミだ。黒板に書きながら話を続ける。『魔導士』『錬金術』『レンジャー』の説明をして、最後に『ヒーラー』の説明に入る。
「さて簡単なヒーラーの説明だ。
『魔導士』『レンジャー』が攻撃に特化するように、ヒーラーは地領に特化する。戦いで受けた傷の痛みを消したり、毒などを打ち消したりする。また自然治癒力を高めたりすることもできる」
 言葉が浸透したことを確認するように一泊置き、ツボミは言葉を続ける。
「だが治療魔術はあくまで一時的な処方だ。落ち着いたら医術による治療を行え。
 そもそも命に別状が無くて、時間もあるなら魔導に頼らん方が良い。アレは基本傷を塞ぐ位で洗浄とかすっ飛ばしてるからな。塞がった皮膚の下に砂利とか入ってても嫌だろ?」
 痛々しい描写に元奴隷達は小さく震える。魔術とて万能ではない。その為に医術が存在するのだ。
「そしてその状況の判断だが、これは経験がものをいう。意識があるか、立って動くことが出来るか、出血はどの程度か、そう言った見る目が必要になる。
 丁度実技の方で怪我人が出たようだからな。そちらを教材にして励もうか」
 救急箱を手にして、移動を開始するツボミ。それについてくる元奴隷達に歩きながら説明を続ける。
「治療の基本は傷口を水で洗い流す。とにかく砂や泥を流すのが先決だ。血が止まらんかもしれんが、んなもん肉喰えばなんとかなる。どうしても止まらなかったら、縛って血を止めろ。手遅れになって腐って切り落とすよりずっとましだ」
 医療とは時間の勝負。こうして移動している間の時間すら惜しいとばかりに、ツボミは喋り続けていた。


「俺達は銃の事を教えるぜ。まずはポジショニングからだ」
 アンが銃を構えて元奴隷達の前に立つ。ニヤリと笑み浮かべてから指を一つ立てて質問をした。
「これから相手を撃とうって時、お前らは『どこで』銃を構える?」
 顔を見合わせる元奴隷達。一人ずつ手をあげて応えていく。
「相手がよく見える場所」
「悪くない。視界確保は大事だ」
「壁があるところ」
「正解だ。遮蔽物で身を隠すことは遠距離戦では重要だ。
 だがそれは正解だが重要じゃない。いいかお前ら、銃を撃つときは『足場が安定した場所』を選ぶことを意識しろ」
 言葉を刻むようにゆっくりとアンは重要な事を告げる。
「銃は素人でも扱えるが、反動が大きい。揺れる足場では狙いが定まらないどころか、下手をすると火薬の反動で倒れることもある。そうなれば的を外すどころか、下手すると味方に当たっちまうんだ」
 ざわめく元奴隷達。
「当然、足場が安定していても立ち方が悪ければ同じことだ。不安定な格好で撃てば、定まる狙いも定まらない。横に飛びながら銃を撃つなんか、かなりの玄人でないと無理なんだよ」
 と、ここまで言った後でアンは肩をすくめた。
「まあ、実戦ではそう言ってられないこともある。事実、俺の自由騎士としての初陣は船の上だ。揺れる船の上で不安定な状態の中、狙いが定まらず苦戦したものさ。
 戦う場所によってはそういう状況もある。だけど常に意識してほしいのは『銃を撃つための前準備』は怠るな。ポジショニングによって勝敗が決まることもある。銃を撃つ技量の前に出来ることがありということを忘れるな」
 よし、次。とアンと交代で入ってきたのはザルクだ。
「それじゃ、実際に銃を撃ってもらおう。俺が教えるのは拳銃の方だ」
 片手に収まらない大きな銃を手にするザルク。教科書を思い出すように、一つ一つ確認しながら銃を構えていく。
「まずは足。両足を肩幅程度に広げ、足の裏をぴったりつけるよう意識する。膝は伸ばし切らず若干曲げておく。これにより衝撃を柔らかく受け流す。
 両手でしっかり銃を握り、真っ直ぐに突き出す。そして銃口についている標準を合わせるように銃口を向け、しっかりと狙う。そして引き金を引き――」
 乾いた火薬音が響き、訓練場の的に穴が開く。
「こんな感じだ。次は実際に撃ってもらう。ゆっくりでいい。動作を一つ一つ確認しながら撃つんだ。大事なのは動作を体にしみこませることだ。
 ああ待て。その持ち方ではなくちゃんと両手でグリップをしっかり握って、内側の隙間をなくして……」
 一人一人を見ながらザルクは銃を教える。いい部分は褒め、悪い部分は早めに指摘して癖を治させる。
「所でこの中で人を殺したことがある奴はいるか? ああ、申告しないでもいい。
 銃は人殺しの道具だ。アクアディーネ様に不殺の権能はあるが、銃が簡単に人を殺せるという事実には違うない。その引き金を引く時は、その覚悟をもって挑んでほしい。力に溺れる奴は、いつか報いを受ける、どんな形であれ、な。自分自身に返ってこなくても大切なものに返ってきたりするもんだ」
 シメは任せたぜ、とザルクと交代で入ってきたのはアンネリーザだ。
「じゃあハンドガンとライフルの違いから説明しましょうか」
 スナイパーライフルを手にアンネリーザが説明を開始する。
「ハンドガンは言葉通り手で撃つ銃。ライフルは両手や体全体で銃を押さえるのよ。
 銃座と引き金の部分を押さえ、標準を合わせる。衝撃を受け止めるのは筋肉ではなく骨で。後は前の二人が教えてくれたことと同じね。足場や天候などで命中精度は左右されるし、しっかり足を構えること」
 試しに、とばかりに銃を撃つアンネリーザ。
「ライフルはマスケット銃が出来てから大きく進歩したわ。銃そのものの飛距離が伸び、『狙撃』と言う概念が生まれたの。山で狩りをする猟師も遠い所から大型動物を狙うことが出来るようになって、安全が増したわ」
 狙撃の技術が生まれる前は、クマなどの大型生物は罠を仕掛けるしか対抗策がない状態だった。しかし気づかれることのない遠距離からの一撃は戦略を増やし、戦いを優位に持って行ける。兵士にならずとも、ライフルが扱えれば職には困らないだろう。
「あと大事なのはメンテナンスね。銃に限らず、自分の道具は自分で点検する。点検を怠って命を落とした兵士もいるわ。
 特に銃器は火薬を使う関係上、歪みやヒビが入りやすいの。小さな傷から大きな破損に繋がるというのはよくある事よ。その為には正しく分解し、部品は整理整頓して並べることが大事ね。先ずはライフルの分解方法だけど――」
 新時代の武器、銃。それに対する興味は深く、元奴隷達は三人の講師の話を真剣に聞いていた。


 一通りの講義と実習を終えた後、元奴隷達は自由騎士に参入する。
 いきなり実戦ということはなく、戦いのバックアップとして動くことになる。輸送や戦闘後の治療、後片付けなどだ。自由騎士の精鋭たちはより戦闘に専念することが出来るようになった。
 
 差別され、自由を知らない奴隷はもういない――

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†


 どくどくです。
 どこかのタイミングでやっておきたかった奴隷のお話。

『奴隷解放』『身分の平等化』と言うのは現代社会においては道徳レベルで基本となります。少なくと『お前は俺の奴隷だ』と公言する人は白い目で見られます。
 ですがそれを築き上げたのは、多くの努力の結果なのです。皆様が当たり前のように感じている『常識』は過去においてはありえない話で、その道を繋いだ人達の努力あっての話なのです。
 
 まあ、STとしては差別や不条理はシナリオのネタにできるので、ないとまた困りものなのですが(いろいろ台無し)。

 それはともかくお疲れさまでした。
 MVPはポジショニングの重要性を説いたハインケル様に。足場は重要なのですよ。

 それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済