MagiaSteam
Ruse! 海路を穿つ竜牙の杭!



●ヴィスマルクの牽制
 海上封鎖――
 この時代の通称は主に海路である。陸路が発達していないというわけではないが、タービンエンジンの開発によりより多くの物資を高速で運べるようになったことが大きい。
 その海路を封鎖するのが海上封鎖だ。軍事力を用いて他国の港湾に船舶が出入国することを阻止することである。ヴィスマルクはイ・ラプセルの海路に軍艦を配置して、にらみを利かせていた。
 当然一般人への攻撃は通商連との協定で禁じられているのだが――
「相手はヴィスマルクの『竜牙艦隊』だぜ」
「あれだけ巨大な砲台を見せつけておいて、何もしないわけはないだろうが」
「勘違いで船を沈められたらたまらないぜ」
 などの理由により商船はその港――イ・ラプセルが有するグレイタス小管区にある港を避けるようになった。軍艦と言うのはそこにいるだけで威嚇となり、ヴィスマルクと言う国の体制がそれを誇張していた。
 これは実際問題のところ、時間が経てばただのハッタリであることが分かる作戦だ。だが短期間であれ通商の流れが滞るのは国としては痛い。ましてやイ・ラプセルとヘルメリアの交戦の熱が高まりつつある時期だ。必要な物資が届かなければ軍は十全に動けなくなり、次の戦いで敗戦する可能性が高まるのである。
「商船三隻を確認!」
「よし、空砲を鳴らせ。それで航路を変えなければ威嚇射撃だ」
 ヴィスマルク『竜牙艦隊』は短期間とはいえ、ローコストで海上を封鎖していた。
「しかしアンテス大尉の作戦がこうも当たるとはな」
「クラウゼヴィッツ少将からの評価は低いがな。『誇りあるクラウゼヴィッツ家がそのようなチンピラめいた事が出来るか!』だったか」
 そんな話をしているのは、ヴィスマルク戦艦『ラードーン』の艦長と副館長だ。艦には数十門の砲と弾丸、そして最低限の食料と燃料以外は積んでいない。同クラスの戦艦と遭遇すれば、逃げの一手を決め込むしかない状態だ。
 艦長は提案してきた大尉の策を拾い上げ、この作戦を立案した。会議では不評の声もあったが、イ・ラプセルににらみを利かせる意味では効果的と判断されて決行となった。
「威嚇用の砲弾以外は積み込んでいないハリボテ戦艦だが、それなりに驚いてもらえるようだ」
「ああ、だが大尉の見立てではそろそろイ・ラプセルも動き出す」
「それをうまく捌けるかが、この作戦のキモだな」
 言って艦長は望遠鏡から戦艦を護衛する蒸気船を見る。
 ロミルダ・アンテス。この作戦を提案した大尉。それが乗っている護衛艦を。

●ロミルダ・アンテス
「イ・ラプセルは来ると思いますか?」
 アンテスに問いかけたのは、全身ウロコに覆われたトカゲのケモノビトだ。この護衛艦の兵士を纏める軍曹である。
「来る。イ・ラプセルは無能ではない。早急に動くはずだ。
 軍を編成してくれるなら作戦は大成功だ。それだけのコスト相手にを支払わせたのだからな。だがこの作戦を真に理解しているなら、少数で攻め入るはずだ。この護衛艦を制してしまえば、戦力的には皆無になる」
「『ラードーン』程の戦艦があるのに、少数で来ますかね?」
「そこはイ・ラプセルの軍事事情だろう。少なくとも先の大戦では柔軟に対応してきた。今回もそうならないという保証はない」
 アンテスの言葉に肩をすくめる軍曹。呆れたのではない。これから忙しくなると確信したのだ。この大尉の見立てが外れたところなど見たことがない。
 ――事実、その数時間後にイ・ラプセルの船影を捕らえたのだから。

「分かりやすい挑戦状だねぇ! こういうのは嫌いじゃないよ!」
『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は船の上からヴィスマルクの護衛艦を見ながら、唇を笑みの形に変えた。
 ブランダーパスを駆使するキジンの軍人。その再戦を前に、背筋に鋭い震えが走る――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
リクエストシナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
どくどく
■成功条件
1.ロミルダ・アンテスの打破
 どくどくです。
 このシナリオはアン・J・ハインケル(CL3000015)様の依頼により発生したリクエストシナリオです。発注者以外でも参加は可能です。

★リクエストシナリオとは(マニュアルから抜粋)
 リクエストシナリオは最大参加者4名、6名、8名まで選べます。なお依頼自体はOPが出た時点で確定しており、参加者が申請者1名のみでもリプレイは執筆されます。

 リプレイの文字数は参加人数に応じて変動します。
【通常シナリオ】
 1人の場合は2000文字まで、その後1人につき+1000文字 6人以上の場合は最大7000文字までとなります。

●敵情報
・『鋼花(シュタールブルーメ)』ロミルダ・アンテス(×1)
 右腕が機械化したキジン女性。ヴィスマルク軍人。階級は大尉です。護衛艦の艦長的役割。この海上封鎖の立案者でもあり、イ・ラプセルの襲撃も警戒しています。
 ブランダーパス(ラッパ銃)を持つガンナー。船の戦いに長けており、退くべき時は退く『前に立つ』タイプの指揮者。発注者のアン様との関係は『ライバル』になります。
 拙作『Attack!竜牙艦隊を止めろ!』に出ていますが、『ヴィスマルクの軍人』ということが分かれば問題ありません。
『ダブルシェル Lv4』『サテライトエイム Lv4』『バレッジファイヤ Lv2』『スキルガンナー』等を活性化しています。

・『骨砕き(クノッヘンハマー)』ガイノス(×1)
 全身ウロコで覆われたトカゲのケモノビト。ヴィスマルク軍人。階級は軍曹。護衛艦の兵たちを纏める立場です。軍と言うよりはアンテスに従っている軍人。
 参加人数が3名以上になった時に、敵前衛に配置されます。
 ハンマーを持つ重戦士です。積極的に前に出て敵を穿ちます。
『ライジングスマッシュ Lv3』『バーサーク Lv3』『ハップライト』等を活性化しています。

・海軍兵士(× 参加人数-3)
 ヴィスマルクの海軍です。種族はミズビト。サーベルを持った軽戦士です。
 参加人数が4名以上になった時に、一人ずつ敵前衛に配置されます。
 軽戦士のランク1のスキルを活性化しています。

●場所情報
 グレイタス小管区近くの海上。そこに浮かぶ軍艦を護衛する蒸気船の上で戦います。リプレイは船に乗り込んでからのスタートです。
 自国は昼。船は風と波で揺れている為、相応の対策がなければ命中と回避にペナルティが付きます。明かりや広さは戦闘に支障なし。遮蔽物は船にありそうなものがある程度で、斜線や移動を遮ることはありません。
 参加者以外にもイ・ラプセル軍が乗り込み、ヴィスマルクの兵士(メタな事を言うとリプレイに出ないNPC)を押さえています。
 事前付与は一度だけ可能です。敵も船影発見後なので、準備を一度だけ行います。

 最後になりましたが、リクエストありがとうございます。
 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  6個  2個
7モル 
参加費
100LP
相談日数
7日
参加人数
3/6
公開日
2020年01月12日

†メイン参加者 3人†




「商人からすれば、こいつは溜まった者じゃないな」
 苦情のリストと昨今の商品の流れを思い出しながらウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はしかめ面をする。経済とは流れだ。その流れをせき止められれば、商人は生活が出来なくなってしまう。
「いるだけで脅しになる、か。じゃあその辺りを弄ってやるとするか」
「作戦とかは上の人が考えるから、私は前に出るよ!」
 やる気を示すようにガッツポーズを取る『元気爆発!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。ヴィスマルクの軍隊とやり合うのはいつぶりか。水鏡の情報を思い出し、心が高揚しているのを自覚する。
「らいばる同士の一騎打ちは、邪魔させないからね!」
「ありがとよ。存分に楽しませてもらうぜ」
 潮風で飛ばされそうになる帽子を押さえながら、『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は笑みを浮かべる。海上封鎖自体には興味はないが、この作戦を敢行した相手には覚えがあった。かつて相対したヴィスマルク軍人。その名前と顔を忘れたことはない。
「ロミルダ・アンテス! あんたの相手は俺だ!」
 船が接舷し、自由騎士達はヴィスマルクの護衛艦に雪崩れ込んだ。それに対応するようにヴィスマルクの軍人も武器を構えて応戦する。
「来たか。ここが堪え時だ。各人全力を尽くせ!」
 護衛艦の指揮を取るアンテスの声が響き、海戦は始まった。


「すごいぞ! ヴィスマルクが国としての信用が無いって事を、理解してるんだなんて!」
 ウェルスは仲間に回復を施しながら、同時にヴィスマルク軍人を挑発するように拍手する。相手の集中を乱すことが出来れば僥倖。そうでなくても言いたいことをぶちまけてやりたいという八つ当たりはできる。
「ハリボテと空砲で海上封鎖が成功してるって事は、そういうことだからなぁ。さすが狂犬国家ヴィスマルク! 信用も信頼も地の底だ!」
「野郎、ぶっ殺して――」
「おいおい、そんなに褒めるなよ。クマの旦那」
 激昂仕掛けた一般兵を押さえる様にガイノスが口を挟む。
「俺達が信頼ないとか今更だからな。どうした? もう少し続けてもいいぜ。偶には俺達もリップサービスが欲しくてな」
「そいつは高くつくぜ。何せ俺は商人だ。なんでも取り扱いはするが、希少価値がある物は高くなる」
 言って笑みを浮かべるウェルス。トカゲの顔も似たような笑みを浮かべていた。
「大した商人だ。それなら捕虜にして留置所に入れても小銭が稼げるだろうよ」
「遠慮しておくぜ。綺麗なケモノビトの女性達がいるなら考えるけどな。ヴィスマルクの施設に行くときは、俺達が凱旋する時だ」 
「爬虫類系の美女なら紹介できるぜ。ヴィスマルクがサンクディゼールを占領した時に、紹介してやるよ」
 互いに役割を果たしながら、挑発を繰り返すウェルスとガイノス。
「アンの邪魔はさせないぞ! おりゃあああああ!」
 そんなガイノスに肉薄するカーミラ。巨大なハンマーを持つガイノスに対し、徒手空拳で挑むカーミラ。一撃の重さはガイノスに分があるが、カーミラは常に動き回って攻め立てていた。
「かかって来なよ! そのハンマーは罰ゲーム用のオモチャなのかな!」
「ああ、罰ゲームのオモチャだぜ。死ぬよりはマシ、程度のゲームだけどな!」
 ガイノスの両手のハンマーがうなりを上げ、カーミラに迫る。回避したつもりだったが、掠っただけでも体に強い痛みが走った。その痛みをこらえながら、カーミラは前に進む。痛みでカーミラの心は折れない。むしろより怜悧に、より熱くなっていく。
「おらおらおらぁ!」
 足を止めずにカーミラは攻める。ガントレットを叩きつけ、回転しながらしゃがんで相手の足を払う。相手のバランスを崩した所に自分の頭をぶつけ、そのまま一気に押し切るように突撃する。全身全てがカーミラの武器。全てを鍛え、全てをぶつける格闘技。
「どーだぁ! まだまだやる気?」
「当然だぜ、おチビちゃん。ようやくエンジンがかかってきたところだ」
「よーし、だったらこっちも全力で行くからね!」
 揺れる船の上、豪風と疾風がぶつかり合う。
「また会ったな! いい感じの舞台を用意してくれて嬉しいぜ!」
 アンはアンテスを前に銃を構えて笑みを浮かべた。アンテスも視線を向けてそれに答える。
「『果たし合いをしたかったら正式な手順を踏め』だったか? 生憎俺は軍人の作法ってのは疎いが、まずは互いに名乗り上げりゃいいのかねぇ?
 改めて名乗ろう。イ・ラプセルの自由騎士、アン・J・ハインケルだ!」
「ロミルダ。アンテス。ヴィスマルク軍人だ」
 短く、しかしはっきりと答えるアンテス。
 それはアンの要望に応えた証だ。一対一での果し合い。
「さあ、今回も楽しもうぜ!」
 アンの言葉が開戦の合図。同時に二人のガンナーは銃を手にする。
 遮蔽物なく、揺れる船の上。奇しくも二人の距離はかつて対峙した時と同じ距離。
 ならばこれは純粋なガンナーとしての勝負。技量、武器の質、そして気迫。弾丸を避ける余裕などない。そんな余裕など与えない。どれだけ早く引き金を引き、弾丸を命中させるか。
(あの女が狙いを外すなんてありえない。相手よりも早く引き金を引き、そして確実に急所に命中させるか。そういう勝負だ。
 喉が渇いて肌がひりついてきやがる。ああ、そうだ。この緊張感こそが勝負。生きている証だ。あんたもそうなんだろう、ロミルダ?)
 呼吸することすら許されない強い緊張。その緊張は実際の所、一秒にも満たないものだったのだろう。だが、二人のガンナーには永劫にも感じられた。そして――
(動いた)
 先に動いたのはどちらだったか。アンテスとアン。二人はほぼ同時に動いていた。
 銃を打つ際に、人は必ず動きが止まる。それは銃身を固定するために必要な事だ。そしてその瞬間こそが、回避も防御もできない最も無防備な状態になる。その一瞬を穿つことが、ガンマン同士の一騎打ちの勝利条件となる。
(遅い)
 ロミルダ・アンテスはこの時、勝利を確信していた。アンが構えた瞬間を確かにとらえ、引き金に指をかけていたのだ。躊躇なく引き金を引き。弾丸を解き放つ。衝撃と銃声が死神となってアンに終わりを告げる。幾多の敵と同じように、一秒後の相手の死をイメージし――
「――なに?」
 そのイメージは、続かない。
「こいつはとっておきだ」
 アンテスの耳にアンの声が届く。やけにはっきり聞こえた声。それはアンテスの抱いたイメージを霧のように消失させる。自らに迫る弾丸がはっきりと見える。回避などできようもない。銃を撃った衝撃から回復するより先に、アンの銃弾がアンテスの胸を穿つ。
 フェイクフォーム。
 相手に『構えた』と錯覚させてあえて先に構えさせる技法。ハッタリ的な技法だが、相手を騙す為には相応の気迫が必要となる。死を前にした銃士を騙すほどの、強い気迫が。
 それは生きる為。勝つために戦い続けたアンが得た技法。それが生んだ一つの結果(きせき)。それを卑怯と罵るものはここにはいない。持ちうる技量、持ちうる経験、持ちうる気迫。そのすべてをかけた一発。それがこの戦いの結末なのだ。
「これが俺の本気だ。楽しんでもらえたかい?」
 体中から汗を流し、アンテスに問うアン。肩で息をしながら、それでも楽しかったと笑みを浮かべる。
「悔しいが、認めよう。この場での負けも、高揚したことも」
 甲板に伏したヴィスマルク軍人は、全身を襲う痛みの中で確かに笑みを浮かべていた。


 指揮官のアンテスが倒れたことで、ヴィスマルクは撤退の流れに移る。
 イ・ラプセル側は追撃をする事もできるが、戦いの疲弊とハリボテ同然とはいえ背後に戦艦の砲撃が控えていることを考えてこれ以上の消耗を避けることにした。どうあれ、護衛艦を排したことでこちらの目的は達している。ヴィスマルクもこれ以上の作戦続行はないだろう。
「倒しきれなかった。ちくしょう!」
 カーミラは鉄槌する護衛艦を見ながら頬を膨らませていた。相手の軍曹に戦っている途中で逃げられてしまったのだ。ガイノスとの戦いに拘っていたわけではないが、戦いが中断されたのはあまり面白いものではなかった。
「生きてりゃまたどこかで会えるさ」
 ウェルスはそんなカーミラを宥めるように言い放つ。生きていれば、それはこの時代では重い言葉だ。何処に住んでいても命の安全はない。亜人の人権が確立されているイ・ラプセルが負ければ……それを思うとぞっとする。そこまで思って、肩をすくめた。
「そうさね。生きていればまた会えるか」
 アンは包帯で応急処置をしながらそう呟く。アンテスに勝ちはしたが、銃を撃たれたのは事実だ。急所こそ外れたがアンテスの弾丸は確かにアンに命中していた。文字通り、紙一重での勝利だったと言えよう。
 視界から消えるヴィスマルクの船。それを見ながら、自由騎士達は今回の戦いが無事終わったことを確信した。

 かくしてヴィスマルクの海上封鎖は解除され、商戦はグレイタス小管区の港に集う。越冬と迎春の為に必要な物資は多い。需要と供給があるため、商人にとってもありがたい話だった。
 ヴィスマルクもこれ以上の海上封鎖を敢行するつもりはない。元より失敗してもいい程度のコストしか支払っていない作戦だ。僅かな機関でも封鎖が成立した分、良しとしたのだろう。痛みはあるが、気にする程度ではないと言った所か。
 イ・ラプセルとヴィスマルクの小競り合いはまだまだ続く。相容れぬ国同士、避けられぬことであった。どちらかが潰えぬ限り、終わることはないだろう。
 ――戦争の炎は、確かに存在していた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『海上のガンマン』
取得者: アン・J・ハインケル(CL3000015)

†あとがき†

どくどくです。
アンテスの生死に関しては発注主にお任せするとします。

以上のような結果になりました。
初のリクエスト以来、お楽しみいただけたのなら幸いです。
アナザーの種類によっては様々な内容が考えられますので、皆様の余裕があればSTにぶん投げてみるのもいいと思われます(めっちゃ他人事

それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済