MagiaSteam
そして、最後の一年が始まる。




「さて、みんな。
 今日は楽しんでくれたまえ」
 『イ・ラプセル国王』エドワード・イ・ラプセル(nCL3000002)は傍らで微笑む女神より一歩前にでて、宴の始まりを宣言する。
 エドワード国王の誕生日、そして自由騎士発足、ヘルメリア戦役勝利の祝勝会もあわせて、王城のパーティは盛大なものだ。
 豪華な食事に舌鼓をうち、きらびやかな音楽隊の演奏する楽曲を楽しむことができる。
 貴族たちは自由騎士たちに戦役での物語を聞き出そうとキョロキョロと君たちの姿を探している。
 
 シャンバラ、ヘルメリアに撃ち勝った喜びが国民たちに広がっている。
 ヴィスマルクとシャンバラの国境での小競り合いは続き、パノプティコンとの開戦も告げられてはいるとはいえ、休息は必要なのだ。

 この先の戦いはより厳しく険しいものになるだろう。
 それでも今だけは――。
 


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常γ
■成功条件
1.エドワード・イ・ラプセルの誕生日を祝う。
2.自由騎士発足二周年のお祝いをする。
3.ヘルメリア祝勝会をする。
 ねこたぢです。
 いろいろまとめてお祝いです。
 お料理は豪華ですし、きらびやかなダンスホールで楽しむのもいいでしょう。
 
 ・できること・
【1】
 王城のパーティに参加する。

 エドワードの誕生日のお祝いをしたり、発足2周年のお祝いをしたり、戦勝のお祝いをどうぞ。
 料理はだいたいなんでもあります。アマノホカリや央華、ヘルメリア料理などもあります。
 王族のみなさんや宰相、及びたぢま、ちょころっぷ担当NPCは呼べば来ると思います。
 貴族のみなさまも居ますし、今回は女神も王城にきていますので、いつもより警備はものものしくもあります。
 
 

【2】警備とかトラブル解決
 パーティ会場、城下町、アデレードを警備してください。
 どこを警備するかも明記してください。
 できれば一箇所のほうがいい感じです。
 お祭りは城下町やアデレードでも行われています。警備は重要なのです。
(この選択肢に誰もいなくても、モブの国防騎士や自由騎士さんが警備するので大丈夫です)
 


【3】アデレード他イ・ラプセル内のお祭りに参加したり、その他の場所で楽しむ。
  アルヴィダやクローリーも居ます。アデレードにはカシミロさんと13番も居ます。
 (この4人はアデレードのみになりますが、クローリーはどこにいてもいいや。)
  王城のパーティは苦手というひとはこちらで。
  ミズヒトのお嬢さんはそろそろ目を覚ましたようですよ。(まだ動けるほどではありません)

 また、いつもどおりランダムでNPCと絡んでほしい。も問題ないです。
 王族と女神様はパーティ会場以外は無理ですが、他のNPCはどこでも呼ばれたら行きますのでどうぞ。


一行目 【1~3】
二行目 同行者(ID)/同行希望NPC/グループ名
三行目 プレイング
 
 の書式でお願いします。

●イベントシナリオのルール

・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
状態
完了
報酬マテリア
0個  0個  1個  0個
13モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
45/100
公開日
2020年05月15日

†メイン参加者 45人†

『アイドル』
秋篠 モカ(CL3000531)
『キセキの果て』
ニコラス・モラル(CL3000453)
『RE:LIGARE』
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『黒砂糖はたからもの』
リサ・スターリング(CL3000343)
『ペンスィエーリ・シグレーティ』
アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)
『おもてなすもふもふ』
雪・鈴(CL3000447)
『stale tomorrow』
ジャム・レッティング(CL3000612)
『教会の勇者!』
サシャ・プニコフ(CL3000122)
『天を癒す者』
たまき 聖流(CL3000283)
『みんなをまもるためのちから』
海・西園寺(CL3000241)
『望郷のミンネザング』
キリ・カーレント(CL3000547)
『慈悲の刃、葬送の剣』
アリア・セレスティ(CL3000222)
『水銀を伝えし者』
リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『ナニしてたんすか?』
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)



 王城のダンスホールはきらびやかに装飾され、多くの貴族たちが、イ・ラプセル王、エドワード・イ・ラプセルの誕生日を祝おうとお詰まってきている。
 自由騎士たちも呼ばれ、ノウブルと亜人たちが、同じ場所で笑い合う。
 ほんの二年前の差別撤廃前とは全く違うその風景にエドワードは微笑む。
 当時はぎこちなかった亜人たちもノウブルに混ざり今では当たり前のように笑っている。そうだ。こんな世界が見たくて自分は学び、画策し、ここまできた。
 世界のスタンダードは未だ、亜人差別がはびこっている。イ・ラプセルの国民とて、差別撤廃をよく思っていないものも少なくはない。
 それでも。
 世界を変革しなくてはならないのだ。
 白紙の未来を改変した、その後も――。
 
 ごくり、と息をのむ。
 練習は欠かしたことはない。以前演ったように、ソロでの演奏は音楽隊のリーダーに許可をもらった。
 ここには国王や国賓、共に戦う仲間、音楽隊のみんな。そして――守るべき全てがある。秋篠 モカ(CL3000531)は大切な相棒であるリラを指先で爪弾く。その瞬間、モカは一つの楽器となる。
 この演奏は、今後の誓いも込めた大切なもの。
 モカの手はとてもちいさい。それでもこの手で助けられるものだってあるのだ。
 だから戦う。精一杯で。その結果がきっとこの国の勝利に繋がるはずだから。モカだけじゃない。音楽で人を繋いでで皆でこの勝利に向かうのだ。
 陛下と目があった。陛下が頷いてくれた。だから、奏でることができる。もしリラの弦が切れたとしても、この想いだけは奏で続ける。
 演奏後に起こる大喝采。
 音楽隊のリーダーは笑顔でモカの背を叩いた。
 
「王様、誕生日おめでとうございます。気になる未来はもう一年後なんてあっというまですね。
 でも、きっとどうにかしてみせます」
 祝の言葉と未来への展望をかたるアリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)に、エドワードは礼をつげ、今日は可愛らしいね、とドレスを褒める。
「いややわ! そんな可愛いなんて! えらそなこと言うてしまいましたけど、うちも仲間もみんなつようなりました。
 未来はきっとかえることできるおもいます!」
 ぐっと両手を握りこみ、アリシアは思いを告げる。
「ああ、そうだね。そのとおりだ」
 きゅうううう。
 とアリシアのお腹がなる。
「あっ! えっと、これは」
 まっかになったアリシアにエドワードはあっちのテーブルのテリーヌは絶品だったよと耳打ちする。
「はい、いっぱい食べてもっとつよなります!」
 ぺこりとお辞儀してアリシアは教えられたテーブルにむかった。
 
 ティーヌと一緒にお祝いだ!
 央華大陸料理もいっぱい。
 ティーヌにも美味しい故郷のお料理をたべさせなきゃとカーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は張り切る。
 大好物のヌードルにチャーシュー、卵に、ねぎと大盛りトッピング!
「こんなにたべれない……かも」
 ティーヌ――クレマンティーヌ・イ・ラプセルの言葉に心配ないとカーミラはどんと胸をはる。残したぶんはたべてあげるからと。
 デザートの杏仁豆腐は王様にも食べて欲しいお味。杏仁の香りが高くてあまくてとろとろ!
 「王さま、おたんじょーびおめでとー!
 白紙の未来とかよく分かんないけどだいじょぶだよ! 私がいるもんね!
 白紙ってんなら好き勝手お絵描きしまくっちゃうよ!」
 やけにその言葉に王様はびっくりしていた。
「そのとおりだ。ほんとに君はびっくりさせてくれる。そうだね。白紙ならそこに描けばいい」
「うん、それまでティーヌはわたしが守るから安心してね!」
「うん、それは心強いね」
 
「今日は落ち着いて淑女のようだね」
 エドワードのそんな悪気のない言葉に祝の言葉をかけたデボラ・ディートヘルム(CL3000511)はいつもなら反論するところだが、ふふ、と笑う。
「それはそうでしょう、ここに今居ずともおしたいするお方がいるからです! ふふ。紳士で優しい方です! ……まあ年は離れてはいますが、それは愛でカバーです。まあ、父様は胃痛がひどくなったようですが」
「ディートヘルム卿に胃薬をおくっておくかな? いい胃薬があるんだ」
「とーこーろーで!
 陛下、私達に隠していることありませんか?」
 一本指をたてて、デボラはエドワードに詰め寄る。
「え? そんなことはないよ」
「根拠はないのですが、二年前。陛下が玉座についたときから妙に影がさしているというか。
 私はみんなでこの状況を乗り切りたいんです。それには陛下も一緒じゃないと嫌です。わがままですか?」
「……大丈夫だよ。隠し事はないよ」
「その間はなんですか? ……っ! 今使用人の声が聞こえたような……! そろそろ行きますね!」
 慌ただしく去っていくデボラの背にエドワードはホッとする。
 
「王様っ!誕生日おめでとうございます!
 大変なことも色々あったけど、なんとかここまでこれましたね!
 あともう一息! もうちょっとだけ頑張りましょう!」
 元気に腕をふりながらナバル・ジーロン(CL3000441)は挨拶する。
「ああ、元気だね。ナバル」
「でも、王様は戦い終わったあとのほうが大変なのかな? だって王様が世界で一番の王様になるんでしょう?」
 ナバルの言葉にエドワードはキョトンとする。
「ああ、そう、なるね」
「なんだ王様気づいてなかったのか! しかたないな!
 文化も考え方も全然違う人達を導いていかないとってほんと大変だと思います。
 オレ、お手伝いしますからね? 難しいことはわからないですけど、農業なら任せてください!」
「心強いね。ナバル。――そうだ、私にも農業を教えてほしい」
 エドワードの言葉にこんどはナバルがキョトンとする。
「なんだ、王様冗談もいえるんですね! 蠱毒が終わって、世界の滅亡回避後が本番って気持ちでがんばります!
 平和! 幸福! みんなの笑顔! そういうのをどんどん増やして! 
 戦いが終わったあとのオレたちの世界をよくしていきましょう!」
 ナバルは嬉しそうに未来を語る。それがエドワードにとっては嬉しくてしかたない。
「ああ、そのとおりだ。君のような者がいるからきっと世界はいいものになるとおもうよ」
 
 練習は王様の蒸気写真をみながら10回は繰り返した。
 へいかおたんじょうびおめでとうございますそしてこのたびのへるめりあせんえきのだいしょうりまことにしゅくちゃく。へいかのごいこうのたまものでございます。
 OKだ。エルシー・スカーレット(CL3000368)は貸し衣装のドレスを翻して、エドワードの元に向かう。
「へっへへへ陛下っ!自由騎士エルシーでぅっ!おおおお誕生日おおおめでとうございましゅっ!」
 一言目から噛んだ。
「ありがとう、エルシー」
 なれたものでエドワードはかみかみのエルシーに礼を告げる。
 アクアディーネ様の前ではこんなことにならないのに。これはきっと王族のオーラのせい?
 いや、そんなの口にしたら、女神さまに失礼にも程があるけど。
「このあと、時間はあるかい?」
「ふえっ?! はい!! 無限に!!」
「そんなにも時間はとらせないよ。レディ? よろしければ、ダンスのエスコート予約をしてもいいかな?」
 夕刻になれば、ダンスパーティが始まるのだ。
「ええええっ?! ええ?!」
 その後のエルシーはダンスの時間になるまで、緊張が続くことになる。大好きな麺類も食べたけど味なんて覚えていない。
 
「こ、国王陛下、お誕生日おめでとうございます。アクアディーネ様も、お元気そうで何よりです。」
 緊張しながらティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は国王と女神に深々とお辞儀する。
 教えてもらった貴人に対する挨拶はこれでいいのか不安になる。失礼はなかっただろうか。
 ふたりとも笑顔で礼を告げてくれたのだから大丈夫だとおもう。
「ええと、日頃から国と国民の為に心を砕いて頂き有難うございます。
 これからもよろしくお願い致しますっ!」
 それはティルダの心からの言葉だ。この国があったからこそ、ヨウセイは救われた。だからこのオラクルとしての力をふるおうと思う。
 挨拶のあとはもぐもぐたいむ。
 こんな美味しいものを食べれるようになったことは素直にうれしい。
 そういえば、と食べる手をティルダは止める。
 この宴はヘルメリアの祝勝会も兼ねている。勝ったのはもちろん嬉しい。
 うれしいけれど。
 あの国の王様は恋する少女だった。だいすきなひとのために頑張った女の子を殺してしまった。
 その咎はティルダの胸を蝕む。心が痛くなる。だから、だからこそ、ティルダはその事実をわすれてはならないと思う。
 
「王様! お誕生日おめでとうございますだぞ!」
 サシャ・プニコフ(CL3000122)はお皿に見事なおにくのおやまをつくって、エドワードに渡す。
「これは? 立派なおやまだね」
「だろう? いろいろなお肉の色合いにもこだわってグラデーションにしたのだぞ! すっごくきれいに詰めたので、
 王様にあげるんだぞ!」
 丹念に少しずつ積んでいったおにくたわーの見た目がきれいになったので、王様にみせたくなったのだ。
 うむ、さしゃてんさいなんだぞ!
 ゲイジュツテンの高いおにくのおやまの出来は最高だ。
「すごいね、いいのかい? サシャのおにくだろう?」
「サシャはおねえさんだからな! 我慢もできるこなんだぞ!」
「偉いね、そうだ、君の兄弟にも持って帰ってあげていいよ」
「ほんとうなのか? 王様はいい王様なんだぞ!」

 エドワードにお祝いの言葉を送ったセアラ・ラングフォード(CL3000634)は一生懸命可愛くラッピングした、クッキーを渡す。
 「あの、いただいたはちみつを、ねりこんだんです。美味しかったから王様にもぜひ」
「手作りなのかい? ありがとう」
 この場にお菓子だって一流の職人たちがつくった立派なものがあるし、自分のような素人のお菓子が受け取ってもらえるなんて思わなかったからセアラはドギマギしてしまう。でも、でも一生懸命作ったそれをわたしたかったのだ。
 セアラの精一杯のお礼だったから。
「あのあの!」
「なんだい?」
 セアラは口の中でもごもごとして、なんでも無いです! とかぶせた。
「ああ、そうなると……いいね」
 ……どうぞ、来年もエドワード陛下の誕生日のお祝いを申し上げさせてくださいませ……
 その言葉がきちんと伝わっていることに真っ赤になった。
 神の蠱毒がどういったものかはわからない。でもアレイスターがいっていたこと。難しくて全部は理解できなかったけど、でも大きなことだとはわかる。
 それが起きたら、女神は、優しい王様はどうなってしまうのだろう。
 よくわからないけれど、なにか嫌な予感がするのだ。だから王様は王様ですよね? と問いかける。
 その言葉にエドワードは頷いた。
 その瞳の奥に寂しそうなものがあったのがセアラには気になって仕方がない。
 
 コール・シュプレ(CL3000584)は発足時からの騎士ではない。
 でもいざ振り返ってみればその少ない時間でもたくさんのことを経験してたくさんの思い出がある。
 最初は貼り付けていただけの虚勢もいつのまにか本物に近づいているのかもしれない。
 もちろん戦うのは怖い。それを消すことはできないけれど、乗り越えてこの国を守りたいと思えるようになった。
 そう思って騎士としてこの場所に立つことができるのは陛下がかけてくれたあの言葉。
 「君の人生は君が主役だ」
 という心強い言葉があったから。
 この言葉は自分の中の宝物。最大の贈り物。だから。
「……お誕生日、おめでとうございます、陛下!」
 心からのお祝いを送る。
「ああ、コール。随分と自信がついたようだね。君は立派な騎士だ。」
 そんな言葉をもらってはにかんでしまう。
 今日は素晴らしい日だ。この先にどんな戦いが待っていても、絶対に乗り越えてみせる。
 だから今だけは。幸せに。

 
 残り一年。この一年が過ぎれば何が起こるかなどは自分にはわからない。
 しかし、女神は常に正しいからナイトオウル・アラウンド(CL3000395)はなにも不安はない。
 正しいものに従えば間違いなどおきないのだ。
 不安など抱くことがあるでしょうかいやない(反語)
 とはいえ、「最後」という言葉は重いもの。そこに一抹の寂しさを覚えない程にナイトオウルとて人の心をなくしてはいない。多分。
 ナイトオウルは女神が笑顔を浮かべこの場所にいることを目に焼き付けることに執心する。
 女神に捧げる聖業のためであれば、その結果セフィロトの海に溶けることも辞さない。が今は女神の姿を焼き付けておきたい。
「ああ、浅ましい私め!!!!!!!!!」
 感極まったナイトオウルの嘆きの叫び。
 うしろのほうでくろいやべーやつ包囲網ができあがりつつある。
 アイコンタクトが交わされがっしりとナイトオウルが羽交い締めにされる。
「あああああ! お許しください!! どうか連れていかないで!
 今日ばかりは最後かもしれないので! 最後かもしれないので!!」
 ナイトオウルの悲鳴に衛視たちは顔を見合わせため息をついてその場に留まる。でも羽交い締めだけはやめてもらえない。
 
 パーティ会場を守るはごーまんかましてよかですか、なボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)だ。
「精がでるな」
 そんな彼に声をかけるのは警備主任のフレデリック・ミハイロフだ。
 ジェスチャーで国防騎士に指示をおくり、ボルカスはフレデリックに向き直る。
「ええ、大事な日ですからね。とはいえ、楽しい場ですし、物々しくなりすぎないように、と課題は多いです」
「そうだな」
「ノイマン派は今はおとなしいものですね。2年前であればマザリモノに難癖つけていたというのに」
 ボルカスはノイマン派の貴族を見ながら小声で言う。
「そうは言ってやるな。彼らとて、イ・ラプセルにおいては重要な議員だ」
「まあ、とは言え今までの価値観を否定されるストレスは多いのは理解しています。それをこらえて、国のために尽くしてくれているのは私も思っております。
 兎にも角にも、平穏に終わってもらえば、御の字です」
「ああ、そのとおりだ」
 フレデリックが、部下から呼ばれ、去っていく。
 今時代は大きくうねりはじめている。後の歴史書にはこの時代のことは色濃く記されることだろう。
 もちろんそれも白紙の未来が回避されたら、であるが。
 こんな時代でも人々は幸せそうに笑う。ボルカスはその笑顔を絶やすわけにはいかないと思う。

 ドレスコードはばっちり。いつもどおり(?)にお淑やかなミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)はアクアディーネに上品にお辞儀する。
「ふふ、とってもきれいよミルトス」
「アクアディーネ様も麗しく。
 ――この二年、本当にいろいろありました。目が回るほどに。
 ここまでこれたこと、これからも歩めることに感謝を」
「ええ、私も感謝します」
「とはいえ、結末を変えれるかどうかはわかりませんけどね」
「いいえ、きっとあなた達なら変えることができます」
 ミルトスはまっすぐな瞳を向けられ少し面映ゆくなる。
「でもでも、ヒトは自分の意思で過程を運べることができると思うんです。それと、ひとつ思いついたことがあるんです。まあ努力目標なんですけど――」
「どんな目標ですか?」
 問いかける女神にミルトスは悪戯げな表情で笑う。
「――内緒です!」
 「それ」を自分が望んでいるかはわからないことだけど。でも。目標と口にすることで指針は決まるものだから。
 
「最近いかがですかな? 宰相殿」
 国王への挨拶を終えたテオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が、クラウス・フォン・プラテスに話かける。
「悪くはないが、節目ゆえ、仕事は増えているな」
「それは気苦労が絶えませんな。宰相殿も今日くらいはお休みください。
 陛下にとっても今は少しでも安らぐときであればいいのですが」
 苦笑しながらテオドールは祝辞を受けているエドワードを眺め、ところで、と話を切り出す。
「宰相殿、お耳には入っているとは思いますが妻が身籠っておりまして。少女と思ってはいましたが、女性とは恐ろしい。日々慈愛に満ちた母の顔になって行く姿は――」
「その惚気は長くなるのかね?」
「いやはや、そのつもりはありませんでしたが漸くの継嗣ですからね。多少はご容赦ください」
「あの、石巌公と呼ばれていた君がこんなに目尻が下がっていることなど見ることはまれだろうな」
「して、お願いがございます。我が子は8月には生まれます。この素晴らしい出会いは宰相殿の紹介もあっての話ですし、ぜひ名付け親になっていただきたく」
「皮肉も通じないとは。――男子であれば、ティエリー、女子であればシャルロット、なんていかがかな?」
「ふむ、ありがとうございます」
 胸元から手帳を取り出したテオドールはもらった名前を書き込む。手帳にはいくつも名前をかいては消した跡が無数にあった。
 全く、とクラウスはそんなテオドールにたいして笑みを浮かべた。
 
「あ、おサボりみつけちゃった!」
 クラウディア・フォン・プラテスが、こっそりつまみ食いをしていたジャム・レッティング(CL3000612)に声をかけた。
「わわ、これはまずいところを見つかってしまったっすね」
 ばつの悪そうなジャムにクラウディアが、でもお料理はおいしいよねといえばそのとおりっすと返して笑う。とはいえ、ジャムが何気なく警備をしていることはクラウディアにもわかっているからこその軽口。息抜きくらいは問題ない。
「戦勝会っすか」
「戦勝会だね」
 昔のままの彼女であれば、ごく単純に楽しめただろう。しかし今は貴族たちが抱える派閥の利権の責任の手柄の戦争の後先の……様々なものが見えてくるのだ。
「余計なものまで見えるってのは、なんとも」
「そうだね」
 クラウディアもまた、貴族の一人だ。否応もなく巻き込まれてしまう派閥に思うことがあるのだろう。
「大変っすね」
「大変っすよ」
 クラウディアがジャムの口調を真似する。
「シンプルでわかりやすい勧善懲悪が懐かしいっす。そんなもの何処にもないですけどね。他の国だって他の国の正義があって戦ってるわけっすし」
「うん、そうだよ」
 それは演算士であるクラウディアには痛いほどわかる話だ。だれも敵国が憎くて戦っているものだけではないことを情報として得てしまうのだ。
 境遇に同情することなんていくらでもある。それが良くないとわかっていても、心を裏切ることはできない。
「とはいえ、滅びたいわけでもなく。この国に愛着も思い入れもあるわけですし、やれることをやるだけっす」
「いつも任せちゃってごめんね」
「いつも情報ありがとっす」
 演算士と自由騎士。戦う方法は違えど最前線にいる者たちだ。想いは重なる。
「やあ、まったくもって、因果っすねぇ?」
 
「リサ殿! 飯! 食う! はよ!」
 大きなプレートに山盛りで、ムサシマル・ハセ倉はリサ・スターリング(CL3000343)を呼ぶ。
「まってよ! ムサシマル。こっちのお肉盛り付けてる最中だもん」
 今日も仲良しの二人はフードバトルだ。
 あと1年で帝国ヴィスマルクと管理国家パノプティコンを倒さなきゃいけない。
 双方とも強大な力を持つ国だ。もっと頑張らないと倒せないことくらいわかる。大丈夫なのかってずっと思っている。
 ぱん、とリサは両方のほっぺを叩く。うじうじなやんでいてもしかたない。
「どうしたでござるか? 突然気合をいれて! 拙者にかなうとでもおもっているのでござるかぁ?」
「もちろん。まずはムサシマルをやっつけないとヴィスマルクもパノプティコンもたおせないしね!」
「おうおう、言うでござるな! このリサシマル!!」
「ちょ! 勝手に名前かえないでよ! ムサ!」
 二人は顔を見合わせて笑う。
 こんな時間がリサが好きだ。負けてしまえばこんな時間もなくなる。だからみんながこんな風に笑ってご飯をたべれるように頑張るだけだ。
 明日はなにが起こるかわからない。だからいっぱい思い出を作ろう。
 
「三角形はなぜ三角形かわかるか?」
 非時香・ツボミ(CL3000086)はアーウィン・エピに突然そんな質問を投げかける。
「あ? 3つ角があるからだろう? 知ってるか? その角の角度を全部足したら270度になるんだぞ!」
 訝しげでもまずは考え、答える。こんな糞みたいな問題にも正しい答えを考えて返そうとするのがヒトだ。
 正しさをもとめ、相手や場所を慮り、必要なだけ口を塞ぎ不要を我慢する。賢明で道徳的で馬鹿その物だ。
「ちなみに内角の和は180度だからな」
「ぐ、くそ」
「散々普段間違えてばかりなのに、なぜ自分から間違いをおかせんのだろうな」
「そこまで言わんでもいいだろうが」
「ああ、すまん、自分のことだ」
 恨みがましいアーウィンの目をみてニヤリと笑う。笑って問いかける。
「なあ、だが貴様もそうだろう?」
「は?」
「ヴィスマルクがそろそろ射程内だ」
「ああ」
「ヴィスマルクに攻め込みたくはないか? チビどもがまっているのだろう?」
「……そうだ。だが、みんなが決めた方針に従う」
「それが貴様の正解か? なぜ自分の思いをろくすっぽ主張せんのだ」
「それは間違ってる。俺の我なんて、個人的なものだ」
「おうおう、随分と賢くなったな。それは正しい、間違いではない、まあここで我を示すほうがおかしいしな
 でもな、私はこう言うぞ。何か言えよ。
 なんでもいいからさ」
「なにがいいたいんだよ」
「お前の言葉が聞きたい」
「アイツラを助けにいきたい。それはずっと思っている、だけどな。同じくらいこの国のみんなも、センセも大事なんだ。
 焦って全部台無しになったらどうするんだよ! そんなの絶対に嫌だ。」
「そうか」
 言ってツボミは踵を返して、満足そうに去っていく。間違えることは、おかしくなることは、踏み外すことは。良くないと思うものがほとんどだろう。しかし、そこに想いがあるのら、それでいいと思う。
「おい、結局何がいいたかったんだ!」
 アーウィンは怒鳴るがツボミは答えない。

「どうした? 大声を出して。またツボミになにかいわれたのか?」
「いつものアレだ。酔っ払ってからかわれただけだろ。何処を攻めたいって俺の一存で決まるわけないだろう」
 プリプリと怒るアーウィンに声をかけるのはグローリア・アンヘル(CL3000214)だ。
「ヘルメリアを倒して次はパノプティコンかヴィスマルクか――
 ああいや、そんな顔をするな。他意はない」
 眉根をしかめたアーウィンに対してグローリアは焦る。そんな顔をさせたかったわけではない。しかしそうやってわかりやすいところが彼が真面目で愚直たる所以だ。それは好ましいし、それによってグローリア本人も救われた部分はある。こんなふうに変われたのは目の前の男のおかげだと思っている。
 彼の心は今なおそこに咎として繋がれたままだ。
 罪悪感。癒えない傷。そういったマイナスさえも、包み込んで飲み込むから、開放してあげたい。そう思う心は。どこからくるのだろうか。
 それを分類するのであればきっと「恋心」に近いのだろうか? 多分、きっと、おそらく、なんていう推量の言葉がたくさんついてしまうけど。
「まあ、とにかく! 飲め。グラス寄越せ。勝利の美酒に酔え。それは、戦勝国の義務だ。敗国の健闘を讃えろ。それにおまえ、たまには羽目外してもいいと思うぞ?」
 びっくりするほどの早口でまくし立てればアーウィンが吹き出して、グラスを寄越してくる。
「大真面目なグローリアが酔ったらどうなるか見てみたいものだぜ。女の子らしくしおらしくなったりしてな」
「お前! よしわかった酔わす。後ろ暗いこと考える余裕もないくらいに酔わす。むしろべろべろ酔って泣き言を吐き出してしまえ」
 なし崩しに始まった勝負は存外簡単すぎるほどにグローリアに軍配があがる。
 びーびー泣き出したアーウィンの泣き上戸にはいはいと答えながら二人で酒を飲む。
 それはグローリアにとって思った以上に楽しいことだった。情けないなどとは思わない、むしろ包み込んで上げたいとも思う。それはもう恋心か母性なのかはっきりしないけれど、でも。
 泣き顔が思った以上に可愛いと思ったのはそういうのとはなにか違う感情だったのかもしれない。 
 
「ムサシマルちゃんがちゃんと仕事してないかもしれないのが不安だけど……」
 アリア・セレスティ(CL3000222)はため息をつく。話によると、ティーヌについていると聞いたのだけど、案の定フードバトルなんかしているのを見た。だから、自分の予定をティーヌの警備に切り替える。ちゃんと前例はあるし、ほかの自由騎士たちも街の警備にいくことを聞いている。
 できる限り王族への警備は盤石にしたいのもある。
「良くも悪くも、うちの国はオープンだし、エドワード様が他国のハイオラクルたちみたいに物凄く強いってこともな……ん? ないの?」
 アリアに疑問符が浮かぶ。シャンバラでもヘルメリアでもハイオラクルである国王は当たり前のように戦うことができた。言われてみれば、エドワード様が戦うところをみたことがない。
「ねえ、ティーヌやエドワード様って実はすっごい強かったりする?」
 なんて冗談交じりに王女様に問いかけてみる。まあ興味本位だったりするわけだけど。
「えっと……私もお兄様も一般的な護身術は習ってはいるけれど……それほど強くないと思います。ごめんなさい」
 茉莉花の髪飾りを揺らしながらティーヌがしょんぼりと答える。
「ああっ、えっと違うの、責めてるわけじゃないの! お二人が強くても強くなくても ちゃんと私達が守るから、問題ないよ」
「まあ……!」
 アリアが慌てて弁解する。そのとおりだ。たとえ王様やティーヌが強かろうとも、守ると決めた。だから問題はない。それほど強くないのであれば守り方も変わってくる。それだけの話だ。
「アリア、これからもよろしくお願いしますね」
「もちろん! そうだ、私ね、最近犬を飼い始めたの。マイラっていうんだけど。今度見せにくるね。流石にここには連れてこれなかったから」
「わあ、楽しみにしています!」

 はあ。
 ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は壁際で、観察しながらため息をつく。
「まつりの場には合わない顔ね」
 ドレス姿のバーバラ・キュプカーが憂い顔の紳士に声をかける。
 ライモンドはあからさまに不機嫌に舌打ちをする。
「あらあら、怖いこと。ウィンリーフ様は」
「亜人共に紛れての食事はどうにも味が悪い」
「ああ、あっち派だったかしら?」
 不機嫌なライモンドに臆するような様子もなくバーバラは羽耳を揺らす。
「あの様が喜ばしいと思うのか?」
「ええ、思うわ」
「俺は思わない。陛下の御前であるからああいった穏和な空気が流れているだけだ。
 ノウブルは貴様ら亜人と同じ位置で話すことを是と思ってるものはすくないぞ」
「二年もこの光景をみててまだ諦めついてないの?」
「亜人にはノウブルには持ち得ぬものがある。空を飛べる、動物と話せる、水中で呼吸ができる。
 逆にノウブルが亜人には持ち得ぬものを求めて何がおかしい? それが身分という差別だ。道理ではないか、それこそ公平ではないか」
「難しいことを言うのね。よくわからないわ。差別は無いほうがいいもの」
「ああ、構わんよ、貴様ら亜人に理解されようとはおもっていないからな」
 ライモンドは差し出されたグラスを受け取らずに踵を返して、何処かにむかっていった。
 
「団長」
 アダム・クランプトン(CL3000185)がパーティ会場で警備するフレデリックに声をかける。
「アダムか。どうした、そんな深刻なかおをして」
 フレデリックに促され、アダムは口を開く。
「僕は、蠱毒を終え、白紙の未来を回避したら国を出ようと思います」
「突然だな」
「少し前から考えていました。この国には頼れる仲間が沢山います。だから――。
 外の世界で困っている人々を救う旅がしたいんです」
 たとえ、世界が一つになっても、弱者は存在するだろう。そんな弱者を守りたいとアダムは強く思う。
「あの星降る夜、団長と話した後でさえ、完全に正しいものがあると信じてたのに、それは見つかりませんでした。
 それでも見つけたものがありました。
 ヒト同士が争うのは間違っている。
 けど、その双方に譲れないなにかがあって、それを守るために戦うのだと知りました。
 だから、僕も譲れない信念のために戦うと決めました。違うものを守る相手に恥じないように。
 僕の信念はすべてを守り救うこと。
 まあ、我ながら呆れた信念とは思いますが――」
 フレデリックの手がアダムの肩に置かれる。
「団長?」
「大人の顔になったな、アダム」
「はい! 成人になりましたからね!」
「そういうことではないが――。お前の信念はいい信念だ」
 ともすれば傲慢で強欲なそれにフレデリックは肯定してくれる。それがアダムは嬉しかった。
「よし、今度飲みに連れて行ってやる」
「はい!! たくさん飲み食いしますよ! まずはエール、ってやつですね。 ふふ、大人になった僕は悪い男になりますよ……いたっ」
 どや顔のアダムの額を苦笑しながらフレデリックは指先で弾く。
「調子に乗りすぎだ」
「ひどいですよ! 団長!」

 和やかなパーティってのは嫌いではないが、上品過ぎて肌には合わない。
 どこかの酒場で飲むほうがさっぱりしていい。
 アン・J・ハインケル(CL3000015)は警備と称してまちなかを歩く。喧嘩はまつりの花だ。
 そんなのがあれば飛び込んでいくためにキョロキョロしていると慌てた様子でヨアヒム・マイヤーが走ってくる。
 何だと声をかければちょっとした喧嘩が始まって仲裁してくれるものを探していたという。
「あんたがとめないのかい?」
「冗談はよしてくれよ。俺は女の子のハートを撃ち抜いても、男同士の争いには無力なのさ」
「全くなさけないねえ、それでも男かよ!
 で、どこだ?」
「お、仲裁してくれるの?」
「いいや、そんな楽しそうなこと混ざりにいくにきまってるだろう?」
「うえええ」
 ヨアヒムは更に発展して大喧嘩になってしまったそれを収める人材を探すためにまた走り回る羽目になったのだった。
 
 城下町を歩くは海・西園寺(CL3000241)。
 本当はティーヌに会いたかったけれど。警備をするときめたのは海自身。なぜかと問われればかんたんなことだ。
 海はティーヌを守ることのできる、ティーヌのお友達になりたいからだ。
 海はティーヌと友達になりたくて、それをティーヌが叶えてくれて、友達になれた。それで満足のはずだった。
 けれど自分が思う以上に海は欲が深かった。
 ただの友達ではいやなのだ。
 ちゃんと、騎士としてお姫様を守れる自分になりたかった。
 折しも今日は王様の誕生日と祝勝会が重なっている、こんな素晴らしい日だからこそ、町中は荒れるかもしれないのだ。
 ティーヌと、ティーヌの周り、そしてこの国を守ることが、自分の役割と思う。
 ティーヌは戦うことはできない。
 だから代わりに海が戦う。そして守る。
「大切な人は守りたい」
 大好きな、大好きな。西園寺の友達。彼女が自分に向かって笑顔でいてくれることがどれほど海にとって幸せで嬉しいことなのかを彼女は知っているのだろうか?
「西園寺は、貴女に心から頼られる存在になるのです」
 
 にゃあにゃあ。
 警備中のメーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)はボス猫に街の状況を尋ねる。
 案の定トラブルがおきて、お調子者のガンナーが走り回っていると聞いた。多分ヨアヒムさんのことだと当てがついて、その場所をメーメーは聞き出す。
「ほんとにしかたないなあ~。
 ほんとはお昼寝したかったんだけど~。今日はいつもより眠くないから、出動だぁ~」
 のんびりとした口調でメーメーがえいえいおーと腕を上げる。
 3回目の出動だ。お祭りで気分が高揚すると喧嘩もおきるもの。
 こんなに効率がいい理由はメーメーの特別な情報網のお影。
 いつも挨拶をするボス猫のネットワークは思いの外広い。情報も早い。
「じゃあ、いってくるね。ボス~。また困ったことがあれば、僕におまかせあれ~~。ふははは……。 ふわぁ〜ぁ……」
 眠そうにとろんとした瞳を輝かせてめーめーは走り出す。
 ちなみに大げんかの仲裁はのんびり口調のメーメーに毒気を抜かれて、そうそうに叶った。
「へいわがいちばんだね~。ね~、ボス~」
 そんなのんびり屋の言葉に、ボス猫はにゃあと返事した。
 
「たまにはこんなキラキラの街もいいでしょう?」
 たまき 聖流(CL3000283)はいつもは部屋にこもっているアンセム・フィンディングを夜の街に連れ出す。
「ぼくみたいないんきゃがこんなとこにいてはだめ、ああ、……まぶしい……」
 アンセムは半分泣きそうな顔で引っ張られるままだ。多分嫌がってはいない、とは思う。
 冷たい夜の暗さにガス灯や、家から漏れる温かい光がすこしでも芸術家である彼のモチベーションとか創作意欲を刺激できたらいいと思って。
 肩にかけたブランケットはお揃いなのは気づいているだろうか?
「寒かったらいってくださいね。温かいスープも用意してますし、なんなら食べ物も屋台で……」
「暗いの怖くないの? 女の子なのに……」
「あ、えっと、アンセムさんがいますし、怖くないわけじゃないですけど
 しんとした空気は創作するのにはとてもいい時間だと……思います。夜ふかしのしすぎは、だめですけどね」
「ふうん。」
「寒さはだいじょうぶです? だいぶ暖かくはなりましたがまだ夜は冷えますし。あかり、大丈夫、でしょうか……?」
「たまきは、しんぱい、しすぎ……ふあ。もうかんねんしたよ」
 目をこしこしとこすりながら、アンセムがいえば、たまきはくすりと笑う。
「あれ、りんごあめ。かってあげる……。おんなのこはすきって、本にかいてあった。ようきゃてきなえすこーと……」
「ふふ、はい、ありがとうございます。アンセムさんのエスコートお受けしますね」
 ふたりで赤いりんごあめをかじりながらきらきらの夜を歩く。それがたまきにはとても楽しいことに思えた。
「あ、ところでアンセムさんの絵はいつ頃完成するのですか?」
「う……あといっしゅうかん……いやいっかげつ……いつもより大作だから」
「ふふ、楽しみに、してますね」
「う、うう……」

「アレイスターー!! でてこーい!」
 クイニィー・アルジェント(CL3000178)が、町外れで叫ぶ。
「全くどいつもこいつも僕をベルボーイかなにかと思ってないかい?」
「ボーイなんて年じゃないくせに」
 クイニィーはくるりと振り返ればアレイスター・クローリーの姿がある。クイニィーは笑顔になり、大きなカバンから水筒を取り出す。
「はい、アレイスターって紅茶とかよりはお酒派でしょ?」
「蒸気王の紅茶は好きだぜ?」
「他の女の名前だすとこほんとムカつくよね! もう! 紅茶のリキュール。ヘルメリアの美味しい紅茶くすねてきてつくったの」
「ほんと君手癖わるいよね。いただくけどさ」
 近くの塀に腰掛けてクイニィーはいそいそとお茶(お酒だが)の用意をする。
「ヘルメスってさ、かっこいいなあっておもったけど、最後はいまいちだったな~。詰めが甘いっていうかさ」
「ああ、神殺しおめでとう」
「君はどう? 詰めは抜かりなく詰んでる?」
「ああ、おかげさまで」
「あのね、アレイスター」
「なんだい? クイニィー・アルジェント」
「あたしはねえ、世界の裏側を垣間見た君に近づきたい。知りたい。だから君に憧れて君が好きだ!」
 そんなクイニィーの真っ直ぐな言葉にアレイスターは眩しいものでも見るような顔になる。
「だから、腑分けさせてよぉ」
「いつでも構わないと言ってるだろ? 僕の心臓はここだって」
 クローリーは自分の胸元をさす。
 彼は恒常性と言っただろうか。損傷しても元の状態に戻るその不死性を。
「そういうのじゃないんだよねえ。だってそれ、あたしが小瓶に君の血を詰め込んでも戻っちゃうってことでしょ? 空っぽに」
「御名答」
 それじゃ、彼を得ることはできない。
「まあいいや、やっぱあたしは君が一番だ! この気持ちはきっと恋じゃない? あたしは君に恋してるんだ!」
「君サイコパスはいってるだろ?」
「ひっどーい! 告白なんだからね」
 クローリーはぷんすかするクイニィーの頭をその大きな手でぽんぽんと叩く。
「子供扱いしないでよね!」
 なんて怒って見上げれば、そこには最初からだれもいなかったようにクイニィー一人。
「逃げるなー!!」

 壊れた懐中時計を懐に。
 アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)は当て所もなく街を歩く。
 心がもやもやしたままではまつりをたのしめない。とりあえず祭りの空気を吸えばどうにかかわると思ったけれどうまくはいかないようだ。
 用水路を囲む煉瓦に腰をかける。
 ここは自分の研究結果を発揮した新しい用水路の一つだ。流れる水は想定通りに流れていく。
 ――ものは唐突に壊れる。たとえそれが失えば取り返しのつかないものだとしても同じだ。
 煉瓦をなでる。愛情を注いだ研究結果のこの水路だって容赦なく元の姿を失うかもしれない。
 物事は変化する。パンタレイ。万物は流転する。一度流れた水路の水はもう二度と戻らない。この水路を使っても誰一人として同じ水をすくうことは不可能だ。
 そういうものだとはわかっている。だけれども――望まぬ形であれば納得はできないものだ。
 神の蠱毒。それがなにかはボクにはわからない。
 どのような結末を迎えてもきっと何かしらの後悔を抱くことになるだろう。それが怖いのだろうか?
 わからない。
 だけど、だからこそ、ボクはボクの思う何かを叶えたい。
 アクアリスはそう、強く思う。

 王様にお祝いをしてきたルエ・アイドクレース(CL3000673)は街を歩く。
 女神の呼び方は好きにしていいということだったので、名前で呼ぶことにした。
 なんともフランクなお二人だったなと思う。
 ふわりと、甘いような香ばしいような、ソースの香りが漂ってくる。
 屋台のソースヌードルの香りだ。そういえば、あの宮廷魔術師とか名乗った男が好きだと言っていたことを思い出す。
 なんとなくルエも食べたくなって、行列にならぶ。同じように匂いに釣られた人々の群れ。
「あ」
「あ」
 噂をすればなんとやらといったものか(声にはだしてないが)その当人が同じ行列にならんでいる。というか、アレイスター・クローリーが普通に屋台に並んでいることに違和感しか覚えないが、ルエはそのまま話しかける。
「ほんとにすきなんだな、ソースヌードル」
「ああ、ここのはわりとスパイスがきいてて、美味しいよ」
「ふうん」
 よくわからないうちに、この道化師とベンチに並んですわってソースヌードルをすする。
 ルエにはこの道化師が自分のことを呪いだのなんだのと悪くいうことが気になっていた。
 自分の何倍も長く生きているらしい彼はその時間ずっとそう思ってきたのだろう。それはどれほどしんどいことなのかはルエには見当がつかない。
 でも、だからといって楽しんではいけないとは思わない。
 だから――。
「暇なら、他にも食いにいかないか?」
 と誘ってみる。立場としては敵だとはおもうけど。まあどうでもいい。
「君酒はいける口かい?」
「まあ、それなりに」
「じゃあ、おねえちゃんのいるお酒のお店にいこうぜ!」
「お、おい、まて!」
 
 民の心を知るには食文化から。変装したクレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)は買い食いの真っ最中だ。
 警備のサボりというなかれ。民草の心は食にあり。これは調査なのだ。
 庶民の食べ物があまりにも美味しそうで魔が差したなんて内緒だ。
 チープだけど濃い味付けは刺激的で、クレヴァニールは舌鼓をうつ。
 そんなクレヴァニールの耳に喧騒が聞こえる。どうやら値切りの最中に喧嘩に発展したらしい。
「君たち、やめたまえ。双方の話を聞こう」
 威厳のある口調で話しかければ、自由騎士のクレヴァニール様だとすぐにバレてしまう。
「おっと?」
 いつの間にやら鼻の下の付け髭が顎にずれていたらしい。
「おや、変装が解けかけてしまいましたか……この事はご内密にお願いしますよ? それはそうと今回は大目にに見ましょう……羽目を外し過ぎないように楽しんで下さいね」
 
 
 マグノリア・ホワイト(CL3000242)は今ごろみんなはパーティの最中だろうなと、ベッドの上でぼんやりする。
 彼女に聞きたいことがあったけど、眠気のほうが強い。
 でもだめだ。
 仮眠する前にたいせつなプランターの元にまで如雨露片手にのろのろとたどり着く。
 プランターの土に染み込ませるようにそっと水をかける。
 彼女と交換した白い花の種の芽はまだ出てはいないけど。きっときれいな花が咲くはずだ。それが楽しみでならない。
 きらり、と陽光に青い光が反射する。
 指先で宝石をつまみ上げてじっと眺める。
 ――ヒトの心、自身のなかみ。
 少しずつそれがわかるようになった。そうしたら、辛いことが増えた、悲しいことも増えた。
 自分は昔に比べて弱くなった。
 知った気でいるだけかもしれないけど。
 こころというものを食べていく。それは少し語弊があるが自分の中にしまい込むのであれば意味合いは間違いない。
 この数年でたくさんのこころをたべた。でもたりない。
 これじゃ、『彼』には届かない。
 このままじゃ、「彼女」も「彼」も「自分」も真っ白になって、なくなってしまう。
 だから食べないと――。まるでそれを咎めるかのように宝石がきらめいた。
 ――そうだね。でも今は、お腹いっぱいだから。如雨露を置いて。
 ぽふんとベッド寝転ぶ。ねころぶ、ねこ。猫。「彼」の髪も猫みたいに柔らかいのかな? そんな益体もないことを考えて、マグノリアは微睡む。
 
 ごろん、とキリ・カーレント(CL3000547)は丘の広場で寝転ぶ。
 春の風がキリを撫でる。なんて気持ちのいい午後だろう。
 友達や仲間とお祭りを楽しめたらきっときっと楽しい。だから――。
 落ち着かなくてはいけない。
 こんな素敵な日に、復讐の炎を燃やしこんな笑いをしてしまう今のキリの顔は誰にも見せることはできない。
 アレイスターが教えてくれた。
 インディオがキリの故郷のことをしっているかもしれないと。
 今まで探しても探しても得ることができなかったその情報は値千金。
 たったひとつの手がかり。
 期待しすぎるのはよくない。違ったら失望するしかない。
 だから頭を冷やす。
 ふふ。
 でも嗤いが漏れる。ふふ、ふふ。ふふ。
 だめだってば。
 ふふ、ふふふふふ。
 だって、愉しみなんだもの。
 キリの村を。プレールを焼いた奴を殺せる日が近いのだから。
 早く。はやくはやくはやく、はやく、あいたいなあ。
 あって、
 はやく。
 はやく。
 はやく。ねえ。
 
 
 
 コロシタイナア。
 
 祝いの気持ちは外でも伝わるさと、リュリュ・ロジェ(CL3000117)はアデレードの下町の屋台を歩いて回る。
 そもパーティの食事は量が多い。それは良いことだがいつぞやのように皿いっぱいに山盛りに料理を盛られても食べ切れないのだ。
「さてと」
 何があるかなと見渡す。通りいっぱいに様々な屋台が並ぶ目抜き通りだ。何かを口にしようと思うがピンとこない。
 しかして腹は減る。
「アランチーニなんていかが? チュロスも捨てがたいけど」
 後ろからかけられた声に振り返ればミズーリ・メイヴェンだ。
 たしか通商連から来た彼女のテリトリーはアデレードだったか。
「パーティーには参加しないのか?」
「今日はカシミロ議長がきているから、わたしはこっちに。今はお昼の休憩中よ。悩んでいるみたいだったからおすすめをあげてみたのだけど余計なお世話だった?」
「ああ、いや、助かる。その、アランチーニだったか? それはどんなものだ?」
「ライスコロッケ、って言ったほうが伝わりやすいかしら、あの屋台のアランチーニの中には刻んだポルチーニがはいっているのよ、あるきながら小腹をみたすのにはいいかと思って」
 リュリュはミズーリが買ってきたアランチーニを口の中にほおりこむ。ふわりと広がるパルミジャーノとポルチーニの香りが心地良い。少し固めに炊き上げられたリゾットを包むカラッとあげた一口サイズのアランチーニは思った以上に美味しい。トマトソースがよく合う。
「なるほど、うん」
「少食のリュリュ君にも美味しくいただけるでしょ? でももっと食べないとだめよ。ガリガリだし」
「……煩い、君は母親か!」
「リュリュ君みたいな偏食しそうな子はたいへんそうよね」
 クスクス笑う少し年上の女にリュリュはバツの悪い顔をするのだった。
 
 とある療養所にて。
 敵国兵であった女が目を覚ましたと自由騎士に報告が届く。
「こんにちは、ステラ、ちゃんとお話するのは、初めてね」
 アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が、片腕をなくし、ベッドに横たわる女――ステラ・モラルに話しかける。
「貴方は?」
「えっと、貴方のお父さんの同僚、かしら? アンネリーザよ。目が覚めたと聞いて安心したわ」
 ステラの問いかけにアンネリーザが答える。
 その後ろではノーヴェ・キャトル(CL3000638)が心配そうに覗き込んでいる。未だここにたどり着かない兄弟にそわそわとする。
 (……ニコラス、に……おそく、なった、ら……分からない……に、なる……。
分からない……に、なった、ら……。ステラに、会えない……)
 その当の本人であるセーイ・キャトル(CL3000639)はテレパスで見舞いのリーダーであるニコラス・モラル(CL3000453)に連絡はつけているのでそのうち到着するだろう。
 セーイ自身はステラとは初対面になる。故にいきなり大勢で押しかけてはいけない、何度も押しかけてはいけないとノーヴェに言ったものの、聞く耳を持たずにニコラスについていったのだ。
 しかたないと、セーイはお見舞いの白い花束を用意する。
 もうすこしでつくからと、ノーヴェにもテレパスが届き、ノーヴェは安堵した表情を浮かべた。
「ところでパスタはいかがですか?! 体力をつけるなら小麦です!」
 アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が両手の皿にいっぱいのパスタを持って現れれば、ステラは目を白黒させる。
「エネルギーのもと! すなわち小麦! カロリーです!
 食事は生きるための大事な活動ですからね!」
 ぐいぐいとパスタ推しのアンジェリカの肩をたたいてニコラスが止める。
「流石におきたばっかでパスタはきっついだろ。まあ、騒がしくてすまんな。その、元気――ではないか。大丈夫、でもなさそうだな。とにかく起きてよかった」
 首元を確認しながらニコラスは落ち着かない顔で声をかけた。
「お父さん……」
 父と呼ばれたことにニコラスは安堵を覚える。そうだ、自分は愛娘の父のままでいいのだ。気まずい空気が流れる。当然だ。父は娘の愛するものを、愛する国を、愛する神を屠った。
 その事実はどうしてもかわらない。
「あのね、あなたのことをおしえてください! 
 どんなことでもいいの。ヘルメリアのこと、好きな人のこと、すきな食べ物。なんならお父さんの愚痴だっていいわ。
 えっと、あなたとお友達になりたくて!」
 気まずい空気を壊すようにアンネリーザが口をはさめば、ステラは笑って咳き込む。
「おい!! ステラ」
「大丈夫? ステラ!」
「「あたたかい」じゃなくなった?」
 三人が心配してステラを覗き込む。
「ごめんなさい。笑って。大丈夫、まだ本調子ではないから……この国の人って変な人ばっかりね……こんな私に良くしてくれて」
「こんな、じゃねえよ、俺の愛娘だ」
 ぶすっとした顔でニコラスがつぶやく。
「ありがとうございます。助けてくださって。まだいろいろ飲み込めてないけれど。お父さんがネッド様を殺したことはやっぱり許せない。けれど――」
「……死を覚悟しない戦場なんてない。戦場にでたということはそういうことだ。言い訳はしない」
「でも、お父さんは約束を守ってくれたから――。今はうまくいえないけれど、感謝しているわ」
「そんなの当然だ」
 会話が止まる。お互い消化するには大きすぎる問題だ。でもきっとそれは時間が解決してくれるだろう。
 ややあって、セーイも合流し、ステラにノーヴェの分もあわせて自己紹介をする。ノーヴェもセーイを紹介するのだが、どうにも要領を得ることができずにフォローしたというのが真相ではあるのだが。
「これ、初対面記念のプレゼントです」
 真ん中にくまのぬいぐるみをあしらった花束を渡せば、割り込むようにノーヴェもまた星の髪飾りを渡す。そんな兄弟の様子がおかしかったのかステラが微笑んだ。
 その、あなたってほんとに美人だったのね……」
 アンネリーザが初めてみたステラの笑顔をみて思わずつぶやく。
「ステラ……「あったかい」、おかお……?」
「そんなこと……」
「そんなことあるのよ! あーーー、ステラに似合う帽子、仕立てたいっ!! いいえ、仕立てます! 仕立てるわ! こんな美人をみたから創作意欲がわいてくるというか」
「そりゃあ、おじさんの娘ですから」
「ニコラスは黙ってて、まずはこのスカーフ、つけてみて。似合う色を選んだつもりよ」
「ありがとう、えっと。じゃあ、お願いしてもいいかしら? アンネリーザ。代金はお父さんもちで」
「はいはい、娘のワガママくらいは答えますよ」
「ええ、もちろんよ、ステラ。好きなモチーフとかある?」
「だから、また、会いに来てね、アンネリーザ。ノーヴェとセーイ、それとそこの狐の方も」
「あれ? お父さんは?」
「さあ、しらないわ」
「冷たいっ! 娘が冷たいっ!」
 
「おい、なんかきたぞ」
 13番がカシミロ・ルンベックの服の裾をひく。
「あのね?あのねー?
 ナナン、カシミロちゃんと13番ちゃんに何個かね?
 質問とか、こういうのってどうかなぁ?? っていう事があるんだけど……いいかなぁ??」
 ナナン・皐月(CL3000240)だ。
「はいはい、なんでございましょう」
「いや。きかない」
「ぬーちゃん、きいてあげましょう」
「あのね、カジノの景品の種類を増やしたらいいかも! そしたら
 もっともっと、カシミロちゃんと13番ちゃんがホクホク??になってぇ……
 ナナンも嬉しいなぁ!」
「なるほど、なるほど、考えておきましょう」
「あと、人を品物にしたらどうかなあ?」
「人身売買はさすがに、わが通商連でも表向きは禁止しておりますぞ」
「ちがうよ~! えんたーてぃめんとをしてるひとたちの写真とか、グッズ販売とかできないのかなあ?」
「ふむふむ?」
「あいどるぐるーぷとかつくったりとかして~」
「ふふふ、私のあいどるはぬーちゃんがいますからね。ぬーちゃんの写真やグッズは私だけのものにしておきたいので」
「うわ、きも。ぱぱさいてー」
「ナナンもアイドルユニットみつまめで参戦できるのだ~」
「ええ、ええそれは素晴らしい~ことですね~。すぐにはお返事はできませんが考えておきましょう」

 アデレードのトラットリアで食事をするのは蔡 狼華(CL3000451)と雪・鈴(CL3000447)と瑠璃彦 水月(CL3000449)の三人。
 アデレード名物の海鮮パエリアに舌鼓をうつ。
「ほら彦、ふーふーせんと。猫舌なんやろ? ちゃんと貝殻はまとめておいて、雪にはよそったるよって、あせらんでもよろし」
 最初こそは二周年がどうの、ほんま騎士さまさまやわ、などと文句をぶちぶち言っていた狼華だが、大好物の魚介のトマトスープがサーブされた瞬間に顔を輝かせてご機嫌になる。意外や意外。その所作はあくまでも麗しい。
 きっちりとしつけられたためだろう。
 しっかりと魚介の出汁が聞いたスープはトマトの酸味によってしっかりとまとまっている上品な一品だ。
 大衆食堂ではあるが意外と上品なものもあるのだとびっくりしてからずっと頼んでいる。
「さすがのアデレードの魚介。新鮮でござるな。あちちっ」
 サーブしたての熱いスープに瑠璃彦が悲鳴をあげた。
「ほら、ゆうたやない、彦は。ほんましょうもないことして。ああ、雪は口よごれとるよ」
 甲斐甲斐しく狼華は二人の世話を欠かさない。
「んもー! こういうのうちのガラやないんやからね」
「おっかさんでござるな」
「おかあさん……」
「うちの性別しっとるやんね?」
 わいわいと食事は進む。
「あと一年……あと一年で、戦争が終わる、です?」
 スプーンをもったまま雪がつぶやいた。それは告げられていたタイムリミットの話だ。雪はいたいのは苦手だ。怖いのだって得意ではない。
 しかし、そのまま一年を過ごせばみんな消えてしまう。
 こんな風に他愛もない食事。それが雪の人生でどれだけの光になっただろう。
 大切な仲間、そして大切な時間。温かい。時間。
 それを守るために少しでもなにかできたら……と思う。
「シープのみんなとも、もっと一緒に、いたいです……。
 もっと思い出つくりたいです……」
「せやね」
 隣に座っていた狼華がそっと雪の頭を胸にだく。
「そうでござるな」
 反対側に座っていた瑠璃彦がぴったりと雪にくっつく。
「わわっ、食べにくいです」
 そんな、小さな、思い出の1ページが雪の心に記された。

 ふっふっふ。
 まちなかでシスターが怪しく笑う。エリシア・ブーランジェ(CL3000661)そのひとである。
 王城でパーティ参加して特別な貴族と知り合って特別っぽい感じになる。ノンノン、それは素人考えだ。
 真の特別は何気ない町中で見初められることである。
 長に『……貴女礼儀作法ガッタガタですよね?それでも行くなら同行して恥かく様を克明に記録しますけれど……』なんていう脅迫をされたから王城には行かないわけではない。
「あ、あの」
 エリシアの後ろから声がかかる。
「はいきた! 特別!!」
「エリシアちゃん、どうしたの?」
 声をかけてきたのは街の情報屋、ヨアヒムだ。
「なんだ。ヨアヒム様ですか、特別じゃないですわね、次!」
「ひどくない?? ナンパしにきたっていうのに」
「……まつりっていいですわよね。王様の誕生日に戦争に勝ったお祝い!」
「無視?!」
「戦争、勝った。お祝い」
「うん? そうだよ」
「こわかったああああああああああ」
「ちょっと君、感情の揺れ幅極端すぎない?」
 エリシアは恐怖でうずくまる。
 そして両頬をぺしーんと叩いて立ち上がった。
「なんちゃって、えへへ! 次もがんばりますわよ!
 まずは体を鍛えるためにマラソンですわーー!」
 いって駆け抜けていくエリシア。
「あ、逃げられた」
 残されたヨアヒムは呆然と立ち尽くすのであった。
 
 
 漸くだ。とザルク・ミステル(CL3000067)は思う。
 お祭り会場の喧騒を避けた、二人だけのバルコニー。
 彼は復讐をやり遂げた。終わりというにはまだ早いが、一段落したのは確かだ。
 愛おしい女に手を伸ばし、エスコートをするように自分の胸元に抱きしめる。
「待たせちまったな、エルエル」
 呼ばれ、抱きしめられた魔女であった女――エル・エル(CL3000370)は「待ちくたびれたわよ」とつぶやいて男の胸の中で安堵した笑みを浮かべる。
「覚えている? 少なくともあんたの復讐が終えるまでは消えずに一緒にいてあげるって言ったの。
 あんたの復讐は一段落ついたのよね?」
 ザルクの抱きしめる力が強くなる。まるでエルを逃さないというように。
「ちょっと痛いわ。消えないわよ。心配しないで。その期間を延長しないと言ってないわ」
 エルはとん、と優しくザルクの胸をおして、一旦離れる。
「ねえ、見て」
 エルの薬指には銀のリング。Coming back for you.と内側に彫刻されたエルの宝物。約束の証のそれ。
「待ちきれなくて、薬指にとおしちゃったわ」
 そう言ってはにかむ女はまるで少女のようで。
「でも、言葉を、欲しいの」
 そんな愛おしい女のワガママに、ザルクは頭をかいて、すこし乱暴に薬指からリングを外す。
「きゃっ」
「えーとあれだ。 漸く復讐の決着がついた。
 長い旅路だった。果なんてみえなかったのに一足飛びで飛び越えた」
「ええ。そうね」
「ここまでこれたのは、理由もいろいろあって、たくさんのやつに助けられたけど。
 その最たるものが、エルエル。お前だ。本当にありがとう。
 これからも一緒に居て欲しい」
 言ってザルクがエルの手をとり、うやうやしく薬指にあらためてリングを通す。漸く言えるのだ。なんの衒いもなくなんの躊躇もなく。
 彼女に愛を。ずっといいたかったその言葉を。
「愛している、エルエル。俺と結婚して欲しい。
 お前の残りの人生、全て俺にくれ。俺と一緒に居て欲しい」
 男の言葉は飾り気もなくシンプルなものだった。だからこそ、まっすぐに女に届く。
 女の寿命はきっともう残りわずかだろう。きっと自分は彼を置いて居なくなることになるだろう。
 それは残酷なことなのかもしれない。
 だけどそんな短い時間だからこそ女は男と過ごす時間を選ぶ。ずっとずっとザッくんのそばで。
 だから答えなんて決まっていた。
 ゆっくりと噛みしめるように、女は言葉を紡ぐ。大切な大切なその答えを。
 
 「……いいわよ。イ・ラプセルで一番幸せなお嫁さんにしてちょうだい」
 
 そういった女が愛しくて。男はもう一度愛おしい女を抱きしめた。

†シナリオ結果†

大成功

†詳細†

称号付与
『永久の誓い』
取得者: ザルク・ミステル(CL3000067)
『永久の誓い』
取得者: エル・エル(CL3000370)
『にゃあ隊長』
取得者: メーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)
『静かな夜の芸術家』
取得者: たまき 聖流(CL3000283)

†あとがき†

ご参加ありがとうございました。
色々トラブルでご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
以降同じようなことが無いように努めます。

すこしもりもりめでの描写になりました。

MVPはまああの二人でしょ。
王様をびっくりさせる素敵な未来を説いた貴女にも。

特別報酬
エルさんとザルクさんのご結婚により
エルさんのお名前が エル・ミステルに変更されました。
お幸せに。
FL送付済