MagiaSteam




【1821】アクアフェスタと祝勝会と。

●
「私はね、王政があるからこそ、世界は戦争するのだと思う。
これはずっと前からかんがえていたんだ。
民が自らを導く首長を選出し、民の民による政治に移行していくのが正しいのだと思う」
エドワード・イ・ラプセルのその発言は、現段階ですべての国を統べた王の言葉としてセンセーショナルなものであった。
大騒ぎにはなったものの、やがてそれは収束し、領土は諸侯達が治める各国代表が集まる共和制としての歴史につながっていく。
●
それはそれとしてお祭りである。
神の蠱毒の達成の祝勝会、ゴールドティアーズ、アクアフェスタ。
すべてをまとめた大きな祭りが開催される。
スペリール湖にアデレード、王城にイ・ラプセルビーチ!
いろいろな場所で大きなお祭りが繰り広げられるのだ!
さあ、今は祭りを楽しもう。
「私はね、王政があるからこそ、世界は戦争するのだと思う。
これはずっと前からかんがえていたんだ。
民が自らを導く首長を選出し、民の民による政治に移行していくのが正しいのだと思う」
エドワード・イ・ラプセルのその発言は、現段階ですべての国を統べた王の言葉としてセンセーショナルなものであった。
大騒ぎにはなったものの、やがてそれは収束し、領土は諸侯達が治める各国代表が集まる共和制としての歴史につながっていく。
●
それはそれとしてお祭りである。
神の蠱毒の達成の祝勝会、ゴールドティアーズ、アクアフェスタ。
すべてをまとめた大きな祭りが開催される。
スペリール湖にアデレード、王城にイ・ラプセルビーチ!
いろいろな場所で大きなお祭りが繰り広げられるのだ!
さあ、今は祭りを楽しもう。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.好きにたのしむ
たぢまです。
みなさま神の蠱毒お疲れさまでした。
ここからはアフターです。
世界からオラクルのちからは喪われました。呪縛もなくなりました。
気軽にお楽しみください。
以下からひとつえらんでくださいませ。
散漫にいろいろたくさんやりたいことをやるよりは一つにまとめたほうがいいと思います。
ちなみに相談日数めっちゃくちゃ短いのでご注意を!
できれば8/15のハロワの出発より前にリプレイをお届けしたいと思います。
私が出すイベシナはスケジュール的にこれでラストになります。
内容にもよりますがリクシナは戦闘がない、ちょっとながいイベシナ的なものに関しては状況次第ですが1~2本は運営する可能性があります。
【王城】
王城でのパーティです。
美味しい料理にお酒が振る舞われます。ダンスパーティもあります。
警備はありますが、物々しさはありません。
カシミロさんと13番も招待されています。
通商連は今後も流通組織として存在していくでしょう。
運営NPCとたぢまNPCはだいたいこちらにいます。
【スペ湖】
夜のスペリール湖です。
湖には満天の星空が浮かびロマンチックです。
カヌーもかしだれています。
【海】
イ・ラプセル南端のビーチです。
海でできそうなことはだいたいできます。
水着だーーー!
【お祭り】
各地で行われているお祭りです。
屋台がでていたり、歌ったり踊ったりとしていますので、ご自由にお楽しみください。
箇所はイ・ラプセルだけではなくいろいろな国でOKです。
現在イ・ラプセル以外の国はイ・ラプセルの政治家が出向しつつ、各国家に残る政治家と通商連が連携して自治している状況です。
【その他】
上記に当てはまらないものはこちらで。
墓参りなどしんみりしたものはこちらでどうぞ。
ムサシマルはだいたい楽しそうなところにはいます。
アーウィンは、ラーゲリに集められていた孤児や戦争孤児の保護施設(その他)で働いていますが、お祭りなどに呼んで頂いてもかまいません。
クローリーはとりあえず王国の地下牢に引きこもってます(その他)。一応自称戦犯なのでお祭りにはでていきません。
書物とかお菓子とかいろいろ持ち込んでいます。
NPCは呼んでいただければ希望の箇所にお邪魔します。
NPCと絡みたいとEXに入れてくれればランダムに構いにいきます。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。公序良俗に引っかかるような表現については描写はされません!!
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
みなさま神の蠱毒お疲れさまでした。
ここからはアフターです。
世界からオラクルのちからは喪われました。呪縛もなくなりました。
気軽にお楽しみください。
以下からひとつえらんでくださいませ。
散漫にいろいろたくさんやりたいことをやるよりは一つにまとめたほうがいいと思います。
ちなみに相談日数めっちゃくちゃ短いのでご注意を!
できれば8/15のハロワの出発より前にリプレイをお届けしたいと思います。
私が出すイベシナはスケジュール的にこれでラストになります。
内容にもよりますがリクシナは戦闘がない、ちょっとながいイベシナ的なものに関しては状況次第ですが1~2本は運営する可能性があります。
【王城】
王城でのパーティです。
美味しい料理にお酒が振る舞われます。ダンスパーティもあります。
警備はありますが、物々しさはありません。
カシミロさんと13番も招待されています。
通商連は今後も流通組織として存在していくでしょう。
運営NPCとたぢまNPCはだいたいこちらにいます。
【スペ湖】
夜のスペリール湖です。
湖には満天の星空が浮かびロマンチックです。
カヌーもかしだれています。
【海】
イ・ラプセル南端のビーチです。
海でできそうなことはだいたいできます。
水着だーーー!
【お祭り】
各地で行われているお祭りです。
屋台がでていたり、歌ったり踊ったりとしていますので、ご自由にお楽しみください。
箇所はイ・ラプセルだけではなくいろいろな国でOKです。
現在イ・ラプセル以外の国はイ・ラプセルの政治家が出向しつつ、各国家に残る政治家と通商連が連携して自治している状況です。
【その他】
上記に当てはまらないものはこちらで。
墓参りなどしんみりしたものはこちらでどうぞ。
ムサシマルはだいたい楽しそうなところにはいます。
アーウィンは、ラーゲリに集められていた孤児や戦争孤児の保護施設(その他)で働いていますが、お祭りなどに呼んで頂いてもかまいません。
クローリーはとりあえず王国の地下牢に引きこもってます(その他)。一応自称戦犯なのでお祭りにはでていきません。
書物とかお菓子とかいろいろ持ち込んでいます。
NPCは呼んでいただければ希望の箇所にお邪魔します。
NPCと絡みたいとEXに入れてくれればランダムに構いにいきます。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。公序良俗に引っかかるような表現については描写はされません!!
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
状態
完了
完了
報酬マテリア
0個
0個
1個
0個




参加費
50LP
50LP
相談日数
4日
4日
参加人数
36/50
36/50
公開日
2021年08月07日
2021年08月07日
†メイン参加者 36人†
●王城にて。
「へぇええいかぁあああああああああ!!!」
大きな体躯を揺らしながら号泣するはシノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)。片手にはでっかい肉の塊。
「王政廃止などと、そんな、そんな~!
我がゼッペロン家、数十代数百年の忠誠が足りませなんだか~!?」
エドワード・イ・ラプセルは頬に汗を滴らせながら後ずさる。
「いや、そんなことないからね?
ゼッペロン家には今後も手助けをお願いするつもりだから!!」
「はっ! もしや……陛下に良からぬ事を吹き込む君側の奸が!?
おのれ~、いったい何者じゃあ~!?!!!!!?」
肉の塊をまるで剣のように構えると次の動作で骨ごとバリムシャアするシノピリカ。
「まったく君は」
滂沱の涙を流しつつ食べる肉は勝利の味。とは言えシノピリカとて気づいている。この政策が正しいものであることを。
たった一人の王にすべて押し付けるような世の中など、ひどすぎるではないか。
どちらにせよ、自分は今まで通り彼に仕えることを望む。
とこしえにイ・ラプセルのために。その国名がいつか消えるものだとしても。
「陛下……いや、ご退位なさったらそう呼びべきではないですな……なんと呼べばよいのか……エっちゃん?」
シノピリカの言葉にエドワードは好きに呼ぶといいと笑う。
「ではエっちゃん、一曲踊ってください。
とはいえこういったことはワシはなれてなくて……」
言って伸ばされたシノピリカの手をとったエドワードはそつなく彼女をエスコートする。
「喜んで、レディゼッペロン」
「なんだかそれはそれで照れくさいのう」
「まったくもって貴方は」
大きなため息とともに現れるはテオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。
そのとおりだ。この大きな世界を統べるには一人の王ではあまり有る。それにしても思い切りすぎだ。
「また妻が不貞腐れることになりそうです」
「はは、君には世話をかけるね」
「なれました。明日からは大忙しですね」
まったくだよ、とため息をつくエドワード。
「おひとつ、個人的に伺いたいことが。王を辞するとなれば今の名前は名乗れないでしょう?
今後はどうするつもりですか?」
「名乗り続けるよ。
私のこの名前は、イ・ラプセルという国があったという証でもある。
いつかこの国の名前ごとなくなるだろう。だけれども歴史はなくならない。私は最期のイ・ラプセルの王であった男としてこの名前と歴史を背負っていくさ。いつか国としての意味を持たなくなるそのときまで」
「なるほど、なるほど」
テオドールは頷く。
「それでは妻をダンスにでも誘いにいきます。エド、ではまたな」
「ああ」
「まったく陛下はいつも唐突ですな」
ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)が苦笑しながらエドワードに話しかける。
「すまないね」
思えば奴隷制度の廃止、亜人のオラクルもノウブルのオラクルもひとまとめに同じ身分で扱う自由騎士団の設立。
イ・ラプセルの歴史を紐解いてもここまで破天荒な王はいなかっただろう。
しかし彼はそれを成し遂げ、この国を終わらせる王となる。
「王政だから争う、貴方はそう言われましたが共和制もまた多くの争いをはらむことになるでしょう」
「ああ、そのとおりだ。
しかし、王の命令ではなく民が民のために立ち上がり、民を導くのがこれからの世界のスタンダードになるよ。
真の意味での平等が世界にあふれるんだ」
そう言って遠い目をする王が誰を視ているのかはわかる。
「全く革新的な王だ。然しながら私は陛下のくだされた決断がこの国のためになると信じております」
この戦いをもってガブリエラは一線を退くつもりであった。
しかして。
「まだまだ若いものに任せてはおけませんな。もちろんあなたも含めてですが」
「レストレンジ女史はまったくもって厳しいな。
これからもたのむよ」
「もちろんです」
まだ共和制の道は最初の一歩。これからが腕の見せ所だと老婆は笑う。
いろいろ言葉は考えてきた。
かっこよく、自由騎士として。何時もの貸衣装でかりてきたドレスは赤。自分らしく行こうと思った。
今後は自由騎士としての稼ぎはなくなるから贅沢はできなくなるけど、最上級のを選んだ。
できる! 私ならできる!
「えっ……ええええエドワード陛下!」
エルシー・スカーレット(CL3000368)はエドワードの前にたつ。
さあ、かっこよくいくわよ!
えっと……あれ? おめでとうじゃなくて、えっとえっと。
「お疲れ様でした!」
あ~~~~~~~できなかった~~~~いつもどおり~~~~~!!!
「ありがとう、エルシー。今日も綺麗だね。一曲どうだい?」
ダンスの誘いにガチガチになりながらもエルシーは手をのばす。
正面から見る陛下は疲れはみえるけどすっきりとしている。
王政の廃止。難しいことはわからない。けど、王様をやめた彼はどうするのだろう?
働き口は?
「あの! もしよろしければ一緒に神殿で働きますか?」
陛下が目をぱちくりとさせている。いやいやいや何言っているのよ私! 不敬! 不敬!
「ははっ。それもいいかもしれないね」
え? 陛下怒らないの?
「まだやるべきことはたくさんあるから、すぐには難しいけれどね?」
「いやいや、そうですよね! いろいろありますよね! 忘れてください!!」
「いや、忘れないよ」
エドワードとクレマンティーヌ・イ・ラプセルの元にナバル・ジーロン(CL3000441)が、戦いの完了報告にくる。
とは言え、政治の戦いとか難しい戦いはいくらでもあるけどそれはもうナバルの戦場ではない。
「しかし王様は思い切ったことをするなあ!」
「ああ、決めていたことだからね」
そう言った王の隣で妹姫はくすくす笑う。
「この後どうするんだ? 妹さんも、これからのこと。
あ、食うにこまったらナバル農園にくるといいよ」
「なるほど、ティーヌを君のお嫁さんに……」
「お兄様?!」
「あーーー、ごめんっ! 大事な話があったんだ!
オレ幼馴染と結婚します!! だから姫さんは……!」
「もう、お兄様が変なことを言うから私が振られたみたいになりました」
「いや、ティーヌ、えっと、君ほら、ナバルのことを気にしてたから……」
「もう! お兄様は黙ってて!
えっと、ナバル。おめでとう。イ・ラプセル王女として祝福します。
幸せになってくださいね」
言ってティーヌは少しだけ寂しそうに笑う。
「おお、式はどうするんだい? なんなら王城で……君はこの国の英雄だ。英雄の結婚式は――」
「ちょい! ちょいまって王様! まずはその前に世界を旅するつもりなんだ
世界を回ってオレに何ができるかを見極めるつもりだ」
もちろん嫁と一緒だけど。
そういって笑うナバルは誰よりも幸せそうだった。
もきゅ、もきゅとエイラ・フラナガン(CL3000406)は料理を食す。
華やかで楽しげなそこはなぜかひどく遠く感じる。笑顔ではいたはずだ。楽しい空気を壊すわけにいかない。
気づいていた。
とうの昔に。
この戦争が終われば自分がどうなるのか。
「ヤるスる事無クなちゃタな……」
口にだして実感する。美味しいはずの料理の味がしない。
自分は空っぽだ。
母の呪縛から開放されて、気づいた。それが自分の人生だったのだと。
そして次の目標ももう失った。
空っぽ空虚。
もう目をそらすことはできない、がらんどうの自分。
何を注げばいいのかてんで見当もつかない。
能天気にもナバルが王様に結婚報告なんかしてるのも遠いところに感じる。
さしあたっては。
師匠とナバルと約束した冒険の旅が待っている。ナバルのお嫁さんもきっと一緒だ。
楽しい旅になるだろうそれは猶予期間(モラトリアム)。
ふう、とひとつ。我慢しきれないため息が漏れた。
「思えばアンセムさんと初めておあいしてお話したのはここでしたよね」
たまき 聖流(CL3000283)が遠い昔のことのように目を細める。
「そうだったっけ? おぼえてないや」
照れくさそうにアンセム・フィンディングはたまきのもってきた料理を食べる。
眠たそうなのは相変わらずだけど。
「アンセムさんが、楽しく絵を描ける世界を私はつくれたのでしょうか?
あ、いえ、みなさんで成し遂げたことですけど」
「そうだね……皆で成し遂げた、うん。これからは戦わなくても、いい。創作活動、ずっとできる」
「はい」
「で、僕は、絵をこんどこそ、完成させるよ。すごいやつ」
「楽しみにしてます! お手伝い、します」
「お手伝いはいらない」
そうですか……とアンセムの言葉にたまきはしゅんとする。
「ちがう、そうじゃなくて、僕の最新さくにして、完成、作のモデルは君」
「えっ?」
「時間はかかるかも、迷惑かけるかも」
「いいえ、いいえ! どれだけかかってもかまいません! なんなら一生かけても!」
「たまき、僕の絵完成しないと思ってる? っていうか……一生?」
その問にたまきはにっこりと微笑む。
ええ、アンセムさんは私が一生幸せにします。
その誓いの言葉にアンセムは真っ赤になって約束だよ。ずっと一緒だよとはにかんだ。
アクアディーネ様。
私が王様のためにできることは何なのでしょう?
真白のドレスで着飾ったセアラ・ラングフォード(CL3000634)は宴の喧騒に疲れ、後にする。
皆幸せそうで良かった。
そう思いながら彼女は王の控室に向かう。
「やあ、セアラ。どうしたんだい?」
「え、エドワード様っ?」
「ちょっと疲れてね。申し訳ないがお茶を淹れてくれるかい?」
「は、はい」
静かな控室で茶器の音だけが響く。
「これから大変ですね」
ソファに座るエドワードにサーブしたセアラは隣に腰掛けこれからを思う。
共和制を根付かせるなんて一長一短にできるものではない。まずは教育だ。
教育組織はこの国にもある。そこで説明して……それから。
「ああ、私の戦いはここからだね。やるべきことが多くてたいへんだよ」
「あの、私にお手伝いさせていただけませんか?
えっとまだ戦後処理もありますし、復興事業に、それからそれから」
あわわ、と指折りしながら数えるセアラの頭に大きな手が置かれた。
「えっ」
「助かるよ。セアラ。
君の助けがあればきっとなせる。先んじてお願いがあるのだけど」
「はい?」
「すこし肩をかしてくれるかい? 少し疲れて眠くてね。君のハーブティの効果がでてきたようだ」
「ええっ?」
「だめかい?」
「いえ、その、ど、どうぞ。
えっと、エドワード様お変わりになられたように思います」
「少しは図太くならないとね」
肩が少し重くなる。すぐに王様の寝息。
「ふふ」
セアラはその心地のいい重さに笑った。
出会いは始まりであり、寄り添うことは前進であり、共に歩むことは実りである。
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は佐クラ・クラン・ヒラガの前に立つ。
ずっときめていたこと。
「三年前に貴女と運命の出会いをした。
今日という日まで寄り添い進んで来た。
そしてこの先、貴女と共に歩み未来を紡ぎたい」
「どうしたん、きゅうに?」
佐クラはめをぱちくりとさせてまたたかせる。
「もう今はだれも水面に映る未来を臨むことはできない。
確定しない未来には不安も困難もあるけど、貴女と二人ならきっと乗り越えていける。
楽しいときも悲しい時も苦しい時も一緒にいたいと思えるのは貴女だけだ」
「おおげさやねえ」
言って佐クラは穏やかに微笑み、手を伸ばす。
ウェルスはその手を握りしめる。
「貴女を一生守っていくし、世界で一番の幸せものにする。
最高の思い出だって貴方に捧げよう。
だからずっと一緒にいて欲しい。
結婚しよう、佐クラ」
「ふふ。あんじょうよろしうおねがいします。
しっとる? うさぎは、嫉妬深いんよ?」
「ああ」
「浮気したら、わかっとる? うちあんたを殺してうちも死ぬで?
うち、そういう重いおんなやよ?」
「それくらいでちょうどだ」
「ふふ、あのね、うぇるすはん。あんたも幸せにならんとゆるさへんよ?」
これからの流れを鑑みるに王の選択はただしいのだろう。
ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)はそう思う。
この今に繋がる功績には亜人の働きも含まれる。それを見越して、亜人も同じ待遇の自由騎士を設立したのであれば、あの王が油断ならない人物だとよく分かる。
「ほらほら、また眉根にシワ」
ライモンドの眉間をバーバラの指先がもみほぐす。
「さわるな!」
「やんっ」
「まったく…」
「貴方はどうするの? ノイマン卿とか今すっごくてんぱってるわよ?」
「……状況によっては此処を去る
そしてノウブルのみの都市を築くのもわるくない
亜人を虐げていた時代を忘れられぬ者がいるなら、そういう需要もある」
「へえ?」
「まあもって300年、状況によってはもっと短いかもしれない
まあ、血が流れないようには立ち回っておくさ
あの王が居る以上下手なんてうてないからな。オマエはどうするんだ?」
「ん~、ライモンドくんについていくのもいいかなって」
「オマエは話をきいていたのか? ノウブルの都市だといった」
「けど、亜人とのつながりを完全に切るなんてできるわけないじゃない?
それに私はかなりの情報通よ? 元老のおじいちゃまのやばいネタいっぱい持ってるし?」
「しらん、ついてくるな!」
「どうしよっかな~?」
「おっすおっす! おひさー!」
カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は窓からティーヌのお部屋にこんにちはする。
「そんなところから」
王女はカーミラの手を引いて引き上げる。
カーミラの腰にはめいっぱいのお菓子袋がぶら下がっている。
「神殺しも全部終わって、やっとゆっくりできるね!
王さまがなんか難しーこと言ってるけどさ、王さまが王さまじゃなくなるってことは、ティーヌも王女じゃなくなるの?」
「そうであったらいいのだけど。
まだまだお兄様は共和制の旗印と制定のためにたくさん働かなくちゃだめみたい。
わたしもお兄様のお手伝いをするにはこの身分は必要だから」
「そっか~
でもでも、前ほどガチガチじゃないよね?
一緒に海にいきたいなあ。それからそれから」
カーミラの希望はまるで湖のように湧いて出てくる。
「もう! 私の体はそんなにないんだから」
いって二人の親友同士は笑いあった。
今日も警備。
敵はいないとは言え、やらかすやつがでてこないとは限らない。
共和制。聞き慣れない言葉で難しい言葉だけど、それを逆手に悪さをするやつは湧いてくるのが世の中だ。
本当にクソみたいな世界。
それでも、守るのだ。終末から守られた以上この先は続く。ジャム・レッティング(CL3000612)はため息をついた。
真面目に真面目に。真面目なフリで。
先輩に怒られるのは御免だ。他の誰でもどうでもいいけれど、なぜだかあの人に怒られるのだけは。
――嫌だ。
「おうおう、真面目だな後輩」
気持ち悪いほどにごきげんな先輩。サブロウ・カイトー(CL3000363)。
「今日は新たなる一歩。しっかりと警戒しないと。いいか? 「見せる警備」を徹底するんだ。
おまわりさんの厳しい目があれば悪さもしにくくなる」
「へいへい」
「民の民による民のための政、か。
まっこと思い切ったことだ。むしろ民にとってこそ厳しい世になるだろうが、これも陛下が我らを信じてくださっている証左」
「そっすね」
おいおい、ジャム後輩と振り向く。
高いタッパにでかい尻。
いつみても好みド直球。
「いいしりだ」
「せんぱい……なにみてんすか」
「ん? 声に出てたか?」
「はい、はっきりと」
「おおう、いかんいかん! 僕も気が緩んでいるな」
「パイセン、しっかりしてくださいよ」
「ふむ。ではこのあと祭りに君を誘うぞ」
「は?」
「有言実行」
「ひえっ」
言ったからにはヤる! 言ってなくてもヤる。不言実行!
なんともはや。ドン引きする後輩。
サブローは自らの未熟を恥じる。もっと浪漫のある口説き文句はないのかと。
(なんすかなんすか)
言ったからにはヤるって、クソ真面目すぎる! いや真面目じゃないっすね。
絶対ムリだって、諦めてたのに。
もう、もう、もう。
ジャムは顔にはださなかったけれど。心は千々に乱れているのであった。
●祭りのざわめき。
「まあ想像する最悪ではなかったものの。普通あんな思い切ったことします?」
デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は非番のフレデリック・ミハイロフに愚痴る。
「まあな。驚いていないと言えば嘘だ」
「ここからは婚活ですよ!」
「彼の元にはいかないのかね?」
ぐいっと飲み物をデボラは飲み干して半眼になる。
「私もそろそろあの人に……チャンスはあったんですが本人を目の間にすると難しくて。
修練が足りないんでしょうか。これってそういうの必要なかったと思うんですが」
「乙女の恥じらいっていうものかね? なんとも可憐なことだ」
「だぁんちょおおおお! ねえ、練習させてくださいよ!!」
「私には妻がいるが……かわいい部下のため胸をかそう。
そうだな……かの御仁であれば情熱的なくらいが丁度いい。
手練手管に秀でた彼のことだ、逃げることも言い逃れすることもできないほど直球でな?」
「はい! コーチ!
愛してます! 好きです! 結婚してください!」
「いいぞ! デボラ! もっとだ!!」
「この世で一番好きです! 大好きです!!」
この騒ぎをききつけたかの御仁がデボラの一世一代の告白を目にするまであと45秒。
(どうせ過程まで把握しちゃうんですから! 問題なんかありません!)
乙女の謀略の結果は――まだ誰にもわからない。
祭りの喧騒をききながら。
故郷とは全く違う祭りの様子。
この時期故郷では夏祭りがあった。神と龍に舞を奉納するのが巫女としての自分の役目だった。
だから、意義もないのに場所すら違うのに舞ってみた。
しゃん、と鈴の音を鳴らして舞を終えると万雷の拍手。
ああ。せめて意味だけはあるのだと思って少しだけ誇らしくなる。
お辞儀だけして逃げるようにその場を後にした瀧河 雫(CL3000715)は人気のない路地を歩く。
龍は去り、地は消え、天を弑し、しかして人に平穏あり、か
かつてあった役目、それを奪った神への復讐、それはあたしの「やるべき事」だった
だが今は。なにもない。
白紙の未来を回避した行く先が自分自身の白紙。
やりたいことなんてなにも浮かばない。
自分の人生はお役目だけでおわるのだとおもっていたから。
新しい一歩を踏み出すのが億劫だった。
いや、怖かったのかもしれない。
雫は青い空を仰ぎ、新しいその一歩を――。
ナーサ・ライラム(CL3000594)は小さな袋を携えある人物をさがしていた。
「やあ、ナーサちゃん」
「その節はありがとうございました、いただいたブローチ、大切に使わせていただいています。差支えなければ、今後も是非仲良くしていただけますと幸いです!」
ヨアヒム・マイヤーの姿を見るが早いかナーサは小袋をおしつけた。
「お、おしゃれだね?」
袋から出したスカーフクリップをヨアヒムはつけると、ボウアンドクレープでお辞儀する。
「どうだい? 似合うかい? イケメンになった?」
「はい!!!」
素直に返事をするナーサにヨアヒムは一瞬たじろいだ。
彼はいつだって異性にはやさしい。あのブローチだって意味はないはず。
それでも、それでも彼が自分ががんばって選んだクリップを喜んでくれたのは嬉しかった。
この気持がどういう意味をもつのか今はわからないけど。
でも、素敵な変化が心に訪れるのではないかとすこしだけ、ほんの少しだけ思った。
「エールおかわり!」
なにもかもから開放された今!
夏! 青い空!! ときたらキンキンに冷えたエールっきゃない!
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は早速空になったグラスを高く上げる。
「調子がいいね?」
「ええ! おじさんじゃんじゃん持ってきて! 戦争もおわってのんでも怒られることはもうないんだもん!」
「はは。うちの樽を空にする気かい?」
「空になったら次にいくわよ? そんときはおじさんもお店はおひらき! 一緒に街にくりだしましょーー!」
ああ、おわったんだ!
日常生活が戻ってくる。
毎日アトリエで帽子のデッサン起こして、作って、売って、美味しい物食べて、飲んで、遊んで、笑って……!
きっと楽しい日々。
それが私達がえることのできた自由なのだから!!
「稼ぎ時ですぅ~~~」
いってバタバタ走るのはシェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。
今日も忙しそうにかき氷なんかを売っている。
今日はいつもより随分と暑いから商売の目端がきくというかなんというか。
「本日は暑い夏にピッタリのかき氷ですぅ〜! 宇治金時いかがですかぁ〜? いちごにオレンジ、キウイを凍らせて削った贅沢かき氷もおすすめですぅ!」
あ、それはおいしそうとアンネリーザは席をたつ。
「おじさんの分もかってきてあげるから一緒にたべましょー!」
「おう、お嬢ちゃんありがとうな。じゃあ、こっちはブルストのサービスだ!」
「おじさんかっこいーー!」
言ってシェリルのかき氷にはしっていくアンネリーザ。
「真夏に魔道の粋を集めたアイスコフィンかき氷、ぜひご賞味あれ〜!」
行列に心が折れて涙目でアンネリーザが帰ってくるまであと1分。
あっちこっちをガラミド・クタラージ(CL3000576)は歩き回る。
お片付けは祭りが終わったあとでいい。この平和を味わおう。
さっそく美味しそうな飯を発見!
「あ、ガラミドさん。あっちはだめ。品質のわりには高いわよ」
振り返ればミズヒトの女。たしかミズーリ・メイヴェンと言ったか。
「そうなのか?」
「あっちあっち、我が通商連名物のカラマリ焼きよ」
えへんとミズーリが胸をはる。なんだ営業かと思うが、まあ実際そのカラマリ焼きのたれの香りはガラミドの鼻腔をくすぐる。
それに美人さんに騙されるなら悪くないとも思う。
「まあ、なにはともあれ」
楽しく美味しくが一番だとガラミドは笑う。
これから先の未来は何をしようか。
喪われつつある錬金の記録を記すのもいい。もとの民族にもどるのもいい。
ああ、それが自由というものなのだから。
ノーヴェ・キャトル(CL3000638)とセーイ・キャトル(CL3000639)はアナを連れてアクアフェスタに湧くアデレードを案内する。
「……アナ、のお祭り……をしたい……か、ら……教えて、欲しい……」
「私の知ってる祭りは一日中炎をともした松明を持って精霊に呼び声をつづけ叫びいのりつづけるものです」
「そんなの突然やったらびっくりされるよね?」
セーイの言葉にさすがのアナ・ブルも頷く。それなりのインディオ外の常識というものは嗜んでいる。
「たのしそうなのに、あたたかい……なれそう」
「郷に行っては郷に従えという言葉をしりました」
「はは、そんなこといわずにインディオの文化を教えてよ。そんでアタカパさんたちの助けになりたい」
「助かる。
まだ大地は傷つき部族は怯えているはず。
私がいえることじゃないけれど」
「まだ、アタカパさんとまともに顔をあわせてないんだっけ?」
「うん……怖くて」
「アナ……指だして」
唐突にノーヴェが全く違う話をはじめる。戸惑いながらもアナは指をだす。
その指には花の指輪。
「勇気、のおまじない……
これでアタカパに話、できる……。
あとアナ、は……沢山…笑うこと……。 私、との……約束……だ、よ?……?……。 ふふ……。 約束、破り……は……頭、から……ガブ……って……される……から、ね?…………?……」
「……ありがとう」
「じゃあ、インディオ領にいこう。
オレたちだって、インディオの人達が居なかったら、俺達もこうして居られなかっただろうし……
お礼にいきたいんだ。アナも付き合ってよ。案内もしてほしいな」
「ああ、わかった」
そういってアナは笑う。
アナ、が笑う……と……私、は……あたたかい……。
●隠れ里
戦いは終わった。
ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は親友のレーナとかつての隠れ里に向かう。
もちろんそこには誰もいない。
寂しいそこがふたりの故郷で有った場所だ。
「なにもないね」
ティルダの言葉に親友は頷く。
でもそれほど悲しいわけではない。
ただ隠れ逃げ惑うしかなかった日々に比べれば今はまるで夢のようだ。
失ったはずの親友とも並んでたっている。
「みせてあげたかった」
奇しくもその親友の言葉は自分が思っている言葉と一緒だった。
ヨウセイが迫害されることもなく太陽の下、他の種族とも笑顔を会話できるなんて思ってもなかったこの幸せを亡くなった仲間にみせたかった。
でもそれはもうかなわない不可逆の過去はこころに堆積させるしかない。
できることはわすれないこと。
精一杯生きていくこと。
それを見守ってほしいから、ここにきた。
「いこっか」
そういって親友の手をとる。
「それではみんな! 行ってきます!」
●スペリオール湖
メモリアの歌声が遠く響く。
「ね? きてよかったでしょ? アードライ」
サーナ・フィレネ(CL3000681)はかつて敵であった同胞の少年の手を引いて笑う。
「わるくない」
無口でぶっきらぼうなアードライだけど、嫌がってはいないようだ。
もう敵同士じゃない。
随分とお祭りの空気に戸惑っているけどそれも可愛く思えた。
「これでもう世界はなくなったりしないよね。
ヨウセイだって、安心して暮らせるようになるよね」
「ああ、同胞と戦わなくてもいい。もう虐げられることはない」
うん、うん。
サーナは頷く。メモリアの曲調が変わった。優しい、故郷を思い出すようなウタ。
「私はね――」
サーナはこれまでのことを話す。アードライはそれを黙って聴く。
「――という、サーナの物語でした」
言って一礼すれば、無表情ながらもぱちぱちと手をたたくアードライ。
「次はアードライの物語。教えて?」
「つまらないぞ?」
「大丈夫。ききたいの」
「そうか、オレは――」
夜のなか紡がれた二人のヨウセイの物語。それはサーナとアードライふたりだけの秘密のお話。
●病院内
静かな病院でりんごの皮をむく音だけが聞こえる。
空気は重い。
むしろしゃべるなという圧さえ感じる。
「そのジズ、先輩?」
投げつけられたナイフが枕にささり羽毛が舞う。めちゃくちゃ怒っている。
ムリもない。神殿音楽隊の隊長であるジズは、ビジュ・アンブル(CL3000712)の容態を聞いてめちゃくちゃに怒った。
カタフラクトの接合部は壊死。
太ももまで切断し、そこから先のカタフラクトを換装の診断がくだされた。
戦う必要は正直なかった。だけど自分は「あの子」の意思を継いだから。もちろんジズには反対された。
それをおしてのこの結果だ。
後悔なんかはしていない。もともとカタフラクトだったのだ。その箇所が増えただけ。
元へルメリアの技術もあるしむしろ前より性能があがったくらい。
でも――。
彼女を悲しませたことだけは後悔している。なぜだか彼女の泣き顔はどうにも心に堪える。
キリだってきっとセフィロトの海で怒っているだろう。
仲間を失う悲しみ。自分だって味わったそれをもう一度彼らに思い起こさせてしまったのだ。
「ごめんなさい。
もう二度とこんな無茶はしない」
ジズの答えはないけれど。ふわりと頭が柔らかいものに包まれる。
「本当に、約束だからね」
ビジュはその約束に頷いた。
●とある地下牢
「おーい、アレイスター、新作のヌードル」
「おいおい、ルエっち、古いなあ、それもう食ったぜ。
もうちょい辛味があるほうが僕の好みだった」
「うわー! 一緒にたべようとおもったのに裏切られてるし味のネタバレまでされてる!
っていうかなんだよ、この快適そうな空間!」
アロハシャツに水着姿で蒸気扇風機で涼みつつ、かき氷なんて食っている自称いっきゅうせんぱんの男にルエ・アイドクレース(CL3000673)は半眼になる。
「まあいいや、このポテチ食べる? うまいぜ!
あ、そのヌードルも食べるよ」
「文句いったのに食べるのかよ! まあ俺もたべるけど」
ルエもふかふかのクッションに腰を埋め一緒に蒸気扇風機で涼をとる。
「自称戦犯って言うけど、同時に功労者じゃないの?
むしろ俺らの勝利を誰より願ってたのあんただろ。
祝勝会も出りゃいいのに」
「功労者はきみたちじゃないか? 僕ぁ神を殺したことなんてないさ。
だからここが特等席。
ずっと此処で死ぬまでいるのさ。
それに僕ぁそういう面倒な男だってしっているだろう?」
「はいはい、そのとおり。
でもな、あんたは未知の未来を楽しむ権利はちゃんとあるんだぜ?」
そんなルエの言葉にクローリーは薄く笑む。
「生きて、くれよ。気楽にでいいからさ」
クローリーは答えない。
「俺いつでもここにきてやるから」
「じゃあ、次にくるときは新作のお菓子でも用意しとくよ」
来るのはいやじゃないらしい。
「なんで、投獄中のあんたが俺より新作に詳しいのかわかんないけどな!」
そういってルエは笑った。
「やあ」
「やあ、よく似合ってるね、マグノリア・ホワイト
性別を隠すのはやめたのかい?」
「そうだね」
女物の浴衣姿のマグノリア・ホワイト(CL3000242)は少しでも祭りの気分をとアレイスター・クローリーの牢獄に訪問する。
「何の本をよんでるの?」
「つまらない冒険譚だよ? 君たちの冒険のほうが百倍もおもしろかった」
「いつまで、君は生きられるの?」
「さあね。運命次第さ」
「君らしくない言葉だね。ねえ、呪いを解いたご褒美がほしい」
そこでやっとクローリーは顔を上げた。
「君が死を望むなら執行人になるよ。だけどその前に……
君との子供がほしい」
「君はマザリモノだろう?」
確かにそれは少し先の未来で叶うことだろう。だが今それが叶うことは誰も知らない。それはクローリーですら。
少しの逡巡。
「すまないね」
「そ、そうだよね。僕は家畜同然だ。そんなものと子供を作るなんて」
「ああ、違うよ。
僕ぁね。もう妻はつくらないんだ。僕の妻は後にも先にも「三人」だけさ。
最期のはとんでもない押しかけ女房だったけどね。
それに僕ぁね。先を作らない。僕ぁここで行き止まりさ。
繋がった未知の未来に僕だけが繋がらない。それが僕の罪であり罰さ」
「そんなの……悲しすぎる」
泣きそうになる。どうしてこの男は――。
「ただ……残りの時間君が僕のそばにいるのは自由さ。君の唯一の願いが叶えることができないぶん、僕の残りの命は君とともにあるよ」
●海
「海!!!!!!!!」
「海!!!!!!」
おニューの水着姿のフリオ・フルフラット(CL3000454)はムサシマルと共に海に飛び込んでいく。
それはフリオにとって目標だったことのの一つ。
「へいへいおじょうちゃんイイカラダしてる、わらって笑ってでござる!」
なんてムサシマルに言われたらついついポーズのひとつはサービスしちゃう。
えらく際どいのを要求されたから逆にムサシマルの際どいのも撮影してやった。
「ところでさー」
「なんでありますか?」
「カップル多いでござるね。
あれか?!! ファイナル発情期でござるか?!?!」
「だめー!! それダメ!!! アウトであります!」
大騒ぎしつつも水に触れる以上はアクアディーネのことを思い出す。
オラクルのちからは喪われた。
水の女神との思い出もいつかどんどん色あせてくる。
だから忘れないように。ずっと思い出として輝いているように。
今楽しむことがあの「ヒト」の手向けになるのだから。
「ムサシマルさん、貝殻探しましょう」
「ん? あれでござるか? 貝殻を胸につけて……あっは~~ん★
ちっくしょう! デカ乳族はいいでござるな!!! けっ!」
「なにいってるんでありますか! 地下牢のおじいちゃんへのお土産でありますよ」
「めどい」
「そんな事言わずに!」
●サロン・シープ
まあまあにぎやかななことで。
窓際に座し、窓枠を指先でなぞり蔡 狼華(CL3000451)は呟く。
忙しいのは国の上層部だけ。一般市民においてはしばらくは平穏だろう。
いったい、今の自分は何者なのだろう――。
平和になった今だからこその問。
マダムに人の役にたてと言われた。だから剣技を磨き、自由騎士になった。
剣舞は優雅に美しく。より洗練されたとも思う。
もう、この剣は置いてもいいのだ。
マダムに問えばそのとおりだと言われるだろう。
だけど――。
剣を手放すことはまだできない。
誰かを守るためなんて高尚なものではない。
理由ごと置いていってしまえば自分は新しいじぶんへとなれるかもしれない。
だけど、だけど。
自分の中に燻る炎はいまだ消えない。
馬鹿らしいと思える日はいつくるのだろうか?
●保護施設
「おにーちゃんおしっこ~」
「おねーちゃん、うんこー」
「おくすりあげるー」
ラーゲリはじめ各地の戦災孤児の集められた保護施設は大騒ぎだ。
アーウィン・エピは自らその責任者になのりをあげた。
「おーい、チビども!! いいこにしてないとおやつやんねえぞ!」
彼は戦争で戦っている時なんかより生き生きとしている。
そんな彼をグローリア・アンヘル(CL3000214)は眩しく見つめる。
守りきった小さな命たち。好きな男の大切なもの。最初こそはうまく行かなかったものの、今では扱い方も手慣れてきている。
「おら、ガキども。定期検診だぞ!」
ぶかぶかの白衣姿の非時香・ツボミ(CL3000086)が叫ぶ。
「悪いな、ふたりとも手伝ってもらって」
アーウィンが申し訳なさそうに二人に言う。
「それは、オマエが居るから。ああそうだ贔屓だぞ! メスガキどもいいかー! 好きな男には贔屓するんだぞー!」
「この子たちに……美味しいものを食べさせてやりたい、祭りは楽しいものだと教えてやりたいし、いけないことをしたら叱ってやって、嬉しかったことは覚えていてやって、泣いたらお前と一緒に抱きしめてやろう
それってなんだか夫婦みたいだな」
「むっ!」
「むっ!」
二人の女の間に火花が散る。
「女のたたかいだー!!」
子どもたちがキャッキャしながら騒ぎ立てるのをアーウィンが諌める。
とはいえふたりとも彼がどちらかを選ぶのであれば、それを受け入れる覚悟はできている。
気兼ねなんてしてほしくない。
「あのさ」
世界は平和になった。望む職業について落ち着いた。
いつまでもモラトリアムのままではいられない。
「ふたりとも、なんかありがとうな。俺なんかのために」
「「なんかじゃない!!」」
ハモる言葉。
わかっている。このままでいられないことは。だから。それが今日であるとはおもってはいなかったけど。
だから、男ははっきりと決断する。
「俺はこのバカ医者が好きなんだと思う。
最初は大嫌いだった。
だけどそれでもこいつは一生懸命で。なんかかわいいなっておもった。好きなんだとおもった。
グローリアに意識しろっていわれてそれで、なんか気づいたんだとおもう。
グローリアのことは俺だって好きだ。けどそれはたぶんグローリアと同じ好きじゃないんだってて思う」
「オマエっ?! アーウィン?」
自分が選ばれるなん露ほどにも思っていなかったツボミは真っ赤になってバタバタしながらもグローリアはいいやつでかっこよくて、それからそれからとライバルのいいところをまくしたてる。
やめろ、余計に悲しくなる。
「そうか」
だめだ。今なくわけにはいかない。そんなことしたらあいつは気遣って私のいいところをたくさん言ってくれるだろう。
そんなの、そんなの。じゃあなぜ私じゃないのかなんて口に出してしまうだろう。そんなみじめなのはいやだ。
グローリアは必死に笑顔をみせる。下手くそだった笑顔。鏡をみて一生懸命練習した。
練習の成果はでてるはずだ。最高にかわいい笑顔、であるはずだ。
「グローリア、ごめ……」
「それ以上は言うな! あ、あいつ、漏らしてるじゃないか! しかたないやつだ! ちょっといってくる」
そういうとグローリアは部屋をとびだしていく。
泣くもんか、泣くもんか、泣くもんか。
「おねーちゃんイタイの?」
漏らした子供が申し訳無さそうにしながらも、自分を心配してくる。
「そうだな。痛いよ」
「どこが?」
「胸、かな?」
「いたいのとんでけ、おねえちゃんのイタイの飛んでけ!」
子供が一生懸命に胸を撫でる。
「おい、ぐろーりや」
袖がひかれて振り向けば、生意気そうな子供。確かヴィスマルクの兵器として使われていた、アーウィンのラーゲリで世話をしていたという子供だ。アロウといったか。
「あんなへたれたおとこはわすれろ。おまえはいいおんなだ。おれがつまにしてやる。おまえのよさはあんなやつよりおれがよくしっている。おまえのようなびじんはこんごもひくてあまただからおれがつばをつけておくんだ」
「生意気だぞ、アロウ」
笑ってグローリアはアロウのおでこを指先で弾く。
「なんだと、ぐろーりや、おれはぜったいおまえをつまにしてしゃわせにしてやれるおとこなんだからな」
痛そうに頭をかかえるアロウをグローリアはそっと抱きしめた。
●
「俺のような兵隊は、もうこの国には不要となる」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)の言葉に、マリアンナ・オリヴェルは咄嗟に返事をすることができなかった。
待ち合わせの場所、そこで合流してしばし談笑したのち、アデルが切り出したのだ。
「喜ばしいことのはずなんだが、俺は戦うこと以外の生き方を知らなくてな。……実を言うと、これからどうすればいいか、と、割と途方に暮れている」
「アデル……」
不安に駆られ、マリアンナが胸の前で手を握る。すると、
「心配してくれるなら、俺を助けてくれないか、マリアンナ」
「え?」
小さく驚くマリアンナの前で、アデルが自分の顔を覆う鉄仮面を脱いで、素顔を晒す。
「俺と一緒に、これからの生き方を考えてほしいんだ」
言葉と共にアデルの方から彼女へと、風がゆるく流れていく。
差し出された彼の手を取って、マリアンナは唇を開いた。そこから紡がれる答えは、当然、決まっていた。
それがプロポーズだったとアデルが気づくのは、恐るべきことに、数年経ったあとでのことだった。
●
すべて全部おわったから。
ステラ・モラル(CL3000709)は残されたとある男の後悔の記された手記を指先でめくる。
真実を知り、去来するのは複雑な思い。
あの強欲な男はすべてを手に入れたかった。
確信なんてなくても命をはることができる。
そこまで愛された母親が羨ましく思う。
ふう、とため息をつけば、かたわらの男が顔を覗き込む。
療養所で知り合った看護師の男。
「ごめんなさいね、こんなことに付き合わせちゃって」
遠く離れたヘルメリアの墓所。
父親の埋葬されたそこは寂しい丘の上。
「私は普通に生きるべきなのかしら」
女がつぶやけば男は頷く。
ずっと引きずる私でもいいと言ってくれた彼。
そんな彼と家族になるのもいいかと思った。
「ああ。そうだ、お父さん。
私への最後の愛として、■■■■■■■を私にちょうだい?」
墓標とも呼べないような小さな石碑にステラは呟くと腹部を撫でた。
●集合墓地で。
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は天に向かい祈る。
数多くの仲間が人が、神の戦いに巻き込まれその生命を失った。
名も知らない方々、罪なき民草。
背中を預け共に戦った方々。
「私は死に損ないましたが」
アニムス。魂の輝き。
道化師が、この周回でのみ発生したと言った奇跡の力。
都度、アンジェリカはその力を発動した。
だけど今になってはそれが何かはわからない。
自分だけではない。その魂の光の灯火は美しく、残酷なまでに輝いていた。
その光は仲間の命をも燃え尽きさせた。
死んだものと生きてもどったもの。
その分水嶺はいったいなんだったのだろう。
しかし生き残ったものの義務として。
自分はこの手の届くすべての未来を救い続けると墓標に誓う。
次の世代を担う子たちのために。
世界は滅びを回避した。
せかいはつづく。いのちはつづく。
終わりなきオラトリオのように。
人を愛し世界を愛し。
散っていったすべての英雄に安らかなる眠りを。
そして紡ぎつづけましょう。物語を。
永遠に続く未来に幸あれと。
ユーアンゲリオンが鳴り響く。
世界よとこしえに。
聖なるかな聖なるかな聖なるかな。
愛が世界を救わんことを。
I know that my Redeemer liveth...
わたしは知っている償いをするものを
Since by man came death...
それは死はたったひとりの誰かによって訪れたのだから
Behold, I tell you a mystery...
さあ、神秘を授けよう
The trumpet shall sound...
旅立ちのラッパの音、高く
Then shall be brought...
その時予言は成就する
O death, where is thy sting?...
ねえ、神様。あなたの勝利はどこに有る?
If God be for us...
もし運命が私達の味方であるのなら
Worthy is the Lamb...
屠られた子羊こそが――

「へぇええいかぁあああああああああ!!!」
大きな体躯を揺らしながら号泣するはシノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)。片手にはでっかい肉の塊。
「王政廃止などと、そんな、そんな~!
我がゼッペロン家、数十代数百年の忠誠が足りませなんだか~!?」
エドワード・イ・ラプセルは頬に汗を滴らせながら後ずさる。
「いや、そんなことないからね?
ゼッペロン家には今後も手助けをお願いするつもりだから!!」
「はっ! もしや……陛下に良からぬ事を吹き込む君側の奸が!?
おのれ~、いったい何者じゃあ~!?!!!!!?」
肉の塊をまるで剣のように構えると次の動作で骨ごとバリムシャアするシノピリカ。
「まったく君は」
滂沱の涙を流しつつ食べる肉は勝利の味。とは言えシノピリカとて気づいている。この政策が正しいものであることを。
たった一人の王にすべて押し付けるような世の中など、ひどすぎるではないか。
どちらにせよ、自分は今まで通り彼に仕えることを望む。
とこしえにイ・ラプセルのために。その国名がいつか消えるものだとしても。
「陛下……いや、ご退位なさったらそう呼びべきではないですな……なんと呼べばよいのか……エっちゃん?」
シノピリカの言葉にエドワードは好きに呼ぶといいと笑う。
「ではエっちゃん、一曲踊ってください。
とはいえこういったことはワシはなれてなくて……」
言って伸ばされたシノピリカの手をとったエドワードはそつなく彼女をエスコートする。
「喜んで、レディゼッペロン」
「なんだかそれはそれで照れくさいのう」
「まったくもって貴方は」
大きなため息とともに現れるはテオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。
そのとおりだ。この大きな世界を統べるには一人の王ではあまり有る。それにしても思い切りすぎだ。
「また妻が不貞腐れることになりそうです」
「はは、君には世話をかけるね」
「なれました。明日からは大忙しですね」
まったくだよ、とため息をつくエドワード。
「おひとつ、個人的に伺いたいことが。王を辞するとなれば今の名前は名乗れないでしょう?
今後はどうするつもりですか?」
「名乗り続けるよ。
私のこの名前は、イ・ラプセルという国があったという証でもある。
いつかこの国の名前ごとなくなるだろう。だけれども歴史はなくならない。私は最期のイ・ラプセルの王であった男としてこの名前と歴史を背負っていくさ。いつか国としての意味を持たなくなるそのときまで」
「なるほど、なるほど」
テオドールは頷く。
「それでは妻をダンスにでも誘いにいきます。エド、ではまたな」
「ああ」
「まったく陛下はいつも唐突ですな」
ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)が苦笑しながらエドワードに話しかける。
「すまないね」
思えば奴隷制度の廃止、亜人のオラクルもノウブルのオラクルもひとまとめに同じ身分で扱う自由騎士団の設立。
イ・ラプセルの歴史を紐解いてもここまで破天荒な王はいなかっただろう。
しかし彼はそれを成し遂げ、この国を終わらせる王となる。
「王政だから争う、貴方はそう言われましたが共和制もまた多くの争いをはらむことになるでしょう」
「ああ、そのとおりだ。
しかし、王の命令ではなく民が民のために立ち上がり、民を導くのがこれからの世界のスタンダードになるよ。
真の意味での平等が世界にあふれるんだ」
そう言って遠い目をする王が誰を視ているのかはわかる。
「全く革新的な王だ。然しながら私は陛下のくだされた決断がこの国のためになると信じております」
この戦いをもってガブリエラは一線を退くつもりであった。
しかして。
「まだまだ若いものに任せてはおけませんな。もちろんあなたも含めてですが」
「レストレンジ女史はまったくもって厳しいな。
これからもたのむよ」
「もちろんです」
まだ共和制の道は最初の一歩。これからが腕の見せ所だと老婆は笑う。
いろいろ言葉は考えてきた。
かっこよく、自由騎士として。何時もの貸衣装でかりてきたドレスは赤。自分らしく行こうと思った。
今後は自由騎士としての稼ぎはなくなるから贅沢はできなくなるけど、最上級のを選んだ。
できる! 私ならできる!
「えっ……ええええエドワード陛下!」
エルシー・スカーレット(CL3000368)はエドワードの前にたつ。
さあ、かっこよくいくわよ!
えっと……あれ? おめでとうじゃなくて、えっとえっと。
「お疲れ様でした!」
あ~~~~~~~できなかった~~~~いつもどおり~~~~~!!!
「ありがとう、エルシー。今日も綺麗だね。一曲どうだい?」
ダンスの誘いにガチガチになりながらもエルシーは手をのばす。
正面から見る陛下は疲れはみえるけどすっきりとしている。
王政の廃止。難しいことはわからない。けど、王様をやめた彼はどうするのだろう?
働き口は?
「あの! もしよろしければ一緒に神殿で働きますか?」
陛下が目をぱちくりとさせている。いやいやいや何言っているのよ私! 不敬! 不敬!
「ははっ。それもいいかもしれないね」
え? 陛下怒らないの?
「まだやるべきことはたくさんあるから、すぐには難しいけれどね?」
「いやいや、そうですよね! いろいろありますよね! 忘れてください!!」
「いや、忘れないよ」
エドワードとクレマンティーヌ・イ・ラプセルの元にナバル・ジーロン(CL3000441)が、戦いの完了報告にくる。
とは言え、政治の戦いとか難しい戦いはいくらでもあるけどそれはもうナバルの戦場ではない。
「しかし王様は思い切ったことをするなあ!」
「ああ、決めていたことだからね」
そう言った王の隣で妹姫はくすくす笑う。
「この後どうするんだ? 妹さんも、これからのこと。
あ、食うにこまったらナバル農園にくるといいよ」
「なるほど、ティーヌを君のお嫁さんに……」
「お兄様?!」
「あーーー、ごめんっ! 大事な話があったんだ!
オレ幼馴染と結婚します!! だから姫さんは……!」
「もう、お兄様が変なことを言うから私が振られたみたいになりました」
「いや、ティーヌ、えっと、君ほら、ナバルのことを気にしてたから……」
「もう! お兄様は黙ってて!
えっと、ナバル。おめでとう。イ・ラプセル王女として祝福します。
幸せになってくださいね」
言ってティーヌは少しだけ寂しそうに笑う。
「おお、式はどうするんだい? なんなら王城で……君はこの国の英雄だ。英雄の結婚式は――」
「ちょい! ちょいまって王様! まずはその前に世界を旅するつもりなんだ
世界を回ってオレに何ができるかを見極めるつもりだ」
もちろん嫁と一緒だけど。
そういって笑うナバルは誰よりも幸せそうだった。
もきゅ、もきゅとエイラ・フラナガン(CL3000406)は料理を食す。
華やかで楽しげなそこはなぜかひどく遠く感じる。笑顔ではいたはずだ。楽しい空気を壊すわけにいかない。
気づいていた。
とうの昔に。
この戦争が終われば自分がどうなるのか。
「ヤるスる事無クなちゃタな……」
口にだして実感する。美味しいはずの料理の味がしない。
自分は空っぽだ。
母の呪縛から開放されて、気づいた。それが自分の人生だったのだと。
そして次の目標ももう失った。
空っぽ空虚。
もう目をそらすことはできない、がらんどうの自分。
何を注げばいいのかてんで見当もつかない。
能天気にもナバルが王様に結婚報告なんかしてるのも遠いところに感じる。
さしあたっては。
師匠とナバルと約束した冒険の旅が待っている。ナバルのお嫁さんもきっと一緒だ。
楽しい旅になるだろうそれは猶予期間(モラトリアム)。
ふう、とひとつ。我慢しきれないため息が漏れた。
「思えばアンセムさんと初めておあいしてお話したのはここでしたよね」
たまき 聖流(CL3000283)が遠い昔のことのように目を細める。
「そうだったっけ? おぼえてないや」
照れくさそうにアンセム・フィンディングはたまきのもってきた料理を食べる。
眠たそうなのは相変わらずだけど。
「アンセムさんが、楽しく絵を描ける世界を私はつくれたのでしょうか?
あ、いえ、みなさんで成し遂げたことですけど」
「そうだね……皆で成し遂げた、うん。これからは戦わなくても、いい。創作活動、ずっとできる」
「はい」
「で、僕は、絵をこんどこそ、完成させるよ。すごいやつ」
「楽しみにしてます! お手伝い、します」
「お手伝いはいらない」
そうですか……とアンセムの言葉にたまきはしゅんとする。
「ちがう、そうじゃなくて、僕の最新さくにして、完成、作のモデルは君」
「えっ?」
「時間はかかるかも、迷惑かけるかも」
「いいえ、いいえ! どれだけかかってもかまいません! なんなら一生かけても!」
「たまき、僕の絵完成しないと思ってる? っていうか……一生?」
その問にたまきはにっこりと微笑む。
ええ、アンセムさんは私が一生幸せにします。
その誓いの言葉にアンセムは真っ赤になって約束だよ。ずっと一緒だよとはにかんだ。
アクアディーネ様。
私が王様のためにできることは何なのでしょう?
真白のドレスで着飾ったセアラ・ラングフォード(CL3000634)は宴の喧騒に疲れ、後にする。
皆幸せそうで良かった。
そう思いながら彼女は王の控室に向かう。
「やあ、セアラ。どうしたんだい?」
「え、エドワード様っ?」
「ちょっと疲れてね。申し訳ないがお茶を淹れてくれるかい?」
「は、はい」
静かな控室で茶器の音だけが響く。
「これから大変ですね」
ソファに座るエドワードにサーブしたセアラは隣に腰掛けこれからを思う。
共和制を根付かせるなんて一長一短にできるものではない。まずは教育だ。
教育組織はこの国にもある。そこで説明して……それから。
「ああ、私の戦いはここからだね。やるべきことが多くてたいへんだよ」
「あの、私にお手伝いさせていただけませんか?
えっとまだ戦後処理もありますし、復興事業に、それからそれから」
あわわ、と指折りしながら数えるセアラの頭に大きな手が置かれた。
「えっ」
「助かるよ。セアラ。
君の助けがあればきっとなせる。先んじてお願いがあるのだけど」
「はい?」
「すこし肩をかしてくれるかい? 少し疲れて眠くてね。君のハーブティの効果がでてきたようだ」
「ええっ?」
「だめかい?」
「いえ、その、ど、どうぞ。
えっと、エドワード様お変わりになられたように思います」
「少しは図太くならないとね」
肩が少し重くなる。すぐに王様の寝息。
「ふふ」
セアラはその心地のいい重さに笑った。
出会いは始まりであり、寄り添うことは前進であり、共に歩むことは実りである。
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は佐クラ・クラン・ヒラガの前に立つ。
ずっときめていたこと。
「三年前に貴女と運命の出会いをした。
今日という日まで寄り添い進んで来た。
そしてこの先、貴女と共に歩み未来を紡ぎたい」
「どうしたん、きゅうに?」
佐クラはめをぱちくりとさせてまたたかせる。
「もう今はだれも水面に映る未来を臨むことはできない。
確定しない未来には不安も困難もあるけど、貴女と二人ならきっと乗り越えていける。
楽しいときも悲しい時も苦しい時も一緒にいたいと思えるのは貴女だけだ」
「おおげさやねえ」
言って佐クラは穏やかに微笑み、手を伸ばす。
ウェルスはその手を握りしめる。
「貴女を一生守っていくし、世界で一番の幸せものにする。
最高の思い出だって貴方に捧げよう。
だからずっと一緒にいて欲しい。
結婚しよう、佐クラ」
「ふふ。あんじょうよろしうおねがいします。
しっとる? うさぎは、嫉妬深いんよ?」
「ああ」
「浮気したら、わかっとる? うちあんたを殺してうちも死ぬで?
うち、そういう重いおんなやよ?」
「それくらいでちょうどだ」
「ふふ、あのね、うぇるすはん。あんたも幸せにならんとゆるさへんよ?」
これからの流れを鑑みるに王の選択はただしいのだろう。
ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)はそう思う。
この今に繋がる功績には亜人の働きも含まれる。それを見越して、亜人も同じ待遇の自由騎士を設立したのであれば、あの王が油断ならない人物だとよく分かる。
「ほらほら、また眉根にシワ」
ライモンドの眉間をバーバラの指先がもみほぐす。
「さわるな!」
「やんっ」
「まったく…」
「貴方はどうするの? ノイマン卿とか今すっごくてんぱってるわよ?」
「……状況によっては此処を去る
そしてノウブルのみの都市を築くのもわるくない
亜人を虐げていた時代を忘れられぬ者がいるなら、そういう需要もある」
「へえ?」
「まあもって300年、状況によってはもっと短いかもしれない
まあ、血が流れないようには立ち回っておくさ
あの王が居る以上下手なんてうてないからな。オマエはどうするんだ?」
「ん~、ライモンドくんについていくのもいいかなって」
「オマエは話をきいていたのか? ノウブルの都市だといった」
「けど、亜人とのつながりを完全に切るなんてできるわけないじゃない?
それに私はかなりの情報通よ? 元老のおじいちゃまのやばいネタいっぱい持ってるし?」
「しらん、ついてくるな!」
「どうしよっかな~?」
「おっすおっす! おひさー!」
カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は窓からティーヌのお部屋にこんにちはする。
「そんなところから」
王女はカーミラの手を引いて引き上げる。
カーミラの腰にはめいっぱいのお菓子袋がぶら下がっている。
「神殺しも全部終わって、やっとゆっくりできるね!
王さまがなんか難しーこと言ってるけどさ、王さまが王さまじゃなくなるってことは、ティーヌも王女じゃなくなるの?」
「そうであったらいいのだけど。
まだまだお兄様は共和制の旗印と制定のためにたくさん働かなくちゃだめみたい。
わたしもお兄様のお手伝いをするにはこの身分は必要だから」
「そっか~
でもでも、前ほどガチガチじゃないよね?
一緒に海にいきたいなあ。それからそれから」
カーミラの希望はまるで湖のように湧いて出てくる。
「もう! 私の体はそんなにないんだから」
いって二人の親友同士は笑いあった。
今日も警備。
敵はいないとは言え、やらかすやつがでてこないとは限らない。
共和制。聞き慣れない言葉で難しい言葉だけど、それを逆手に悪さをするやつは湧いてくるのが世の中だ。
本当にクソみたいな世界。
それでも、守るのだ。終末から守られた以上この先は続く。ジャム・レッティング(CL3000612)はため息をついた。
真面目に真面目に。真面目なフリで。
先輩に怒られるのは御免だ。他の誰でもどうでもいいけれど、なぜだかあの人に怒られるのだけは。
――嫌だ。
「おうおう、真面目だな後輩」
気持ち悪いほどにごきげんな先輩。サブロウ・カイトー(CL3000363)。
「今日は新たなる一歩。しっかりと警戒しないと。いいか? 「見せる警備」を徹底するんだ。
おまわりさんの厳しい目があれば悪さもしにくくなる」
「へいへい」
「民の民による民のための政、か。
まっこと思い切ったことだ。むしろ民にとってこそ厳しい世になるだろうが、これも陛下が我らを信じてくださっている証左」
「そっすね」
おいおい、ジャム後輩と振り向く。
高いタッパにでかい尻。
いつみても好みド直球。
「いいしりだ」
「せんぱい……なにみてんすか」
「ん? 声に出てたか?」
「はい、はっきりと」
「おおう、いかんいかん! 僕も気が緩んでいるな」
「パイセン、しっかりしてくださいよ」
「ふむ。ではこのあと祭りに君を誘うぞ」
「は?」
「有言実行」
「ひえっ」
言ったからにはヤる! 言ってなくてもヤる。不言実行!
なんともはや。ドン引きする後輩。
サブローは自らの未熟を恥じる。もっと浪漫のある口説き文句はないのかと。
(なんすかなんすか)
言ったからにはヤるって、クソ真面目すぎる! いや真面目じゃないっすね。
絶対ムリだって、諦めてたのに。
もう、もう、もう。
ジャムは顔にはださなかったけれど。心は千々に乱れているのであった。
●祭りのざわめき。
「まあ想像する最悪ではなかったものの。普通あんな思い切ったことします?」
デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は非番のフレデリック・ミハイロフに愚痴る。
「まあな。驚いていないと言えば嘘だ」
「ここからは婚活ですよ!」
「彼の元にはいかないのかね?」
ぐいっと飲み物をデボラは飲み干して半眼になる。
「私もそろそろあの人に……チャンスはあったんですが本人を目の間にすると難しくて。
修練が足りないんでしょうか。これってそういうの必要なかったと思うんですが」
「乙女の恥じらいっていうものかね? なんとも可憐なことだ」
「だぁんちょおおおお! ねえ、練習させてくださいよ!!」
「私には妻がいるが……かわいい部下のため胸をかそう。
そうだな……かの御仁であれば情熱的なくらいが丁度いい。
手練手管に秀でた彼のことだ、逃げることも言い逃れすることもできないほど直球でな?」
「はい! コーチ!
愛してます! 好きです! 結婚してください!」
「いいぞ! デボラ! もっとだ!!」
「この世で一番好きです! 大好きです!!」
この騒ぎをききつけたかの御仁がデボラの一世一代の告白を目にするまであと45秒。
(どうせ過程まで把握しちゃうんですから! 問題なんかありません!)
乙女の謀略の結果は――まだ誰にもわからない。
祭りの喧騒をききながら。
故郷とは全く違う祭りの様子。
この時期故郷では夏祭りがあった。神と龍に舞を奉納するのが巫女としての自分の役目だった。
だから、意義もないのに場所すら違うのに舞ってみた。
しゃん、と鈴の音を鳴らして舞を終えると万雷の拍手。
ああ。せめて意味だけはあるのだと思って少しだけ誇らしくなる。
お辞儀だけして逃げるようにその場を後にした瀧河 雫(CL3000715)は人気のない路地を歩く。
龍は去り、地は消え、天を弑し、しかして人に平穏あり、か
かつてあった役目、それを奪った神への復讐、それはあたしの「やるべき事」だった
だが今は。なにもない。
白紙の未来を回避した行く先が自分自身の白紙。
やりたいことなんてなにも浮かばない。
自分の人生はお役目だけでおわるのだとおもっていたから。
新しい一歩を踏み出すのが億劫だった。
いや、怖かったのかもしれない。
雫は青い空を仰ぎ、新しいその一歩を――。
ナーサ・ライラム(CL3000594)は小さな袋を携えある人物をさがしていた。
「やあ、ナーサちゃん」
「その節はありがとうございました、いただいたブローチ、大切に使わせていただいています。差支えなければ、今後も是非仲良くしていただけますと幸いです!」
ヨアヒム・マイヤーの姿を見るが早いかナーサは小袋をおしつけた。
「お、おしゃれだね?」
袋から出したスカーフクリップをヨアヒムはつけると、ボウアンドクレープでお辞儀する。
「どうだい? 似合うかい? イケメンになった?」
「はい!!!」
素直に返事をするナーサにヨアヒムは一瞬たじろいだ。
彼はいつだって異性にはやさしい。あのブローチだって意味はないはず。
それでも、それでも彼が自分ががんばって選んだクリップを喜んでくれたのは嬉しかった。
この気持がどういう意味をもつのか今はわからないけど。
でも、素敵な変化が心に訪れるのではないかとすこしだけ、ほんの少しだけ思った。
「エールおかわり!」
なにもかもから開放された今!
夏! 青い空!! ときたらキンキンに冷えたエールっきゃない!
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は早速空になったグラスを高く上げる。
「調子がいいね?」
「ええ! おじさんじゃんじゃん持ってきて! 戦争もおわってのんでも怒られることはもうないんだもん!」
「はは。うちの樽を空にする気かい?」
「空になったら次にいくわよ? そんときはおじさんもお店はおひらき! 一緒に街にくりだしましょーー!」
ああ、おわったんだ!
日常生活が戻ってくる。
毎日アトリエで帽子のデッサン起こして、作って、売って、美味しい物食べて、飲んで、遊んで、笑って……!
きっと楽しい日々。
それが私達がえることのできた自由なのだから!!
「稼ぎ時ですぅ~~~」
いってバタバタ走るのはシェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。
今日も忙しそうにかき氷なんかを売っている。
今日はいつもより随分と暑いから商売の目端がきくというかなんというか。
「本日は暑い夏にピッタリのかき氷ですぅ〜! 宇治金時いかがですかぁ〜? いちごにオレンジ、キウイを凍らせて削った贅沢かき氷もおすすめですぅ!」
あ、それはおいしそうとアンネリーザは席をたつ。
「おじさんの分もかってきてあげるから一緒にたべましょー!」
「おう、お嬢ちゃんありがとうな。じゃあ、こっちはブルストのサービスだ!」
「おじさんかっこいーー!」
言ってシェリルのかき氷にはしっていくアンネリーザ。
「真夏に魔道の粋を集めたアイスコフィンかき氷、ぜひご賞味あれ〜!」
行列に心が折れて涙目でアンネリーザが帰ってくるまであと1分。
あっちこっちをガラミド・クタラージ(CL3000576)は歩き回る。
お片付けは祭りが終わったあとでいい。この平和を味わおう。
さっそく美味しそうな飯を発見!
「あ、ガラミドさん。あっちはだめ。品質のわりには高いわよ」
振り返ればミズヒトの女。たしかミズーリ・メイヴェンと言ったか。
「そうなのか?」
「あっちあっち、我が通商連名物のカラマリ焼きよ」
えへんとミズーリが胸をはる。なんだ営業かと思うが、まあ実際そのカラマリ焼きのたれの香りはガラミドの鼻腔をくすぐる。
それに美人さんに騙されるなら悪くないとも思う。
「まあ、なにはともあれ」
楽しく美味しくが一番だとガラミドは笑う。
これから先の未来は何をしようか。
喪われつつある錬金の記録を記すのもいい。もとの民族にもどるのもいい。
ああ、それが自由というものなのだから。
ノーヴェ・キャトル(CL3000638)とセーイ・キャトル(CL3000639)はアナを連れてアクアフェスタに湧くアデレードを案内する。
「……アナ、のお祭り……をしたい……か、ら……教えて、欲しい……」
「私の知ってる祭りは一日中炎をともした松明を持って精霊に呼び声をつづけ叫びいのりつづけるものです」
「そんなの突然やったらびっくりされるよね?」
セーイの言葉にさすがのアナ・ブルも頷く。それなりのインディオ外の常識というものは嗜んでいる。
「たのしそうなのに、あたたかい……なれそう」
「郷に行っては郷に従えという言葉をしりました」
「はは、そんなこといわずにインディオの文化を教えてよ。そんでアタカパさんたちの助けになりたい」
「助かる。
まだ大地は傷つき部族は怯えているはず。
私がいえることじゃないけれど」
「まだ、アタカパさんとまともに顔をあわせてないんだっけ?」
「うん……怖くて」
「アナ……指だして」
唐突にノーヴェが全く違う話をはじめる。戸惑いながらもアナは指をだす。
その指には花の指輪。
「勇気、のおまじない……
これでアタカパに話、できる……。
あとアナ、は……沢山…笑うこと……。 私、との……約束……だ、よ?……?……。 ふふ……。 約束、破り……は……頭、から……ガブ……って……される……から、ね?…………?……」
「……ありがとう」
「じゃあ、インディオ領にいこう。
オレたちだって、インディオの人達が居なかったら、俺達もこうして居られなかっただろうし……
お礼にいきたいんだ。アナも付き合ってよ。案内もしてほしいな」
「ああ、わかった」
そういってアナは笑う。
アナ、が笑う……と……私、は……あたたかい……。
●隠れ里
戦いは終わった。
ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は親友のレーナとかつての隠れ里に向かう。
もちろんそこには誰もいない。
寂しいそこがふたりの故郷で有った場所だ。
「なにもないね」
ティルダの言葉に親友は頷く。
でもそれほど悲しいわけではない。
ただ隠れ逃げ惑うしかなかった日々に比べれば今はまるで夢のようだ。
失ったはずの親友とも並んでたっている。
「みせてあげたかった」
奇しくもその親友の言葉は自分が思っている言葉と一緒だった。
ヨウセイが迫害されることもなく太陽の下、他の種族とも笑顔を会話できるなんて思ってもなかったこの幸せを亡くなった仲間にみせたかった。
でもそれはもうかなわない不可逆の過去はこころに堆積させるしかない。
できることはわすれないこと。
精一杯生きていくこと。
それを見守ってほしいから、ここにきた。
「いこっか」
そういって親友の手をとる。
「それではみんな! 行ってきます!」
●スペリオール湖
メモリアの歌声が遠く響く。
「ね? きてよかったでしょ? アードライ」
サーナ・フィレネ(CL3000681)はかつて敵であった同胞の少年の手を引いて笑う。
「わるくない」
無口でぶっきらぼうなアードライだけど、嫌がってはいないようだ。
もう敵同士じゃない。
随分とお祭りの空気に戸惑っているけどそれも可愛く思えた。
「これでもう世界はなくなったりしないよね。
ヨウセイだって、安心して暮らせるようになるよね」
「ああ、同胞と戦わなくてもいい。もう虐げられることはない」
うん、うん。
サーナは頷く。メモリアの曲調が変わった。優しい、故郷を思い出すようなウタ。
「私はね――」
サーナはこれまでのことを話す。アードライはそれを黙って聴く。
「――という、サーナの物語でした」
言って一礼すれば、無表情ながらもぱちぱちと手をたたくアードライ。
「次はアードライの物語。教えて?」
「つまらないぞ?」
「大丈夫。ききたいの」
「そうか、オレは――」
夜のなか紡がれた二人のヨウセイの物語。それはサーナとアードライふたりだけの秘密のお話。
●病院内
静かな病院でりんごの皮をむく音だけが聞こえる。
空気は重い。
むしろしゃべるなという圧さえ感じる。
「そのジズ、先輩?」
投げつけられたナイフが枕にささり羽毛が舞う。めちゃくちゃ怒っている。
ムリもない。神殿音楽隊の隊長であるジズは、ビジュ・アンブル(CL3000712)の容態を聞いてめちゃくちゃに怒った。
カタフラクトの接合部は壊死。
太ももまで切断し、そこから先のカタフラクトを換装の診断がくだされた。
戦う必要は正直なかった。だけど自分は「あの子」の意思を継いだから。もちろんジズには反対された。
それをおしてのこの結果だ。
後悔なんかはしていない。もともとカタフラクトだったのだ。その箇所が増えただけ。
元へルメリアの技術もあるしむしろ前より性能があがったくらい。
でも――。
彼女を悲しませたことだけは後悔している。なぜだか彼女の泣き顔はどうにも心に堪える。
キリだってきっとセフィロトの海で怒っているだろう。
仲間を失う悲しみ。自分だって味わったそれをもう一度彼らに思い起こさせてしまったのだ。
「ごめんなさい。
もう二度とこんな無茶はしない」
ジズの答えはないけれど。ふわりと頭が柔らかいものに包まれる。
「本当に、約束だからね」
ビジュはその約束に頷いた。
●とある地下牢
「おーい、アレイスター、新作のヌードル」
「おいおい、ルエっち、古いなあ、それもう食ったぜ。
もうちょい辛味があるほうが僕の好みだった」
「うわー! 一緒にたべようとおもったのに裏切られてるし味のネタバレまでされてる!
っていうかなんだよ、この快適そうな空間!」
アロハシャツに水着姿で蒸気扇風機で涼みつつ、かき氷なんて食っている自称いっきゅうせんぱんの男にルエ・アイドクレース(CL3000673)は半眼になる。
「まあいいや、このポテチ食べる? うまいぜ!
あ、そのヌードルも食べるよ」
「文句いったのに食べるのかよ! まあ俺もたべるけど」
ルエもふかふかのクッションに腰を埋め一緒に蒸気扇風機で涼をとる。
「自称戦犯って言うけど、同時に功労者じゃないの?
むしろ俺らの勝利を誰より願ってたのあんただろ。
祝勝会も出りゃいいのに」
「功労者はきみたちじゃないか? 僕ぁ神を殺したことなんてないさ。
だからここが特等席。
ずっと此処で死ぬまでいるのさ。
それに僕ぁそういう面倒な男だってしっているだろう?」
「はいはい、そのとおり。
でもな、あんたは未知の未来を楽しむ権利はちゃんとあるんだぜ?」
そんなルエの言葉にクローリーは薄く笑む。
「生きて、くれよ。気楽にでいいからさ」
クローリーは答えない。
「俺いつでもここにきてやるから」
「じゃあ、次にくるときは新作のお菓子でも用意しとくよ」
来るのはいやじゃないらしい。
「なんで、投獄中のあんたが俺より新作に詳しいのかわかんないけどな!」
そういってルエは笑った。
「やあ」
「やあ、よく似合ってるね、マグノリア・ホワイト
性別を隠すのはやめたのかい?」
「そうだね」
女物の浴衣姿のマグノリア・ホワイト(CL3000242)は少しでも祭りの気分をとアレイスター・クローリーの牢獄に訪問する。
「何の本をよんでるの?」
「つまらない冒険譚だよ? 君たちの冒険のほうが百倍もおもしろかった」
「いつまで、君は生きられるの?」
「さあね。運命次第さ」
「君らしくない言葉だね。ねえ、呪いを解いたご褒美がほしい」
そこでやっとクローリーは顔を上げた。
「君が死を望むなら執行人になるよ。だけどその前に……
君との子供がほしい」
「君はマザリモノだろう?」
確かにそれは少し先の未来で叶うことだろう。だが今それが叶うことは誰も知らない。それはクローリーですら。
少しの逡巡。
「すまないね」
「そ、そうだよね。僕は家畜同然だ。そんなものと子供を作るなんて」
「ああ、違うよ。
僕ぁね。もう妻はつくらないんだ。僕の妻は後にも先にも「三人」だけさ。
最期のはとんでもない押しかけ女房だったけどね。
それに僕ぁね。先を作らない。僕ぁここで行き止まりさ。
繋がった未知の未来に僕だけが繋がらない。それが僕の罪であり罰さ」
「そんなの……悲しすぎる」
泣きそうになる。どうしてこの男は――。
「ただ……残りの時間君が僕のそばにいるのは自由さ。君の唯一の願いが叶えることができないぶん、僕の残りの命は君とともにあるよ」
●海
「海!!!!!!!!」
「海!!!!!!」
おニューの水着姿のフリオ・フルフラット(CL3000454)はムサシマルと共に海に飛び込んでいく。
それはフリオにとって目標だったことのの一つ。
「へいへいおじょうちゃんイイカラダしてる、わらって笑ってでござる!」
なんてムサシマルに言われたらついついポーズのひとつはサービスしちゃう。
えらく際どいのを要求されたから逆にムサシマルの際どいのも撮影してやった。
「ところでさー」
「なんでありますか?」
「カップル多いでござるね。
あれか?!! ファイナル発情期でござるか?!?!」
「だめー!! それダメ!!! アウトであります!」
大騒ぎしつつも水に触れる以上はアクアディーネのことを思い出す。
オラクルのちからは喪われた。
水の女神との思い出もいつかどんどん色あせてくる。
だから忘れないように。ずっと思い出として輝いているように。
今楽しむことがあの「ヒト」の手向けになるのだから。
「ムサシマルさん、貝殻探しましょう」
「ん? あれでござるか? 貝殻を胸につけて……あっは~~ん★
ちっくしょう! デカ乳族はいいでござるな!!! けっ!」
「なにいってるんでありますか! 地下牢のおじいちゃんへのお土産でありますよ」
「めどい」
「そんな事言わずに!」
●サロン・シープ
まあまあにぎやかななことで。
窓際に座し、窓枠を指先でなぞり蔡 狼華(CL3000451)は呟く。
忙しいのは国の上層部だけ。一般市民においてはしばらくは平穏だろう。
いったい、今の自分は何者なのだろう――。
平和になった今だからこその問。
マダムに人の役にたてと言われた。だから剣技を磨き、自由騎士になった。
剣舞は優雅に美しく。より洗練されたとも思う。
もう、この剣は置いてもいいのだ。
マダムに問えばそのとおりだと言われるだろう。
だけど――。
剣を手放すことはまだできない。
誰かを守るためなんて高尚なものではない。
理由ごと置いていってしまえば自分は新しいじぶんへとなれるかもしれない。
だけど、だけど。
自分の中に燻る炎はいまだ消えない。
馬鹿らしいと思える日はいつくるのだろうか?
●保護施設
「おにーちゃんおしっこ~」
「おねーちゃん、うんこー」
「おくすりあげるー」
ラーゲリはじめ各地の戦災孤児の集められた保護施設は大騒ぎだ。
アーウィン・エピは自らその責任者になのりをあげた。
「おーい、チビども!! いいこにしてないとおやつやんねえぞ!」
彼は戦争で戦っている時なんかより生き生きとしている。
そんな彼をグローリア・アンヘル(CL3000214)は眩しく見つめる。
守りきった小さな命たち。好きな男の大切なもの。最初こそはうまく行かなかったものの、今では扱い方も手慣れてきている。
「おら、ガキども。定期検診だぞ!」
ぶかぶかの白衣姿の非時香・ツボミ(CL3000086)が叫ぶ。
「悪いな、ふたりとも手伝ってもらって」
アーウィンが申し訳なさそうに二人に言う。
「それは、オマエが居るから。ああそうだ贔屓だぞ! メスガキどもいいかー! 好きな男には贔屓するんだぞー!」
「この子たちに……美味しいものを食べさせてやりたい、祭りは楽しいものだと教えてやりたいし、いけないことをしたら叱ってやって、嬉しかったことは覚えていてやって、泣いたらお前と一緒に抱きしめてやろう
それってなんだか夫婦みたいだな」
「むっ!」
「むっ!」
二人の女の間に火花が散る。
「女のたたかいだー!!」
子どもたちがキャッキャしながら騒ぎ立てるのをアーウィンが諌める。
とはいえふたりとも彼がどちらかを選ぶのであれば、それを受け入れる覚悟はできている。
気兼ねなんてしてほしくない。
「あのさ」
世界は平和になった。望む職業について落ち着いた。
いつまでもモラトリアムのままではいられない。
「ふたりとも、なんかありがとうな。俺なんかのために」
「「なんかじゃない!!」」
ハモる言葉。
わかっている。このままでいられないことは。だから。それが今日であるとはおもってはいなかったけど。
だから、男ははっきりと決断する。
「俺はこのバカ医者が好きなんだと思う。
最初は大嫌いだった。
だけどそれでもこいつは一生懸命で。なんかかわいいなっておもった。好きなんだとおもった。
グローリアに意識しろっていわれてそれで、なんか気づいたんだとおもう。
グローリアのことは俺だって好きだ。けどそれはたぶんグローリアと同じ好きじゃないんだってて思う」
「オマエっ?! アーウィン?」
自分が選ばれるなん露ほどにも思っていなかったツボミは真っ赤になってバタバタしながらもグローリアはいいやつでかっこよくて、それからそれからとライバルのいいところをまくしたてる。
やめろ、余計に悲しくなる。
「そうか」
だめだ。今なくわけにはいかない。そんなことしたらあいつは気遣って私のいいところをたくさん言ってくれるだろう。
そんなの、そんなの。じゃあなぜ私じゃないのかなんて口に出してしまうだろう。そんなみじめなのはいやだ。
グローリアは必死に笑顔をみせる。下手くそだった笑顔。鏡をみて一生懸命練習した。
練習の成果はでてるはずだ。最高にかわいい笑顔、であるはずだ。
「グローリア、ごめ……」
「それ以上は言うな! あ、あいつ、漏らしてるじゃないか! しかたないやつだ! ちょっといってくる」
そういうとグローリアは部屋をとびだしていく。
泣くもんか、泣くもんか、泣くもんか。
「おねーちゃんイタイの?」
漏らした子供が申し訳無さそうにしながらも、自分を心配してくる。
「そうだな。痛いよ」
「どこが?」
「胸、かな?」
「いたいのとんでけ、おねえちゃんのイタイの飛んでけ!」
子供が一生懸命に胸を撫でる。
「おい、ぐろーりや」
袖がひかれて振り向けば、生意気そうな子供。確かヴィスマルクの兵器として使われていた、アーウィンのラーゲリで世話をしていたという子供だ。アロウといったか。
「あんなへたれたおとこはわすれろ。おまえはいいおんなだ。おれがつまにしてやる。おまえのよさはあんなやつよりおれがよくしっている。おまえのようなびじんはこんごもひくてあまただからおれがつばをつけておくんだ」
「生意気だぞ、アロウ」
笑ってグローリアはアロウのおでこを指先で弾く。
「なんだと、ぐろーりや、おれはぜったいおまえをつまにしてしゃわせにしてやれるおとこなんだからな」
痛そうに頭をかかえるアロウをグローリアはそっと抱きしめた。
●
「俺のような兵隊は、もうこの国には不要となる」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)の言葉に、マリアンナ・オリヴェルは咄嗟に返事をすることができなかった。
待ち合わせの場所、そこで合流してしばし談笑したのち、アデルが切り出したのだ。
「喜ばしいことのはずなんだが、俺は戦うこと以外の生き方を知らなくてな。……実を言うと、これからどうすればいいか、と、割と途方に暮れている」
「アデル……」
不安に駆られ、マリアンナが胸の前で手を握る。すると、
「心配してくれるなら、俺を助けてくれないか、マリアンナ」
「え?」
小さく驚くマリアンナの前で、アデルが自分の顔を覆う鉄仮面を脱いで、素顔を晒す。
「俺と一緒に、これからの生き方を考えてほしいんだ」
言葉と共にアデルの方から彼女へと、風がゆるく流れていく。
差し出された彼の手を取って、マリアンナは唇を開いた。そこから紡がれる答えは、当然、決まっていた。
それがプロポーズだったとアデルが気づくのは、恐るべきことに、数年経ったあとでのことだった。
●
すべて全部おわったから。
ステラ・モラル(CL3000709)は残されたとある男の後悔の記された手記を指先でめくる。
真実を知り、去来するのは複雑な思い。
あの強欲な男はすべてを手に入れたかった。
確信なんてなくても命をはることができる。
そこまで愛された母親が羨ましく思う。
ふう、とため息をつけば、かたわらの男が顔を覗き込む。
療養所で知り合った看護師の男。
「ごめんなさいね、こんなことに付き合わせちゃって」
遠く離れたヘルメリアの墓所。
父親の埋葬されたそこは寂しい丘の上。
「私は普通に生きるべきなのかしら」
女がつぶやけば男は頷く。
ずっと引きずる私でもいいと言ってくれた彼。
そんな彼と家族になるのもいいかと思った。
「ああ。そうだ、お父さん。
私への最後の愛として、■■■■■■■を私にちょうだい?」
墓標とも呼べないような小さな石碑にステラは呟くと腹部を撫でた。
●集合墓地で。
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は天に向かい祈る。
数多くの仲間が人が、神の戦いに巻き込まれその生命を失った。
名も知らない方々、罪なき民草。
背中を預け共に戦った方々。
「私は死に損ないましたが」
アニムス。魂の輝き。
道化師が、この周回でのみ発生したと言った奇跡の力。
都度、アンジェリカはその力を発動した。
だけど今になってはそれが何かはわからない。
自分だけではない。その魂の光の灯火は美しく、残酷なまでに輝いていた。
その光は仲間の命をも燃え尽きさせた。
死んだものと生きてもどったもの。
その分水嶺はいったいなんだったのだろう。
しかし生き残ったものの義務として。
自分はこの手の届くすべての未来を救い続けると墓標に誓う。
次の世代を担う子たちのために。
世界は滅びを回避した。
せかいはつづく。いのちはつづく。
終わりなきオラトリオのように。
人を愛し世界を愛し。
散っていったすべての英雄に安らかなる眠りを。
そして紡ぎつづけましょう。物語を。
永遠に続く未来に幸あれと。
ユーアンゲリオンが鳴り響く。
世界よとこしえに。
聖なるかな聖なるかな聖なるかな。
愛が世界を救わんことを。
I know that my Redeemer liveth...
わたしは知っている償いをするものを
Since by man came death...
それは死はたったひとりの誰かによって訪れたのだから
Behold, I tell you a mystery...
さあ、神秘を授けよう
The trumpet shall sound...
旅立ちのラッパの音、高く
Then shall be brought...
その時予言は成就する
O death, where is thy sting?...
ねえ、神様。あなたの勝利はどこに有る?
If God be for us...
もし運命が私達の味方であるのなら
Worthy is the Lamb...
屠られた子羊こそが――

†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
いろいろ考えての結果なのです。
スケジュール的に私のイベシナはこれでおしまいになります。
未来をHello worldにつなげることのできるお手伝いができていたら嬉しく思います。
カラマリ焼きはイカ焼きです。通商連に捕まったとある海鮮系海賊の人たちが心を入れ替えて商売してるようです。
わりとお祭りのたびに行商にきていて好評のようです。
アナパートはどくどくSTに監修を。
マリアンナパートは吾語STに執筆してもらっております。
参加ありがとうございました。
スケジュール的に私のイベシナはこれでおしまいになります。
未来をHello worldにつなげることのできるお手伝いができていたら嬉しく思います。
カラマリ焼きはイカ焼きです。通商連に捕まったとある海鮮系海賊の人たちが心を入れ替えて商売してるようです。
わりとお祭りのたびに行商にきていて好評のようです。
アナパートはどくどくSTに監修を。
マリアンナパートは吾語STに執筆してもらっております。
参加ありがとうございました。
FL送付済