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インディオと戦うだけの簡単な依頼

●
インディオという部族がいる。
パノプティコンを攻める際に接触した部族で、彼らの秘伝ともいえる精霊に祈祷する術式を教えてもらった。この術式に助けられたものも多いだろう。また、ソフ00時に降臨した神を倒すために戦力となったのもこの部族だ。
しかし、彼らは公的にはイ・ラプセルと同盟を結んでいないのである。
インディオとの接触時、交渉に向かった者との意見の食い違いにより交渉は決裂。以降、『公的な記録上は』インディオはイ・ラプセルには協力していないのである。彼らはあくまで自分達の土地を取り返すために独自で動き、イ・ラプセルに恭順あるいは共闘の条約を結んだわけではないのだ。
そしてパノプティコンを奪還し、急ぎ足でヴィスマルク攻略。その熱も冷めぬうちに創造神との戦いに突入する。そういった経緯もあり、インディオの扱いは後ろ送りになっていた。
インディオの目的は、彼らの故郷の土地である。それは地域1155を含めた旧パノプティコン領地。言ってしまえばそこを占領したイ・ラプセルの土地である。
土地。それは国の財産。
それを『公的には味方ではない』インディオに明け渡す理由はない。それは事情を知らない者たちの共通の言葉だった。言ってしまえば、労働の結果得た給金を、見知らぬ誰かに奪われるようなものだ。怒りを覚えて当然といえよう。共和制になるに至り、自分の土地を求める者も少なくないのだ。
イ・ラプセルの貴族は打倒インディオを掲げた。味方でもないものに戦争の報酬を受け取る権利はない。それにパノプティコンの王族の一人はインディオだった。やはりインディオは駆逐すべきだ。実際、それはイ・ラプセルの軍事力をもってすれば容易な話だ。
そして、インディオ側からすれば土地を占拠するのなら戦うしかないという方向になりつつある。相手がパノプティコンからイ・ラプセルになったに過ぎない。勝ち目がないとしても、座して屈するなどあってはならない。せめて一矢報いようという考えである。
かくして自由騎士が関与しないところで話は進み、両者激突。互いに犠牲を出す結果となったが、数の上で優位に立つイ・ラプセルはインディオという部族を駆逐した。
こうして国家に仇名すインディオは歴史から消え、イ・ラプセルの共和制は一歩進むのであった――
●
「――という流れになりそうなので、諸君らに協力願いたい」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は渋い顔ををして、自由騎士達を迎えた。
「要約すれば、インディオと戦争する流れをどうにか止めねばならん。インディオがかの土地を所有するに納得できる理由を作り、貴族諸侯が戦争に踏み切らないようにせねばならん」
貴族達がインディオを攻める理由は『功績がないから土地は渡さない』という事だ。イ・ラプセルに何らかのプラスがあるなら、土地の所有もやむなしとなる。――本音を言えば貴族諸侯も戦争はしたくないのだ。人道的な理由ではなく、経済的な理由で。少し脅せばインディオもおとなしくなると思ってたら、戦争ムードになりそうで困っているのが実情なのだ。
「自由騎士の誰かが土地を所有し、彼らに渡すとかでは?」
「それでは意味がない。ただの身内びいきで禍根は残る。インディオの中にも『敵』の慈悲を受け取れぬという声が出かねん。あくまでインディオという部族が土地を所有するに値する理由を作らねばならんのだ」
面倒なオーダーだ。両方に納得できるだけの理由を作らなくてはいけない。
「実のところ、理由づけの8割はクリアしている。
ソフ00時にアィーアツブスを倒すのに尽力したことは知るところでもある。彼らの土地所有に関する正当性もあるし、彼らもその土地以上の要求はしないと言っている。アィーアツブスにとどめを刺したのがインディオの人間なら話はスムーズだったのだが、それはやむなしだ」
ソフ00時に自由騎士以外の人間が神を殺した場合、創造神との戦いで介入してきた可能性は高い。具体的には『フィールドエフェクト:紫銀の光:病魔が世界崩壊を加速する。アインソフオウルの発動時間が15ターン早くなる』あたりか。
「つまり、残りの2割を埋めればいいのか」
「諸君らにはインディオと試合を行ってもらう。表向きは『代表者同士が土地の所有権をかけて戦う』という形式だ。インディオ側は元パノプティコン王族のアナ・ブルがまとめてくれて納得ずみだ。
インディオが勝てばそのまま土地を引き渡す流れにして、諸君らが勝っても自由騎士と渡り合えるだけの実力者ということで貴族諸侯に話を持っていける。『自由騎士と戦える実力者を恩義で鎖につなげるなら安いもの』あたりが落としどころだろう」
どちらにしても、インディオに優位に話を持っていく算段のようだ。ただまあ、意外な落とし穴があった。
「模擬戦とはいえ、手を抜けば貴族諸侯もそれを理由に何かを言ってくるだろう。くれぐれも、加減なきように」
心情はいろいろあるが、手加減してはいけない。インディオ達の実力を見せるのが目的なのだから、むしろ手加減はインディオのためにはならない。
「いろいろ手間をかけさせる。貴君らの協力に感謝する」
言って頭を下げるのは、王族・1734(nCL3000074)ことアナ・ブルである。アクアフェスタに併せてイ・ラプセルの水着を着ている。ある意味この国になじんだといえるだろう。
「それはそれとして、戦うのなら加減はしない。精霊に誓って勝利をつかみ取るつもりだ」
まあ、インディオ部族の喧嘩早さは変わらないようだが。
インディオという部族がいる。
パノプティコンを攻める際に接触した部族で、彼らの秘伝ともいえる精霊に祈祷する術式を教えてもらった。この術式に助けられたものも多いだろう。また、ソフ00時に降臨した神を倒すために戦力となったのもこの部族だ。
しかし、彼らは公的にはイ・ラプセルと同盟を結んでいないのである。
インディオとの接触時、交渉に向かった者との意見の食い違いにより交渉は決裂。以降、『公的な記録上は』インディオはイ・ラプセルには協力していないのである。彼らはあくまで自分達の土地を取り返すために独自で動き、イ・ラプセルに恭順あるいは共闘の条約を結んだわけではないのだ。
そしてパノプティコンを奪還し、急ぎ足でヴィスマルク攻略。その熱も冷めぬうちに創造神との戦いに突入する。そういった経緯もあり、インディオの扱いは後ろ送りになっていた。
インディオの目的は、彼らの故郷の土地である。それは地域1155を含めた旧パノプティコン領地。言ってしまえばそこを占領したイ・ラプセルの土地である。
土地。それは国の財産。
それを『公的には味方ではない』インディオに明け渡す理由はない。それは事情を知らない者たちの共通の言葉だった。言ってしまえば、労働の結果得た給金を、見知らぬ誰かに奪われるようなものだ。怒りを覚えて当然といえよう。共和制になるに至り、自分の土地を求める者も少なくないのだ。
イ・ラプセルの貴族は打倒インディオを掲げた。味方でもないものに戦争の報酬を受け取る権利はない。それにパノプティコンの王族の一人はインディオだった。やはりインディオは駆逐すべきだ。実際、それはイ・ラプセルの軍事力をもってすれば容易な話だ。
そして、インディオ側からすれば土地を占拠するのなら戦うしかないという方向になりつつある。相手がパノプティコンからイ・ラプセルになったに過ぎない。勝ち目がないとしても、座して屈するなどあってはならない。せめて一矢報いようという考えである。
かくして自由騎士が関与しないところで話は進み、両者激突。互いに犠牲を出す結果となったが、数の上で優位に立つイ・ラプセルはインディオという部族を駆逐した。
こうして国家に仇名すインディオは歴史から消え、イ・ラプセルの共和制は一歩進むのであった――
●
「――という流れになりそうなので、諸君らに協力願いたい」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は渋い顔ををして、自由騎士達を迎えた。
「要約すれば、インディオと戦争する流れをどうにか止めねばならん。インディオがかの土地を所有するに納得できる理由を作り、貴族諸侯が戦争に踏み切らないようにせねばならん」
貴族達がインディオを攻める理由は『功績がないから土地は渡さない』という事だ。イ・ラプセルに何らかのプラスがあるなら、土地の所有もやむなしとなる。――本音を言えば貴族諸侯も戦争はしたくないのだ。人道的な理由ではなく、経済的な理由で。少し脅せばインディオもおとなしくなると思ってたら、戦争ムードになりそうで困っているのが実情なのだ。
「自由騎士の誰かが土地を所有し、彼らに渡すとかでは?」
「それでは意味がない。ただの身内びいきで禍根は残る。インディオの中にも『敵』の慈悲を受け取れぬという声が出かねん。あくまでインディオという部族が土地を所有するに値する理由を作らねばならんのだ」
面倒なオーダーだ。両方に納得できるだけの理由を作らなくてはいけない。
「実のところ、理由づけの8割はクリアしている。
ソフ00時にアィーアツブスを倒すのに尽力したことは知るところでもある。彼らの土地所有に関する正当性もあるし、彼らもその土地以上の要求はしないと言っている。アィーアツブスにとどめを刺したのがインディオの人間なら話はスムーズだったのだが、それはやむなしだ」
ソフ00時に自由騎士以外の人間が神を殺した場合、創造神との戦いで介入してきた可能性は高い。具体的には『フィールドエフェクト:紫銀の光:病魔が世界崩壊を加速する。アインソフオウルの発動時間が15ターン早くなる』あたりか。
「つまり、残りの2割を埋めればいいのか」
「諸君らにはインディオと試合を行ってもらう。表向きは『代表者同士が土地の所有権をかけて戦う』という形式だ。インディオ側は元パノプティコン王族のアナ・ブルがまとめてくれて納得ずみだ。
インディオが勝てばそのまま土地を引き渡す流れにして、諸君らが勝っても自由騎士と渡り合えるだけの実力者ということで貴族諸侯に話を持っていける。『自由騎士と戦える実力者を恩義で鎖につなげるなら安いもの』あたりが落としどころだろう」
どちらにしても、インディオに優位に話を持っていく算段のようだ。ただまあ、意外な落とし穴があった。
「模擬戦とはいえ、手を抜けば貴族諸侯もそれを理由に何かを言ってくるだろう。くれぐれも、加減なきように」
心情はいろいろあるが、手加減してはいけない。インディオ達の実力を見せるのが目的なのだから、むしろ手加減はインディオのためにはならない。
「いろいろ手間をかけさせる。貴君らの協力に感謝する」
言って頭を下げるのは、王族・1734(nCL3000074)ことアナ・ブルである。アクアフェスタに併せてイ・ラプセルの水着を着ている。ある意味この国になじんだといえるだろう。
「それはそれとして、戦うのなら加減はしない。精霊に誓って勝利をつかみ取るつもりだ」
まあ、インディオ部族の喧嘩早さは変わらないようだが。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.インディオの代表者達と戦う
どくどくです。
インディオを滅亡させるために自由騎士頑張ってね、とかいう流れも実はありました。アナの状態がイベントの分かれ目。
●敵(?)情報
・インディオ
故郷の土地を求めてパノプティコンに対抗している部族、でした。今はその土地を所有しているイ・ラプセルと敵対しています。
土地の所有権をめぐり、最終的に「代表者同士での戦いで決着をつける」ことになりました。とはいえ、勝とうが負けようが土地はインディオにわたるように便宜します。最悪、戦争は回避されるでしょう。その辺はクラウスがうまくやります。
なお、インディオ側は殺さない程度に本気で殴り掛かってきます。
プレイング内に『インディオを殺す』等の意図がない限りは加減しているものとして扱います。キャラクターの攻撃でインディオが死ぬことはありません(プレイングに手加減するなどの明記は不要です)。
・王族1734(×1)
元パノプティコン王族。今はイ・ラプセルの囚人扱い。本名はアナ・ブル。オラクル。20代女性。斧を持って戦う重戦士っぽい祈祷師です。性格は真面目。イ・ラプセルとインディオをまとめる顔役です。
『ウンセギラ Lv5』『スカーレッド Lv4』『エスツァナトレヒ Lv3』『ウィワンヤンク・ワチピ Lv4』『ツァジグララル(EX)』を活性化しています。
ツァジグララル(EX): P 家族の守り手にして地獄の使いの女性型精霊。全ての攻撃に【必殺】が付与される。
・アタパカ・ブル(×1)
インディオ、ブル族の長。30歳男性。自由騎士に祈祷師スキルを目覚めさせるきっかけを持ってきた人です。イ・ラプセルという国というよりは自由騎士に協力している人間です。
『エスツァナトレヒ Lv5』『デ・ヒ・ノ・ヒノ Lv4』等を活性化しています。
・ハッスン・レニア(×1)
レニア族の族長。50代男性。イ・ラプセルもパノプティコンも敵だと認識しています。槍を手にして戦う軽戦士的です。敵だけど死なないようにはしてくれます。
『ピアッシングスラッシュ Lv4』『ワナゲメズワク Lv4』などを活性化しています。
・ワンブリー・トノス(×1)
トノス族の戦士。20代男性。魔を払う弓矢を得手とします。イ・ラプセルは警戒していますが、この戦いで決着がつくならよしと思っているようです。
『シルバーバレット Lv4』『ダブルシェル Lv4』『ワナゲメズワク Lv4』などを活性化しています。
・ターマ・トノス(×1)
トノス族の族長。150代女性。腰の曲がった老婆です。精霊の扱いに自信を持ち、イ・ラプセルがどの程度強いかを肌で感じたい狂戦士っぽい術師。土地は割と二の次。
『サンダーバード Lv4』『ウェンディゴ Lv4』『ヤックス Lv4』などを活性化しています。
・ニダウィ・レニア(×1)
レニア族の呪術医。10代女性。卍型の奇妙な形のダガーをふるい、味方を守りながら傷をいやします。あ、防御タンクスタイルです。強い攻撃を受けると戦意が増す防御型バーサーカー。
『ダブルカバーリング』『カテドラルの福音 Lv4』『ハーベストレイン Lv4』などを活性化しています。
●場所状況
イ・ラプセル内にある闘技場。広さは20m四方。明るさや足場は戦闘に支障ありません。
戦闘開始時、敵前衛に『王族1734』『ハッスン』『ニダウィ』が。後衛に『アタパカ』『ワンブリー』『ターマ』がいます
試合形式なので、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
インディオを滅亡させるために自由騎士頑張ってね、とかいう流れも実はありました。アナの状態がイベントの分かれ目。
●敵(?)情報
・インディオ
故郷の土地を求めてパノプティコンに対抗している部族、でした。今はその土地を所有しているイ・ラプセルと敵対しています。
土地の所有権をめぐり、最終的に「代表者同士での戦いで決着をつける」ことになりました。とはいえ、勝とうが負けようが土地はインディオにわたるように便宜します。最悪、戦争は回避されるでしょう。その辺はクラウスがうまくやります。
なお、インディオ側は殺さない程度に本気で殴り掛かってきます。
プレイング内に『インディオを殺す』等の意図がない限りは加減しているものとして扱います。キャラクターの攻撃でインディオが死ぬことはありません(プレイングに手加減するなどの明記は不要です)。
・王族1734(×1)
元パノプティコン王族。今はイ・ラプセルの囚人扱い。本名はアナ・ブル。オラクル。20代女性。斧を持って戦う重戦士っぽい祈祷師です。性格は真面目。イ・ラプセルとインディオをまとめる顔役です。
『ウンセギラ Lv5』『スカーレッド Lv4』『エスツァナトレヒ Lv3』『ウィワンヤンク・ワチピ Lv4』『ツァジグララル(EX)』を活性化しています。
ツァジグララル(EX): P 家族の守り手にして地獄の使いの女性型精霊。全ての攻撃に【必殺】が付与される。
・アタパカ・ブル(×1)
インディオ、ブル族の長。30歳男性。自由騎士に祈祷師スキルを目覚めさせるきっかけを持ってきた人です。イ・ラプセルという国というよりは自由騎士に協力している人間です。
『エスツァナトレヒ Lv5』『デ・ヒ・ノ・ヒノ Lv4』等を活性化しています。
・ハッスン・レニア(×1)
レニア族の族長。50代男性。イ・ラプセルもパノプティコンも敵だと認識しています。槍を手にして戦う軽戦士的です。敵だけど死なないようにはしてくれます。
『ピアッシングスラッシュ Lv4』『ワナゲメズワク Lv4』などを活性化しています。
・ワンブリー・トノス(×1)
トノス族の戦士。20代男性。魔を払う弓矢を得手とします。イ・ラプセルは警戒していますが、この戦いで決着がつくならよしと思っているようです。
『シルバーバレット Lv4』『ダブルシェル Lv4』『ワナゲメズワク Lv4』などを活性化しています。
・ターマ・トノス(×1)
トノス族の族長。150代女性。腰の曲がった老婆です。精霊の扱いに自信を持ち、イ・ラプセルがどの程度強いかを肌で感じたい狂戦士っぽい術師。土地は割と二の次。
『サンダーバード Lv4』『ウェンディゴ Lv4』『ヤックス Lv4』などを活性化しています。
・ニダウィ・レニア(×1)
レニア族の呪術医。10代女性。卍型の奇妙な形のダガーをふるい、味方を守りながら傷をいやします。あ、防御タンクスタイルです。強い攻撃を受けると戦意が増す防御型バーサーカー。
『ダブルカバーリング』『カテドラルの福音 Lv4』『ハーベストレイン Lv4』などを活性化しています。
●場所状況
イ・ラプセル内にある闘技場。広さは20m四方。明るさや足場は戦闘に支障ありません。
戦闘開始時、敵前衛に『王族1734』『ハッスン』『ニダウィ』が。後衛に『アタパカ』『ワンブリー』『ターマ』がいます
試合形式なので、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
4個
4個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2021年09月13日
2021年09月13日
†メイン参加者 6人†
●
「無理もない話か。諸侯たちにとっては」
インディオをめぐる事情を知った『戦争を記す者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はため息をつくように頷いた。インディオの記録書を読み取れば、イ・ラプセルとは袂を分かった形になる。共通の敵ではあるが、同盟は組んでいない。そう受け取られても仕方はない。
何よりも土地は国にとって生命線だ。開墾すれば住宅、農地、畜産といった人の生活の元となり、工場を建てれば生産力も高まる。何よりも土地を開発するという仕事を民に与え、経済を活性化できるのだ。人が住める土地なくして国家の繁栄はあり得ないのだから、貴族からすればそれをインディオに渡すなどありえない話なのだ。
「しかしそうも言ってられんか。少なくとも間に立つ必要はある」
「うん。土地は欲しい。あたしらも欲しいから」
頷くのは『神を討ちし剣』瀧河 雫(CL3000715)だ。アマノホカリという故郷をなくし、イ・ラプセルに居を構える雫。今の生活に不自由はないが、それでも望郷の思いが消えたわけではない。アマノホカリが蘇るというのなら、そのために戦うのはやぶさかではない。
自分達の土地は戻らないが、インディオ達は違う。ならば彼らのために戦おう。加減はしない。それがイ・ラプセルの貴族に納得させる条件ということもあるが、母なる大地のために戦う彼らに対する礼儀でもあった。
「手加減はしないから」
「そうだな。勝ちに行くぜ」
雫の言葉にうなずく『経済の父』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。商売人として土地に興味がないわけでもない。ただ開発などに使う体力労力などを考慮すれば数年何位でイ・ラプセルから離れることになるだろう。それを思って首を振った。
勝ち負けにこだわらず、相手の強さを引き出せればいい。だが負けてもいいなどとは思わない。戦術を立て、負けの要素を排除し、そして戦いに挑む。全力で勝ちに行くという姿勢を崩すつもりはない。
「うまく恩を売るとしようか。商売のネタにもなりそうだしな」
「彼らは独特の文化を築いている。希少な道具を持ってるかもね」
言いながら錬金術の道具を確認する『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。複数の部族から構成されるインディオ。神ではなく『精霊』を重んじる文化はこの大陸でも珍しい。深く付き合えば、何か面白い発見があるかもしれない。
そしてマグノリアの視線は一人の少女に向けられた。卍型のナイフを持つ守り手。あのナイフで攻撃をからめとって、返す刀で攻めるらしい。それもインディオの文化から生まれたのだろう。
「うん。強くなったね」
「彼らはずっと戦ってきたからね。連携もかなりのものだと思う」
セーイ・キャトル(CL3000639)はインディオ達を見ながらそう言った。水鏡という未来を見るデウスギアもなく、パノプティコンと戦ってきた彼ら。その戦いは容易ではなかっただろう。その戦いを生き抜いた部族であることを、強く意識する。
セーイは長くインディオと接してきた。なので心情的には彼らに無条件で土地を与えたくはあるが、そうもいかないのが国というものだ。煩わしくはあるが、感情だけでどうにもならないのが世界なのだということも理解している。
「よし、頑張ろう!」
「うん……。頑張る、ね」
セーイの言葉にうなずくノーヴェ・キャトル(CL3000638)。ノーヴェもまたインディオ達と長く接してきた自由騎士だ。その性格上、声を上げて主張はしないが彼らに救われてほしいといい思いは強い。
これまで何度も相対してきた王族1734。今はパノプティコンの王族ではなく、インディオの戦士として相対する。恨みもなく怒りもなく、ただ全力を尽くすだけの戦い。ただまっすぐに相手を見て、武器を構える。
「行くよ……アナ」
「ええ。相手させてもらうわ。ノーヴェ」
斧を構える王族1734――アナ・ブルと名乗ったインディオの娘。
「この戦い、精霊が共にあらんことを」
「精霊が共にあらんことを」
アタパカの言葉に、インディオ一同が口をそろえる。インディオなりの誓いの言葉なのだろうか。
イ・ラプセルの貴族たちが見守る中、両雄は相対する。遺恨はない。しかし膨れ上がる戦意は紛れもなく肌をざわつかせるほどの鋭さをもっていた。
試合開始の号砲と同時に、インディオと自由騎士たちはぶつかり合う。
●
「行く……よ」
一番最初の動いたのはノーヴェだ。持ち前の素早さを生かして進み、アナに迫る。相手の動くをけん制するように動き、しかし距離を放さない。手数と速度で相手を圧倒し、そのまま自分のペースに持ち込んでいく。
回転するノーヴェのカランビット。三日月状に歪曲したナイフは相手の間合いを狂わせる。相手に密着するほど迫り、四肢を裂くようにしながら距離をあける。相手の武器をはじき、そのまま懐に入る。変幻自在の動きを目に見えない速度で。これこそがノーヴェの真骨頂。
「アナは……すごく強い……。私は……すごくないけど……速く、動けるの……私の武器……だ、から……」
「ここまで動けてすごくないか。パノプティコンが勝てなかったわけだ。個人の長所よりも集団の規律を重んじてたからな」
「自由こそがイ・ラプセルの強みだからな。ついでに言うと、戦闘経験の差も俺たちの強さの秘訣だぜ!」
アナの言葉にウェルスが胸を張るように告げる。自由騎士の強さは個人の強みを、相談で最大限に発揮すること。水鏡が見出した情報をベースに、個人の強さを最大限発揮するように持っていくことだ。
両手に持った拳銃を手にインディオの守り手に迫り、至近距離で引き金を引いた。弾倉の中の弾丸すべてを叩き込むかのような遠慮のない攻撃。相手の防御を見抜き、その隙を縫うように弾丸を撃ち放っていく。力尽きて倒れた相手を見ながら、笑みを浮かべるウェルス。
「ま、こんなところだ。悪いが初手で倒させてもらったぜ」
「うん。加減はしないよ。戦士としてこの場に立ったんだから」
マグノリアはインディオ達を前に静かに言い放つ。かつてインディオとの交渉で通商連の船の中で出会った人もいる。その時は友好的に接し、今もその気持ちは変わらない。インディオとは善き関係を保ちたいし、これからもそうしたい。だからこそ、今手加減はできない。
それはインディオも同じなのだろう。その覚悟は伝わってくる。戦うことで故郷を取り戻そうとする彼らに対し手を抜くのは、無礼でしかない。錬金術の秘奥を用いてインディオ達を弱体化させ、こちらの攻撃を通しやすくする。
「彼らは、自分の意志で戦っている。その覚悟を、尊重するよ」
「さすがに対人経験の差は大きい。けど」
雫はインディオ達の動きを見ながら、戦闘経験の差を感じていた。純粋な力の差で言えば、自由騎士に軍配が上がるだろう。だがインディオ達は長年パノプティコンと戦ってきたキャリアがある。雫はそれを感じていた。
だが、雫には雫にしかないものもある。かつて持っていた宝剣はここにはない。だが、培った技術と『なぜか成長した』雫の力は失われていない。神楽を舞うように剣を振るい、インディオに攻撃を加えていく。機を見ては回復を行い、仲間を守っていく。
「大丈夫。何とかなりそうだ」
「そうだな。なんとかなる」
雫のつぶやきに応じるようにテオドールが頷く。政治的なインディオの扱い。諸侯たちとの落としどころ。そう言ったすべてをかんがみて、頷く。おぼろげではあるが道は見えている。あとはうまくその道を渡りきるだけだ。
そのためにも、今はこの戦闘を乗り切る必要がある。インディオの強さを示すため、手を抜くことは厳禁だ。白と黒の二本の杖に魔力を通し、術を展開する。生まれた魔力が病魔を産み、インディオ達を苛んでいく。
「諸侯たちにも筋はあろうが、インディオ達に筋を通さなければならぬ。さてうまく落としどころをつけねばな」
「国家は色々とややこしいんからね。人として見ると、インディオ達はいい人たちだけど」
ため息をつくようにセーイは肩をすくめた。多くの人間を有する国が正しい事ばかりではないことはセーイも知っている。それでも正しいと思うことを諦めるつもりはない。いい人たちが不幸な目にあうことはダメだ。その思いが、セーイを奮わせる。
ノーヴェに守りの術式を展開し、同時に相手の術式を破壊する矢を放つセーイ。折を見て大火力をインディオに叩き込む。少し先の未来を見て最善手を思考し、そして判断する。セーイは迷わない。迷わず突き進むことで誰かを救われると信じているから。
「今はこの戦いに集中! 負けないぞ!」
「貴方たちの献身には感謝する。この大恩をいつか返そう。たとえ玄孫の代となっても」
戦いのさなか、アタパカは自由騎士たちに告げる。
だからこそ全力で挑む。その言葉を示すようにインディオ達は攻め立ててくる。
その勢いを受け止めながら、自由騎士もギアを上げるように戦意を加速していく。
●
自由騎士とインディオは互いの特性を前面に出すように布陣し、ぶつかり合う。
自由騎士はウェルス、ノーヴェ、雫を前衛において攻撃を加えると同時にインディオ側の戦士を足止め。後衛のテオドール、セーイ、マグノリアは遠距離から魔法と錬金術でサポートを行っていた。
インディオ側は祈祷師の術を軸として強化と攻撃を繰り返す。範囲火力と強化。そして回復。精霊によりそれを為し、鍛えられた肉体で自由騎士たちと拮抗する。
「自由騎士の代表を名乗るには若輩だけど」
雫は自由騎士に参入して得た力を龍を奉じる自らの文化と融合させ、それを振るう。緩やかに見えて鋭く、優雅に見えて荒く。それは自然という現象を示すがごとく。龍が天候の化身なら、それを受け継ぐ雫の舞もまた自然の具現。
「強くなったね、ニダウィ」
マグノリアは自由騎士を止める盾となって戦ったインディオの少女を見てそう呟く。元からここまで強かったのか、あるいは強くなったのか。どうあれ、部族のために戦う決意をしたのは好ましい。機会があれば、ほめてやりたい。
「ここで一気に!」
インディオの攻勢に応えるように、セーイは魔術の光を解き放つ。極限まで練り上げた魔術エネルギーを手のひらに集め、一気に解き放つ。青の爆発が戦場を包み込み、ヤとなって降り注いだ。
「皆、家……あるのが、いい……。だから、頑張る……」
とぎれとぎれに言葉を放つノーヴェ。自分を強く表現することはないノーヴェだが、自分の考えがないわけではない。その意思を示すかのように刃を振るう。強く、鋭く。皆が温かい気持ちになれるようにと全力で。
「敵に回ると祈祷師の術は厄介だな。教えてくれたインディオ達に感謝しないとな」
貴族達に聞こえるようにいうウェルス。交渉の結果や他国の状況によっては祈祷師の術は他国にわたっていた可能性がある。それをイ・ラプセルに託したのはインディオ達だ。そのことに感謝しろ、と間接的に主張していた。
「うむ。多くの文化を受け入れるのがイ・ラプセルだ。共和制となる以上、インディオ部族をないがしろにはできまい」
イ・ラプセルは亜人をはじめとして多くの存在を受け入れる。それが最後の国王エドワード・イ・ラプセルの方針だ。土地を取るか、国としての在り方を取るか。経済を取るか、国の名誉を取るか。
「これで……終わり、だよ」
「見事、だ。さすがはイ・ラプセル。さすがは自由騎士」
ノーヴェの一閃でインディオの牙城であるアナが倒れれば、自由騎士の流れは止まらなくなる。インディオ側は一人また一人と倒れていく。
「後の事は任されてほしい。インディオ達に悪いようにはしない」
言いながらテオドールが魔力を練り上げる。インディオの祈祷術を展開し、彼らが伝えた術をアピールするように。
「記録上は無縁となっているが、汝ら部族の貢献は忘れない。この恩を返せずして、貴族を名乗る資格はない。我が名においてこの恩を返そう」
稲妻を纏う鳥が羽を広げる。その雷光が決着の光となった。
●
自由騎士とインディオの戦いは終わり、インディオの能力の高さは十分に貴族に示すことができた。互いの傷をいやして健闘を讃えあう。
「ん……皆、頑張った」
「そちらもな。負けはしたが、心地いい気分だ」
ノーヴェとアナは手を取り合い、戦いを反芻する。かつては敵対国として戦ったが、今はそういったしがらみはない。わだかまりのないぶつかり合い。こういう戦いもあるのだ。
「よく頑張ったね。君はもう、立派な戦士だよ」
マグノリアはニダヴィを抱きしめ、その頭を撫でていた。戦う理由を持ち自らを鍛えて敵に挑む。そこに年齢など関係ない。守られる子供ではなく、立派に戦った戦士としてマグノリアは褒めたたえていた。
「故郷か。……うん、そうだよね」
故郷を取り戻せると喜ぶインディオ達を見て、雫は瞑目する。雫の故郷、アマノホカリはもう戻らない。故郷を取り戻せるインディオ達をどういう気持ちで見ているのか。それは余人にはわからない。
「ここでインディオ達を滅ぼしてしまえば、後の歴史で悪し様にとらわれる可能性がある。諸侯らとしても家名に傷がつく行為は避けたいのではないか?」
「実際、あの場所を有用に使うとなると交通面でも面倒だ。そういう意味じゃ、土地の知識を持つものに任せたほうがいいんじゃないか?」
テオドールとウェルスは貴族達と話をしていた。インディオと彼らが伝えた祈祷師の術に関する有用性はすでに示した。あとは貴族を納得させるだけだ。テオドールは貴族のメンツ面から。ウェルスは商人としてのリスク面から。正義や正論よりも、損得勘定で腑に落ちる理由が役立つ事もある。
「そういえば、パノプティコンは地域1155と言ってましたけど、インディオ達はあの場所をなんて呼んでたんです?」
「アウタナだ。かつてはそこに天を衝く樹が生えていて、それが倒れた切り株が台地となった。そして枝が川に、そして森となったといわれている」
セーイの問いに応えるアタパカ。パノプティコンの自然が一本の樹木から生まれた。荒唐無稽な民話だが、真偽を知る者はもういない。
(アイドーネウスがあの場所に塔を建てたのは、その意趣返しなのかな。創造神がいる場所まで届く塔を建てて、何かをしようとしていたとか?)
ふと、そんなことを思うセーイ。真意はわからない。もとより話が通じる相手ではなかったのだ。
今は未来を見よう。自分達が得て、そしてこれから紡いでいく未来を。
かくしてイ・ラプセルとインディオとの戦争が起きる未来は回避された。インディオが元の土地に戻れる方向で話は進み、インディオ側もイ・ラプセルの土地開放に感謝する形で友好な関係を結ぶこととなった。
インディオは宣言通り自らの土地以上の領土を求めることはなく、他民族に対して友好的に接していく。自然と共にあるインディオ達は蒸気文明と融和せず、独特の価値観を伝承する形で歴史の中で生きていくこととなる。
遠い未来においても、インディオ部族は祖先が受けた恩を返すという理由で他民族を損得勘定抜きで献身的に助けるという。
その教えは子々孫々と受け継がれていく――
「無理もない話か。諸侯たちにとっては」
インディオをめぐる事情を知った『戦争を記す者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はため息をつくように頷いた。インディオの記録書を読み取れば、イ・ラプセルとは袂を分かった形になる。共通の敵ではあるが、同盟は組んでいない。そう受け取られても仕方はない。
何よりも土地は国にとって生命線だ。開墾すれば住宅、農地、畜産といった人の生活の元となり、工場を建てれば生産力も高まる。何よりも土地を開発するという仕事を民に与え、経済を活性化できるのだ。人が住める土地なくして国家の繁栄はあり得ないのだから、貴族からすればそれをインディオに渡すなどありえない話なのだ。
「しかしそうも言ってられんか。少なくとも間に立つ必要はある」
「うん。土地は欲しい。あたしらも欲しいから」
頷くのは『神を討ちし剣』瀧河 雫(CL3000715)だ。アマノホカリという故郷をなくし、イ・ラプセルに居を構える雫。今の生活に不自由はないが、それでも望郷の思いが消えたわけではない。アマノホカリが蘇るというのなら、そのために戦うのはやぶさかではない。
自分達の土地は戻らないが、インディオ達は違う。ならば彼らのために戦おう。加減はしない。それがイ・ラプセルの貴族に納得させる条件ということもあるが、母なる大地のために戦う彼らに対する礼儀でもあった。
「手加減はしないから」
「そうだな。勝ちに行くぜ」
雫の言葉にうなずく『経済の父』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。商売人として土地に興味がないわけでもない。ただ開発などに使う体力労力などを考慮すれば数年何位でイ・ラプセルから離れることになるだろう。それを思って首を振った。
勝ち負けにこだわらず、相手の強さを引き出せればいい。だが負けてもいいなどとは思わない。戦術を立て、負けの要素を排除し、そして戦いに挑む。全力で勝ちに行くという姿勢を崩すつもりはない。
「うまく恩を売るとしようか。商売のネタにもなりそうだしな」
「彼らは独特の文化を築いている。希少な道具を持ってるかもね」
言いながら錬金術の道具を確認する『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。複数の部族から構成されるインディオ。神ではなく『精霊』を重んじる文化はこの大陸でも珍しい。深く付き合えば、何か面白い発見があるかもしれない。
そしてマグノリアの視線は一人の少女に向けられた。卍型のナイフを持つ守り手。あのナイフで攻撃をからめとって、返す刀で攻めるらしい。それもインディオの文化から生まれたのだろう。
「うん。強くなったね」
「彼らはずっと戦ってきたからね。連携もかなりのものだと思う」
セーイ・キャトル(CL3000639)はインディオ達を見ながらそう言った。水鏡という未来を見るデウスギアもなく、パノプティコンと戦ってきた彼ら。その戦いは容易ではなかっただろう。その戦いを生き抜いた部族であることを、強く意識する。
セーイは長くインディオと接してきた。なので心情的には彼らに無条件で土地を与えたくはあるが、そうもいかないのが国というものだ。煩わしくはあるが、感情だけでどうにもならないのが世界なのだということも理解している。
「よし、頑張ろう!」
「うん……。頑張る、ね」
セーイの言葉にうなずくノーヴェ・キャトル(CL3000638)。ノーヴェもまたインディオ達と長く接してきた自由騎士だ。その性格上、声を上げて主張はしないが彼らに救われてほしいといい思いは強い。
これまで何度も相対してきた王族1734。今はパノプティコンの王族ではなく、インディオの戦士として相対する。恨みもなく怒りもなく、ただ全力を尽くすだけの戦い。ただまっすぐに相手を見て、武器を構える。
「行くよ……アナ」
「ええ。相手させてもらうわ。ノーヴェ」
斧を構える王族1734――アナ・ブルと名乗ったインディオの娘。
「この戦い、精霊が共にあらんことを」
「精霊が共にあらんことを」
アタパカの言葉に、インディオ一同が口をそろえる。インディオなりの誓いの言葉なのだろうか。
イ・ラプセルの貴族たちが見守る中、両雄は相対する。遺恨はない。しかし膨れ上がる戦意は紛れもなく肌をざわつかせるほどの鋭さをもっていた。
試合開始の号砲と同時に、インディオと自由騎士たちはぶつかり合う。
●
「行く……よ」
一番最初の動いたのはノーヴェだ。持ち前の素早さを生かして進み、アナに迫る。相手の動くをけん制するように動き、しかし距離を放さない。手数と速度で相手を圧倒し、そのまま自分のペースに持ち込んでいく。
回転するノーヴェのカランビット。三日月状に歪曲したナイフは相手の間合いを狂わせる。相手に密着するほど迫り、四肢を裂くようにしながら距離をあける。相手の武器をはじき、そのまま懐に入る。変幻自在の動きを目に見えない速度で。これこそがノーヴェの真骨頂。
「アナは……すごく強い……。私は……すごくないけど……速く、動けるの……私の武器……だ、から……」
「ここまで動けてすごくないか。パノプティコンが勝てなかったわけだ。個人の長所よりも集団の規律を重んじてたからな」
「自由こそがイ・ラプセルの強みだからな。ついでに言うと、戦闘経験の差も俺たちの強さの秘訣だぜ!」
アナの言葉にウェルスが胸を張るように告げる。自由騎士の強さは個人の強みを、相談で最大限に発揮すること。水鏡が見出した情報をベースに、個人の強さを最大限発揮するように持っていくことだ。
両手に持った拳銃を手にインディオの守り手に迫り、至近距離で引き金を引いた。弾倉の中の弾丸すべてを叩き込むかのような遠慮のない攻撃。相手の防御を見抜き、その隙を縫うように弾丸を撃ち放っていく。力尽きて倒れた相手を見ながら、笑みを浮かべるウェルス。
「ま、こんなところだ。悪いが初手で倒させてもらったぜ」
「うん。加減はしないよ。戦士としてこの場に立ったんだから」
マグノリアはインディオ達を前に静かに言い放つ。かつてインディオとの交渉で通商連の船の中で出会った人もいる。その時は友好的に接し、今もその気持ちは変わらない。インディオとは善き関係を保ちたいし、これからもそうしたい。だからこそ、今手加減はできない。
それはインディオも同じなのだろう。その覚悟は伝わってくる。戦うことで故郷を取り戻そうとする彼らに対し手を抜くのは、無礼でしかない。錬金術の秘奥を用いてインディオ達を弱体化させ、こちらの攻撃を通しやすくする。
「彼らは、自分の意志で戦っている。その覚悟を、尊重するよ」
「さすがに対人経験の差は大きい。けど」
雫はインディオ達の動きを見ながら、戦闘経験の差を感じていた。純粋な力の差で言えば、自由騎士に軍配が上がるだろう。だがインディオ達は長年パノプティコンと戦ってきたキャリアがある。雫はそれを感じていた。
だが、雫には雫にしかないものもある。かつて持っていた宝剣はここにはない。だが、培った技術と『なぜか成長した』雫の力は失われていない。神楽を舞うように剣を振るい、インディオに攻撃を加えていく。機を見ては回復を行い、仲間を守っていく。
「大丈夫。何とかなりそうだ」
「そうだな。なんとかなる」
雫のつぶやきに応じるようにテオドールが頷く。政治的なインディオの扱い。諸侯たちとの落としどころ。そう言ったすべてをかんがみて、頷く。おぼろげではあるが道は見えている。あとはうまくその道を渡りきるだけだ。
そのためにも、今はこの戦闘を乗り切る必要がある。インディオの強さを示すため、手を抜くことは厳禁だ。白と黒の二本の杖に魔力を通し、術を展開する。生まれた魔力が病魔を産み、インディオ達を苛んでいく。
「諸侯たちにも筋はあろうが、インディオ達に筋を通さなければならぬ。さてうまく落としどころをつけねばな」
「国家は色々とややこしいんからね。人として見ると、インディオ達はいい人たちだけど」
ため息をつくようにセーイは肩をすくめた。多くの人間を有する国が正しい事ばかりではないことはセーイも知っている。それでも正しいと思うことを諦めるつもりはない。いい人たちが不幸な目にあうことはダメだ。その思いが、セーイを奮わせる。
ノーヴェに守りの術式を展開し、同時に相手の術式を破壊する矢を放つセーイ。折を見て大火力をインディオに叩き込む。少し先の未来を見て最善手を思考し、そして判断する。セーイは迷わない。迷わず突き進むことで誰かを救われると信じているから。
「今はこの戦いに集中! 負けないぞ!」
「貴方たちの献身には感謝する。この大恩をいつか返そう。たとえ玄孫の代となっても」
戦いのさなか、アタパカは自由騎士たちに告げる。
だからこそ全力で挑む。その言葉を示すようにインディオ達は攻め立ててくる。
その勢いを受け止めながら、自由騎士もギアを上げるように戦意を加速していく。
●
自由騎士とインディオは互いの特性を前面に出すように布陣し、ぶつかり合う。
自由騎士はウェルス、ノーヴェ、雫を前衛において攻撃を加えると同時にインディオ側の戦士を足止め。後衛のテオドール、セーイ、マグノリアは遠距離から魔法と錬金術でサポートを行っていた。
インディオ側は祈祷師の術を軸として強化と攻撃を繰り返す。範囲火力と強化。そして回復。精霊によりそれを為し、鍛えられた肉体で自由騎士たちと拮抗する。
「自由騎士の代表を名乗るには若輩だけど」
雫は自由騎士に参入して得た力を龍を奉じる自らの文化と融合させ、それを振るう。緩やかに見えて鋭く、優雅に見えて荒く。それは自然という現象を示すがごとく。龍が天候の化身なら、それを受け継ぐ雫の舞もまた自然の具現。
「強くなったね、ニダウィ」
マグノリアは自由騎士を止める盾となって戦ったインディオの少女を見てそう呟く。元からここまで強かったのか、あるいは強くなったのか。どうあれ、部族のために戦う決意をしたのは好ましい。機会があれば、ほめてやりたい。
「ここで一気に!」
インディオの攻勢に応えるように、セーイは魔術の光を解き放つ。極限まで練り上げた魔術エネルギーを手のひらに集め、一気に解き放つ。青の爆発が戦場を包み込み、ヤとなって降り注いだ。
「皆、家……あるのが、いい……。だから、頑張る……」
とぎれとぎれに言葉を放つノーヴェ。自分を強く表現することはないノーヴェだが、自分の考えがないわけではない。その意思を示すかのように刃を振るう。強く、鋭く。皆が温かい気持ちになれるようにと全力で。
「敵に回ると祈祷師の術は厄介だな。教えてくれたインディオ達に感謝しないとな」
貴族達に聞こえるようにいうウェルス。交渉の結果や他国の状況によっては祈祷師の術は他国にわたっていた可能性がある。それをイ・ラプセルに託したのはインディオ達だ。そのことに感謝しろ、と間接的に主張していた。
「うむ。多くの文化を受け入れるのがイ・ラプセルだ。共和制となる以上、インディオ部族をないがしろにはできまい」
イ・ラプセルは亜人をはじめとして多くの存在を受け入れる。それが最後の国王エドワード・イ・ラプセルの方針だ。土地を取るか、国としての在り方を取るか。経済を取るか、国の名誉を取るか。
「これで……終わり、だよ」
「見事、だ。さすがはイ・ラプセル。さすがは自由騎士」
ノーヴェの一閃でインディオの牙城であるアナが倒れれば、自由騎士の流れは止まらなくなる。インディオ側は一人また一人と倒れていく。
「後の事は任されてほしい。インディオ達に悪いようにはしない」
言いながらテオドールが魔力を練り上げる。インディオの祈祷術を展開し、彼らが伝えた術をアピールするように。
「記録上は無縁となっているが、汝ら部族の貢献は忘れない。この恩を返せずして、貴族を名乗る資格はない。我が名においてこの恩を返そう」
稲妻を纏う鳥が羽を広げる。その雷光が決着の光となった。
●
自由騎士とインディオの戦いは終わり、インディオの能力の高さは十分に貴族に示すことができた。互いの傷をいやして健闘を讃えあう。
「ん……皆、頑張った」
「そちらもな。負けはしたが、心地いい気分だ」
ノーヴェとアナは手を取り合い、戦いを反芻する。かつては敵対国として戦ったが、今はそういったしがらみはない。わだかまりのないぶつかり合い。こういう戦いもあるのだ。
「よく頑張ったね。君はもう、立派な戦士だよ」
マグノリアはニダヴィを抱きしめ、その頭を撫でていた。戦う理由を持ち自らを鍛えて敵に挑む。そこに年齢など関係ない。守られる子供ではなく、立派に戦った戦士としてマグノリアは褒めたたえていた。
「故郷か。……うん、そうだよね」
故郷を取り戻せると喜ぶインディオ達を見て、雫は瞑目する。雫の故郷、アマノホカリはもう戻らない。故郷を取り戻せるインディオ達をどういう気持ちで見ているのか。それは余人にはわからない。
「ここでインディオ達を滅ぼしてしまえば、後の歴史で悪し様にとらわれる可能性がある。諸侯らとしても家名に傷がつく行為は避けたいのではないか?」
「実際、あの場所を有用に使うとなると交通面でも面倒だ。そういう意味じゃ、土地の知識を持つものに任せたほうがいいんじゃないか?」
テオドールとウェルスは貴族達と話をしていた。インディオと彼らが伝えた祈祷師の術に関する有用性はすでに示した。あとは貴族を納得させるだけだ。テオドールは貴族のメンツ面から。ウェルスは商人としてのリスク面から。正義や正論よりも、損得勘定で腑に落ちる理由が役立つ事もある。
「そういえば、パノプティコンは地域1155と言ってましたけど、インディオ達はあの場所をなんて呼んでたんです?」
「アウタナだ。かつてはそこに天を衝く樹が生えていて、それが倒れた切り株が台地となった。そして枝が川に、そして森となったといわれている」
セーイの問いに応えるアタパカ。パノプティコンの自然が一本の樹木から生まれた。荒唐無稽な民話だが、真偽を知る者はもういない。
(アイドーネウスがあの場所に塔を建てたのは、その意趣返しなのかな。創造神がいる場所まで届く塔を建てて、何かをしようとしていたとか?)
ふと、そんなことを思うセーイ。真意はわからない。もとより話が通じる相手ではなかったのだ。
今は未来を見よう。自分達が得て、そしてこれから紡いでいく未来を。
かくしてイ・ラプセルとインディオとの戦争が起きる未来は回避された。インディオが元の土地に戻れる方向で話は進み、インディオ側もイ・ラプセルの土地開放に感謝する形で友好な関係を結ぶこととなった。
インディオは宣言通り自らの土地以上の領土を求めることはなく、他民族に対して友好的に接していく。自然と共にあるインディオ達は蒸気文明と融和せず、独特の価値観を伝承する形で歴史の中で生きていくこととなる。
遠い未来においても、インディオ部族は祖先が受けた恩を返すという理由で他民族を損得勘定抜きで献身的に助けるという。
その教えは子々孫々と受け継がれていく――