MagiaSteam
【鉄血侵攻】Zealot! 鉄壁を砕く熱き楔!




 レガート砦――
 ヴィスマルク領地から最もイ・ラプセル領地に近いヴィスマルクの軍事拠点だ。かつてあった古城を修繕して利用している砦である。
 かつては鉄壁を誇った城だが、兵器技術の発達によりそのほとんどは足止め程度にしかならない。城壁は遠距離からの砲撃で破壊できるし、堀も塹壕の代わりにしかならない。
 唯一通用しそうなのは鉄製に変えた跳ね橋だが、それも内部に潜入していたレティーナ・フォルゲン(nCL3000063)の工作によりその一つが破壊され、下ろされていた。修理は難しくないが、戦争中にその人員を割く余裕はない。
 自由騎士達はそこから潜入し、戦闘を開始する――

●倉庫
「うわわわわわ、戦争だー。ええと、安全装置はこれだっけ?」
 オリヴァー・フライターク大尉は慣れない手つきで銃を扱い、構える。どう見ても素人の動きなのは事務員ゆえに仕方ない。
「大尉は足手まといなのですから下がってください!」
「はいぃ! ああ、大丈夫かなぁ? なんか物資が上手く回っていない予感がする。こういう時にこう動け、っていうマニュアルは作ったんだけど」
 戦争の混乱の中、フライタークはそんなことを心配していた。最も、自由騎士達の作戦でフライタークへの不信は高まり、そのマニュアルは実行されずにいたのだが。そのせいもあって、砦の物資は上手く回っていなかった。
「イ・ラプセルの連中は俺達が相手します。大尉はそこで大人しくしていてください」
「紙とハンコしか使えないんですから、とっとと逃げてもいいんですぜ?」
「最先任(この場で一番階級が高い人)なんで命令には従いますがね」
「うう……。分かってはいるけど、役立たずでごめんなさい」
 レガート砦で交戦する歩兵達。荒くれ共ではあるが、その練度は高い。物資を保管する倉庫に陣取り、潜入する自由騎士達に抵抗していた。

●広場
「ドラード、回せ!」
 オットー・ベルネット軍曹は格納庫から出てくる戦車を誘導するように手を回す。何名かの兵士達もその手伝いを行い、レガート砦の中央部に戦車を布陣させる。ここなら砦の何処にも砲撃を加えることが出来る。
「撃て撃て撃て! お前ら、この砦がなけりゃ田舎に帰れるかもって思ってたろ! 俺もだ! 許可が出たんで撃ちまくれ!」
 ドラードと呼ばれた戦車に乗った兵士達は、砦内に砲撃を開始する。そこに居る自由騎士を巻き込むように。
(大佐も思い切ったなぁ。敵に渡すぐらいなら壊してしまえとか。上手く追い返せれば直すのは俺達なんだけど……ま、それはそれだ。いまはイ・ラプセルを倒すことを考えなきゃな!)
 ベルネット軍曹は洗車を守るべく蒸気騎士の鎧を起動させる。
「さあ来な、自由騎士共! ぶっ殺してやるぜ!」

●大佐
「あれだけの兵の数を運んだとなると……ふむ、私の策を利用されたのか」
 ディークマン大佐は砦の外に陣取るイ・ラプセル軍を見て、判断を下した。中佐を暗殺した手際と言い、イ・ラプセル達はなかなか手練れだと言わざるを得まい。
「ドラードは中央位置で砲撃を続けさせろ。信号弾と共に兵士達は撤退」
「この砦を捨てるのですか!?」
「兵が残れば再起は可能だ。最も私はウーリヒ中佐の件も含めて、責任を取らされ更迭だろうがな。
 とはいえ、タダでやられるつもりもない。できるだけ抵抗させてもらおう」
 言って大佐はヴィスマルク軍支給のサーベルを手にする。数度振ってその重さを機械の手に覚えさせ、そのまま歩き出す。
 自由騎士達が攻めてくるであろう戦場に。
「たまには体を動かすのも悪くはない。若いころを思い出すとしようか」

●鉄血侵攻!
 イ・ラプセルの工作により十全とは言えないレガート砦。
 この機を逃さず、一気呵成に攻め立てよ――!



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
大規模シナリオ
シナリオカテゴリー
S級指令
担当ST
どくどく
■成功条件
1.【倉庫】の制圧
2.【広場】の戦車破壊
3.【大佐】の打破
 どくどくです。
 ヴィスマルク進軍――!


●敵情報
【倉庫】
 兵士達が拠点としている倉庫です。多くの侵火槍兵団(歩兵科)がそこを守っています。ここを制圧できなかった場合、残存兵が【大佐】【広場】の元に向かいます。

◆侵火槍兵団(×30)
 ヴィスマルクの歩兵です。軽戦士15名。ガンナー10名。ネクロマンサー5名の構成です。全員RANK2までのスキルで攻撃してきます。

◆『鬼アイロン』(×2)
 車輪がついた大砲。先端に鋭角状の盾状装甲がついています。
 硬い装甲(高防御 高HP)を持ち、砲弾(遠距離 防御無視 溜1)を撃ってきます。

◆オリヴァー・フライターク
 ノウブルのガンナー。20代男性。所属は侵火槍兵団(歩兵科)。階級は大尉。後方で食料や軍靴などの物品配給を担う事務員です。戦力にならないけの役立たずです。
 宣言だけで無力化、或いは殺害が出来ます。
『ヘッドショット Lv1』『ゼロレンジバースト Lv1』『ペーパーロジスティクス(EX)』等を活性化しています。

『ペーパーロジスティクス』:P 事前準備と後方支援は大事です。味方全体にかかるシナリオ中の不利な効果を一つ打ち消す。自身に『行動不能率50%』が追加される。


【広場】
 砦中央の広場です。ドラードと呼ばれる戦車が陣取り、砦中に砲撃を加えています。ここを制圧できなかった場合、重傷率とフラグメンツ減少値が上がります。

◆鋼炎機甲団(×15)
 戦車の随行兵です。蒸気騎士10名、防御タンク5名の構成です。全員RANK2までのスキルで攻撃してきます。
 破壊工作の結果【MPロス100】が付いています。

◆『ドラード』(×1)
 赤いペイントが施された戦車です。主砲で砦中を撃ち、爆風と壁の欠片ををばらまいています(遠距離 全体攻撃 溜2)。防御力も高く、状態異常もかかりにくいでしょう。
 攻撃されれば副砲(遠距離 範囲)で掃射してきます。
 破壊工作の結果【MPロス100】が付いています。

◆オットー・ベルネット(×1)
 ノウブルの蒸気騎士。30代男性。所属は鋼炎機甲団(機甲科)。階級は軍曹。戦車の随伴歩兵として数多の戦場を戦車と共にわたりぬけた歴戦の軍人。一般兵を纏める立場です。
『バーサーク Lv3』『バンダースナッチ Lv2』『ヴォーパルソード Lv3』『マッドハッター Lv4』等を活性化しています。
 破壊工作の結果【MPロス100】が付いています。


【大佐】
 ディークマン大佐のいる陣営です。目立つように自由騎士達に向かって進んでいます。
 損害が一定数を上回るかディークマン大佐が戦闘不能になると、撤退します。

◆侵火槍兵団(×35)
 ヴィスマルクの歩兵です。重戦士10名。ガンナー10名。魔導士10名。ヒーラー5名の構成です。全員RANK2までのスキルで攻撃してきます。
 破壊工作の結果【MPロス100】が付いています。

モーリッツ・ディークマン
 キジン(ハーフ)の重戦士。40代男性。所属は侵火槍兵団(歩兵科)。階級は大佐。レガート砦の総責任者です。兵を逃がすための殿として、囮になるつもりです。
『バッシュ Lv4』『ウォーモンガー Lv4』『テンペスト Lv3』『ヴァイヒレールザッツ(EX)』等を活性化しています。
 破壊工作の結果【MPロス100】が付いています。

『ヴァイヒレールザッツ(EX)』:A(強化) 攻味遠全 柔軟な定理。状況に応じた的確な指揮。味方全体の攻撃力、魔導力、命中、回避が上昇。


★場所情報
 ヴィスマルク領、レガート砦。。時刻は夜。砦内に明かりはあるため、戦闘に支障はなし。
 戦場は【倉庫】【広場】【大佐】の三つに分かれます。プレイング、もしくはEXプレイングにどこに行くかを明記してください。書かれていない場合、ランダムな場所に配置されます(人の少ない所に行く、『特定のNPC』を殴る、など書かれてあってもです)。
 他戦場への移動は時間的かつ距離的な問題で不可能です。

●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。

 皆様からのプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
5個  5個  5個  5個
15モル 
参加費
50LP
相談日数
9日
参加人数
42/∞
公開日
2020年08月10日

†メイン参加者 42人†

『明日への導き手』
フリオ・フルフラット(CL3000454)
『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)
『みつまめの愛想ない方』
マリア・カゲ山(CL3000337)
『鬼神楽』
蔡 狼華(CL3000451)
『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『黒砂糖はたからもの』
リサ・スターリング(CL3000343)
『平和を愛する農夫』
ナバル・ジーロン(CL3000441)
『水銀を伝えし者』
リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『神落とす北風』
ジーニー・レイン(CL3000647)
『RE:LIGARE』
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『望郷のミンネザング』
キリ・カーレント(CL3000547)


●倉庫Ⅰ
 木箱などの簡易バリケードが組まれ、ヴィスマルク兵が立てこもる倉庫。
「はわ〜。ここはぁ人数が多いですねぇ〜」
 倉庫に立てこもるヴィスマルク兵士達を見て、『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)はため息をつく。戦車や砦の管理人を避けてきたが、ここはここで激戦だ。
「やることはやりますぉよ~。頑張りまぁす!」
 言葉と共に解き放たれた炎。それが紅蓮の絨毯となって戦場に広がり、敵を焼いていく。広範囲にヴィスマルク兵の体力を奪い、疲弊させていく。
「ドッカンドッカン行きますよ〜」
「出来れば厄介なネクロマンサーから叩きたいけど……」
 敵陣奥に居る魔術師風の兵士を見ながら『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)は唸りをあげる。敵兵士の数が多く、一足飛びにそこに向かうのは無理だろう。乱戦とはいえ、無策で突撃すれば囲まれるのがオチだ。
「出来ることを少しずつ! いくよー!」
 頬を叩いて、リサは進む。拳を握って足を踏みしめる。銃剣を構えるヴィスマルク兵士に向かい、意識を集中させた。足の位置、向き、そして動き。そこから相手の攻撃を予測し、身をかがめて避ける。その動きを殺すことなく前に進み、敵を穿つリサ。
「皆、頑張ろう!」
「はい。これも神の蟲毒に勝つためです!」
 言って自らに活を入れるセアラ・ラングフォード(CL3000634)。争いごとは苦手だが、神の蟲毒に勝たなければ世界が消える。人も、その営みも、その全てが消え去ってしまうのだ。その未来を止める為に戦わねばならない。
「皆さん。無理はしないでくださいね」
 言って癒しの術を行使するセアラ。ヴィスマルク兵士の抵抗は激しく、無傷ではいられないだろう。それでも誰も傷つくことのないようにしたい。セアラはそう思いながら術を解き放った。
「癒しが必要な方は言ってくださいね」
「うむ、かたじけない。では思う存分暴れるとしよう」
 癒しの術を受けて鷹揚に頷く『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)。数回切り結び、その練度を知って笑みを浮かべる。押し返す力、足の動き、距離の取り方。成程列強の兵士だと頷いていた。
「相手にとって不足なし。戦りがいがある」
 仕切り直しとばかりに一旦距離を開けるヨツカ。呼気一つついた後に、地を蹴ってヴィスマルク兵士に迫る。撃ち重なる鋼と刃金。火花が散り、金属同士がぶつかり合う激しい音。数合打ち合った後、ヨツカの刀は兵士を捕らえ、打ち倒す。
「まだまだ暴れたりんな。もっとかかってくるがいい!」
「よぉ、がんばるなぁ。うちも負けてられんで!」
 立ち回る味方を見ながら『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は笑みを浮かべた。この砦をしっかり落としておかないと、橋頭保もままならない。しっかり落として、次の戦いの足場にするのだ。
「うちの動きについてこれる? しっかり狙いぃや!」
 機械の足で地面を蹴って、アリシアが戦場を駆け回る。ステップのリズムと回数、そして踊り。その全てが起因となって、魔を刻む。生まれた不可視の大渦がヴィスマルク兵の動きを捕らえ、足止めした相手をアリシアの足が打ち倒していく。
「どないや! まだまだ始まったばかりやで!」
「レガート砦魂舐めんなよ!」
 自由騎士の猛攻を前に、いきり立つヴィスマルク兵達。
 戦いはまだ、始まったばかりだ。

●幕間Ⅰ
「……え?」
『毎日が知識の勉強』ナーサ・ライラム(CL3000594)は進む道を間違えたのか、何時しか仲間の姿を見失っていた。戦闘音は聞こえるが、仲間の声は聞こえない。道を間違えたのかと踵を返そうとして、虚脱感に見舞われる。
「あ……。これ、は……」
 足が揺れ、崩れ落ちる。背中に刺さった刃物のような感覚。背後から投擲ナイフで背中を刺されたのだと気付いたのは、気を失う寸前だった。
「任務完了」
 砦門の戦いを終えて駆け付けたツヴァイ・エルベ。彼はそう言い放ち、次の戦場に向かう。 

●広場Ⅰ
『ドラード』の主砲が火を噴き、周囲の建物が破壊される。
「占領されるぐらいなら砦を破壊するつもりですか。それは困りますね」
 戦車の動きを見ながら『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)は小さく頷いた。イ・ラプセルを止められないと判断したのか、要所要所を破棄するヴィスマルク軍。イ・ラプセルの橋頭保にさせまいという悪あがきだ。
「戦車は任せます。私は鋼炎機甲団の数を減らしましょう」
 言ってマリアは魔法の杖を用いて炎を解き放つ。溜めこんだ魔力と赤のマナが反応して高温を発する。マリアの意のままに膨れ上がった熱は赤き炎となって、戦場で踊りだす。緋が戦場を埋め尽くし、敵兵を巻き込んでいく。
「さすがはヴィスマルク兵。厳しい戦いになりそうですね」
「ええ。ですが勝てない相手ではありません」
 言って頷く『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)。苦しい戦いはいくらでもあった。辛い戦争もあった。だがその全てをイ・ラプセルは勝ち抜いてきた。ヴィスマルクを侮るつもりはないが、負けるつもりもない。
「皆さん、今すぐ癒しますから」
 言ってレオンティーナは魔力を解き放つ。翼を広げて放たれる光は、白の癒し。傷つき倒れそうになる仲間達を支え、一歩を踏み出す力を与える力。苛烈な戦場においては、僅かな癒し。だが大事なのはその僅かなのだと知っている。
「非力な私ですが、全力で皆様を支えます」
「はい。よろしくお願いします!」
 癒しを受けて動く『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)。アゲハチョウの翼を広げ、エストックを手に敵陣に走る。魔力を神経に通して反応速度とを増し、ヴィスマルク兵と切り結んでいく。
「あれがドラード……」
 間近に迫った戦車を前にして、サーナは呟く。隙あらば戦車に攻撃を仕掛けたいが、周囲の兵士がそれを許さない。今は数を減らすことが先決だとばかりに鋼炎機甲団に切りかかる。高速の刃が、迫る敵兵を切り裂いていく。
「私も自由騎士です。頑張ります」
「まー。そこまで気負わなくてもいいとおもうよ、あたしは」
 気の張りすぎを注意する『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)。何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。過剰な頑張りも時として空回りし、空を切る。適度に力を込めて、適度に気を抜くのが大事なのだ。
(んー……。さすがに強襲だったこともあって、爆薬を仕掛ける時間はなかったか。だからこその戦車出陣って事ね)
 クイニィーはホムンクルスを使って、砦内を走査していた。爆薬を仕掛けられていたら厄介だったが、そんな時間を与えない電撃作戦だったのだ。結果としては無駄だったが、敵がそれをしない可能性はゼロではないのだ。自分ならそうするのだし。
「んじゃま、あたしも少しは戦争しますか。フリぐらいは」
「いや、フリじゃなくてきちんとしてくれ」
 クイニィーにツッコミを入れる『永遠の絆』ザルク・ミステル(CL3000067)。ホムンクルスを使って何かしていたのは知っているのでそれ以上は何も言わずに、戦場に意識を向けた。施設に砲撃を繰り返す戦車と、それを守る随行兵。
「味方を巻き込むつもりはない様だが……それでも無茶苦茶だな」
 占領されるぐらいなら壊してしまえ。そんな戦車兵の動きに呆れるも納得するザルク。その破壊を止める為に、二丁拳銃を構えた。初撃で相手の動きを止め、二撃目で炎の弾丸を叩き込む。鋼炎機甲団を中心に、ザルクの弾丸が荒れ狂う。
「面倒だが、ここで止めないと占領後に大変なことになるからな」
「ええ。なのでどうにかしましょう」
『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は言って拳を握りしめる。この砦に攻め入るまでの潜入兵の動きを思えば、ここで手を抜くことは許されない。最大戦果を手に入れて、彼らの働きに報いるのだ。
「形あるなら壊れます。たとえ鉄の塊であろうとも」
 腰をひねって、拳を構えるミルトス。強弓を強く引き絞るイメージ。呼吸をついて熱を沈め、同時に戦意を高めていく。腰の回転と共に打ち出される拳が衝撃を撃ち放つ。衝撃は戦車の装甲に届き、その内部を撃ち揺らしていく。
「撤退戦であるとは言っても戦意に衰えなし。さすがはヴィスマルク軍です」
「戦車凄イ。凄イは手強イ同ジ」
 戦場を走り回りながら戦車を狙居続ける『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)。戦いとは極論、不利益の押し付け合いだ。こちらにとってやられて困ることを徹底してやる。そういう意味で戦車を最大の難敵とエイラは定めていた。
「軍人怖イ。ダケド、エイラ一人で彷徨テる時と違う。エイラ負ケラレナイ」
 自由騎士になる前なら、逃げる選択肢もあった。生き残る事が最優先なら、むしろ当然だ。今も生き残ることを軽視しているわけではない。だけど、他にも大事なモノはできた。エイラはその為に戦うのだ。
「戦車副砲撃っテ来イ! ソノ間、主砲止マルカラ!」
 レガート砦をめぐる攻防は、少しずつ激化していく。

●幕間Ⅱ
「残りの神様はアクアディーネ様を含めてあと三つ! 頑張るのだ!」
『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は言いながらレガート砦を走る。ヴィスマルクは二年前に攻めてきた国だけど、皆と一緒なら怖くない。ここで勝って、次の戦いにむかうのだ。
「ヒーラーが少ない場所で戦うのだ! ……ところでヒーラーが少ない場所ってどこなのだ?」
 言って足を止めるサシャ。そこに――刃が走る。
「――え?」
 ヒーラーの少ない場所を探して走り回っていたサシャ。仲間と共にいなかったことが災いして、単独行動状態になっていた。そこを、強襲されて意識を失う。
「任務完了」
 ツヴァイ・エルベは、静かに刃を振って次の戦場に向かった。

●大佐Ⅰ
「ようこそレガート砦に、イ・ラプセルの諸君。全力で歓迎させてもらおう。
 先ほどまで貴君らの盟友もいたのだが、どうやらそちらに戻ったようで安心したよ」
 そんな冗句を交えながらディークマンらが率いるヴィスマルク兵は自由騎士達を迎え撃つ。
「初めまして。覚悟はお決まりのようですね」
 相手の態度を察しながら『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は武器を構える。安全を考えれば逃げるのが一番だ。だがこの大佐はそれをせずに部下が逃げるまでの時間を稼ぐという。その背に何を背負い、どんな覚悟があるというのだろうか。
「この機を逃すわけにはいきません。一気呵成に攻め落としましょう!」
 言うなり動き出すアンジェリカ。十字架を模した武器を振るい、重量と速度で衝撃波を撃ち放つ。広範囲に広がる爆発に似た衝撃が、ヴィスマルク兵の足を止める。その隙を逃すことなくアンジェリカはディークマンに突撃した。
「敵であることが惜しいですね、だからこそ、ここで討ちとります!」
「そうだな。ここで貴殿を討ち取らねば、後々尾を引くだろう」
『黒薔薇』キース・オーティス(CL3000664)は言って刃を振るう。速度を極め続けるキースの一閃。それは確実に敵勢力を削っていく。ディークマンのサーベルと数度切り結びながら、同時に周囲のヴィスマルク兵を傷つけていく。
「敢えて殿になって部下を逃がすか。その状況判断、見事と言っておこう」
 戦争は物量だ。勿論それを指揮する者も必要だが、兵士の数が足らなければ意味をなさない。ディークマンはそれを理解して、自らを囮にして多くのレガート砦の兵士を逃がそうとしているのである。それを理解し、キースはそう告げた。
「だが大勢は喫した。これ以上戦う理由はない」
「そうでもない。ここで貴君らを廃すれば他の戦場に援軍を送れるからな」
「言いおるわい。我らに勝つつもりか、この状況で」
 ディークマンの言葉に背筋を震わせる『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)。自ら殿を務めたと思っていたが、そうではない。大佐という地位をもって自由騎士を誘い出したのだ。いっきに集めて、打ち砕くために。その覚悟に、武者震いする。
「悪くない男よ。お主とはいい酒が飲めそう……いや違うか。この戦いがいい肴になりそうじゃ!」
 口を笑みの形に変えて、天輝は歩を進める。まるで酔っているかのような千鳥足。だが重心は一定しており、むしろ滑らかに相手の懐にもぐりこむ。酔漢が絡むように近づき打撃を加え、蛇が這うように背を屈めて離れる。酔うように穿つ。それが天輝の拳。
「ぷはぁっ! うむうむ、まだ酔い足りぬか!」
「カノンたちも負けるつもりはないからね!」
 言ってディークマンに迫る『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)。戦場に立つのは人と人。共に国と言う人が住む場所をめぐっての戦いだ。ディークマンに覚悟があるように、カノンにも覚悟がある。
「平和な未来を作るために、カノンの拳は鍛えられたんだ!」
 強く拳を握り、撃ち放つ。平和を守るために鍛えられた拳。残り数か月に迫った世界の虚無を回避するために、神の蟲毒に打ち勝たねばならない。傷ついた体に鞭打って、カノンは更にもう一歩先に踏み込み打撃を放つ。
「その覚悟は敬意を表するよ。だからこそ負けられない!」
「……戦争なんて、ろくでもないことだってわかっているけど!」
 葛藤する『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)。だけど戦場に立ち、仲間が傷つく事だけは見ていられない。自らを盾とし、仲間を守る。仲間が危険を冒して手に入れた機会だ。ここで足を止めることだけは、決してしない。
「オレがこの場の『砦』だ! 簡単に落ちると思うなよ!」
 狙われるだろう仲間を守るために、盾となるナバル。その立ち位置もあって集中砲火を受けるが、それでも負けじと立ち尽くす。奇しくもそれは自らを殿とする敵の大佐の立場に似ていた。仲間の為に身を呈し、状況を変えようとする存在。だが――
「アンタも悪いヒトじゃないんだろうけど……それでも勝たなきゃいけないんだ!」
「うむ、辛いだろうが耐えてくれ。戦争を長期化させぬために、手は抜けない」
『石厳公』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はナバルの葛藤を見抜きながら、そう激を飛ばす。戦争は犠牲の面も含めて、早く終わらせるに越したことはない。ましてや神の蟲毒には時間制限がある。その為にイ・ラプセルは強硬策を取ったのだ。
「卿に敬意を表し、捕虜は丁重に扱うことを約束しよう」
 そう告げて、テオドールは魔力を解き放つ。『黒杖ミストルティン』に魔力を込め、白き荊の呪術を展開した。荊は侵火槍兵団とディークマンに向かって伸び、その動きを拘束する。一時的な拘束だが、それでも戦場においては千金だ。
「卿を勝たせるつもりはない。ここで討ち倒す」
「そうだな。貴様はシンプルに強い指揮官だ。逃がすつもりはない」
 『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は仲間を癒しながら、ディークマンをそう分析する。殿を務めるというだけのことはあるだけの実力。仲間に対する的確な指示。それを下地として、兵の上に立つ者という責務。成程、難敵だ。
「真面目な兵隊と言うのは厄介なものだな。こういう奴らばかりなら面倒なことこの上ないのだが」
 シャンバラは神の名のもとに統一され、ヘルメリアは蒸気王の扇動で一致団結し、パノプティコンは徹底管理していた。だがヴィスマルクは違う。きっちりした軍規で統一された軍隊。個々の性格の違いこそあれど、自ら国の為に軍規を守って行動しているのだ。
「正義だ悪だと叫ばないのは好感が持てるが……さてそう考えると面倒だぞ、ヴィスマルク」
 ヴィスマルクが列強と呼ばれる理由の一端を知り、ツボミは苦笑を浮かべる。ともあれ、今はやるべきことをやるまでだ。
 戦いは少し激化していく――

●幕間Ⅲ
「……っ!」
『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)は倉庫に向かう途中で襲撃を受けていた。パノプティコンでのことを脳裏に浮かべて居たこともあり、向かう先を見失っていたのだろう。僅か一本道を違えただけだが、そこを襲撃される。
「キリは、仲間達を守らないといけないの!」
 ローブを振るいながら攻撃を凌ぐキリ。だが敵は砦の地の利を生かして襲撃を繰り返していた。防御に徹するキリの隙間を縫うように剣を振るい、少しずつダメージを積み重なね――
「任務完了」
 地に伏したキリ。ツヴァイ・エルベはそれを見届け、次の戦場に向かった。

●倉庫Ⅱ
「わたしの親友を暗殺者なんかにしたヴィスマルクに勝手にはさせないのですっ」
 言って呪術を展開する『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)。イ・ラプセルを狙っているヴィスマルク。昨今、その類の事件にかかわったこともあり、ティルダの怒りは高かった。
「とにかく、数を減らさないと」
 倉庫の者を傷つけないように注意しながら、ティルダは術を解き放つ。イ・ラプセルからここまで輸送する手間を考えれば、今ここにある物品をできるだけ利用した方がいい。とはいえ、加減すれば敵を討ち漏らす。その采配が重要だ。
「ヴィスマルクは許せませんっ」
「そうだな。レーナ以外にもヨウセイが捕らわれているかもしれない」
 ティルダの言葉に頷く『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)。シャンバラとも近いころもあり、先のシャンバラ戦役でヨウセイが捕らわれた事を聞いている。彼らがどのような扱いを受けているか。それが聞こえないからこそオルパは苛立っていた。
「奪われた者を返してもらう。その全てを!」
 両手にダガーを構え、オルパは走る。体内の魔力をダガーに乗せて、ヴィスマルク兵に向かって振り払った。数度斬り合って相手の隙を作り、その隙めがけてダガーを突き刺す。痺れるような電流が敵兵に走り、その動くを鈍くしていく。
「ま、カワイ子ちゃんがいるなら手加減してやってもいいかな」
「それじゃ、いくわよ!」
 気合を入れて『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が敵陣に突き進む。ヴィスマルク兵の足を止めながら、同時に追い詰めるように拳を振るう。防御の構えを崩さぬようにしながら、同時に攻めることを止めない。
「悪いけどこの砦を落とした後にもやることがあるの。早く倒れてくれないかしら!」
 敵を攻めながら叫ぶエルシー。輸送された捕虜達。燃やされた村。この砦に攻めるまでにいろいろなことがあった。それらを解決すべく、先ずはこの戦いを制する。振るわれた手甲がエルシーの未来を切り開くように穿たれる。
「こんな所で足踏みなんかしれられないのよ!」
「確かに、ね。手早く終わらせるに越したことはない」
 頷く『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。長期化する戦争はヒトを疲弊させる。疲弊は人を狂わせ、そして社会を狂わせるのだ。出来るだけ多くの命を守るというのなら、戦いは手早く終わらせなければ。
「ふむ。彼の手管……物資を上手く回し、潤沢にするのだと思っていたが」
 奥で指示を出す大尉を見て、マグノリアは考え方を改める。そこにある物資を使うのは流用。それを適度に配分するのが物品管理。彼の動きは言って未来を読み、物資がなくなる前に送る事。上手く回すのではなく、回すための下地を作っているのだ。
「後で彼に話を聞いてみたいね……。その為にも、生かしておかないと」
「そうでありますね。彼が知っていることはいくつかありそうであります」
 フリオ・フルフラット(CL3000454)は言って戦場を駆ける。フライターク大尉はこの砦の兵站を取り扱う人間だ。ならば物資や捕虜の輸送先など知っているかもしれない。それを聞き出すためにも、先ずはこの戦いに勝たなくてはいけない。
「『鉄アイロン』さえ倒せば、後は何とかなりそうであります」
 フリオが向かったのは、前面に装甲を固めた『鉄アイロン』と呼ばれる自走砲。砲撃を繰り返す自走砲に近づき、全身をばねにするようにして武器を叩き込む。金属と金属がぶつか激しい衝撃音。それが倉庫中に響き渡った。
「このまま攻めれば行けるであります!」
「おっけー! じゃあいくよー!」
『伝承者』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は戦場を駆け抜け、『鉄アイロン』に向けて拳を叩きこむ。前面に装甲を固めた自走砲だが、その装甲自身に衝撃を通す格闘技法。それにより乗り手に直接衝撃を叩き込んでいた。
「そんな程度じゃ、負けないよ!」
 ヴィスマルク兵の攻撃をさばきながら、カーミラは笑みを浮かべる。鍛錬を積んだ軍人の攻めは弱くはない。それでもカーミラは負けないとばかりに拳を振るった。二年前の狩りを返してやるとばかりに、大暴れする。
「これで終わりだよ!」
 叩き込まれるカーミラの拳。それが『鉄アイロン』を沈黙させる。他の侵火槍兵団も、自由騎士達の攻撃を受けて沈黙していた。
「こ、降伏します。なのでこれ以上の戦闘行為はやめてください!」
 フライターク大尉が両手をあげて歩み出る。自由騎士達は彼を捕縛し、倉庫を制圧した。

●幕間Ⅳ
「あれが自由騎士か……。見事な手際だな」
 森林での戦いから駆け付けたヴェルナー・シュトルム・ヴィンターは、自由騎士の戦いを見て称賛の声をあげる。敵ながら見事、と笑みを浮かべる。
「練度も高く、亜人達の瞳も戦意に満ちている。自由を得た騎士、とは言い得て妙か」
 言って踵を返すヴェルナー。知るべきことは知れた。後の用事は――

●広場Ⅱ
「おーーーっほっほっほっほ!」
 戦場に『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)の高らかの声が響き渡る。癒し手から魔剣士へと転向したジュリエット。その修行の成果を見せる時が来たのだ。誰でもない。隣に立つ騎士の前で。
「戦争か……。いや、今は騎士として戦わなければ」
 心の靄は晴れぬまま、『真なる騎士の路』アダム・クランプトン(CL3000185)は拳を握る。人が死ぬ。その事実に直面しながらも、アダムは戦いに身を投じていた。ここで引けば、さらに多くの人が死ぬ。それは避けなければならない。
「さあ! このわたくしの剣技を披露してあげますわ! 華麗なる進化を遂げたこのわたくし! とくとご覧あれ!」
「聞くがいい、ここに集いし全ての者よ! 
 我が名は騎士アダム・クランプトン! この機械の腕に誓い『全て』の命を守る為に戦おう!」
 共に宣誓する二人の騎士。ジュリエットは剣として敵を撃ち砕くために。アダムは盾として人を守るために。その在り方こそ違えど、そこにあるのは紛れもない騎士の誓い。それを守るために粉骨砕身するという在り方。
 宣誓の声が砲撃音でかき消える。だが誓いはけして消えることはない。ジュリエットの聖剣が魔力を帯びて戦場で煌めき、戦車の随行兵を切り刻む。そしてジュリエットを狙う弾丸は、全てアダムにより遮られていた。
「今のわたくしなら貴方の隣で戦える。決して貴方を一人にはさせませんわ!」
「……そうだね。少なくともジュリエットさんに恥ずかしい所は見せられないね」
 真っ直ぐに前を見るジュリエット。その姿を見て、アダムは何を感じたか。それは彼自身にしかわからない。
「あまり壊さないでくれると助かるわね……!」
 ライフルを撃ちながら『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は口を開く。狙うのは施設であり、味方を狙うつもりはないらしい。とはいえ、これから占領するのだから壊されてうれしいものでもないのは事実だ。
「ここを廃棄するつもりなんでしょうけど……ここを取るために犠牲になった人もいるのよ!」
 アンネリーザは別方面に向かっていたので詳細は報告書からだが、砦に潜入するために犠牲になった人達がいる。彼らの為にもここを拿捕し、有用な形で利用しなければならない。戦いはまだ続くのだ。
「待っていて。必ず助けに行くから」
「ええ。救い出してみせますとも!」
『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は仲間を守りながら叫ぶ。砦が破壊される中、おそらくまともな書類も証拠も隠蔽されているだろう。今すぐ探しに行かないと行けないという焦りがないわけではない。
「大丈夫です。ここで仲間を見捨てたら、あの人に笑われますからね!」
 焦りを誤魔化すようにデボラは叫ぶ。任務第一。それがあの人だ。私欲で現場を放棄すれば、それこそ想いを裏切ってしまう。大丈夫、と自らに言い聞かせて仲間を守る。今は作戦成功のために、仲間を守るのだ。
「乙女の力を見せる時です!」
「怖いわね、乙女! まあ、そういうのは嫌いじゃないわ!」
 デボラに守られながら『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)は指を立てる。愛とか恋とかはともかく、必死になる姿は応援したい。己を貫く生き方は、嫌いじゃなかった。
「まあ、派手は破壊も嫌いじゃないけどね!」
 広場中央で主砲を撃ち続ける戦車を見ながら、きゐこは笑みを浮かべる。破壊なら負けてられないとばかりに魔力を集め、炎を生み出した。赤のマナが爆ぜるように広場で炸裂し、膨大な圧力となって周囲の兵士達を吹き飛ばしていく。
「私ならあの戦車の自爆を仕込むわね! 残った火薬毎ドカーンと!」
「それは……ふむ、確かに効果的ではあるな」
『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)はきゐこの言葉に頷いた。派手な動きで注目させ、気を引いて戦力を集めたところを自爆して破壊する。戦術として確かに有効だった。念のために注意はしておくか。
「ともあれ戦線維持か。さすがに疲弊が激しいな」
 リュリュは戦場を見回し、仲間のダメージ具合を確認する。戦車とその随行兵。その主砲が人に向けられていないとはいえ、その破壊力は高い。持ちうる癒しの術式を解き放ち、仲間の傷を癒していく。
「攻めに転じる余裕はなさそうだ。任せたぞ」
「任せな。先ずはヤツから倒すとするか」
 言って『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)は銃を構える。戦車を止めたいが、随行兵がそれを許さないだろう。その頭であるベルネット軍曹。アイツともやり合いたい気分でもあった。潜入任務中にすこし会話を交わした仲だが、互いの性格は知れた。
「あんたは嫌いじゃなかったが、これも戦争なんでな。せめて、楽しんでやりあおうぜ」
「おう。後悔するなよ!」
 裏切りを攻めることなくベルネットは言葉を返す。戦争であることの意味を互いに理解し、そのルールの上で生きることを楽しむ。それが戦争と共に生きる彼らのルールだった。弾丸がベルネットの装甲を砕き。砲撃により生まれた瓦礫がアンを打ち据える。
「今ならもう一回裏切ってヴィスマルクに来てもいいぜ」
「そっちこそ。イ・ラプセルに来たら面白くなりそうなんだがね」
「どっちでもいいぜ。今はぶっ倒すだけだぁ!」
 言って前線に躍り出る『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)。戦車の砲撃を気にすることなく突っ走り、一気に敵の軍曹のところまで迫る。指揮官を倒して、命令系統を押さえる。相手もそれを察したか、蒸気で動かすチェンソーを向ける。
「でけぇ斧だが、こいつを前にどこまで持つか?」
「蒸気騎士なんざ、ヘルメリアで腐るほど見てきたんだ! 今更ビビるかよ!」
 全身に力を込めて、斧を振るうジーニー。ベルネット軍曹の武器と斧がぶつかり合い、派手な金属音が響く。重量武器同士のぶつかり合い。手がしびれるような感覚を受けながら、ジーニーは更に斧を振りかぶった。全てを粉々にするために、全力を振るう。
「これでも喰らいやがれぇ!」
「やるな小娘! こいつはお返しだ! オラオラオラァ!」
 激化する広場での戦い。
 互いに決定打を欠く戦いは、次第に補給線の薄いヴィスマルク側が追い込まれていく。戦車の主砲が尽き、そして兵士達も満足に動けなくなり降伏することとなった――

●幕間Ⅴ
 オリヴァー・フライタークと言う事務員は、有能ではあるがその能力故に疎まれた。その真面目な性格故に他人と対立することも多く、その結果前線送りになる。銃すら碌に撃てない彼は、死を覚悟する。
「キミの戦場はそこではなかろう。こっちに来てくれないか」
 それを拾い上げたのがディークマンだ。様々な手管を使い、フライタークを最前線の塹壕からレガート砦の事務の机に移す。
 オットー・ベルネットという戦車兵は、勲章に呪われた男だ。とある戦場で敵味方含めて彼一人だけ生き残り、それで貰った『ブルークロス勲章』。彼はそれを死んだ兵士達の墓場と受け取った。皆が死んで、自分だけ生き残ったから得られたものだと。
「ならその呪いを引き継ごう。それが将校の役目だ」
 その負担を受け取ったのがディークマンだ。彼はベルネットの呪いを否定せず、それを受け止めることで負担を軽くした。大佐と言う腕章はもっと血を吸っているのだと笑い。

●大佐Ⅱ
「潜入したのは悪かったけど、そっちも信じてくれてなかったみたいだし。おあいこって事でいいよな?」
『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)は挑発するようにディークマンに話しかける。同時に魔力を込めた剣を振るい、その体力を奪っていく。挑発に乗ってこちらを狙ってくれれば御の字。そう思っての行動だ。
「以外だな。騙したことに罪悪感があったか、少年」
「……そりゃどうも」
 帰ってきたのはそんな言葉。相手は言うほどこちらを恨んでいないらしい。戦争だからと腹が座っていたのだろうか。奮われるディークマンのサーベルを受け流しながら、攻撃を繰り返す。
「なら遠慮なく攻めさせてもらう」
「まあ、遠慮する理由も余裕もないけどな。お互いに」
 頭を掻きながら『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)が口を開く。共に敵軍同士。砦を攻める側と守る側だ。ここで勝てなければヴィスマルクは警戒を強め、戦争はさらに長期化するだろう。
「こいつで互いに最後にしたいもんだね。アンタの相手は疲れそうだ」
 仲間を癒しながら愚痴るニコラス。殿を務めるだけあって、ディークマンの一撃は重い。仲間と連携して回復を重ねていく。何かしらの工作を仕掛ければ楽にはなったのだろうが、そんな余裕がなかったのも事実だ。それは惜しまれる。
「前に立つ指揮官タイプだったとはね。最前線に送られるわけだ」
「……部下を見捨てないとはな」
 ディークマンの在り方に思う所があったのか、『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はヘルメットの奥からぐもった声を出した。もし、彼のような存在が自分の傭兵頭だったら――ありえない妄想を振り払い、戦闘に集中するアデル。
「……フォートシャフトなら、捨て駒の部隊に時間稼ぎをさせて撤退しただろうよ」
「私は部下に任せるタイプの将校でね。彼のように万能ではないのだよ」
 アデルの言葉にそう返すディークマン。会話らしい会話は終わった、とばかりに二人の重戦士は斬り結ぶ。部下を指揮し、基本の技を積み重ねるディークマン。上司に見捨てられ、槍術を高めたアデル。その武技が、互いに傷となって刻まれていく。
「ディークマンを落とすぞ。全員、火力を集中しろ!」
「ええ。一気に行きますえ」
 アデルの言葉に合わせるように『虚実の世界、無垢な愛』蔡 狼華(CL3000451)が走る。二刀を振るい、圧倒的な速度でディークマンを切り刻んだ。時間を飛び越えたと錯覚させる舞。その優雅さには死と言う鋭い毒が含まれる。
「お久しゅうございますなぁ大佐。うちの本気の舞をご覧に入れましょう」
 言葉が空気に消えるより早く、狼華は地を蹴る。滑るように足を動かして移動し、円を描くように刃を振るう。戦場においても優雅さを失わない。否、戦場だからこそ極まった舞が映えるのだ。血飛沫さえ演出に見える舞うような斬撃。
「中佐の集めた少年達は、まだあの檻の中に居るんかいなぁ?」
「彼らなら既に逃がした。砦を廃棄するので、巻き込むわけにはいかないからな」
「……おやまぁ」
 少し予想外だったのか、狼華は口元を押さえた。
「ディークマン大佐……。一時期とはいえ、お世話になりました」
 ロザベル・エヴァンス(CL3000685)はむしろ追い詰められたような表情でディークマンの前に立つ。真面目であるが故の潔癖な部分が、敵ではあるが世話になった人間への想いを尖らせていた。戦争だから。だから全力でやらなければならない。そう自らを追い込んで。
「全てには、全てを。私の全てを――」
 言うと同時に、蒸気騎士のエンジンを暴走させて自爆するロザベル。自らの全てを叩き込み、魂すら削っての一撃。それは今のロザベルが出すことのできる最大攻撃。言葉通り、全てを叩き込んでの自爆技。
「……ええ、これが。これが戦争――」
 何とか動く身体に力を込めて立ち上がるロザベル。その胸に、ディークマンのサーベルが振るわれた。
「見事な一撃だ。ベルネット軍曹から話を聞いてなければ今ので決まっていただろうな」
 血を流し、カタクラフトを砕かれながらもなんとか立つディークマン。防御できたのは情報を知っていたからだ。
「あ……」
「自ら命を散らす行為を強要するのがイ・ラプセルだと言うのなら、私はそれを軽蔑するよ。
 逆に君自身がその戦術を選んだと言うのなら、その行為で心配する者がいることを知るといい。若者の死を受け止めなければならない立場があるという事を。……つまらぬ年寄りの愚痴だがね」
 自爆と言う行為に思う所があったのか、少し辛辣かつ陰の含んだ声でディークマンはロザベルに告げた。
「どうした? ここに居るのは死にかけのヴィスマルク将校だ。討ち取って手柄を得るのは容易いぞ」
「……何故、そこまでして」
『ベルなんとかオリジナル』エリシア・ブーランジェ(CL3000661)は死に体となった状態でも戦おうとするディークマンを見てそう呟いた。あからさまな挑発。あからさまな囮。身体は痛みを訴えているだろうに、それでも誰かの為に立ち尽くす。
(あの人がああして立つ理由は、彼自身の人生の結果。様々な要因があって、その結果彼はああして立っていられる。
 誰かのために。守ると決めた人の為に殿となって、身を張る事の出来る人)
 エリシアにとって、それは特別な事だった。敵の大佐であろうが、そんなことは構わない。どんな理由でどんな立場だろうが関係ない。それが出来るという事が、大事なのだ。だってそれは――
(だってそれは――わたくしには、出来なかったこと。あの時、わたくしはそれが、出来なかった――)
 後悔は消えない。過去は消えない。エリシアと言う人間にとって、それが出来るという事がどれだけ眩しいか。それが出来るという事が、どれだけ羨ましいか。それは余人には分からない。エリシア・ブーランジェの人生の結果は、エリシアにしかわからないのだから。他人がそれを知ったところで、それはただの情報でしかないのだから。
「だからわたくしは、全てをぶつけます」
『特別な人』に、なるために。もう二度と、後悔しないために。
 エリシアは今できる全てを込めて、氷の弾丸を撃ち放つ――

●幕間Ⅵ
「……成程。あれが魔術師殿の言っていた奇跡というものか。
 自由騎士の神髄はあの瞬間的な爆発力。感情や己の信念に沿った際に生まれる自分自身の『何か』を削った暴走と言った所か」
 ディークマンを討ち取った自由騎士の戦いを見ていたヴェルナーは、その結果を見届けて姿を消す。
「次相まみえる時は――」
 レガート砦は落ちるが、イ・ラプセルの情報を直で見ることが出来た。この情報は千金だ。そう心の中で呟き、ヴェルナーは離脱した。

●終幕
 かくして、レガート砦をめぐる攻防は収束する。
 ディークマンの指示により兵の多くは逃げ、同時に広場の戦車により砦は破壊されていた。修復には時間がかかるだろうが、ヴィスマルク攻略の橋頭保を得られたことは大きい。
「自身が殿に兵を逃す……大佐の意図に乗らざるを得なかった。戦略的には勝利とは言い難いな」
 とは、アデルの言葉。結果としてヴィスマルクの砦を奪ったが、イ・ラプセルも完勝とは言えない結果であった。だが、勝ちは勝ちだ。
 多くの自由騎士達が懸念していたヴィスマルク兵士の自死だが、そんな傾向は見られなかった。ディークマン大佐曰く、
「まだ読みかけの小説があるのでね」
 サルーンに置いた酒や文通している女など理由は様々だが、ともあれ兵士達に死ねない理由はいくつかあったようだ。
 そして自由騎士達は輸送された捕虜たちの行く先を探したが、情報はまるで得られなかった。
「駄目だな。書類から追うのも無理そうだ」
「砦を破棄するつもりだったからな。真っ先に重要書類は焼いたんだろう」
「交霊術でも駄目だな。っていうか知ってそうなのはそこの事務員と軍曹と大佐ぐらいか」
 捕虜の輸送先は、一般兵が知りうる情報ではないのだろう。となればやはりこの三人か。
「捕虜の輸送先は言えません。軍規ですから」
 だが軍規に反するつもりはないらしい。身の安全を条件に捕虜の輸送先を尋ねたが、頑として首を縦に振らなかった。最も気の弱い事務員のフライタークでさえ、顔を青ざめながら拒否する。
「ご、拷問にかけても……い、痛いのは嫌だなぁ。でも言いません、言いません……から……」
 最も、事務員は拷問にかければ口を割りそうではあるが。その辺りは今すぐ出来る事ではないだろう。
「大丈夫です! 手掛かりなら見つけました!」
 そんな中、デボラがボロボロのペンダントを手にして叫ぶ。
「これはジョン様の持っていたペンダントの片割れです! 磁力と魔力でもう片方のペンダントの方向を示しています!」
 破壊された砦の中からこれを見つけてきたようだ。メタな事を言うと『ヘンゼルとグレーテル』である。一定以上離れれば効果はなくなるが、少なくとも方向だけは分かった。
「この先にあるドルヒ収容所(ラーゲリ)。そこに運ばれたと思われます!」

 かくしてレガート砦をめぐる作戦は終結する。
 潜入作戦からの破壊工作、それに繋がる電撃作戦。後の歴史にはそう刻まれるだろう。
 だが、歴史が残るかどうか。それはまだわからない。神の蟲毒はまだまだ続くのだ。水の女神が見る未来は、未だ虚無。
 未来を続けるために。日常を繋げるために。自由騎士達は戦い続ける――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『愛の絆』
取得者: デボラ・ディートヘルム(CL3000511)
『鋼の暴風』
取得者: ジーニー・レイン(CL3000647)
『鉄鬼殺し』
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『とくべつなひとにあこがれて』
取得者: エリシア・ブーランジェ(CL3000661)
『アリス』
取得者: ロザベル・エヴァンス(CL3000685)

†あとがき†

どくどくです。
地味にMPロス100がきつかった……!

以上のような結果になりました。
それなりに怪我人多めですが、それほどの激戦だったという事で。

レガート砦に関する戦いは、一旦ここで幕を下ろします。
いろいろ問題はありますが、とりあえずの橋頭保を得たのは間違いありません。

ともあれお疲れさまでした。先ずは体を癒してください。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済