MagiaSteam
なにごともないいちにち




 秋晴れの空は高く。青く澄んでいる。
 時折吹く風は冷たく外套を思わず寄せることになるだろう。
 今日はなにもない一日。
 
 もちろんシャンバラとの戦いもある。
 毎日のように何らかの事件は起きて、自由騎士たちはその対応におわれる。

 だけど今日はそんなこともない普通の一日。
 
 「こんにちは、今日はお仕事ないのかい?」
 街のヒトビトはあなた達に気さくに声をかけてくる。

 「自由騎士のおにーちゃん、おねーちゃん、今日はひまなの? だったら冒険のおはなしきかせて!」
 いまや子どもたちにとっては自由騎士たちはヒーローだ。
 サンクディゼール中央広場にいけば、子どもたちがわらわらと集まってきて話しかけてくる。彼らはあなた達と話したくてたまらないのだ。

 自由騎士団の発足からはや半年。
 なにもない一日をゆっくり過ごすのもいいだろう。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常σ
■成功条件
1.いちにちゆっくりとすごす
 ねこてんです。
 今回のイベシナはのんびりと休日をお楽しみください。
 この休日は特にどの日とはきまっていません。

 舞台はサンクディゼール街なかや、アデレードの街。
 スペリール湖などです。

 リブラ区そのものは難しいかもですがダウンタウンやスラム側の方にもいってもらって構いません。

 PC様同士でのデートや語らいでご利用ください。
 特に絡むひとがいないおひとりさまでも、NPCがお相手しますのでお気軽に。
 もちろん完全に一人で送る一日でも構いません。そのときは絡み不可とおかきくださいませ。

 シャンバラに行ってるみなさんも、シャンバラからのマキナ=ギア通信をしたり、出発前の時間軸の休日でも構いません。
 PC様同士で通信してもいいですし、NPCを指定してもらってもかまいません。
 特に思いつかなければ、ランダムで誰かにつなげることもできます。

 おひとりさま参加の方でも特に選べないけど下記NPCと絡んでほしいなどありましたらどうぞ。
 NPCが声をかけるかたちで絡ませていただきます。どうぞご自由に友好関係を築いてください。
(指定するのがはずかしければEXにこっそり書いてくださってもかまいませんよ!)
 
 基本的に以下NPCを指定して遊んでもらっても構いません。
 呼ばれた場所に向かいます。

 王家の皆さまやアクアディーネを外に連れ出すことはできませんので、神殿なり王城なりにきてください。メモリアはスペリール湖です。
 アルヴィダは、アデレードの酒場で仲間と酒を飲んでいます。(王都には入れません)
 クローリーは呼んだら来るかも知れません。(ぶっちゃけどこでも関係ないです)

 NPCにたいしてちょっとした質問などは遠慮なくどうぞ。
 
 
・アクアディーネ(神殿のみ)
・エドワード王(王城のみ)
・クレマンティーヌ(王城のみ)
・クラウディア
・クラウス
・フレデリック
・ヨアヒム
・バーバラ
・佐クラ
・アンセム
・ミズーリ
・ムサシマル
・アーウィン
・クローリー
・カシミロ(アデレードまで)
・メモリア(スペリール湖)
・13番(アデレードまで)
・アルヴィダ(アデレードまで)

●イベントシナリオのルール

・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。

状態
完了
報酬マテリア
0個  0個  0個  1個
14モル 
参加費
50LP
相談日数
6日
参加人数
41/50
公開日
2018年12月04日

†メイン参加者 41人†

『慈悲の刃、葬送の剣』
アリア・セレスティ(CL3000222)
『みんなをまもるためのちから』
海・西園寺(CL3000241)
『薔薇色の髪の騎士』
グローリア・アンヘル(CL3000214)
『おもてなすもふもふ』
雪・鈴(CL3000447)
『水銀を伝えし者』
リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『我戦う、故に我あり』
リンネ・スズカ(CL3000361)
『蒼光の癒し手(病弱)』
フーリィン・アルカナム(CL3000403)
『英雄は殺させない』
マリア・スティール(CL3000004)
『未来の旅人』
瑠璃彦 水月(CL3000449)
『異邦のサムライ』
サブロウ・カイトー(CL3000363)
『月下、一歩踏み出して』
英羽・月秋(CL3000159)


 ボルカス・ギルトバーナーは墓前に立っていた。
 それはS級指令が彼にだされ、出発の前日のこと。彼は新人時代に世話になった先輩の前にいる。
 いや、その先輩はすでにセフィロトの海の中で、目の前にある墓石はただの石の塊でしかない。
 それでもそれは彼の先輩だ。国のための礎になった彼のためにボルカスは奮発した酒を墓石に手向ける。
「明日からはシャンバラです。先輩に挨拶はどうしたって夢枕に出られてもたまったもんじゃないですからね」
 彼は墓石に話しかける。人一倍『死』に敏感なギルドバーナーの一族である彼にとって死者との対話とは重要なイニシエーションであるのだ。
 この国が随分と変わったこと。ヴィスマルクからの亜人が今では友人になったこと。ヨウセイがきたこと。マザリモノのサーカスがきたこと。話は尽きない。
「明日から同行するものもいろんな種族やいろんな育ちのものがいます。……子供がいることがひっかかりますが、彼らもまたこの国のために働いてくれています。喜ぶべきか……先輩なら大人が情けないとでもおっしゃいますか? どうか、彼らとともにこの国に帰れるよう、見守ってください」

 本日もナイトオウル・アラウンドの日課はかわらない。祈りは朝と晩。
「ああ、ああ、シャンバラの怨敵を屠りにいく聖業に私は未だ至らず!
 女神の期待に応えることの出来ない私をお許しください!
 私にできることは敵国潜入の彼らの無事を祈ることのみ」
「それが、大事なことですよ」
 祭壇に祈る彼の後ろから水のように澄んだ声がきこえた。
「アアアクァディィイネさまぁああああ!! 呼、嗚呼女神よ!!こうして貴女にお目通り願えたことを、ただただ感涙にむせぶばかりにございます!!」
 ナイトオウルは滂沱の涙を流しその聖なる名を呼びながら叫ぶ。
「いつもお祈りご苦労さまです」
「うわあああ! 私は女神の期待をまた踏みにじってシマッタァアアアア!!」
 頭を床に擦り付けながら床をカリカリとひっかくナイトオウル。
「こちらを向いてください。貴方はいつだって私の望みを叶えようと邁進してくれています」
「おおそおれおおいい!! 女神を直接目にしてしまえば! 私はこの目を不敬と潰さなくてはなりません!!!」
「大げさです、いつものように今日のお話をきかせてください」
「今日は朝、パンケーキを食べました。いちごのジャムがァアア!!! 美味しくてェ!! 女神!!! の!! 威光!!!!!」
「それはよかったです。パンケーキお好きなんですか?」
「女神がそういうのでアレバァアアア今日から私の大好物でゴザイマスウ!!!」
 やべーやつと女神の会話は常人には理解し辛い。

「はぁ」
 テオドール・ベルヴァルドは王宮のクラウスの執務室で執務を手伝いながらため息をつく。
「ベルヴァルド卿、どうしたのであるか? 随分とあからさまであるな」
 其の様子にクラウスが書類に目を落としたまま問いかける。
「いやはや、ご慧眼であらされる、閣下。いや、御婦人への贈り物とは、この執務よりも重々に難しいと思うとため息が」
「ああ、もうすぐオラトリオ・オデッセイであるな。卿がよいと思ったものを渡せばいいだろう」
「それが困るのですよ! カタリーナを喜ばせたい! それが彼女を妻に迎える私の責務でありましょう!」
 なんとも、ベルヴァルド卿はかの令嬢を随分と気に入ったものだ。前の妻を亡くしたときの落胆ぶりからは想像がつかないほどだが、彼がその悲しみを超えることができたことに嬉しくも思う。
「もし、ご存知であれば、最近の流行りをご教授いただけたら」
「誰に聞いているのかね、吾輩がそういうことが得意なわけがないだろう。クラウディアでも呼んできいてみるがいいだろう。クラウディアなら、其のあたりは詳しいだろう」
 言ってマキナ=ギアで、孫娘を呼び出す。ややあって執務室のドアが叩かれた。
「これはこれはクラウディア嬢! そのカタリーナは、こほん、イマドキの若い女性は何をあげれば喜ぶのでしょうか?」
 クラウディアの姿を確認するやいなやテオドールは余裕のない顔で問いかける。
「そうだなあ、バラの花束とかシンプルなのでいくのはどう? 真っ赤なら熱愛! ピンクのバラなら上品……あ、白! カタリーナさんにはきっと白いのが似合うよ!」
「そ、そうですか、いやはや、やはりカタリーナのことになると私は惚気ることになってしまいますな、ところで白いバラが意味する言葉は?」
「ないしょ!」
 クラウディアが意地悪く笑う。無理もない。ましろのバラの花言葉は「私はあなたにふさわしい」なのだから。

 場所は変わって、スラム街。
  とんとん、と軽い妖精のような足取りで、ローラ・オルグレンの桃色の髪がスラムを駆け抜ける。
 なにもないいちにち。詰まりは日常。日常におけるローラの行動は一つである。
 男ウケのする甘い香りのコロンで武装したおんなは裏町の女神。
 ここはアデレードでも指折りの悪が犇めくスラムだ。そんな中にか弱い(そうみえる)少女が歩いていたら何が起きるかは想像するまでもない。
「やあ、嬢ちゃん」
 下卑た笑みを浮かべる男が軽い足取りのローラの前に立つ。ローラはことさら怯えたような表情で男を見上げる。男は一層嗜虐的な笑みを浮かべ、ローラの手をとる。
(んふふ? ほんと、男ってばかなんだから。 そこがかわいいところだけど。んふ、どんな遊戯(プレイ)であそぼうかなぁ?
 あわれ、男は少女の見た目の絡新婦の糸に囚われる。
「やだ、やめてください」
 最近このスラムにきたと思われる男はローラを知らないようだ。ローラは初めて味わうその相手に舌なめずりしながらわざとか弱く振る舞う。
「いいことしようぜ?」
 そういって暗がりに連れて行かれるローラをみた馴染みの『客』はスラム流の通過儀礼であるそれに灰色の空を見上げて思うのだった。その『女神』は怖いぞ、と。

「やあ、アダム。どうした?」
「フレデリック団長! 稽古をお願いします!!」
 アダム・クランプトンは今日も元気だ。憧れの騎士団長の前では美形騎士もただのわんちゃんだ。今にも千切れそうに振られたしっぽを幻視したフレデリックはまんざらでもないように、全力の稽古を受けてたつ。
 数分後。
 其の場に大の字に倒れているのはアダム。
 どうしても防御を固めれば固めると後手に出ざるを得ない。そして彼らしいまっすぐな攻撃はその機動を老獪な騎士団長には見破られてしまう。しかしそれは彼の持ち味だ。否定すべきところではない。
 フレデリックは、そのまま重さをもって邁進せよとアダムにアドバイスする。
「この神の蟲毒を終えたら世界は変わるのでしょうか」
 倒れたままアダムはふいにそんな問を投げかけた。フレドリックは無言で続きを促す。
「僕には……変わるとは思えないんです。今ある世界では全てのヒトがヒトらしくある事が難しい」
「そうだな、ノウブルである俺たちがそういうのは傲慢なのは気づいているか?」
「わかっています。だからこそ僕はそういいます」
「そうか、世界の構造を、ヒトの心を変えることは難しい。世の中は平等に全てのものに不平等だ。それは神の蠱毒が終わったところで、変わるとは思えない」
「でも、だから、僕は優しい世界に変えたい」
 それは青年に手をかけた少年の真っ直ぐな願い。ただ、みんなが平等に明るい明日を望んで、それが叶う世界。
「どうすればできるとおもう?」
「わかりません、一生かけてもわからないかもしれません」
「なら諦めるか?」
 がばと、アダムは起き上がる。
「諦めません!」
「ならば、諦めなければいい。かなわないからわからないからで諦めることができるほど、お前は老いてはいないさ」
「これは騎士として過ぎた願いでしょうか?」
「いいや、ヒトとして正しい願いだ」
 其の言葉を噛みしめるようにアダムは目を瞑る。そして目をあけ、団長に進言する。
「騎士団長お願いがあります」
「なんだ、いってみろ」
「サインください」

 妙に響く足音がやけに大きく聞こえる。大きな扉をあければ、その向こうの祭壇の前に青い女神が立っている。
「こんにちは、ライカ、ライカ・リンドヴルム」
 女神アクアディーネは淡い笑顔でライカを迎える。
 ライカにとって神は自分を抑圧する害悪でしかない。眼の前の少女のような神がもし、そんな神であれば? 神の蠱毒に勝ったその先の世界は唯一神であるアクアディーネに支配される。その支配がどんなものかと聞きたくなったのだ。だから神殿に足を伸ばした。
「あなたは、どうしたいの?」
 それは端的にも過ぎる質問。女神は一層淡く笑む。
「貴方はイ・ラプセルがなくなるのが嫌だというエゴで神の蟲毒という戦争に加担している。それをどう思ってる」
「hukeeeeee!!」
 遠くの方で黒いやべーやつがまた連行されていった。
「哀しいことです。私のこの決断で沢山のヒトビトが死ぬことになるでしょう。では、放置をした場合、戦いを拒否したら、この国はどうなりますか? 滅びです。そうじゃなくても……白紙の未来が待っています。それを甘受できるほどに、私は日和見ではありません。あなた方がおもうよりも私はきっとエゴイストなのでしょう。
 私は、私の手でこの国を、ひいては世界を救いたい、そう思っています」
 女神の夕暮れ色の瞳が真っ直ぐにライカの瞳をみつめる。
「もし、戦争を終えたら、貴方は神ではなくなるの?」
「はい」
 それは断定。すこしだけ誇らしげに笑った女神の笑みが何故か悲しそうだったのは気の所為だったのだろうか。
「そう、私は神って存在が嫌い。だから、そうじゃなくなるなら、応援したい。キミは神よりもヒトに混じってるほうがそれっぽい」
「そんなに、神様っぽくないですか?」
 こんどは泣きそうな程に凹んでしまっている。やっぱりこの神(ヒト)はなんだか、神様っていうよりはヒト以上にヒトらしいのかもしれない。なんとなくツンケンしていたことが馬鹿らしくもなってくる。でも、でも!! 別にこの女神が好きになったってことではないんだから。
「神様、っぽくはないかも?」
 だからそんな気持ちを察されないように憎まれ口をたたく。
 ひどいです、と頬をふくらます彼女がライカにはやけに可愛く思えた。

 港町は秋晴れの空が高く、冷たい風は吹き抜ける。
 今日は折しも大規模なバザーの開かれる日。サラ・アーベントは英羽・月秋を誘い、一緒に歩く。
 シガレットをふかし、月秋は隣を歩く女性の足並みに歩幅を合わせた。
 サラは歩きながら、毎度のように楽器の前で足を止める。
「アーベントさんは楽器がお好きなのですか?」
 そう問いかけると、ええ、とサラは答える。
「楽器に興味がありまして。ハープも好きですが、ハーモニカが好きです」
 月秋とは6倍もの年齢差。おばあちゃんと一緒だと恥ずかしくないかしら? とサラは若い口調を意識する。同時におばあちゃんがこんなにはしゃいじゃってはずかしくないのかしらとも思ってしまう。
「なるほど」
 全く気にしたそぶりもなく、月秋はバザーに展示されている羽の模様のはいったハーモニカを目ざとくみつけると、店主に値切り交渉を始める。
「どうぞ、今日の記念に。いつかその音色きかせてください」
 半額までに値切ったその戦利品を月秋はサラに手渡す。其の瞬間にくう、と月秋のお腹が空腹の抗議の声をあげた。
「まあ、ありがとう。じゃあ、お礼に」
 サラは近くのバゲット屋から海の幸をふんだんにつかったバゲットサンドを買うと、海辺に誘った。
 バゲットの紙袋をもったサラがとんと人混みに押されてふらつくのを月秋は手をひいて支える。
「このまま海まで」
「はい、騎士様」
 サラは騎士のエスコートに微笑む。
「英羽さんの好きなものってなんですか?」
 ふと気になって問いかければ。
「僕は演劇を見るのがすきです。人形劇も、即興劇も朗読劇も。もちろん自分が役を演じることも」
「役者さんなんですか?」
「僕は、きっと今の僕に満足できていないんです」
 サラは黙ってそのさきを待つ。饒舌に話すその青年が眩しくて目を細める。
「演じることで憧れる何者かになりたいのかもしれません。……なんて、ほら、アーベントさん、海です」
 石畳を抜け足元は砂浜にかわる。少し冷たい潮風は優しく火照る二人の頬をくすぐった。
 二人で食べたバゲットはいつもより美味しかった気がした。

 \わたくしですわ!!!/
 爆発音がアデレードの酒場に響く。高笑いとともに現れるのはジュリエット・ゴールドスミス。
「ごきげんよう! アルヴィダ・スカンディナ!!」
「うわ、うるさいのがきた。酒がまずくなるだろう?」
「ここへこればあなたにお会いできるだろうと踏んでいました」
「皮肉スルーかい?!」
「うふふ、残念ながら今日はアダムと一緒ではありません」
「そうかい、別にどうでもいいけど」
「わたくし一人で!! 恋のライバルたる! あなたに!! 会いに来ました」
「違うっていってんだろ? なんだい? 喧嘩でもうってんのかい?」
「いいえ! 同じ殿方に想いを!! よせ!! る!!
 女同士の恋バナ!!! 大会!!! です!!!」
 ちゅどーんとさらに爆発音をだすジュリエットに周りの海賊たちが声援と口笛をおくる。わりとこのノリには海賊たちも慣れたようで、ジュリエットはすでに海賊たちのなかでもアイドル扱いだ。アルヴィダの前で酒を飲んでいた海賊は嬢ちゃんの特等席だとその席を譲る。
 遠慮なくどんと座ってニコニコ顔のジュリエットに反論するつもりもなくなったアルヴィダは酒場のマスターにミルクを注文した。
「というわけでアダムの魅力を語らいましょう」
「前置きなしか!」
「まずはあの日の光をうけて煌めくつややかな金髪」
「青い瞳だって捨てがたいよ。まるで海を映したかのようだ」
「そう!! 私的にはサファイヤと表現しますが! 王子様!ですわ!」
「まあ、そうだね、ちょっとぽやんとしてるけどさ」
「いえ! 内面まで王子様(イケメン)でしてよ!! あとあの方は可愛いところもありますの。すきなたべものが……」
「なにさ、いってみなよ」
「おっしえてあげませーん!! 秘密ですわぁ! もしかして知りたかったんですの? 好きなひとの! 好きな! あんぱん!!!」
「うざっ!! っていうか秘密隠しきれてないじゃないさ!」
 そんな乙女たちの恋愛討議はまだまだ続く。
 
 散々討議……というよりは一方的にアダムのノロケを終えたジュリエットは満足して酒場をでるのと同時にカスカが酒場に入ってくる。
「つぎは、あんたかい」
 随分とうんざりした顔のアルヴィダがカスカの顔をみて肘を机につけてエールを飲み干す。
「ええ、監視ですよ、監視」
「それはお仕事おつかれさまだね」
「ところで貴女って本当に海賊の間で名のしれた存在なんですね」
「そりゃあそうさ、あたしはこの海を二分する海賊だからね、だてにでかい海賊旗(ジョリー・ロジャー)を掲げてはないさ」
「ただの恋愛ポンコツ処女なんじゃないかと思ってました」
「そういうアンタだってどーせ、処女だろ?」
「ふふん?」
 そのカスカの余裕の笑みにぐぬぬとアルヴィダは唸る。
「で、突然なんだい? 誰かにそんな話をきいたのかい?」
「ええ、オセアン、ガスト? だったか」
「オーシャンラファールな。あの磯臭いやつら騒がしかっただろ? で、なんて?」
「狙った獲物は必ず殲滅する残虐非道な女海賊だとか」
「まあね。あたしは残虐さ」
「七つの海と男を股に掛けるオーシャンビッチだとかそんなんでしたよ。いえ、まあこのポンコツ具合に笑うしかないガセですけど」
「あぁ? 喧嘩でもうってんのかい?」
「いいえ、とんでもない」
「カスカ、外に出な。売ってないってんならこっちが売ってやるさ」
「皆さん、今の聞きましたよね? 正当防衛です。では自由騎士、カスカ・セイリュウジがお仕事をさせていただきます。ああやだやだ、お仕事とはいえ」
 海賊たちもいい余興だと騒ぎ立てる。酒場のマスターはオロオロとしている。
 その後酒場のドアを壊しながら大騒ぎで、対戦した女剣士たちは最終的に取っ組み合いのキャットファイトになったところで任務中であったラメッシュ・K・ジェインに止められて、終了とあいなったのだった。
「喧嘩はやめたまえ! 同じ女性剣士同士仲良くしたらどうかね?」
 そんなラメッシュの言葉に二人は仲良くそっぽ向いたのであった。

 ラメッシュはその後も街を巡回する。
「そこのキミ。ゴミはきちんとゴミ箱へいれたまえ」
「そこのアナタ。割り込みはやめたまえ。皆が同じように並んでいるのだ」
「そこのアナタ。子供が騒いでいる。きちんと注意するのは親の責任だ」
 飛び出してきた子供を抱えあげラメッシュは親に向かっていう。
 こどもは自由騎士に抱え上げられたことが嬉しくてさらにはしゃぐ。母親は真っ青な顔で子供に注意するのをラメッシュは手で制する。
「子供が元気であるのは、正義だ」
「せいぎせいぎ、ぼくもおっきくなったらじゆうきしになる」
「それは正義だ。素晴らしい、しかしキミはオラクルではないから自由騎士にはなれない」
 空気をよまずにラメッシュはそう言い放てば子供は泣きそうになる。
「しかし、その正義の心は国防騎士として十分以上だ」
 真っ直ぐに少年の瞳をみてラメッシュははっきりとそう言った。

 シノピリカ・ゼッペロンはS級指令の前日に届いた故郷からの便りに同封されていた写真をみて顔を綻ばせる。
 ナイピリカにフレピリカ。
 さては返信と、シノピリカはペンを走らせる。
『拝啓

 元気でいますか。
 私も変わりなくお務めに励んでいます。
 王都もすっかり冬めいて、
 年末年始のお祝いの準備がそこかしこで始まっています。
 そうそう、スペリール湖にはウタクジラが来ているのですよ。
 言葉を交わせるし、歌もうたってくれるのです。
 皆にも聞かせてあげたいな。写真を同封します』
~~回想シーン~~
「ほれ、姪っ子のためにメモリアの姿をみせてあげたいのじゃ」
 むけられた蒸気カメラに訝しそうにメモリアはどうすればいいの? と聞けばシノピリカは笑えという。わらうってどうすればいいの? と問われれば口を開けて大きくわらえとシノピリカは見本をみせた。するとメモリアはその大きな口をあける。
 見事じゃと正面からその姿をうつしとったシノピリカはご満悦だが、まるで食われそうなその臨場感のある写真に姪っ子たちが怯えたのはまた未来の話
~~~~~~~~~~~
 シノピリカは新しい便箋を用意し、遠い所へ出掛けてしばらく留守にする、と続きを書いてから、ふと気づき、紙をぐちゃぐちゃにまるめてゴミ箱に捨てる。
 そしてもう一度ペンをとり、
『近いうちに、帰るつもりです。
 お土産を楽しみに
 かしこ』
 そう書き直し、ペンを置いた。

 フェルディナン・G・サンシールはサンクディゼールの街をのんびり散歩する。知人の自由騎士が働いているのを手を振って、頑張ってとその仕事ぶりを眺めていた。
「あら、オジサマ! 今日は非番?」
 街の噂番、バーバラ・キュプカーがそんな彼に陽気に話しかけてくる。
「そのとおりです。今日の秋晴れに、散歩がしたくなりましてな」
「なら、お買い物の荷物もちやってくれないかしら? お気に入りのテーラーの新作が多くて、持ちきれないのよ」
「御婦人の願いでしたら、お手柔らかに」
「大丈夫!」
 すると酒場の方から騒ぎ声が聞こえる。どうも海賊と女剣士が喧嘩を始めたらしい。
「やだ、喧嘩? 元気ねぇ」
「喧嘩も街の華といいますし」
 その騒ぎをフェルディナンは楽しげに眺める。とはいえ、酒を飲むにもしばらく時間がかかりそうだと思った彼は、バーバラを促す。
「そうねぇ。アンタたちほどほどにねぇ!」
 そう声をかけるとバーバラはフェルディナンに向き直って腕を組む。
「これはこれは、お嬢さん、こんなおじさん相手にいいのですか?」

 トミコ・マールはいつもどおり市場にむかって顔なじみに今日はなにがおすすめだい? と尋ねれば、真っ赤なトマトをすすめられる。旬ものではないが蒸気を利用したガラスの栽培室で出来たものだという。
「昨日のじゃがいも、ホクホクでよかったよ! みんなのおかわりがすごいのなんのって」
「トミコさん、おいしい羊の肉も届いてるよ」
「あとで行くよ! 箱でとっといておくれ!」
 今日の仕入れも上々だ。
 下ごしらえを十分に施して、椅子とテーブルを軽く布巾でふいて、汗を拭う。
 ぽんぽんとテーブルを叩き、「さてと戦闘準備は完了さ」と嘯く。
 ドアの看板をOPENにすれば腹をすかした子たちが入ってくる。
「いらっしゃい! 今日は何をたべていくんだい? 満腹になるまで帰さないよ!」

 今日はお休みなのだ!
 一日ダラダラするぞ! 
 サシャ・プニコフは本日の予定を斉唱する。すれば司祭が雷を飛ばす。
 掃除を仰せつかったサシャは子どもたちをつれて年末の大掃除に駆り出されることになったのだ。
 あー! ものをうごかすときは上からだぞ!
 重いものは皆で運ぶのだぞ!
 ほうきで剣術ごっこしちゃだめだぞ!
 なんと、サシャはこの教会では最年長で司令官なのだ。
 とにかく、掃除が終われば司祭様が特別なおやつを用意してくれていると子どもたちに伝えれば現金なことに子どもたちは掃除に一生懸命になる。
 あとすこしで教会は綺麗になる。サシャはそれがとても気持ちがよく感じた。

 天気もいいから、ピクニック! 少し空気はつめたいけれど、去年奮発したコートを羽織れば暖かい。
 レネット・フィオーレはふらふらと街をあるく。
 ガラス越しに煌く宝石のようなお菓子やお洋服。すごくほしい、めちゃくちゃほしいけど、悲しいかなレネットは苦学生。そんな贅沢は厳禁なのだ。
 ウィンドウショッピングを終えたレネットは公園のベンチに座る。
 バスケットに詰め込んだお弁当の中身はサンドイッチ。晩御飯の残りのベーコンとミモザサラダを挟んだごちそう! 葉物野菜もはさみたかったが今は値段が急上昇しているのだ。倹約倹約。
 でもベーコンの脂を吸ったミモザサラダは絶品だ!
 食後にはマドレーヌを取り出す。きつね色に焼き上げたそのお菓子はとても美味しくできた。
「や、レネット、今日もきゃ~わいいね~」
 軽薄な台詞とともに現れるのはヨアヒム・マイヤー。
「こんにちは、今日はバーバラさんと一緒じゃないんですか?」
「ねーさん、今日買い物の日だから逃げてきたのさ」
「怒られますよ?」
「でも逃げたおかげでこんなかわい子ちゃんと午後を過ごせるならサイコーじゃん?」
 すとんと隣に腰掛けたヨアヒムにレネットは笑うとマドレーヌをどうぞと差し出す。ちょっと焦げたマドレーヌにヨアヒムの手が伸びて、あわてて、一番綺麗に焼けたのを渡す。いえ、焦げててもおいしいかもですけど、でも女の子としては、殿方に食べさせるのであればイイものをっておもうから。
「おお! めちゃくちゃ美味しいね! レネットいいお嫁さんになるんじゃない?」
「あら? もらってくれるんですか?」
 クスクスと笑いながら冗談を言えば、ヨアヒムは参ったと両手をあげて降参した。

「はっ!!」
 S級指令で出発する数日前のお話。アンネリーザ・バーリフェルトは旅の準備をしながら大切なことに気づく。
 この指令は年末までに帰ってくることがかなわないかも知れない依頼だ。
 オラトリオといえば、最近はもこもこの赤い帽子が大流行。帽子屋の彼女にとってはかきいれどき!
 間に合うかしら……いいえ、間に合わせるわ。
 それが職人の意地だから! 急いで赤い布を購入、型紙を書き出して、クチュールして、昼も夜も作業机にかじりつく。
 デザインは去年と一緒じゃ芸がない。ふわふわな綿花を乗せるのにもセンスは必要。オーナメントは何種類も用意して目新しく組み合わせて。貴族階級用には豪華仕様で。
 ギリギリながらも出来上がる目処はついた。委託先は先に確保しておいて自分を追い詰める。
 これで納品できませんでしたでは名前に傷がつく! さあ! ひたすら作るわよ!!
 彼女が何徹したかは、コンシーラーに隠されてわからない。

 ウェルス ライヒトゥームは、佐クラの店の前をいったりきたり。
 可愛いウサギをデートに誘うために。
 なんて嘘。ほらいきなりそんなこといわれても困るだろう?
 今日は納品書のお届けだ。そうそう、仕事できたんだよ! もちろん美女に合うことがメインだけどそれを誤魔化す。この意気地なし!
 ころんころんと入店音が響けば、愛しのうさぎはぴこんと耳をたてる。
「やあ」
 声が裏返ってなかっただろうか? 
「ああ、納品書ですのん? おおきに。そこおいといてくれます?」
「武具の改良か? 大変だな」
「ええ、それで、みなさんがあんじょうきばれるんでしたら、ええことです」
「そういえば、最近入荷した『きけんな水着』あれって、お嬢も試着したのか? あのこう、腰元がきわどいあれ」
 ゴン。
 スパナがウェルスを横切り壁にあたって落ちる。
「なんてぇ? きこえんかったわぁ」
「冗談! 軽い冗談だから」
「ならよかったわぁ」
「でもさ」
「はい?」
「せっかくなんだから来年の夏には着てみたら……いや! べつにそれじゃなくても! もっと布地あっていいから」
「ほんまうぇるすさんはすけべえやわぁ。まあ、お得意さんのいうことですし、かんがえておきます」
「まじで?」
「さあ?」
 そういってころころと笑う兎の真意はしれない。ウェルスは夏までは殺されても死ぬもんかと誓うのだった。

 アルビノ・ストレージは機器のメンテナンス。
 研磨を繰り返しスムーズに動くように何度も調整する。部品のチェック、材質の変更。一つ一つは派手ではない小さな変更。でもその改良が未来をかえていくのだ。
 自分の蒸気機械の体は誰かが組み上げてきた積み重ねで出来ている。
 その積み重ねが体の一部を失ったキジンたちに不自由のない毎日を約束してくれた。
 ならば――。
 さらなる快適は、未来への快適の約束は自分の手で生み出したいと思う。

『お、つながったか?』 
 マリア・スティールは現在、シャンバラに潜伏してる。
 本国との定時連絡は常にとられ、水鏡の情報や、現地情報などを交換している。今日の担当はマリアだ。
『はー、めんどくせえな~ こういうの向いてるやつがやりゃあいいんだ』
「つーても仕事でござろう?」
『聞かなかったことにしてくれよ』
「拙者にそれを言うりすくわかってるでござろうもん?」
『こっちのうめえ果物土産でどうだ?』
「手をうったでござる」
『で、オレらはこれから”砦(やま)”を超えて”森(たに)”に進まないといけないらしい。』
「ほいほい。つうか砦いくんじゃなかったんでござるか?」
『おまえさあ、符牒使えよ!! 空気よめよ』
「空気読まないのが拙者でござるよ」
『誰かべつのやつにかわれ』
「拙者じゃいやなのでござるか? かなCでござる。 マリア殿に穢されたってないことないこと言いふらすでござる」
『ないことばっかじゃねえか!』
「拙者とて友人が不安と思いうぃっとな冗句で和ませてるのでござるぞ。とにかく了解でござる。ああ、マリア殿。ちゃんと帰ってこいでござるよ。エピ野郎もそう言ってたでござる。まだ約束の場所いってないって。何でござるか? すけべな約束でござるか??? ムサシマル知りたい!!」
『んじゃ、きるぜ! じゃあな』
 マリアは答えを聞かないままに通信を終わる。
 すこしだけ。帰ってこいといわれたのが嬉しかった。

「おい、出て来いイッパイアッテネ。クロクロ。ニヤケ片眼鏡ー」
 同じくシャンバラ。野営地から少し足を進めて、非時香・ツボミは虚空に向かって呼び出す。
 返事はない。まじかよ。あのヤロー! そう思いツボミは野営地に戻ろうすると。
「キミさあ、それで僕がこなかったら恥ずかしくない?」
 背後からの声にツボミは振り向かない。知っていた。こいつはこういう趣味の悪いやつだ。
「おー元気か? 私はびみょい。つうかこの国キモい」
 背中合わせのまま振り返らずツボミは話す。
「それな」
「通信できいたぞ。ミトラースんとこいってたんだろ?」
「まあね、僕ぁ神出鬼没さ。どこに現れたって不思議はないだろう?」
「なんか突っ込むのもめんどくさい。なあ、クロちん」
「なんだい、ボミちん。攻略法でもききたいのかい?」
「攻略法っちゃそのとおりだな」
「そりゃあダメだ。天秤が傾きすぎる」
「この国のとりあえず行っておいたほうがいい観光名所!」
「はぁ? ボミたんアホなの? 行く暇ないじゃん」
「夢くらい見させろ」
「あー、どうせ行くとこだけど、シャンバラの総本山。あれは必見だぜ?」
「クロちん、妖精郷の往復ルートには? しってんすよね? 旦那」
 言って振り向けば、そこに道化師はいない。
「あーあ、どうせなら来てくれた礼くらいだすつもりだったんだからこのツボミ先生の笑顔くらいみていけ」

 ほんまなんなん? おかんのあほ! おかんってよんだら怒りよる。
 ママとかしゃらくさいやん。ええやんおかん。かわいいやん。何がきにいらんねん。
 アリシア・フォン・フルシャンテは足で小石を蹴りながらブツブツと文句をいう。
 きっかけはちょっとしたこと。おかんと呼んだら母親が怒り出したのだ。
 そのあとは大喧嘩。つまらない喧嘩。
 もういい、叔母さんとこいってお話してホカリ言葉おしえてもらうねん。
 そんでびびらしたる。ふふん、ええアイデアや。
 叔母の家へのみちのり市場を通る。そこには母親がすきそうなブローチがあった。
 ふん、まあええわ。うちお小遣い自由騎士団でもろてるし。この程度ならまあ安いしな。あんなおかんには安物でいいんや。まあ、これ渡してうちが大人になって、仲直り。
 ……できたらええな。

 エルシー・スカーレットは王宮に向かう。
 服装は友人からレンタルしたもの。すこしフリルが多いのが気にはなるけど、謁見するのであればいい服じゃないと、と思ったのだ。
 みんな普通の格好で行ってるみたいだし気にすることはないのかもだけれど、ほらそこは乙女心。
 謁見のアポはとってなかったけど、自由騎士が会いたいといえばわりと簡単に会うことができると知った。とはいえ執務の合間だから2時間ほど待ったけど。
「やあ、エルシー、どうしたんだい? 今日は随分可愛い格好だね。よく似合うよ」
「その、陛下、忙しいなか、すみません」
「私も休憩がてらさ妹が迷惑かけてすまなかったね」
「やっぱり怒られました?」
「そりゃあ、クラウスが激怒して私も巻き込まれて怒られた」
「すみません!」
「いいや、妹に対する押しつけが過ぎたんだろうね。王族で仕方ないとはいえさ。それが爆発したんだろう。それを君たちが保護してくれた。それはありがたくおもうよ。妹もキミがよくしてくれたといっってたよ」
「そう、ですか。そんなことないですけど」
「ありがとう、キミは本当にいいこだね」
 そういってエドワードは握手を求める。エルシーはドギマギとその手を両手で握る。暖かくて大きな陛下の手。それは守るべき手だと思う。
「休み時間は終了だ。またね。エルシー」

 日用品の買い出しに猪市 きゐこは港町に向かう。
 少し遠出だけどお休みの日なのだ。それくらいは足を伸ばしてもいいだろう。港の市場にはお茶の品種も多くある。お気に入りのお茶も残り少ない。
「それにしても、紅茶は高いままなのだわ。おのれヘルメリア」
 お茶を買って次には本屋に足をむける。ちょっと前まで、印刷技術が今ほどでもなかったときは本なんて高級品も高級品、貴族だけのものだったのだが、印刷が広まってはや数十年。あっというまに本は一般人ても入手できるものになったのだ。
 魔導書までは望めないが、素敵な小説の続きがでていないだろうか? 書架を指でたどりながら、タイトルを撫でる。
 あ、あった。
 たしか次の巻で犯人がわかるはず。
「「これ」」
 同時に一冊しかないその本に二人の指が触れる。
「おい、譲れ」
「それが譲ってもらう態度なのかしらだわ?!」
 13番が据わった目で引き出して斜めになった背表紙に指をかけている。
「やっとみつけた。ぱぱがこれ、取り扱ってくれてない。だから仕入れ」
「私だって続きよみたいのだわ!」
 バチバチと火花が散る。きゐこはそれほど読みたいわけではなかったがそうこられたらこちらとて意地になる。美少女とはそういうものなのだ。
 
「大掃除かよ、めんどくさい。日々やってんだから、そんな毎年気合いれなくても」
 それはサロンドシープのいつもの光景。半ば様式美にもなっているニコラス・モラルのそのパフォーマンスが掃除の合図だ。いらないものは捨てる。溜めていけば片付かない。
 客からもらったアイテムなんていうものは存外にかさばるのだ。
「やかましいこといわへんとって、さっさと片したらすぐなんやから」
 蔡 狼華、あれもこれも捨てるのもったないわぁとぼやきながら着物を選り分ける。
 小さくなってきれなくなったとはいえ上物の衣なのだ。
「なんかほしいんある?」
「きれいなのはぼくには似合わない、ので……」
 狼華を手伝っている雪・鈴は小さな声で呟く。
「これ、にあうんちゃう?」
 鈴に服を合わせてみる。
「ほうほう、似合いますにゃ」
 瑠璃彦 水月がニコラスから受け取った宝石の類を査定しながら鈴に目をやり褒めれば鈴は触角をふるふると震わせながら真っ赤になってしまう。
「にあわんいわんと、着物がアレやったら、解いて小袋にしてしまう? こうやって模様を内側にしたら、外見はふつうやけど中身は綺麗になるんよ。それならええんとちゃう?」
 そんな狼華の言葉に鈴はどうしていいかわからなくなる。
「寒さに凍えなくてよくて、食べるものに困らなくて、誰もぼくを叩いたりしない
それだけで、ぼく、じゅうぶん、です」
「鈴は無欲だなあ。俺なんてもらった宝石は一通りつけたから売っちまうってーのに。お金はうらぎらねーからな」
「ニコラスさん、これ台座に傷が入ってるにゃ、買い叩かれるですにゃよ」
「まじか、お前すげえ目利きだな」
「まあこれで少しは稼いでいたもんですからにゃ」
 ……まあこっちより『あっち』のが儲かるからすぐに切り替えたのだけれども。
「彦はなんもないん? ほうるもん」
「にゃあは最近流れ着いたものですんで特にないですにゃ」

 料理は楽しく! 愛を込めて!
 本日は王妹であるクレマンティーヌとクラウディアも一緒にお茶会の前のクッキングだ。
 今回の講師はアリア・セレスティ。
 カーミラ・ローゼンタールとシア・ウィルナーグ、海・西園寺も生徒として参加する。王女が厨房にはいるのに一悶着はあったとはいえ、無事にこの会が実行できたことに海は笑みを浮かべた。
 まずはどんなふうにクラウディアが料理をするのかを確かめる。順番も、行動も全く問題はない。なのになぜか最終的にまずくなってしまうのだ。
 失敗とかそういう簡単なものじゃない。何らかの意思すら感じられるそれにアリアの目のハイライトは消える。味見はしている。都度。最初砂糖の味だったクッキーが最終的には塩味になっていた。意味がわからない。
 王女は意外にも器用なことに彼女らはほっとした。それはカーミラのマイナスイオンが緊張を和らげていたからなのかもしれない。海とシアも一緒に計量カップで計る。粉まみれにならないようにとシアは立ち回るが、はしゃぎまわる少女たちの前ではそれも上手くはいかない。真っ白になった顔を見合わせて笑う。これもいいかなとシアは思う。アリアは王女の顔を清潔な布巾で服。不敬かもだけど孤児院のこたちと似ている王女の笑顔がなぜだかうれしかった。
 クッキー作りの最大の楽しみである、型抜きになれば海がシャキーンと型をとりだす。
 牛はカーミラ、鳥はシア、犬はアリアで、熊はクラウディア、猫はティーヌで、兎は自分。
 ジャムやアイシング、チョコでのデコレートには全員が喧々囂々とかわいさについて議論する。
 動物クッキーはやがて完成!
 ホカホカできたてのクッキーは幸せの味。(クラウディアのものは気合で青い顔のカーミラとアリアが処理しました)
 紅茶とともに素敵なティータイム。
 海が同時につくっておいたナッツとドライフルーツのマフィンも合わせて。
 王女は初めて自分で作ったクッキーを食べて泣き出してしまう。どうにも感動屋の彼女が泣き始めると海も、アリアも、カーミラもシアも泣き出してしまった。
 嬉しくたって涙は溢れる。
 でも時間はあっという間に終わりをつげる。シアはラッピングしたクッキーを王女のお土産にするとまた王女は泣き出してしまう。
 そんな、すてきななんでもない、一日だった。

 グローリア・アンヘルは何気なく街の噴水に向かって歩いていた。
 案の定、アーウィンが、子どもたちに囲まれて羽角を引っ張られてからかわれている。
「アーウィン」
「おお、グローリアじゃん。 おい! おまえら怖いねーちゃんが来たぞ! 食われるぞ!」
 そんなからかい文句に怒っていいのか泣きたくなるのかわからなくなってしまう。
「私はそんなに、怖いのか?」
 沈んだ声。
「あーうぃんがおねえちゃん泣かせたー!」
「こらガキんちょ! なかせてねーよ! てか、怒った?」
「別に。なあ、アーウィン。私はいつも子どもたちに怖がられる、だからどうしたらいいのか聞きたくて」
 やっちまったって顔になるアーウィンと、これだからアーウィンは! と囃し立てる子どもたち。
「あー、なあ、お前らこのねーちゃん怖くないよな?」
 まったくもって下手くそなフォローだ。さっきと言ってることが真逆じゃないか。くいくいとコートの裾を少女がひく。
「おねえちゃん怖くないよ。綺麗だもん。お角もかっこいいよ。それにアーウィンよりお姉ちゃんのがつよそうでかっこいいよ。お顔はちょっとこわいけど笑ってみて」
 こうか? と広角を上げるがひきつってしまう。女の子はわらうのへたねと笑う。グローリアはどうしていいのかわからない。
「そんなかんじさ、子供らと同じ目線になってやればいいんだ」
「アーウィン口説いてるー」
「ちげーよ! このマセガキ!」
「ははっ」
 其の様子がおかしくてつい笑ってしまう。
「それだよ。かわいいじゃん」
 そういってにししと笑うアーウィンにグローリアは心が跳ねる。その気持が何かはわからない。

 
\メモリアァァァーッ!!/
\あなたの大親友で美少女ガンナーの!/
\あたしが来たわよ!/
 スペリール湖の縁でヒルダ・アークライトが叫べばほどなく煩い、とウタクジラのメモリアがやってくる。
「うるさかった? それはそうとしてお土産!」
 オキアミをスペリール湖にばっ! と投げ込む。
『おきあみ、ありがとう』
「ふだん海での狩りはしない私がわざわざ狩ってきたのよ!」
『そう、ありがと』
 正直たいした用事なんかない。この種族の違う友達に会いに来たところですでに終わってる。だから今日はメモリアの背中に寝転んで空を見上げて過ごそうとおもった。
『元気がないわ。どうしたの?』
「戦争だらけで滅入っちゃってるのかも」
『ふうん……――♪ ――♪』
「メモリア?! それ」
 メモリアの詩に魔導が混じっていないことに気づきヒルダが飛び起きる。
『これだけだけど、普通に歌えるようになったの、貴女とうたえるように』
「そっか、そうなんだ、すごいねメモリア」
『少しは元気でた?』
「うん、ありがとう」

 マグノリア・ホワイトは神殿に向かう。
「アクアディーネはセフィロト……いや『ダァト』へいく気はある?」
 その問に女神は一度だけ目を見張り、そしていつもの淡い笑みに戻り答えない。
 焦れたマグノリアは次の質問にうつる。
「蠱毒が終わればどうなると思う?」
「アレイスターの言っていることが確かであれば、滅びを避けることができます」
「君たちの兄弟がさらなる力を求めて消えた理由は?」
「それは簡単です。守るべき地を広げ増やすために。それがすべて失敗というカタチになってしまっただけです」
「消えてしまっても成そうとすることってそれこそ支配なのかい?」
「ええ、其の通りです」
「あなたは支配のためにダァトに行く気?」
 今度はアクアディーネは首を横にふる。
「蠱毒っていうのは寿命のなくなったこの世界に、喪われた創造神をもう一度作り直すための儀式なのかな?」
 アクアディーネはまた首を横に振った。
「なら?」
「蠱毒が終わって明確にどうなるかはわかりません。けれど世界の死を防ぐためなら、私はそれを為します。あなた方とともに」

「サンドバッグを叩くのにも飽きましたねえ」
 そんな物騒な言葉を放つのは、リンネ・スズカ。
「しかたありません。ストリートファイトです!」
 とにもかくにもリンネは私よりも強いやつに会いに行く。
 ふらりとたどりつくはスラム街。ガラの悪い男にガンをつければ面白いことに釣れる釣れる。
 あっという間に囲まれてしまうリンネ。
「本当はただ一人強いのにあいたかったのですが、ここにはいないようです」
 はふうとため息。男たちは近くに転がっているパイプを掴むとリンネに向かって振り下ろした、はずだったのに倒れているのは男本人。
「さあ、参りましょう」
 数刻ののち。立っているのはリンネひとり。
「てめえ、なにものだ!」
「ヒーラーのリンネ・スズカと申します。あ、回復はしておきますので、また戦いましょう」
「ふざけるな!! そんなヒーラーがいてたまるか!」

 フーリィン・アルカナムがむかったのはスペリール湖。
 ふだんはねこにゃんハーレムでねこにまみれている彼女だがたまにはと新しい出会いを求める。
 噂にはきいていたけれど、なかなか会う機会がなかったあのこに。
「こんにちは、はじめまして」
 桃色の巨体に話しかける。
『あなただあれ。はじめてみるかおね』
「フーリィン・アルカナムともうします! えっとしゃべるくじらさんと話してみたくて」
『へんなこ』
「えへへ、よく言われます。オトモダチになりましょう!」
『やっぱりへんなこ』
「で、だめですか? 私猫と友達になるの得意ですよ!」
『わたしはウタクジラよ』
「ウタ! きいてみたいです」
『わたしのうたをきいたら、あなた寒いのに湖に飛び込むことになるわ』
「それはいやですね……」
『それに、魔導のこもってないウタは練習中。もう少し長く歌えるようになったら聞かせてあげる』
「ほんとですか?楽しみにしてますよ!」

 おやすみの日だってお勉強は欠かさない。新しい甘味をもとめてシェリル・八千代・ミツハシはアデレード。
 其の話を聞きつけた同じく甘味大好きサブロー・カイトーもまた甘味屋めぐりに同行する。途中ミズーリをみつけた二人は、情報交換して、甘味めぐりに出発。
「どれもおいしそうですぅ~」
「うう、食べたいけど乙女には体重との戦いがあるのよ」
「ならば、しぇあするのはどうです? 少しずつ沢山種類を」
「まぁすてき~」
 シェリルはぱちぱちと手をたたき、ミズーリもそれに頷く。
「そば粉のガレットに……シンプルな饅頭はもっと好きです」
「きらきらのゼリーなんてどう?」
「ん〜! パフェ美味しいですねぇ〜! クリームの比率、生地のキメ細やかさ、最高ですねぇ!」
 甘味好きたちの行脚は3件目、4件目と続く。
「うふふ。味はしっかりメモをとりましたよ。イ・ラプセルに甘味革命をおこすのです~」
 甘味と見目麗しい女性とのでえと。これはなんとも贅沢な休日だとサブローはニコニコ顔。

 あ、そういえば洗濯物洗うのわすれていた。それにサブローが気づくのはもう少し空が暗くなってから。

 本日の予定。
 大噛・シロは神殿前にて鳩に顔見知りの老婆から買い付けた餌で餌付け。
 動機、テレパス急と動物会話を用いての食職の解消。具体的には心理的理由での解消。
 封じられた口、それがなぜかは不明。忘却した、記憶消去した。
 シロは鳩に問いかける。
 啄む食事は美味いか。答えは聞かなくてもわかる。確認。
 羨望。そう、羨望である。
 本日の予定、終了。
 今日も、なにもない、いつもどおりのいちにちだっただった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『譲れない願い』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『水の国の騎士』
取得者: ライカ・リンドヴルム(CL3000405)
『秘された其の先へ』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
特殊成果
『皆で作ったクッキー』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アリア・セレスティ(CL3000222)
『皆で作ったクッキー』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『皆で作ったクッキー』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:海・西園寺(CL3000241)
『皆で作ったクッキー』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:シア・ウィルナーグ(CL3000028)

†あとがき†

参加ありがとうございました。
思い出にのこる、もしくはいつものいちにちだったでしょうか?

MVPはサロンのお掃除奉行さんと何かを変えたあなた。
そして世界の秘密に手を伸ばしたあなたへ。

ちなみにクッキーはげんせんなるちゅうせんというなまえのダイスの結果おひとりさまに外れがまじっております。
FL送付済