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Rectitude! 正しい亜人の使い方!




『アッティーンの流通が滞っている?』
『亜人共へのVFの数がたりない、だと? 構うものか、どの道連中は使い潰しだ』
『商人どもに圧力をかけろ。すぐに数を増やせ!』


 ヴィスマルクの侵攻は各方面へと進んでいた。
 イ・ラプセルが進行してきたドナー基地方面への圧力はもちろんのこと、輸送船を使った海路からの進軍や街に潜伏させていた工作兵なども一斉に動き出す。これまで各方面に向けていた部隊を、イ・ラプセルに向けた形だ。
 当然、イ・ラプセルもそれに対抗すべく軍を派兵する。拮抗する両軍だが、戦争という状況では兵の質はヴィスマルクに軍配が上がる。
「オラクルは弾避けになれ! 亜人は捨て駒にしろ!」
「戦車のパーツにされたくなければ、突っ込め!」
 兵の質――と言うよりは人を人と思わない運用法。命を使い捨て、効率的に消耗するやり方。彼らにとって亜人は命ではない。ノウブルの為の消耗品だ。その思想はイ・ラプセルにはない。
 そして戦争という非常識な局面において、その差は絶大だった。生存を前提としない戦術。生き残るには相手を殺すしかないと思わせる非情さ。脱走すれば殺される。精神を摩耗させ、ただの兵器と化すやり方。
「侵攻開始」
「はっ、進め!」
 フォーゲル・トラバウト大佐は銃剣を敵軍に向ける。その号令に従い、亜人達の遺体で溢れた死屍累々の道を突き進む。
 亜人やオラクルを盾にして弾丸を消耗させ、その後に鍛えられた軍が蹂躙する。それがヴィスマルクの侵攻。
 戦火は時間と共に広がっていく。それに比例して、犠牲者もまた増えていった。

 だが、侵攻する亜人達の勢いは少しずつ弱まっていた。
 潜行する亜人部隊。彼らには生命を代価として力を得るフェアボーテネフリュヒテ。通称――『VF』が投与されていた。
 しかしイ・ラプセルの工作によりその原料であるアッティーンの流通が滞っていた。その為、ヴィスマルクは充分なVFの生産が出来ないでいた。
 それは非情の侵攻に開いた、僅かな穴。鉄血の軍靴が僅かに止まった程度。
 だが確かにそこには穴がある。そしてその先には、ヴィスマルクの首都、ヴェスドラゴンへの道がある。
 亜人部隊を力で制するのもいいだろう。彼らは敵軍だ。逆らえない命令とはいえ多くのイ・ラプセル軍を殺してきた。その事実は覆らない。同時に、それら好意により摩耗した精神は彼らを苛むだろう。殺すこともまた、慈悲なのかもしれない。
 或いは彼らを生かすのもいいだろう。彼らは犠牲者だ。殺人を強いられてきただけの存在だ。アクアディーネは全ての亜人を救いたいと言った。彼らを救う事に意味を見出せるのなら、それに従うのもいいだろう。
 どちらにせよ、この波を乗り切らなければ勝利の道は遠のく。時間はない。世界は緩やかに崩壊していっているのだから――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
大規模シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
どくどく
■成功条件
1.【戦車】の部隊をを制圧する
 どくどくです。
 ヴィスマルク侵攻第二弾。陸上戦にして突破戦。
 
 いやー、ヴィスマルクってヤな軍隊だなー。どくどく、心が痛いわー。

●敵情報
 ヴィスマルク軍『鋼炎機甲団二三番部隊』
 ヴィスマルク帝国陸軍の戦車部隊。その一つです。亜人で編成された突撃兵と、戦車による突撃が主となる戦術です。
 亜人部隊は『VF』と呼ばれる薬で強化されていましたが、その効果により寿命が大きく削られています。多くの亜人達は死を拒否していますが、逆らうだけの気力はなく明理恵されるままに突撃し、その死体の上を戦車が進み進軍する形になります。

★【亜人】
 ノウブル・キジン以外で構成された部隊です。ぶっちゃけ、使い捨て。主に敵兵に弾薬や魔法(メタいこと言うとMP)を使わせる役割です。亜人部隊も攻撃を仕掛けてくるため、放置していい存在ではありません。
 こちらへの対応が疎かになれば突破され、補給部隊に向かって攻撃を開始します。そうなれば【戦車】で戦うキャラクターは解除不可の【MPロス 150】を得ます。
 精神がかなり摩耗しており判断力もないため、説得には耳を傾けません。殺さなければ殺される。そんな精神状態です。VFの供給不足により、この戦いでは薬物投与はされていません。
 軽戦士4割、ガンナー3割、魔術師2割、呪術師1割で構成されています。各ジョブのランク2までのスキルを、レベル3までで使用します。

・スオウ(×1)
 マザリモノ(大蝦蟇)。八十八才男性。カエルの頭を持ち、十字槍とアマノホカリの着物を着た者です。一宿一飯の義でヴィスマルクに槍を預けています。重戦士スタイル。VFにより身体能力が強化されています。
 拙作『【禁断ノ果実】Lust! 戦を求めるサムライ!』出ています。敵NPCの一人という認識で問題ありません。
『テンペスト Lv5』『バーサーク Lv4』『リバースドレイン Lv4』『天逆鉾 Lv4』等を活性化しています。

・ミキュア・セリバス(×1)
 ヨウセイ。十七歳女性。ヴィスマルクに捕まり、かつて自分達の同胞を狩っていた呪術師を無理矢理教えられました。自らの嫌悪感で怯えるように戦います。VFにより身体能力が強化されています。
『トロメーア Lv5』『因果逆転 Lv4』『ネクロフィリア』等を活性化しています。

・『駄目な(シュリム)』アリス
 ノウブル。二十歳女性。亜人達の環境を知り、自ら亜人部隊に加わりました。名高い軍人の生まれでしたが、亜人部隊協力と同時に家名を剥奪されました。亜人達を守るため、あえてVFを自らに投与しています。
『ヒポクラテスの誓い Lv5』『サンクチュアリ Lv2』『ヒュギエイアの杯 Lv4』『アスクレペイオン(EX)』等を活性化しています。

アスクレペイオン(EX) 魔遠味全  【HPチャージ100】【MPチャージ100】【防御+60%】【魔抗+60%】 (持続6T)  アスクレピオスの聖域。弱者を守る不可視の医の館を設立し、その内に居るものを癒していく。自身の半径10mの範囲に敵味方関係なく効果を及ぼす。効果範囲内の者がAスキルを使用、もしくは術者の戦闘不能で効果時間にかかわらず領域は消滅する。(おおよそ効果範囲は6人)★シナリオ専用【術者移動不可】


★【戦車】
 戦車部隊本隊です。タンクデザント(戦車に乗って戦場を進む歩兵戦術)を用いて、突撃します。機動性の高さと突破力が売りの部隊です。
 ガンナー5割、防御タンク3割、重戦士2割で構成されています。各ジョブのランク2までのスキルを、レベル3までで使用します。

・バール(×3)
 突撃用の小型戦車です。魔法などによる回復効果は受け付けません。精神に関するバッドステ-タスは有効です(搭乗者がかかる形になります)。

攻撃方法
突撃 攻近貫 突撃して、衝角を突き刺してきます。20m移動可能(100%、75%)
轢殺 攻近範 衝角を伴わない体当り。
副砲 魔遠単 備え付けられた火炎放射器。【バーン2】

・フォーゲル・トラバウト(×1)
 ヴィスマルク軍人。階級は大佐。種族はオニビト。
 大きな銃剣を手にしたガンナー。2mちかい巨躯に大きな3本の角を持ったオニビトです。叩き上げで大佐まで登った実力者で部下からの信望は厚い男性です。豪快な性格で戦闘は好きです。
 たぢまCWの作品『【楽土陥落】鉄血進撃』に出ています。
『ハウンドブレイズ Lv5』『バレッジファイヤ Lv4』『オーバーブラスト Lv4』『ウォークライ Lv4』『レイジングドローミ(EX)』等を活性化しています。

レイジングドローミ(EX) 魔遠範 【移動不可】【パラライズ】 弾丸に魔導力を込め、実体化した弾道をもって対象を縛める。

副官
 ヴィルダー・ツァンコ(×1)
 ヴィスマルク軍人。階級は大尉。種族はノウブル。
 大盾を装備したガーディアンです。隊列を乱すことを得意としています。フォーゲルと共に行動しています。性格は生真面目で冷静で無口。フォーゲルが危険であれば庇います。
 たぢまCWの作品『【楽土陥落】鉄血進撃』に出ています。
『ファランクス Lv4』『ダブルカバーリング』『バーチカルブロウ Lv5』『インデュア Lv3』等を活性化しています。

●ヴィスマルクの権能
 ヴィスマルク軍人は以下の権能を活性化しています。

勇猛:戦女神の名において、戦場では常に勇敢であれ。(精神系のBS抵抗力+15% 防御力+3% 防御無視無効・魔抵抗無視無効)
苛烈:戦女神の名において、苛烈であれ。(単体攻撃力が+10%)

●場所情報
 元シャンバラ領。天候は晴れ。灯りなどは問題なし。

 便宜上、戦場を【亜人】【戦車】の2区画に分けます。プレイング、もしくはEXプレイングに行き場所を記載してください。書かれていない場合、孤立して狙われることになります。繰り返しますが、狙い打ちます。
 他戦場への移動は可能です。ただし連戦になるので重傷率は高まります。


●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。

 皆様からのプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
3モル 
参加費
50LP
相談日数
6日
参加人数
38/∞
公開日
2021年05月23日

†メイン参加者 38人†

『ひまわりの約束』
ナナン・皐月(CL3000240)
『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『祈りは歌にのせて』
サーナ・フィレネ(CL3000681)
『罪を雪ぐ人』
ステラ・モラル(CL3000709)
『教会の勇者!』
サシャ・プニコフ(CL3000122)
『おもてなしの和菓子職人』
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『未来の旅人』
瑠璃彦 水月(CL3000449)


●亜人Ⅰ
 亜人部隊。戦車部隊の前に突き進み、敵陣にぶつかるための突撃兵。
 文字通りの肉壁。言葉通りの露払い。万難を排する為だけにある使い捨ての部隊。
「なんでこんなひどいことが出来んねん!」
 その扱いを見て『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は憤慨する。イ・ラプセルの亜人平等思想が少数派であることは知っているが、それでもこの扱いは酷すぎる。
「いくら敵や、言うても胸が痛むわ……しゃーないねんけど倒させてもらうで!」
 良心を痛めながら、しかし現状倒さなければならない相手には違いない。機械化した足で亜人達を蹴り払いながらアリシアは突き進んでいく。彼らを通してしまえば、イ・ラプセル軍が危ない。仲間達を守るためにアリシアは心を痛めながら蹴りを放つ。
「できるならこの戦い、早く終わらせて無理やり戦わされてる人を開放できるようにしたいわ」
「ホント……戦争好きな人たちって」
 呆れと共に嘆息するリィ・エーベルト(CL3000628)。リィはヴィスマルクの亜人に対する扱いよりも、戦争そのものに嫌悪感を抱いていた。武器を持ち、他国を侵略する。その為に亜人が使い潰し、勝利の道を切り拓く。そこまでして勝ちたいのか。
「まあ、やりますよ。ええ」
 嫌気を隠そうともせずに動くリィ。錬金術により生まれた赤き液体を霧にして仲間達の周囲に散布する。魔力を帯びた霧は仲間達の体内で活性化し、体力を魔力を活性化していく。仲間を支援し、同時に傷を癒す。それが薬師の仕事。
「流石に攻撃する余裕はなさそうかな」
「あたしか弱いから純粋な戦闘苦手なんだよね〜」
『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は迫る亜人達を前にそう言い放つ。不意打ち闇討ちだまし討ち。相手の意識の外から攻め、絡めとって勝利する。それがクィニィーの戦い方だ。正面切っての戦いは好みではない。
「ま、頑張りますかー」
 仲間の陰に身を隠しながら頷くクィニィー。完全に身を隠すことはできないが、敵から多少意識から逸らすことはできるだろう。形なき魔導書を展開するように魔力を解放させ、敵兵を不可視の毒で苦しめていく。
「あーん、あたし弱いから守ってねー」
「これは異なことを。アルジェント嬢はどのような場所でも生き延びれるほどの『強さ』を持っていると思っていたが」
 甘えるようなクィニィーの声を苦笑して流す『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。強さとは単純な力ではない。生きる為のしたたかさ、政治的な手腕、社会的な立場……。そしてそれをどう扱うかという行動力。それらが『強さ』だ。
(そういう意味では彼らは『弱かった』という事か。いやヴィスマルクと言う国の中で、生きようと足搔く『強さ』があったのか)
 迫る亜人達を見ながらそんな事を考えるテオドール。思考は刹那。イ・ラプセルに敵対するなら同情はしない。亜人達の足を止める為に魔力を練り上げ、完成した魔術を叩き込む。詠唱短縮された極寒の北風が亜人達を縫い留めた。
「彼らをどうこうするのは、戦いが終わってからだ。今は敵として相対させてもらう」
「倫理観で戦争してるんじゃないすからね。弾丸で戦争しているんす」
 テオドールの言葉に頷く『stale tomorrow』ジャム・レッティング(CL3000612)。正しい正しくない。それを語って刃が止められるなら幾らでも叫ぼう。正義や想いでは戦争は止まらない。それは嫌ほど痛感している。
「つーか、ガチで使い捨てっすねー……はー、すっげー」
 ただ突撃してくる亜人達を見ながらジャムは呆れるように呟いた。陣形も何もあったものではない。逃げれば後ろの戦車に撃たれるから、突き進む。それだけの突撃だ。だがそれを可哀想とは思わない。
「亜人だから、じゃなくて『立場が弱いから』こうなってるだけっすよ。なんとかしたけりゃ、亜人の立場をあげて行かなくちゃね」
「亜人の立場向上か。イ・ラプセルは国王が宣言したからな」
『デザイア・ブロッサム』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はそんな言葉を口にする。亜人の地位向上。亜人を困窮から救うだけでは意味がない。亜人達が生きていける社会を整備しなくては意味がないのだ。
(そういう意味じゃ、あのお嬢さんのやり方は対処療法か。それしかできないのかもしれないけどな)
 ウェルスは弱者を守るために魔術を展開するノウブルのヒーラーを見ながらそんなことを想う。他にも思う所はあるが、今は戦闘中だ。意識を切り替え、ヴィスマルクに向き直る。敵の回復を断つために、引き金を引いた。
「ここで倒れておきな。命だけは奪わないでやるぜ」
「そうね。命は奪わないわ。生きて、そして――」
 言って言葉を止める『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)。命は奪わない。それは敵への慈悲と言うよりも、アンネリーザ自身が自分を安堵させるための免罪符にも聞こえる。救うために撃たなくてはいけない。その葛藤を誤魔化すための。
(迷わない、と決めても新たな迷いは生まれる。それでも、止まるわけにはいかない)
 救う。この二文字がどれだけ難しいかをアンネリーザは知っている。イ・ラプセルによる平等な世界。もしかしたらそれでも救えないかもしれない。新たな不幸が生まれるかもしれない。それでも、救うと決めたのだ。決意を胸に、引き金を引く。
「今は……使い捨てられる彼らを止めないと」
「そうだね。今はここを押さえないと」
 迫る亜人達を見ながら『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は頷いた。戦車隊の方は気になるが、いまはこちらを押さえておかなくてはと頷いた。補給部隊を襲撃されれば、本隊の動きも止まってしまう。
「僕はここにいるよ。……イ・ラプセルの将を欲するなら、狙ってくるんだ」
 マグノリアは戦果によって得られた自分の地位を利用して、敵の注目を浴びる。そうすることで自らを囮にし、敵の攻撃を誘発させていた。自分を狙ってくる攻撃を避けながら、仲間を支援していく。
「冷静に。この戦いを制しなければ、救える者も救えないからね」
「はい。救いましょう、この手に届く限り」
 マグノリアの言葉に頷く『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。今は敵対するしかないけど、戦いが終われば手を取り合える。それも容易ではないけれど、成し遂げられないわけではないはずだ。そう信じている。
(……ええ。人の救済はけして簡単ではありません。それでも、その為に身を捧げると決めたのですから)
 大人しくさせて優しい言葉を交わせば相手は信用してくれる。そんな都合がいい展開がないことはアンジェリカも経験済みだ。助けた相手に唾を吐かれた事だってある。それでも救済すると誓ったのだ。今はその為に、武器を振るおう。例え、遠き理想に向かうために力尽きたとしても。
「求めるは殲滅ではなく救済。狙うは帝国の核たる神。阻むなら全て薙ぎ倒すのみです!」
「うむうむ。敵の中心を穿つ。分かりやすいでぎざるなぁ!」
 鷹揚に頷く『一番槍』瑠璃彦 水月(CL3000449)。戦場を駆け巡りながら、亜人達を打ち倒していく。宙を舞い、血を走り、敵から離れたかと思うと次の瞬間には近づいて。目を離した隙にはもう同じ場所にはいない。疾風迅雷の動きだ。
「あっしの動きについてこれるでござるかな? さあさあさあ! いざ参れ!」
 移動を繰り返し、一対一の状況で敵を打ち倒していく水月。多対一の状況を作らず、一対一の戦いを連続で生み出し、そして敵を打ち倒す。囲まれれば厄介なことになる。故に速度を生かし、自分の有利な状況で戦っていく。
「月に叢雲花に風。祭りは長くは続かないモノでござる。さてさて、疾く叢雲を払って月を眺めるとしましょうか!」
 亜人達と自由騎士の戦いは、一進一退のまま加速していく。

●戦車Ⅰ
 戦車――
 鋼鉄で搭乗者を守りながら火器と無限軌道で道なき戦場を突き進む兵器である。装甲の防御力とヒトでは持てない火器を有する移動する砦。それが搭乗す兵士達もまた、一騎当千のヴィスマルク兵だ。
「だからどうした! サシャは負けないんだぞ!」
 そんな事には臆さないとばかりに『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は叫ぶ。サシャも戦車の影響を知らないわけではない。だが、それを知ったうえで恐怖せず立ち向かう。無謀無知、というわけではない、
「サシャたちは戦車なんかに負けない! 無敵の自由騎士なんだぞ!」
 自由騎士はあらゆる戦いを乗り越えてきた。その中には戦車よりも強大な兵器もあった。それに比べれば戦車如きどうと言う事はない。仲間を信じ、前を向く。サシャはこれまでの戦いと変わらず仲間を癒しながら、元気よく叫ぶ。
「イ・ラプセルはヴィスマルクなんかに負けないんだぞ!」
「はいですぅ~。でもあっちもこっちも忙しいのはちょっと大変ですねぇ~」
 言いながら炎を解き放つ『おもてなしの和菓子職人』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。ヴィスマルクの戦火は全土に広がっている。全てに対応することは不可能だ。できる所から押さえていかなくてはいけない。
「隙あらば一点突破。さぁ、頑張りますよぉ~」
 言って魔導書を手にして魔力を展開するシェリル。呼吸を整え、体内でマナを輪転させる。イメージするのは炉。御菓子を作る際に燃やす石窯。その内側で燃える炎を心に浮かべ、心の石窯を開けると同時に魔力を解き放つ。戦場を赤い舌が舐めるように広がった。
「ドッカンドッカン行きますよぉ~」
「たとえお国事情だからって、こんなことは許せないよ!」
 亜人を盾にして進む戦車部隊。それを前にして『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は怒りの声をあげる。敵の将軍を止めれば軍も止まる。そう信じて戦車部隊に突撃する。拳と瞳に、怒りの炎を宿して。
「ぶっとばーす! カノンの蹴りを喰らえー!」
 叫ぶと同時に跳躍し、体をひねるように回転させる。その遠心力を叩きつけるように戦車に叩き込まれる蹴り。鋼の装甲が子気味いい音を立て、衝撃が戦車の搭乗者にまで届く。戦車を守る随行兵の殺気を受けながら、カノンは笑みを浮かべた。
「オニヒトの誇りにかけて、ここで貴方をぶっ飛ばすよ!」
「せやなぁ。誇りはともかく、美しくないのはあきません」
 カノンの言葉に『鬼神楽』蔡 狼華(CL3000451)はそう言って刃を構える。世界が終わりかけている時に、最後に残る神を決める為の戦いをする。神聖ともいえる戦いに、亜人を肉壁にするごり押し戦法とは。狼華の美的感覚はその行為を許せなかった。
「それもまたヒトの業。業の炎の中、ゆるり舞ってみせましょ」
 言って滑るように戦場を進む狼華。背筋を伸ばしたまますり足で移動し、円を描くような刃の動きで敵陣を突き進む。舞踏のような動きだが、刃の動きは武闘の如く。見る者を魅了しながら、同時に見る者を恐怖させる刃の動き。
「お手合わせよろしゅうお頼み申します」
「エイラ、戦ウ。シノビの技、使ッテ」
 陰に潜むように動く『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)。今は亡き故郷、アマノホカリのニンジャの技。アマノホカリの生き残りからその技を学び、そして戦っている。故郷にはもう戻れないエイラは、郷愁の思いを胸に戦場を走る。
(……帰レ無イ、じゃなく無くナた。デモ、今ハ――)
 言葉通り存在しなくなったアマノホカリの島。それに関して思う所はあるが、今はそれを気にしている余裕はない。下手をすると全世界が消えるかもしれないのだ。そうなる前に神の蟲毒を終わらせる。絡め、呪い、祟り、さながらアマノホカリの妖怪の如く。
「今ハ、戦ウ。イ・ラプセル、守ル」
「舐めるつもりはないけど、パノプティコンよりはやりやすいね。連携がお粗末だ!」
 言いながらヴィスマルク兵に挑むセーイ・キャトル(CL3000639)。亜人を盾にして突き進むヴィスマルク兵。亜人と同調して戦うパノプティコン兵。純粋な戦力ではヴィスマルクに軍配が上がるだろうが、セーイはそう感じていた。
「『見え』たよ! 隙ありだ!」
 未来を見る瞳でヴィスマルク兵の隙を見出し、そこを広げる様にセーイは炎の魔術を叩き込む。起点から広がる炎の渦。その熱波と紅のカーテンがヴィスマルク兵の足並みを乱す。その乱れを逃すことなく魔術を叩き込み、敵のペースを乱していく。
『今だ、ノーヴェ!』
『ん……。戦車、止める』
 ノーヴェ・キャトル(CL3000638)は随行兵と切り結びながら、セーイの念波を受け取る。まるで合図が来るのが分かっていたかのようにノーヴェは戦場を走り、そして戦車に向かって刃を振るう。
「わからない……になるの、こわい、と思う。だから、目を閉じて」
 振るわれる二本の刃。ノーヴェの描く剣の軌跡は思考を惑わす魅惑の剣。不規則なリズムと高速の動きで精神を乱し、敵味方の区別をなくしていく。自分が自分で亡くなる感覚。その恐ろしさを知っているのか、ノーヴェの言葉は優しかった。
「ごめん……ね……。恐かったら、わたしに、触れて……」
「こちらの戦車は私が止めます」
 蒸気騎士の鎧を稼働させロザベル・エヴァンス(CL3000685)は戦車に向き直る。盾兵隊を展開させ、突撃してくる戦車の動きを止める。同時に砲撃を展開し、衝撃で戦車を破壊していく。
(命を犠牲に進むのも、命の大切さを諭したのも、ヴィスマルク軍。皮肉ですが、だからこそ分かり合えるのではないでしょうか)
 かつてのロザベルは自らの命を兵器として使う戦い方をしていた。だが、それを諭したのは敵であったヴィスマルクの将校だ。同じ国にありながら、異なる思想を持つ軍人。言葉を重ねれば或いは、分かり合えるのかもしれない。
「……ええ。何を犠牲にしてもいいという事を認める事はできません。命を犠牲にする意味を、知っていますから」
「はい。命を諦める事はできません」
 頷き前を見る『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)。ヴィスマルクの戦車には過去に眉を顰める駆動システムが搭載されていたが、今はその技術の再現はできない。そのことに安堵はするが、戦車の脅威は消えたわけではない。
「傷ついた方々は癒します」
 たまきは自らに誓うように告げて、癒しの術を行使する。傷ついた方。それは敵兵も含む。戦闘中は仕方ないが、戦争後に敵味方含めて生きている者全てを癒すと言う誓い。それを言葉にし、凄惨な戦場に目を向ける。目を背けるな。自らに言い聞かせ、歩を進めた。
「私は、その為にここに来ました。例え愚かだと言われようとも、命は全て癒します」
「ええ、見事です。ならば私はその誓いを守るために戦うのみ!」
 ヴィスマルク兵の攻撃を受け止めながら『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は言い放つ。たまきの誓い同様、デボラもまた自らに誓いを立てる。仲間を守り、戦いに勝利する。その為に培った技術があるのだ。
「こんな戦い方、絶対否定するべきなんです。例え効率的であったとしても!」
 亜人を使った突撃。それが効率的であることはデボラも否定しない。亜人だからヒト扱いしなくてもいい、というのが一般的だとしても――否、それが一般的だからこそ声高らかに否定しなくてはいけないのだ。亜人もまた、この大陸に住む命なのだと。
「守りの誓い、ここにあり! さあ、我が盾を突破できる者がいるならかかってきなさい!」
「どりゃー! 戦車はここで止めるぞー!」
 叫びながら戦車に突撃する『鉄鬼殺し』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。その小さな体からは想像もできないほどのパワーで拳を振るい、戦車に衝撃を与えていく。鍛えられたパワーと、嫌から受け継いだ格闘技術。何よりもカーミラ自身が積み上げた経験が生み出した一撃だ。
「もう! 女神の加護とかやりにくいなぁ!」
 女神モリグナの加護。これがカーミラの打撃を吸収していた。物質を振動する衝撃さえ受け止める神の力。それに阻まれながらも果敢に戦車に挑むカーミラ。傷つきながらもその瞳から闘志は消えない。ただ真っ直ぐに拳を振るい続ける。
「ヴィスマルクの戦車は片っ端からぶっ壊してやるぞ!」
「わたくし悟りました! 大規模な戦いでわたくしが出来る最大の戦術は、広範囲をまきこんだ炎の魔術!」
 自らの慧眼に喜ぶように『轍を辿る』エリシア・ブーランジェ(CL3000661)は笑みを浮かべる。十に満たない相手ならともかく、相手の数が多いなら広範囲の攻撃魔術をできるだけ多くの人がいる所に射ち込む。この一択なのだ、と。だがそれは――
「前に出れば狙われますけど、それは何処にいても一緒ですわ。なので考えません」
 派手に動けば狙われる。それはエリシアも理解していた。それを『考えない』と一蹴し、炎を放つ。反撃とばかりの銃撃に身を削られるが、それも想定の内だと呪文を唱える。
「どうせ死ぬときは死にますわ。それは亜人達と変わりません。
 死ぬ可能性が高いか低いかと、順番付けるとしたら先の方か後の方かの違いでしか無いじゃありませんの。気にしたら負けですし!」
 それは、命を度外視した価値観。ある意味ヴィスマルクに近い生命倫理を無視した特攻。
 ヴィスマルクとの違いは、自分自身の命さえ度外視していること。いや、むしろ自分自身の命を蔑ろにしている所だ。自分自身はどうなってもいい。諦念でも無知でもなく、全てを正しく理解したうえで自分の命の価値を下に置いている。
「今回もガンガン前に出て行きますわよー」
 あっけらかんと言い、前に出て魔術を放つエリシア。その炎は、確実に敵兵を削っていく。同時に自らの命も削りながら。

●幕外Ⅰ
「亜人ちゃん! の所で頑張るのだ!」
 元気よく飛び出した『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)だが、その元気の良さのままに突出して一人ヴィスマルク兵と相対する形となった。持ち前のパワーで迫るヴィスマルク兵達を押し返すが、数の差がじわじわとナナンを追い詰めていく。
「もう! ナナンはスオウちゃん達を助けたいの! どいてー!」
 フェアボーテネフリュヒテを投与されて、寿命を削りながら戦う亜人達。彼らを助けようと奮闘するナナン。強引な突破技でヴィスマルクの包囲網は突破したが、度重なる傷と披露で限界が来たのか、意識が薄れていく。
「……うー……」
 自分の剣を杖にして進むが、そのまま地面に倒れ込む。最後まで前に進もうと手を伸ばし――

●亜人Ⅱ
 亜人達を防ぐ自由騎士の戦いは、佳境に向かっていた。
 元より武装や練度は自由騎士が勝る。ヴィスマルクに殺されないように死に物狂いとなる事で、その差を埋めていたに過ぎない。
 精神論を否定するわけではないが、精神は身を守る鎧にはならない。自由騎士の攻撃を前にその数は減ってきていた。
(亜人如きどうなろうと知ったことではないが)
『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は声には出さずにため息をつく。ノウブルが亜人を支配すべき。そんな一般的な思考を持つライモンドからすれば、亜人を気遣う理由はない。自由騎士が亜人を含めた構成なので、足並みをそろえる程度に同調しているだけだ。
「まあいい。取り損ねたガマ油を頂くだけだ」
 炎で亜人達を薙ぎ払いながら、十字槍を持つカエルのケモノビトに向き直る。スチムマータを動かし、人形が持つ刃がスオウを襲う。現状フェアボーテネフリュヒテのサンプルを得る意味は薄いが、『亜人を救おうとする行動』は政治的な材料になるかもしれない。
「せいぜい抵抗しろ。汗を流せばその分油も取れる」
「毒にも薬のもならないガマ油だがな」
「薬学に関しては専門家に。私は戦いの専門家ですので、こちらで」
 言って拳を突き出す『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。無理強いされて戦う相手は精神的にやりにくいが、自ら戦を求める手合いはむしろミルトスの好む相手だ。ただひたすらに戦場を。修羅と羅刹の食らい合い。
「決着をつけましょう」
 交わす言葉はただそれだけ。拳と槍。リーチの違う武器の勝負は、間合いの取り合いになる。細かに戦場を移動し、攻撃の間隙を縫うようにして迫り。それさえも罠で、しかしそれをさらに踏み込んで、槍に腹部を裂かれながらミルトスはスオウの懐に迫る。
「――見事」
 叩き込まれた一打はカエルの還リビトの意識を刈り取り、そのまま地に伏した。相手が完全に動かない事を確認し、ミルトスは力を抜く。
(これが戦いを愛した者の末路。その一つ。私は――)
 戦を求めて国を出て、ヴィスマルクにそれを利用されたスオウ。その姿は少し運命の歯車がズレたミルトス本人だ。何かが違えば、こうなっていたのかもしれない。それを胸に刻む。そして、そうならなかった戦士としてどのような結末を迎えるのか。
「ヴィスマルクにも、そういう方がいるのですね……」
 亜人達を癒すヒーラー、アリス。その姿を見てセアラ・ラングフォード(CL3000634)はそう呟いた。その在り方はヴィスマルクでは冷遇されているのか、最前線の突撃部隊送りとなった。彼女もそれを拒否しなかったのだろうが、それでも自らの意志を貫いた結果だ。
(私が同じ立場なら、同じ事が出来たでしょうか……?)
 仲間を癒しながらセアラは思う。イ・ラプセルは亜人を平等に扱う土壌があった。ヴィスマルクを始めとした他国にはそれがなく、亜人達もその社会を受け入れていた。全くのゼロから亜人達を救うなど、どれだけの努力が必要なのか。
「今は自分の役割を。考えるのは、戦いが終わってからです」
「『シュリム』アリス。なるほど、確かに駄目な奴だ」
 亜人達を癒すアリスを見ながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)はため息をついた。自分も彼女と同様に仲間を癒しながら、その手腕を見る。独自の治療結界を開発しながら、使い捨て部隊に送り込まれるはぐれ者。
「聞き及ぶ生まれとその力を思えば他に幾らでも手段はあったろうに、こんな非効率で非論理的な手段に走る」
「み、耳が痛い……。よく言われます」
「だろうな。ヴィスマルクの社会的には当然の批評だ。うむ、初めて好きになれるかも知れん医者に会ったな!」
 その実力と地位があれば、或いは別の手法で亜人を突く得たかもしれない。だが、敢えて危険な場所で命を救う愚考にして愚行。その在り方が気に入った。ただ命を救うという感情で突き進む。
「まあ、敵だから印象よかろうが嫌おうが殺し合うんだがな。医者の端くれとして張り合わせて貰おう」
「お手柔らかに……えーと、違いますね。お互い怪我人をできるだけ癒しましょう」
「敵としてそれはどうなのかしら。癒し手として好感はもてるけど」
 アリスの応援にそんな言葉を返す『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)。アリスの在り方はどちらかというと自由騎士よりだ。亜人を癒すなど、ヴィスマルクのノウブルでは少数派だろう。
「『勝てればベスト。けど無理なら国に申し訳が立つ程度に亜人を生き残らせる』というのが本音かしら。あえて自らを狙わせて、亜人達の被弾率を下げているのも含めて」
「恐縮です。ガーディアンはこちらに回してもらえなかったので……」
 ステラの言葉に乾いた笑みを浮かべるアリス。できるだけ亜人を救おうとするなら、戦果を出すしかない。最低限足止めをすれば、申し訳は立つ。事実、自由騎士は優先的にアリスを狙っている。戦術上それが正しく、アリスとしてもそれが願ったことだ。
「軍略的には共感はできないわね。軍略としてはちぐはぐよ。使い捨てる部隊を長持ちさせる為に、自らを危険にさらすなんてヒーラーとして駄目な行為よ」
 ステラの言葉は正しい。癒し手は長く戦場に留まり、多くの仲間を癒す。そうすることで仲間を守るのが役割だ。それがあえて敵の囮になるなど、論外と言えよう。それを為すのが、彼女の生み出した治療結界なのだが。
「だけど個人的には共感できるわ。その考え方は嬉しく思う。
 だから、貴方の目的に協力させて。この戦いが終わったら、一緒に戦いましょう」
 紳士なステラの瞳と言葉。それはアリスの心をほぐし、同じ想いを持つ癒し手が集まるイ・ラプセルに新たな風を吹き込むこととなる――
「やああああああ!」
「やめて……。ヨウセイと戦いたくない……!」
『毎日が知識の勉強』ナーサ・ライラム(CL3000594)は亜人部隊のミキュアと相対していた。魔術を振るうナーサに対し、怯えながら死霊術を解き放つミキュア。ヴィスマルクに捕らわれ、自らを苦しめた術を強要され、そして同胞と戦う。その苦しみが表情に浮かんでいた。
「貴方の苦しみは解ります……! でも、こんな扱いをされているのに無視できません!」
 ナーサもミキュアと同じ苦しみを味わいながら戦っていた。ミキュア程切迫した状況ではないが、それでも同胞と戦うのは辛い。だが、苦しむ同胞を見捨てる事なんかできない。彼女を戦いから解放しようと氷の魔術を解き放つ。
「今を乗り越えないと、ずっと苦しいだけなんです!」
「そんなこと言われても、もうどうしようもないの! 私は貴方達みたいに、キレイじゃないから!」
「そんなことない。貴方はこんな状況でもキレイな心を保ってる」
『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は苦しむミキュアを見ながら、そう声をかける。倫理観を捨て、ヴィスマルクに染まってしまえば楽になれただろう。死霊術に溺れ、命を軽率に扱う事に快楽を覚え。だけどそうはしなかった。頑なに正気を保っていた。
「もう怖がらなくてもいいよ。一緒にヨウセイの皆のところに帰ろう?」
「……っ! だ、め……イ・ラプセルも私を利用する、つもりなんでしょ?」
「そんなことない。貴方の好きに生きていいのよ。イ・ラプセルは亜人とノウブルを平等に扱ってくれる」
「そんなの、嘘よ……!」
 度重なる軋轢はミキュアの心を苛んでいた。信じれば裏切られる。なら信じない方がいい。その方が心は傷付かないから。孤独で辛いけど、信じて裏切られるよりはずっといい。
「……そうね。ノウブルは私も怖いわ。自由騎士の人達も、心のどこかで裏切るかもしれないって思ってる。
 私もシャンバラで酷い目に遭って来たから、それはよくわかるわ」
 怯えるミキュアを見ながらサーナは静かに告げる。自分もまだ、ノウブルが信じられない。亜人平等を掲げながら、どこかで裏切るかもしれないという怯えは捨てきれない。ミキュアの怯えは、サーナの不安の延長線だ。
「だから、一緒に信じてみない? 一人じゃ怖いかもしれないけど、二人ならきっと耐えられる。三人なら安心できる。……沢山いれば、きっと乗り越えられる」
 ミキュアに手を差し出すサーナ。信じろなんて無茶は言わない。恐がるな、なんて勝手なことは言わない。ただ、手を取ってほしい。同じ大国に振り回された傷を持つヨウセイ同士、一緒にいれば乗り越えられる何かがあるかもしれない。
 それはただの希望だ。取るに足らない小さな手。英雄の力強い手ではなく、魔法使いの大奇跡でもなく、国王の強い庇護を持つ言葉でもない。ただ真摯に相手を案じた手。
「うう、ううううううう……!」
 たったそれだけの救いさえ、ミキュアには与えられなかったのだ。サーナはすがってきたミキュアの手を強く握りしめる。
 その姿は多くの亜人部隊の戦意を削ぎ、武器を降ろさせた。

●幕間Ⅱ
「まだ……です!」
『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)はボロボロのローブを振るいながら、ヴィスマルクと相対していた。亜人部隊を守ると一人突出し、自由騎士達との戦いに参加させないように奮闘していた。
「キリは、皆を守ります。だから、この先にはいかせません!」
 息絶え絶えになりながらそれでも気丈に立ち上がるキリ。逃げる事も考えたが、ここでヴィスマルク兵をフリーにすれば仲間達に被害が生まれる。それを想像してキリは踏みとどまり、足止めに徹していた。――自分一人では勝ち目はないと知っていても。
「誰も、誰も犠牲になんか、させません……!」
 最後まで信念を貫き通し、キリは力尽きた。

●戦車Ⅱ
 亜人部隊の突撃が不十分に終わり、分断する予定だったイ・ラプセルの兵站は滞りなく自由騎士達に届く。充分な補給の元、イ・ラプセル軍はさらなる進軍を進めていた。
「…………」
 黙々と回復の術式を展開するフロレンシス・ルベル(CL3000702)。俯きがちな無口無表情のフロレンシスだが、無感情と言うわけではない。自らを受け入れてくれた女神アクアディーネの為に、銃弾飛び交う戦場に仲間を癒すために足を運ぶ。
「…………」
「回復感謝であります!」
 仲間の回復を受けて『鉄腕』フリオ・フルフラット(CL3000454)は歩を進める。蒸気騎士の鎧から蒸気を吹き出し、魔術に対抗するコーティングを展開する。防御を固めた後に、敵戦車に向き直った。
「使えるものを使い潰して前に進むのが鉄血の流儀なら、我々の流儀は手を取り合って進む事であります!」
 効率を求めて亜人を使い潰す。有用ではあるがそれは自分が使い潰されるかもしれないという事でもある。長期的に見れば共に手を取り合う方がいいはずだ。フリオは戦車に砲撃を加えながら、鉄血の在り方を否定するように叫ぶ。
「自ら血を流しながら突き進んだ先にこそ、未来があるのであります!」
「いい事言うわね。ま、私はあまり血を流したくないんだけどね!」
 言って戦車に炎の魔術を叩き込む『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)。熱で仲の人間を蒸すように、絶え間なく熱を加えていくきゐこ。ヴィスマルクの戦車と戦うのはこれが初めてではない。むしろ壊しがいがあると楽しみにさえしていた。
「しかし亜人の扱いは国様々だけど、ヴィスマルクも酷いわよね!」
 怒りと共に炎を放つきゐこ。国王の名のもとに亜人平等を唱えるイ・ラプセルが特殊なのは知っているが、国家のシステム的に亜人奴隷を扱うヘルメリアや亜人を盾にするヴィスマルク。統治力の高い国ほど差別が酷いのだ。
「となると、アマノホカリは千国時代で荒れてたからそれほどだったのかしら。あ、でもパノプティコンは……あれは例外ね。管理マニアドクロだし」
「アイドーネウス様の悪口はいけませんぞ。いえ、悪口ではありませんか。これは失礼」
 きゐこの言葉に反応する『水銀蛇と共に』クレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)。頬を叩いて意識を切り替え、戦場を走る。雷鳥の精霊を召喚して戦場に稲妻を落しながら、ヴィルダーの正面に立つ。
「我が『英雄(ヒーロー)』の邪魔はさせません! 共に信じる者の為に、いざ勝負と行こうではありませんか!」
 クレヴァニールはフォーゲルを庇うヴィルダーの前に立ち、高らかに宣言する。ヴィルダーがフォーゲルを守るために戦うように、クレヴァニールも自分が英雄と信じる者のために戦う。魔導と盾と言う違いこそあるが、かける思いは同じだ。
「ベクトルは違いますが慕う者同士……どちらの気持ちが強いか、勝負と行きましょう!」
「さあて、試し切りと行くか」
『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)はアマノホカリ北方で手に入れた刀を手に、敵陣に挑む。アマノホカリの技法を身に着け、ただ真っ直ぐにヴィスマルク兵を斬りつけていく。そして敵将軍のフォーゲルと相対した。
「アンタ、強いんだろ? 斬らせてくれよ」
「やれるものならな」
 ロンベルは刀と斧を。フォーゲルは巨大な銃剣を手にする。交わす言葉は少なく、ただ目の前の敵を倒すべく互いの武器を撃ち込んでいく。剛と剛。共に戦いの中で錬磨して勝ち昇って来た者同士の激しい打ち合い。
「惜しいな。ヴィスマルクに来ればかなりの地位を得られたものを」
「バカ言うな。そっちに行ったらヴィスマルクと殺し合えないだろうが。面白くないぜ」
「成程、そういう考え方もアリか」
 ロンベルの実力を惜しむフォーゲル。それを強敵と戦えないと一蹴するロンベル。共に力を求め、戦を求めた者同士の削り合い。
「もっとだ! もっと力を! お前を殺せばもっと強くなれる!」
「おう! お前を殺せば、更に強くなれる!」
 ただストイックに、ただ純粋に、戦士達は力を求めて命を削り合う。
「力こそ正義。力こそすべて。貴方は変わらないのですね」
 ロンベルとの交戦を見ながら『白騎士』アダム・クランプトン(CL3000185)は静かにそう告げた。かつて戦ったことのあるヴィスマルク軍人。あの時は、その言葉を否定した。力だけでは自分が求める世界にはたどり着けないと。
「あの時のぼっちゃんか。また力だけではダメだって説教か? 理想を語りたければ、政治家になるんだな」
「いいや、貴方の言葉は間違ってはいない。力がない想いだけでは、世界は変えられない」
 フォーゲルの攻撃を受けながら、アダムは言葉を返す。それはアダムが痛感した事実。ただ理想を重ねるだけでは何も変わらない。何かを成し得るには、相応の努力が必要なのだ。
「なら力を示すのだな。自分の望む世界の為に。弱気を蹂躙し、従えて」
「いや、それも違う。確かに力のない正義では弱者は守れない。
 だけど正しい想いのない力は、ただの暴力だ。それも世界を変える事はできない!」
 フォーゲルの言葉に首を振り、アダムは言葉を返す。
「世界は力だけで成り立っているわけではない。想いだけで動いているわけではない。
 想いと力、その両方で世界は動いている。そう、僕はここに誓おう。敵も味方も関係なく、全てのヒトを守り抜くと!」
 かつて弱肉強食を謳ったヴィスマルクの軍人を前に、自らの答えを示すようにアダムは宣言する。
「この力、この想い、その全てをもってヒトを守ろう! それはヴィスマルクも含まれる!
 僕の力と想いで、全てのヒトを救ってみせる!」
 それは傲慢ともいえる宣言。戦争で今この瞬間に命が失われている最中、それでも救うと豪語する。
「相変わらず甘い理想だな。それを為すだけの力がなければただの戯言だ」
「そうだな。だが現状に妥協して理想を低く持つのも考えものだ」
 フォーゲルの言葉に『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が答える。同時に繰り出した『ジョルトランサー・フルロード』とフォーゲルの銃剣が重なる。長柄武器同士の交差は遠心力のぶつかり合い。轟音と衝撃が響き渡る。
「名誉将軍自らが前線にでるか。貴様を討ち取って、自由騎士の士気を下げてやる」
「それは此方のセリフだ。お前を討ち取り、この部隊の勢いを止める」
 自由騎士の中でも長く戦い続けたアデル。その名声はヴィスマルクにも響いている。最初はアデルの名声を砕くために戦っていたフォーゲルだが、一合二合と銃剣を重ねるごとにアデルの強さを砕くために熱がこもってくる。
「先ほどのケモノビトもそうだが、小国に置くには惜しい人材だな。ヴィスマルクに来ればかなりの地位を得られるだろうに」
「ふん。実力があればのし上がれる? その実態は亜人を使い捨てる国だ。底が見えている。そちらに行けば、いずれ使い捨てられるという事だ」
「そうならないように強くなればいいだけだ。あいつ等は『弱い』からああなった。弱者を救う? 亜人平等? 結構だ。それを唱えたければ力を示せばいい!」
 力こそ全て。力こそルール。それが鉄血国家。弱ければ死に、強ければ我を押し通せる。それがヴィスマルク。
「――成程、それがヴィスマルクのルールか」
 答えと同時に、アデルはカタクラフトの蒸気を全開にする。ここで決めなければ後がない。そのラインを見極め、胸部装甲内蔵の指向性ベアリング弾とジョルトランサー・フルロードを同時に起動させた。ベアリング弾の爆発と、ジョルトランサーの炸薬音が同時に響き渡る。
「ならば、ここで俺が勝ってお前を捕虜にするのも、ルールというわけだな」
 気を失いそうになる程のダメージを隠すように平静を装うようにアデルは言う。フォーゲルからの答えはない。ただ壮絶に笑みを浮かべ、口から血を流して気を失っていた。
「トラバウト大佐を討ち取った! これ以上の戦闘行為は無意味だ!
 武器を捨て投降しろ。イ・ラプセルの名において身柄は保証する!」
 アデルの宣言が、戦場に響き渡る。それが事実上の戦闘終了となった。


 フォーゲル・トラバウト大佐とヴィルダー・ツァンコ大尉が捕らわれ、アデルの宣言で降伏するヴィスマルク兵。逃亡した兵士達もいたが、亜人部隊はほぼ全員がイ・ラプセルに投降する事となった。
「俺たち、本当にお前達みたいに美味いものが食えるのか?」
「戦いたくなかったら戦わなくていい、って本当なのか?」
 投降時の彼らのセリフが、ヴィスマルクでの扱いを示していたと言えよう。

 広く伸び切ったヴィスマルクの侵攻。
 そこに今、小さな穴が開いた。それはトラバウトがイ・ラプセルに負けるはずがないという慢心。そしてそこまで信頼されている戦車部隊を倒した自由騎士の戦闘力。この二つが重なって生まれた小さな、しかし確実に開いた活路。
 ヴィスマルク首都、ヴェスドラゴン。
 ヴィスマルクのデウスギア、大陸弾道弾。
 そしてヴィスマルクの女神、モリグナ。
 鉄血軍事国家ヴィスマルク。その急所ともいえる存在に刃を突き立てることができる活路が、確かに開いていた――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『ヨウセイの絆』
取得者: サーナ・フィレネ(CL3000681)

†あとがき†

Advance to the VISMARCK!

ラーニング
●スキル名:アスクレイピオン
●取得可能対象:全員(スキル一覧にて必要コストを消費することで取得可能)
FL送付済