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【囲魏救趙】Xeric! 乾いた墓地への侵攻!

●
パノプティコンのデウスギア、国民管理機構。このデウスギアには、未来を予知する機能が備わっていた。
アクアディーネの水鏡運命階差演算装置は、現在データと未来データの差異により、最も起こりうる未来をピックアップするタイプ。アイドーネウスの国民管理機構は発生する未来以外を全消去し、未知図児を確定するタイプ。その在り方は異なるが、ヒトからすれば未来を予測できるという事実には変わりない。
自由騎士達は今まで未来を見ると言う情報優位を保ちながら、戦いに打ち勝ってきた。だがその優位性はパノプティコンには通じない。最初のパノプティコンとの海戦でこちらの行動は全て予知されたのだ。結果、撤退を余儀なくされたのである。
相手に予知能力を『誤魔化す』為に、イ・ラプセルは次の橋頭保候補ではなく、敢えて別方向を責めることにした。軍事的に重要ではなく、補給路としても意味はなく、文字通りの回り道。
墓地4133――多くの民が眠るパノプティコンの墓碑へと。
●
墓地4133。そうナンバリングされた場所には一つの塔が立っていた。それはパノプティコンの国民が住む住居ではなく、ただ本当に立っているだけの、塔。大地は乾き、草も生えていない。農業的な価値はなく、人が住むに適しているとは思えない場所である。
それは巨大な墓碑。パノプティコンで亡くなった国民は、そこに名前を刻まれるのだ。遺体は土に還るが、そこに名前を刻まれることで永遠に国に存在すると言う意味合いが込められている。
そういった死生観もあってか、墓地には一定の防衛が置かれていた。とはいえ、そこを攻める者などいない。練度の高い兵士が数名、守りについているに過ぎない。軍事的な意味合いも高くないため、そこを攻める者などいないと言うのがパノプティコンの考えだ。
だからこそ、そこを狙う。
相手の考えを乱し、同時にこちらの狙いを誤魔化すために――
●
かつて、ここには村があった。
否、パノプティコンはそれを村だとは認めないだろう。それを証明するかのように、徹底的に焼き尽くされた。マザリモノやマイナスナンバーと呼ばれた国民ではない者達が隠れ住んでいたとされるこの地を、その痕跡すら残さぬとばかりに焼き尽くした。
それは正しい。役立たずは死ぬべきだ。生きるのは有能なヒトであるべきだ。子供を産めないマザリモノは生物として役立たずだ。無能な人間は資源の無駄遣いだ。そのような人間に与える食事などみすぼらしくて当然だ。
有能な人間は良い生活を。無能な人間は質素な生活を。それはパノプティコンでは当然の価値観。アイドーネウス様の平等な管理の元、我らはパノプティコンの戦士としてここに立つ。
『墓守』として――
パノプティコンのデウスギア、国民管理機構。このデウスギアには、未来を予知する機能が備わっていた。
アクアディーネの水鏡運命階差演算装置は、現在データと未来データの差異により、最も起こりうる未来をピックアップするタイプ。アイドーネウスの国民管理機構は発生する未来以外を全消去し、未知図児を確定するタイプ。その在り方は異なるが、ヒトからすれば未来を予測できるという事実には変わりない。
自由騎士達は今まで未来を見ると言う情報優位を保ちながら、戦いに打ち勝ってきた。だがその優位性はパノプティコンには通じない。最初のパノプティコンとの海戦でこちらの行動は全て予知されたのだ。結果、撤退を余儀なくされたのである。
相手に予知能力を『誤魔化す』為に、イ・ラプセルは次の橋頭保候補ではなく、敢えて別方向を責めることにした。軍事的に重要ではなく、補給路としても意味はなく、文字通りの回り道。
墓地4133――多くの民が眠るパノプティコンの墓碑へと。
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墓地4133。そうナンバリングされた場所には一つの塔が立っていた。それはパノプティコンの国民が住む住居ではなく、ただ本当に立っているだけの、塔。大地は乾き、草も生えていない。農業的な価値はなく、人が住むに適しているとは思えない場所である。
それは巨大な墓碑。パノプティコンで亡くなった国民は、そこに名前を刻まれるのだ。遺体は土に還るが、そこに名前を刻まれることで永遠に国に存在すると言う意味合いが込められている。
そういった死生観もあってか、墓地には一定の防衛が置かれていた。とはいえ、そこを攻める者などいない。練度の高い兵士が数名、守りについているに過ぎない。軍事的な意味合いも高くないため、そこを攻める者などいないと言うのがパノプティコンの考えだ。
だからこそ、そこを狙う。
相手の考えを乱し、同時にこちらの狙いを誤魔化すために――
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かつて、ここには村があった。
否、パノプティコンはそれを村だとは認めないだろう。それを証明するかのように、徹底的に焼き尽くされた。マザリモノやマイナスナンバーと呼ばれた国民ではない者達が隠れ住んでいたとされるこの地を、その痕跡すら残さぬとばかりに焼き尽くした。
それは正しい。役立たずは死ぬべきだ。生きるのは有能なヒトであるべきだ。子供を産めないマザリモノは生物として役立たずだ。無能な人間は資源の無駄遣いだ。そのような人間に与える食事などみすぼらしくて当然だ。
有能な人間は良い生活を。無能な人間は質素な生活を。それはパノプティコンでは当然の価値観。アイドーネウス様の平等な管理の元、我らはパノプティコンの戦士としてここに立つ。
『墓守』として――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.パノプティコン兵の制圧
どくどくです。
なんと遠い遠い回り道。だけどそれこそが――
●敵情報
『墓守』将軍1012(×1)
ノウブル。男性189才。格闘スタイル。日々鍛錬を絶やさないタイプの前衛系将軍。
パノプティコンの終の聖地を守ることを、己の仕事と割り切っています。
『羅刹破神』『獅子吼 Lv4』『回天號砲 Lv4』等を活性化しています。
『黒犬』戦士8099(×1)
犬のケモノビト。女性18才。魔導士スタイル。戦果を挙げて出世したいのに、僻地に飛ばされてしまって少し腐っています。ですが任務には忠実。
『動物交流』『魔導障壁 Lv3』『ユピテルゲイヂ Lv4』『アニマ・ムンディ Lv4』等を活性化しています。
パノプティコン兵士(×12)
ケモノビトを中心とした軽戦士。
軽戦士のランク2までのスキルを使用します。
★パノプティコンの権能
権能の詳細は不明ですが、管理された動きによる同調攻撃や、精神的なつながりがあるようです。
●場所情報
墓地4133。徹底的に焼かれた後に塩を巻かれ、草が生えていない大地に塔が一本そびえたつ。そんな場所です。塔の入り口にパノプティコン兵士は陣取っています。
戦闘開始時、敵前衛に『将軍1012(×1)』『兵士(×7)』が、敵後衛に『戦士8099(×1)』『兵士(×5)』がいます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
なんと遠い遠い回り道。だけどそれこそが――
●敵情報
『墓守』将軍1012(×1)
ノウブル。男性189才。格闘スタイル。日々鍛錬を絶やさないタイプの前衛系将軍。
パノプティコンの終の聖地を守ることを、己の仕事と割り切っています。
『羅刹破神』『獅子吼 Lv4』『回天號砲 Lv4』等を活性化しています。
『黒犬』戦士8099(×1)
犬のケモノビト。女性18才。魔導士スタイル。戦果を挙げて出世したいのに、僻地に飛ばされてしまって少し腐っています。ですが任務には忠実。
『動物交流』『魔導障壁 Lv3』『ユピテルゲイヂ Lv4』『アニマ・ムンディ Lv4』等を活性化しています。
パノプティコン兵士(×12)
ケモノビトを中心とした軽戦士。
軽戦士のランク2までのスキルを使用します。
★パノプティコンの権能
権能の詳細は不明ですが、管理された動きによる同調攻撃や、精神的なつながりがあるようです。
●場所情報
墓地4133。徹底的に焼かれた後に塩を巻かれ、草が生えていない大地に塔が一本そびえたつ。そんな場所です。塔の入り口にパノプティコン兵士は陣取っています。
戦闘開始時、敵前衛に『将軍1012(×1)』『兵士(×7)』が、敵後衛に『戦士8099(×1)』『兵士(×5)』がいます。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2020年12月06日
2020年12月06日
†メイン参加者 8人†
●
一本の塔と、乾いた大地。
それが墓地4133と呼ばれる場所だ。
自由騎士達は塔を目印に迷うことなく歩いていく。蒸気ドローンもあまり巡回に来ないのか、滞りなく進行できた。
「…………」
そびえたつ塔と、草が生えていない荒野を見ながら『復讐の意味は』キリ・カーレント(CL3000547)は拳を握る。かつてここにあった物、ここに合った生活、ここにあった営み。この光景を見て、それを思い出すことはできないけど。
「凄く……寂しい場所だ」
セーイ・キャトル(CL3000639)は塔以外何もない荒野を見ながら、そんな感想を抱く。墓地、という場所である以上は仕方のないことだが、それでも本当に何もない。理解できない死生観。それを前に寒気すら感じていた。
「ココがかつて村だったなんてな。よくもまぁこれだけ徹底的にやったもんだ」
見渡す限りの乾いた大地。それを見て『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は呆れたようにため息をついた。ここにあった村の痕跡を徹底的に消した。そこにどれだけの意味があるかはなど、理解の外だ。
「彼らの価値観からすれば、当然なのですが……」
眉を顰める様に『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は呟く。パノプティコンはマザリモノの存在を認めない。それは子供を産むことが出来ないと言う理由だ。その考え方はともかく、軍事侵略を行い村を滅ぼしたのならそれは許されざる行為だ。
「医者としては未だしも、生物学に触れる学徒としては反論の余地が無いな」
デボラの言葉に肩をすくめる『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。子供が生めないマザリモノは、種として行き詰っている。自分の命が潰えれば、生物学的観点として見れば何も残せるものはない。それは否定のできない事だ。
「ですがそれは一面的に過ぎるのではないでしょうか?」
『積み上げていく価値』フリオ・フルフラット(CL3000454)はツボミの言葉に、そしてパノプティコンの価値観に思う所があった。マザリモノが子供を産めないのは事実だ。だがそれだけで無価値と断じるのは、あまりにも短絡的すぎる。
「理解できる価値観とは思えんからな。パノプティコンは」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は言って苦笑する。徹底された管理国家。言語すら管理され、自由を排斥した価値観。子供を産む年齢と数まで管理されているんじゃないかと冗談を言いかけて、ありえそうで怖いので口を噤んだ。
「しかし、作戦の全体像が見えん。制圧するまで開封するなと言われたが……」
封された封筒。それを見ながら『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は首をひねる。デウスギアで未来を読まれる可能性がある以上、ギリギリまで作戦情報が漏れない為の処置だという。しかし分からないまま進むのはやはり釈然としないものがある。
「…………」
墓地に迫った自由騎士達は、待ち構えていたパノプティコン兵士に出会う。予知されていたのか、或いは気付かれないうちに蒸気ドローンに補足されていたか。不意打ちを仕掛けないのは、身を隠す場所がないからだろうか。
互いの意思は明白だ。自由騎士はこの土地を奪いたい。パノプティコン兵士はこの土地を護りたい。そこに妥協の道はない。
両国の兵士はほぼ同時に武器を抜き、戦いに挑む。
●
「それじゃあ行くぜ」
最初に動いたのはウェルスだ。拳銃を構え、敵陣を確認する。純粋な数ではこちらが不利だが、それを補うことは難しくない。事実、自由騎士達はいくつもの不利な戦いを乗り越えてきたのだから。
頭の中で敵を撃つ順番をナンバリングし、胴銃を動かせばいいかをイメージする。両手に構えた銃をイメージした通りに動かし、引き金を引いていく。銃の角度、発砲による反動。全てを計算に入れながらウェルスは敵陣を蹂躙するように弾丸を射出した。
「異文化交流と行きますか。可愛いケモノビトならなおよしだ」
「ほどほどにな。連中がデウスギアで繋がっていることを忘れるなよ」
笑みを浮かべるウェルスに短く告げるアデル。パノプティコンの国民は国民管理機構で管理されている。プライバシーなど存在せず、神やハイオラクルに情報が筒抜けになるのだ。忘れているわけではないだろうが、念のために釘を刺しておく。
兵に指示を出しながら、槍を振るうアデル。パノプティコン兵士の注意を引くように挑発しながら、集まってきた兵士を纏めて攻撃する。脳内で槍の動線を描いた時には、すでに体は動いている。鍛えられた体は思うより先に動いてくれる。
「真正面からのぶつかり合い。となれば純粋な実力のぶつかり合いだな」
「はい。だったら負けるわけにはいきません」
アデルの言葉に頷くセーイ。セーイも自由騎士として多くの戦場を潜り抜けてきた。相手の兵士を侮るつもりはないが、駆け抜けてきた戦いの分だけ自信がある。油断なく、しかし自らを卑下することなく。ただ真っ直ぐに突き進む。
見る。自らの瞳に意識を集中し、戦場全てを見渡し、同時に五秒後の未来も見る。見ることと、そして判断することがセーイの戦闘スタイル。故に冷静に。クレーバーに状況を判断しなければならない。怒りを抑え、魔力の炎を解き放つ。
「こんな寂しい場所は、あってはいけないんだ!」
「ま、こんな所にこんな兵士を置くって言うのはもったいないよな!」
兵士に斧を振るいながらジーニーが笑みを浮かべる。国益としても価値が低いこの場所に十名近くの兵士を置く。そのうちの一人はかなりの練度を持つものだ。他国に攻められている状態なのに余裕があるのは、それなりの理由があるのだろうか。
今はそれを詮索している時間はない。出来るだけ早く兵士を倒し、この場を制圧するのだ。体内に力を込めて、自分の身体ほどの斧を振るう。北風の精霊ヤ=オ=ガー。マザリモノの片親の力を顕現させたかのような破壊の暴風が戦場で荒れ狂う。
「あのアイドーネウスが作ったんだ。何かしらの意味はあるぜ!」
「……確かに。となると墓は何かの口実か?」
ツボミはジーニーの言葉にぼそりと呟く。管理国家パノプティコン。徹底した管理を行う国が死んだ人間を考慮するとは思えない。永遠に国に刻まれる、というのが口実ならこの塔自体に意味があると言う事か? あるいは――
思考と同時に魔力を展開し、仲間の傷を癒していくツボミ。仲間の傷具合を見ながら適切なタイミングと治癒術で仲間のダメージを回復させていく。痛みを止め、傷を塞ぎ、失った血を代替し。魔力による一時的な傷の回復。後できちんと治療するが、今はこれで凌がなければ。
「死なない限りは癒す。だから死なない程度に無理しろ!」
「ありがとうございます!」
ツボミの癒しを受けながら、キリは目の前の将軍に切りかかる。相手の注意を引き付けると同時に、相手を消して許さないと言う気迫を表に出していた。その気迫に恐れたか、或いは興味を持ったか。将軍の拳を一手に受けることになっていた。
この地を占領するパノプティコンに思う所はあるが、キリの本質は守り抜く意思の強さ。仲間の回復を信じ、傷の痛みを堪えながらローブを振るって敵を攻撃を受け流す。合間に振るわれるサーベルが将軍の皮膚を裂いた。
「お前達は……邪魔です……!」
「キリ様……いいえ、今は」
普段とは異なる気迫のキリを見ながら、何かを言おうとして言葉を止めるデボラ。仮にデボラが同じ立場なら、同じ感情を抱いていただろう。今自分がすべきことはそれではないと割り切って、敵に向き直る。
息を吸い、そして吐く。意識して行う呼吸で心を落ち着けて戦場を把握する。仲間を守るためにどの位置に居ればいいかを思考し、その場所に移動しながら武器を振るう。要を押さえてしまえば、後は体を動かすだけだ。
「皆様、勝ちましょう!」
「はい! 頑張るであります!」
返事と同時に兵装を起動させるフリオ。『戦闘用蒸気鎧装Fleuret』を起動させ、手にした武装を振るい敵陣に挑む。相手を侮るつもりはない。むしろ護国する相手に敬意を抱き、それを乗り越えようと突き進む。
経路接続。圧縮蒸気装填。廃熱弁解放。三段階のスイッチが入ったのを確認し、フリオは加速装置を起動させる四肢に生まれる高温に身を焼きながら、加速する四肢を振るって武器を振るう。蒸気技術の粋、蒸気騎士の力ここにありと誇示するように。
「ここまでされても戦意喪失するものなし。敵ながら見事であります!」
言葉は通じないが、賞賛の言葉を贈るフリオ。
サポートとして戦うマザリモノの錬金術師と、ヨウセイの魔導士もパノプティコン兵士を討つのに一躍買う。二人が作った隙を逃すことなく、自由騎士達は攻め立てた。
そしてパノプティコン兵士達も一糸乱れぬ動きで自由騎士を迎え撃つ。個として優れているのではなく、集団戦で力を発揮するタイプなのだろう。個性を規制しない自由騎士とは真逆のスタイル。
管理と自由。真逆の思想を持つ両軍の戦いは、加熱していく。
●
繰り返すが、パノプティコンとイ・ラプセルに妥協の文字はない。
パノプティコン兵士は彼らの平和を守るために剣を取り、イ・ラプセルは未来の白紙を回避すべく戦い挑む。
(パノプティコンのハイオラクルは、『白紙』の未来を回避するつもりはない)
自由騎士達の一部はそれに気づいている。ある意味この戦いは、国の在り方の縮図だ。墓場(おわり)を守る国、墓場(おわり)を攻める国。
「まだ……倒れません!」
「キリは、こんな所で……!」
仲間を護っていたデボラがフラグメンツを燃やし、キリが不屈の精神で戦闘不能を回避する。
「そんな塔を守る意味なんてあるのか? さっさと逃げちゃえよ」
「どうした、戦果となる敵がお前の目の前にいるぞ」
挑発し、敵の目を引き付けていたジーニーとアデル――相手からの会話はないが、挑発の意図は読めたのだろう――も、その甲斐あってか攻撃を多く受けることとなりフラグメンツを燃やすこととなる。
「お前は、お前はキリが……!」
普段はマザリモノの特徴を隠すために深くかぶっているフードを外し、慣れない笑みを浮かべながら将軍を押さえるキリ。だが感情は深く、憎しみは重く。将軍の打撃でフラグメンツを燃やしたキリの怒りは何時しか剣に宿り、ほのかに黒い光を放っていた。
「キリさん……! いや、今は……!」
将軍を押さえているキリに注視していたセーイが、呻くように声をあげる。様子はおかしいが、五秒後の未来に異常はない。だがそれ以降の未来はどうだろうか? いやそれよりも今はこの戦いを収めなければならない。焦燥に駆られながら魔力を放つ。
「マザリモノだって必死に生きてるんだ! 喰らえ!」
マザリモノを排斥するパノプティコン。子供を産むことが出来ないマザリモノを、パノプティコンは『正しい』と認めていない。だがマザリモノも生きている。その維持を示すように、ジーニーは斧を振るう。
「種としての行き止まり……だからこそ、足搔く。生き汚く、見苦しくな」
仲間を回復しながら、ツボミが呟く。ヨウセイを贄とするシャンバラ。亜人を奴隷とするヘルメリア。二国はそうすることで国を回してきた。だがパノプティコンの排斥は違う。『生物として正しくない』という理由だ。それは一面では正しく、だからこそ足搔く理由になる。
「あんたは弱くなかった。仕えた国が悪かったんだよ」
自分が撃ち放った弾丸で倒れ伏す『黒犬』にそんな声をかけるウェルス。純粋な魔術の腕は悪くなく、状況判断も相応のものだった。徹底管理された国ではなく、自由に生きることが出来ればどうなっていたか。
「勝利まであと一歩です。油断なく行きましょう!」
敵主力の一つが落ちたのを見て、激を飛ばすデボラ。魔法攻撃に長けた『黒犬』が倒れたことで、戦いの流れは一気にこちらに傾いた。だが油断はできない。相手の戦意は衰えたわけではない。デボラはそれを盾ごしに感じていた。
「で、ありますね。国は違えど同じ戦士と言う所でしょうか」
デボラの言葉に頷くフリオ。パノプティコンに戦争を担う組織があるとは聞かない。だが、武器を持つ者は相応の訓練を重ねていることは理解できた。彼らもまた国を護る『騎士』なのだ。言葉通じぬ相手なれど、剣を通じて理解できることもある。
「……成程、精神同調は管理の延長線か。となると、この連携はその副産物か」
戦いながらパノプティコンの権能を見定めようとするアデルは、その一端に気付く。管理国家パノプティコン。その権能は全て管理の為のモノであり、それにより生まれる連携はあくまで副産物。それを戦いに利用しているに過ぎないのだ。
自由騎士達は巧みな連携で一人ずつパノプティコンの兵士を打ち倒していく。自由騎士側のダメージも少なくないが、デボラとキリがその多くを受け止めてツボミが癒しと言う戦術が功を奏した。そしてアデル、ウェルス、ジーニー、フリオ、セーイが一気に攻め立てる。
「これで終わりだ! 北風の斧を受けてみろ!」
叫びながら突撃するジーニー。最後に残った将軍はそれを迎えるべく交差の構えを取るが、それを気にすることなく斧を振るうジーニー。ジーニーは腹部に痛みを感じるが、同時に斧を握っている手のひらから確かな感覚も伝わってきた。
「敵将、討ち取ったり! ってな!」
崩れ落ちる将軍1012を見ながら、ジーニーは斧を振り上げて声高らかに勝利の声をあげた。
●
戦いが終わり、傷を癒した自由騎士達は改めて墓地4133を見る。
乾いた大地と一本の塔。塔の中には細かな数字――パノプティコンの国民の名称が刻まれている。
「よくわかんねぇなぁ。本当に何もないのか?」
ジーニーは塔の中に入り、何かないかを捜索していた。一階部分に兵士の生活スペースがあり、それより上は数多の文字が刻まれただけの壁と部屋。清掃も行き届いており、本当に何もない。死を見る魔力を込めた瞳で見ても、何も感じない。
「壊す……のは簡単じゃなさそうだ」
当の高さや頑丈さなどを見たセーイは、塔の破壊が簡単ではない事を理解する。きちんとした計画を立てないと破壊は容易ではない。少なくとも、この人数で壊せるほど脆い建物でないのは確かだ。
「……彼らの死生観による墓地です。迂闊に破壊するのはやめましょう」
塔を調べ終わったデボラは、静かに告げる。物理的に不可能と言う事もあるが、墓を壊すという意味を考えての発言だ。死に意味はない。死者に意味はない。生きていたことを刻み、死者に意味を与える。それが墓なのだ。
「『死んだ』という記録を管理しておく……といった所か。カルテのようなものだな」
ツボミは塔内部を見てそんな感想を抱く。治療終了したからと言って、その記録をすぐに破棄することはない。死者を弔っているのではない。これはただ『死んだ』という記録を管理するだけの塔なのだ。
「国民の行動は国民管理機構でアイドーネウスに伝わる……。勧誘して自由騎士に入れれば情報が筒抜け。ならば一晩のアバンチュールを……それも伝達されるのか……!」
パノプティコンの兵士(ケモノビトの女性)を勧誘しようとしたウェルスだが、パノプティコンのデウスギアの事を思い出して頭を抱えていた。神の生み出した技術を前に何もできない自分に絶望し、強く拳を握る。打つ手は、ない。
「…………」
捕らえられたパノプティコン兵士を見て、フリオは無言で敬礼する。国は違えど、彼らは自分と同じく祖国を思う者達だ。ここで殺しはしない。暫くは拘束することになるが、通商連を通じて捕虜交換を行う予定だ。
(『物見』がいない状況でも、兵士達は未来を知っているよう対応してきた。恐らくは国土に居る限りは権能で情報が伝わるのだろうな)
アデルは静かに思考していた。未来確定能力が自在であるなら、パノプティコンは負けがない。水鏡同様、未来の情報は確実に得られないようだ。そして――
(起点となる『現在』からは派生しない『未来』は確定できない。つまり、この地を押さえたことでパノプティコンが得られない『未来』があると言う事だ。彼らは見た『未来』を変えることが出来ない。
『未来』を変えることが出来る水鏡にはない弱点……という所か)
「…………」
キリはかつて存在した村のことを想像しながら、思いを馳せていた。かつてあった営みはここにはない。その残滓さえも見られない。……それでも残る者はある。キリ本人が今ここに居るのだ。あるいは春になれば、かつて生えていたようにツクシが顔を出すのかもしれない。その時は――
「しかしここからどうすると言うのだ? 橋頭保を立てるにはさすがに閑散とし過ぎている」
「パノプティコンに未来確定されてもいいように占領後に封筒を開けろ、と指示されていたが――なるほど、そう言う事か」
アデルは預かった封筒を開けて、合点がいったとばかりに頷く。他の自由騎士もその内容を見て、はっとなった。
『聖霊門をここに建てる』
聖霊門。かつてシャンバラ戦においてニルヴァンに大部隊を転移させ、つい最近ではアマノホカリとの行き来を可能とした秘術。
それを用いれば、大部隊を瞬時にこの地に運ぶことが可能となる――!
一本の塔と、乾いた大地。
それが墓地4133と呼ばれる場所だ。
自由騎士達は塔を目印に迷うことなく歩いていく。蒸気ドローンもあまり巡回に来ないのか、滞りなく進行できた。
「…………」
そびえたつ塔と、草が生えていない荒野を見ながら『復讐の意味は』キリ・カーレント(CL3000547)は拳を握る。かつてここにあった物、ここに合った生活、ここにあった営み。この光景を見て、それを思い出すことはできないけど。
「凄く……寂しい場所だ」
セーイ・キャトル(CL3000639)は塔以外何もない荒野を見ながら、そんな感想を抱く。墓地、という場所である以上は仕方のないことだが、それでも本当に何もない。理解できない死生観。それを前に寒気すら感じていた。
「ココがかつて村だったなんてな。よくもまぁこれだけ徹底的にやったもんだ」
見渡す限りの乾いた大地。それを見て『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は呆れたようにため息をついた。ここにあった村の痕跡を徹底的に消した。そこにどれだけの意味があるかはなど、理解の外だ。
「彼らの価値観からすれば、当然なのですが……」
眉を顰める様に『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は呟く。パノプティコンはマザリモノの存在を認めない。それは子供を産むことが出来ないと言う理由だ。その考え方はともかく、軍事侵略を行い村を滅ぼしたのならそれは許されざる行為だ。
「医者としては未だしも、生物学に触れる学徒としては反論の余地が無いな」
デボラの言葉に肩をすくめる『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。子供が生めないマザリモノは、種として行き詰っている。自分の命が潰えれば、生物学的観点として見れば何も残せるものはない。それは否定のできない事だ。
「ですがそれは一面的に過ぎるのではないでしょうか?」
『積み上げていく価値』フリオ・フルフラット(CL3000454)はツボミの言葉に、そしてパノプティコンの価値観に思う所があった。マザリモノが子供を産めないのは事実だ。だがそれだけで無価値と断じるのは、あまりにも短絡的すぎる。
「理解できる価値観とは思えんからな。パノプティコンは」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は言って苦笑する。徹底された管理国家。言語すら管理され、自由を排斥した価値観。子供を産む年齢と数まで管理されているんじゃないかと冗談を言いかけて、ありえそうで怖いので口を噤んだ。
「しかし、作戦の全体像が見えん。制圧するまで開封するなと言われたが……」
封された封筒。それを見ながら『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は首をひねる。デウスギアで未来を読まれる可能性がある以上、ギリギリまで作戦情報が漏れない為の処置だという。しかし分からないまま進むのはやはり釈然としないものがある。
「…………」
墓地に迫った自由騎士達は、待ち構えていたパノプティコン兵士に出会う。予知されていたのか、或いは気付かれないうちに蒸気ドローンに補足されていたか。不意打ちを仕掛けないのは、身を隠す場所がないからだろうか。
互いの意思は明白だ。自由騎士はこの土地を奪いたい。パノプティコン兵士はこの土地を護りたい。そこに妥協の道はない。
両国の兵士はほぼ同時に武器を抜き、戦いに挑む。
●
「それじゃあ行くぜ」
最初に動いたのはウェルスだ。拳銃を構え、敵陣を確認する。純粋な数ではこちらが不利だが、それを補うことは難しくない。事実、自由騎士達はいくつもの不利な戦いを乗り越えてきたのだから。
頭の中で敵を撃つ順番をナンバリングし、胴銃を動かせばいいかをイメージする。両手に構えた銃をイメージした通りに動かし、引き金を引いていく。銃の角度、発砲による反動。全てを計算に入れながらウェルスは敵陣を蹂躙するように弾丸を射出した。
「異文化交流と行きますか。可愛いケモノビトならなおよしだ」
「ほどほどにな。連中がデウスギアで繋がっていることを忘れるなよ」
笑みを浮かべるウェルスに短く告げるアデル。パノプティコンの国民は国民管理機構で管理されている。プライバシーなど存在せず、神やハイオラクルに情報が筒抜けになるのだ。忘れているわけではないだろうが、念のために釘を刺しておく。
兵に指示を出しながら、槍を振るうアデル。パノプティコン兵士の注意を引くように挑発しながら、集まってきた兵士を纏めて攻撃する。脳内で槍の動線を描いた時には、すでに体は動いている。鍛えられた体は思うより先に動いてくれる。
「真正面からのぶつかり合い。となれば純粋な実力のぶつかり合いだな」
「はい。だったら負けるわけにはいきません」
アデルの言葉に頷くセーイ。セーイも自由騎士として多くの戦場を潜り抜けてきた。相手の兵士を侮るつもりはないが、駆け抜けてきた戦いの分だけ自信がある。油断なく、しかし自らを卑下することなく。ただ真っ直ぐに突き進む。
見る。自らの瞳に意識を集中し、戦場全てを見渡し、同時に五秒後の未来も見る。見ることと、そして判断することがセーイの戦闘スタイル。故に冷静に。クレーバーに状況を判断しなければならない。怒りを抑え、魔力の炎を解き放つ。
「こんな寂しい場所は、あってはいけないんだ!」
「ま、こんな所にこんな兵士を置くって言うのはもったいないよな!」
兵士に斧を振るいながらジーニーが笑みを浮かべる。国益としても価値が低いこの場所に十名近くの兵士を置く。そのうちの一人はかなりの練度を持つものだ。他国に攻められている状態なのに余裕があるのは、それなりの理由があるのだろうか。
今はそれを詮索している時間はない。出来るだけ早く兵士を倒し、この場を制圧するのだ。体内に力を込めて、自分の身体ほどの斧を振るう。北風の精霊ヤ=オ=ガー。マザリモノの片親の力を顕現させたかのような破壊の暴風が戦場で荒れ狂う。
「あのアイドーネウスが作ったんだ。何かしらの意味はあるぜ!」
「……確かに。となると墓は何かの口実か?」
ツボミはジーニーの言葉にぼそりと呟く。管理国家パノプティコン。徹底した管理を行う国が死んだ人間を考慮するとは思えない。永遠に国に刻まれる、というのが口実ならこの塔自体に意味があると言う事か? あるいは――
思考と同時に魔力を展開し、仲間の傷を癒していくツボミ。仲間の傷具合を見ながら適切なタイミングと治癒術で仲間のダメージを回復させていく。痛みを止め、傷を塞ぎ、失った血を代替し。魔力による一時的な傷の回復。後できちんと治療するが、今はこれで凌がなければ。
「死なない限りは癒す。だから死なない程度に無理しろ!」
「ありがとうございます!」
ツボミの癒しを受けながら、キリは目の前の将軍に切りかかる。相手の注意を引き付けると同時に、相手を消して許さないと言う気迫を表に出していた。その気迫に恐れたか、或いは興味を持ったか。将軍の拳を一手に受けることになっていた。
この地を占領するパノプティコンに思う所はあるが、キリの本質は守り抜く意思の強さ。仲間の回復を信じ、傷の痛みを堪えながらローブを振るって敵を攻撃を受け流す。合間に振るわれるサーベルが将軍の皮膚を裂いた。
「お前達は……邪魔です……!」
「キリ様……いいえ、今は」
普段とは異なる気迫のキリを見ながら、何かを言おうとして言葉を止めるデボラ。仮にデボラが同じ立場なら、同じ感情を抱いていただろう。今自分がすべきことはそれではないと割り切って、敵に向き直る。
息を吸い、そして吐く。意識して行う呼吸で心を落ち着けて戦場を把握する。仲間を守るためにどの位置に居ればいいかを思考し、その場所に移動しながら武器を振るう。要を押さえてしまえば、後は体を動かすだけだ。
「皆様、勝ちましょう!」
「はい! 頑張るであります!」
返事と同時に兵装を起動させるフリオ。『戦闘用蒸気鎧装Fleuret』を起動させ、手にした武装を振るい敵陣に挑む。相手を侮るつもりはない。むしろ護国する相手に敬意を抱き、それを乗り越えようと突き進む。
経路接続。圧縮蒸気装填。廃熱弁解放。三段階のスイッチが入ったのを確認し、フリオは加速装置を起動させる四肢に生まれる高温に身を焼きながら、加速する四肢を振るって武器を振るう。蒸気技術の粋、蒸気騎士の力ここにありと誇示するように。
「ここまでされても戦意喪失するものなし。敵ながら見事であります!」
言葉は通じないが、賞賛の言葉を贈るフリオ。
サポートとして戦うマザリモノの錬金術師と、ヨウセイの魔導士もパノプティコン兵士を討つのに一躍買う。二人が作った隙を逃すことなく、自由騎士達は攻め立てた。
そしてパノプティコン兵士達も一糸乱れぬ動きで自由騎士を迎え撃つ。個として優れているのではなく、集団戦で力を発揮するタイプなのだろう。個性を規制しない自由騎士とは真逆のスタイル。
管理と自由。真逆の思想を持つ両軍の戦いは、加熱していく。
●
繰り返すが、パノプティコンとイ・ラプセルに妥協の文字はない。
パノプティコン兵士は彼らの平和を守るために剣を取り、イ・ラプセルは未来の白紙を回避すべく戦い挑む。
(パノプティコンのハイオラクルは、『白紙』の未来を回避するつもりはない)
自由騎士達の一部はそれに気づいている。ある意味この戦いは、国の在り方の縮図だ。墓場(おわり)を守る国、墓場(おわり)を攻める国。
「まだ……倒れません!」
「キリは、こんな所で……!」
仲間を護っていたデボラがフラグメンツを燃やし、キリが不屈の精神で戦闘不能を回避する。
「そんな塔を守る意味なんてあるのか? さっさと逃げちゃえよ」
「どうした、戦果となる敵がお前の目の前にいるぞ」
挑発し、敵の目を引き付けていたジーニーとアデル――相手からの会話はないが、挑発の意図は読めたのだろう――も、その甲斐あってか攻撃を多く受けることとなりフラグメンツを燃やすこととなる。
「お前は、お前はキリが……!」
普段はマザリモノの特徴を隠すために深くかぶっているフードを外し、慣れない笑みを浮かべながら将軍を押さえるキリ。だが感情は深く、憎しみは重く。将軍の打撃でフラグメンツを燃やしたキリの怒りは何時しか剣に宿り、ほのかに黒い光を放っていた。
「キリさん……! いや、今は……!」
将軍を押さえているキリに注視していたセーイが、呻くように声をあげる。様子はおかしいが、五秒後の未来に異常はない。だがそれ以降の未来はどうだろうか? いやそれよりも今はこの戦いを収めなければならない。焦燥に駆られながら魔力を放つ。
「マザリモノだって必死に生きてるんだ! 喰らえ!」
マザリモノを排斥するパノプティコン。子供を産むことが出来ないマザリモノを、パノプティコンは『正しい』と認めていない。だがマザリモノも生きている。その維持を示すように、ジーニーは斧を振るう。
「種としての行き止まり……だからこそ、足搔く。生き汚く、見苦しくな」
仲間を回復しながら、ツボミが呟く。ヨウセイを贄とするシャンバラ。亜人を奴隷とするヘルメリア。二国はそうすることで国を回してきた。だがパノプティコンの排斥は違う。『生物として正しくない』という理由だ。それは一面では正しく、だからこそ足搔く理由になる。
「あんたは弱くなかった。仕えた国が悪かったんだよ」
自分が撃ち放った弾丸で倒れ伏す『黒犬』にそんな声をかけるウェルス。純粋な魔術の腕は悪くなく、状況判断も相応のものだった。徹底管理された国ではなく、自由に生きることが出来ればどうなっていたか。
「勝利まであと一歩です。油断なく行きましょう!」
敵主力の一つが落ちたのを見て、激を飛ばすデボラ。魔法攻撃に長けた『黒犬』が倒れたことで、戦いの流れは一気にこちらに傾いた。だが油断はできない。相手の戦意は衰えたわけではない。デボラはそれを盾ごしに感じていた。
「で、ありますね。国は違えど同じ戦士と言う所でしょうか」
デボラの言葉に頷くフリオ。パノプティコンに戦争を担う組織があるとは聞かない。だが、武器を持つ者は相応の訓練を重ねていることは理解できた。彼らもまた国を護る『騎士』なのだ。言葉通じぬ相手なれど、剣を通じて理解できることもある。
「……成程、精神同調は管理の延長線か。となると、この連携はその副産物か」
戦いながらパノプティコンの権能を見定めようとするアデルは、その一端に気付く。管理国家パノプティコン。その権能は全て管理の為のモノであり、それにより生まれる連携はあくまで副産物。それを戦いに利用しているに過ぎないのだ。
自由騎士達は巧みな連携で一人ずつパノプティコンの兵士を打ち倒していく。自由騎士側のダメージも少なくないが、デボラとキリがその多くを受け止めてツボミが癒しと言う戦術が功を奏した。そしてアデル、ウェルス、ジーニー、フリオ、セーイが一気に攻め立てる。
「これで終わりだ! 北風の斧を受けてみろ!」
叫びながら突撃するジーニー。最後に残った将軍はそれを迎えるべく交差の構えを取るが、それを気にすることなく斧を振るうジーニー。ジーニーは腹部に痛みを感じるが、同時に斧を握っている手のひらから確かな感覚も伝わってきた。
「敵将、討ち取ったり! ってな!」
崩れ落ちる将軍1012を見ながら、ジーニーは斧を振り上げて声高らかに勝利の声をあげた。
●
戦いが終わり、傷を癒した自由騎士達は改めて墓地4133を見る。
乾いた大地と一本の塔。塔の中には細かな数字――パノプティコンの国民の名称が刻まれている。
「よくわかんねぇなぁ。本当に何もないのか?」
ジーニーは塔の中に入り、何かないかを捜索していた。一階部分に兵士の生活スペースがあり、それより上は数多の文字が刻まれただけの壁と部屋。清掃も行き届いており、本当に何もない。死を見る魔力を込めた瞳で見ても、何も感じない。
「壊す……のは簡単じゃなさそうだ」
当の高さや頑丈さなどを見たセーイは、塔の破壊が簡単ではない事を理解する。きちんとした計画を立てないと破壊は容易ではない。少なくとも、この人数で壊せるほど脆い建物でないのは確かだ。
「……彼らの死生観による墓地です。迂闊に破壊するのはやめましょう」
塔を調べ終わったデボラは、静かに告げる。物理的に不可能と言う事もあるが、墓を壊すという意味を考えての発言だ。死に意味はない。死者に意味はない。生きていたことを刻み、死者に意味を与える。それが墓なのだ。
「『死んだ』という記録を管理しておく……といった所か。カルテのようなものだな」
ツボミは塔内部を見てそんな感想を抱く。治療終了したからと言って、その記録をすぐに破棄することはない。死者を弔っているのではない。これはただ『死んだ』という記録を管理するだけの塔なのだ。
「国民の行動は国民管理機構でアイドーネウスに伝わる……。勧誘して自由騎士に入れれば情報が筒抜け。ならば一晩のアバンチュールを……それも伝達されるのか……!」
パノプティコンの兵士(ケモノビトの女性)を勧誘しようとしたウェルスだが、パノプティコンのデウスギアの事を思い出して頭を抱えていた。神の生み出した技術を前に何もできない自分に絶望し、強く拳を握る。打つ手は、ない。
「…………」
捕らえられたパノプティコン兵士を見て、フリオは無言で敬礼する。国は違えど、彼らは自分と同じく祖国を思う者達だ。ここで殺しはしない。暫くは拘束することになるが、通商連を通じて捕虜交換を行う予定だ。
(『物見』がいない状況でも、兵士達は未来を知っているよう対応してきた。恐らくは国土に居る限りは権能で情報が伝わるのだろうな)
アデルは静かに思考していた。未来確定能力が自在であるなら、パノプティコンは負けがない。水鏡同様、未来の情報は確実に得られないようだ。そして――
(起点となる『現在』からは派生しない『未来』は確定できない。つまり、この地を押さえたことでパノプティコンが得られない『未来』があると言う事だ。彼らは見た『未来』を変えることが出来ない。

『未来』を変えることが出来る水鏡にはない弱点……という所か)
「…………」
キリはかつて存在した村のことを想像しながら、思いを馳せていた。かつてあった営みはここにはない。その残滓さえも見られない。……それでも残る者はある。キリ本人が今ここに居るのだ。あるいは春になれば、かつて生えていたようにツクシが顔を出すのかもしれない。その時は――
「しかしここからどうすると言うのだ? 橋頭保を立てるにはさすがに閑散とし過ぎている」
「パノプティコンに未来確定されてもいいように占領後に封筒を開けろ、と指示されていたが――なるほど、そう言う事か」
アデルは預かった封筒を開けて、合点がいったとばかりに頷く。他の自由騎士もその内容を見て、はっとなった。
『聖霊門をここに建てる』
聖霊門。かつてシャンバラ戦においてニルヴァンに大部隊を転移させ、つい最近ではアマノホカリとの行き来を可能とした秘術。
それを用いれば、大部隊を瞬時にこの地に運ぶことが可能となる――!