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Never Die!? 橋を守る不死の英雄!

●1810年ヴィスマルク戦歴
ヴィスマルク帝国は鉄血国家だが、常勝というわけではない。
むしろ多くの犠牲を出してもなお突き進むからこそ、常勝のイメージが強いのだ。
「全軍進め!」
その命令は死と同じだった。橋での防衛戦。相手は戦車数台。こちらは歩兵と土嚢で作ったバリケードのみ。
「クソッタレが。こんなことなら、真面目に塹壕掘ってればよかったぜ!」
オットー・ベルネット――当時は一等兵――は、後悔と共に銃を撃ち放つ。一日中穴を掘るのは嫌だ、と言ったらこの作戦に強制参加されたのだ。やっぱり少佐の女を寝取ったのはマズかったか。そんな事を思っていた。
「すまん、オットー。巻き込んだ」
そんなオットーに告げるのはまだ若い少尉だ。名前をウィリアム・ディークマンという。軍人の家系で、父はもうすぐ大佐になるだろうと言われている。その親の政治的な敵がこの命令を下したのだ。
「あの男は親父の当てつけで僕らの部隊に命令を下したんだ。兵達には何の罪もないのに」
「……まあ、そうかもな」
色々恨まれる覚えのあるオットーは目を背けるが、ウィリアム――というよりはディークマン中佐の当てつけによる部分が大きいのは確かだ。
「まあ、命令は命令です。今更拒否はできませんぜ。やるしかありませんよ」
「……そうだね。せめて、出来るだけ多くの兵を帰さないと。
あそこまで突っ切るから、援護してくれ」
「って少尉!? ええい、お前ら少尉を援護しろ!」
ウィリアムが敢行したのは、無茶な突撃だ。射撃に適した要所を抑え、そこに陣取って味方の突撃をサポートするものだ。作戦は成功し、要所を抑えた後は流れるように展開していく。多くの犠牲を出したが死傷者数は少なかった。だが――
「……少尉……。勝てたのは、あんたのおかげですぜ」
重要箇所を陣取った少尉は集中砲火を受け、体中銃創だらけで力尽きた。身を犠牲にして作戦を成功させたとして勲章を授けられたという。
その後、オットーはウィリアムの父であるモーリッツ・ディークマンに拾われるわけだが、それはまた別の話。
今は、その橋に現れたイブリースの話だ。
●橋を守るイブリース
アスマン鉄橋――
レガート砦北西に位置する鉄橋で、交通の要所ともいえる。
そこに兵士のイブリースが現れる。銃剣を持ち、橋を通ろうとする者を攻撃してくるという。ヴィスマルク軍人でも、そうでなくても。
レガート砦をイ・ラプセルに奪われてから、その橋を渡ることは減り、ヴィスマルクはそのイブリースを放置する方針になった。
橋に近づかなければ問題ないイブリース。橋から撤退すれば身の安全は確保される。
イ・ラプセルは今後の侵攻も踏まえて、イブリース除去を決定。自由騎士による部隊を編成するのであった――
ヴィスマルク帝国は鉄血国家だが、常勝というわけではない。
むしろ多くの犠牲を出してもなお突き進むからこそ、常勝のイメージが強いのだ。
「全軍進め!」
その命令は死と同じだった。橋での防衛戦。相手は戦車数台。こちらは歩兵と土嚢で作ったバリケードのみ。
「クソッタレが。こんなことなら、真面目に塹壕掘ってればよかったぜ!」
オットー・ベルネット――当時は一等兵――は、後悔と共に銃を撃ち放つ。一日中穴を掘るのは嫌だ、と言ったらこの作戦に強制参加されたのだ。やっぱり少佐の女を寝取ったのはマズかったか。そんな事を思っていた。
「すまん、オットー。巻き込んだ」
そんなオットーに告げるのはまだ若い少尉だ。名前をウィリアム・ディークマンという。軍人の家系で、父はもうすぐ大佐になるだろうと言われている。その親の政治的な敵がこの命令を下したのだ。
「あの男は親父の当てつけで僕らの部隊に命令を下したんだ。兵達には何の罪もないのに」
「……まあ、そうかもな」
色々恨まれる覚えのあるオットーは目を背けるが、ウィリアム――というよりはディークマン中佐の当てつけによる部分が大きいのは確かだ。
「まあ、命令は命令です。今更拒否はできませんぜ。やるしかありませんよ」
「……そうだね。せめて、出来るだけ多くの兵を帰さないと。
あそこまで突っ切るから、援護してくれ」
「って少尉!? ええい、お前ら少尉を援護しろ!」
ウィリアムが敢行したのは、無茶な突撃だ。射撃に適した要所を抑え、そこに陣取って味方の突撃をサポートするものだ。作戦は成功し、要所を抑えた後は流れるように展開していく。多くの犠牲を出したが死傷者数は少なかった。だが――
「……少尉……。勝てたのは、あんたのおかげですぜ」
重要箇所を陣取った少尉は集中砲火を受け、体中銃創だらけで力尽きた。身を犠牲にして作戦を成功させたとして勲章を授けられたという。
その後、オットーはウィリアムの父であるモーリッツ・ディークマンに拾われるわけだが、それはまた別の話。
今は、その橋に現れたイブリースの話だ。
●橋を守るイブリース
アスマン鉄橋――
レガート砦北西に位置する鉄橋で、交通の要所ともいえる。
そこに兵士のイブリースが現れる。銃剣を持ち、橋を通ろうとする者を攻撃してくるという。ヴィスマルク軍人でも、そうでなくても。
レガート砦をイ・ラプセルに奪われてから、その橋を渡ることは減り、ヴィスマルクはそのイブリースを放置する方針になった。
橋に近づかなければ問題ないイブリース。橋から撤退すれば身の安全は確保される。
イ・ラプセルは今後の侵攻も踏まえて、イブリース除去を決定。自由騎士による部隊を編成するのであった――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリースの殲滅
どくどくです。
まあ、還リビトなんだから死んでるんですけどね!
●敵情報
・兵士(×1)
ヴィスマルク兵士の還リビトです。元はガンナーであったらしく、それに付随した攻撃をしてきます。名前はウィリアム・ディークマン。20代前半の男性です。階級は少尉。
かつて政治的抗争に巻き込まれる形で、無茶な作戦にほおりこまれて死亡しました。その中で部下を助けようと無茶な突貫をし、英雄的な扱いを受けています。
橋を通るものを絶対許さないとばかりに、死んでも復活してきます。
攻撃方法
斬撃 攻近範 銃剣で切り払います。
突刺 攻近貫 銃剣で突き刺してきます。(100%、50%)
弾丸 攻遠単 弾丸を撃ってきます。
手榴弾 攻遠範 手榴弾を投げてきます。復活一回目後から使用可能。【致命】
威圧 魔遠単 気迫で相手の動きを封じます。復活一回目後から使用可能。【パラライズ2】
ナイフ 攻近単 手にしたナイフで切り裂いてきます。。復活二回目後から使用可能。【三連】【スクラッチ2】
粘性油 魔遠全 錬金術で作った燃える液体をばらまきます。復活二回目後から使用可能。【バーン2】
鉄血 P 死を恐れぬ行動が、活路を見出す。攻撃、魔攻、CTにプラス修正。復活三回目後から発動。
決死 P 死にたくない。その想いが限界を超える。常に三回行動。復活三回目後から発動。
英雄は三度死ぬ P HPが0になった時、必殺を無視してHPが全快する。1シナリオ3回まで。
●場所情報
レガート砦より少し行ったところにある鉄橋。ヴィスマルクとの境界線。
その橋の真ん中に、イブリースはいます。明かりや足場などは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『兵士』がいます。
事前付与は一度だけとします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
まあ、還リビトなんだから死んでるんですけどね!
●敵情報
・兵士(×1)
ヴィスマルク兵士の還リビトです。元はガンナーであったらしく、それに付随した攻撃をしてきます。名前はウィリアム・ディークマン。20代前半の男性です。階級は少尉。
かつて政治的抗争に巻き込まれる形で、無茶な作戦にほおりこまれて死亡しました。その中で部下を助けようと無茶な突貫をし、英雄的な扱いを受けています。
橋を通るものを絶対許さないとばかりに、死んでも復活してきます。
攻撃方法
斬撃 攻近範 銃剣で切り払います。
突刺 攻近貫 銃剣で突き刺してきます。(100%、50%)
弾丸 攻遠単 弾丸を撃ってきます。
手榴弾 攻遠範 手榴弾を投げてきます。復活一回目後から使用可能。【致命】
威圧 魔遠単 気迫で相手の動きを封じます。復活一回目後から使用可能。【パラライズ2】
ナイフ 攻近単 手にしたナイフで切り裂いてきます。。復活二回目後から使用可能。【三連】【スクラッチ2】
粘性油 魔遠全 錬金術で作った燃える液体をばらまきます。復活二回目後から使用可能。【バーン2】
鉄血 P 死を恐れぬ行動が、活路を見出す。攻撃、魔攻、CTにプラス修正。復活三回目後から発動。
決死 P 死にたくない。その想いが限界を超える。常に三回行動。復活三回目後から発動。
英雄は三度死ぬ P HPが0になった時、必殺を無視してHPが全快する。1シナリオ3回まで。
●場所情報
レガート砦より少し行ったところにある鉄橋。ヴィスマルクとの境界線。
その橋の真ん中に、イブリースはいます。明かりや足場などは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『兵士』がいます。
事前付与は一度だけとします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
7個
3個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2020年10月13日
2020年10月13日
†メイン参加者 8人†
●
「彼はディークマン大佐の……」
目の前の還リビト。その来歴を知った『積み上げていく価値』フリオ・フルフラット(CL3000454)はそう呟いて、唇を閉じた。そこから先を口にしても、意味のない事だ。ここに居るのはイブリース。過去を変えることなどできないのだから。
「話には聞いていたが……生きていれば厄介な相手になっていただろうな」
10年前はヴィスマルクで傭兵として従事していた『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はかつての伝聞を思い出す。正規軍の士官が特攻し、兵の消耗を押さえたと言う話。彼がいなければ、当時後方支援のアデルももしかしたらこの戦いに参戦していたかもしれない。
「死んでしまえばお終いだ。こいつにも待っている家族はいただろうに」
黙とうするように顔で瞳を覆い、『永遠の絆』ザルク・ミステル(CL3000067)は呟く。死ねば待っている人間を悲しませる。その重さと意味を実感しながら言葉を放ち、銃を構えた。イブリースは退治しなければならない。二挺拳銃を構え、その意思を示す。
「ここで歩みを止めるわけにはいきません」
『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は手を合わせて、目の前のイブリースの為に祈った。かつてこの兵が命を懸けて進んだように、自分達も命を懸けて進まなくてはいけない。未来のために。
「……終わらせましょう」
複雑な思いを胸に秘め、その一言だけを呟く ロザベル・エヴァンス(CL3000685)。イブリースの元となった人間の行為を、英雄的と呼ぶのか無謀な特攻と見下すか。それは人それぞれだろう。まだ幼いロザベルは、自分の感情を受け入れられずにいた。
「死にたくない、っていうのはまあ誰だって同じか」
『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)は静かに頷く。鉄血国家ヴィスマルクの全ての軍人が命知らずというわけでもない。それでも前に進もうとする軍靴こそが、鉄血なのだ。部下の為に命を賭した行為。そこに秘められた想い。その全てを吐き出すようにため息をついた。
「死にたくない、と思いながら命を懸けて部下を守りたい……矛盾しているからこそ、人間なんだろうね」
うん、と頷く『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。命を投げ出す行為を良しと思いはしないが、それでも彼の行為で多くの命が助かった。その想いがイブリースとなったと言うのなら、何とも人間らしい話だ。
「どうあれこいつは過去の亡霊だ。俺達からすれば、憎き敵国のな」
イブリースの来歴を聞き、全てを理解したうえで『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はそう言い放つ。相手は何度も蘇るイブリース。難敵ともいえる存在だ。そんな存在相手に同情などしていられない。
「ダレ、モ……トオサナイ……!」
何かを守るように橋に存在する還リビト。銃剣を構え、橋を渡ろうとする自由騎士達に戦意を向ける。それ以上踏み込めば、撃つ。殺意でそう伝えてきた。自由騎士達はその殺意を受けとめ、さらに一歩進む。
戦意が殺意に変わる。濃度を増した空気の中、自由騎士達は武器を構えて動き出す。
●
「行きましょう。醒めない悪夢を終わらせに」
アンジェリカは武器を構え、イブリースに迫る。長期戦に備えて防御の構えを取り、呼吸を整える。橋を守ろうとする思いが強いがゆえに未だに戦い続ける兵士の魂。その想いを解放するために、武器を構えた。
『断罪と救済の十字架』を大上段に構え、振り下ろすアンジェリカ。重戦士の基本技にして、真価ともいえる動き。その一撃を受けながらも、イブリースは銃剣を突き刺してくる。防御の構えを取っているとはいえ、けして侮れない一撃だ。
「消して橋を渡らせない。その意思を感じますね」
「その結果として死んだのなら、兵士としては失格だ」
相手の動きを見ながらアデルはそう言い放つ。どんな状況でも生き残る。死んでしまえばお終い。それがアデルの持論だ。とはいえ、兵士の行為そのものを否定するつもりは毛頭ない。捨て身の行為が多くの兵を救い、今のヴィスマルクがあるのだから。
銃剣の間合。そして自分の槍の間合。それを意識しながらアデルは距離を測る。軍隊格闘として精錬されているのか、その動きに隙はない。ならばと強引に槍をぶつけ、そのまま打ち据える。交差する槍と銃剣。激しい金属音が戦場に鳴り響く。
「成程、あの大佐の息子だな。強さも精神性も親譲りと言う事か」
「死んでくれてよかったと言うべきか、あるいはこんな所で死んでくれやがってと罵るべきか」
ウェルスは言って苦笑する。仮に生きていたのならイ・ラプセルを苦しめる要因となっていただろう。だが死んでしまった今となってはイブリースとなってこちらを苦しめている。どうあれこちらの敵となっているのだから、文句の一つもついてもいいだろう。
戦場を俯瞰するように意識しながら視界を確保し、ガジェットで狙いを定めるウェルス。戦闘という高揚的な状況に身を置きながら、冷静に狙いを見定める。ガジェットが伝える情報を元に拳銃を撃ち放ち、イブリースを追い詰めていく。
「不死っていったって殺せば死ぬんだ。だったら死ぬまで殺してやる」
「違いない。問題はそいつが簡単じゃないってことだな」
ため息をつくようにニコラスが呟く。水鏡の情報は正確だ。複数回殺せば子のイブリースは死ぬのは分かっている。問題は、それを為すための継戦能力だ。息切れしないことが大前提。その上で戦術を誤ってはいけない。確かに楽ではないと苦笑する。
味方の傷を見ながら、ニコラスは呼吸を整える。継戦能力を意識しながら、回復する順序と相手を脳内で組み立て直す。大事なのは倒れない事。紡がれる魔力は癒しの力となって戦場を駆け巡る。味方を包む癒しの魔力が傷を癒していく。
「おじさんの仕事は後ろに控えていることだ。きったはったは任せたよ」
「了解であります!」
ニコラスの言葉に応じるフリオ。防御の構えを取りながら、イブリースの姿を見る。相手の素姓と家族の情報を知り、思う所がないわけでもない。だが戦うとなればそれは二の次だ。機を抜かず、構えを維持しながら相対する。
生き抜く事。死にたくないと思いながら、仲間のために戦い続けた意志。相手のそういう所を意識しながらフリオは刃を重ねる。武器を重ねるごとに伝わる相手の想い。それを感じ取りながら、フリオは相手を斬り結ぶ。
「生きたいという想いなら私も負けてないであります!」
「死しても橋を守りたい、という気持ちは立派かもしれません。ですが……」
ロザベルは兵士に向かって口を開く。これはただの還リビト。当人の想いがあるだけのイブリース。そう思ってはいても、吐き出す相手がそこに居る。複雑な思いを吐露するように、ロザベルの言葉は止まらなかった。
そして同時に、体も動かしていた。体内に薬物を撃ち込んで身体能力を強化し、そのまま兵士を押さえながら武器を振るう。復活する相手に備えてギアを押さえ、斬撃を積み重ねていく。
「死を恐れながら死に向かい、結果として誰かを悲しませる。それが英雄と言うのなら、そんな物の為に悲しむ親がいると言う事を理解してください」
「うん……。残された人は、悲しいね」
マグノリアは言って胸に手を当てる。多くの人を看取った人間は、それでも前に進めるのだろうか。それでも進める『何か』がある者こそ一歩進めるのだ。心と意志。その強さことが、喪失から立ち直る突破力となるのだろう。
思考をいったん止め、戦いに意識を向ける。『鋼より伝わる音』を生み出し、それを方向付けて兵士に付与するマグノリア。音の意味は劣化。限定的に時間を進め、相手を経年劣化させる錬金術。相手の力を封じ、相対的に味方の力を増していく。
「消すのはイブリース……。彼は、供養しなくちゃね」
マグノリアの言葉に頷く自由騎士達。彼らは広範に体力を維持しながら兵士を追い詰めていく。
だが、攻撃の出力を押さえる事もあってか一撃の火力も押さえ気味となり、結果として兵士え与えるダメージは少なくなってくる。
「回復を狙って来たか。厄介だね」
「そうだね、これは厳しいかも……」
イブリースは回復役を狙うかのように銃を撃ち放ち、ニコラスとマグノリアの体力を削ってくる。
(トドメにこいつを放って、一気にケリをつける)
ウェルスは蒸気式の多薬室砲を用意しながら、兵士を見た。この弾薬を使い、復活のいとまも与えず全てを吹き飛ばすつもりだ。倒れる寸前に使うのが一番好ましいのだが……。
(問題はイブリースの体力の限界を測る手段がないってことだな……!)
弾薬は相手のトドメにタイミングかその寸前で撃ち放つのが好ましい。だが、いつ相手の体力が尽きるか。それを調べる手段がウェルスにはなかった。一度きりの攻撃ゆえに、ことさら慎重になる。相手の能力を知る術か道具があればどうにかなったかもしれないが。
「くそ、今だ!」
これ以上待つのも限界か、というタイミングで弾薬を撃ち放つウェルス。しかしイブリースはまだ倒れる気配はない。
「少し早かったか……!」
空となった薬室を捨て、拳銃を手にするウェルス。
自由騎士とイブリースはさらなる激戦に身を投じていく。
●
一度目の復活を遂げたイブリースは、手榴弾と威圧を使うことで戦術の幅を広げる。
だが水鏡でそれを知っていた自由騎士達は、その変化に柔軟に対応していく。被害を押さえ、攻撃を重ねていく。
「まだ……です」
「この程度では倒れないであります!」
ロザベルとフリオがフラグメンツを削られるほどのダメージを負うが、それでもまだ倒れるつもりはないとばかりに立ち上がる。
「ちっ、イブリースはやっぱりバケモノか!」
拳銃を撃ち放ち、兵士の手や目を狙うウェルス。だが死体であるためか、人間では急所である場所を撃たれても動きに変わりがあるようには思えない。ダメージは与えているが、目や手を撃っても変わらず銃を構えて狙ってくるのはバケモノとしか言いようがない。
「気力が枯渇しないように……。あとは、傷を癒して……」
兵士が与えてくる攻撃に耐えながら、マグノリアは味方を癒す。相手は一人だが、水鏡はこのイブリースを難敵と認定した。それを証明するかのように、一撃は重い。癒す順番を誤れば、一気に状況をひっくり返されかねない。
「モーリッツ・ディークマンの最後の愚痴はアンタの事か。……全く、親は何時だって子供のことで苦労するもんだよな」
ニコラスは言って苦笑する。レガート砦で相対した大佐。その男が言っていた言葉。それを理解して、自分の娘と重ね合わせた。子供を助ける機会があった自分と、なかったディークマン大佐。その差を知り、表情を隠す等にニコラスは顔をわずかに伏せた。
「二度の復活確認……。ええ、終わらせましょう。それがどういう意味を持つかはわかりませんが」
ロザベルの一閃が兵士を切り裂く。確かに命を奪った手ごたえを感じながら、同時に蘇ってくる気配も感じていた。ディークマン大佐に言われた言葉が脳裏に蘇る。命を投げ捨てた息子。そんな息子を持つ親が、命をチップにする技を見て思ったこと。その因果を見てロザベルが何を思ったかは、彼女のみ知ることだ。
「ここが攻め時ですね。一気呵成に攻めさせていただきます!」
度重なる攻撃でフラグメンツを削られながら、アンジェリカは攻勢に回る。武器を三度振るい、相手に打撃を重ねていく。強い衝撃が相手の行動を制限するが、それも完璧ではない。それでもこれが最善と信じて、前に進んでいく。
「ここからは短期決戦だ! 火力を出し惜しむな。やられる前に押し切るぞ!」
自らに言い聞かせるように叫び、アデルも防御を捨てて攻め立てる。フラグメンツを燃やして倒れるほどの傷を癒した後に、意識を飛ばすほどに自らを奮起させて槍を振るう。肉体が軋みをあげるような音を聞きながら、それでもここが勝負どころと突き進む。
「けして倒れるわけにはいかなかった、という気概なのでしょうね」
何度も蘇る兵士を見て、フリオはそんなことを思う。仲間を守るための戦い。その為に戦った気概。それはフリオ自身も抱いたことのある思いだ。それを否定することはできず、だからこそこのイブリースを容認はできない。兵士の想いを、汚された気がして。
「これで、三度目!」
アデルの槍がイブリースの身体を貫く。黒い霧となって消えたイブリースが、また一つに集まって動き出す。
「ここで――!」
「行きます!」
フリオとロザベルは三度目の復活に合わせて、全蒸気を集約した斬撃と砲撃を撃ち放つ。出来れば復活のタイミングに合わせたかったが、相手の体力の限界を想定する材料が少なかったためこのタイミングとなった。フリオの一閃が動きを止め、ロザベルの砲撃がそこに積み重なる。
最後の力を振る絞り、自由騎士達は一気呵成に攻め立てる。兵士も持ちうる装備を駆使し、橋を守ろうと奮戦する。その矛先に居るのは、
「あたたた……。ここまで、か」
「後は、任せたよ」
回復を担うニコラスとマグノリアだ。燃焼油の炎に巻かれ、そのまま倒れ伏す。
「……お見事、です」
「俺の仕事は終わった。後は、頼む」
復活二回目からギアをあげていたアンジェるかとアデルも、リソースを使い果たして力尽きる。
自由騎士達が取った作戦は長期戦を想定し最初はローペースで攻撃し、機を見て全力を出す作戦だ。だが、その全力を出すタイミングに齟齬が生まれていた。アンジェリカとアデルは二度目復活以降。フリオとロザベルは三度目復活以降に。
気力回復を担う回復役を守る者もない構成である以上、攻めに傾倒するのはむしろ当然だ。その攻めるタイミングがずれれば、相手を追い込むだけの火力が少なくなってしまう。事、三度目の復活後は強力になることが分かっていたはずなのに。
「まったく、俺は商人なんだぞ。こういう展開は予想外だぜ」
ロザベルとフリオも倒れ、最後に残ったウェルスもすでにフラグメンツを削られている。気力も尽き果て、体力も弾丸の残りもわずか。
(ただの商人なら、ここで逃げるのが上策なんだろうな。橋から逃げれば追ってこない。倒れてる旦那達を抱えて逃げれば、それで終いだ)
生き残ることを考えれば、そうすべきだ。ギャンブルを避け、安全な道を進む。それが商人としての鉄則。この相手を倒さなければならない理由もそれほどなく、自分の命と天秤にかければ間違いなく自分の命を重視すべきだ。
(だからこそ、ここで賭けに出てアピールすのも商人の務めってな!)
危機こそ商売の機会。誰も踏み込まないからこそ、儲けは大きい。ウェルスは拳銃を構え、最後の力を振り絞る。兵士もその動きに合わせるように銃剣を構え、引き金を引いた。
二発の銃声が橋の上に響く。ウェルスは肩口を押さえ、膝をついた。そのまま大きく息を吐き、そして告げる。
「紙一重で、俺の勝ちだな」
ウェルスの弾丸を受けたイブリースは、そのまま黒い霧となって消滅していた。
●
戦闘の後に自由騎士全員が気を失い、全員病室送りとなった。その為、調査は別の騎士が行った。
戦闘後、イブリースがいた場所には一つの拳銃が落ちていた。ヴィスマルク産の拳銃でおそらく元となった少尉が持っていた者だろう。薬莢に弾薬はなく、戦闘の際に落としたと思われる。これがイブリースの『核』となっていたのだろうか?
拳銃は現在イ・ラプセルで収容されているディークマン大佐に渡される。彼はその銃を受け取り、静かに敬礼したと言う。また同じ収容所に居たオットー・ベルネットは号泣し、深く頭を下げたとか。
アスマン鉄橋は長くイブリースが存在し、幾度も交戦したにもかかわらずその強度に問題は見られなかった。元々数トンの戦車が渡れるように設計されたものだ。進軍には何の問題もないだろう。
境界線を妨げるイブリースが消え、イ・ラプセルとヴィスマルクの間の緊張は高まる。今はどちらが先に仕掛けるか。刺すような緊張感が、最前線を支配している。
英雄は死に、新たな英雄が生まれる。それも戦争の運命。
だがそれは歴史が決める事。今を生きる者は、その人生をただ走り続けるだけである。
今は休息する、彼らのように――
「彼はディークマン大佐の……」
目の前の還リビト。その来歴を知った『積み上げていく価値』フリオ・フルフラット(CL3000454)はそう呟いて、唇を閉じた。そこから先を口にしても、意味のない事だ。ここに居るのはイブリース。過去を変えることなどできないのだから。
「話には聞いていたが……生きていれば厄介な相手になっていただろうな」
10年前はヴィスマルクで傭兵として従事していた『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)はかつての伝聞を思い出す。正規軍の士官が特攻し、兵の消耗を押さえたと言う話。彼がいなければ、当時後方支援のアデルももしかしたらこの戦いに参戦していたかもしれない。
「死んでしまえばお終いだ。こいつにも待っている家族はいただろうに」
黙とうするように顔で瞳を覆い、『永遠の絆』ザルク・ミステル(CL3000067)は呟く。死ねば待っている人間を悲しませる。その重さと意味を実感しながら言葉を放ち、銃を構えた。イブリースは退治しなければならない。二挺拳銃を構え、その意思を示す。
「ここで歩みを止めるわけにはいきません」
『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は手を合わせて、目の前のイブリースの為に祈った。かつてこの兵が命を懸けて進んだように、自分達も命を懸けて進まなくてはいけない。未来のために。
「……終わらせましょう」
複雑な思いを胸に秘め、その一言だけを呟く ロザベル・エヴァンス(CL3000685)。イブリースの元となった人間の行為を、英雄的と呼ぶのか無謀な特攻と見下すか。それは人それぞれだろう。まだ幼いロザベルは、自分の感情を受け入れられずにいた。
「死にたくない、っていうのはまあ誰だって同じか」
『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)は静かに頷く。鉄血国家ヴィスマルクの全ての軍人が命知らずというわけでもない。それでも前に進もうとする軍靴こそが、鉄血なのだ。部下の為に命を賭した行為。そこに秘められた想い。その全てを吐き出すようにため息をついた。
「死にたくない、と思いながら命を懸けて部下を守りたい……矛盾しているからこそ、人間なんだろうね」
うん、と頷く『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。命を投げ出す行為を良しと思いはしないが、それでも彼の行為で多くの命が助かった。その想いがイブリースとなったと言うのなら、何とも人間らしい話だ。
「どうあれこいつは過去の亡霊だ。俺達からすれば、憎き敵国のな」
イブリースの来歴を聞き、全てを理解したうえで『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はそう言い放つ。相手は何度も蘇るイブリース。難敵ともいえる存在だ。そんな存在相手に同情などしていられない。
「ダレ、モ……トオサナイ……!」
何かを守るように橋に存在する還リビト。銃剣を構え、橋を渡ろうとする自由騎士達に戦意を向ける。それ以上踏み込めば、撃つ。殺意でそう伝えてきた。自由騎士達はその殺意を受けとめ、さらに一歩進む。
戦意が殺意に変わる。濃度を増した空気の中、自由騎士達は武器を構えて動き出す。
●
「行きましょう。醒めない悪夢を終わらせに」
アンジェリカは武器を構え、イブリースに迫る。長期戦に備えて防御の構えを取り、呼吸を整える。橋を守ろうとする思いが強いがゆえに未だに戦い続ける兵士の魂。その想いを解放するために、武器を構えた。
『断罪と救済の十字架』を大上段に構え、振り下ろすアンジェリカ。重戦士の基本技にして、真価ともいえる動き。その一撃を受けながらも、イブリースは銃剣を突き刺してくる。防御の構えを取っているとはいえ、けして侮れない一撃だ。
「消して橋を渡らせない。その意思を感じますね」
「その結果として死んだのなら、兵士としては失格だ」
相手の動きを見ながらアデルはそう言い放つ。どんな状況でも生き残る。死んでしまえばお終い。それがアデルの持論だ。とはいえ、兵士の行為そのものを否定するつもりは毛頭ない。捨て身の行為が多くの兵を救い、今のヴィスマルクがあるのだから。
銃剣の間合。そして自分の槍の間合。それを意識しながらアデルは距離を測る。軍隊格闘として精錬されているのか、その動きに隙はない。ならばと強引に槍をぶつけ、そのまま打ち据える。交差する槍と銃剣。激しい金属音が戦場に鳴り響く。
「成程、あの大佐の息子だな。強さも精神性も親譲りと言う事か」
「死んでくれてよかったと言うべきか、あるいはこんな所で死んでくれやがってと罵るべきか」
ウェルスは言って苦笑する。仮に生きていたのならイ・ラプセルを苦しめる要因となっていただろう。だが死んでしまった今となってはイブリースとなってこちらを苦しめている。どうあれこちらの敵となっているのだから、文句の一つもついてもいいだろう。
戦場を俯瞰するように意識しながら視界を確保し、ガジェットで狙いを定めるウェルス。戦闘という高揚的な状況に身を置きながら、冷静に狙いを見定める。ガジェットが伝える情報を元に拳銃を撃ち放ち、イブリースを追い詰めていく。
「不死っていったって殺せば死ぬんだ。だったら死ぬまで殺してやる」
「違いない。問題はそいつが簡単じゃないってことだな」
ため息をつくようにニコラスが呟く。水鏡の情報は正確だ。複数回殺せば子のイブリースは死ぬのは分かっている。問題は、それを為すための継戦能力だ。息切れしないことが大前提。その上で戦術を誤ってはいけない。確かに楽ではないと苦笑する。
味方の傷を見ながら、ニコラスは呼吸を整える。継戦能力を意識しながら、回復する順序と相手を脳内で組み立て直す。大事なのは倒れない事。紡がれる魔力は癒しの力となって戦場を駆け巡る。味方を包む癒しの魔力が傷を癒していく。
「おじさんの仕事は後ろに控えていることだ。きったはったは任せたよ」
「了解であります!」
ニコラスの言葉に応じるフリオ。防御の構えを取りながら、イブリースの姿を見る。相手の素姓と家族の情報を知り、思う所がないわけでもない。だが戦うとなればそれは二の次だ。機を抜かず、構えを維持しながら相対する。
生き抜く事。死にたくないと思いながら、仲間のために戦い続けた意志。相手のそういう所を意識しながらフリオは刃を重ねる。武器を重ねるごとに伝わる相手の想い。それを感じ取りながら、フリオは相手を斬り結ぶ。
「生きたいという想いなら私も負けてないであります!」
「死しても橋を守りたい、という気持ちは立派かもしれません。ですが……」
ロザベルは兵士に向かって口を開く。これはただの還リビト。当人の想いがあるだけのイブリース。そう思ってはいても、吐き出す相手がそこに居る。複雑な思いを吐露するように、ロザベルの言葉は止まらなかった。
そして同時に、体も動かしていた。体内に薬物を撃ち込んで身体能力を強化し、そのまま兵士を押さえながら武器を振るう。復活する相手に備えてギアを押さえ、斬撃を積み重ねていく。
「死を恐れながら死に向かい、結果として誰かを悲しませる。それが英雄と言うのなら、そんな物の為に悲しむ親がいると言う事を理解してください」
「うん……。残された人は、悲しいね」
マグノリアは言って胸に手を当てる。多くの人を看取った人間は、それでも前に進めるのだろうか。それでも進める『何か』がある者こそ一歩進めるのだ。心と意志。その強さことが、喪失から立ち直る突破力となるのだろう。
思考をいったん止め、戦いに意識を向ける。『鋼より伝わる音』を生み出し、それを方向付けて兵士に付与するマグノリア。音の意味は劣化。限定的に時間を進め、相手を経年劣化させる錬金術。相手の力を封じ、相対的に味方の力を増していく。
「消すのはイブリース……。彼は、供養しなくちゃね」
マグノリアの言葉に頷く自由騎士達。彼らは広範に体力を維持しながら兵士を追い詰めていく。
だが、攻撃の出力を押さえる事もあってか一撃の火力も押さえ気味となり、結果として兵士え与えるダメージは少なくなってくる。
「回復を狙って来たか。厄介だね」
「そうだね、これは厳しいかも……」
イブリースは回復役を狙うかのように銃を撃ち放ち、ニコラスとマグノリアの体力を削ってくる。
(トドメにこいつを放って、一気にケリをつける)
ウェルスは蒸気式の多薬室砲を用意しながら、兵士を見た。この弾薬を使い、復活のいとまも与えず全てを吹き飛ばすつもりだ。倒れる寸前に使うのが一番好ましいのだが……。
(問題はイブリースの体力の限界を測る手段がないってことだな……!)
弾薬は相手のトドメにタイミングかその寸前で撃ち放つのが好ましい。だが、いつ相手の体力が尽きるか。それを調べる手段がウェルスにはなかった。一度きりの攻撃ゆえに、ことさら慎重になる。相手の能力を知る術か道具があればどうにかなったかもしれないが。
「くそ、今だ!」
これ以上待つのも限界か、というタイミングで弾薬を撃ち放つウェルス。しかしイブリースはまだ倒れる気配はない。
「少し早かったか……!」
空となった薬室を捨て、拳銃を手にするウェルス。
自由騎士とイブリースはさらなる激戦に身を投じていく。
●
一度目の復活を遂げたイブリースは、手榴弾と威圧を使うことで戦術の幅を広げる。
だが水鏡でそれを知っていた自由騎士達は、その変化に柔軟に対応していく。被害を押さえ、攻撃を重ねていく。
「まだ……です」
「この程度では倒れないであります!」
ロザベルとフリオがフラグメンツを削られるほどのダメージを負うが、それでもまだ倒れるつもりはないとばかりに立ち上がる。
「ちっ、イブリースはやっぱりバケモノか!」
拳銃を撃ち放ち、兵士の手や目を狙うウェルス。だが死体であるためか、人間では急所である場所を撃たれても動きに変わりがあるようには思えない。ダメージは与えているが、目や手を撃っても変わらず銃を構えて狙ってくるのはバケモノとしか言いようがない。
「気力が枯渇しないように……。あとは、傷を癒して……」
兵士が与えてくる攻撃に耐えながら、マグノリアは味方を癒す。相手は一人だが、水鏡はこのイブリースを難敵と認定した。それを証明するかのように、一撃は重い。癒す順番を誤れば、一気に状況をひっくり返されかねない。
「モーリッツ・ディークマンの最後の愚痴はアンタの事か。……全く、親は何時だって子供のことで苦労するもんだよな」
ニコラスは言って苦笑する。レガート砦で相対した大佐。その男が言っていた言葉。それを理解して、自分の娘と重ね合わせた。子供を助ける機会があった自分と、なかったディークマン大佐。その差を知り、表情を隠す等にニコラスは顔をわずかに伏せた。
「二度の復活確認……。ええ、終わらせましょう。それがどういう意味を持つかはわかりませんが」
ロザベルの一閃が兵士を切り裂く。確かに命を奪った手ごたえを感じながら、同時に蘇ってくる気配も感じていた。ディークマン大佐に言われた言葉が脳裏に蘇る。命を投げ捨てた息子。そんな息子を持つ親が、命をチップにする技を見て思ったこと。その因果を見てロザベルが何を思ったかは、彼女のみ知ることだ。
「ここが攻め時ですね。一気呵成に攻めさせていただきます!」
度重なる攻撃でフラグメンツを削られながら、アンジェリカは攻勢に回る。武器を三度振るい、相手に打撃を重ねていく。強い衝撃が相手の行動を制限するが、それも完璧ではない。それでもこれが最善と信じて、前に進んでいく。
「ここからは短期決戦だ! 火力を出し惜しむな。やられる前に押し切るぞ!」
自らに言い聞かせるように叫び、アデルも防御を捨てて攻め立てる。フラグメンツを燃やして倒れるほどの傷を癒した後に、意識を飛ばすほどに自らを奮起させて槍を振るう。肉体が軋みをあげるような音を聞きながら、それでもここが勝負どころと突き進む。
「けして倒れるわけにはいかなかった、という気概なのでしょうね」
何度も蘇る兵士を見て、フリオはそんなことを思う。仲間を守るための戦い。その為に戦った気概。それはフリオ自身も抱いたことのある思いだ。それを否定することはできず、だからこそこのイブリースを容認はできない。兵士の想いを、汚された気がして。
「これで、三度目!」
アデルの槍がイブリースの身体を貫く。黒い霧となって消えたイブリースが、また一つに集まって動き出す。
「ここで――!」
「行きます!」
フリオとロザベルは三度目の復活に合わせて、全蒸気を集約した斬撃と砲撃を撃ち放つ。出来れば復活のタイミングに合わせたかったが、相手の体力の限界を想定する材料が少なかったためこのタイミングとなった。フリオの一閃が動きを止め、ロザベルの砲撃がそこに積み重なる。
最後の力を振る絞り、自由騎士達は一気呵成に攻め立てる。兵士も持ちうる装備を駆使し、橋を守ろうと奮戦する。その矛先に居るのは、
「あたたた……。ここまで、か」
「後は、任せたよ」
回復を担うニコラスとマグノリアだ。燃焼油の炎に巻かれ、そのまま倒れ伏す。
「……お見事、です」
「俺の仕事は終わった。後は、頼む」
復活二回目からギアをあげていたアンジェるかとアデルも、リソースを使い果たして力尽きる。
自由騎士達が取った作戦は長期戦を想定し最初はローペースで攻撃し、機を見て全力を出す作戦だ。だが、その全力を出すタイミングに齟齬が生まれていた。アンジェリカとアデルは二度目復活以降。フリオとロザベルは三度目復活以降に。
気力回復を担う回復役を守る者もない構成である以上、攻めに傾倒するのはむしろ当然だ。その攻めるタイミングがずれれば、相手を追い込むだけの火力が少なくなってしまう。事、三度目の復活後は強力になることが分かっていたはずなのに。
「まったく、俺は商人なんだぞ。こういう展開は予想外だぜ」
ロザベルとフリオも倒れ、最後に残ったウェルスもすでにフラグメンツを削られている。気力も尽き果て、体力も弾丸の残りもわずか。
(ただの商人なら、ここで逃げるのが上策なんだろうな。橋から逃げれば追ってこない。倒れてる旦那達を抱えて逃げれば、それで終いだ)
生き残ることを考えれば、そうすべきだ。ギャンブルを避け、安全な道を進む。それが商人としての鉄則。この相手を倒さなければならない理由もそれほどなく、自分の命と天秤にかければ間違いなく自分の命を重視すべきだ。
(だからこそ、ここで賭けに出てアピールすのも商人の務めってな!)
危機こそ商売の機会。誰も踏み込まないからこそ、儲けは大きい。ウェルスは拳銃を構え、最後の力を振り絞る。兵士もその動きに合わせるように銃剣を構え、引き金を引いた。
二発の銃声が橋の上に響く。ウェルスは肩口を押さえ、膝をついた。そのまま大きく息を吐き、そして告げる。
「紙一重で、俺の勝ちだな」
ウェルスの弾丸を受けたイブリースは、そのまま黒い霧となって消滅していた。
●
戦闘の後に自由騎士全員が気を失い、全員病室送りとなった。その為、調査は別の騎士が行った。
戦闘後、イブリースがいた場所には一つの拳銃が落ちていた。ヴィスマルク産の拳銃でおそらく元となった少尉が持っていた者だろう。薬莢に弾薬はなく、戦闘の際に落としたと思われる。これがイブリースの『核』となっていたのだろうか?
拳銃は現在イ・ラプセルで収容されているディークマン大佐に渡される。彼はその銃を受け取り、静かに敬礼したと言う。また同じ収容所に居たオットー・ベルネットは号泣し、深く頭を下げたとか。
アスマン鉄橋は長くイブリースが存在し、幾度も交戦したにもかかわらずその強度に問題は見られなかった。元々数トンの戦車が渡れるように設計されたものだ。進軍には何の問題もないだろう。
境界線を妨げるイブリースが消え、イ・ラプセルとヴィスマルクの間の緊張は高まる。今はどちらが先に仕掛けるか。刺すような緊張感が、最前線を支配している。
英雄は死に、新たな英雄が生まれる。それも戦争の運命。
だがそれは歴史が決める事。今を生きる者は、その人生をただ走り続けるだけである。
今は休息する、彼らのように――