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Lunatic! 殉教者部隊迫る!

●その部隊の名は
充満する血の匂い。燃える家と畑。
つい一刻前までは平和な農村だったこの村は、地獄絵となっていた。次々と上がっていた悲鳴はもう聞こえなくなり、代わりに道に沢山の死体が転がっている。カスパー村長とその娘のキャシー。駐在騎士のリッカーさん。この前結婚したロクソン夫婦。そして幼馴染のリーナ……。
赤々と燃える炎の中から、一組の男女が現れる。ミトラース様の僧侶服を着た人達だ。彼らは昨日この村に到着し、そして――
「なんでこんなことをするんですか! あんたらはミトラース様の使いなんだろう? 俺たちの村が何かミトラース様の機嫌を損ねることをしたというのですか!?」
「我々は異国より邪教徒が入り込んだと報告を受けてやってきた。ミトラース様を信じぬものがこの大地を汚しているのだ」
「ミトラース様より与えられた魔導装置により、我々は唯一神様の祝福を受けていない者を感知することができる。この村に邪教徒がいると感知された」
ミトラース様の祝福。シャンバラ人なら皆祝福を受けている。すなわち、異国人が入り込めば彼らが保有している魔導装置により存在が看破されるのだ。
だが――
「だ、だったらなんで皆を殺したんですか! 僕達は皆ミトラース様を信仰しています。殺すにしても、その邪教徒だけを殺せばいいじゃないですか!」
この村の人達は皆、ミトラースの信者だ。オラクルこそいないが日々ミトラースへの感謝は欠かさない。
「一理ある。だが――」
声と同時に僧侶は村人に踏み込む。驚きの表情をあげる間もなく首の骨を折られ、絶命した。
「五十人から一人を探すよりは」
「皆殺しの方が早いのでね」
そして一つの村が地図から消える。村中に散っていた僧侶たちが集まり、頷いたのちに村を後にした。
一人の異教徒を殺すために、村人五十を殺す。これを是とする狂信者。
彼らの名前は殉教者部隊。教義に生き、教義に死ぬ神の暗殺者。
●自由騎士
「斯様な部隊がニルヴァンに近くにいることが感知された。」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は集まった自由騎士達に説明を開始する。水鏡の範囲が広がったことは嬉しい事実だが、見えてしまった未来は惨劇としか言いようのないモノだった。どれだけ急いでも、この朝より早くはたどり着けないという。
「彼らは『ミトラースの権能を感知できる魔導装置』を有している。ニルヴァンに来るという予知はまだ見えないが、彼らがこちらに足を向ける可能性は充分にある」
渋い顔でクラウスは告げる。準備が不十分な段階で攻められれば、砦の完成は遅れてしまうだろう。運を天に任せて通り過ぎるのを待つよりは、先手を打って壊滅させた方がいい。
「シャンバラでは珍しい徒手空拳の戦士タイプだ。魔道も使うが補助の意味合いが強い。無手ということで安心させる目的もあるのだろうが、どちらにせよ練度は高い」
気を抜くわけにはいかない、ということか。
「彼らは死を恐れない狂信者だ。同時にミトラースの為なら何をしても構わないと思っている。くれぐれも気を付けて戦ってくれ」
クラウスの言葉に頷き、自由騎士達は戦いに挑む。
充満する血の匂い。燃える家と畑。
つい一刻前までは平和な農村だったこの村は、地獄絵となっていた。次々と上がっていた悲鳴はもう聞こえなくなり、代わりに道に沢山の死体が転がっている。カスパー村長とその娘のキャシー。駐在騎士のリッカーさん。この前結婚したロクソン夫婦。そして幼馴染のリーナ……。
赤々と燃える炎の中から、一組の男女が現れる。ミトラース様の僧侶服を着た人達だ。彼らは昨日この村に到着し、そして――
「なんでこんなことをするんですか! あんたらはミトラース様の使いなんだろう? 俺たちの村が何かミトラース様の機嫌を損ねることをしたというのですか!?」
「我々は異国より邪教徒が入り込んだと報告を受けてやってきた。ミトラース様を信じぬものがこの大地を汚しているのだ」
「ミトラース様より与えられた魔導装置により、我々は唯一神様の祝福を受けていない者を感知することができる。この村に邪教徒がいると感知された」
ミトラース様の祝福。シャンバラ人なら皆祝福を受けている。すなわち、異国人が入り込めば彼らが保有している魔導装置により存在が看破されるのだ。
だが――
「だ、だったらなんで皆を殺したんですか! 僕達は皆ミトラース様を信仰しています。殺すにしても、その邪教徒だけを殺せばいいじゃないですか!」
この村の人達は皆、ミトラースの信者だ。オラクルこそいないが日々ミトラースへの感謝は欠かさない。
「一理ある。だが――」
声と同時に僧侶は村人に踏み込む。驚きの表情をあげる間もなく首の骨を折られ、絶命した。
「五十人から一人を探すよりは」
「皆殺しの方が早いのでね」
そして一つの村が地図から消える。村中に散っていた僧侶たちが集まり、頷いたのちに村を後にした。
一人の異教徒を殺すために、村人五十を殺す。これを是とする狂信者。
彼らの名前は殉教者部隊。教義に生き、教義に死ぬ神の暗殺者。
●自由騎士
「斯様な部隊がニルヴァンに近くにいることが感知された。」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は集まった自由騎士達に説明を開始する。水鏡の範囲が広がったことは嬉しい事実だが、見えてしまった未来は惨劇としか言いようのないモノだった。どれだけ急いでも、この朝より早くはたどり着けないという。
「彼らは『ミトラースの権能を感知できる魔導装置』を有している。ニルヴァンに来るという予知はまだ見えないが、彼らがこちらに足を向ける可能性は充分にある」
渋い顔でクラウスは告げる。準備が不十分な段階で攻められれば、砦の完成は遅れてしまうだろう。運を天に任せて通り過ぎるのを待つよりは、先手を打って壊滅させた方がいい。
「シャンバラでは珍しい徒手空拳の戦士タイプだ。魔道も使うが補助の意味合いが強い。無手ということで安心させる目的もあるのだろうが、どちらにせよ練度は高い」
気を抜くわけにはいかない、ということか。
「彼らは死を恐れない狂信者だ。同時にミトラースの為なら何をしても構わないと思っている。くれぐれも気を付けて戦ってくれ」
クラウスの言葉に頷き、自由騎士達は戦いに挑む。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.殉教者部隊8名の打破
どくどくです。
シャンバラ狂信者シリーズその二。
●敵情報
・殉教者部隊(×8)
シャンバラ騎士団とは異なる部隊です。『ミトラースの権能を感知できる魔導装置』を持ち、シャンバラ国民とそうでないものを区別できます。そして異国人が混じっていればそのコミューンごと殲滅します。たとえシャンバラ国民がいても。
彼らにニルヴァン小管区襲撃者がイ・ラプセルだと気付かれた場合、かなり厄介なことになります。言動にはご注意を。
説得は不可能です。
・『魔拳』ドニ・マセ
この殉教者部隊のリーダーです。ノウブル男性。百六八才。年齢相応に老けていますが、それを思わせない立ち様を見せています。細い腕からは信じられない一撃を繰り出してきます。
『影狼 Lv2』『回天號砲 Lv3』『アニマ・ムンディ Lv3』『ウォーモンガー Lv3』『豪鬼』『威風 破』『武人』等を活性化しています。
・『華氏三三』レリア・ヴィオネ
殉教者部隊サブリーダー。ノウブル女性。一二五才。見た目は二〇代前半の女性です。冷たい表情をしています。
『コキュートス Lv3』『アイスコフィン Lv2』『アニマ・ムンディ Lv3』『柳凪 Lv3』『ルーンマイスター』『情報収集』『リセット』等を活性化しています。
・『赤猫』シャンタル・ラヴォー
殉教者部隊一員。ノウブル女性。一二才。見た目は年齢相応。体を鍛えていないこともあり、完全後衛タイプ。
『ティンクトラの雫 Lv3』『緋文字 Lv3』『アニマ・ムンディ Lv2』『感情探査 急』『魔力感知 破』等を活性化しています。
・殉教者部隊(×5)
ドニに従う殉教者たちです。全員ノウブル男性。
『震撃 Lv2』『柳凪 Lv1』『スパルトイ Lv2』『ステルス』『物質透過』等を活性化しています。
●場所情報
ニルヴァン近くの山村跡。今なお燃えている村。OP文章直後の状況です。
時刻は明朝。明かり、足場、広さなどは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『ドニ』『殉教者部隊(×5)』が。後衛に『レニア』『シャンタル』がいます。
事前付与は不可とします。隙を見せればそこをつかれそうな雰囲気なので。
皆様のプレイングをお待ちしています。
シャンバラ狂信者シリーズその二。
●敵情報
・殉教者部隊(×8)
シャンバラ騎士団とは異なる部隊です。『ミトラースの権能を感知できる魔導装置』を持ち、シャンバラ国民とそうでないものを区別できます。そして異国人が混じっていればそのコミューンごと殲滅します。たとえシャンバラ国民がいても。
彼らにニルヴァン小管区襲撃者がイ・ラプセルだと気付かれた場合、かなり厄介なことになります。言動にはご注意を。
説得は不可能です。
・『魔拳』ドニ・マセ
この殉教者部隊のリーダーです。ノウブル男性。百六八才。年齢相応に老けていますが、それを思わせない立ち様を見せています。細い腕からは信じられない一撃を繰り出してきます。
『影狼 Lv2』『回天號砲 Lv3』『アニマ・ムンディ Lv3』『ウォーモンガー Lv3』『豪鬼』『威風 破』『武人』等を活性化しています。
・『華氏三三』レリア・ヴィオネ
殉教者部隊サブリーダー。ノウブル女性。一二五才。見た目は二〇代前半の女性です。冷たい表情をしています。
『コキュートス Lv3』『アイスコフィン Lv2』『アニマ・ムンディ Lv3』『柳凪 Lv3』『ルーンマイスター』『情報収集』『リセット』等を活性化しています。
・『赤猫』シャンタル・ラヴォー
殉教者部隊一員。ノウブル女性。一二才。見た目は年齢相応。体を鍛えていないこともあり、完全後衛タイプ。
『ティンクトラの雫 Lv3』『緋文字 Lv3』『アニマ・ムンディ Lv2』『感情探査 急』『魔力感知 破』等を活性化しています。
・殉教者部隊(×5)
ドニに従う殉教者たちです。全員ノウブル男性。
『震撃 Lv2』『柳凪 Lv1』『スパルトイ Lv2』『ステルス』『物質透過』等を活性化しています。
●場所情報
ニルヴァン近くの山村跡。今なお燃えている村。OP文章直後の状況です。
時刻は明朝。明かり、足場、広さなどは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『ドニ』『殉教者部隊(×5)』が。後衛に『レニア』『シャンタル』がいます。
事前付与は不可とします。隙を見せればそこをつかれそうな雰囲気なので。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年01月29日
2019年01月29日
†メイン参加者 8人†
●
(つい先刻まで人々がごく普通に生を営んでいたであろう村……)
今なお燃える村を見ながら『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は心を痛めていた。その熱気がここまで伝わってきそうな勢い。そこは少し前まで平和な村だったのだ。その名残はもう、ない。
(殉教者部隊。……お望み通り、ココで殉教させてあげるわよ)
指の柔軟を行いながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は殉教者部隊を見る。一の異分子を迅速に殺すために五〇の命をも断つ。その精神性はエルシーにはとても理解できるものではなかった。
「ふざけんじゃないわよ……!」
小さく、しかしはっきりと『機刃の竜乙女』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は呟いた。ミトラース神を赦すつもりは毛頭ないが、同じ神を信じる者を事務的に殺す殉教者部隊。彼らを生かして帰すつもりなどなかった。
「Marrrrrr……tyrrrrrrrrrr……!」
意味不明の咆哮をあげる『空に舞う黒騎士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。猛る感情の正体は怒り。殉教者部隊に対する怒りが奇声となって兜の奥から爆発するように溢れていた。
(……どこの国でもあるもんだな。こんなクソッタレな事は)
険しい顔をして『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)は焼かれている村を見る。少数の異国人を殺すために村を滅ぼす。それが効率的だからという理由で。こんなことは何処にでもある。そんなことは、わかっている。だけど――
(ザッくん……?)
険しい顔をするザルクを見ながら『魔女』エル・エル(CL3000370)は小さくため息をついた。どこか達観したところのある彼が感情を抑えるように歯を噛みしめ、強く銃を握っている。何があったのかは解らないが、踏み込み過ぎるなら止めなくては。
(何故あんな小さな子が……)
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)は殉教者部隊にいる子供を見て、憤りが覚めていくのを感じていた。確かに自由騎士にも子供はいる。だけど子供にこんなことをさせることはない。
(まあ、戦争だからな。そういうこともあるだろうよ)
帽子を深くかぶり、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は肩をすくめる。信仰の違い。文化の違い。歴史の違い。諸外国に接しているシャンバラは、異国人とどのようなトラブルがあったのか。そう言った経緯はあるだろうが、今はそれを気にする時ではない。
「……異国民か。狩り尽くしたと思ったのにな」
指輪を見て肩をすくめるドニ。おそらくあれが『ミトラースの権能を感知できる魔導装置』なのだろう。まだイ・ラプセルの者だと感知されたわけではないが、討伐対象になった事は確かなようだ。
「連戦とはな。この年になると堪える」
言葉ほどに疲労を感じさせない動きで、殉教者部隊は構えを取る。それに合わせるように自由騎士も武器を構えた。
村の炎が大きく燃え上がり、納屋の一つが倒壊する。その音と同時に、両雄はぶつかり合った。
●
1798年、世界大戦勃発。
ヴィスマルクとシャンバラはデウスギアを撃ち合い、多くの人達を巻き込んだ悲惨な結果となった。その皮切りとなったのは、ヴィスマルクに視察に行ったシャンバラの宰相が何者かに暗殺されたからだという。
それを防げていれば、あるいは――
●
「皆殺しにするわ」
最初に動いたのはライカだ。宣言と同時に体中の神経に魔力を張り巡らせ、その反応速度を上げていく。ちりちりとした感覚が体中を走り、四肢を中心とした体中のいたるところまで魔力の糸を張り巡らせていく。
地面を蹴ると同時に殉教者部隊の後方に迫り、その一人であるレリアに襲い掛かる。ライカは両手に装着された青銅色の籠手を振りかぶり、突き刺すように拳を突き出した。殺意すら乗せた一撃は彼女の肩に突き刺さり、紅の液体が地面に落ちる。
「神の本当の望みを知らずに、自分の都合のいいように解釈してそれを行使する。屑ね」
「それが最善だからだ」
「ふざけないで……!」
ドニの言葉に怒りながらアリアは怒りの声を上げる。瞳に魔力を集めながら二本の剣を両手に構えた。よく手になじんだ二刀は盾にして剣。剣にして鞭。それはアリアの感情を汲むかのように煌めいた。
踏み込むと同時に二刀を振るうアリア。片方の刃は真正面から、もう片方の刃は分裂し、細かな欠片となって側面から。同時ともいえる二刀の攻撃は避けるいとますら与えず殉教者部隊を傷つける。変幻自在且つ高速の攻め。それがアリアの戦い方だ。
「こんな外道、許すわけにはいきません!」
「外道か。皆殺しが外道というのなら貴様らが今やろうとしている事もまた外道だな」
「おおりゃー!」
言葉を返すドニに向かい、エルシーが拳を振るう。こちらがイ・ラプセルと言う情報を与えない為に、交わす言葉は最低限にしていた。ただ拳に戦意を乗せて。『魔拳』と呼ばれた一撃を避けながら紅龍の籠手を振るう。
速く、鋭く。複雑な乱打ではなく、高速の一打を。エルシーが求めた技はそれだった。攻撃の所作を最低限にし、しかし威力を損なわない。極限までに無駄を省いた一撃は、結果として効率的な打撃となる。刹那の拳がドニに叩き込まれる。
「まだまだぁ!」
「良い一打だ。私と張り合おうというのなら付き合おう」
「そいつはありがたいね。ここでくたばって行け!」
明確に怒りの声を乗せてザルクは銃を構える。目の前の炎と、過去の炎が重なる。全てを奪い、全てを消し去る略奪の炎。人為的且つ戦略的な燎原の火。炎はまだ消えない。消えることはない。復讐の炎はまだ――
手になじんだ拳銃が殉教者部隊に銃口を向ける。引き金を引くと同時に魔力を開放し、弾丸に魔力を付与した。殉教者部隊の足元に穿たれた弾丸はそこから陣を展開し、周囲にいる者の動きを封じていく。
「反乱分子ごと集落を焼いた方が効率的。ああそうなんだろうよ」
「そうだ。発見の遅れが致命的になる。異分子は迅速に廃さなければならない」
「そんな言い訳が、まかり通ってたまるものですか」
ドニの言葉に怒りを込めて答えるエル。彼らがやったことは大量虐殺だ。どのような理屈をこねようが、その事実は変わらない。そうやってエルの血族は殺された。だから許せるはずがない。
『魔術刻印【アルテール】』と『魔術刻印【ヴェーヌ】』を起動させ、体内で魔力を循環させる。殺されていった人たちの怨嗟を集めるように、周囲の魔素を体内に取り入れるエル。両の刻印から放たれた重力場が殉教者部隊の頭を捕らえる。
「名実共に『殉教者』になるがいいわ」
「その技、ウィッチクラフトの技法か。成程ならば汝らはヴィスマルク軍ではなさそうか」
「AaaaaaaRyyyyyyeeee!」
奇声を上げるナイトオウル。兜の奥に隠れた彼の表情は知れない。それは敵だけではなく味方さえも。神の敵を前にしたナイトオウルの精神は、誰にも理解できなかった。ただ狂うように、怨敵を切り裂いていく。
味方を庇いながら『偽聖剣「アスカロン」』を突くように構える。切っ先に気を集中させ、雄叫びと共に剣を突き出した。切っ先に乗せた剣気が鋭く飛ばされる。刺すような気の塊が相手の構えを崩し、隙を生み出していく。
「RrrrrrAaaaaaarrrr」
「怒りで我らと相対するか。或いはそのフリか。どちらにせよ、汝らを誰何する材料にはなる」
「私は願う。人に愛を、世に安寧を――」
静かにジュリエットが詠唱を始める。目の前の惨状に怒りを感じていないはずはないのに。否、だからこそ静かに願っていた。人に愛を、世に安寧を。そして無辜の民に安らぎを――
「永劫たる星の輝きを絶やさぬように。地上の灯を消さぬように。
この城は最古の聖石、邪気を退け幸運を運ぶ青光。歩み続ける者を守る最後の城。
私の前に立ち塞がるのであれば この一撃で駆逐しよう。
玻璃の城――クリスタルキャッスル――!」
ジュリエットの呪文と共にラピスラズリの刃が殉教者部隊を襲う。
「――む、ここまで高い魔力を持つ者が異国にいるとは……!?」
(この男、ミトラースの狂信で動いていると思ってたが……?)
ツボミはドニを始めとした狂信者部隊に違和感を感じていた。行動指針は間違いなく国家の為だ。だが狂信者に見られる宗教での正当化が見られない。虐殺も『効率的だから皆殺し』であってそれを神のせいにしていない。
違和感を脇に置き、戦闘に思考をシフトする。医者としての経験を駆使して仲間を見て、一番傷ついているであろう物を判断する。リソースを惜しんでいる余裕はない。持ちうる限りの魔力を治療に回し、仲間を癒していく。
(まあ、どうでもいい。和解の道はありえない。価値観の相違だ)
ツボミの意見は正鵠を得ていた。和解の道はありえない。イ・ラプセルもシャンバラも戦争をしているのだ。神の蟲毒という神同士の戦いを。
「が、……はぁ!」
最初に膝を折ったのはエルシーだった。魔力を込めた拳に打たれ、フラグメンツを削られる。魔に対する抵抗力の弱さを突かれた形だ。
「囮になるというのなら、もう少し耐久力がある者を当てるべきだったな」
静かにドニが告げる。物理と魔力の二種の拳。『魔拳』と呼ばれる者の戦術。自由騎士達はそれを目の当たりにする。
今更作戦変更をする余裕はない。八人の意見を統一させるには一〇秒あっても時間は足らず、そしてその隙さえ与えてくれない。
村の炎は、今なお燃え盛っていた。
●
暗殺の水面下ではかなりの情報戦が行われていた。
宰相が通るルート、暗殺ポイント、武器の流通。それを集めたヴィスマルクのスパイ――袋耳(シタージュ)が勝利した形だ。シャンバラ側も魔術を中心とした情報戦には長けていたが、他国故に踏み切れずに後れを取ってしまった。
『ミトラースかっけー。戦争がんばってねー』……伏した宰相の傍に折りたたまれた紙が、情報戦の実力差。これが戦争の引き金になる事はもう止められなかった。既に次の手は打たれており、転がるように大戦が始まる。
もしこの時躊躇なく踏み込めていれば――
●
戦いは苛烈なものとなった。元より防御を考慮しない殉教者部隊は効率よく自由騎士を追い詰める。
「Gaaaa……!」
「っ! まだ、です!」
「この程度、どうという事はないわ……!」
回復役を守っていたナイトオウルと、前衛に立つアリアとエルがその猛攻を受けてフラグメンツを削られる。
「ザッくん、前に出過ぎ!」
「な……っ!?」
復讐で血が頭に上っていたのか、殉教者部隊の拳が届く範囲に出ていたザルクもその猛攻を受ける。頭の片隅に、己の立ち位置を刻んでいればあるいは防げたことだ。
対し自由騎士側は殉教者部隊の数を減らすべく各個撃破を行っていた。それは少しずつ効果を発揮し、殉教者部隊の手数は少しずつ減っていく。
「お前らは鏖殺だ。塵も残さん」
口から流れる血を拭きながら、ザルクは銃を構える。足止めの後に攻撃。ただひたすらにそれを繰り返す。あの時の炎は消えない。彼らを倒してもなお。だからどうした。復讐の炎がザルクのエンジンを回し、戦場に身を投じていく。
(……復讐。その気持ちはわからないでもない……)
ザルクの様子を見て、エルは自分の境遇と重ねる。国こそ違えど、巨大な何かに身内を奪われた。その炎が如何なるものか、エルは知っている。正しい間違っているで捨てられる者ではない、空虚な穴が生み出す熱。知っている、だから――
「ねえ、貴方は戦うことを『選んだ』の?」
前衛をある程度伏した後、アリアはシャンタルに声をかける。頷く子供の姿を見て、悲痛な表情を浮かべるアリア。どのような境遇がここまでこの子の心を麻痺させたのだろうか。炎を生むシャンタルの瞳には光がない。その事がアリアの心を深く傷つけていた。
「くそ……。毒が厳しいか……!」
ツボミはシャンタルが与えてくる毒と炎に蝕まれていた。魔力をじわじわと奪う毒と体力を削る炎。致命的ではないが、後に響く可能性がある。その為に回復の手を止めるほどでもないというのがまた難儀だ。仲間の傷を優先しながら、焦りを感じていた。
「攻撃に回る余裕がありませんわ……!」
傷つく仲間を見ながらジュリエットが臍を噛む。初手の攻撃以降、魔力を回復に回し続けることになり、攻撃に出る余裕がない。だからこそ戦線は維持できているのだが、その分敵の数は減らない。この選択が正しいのか分からないのがまたもどかしい。
「まだまだぁ!」
活を入れるように叫ぶエルシー。ドニの拳に体中が悲鳴を上げている。意識がもうろうとするが、まだ倒れるわけにはいかない。ドニの方もエルシーの拳を難敵とみなしているのか拳を自分に向けている。自分が耐えるほど、魔拳の脅威は仲間に向かないのだ。
(囲まれた……突出しすぎたかも……)
後衛に一人突撃したライカだが、その後に殉教者部隊の集中砲火を受けることになる。フラグメンツを燃やして耐えてはいるが、ここで倒れれば仲間から手が届かない所で意識を失うことになる。そうなればその後は……首を振って不安を振り切る。
「Deaathhh!」
回復手を守りながら吼えるナイトオウル。鎧兜は傷つき、衝撃はその肉体にまで届いている。それでも守りを緩める気配はない。ナイトオウルを支えているのは強い精神力。それは女神への崇拝から生まれた狂信ともいえる信仰心。
自由騎士達は攻防兼ね備えた布陣で前のめりに攻める殉教者部隊を伏していく。ドニ以外の前衛を倒し、氷結を生んで動きを封じるレリアを倒していた。
だが、自由騎士の被害も軽くはない。
「が……ふ……!」
「ウソ……。アタシが……」
ドニを相手していたエルシーと、後衛に深く踏み入ったライカが拳と炎で意識を奪われる。
「くそ……が!」
「GGGGGGG……!」
「私は、貴方を……」
ザルクとナイトオウルとアリアも、殉教者部隊を前に倒れ振る。
「まだまだ負けませんわ!」
「全く、ふざけた強さだな」
炎と毒がジュリエットとツボミのフラグメンツを奪い取る。だが――
「あたしの勝ちよ」
両手の魔術刻印に魔力を通しながらエルが冷ややかに宣言する。その言葉に反論はない。ドニは拳を構え、目の前の魔女に向けた。魔拳がエルに触れるより早く、刻印から放たれた矢がドニに届く。
「死になさい。貴方が殺したように、あたしも殺す」
容赦なく『魔拳』の心臓を貫く二矢。それがこの戦いの事実上の決着となった。
●
誰もが殺すことを喜ぶわけではない。
死人が少ない方がいいことなど当然だ。
だから一人の異教徒を殺すために、村人五十を殺すことを是とする。
一を逃して万の犠牲が生まれる前に――
●
村の炎は今なお燃えていた。
目を覚ました自由騎士達は、せめて村人を弔おうと――
「駄目だ。埋葬や鎮魂の様式で国が割れる可能性を遺すのは不味い。花も供えるな。兎も角情報を一切残すな」
それをツボミが止める。その言葉に唇をかむ自由騎士達。
(とんだ人でなしだが、実際この国じゃあ正真正銘の人でなしなのだ。我々は)
深く帽子をかぶるツボミ。炎の影が、その表情を隠していた。
「……くそ、情けねえ!」
ザルクは苛立ちを隠すことなく地面を蹴る。ツボミの言葉は納得できる。その可能性を減らすことは正しい。自己満足で危険を晒すわけにはいかない。だけど――
「何もできないのね。――ああ、私って本当に神職に向いていないわ……」
エルシーはため息をつき、不甲斐なさを誤魔化す。ここで祈りの言葉を囁く事すらできないのだ。拳を強く握り、村に背を向けた。
「――――――――」
ナイトオウルは何も言わずに背を向ける。彼らが信じる神はミトラースだ。ならば感慨はない。だが女神に改宗する可能性があった者だとも思い、剣の柄を強く握る。
「…………っ!」
涙を流すのを堪えるようにジュリエットは村を見る。せめてこの光景を忘れないように、と心に刻んだ。人の死はいつだって慣れることはない。
「なんで!? どうしてこの子を殺したの! 教育すれば更生できたかもしれないのに! そうでなくても、この子には未来があったのに!」
アリアはもう冷たくなっているシャンタルを抱きながら叫んでいた。アクアディーネの権能さえあれば殺さずに済む。なのにこうなっているという事は、意図して殺したという事だ。
「こんなやり方をする奴らを赦しておけないわ」
「情報を漏らすわけにはいかない」
ライカとエルが冷たく答える。不殺の権能を外し、殉教者部隊を殺したことを隠すつもりはない。
「救える命を――子どもの命を――自分の合理性だけで奪い続けるのなら――」
もう息すらしていない子供を抱え、アリアは涙を流して立ち上がる。
「――私達と殉教者部隊の違いはどこにあるの!?」
慟哭は燃える炎よりも強く空に響き、そして消える。
その問いへの答えは、誰も返すことが出来なかった。
かくして『魔拳』率いる殉教者部隊はここで潰え、イ・ラプセルは痕跡すら残さず撤退した。重傷の者はサポートで来ていたキジンに抱えられ、ニルヴァンに運ばれる。
殉教者部隊の死が発覚するのはかなり後。暦が二月になってからだ。その頃には情勢は大きく変化しており、彼らを倒した者を捜索する余裕はなかった。
そう、情勢は大きく変化する。
戦争の幕開けは、近い――
(つい先刻まで人々がごく普通に生を営んでいたであろう村……)
今なお燃える村を見ながら『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は心を痛めていた。その熱気がここまで伝わってきそうな勢い。そこは少し前まで平和な村だったのだ。その名残はもう、ない。
(殉教者部隊。……お望み通り、ココで殉教させてあげるわよ)
指の柔軟を行いながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は殉教者部隊を見る。一の異分子を迅速に殺すために五〇の命をも断つ。その精神性はエルシーにはとても理解できるものではなかった。
「ふざけんじゃないわよ……!」
小さく、しかしはっきりと『機刃の竜乙女』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は呟いた。ミトラース神を赦すつもりは毛頭ないが、同じ神を信じる者を事務的に殺す殉教者部隊。彼らを生かして帰すつもりなどなかった。
「Marrrrrr……tyrrrrrrrrrr……!」
意味不明の咆哮をあげる『空に舞う黒騎士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。猛る感情の正体は怒り。殉教者部隊に対する怒りが奇声となって兜の奥から爆発するように溢れていた。
(……どこの国でもあるもんだな。こんなクソッタレな事は)
険しい顔をして『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)は焼かれている村を見る。少数の異国人を殺すために村を滅ぼす。それが効率的だからという理由で。こんなことは何処にでもある。そんなことは、わかっている。だけど――
(ザッくん……?)
険しい顔をするザルクを見ながら『魔女』エル・エル(CL3000370)は小さくため息をついた。どこか達観したところのある彼が感情を抑えるように歯を噛みしめ、強く銃を握っている。何があったのかは解らないが、踏み込み過ぎるなら止めなくては。
(何故あんな小さな子が……)
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)は殉教者部隊にいる子供を見て、憤りが覚めていくのを感じていた。確かに自由騎士にも子供はいる。だけど子供にこんなことをさせることはない。
(まあ、戦争だからな。そういうこともあるだろうよ)
帽子を深くかぶり、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は肩をすくめる。信仰の違い。文化の違い。歴史の違い。諸外国に接しているシャンバラは、異国人とどのようなトラブルがあったのか。そう言った経緯はあるだろうが、今はそれを気にする時ではない。
「……異国民か。狩り尽くしたと思ったのにな」
指輪を見て肩をすくめるドニ。おそらくあれが『ミトラースの権能を感知できる魔導装置』なのだろう。まだイ・ラプセルの者だと感知されたわけではないが、討伐対象になった事は確かなようだ。
「連戦とはな。この年になると堪える」
言葉ほどに疲労を感じさせない動きで、殉教者部隊は構えを取る。それに合わせるように自由騎士も武器を構えた。
村の炎が大きく燃え上がり、納屋の一つが倒壊する。その音と同時に、両雄はぶつかり合った。
●
1798年、世界大戦勃発。
ヴィスマルクとシャンバラはデウスギアを撃ち合い、多くの人達を巻き込んだ悲惨な結果となった。その皮切りとなったのは、ヴィスマルクに視察に行ったシャンバラの宰相が何者かに暗殺されたからだという。
それを防げていれば、あるいは――
●
「皆殺しにするわ」
最初に動いたのはライカだ。宣言と同時に体中の神経に魔力を張り巡らせ、その反応速度を上げていく。ちりちりとした感覚が体中を走り、四肢を中心とした体中のいたるところまで魔力の糸を張り巡らせていく。
地面を蹴ると同時に殉教者部隊の後方に迫り、その一人であるレリアに襲い掛かる。ライカは両手に装着された青銅色の籠手を振りかぶり、突き刺すように拳を突き出した。殺意すら乗せた一撃は彼女の肩に突き刺さり、紅の液体が地面に落ちる。
「神の本当の望みを知らずに、自分の都合のいいように解釈してそれを行使する。屑ね」
「それが最善だからだ」
「ふざけないで……!」
ドニの言葉に怒りながらアリアは怒りの声を上げる。瞳に魔力を集めながら二本の剣を両手に構えた。よく手になじんだ二刀は盾にして剣。剣にして鞭。それはアリアの感情を汲むかのように煌めいた。
踏み込むと同時に二刀を振るうアリア。片方の刃は真正面から、もう片方の刃は分裂し、細かな欠片となって側面から。同時ともいえる二刀の攻撃は避けるいとますら与えず殉教者部隊を傷つける。変幻自在且つ高速の攻め。それがアリアの戦い方だ。
「こんな外道、許すわけにはいきません!」
「外道か。皆殺しが外道というのなら貴様らが今やろうとしている事もまた外道だな」
「おおりゃー!」
言葉を返すドニに向かい、エルシーが拳を振るう。こちらがイ・ラプセルと言う情報を与えない為に、交わす言葉は最低限にしていた。ただ拳に戦意を乗せて。『魔拳』と呼ばれた一撃を避けながら紅龍の籠手を振るう。
速く、鋭く。複雑な乱打ではなく、高速の一打を。エルシーが求めた技はそれだった。攻撃の所作を最低限にし、しかし威力を損なわない。極限までに無駄を省いた一撃は、結果として効率的な打撃となる。刹那の拳がドニに叩き込まれる。
「まだまだぁ!」
「良い一打だ。私と張り合おうというのなら付き合おう」
「そいつはありがたいね。ここでくたばって行け!」
明確に怒りの声を乗せてザルクは銃を構える。目の前の炎と、過去の炎が重なる。全てを奪い、全てを消し去る略奪の炎。人為的且つ戦略的な燎原の火。炎はまだ消えない。消えることはない。復讐の炎はまだ――
手になじんだ拳銃が殉教者部隊に銃口を向ける。引き金を引くと同時に魔力を開放し、弾丸に魔力を付与した。殉教者部隊の足元に穿たれた弾丸はそこから陣を展開し、周囲にいる者の動きを封じていく。
「反乱分子ごと集落を焼いた方が効率的。ああそうなんだろうよ」
「そうだ。発見の遅れが致命的になる。異分子は迅速に廃さなければならない」
「そんな言い訳が、まかり通ってたまるものですか」
ドニの言葉に怒りを込めて答えるエル。彼らがやったことは大量虐殺だ。どのような理屈をこねようが、その事実は変わらない。そうやってエルの血族は殺された。だから許せるはずがない。
『魔術刻印【アルテール】』と『魔術刻印【ヴェーヌ】』を起動させ、体内で魔力を循環させる。殺されていった人たちの怨嗟を集めるように、周囲の魔素を体内に取り入れるエル。両の刻印から放たれた重力場が殉教者部隊の頭を捕らえる。
「名実共に『殉教者』になるがいいわ」
「その技、ウィッチクラフトの技法か。成程ならば汝らはヴィスマルク軍ではなさそうか」
「AaaaaaaRyyyyyyeeee!」
奇声を上げるナイトオウル。兜の奥に隠れた彼の表情は知れない。それは敵だけではなく味方さえも。神の敵を前にしたナイトオウルの精神は、誰にも理解できなかった。ただ狂うように、怨敵を切り裂いていく。
味方を庇いながら『偽聖剣「アスカロン」』を突くように構える。切っ先に気を集中させ、雄叫びと共に剣を突き出した。切っ先に乗せた剣気が鋭く飛ばされる。刺すような気の塊が相手の構えを崩し、隙を生み出していく。
「RrrrrrAaaaaaarrrr」
「怒りで我らと相対するか。或いはそのフリか。どちらにせよ、汝らを誰何する材料にはなる」
「私は願う。人に愛を、世に安寧を――」
静かにジュリエットが詠唱を始める。目の前の惨状に怒りを感じていないはずはないのに。否、だからこそ静かに願っていた。人に愛を、世に安寧を。そして無辜の民に安らぎを――
「永劫たる星の輝きを絶やさぬように。地上の灯を消さぬように。
この城は最古の聖石、邪気を退け幸運を運ぶ青光。歩み続ける者を守る最後の城。
私の前に立ち塞がるのであれば この一撃で駆逐しよう。
玻璃の城――クリスタルキャッスル――!」
ジュリエットの呪文と共にラピスラズリの刃が殉教者部隊を襲う。
「――む、ここまで高い魔力を持つ者が異国にいるとは……!?」
(この男、ミトラースの狂信で動いていると思ってたが……?)
ツボミはドニを始めとした狂信者部隊に違和感を感じていた。行動指針は間違いなく国家の為だ。だが狂信者に見られる宗教での正当化が見られない。虐殺も『効率的だから皆殺し』であってそれを神のせいにしていない。
違和感を脇に置き、戦闘に思考をシフトする。医者としての経験を駆使して仲間を見て、一番傷ついているであろう物を判断する。リソースを惜しんでいる余裕はない。持ちうる限りの魔力を治療に回し、仲間を癒していく。
(まあ、どうでもいい。和解の道はありえない。価値観の相違だ)
ツボミの意見は正鵠を得ていた。和解の道はありえない。イ・ラプセルもシャンバラも戦争をしているのだ。神の蟲毒という神同士の戦いを。
「が、……はぁ!」
最初に膝を折ったのはエルシーだった。魔力を込めた拳に打たれ、フラグメンツを削られる。魔に対する抵抗力の弱さを突かれた形だ。
「囮になるというのなら、もう少し耐久力がある者を当てるべきだったな」
静かにドニが告げる。物理と魔力の二種の拳。『魔拳』と呼ばれる者の戦術。自由騎士達はそれを目の当たりにする。
今更作戦変更をする余裕はない。八人の意見を統一させるには一〇秒あっても時間は足らず、そしてその隙さえ与えてくれない。
村の炎は、今なお燃え盛っていた。
●
暗殺の水面下ではかなりの情報戦が行われていた。
宰相が通るルート、暗殺ポイント、武器の流通。それを集めたヴィスマルクのスパイ――袋耳(シタージュ)が勝利した形だ。シャンバラ側も魔術を中心とした情報戦には長けていたが、他国故に踏み切れずに後れを取ってしまった。
『ミトラースかっけー。戦争がんばってねー』……伏した宰相の傍に折りたたまれた紙が、情報戦の実力差。これが戦争の引き金になる事はもう止められなかった。既に次の手は打たれており、転がるように大戦が始まる。
もしこの時躊躇なく踏み込めていれば――
●
戦いは苛烈なものとなった。元より防御を考慮しない殉教者部隊は効率よく自由騎士を追い詰める。
「Gaaaa……!」
「っ! まだ、です!」
「この程度、どうという事はないわ……!」
回復役を守っていたナイトオウルと、前衛に立つアリアとエルがその猛攻を受けてフラグメンツを削られる。
「ザッくん、前に出過ぎ!」
「な……っ!?」
復讐で血が頭に上っていたのか、殉教者部隊の拳が届く範囲に出ていたザルクもその猛攻を受ける。頭の片隅に、己の立ち位置を刻んでいればあるいは防げたことだ。
対し自由騎士側は殉教者部隊の数を減らすべく各個撃破を行っていた。それは少しずつ効果を発揮し、殉教者部隊の手数は少しずつ減っていく。
「お前らは鏖殺だ。塵も残さん」
口から流れる血を拭きながら、ザルクは銃を構える。足止めの後に攻撃。ただひたすらにそれを繰り返す。あの時の炎は消えない。彼らを倒してもなお。だからどうした。復讐の炎がザルクのエンジンを回し、戦場に身を投じていく。
(……復讐。その気持ちはわからないでもない……)
ザルクの様子を見て、エルは自分の境遇と重ねる。国こそ違えど、巨大な何かに身内を奪われた。その炎が如何なるものか、エルは知っている。正しい間違っているで捨てられる者ではない、空虚な穴が生み出す熱。知っている、だから――
「ねえ、貴方は戦うことを『選んだ』の?」
前衛をある程度伏した後、アリアはシャンタルに声をかける。頷く子供の姿を見て、悲痛な表情を浮かべるアリア。どのような境遇がここまでこの子の心を麻痺させたのだろうか。炎を生むシャンタルの瞳には光がない。その事がアリアの心を深く傷つけていた。
「くそ……。毒が厳しいか……!」
ツボミはシャンタルが与えてくる毒と炎に蝕まれていた。魔力をじわじわと奪う毒と体力を削る炎。致命的ではないが、後に響く可能性がある。その為に回復の手を止めるほどでもないというのがまた難儀だ。仲間の傷を優先しながら、焦りを感じていた。
「攻撃に回る余裕がありませんわ……!」
傷つく仲間を見ながらジュリエットが臍を噛む。初手の攻撃以降、魔力を回復に回し続けることになり、攻撃に出る余裕がない。だからこそ戦線は維持できているのだが、その分敵の数は減らない。この選択が正しいのか分からないのがまたもどかしい。
「まだまだぁ!」
活を入れるように叫ぶエルシー。ドニの拳に体中が悲鳴を上げている。意識がもうろうとするが、まだ倒れるわけにはいかない。ドニの方もエルシーの拳を難敵とみなしているのか拳を自分に向けている。自分が耐えるほど、魔拳の脅威は仲間に向かないのだ。
(囲まれた……突出しすぎたかも……)
後衛に一人突撃したライカだが、その後に殉教者部隊の集中砲火を受けることになる。フラグメンツを燃やして耐えてはいるが、ここで倒れれば仲間から手が届かない所で意識を失うことになる。そうなればその後は……首を振って不安を振り切る。
「Deaathhh!」
回復手を守りながら吼えるナイトオウル。鎧兜は傷つき、衝撃はその肉体にまで届いている。それでも守りを緩める気配はない。ナイトオウルを支えているのは強い精神力。それは女神への崇拝から生まれた狂信ともいえる信仰心。
自由騎士達は攻防兼ね備えた布陣で前のめりに攻める殉教者部隊を伏していく。ドニ以外の前衛を倒し、氷結を生んで動きを封じるレリアを倒していた。
だが、自由騎士の被害も軽くはない。
「が……ふ……!」
「ウソ……。アタシが……」
ドニを相手していたエルシーと、後衛に深く踏み入ったライカが拳と炎で意識を奪われる。
「くそ……が!」
「GGGGGGG……!」
「私は、貴方を……」
ザルクとナイトオウルとアリアも、殉教者部隊を前に倒れ振る。
「まだまだ負けませんわ!」
「全く、ふざけた強さだな」
炎と毒がジュリエットとツボミのフラグメンツを奪い取る。だが――
「あたしの勝ちよ」
両手の魔術刻印に魔力を通しながらエルが冷ややかに宣言する。その言葉に反論はない。ドニは拳を構え、目の前の魔女に向けた。魔拳がエルに触れるより早く、刻印から放たれた矢がドニに届く。
「死になさい。貴方が殺したように、あたしも殺す」
容赦なく『魔拳』の心臓を貫く二矢。それがこの戦いの事実上の決着となった。
●
誰もが殺すことを喜ぶわけではない。
死人が少ない方がいいことなど当然だ。
だから一人の異教徒を殺すために、村人五十を殺すことを是とする。
一を逃して万の犠牲が生まれる前に――
●
村の炎は今なお燃えていた。
目を覚ました自由騎士達は、せめて村人を弔おうと――
「駄目だ。埋葬や鎮魂の様式で国が割れる可能性を遺すのは不味い。花も供えるな。兎も角情報を一切残すな」
それをツボミが止める。その言葉に唇をかむ自由騎士達。
(とんだ人でなしだが、実際この国じゃあ正真正銘の人でなしなのだ。我々は)
深く帽子をかぶるツボミ。炎の影が、その表情を隠していた。
「……くそ、情けねえ!」
ザルクは苛立ちを隠すことなく地面を蹴る。ツボミの言葉は納得できる。その可能性を減らすことは正しい。自己満足で危険を晒すわけにはいかない。だけど――
「何もできないのね。――ああ、私って本当に神職に向いていないわ……」
エルシーはため息をつき、不甲斐なさを誤魔化す。ここで祈りの言葉を囁く事すらできないのだ。拳を強く握り、村に背を向けた。
「――――――――」
ナイトオウルは何も言わずに背を向ける。彼らが信じる神はミトラースだ。ならば感慨はない。だが女神に改宗する可能性があった者だとも思い、剣の柄を強く握る。
「…………っ!」
涙を流すのを堪えるようにジュリエットは村を見る。せめてこの光景を忘れないように、と心に刻んだ。人の死はいつだって慣れることはない。
「なんで!? どうしてこの子を殺したの! 教育すれば更生できたかもしれないのに! そうでなくても、この子には未来があったのに!」
アリアはもう冷たくなっているシャンタルを抱きながら叫んでいた。アクアディーネの権能さえあれば殺さずに済む。なのにこうなっているという事は、意図して殺したという事だ。
「こんなやり方をする奴らを赦しておけないわ」
「情報を漏らすわけにはいかない」
ライカとエルが冷たく答える。不殺の権能を外し、殉教者部隊を殺したことを隠すつもりはない。
「救える命を――子どもの命を――自分の合理性だけで奪い続けるのなら――」
もう息すらしていない子供を抱え、アリアは涙を流して立ち上がる。
「――私達と殉教者部隊の違いはどこにあるの!?」
慟哭は燃える炎よりも強く空に響き、そして消える。
その問いへの答えは、誰も返すことが出来なかった。
かくして『魔拳』率いる殉教者部隊はここで潰え、イ・ラプセルは痕跡すら残さず撤退した。重傷の者はサポートで来ていたキジンに抱えられ、ニルヴァンに運ばれる。
殉教者部隊の死が発覚するのはかなり後。暦が二月になってからだ。その頃には情勢は大きく変化しており、彼らを倒した者を捜索する余裕はなかった。
そう、情勢は大きく変化する。
戦争の幕開けは、近い――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
狂信で殺すのではなく、自分の意志で殺す。正気だからこそ狂っている魔拳でした。
他の狂信者と変わらんわ、と言われればまあそうなのですが。
以上のような結果になりました。一手の読み違えで結果は逆転していたでしょう。
MVPは国情報が割れる最後のトラップを躱した非時香様に。絶対弔うと思っていたのですが。
証拠が残ればいい感じでプロパガンダに出来る(=シナリオが一つできる)か、と思ったのですが残念無念。
ともあれお疲れ様です。先ずは傷を癒してください。
それではまた、イ・ラプセルで。
狂信で殺すのではなく、自分の意志で殺す。正気だからこそ狂っている魔拳でした。
他の狂信者と変わらんわ、と言われればまあそうなのですが。
以上のような結果になりました。一手の読み違えで結果は逆転していたでしょう。
MVPは国情報が割れる最後のトラップを躱した非時香様に。絶対弔うと思っていたのですが。
証拠が残ればいい感じでプロパガンダに出来る(=シナリオが一つできる)か、と思ったのですが残念無念。
ともあれお疲れ様です。先ずは傷を癒してください。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済