サイラスの手記

 治療に使う麻酔と言えば、エーテルだ。
遠くヴィスマルクではクロロホルムと呼ばれる気管を傷めない麻酔もあるようだが、流石に噂話以上の情報は入ってこない。
 治療の際に暴れる患者を大人しくさせる際に麻酔は必要だ。そういう意味でゴールドティアーズで道化師が与えてくれた魔法は有用性が高い。魔力もそれほど必要とせず、治療の役に立つ術だ。
 これを見た時、実にあの道化師らしい魔法だ、と私は思った。勿論、患者に優しいという意味ではない。医者であるなら患者に感情を持ってはいけない。感情に捕らわれず、その技術をもって命に向き合うのだ。それが医術の――話がそれた。
 この魔術の根幹は『誤魔化す』『煙に巻く』そして『傷をなかったことにはできない』ことだ。
 あの道化師がイ・ラプセルのオラクル……さて、彼は我々の事を何と称したのだろうか? まあいい、我々に期待をしているのは確かなのだろう。だがその期待の先に我々がどうなるかを、彼は話さない。
 真実を語りきらずに誤魔化し、煙に巻き、そして行動によって生じた傷はなかったことに出来ない。
 水鏡ですら届かない未来に何が待つのか。『痛み』を経て気づくこともあるのかもしれない……すでに手遅れなのかもしれない。
 それでも、座して屈するわけにはいかない。たとえ未来に残虐な民族と罵られようとも、今生きていることを放棄することは生命への冒涜だ。戦いの手を止めることは、守るべき子供達への裏切りだ。
 さあ、今日も自由騎士として働こう。片づけなければならない案件はたくさんある。

 書記:サイラス・オーニッツ(nCL3000012)

  「しかし……最近は還リヒト関係の依頼が多いな。何かの予兆だろうか……?」

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