



酒と共に振り返る、シャンバラ

「「「かんぱーい!」」」
その日、王都の酒場に三つのジョッキが重なった。
なみなみと注がれた酒を、三人の自由騎士が一気に飲み干していく。
「「「っは~~~~! 美味い!」」」
ジョッキは三つとも、空。
いっそ清々しいまでの飲みっぷりである。
だがそれもまぁ仕方があるまい。何せ、二か月ぶりの郷土の酒だ。
「いやー、やっぱいいな地元の酒は! 美味いとか以前に気が落ち着くな!」
と、声を張り上げ陽気に笑い、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が早くも二杯目を頼む。
それは、右隣に座る『アーマーブレイク銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)も同じで、彼のジョッキも空であった。
「ふむ、しかしよくそ生きて戻れたものだな、俺達は」
おつまみをモリモリ喰いつつ、『果たせし十騎士』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)がこれまでを思い返して言う。
「ああ、全くだ。……敵地ってのは色々と生きた心地がしなかったからな」
ザルクもそれに同意した。二杯目のジョッキがやってくる。
「だがこれで散々やられっぱだった分の返礼はしてやれたってものだろう。うむ、留飲も下がった。見通しも立った。今の私は気分がいいぞ!」
「……そうだな、やっと反撃できた。あの北の森での遭遇からな」
笑うツボミとは対照的に、ザルクの声は低かった。
ちょうど、シャンバラとの初遭遇のときのことを思い出していたのだ。
「今から思うともうかなり昔に思えるな、あの事件は」
二杯目は転じてチビチビやりながら、ツボミも記憶を巡らせた。
「異国からの救援。しかも追っ手付き、だったからな。……青天の霹靂にも程があるだろう、なぁ?」
ザルクが言うと、他二人も「うむうむ」とうなずいた。
「未だイ・ラプセルは強国ならざる国とはいえ、いきなり北の森にシャンバラが拠点を築き始めたのは、その、何だ、常識の違いを感じたな……」
「いいんだぞ、ボルカス。もっとボロクソに『あの神狂い共常識ねーなーって思った』って言っていいんだぞ」
「お前が今言ったから私はもういい」
「とはいえ、ただ狂ってるだけじゃないのがな……」
二人に釣られてこれまでのことを思い出していたザルクが言うと、ツボミもボルカスもこれまた揃って「ああ」と同意する。
「ゲオルグか」
「ゲオルグな」
「切れ者ムーブするキチピー野郎とかやめて欲しいんだよ! マジで!」
ガシャン!
ザルクが空になった二杯目のジョッキの底をテーブルに叩きつける。
「アレのおかげで聖霊門ヤバかったしな」
「今のイ・ラプセルとちょうど逆の状態になりかけてたワケだ」
「改めて考えると本気でゾッとしねぇわ……」
直接戦力を送れる転移装置など、脅威以外の何物でもない。
「使えなくしてやったってのに、またしつこく北の森に派遣されてきたモンな、シャンバラの連中……、イヤ、ホントしつこい……」
「「北方迎撃戦なー」」
三人そろって三杯目をやりつつ、しみじみと呟いて、
「何か敵将みたいなのもいただろ、あの戦い」
「あー、“聖母”に、“青騎士”とかだったか。今回、イ・ラプセルで聖霊門を開通させた捕虜もそのときに捕まえた連中だったな、確か」
三杯目が空になった。三人、ほぼ同時のことであった。
「それから、私達が参加したS級指令へと繋がったんだよなー。たった二か月前のこととはいえ、何かもはや懐かしいな、オイ!」
四杯目に口をつけて、ツボミがカラカラと笑った。
「まずシャンバラに上陸するのからして大変だったな……」
「海軍の皆さんにはお世話になりまして」
「いえいえそれほどでも」
「お前、海軍じゃないだろ!?」
言い合って、ボルカスとザルクも笑い出した。
三人とも、順調に出来上がりつつある。
「森に入る前に魔女狩りの砦も超えたなー」
「「立地条件が理不尽!」」
「それな」
ザルクとツボミの唱和に、ボルカスがピシっと指をさした。
「それと、あー……」
「そうだ、あー……」
「あれか、あー……」
そして声を間延びさせた後で、今度は三人が声を揃える。
「「「“証す決闘”とか意味わかんなかったなー」」」
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!
大爆笑が三つとも見事に重なった。
「いやー、何だったんだろうな、アレは!」
「状況的に抜き差しならなくてテンパってたんだろうがなァ……」
「私は文化の違いを感じたな。ハッ、これが異国情緒というヤツか!」
「「絶対違う」」
何かに気づきかけたボルカスだが、それはすっぱり否定された。
またも重なる大爆笑。三人とも、顔はもうすっかり赤くなっている。
「……だが、ここからだな」
ひとしきり笑ったのち、ボルカスが笑みを消してこぼした。
「聖霊門は開通した。これで、イ・ラプセルはシャンバラに対する前線基地、橋頭保を手に入れたということになる」
「ヨウセイの中にも、この国で祝福を受ける者が出始めているらしいな」
「本当に、ここから、か」
二か月の旅が終わり、一つの区切りはついた。
しかし、それは区切りであり終わりではない。戦いはまだこれからも続く。
三人とも、それは承知していた。
「だから飲もう! 今日くらいはハメを外そう、な!」
「「応!」」
そして三人そろって五杯目を注文する。
「「「かんぱーい!」」」
関連依頼:
『【シャンバラ】S級指令、妖精郷へ4』(吾語ST)