下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






『三高平のバレンタイン』~命短し恋せよ乙女(?)~

●命短し恋せよ乙女(?)
 此の世を動かすのは往々にして『事実』ではなく『認識』であるという事か。
 始まりは西暦二百六十九年に殉教した聖者ヴァレンティヌスに由来する西側文化の記念日である。
 この二月十四日――所謂一つのバレンタイン・デイを男女の愛の誓いの日とするのは欧米に広がりを見せるメジャーなイベントではあるのだが……遥かなユーラシア西部より海を隔てて渡ってきたこの『愛の日』が極東の島国に広く受け容れられたのはこの国特有の舶来愛好と、それから時勢に上手く乗じた企業の見事なキャンペーンによる部分が大きいと言えるだろう。
 欧米では親しい男女が愛を込めて贈り物をかわす日という認識であるが、日本のバレンタインは少し色合いが異なる。
「えへ♪ さおりんの為に美味しいバレンタインチョコつくるです」
「あああああ、どどどどどどどうしよう……。
 上司へチョコを作りたくても、あの人の好みを知らないですぅー!」
 大粒のいちごにチョコレートを目の前にして作る方(いろけ)だけでなく涎(くいけ)も刺激されている様子の悠木 そあら(ID:BNE000020)、些か似合わないエプロン姿でじたじたと身を捩る藍苺・白雪・マリエンバート(ID:BNE001005)を見ても分かる通りである。
 元々が教圏の違う、文化の違う極東に上陸したバレンタイン・デイは日本では専ら乙女の戦場という認識を持たれていた。
 欧米においてはプレゼントはチョコレートに限らないが、日本の場合はチョコレートの人気が非常に根強い。
 チョコレートを甘く甘く蕩かして、意中の相手にプレゼントする――女子の方が見映えが良い事は確かだ。
 義理から人情までその種別は様々あるし、昨今は友人に送る『友チョコ』、男性から逆に贈る『逆チョコ』なる風習(此方は本来の『正当』である)も広がりを見せてはいるものの、やはり二月十四日といえば『乙女の戦場』といった認識は圧倒的と言えるだろう。
「……………」
「せっかくのイベントやし、うちもチョコ作ってこか」
「……バレンタインか。……あの時みたいにならないよう、慎重にやってみるか……」
 生来の生真面目な真顔をより真剣な色に染めて黙々とチョコレートを刻み続ける高原 恵梨香(ID:BNE000234)、気楽な調子は依代 椿(ID:BNE000728)、甘いような苦いような楽しいような罰が悪いような追憶と共にボールを撫でるのはシルフィア・イアリティッケ・カレード(ID:BNE001082)である。
 時は二月十三日――決戦前夜。
 桃子の政治力によって解放された三高平学園キャンパスの 家庭科室 の中には既に忙しなく動く多くの女子の姿があった。
「桃子! チョコレートが爆発したわよ!?」
「あはは。姉さんはバカ……じゃなくて単純ですねぇ」
 何時も騒がしい梅子やあるなの姿も、
「これで! あたしも! ふぁーすと! れでぃ!」
「あるじさまにちょこつくる、なのですー……ちょこってどう作るのなのでしょうか?」
「ええと、まずは……」
 トイ・ボックス(ID:BNE001608)に的確にアドバイスを出す玲香の姿も見えた。
「んー。チョコか。普通にチョコ溶かして型にはめ込めばいいのか? お菓子作りはあんまり良く分からない」
「……れ、玲香さん、綺麗……っ、何いってんの私っ! よし! チョコレート作っちゃうわよー!」
 淡々とした表情で慣れない手つきを見せるのは不動峰 杏樹(ID:BNE000062)、何やら口走りかけたのは伏見・H・カシス(ID:BNE001678)、
「あー……本命チョコを渡せる相手を見つけるんだ! って息巻いてたけどやっぱ無理だった。
 ので! 義理チョコ量産する作業に没頭するよー!」
 潔いのは大月 沙夜(ID:BNE001099)。
 悲喜はこもごもで熱意も随分と様々である。事情も関係も色々でとても一口で語り切るには不可能なだけのバラエティに富んでいたが、概ねこの場に集まった連中の考えている事は似たりよったりである。
「食べるのも好きだけど作るのも好きよ。何作ろうかしら」
 即ちその目的はニニギア・ドオレ(ID:BNE001291)の言う通り、渾身のチョコレートを作る事。
「ちょこ~? チョコ食べれる~?」
 それから、テテロ ミ-ノ(ID:BNE000011)のような御相伴優先か。
「材料とか、あるんでしょうか?」
「材料なら買い過ぎて持て余してるから、好きに使ってもらっていい……!?」
「どうも、助かります」
 背後から声を掛けられた恵梨香が振り返りかけて一瞬固まる。
 彼女の視線の先で少しくねくねとした動作を見せて嬉しそうな素振りを見せたのは顔だけ見たら何ともその感情の読み難い赤田 円(ID:BNE001596)であった。
「とりあえず何か作りましょう、何かを。……あげる相手は、いないんですけどねえ」
 バターを練り始めるその姿は酷く手慣れていて、感嘆半分、興味半分に場の視線を集めていた。
「わ、わたし……すごく……浮いてる……!?」
 黒い髑髏っぽいビジュアルに似合わなく神経の細い円だが、性別不肖なる彼だか彼女はやはりその見た目を裏切って料理上手なのだった。
 その腕前たるや市内に 『洋菓子店「Sable」』 を開いている位なのだから確かである。
「蛍光モヒカンな髑髏さんが居る……プロやんな……」
「三高平にはいろんな人がいるから気にしたらダメなのです」
 つまる所、椿が期待していた指導の腕前の持ち主。そあらの言う通りやたらに怪人っぽい事等些細な問題である。尤も二つ以上の動作を集中して実行するには野生の強すぎる彼女である。その視線はテーブルの上のチョコレートから動く事は無いのだが。
「さおりん……いちご……」
 デュアル・コアで動いているだけ奇跡と言えよう。
「ちょっこちょこれいと。刻んで刻んでまた刻む。湯煎は任せの目分量っと。
 アハ、アハハ、アハハハ! アハハハハハハ――ッ!」
 青い瞳を見開いて、色素の薄い髪を揺らし。貌に赤く張り付いた三日月はその角度を傾ける――
 肉切り包丁でチョコを砕く直下型都市伝説少女・歪崎 行方(ID:BNE001422)の傍らを新手が通り過ぎた。
「調理場はここねぇん」
「私が来たからには、もう大丈夫ですぞ、赤田さん。あなた一人を浮かせたりはしませんから、ご安心を」
 ルートウィヒ・プリン(ID:BNE001643)、百舌鳥 九十九(ID:BNE001407)といった怪人共である。
 円を加えた三人が 『怪人の集い』 で日々面を付き合わせる交友関係にあるのは必然として。
「……面白そうだからと覗きに来たのだけど、何かしらこの香り」
 複雑な顔をした棺ノ宮 緋色(ID:BNE001100)が家庭科室に顔を出した。
「……みんな、どんなの作ってんだろ。……カレー味のチョコ? チョコ味のカレー……?」
 漂うスパイシーな香りに不思議そうな顔をした五十嵐 真独楽(ID:BNE000967)はしきりに小鼻をひくつかせている。
「うむ、ぐつぐつ煮込んで美味しいカレーを作りますぞ。チョコ? はて、何の話ですかのう」
 九十九(へんじん)がカレーの仕込みを始めたのは放置するとして!
「カレー作りをしていると聞いてやって来ました! とりあえずジャガイモの皮を剥けばいいのかしら!」←マリアム・アリー・ウルジュワーン(ID:BNE000735) 
 帰れインド。じゃなくて引っ込めエジプト。←酷い
「此方で作れるのですね、私もあの方にチョコを作ろうと……」
 二階堂 櫻子(ID:BNE000438)が花のように綻んだ。
「私もミルフィに見つからないうちに、チョコを作っちゃおうっと♪」
 何時も一緒の従者が今日は居ない。アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(ID:BNE000128)の決意は名前(ショコラ)のように嗚呼、甘い。
 家庭科室の中は大勢が集まって何かをする時特有の楽しい雰囲気を醸し始めていた。
「よし。コーポのみんなに作るチョコをつくろう。
 難しい物ではないが、かわいらしいのだと喜ぶかな? まずはハートの型を用意して……」
 面倒見の良い朱鷺島・雷音(ID:BNE000003)が真剣に可愛らしく眉根を寄せる。
「……カカオ豆からココアパウダーを作るには、バナナの葉で包んで発酵が必要……」
「ん? チョコはカカオから作るのか。本格的だな」
「そ、そこからですか!?」
 メモに視線を落とした須藤 凛(ID:BNE001580)に平然と杏樹が相槌を打ち、見た目以外は常識的で面倒見の良い円がすかさず突っ込む。
 一般的にカカオの発酵には4日から1週間程度必要であるとされる。
「……『ここに完成した品があります』で店売りを取り出す、三分クッキング戦法……ダメ?」
 凛の言葉はそれでは全く本末転倒である。
「えっと、今度コーティングだけれど、コレは湯煎で溶かさないといけないのね……」
「あんまり熱いと風味が飛んでしまうから、湯煎は五十度ぐらいでね」
 渡す相手が余程定まっているらしく頬を染め、時折表情を緩める斬風 糾華(ID:BNE000390)に『本命の居ない』恵梨香が言った。
「うむ。テンパリングはチョコの種類た部屋の温度をきっちり把握してないとうまくいかぬ作業でござる。ゆえに……プロはここが勝負でござる……!」
「……だから、何でいるのだ。お前は」
 手慣れた鬼蔭 虎鐵(ID:BNE000034)に微妙な表情を浮かべたのはその最愛の娘・雷音である。
 雷音曰く「特別にあげる心算はないぞ」ではあるのだが――簡単な言葉と建前で割り切れる程、男女の関係も親子の関係も簡単ではない。
 戯言が何処まで本気かは分からねど、その両方を併せ持つ二人ならば尚更である。
「……カレー鍋? ……は、まあ、ともかくとして、ここで間違い無さそうですね」
「お世話になってる人も多いし、折角なら手作りも良いかしら、ね……料理の練習にもなるし」
 風宮 悠月(ID:BNE001450)、ミュゼーヌ・三条寺(ID:BNE000589)、クールビューティーの二人が作業場に合流していた。
「あの……ミュゼーヌ様……今日って何だか暑い日ですね……そ、そう思いませんか? 何故暑いのでしょうか? 冬なのに……不思議ですね」
「あら、そうかしら……室温は普通だろうけど、バレンタインに掛ける皆の熱気かしらね」
「あぅ……」
 ミュゼーヌの湯煎の温度を気にかけているのはシエル・ハルモニア・若月(ID:BNE000650)である。
 怜悧なお嬢様然としていながらも『意外に抜けた可愛らしさのある(にやにや)』ミュゼーヌはシエルの下手な暗喩には気付いていない。
 可愛いんだ、この子が。また。かわいいよ。←私情
「あー、沸騰させると焦げてまうんか、そうか……生クリームって焦げるんやな」
「低脂肪の生クリームだと分離してしまうとかなんとか……あ、そろそろお酒を入れましょう!」
 その向こうではすっかり円を教師役にした椿が四苦八苦とチョコレートを作っていた。
「乙女たちの殺伐とした空気の中、非乙女が颯爽と登場! ……何このお腹すく匂い」
 そもバレンタインを認識していたかどうか怪しいのは咥え煙草の雲野 杏(ID:BNE000582)である。
 カレー鍋の蓋をひょいと持ち上げる姿は彼女の関心がどちらに向きつつあるのかをハッキリと表していた。
「こんにちは、優秀なメイドです」
 人格は兎も角、家事全般に概ね優秀なるモニカ・アウステルハム・大御堂(ID:BNE001150)(35)は苦戦する乙女達にサルでも解る手作りチョコレートの作り方を伝授して回る。『市販のチョコレートを用意→溶かす→固める→できたぁ!』。この内容が何かの役に立つかどうかはさて置いて。
「えーとえーと、ともかく溶かして冷やして固めれば……いいんだよね?」
「ボクもさっそく作らせてもらおうかな。メインの方はひとまずおいておいて、一度作ってみたかった『塩チョコ回鍋肉』を!」
「チョコレートの日に向けてのチョコ作りなんかしてたんだね! ぼくも作りたい!」
 チョコレートを電子レンジにかけようとする金原・文(ID:BNE000833)、その台詞からして尋常ではなく何故か豚肉を茹で始めたアンジェリカ・ミスティオラ(ID:BNE000759)、そして元気が良いのはいい事だ、全く偏見ながら何かをしでかしそうな天月・光(ID:BNE000490)の姿を認めれば意義はあるのかも知れないとか、ちょっぴり思わなくもない。偏見だけど。
「……ブルームが……やり直さないと……」
 暗澹としたシルフィアの表情からは苛立ちが滲み出す。
 上手くいく子もいかぬ子も、嗚呼。何て――甘い時間。
「可哀想な子も多そうだし……ひとつおばちゃんも頑張ってみるかねぇ!」
 次々と賑やかさを増す家庭科室にやって来る人間は絶える気配がない。
 目一杯に材料を詰めたスーパーの袋を「よっこらしょ」っと机の上に載せたのは 『丸富食堂』 の主・丸田 富子(ID:BNE001946)。
「何っつー匂いだ……あ、荷物ここでいいか?」
 頭痛を堪えるように顔に手を当てたのはランディ・益母(ID:BNE001403)である。
 母に対する絶対的服従心と恐怖感からか年配の女性にはやや弱い彼は廊下で会った富子の荷物運びを買って出たのである。
 尤も彼が苦手の甘い匂いを掻き分けてここにやって来たのはそれが理由では無い。
「コイツは想像以上にハードだが……
 この後の盛大な楽しみを思い浮かべながら耐えるとするぜ……クックック……」
 サングラスと花粉用のマスク、更には花柄のエプロンをつけたランディの姿はかなりクルものがある。
 彼は持ち前の調理スキルを如何なく発揮してチョコレートを作り……ばら撒かせる心算なのだ、女の子に。
 喜んだ可哀想な男の純情に突きつけてやる心算なのだ。「俺のチョコは美味かったか? ああん?」とか。
 ああ、恐ろしきバレンタイン・テロリスト……
「冷ましたこんにゃくを型に入れて……と。こっちもOKね、鰯のアイスがあるくらいだものねー。
 ちょっと原価が高いけどトリュフのチョコレートもできたし、あとはこのよくわからないけど赤くて綺麗な実を煮詰めたジャムを……」
 テロリストと言えば深町・由利子(ID:BNE000103)の方も相当に深刻である。
「こんなおばさんから貰っても嬉しくないかもしれないけれど」とは当人の弁だがなかなかどうして。
 血の気多く「バレンタイン中止」を叫ぶ若者にとってはその過剰な色気は凶悪なるキラーパスなのである。
 天然に危険な誘惑を振りまく人妻が、何だ。チョコレートをばら撒くというのはそれはそれで慈善事業と言えるのだが……
 問題は由利子の料理のセンスにある。革醒の影響かいやんな方向に味覚が進化してしまった今の彼女は元の料理上手に非ず。平たく言えば相当酷い。娘の証言もバッチリである。
「愛情どっさり込めれるよう頑張る! 由利子殿も頑張ってねぃ!」
 生命力の溢れる瞳をきらきらを輝かせるアナスタシア・カシミィル(ID:BNE000102)に見えるのは今ここに居ない恋人の笑顔であろうか。
 あの、少しカッコつけたような。クールを気取っているような。
 それで居て優しく、たまに罰が悪いような仕草をしながらも優しく自分の肩を抱いてくれる……
「……えへへ」
 アナスタシアの頬がくてくてに緩んでいる。ご馳走様。
 頭の上から伸びた馬の耳がぴょこりと覗く。
「おお、人が沢山……こんばんは、だ」
 ハイデ・黒江・ハイト(ID:BNE000471)が軽く目を丸くした。
「皆いろんな物を作っているなぁ……ん、私は何をつくろうかな……」
「うむ。全く盛況じゃな……存外知り合いもおるのか」
 カレー鍋を目にした隠 黒助(ID:BNE000807)が手を振った。
「皆さんそれぞれ手が凝ったものを作っていて凄いです」
 そう言いながらこれから、と。蘇芳 縁(ID:BNE001942)は持ち込んだ道具を机に広げた。
「家庭科室はここね! 自由に使って良いとは、中々ハッピーな行事だわ!」
 オールウェイズ高いテンションを保つ雨宮 弥人(ID:BNE001632)に続き、
「せっかく良い設備があるんだから、ここで作らないともったいないよねっと」
 手際良く衛守 凪沙(ID:BNE001545)が何度目か知れない湯煎を始めていた。
「はいはい撮りますよー。あ、チョコ試食もいいですか?」
「皆さんの健闘を期待しておりますよ! はい! そこ、笑顔で一枚。お願いします!」
 しきりに記念撮影のシャッターを押し捲くるのは風歌院 文音(ID:BNE000683)とソリッジ・ヴォーリンゲン(ID:BNE000858)。
(あ、危なかったわ……!)
 彼が現れるその寸前に危機一髪身を潜める事に成功したのは藍苺。
「オンナノコだらけできゃっきゃうふふお菓子作りと聞いて!」
 ドシャアアア、といった効果音さえ似合う勢いで飛び込んで来るのはジャン・シュアード(ID:BNE001681)。
「……って、アラ、結構オトコノコも多いのね。うふふ、これも目の保養だわぁ♪」
「こりゃまたハイカラなメガネだねぇアンタ。ここは乙女の戦場だよっ」
 ズレたジャンの反応にズレた返答を返すのは我等が富子さんである。
「おやまぁ……お嬢ちゃんも相当な想いがあるようだねぇ! 頑張りなっ!」
「私はまだまだ未熟で、身体もこんなだから……
 想いぐらいしか貫ける物がありませんけれど、叔母様に応援していただければ百人力です!」
 この富子さんあっちこっちに顔や口を出しては収めて回るという『母ちゃん』らしい実力を発揮している。
 今も励ましの言葉を受けた緋室・雛凰(ID:BNE000922)の顔が決意の炎に燃えていた。
(大切な友達とお姉様に対する感情は正真正銘の本物なのです♪
 仰る通り私の手作り等ではプロの方には到底敵わないでしょうけれど……お二方に向けるこの想いは誰にも負けないのですわっ!?)
 燃える、燃える、燃え盛る。
「うっ……材料の甘い匂いとあいまって何とキュンキュンする雰囲気なの……」
 乙女達の醸す情熱と甘い香りにたじろぐ佐野倉 円(ID:BNE001347)は戦略的撤退を選択する。
(自分用を作りにきたけどやっぱり家でやるの……リア充に押し潰されるの)←ホームは埠頭。
 騒がしく、忙しなく、そして楽しい時間は飛ぶように過ぎていく。
「あれってウィスキーボンボンかな……? 凄いな……」
「上手く出来るかはわからないけどね、遠子さんも頑張ってね……」
 感嘆の声を上げた言乃葉・遠子(ID:BNE001069)に、やや伏し目になったアンジェリカが応えた。
(……渡せるかも、分からないけれど……いつか……)
 言わずに秘めた胸の中に、懐かしい『あの人』の幻(かげ)が差す。
 ディテールを徐々に失くしながら、その色合いを徐々に滲ませながらも。
 何処までも鮮烈なままなのは、『あの人が大好きだったから』――否、『大好きだから』。そう確信する。
「上手にできましたー」
 来栖・小夜香(ID:BNE000038)の表情が華やぐ。
 完成したハート型のチョコレートからは心臓の毛宜しく、どうしてか蛸の足が生えていた。
 閑話休題。出来上がったチョコレートが増えるにつれて場は試食会の様相を呈し始める。
「うむ。……むぐ、悪く、もぐ、ないぞ、もぐ」
 顔は口よりもモノを言うを実践するかのように成果物を口に頬張る黒助の表情は緩んでいた。
「おお。これでいけるか!」
 十分な反応にランディがガッツポーズをする。
「らるら~♪ ちょっこれいとのひ~♪ 今日は~女の子が~しゅやくのひ~♪」
「メディック! 誰かホーリーメイガス居るか……?」
 テテロが歌い、杏樹のやや物騒な声が響く。
「わ……! 美味しそうだ……ありがとう糾華さん、頂きます。うわー……いっぱいある……」
 ハイデの目が面白いように輝き、
「おっじゃま~。なにゃええ匂いがするなぁ~♪」
 ここぞと嗅ぎつけた桜 望(ID:BNE000713)が甘い輪へと加わった。
 騒ぎは絶えない。少なくとも十四日を目指して今夜中は続くだろう――

 ――決戦は、月曜日。命短し恋せよ乙女。百花繚乱なる冬の陣まで後、わずか――