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『三高平のクリスマス』~ケーキ祭り~

●全力クリスマス
 世の中とはままならないものである。
 あちらを立てればこちらが立たず、何かを手に入れれば何かを失う。
 二兎を追う者は一兎をも得ず。両天秤にかけその両方を得る事が難しい事等、それこそ世の中には溢れかえっている。
 それは例えば新しい生活と出会いの陰にあるこれまでとの決別だったり、金銭的な豊かさの代わりに代償になるゆとりある時間だったり。
 大きな成功の為に犠牲にしなければならないそれ以外全てであったり。
 ……そこまでの大事にはしなくとも、往々にして選択というものは無慈悲である。
 アークの戦略司令室長を務める時村沙織(ID:nBNE000500)は病床の父・貴樹に代わってアーク司令を代行する組織の中心的人物である。
 要領が良い遊び人である沙織は今年も随分と粘りはしたのだが、流石に組織の本格始動を近く控えたこの時分ではさしもの彼でもどうしようもない部分もあり、結局スケジュールにには『仕事と言う名の空白』が刻まれるという当人からすれば大いなる不覚とも言うべき不遇を囲う事となったのである。

 ――沙織ちゃん、クリスマスよ! クリスマスなのだわ!
 ここはアークの全力を挙げてクリスマスを祝うべきなのだわっ!

 戦略司令室のドアを蹴破らんばかりの勢いで飛び込んできた梅子・エインズワース(ID:nBNE000013)通常ならば一笑に付すべき脈絡のない妄言である。
 考えてみれば分かる事。何が悲しゅうて此の世を蝕む神秘といざ対決するべき特務機関が『全力で』クリスマスを祝わねばならないのか。
 しかし、運命とは時に数奇なモノである。「沙織ちゃんとか言うな」と苦笑いを浮かべたかの室長の続けた言葉は大方の予想を覆すものとなっていた。
 事情を考えればさもありなんとも言える。少なくとも時村沙織という人物は無味乾燥とした仕事(クリスマス)を受け入れる程潔くは無かったのである。

 ――三高平から動けないのならば、三高平を動かせばいい――

 沙織の中に電撃的に閃いた結論であった。
 故に梅子が持ち込んだ騒がしい要求は沙織にとって渡りに船となったのだ。
 ……やけくそ気味に本気を出した金持ちの行動力は凄まじい。
 梅子(バカ)に言われて仕方なく……という大義名分を振りかざした沙織はすかさず各所に手配を要請。
 当の梅子が茫然とするのにも構わず、計画を立て直し二十四日にこぎつけたという訳である。
 かくして三高平が白く染まった日――街がそういう風情に染まったのは必然とも言える状況なのであった。
「お前なぁ……」
 センタービルのラウンジから見下ろす街の光景は美しい。
 窓の外に瞬くクリスマスカラーのイルミネーションに半ば呆れたように呟く真白智親(ID:nBNE000501)に沙織は当然のような顔をして胸を張る。
「言っただろ、『俺を見くびるな』って」
 降り注ぐ六花は風情を察しているかのようである。
 厚手の窓ガラスに薄く映りこんだ沙織の口元は微かに綻んでいた。
 三高平市内はすっかりクリスマスムードに染まっている。あの梅子が企画したイベントをはじめ、既に各所では知った顔が思い思いの時間を過ごしている事だろう。
 羽目を外したリベリスタ達の市内各所のバカ騒ぎは見ないでも予想のつく所である。
「ざっと、こんなもんよ」
 胸を張る事か――言っても無駄であろうその一言を智親は喉の奥まで飲み込んで少し大袈裟な溜息を吐き出していた。



●ケーキ祭り
「まぁ……何て甘い空間」
 些かの驚きを見せながらも、それでも不快ではなさそうに口元に軽く手を当ててミュゼーヌ・三条寺(ID:BNE000589)が小さく笑った。
 二人の男がしょうもないやり取りをしていた階下――広いホールの中は成る程、彼女の言う通り豪華絢爛なる甘い香りに満たされていた。
「きた! かった!」
 黒猫の尻尾と耳がぴこぴこ揺れる。
「あるなさんのおうこくが今まさにかんせいしたのですだぜ!」
 丸井あるな(ID:nBNE000009)の前に広がる景色は確かに彼女の積年の夢を叶えるものだった。
 大きな長いテーブルの上には種類も彩りも豊かな素晴らしいケーキが山のように置かれている。
 思えば険しい道のりだったのである。
「あのしぶちんにけんこくさせるのに、ひさびさにほんきをだしたんだぜ。がおー」
 ……この言い様は当の沙織も浮かばれまい。
 甘いものが苦手な男子ならばとりあえず遁走する事請け合いな程に甘ったるい空気は彼女にとっては望む所なのか、爛々と輝く瞳は今獲物を狙う猫のようですらあった。
「あるなは甘くないのにケーキは甘いのかーそーなのかー」
「甘そうなあるなさんが集めた甘そうなケーキにまみれた甘そうなあるなさん」
 全く妥当な風芽丘・六花(ID:BNE000027)、斬風 糾華(ID:BNE000390)の突っ込みも今のあるなには届かない。
「おや。あまくてまるいあるなさんが、さらに甘さを手に入れて丸くなるだけの朝飯前デスネ。
 すなわちあるなさんの下ごしらえデス。もっともっと甘く丸く育つのデスヨ、アハ」
 歪崎 行方(ID:BNE001422)の一言は若干の禍々しさを湛えていたが、スルーする。
 あるなおうこく(仮)を前にテンションをあげているのはキング(笑)だけでは無かった。
「ケーキとかがこんなにいっぱい並んでいるのはやっぱ壮観だね」
 大月 沙夜(ID:BNE001099)がしみじみと言う。
「ケーキか。ふむ、我が喫茶店の参考にもなるかな? うむ研究のために沢山たべるのであって、欲張ってるわけではないんだぞ。あるな、あまいのか」
 朱鷺島・雷音(ID:BNE000003)の反応は冷静なようで居て冷静でない気もするし、
「うわぁ、すっごいスイーツの山……!」
 ノエル・ベルベリア(ID:BNE001022)の声は分かり易く感嘆を通り越して感激の域へと達している。
「これ食べてもいいんですよね! うわぁ、楽しみですー!」
「マカロン、ダックワーズ、マドレーヌ、プロフィットロール……
 他にも、他にももっと出てくるの? 私もうここに住みたい!」
 全く分かり易い反応をしているのは宮藤・葵(ID:BNE001235)も同じである。
「ケーキ♪ ケーキにゃぁ! 溶かしたチョコレートを上からかければ最高のケーキができるにゃぁ♪」
「スイーツと聞いて飛んできたのー! リンゴリンゴなのー! 食べられちゃう前にりんごも食べるのー! リンゴのケーキもあったら嬉しいのー!」
「えへ♪ いちごいちご♪ あっちにもこっちにもいちごいっぱいであたし幸せです♪ あるなさんもいちご色で美味しそうですねぇ♪」
 翡翠 向日葵(ID:BNE001396)、八月十五日・りんご(ID:BNE000827)、悠木 そあら(ID:BNE000020)と偏愛を感じる面々も居る。
 まさにケーキ祭り会場は何時爆発してもおかしくない位のエネルギーを限界まで溜め込みつつあった。
「お邪魔。なんかここが一番落ち着くな」
 物怖じしないのは剛の者・アウラール・オーバル(ID:BNE001406)。
「男が甘党だっていいじゃんか! オレだってケーキ食べたいもんねっ!」
「俺も、苺のショートケーキを食うぜ。飲み物は、黒ウーロン茶で脂肪吸収を抑える」
「これはいい、これはいい! 大小色とりどりのケーキと、それに群がる甘党の群れ! そしてそれをナイトクリークの俊敏さで乗り越え一番いいケーキを狙うあるな嬢! いいですな~!」
 黒武者 紫電(ID:BNE001083)、陽渡・守夜(ID:BNE001348)、ソリッジ・ヴォーリンゲン(ID:BNE000858)が気を吐く。
「普段は和菓子党ですが、今宵限りはやっぱりケーキですよね。せっかくのクリスマスで、せっかくの有名パティシエの作品が楽しめると聞いては……」
「腹減ったー! つー事でケーキ食いまくるぜっ! やっぱショートケーキは定番だよな。とりあえず俺はかぼちゃのタルトでももらおっか。ホクホク感が好きなんだよな♪」
 袴田 大和(ID:BNE001241)、神狩 煌(ID:BNE001300)といった男子の顔も殊の外この時間を楽しんでいるようではあるが……
「ここにエデンがあると聞いて飛んできたよ。アーク最高すぎる……!」
「わぁー。わぁー。ワンダーランドだねぇ!」
 ウェスティア・ウォルカニス(ID:BNE000360)といい、尾上・芽衣(ID:BNE000171)といい。
 ……やはり、三高平市各所のイベント会場においてここ程男女の勢いが偏っている場所もあるまい。
 そして完全無欠なる王国は、ダムは蟻の一穴を始まりに崩壊する……それもまた繰り返す歴史の必然なのだった。
「ここからここまで、わたしのケーキ……と。いよいよクリスマスなのでございます」
 圧倒する光景、微妙に錯綜する牽制の空気の中、最初に戦いの口火を切ったのは楚々とお嬢様然としたソフィア・プリンシラ(ID:BNE001375)であった。
 一日千秋なる想いでこの時を待っていた彼女はテーブルの一角に手製の旗を立て領有を宣言。獲得したケーキの端を手にした銀のフォークで切り崩し、小さな口の中に放り込んだのである。
「!」
「!?」
「――っ!!!」
 ざわめく空気。解き放たれた緊張感。
「んー♪ ふわふわで甘くて幸せで……頬が蕩けてしまいそうでございます♪」
 頬を緩ませたソフィアが駄目押しにそう言えば、最早連鎖の宣戦布告は避け得ぬ情勢となっていた。
「ケーキを頂戴しに来た……カステラは……」
 キョロキョロと視線を配る白樺 弥子(ID:BNE000975)。
「んっふっふ~♪さあ、どれから行こうかなぁケーキちゃん、隅々まで食べつくしてあげるわ……!」
 中和泉 乙女(ID:BNE001236)が最初に目をつけたのはオーソドックスなショートケーキだった。
 ショートケーキばかりを五、六個も皿に盛り「まずは」とのたまう。一体幾つ食べる気なのか……!
「はわわ、いちごの危機ですぅ!」
 ……何やらピンチを感じているハンターはさて置いて。
「ふーうんあるなじょうが! 早くもほうかい! そこになおれでこすけやろう!」
 傾くマカロンのタワーに、減っていくケーキの山に取り敢えず混乱するキング(笑)もスルーしといて。
「メリークリスマスなのじゃ! ともあれわらわもケーキを食べるのじゃ!」
「私、推参。あまり……ビーストハーフの胃袋を嘗めないほうが良い。甘い物は別次元」
 更に先程の面々に加え、アルカナ・ネーティア(ID:BNE001393)、砦ヶ崎 玖子(ID:BNE000957)が参戦。
 特に玖子の表情と来たら(キリッ)とかそういう擬音すら似合いそうな風情である。
「遅ればせながら、メリークリスマスイブですわ♪ では、ケーキ争奪に参加と参りますわっっ!
 わたくしもビーストハーフの端くれ、野生のパワーで進撃ですわよ♪ いざっ! コレはアリスお嬢様の分、コレはわたくしの分、コレはお嬢様の分……コレは!」
「有難うミルフィ♪ ん、このダークチェリーのタルト、甘ずっぱくて美味し♪
 次は、あれ。チョコレートのが気になります」
「はい、お嬢様! ミルフィ、粉骨砕身目の前のバリケードを突破いたしますわ!」
 怒涛のような勢いで後方から進軍を開始したのはミルフィ・リア・ラヴィット(ID:BNE000132)とアリス・ショコラ・ヴィクトリカ(ID:BNE000128)の主従コンビである。
 こちらは専らミルフィがカチ込んでアリスが食べるというスタートである。事前にはケーキ作りの手伝いを……というプランもあるにはあったのだが賢明なお嬢様は愛すべき従者に『料理の類』をさせると碌な事にならない事を知っていた。上がったテンションをこれ幸いと陣頭指揮を取っている。
「さながら戦場といった様相を呈しているな。早めに確保しておかないと拙そうだな……」
 セシル・カーシュ(ID:BNE000431)が小さく呟く。
「甘い香りに釣られて、あたし参上!」
 このプレッシャーはおっぱいか、もとい神楽坂・斬乃(ID:BNE000072)か。
「でもって、この消費量……! これがリベリスタの底力だと言うのっ!?」
 何処ぞのアニメとかで出てきそうな台詞なぞ放ちつつ、斬乃も全く引けを取らぬ。
 そのばきゅんでどかんな体に器用に次々とケーキ皿をマウントした彼女は物凄い勢いでテーブルの上のケーキを減らしていた。
 一方でミュゼーヌの方は落ち着いたものである。
「好きなケーキね。定番ではあるけどブッシュ・ド・ノエルかしら。
 これが無いとクリスマスという気分になれないわ」
 凛とした『鋼脚のマスケティア』は悲鳴と怒号飛び交う戦場ですらそのたおやかさを崩さない。
 白磁のカップで紅茶を頂きながら一切れのケーキを食べる姿等、様になり過ぎる位になっている。
「んと……ブッシュ・ド・ノエルかぁ。んー……飾り付けとか細かくて難しそうやなぁ……」
「斬乃さんはプティングにザッハトルテ……三条寺さんはブッシュ・ド・ノエル……
 どれもおいしそうだから後で食べてみよう……
 ……って皆ケーキを持っていくのが早くてメモが追い付かないのー!?」
 一方で料理人としての腕が疼くのかそんな風に言う関 喜琳(ID:BNE000619)、そして忍海 霧絵(ID:BNE000607)。
「紅茶か珈琲も欲しいけどどういうのがいいんだろう?」
「カフェラテなんてどうだろう?」
「うむむ」
 まだまだこれからといった風の天月・光(ID:BNE000490)がアンジェリカ・ミスティオラ(ID:BNE000759)の言葉に頷く。
「こんなにたくさん甘いものを食べられて幸せだよ……」
 言葉とは裏腹の無表情の方は兎も角として、アンジェリカの手元には大きなプリン・ア・ラ・モードが鎮座している。
「クリスマスだし、白いケーキもたべちたいなぁ~。やっぱり苺のがいいかな」
「迷ったならば、両方食べればいいと思うわ」
 ブッシュ・ド・ノエルからショートケーキに目移りした光の目前に、糾華が皿を差し出した。
 彼女の場合も平素のクールさを保ったままではあるがほっぺについたクリームばかりは頂けない。
 少なくとも彼女自身に少女らしい可愛らしさを全開で演出する気が無いのならば頂けない。
「女性陣、凄い勢いだな……ケーキがあっという間に消え去っていく……」
 とても対抗出来ん、と新城・拓真(ID:BNE000644)。
「見ているだけで胸やけがしそうな光景だ……でもいただく」
「おいしいねぇ。皆、あんまり急いで食べようとすると喉につまっちゃうよー?」
 虚義・千里(ID:BNE001134)も苺のタルトを摘んだ花屋敷 留吉(ID:BNE001325)も比較すればその姿は随分と大人しい。
「この白いケーキ可愛い♪」
「ケーキ~♪ ケーキ~♪ ミーノのケーキ~♪」
「ケーキ……甘くて、おいしい」
 ルア・ホワイト(ID:BNE001372)にテテロ ミ-ノ(ID:BNE000011)。静かな佇まいの星川・天乃(ID:BNE000016)も黙々と。
「私としたことが出遅れた……! でもここからよ。ここからなのよ? 真打は遅れてやってくるっ言うしね!」
「むむむ、冥華にもちょっとのこしとけー」
 更にお子様もとい教師なソラ・ヴァイスハイトと(ID:BNE000329)舞 冥華(ID:BNE000456)が参戦した。
 ……加速するばかりの女子勢(と男子少々)は壮大なるあるな王国を呑み込もうと牙をむく。
 約束された勝利の騎行、その重大なる根拠は雁行 風香(ID:BNE000451)曰くの、有史以来女子が何万回となく言い訳して来た一言だ。
 それは即ち――
「別腹別腹♪ あははっ♪」
 ――この絶対的免罪符であるが。
「つうか、入る場所が別でも……食い過ぎたら太っちゃわね?」
 嗚呼。
 嗚呼――ふと御厨・夏栖斗(ID:BNE000004)の呟いた一言は余りにも、そう。正論過ぎた。
「え、ちょ、なんか……寒気が……」
 いっそ気のせいなら良い負の感情の発露である。
 暖かい室内の気温すら下げるかのような無言の威圧に夏栖斗は思わず総毛立つ。
 この場で一番言ってはいけない一言と共に会場の刺すような視線がイケメン(笑)な彼をデンプシーロールばりに突き刺した。
 微妙にドンでうろたえる彼はまぁ良いとして……
「や、やっぱ三次はこわいんだお!」
 問題は巻き添えを喰らってガクガクと震える内藤 アンドレ(ID:BNE000773)の方である。
「エロゲのお供にケーキだお! モニタの中の嫁とクリスマスを祝うんだお!
 ホールケーキを貰って行くお! チョコレートで嫁の名前を書くんだお!
 ……って思ったら、ここは修羅の国だったんだお!!!」
 確固たる信念を持つ者はモニターの中に嫁を見ると言う。
 一級一流の戦士である彼にとってその位は造作も無い事であったが、EXスキル『妄想の翼』の代価は高い。三次的コミュ能力に不安が発生するのは言うに及ばない。
 いや、それはそれとしても物理的威圧感さえ感じる御婦人方の殺気の前では誰もが居心地の悪さを覚えるのだろうが。
「ふむ……」
 隅で慄くアンドレを傍目に龍泉寺 式鬼(ID:BNE001364)の頭上に電球が点った。
 ポン、と手を打って口元を着物の裾で隠しながらころころと笑った彼女は楽しそうに言い放つ。
「整ったぞよ。けーきと掛けて、二次元の嫁と解く。
 その心は――甘いところばかり集めてある。現実は辛いの」
「だれうまなんだお! 泣いてなんかいないお!」
 騒がしさは今まさに進行形でその規模を増していた。
「うわわ!? いつの間にかケーキが減ってる! ちょ、ちょっと待ってお姉ちゃんも食べるってー!」
「どれにしようか迷いますね……苺ショートで、良いかな……」
「……ま、わたしも嫌いじゃない」
 目の前の楽園に猛然と挑むメリュジーヌ・シズウェル(ID:BNE001185)、美月・香澄(ID:BNE001350)、アルバ・スゥ・アドラメレク(ID:BNE001029)。
「まだこんなにケーキが残っているんですねー! どれから食べようかな~?」
 星月 奈緒(ID:BNE000147)の瞳が輝いた。
「ととっ、ついケーキの山に興奮して言い忘れていましたよー。メリークリスマス~!」
 しかし入れ代わり立ち代わり現れる新手(リベリスタ)にも、王国と呼ばれた会場の体力は底無しだ。
「なんなのだー! ボクが一生懸命こーほー活動してる間に始まってるのだ。
 負けてられないのだ。勝ちに行くのだ。もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ!」
「おおー、エエ勢いやテトラちゃん。ささ、ドーンと全部いったれ」
 飛び込んできたテトラ・テトラ(ID:nBNE000003)をユーレティッド・ユール・レイビット(ID:BNE000749)が気楽に煽る。
「っと、テトラさんすごいなぁ!  これはかなたへ、これはおかんに……こっちはおとんに……確保しないとなくなってしまう勢いやわぁ!」
 御子神 のえる(ID:BNE000303)も目を白黒とさせている。
「ええと……ゾ・ウ・エ・ン・イ・マ・ス・グ・モ・ト・ム、と……」
 手で厨房へブロックサインを送るのは「あはは……」と肝を冷やすシエル・ハルモニア・若月(ID:BNE000650)。
「お疲れ様です。厨房の方とやりとりされているんですね。
 あなたのような方がいてくれて嬉しいです。よろしければ一緒に召し上がりませんか?」
「……はい♪」
 小さなくるみのタルトの皿を差し出した門真 螢衣(ID:BNE001036)にシエルは微笑む。
 一方で喰らいつくような喧騒からは少し離れて、この時間を楽しんでいる面々も居た。
「……お持ち帰り、お持ち帰りっと」
 ケースにケーキ達を詰め込む枕部・悠里(ID:BNE001293)はそれ相応に楽しそうである。
「……むっ」
 ふと何かを思いついた顔で中村 夢乃(ID:BNE001189)がデコレーションケーキのチョコレートプレートを摘み上げた。
 かりかりと齧りながら代わりに跡地に置いたのは『Happy Birthday』のプレートだ。
 イヴ生まれた少女の為にか。こればかりは取られぬように、と手元で安全に囲っておく。
「メリークリスマスー、てわけでケーキ食べるー!」
「おめでと。でも、慌て過ぎるなよ」
 目を輝かせた東雲 聖(ID:BNE000826)の様にこれまで嫌という程『女の子パワー』を眺めてきた英 正宗(ID:BNE000423)が釘を刺す。
「ん、ん……!? んぐぐ!」
「ああ、だから言わんこっちゃない……」
「冗談っ」
「……こら」
「えへへ」
 咽かけた聖の背を正宗がさする。
 その後のやり取りは場に溢れるケーキよりも甘い。「こら」の声と共の小突きも、舌を出した聖の視線も。
「……」
「……………」
 沸き立つリア充オーラに暗い瞳で虚ろな視線を彷徨わせたのは佐野倉 円(ID:BNE001347)だった。
「これはこれは美味しそうなケーキなの。雰囲気はケーキよりあまいの。
 もしよろしければ余ったホイップクリームを寄越……わけてほしいのね。何に使うかは秘密なの。
 間違ってもリア充をターゲットにパイ投げしようなんて思ってないの。でも、爆発すればいいと思うの」
 ショートケーキの上の甘酸っぱい苺を噛みながら円は呟く。
「ゥオオイ! リア充撲滅委員会という名でケーキむさぼりに来ただけだろぉおおお! お前は!」
「さっきまでの佐野倉 円はもう居ないの。いいからパイ持ってくるの」
 すかさず突っ込む霧島 俊介(ID:BNE000082)に円は何処と無く怖い返答を返す。
 リア充を形にした正宗ちんは当然そんな澱んだオーラを構わない。爆発すればいいのに。
「パイ、パイ……」
 アップルパイ、チェリーパイ、洋なしのパイにかぼちゃのパイ。
 言われて何となくパイを集めた金原・文(ID:BNE000833)の顔が緩む。
「えーっと……美味しそう、やっぱ食べちゃえ!」
「おいおい、パイ投げフラグをたてるだけたてといて食うのかよおおおお!?」
「むっ、霧島さん。食べ物で遊んでは駄目です。
 服が汚れてしまいます、ケーキが食べられない人が出ます、そして何より作った方が悲しみます……」
「俺っ!?」
 穏やかにケーキを楽しんでいた天野 唯(ID:BNE000354)の視線を受けて狼狽する俊介。突っ込みの役の彼はあっちにこっちに忙しい。
 パーティの時間は悲喜こもごもに過ぎていく。
 ここは、広い三高平市の一角だ。他所もきっと今頃は――

 ――ばたん、と。

 モノローグに構わず、突然会場の扉が無駄に派手に大開きにされていた。
「甘い匂いが乙女を呼ぶ! ミサイルのように白石参上!
 一番乗りはワタシがもらー……おおおおもう人が居るし! よよよよよよ!」
 白石 明奈(ID:BNE000717)、乙女。十五歳。崩れ落ちた。
 ミサイル・白石とかリングネームみたいに呼んでやれば存在妥当。やーい、ミサイル。
「な、何と言う……なんて恐ろしい所なんだ此処は……!
 ……くそう、こんなにケーキが……!
 ……ゆ、夢のようだけど、此処で誘惑に負けたら次の健康診断が悪夢に……!
 ……いや、でも……! ……いやいやしかし……!」
 続く部長こと臼間井 美月(ID:BNE001362)も眉根を寄せて悩ましい。
「だよなぁ、やっぱ」
 呟く夏栖斗にまた『ぎんっ』と。
「三次こわいお!」
「中々愉快な光景じゃの」
 何とかケーキを確保したアンドレもとんでもない緑茶を啜る式鬼も変わらず、光景がちょっとしたループを描いている。
 それはまぁ、宴がこれから……という事を意味しているのだろう。きっと、多分。
「……?」
 涼やかな音色が雷音の鼓膜を揺らした――そんな気がした。
 外で舞い遊ぶのは微かな白。眼窩には街の明かりにうっすらと照らされた銀世界。

 しゃんしゃんしゃん……

 鈴の音に誘われるように雷音は何気無く視線を持ち上げる。
 ゆっくりと見上げた夜空に小さな影が見えた気がしていた。
「今日のサンタさんは大忙しだな」
 言葉は幻想なのか、何なのか。この世界には居てもおかしくはないのだけど――