≪Vt2016≫VT杯 五麟バトルロワイヤル!
●バトルロワイヤルだ!
「バレンタイン杯、五麟バトルロワイヤルを開催する! ルールは簡単、最後まで残っていた者が優勝だ!」
「バレンタイン杯、五麟バトルロワイヤルを開催する! ルールは簡単、最後まで残っていた者が優勝だ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.戦って!
2.戦って!
3.戦い抜くのだ!
2.戦って!
3.戦い抜くのだ!
なにげにもう三回目ですが、ルールをご説明しましょう。
●バトルロワイヤルのルール
五麟大学の地下に作られた闘技場で行なわれる模擬戦試合です。
途中離脱や途中参加は不可。最後の一人になるまで戦います。
このシナリオではセミオートルールと模擬戦ルールが適用されます。
・セミオートルール
キャラクターはその場において適切なスキルとポジショニングを自動で使用します。
そのためプレイングに細かい戦闘アルゴリズムを書く必要がありません。
プレイングに使用したいスキル、ないしは特別に愛着のある装備を書き込むことで指向性をもたせることができます。
また、バトルスタイルへの拘りや武器の拘りをプレイングに書くことで、乱数判定を上方補正できます。
・模擬戦ルール
命数を使用せず、戦闘不能になったらリタイア扱いとなります。
そのため重軽傷を負うこと無く、命数減少も起きません。
●バレンタイン杯特別追加ルール
期間限定アイテム『チョコレート(本命、義理、友達)』を装備して参加すると、『チョコの本気度』と『誰に貰ったのか』に応じてダイス目や氣力体力値にボーナスがつきます。使用する際はプレイングに『○○に貰ったチョコレート(○○)使用』と括弧つきで書いてください。
ちなみに、自分で買って自分にあげるのもOKです。私もよくやったよ、それ。落として割って泣いたけど。
※記入が無いと使いそびれることがあります。
※発動は一人一回までです。
●優勝賞品
今大会の優勝者にはスーパー公務員アタリマンから専用武器をプレゼントします。
EXプレイングにベースアイテム、名前(希望があれば)、設定(希望があれば)を書き込んでください。
希望がない場合は研究室の人たちが勝手に考えて作りますので、『おまかせ』と書いて頂いても結構です。
●その他補足事項
・チームを組みたいPCがいる場合はフルネームとIDを『ユアワ・ナビ子(nCL2000122)』のようにプレイング冒頭に記入してください。記入がないとはぐれるおそれがあります。
・裏方や観客の枠はありません。そういった場合は白紙扱いになるおそれがあります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
10日
10日
参加費
50LP
50LP
参加人数
28/100
28/100
公開日
2016年02月19日
2016年02月19日
■メイン参加者 28人■

●
本日二月十四日。誰がなんと言おうとバレンタインデー当日である。
恋人たちがチョコを違いの裸体にぶっかけあったりしているであろう日に。
「バトロワ、初参戦ッス!」
葛城 舞子(CL2001275)が例の決めポーズで現われた。五麟大学地下、隠し闘技場。なにげによその人には教えないこの施設。舞子は屈伸運動と腕ストレッチをしつつ気合いを入れた。
「今日は先輩方の胸を借りるつもりで来たッス! 今日の目標は、バトロワの空気を知る!」
「チョコダアアアアアアアアア!」
髪を逆立てた渡慶次・駆(CL2000350)がきりもみ回転しながら飛んでいた。
舌と涎を垂れ流し目を剥いて回転する渡慶次不動尊。
「リア充は撃滅だあー! ヒィヤッハアアアアアアアアアア!」
似たような顔をして機関銃を乱射する藤倉 隆明(CL2001245)。
そこへ、橡・槐(CL2000732)が現われ義理チョコをまき散らし始めた。
「チョコの亡者たちよ~、友チョコをうけとるのです~う、それ~え」
慈悲に満ちた顔で口調まで変えた槐。
隆明と駆は獣のように吠えて飛びかかった。チョコに。
「かかったな、アホが!」
そこへ襲いかかる槐。
はじまる小競り合い。
一方で、舞子は最初のポーズのまま固まっていた。
「……こ、これがバトロワの空気」
「「いや、ちがう」」
隆明たちは一斉に振り返って手を振った。
本日二月十四日。何が何でもバレンタインデー当日である。
恋人たちがチョコでクレー射撃みたいに男を打ち落としているその日に。
「やってやるよ。男にはやらねぇばにゃらにゃいこっ、こことがある!」
工藤・奏空(CL2000955)は噛んだ台詞を無理矢理言い切った。
「いこう、たまきちゃん! この胸にはきみの……本命チョコがある!」
「はい!」
ぐっと拳を握る賀茂 たまき(CL2000994)。
「チョコダアアアアアアアア!」
「リア充ダアアアアアアアア!」
野獣と化した駆と隆明が襲いかかる。
「はやくも来たか、下がって!」
奏空は双刀を逆手持ちで抜くと、飛来する弾丸を弾き、剣を受け止めた。
「そんなにチョコが欲しいのか! 食べたいのか!」
「チョコ!? ああ食ったさ、自分で買ったやつをなあ!」
「くっ……なんて力。心からパワーがあふれてる! でも俺だって」
奏空は精神を燃やした。っていうかチョコを食った。
「うおぉー! たまきちゃん、好きだー!」
「ギャアアアアアアアアアア!」
なんか知らんけど隆明が吹き飛んだ。
告白の勢いに任せて斬る。工藤奏空告白剣である。
が、そんな奏空が疲労にふらついた所に。
「おっと、動くんじゃねえぜ」
駆がたまきを後ろから羽交い締めにしながら言った。目を左右非対称に血走らせ、長い舌を垂らしている。誰だこいつ。偽物か。
「本命チョコの持ち主がここまで無防備とは、優勝は貰いましたね!」
玉座に座って隆明からお酌されてる槐が高笑いした。誰だこいつ。偽物か!
「たまきちゃんを離せ!」
勇敢にテンプレ台詞を言った所で、背後に舞子が立った。ちょんちょんと肩を叩く。
「えっ?」
「くらえ、うなじびーむ!」
「めがあああああああああ!」
振り向いた所に舞子が背中をこうくるっとやってビームを放った。
直撃を受けてぶっ倒れる奏空。
たまきが涙(?)を散らせて叫んだ。
「奏空さーん! いやー!」
「「ぎゃあああああああああ!」」
なんか知らんけど隆明たちが一斉に吹っ飛んだ。
嫌なことがあったときにノリで奇跡を起こす。賀茂たまき拒絶拳である。
たまきは焦土と化した大地(心象風景を反映しています)でふらふらと歩き、力尽きた奏空(死んでない)を抱き起こした。
「奏空さん。私も、あなたが大切な人です……」
「……」
本日二月十四日。もうこの下りいらないと思うけどバレンタインデーである。
葦原 赤貴(CL2001019)は槐や舞子たちをマウントとってボカスカ殴っているたまきを、気配を消してじーっと見ていた。
赤貴は頷いて剣を顕現。振り上げた所で強烈な足払いを仕掛けられた。
即座に反応。片腕のバネで跳ね、距離をとるついでに隆槍を発動。
緒形 逝(CL2000156)はバックジャンプでそれをかわした。
「おっと、不意打ちを避けるとは頑張るさね。まあいいか、立ち上がるたびに心をへし折ってやるぞう。で、チョコは?」
「補給なら、倒した相手から奪えばいいさ」
「ふうん……」
逝はちらりと奏空を見た。この中でチョコを持っていたのは彼だけだ。
「じゃあ、遠慮無く叩ききってやろうかね。殺しに来たなら味方でも手加減しないから、お勧めせんよ?」
「……好都合だ」
赤貴は隆槍を連続発動。回避にかかる逝を追い込み、鋭く斬撃を繰り出す。
それを強引に打ち弾く逝。
「おや、殺気がこもってるね」
「……」
赤貴は黙って連撃。
逝はそれを正面から受けはじめた。
手こずりそうだ。逝は直感的にそう思った。


本日二月十四日。そこかしこでカップルができあがる今日、4対4の合コンめいた組み合わせがここにも出来ていた。
「女子といえど、手加減無用でぶっ飛ばす!」
「張り切っていきましょー!」
鹿ノ島・遥(CL2000227)の拳と月歌 浅葱(CL2000915)の拳が正面から衝突。
「対戦ゲームだよね、楽しいねー!」
「バレンタインってこういうイベントでしたっけ?」
御影・きせき(CL2001110)と柳 燐花(CL2000695)の刃が激突。
「響け、レイジングブル!」
「やるわねっ!」
黒崎 ヤマト(CL2001083)と鈴駆・ありす(CL2001269)の火炎弾が交差。
「いきますよ!」
「負けないっす!」
御白 小唄(CL2001173)のフライングキックを水端 時雨(CL2000345)の水礫が迎撃する。
合コン比率なのは間違いないけど完全無欠に恋愛色が無かった。当然である。
浅葱は遥めがけて怒濤のラッシュパンチを叩き込んでいく。防御を捨てた特攻姿勢だ。
対して遥はその拳を的確にさばいていく。徒手空拳一対一ではなかなか負けない遥である。
が、しかし。
「今日はチーム戦、私自身が――フェイントですよっ!」
隙をついて正拳突きを入れた遥の顔面めがけ、燐花の靴裏キックが炸裂した。
ムーンサルトで飛び退く燐花。
その着地点に回り込むようにきせきが現われた。
「てやー」
子供がプラスチックの剣を振るような無邪気さで、真剣が燐花の首筋めがけて振るわれた。
空中で身をひねってクナイで防御。
致命傷を避けたがかわりに腕をやられた。
着地のバランスだけは崩さずに転がると、そこへ小唄が駆け寄ってきた。
前傾姿勢のダッシュから飛び込み宙返り。冗談みたいなフライングキックである。
燐花はそれをよけようとバックスウェーをかけ――た所でヤマトがギターを激しくかき鳴らし、炎の渦を展開。
「ホントみんなタフでバカで……でも、負けないわよ!」
ありすは護符を拳に握り込み、地面を殴りつけた。円を描くように吹き上がる炎の柱。
燐花を包み、きせきたちを牽制する。
そこへ、時雨が大量のチョコレートを懐から取り出した。
「好きなんだろぉ、こういうチョコレートがさぁ!」
空中に舞い散るハート型のチョコレート。
ハッと見上げたヤマトはすぐ真意に気づいた。
「やべえ罠だ! みんな食いつくな!」
そう言って視線を戻したが。
「「ん?」」
きせき、小唄、遥。三人ともノーリアクションだった。
がくりと膝を突く時雨。
「馬鹿な! 時雨ちゃんが女として見られていないということっすか!?」
「いや、多分こいつらに恋愛回路が無いだけだと思う」
「そこだー!」
小唄の飛び膝蹴り。
ハッとして防御姿勢をとる時雨。その一瞬早く、ありすが火炎弾で小唄を打ち落とした。
そんなありすを後ろから回り込んで手刀打ちをして倒れさせる遥。
即座に癒しの霧展開に切り替える時雨。
遥に向かって浅葱と燐花が襲いかかる。
防御姿勢をとる遥――の背後からきせきが躍り出た。刀を乱暴に叩き付けてくるきせき。
それに対処しようとしたところで、ヤマトが空中からエアブリットを乱射。
大量のチョコを頬張り、時雨はぎらりと笑った。
回復を受けた燐花と浅葱がエアブリットの弾幕を抜けて遥にツインラリアットを食らわせた。
もんどりうって転倒する遥。
ついでに小唄もと、シンメトリーパンチを繰り出した二人だが、小唄は二人の腕を馬跳びにして膝蹴り。額にごっつんと膝を食らった浅葱たちは同時にひっくり返った。
激しく入り乱れる戦闘風景。ほぼ互角のバトルである。
ちなみにネタバレすると、時雨がチョコ食いすぎて鼻血を吹いた辺りから男子チームが勝った模様である。
本日二月十四日。御多分に漏れず義理チョコ交換が行なわれていた五麟市である。
神室・祇澄(CL2000017)もそうだった。こりこりと噛み砕きながら双刀を構える。
型は防御。
劣勢ゆえだ。
相手は鎖鎌を鎌と鎖分銅に分離して使う七海 灯(CL2000579)。
先制で放った灯の分銅を柄頭だけで打ち返す。下手に刀身で防御すれば絡まれるからだ。
防御の隙に接近してきた灯の鎌を今度は刀で受け止めた。トリッキーな相手である。一辺倒の防御をしていては崩される。パズルゲームとリズムゲームを同時にやっている気分だ。
だというのに。
「灯、そろそろアレを出していい頃よ」
三島 椿(CL2000061)が深想水を発動それを受け、灯は肉体から激しい蒸気を吹き上げた。
「行きます!」
真っ赤なオーラに包まれた灯が激しいパワーで祇澄を蹴飛ばした。
分銅を放ち、放った速度より早く自らが接近。鎌を繰り出す。
祇澄は牽制の斬撃を放つが、灯は防御すらせずに突っ込んできた。
腹部に直撃。
祇澄は吹き飛び、ごろごろと転がった。
「防御を捨てるなんて……」
「回復は三島さんに任せました。私は、征くのみ!」
鎖鎌を連結させて構える灯。
そこへ。
「けどその戦法」
「二対二だったら使えないですよねぇ~」
阿久津 ほのか(CL2001276)と志賀 沙月(CL2001296)が横合いから襲撃してきた。
ほのかが隆槍を連続発動。次々に突き上がる大地の槍を灯はギリギリのところでかわしていく。が、その隙に横を抜けた沙月が鞭で椿を捕捉した。
「男相手がよかったけど……この期に乗じて憂さ晴らしさせてもらいわよ!」
上空に逃げようとした無理に椿を引きずり下ろし、鞭による打撃を始める沙月。
「私になんでも押しつけんじゃないわよ編集長!」
「編集長!?」
「さらにどっかーん!」
ほのかが狙いを椿にシフト――しようとした所で、灯が割って入った。
分銅を叩き付けてはねのける。
そこへ、さらに。
水の竜が現われ、灯やほのかたちを一斉にはじき飛ばしていく。
聞こえてくる楽器演奏。
霧の中から現われる向日葵 御菓子(CL2000429)と守衛野 鈴鳴(CL2000222)。
鈴鳴は大きなフラッグをぐるぐると回しながら足踏みを始めた。
「お手伝い頂いて、すみません。奏空さんたちを助けていたら消耗してしまって……」
「いいえ、大事な教え子たちですから。私たちだけ残ってしまったのは予想しませんでしたけど。折角です、最後まで残りましょう」
演奏を更に激化させる御菓子。
「二対二対二……みつどもえ、始めましょうか」
「参ります!」
鈴鳴突撃。
反撃に灯が鎖を放ち、沙月が鞭を放った。それぞれを旗軸で防御。巻き付く鎖と鞭をそのままに、鈴鳴は軸を回転。捕捉したつもりが逆に巻き込まれた灯たちに、これ幸いと隆槍をしかけるほのか。
そのほのかの背後に、祇澄がゆらりと現われた。
不意打ちの斬撃。
咄嗟に防御するほのか。
鈴鳴はそうした乱戦の奥にいる椿にエアブリットによる狙い撃ちを仕掛ける――が、それを椿は弓矢によるカウンターアローで相殺した。
「不意打ちしようとしても無駄よ、わかるわ」
「っ――先生!」
「ええ、先生がちっちゃいからって甘く見ると、痛い目見るんだからね!」
御菓子は再び水の竜を生成。
灯たちは鈴鳴から飛び退き、それぞれの武器を構えた。
くどいようだが本日二月十四日。
合コン比率のバトルパーティーが開かれたりリア充狩りと保護者チームによる激闘が起きたり色々と忙しいバトルロワイヤルだが、最後に残ったのは本命チョコを獲得せし者たちだった。
今宵バレンタインデー。やはりチョコを持ったものが勝者ということなのか。
さあ見よ彼の勇――。
「よく役にたってくれました。僕が自分に買った、本命チョコレート……」
あれ?
橘 誠二郎(CL2000665)は口元をハンカチでぬぐうと、素早く棍棒を構えた。
対戦相手の接近を感知したからだ。
「自分で自分にチョコを買うなんて……そんな人には負けません」
ひどくもっともなことを言って、納屋 タヱ子(CL2000019)がビシリとハート型ド本命のチョコレートを掲げた。
「見なさい、この手作りチョコレートを!」
「それは一体だれから」
「自分で作りました!」
「…………」
「…………」
口に手を当て、目をそらす誠二郎。
同じく口に手を当て、目をそらすタヱ子。
なんて人たちが残ってしまったのか。
誰から貰ったチョコかは確かに重要だったが、まさか本命チョコの持ち主が半数以上自分に買ってくるなんて誰が想像した。
「ああ、カミサマ。この報われぬ子羊たちをお救いください」
キリエ・E・トロープス(CL2000372)がハート型のド本命チョコを胸に抱いて現われた。
「「……」」
誠二郎とタヱ子は一度顔を見合わせた。コホンと咳払いする誠二郎。
「すみません、失礼ですがそのチョコは自分で買ったり作ったりしたものでしょうか?」
「いいえ、頂いたものです」
再び顔を見合わせる誠二郎とタヱ子。
確かに優勝はしたい。
したいが、あくまでバレンタインデーは愛の記念日。こういう日くらいはカップルに日の目を見せてあげていいのではないか。ここまで充分戦ったし。
「えっと、ではまず……」
「カミサマがわたくしにくださったのです!」
「「正々堂々勝負しましょう!」」
誠二郎とタヱ子は口元に手を当て、涙をこらえて飛びかかった。
今宵、悲しみの頂点を極める戦いが始まろうとしている。
「嗚呼カミサマ! 天まで届け目にみやれ! 燔祭のほのお!」
シスター服を冒涜的に引きちぎり、キリエはあらゆる意味で覚醒した。
激しい炎が彼女を中心に巻き起こり、螺旋状に地面を焼いていく。
「わたくしはおもしろおかしく過ごしておりますですよ! いずれカミのみもとに導かれるまで!」
炎を突き抜け、現われたのは誠二郎である。
突撃。杖を長く持ち、全身の体重をかけて先端を打ち付ける型だ。熟練した彼の技は鉄板すら打ち抜くが、それをキリエは本で受け止めた。紙だけでできた本だというのにだ。
目を異常なまでに見開き、薬物中毒者さながらの壊れた笑顔で叫んだ。
「カミサマ、この方に導きを!」
螺旋状に広がっていた炎が一旦彼女に集中し、それらがいっぺんに誠二郎へ襲いかかる。
それだけではない。拳に焼けとけたチョコレートを塗りたくり、誠二郎の顔面めがけて叩き込んできた。いや、顔面と言うより口だ。
当然口は閉じている誠二郎なので、拳は顎に直撃。
しかしその時既に誠二郎は杖を持ち替え、まるでバネ仕掛けのように片手打ちを仕掛けた。
ボールペンでこのような遊びをしたことがあるだろうか。柄をつまみ、先端を指で押さえて力を溜める。先端を離せば勢いよくペンが対象に叩き付けられるというものだ。
これを棍棒で、しかも熟練した技と筋力で繰り出したなら、人間の頭蓋骨くらいならスイカ割りのスイカ状態である。
それがよりによってキリエの側頭部に直撃した。
だというのに、例の笑顔を一ミリも崩すことなく、首だけおかしな方向に傾けていた。
「これも、聖じ、んへの想い、しんじ、てます、うふ、うふふ!」
数々の妖と戦ってきた誠二郎だが、人間が一番恐ろしいと感じたことも少なくない。
その一つが今だ。キリエは文字通り破顔しながら手を伸ばし、チョコレートと体液でべったりとした手で誠二郎の顔を握りしめたのだ。
人間から発するとは思えないほどの高熱。
これでは顔面が焼けただれてしまう。
物理防御の極めて高いタヱ子を岩にフォークを立てるがごとく削っていくより、まずは直接攻撃の可能なキリエから倒した方が無難だ。
そう思ったのが間違っていたのか、いやいない。こちらに回復手段が無い以上、消耗したところで漁夫の利を取られるだろう。
だがキリエもそれを考えないわけがない。消耗を避け、適度に攻撃しながら牽制し、タヱ子が隙をつかないように範囲攻撃で牽制してくると思った……のだが。
「うふふ」
なんという狂信。
なんという狂人。
自らの肉体破壊を全く気にせず、誠二郎を道連れにしてくるとは。
こうなっては仕方ない。誠二郎はキリエを滅多打ちにし、起き上がってこない所まで殴り倒した。
「勝利のためとはいえ、ここまでしなくてはならないとは……」
自分用本命チョコの時点でかなり恥を捨てたつもりだが、それだけでは勝てないステージなのだ。ここは。
ちらりと見やれば、防御態勢をきっちり整えたタヱ子がじわじわと迫ってくる。
誠二郎は脳内で様々なシミュレートを行なった。
全力で彼女を殴り続けるコース。体術によるスタミナ切れを起こすのが先だ。
出血や痺れを起こさせて鞭で追い詰めるコース。タヱ子は戦いの中で深想水を使ったのを見た。バッドステータスでのアドバンテージはとれない。
いっそ武器でしこたま殴り続けるのは。無理だ、防御を抜けない。
「っ……!」
誠二郎は、自分が壁際まで追い詰められているのを知覚した。
杖を手放し、両手をあげる。
「降参です。手作りチョコレートには勝てませんね」
「……ありがとうございます」
タヱ子は盾を手放し、大きく大きく息を吸い込んだ。
そして見えぬ天空を見上げ。
吠えた。
「こんなの絶対バレンタインデーじゃなーい!」
本日二月十四日。誰がなんと言おうとバレンタインデー当日である。
恋人たちがチョコを違いの裸体にぶっかけあったりしているであろう日に。
「バトロワ、初参戦ッス!」
葛城 舞子(CL2001275)が例の決めポーズで現われた。五麟大学地下、隠し闘技場。なにげによその人には教えないこの施設。舞子は屈伸運動と腕ストレッチをしつつ気合いを入れた。
「今日は先輩方の胸を借りるつもりで来たッス! 今日の目標は、バトロワの空気を知る!」
「チョコダアアアアアアアアア!」
髪を逆立てた渡慶次・駆(CL2000350)がきりもみ回転しながら飛んでいた。
舌と涎を垂れ流し目を剥いて回転する渡慶次不動尊。
「リア充は撃滅だあー! ヒィヤッハアアアアアアアアアア!」
似たような顔をして機関銃を乱射する藤倉 隆明(CL2001245)。
そこへ、橡・槐(CL2000732)が現われ義理チョコをまき散らし始めた。
「チョコの亡者たちよ~、友チョコをうけとるのです~う、それ~え」
慈悲に満ちた顔で口調まで変えた槐。
隆明と駆は獣のように吠えて飛びかかった。チョコに。
「かかったな、アホが!」
そこへ襲いかかる槐。
はじまる小競り合い。
一方で、舞子は最初のポーズのまま固まっていた。
「……こ、これがバトロワの空気」
「「いや、ちがう」」
隆明たちは一斉に振り返って手を振った。
本日二月十四日。何が何でもバレンタインデー当日である。
恋人たちがチョコでクレー射撃みたいに男を打ち落としているその日に。
「やってやるよ。男にはやらねぇばにゃらにゃいこっ、こことがある!」
工藤・奏空(CL2000955)は噛んだ台詞を無理矢理言い切った。
「いこう、たまきちゃん! この胸にはきみの……本命チョコがある!」
「はい!」
ぐっと拳を握る賀茂 たまき(CL2000994)。
「チョコダアアアアアアアア!」
「リア充ダアアアアアアアア!」
野獣と化した駆と隆明が襲いかかる。
「はやくも来たか、下がって!」
奏空は双刀を逆手持ちで抜くと、飛来する弾丸を弾き、剣を受け止めた。
「そんなにチョコが欲しいのか! 食べたいのか!」
「チョコ!? ああ食ったさ、自分で買ったやつをなあ!」
「くっ……なんて力。心からパワーがあふれてる! でも俺だって」
奏空は精神を燃やした。っていうかチョコを食った。
「うおぉー! たまきちゃん、好きだー!」
「ギャアアアアアアアアアア!」
なんか知らんけど隆明が吹き飛んだ。
告白の勢いに任せて斬る。工藤奏空告白剣である。
が、そんな奏空が疲労にふらついた所に。
「おっと、動くんじゃねえぜ」
駆がたまきを後ろから羽交い締めにしながら言った。目を左右非対称に血走らせ、長い舌を垂らしている。誰だこいつ。偽物か。
「本命チョコの持ち主がここまで無防備とは、優勝は貰いましたね!」
玉座に座って隆明からお酌されてる槐が高笑いした。誰だこいつ。偽物か!
「たまきちゃんを離せ!」
勇敢にテンプレ台詞を言った所で、背後に舞子が立った。ちょんちょんと肩を叩く。
「えっ?」
「くらえ、うなじびーむ!」
「めがあああああああああ!」
振り向いた所に舞子が背中をこうくるっとやってビームを放った。
直撃を受けてぶっ倒れる奏空。
たまきが涙(?)を散らせて叫んだ。
「奏空さーん! いやー!」
「「ぎゃあああああああああ!」」
なんか知らんけど隆明たちが一斉に吹っ飛んだ。
嫌なことがあったときにノリで奇跡を起こす。賀茂たまき拒絶拳である。
たまきは焦土と化した大地(心象風景を反映しています)でふらふらと歩き、力尽きた奏空(死んでない)を抱き起こした。
「奏空さん。私も、あなたが大切な人です……」
「……」
本日二月十四日。もうこの下りいらないと思うけどバレンタインデーである。
葦原 赤貴(CL2001019)は槐や舞子たちをマウントとってボカスカ殴っているたまきを、気配を消してじーっと見ていた。
赤貴は頷いて剣を顕現。振り上げた所で強烈な足払いを仕掛けられた。
即座に反応。片腕のバネで跳ね、距離をとるついでに隆槍を発動。
緒形 逝(CL2000156)はバックジャンプでそれをかわした。
「おっと、不意打ちを避けるとは頑張るさね。まあいいか、立ち上がるたびに心をへし折ってやるぞう。で、チョコは?」
「補給なら、倒した相手から奪えばいいさ」
「ふうん……」
逝はちらりと奏空を見た。この中でチョコを持っていたのは彼だけだ。
「じゃあ、遠慮無く叩ききってやろうかね。殺しに来たなら味方でも手加減しないから、お勧めせんよ?」
「……好都合だ」
赤貴は隆槍を連続発動。回避にかかる逝を追い込み、鋭く斬撃を繰り出す。
それを強引に打ち弾く逝。
「おや、殺気がこもってるね」
「……」
赤貴は黙って連撃。
逝はそれを正面から受けはじめた。
手こずりそうだ。逝は直感的にそう思った。
本日二月十四日。そこかしこでカップルができあがる今日、4対4の合コンめいた組み合わせがここにも出来ていた。
「女子といえど、手加減無用でぶっ飛ばす!」
「張り切っていきましょー!」
鹿ノ島・遥(CL2000227)の拳と月歌 浅葱(CL2000915)の拳が正面から衝突。
「対戦ゲームだよね、楽しいねー!」
「バレンタインってこういうイベントでしたっけ?」
御影・きせき(CL2001110)と柳 燐花(CL2000695)の刃が激突。
「響け、レイジングブル!」
「やるわねっ!」
黒崎 ヤマト(CL2001083)と鈴駆・ありす(CL2001269)の火炎弾が交差。
「いきますよ!」
「負けないっす!」
御白 小唄(CL2001173)のフライングキックを水端 時雨(CL2000345)の水礫が迎撃する。
合コン比率なのは間違いないけど完全無欠に恋愛色が無かった。当然である。
浅葱は遥めがけて怒濤のラッシュパンチを叩き込んでいく。防御を捨てた特攻姿勢だ。
対して遥はその拳を的確にさばいていく。徒手空拳一対一ではなかなか負けない遥である。
が、しかし。
「今日はチーム戦、私自身が――フェイントですよっ!」
隙をついて正拳突きを入れた遥の顔面めがけ、燐花の靴裏キックが炸裂した。
ムーンサルトで飛び退く燐花。
その着地点に回り込むようにきせきが現われた。
「てやー」
子供がプラスチックの剣を振るような無邪気さで、真剣が燐花の首筋めがけて振るわれた。
空中で身をひねってクナイで防御。
致命傷を避けたがかわりに腕をやられた。
着地のバランスだけは崩さずに転がると、そこへ小唄が駆け寄ってきた。
前傾姿勢のダッシュから飛び込み宙返り。冗談みたいなフライングキックである。
燐花はそれをよけようとバックスウェーをかけ――た所でヤマトがギターを激しくかき鳴らし、炎の渦を展開。
「ホントみんなタフでバカで……でも、負けないわよ!」
ありすは護符を拳に握り込み、地面を殴りつけた。円を描くように吹き上がる炎の柱。
燐花を包み、きせきたちを牽制する。
そこへ、時雨が大量のチョコレートを懐から取り出した。
「好きなんだろぉ、こういうチョコレートがさぁ!」
空中に舞い散るハート型のチョコレート。
ハッと見上げたヤマトはすぐ真意に気づいた。
「やべえ罠だ! みんな食いつくな!」
そう言って視線を戻したが。
「「ん?」」
きせき、小唄、遥。三人ともノーリアクションだった。
がくりと膝を突く時雨。
「馬鹿な! 時雨ちゃんが女として見られていないということっすか!?」
「いや、多分こいつらに恋愛回路が無いだけだと思う」
「そこだー!」
小唄の飛び膝蹴り。
ハッとして防御姿勢をとる時雨。その一瞬早く、ありすが火炎弾で小唄を打ち落とした。
そんなありすを後ろから回り込んで手刀打ちをして倒れさせる遥。
即座に癒しの霧展開に切り替える時雨。
遥に向かって浅葱と燐花が襲いかかる。
防御姿勢をとる遥――の背後からきせきが躍り出た。刀を乱暴に叩き付けてくるきせき。
それに対処しようとしたところで、ヤマトが空中からエアブリットを乱射。
大量のチョコを頬張り、時雨はぎらりと笑った。
回復を受けた燐花と浅葱がエアブリットの弾幕を抜けて遥にツインラリアットを食らわせた。
もんどりうって転倒する遥。
ついでに小唄もと、シンメトリーパンチを繰り出した二人だが、小唄は二人の腕を馬跳びにして膝蹴り。額にごっつんと膝を食らった浅葱たちは同時にひっくり返った。
激しく入り乱れる戦闘風景。ほぼ互角のバトルである。
ちなみにネタバレすると、時雨がチョコ食いすぎて鼻血を吹いた辺りから男子チームが勝った模様である。
本日二月十四日。御多分に漏れず義理チョコ交換が行なわれていた五麟市である。
神室・祇澄(CL2000017)もそうだった。こりこりと噛み砕きながら双刀を構える。
型は防御。
劣勢ゆえだ。
相手は鎖鎌を鎌と鎖分銅に分離して使う七海 灯(CL2000579)。
先制で放った灯の分銅を柄頭だけで打ち返す。下手に刀身で防御すれば絡まれるからだ。
防御の隙に接近してきた灯の鎌を今度は刀で受け止めた。トリッキーな相手である。一辺倒の防御をしていては崩される。パズルゲームとリズムゲームを同時にやっている気分だ。
だというのに。
「灯、そろそろアレを出していい頃よ」
三島 椿(CL2000061)が深想水を発動それを受け、灯は肉体から激しい蒸気を吹き上げた。
「行きます!」
真っ赤なオーラに包まれた灯が激しいパワーで祇澄を蹴飛ばした。
分銅を放ち、放った速度より早く自らが接近。鎌を繰り出す。
祇澄は牽制の斬撃を放つが、灯は防御すらせずに突っ込んできた。
腹部に直撃。
祇澄は吹き飛び、ごろごろと転がった。
「防御を捨てるなんて……」
「回復は三島さんに任せました。私は、征くのみ!」
鎖鎌を連結させて構える灯。
そこへ。
「けどその戦法」
「二対二だったら使えないですよねぇ~」
阿久津 ほのか(CL2001276)と志賀 沙月(CL2001296)が横合いから襲撃してきた。
ほのかが隆槍を連続発動。次々に突き上がる大地の槍を灯はギリギリのところでかわしていく。が、その隙に横を抜けた沙月が鞭で椿を捕捉した。
「男相手がよかったけど……この期に乗じて憂さ晴らしさせてもらいわよ!」
上空に逃げようとした無理に椿を引きずり下ろし、鞭による打撃を始める沙月。
「私になんでも押しつけんじゃないわよ編集長!」
「編集長!?」
「さらにどっかーん!」
ほのかが狙いを椿にシフト――しようとした所で、灯が割って入った。
分銅を叩き付けてはねのける。
そこへ、さらに。
水の竜が現われ、灯やほのかたちを一斉にはじき飛ばしていく。
聞こえてくる楽器演奏。
霧の中から現われる向日葵 御菓子(CL2000429)と守衛野 鈴鳴(CL2000222)。
鈴鳴は大きなフラッグをぐるぐると回しながら足踏みを始めた。
「お手伝い頂いて、すみません。奏空さんたちを助けていたら消耗してしまって……」
「いいえ、大事な教え子たちですから。私たちだけ残ってしまったのは予想しませんでしたけど。折角です、最後まで残りましょう」
演奏を更に激化させる御菓子。
「二対二対二……みつどもえ、始めましょうか」
「参ります!」
鈴鳴突撃。
反撃に灯が鎖を放ち、沙月が鞭を放った。それぞれを旗軸で防御。巻き付く鎖と鞭をそのままに、鈴鳴は軸を回転。捕捉したつもりが逆に巻き込まれた灯たちに、これ幸いと隆槍をしかけるほのか。
そのほのかの背後に、祇澄がゆらりと現われた。
不意打ちの斬撃。
咄嗟に防御するほのか。
鈴鳴はそうした乱戦の奥にいる椿にエアブリットによる狙い撃ちを仕掛ける――が、それを椿は弓矢によるカウンターアローで相殺した。
「不意打ちしようとしても無駄よ、わかるわ」
「っ――先生!」
「ええ、先生がちっちゃいからって甘く見ると、痛い目見るんだからね!」
御菓子は再び水の竜を生成。
灯たちは鈴鳴から飛び退き、それぞれの武器を構えた。
くどいようだが本日二月十四日。
合コン比率のバトルパーティーが開かれたりリア充狩りと保護者チームによる激闘が起きたり色々と忙しいバトルロワイヤルだが、最後に残ったのは本命チョコを獲得せし者たちだった。
今宵バレンタインデー。やはりチョコを持ったものが勝者ということなのか。
さあ見よ彼の勇――。
「よく役にたってくれました。僕が自分に買った、本命チョコレート……」
あれ?
橘 誠二郎(CL2000665)は口元をハンカチでぬぐうと、素早く棍棒を構えた。
対戦相手の接近を感知したからだ。
「自分で自分にチョコを買うなんて……そんな人には負けません」
ひどくもっともなことを言って、納屋 タヱ子(CL2000019)がビシリとハート型ド本命のチョコレートを掲げた。
「見なさい、この手作りチョコレートを!」
「それは一体だれから」
「自分で作りました!」
「…………」
「…………」
口に手を当て、目をそらす誠二郎。
同じく口に手を当て、目をそらすタヱ子。
なんて人たちが残ってしまったのか。
誰から貰ったチョコかは確かに重要だったが、まさか本命チョコの持ち主が半数以上自分に買ってくるなんて誰が想像した。
「ああ、カミサマ。この報われぬ子羊たちをお救いください」
キリエ・E・トロープス(CL2000372)がハート型のド本命チョコを胸に抱いて現われた。
「「……」」
誠二郎とタヱ子は一度顔を見合わせた。コホンと咳払いする誠二郎。
「すみません、失礼ですがそのチョコは自分で買ったり作ったりしたものでしょうか?」
「いいえ、頂いたものです」
再び顔を見合わせる誠二郎とタヱ子。
確かに優勝はしたい。
したいが、あくまでバレンタインデーは愛の記念日。こういう日くらいはカップルに日の目を見せてあげていいのではないか。ここまで充分戦ったし。
「えっと、ではまず……」
「カミサマがわたくしにくださったのです!」
「「正々堂々勝負しましょう!」」
誠二郎とタヱ子は口元に手を当て、涙をこらえて飛びかかった。
今宵、悲しみの頂点を極める戦いが始まろうとしている。
「嗚呼カミサマ! 天まで届け目にみやれ! 燔祭のほのお!」
シスター服を冒涜的に引きちぎり、キリエはあらゆる意味で覚醒した。
激しい炎が彼女を中心に巻き起こり、螺旋状に地面を焼いていく。
「わたくしはおもしろおかしく過ごしておりますですよ! いずれカミのみもとに導かれるまで!」
炎を突き抜け、現われたのは誠二郎である。
突撃。杖を長く持ち、全身の体重をかけて先端を打ち付ける型だ。熟練した彼の技は鉄板すら打ち抜くが、それをキリエは本で受け止めた。紙だけでできた本だというのにだ。
目を異常なまでに見開き、薬物中毒者さながらの壊れた笑顔で叫んだ。
「カミサマ、この方に導きを!」
螺旋状に広がっていた炎が一旦彼女に集中し、それらがいっぺんに誠二郎へ襲いかかる。
それだけではない。拳に焼けとけたチョコレートを塗りたくり、誠二郎の顔面めがけて叩き込んできた。いや、顔面と言うより口だ。
当然口は閉じている誠二郎なので、拳は顎に直撃。
しかしその時既に誠二郎は杖を持ち替え、まるでバネ仕掛けのように片手打ちを仕掛けた。
ボールペンでこのような遊びをしたことがあるだろうか。柄をつまみ、先端を指で押さえて力を溜める。先端を離せば勢いよくペンが対象に叩き付けられるというものだ。
これを棍棒で、しかも熟練した技と筋力で繰り出したなら、人間の頭蓋骨くらいならスイカ割りのスイカ状態である。
それがよりによってキリエの側頭部に直撃した。
だというのに、例の笑顔を一ミリも崩すことなく、首だけおかしな方向に傾けていた。
「これも、聖じ、んへの想い、しんじ、てます、うふ、うふふ!」
数々の妖と戦ってきた誠二郎だが、人間が一番恐ろしいと感じたことも少なくない。
その一つが今だ。キリエは文字通り破顔しながら手を伸ばし、チョコレートと体液でべったりとした手で誠二郎の顔を握りしめたのだ。
人間から発するとは思えないほどの高熱。
これでは顔面が焼けただれてしまう。
物理防御の極めて高いタヱ子を岩にフォークを立てるがごとく削っていくより、まずは直接攻撃の可能なキリエから倒した方が無難だ。
そう思ったのが間違っていたのか、いやいない。こちらに回復手段が無い以上、消耗したところで漁夫の利を取られるだろう。
だがキリエもそれを考えないわけがない。消耗を避け、適度に攻撃しながら牽制し、タヱ子が隙をつかないように範囲攻撃で牽制してくると思った……のだが。
「うふふ」
なんという狂信。
なんという狂人。
自らの肉体破壊を全く気にせず、誠二郎を道連れにしてくるとは。
こうなっては仕方ない。誠二郎はキリエを滅多打ちにし、起き上がってこない所まで殴り倒した。
「勝利のためとはいえ、ここまでしなくてはならないとは……」
自分用本命チョコの時点でかなり恥を捨てたつもりだが、それだけでは勝てないステージなのだ。ここは。
ちらりと見やれば、防御態勢をきっちり整えたタヱ子がじわじわと迫ってくる。
誠二郎は脳内で様々なシミュレートを行なった。
全力で彼女を殴り続けるコース。体術によるスタミナ切れを起こすのが先だ。
出血や痺れを起こさせて鞭で追い詰めるコース。タヱ子は戦いの中で深想水を使ったのを見た。バッドステータスでのアドバンテージはとれない。
いっそ武器でしこたま殴り続けるのは。無理だ、防御を抜けない。
「っ……!」
誠二郎は、自分が壁際まで追い詰められているのを知覚した。
杖を手放し、両手をあげる。
「降参です。手作りチョコレートには勝てませんね」
「……ありがとうございます」
タヱ子は盾を手放し、大きく大きく息を吸い込んだ。
そして見えぬ天空を見上げ。
吠えた。
「こんなの絶対バレンタインデーじゃなーい!」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
優勝者へバトルロワイヤル賞品が贈与されました。
・取得キャラクター(ID):納屋 タヱ子(CL2000019)
・取得アイテム名:シールドブーメラン
・取得キャラクター(ID):納屋 タヱ子(CL2000019)
・取得アイテム名:シールドブーメラン
