唐突に五麟を襲う七の星 人を制すは正義か悪か
●七星剣
「唐突だが、FiVEを倒しに行く」
八神勇雄の言葉に、集められた七星剣隔者は驚きの顔を隠せなかった。
七星剣がFiVEを攻めなかった理由はいくつかある。
一つ、多くの夢見に襲撃が露見されるため情報面で不利になるであろうこと。
一つ、イレブンを始めとした憤怒者の牽制用に戦力を温存しておくこと。
一つ、元より自分勝手な隔者はチームプレイでは覚者組織に劣るということ。
最後に、八神自身がその命令を下さなかったこと。
だが――
「今はFiVEに多くの古妖が集められている。その古妖達を俺の神具で暴れさせれば、混乱を起こして連中の動きを止めることができる。
夢見がこれを予見すれば、当然戦力を裂く羽目になる」
夢見による露見を考慮に入れた作戦。
「イレブンは既に形骸化し、憤怒者による抵抗は無視していい。
そしてお前達は好き勝手暴れればいい。俺の言うことを聞け、とは言わねぇ。俺も俺で好きにやるさ」
元よりチームプレイを考慮しない略奪戦。統率などを放棄した、言ってしまえば雑な作戦。だからこそ、自分勝手である隔者の意思を統一することが出来る。敵を倒せ。己の欲望のまま攻めろ。
(ワリィな『花骨牌』。お前の作戦、俺の性に合わねぇや)
心の中で最後の幹部に謝罪しながら、八神は歩を進める。
(力でねじ伏せて、屈服させる。悪党は悪党らしくやらせてもらうぜ。
大妖と『その後』のこともある。おそらく派手に喧嘩が出来るのはこれが最後だろうよ)
自分勝手でわがまま。力で全てを制し、やりたいようにやる。
それこそが隔者の首魁、八神勇雄だ。
「俺の前に道はなく、俺の後にこそ道ができる。お前らはそれについて来い。俺がお前らに住みやすい未来を作ってやる!
『無道』八神勇雄の喧嘩だ。派手にやろうじゃないか!」
●FiVE
「……本当なのか!?」
「はい。八神勇雄率いる隔者集団がFiVEに接近しています」
夢見から話を聞いた中 恭介(nCL2000002)は、青天の霹靂とばかりに驚きの声を上げた。夢見による予知能力を知っている者なら、この愚をすぐに理解できる。攻めてくる方向が分かるのなら、迎撃や不意打ちは容易い。
「何かの罠か。……どちらにせよ、五麟市を蹂躙されるわけにはいかない。すぐに覚者達に連絡を――」
「夢見からの新たな予知です! FiVEが保有している古妖達が暴れはじめました!
おそらく八神の持つ神具・七星剣の効果と思われます!」
『そちらは何とかしよう』
中の頭に直接声が届く。
「九尾狐……なのか?」
『この力は私と同質の力。干渉は可能だ。だが古妖封印に力を割いていることもあり、完全に止めることはできないだろう。癒しの術で悪鬼を祓ってやってくれ』
「助かった。古妖に剣を向けるより、よっぽど気が楽だ」
暴れる古妖を大人しくさせるには、癒しの術を使えばいい。殴って気を失わせるより、気分は楽だ。
「……しかし、わからん。何故このタイミングだ? てっきり七星剣は持久戦をすると思っていたのに……?」
中は誰にも聞こえないように呟く。古妖を保護させることによる持久戦。こちらのキャパシティを超えるほど古妖を保護させ、疲弊させる作戦。それが七星剣の狙いだと思っていたのに。
だが襲撃は事実だ。今更夢見の予知に異論をはさむ気はない。
中は五麟市中の覚者達に連絡を取る。
『七星剣の八神が攻めてきた!』……と。
●八神勇雄
(この戦いも、どっかで見てるんだろうよ)
八神は夜空を見上げ、憎々しげに眉を顰める。
(クソッタレな話だぜ。何もかも思惑通りか。だったら少しでもその思惑を外してやらぁ。
テメェの思惑通りに『栽培』なんざさせねぇよ)
神具を握り、八神は五麟市の方を見る。
(平和なんざ、来ない方が血が流れないなんてぇのも変な話だよな。
ワリィな、FiVE。お前らの甘っちょろい理想はきっちり潰させてもらうぜ)
「唐突だが、FiVEを倒しに行く」
八神勇雄の言葉に、集められた七星剣隔者は驚きの顔を隠せなかった。
七星剣がFiVEを攻めなかった理由はいくつかある。
一つ、多くの夢見に襲撃が露見されるため情報面で不利になるであろうこと。
一つ、イレブンを始めとした憤怒者の牽制用に戦力を温存しておくこと。
一つ、元より自分勝手な隔者はチームプレイでは覚者組織に劣るということ。
最後に、八神自身がその命令を下さなかったこと。
だが――
「今はFiVEに多くの古妖が集められている。その古妖達を俺の神具で暴れさせれば、混乱を起こして連中の動きを止めることができる。
夢見がこれを予見すれば、当然戦力を裂く羽目になる」
夢見による露見を考慮に入れた作戦。
「イレブンは既に形骸化し、憤怒者による抵抗は無視していい。
そしてお前達は好き勝手暴れればいい。俺の言うことを聞け、とは言わねぇ。俺も俺で好きにやるさ」
元よりチームプレイを考慮しない略奪戦。統率などを放棄した、言ってしまえば雑な作戦。だからこそ、自分勝手である隔者の意思を統一することが出来る。敵を倒せ。己の欲望のまま攻めろ。
(ワリィな『花骨牌』。お前の作戦、俺の性に合わねぇや)
心の中で最後の幹部に謝罪しながら、八神は歩を進める。
(力でねじ伏せて、屈服させる。悪党は悪党らしくやらせてもらうぜ。
大妖と『その後』のこともある。おそらく派手に喧嘩が出来るのはこれが最後だろうよ)
自分勝手でわがまま。力で全てを制し、やりたいようにやる。
それこそが隔者の首魁、八神勇雄だ。
「俺の前に道はなく、俺の後にこそ道ができる。お前らはそれについて来い。俺がお前らに住みやすい未来を作ってやる!
『無道』八神勇雄の喧嘩だ。派手にやろうじゃないか!」
●FiVE
「……本当なのか!?」
「はい。八神勇雄率いる隔者集団がFiVEに接近しています」
夢見から話を聞いた中 恭介(nCL2000002)は、青天の霹靂とばかりに驚きの声を上げた。夢見による予知能力を知っている者なら、この愚をすぐに理解できる。攻めてくる方向が分かるのなら、迎撃や不意打ちは容易い。
「何かの罠か。……どちらにせよ、五麟市を蹂躙されるわけにはいかない。すぐに覚者達に連絡を――」
「夢見からの新たな予知です! FiVEが保有している古妖達が暴れはじめました!
おそらく八神の持つ神具・七星剣の効果と思われます!」
『そちらは何とかしよう』
中の頭に直接声が届く。
「九尾狐……なのか?」
『この力は私と同質の力。干渉は可能だ。だが古妖封印に力を割いていることもあり、完全に止めることはできないだろう。癒しの術で悪鬼を祓ってやってくれ』
「助かった。古妖に剣を向けるより、よっぽど気が楽だ」
暴れる古妖を大人しくさせるには、癒しの術を使えばいい。殴って気を失わせるより、気分は楽だ。
「……しかし、わからん。何故このタイミングだ? てっきり七星剣は持久戦をすると思っていたのに……?」
中は誰にも聞こえないように呟く。古妖を保護させることによる持久戦。こちらのキャパシティを超えるほど古妖を保護させ、疲弊させる作戦。それが七星剣の狙いだと思っていたのに。
だが襲撃は事実だ。今更夢見の予知に異論をはさむ気はない。
中は五麟市中の覚者達に連絡を取る。
『七星剣の八神が攻めてきた!』……と。
●八神勇雄
(この戦いも、どっかで見てるんだろうよ)
八神は夜空を見上げ、憎々しげに眉を顰める。
(クソッタレな話だぜ。何もかも思惑通りか。だったら少しでもその思惑を外してやらぁ。
テメェの思惑通りに『栽培』なんざさせねぇよ)
神具を握り、八神は五麟市の方を見る。
(平和なんざ、来ない方が血が流れないなんてぇのも変な話だよな。
ワリィな、FiVE。お前らの甘っちょろい理想はきっちり潰させてもらうぜ)

■シナリオ詳細
■成功条件
1.古妖を鎮静化する
2.八神勇雄の打破
3.なし
2.八神勇雄の打破
3.なし
七星剣首魁、攻勢。
●説明っ!
『花骨牌』の策謀にしびれを切らした七星剣の頭、八神勇雄が隔者を連れて五麟市に突撃してくる未来を予知しました。
八神は神具・七星剣を用いて五麟市にいる古妖を狂暴化させますが、同質の力を持つ九尾狐がある程度これを鎮静化します。しかし完全ではない為、こちらに余力を裂かざるを得ないのも事実です。
襲撃の方向は解っているため、準備は入念に行えます。隔者の大半を遮断し、八神とその警護隔者のみの闘いにもっていくことは十分可能です。
戦場は【五麟市内】【五麟大橋】の二ヶ所に分かれます。参加する場所をプレイングの冒頭、もしくはEXプレイングに書いてください。書かれていない場合は、STがランダムに決定します。
【五麟市内】
神具・七星剣の影響で暴れる古妖。これを大人しくさせる部隊です。
九尾狐の力によりその影響は弱まっていますが、完全に取り除けたわけではありません。システム的にはバッドステータスにかかっている状態です。術で取り除くか、物理的に殴って大人しくさせてください。
攻撃方法は古妖によって様々ですが、基本的に殴ってきたり(物近単)、その古妖が持つ術(特遠単)になります。
【五麟大橋】
五麟市と隣の市を繋ぐ大橋です。橋の構造を利用して伸び切った隔者を遮断し、八神本人に襲撃を加えます。橋のアーチから飛び降りたり、翼人に空から運んでもらったり。落下ダメージとか野暮なことは言いっこなし。
八神を守る隔者は十名ほど。それぞれ中級の体術を有しています。
・八神勇雄
七星剣の首魁です。その力とカリスマで隔者をまとめ、悪路をもって国を得ようとしています。
古妖を操る神具・七星剣を使い、五麟市にいる古妖を暴れさせると同時に七星剣に吸収された古妖の力を用いて攻撃します。
雨竜咆哮 特遠全 七星剣に取り込んだ龍の咆哮。戦場を豪雨が襲います。【弱体】
火炎車輪 特近列 七星剣に取り込んだ火車の炎。円状に業火が生まれます。【焔傷】
転輪枕返 特近単 七星剣に取り込んだ枕返しの反魂術。死に至る眠りが訪れます。【爆睡】 【不随】【無力】
悪路王 物遠列 鬼の斬撃。力強い一撃が相手に恐怖を与える。【不安】【二連】
無道 物近列貫2 八神勇雄の技。全てを貫き、道を切り開く武技。(100%、50%)【三連】【未開】
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
皆様からのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
相談日数
8日
8日
参加費
50LP
50LP
参加人数
39/∞
39/∞
公開日
2018年12月24日
2018年12月24日
■メイン参加者 39人■

●五麟市内・壱
神具・七星剣により自らの意志に反して暴れている古妖達。それを止めるべく覚者達が動き出す。
「皆様、落ち着いて下さいませ! 八神などに負けてはいけませんわ!」
叫びながら霧を放って古妖達の視界を遮る『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)。古妖に罪はない。神具の力で暴れているだけの彼らの前に立ちふさがり、その足を止める。たとえそれで傷ついても構わない。
(負けません! こんな悪意なんかに負けるほど、いのりたちは弱くないことを証明して見せます!)
隔者の悪意は人の悪意。だが人間は悪意と同じだけの善意がある。誰もが暴力だけで生きることはなく、聖人とて手段として拳を振るうこともある。人の善意を信じて未来を紡ぐ。それこそが人の力なのだといのりは信じていた。
「いのり達が皆を癒します! それまで待っていてください!」
「もう、暴れちゃダメだよ。メッ!」
『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)は暴れる古妖を落ち着かせてから、軽く注意をしていた。それは親が子供に注意する様な優しさ。自分が親からされたように、奈南も古妖を叱っていく。親から受けた優しさを伝えるように厳しく、そして優しく。
「だからー。落ち着かないとだめー!」
奈南の注意を受けてもなお暴れまわる古妖には、しょうがないなぁとばかりに張り手を噛ます。元よりパワフルな奈南の一撃は、神具がなくとも十分な威力があった。子供と思っていた物から受けた強烈な一撃で腰が砕ける古妖。その隙をつくように『めっ』する奈南。
「ワワン。次は何処か聞き分けてー?」
「あちらですね。自分が向かいます」
救急箱を手に走る『シューター』叶・笹(CL2001643)。少しでも自分の力が戦いの役に立てればと、息を切らせて古妖の下に向かう。術式と医学知識。その二つを併用して古妖の傷を癒していく。
「大丈夫。覚者達が助けに来たから」
傷ついた古妖に声をかける笹。大事なのはしっかりと言葉にすること。技術が届く保証なんてない。絶望しかないかもしれない。先が見えない状態でも、安堵させ全力を尽くす。それこそが癒しの第一歩。体だけではなく、心も癒す仁の道。
「大橋から隔者が流れてくる前にどうにかしないと……」
「橋はそっちに向かった人達に任せるの!」
言って走り回る『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)。五麟大橋には兄や従姉妹達が向かっている。だから歩は大丈夫だと信じることが出来る。たとえ相手がどれだけ強くとも、彼らの心が折れることなどないのだから。
「一つ一つ。心を込めて……」
歩は水の術式を使って古妖を癒していく。術式の特性上一人ずつにしか掛けられないが、それでも焦ることなく古妖を癒していく。一つずつ、丹念に。それは歩が学んだ大事な事。古妖一人一人の名を呟きながら癒していく。
「古妖さん達をあやつった悪い人は、きっとみんながやっつけてくれるから安心してね」
「はい。民を守るべき立場のユスが前にでないわけにいきませんわ」
にっこり微笑み歩の傍に立つ『モイ!モイ♪モイ!』ユスティーナ・オブ・グレイブル(CL2001197)。癒しの術はないが、誰かを守る術はある。ユスティーナは歩の傍に立ち、彼女に迫る攻撃を防いでいた。
「怪我した古妖は運んでください。後逃げ遅れた民はあちらに」
大きな盾を持ちながら、てきぱきと指示を飛ばすユスティーナ。その姿は戦場を先駆ける姫騎士の如く。不安を持つ者を導き、正しき道へと進ませる聖女。悪から無辜の民を守るため、その盾は光り輝くだろう。
「ふふ。守りは兄者上直伝ですのよ? 簡単に突破できないと思ってくださいね」
「戦うウサギさん、緊急参戦なのよ!」
拳を握って『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)は五麟市内を走る。守護使役の『ころん』を携えて、暴れる古妖の下に向かう。術式を展開してその意識を取り戻させ、よかったねと撫でてあげた。
「古妖の力をあすかたちにも貸して欲しいのよ!」
飛鳥は正気に戻った古妖達に声をかけて、事態の鎮静化を進める。回復能力を持つ者は古妖鎮静化の方に動き、そうでなくともその能力を生かして避難誘導などに向かわせる。物理的に暴れる古妖を押さえてくれるだけでも大助かりだ。
「あすか達と古妖達、皆で手を取り合って乗り切るのよ!」
「正気に戻った古妖達は避難させておいた方がいいかもと思ったが、思わぬ援軍だな」
古妖と手を取り合う飛鳥を見て『白銀の嚆矢』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は感心したように頷いた。無理をさせてはいけないと思ってはいたが、古妖の意思を尊重するなら問題ないだろう。
「本来なら人間の術式でなんとかできる状態ではなかったろうが……な!」
言いながら水の源素を練り上げて古妖に向かって放つ。優しい癒しの要素を含んだ水が古妖に触れる。九尾狐により緩和された悪意のひとかけらをゲイルの放った水が洗い流した。一息つく間もなく、さらにもう一つ。舞うように足を運びながら癒し続ける。
「少しでも早く五麟市内の混乱を鎮静化しないとな……」
ゲイルが懸念するように、五麟市の混乱は続く。それはそれだけFiVEが古妖を保護し、守ろうと思ったからこそ。それを利用された形になる。
(……それにしても攻めてきた意図が読めない)
中は七星剣はFiVEの疲弊を狙っていると読んでいた。古妖を保護することによる長期的な資源削り。だがそうなる前に大々的に攻めてくる。その作戦がけして無策と言うわけではないのだが――
どちらにせよ、賽は投げられた。七星剣とFiVE。その意思がぶつかり合う。
●五麟大橋・壱
五麟市と他市を繋ぐ橋。
その両側にバリケードを展開して隔者を足止めし、橋中央にいる八神勇雄を襲撃する覚者達。
「うおぉぉぉーーーー! こんしんのおーえんっ!」
ククル ミラノ(CL2001142)は橋の欄干の上から皆を癒すべく癒しの術式を放つ。猫の尻尾と耳と揺らしながら、踊るように全身の力を使って術を放つ。一挙一動にがんばれの気持ちを込めて、一心不乱に舞い続ける。
「……また暴力と破壊……」
上月・里桜(CL2001274)は八神を守る隔者の方を見てそう呟いた。八神には別の覚者が向かう。ならばそちらの邪魔をさせないように動こう。幸いにして浮足立った隔者は次にどうすべきか迷っている。
「八神さんの元には向かわせませんよ」
里桜の言葉と共に橋に伝播する力。それが隔者の足元にたどり着くと同時に隆起し、槍となって彼らの足を阻む。隔者の暴力に五麟市を蹂躙させない為に、里桜は全力で戦いに挑む。仲間を癒し、盾となり。
「大丈夫です。私たちならやれます」
「八神のおっさん……搦め手よりも正面対決ってわけか」
八神を見ながら『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は唾をのんだ。ただ立っているだけなのに、攻める気力がわいてこない。否、飛馬に攻め気はある。それを削ぐような威圧感がその足を止めていた。何処から攻めても対応されそうな、そんな立ち様だ。
「――っ! 巖心流を甘く見るなよ!」
八神の肩が動く。目がそれを認識するより先に飛馬の刀は動いていた。神具の突きを受け流し、流れるように攻めに移る。攻め、受け、攻め受け、攻め攻め攻め。防御を基点とした流れるような攻め。修行を繰り返した体は思うより先に動いていた。
「待とうって思えばそれも出来たのに直接の決着を求めたってのは粋だよな。敵ながらあっぱれだぜ」
「そうだな。できればそれに答えてやりたいもんだ。折角の御大出場なんだからな」
八神の方を見ながら『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495)は決意を固める。敵は敵なりの覚悟を決めている。ならばその覚悟に応じなくては。その覚悟を理解することはできないが、それでも応えることはできる。癒しの術を行使しながら、八神に問いかけた。
「俺からしたら短慮に過ぎないんだが……。御大自ら何やってんだ?」
「ああ、短慮だ。隔者なんざそんなもんよ。『正しい』に従えるような性格はしてねぇんだよ」
「……FiVEに勝つ算段でもあるのか? それとも追い詰められているのか?」
「両方さ。お前らに勝って、さらに今の状況を打破する! そういうわけなんでやられてくれや!」
「あほか。黙ってやられるつもりはあらへんで!」
言いながら欄干から飛び、八神の目の前に着地する『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。そのまま愛刀を抜き、八神に斬りかかる。振るわれる剣線は燃える炎のように赤く、その責め様は燎原を思わせるほど激しく。それこそが焔陰流とばかりに全てを出し切っていた。
「出し惜しみはせんからな。おっさんも自分の全て見せてみや!」
「ああ、ここが勝負所だ。受けてみやがれ!」
凛の挑発に乗るように八神が神具を振るう。道なき荒野を切り開く隔者の一打。それに合わせるように凛も奥義を繰り出す。数千の論議よりも一戦の攻防。たった一度だが全力の交差が互いの剣技を理解させる。傷つきながらも凛は笑みを浮かべていた。
「こないだは消化不良やったやろからな。これぐらいヒリつく戦いの方が楽しめるわ!」
「ああ。ここで決着をつけてやる!」
欄干を走り、神具七星剣の呪いを避ける縁起担ぎをする『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)。その剣先に並ばないように動きながら八神を攻める。炎を纏ったトンファーが八神を攻め立てる。
「善と思っていた者が悪であり、悪と思っている者が善となるってか? その腐った夢ごと燃やし尽くしてやるぜ!」
善と悪は表裏一体。ただの価値観の相違でしかない。道徳や時代によってそれらは簡単に裏返る。だがそれでも貫かなくてはいけない事はある。悪路により支配される未来など一悟は認めるわけにはいかない。
「八神さん。あんたが剣を振るってちゃ、天帝にはなれねぇよ」
「はっはっは。吠えてくれるな若造。ならその言葉、証明して見せな!」
「どうあれこれは明確な侵略行動です。許すわけにはいきません!」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は己を象徴する炎を放ち、隔者達に向ける。赤々と燃える炎は進行を妨げ、その身体を焼く。自らの領域を犯すものを駆逐すべく、五麟大橋に紅の花が咲く。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラの本の上に魔法陣が走り、そこから炎が生まれる。赤き舌は舐めるように五條大橋を蹂躙し、その上にいた隔者達を巻き込んでいく。炎は熱気で体力を奪い、痛みで皮膚を焼いていく。自然の怒りを操る魔女。ラーラの姿はまさにそれを想起させる。
「帰りなさい隔者! ここより先に生きる道はありません!」
「ええ。ここで貴方達を止めさせてもらいます」
「互いに譲れない者はあるのだろうがね。だからこそ、かける言葉はないよ」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)と 『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)は並んで八神の前に立つ。二人の想いは硬く、そして誰にも譲ることはできない。戦う理由は大事な場所と未来を守るため。たったそれだけの、譲れない想い。
「いってきますね」
短く告げる燐花。かける言葉は一言でいい。終わった後に沢山言葉をかければいいのだから。死ぬかもしれない後悔は抱かない。もうこれが最後だとは思わない。約束したのだ。その約束を守るべく、二刀は振るわれた。
「気を付けて……というのもおかしいかな? 燐ちゃん達が攻撃に専念できるよう、全力で支援をするね」
たった七文字の燐花の一言。そこに含まれた糸をすべて察し、恭司は頷いた。今自分がやるべきことは彼女を心配することではない。共に交わした約束を守るべく全力で燐花を守ること。自分ができる最大の支援を。
「柳と申します。お手合わせ願います」
「八神だ。来な」
短い会話の後に交差する神具。パワー重視の八神とスピード重視の燐花。一撃の差は八神に、手数は燐花に分がある。そしてその差を埋めるべく恭司がサポートしていた。息の合った二人の動きが、隔者の頂点からの一撃を凌駕する。
「やるなぁ……! だがまだまだ俺は倒れんぞ!」
血を流し、息を切らしながら八神は吼える。その言葉に嘘はないのだろう。神具・七星剣を握る手に力がこもり、古妖達にもっと暴れるように力を注いでいく。
「俺はここだ、FiVEの覚者! この首欲しければ挑んで来い。この剣欲しければ応えてやる!
お前らを倒せば、俺に逆らう覚者(せいぎ)は心折れて潰える。それが嫌なら命を賭してかかってきな!」
FiVEを煽るように大声を出す八神。自らを狙えと身をさらけ出し、覚者に挑む。
その意図はどうあれ、その言葉に間違いはない。覚者最大勢力のFiVEが壊滅すれば、七星剣に歯向かう組織はなくなるだろう。そんな未来だけは迎えさせるわけにはいかない。
五麟大橋の上、覚者と隔者は激しくぶつかり合う。
●五麟市内・弐
「元に戻りなさーい!」
五麟市内を走り回る『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)。看護師を目指す彼女は古妖も人も分け隔てなく癒す。かつて助けてもらった自分の命を繋げるように、誰かを助けていく。
「なつねの小さな体でどれだけ頑張れるかわからないけど、全力でがんばるの!」
気合を入れる野武 七雅(CL2001141)。守護使役の『ちゅん』と一緒に五麟市内を走り回っていた。暴れる古妖を見つけては癒しの術を放ち、神具七星剣の呪縛から解き放っていく。暴れる古妖は怖いけど、それ以上に助けなきゃと言う思いが強かった。
「癒しのぱわーを送るの!」
幼い口調だが、自分のやるべきことは解っている。水の源素を取り入れ、癒しの術式に変換して放出する。何度も何度も行って来た動作。その動作が古妖を助け、五麟市を救っていく。
「痛くなかった? 古妖さんもう一回癒してあげるの!」
「神具七星剣の及ぶ範囲……広いね」
五麟市の空を舞いながら大辻・想良(CL2001476)は観察していた。自分を中心にしているのではなく、基点を指定できる範囲型なのだろう。効果は五麟市全てに及んでいる。観察をしながら遠距離攻撃をする古妖に注意し、想良は古妖を癒していた。
「古妖さんたちを保護したつもりで、かえって大変なことになっちゃったね」
守護使役の『天』に話しかける想良。FiVEが七星剣に追われる古妖を保護したことは後悔していない。それが隔者の策だと分かっていても、誇りをもって救うだろう。だから想良もできることをするまでだ。大変だからと言って逃げたりはしない。
「次はあっちに行くよ。ついて来て、天」
「八神が太上老君の持つ剣をどうやって得たのか、も気になるけど……」
篁・三十三(CL2001480)は頭を掻きながら五麟市を走る。伝承によれば太上老君から七星剣を盗んだ金角銀角は孫悟空と相対したという。それがまだ地上にあったとして、どう流れて八神の手に渡ったのか――
「いや。まずはこの現状を打破せねば」
頭を振って三十三は仲間の自然治癒力を高めた後に、操られている古妖達の元に向かう。再生の炎を飛ばし、七星剣の影響を焼き払った。感謝を求める古妖の瞳。それはかつて力が原因で迫害された三十三にとって、衝撃を与えていた。
「……良かった。救うことが出来たようだ」
「貴方たちの意思じゃないことはわかっているわ」
暴れる古妖達を前に優しく告げる『月々紅花』環 大和(CL2000477)。神具七星剣により強制的に操られている古妖。彼らは八神の被害者だ。だから癒そう。それが出来るだけの状況が整っているのだから。
「あぶないから皆こっちに来て。古妖達はFiVEの覚者が受け持ちます」
言って太もものホルダーから術符を取り出し、大和は舞う。とん、とん、とんと優しい足取りで地面に印を刻み、符の角度を調整して因果を正す。七星剣によって穿たれた因子が解けるように消え、古妖の意識が取り戻される。
「もう大丈夫。無理矢理悪意を持たされて辛かったでしょう?」
「心が痛いけど、ここは踏ん張り時や。八重さん準備はええ?」
「ふふ、操られてる方にあんまり手荒な事はしたくないですけど……あんまり余裕ありませんし痛かったらごめんなさいね」
『幸福の黒猫』椿 那由多(CL2001442)と『深緑』十夜 八重(CL2000122) は二人で五麟市内を走る。八重が僅かに浮いて視界を確保し、暴れている古妖を見つけてはそちらに向かって術式を放つ。
「古妖たちに罪はあらへん……出来るだけ傷つけたりしたくないよって」
「ふふ。私は那由多さんのやりたいことを支えるだけです。わがままいくらでも言ってくださいね」
八重は那由多に向かって微笑み、那由多は嬉しそうに笑みを返す。一人だからできないことも、二人ならできる。古妖がどれだけ暴れても、そっと支えてくれる。そう信じることが出来るから。
古妖の状態をスキャンし、状態を探ってから最適な術を放つ那由多。暴れようとする古妖の動きを蔦で封じる八重。けして傷つけないように。そんな八重を守ろうと、那由多は祝詞を用いて守らせる。互いを思う心は二重螺旋のように絡み合いながら突き進み、決して崩れることはなかった。
それでも――
FiVEが確保した古妖の数は多い。何よりも神具・七星剣を封じる九尾狐の神通力も無限ではない。七星剣と同名と言う因子で干渉しているが、もともとは尾同士が離反しており疲弊している九尾狐だ。万全の状態とは言い難い。
「五麟市の平和はボク達がまもらないと……」
離宮院・太郎丸(CL2000131)は静かに呟く。既に自分が持つ回復の術式は出し尽くしている。それでも街の混乱は収まらない。
(さよ。ボクは――)
太郎丸は五麟大橋にいる妹のことを思う。八神の戦いに足を踏み入れた妹を心配し、『全て』を尽くすことに踏みとどまっていた。だが――
(うん。太郎丸おにいちゃん。さよも同じ気持ちだから)
そんな声が風に乗って聞こえてきた気がする。幻聴とは思えなかった。ずっと聞いていた妹の声だ。
(さよも『全力』を尽くします。だから太郎丸おにいちゃん、勝ちましょう)
●優しき兄妹の氷光
「さよも『全力』を尽くします。だから太郎丸おにいちゃん、勝ちましょう」
離宮院・さよ(CL2000870)はそう呟いて、翼を広げる。水の源素を展開し、周囲に解き放った。
源素はさよを中心にして広がる。そして同時期に同じように太郎丸が展開して広げた源素と重なり、更なる波紋を生んだ。波紋は天まで届き、雪となって降り注ぐ。
兄妹の生み出す源素の波紋が雪となって、五麟市内に伝達していった。細かな氷の結晶は、癒しの光を乱反射して広げていく。ダイヤモンドダストのような光。それは五麟市内全てを照らし、五麟大橋で戦う覚者達を癒していく。
「古妖達が大人しくなっていく。ありがと――」
「八神から受けた傷が……助かっ――」
覚者達が離宮院の方を振り向けば、そこには誰もいなかった。
二人のいた場所に、白い雪がふわふわと降り注いでいた――
●五麟大橋・弐
五麟大橋に雪が降り始める。雪は隔者達の足を止め、覚者達を癒していく。
「気力がわいてきます。幾らでもサポートできますよ」
奇跡の雪に力を与えられたサティア・ローズ(CL2000041)は拳を握って術を放ってサポートしていく。
「行くぜ! この間は上手くかわされたからな、今度こそ!」
「今回だけは無理無茶存分にしておいで。その背中はボクが守るから」
『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063) と『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)が八神に向かう。雷龍と鳳凰が同時に舞い、隔者達を一掃する。少し遅れて着地した二人が慣れたように展開する。翔は右に、紡は左に。
攻め手は翔。守り手は紡。はっきりした互いの役割。だからこそ背中を任せられる。翔の放った稲妻が八神を襲い、振るわれる七星剣の炎を払うべく紡が術を展開する。言葉を交わす必要などない。相棒がどう動くかなど、お互いに分かっているのだから。
「古妖操るとか。あの剣、チート過ぎんだろ!」
「全くだ。何なら名前を呼べば閉じ込めてくれるひょうたんとかが良かったか?」
「ああ、西遊記のあれね。っていうかそんなもの使わなくても強いんだからやめてほしいなぁ」
七星剣に封じられた古妖の術。それを凌ぎながら翔と紡は八神を攻めていた。
「アンタが何考えてるのか知らねーけど、大妖はオレらがやってやるから安心して倒れろよ!」
「心強いなぁ。だったら倒してみな。最も――俺からすれば大妖は前哨戦だがな!」
「うぇえ!? 何、隠しボスでもいるの!?」
「それ……もしかして、神様……?」
首をかしげ問いかける桂木・日那乃(CL2000941)。『花骨牌』との戦いから得た情報を組み立て、推測していた。まだ取っ掛かりの部分ではあるが、それでも手を掛ける部分は確かに見えてきていた。
言いながら回復の術気を展開する日那乃。『開かない本』に源素を集中させていく。展開される癒しの雨が覚者達の傷を癒していく。
「でも、神様が何を考えて、いても。ここに攻めてきて。夢見さんたちが、酷い目にあうなら、消す。
……これって、エゴっていう、の、ね。たぶん」
「違うぜ。それは生命として当然の行為だ。大事なものを守ることを悪し様に捉えるんじゃねえ」
「それを悪党の総大将が言うとはな!」
「確かにねー。ところで、お姫様抱っこされるのはそのー……」
『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)を抱えるようにして降りてくる『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)。空中でいろいろあったらしい。恥ずかしそうにする千雪を下ろす彩吹。
「危ないから下がっていて」
「はーい」
彩吹の声に下がる千雪。攻手と回復手。千雪は慣れた動きで彩吹から適度な距離を取る。けして邪魔にならず、しかし回復の範囲から離れない位置。彩吹もそれが分かっているから安心して攻めることが出来る。
「略奪なんてさせない。虐殺なんて許さない。五麟へは行かせないよ」
「俺が言葉で止まると思ってないんだろう?」
「当然!」
言って彩吹は蹴りを繰り出す。翼を広げて宙に留まりながら、回転するように攻め続ける。動きを止めるつもりはない。息が切れるまで全力で。ここで八神を倒し、七星剣を止めるまで。
「お前たちの選んだ『道』は行き止まりだ」
「行き止める壁も壊す。それが俺だ」
「だったらさらに強い壁を作る。それが僕らだよ」
言って千雪は木の源素を展開して地面に蔦を生やす。蔦は八神の足を止め、彩吹の攻撃を当たりやすくしていく。
「八神さん!」
先行していた隔者達が戻ってくる。その声を聞き、彩吹はそちらに視線を向けた。
「戦友の為に、あちらを潰させてもらうよ」
「うん。僕もサポートするよ」
彩吹が翼を広げ、跳躍する。その先に千雪の生み出した蔦が伸び、彩吹に絡みついて加速するように放り投げる。彩吹はそのまま橋の欄干を蹴って隔者の群れに突撃する。
「やろ――」
襲撃に反応するように隔者が神具を振るうが、それが彩吹に届く前に蔦が彩吹を宙に飛ばす。その移動ベクトルを殺さぬように翼を広げた彩吹は、さらに跳躍して橋の欄干を蹴ってその反動で隔者を蹴り伏せる。
「速――っていうか動きが読めねえ……!?」
単純な反射なら直線的なため軌跡は読める。だが蔦によるサポートが絶妙に彩吹の動きを加速させ、読みにくくさせていた。彩吹は千雪の蔦を何の疑問も抱かずに最大限に活用し、千雪も彩吹の動きが分かっているかのように蔦を行使していく。
「はっ! 先行した奴らを全滅させそうな勢いだな!」
「じゃじゃ馬にもほどがあるがな」
笑みを消した『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)。二人にはあとできっちり話をしないとな、と呟いて八神に向き直る。すぐに顔に笑みを戻し、神具を構えた。
「兵糧攻めを狙ってくるかと思ったんだけど……良くも悪くも これが八神という人なのか」
「だが悪手でもないだろう。古妖の対応に勢力を分断できたんだから。――まあ、七星剣が十全に発揮されないのは予想外だったがな」
ああ、八神は九尾狐のことは知らなかったのか。蒼羽は口に出さずに頷いた。こちらが優位な点もいくつかある。とにかく今はこの戦いを制するのみだ。天の源素を空に放ち、爆ぜるようにして細かな矢を生む。降り注ぐ矢が後続の隔者を穿っていく。
「僕の役目は露払いだ。任せたよ――」
「はい! 任されました!」
「上から御免! FiVEの工藤奏空、あんたの道筋案内させて貰います!」
『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は同時に八神に攻撃を仕掛ける。巨大な符を媒介して術を放つたまき。その隙を縫うように刃を放つ奏空。術と刃の両方で七星剣の首魁を攻め立てる。
「八神さん、『花骨牌』さんから話を聞きました……」
交戦しながらたまきは八神に問いかける。
「二十五年前の封印から出てきた物……源素の他に何があったんですか……?」
「ああ、そう勘違いしたか。いや、その勘違いこそが正しい。
出てきたのは『源素』だけだ」
たまきの問いに八神は七星剣を振るいながら答える。
「覚者、妖、そして大妖……それら全てを統べる始まりの何か。それこそが『源素』だ」
「……言っている意味が……だって源素は私達の力で……」
八神の言葉に息をのむたまき。手を振るうように自在に使える源素。覚者なら誰しもたまきのように『自分の力』と思って当然だ。
「俺達が使う力の意味。その正体。それを知れば何もかも信じられなくなる。力を使っているつもりが、その逆だと理解することになるぜ」
「……そんなこと、は……!」
「仮にそうだとしても、俺達が戦いを止める理由にはならない!」
震えるたまきを支えるように奏空は割って入り刃を振るう。たしかに知らないかもしれない。でも――八神や七星剣を許す理由にはならない。
「あんた、一人で大妖をなんとかするつもりなんだろ。二十五年前部下がしでかした事……源素を封印するために」
「不幸な事故だったさ。だが理由は罪償いじゃねえ。俺がそうしたいからそうするのさ!
この国を支配し、人を意のままに操り、秩序を壊す。その為にはすべてぶっ壊す!」
「……分かり合える道なんか、始めからないのか……だったら引導をくれてやる!」
「ええ、手を取り合うことは難しいようです。でも――」
悲しそうに『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は告げる。意見が違うことは仕方ない。それでも話し合い、妥協しあえるのが人間だ。だが妥協できないのなら離反するしかない。或いは、ぶつかるしかない。
「八神さん、貴方の本当の目的は何ですか? 大妖を倒したいのは知ってます。けれど最終目標はそれではないのでは?」
「そこの坊主にも告げたが、俺の目的は秩序を壊すこと――」
「その『秩序』――それが貴方の敵なのですね」
澄香は静かに指摘する。『花骨牌』はこう言った。『神様、言うんが分かりやすいかなあ?』……何かの比喩か冗談かと思っていたが、事実それがいると仮定するなら八神の言葉も変わってくる。
「貴方は私たちが知らない『秩序』を知っている。それが気に入らないから……」
「誰もが自由に生きている、と思っても結局何かに縛られている。社会、宗教、常識……有形無形の何かにな。
『源素』はその最たるものさ。様々な形で目覚めた者を縛り、クソッタレな舞台に放り込む。――気づかず意のままに動いているのさ」
「ワォー。要するにシステムに従えないからヤクザしてるってこと? 言い得て妙だね」
『妖槌・アイラブニポン』を振るいながら『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は橋を歩いてくる。
「教授、向こうに八神が」
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)も『豊四季式敷式弓』で露払いをしながら、五麟大橋を歩いていく。
「すみませんね。最後に五麟市内を見ておきたくて」
プリンスと秋人に導かれるように『教授』新田・成(CL2000538)は杖を手に歩く。
「最初は何処行くのかと思ったよ、プロフェッサー。あ、余の為に何か書き記してくれたとか?」
「そんな事をしなくても殿下は立派にやっていけますよ。もはや私の授業は必要ないでしょう」
「全力でサポートします」
プリンス、成、秋人は講堂の廊下を歩いている時のように、気軽に会話をしていた。とても船上とは思えぬほど気軽に、そして――
成は一足で八神の元に近づき、仕込み杖を振るう。神具七星剣と交差し、鋭い音が響き渡った。それを邪魔しようとする隔者を押さえるようにプリンスと秋人が展開する。
「五麟大に赴任し三十年。研究者として充実した時間でした。FiVEの若者達は強く成長した。教育者としての私の役割は終わりました。
最後は、一介の剣士として」
「その相手が俺か。悪党相手に命散らすなんざもったいない腕だぜ!」
「いいえ。貴方なら相手に不足無し。最後の講義と行きましょう!」
繰り返される剣戟。古妖の力を乗せた一閃を最低限の動きで変わる成。一打一打に生命力を込め、成は七星剣の首魁に刃を振るう。血が滾り、心が躍る。教育者としての服を捨て、戦に歓喜する剣士としての成がそこにあった。
「七星剣。――西遊記では太上老君が三蔵法師一行の成長を促すために、敢えて盗ませた宝。
その伝承から考えれば、簡単な推測でした」
切り結びながら、成は理論を展開していく。
「貴方が言う『秩序』……それは源素に目覚めた人間を戦わせ、成長させようとしている。
妖が人を襲うのもその一環。命が狙われるなら、戦わざるを得ませんからね。そうすることで私たちの源素は成長していく。それが『栽培』」
「当たりだ。最後の最後まで頭が回るな」
「これが性分ですので。ですが戦いに手を抜いているつもりはありませんよ。むしろこうすることで『己』を保っているほどです。
さて、そう考えると大妖の存在はその最たる存在だ。最初は七星剣と大妖が約定を結んでいると思いましたが、おそらくは違う。大妖はその『秩序』の為に動く。覚者をより効率的に戦わせるために」
「大妖は『条件』がそろわないと動けないのさ。『斬鉄』は戦いの気配が消えた時に。『黄泉路行列車』は人死数が減った時に。『新月の咆哮』は満月になった時に妖と覚者の勢力天秤を揃えるように動く。『紅蜘蛛』は因子発現した者の集団が一定以上の数になった時に。『後ろに立つ少女』だけはよくわからねぇがな。
大妖は人間が一定以上強くなった時に動き、適度に力を削いでいく。安寧を忘れさせ、戦わなくてはと駆り立てさせるために」
大妖には動くためのトリガーがある。あれだけの力を持つ者が常に暴れていれば、日本はすぐに滅んでいただろう。AAAが襲撃された時期はFiVEが活躍し、死亡率や激しい闘争を未然に防いでいた頃だ。
「以上のことを踏まえれば、貴方がどのように国を守ろうとしたかは明白だ。悪のトップに立って犯罪者をコントロールし、それら条件を満たさぬように動かしていく。
貴方の立場なら殺人や暴行事件の操作は容易でしょう。出過ぎた覚者組織を叩き『新月の咆哮』の矛先を変えることもできる。そして『紅蜘蛛』はもういない。活動率を考慮すれば『後ろに立つ少女』はない者としていい。大妖の動きをセーブし、結果論として死者の数を制限する」
成の組み立てた説を、覚者全員に伝播していくプリンス。
「ならば我々FiVEが七星剣を打破した後に為すべきことは一つです。
貴方が『秩序』と呼ぶ正体……二十五年前に解かれ、覚者が使う源素の意味を正しく知ること。その上で源素とどう向かっていくかを決める事。力ではなく知をもって挑み、人としての未来を紡ぐこと。
何のことはない。我々が今まで紡いできた教育と同じことです。そしてそれを為すだけの生徒は充分に育っている」
だから――もう役割は終わりだ。老兵は去り、若者に未来を進ませるために、
「これをもって、最終講義を終了とします。さあ、共に逝きましょう。八神勇雄」
「……はっ……! 力でどうにかできないのに、知恵でどうにかするってか。……ふざけんな……」
成と八神の剣が交差し、互いの胸を貫く。八神は、かすれた声で唇を動かす。
「やれるものなら……やってみな……死人が少ない方がいいって事なんざ、誰だって、わかって……」
八神の手から七星剣が離れ、支えを失った成が崩れ落ちる。持ち手を失った七星剣は、封が解かれたかのように砕けて霧散した。そこに閉じ込められていた古妖の魂魄が解放されるように天に昇っていく。
五麟大橋を戦場とした覚者と隔者の闘いは、こうして幕を閉じた。
●Morning――この国の朝を
「…………」
秋人は倒れた成を前に一礼し、背を向ける。講義は終わった。ならばそれを受けて進むのが先生に対する答えだ。
「結局、今までのツケは全部出世払いってことかい?」
プリンスは落ちていた成の杖を取り、そっと成の肩を叩く。戦場の臨時叙任の作法だ。
「なら、貴公が思わず忠誠誓っちゃうナイス王になんなきゃね」
プリンスは静かに未来を見る。夢見の予知ではなく、王として。
●幕間
「あーあ……七星剣、消えてもうた」
覚者との戦いに負け、五麟市で軟禁されている『花骨牌』は気だるげにつぶやく。
「これで本当に手札切れ。剣が消えたら参式を留める楔ものうなって、神様も午睡から覚めるやろうなぁ」
言って『花骨牌』は座り込み、壁に体重を預ける。
「旦那はん、嘘つきやわぁ。願い叶えたる言うたのに……結局自分のやりたいようにやって逝きおった。男はわがままやなあ。
……ほんま、女泣かせなあほうやわ」
頬から伝う液体が滴となって、床に落ちた――
●終わりの始まり
ほぼ壊滅状態だった隔者達は、八神が倒れたことにより完全に戦意を失う。逃げる場所もなく、神具を捨てて投降する者がほとんどだ。最後の抵抗とばかりに挑む者もいたが、歴戦の覚者達からすればささやかな抵抗だった。
覚者と隔者。その二つの戦いはこれで終わる。組織規模でない個人的な隔者事件はまだ起きるだろうが、大規模な隔者による犯行はこの戦いを機に潰えることになる。
だがこれで終わったわけではない。むしろここからがFiVEの戦いだ。
大妖。そしてそれを操る何か。それを知り、どうするか。
だが今は傷を癒そう。無事に守られた五麟市で仲間が待っている。
地洞 時宗(CL2000084) は雪が降っていることに気づく。奇跡が生んだ雪ではなく、自然の雪が。そう言えばそんな時期だと今更のように思い直す。
雪は優しく、五麟市に降り注いでいた。
神具・七星剣により自らの意志に反して暴れている古妖達。それを止めるべく覚者達が動き出す。
「皆様、落ち着いて下さいませ! 八神などに負けてはいけませんわ!」
叫びながら霧を放って古妖達の視界を遮る『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)。古妖に罪はない。神具の力で暴れているだけの彼らの前に立ちふさがり、その足を止める。たとえそれで傷ついても構わない。
(負けません! こんな悪意なんかに負けるほど、いのりたちは弱くないことを証明して見せます!)
隔者の悪意は人の悪意。だが人間は悪意と同じだけの善意がある。誰もが暴力だけで生きることはなく、聖人とて手段として拳を振るうこともある。人の善意を信じて未来を紡ぐ。それこそが人の力なのだといのりは信じていた。
「いのり達が皆を癒します! それまで待っていてください!」
「もう、暴れちゃダメだよ。メッ!」
『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)は暴れる古妖を落ち着かせてから、軽く注意をしていた。それは親が子供に注意する様な優しさ。自分が親からされたように、奈南も古妖を叱っていく。親から受けた優しさを伝えるように厳しく、そして優しく。
「だからー。落ち着かないとだめー!」
奈南の注意を受けてもなお暴れまわる古妖には、しょうがないなぁとばかりに張り手を噛ます。元よりパワフルな奈南の一撃は、神具がなくとも十分な威力があった。子供と思っていた物から受けた強烈な一撃で腰が砕ける古妖。その隙をつくように『めっ』する奈南。
「ワワン。次は何処か聞き分けてー?」
「あちらですね。自分が向かいます」
救急箱を手に走る『シューター』叶・笹(CL2001643)。少しでも自分の力が戦いの役に立てればと、息を切らせて古妖の下に向かう。術式と医学知識。その二つを併用して古妖の傷を癒していく。
「大丈夫。覚者達が助けに来たから」
傷ついた古妖に声をかける笹。大事なのはしっかりと言葉にすること。技術が届く保証なんてない。絶望しかないかもしれない。先が見えない状態でも、安堵させ全力を尽くす。それこそが癒しの第一歩。体だけではなく、心も癒す仁の道。
「大橋から隔者が流れてくる前にどうにかしないと……」
「橋はそっちに向かった人達に任せるの!」
言って走り回る『モイ!モイ♪モイ!』成瀬 歩(CL2001650)。五麟大橋には兄や従姉妹達が向かっている。だから歩は大丈夫だと信じることが出来る。たとえ相手がどれだけ強くとも、彼らの心が折れることなどないのだから。
「一つ一つ。心を込めて……」
歩は水の術式を使って古妖を癒していく。術式の特性上一人ずつにしか掛けられないが、それでも焦ることなく古妖を癒していく。一つずつ、丹念に。それは歩が学んだ大事な事。古妖一人一人の名を呟きながら癒していく。
「古妖さん達をあやつった悪い人は、きっとみんながやっつけてくれるから安心してね」
「はい。民を守るべき立場のユスが前にでないわけにいきませんわ」
にっこり微笑み歩の傍に立つ『モイ!モイ♪モイ!』ユスティーナ・オブ・グレイブル(CL2001197)。癒しの術はないが、誰かを守る術はある。ユスティーナは歩の傍に立ち、彼女に迫る攻撃を防いでいた。
「怪我した古妖は運んでください。後逃げ遅れた民はあちらに」
大きな盾を持ちながら、てきぱきと指示を飛ばすユスティーナ。その姿は戦場を先駆ける姫騎士の如く。不安を持つ者を導き、正しき道へと進ませる聖女。悪から無辜の民を守るため、その盾は光り輝くだろう。
「ふふ。守りは兄者上直伝ですのよ? 簡単に突破できないと思ってくださいね」
「戦うウサギさん、緊急参戦なのよ!」
拳を握って『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)は五麟市内を走る。守護使役の『ころん』を携えて、暴れる古妖の下に向かう。術式を展開してその意識を取り戻させ、よかったねと撫でてあげた。
「古妖の力をあすかたちにも貸して欲しいのよ!」
飛鳥は正気に戻った古妖達に声をかけて、事態の鎮静化を進める。回復能力を持つ者は古妖鎮静化の方に動き、そうでなくともその能力を生かして避難誘導などに向かわせる。物理的に暴れる古妖を押さえてくれるだけでも大助かりだ。
「あすか達と古妖達、皆で手を取り合って乗り切るのよ!」
「正気に戻った古妖達は避難させておいた方がいいかもと思ったが、思わぬ援軍だな」
古妖と手を取り合う飛鳥を見て『白銀の嚆矢』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は感心したように頷いた。無理をさせてはいけないと思ってはいたが、古妖の意思を尊重するなら問題ないだろう。
「本来なら人間の術式でなんとかできる状態ではなかったろうが……な!」
言いながら水の源素を練り上げて古妖に向かって放つ。優しい癒しの要素を含んだ水が古妖に触れる。九尾狐により緩和された悪意のひとかけらをゲイルの放った水が洗い流した。一息つく間もなく、さらにもう一つ。舞うように足を運びながら癒し続ける。
「少しでも早く五麟市内の混乱を鎮静化しないとな……」
ゲイルが懸念するように、五麟市の混乱は続く。それはそれだけFiVEが古妖を保護し、守ろうと思ったからこそ。それを利用された形になる。
(……それにしても攻めてきた意図が読めない)
中は七星剣はFiVEの疲弊を狙っていると読んでいた。古妖を保護することによる長期的な資源削り。だがそうなる前に大々的に攻めてくる。その作戦がけして無策と言うわけではないのだが――
どちらにせよ、賽は投げられた。七星剣とFiVE。その意思がぶつかり合う。
●五麟大橋・壱
五麟市と他市を繋ぐ橋。
その両側にバリケードを展開して隔者を足止めし、橋中央にいる八神勇雄を襲撃する覚者達。
「うおぉぉぉーーーー! こんしんのおーえんっ!」
ククル ミラノ(CL2001142)は橋の欄干の上から皆を癒すべく癒しの術式を放つ。猫の尻尾と耳と揺らしながら、踊るように全身の力を使って術を放つ。一挙一動にがんばれの気持ちを込めて、一心不乱に舞い続ける。
「……また暴力と破壊……」
上月・里桜(CL2001274)は八神を守る隔者の方を見てそう呟いた。八神には別の覚者が向かう。ならばそちらの邪魔をさせないように動こう。幸いにして浮足立った隔者は次にどうすべきか迷っている。
「八神さんの元には向かわせませんよ」
里桜の言葉と共に橋に伝播する力。それが隔者の足元にたどり着くと同時に隆起し、槍となって彼らの足を阻む。隔者の暴力に五麟市を蹂躙させない為に、里桜は全力で戦いに挑む。仲間を癒し、盾となり。
「大丈夫です。私たちならやれます」
「八神のおっさん……搦め手よりも正面対決ってわけか」
八神を見ながら『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は唾をのんだ。ただ立っているだけなのに、攻める気力がわいてこない。否、飛馬に攻め気はある。それを削ぐような威圧感がその足を止めていた。何処から攻めても対応されそうな、そんな立ち様だ。
「――っ! 巖心流を甘く見るなよ!」
八神の肩が動く。目がそれを認識するより先に飛馬の刀は動いていた。神具の突きを受け流し、流れるように攻めに移る。攻め、受け、攻め受け、攻め攻め攻め。防御を基点とした流れるような攻め。修行を繰り返した体は思うより先に動いていた。
「待とうって思えばそれも出来たのに直接の決着を求めたってのは粋だよな。敵ながらあっぱれだぜ」
「そうだな。できればそれに答えてやりたいもんだ。折角の御大出場なんだからな」
八神の方を見ながら『在る様は水の如し』香月 凜音(CL2000495)は決意を固める。敵は敵なりの覚悟を決めている。ならばその覚悟に応じなくては。その覚悟を理解することはできないが、それでも応えることはできる。癒しの術を行使しながら、八神に問いかけた。
「俺からしたら短慮に過ぎないんだが……。御大自ら何やってんだ?」
「ああ、短慮だ。隔者なんざそんなもんよ。『正しい』に従えるような性格はしてねぇんだよ」
「……FiVEに勝つ算段でもあるのか? それとも追い詰められているのか?」
「両方さ。お前らに勝って、さらに今の状況を打破する! そういうわけなんでやられてくれや!」
「あほか。黙ってやられるつもりはあらへんで!」
言いながら欄干から飛び、八神の目の前に着地する『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。そのまま愛刀を抜き、八神に斬りかかる。振るわれる剣線は燃える炎のように赤く、その責め様は燎原を思わせるほど激しく。それこそが焔陰流とばかりに全てを出し切っていた。
「出し惜しみはせんからな。おっさんも自分の全て見せてみや!」
「ああ、ここが勝負所だ。受けてみやがれ!」
凛の挑発に乗るように八神が神具を振るう。道なき荒野を切り開く隔者の一打。それに合わせるように凛も奥義を繰り出す。数千の論議よりも一戦の攻防。たった一度だが全力の交差が互いの剣技を理解させる。傷つきながらも凛は笑みを浮かべていた。
「こないだは消化不良やったやろからな。これぐらいヒリつく戦いの方が楽しめるわ!」
「ああ。ここで決着をつけてやる!」
欄干を走り、神具七星剣の呪いを避ける縁起担ぎをする『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)。その剣先に並ばないように動きながら八神を攻める。炎を纏ったトンファーが八神を攻め立てる。
「善と思っていた者が悪であり、悪と思っている者が善となるってか? その腐った夢ごと燃やし尽くしてやるぜ!」
善と悪は表裏一体。ただの価値観の相違でしかない。道徳や時代によってそれらは簡単に裏返る。だがそれでも貫かなくてはいけない事はある。悪路により支配される未来など一悟は認めるわけにはいかない。
「八神さん。あんたが剣を振るってちゃ、天帝にはなれねぇよ」
「はっはっは。吠えてくれるな若造。ならその言葉、証明して見せな!」
「どうあれこれは明確な侵略行動です。許すわけにはいきません!」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は己を象徴する炎を放ち、隔者達に向ける。赤々と燃える炎は進行を妨げ、その身体を焼く。自らの領域を犯すものを駆逐すべく、五麟大橋に紅の花が咲く。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラの本の上に魔法陣が走り、そこから炎が生まれる。赤き舌は舐めるように五條大橋を蹂躙し、その上にいた隔者達を巻き込んでいく。炎は熱気で体力を奪い、痛みで皮膚を焼いていく。自然の怒りを操る魔女。ラーラの姿はまさにそれを想起させる。
「帰りなさい隔者! ここより先に生きる道はありません!」
「ええ。ここで貴方達を止めさせてもらいます」
「互いに譲れない者はあるのだろうがね。だからこそ、かける言葉はないよ」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)と 『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)は並んで八神の前に立つ。二人の想いは硬く、そして誰にも譲ることはできない。戦う理由は大事な場所と未来を守るため。たったそれだけの、譲れない想い。
「いってきますね」
短く告げる燐花。かける言葉は一言でいい。終わった後に沢山言葉をかければいいのだから。死ぬかもしれない後悔は抱かない。もうこれが最後だとは思わない。約束したのだ。その約束を守るべく、二刀は振るわれた。
「気を付けて……というのもおかしいかな? 燐ちゃん達が攻撃に専念できるよう、全力で支援をするね」
たった七文字の燐花の一言。そこに含まれた糸をすべて察し、恭司は頷いた。今自分がやるべきことは彼女を心配することではない。共に交わした約束を守るべく全力で燐花を守ること。自分ができる最大の支援を。
「柳と申します。お手合わせ願います」
「八神だ。来な」
短い会話の後に交差する神具。パワー重視の八神とスピード重視の燐花。一撃の差は八神に、手数は燐花に分がある。そしてその差を埋めるべく恭司がサポートしていた。息の合った二人の動きが、隔者の頂点からの一撃を凌駕する。
「やるなぁ……! だがまだまだ俺は倒れんぞ!」
血を流し、息を切らしながら八神は吼える。その言葉に嘘はないのだろう。神具・七星剣を握る手に力がこもり、古妖達にもっと暴れるように力を注いでいく。
「俺はここだ、FiVEの覚者! この首欲しければ挑んで来い。この剣欲しければ応えてやる!
お前らを倒せば、俺に逆らう覚者(せいぎ)は心折れて潰える。それが嫌なら命を賭してかかってきな!」
FiVEを煽るように大声を出す八神。自らを狙えと身をさらけ出し、覚者に挑む。
その意図はどうあれ、その言葉に間違いはない。覚者最大勢力のFiVEが壊滅すれば、七星剣に歯向かう組織はなくなるだろう。そんな未来だけは迎えさせるわけにはいかない。
五麟大橋の上、覚者と隔者は激しくぶつかり合う。
●五麟市内・弐
「元に戻りなさーい!」
五麟市内を走り回る『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)。看護師を目指す彼女は古妖も人も分け隔てなく癒す。かつて助けてもらった自分の命を繋げるように、誰かを助けていく。
「なつねの小さな体でどれだけ頑張れるかわからないけど、全力でがんばるの!」
気合を入れる野武 七雅(CL2001141)。守護使役の『ちゅん』と一緒に五麟市内を走り回っていた。暴れる古妖を見つけては癒しの術を放ち、神具七星剣の呪縛から解き放っていく。暴れる古妖は怖いけど、それ以上に助けなきゃと言う思いが強かった。
「癒しのぱわーを送るの!」
幼い口調だが、自分のやるべきことは解っている。水の源素を取り入れ、癒しの術式に変換して放出する。何度も何度も行って来た動作。その動作が古妖を助け、五麟市を救っていく。
「痛くなかった? 古妖さんもう一回癒してあげるの!」
「神具七星剣の及ぶ範囲……広いね」
五麟市の空を舞いながら大辻・想良(CL2001476)は観察していた。自分を中心にしているのではなく、基点を指定できる範囲型なのだろう。効果は五麟市全てに及んでいる。観察をしながら遠距離攻撃をする古妖に注意し、想良は古妖を癒していた。
「古妖さんたちを保護したつもりで、かえって大変なことになっちゃったね」
守護使役の『天』に話しかける想良。FiVEが七星剣に追われる古妖を保護したことは後悔していない。それが隔者の策だと分かっていても、誇りをもって救うだろう。だから想良もできることをするまでだ。大変だからと言って逃げたりはしない。
「次はあっちに行くよ。ついて来て、天」
「八神が太上老君の持つ剣をどうやって得たのか、も気になるけど……」
篁・三十三(CL2001480)は頭を掻きながら五麟市を走る。伝承によれば太上老君から七星剣を盗んだ金角銀角は孫悟空と相対したという。それがまだ地上にあったとして、どう流れて八神の手に渡ったのか――
「いや。まずはこの現状を打破せねば」
頭を振って三十三は仲間の自然治癒力を高めた後に、操られている古妖達の元に向かう。再生の炎を飛ばし、七星剣の影響を焼き払った。感謝を求める古妖の瞳。それはかつて力が原因で迫害された三十三にとって、衝撃を与えていた。
「……良かった。救うことが出来たようだ」
「貴方たちの意思じゃないことはわかっているわ」
暴れる古妖達を前に優しく告げる『月々紅花』環 大和(CL2000477)。神具七星剣により強制的に操られている古妖。彼らは八神の被害者だ。だから癒そう。それが出来るだけの状況が整っているのだから。
「あぶないから皆こっちに来て。古妖達はFiVEの覚者が受け持ちます」
言って太もものホルダーから術符を取り出し、大和は舞う。とん、とん、とんと優しい足取りで地面に印を刻み、符の角度を調整して因果を正す。七星剣によって穿たれた因子が解けるように消え、古妖の意識が取り戻される。
「もう大丈夫。無理矢理悪意を持たされて辛かったでしょう?」
「心が痛いけど、ここは踏ん張り時や。八重さん準備はええ?」
「ふふ、操られてる方にあんまり手荒な事はしたくないですけど……あんまり余裕ありませんし痛かったらごめんなさいね」
『幸福の黒猫』椿 那由多(CL2001442)と『深緑』十夜 八重(CL2000122) は二人で五麟市内を走る。八重が僅かに浮いて視界を確保し、暴れている古妖を見つけてはそちらに向かって術式を放つ。
「古妖たちに罪はあらへん……出来るだけ傷つけたりしたくないよって」
「ふふ。私は那由多さんのやりたいことを支えるだけです。わがままいくらでも言ってくださいね」
八重は那由多に向かって微笑み、那由多は嬉しそうに笑みを返す。一人だからできないことも、二人ならできる。古妖がどれだけ暴れても、そっと支えてくれる。そう信じることが出来るから。
古妖の状態をスキャンし、状態を探ってから最適な術を放つ那由多。暴れようとする古妖の動きを蔦で封じる八重。けして傷つけないように。そんな八重を守ろうと、那由多は祝詞を用いて守らせる。互いを思う心は二重螺旋のように絡み合いながら突き進み、決して崩れることはなかった。
それでも――
FiVEが確保した古妖の数は多い。何よりも神具・七星剣を封じる九尾狐の神通力も無限ではない。七星剣と同名と言う因子で干渉しているが、もともとは尾同士が離反しており疲弊している九尾狐だ。万全の状態とは言い難い。
「五麟市の平和はボク達がまもらないと……」
離宮院・太郎丸(CL2000131)は静かに呟く。既に自分が持つ回復の術式は出し尽くしている。それでも街の混乱は収まらない。
(さよ。ボクは――)
太郎丸は五麟大橋にいる妹のことを思う。八神の戦いに足を踏み入れた妹を心配し、『全て』を尽くすことに踏みとどまっていた。だが――
(うん。太郎丸おにいちゃん。さよも同じ気持ちだから)
そんな声が風に乗って聞こえてきた気がする。幻聴とは思えなかった。ずっと聞いていた妹の声だ。
(さよも『全力』を尽くします。だから太郎丸おにいちゃん、勝ちましょう)
●優しき兄妹の氷光
「さよも『全力』を尽くします。だから太郎丸おにいちゃん、勝ちましょう」
離宮院・さよ(CL2000870)はそう呟いて、翼を広げる。水の源素を展開し、周囲に解き放った。
源素はさよを中心にして広がる。そして同時期に同じように太郎丸が展開して広げた源素と重なり、更なる波紋を生んだ。波紋は天まで届き、雪となって降り注ぐ。
兄妹の生み出す源素の波紋が雪となって、五麟市内に伝達していった。細かな氷の結晶は、癒しの光を乱反射して広げていく。ダイヤモンドダストのような光。それは五麟市内全てを照らし、五麟大橋で戦う覚者達を癒していく。
「古妖達が大人しくなっていく。ありがと――」
「八神から受けた傷が……助かっ――」
覚者達が離宮院の方を振り向けば、そこには誰もいなかった。
二人のいた場所に、白い雪がふわふわと降り注いでいた――
●五麟大橋・弐
五麟大橋に雪が降り始める。雪は隔者達の足を止め、覚者達を癒していく。
「気力がわいてきます。幾らでもサポートできますよ」
奇跡の雪に力を与えられたサティア・ローズ(CL2000041)は拳を握って術を放ってサポートしていく。
「行くぜ! この間は上手くかわされたからな、今度こそ!」
「今回だけは無理無茶存分にしておいで。その背中はボクが守るから」
『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063) と『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)が八神に向かう。雷龍と鳳凰が同時に舞い、隔者達を一掃する。少し遅れて着地した二人が慣れたように展開する。翔は右に、紡は左に。
攻め手は翔。守り手は紡。はっきりした互いの役割。だからこそ背中を任せられる。翔の放った稲妻が八神を襲い、振るわれる七星剣の炎を払うべく紡が術を展開する。言葉を交わす必要などない。相棒がどう動くかなど、お互いに分かっているのだから。
「古妖操るとか。あの剣、チート過ぎんだろ!」
「全くだ。何なら名前を呼べば閉じ込めてくれるひょうたんとかが良かったか?」
「ああ、西遊記のあれね。っていうかそんなもの使わなくても強いんだからやめてほしいなぁ」
七星剣に封じられた古妖の術。それを凌ぎながら翔と紡は八神を攻めていた。
「アンタが何考えてるのか知らねーけど、大妖はオレらがやってやるから安心して倒れろよ!」
「心強いなぁ。だったら倒してみな。最も――俺からすれば大妖は前哨戦だがな!」
「うぇえ!? 何、隠しボスでもいるの!?」
「それ……もしかして、神様……?」
首をかしげ問いかける桂木・日那乃(CL2000941)。『花骨牌』との戦いから得た情報を組み立て、推測していた。まだ取っ掛かりの部分ではあるが、それでも手を掛ける部分は確かに見えてきていた。
言いながら回復の術気を展開する日那乃。『開かない本』に源素を集中させていく。展開される癒しの雨が覚者達の傷を癒していく。
「でも、神様が何を考えて、いても。ここに攻めてきて。夢見さんたちが、酷い目にあうなら、消す。
……これって、エゴっていう、の、ね。たぶん」
「違うぜ。それは生命として当然の行為だ。大事なものを守ることを悪し様に捉えるんじゃねえ」
「それを悪党の総大将が言うとはな!」
「確かにねー。ところで、お姫様抱っこされるのはそのー……」
『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)を抱えるようにして降りてくる『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)。空中でいろいろあったらしい。恥ずかしそうにする千雪を下ろす彩吹。
「危ないから下がっていて」
「はーい」
彩吹の声に下がる千雪。攻手と回復手。千雪は慣れた動きで彩吹から適度な距離を取る。けして邪魔にならず、しかし回復の範囲から離れない位置。彩吹もそれが分かっているから安心して攻めることが出来る。
「略奪なんてさせない。虐殺なんて許さない。五麟へは行かせないよ」
「俺が言葉で止まると思ってないんだろう?」
「当然!」
言って彩吹は蹴りを繰り出す。翼を広げて宙に留まりながら、回転するように攻め続ける。動きを止めるつもりはない。息が切れるまで全力で。ここで八神を倒し、七星剣を止めるまで。
「お前たちの選んだ『道』は行き止まりだ」
「行き止める壁も壊す。それが俺だ」
「だったらさらに強い壁を作る。それが僕らだよ」
言って千雪は木の源素を展開して地面に蔦を生やす。蔦は八神の足を止め、彩吹の攻撃を当たりやすくしていく。
「八神さん!」
先行していた隔者達が戻ってくる。その声を聞き、彩吹はそちらに視線を向けた。
「戦友の為に、あちらを潰させてもらうよ」
「うん。僕もサポートするよ」
彩吹が翼を広げ、跳躍する。その先に千雪の生み出した蔦が伸び、彩吹に絡みついて加速するように放り投げる。彩吹はそのまま橋の欄干を蹴って隔者の群れに突撃する。
「やろ――」
襲撃に反応するように隔者が神具を振るうが、それが彩吹に届く前に蔦が彩吹を宙に飛ばす。その移動ベクトルを殺さぬように翼を広げた彩吹は、さらに跳躍して橋の欄干を蹴ってその反動で隔者を蹴り伏せる。
「速――っていうか動きが読めねえ……!?」
単純な反射なら直線的なため軌跡は読める。だが蔦によるサポートが絶妙に彩吹の動きを加速させ、読みにくくさせていた。彩吹は千雪の蔦を何の疑問も抱かずに最大限に活用し、千雪も彩吹の動きが分かっているかのように蔦を行使していく。
「はっ! 先行した奴らを全滅させそうな勢いだな!」
「じゃじゃ馬にもほどがあるがな」
笑みを消した『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)。二人にはあとできっちり話をしないとな、と呟いて八神に向き直る。すぐに顔に笑みを戻し、神具を構えた。
「兵糧攻めを狙ってくるかと思ったんだけど……良くも悪くも これが八神という人なのか」
「だが悪手でもないだろう。古妖の対応に勢力を分断できたんだから。――まあ、七星剣が十全に発揮されないのは予想外だったがな」
ああ、八神は九尾狐のことは知らなかったのか。蒼羽は口に出さずに頷いた。こちらが優位な点もいくつかある。とにかく今はこの戦いを制するのみだ。天の源素を空に放ち、爆ぜるようにして細かな矢を生む。降り注ぐ矢が後続の隔者を穿っていく。
「僕の役目は露払いだ。任せたよ――」
「はい! 任されました!」
「上から御免! FiVEの工藤奏空、あんたの道筋案内させて貰います!」
『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は同時に八神に攻撃を仕掛ける。巨大な符を媒介して術を放つたまき。その隙を縫うように刃を放つ奏空。術と刃の両方で七星剣の首魁を攻め立てる。
「八神さん、『花骨牌』さんから話を聞きました……」
交戦しながらたまきは八神に問いかける。
「二十五年前の封印から出てきた物……源素の他に何があったんですか……?」
「ああ、そう勘違いしたか。いや、その勘違いこそが正しい。
出てきたのは『源素』だけだ」
たまきの問いに八神は七星剣を振るいながら答える。
「覚者、妖、そして大妖……それら全てを統べる始まりの何か。それこそが『源素』だ」
「……言っている意味が……だって源素は私達の力で……」
八神の言葉に息をのむたまき。手を振るうように自在に使える源素。覚者なら誰しもたまきのように『自分の力』と思って当然だ。
「俺達が使う力の意味。その正体。それを知れば何もかも信じられなくなる。力を使っているつもりが、その逆だと理解することになるぜ」
「……そんなこと、は……!」
「仮にそうだとしても、俺達が戦いを止める理由にはならない!」
震えるたまきを支えるように奏空は割って入り刃を振るう。たしかに知らないかもしれない。でも――八神や七星剣を許す理由にはならない。
「あんた、一人で大妖をなんとかするつもりなんだろ。二十五年前部下がしでかした事……源素を封印するために」
「不幸な事故だったさ。だが理由は罪償いじゃねえ。俺がそうしたいからそうするのさ!
この国を支配し、人を意のままに操り、秩序を壊す。その為にはすべてぶっ壊す!」
「……分かり合える道なんか、始めからないのか……だったら引導をくれてやる!」
「ええ、手を取り合うことは難しいようです。でも――」
悲しそうに『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は告げる。意見が違うことは仕方ない。それでも話し合い、妥協しあえるのが人間だ。だが妥協できないのなら離反するしかない。或いは、ぶつかるしかない。
「八神さん、貴方の本当の目的は何ですか? 大妖を倒したいのは知ってます。けれど最終目標はそれではないのでは?」
「そこの坊主にも告げたが、俺の目的は秩序を壊すこと――」
「その『秩序』――それが貴方の敵なのですね」
澄香は静かに指摘する。『花骨牌』はこう言った。『神様、言うんが分かりやすいかなあ?』……何かの比喩か冗談かと思っていたが、事実それがいると仮定するなら八神の言葉も変わってくる。
「貴方は私たちが知らない『秩序』を知っている。それが気に入らないから……」
「誰もが自由に生きている、と思っても結局何かに縛られている。社会、宗教、常識……有形無形の何かにな。
『源素』はその最たるものさ。様々な形で目覚めた者を縛り、クソッタレな舞台に放り込む。――気づかず意のままに動いているのさ」
「ワォー。要するにシステムに従えないからヤクザしてるってこと? 言い得て妙だね」
『妖槌・アイラブニポン』を振るいながら『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は橋を歩いてくる。
「教授、向こうに八神が」
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)も『豊四季式敷式弓』で露払いをしながら、五麟大橋を歩いていく。
「すみませんね。最後に五麟市内を見ておきたくて」
プリンスと秋人に導かれるように『教授』新田・成(CL2000538)は杖を手に歩く。
「最初は何処行くのかと思ったよ、プロフェッサー。あ、余の為に何か書き記してくれたとか?」
「そんな事をしなくても殿下は立派にやっていけますよ。もはや私の授業は必要ないでしょう」
「全力でサポートします」
プリンス、成、秋人は講堂の廊下を歩いている時のように、気軽に会話をしていた。とても船上とは思えぬほど気軽に、そして――
成は一足で八神の元に近づき、仕込み杖を振るう。神具七星剣と交差し、鋭い音が響き渡った。それを邪魔しようとする隔者を押さえるようにプリンスと秋人が展開する。
「五麟大に赴任し三十年。研究者として充実した時間でした。FiVEの若者達は強く成長した。教育者としての私の役割は終わりました。
最後は、一介の剣士として」
「その相手が俺か。悪党相手に命散らすなんざもったいない腕だぜ!」
「いいえ。貴方なら相手に不足無し。最後の講義と行きましょう!」
繰り返される剣戟。古妖の力を乗せた一閃を最低限の動きで変わる成。一打一打に生命力を込め、成は七星剣の首魁に刃を振るう。血が滾り、心が躍る。教育者としての服を捨て、戦に歓喜する剣士としての成がそこにあった。
「七星剣。――西遊記では太上老君が三蔵法師一行の成長を促すために、敢えて盗ませた宝。
その伝承から考えれば、簡単な推測でした」
切り結びながら、成は理論を展開していく。
「貴方が言う『秩序』……それは源素に目覚めた人間を戦わせ、成長させようとしている。
妖が人を襲うのもその一環。命が狙われるなら、戦わざるを得ませんからね。そうすることで私たちの源素は成長していく。それが『栽培』」
「当たりだ。最後の最後まで頭が回るな」
「これが性分ですので。ですが戦いに手を抜いているつもりはありませんよ。むしろこうすることで『己』を保っているほどです。
さて、そう考えると大妖の存在はその最たる存在だ。最初は七星剣と大妖が約定を結んでいると思いましたが、おそらくは違う。大妖はその『秩序』の為に動く。覚者をより効率的に戦わせるために」
「大妖は『条件』がそろわないと動けないのさ。『斬鉄』は戦いの気配が消えた時に。『黄泉路行列車』は人死数が減った時に。『新月の咆哮』は満月になった時に妖と覚者の勢力天秤を揃えるように動く。『紅蜘蛛』は因子発現した者の集団が一定以上の数になった時に。『後ろに立つ少女』だけはよくわからねぇがな。
大妖は人間が一定以上強くなった時に動き、適度に力を削いでいく。安寧を忘れさせ、戦わなくてはと駆り立てさせるために」
大妖には動くためのトリガーがある。あれだけの力を持つ者が常に暴れていれば、日本はすぐに滅んでいただろう。AAAが襲撃された時期はFiVEが活躍し、死亡率や激しい闘争を未然に防いでいた頃だ。
「以上のことを踏まえれば、貴方がどのように国を守ろうとしたかは明白だ。悪のトップに立って犯罪者をコントロールし、それら条件を満たさぬように動かしていく。
貴方の立場なら殺人や暴行事件の操作は容易でしょう。出過ぎた覚者組織を叩き『新月の咆哮』の矛先を変えることもできる。そして『紅蜘蛛』はもういない。活動率を考慮すれば『後ろに立つ少女』はない者としていい。大妖の動きをセーブし、結果論として死者の数を制限する」
成の組み立てた説を、覚者全員に伝播していくプリンス。
「ならば我々FiVEが七星剣を打破した後に為すべきことは一つです。
貴方が『秩序』と呼ぶ正体……二十五年前に解かれ、覚者が使う源素の意味を正しく知ること。その上で源素とどう向かっていくかを決める事。力ではなく知をもって挑み、人としての未来を紡ぐこと。
何のことはない。我々が今まで紡いできた教育と同じことです。そしてそれを為すだけの生徒は充分に育っている」
だから――もう役割は終わりだ。老兵は去り、若者に未来を進ませるために、
「これをもって、最終講義を終了とします。さあ、共に逝きましょう。八神勇雄」
「……はっ……! 力でどうにかできないのに、知恵でどうにかするってか。……ふざけんな……」
成と八神の剣が交差し、互いの胸を貫く。八神は、かすれた声で唇を動かす。
「やれるものなら……やってみな……死人が少ない方がいいって事なんざ、誰だって、わかって……」
八神の手から七星剣が離れ、支えを失った成が崩れ落ちる。持ち手を失った七星剣は、封が解かれたかのように砕けて霧散した。そこに閉じ込められていた古妖の魂魄が解放されるように天に昇っていく。
五麟大橋を戦場とした覚者と隔者の闘いは、こうして幕を閉じた。
●Morning――この国の朝を
「…………」
秋人は倒れた成を前に一礼し、背を向ける。講義は終わった。ならばそれを受けて進むのが先生に対する答えだ。
「結局、今までのツケは全部出世払いってことかい?」
プリンスは落ちていた成の杖を取り、そっと成の肩を叩く。戦場の臨時叙任の作法だ。
「なら、貴公が思わず忠誠誓っちゃうナイス王になんなきゃね」
プリンスは静かに未来を見る。夢見の予知ではなく、王として。
●幕間
「あーあ……七星剣、消えてもうた」
覚者との戦いに負け、五麟市で軟禁されている『花骨牌』は気だるげにつぶやく。
「これで本当に手札切れ。剣が消えたら参式を留める楔ものうなって、神様も午睡から覚めるやろうなぁ」
言って『花骨牌』は座り込み、壁に体重を預ける。
「旦那はん、嘘つきやわぁ。願い叶えたる言うたのに……結局自分のやりたいようにやって逝きおった。男はわがままやなあ。
……ほんま、女泣かせなあほうやわ」
頬から伝う液体が滴となって、床に落ちた――
●終わりの始まり
ほぼ壊滅状態だった隔者達は、八神が倒れたことにより完全に戦意を失う。逃げる場所もなく、神具を捨てて投降する者がほとんどだ。最後の抵抗とばかりに挑む者もいたが、歴戦の覚者達からすればささやかな抵抗だった。
覚者と隔者。その二つの戦いはこれで終わる。組織規模でない個人的な隔者事件はまだ起きるだろうが、大規模な隔者による犯行はこの戦いを機に潰えることになる。
だがこれで終わったわけではない。むしろここからがFiVEの戦いだ。
大妖。そしてそれを操る何か。それを知り、どうするか。
だが今は傷を癒そう。無事に守られた五麟市で仲間が待っている。
地洞 時宗(CL2000084) は雪が降っていることに気づく。奇跡が生んだ雪ではなく、自然の雪が。そう言えばそんな時期だと今更のように思い直す。
雪は優しく、五麟市に降り注いでいた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
どくどくです。
癒しに魂を使われたので、ダメージは想定以上に少なかったです。
人と人との戦いはこれで終わりです。
憤怒者が『力無き者とある者』の差異による摩擦なら、隔者は『善悪の闘い』……のはずでしたが『力か知か』になりました。八神の思惑はもう少し伏せるつもりだったのですが、話を作るのはいつだってPCなのでしょう。
その全てを踏まえたうえでMVPは新田様に。あとは戦闘で最も隔者を削ったお二人に。
『アラタナル』はここより最終局面に移ります。
覚者の皆様が如何なる答えを見せてくれるか。期待しながら筆を置くことにします。
それではまた、五麟市で。
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スキルラーニング成功!
・取得キャラクター:焔陰凛(CL2000119)
・取得スキル:無道
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癒しに魂を使われたので、ダメージは想定以上に少なかったです。
人と人との戦いはこれで終わりです。
憤怒者が『力無き者とある者』の差異による摩擦なら、隔者は『善悪の闘い』……のはずでしたが『力か知か』になりました。八神の思惑はもう少し伏せるつもりだったのですが、話を作るのはいつだってPCなのでしょう。
その全てを踏まえたうえでMVPは新田様に。あとは戦闘で最も隔者を削ったお二人に。
『アラタナル』はここより最終局面に移ります。
覚者の皆様が如何なる答えを見せてくれるか。期待しながら筆を置くことにします。
それではまた、五麟市で。
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スキルラーニング成功!
・取得キャラクター:焔陰凛(CL2000119)
・取得スキル:無道
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