≪結界王暗躍≫未来を掴むは覚者の拳
●
『結界衆』を統べる青年はその日、『神』を見た。
強力な源素の力を持つ異能の集団、『結界衆』は少数ながらもその実力から隔者社会の中で畏れられる組織だった。そして、衆を統べる若き党首も、必然的にそんな自分たちと、自分自身に絶対の自信を抱いていた。
そこへ現れたのが、『七星剣』首領の八神だった。
彼の力は圧倒的であり、青年はその姿に神々しさすら感じた。
そしてその時、彼は決めた。自分のこの力は、この方のために使うものだと。そしてきっと、この方を日ノ本の王にしてみせると。
その日以来、青年――守藤敬護(しゅどう・けいご)は、七星を守る結界となった。
●
「皆さん。今日は集まってくれてありがとうございます」
集まった覚者達に挨拶をする久方・真由美(nCL2000003)。しかし、その表情にははっきりと緊張が漂っていた。
隅っこでは資料を片手に久方・相馬(nCL2000004)や『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)といった夢見が走り回っている。
そして出されたお茶で口を湿らせる覚者達に、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「現在、七星剣幹部『結界王』守藤敬護が五麟市襲撃の準備を進めています。皆さんにはその対応に向かっていただきます」
その言葉にざわつく会議室。
『七星剣』幹部の1人である、『結界王』守藤敬護(しゅどう・けいご)。
幹部の中でも一際忠誠に篤い彼にとって、覚者業界に台頭したFIVEは出る杭そのものだった。そのため、首領八神の許可が出た彼は、全霊を以ってFIVE打倒のために動き始めている。
対する覚者はそれに対峙し、その陰謀の芽を確実に刈ってきた。結果として、『結界王』の計画を大幅に遅らせることに留まらず、彼自身に多大な手傷を負わせることに成功した。
だが、『結界王』は諦めていなかった。彼も十分な準備が出来たわけではないが、『黒霧』との決戦を行った直後を好機とみて、襲撃を企てたのだ。
「『結界王』は破脈杭と呼ばれる神具を使用して、五麟市を破壊しようとしています。その後に直接攻撃を仕掛けてFIVEを蹂躙するつもりなのでしょう」
破脈杭は地脈の力を集めて地震を起こす神具だ。『結界王』はこの力で五麟市を壊滅させるつもりなのである。めちゃくちゃになった街へさらに攻撃を加えられれば、FIVEは再起できなくなるだろう。
幸いなことに、覚者は事前に行われた地脈破壊を幾度か防いできている。そのおかげで、儀式にはまだ時間の猶予がある。その間に精鋭覚者で儀式を阻止すれば、敵の作戦は失敗する。
「『結界王』はFIVEに予知されることも織り込み済みでしょう。当然、防備もあります。それでも、このチャンスを無駄にするわけにはいきません」
FIVEと五麟市を守る上では、これしかない。破脈杭が使われれば、多くの命が失われる。それに、FIVEの夢見によって多くの作戦を妨害された『結界王』は、夢見たちを苦しめた上で殺すことだろう。
逆にこれはチャンスでもある。『七星剣』の裏方を支えており、多くの隔者とも繋がりを持つ『結界王』を倒すことが出来れば、『七星剣』の勢力を弱めることにもなるだろう。
説明を終えると、真由美は覚者達に一礼をして、送り出す。
「怪我がなく……というのは難しいと思いますけど、気をつけてください。この戦いを終わらせて、無事にクリスマスを迎えましょう!」
●
夜の街を一望できるオフィスに、彼らはいた。
「そうですか、『黒霧』は敗れましたか」
眼鏡をかけた青年、『結界王』は感情を込めず、椅子に腰かけたまま部下の報告に答える。
『黒霧』の勝利を信じていたわけではないが、敗北の報を聞くことはあまり嬉しくない。『結界王』に言わせると、『黒霧』も八神の兵力の一部であり、それが削がれた形になるのだから。
報告する小柄な男は肩を竦めながら、報告を続ける。
「ついてねぇ話ですよ。ま、暗霧城は激戦だったらしいですがね」
FIVEの躍進はこれに留まらない。『イレブン』の実行部隊はFIVEによって壊滅状態にあり、組織の存続はほぼ潰えたも同然だ。
AAAの後継者、どころの騒ぎではない。AAAにすら為しえなかった偉業を彼ら話している。
報告を聞き終えて、『結界王』はいきなり立ち上がる。先日やられた斬撃の痕が痛むが、今はそれを気にする時ではない。
「『結界王』、今動くとお体に……」
「今動かずしてなんというか!」
制止しようとする巨漢の部下を睨みつけ、壁に偽装した隠し扉を開ける。
FIVEの活躍により、たしかに計画は大きな後れを取った。だが、大規模戦闘の消耗が残っている状態であるなら、十分すぎる程の状況ではある。
先日の怪我が癒えたわけではない。だが、八神のためなら、『結界王』は腕や足はおろか、自分の首だって喜んで差し出せる。それを思えばこの程度の痛み、どうということはない。
「吽形、結界衆を集めなさい。江崎は以前から声を掛けていた連中に至急通達を」
巨漢は軽く頷くと、瞬時に部屋から消え去った。小男は「ついてねえなぁ」と呟き、扉から退出する。
部下がいなくなったのを見て、隠し扉の奥にある箱を取り出す。箱の中に入れられているのは、『結界衆』に伝わる神具、破脈杭だ。
これを以って、八神に仇なす敵を屠る。FIVEは必ず王に災いをもたらす存在だ。
それに、AAAを失った上にFIVEまで消えたとあれば、『七星剣』が対妖・対隔者機関のポストを得ることは難しくない。そうすれば、その権力を以ってこの国を八神にささげることだってできる。
「八神様のため、消えてもらいますよ、FIVE」
『結界王』は自分の描く未来のため、戦いに向かう。
2017年も終わりに近づく中、いよいよ決戦の時が来たのだ。
『結界衆』を統べる青年はその日、『神』を見た。
強力な源素の力を持つ異能の集団、『結界衆』は少数ながらもその実力から隔者社会の中で畏れられる組織だった。そして、衆を統べる若き党首も、必然的にそんな自分たちと、自分自身に絶対の自信を抱いていた。
そこへ現れたのが、『七星剣』首領の八神だった。
彼の力は圧倒的であり、青年はその姿に神々しさすら感じた。
そしてその時、彼は決めた。自分のこの力は、この方のために使うものだと。そしてきっと、この方を日ノ本の王にしてみせると。
その日以来、青年――守藤敬護(しゅどう・けいご)は、七星を守る結界となった。
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「皆さん。今日は集まってくれてありがとうございます」
集まった覚者達に挨拶をする久方・真由美(nCL2000003)。しかし、その表情にははっきりと緊張が漂っていた。
隅っこでは資料を片手に久方・相馬(nCL2000004)や『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)といった夢見が走り回っている。
そして出されたお茶で口を湿らせる覚者達に、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「現在、七星剣幹部『結界王』守藤敬護が五麟市襲撃の準備を進めています。皆さんにはその対応に向かっていただきます」
その言葉にざわつく会議室。
『七星剣』幹部の1人である、『結界王』守藤敬護(しゅどう・けいご)。
幹部の中でも一際忠誠に篤い彼にとって、覚者業界に台頭したFIVEは出る杭そのものだった。そのため、首領八神の許可が出た彼は、全霊を以ってFIVE打倒のために動き始めている。
対する覚者はそれに対峙し、その陰謀の芽を確実に刈ってきた。結果として、『結界王』の計画を大幅に遅らせることに留まらず、彼自身に多大な手傷を負わせることに成功した。
だが、『結界王』は諦めていなかった。彼も十分な準備が出来たわけではないが、『黒霧』との決戦を行った直後を好機とみて、襲撃を企てたのだ。
「『結界王』は破脈杭と呼ばれる神具を使用して、五麟市を破壊しようとしています。その後に直接攻撃を仕掛けてFIVEを蹂躙するつもりなのでしょう」
破脈杭は地脈の力を集めて地震を起こす神具だ。『結界王』はこの力で五麟市を壊滅させるつもりなのである。めちゃくちゃになった街へさらに攻撃を加えられれば、FIVEは再起できなくなるだろう。
幸いなことに、覚者は事前に行われた地脈破壊を幾度か防いできている。そのおかげで、儀式にはまだ時間の猶予がある。その間に精鋭覚者で儀式を阻止すれば、敵の作戦は失敗する。
「『結界王』はFIVEに予知されることも織り込み済みでしょう。当然、防備もあります。それでも、このチャンスを無駄にするわけにはいきません」
FIVEと五麟市を守る上では、これしかない。破脈杭が使われれば、多くの命が失われる。それに、FIVEの夢見によって多くの作戦を妨害された『結界王』は、夢見たちを苦しめた上で殺すことだろう。
逆にこれはチャンスでもある。『七星剣』の裏方を支えており、多くの隔者とも繋がりを持つ『結界王』を倒すことが出来れば、『七星剣』の勢力を弱めることにもなるだろう。
説明を終えると、真由美は覚者達に一礼をして、送り出す。
「怪我がなく……というのは難しいと思いますけど、気をつけてください。この戦いを終わらせて、無事にクリスマスを迎えましょう!」
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夜の街を一望できるオフィスに、彼らはいた。
「そうですか、『黒霧』は敗れましたか」
眼鏡をかけた青年、『結界王』は感情を込めず、椅子に腰かけたまま部下の報告に答える。
『黒霧』の勝利を信じていたわけではないが、敗北の報を聞くことはあまり嬉しくない。『結界王』に言わせると、『黒霧』も八神の兵力の一部であり、それが削がれた形になるのだから。
報告する小柄な男は肩を竦めながら、報告を続ける。
「ついてねぇ話ですよ。ま、暗霧城は激戦だったらしいですがね」
FIVEの躍進はこれに留まらない。『イレブン』の実行部隊はFIVEによって壊滅状態にあり、組織の存続はほぼ潰えたも同然だ。
AAAの後継者、どころの騒ぎではない。AAAにすら為しえなかった偉業を彼ら話している。
報告を聞き終えて、『結界王』はいきなり立ち上がる。先日やられた斬撃の痕が痛むが、今はそれを気にする時ではない。
「『結界王』、今動くとお体に……」
「今動かずしてなんというか!」
制止しようとする巨漢の部下を睨みつけ、壁に偽装した隠し扉を開ける。
FIVEの活躍により、たしかに計画は大きな後れを取った。だが、大規模戦闘の消耗が残っている状態であるなら、十分すぎる程の状況ではある。
先日の怪我が癒えたわけではない。だが、八神のためなら、『結界王』は腕や足はおろか、自分の首だって喜んで差し出せる。それを思えばこの程度の痛み、どうということはない。
「吽形、結界衆を集めなさい。江崎は以前から声を掛けていた連中に至急通達を」
巨漢は軽く頷くと、瞬時に部屋から消え去った。小男は「ついてねえなぁ」と呟き、扉から退出する。
部下がいなくなったのを見て、隠し扉の奥にある箱を取り出す。箱の中に入れられているのは、『結界衆』に伝わる神具、破脈杭だ。
これを以って、八神に仇なす敵を屠る。FIVEは必ず王に災いをもたらす存在だ。
それに、AAAを失った上にFIVEまで消えたとあれば、『七星剣』が対妖・対隔者機関のポストを得ることは難しくない。そうすれば、その権力を以ってこの国を八神にささげることだってできる。
「八神様のため、消えてもらいますよ、FIVE」
『結界王』は自分の描く未来のため、戦いに向かう。
2017年も終わりに近づく中、いよいよ決戦の時が来たのだ。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.破脈杭を使った儀式の阻止
2.結界王の討伐
3.なし
2.結界王の討伐
3.なし
年末はボス戦攻勢、KSK(けー・えす・けー)です。
この度は結界王との一大決戦です
●特別ルール
・このシナリオでは戦場が広いため、範囲「全」「味全」は効果範囲が限定されます。自分を中心にしたある程度の範囲とお考え下さい。
●戦場
場所は五麟市近くの山中です。
『結界王』率いる部隊が、儀式を行うために展開しています。
儀式周辺には防衛部隊が陣取っているほか、遊撃部隊が五麟学園襲撃のために動いています。
シナリオ開始から一定時間が経過すると、儀式が完成して、五麟市に被害が発生します。
「儀式突入」が直接儀式の行われている現場に突入します。
「陣地制圧」が儀式の防衛を行っている隔者と戦います。
「対遊撃戦」が五麟学園襲撃のため動いている遊撃部隊と戦います。
「儀式突入」の部隊が十分だと儀式の阻止や結界王の討伐が可能となります。「陣地制圧」の部隊が不十分だと、「儀式突入」の部隊が弱体化します。「対遊撃戦」の部隊が不十分だと五麟市に被害が出ます。
それぞれの戦場は互いにスキルを使用することが出来ないものとします。旧AAAの支援があるので、足場や灯りによる不都合は発生しません。
旧AAAの覚者もサポートに回って戦場に存在しますが、戦力的にはFIVEの覚者に劣ります。
【1】儀式突入
儀式が行われている、敵陣の中心部です。数名の隔者が儀式を行っています。
結界王の他、結界衆の隔者がいます。
儀式を行っている隔者を倒せば儀式は中断し、破脈杭を奪取または破壊すれば儀式は阻止できます。
【2】陣地制圧
儀式が行われている場所を守る防衛部隊です。儀式に突入するメンバーが進めるよう足止めします。
吽形を始めとした結界衆の他、やとわれ隔者がいます。
【3】対遊撃戦
五麟市へ遊撃を行うために動いている遊撃部隊です。遊撃部隊の隔者を迎え撃ちます。
江崎大樹を始めとした、雇われ隔者で構成されています。戦力としては、他の部隊に劣るでしょう。
●隔者
・『結界王』守堂敬護
『七星剣』の幹部を務める青年です。八神に深い忠誠心を持ち、性格は生真面目。FIVEを敵視しています。土行の付喪。
隠密行動のほかに機械化した両腕での、体術を中心とした近接戦を好むようです。
「八卦の構え・極【未解】」「微塵不隠・極【未解】」といったスキルを用います。
いずれも、結界衆が持つスキルの上位に当たります。
なお、以前のシナリオの結果、結界王は【重傷】状態として扱われます。
・吽形
『七星剣』に属する火行の獣憑です。
『結界衆』という『結界王』の直属組織に属し、隠密行動を得意とします。
無口な巨漢で、戦いになると苛烈な性格です。実力は高めです。
体術を中心的に使い、圧撃・壊を得意とします。
「八卦の構え【未解】」「微塵不隠」というスキルを用います。
「≪結界王暗躍≫結界守るは覚者の使命」にも登場していますが、呼んでいなくても支障はありません。
・江崎大樹
『七星剣』に属する木行の精霊顕現です。『結界王』から供与された強めの武装をしています。
小柄な男で拳銃を使います。やる気が無さげに見えますが、プロ意識は高いです。口癖は「ついてねぇなぁ」。
術式を中心的に使い、仇華浸香を得意とします。
「≪結界王暗躍≫こんな所にゴミを捨てるな!」にも登場していますが、呼んでいなくても支障はありません。
・結界衆
結界王直属の実行部隊です。隠密能力の高い隔者になります。
少数精鋭のため数は多くありませんが、いずれも実力は高めです。
体術中心に戦うタイプと、術式で射撃を行うタイプがいます。他にも「八卦の構え【未解】」「微塵不隠」というスキルを用います。前者は防御力を大幅に上げるスキルです。
・雇われ隔者
結界王が自身のコネクションで集めた隔者達です。
この場にいる者の大半はこうした雇われで、結界王から供与された強めの武装をしているものの、実力はFIVEの覚者に劣ります。
近接型、射撃型、支援型が混在しています。
●プレイング書式について
今回、多数のご参加が見込まれるために、お手数ですがプレイング書式の統一をお願い致します。
(書式)
一行目:選んだ戦場の番号
二行目:チーム名または一緒に行動したい人のフルネームとID。お一人の場合は「一人」
三行目以降:自由記入欄
(記入例)
【1】
一人
グッドラック!
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
31/∞
31/∞
公開日
2017年12月17日
2017年12月17日
■メイン参加者 31人■

●
覚者達の肌を、すっかり冷たくなった風が突き刺す。すぐ後ろには暖房の利いた自分の家を持つ覚者も少なくない。季節柄、炬燵を出すのも悪くないだろう。だが、そのような冷たい風に怯む気持ちは、覚者達に無かった。
「オラァッ!」
『五麟マラソン優勝者』奥州・一悟(CL2000076)の叫びと共に爆裂音が起き、隔者の1人が盛大に吹き飛ぶ。
ここは五麟近郊の山中。『結界王』は五麟を破壊するために行う儀式の祭場だ。そして、夢見によってそれを予見したFIVEの覚者は儀式阻止のため、襲撃を仕掛けた。
儀式の場を守る隔者は決して少なくない。だが、一悟の目に恐れの色は無かった。
むしろ、普段よりも煌々と炎が燃え盛っているくらいだ。
「しっかしなぁ……重傷負ってんなら大人しくしてればいいのによ。クリスマス前の楽しい時期にいい迷惑だぜ」
それほどまで、八神にカリスマがあるということなのだろうか?
だが、それでも命懸けで戦いを挑むほどの価値があるようには思えない。
そんなことを考えていると、後ろから隔者が迫っている気配を感じる。すぐさま振り向き、構えを取ると、一悟は隔者達に向かって咆哮を上げた。
「あきらめろ、お前たちに五麟は落とせねえ! オレたちが守り切る!」
互いに互いの喉元に牙を突き付けている状況だ。だが、覚者達の自分たちの場所を守ろうという想いは強い。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)や『プロ級ショコラティエール』菊坂・結鹿(CL2000432)もまた、隔者と切り結び、先へと進む隔者達のフォローを行う。
もちろん、その体は無傷ではいられない。『結界衆』は高い実力を持った隔者達だ。
そこへ癒しの雨が降り注ぎ、覚者達の傷を癒す。
桂木・日那乃(CL2000941)だ。
「……被害が、出るなら……それに。夢見さんたちに。酷いこと、するつもり、なら。消す、から」
こと、『結界王』は隠密を得意としており、夢見の存在はその破壊工作を防いでいた。それゆえに、敵は夢見の存在を好ましく思っていない。それどころか、憎んですらいる。
対して、日那乃は常に夢見の立場を気の毒に思っているのだ。だったら、そんな連中をこれ以上通してなどやるものか。
翼を広げて、隔者達を毅然と睨む日那乃。
そんな仲間たちを、『花守人』三島・柾(CL2001148)は頼もしげに見ている。
「最近、仲間の活躍が目覚ましいな。どれ俺も少しは役に立てるといいんだが」
軽く言いながら、柾は全身に源素を漲らせ、その身体速度を上昇させる。
その速度はまさしく、天を駆けるがごとく、である。
風のように迅く拳を放ち、柾は的確に隔者の動きを封じていく。AAAの特殊体術であるが、それを的確に使いこなしていた。
「やっぱ敵は防御がなかなか硬いな」
一方で、『結界衆』の使う防御の動きも手ごわい。 結界衆が身につけた守りに特化した技というのは伊達でないようだ。
「まぁ、負けるつもりはないが」
柾は不敵に笑い、再び敵の渦中へと飛び込んでいった。
●
山中から怒号と爆発音が木霊する。
あちらこちらで覚者と隔者の戦いが始まったのだ。
都市部であれば、辺りへの配慮を行うだろう。だが、この場には戦う力を持つ者しかいない。必然的に、互いは存分にその力を振るうことになる。
結果、戦場は源素の力が派手にぶつかり合う危険地帯と化した。その戦場を駆け抜け、覚者達は儀式の中心部へと突入する。
目指すは【大将首】、ただ一つ!
『意志への祈り』賀茂・たまき(CL2000994)の放った杭は大地に突き刺さると、周囲に衝撃を発した。
そこを続けざまに波動弾が駆け抜ける。攻撃のした方を見ると、既にはそこに攻撃をした者はいない。
代わりに別の場所から、同じように波動弾が飛んでくる。そこにいるのは破魔弓を構える『秘心伝心』鈴白・秋人(CL2000565)の姿があった。彼の弓は魔を払う意志を、力として撃ち出す。
戦場を冷静に観察しながら、位置を変えつつ攻撃を行い、敵の混乱を図る。この戦いは間違いなく長期戦になりうる。であれば、余計な所で体力を消耗している余裕はない。
大事なことは可能な限り戦力を維持し、敵の首魁の下へとたどり着かせることだ。
そして、覚者達が林を抜けたところで、儀式の中心部にたどり着く。
「来ましたか」
「ご無沙汰ですね、守堂敬護君。そして、さようならだ」
これが挨拶だと言わんばかりに、『教授』新田・成(CL2000538)の仕込み杖が強力な衝撃波を発し、儀式の場を劈く。
元より、『結界衆』相手に正々堂々としたぶつかり合いを行うつもりもないし、それは向こうも同様だ。
華々しい最期すら与えまい。奴は今日此処で、藁のように殺す。
「命だけではない。その技も根こそぎ戴く。我々FIVEの糧として、後には何も残さない」
「教授、その言葉はお返ししよう。貴様らのなした偉業は,全て八神様のものとする。大妖のことなら、我らに任せて死ぬがいい!」
「最早人間同士で小競り合う時は過ぎたのだ。疾く斃れよ、結界王」
守りの上からさらなる攻撃を叩きつける成。高まった力と冴え渡った技、それこそこの老練の身に着けた真骨頂だ。
「うん、決着を付けよう」
『静かに見つめる眼』東雲・梛(CL2001410)は静かに『結界王』を睨みつける。
前に戦った時と比べて、明らかに敵の動きは精彩を欠いており、怪我を追っているのは間違いない。それで油断できる相手でもないのは、前回で経験済みだが。
そして、始まる儀式の場での戦い。
『紅戀』酒々井・数多(CL2000149)と『月々紅花』環・大和(CL2000477)のコンビも、戦いに決着をつけるべく、気合を入れ直す。
「ねえね、大和さん。結界王と八神さんどっちが攻めだと思う? 私は結界王攻が好み」
「部下攻めが好みなのね。わたしもどちらかというとその方が好みよ」
こんな緊迫感ある戦闘でする会話にも思えないが、これも彼女らのメンタルの強さか。
それを証明するように、タイミングを合わせ、数多は体を灼熱化して隔者達の中へと躍り込む。止めようとする者もいるが、弾丸のような勢いで進む彼女を止めることは出来ない。
そもそも、道を阻もうとするものには、容赦なく大和が文字通りの雷を落とすのだ。そんな状態で押し留めることなど、隔者にできはしない。
「お久しぶりね。預けてもらった勝負、お返しするわ」
「えぇ、礼としてあなた方の敗北をお渡しします」
『結界王』の防御を崩すようにして、大和は雷を撃つ。
そして、その間隙を突いて、数多は連撃を決めた。
「色男! 傷はどう? 男前になったじゃない!」
「それはどうも。お陰様でまだ痛みますとも。休む気はありませんが」
数多の刃と『結界王』の鋼の腕がぶつかり合い、金属音が間断なく続く。雷と燃え盛る炎が舞い、一種幻想的な光景を作り上げた。
その最中、数多もカウンターを思い切りもらうことになったが、その程度で連続攻撃は途絶えない。
「そう。だったら、こっちもいくわよ! カウンターがなんぼのもんじゃい!
「えぇ、光の獣を従えて。数多さん、誰よりも一番輝いているわ」
「「雷獣桜火洛鳴斬!」」
数多と大和のコンビネーション。それは炎と雷が交互に敵を襲い、攻撃の暇を与えない連続技だ。
それは止まることなく、『結界王』の身を焼き続けた。
●
隔者達は本陣を固めているだけではない。五麟の郊外に遊撃部隊は潜んでいた。
破脈杭が発動したら即座に攻撃に移るためである。慎重な『結界王』のことだ。儀式の邪魔がされた場合に備えているという狙いもあるのだろう。
また、儀式の阻止に全力を避けないようけん制するという意味もあるに違いない。
「敵が他の相手と対している時に攻めるのは、有効な戦術ですね」
呟く上月・里桜(CL2001274)の姿を源素の防御シールドが覆っていく。向こうも覚者の存在に気付き、武器を構えた。
「……なんて、暢気な事を言っている場合ではありませんね。遊撃部隊を通せば、街の人達が被害を受けるのですから」
戦闘が得意なわけではないが、この街が奪われることは避けたい。今後も神秘の力に関わっていくため、大事な場所なのだ。
隔者達の上に現れた岩が砕け、その飛沫は敵にぶつかっていく。
その音が合図となって、この場所でも覚者と隔者は戦いを始める。
「あゆみはとっても弱いけど。でも、けが治すくらいならできるから。だから、すみちゃんといっしょにきたんだよ!」
『狐っ子』成瀬・歩(CL2001650)は【こんこん】の仲間と共に、小さな勇気を振り絞って戦いの場に立った。覚者は必ずしも戦う使命を持つわけではない。だが、今はその力を振るうべき時だ。
同じように覚者としての戦闘経験は少ないが、ゆるっとした雰囲気を纏っているのは真屋・千雪(CL2001638)だ。元がマイペースなせいか、こんな場であっても落ち着いている。
千雪に声を掛けた『黒は無慈悲な夜の女王』如月・彩吹(CL2001525)は、そんな様子を気に留めた風もなく、翼を広げ、槍を構えた。彼女も根は大雑把なのだ。
「千雪とこういう場所で一緒するのは初めてかな」
「彩吹さん、誘ってくれてありがとう、がんばるよー。天野さんははじめましてだね、よろしくー」
「はい、一緒に頑張りましょう」
『居待ち月』天野・澄香(CL2000194)は優しく微笑みかける。
「それとこの子は従妹なんですが覚者なりたてなのについてきてしまって……すみません、千雪くん、この子お願いできますか? 歩ちゃん、絶対に前へは出てこないで下さいね?」
澄香は歩を紹介しながら、初めて子供をおつかいに出すかのように心配している。実際、取り返しのつかないことになる確率は、おつかいの比ではない。
さすがの千雪もそこで断らない位の責任感は持っている。
「天野さんははじめましてだね、よろしくー。おー、歩くんもビギナーなんだ?怖かったら僕の背中に隠れていいからねー?」
「2人とも、無理はしないで。無事に家に帰るまでが決戦だ」
彩吹もポスポスと2人の頭を撫でる。
その心強い言葉に、歩も笑顔で答え、4人固まって行動を開始する。
「うん、あゆみもがんばるよ! いぶちゃん、すみちゃん、むりしないでね!」
もちろん、歩は内心怖くてたまらない。戦いを見ること自体が怖いし、みんなが死んだらと思うと足がすくむ。別の場所に向かった兄がどうなっているのか、分からないのも不安だ。
だけど、歩は皆なら大丈夫だと信じている。
だから、今日の戦いが終わるまでは、精一杯の力を尽くしてこの場を支えるのだ。
「ぶっちゃけ戦うのとかゲームだけがいいんだけどさー。怪我したくないしー。ピアノもっと弾きたいしー」
その手前でぽろろんと千雪が竪琴をつま弾くと、急成長した棘が隔者を縛り上げる。言葉は軽いが、その根底に意地のようなものが見え隠れする。
「でもさー? 誰かが泣くのも、嫌だよねぇ」
先ほどの言動の通り、癒しの霧を使う歩をしっかり庇っている。あえて言うのなら、今日この場にいる理由はこんなものだ。
と、その時、2人の頭の上を彩吹が颯爽と飛んで行った。
「というか、火力すごいなー、先輩2人」
彩吹がかっ飛んで行ったのは、その先に遊撃部隊のリーダー格を見かけたからだ。落ち着いた見た目に反し、実態は前衛系翼人なのである。
空を切り裂いて、隔者に強烈な蹴りの一撃を浴びせる。
「私は止められないぞ」
「お久しぶりです、ね……。ここで引き返して頂く訳には……いきません、よね」
「一応共闘した子とやり合いたくはないけど、ついてねぇなぁ。そっちも引いてくれりゃ、追いはしないけどよ」
過去に出会ったことのある澄香は、少し逡巡する。江崎も彼女や幼い歩の姿を見て、少しやりづらそうだ。
だが、澄香の答えは決まっていた。
「いえ、儀式を止めに行った皆さんが帰る場所を無くさせません……! この街は絶対に守ります!」
「そちらこそ、早々にお帰り願いたいな。お前たちの好きにはさせない。悪いけれど『八神様ために消えてあげる』気は全くないんだ」
香仇花の力が周囲を覆っていく中、全てを切り裂かんばかりの勢いで、彩吹は槍の斬撃を放った。
●
覚者達の奮戦によって、隔者達は儀式どころではなくなった。儀式についていた戦力も投入し、本気で覚者を潰しにかかってきたのだ。
タイムリミットが伸びたことは福音だが、未来が確定したわけではない。ここで踏ん張り切れなければ、結果は変わらないのだ。だからこそ、【四葩】として集まった覚者達は未来を目指して戦う。
「結界衆だか何だか知らねーけどな、絶対に儀式なんかさせねーからな!」
『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬・翔(CL2000063)の喚んだ雷が隔者達を焼く。実力で言えば全体として覚者達の方が上だが、さすがに数がこうも多いと疲労が溜まって来る。
そんな翔に声を掛けたのは、『天を舞う雷電の鳳』麻弓・紡(CL2000623)だ。一緒にいる子達が止めても聞くタイプでないことは、不本意ながらも承知している。だから、その背中を精一杯守ることを自認している。
「お疲れ、がんがん命大事にいこうぜ大作戦でしょ」
そう言いながら癒しの滴を与える紡。
おかげで元気を取り戻した翔はハイタッチをして、次の相手へと向かっていく。その壁になるように、走り込んできたのは『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)だ。
「お待たせツム姫、今日は遅刻しなかったよ! 明日はしていい?」
「あ、殿も近くにいたの? 仕方ないから回復くらいならしてあげるよ、届いたらね」
「それで十分!」
先ほどとは温度差の異なる言葉でプリンスに答える紡。
プリンスは返事を返すと、そのまま前に立つ『結界衆』に殴りかかる。自国の民への愛情と日本への愛情が掛け合わさって、威力は10倍だ。さらに防御も固めているので、威力は本来の100倍にもなる。
「貴公達が自分の王様好きな気持ちはわかんなくもないけど。自分の破れかぶれに民を巻き込む人間を王と認めるわけにはいかないよ、マジ王家としてはね」
ノリが軽くて責任感もないプリンスだが、組織の長としては一家言ある。
『結界王』の策が十分に進んでいれば、一方的にFIVEはやられていた。今も勝算が無いわけではないのだろうが、少なくとも組織の命運をかけていい数字ではない。
「かもしれぬ。だが、そうであってもこれ以上、貴様らにやられるわけにはいかぬ」
そう言って、巨漢の隔者が姿を見せる。『結界衆』の中でも指折りの実力者、吽形だ。
「王のために自身を厭わず戦う……うん、よくあるストーリーだ。だけど別に、僕たちの王じゃないし。大人しく消えてあげるわけには、いかないかな」
穏やかだが決して揺るがない意志で答える『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)。
その声の中には、決して屈しないという強い決意が滲んでいた。
相手が何を考えているのかは理解できる。だが、それはおいそれと従ってやれるような内容ではない。そして、互いに譲ることが出来ない内容である以上、後は戦いがあるだけだ。
拳を天に掲げると、空から星が掘り注ぎ、隔者達を討つ。
蒼羽はここのリーダー格相手には自分では分が悪いと判断する。だったら、仲間が従前の力を発揮できるようにサポートを行うのが自分の役割だ。
「2人とも怪我のないように気を付けて。僕は平気だよ、大人だからね」
「あぁ、気合入れてくぜ。痺れてくれればめっけもんだ。道を作ってやるぜ、早く行け! 雑魚共はオレ達が引き受けた」
蒼羽ともハイタッチして翔は気合を入れ直す。
ここで負けたら、妹も無事で済むとは思えない。今だって無事かどうか不安でたまらない。だけど、その不安を結城で乗り越える。
「2人の邪魔はさせないよ?その為に強くなったんだから」
紡も不敵に笑って、隔者の前へと立つ。
そして、仲間たちを背に、リーダー格へと挑むのは『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)だ。
奏空は自分の中にある力を推し量るように深呼吸を行う。
(ちらつく前世の記憶は自身を阻害するものではない。これは自分の意思、そう有りたいと願う昔からの想い、俺は人々を守る為の刃となる……!)
ここの所、自身を悩ませていた前世の記憶。
それは否定しても、飲み込まれてもダメだ。受け入れて、自分の力へと変えると自分を律する。
遥の方は至ってシンプルだ。
「目指すはここで一番強いヤツ、吽形! アンタは重傷負ってたりしてないよな? ならよし!」
ここを統率する『結界王』が全力を出せない状態なら、間違いなく最大の実力者はこいつだ。
だからこそ、戦う意味がある。
「オレらはオレらのやりたいことのため、全力でアンタらを潰しにきた。アンタらも自分達のために全力で来い!」
「……行くぞ、少年!」
「おうとも! やってろうぜ!」
遥の勢いに釣られるように奏空も気勢を上げる。敵が守ると誓ったものが別のものであれば、という願いはある。だが、その迷いが追いつくより早く、大地を蹴って飛ぶ。
激しく拳と刃が乱れ飛び、覚者達の命数も燃え盛った。
『結界衆』の守りの技は堅牢だ。そう簡単に破れるものではない。だが、若き戦士たちの闘志はそれを少しずつ崩していく。
「さあ行こうぜソラ! 雷帝雷神ここにあり、だ!!」
「五麟は俺達が守る!」
雷神の力を身に降ろしての高速斬撃。その手数に防御が追い付かなくなった時、雷帝の拳が隔者の腹に突き刺さる。
「雷帝と雷神の合力、しかと見よ、だ!」
雷帝と雷神の力の前に、結界衆は全て敗れ去る。すでに、儀式を守るものは存在しない。
●
「五麟市は広いので、防衛も大変なのよ」
儀式の中心部での戦いが激化していた頃、『ゆるゆるふああ』鼎・飛鳥(CL2000093)は自転車で学園周辺を哨戒していた。
遊撃部隊の本隊以外にも、隔者が動いている可能性はある。そういうわけで、旧AAAから成る警備員を借りているのだ。
「こっちは大丈夫なのよ」
つけてもらった他の警備の面子に向かって、念話を飛ばす。
幸いにして、現時点でここまで来ている者はいなかった。敵の目的が局地的な地震であるため、好んで功を焦るものもいなかったのだろう。覚者達の働きが良く、ここまで来られるものがいなかったというのもある。
だが、飛鳥のおかげで、不安に晒されている者達も安らぐことが出来た。
「もうひと頑張りなのよ」
そろそろ話に聞いていた儀式の完成する時間だ。
仲間たちが上手くいったのなら、残った遊撃部隊が動くかもしれない。最悪の展開になるのなら、自分の仕事はここからだ。
●
(古妖が関係無ければ、俺が動かないと思ったら、それは違う)
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は、戦場を駆けながら思う。
この間は『結界王』から古妖以外に興味が無いのだろうといった風に言われた。否定しきれないところもあるが、それは正解ではない。
(此処は、俺の大事な人が帰ってくる場所、守るしかないだろう)
自身の願いのため、祝詞を上げ、光で敵を討ち、戦場を走るジャック。
同じように、大辻・想良(CL2001476)は敵を守護使役の天に探させる。幸いにして、遊撃部隊はこれ以上見当たらない。
残った隔者を倒せば、ひとまず街の危機は一つ去る。
遊撃部隊に敵の主力が少ないこともあってどうにかなりはした。何度も仲間の気力の補てんを行ってきたが、それももう終わりだ。
「……この前は黒霧で今度は結界衆なんですね」
感慨、というほどのものはない。元々感情を出すのは苦手なのだから。
そういう意味では、残った隔者を率いているリーダー格にも似た気配を感じていた。
「地震なんか起こされたらたったもんじゃないけど……留守中に少しでも五麟市に被害が出るっていうのも我慢できないんだ」
そんな隔者達に腕の腕章を突き付け、『天使の卵』栗落花・渚(CL2001360)は降伏を迫るように、胸に抱えた思いを伝える。少なくともタイムリミットは過ぎており、地震が起きる気配はない。互いの主力からの連絡がまだである以上、儀式の行方は不明だが、この場としては覚者が有利なのは事実だ。
「江崎さん、まともな方だと思ったんですが……いえ、だからこそこうなったのでしょうか」
「まともな奴だったら、隔者になんてなんねぇよ。こういう生き方しかできなくてね。嬢ちゃんはこうなりなさんな」
残った隔者はせめてもの抵抗に出て来る。
だが、その程度の攻撃、渚の前ではどうしようもない。彼女の背から現れた、光の翼は天使のそれを思わせる温かさで仲間を包み込む。すると、覚者達の傷はたちどころに消えて行ってしまう。
命を削るかのような強力な力だが、彼女に迷いはない。
(儀式を止めに行ったみんな、そっちは任せたよ。留守は私達がしっかり預かっておくから安心して行ってきてね)
そして、そこまでして仲間に支えられている以上、『守人刀』獅子王・飛馬(CL2001466)が崩れるはずもなかった。
気合の雄叫びと共に2振りの刃で、敵の刃を打ち払い、飛馬は隔者の前に立ち塞がる。
守りに重きを置いた剣術である故、見た目に決して派手さはない。だが、このように敵の侵攻を防ぐという場であれば、これ以上の存在感もなく強大な壁であった。
まだまだ小柄な飛馬であるが、威圧感で何者よりも大きく見える。
「敵の親玉と戦うのに興味がないって言えば嘘になるけどな、街を守るのも同じくらい大事だ」
そのように言い切る姿からは、かつて修行を嫌がっていた幼い姿は想像もつかない。今でも十分若いわけであるが。
澄香の香気が場を包み、彩吹の槍が煌めき、隔者達は倒れていく。
そして、ラーラの術が完成し、戦場は炎に包みこまれる。
「後顧の憂いは私達が絶ちましょう。良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
戦闘不能になる隔者達。
普通なら相手の状態を見るため警戒して近づくものだが、ジャックは違った。
ずかずかと近寄り、隔者の手当てを始める。
「決着はついた! 終わったんだ、退け!! 救急車かもん!」
周りを当惑させる行動だったが、何よりも混乱しているのは助けられた相手の方だった。
「敵相手に普通そこまでするか? 流れ弾に当たっても文句言えねぇぞ?」
「うるせえ! 江崎大樹! 敵も味方も最早関係ねぇ!」
「……ついてねぇなぁ」
ジャックの早急な行動の甲斐もあって、この場での隔者の犠牲は抑えられた。
そして、『結界王』の襲撃は今、佳境を迎えようとしていた。
●
儀式の中心部の激戦は次第に沈静化しつつあった。儀式を行う隔者も戦力に投入されての激戦だったが、陣地制圧の成功が功を奏した。
だが、依然として『結界王』は健在だ。本来は裏方であり、直接戦闘力は幹部の中では低めであるが、それでも脅威は健在だ。
「今まで危ない場所には来ないようにしていたのに、今回はどうしたんだ」
「うん、凜音ちゃんが安心して皆を守れるように、椿花もいっぱい頑張るんだぞ!」
おそらくは最も危険な場所で、『癒しの矜持』香月・凜音(CL2000495)は、目の前で揺れるポニーテールへ、『天衣無縫』神楽坂・椿花(CL2000059)に向かって問う。
だが、この過酷な戦場で、顔を汚しながら椿花はにへらと笑って見せた。その笑顔を凜音は信じた。
「凜音ちゃんを心配にさせるような事はしないんだぞ!」
「頑張るっていうなら止めはしないが、無茶をするなら下がらせる。いいな」
椿花も幼くはあるが、愚かではない。凜音のガードに徹し、迫る『結界衆』を防ぐ。
おかげで凜音も回復に専念できる。彼が降らせる癒しの雨は、覚者達を支えて、『結界王』を追い詰めた。
「五麟市への、儀式による大規模攻撃は……!」
たまきは『結界王』の注意が他の覚者に向かった間隙を突き、破脈杭に向かって駆け出す。このチャンスを狙っていた。
儀式は現状止まっている。だが、強引に起動させるという選択肢は残っていた。もし、神具さえあれば、最小限の威力になろうと『結界王』は五麟市を道連れにしようとしただろう。
隔者達はそれを止めようとするが、韋駄天の速度で突っ切る彼女を止めることは出来ない。生命力を燃やし、自身を1つの星へと変えて、神具の下へと向かう。
「絶対にさせません!」
少女の叫びと共に、盛大な爆発が起きる。
爆煙が舞う中から姿を見せたたまき。
そのそばには、砕けた神具の破片が散らばっていた。
覚者に希望を与える姿へ、『結界王』は怒りを露にする。
気配が変わった。
それだけではない。今まで若干精彩を欠いていた動きが、以前の通り、いやそれ以上の動きとなったのだ。通常のスキルではありえない力、覚者達はそのような命を燃やし尽くすやり方を知っていた。
直後、猛烈な爆発が覚者達に襲い掛かる。
「凜音ちゃんを守るんだぞ!」
無茶と言われればその通りだ。それでも、椿花は必死の思いでその身を盾とする。
命を燃やし、全てを飲み込もうとする理不尽な暴力へと抗う。
(無事に戦闘を終えたら、凜音ちゃんに褒めてもらえるかな?)
日本を守る大義でも、『七星剣』への怒りでもない。ただただ、そんな小さな想いで。
「……終わったら、沢山労わないといけないな」
そして、凜音は一刻も早く戦いを終わらせるべく、覚者達に向かって声を張り上げる。
「奴はもう死に体だ! あんな反動の強い技を使ってるんだ! すぐにでも倒せる!」
凜音の言葉に覚者達は一斉攻撃を行う。
梛は力を振り絞って『結界王』へとぶつかる。
成は渾身の斬撃を以って挑む。
大和と数多のコンビネーションが、夜を削るように煌めく。
「結界王よ、八神への忠誠心、本物ね。然と受け止めたわ」
全身を朱に染め、『獣の一矢』鳴神・零(CL2000669)は構える。それは、全力の攻撃を始める前の予備動作。静から動へ移る前の凪のようなものだ。
『七星剣』を裏切った零にとって、『結界王』の忠誠はうらやましくすら感じるものだった。
だが、零も守りたいと思える、大事な場所を見つけた。
「今度こそ、命をかけなさい! 私もかけるわ。他でも無い、貴方との一瞬のために!」
「我が魂はぁっ、八神様と共に在りぃっ!」
零にとって八神は斃すべき敵だ。だが、その前にぶつかる相手がここにいた。だから、全身の力を爆発させ、相手の生命の炎へとぶつかっていく。
それは刹那の斬撃。
圧倒的な速度は、圧倒的な力と変わり、『結界王』を切り裂く。
その速度の前に、『結界王』は断末魔すら上げることなく斃れる。
何かを叫ぼうとする『結界王』にそっと立ち寄ると、梛は彼の瞼をそっと閉じた。
「俺達の勝ちだ。だから……おやすみ結界王」
そして、首魁の死を確認すると、仲間たちに告げた。
「みんな、お疲れさま」
冬ともなれば、夜明けが来るのは遅い。だが、覚者達は一つの戦いが終わったことを感じていた。
FIVEにとって激動の1年は次第に終わりを迎えようとしていた。
覚者達の肌を、すっかり冷たくなった風が突き刺す。すぐ後ろには暖房の利いた自分の家を持つ覚者も少なくない。季節柄、炬燵を出すのも悪くないだろう。だが、そのような冷たい風に怯む気持ちは、覚者達に無かった。
「オラァッ!」
『五麟マラソン優勝者』奥州・一悟(CL2000076)の叫びと共に爆裂音が起き、隔者の1人が盛大に吹き飛ぶ。
ここは五麟近郊の山中。『結界王』は五麟を破壊するために行う儀式の祭場だ。そして、夢見によってそれを予見したFIVEの覚者は儀式阻止のため、襲撃を仕掛けた。
儀式の場を守る隔者は決して少なくない。だが、一悟の目に恐れの色は無かった。
むしろ、普段よりも煌々と炎が燃え盛っているくらいだ。
「しっかしなぁ……重傷負ってんなら大人しくしてればいいのによ。クリスマス前の楽しい時期にいい迷惑だぜ」
それほどまで、八神にカリスマがあるということなのだろうか?
だが、それでも命懸けで戦いを挑むほどの価値があるようには思えない。
そんなことを考えていると、後ろから隔者が迫っている気配を感じる。すぐさま振り向き、構えを取ると、一悟は隔者達に向かって咆哮を上げた。
「あきらめろ、お前たちに五麟は落とせねえ! オレたちが守り切る!」
互いに互いの喉元に牙を突き付けている状況だ。だが、覚者達の自分たちの場所を守ろうという想いは強い。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)や『プロ級ショコラティエール』菊坂・結鹿(CL2000432)もまた、隔者と切り結び、先へと進む隔者達のフォローを行う。
もちろん、その体は無傷ではいられない。『結界衆』は高い実力を持った隔者達だ。
そこへ癒しの雨が降り注ぎ、覚者達の傷を癒す。
桂木・日那乃(CL2000941)だ。
「……被害が、出るなら……それに。夢見さんたちに。酷いこと、するつもり、なら。消す、から」
こと、『結界王』は隠密を得意としており、夢見の存在はその破壊工作を防いでいた。それゆえに、敵は夢見の存在を好ましく思っていない。それどころか、憎んですらいる。
対して、日那乃は常に夢見の立場を気の毒に思っているのだ。だったら、そんな連中をこれ以上通してなどやるものか。
翼を広げて、隔者達を毅然と睨む日那乃。
そんな仲間たちを、『花守人』三島・柾(CL2001148)は頼もしげに見ている。
「最近、仲間の活躍が目覚ましいな。どれ俺も少しは役に立てるといいんだが」
軽く言いながら、柾は全身に源素を漲らせ、その身体速度を上昇させる。
その速度はまさしく、天を駆けるがごとく、である。
風のように迅く拳を放ち、柾は的確に隔者の動きを封じていく。AAAの特殊体術であるが、それを的確に使いこなしていた。
「やっぱ敵は防御がなかなか硬いな」
一方で、『結界衆』の使う防御の動きも手ごわい。 結界衆が身につけた守りに特化した技というのは伊達でないようだ。
「まぁ、負けるつもりはないが」
柾は不敵に笑い、再び敵の渦中へと飛び込んでいった。
●
山中から怒号と爆発音が木霊する。
あちらこちらで覚者と隔者の戦いが始まったのだ。
都市部であれば、辺りへの配慮を行うだろう。だが、この場には戦う力を持つ者しかいない。必然的に、互いは存分にその力を振るうことになる。
結果、戦場は源素の力が派手にぶつかり合う危険地帯と化した。その戦場を駆け抜け、覚者達は儀式の中心部へと突入する。
目指すは【大将首】、ただ一つ!
『意志への祈り』賀茂・たまき(CL2000994)の放った杭は大地に突き刺さると、周囲に衝撃を発した。
そこを続けざまに波動弾が駆け抜ける。攻撃のした方を見ると、既にはそこに攻撃をした者はいない。
代わりに別の場所から、同じように波動弾が飛んでくる。そこにいるのは破魔弓を構える『秘心伝心』鈴白・秋人(CL2000565)の姿があった。彼の弓は魔を払う意志を、力として撃ち出す。
戦場を冷静に観察しながら、位置を変えつつ攻撃を行い、敵の混乱を図る。この戦いは間違いなく長期戦になりうる。であれば、余計な所で体力を消耗している余裕はない。
大事なことは可能な限り戦力を維持し、敵の首魁の下へとたどり着かせることだ。
そして、覚者達が林を抜けたところで、儀式の中心部にたどり着く。
「来ましたか」
「ご無沙汰ですね、守堂敬護君。そして、さようならだ」
これが挨拶だと言わんばかりに、『教授』新田・成(CL2000538)の仕込み杖が強力な衝撃波を発し、儀式の場を劈く。
元より、『結界衆』相手に正々堂々としたぶつかり合いを行うつもりもないし、それは向こうも同様だ。
華々しい最期すら与えまい。奴は今日此処で、藁のように殺す。
「命だけではない。その技も根こそぎ戴く。我々FIVEの糧として、後には何も残さない」
「教授、その言葉はお返ししよう。貴様らのなした偉業は,全て八神様のものとする。大妖のことなら、我らに任せて死ぬがいい!」
「最早人間同士で小競り合う時は過ぎたのだ。疾く斃れよ、結界王」
守りの上からさらなる攻撃を叩きつける成。高まった力と冴え渡った技、それこそこの老練の身に着けた真骨頂だ。
「うん、決着を付けよう」
『静かに見つめる眼』東雲・梛(CL2001410)は静かに『結界王』を睨みつける。
前に戦った時と比べて、明らかに敵の動きは精彩を欠いており、怪我を追っているのは間違いない。それで油断できる相手でもないのは、前回で経験済みだが。
そして、始まる儀式の場での戦い。
『紅戀』酒々井・数多(CL2000149)と『月々紅花』環・大和(CL2000477)のコンビも、戦いに決着をつけるべく、気合を入れ直す。
「ねえね、大和さん。結界王と八神さんどっちが攻めだと思う? 私は結界王攻が好み」
「部下攻めが好みなのね。わたしもどちらかというとその方が好みよ」
こんな緊迫感ある戦闘でする会話にも思えないが、これも彼女らのメンタルの強さか。
それを証明するように、タイミングを合わせ、数多は体を灼熱化して隔者達の中へと躍り込む。止めようとする者もいるが、弾丸のような勢いで進む彼女を止めることは出来ない。
そもそも、道を阻もうとするものには、容赦なく大和が文字通りの雷を落とすのだ。そんな状態で押し留めることなど、隔者にできはしない。
「お久しぶりね。預けてもらった勝負、お返しするわ」
「えぇ、礼としてあなた方の敗北をお渡しします」
『結界王』の防御を崩すようにして、大和は雷を撃つ。
そして、その間隙を突いて、数多は連撃を決めた。
「色男! 傷はどう? 男前になったじゃない!」
「それはどうも。お陰様でまだ痛みますとも。休む気はありませんが」
数多の刃と『結界王』の鋼の腕がぶつかり合い、金属音が間断なく続く。雷と燃え盛る炎が舞い、一種幻想的な光景を作り上げた。
その最中、数多もカウンターを思い切りもらうことになったが、その程度で連続攻撃は途絶えない。
「そう。だったら、こっちもいくわよ! カウンターがなんぼのもんじゃい!
「えぇ、光の獣を従えて。数多さん、誰よりも一番輝いているわ」
「「雷獣桜火洛鳴斬!」」
数多と大和のコンビネーション。それは炎と雷が交互に敵を襲い、攻撃の暇を与えない連続技だ。
それは止まることなく、『結界王』の身を焼き続けた。
●
隔者達は本陣を固めているだけではない。五麟の郊外に遊撃部隊は潜んでいた。
破脈杭が発動したら即座に攻撃に移るためである。慎重な『結界王』のことだ。儀式の邪魔がされた場合に備えているという狙いもあるのだろう。
また、儀式の阻止に全力を避けないようけん制するという意味もあるに違いない。
「敵が他の相手と対している時に攻めるのは、有効な戦術ですね」
呟く上月・里桜(CL2001274)の姿を源素の防御シールドが覆っていく。向こうも覚者の存在に気付き、武器を構えた。
「……なんて、暢気な事を言っている場合ではありませんね。遊撃部隊を通せば、街の人達が被害を受けるのですから」
戦闘が得意なわけではないが、この街が奪われることは避けたい。今後も神秘の力に関わっていくため、大事な場所なのだ。
隔者達の上に現れた岩が砕け、その飛沫は敵にぶつかっていく。
その音が合図となって、この場所でも覚者と隔者は戦いを始める。
「あゆみはとっても弱いけど。でも、けが治すくらいならできるから。だから、すみちゃんといっしょにきたんだよ!」
『狐っ子』成瀬・歩(CL2001650)は【こんこん】の仲間と共に、小さな勇気を振り絞って戦いの場に立った。覚者は必ずしも戦う使命を持つわけではない。だが、今はその力を振るうべき時だ。
同じように覚者としての戦闘経験は少ないが、ゆるっとした雰囲気を纏っているのは真屋・千雪(CL2001638)だ。元がマイペースなせいか、こんな場であっても落ち着いている。
千雪に声を掛けた『黒は無慈悲な夜の女王』如月・彩吹(CL2001525)は、そんな様子を気に留めた風もなく、翼を広げ、槍を構えた。彼女も根は大雑把なのだ。
「千雪とこういう場所で一緒するのは初めてかな」
「彩吹さん、誘ってくれてありがとう、がんばるよー。天野さんははじめましてだね、よろしくー」
「はい、一緒に頑張りましょう」
『居待ち月』天野・澄香(CL2000194)は優しく微笑みかける。
「それとこの子は従妹なんですが覚者なりたてなのについてきてしまって……すみません、千雪くん、この子お願いできますか? 歩ちゃん、絶対に前へは出てこないで下さいね?」
澄香は歩を紹介しながら、初めて子供をおつかいに出すかのように心配している。実際、取り返しのつかないことになる確率は、おつかいの比ではない。
さすがの千雪もそこで断らない位の責任感は持っている。
「天野さんははじめましてだね、よろしくー。おー、歩くんもビギナーなんだ?怖かったら僕の背中に隠れていいからねー?」
「2人とも、無理はしないで。無事に家に帰るまでが決戦だ」
彩吹もポスポスと2人の頭を撫でる。
その心強い言葉に、歩も笑顔で答え、4人固まって行動を開始する。
「うん、あゆみもがんばるよ! いぶちゃん、すみちゃん、むりしないでね!」
もちろん、歩は内心怖くてたまらない。戦いを見ること自体が怖いし、みんなが死んだらと思うと足がすくむ。別の場所に向かった兄がどうなっているのか、分からないのも不安だ。
だけど、歩は皆なら大丈夫だと信じている。
だから、今日の戦いが終わるまでは、精一杯の力を尽くしてこの場を支えるのだ。
「ぶっちゃけ戦うのとかゲームだけがいいんだけどさー。怪我したくないしー。ピアノもっと弾きたいしー」
その手前でぽろろんと千雪が竪琴をつま弾くと、急成長した棘が隔者を縛り上げる。言葉は軽いが、その根底に意地のようなものが見え隠れする。
「でもさー? 誰かが泣くのも、嫌だよねぇ」
先ほどの言動の通り、癒しの霧を使う歩をしっかり庇っている。あえて言うのなら、今日この場にいる理由はこんなものだ。
と、その時、2人の頭の上を彩吹が颯爽と飛んで行った。
「というか、火力すごいなー、先輩2人」
彩吹がかっ飛んで行ったのは、その先に遊撃部隊のリーダー格を見かけたからだ。落ち着いた見た目に反し、実態は前衛系翼人なのである。
空を切り裂いて、隔者に強烈な蹴りの一撃を浴びせる。
「私は止められないぞ」
「お久しぶりです、ね……。ここで引き返して頂く訳には……いきません、よね」
「一応共闘した子とやり合いたくはないけど、ついてねぇなぁ。そっちも引いてくれりゃ、追いはしないけどよ」
過去に出会ったことのある澄香は、少し逡巡する。江崎も彼女や幼い歩の姿を見て、少しやりづらそうだ。
だが、澄香の答えは決まっていた。
「いえ、儀式を止めに行った皆さんが帰る場所を無くさせません……! この街は絶対に守ります!」
「そちらこそ、早々にお帰り願いたいな。お前たちの好きにはさせない。悪いけれど『八神様ために消えてあげる』気は全くないんだ」
香仇花の力が周囲を覆っていく中、全てを切り裂かんばかりの勢いで、彩吹は槍の斬撃を放った。
●
覚者達の奮戦によって、隔者達は儀式どころではなくなった。儀式についていた戦力も投入し、本気で覚者を潰しにかかってきたのだ。
タイムリミットが伸びたことは福音だが、未来が確定したわけではない。ここで踏ん張り切れなければ、結果は変わらないのだ。だからこそ、【四葩】として集まった覚者達は未来を目指して戦う。
「結界衆だか何だか知らねーけどな、絶対に儀式なんかさせねーからな!」
『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬・翔(CL2000063)の喚んだ雷が隔者達を焼く。実力で言えば全体として覚者達の方が上だが、さすがに数がこうも多いと疲労が溜まって来る。
そんな翔に声を掛けたのは、『天を舞う雷電の鳳』麻弓・紡(CL2000623)だ。一緒にいる子達が止めても聞くタイプでないことは、不本意ながらも承知している。だから、その背中を精一杯守ることを自認している。
「お疲れ、がんがん命大事にいこうぜ大作戦でしょ」
そう言いながら癒しの滴を与える紡。
おかげで元気を取り戻した翔はハイタッチをして、次の相手へと向かっていく。その壁になるように、走り込んできたのは『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)だ。
「お待たせツム姫、今日は遅刻しなかったよ! 明日はしていい?」
「あ、殿も近くにいたの? 仕方ないから回復くらいならしてあげるよ、届いたらね」
「それで十分!」
先ほどとは温度差の異なる言葉でプリンスに答える紡。
プリンスは返事を返すと、そのまま前に立つ『結界衆』に殴りかかる。自国の民への愛情と日本への愛情が掛け合わさって、威力は10倍だ。さらに防御も固めているので、威力は本来の100倍にもなる。
「貴公達が自分の王様好きな気持ちはわかんなくもないけど。自分の破れかぶれに民を巻き込む人間を王と認めるわけにはいかないよ、マジ王家としてはね」
ノリが軽くて責任感もないプリンスだが、組織の長としては一家言ある。
『結界王』の策が十分に進んでいれば、一方的にFIVEはやられていた。今も勝算が無いわけではないのだろうが、少なくとも組織の命運をかけていい数字ではない。
「かもしれぬ。だが、そうであってもこれ以上、貴様らにやられるわけにはいかぬ」
そう言って、巨漢の隔者が姿を見せる。『結界衆』の中でも指折りの実力者、吽形だ。
「王のために自身を厭わず戦う……うん、よくあるストーリーだ。だけど別に、僕たちの王じゃないし。大人しく消えてあげるわけには、いかないかな」
穏やかだが決して揺るがない意志で答える『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)。
その声の中には、決して屈しないという強い決意が滲んでいた。
相手が何を考えているのかは理解できる。だが、それはおいそれと従ってやれるような内容ではない。そして、互いに譲ることが出来ない内容である以上、後は戦いがあるだけだ。
拳を天に掲げると、空から星が掘り注ぎ、隔者達を討つ。
蒼羽はここのリーダー格相手には自分では分が悪いと判断する。だったら、仲間が従前の力を発揮できるようにサポートを行うのが自分の役割だ。
「2人とも怪我のないように気を付けて。僕は平気だよ、大人だからね」
「あぁ、気合入れてくぜ。痺れてくれればめっけもんだ。道を作ってやるぜ、早く行け! 雑魚共はオレ達が引き受けた」
蒼羽ともハイタッチして翔は気合を入れ直す。
ここで負けたら、妹も無事で済むとは思えない。今だって無事かどうか不安でたまらない。だけど、その不安を結城で乗り越える。
「2人の邪魔はさせないよ?その為に強くなったんだから」
紡も不敵に笑って、隔者の前へと立つ。
そして、仲間たちを背に、リーダー格へと挑むのは『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)だ。
奏空は自分の中にある力を推し量るように深呼吸を行う。
(ちらつく前世の記憶は自身を阻害するものではない。これは自分の意思、そう有りたいと願う昔からの想い、俺は人々を守る為の刃となる……!)
ここの所、自身を悩ませていた前世の記憶。
それは否定しても、飲み込まれてもダメだ。受け入れて、自分の力へと変えると自分を律する。
遥の方は至ってシンプルだ。
「目指すはここで一番強いヤツ、吽形! アンタは重傷負ってたりしてないよな? ならよし!」
ここを統率する『結界王』が全力を出せない状態なら、間違いなく最大の実力者はこいつだ。
だからこそ、戦う意味がある。
「オレらはオレらのやりたいことのため、全力でアンタらを潰しにきた。アンタらも自分達のために全力で来い!」
「……行くぞ、少年!」
「おうとも! やってろうぜ!」
遥の勢いに釣られるように奏空も気勢を上げる。敵が守ると誓ったものが別のものであれば、という願いはある。だが、その迷いが追いつくより早く、大地を蹴って飛ぶ。
激しく拳と刃が乱れ飛び、覚者達の命数も燃え盛った。
『結界衆』の守りの技は堅牢だ。そう簡単に破れるものではない。だが、若き戦士たちの闘志はそれを少しずつ崩していく。
「さあ行こうぜソラ! 雷帝雷神ここにあり、だ!!」
「五麟は俺達が守る!」
雷神の力を身に降ろしての高速斬撃。その手数に防御が追い付かなくなった時、雷帝の拳が隔者の腹に突き刺さる。
「雷帝と雷神の合力、しかと見よ、だ!」
雷帝と雷神の力の前に、結界衆は全て敗れ去る。すでに、儀式を守るものは存在しない。
●
「五麟市は広いので、防衛も大変なのよ」
儀式の中心部での戦いが激化していた頃、『ゆるゆるふああ』鼎・飛鳥(CL2000093)は自転車で学園周辺を哨戒していた。
遊撃部隊の本隊以外にも、隔者が動いている可能性はある。そういうわけで、旧AAAから成る警備員を借りているのだ。
「こっちは大丈夫なのよ」
つけてもらった他の警備の面子に向かって、念話を飛ばす。
幸いにして、現時点でここまで来ている者はいなかった。敵の目的が局地的な地震であるため、好んで功を焦るものもいなかったのだろう。覚者達の働きが良く、ここまで来られるものがいなかったというのもある。
だが、飛鳥のおかげで、不安に晒されている者達も安らぐことが出来た。
「もうひと頑張りなのよ」
そろそろ話に聞いていた儀式の完成する時間だ。
仲間たちが上手くいったのなら、残った遊撃部隊が動くかもしれない。最悪の展開になるのなら、自分の仕事はここからだ。
●
(古妖が関係無ければ、俺が動かないと思ったら、それは違う)
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は、戦場を駆けながら思う。
この間は『結界王』から古妖以外に興味が無いのだろうといった風に言われた。否定しきれないところもあるが、それは正解ではない。
(此処は、俺の大事な人が帰ってくる場所、守るしかないだろう)
自身の願いのため、祝詞を上げ、光で敵を討ち、戦場を走るジャック。
同じように、大辻・想良(CL2001476)は敵を守護使役の天に探させる。幸いにして、遊撃部隊はこれ以上見当たらない。
残った隔者を倒せば、ひとまず街の危機は一つ去る。
遊撃部隊に敵の主力が少ないこともあってどうにかなりはした。何度も仲間の気力の補てんを行ってきたが、それももう終わりだ。
「……この前は黒霧で今度は結界衆なんですね」
感慨、というほどのものはない。元々感情を出すのは苦手なのだから。
そういう意味では、残った隔者を率いているリーダー格にも似た気配を感じていた。
「地震なんか起こされたらたったもんじゃないけど……留守中に少しでも五麟市に被害が出るっていうのも我慢できないんだ」
そんな隔者達に腕の腕章を突き付け、『天使の卵』栗落花・渚(CL2001360)は降伏を迫るように、胸に抱えた思いを伝える。少なくともタイムリミットは過ぎており、地震が起きる気配はない。互いの主力からの連絡がまだである以上、儀式の行方は不明だが、この場としては覚者が有利なのは事実だ。
「江崎さん、まともな方だと思ったんですが……いえ、だからこそこうなったのでしょうか」
「まともな奴だったら、隔者になんてなんねぇよ。こういう生き方しかできなくてね。嬢ちゃんはこうなりなさんな」
残った隔者はせめてもの抵抗に出て来る。
だが、その程度の攻撃、渚の前ではどうしようもない。彼女の背から現れた、光の翼は天使のそれを思わせる温かさで仲間を包み込む。すると、覚者達の傷はたちどころに消えて行ってしまう。
命を削るかのような強力な力だが、彼女に迷いはない。
(儀式を止めに行ったみんな、そっちは任せたよ。留守は私達がしっかり預かっておくから安心して行ってきてね)
そして、そこまでして仲間に支えられている以上、『守人刀』獅子王・飛馬(CL2001466)が崩れるはずもなかった。
気合の雄叫びと共に2振りの刃で、敵の刃を打ち払い、飛馬は隔者の前に立ち塞がる。
守りに重きを置いた剣術である故、見た目に決して派手さはない。だが、このように敵の侵攻を防ぐという場であれば、これ以上の存在感もなく強大な壁であった。
まだまだ小柄な飛馬であるが、威圧感で何者よりも大きく見える。
「敵の親玉と戦うのに興味がないって言えば嘘になるけどな、街を守るのも同じくらい大事だ」
そのように言い切る姿からは、かつて修行を嫌がっていた幼い姿は想像もつかない。今でも十分若いわけであるが。
澄香の香気が場を包み、彩吹の槍が煌めき、隔者達は倒れていく。
そして、ラーラの術が完成し、戦場は炎に包みこまれる。
「後顧の憂いは私達が絶ちましょう。良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
戦闘不能になる隔者達。
普通なら相手の状態を見るため警戒して近づくものだが、ジャックは違った。
ずかずかと近寄り、隔者の手当てを始める。
「決着はついた! 終わったんだ、退け!! 救急車かもん!」
周りを当惑させる行動だったが、何よりも混乱しているのは助けられた相手の方だった。
「敵相手に普通そこまでするか? 流れ弾に当たっても文句言えねぇぞ?」
「うるせえ! 江崎大樹! 敵も味方も最早関係ねぇ!」
「……ついてねぇなぁ」
ジャックの早急な行動の甲斐もあって、この場での隔者の犠牲は抑えられた。
そして、『結界王』の襲撃は今、佳境を迎えようとしていた。
●
儀式の中心部の激戦は次第に沈静化しつつあった。儀式を行う隔者も戦力に投入されての激戦だったが、陣地制圧の成功が功を奏した。
だが、依然として『結界王』は健在だ。本来は裏方であり、直接戦闘力は幹部の中では低めであるが、それでも脅威は健在だ。
「今まで危ない場所には来ないようにしていたのに、今回はどうしたんだ」
「うん、凜音ちゃんが安心して皆を守れるように、椿花もいっぱい頑張るんだぞ!」
おそらくは最も危険な場所で、『癒しの矜持』香月・凜音(CL2000495)は、目の前で揺れるポニーテールへ、『天衣無縫』神楽坂・椿花(CL2000059)に向かって問う。
だが、この過酷な戦場で、顔を汚しながら椿花はにへらと笑って見せた。その笑顔を凜音は信じた。
「凜音ちゃんを心配にさせるような事はしないんだぞ!」
「頑張るっていうなら止めはしないが、無茶をするなら下がらせる。いいな」
椿花も幼くはあるが、愚かではない。凜音のガードに徹し、迫る『結界衆』を防ぐ。
おかげで凜音も回復に専念できる。彼が降らせる癒しの雨は、覚者達を支えて、『結界王』を追い詰めた。
「五麟市への、儀式による大規模攻撃は……!」
たまきは『結界王』の注意が他の覚者に向かった間隙を突き、破脈杭に向かって駆け出す。このチャンスを狙っていた。
儀式は現状止まっている。だが、強引に起動させるという選択肢は残っていた。もし、神具さえあれば、最小限の威力になろうと『結界王』は五麟市を道連れにしようとしただろう。
隔者達はそれを止めようとするが、韋駄天の速度で突っ切る彼女を止めることは出来ない。生命力を燃やし、自身を1つの星へと変えて、神具の下へと向かう。
「絶対にさせません!」
少女の叫びと共に、盛大な爆発が起きる。
爆煙が舞う中から姿を見せたたまき。
そのそばには、砕けた神具の破片が散らばっていた。
覚者に希望を与える姿へ、『結界王』は怒りを露にする。
気配が変わった。
それだけではない。今まで若干精彩を欠いていた動きが、以前の通り、いやそれ以上の動きとなったのだ。通常のスキルではありえない力、覚者達はそのような命を燃やし尽くすやり方を知っていた。
直後、猛烈な爆発が覚者達に襲い掛かる。
「凜音ちゃんを守るんだぞ!」
無茶と言われればその通りだ。それでも、椿花は必死の思いでその身を盾とする。
命を燃やし、全てを飲み込もうとする理不尽な暴力へと抗う。
(無事に戦闘を終えたら、凜音ちゃんに褒めてもらえるかな?)
日本を守る大義でも、『七星剣』への怒りでもない。ただただ、そんな小さな想いで。
「……終わったら、沢山労わないといけないな」
そして、凜音は一刻も早く戦いを終わらせるべく、覚者達に向かって声を張り上げる。
「奴はもう死に体だ! あんな反動の強い技を使ってるんだ! すぐにでも倒せる!」
凜音の言葉に覚者達は一斉攻撃を行う。
梛は力を振り絞って『結界王』へとぶつかる。
成は渾身の斬撃を以って挑む。
大和と数多のコンビネーションが、夜を削るように煌めく。
「結界王よ、八神への忠誠心、本物ね。然と受け止めたわ」
全身を朱に染め、『獣の一矢』鳴神・零(CL2000669)は構える。それは、全力の攻撃を始める前の予備動作。静から動へ移る前の凪のようなものだ。
『七星剣』を裏切った零にとって、『結界王』の忠誠はうらやましくすら感じるものだった。
だが、零も守りたいと思える、大事な場所を見つけた。
「今度こそ、命をかけなさい! 私もかけるわ。他でも無い、貴方との一瞬のために!」
「我が魂はぁっ、八神様と共に在りぃっ!」
零にとって八神は斃すべき敵だ。だが、その前にぶつかる相手がここにいた。だから、全身の力を爆発させ、相手の生命の炎へとぶつかっていく。
それは刹那の斬撃。
圧倒的な速度は、圧倒的な力と変わり、『結界王』を切り裂く。
その速度の前に、『結界王』は断末魔すら上げることなく斃れる。
何かを叫ぼうとする『結界王』にそっと立ち寄ると、梛は彼の瞼をそっと閉じた。
「俺達の勝ちだ。だから……おやすみ結界王」
そして、首魁の死を確認すると、仲間たちに告げた。
「みんな、お疲れさま」
冬ともなれば、夜明けが来るのは遅い。だが、覚者達は一つの戦いが終わったことを感じていた。
FIVEにとって激動の1年は次第に終わりを迎えようとしていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
死亡
なし
称号付与
特殊成果
なし
