ただ、それだけの理由で彼は一席設けます
●伝言
「FiVEの介入により襲撃は失敗か……」
「はい、どうにか新型武器の破壊に成功して証拠隠滅は図りましたが」
部下の言葉に渋面となる男。
「武器はいずれ市場に出回るだろうが、取られると不味いからな販売先からの引き上げは避けたいところだから仕方がない」
「それと、彼等からの伝言で今度一席いかがですかと、おそらくは挑発だと思いますが」
部下の言葉に男の表情が変わる。
「そうだな挑発だ。けど、乗ってみるのも悪くない。そこで死ねば私もそれまでか運が良ければ殉教者になるだけだ」
「本気ですか? 荒関さん」
「本気だよ、物部。我々と敵対してきたFiVEからの誘いだ、断っては失礼にあたる」
荒関と呼ばれた男は恋人に電話をするかのように上機嫌で受話器を握った。
●一席設けました
「憤怒者組織『良き隣人』から、こちらの誘いに応じて一席設けたという連絡がありました。先程、同じ内容の夢見があり、どうやら本当に店を予約して待っているみたいです」
皆に話す久方 真由美(nCL2000003)の表情は硬い。
「場所は東京都内の居酒屋。30人から50人くらいの客を受け入れられ酒と魚に定評のある、それなりの値段の店です。そこの個室を貸し切って、『良き隣人』代表の荒関自らがこちらを待ち受けるようです」
開いたのは居酒屋の乗っている都内の情報誌。
「ですが、問題が一つありまして……荒関と店内に居る二人の部下が爆弾を抱えています」
そう話す真由美の顔は平静を装っているが汗が一筋流れるのはごまかせない。
「爆弾は有線で脈拍をモニタリングしており、それが途絶すると爆発する仕組みになっています。勿論店内には他の客も来ており、部下たちはそこに紛れていて発見するのは難しいと思います」
全てを言い終わった夢見の女は顔を上げ皆に問う。
「彼の誘い、乗りますか?」
「FiVEの介入により襲撃は失敗か……」
「はい、どうにか新型武器の破壊に成功して証拠隠滅は図りましたが」
部下の言葉に渋面となる男。
「武器はいずれ市場に出回るだろうが、取られると不味いからな販売先からの引き上げは避けたいところだから仕方がない」
「それと、彼等からの伝言で今度一席いかがですかと、おそらくは挑発だと思いますが」
部下の言葉に男の表情が変わる。
「そうだな挑発だ。けど、乗ってみるのも悪くない。そこで死ねば私もそれまでか運が良ければ殉教者になるだけだ」
「本気ですか? 荒関さん」
「本気だよ、物部。我々と敵対してきたFiVEからの誘いだ、断っては失礼にあたる」
荒関と呼ばれた男は恋人に電話をするかのように上機嫌で受話器を握った。
●一席設けました
「憤怒者組織『良き隣人』から、こちらの誘いに応じて一席設けたという連絡がありました。先程、同じ内容の夢見があり、どうやら本当に店を予約して待っているみたいです」
皆に話す久方 真由美(nCL2000003)の表情は硬い。
「場所は東京都内の居酒屋。30人から50人くらいの客を受け入れられ酒と魚に定評のある、それなりの値段の店です。そこの個室を貸し切って、『良き隣人』代表の荒関自らがこちらを待ち受けるようです」
開いたのは居酒屋の乗っている都内の情報誌。
「ですが、問題が一つありまして……荒関と店内に居る二人の部下が爆弾を抱えています」
そう話す真由美の顔は平静を装っているが汗が一筋流れるのはごまかせない。
「爆弾は有線で脈拍をモニタリングしており、それが途絶すると爆発する仕組みになっています。勿論店内には他の客も来ており、部下たちはそこに紛れていて発見するのは難しいと思います」
全てを言い終わった夢見の女は顔を上げ皆に問う。
「彼の誘い、乗りますか?」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.憤怒者組織『良き隣人』代表の荒関と会話する
2.店内の客に犠牲者を出さない
3.上記二つの条件を満たす事
2.店内の客に犠牲者を出さない
3.上記二つの条件を満たす事
どうも塩見です。
以前、お誘いされたので今回はそれに応じます。
折角の席です。
敵の目的や行動、武器の流通の経路や諸々、色々と聞きたい事を聞いてみてはいかがでしょうか?
酒宴の内容は以下の通りです。
二時間貸し切り、支払いは『良き隣人』持ちです。
●飲み物
・各種酒類、ソフトドリンク
※未成年の飲酒は禁止ですよ。
●食べ物
・刺身、サラダ、アスパラベーコン巻き、ニジマスのムニエルとポークソテー、ご飯と味噌汁、漬物、ビワとメロンのシャーベット
※追加で食べ物を頼んでも可能です。
●場所
都内の雑居ビルにある居酒屋。
その中の15名ほどが入れる個室。
荒関と部下二名が待っています。
その他に店内に数名、憤怒者を潜ませていますし。七星剣のスパイもいるかもしれません、そして他の個室や小上がり席、カウンターには何も知らない客がいます。
●爆弾
荒関と店内に居る部下二名が持つ通常の爆弾です。
脈拍をモニタリングしておりこれが途絶すると爆発する仕組みとなっております。
威力は店が吹っ飛んで、覚者だけが生き残る程度。
では皆さん、よい宴になることを期待しています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年05月30日
2016年05月30日
■メイン参加者 8人■

●入店
「お待ちしておりました。私、『良き隣人』の物部と申します。以後、お見知りおきを」
覚者達が店先に着いたところで店頭に立っていた男が声をかけ、頭を下げた。その手にはやや小型のトランクが握られている。
東京のとある雑居ビルの一角、若者から家族連れまで利用する明らかに大衆向けの居酒屋。そこにFiVEを招待した憤怒者が待っていた。
「どうも初めまして、新田と申します。荒関君はもうお来しに?」
皆を代表して『教授』新田・成(CL2000538)が答え、そして問いかける。物部と名乗った男は頷き、
「はい、既にお待ちになられています。ご案内いたしますのでどうぞ」
手を伸ばして店内へ導くような仕草を見せると踵を返して、誘導する。促されるように歩む覚者。だがそのまま流されるようには動かない。成はエネミースキャンで様子を伺っていた七星剣の隔者を見つけると会釈をし、相手もそれを返す。そして物部のトランクを透視して中にある爆弾を確認する。
『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は店内を見回す振りをしながら超直感によって他に隔者や憤怒者が居ないことを確かめ、『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)も店内の構造や非常口の位置などを確認し、頭に叩き込んでいく。
覚者達が視線を巡らす中、物部は小上がりの奥にある唯一の個室の前に座り、引き戸越しに声をかけた。
「荒関さん、お客様がお見えになられました」
「ありがとう、では案内してくれ」
扉越しに聞こえた言葉に憤怒者は襖に手をかけてゆっくりと引いた。
●歓待
「呼びつける形で申し訳ない。初めまして『良き隣人』の代表を務める荒関だ。よろしく頼む」
待っていたのは髪の毛に白いものが混ざり、老齢の兆しを見せる眼鏡の男。痩せているように見えるがそれは身長が高い故、年齢に合わない体躯と物腰は鍛えた人間のそれであった。グレーのスーツの左手首からはコードが伸び、彼の傍にあるトランクにつながっている。
「初めましてナイスな隣人の民の皆さん――」
「お招き頂きありがとうございます。東京は久しぶりですから、嬉しいお誘いです」
プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が何かを言おうとしたのを遮って、再度挨拶をするのは成、荒関は老紳士の顔を見ると考え込み、問う。
「ご老人、カレンでお会いしたことはあったかな?」
「……そこに酒があるのでしたら」
「ならば人違いだ、失礼した。さあ、みんなも座ってくれ。折角の長旅だろう、掘りごたつだ。足は伸ばせるぞ」
「てか、荒関君よ」
深緋・幽霊男(CL2001229)が席に案内しようとする荒関に口を挟む。
「とりあえず部下連れて来てんなら、そいつ等にも何か出してやれよ。労えよ。ついでに、その得物とれよ。飯が味わえんだろ」
「これは手厳しい」
包帯の女の言葉に男は苦笑する。
「けど、君達に囲まれてはうちの者も委縮して、食べる物も喉が通らないだろう。自分の持ち場で好きに飲み食いさせてやってるから勘弁してくれ、それと……」
トランクを持ち上げる荒関。
「これは外せない。君達と違って力が無いからね、こうやって巻き込むことでやっと舞台に上がれるんだ。小人物の浅知恵と嘲笑って勘弁してもらえないだろうか」
眼鏡の位置を直し、笑みを見せる男の眼には試すような何か。それを感じた幽霊男は不機嫌な顔で席に座ると一言。
「なーなーろまんこんちだかって高いのか? うまいのか? たのんでいいのか」
「ワインは不慣れだが、高いのは確かだな。用意しよう。皆さんも飲み物を決めてくれ。飲み放題だから遠慮することは無い」
だが荒関の対面に座り、常に余裕の笑みをたたえたプリンスはメニュー表を見ると
「これノミホにビールついてないじゃん!? 王家は1杯目ビールってしきたりなのに!」
機嫌を損ねた。
「物部……どういうことか説明しろ」
同じく機嫌を損ねた荒関は部下を呼ぶ。
「はい、店のお勧めという事でこのメニューにしました」
「こちらの不手際だ、すまない。好きなものを頼んでくれ」
男の謝罪と共に会食は始まった。
●会談
「まずは、緑川の件で礼を言わせてくれ」
乾杯の後、冷酒を一息に飲み干してから出る言葉は礼の言葉。
「彼女自身は憤怒者とは無関係なんだが、担ぎあげる周りがね……まあ使いにくいと感じ、死んだ方が利益が大きいと読んだのか、情報が入りながら放置を決めていた」
「だったら、なんでこっちに頼んだんだよ」
離れた場所から小唄が問い詰める。
「小唄君……だったね? 穏健派が居ないと私達も仕事が出来ない。戦闘は対話出来る者が居ないとお互い殺しあうまで続くからね」
「荒関君は憤怒者全体がタカ派に固まるのは困るということですか?」
「そう思ってくれて構わない」
成が助け舟を出す。二人の会話に何か苛立ち感じた少年はコーラを一気に飲み干して、矢継ぎ早に質問した。聞きたい事も言いたいことも全てをぶつけるように。
「まず、良き隣人の目的を教えてよ! 何で古妖を使うのか、そしてどうして一般人を巻き込むのか?」
横に居た桂木・日那乃(CL2000941)はその様子をオレンジジュースを飲みながら見つめ、言葉がひと段落したところで口をひらく。
「良き隣人の目的、覚者を仲間はずれにする、こと? 妖は強くて人を襲う。覚者は妖と戦える。戦えば覚者が力を持ってることをみんなが見る。 妖も覚者も怖がられる?」
彼女の言葉に荒関は興味深げにテーブルから身を乗り出す。
「封印された古妖を使ったのは、妖のかわり。妖を利用するのは難しいから」
「正解だよ、日那乃君。我々の目的は君達を足場から崩し、孤立させること。そして古妖の運用もその通りだ、いつ出るか分からないモノよりも使いやすいからね」
「そんなやり方、絶対間違ってる。仮にそれで覚者を排斥出来たとしても、その後待ってるのは一般人の犠牲を多く出したあなた達への弾圧だ! 英雄扱いされる事は、絶対ない!!」
少年がテーブルを叩き、叫ぶ。倒れた硝子の猪口を起こした初老の男はそれを冷酒で満たし、告げる。
「君の前に居るのは英雄ではないよ。悪の組織の首魁だ。それで良いんじゃないか?」
「小唄君、君の気持ちは届かない。彼らの気持ちが我々に届かぬのと同様に」
老紳士がもっきり酒のグラスを傾けながら、少年を制した。舌に転がる酒精は予想よりも飲み口が柔らかく店の評価を改める。遅れて料理も運ばれてきた。
●中座
会話をするものも居れば、話に加わらないものもいる。料理が運ばれてきた段階でツバメと『黒百合』諏訪 奈那美(CL2001411)が席を立つ。
襖を閉めたところで奈那美が物部に魔眼をかけ、その記憶を操作する。一方ツバメは隠していた録音機材のスイッチを入れ、ここに至る経緯や荒関の特徴などを録音する。
「……お客様?」
声がした方を振り向けば、そこに立つのは追加注文した料理を運んでくるアルバイト。部屋自体は個室とはいえ、そこから一歩出れば衆人の目がある店内。故に行動は目に留まり、声をかける者も居る。
「いや、何でもない。お手洗いは何処だろうか?」
ツバメが誤魔化すとアルバイトの店員はすぐに説明し、そして部屋へと入っていった。
二人は安堵の息を漏らすとそのままトイレへと向かっていった。勿論『良き隣人』の人間や他の隔者の状況を確認するのも忘れない。だが潜んでいた憤怒者の一人がメモをすり替えるのに気づくことも出来なかったのはこの後知ることになる。
二人が戻ってくる頃には一通りの料理が運ばれてきており、後はデザートのみと言ったところ。
ツバメは自分の場所に座ると頼んでおいた唐揚げを食べながら、会談の様子を見守ることにし、奈那美は刺身に箸をつけながら、荒関に言葉を投げかける。
「報告書や皆様の話を聞くと貴方がたは浅慮なテロリストとしか言いようがありません。ですが今日お話をする貴方は智慧の浅い方には見えませんでした」
「ふむ……そう見えるなら光栄だね」
男の言葉には嘘はない。
「貴方は少なくともただの憤怒者ではありません」
荒関の眉が動く。
「少なくとも覚者の言葉を聞こうとする意志があります。単なる八つ当たりで事を起こしている、と断定するには少々早計な気がしますわ。それはただの手段なのでは、と」
「古妖覚醒が二回、失敗に終わったのが分かった気がするよ」
ニジマスを肴に残りの冷酒を注ぎながら、男は答える。
「物部、酒を頼んでくれ、次はあのご老人と同じものを」
「部下にも飲み食いさせてるんじゃないのか?」
ワイングラスのふちを指でなぞりながら幽霊男は指摘する。
「こういう席だ。一人くらいは控えさせてくれ。」
「ほぉーおう? そーいえば『良き隣人』について聞いたんじゃが……」
「ふむ、君はどう思った?」
升の中に置いたグラスにあふれるほどの酒を一口飲んでから男が問う。
「無いな」
包帯の女は一蹴した。
「過去を哀れみ、今の己を慰める。そういう奴は、理由が無くても殺し。理由があれば際限なく殺す。唾棄すべき脆弱さだ。全ての人間が強くなれるわけでも。強くあれるわけでもない……だが、つまらんよ。全くもって喰う価値も無い。」
「私としてはそう思ってくれると色々とやりやすいのだがね」
「なんで、まぁ、来たわけだけど。荒関君はどーなん? やっぱ、その程度? なんか語る事とかある? 騙る事でも良いけど。それ如何では、僕のやる気が上がる。神具とか保管してれば、尚上がる。遺跡からでたりしてない? 古妖の開放した時にさ」
「君は一つの型を持っていて。それに合わないモノを好まない。けれど、合うものを求めてやまないタイプだね? 困ったねオジサン、『君をがっかりさせて戦力を削ぐ』という仕事をしたくなるよ。」
鱒を食べ、味噌汁をすするとさらに言葉を続ける。
「神具は保管していないが……すねこすりだったかい? あれで爆弾を作ったよ。今度見せてあげよう」
珍しいものを見つけたかのように振るう男の言葉。テーブルを叩く音がし、小唄が身を乗り出した。
「それが我々の戦い方だよ、そもそも強ければ『我々は生まれない』。採点はいかがかな?」
「君、面白くないね」
幽霊男が見せる冷たい瞳に初老の男は笑みを見せる。
「光栄に思うよ。そう思ってくれなければ私も楽しくない」
●気の向くまま
「同じ鱒を、塩焼きでいただけるかな」
空気を変える一言が華神 刹那(CL2001250)から聞こえた。
「これに合う酒も」
「物部、お嬢さんの希望通りに。酒は希望はあるかな?」
「そちらのお勧めで」
「ならば、さっき頼んだ冷酒で良いかな? 塩焼きならそっちの方が合うはずだ」
やがて運ばれてくる塩焼きを刹那は口に運び、素材の味をかみしめる。そして口に運ぶ冷酒が魚の脂と合い、さらに箸が進むように誘っていく。
酒の味に満足した女は冷酒を持ち、荒関に酌をする。男も礼を述べつつ一口で飲み干した。
「君は他のみんなとは考え方が違うようだな?」
「憤怒者とは存在がそもそも感情論、特段思うこともない。にんげんである、というだけのこと。けどな……」
彼女が狐耳の少年へと視線を向け。
「そこの子供らが辛そうな顔をした。それが、存外気に入らぬ」
「なるほど、これも仕事だ……と言っても理解はするが、その上で気に入らないと言うのだね」
「如何様。こうして談笑し酒を酌み交わし、翌日には同じ相手と斬りあい撃ちあう
その繰り返しが世であり、人であるゆえにな」
彼女の言葉に荒関は硝子の猪口を突き出す、刹那もそれに応じた。
「君にような人間にはよく会ったな。同じバーでビールを飲み、翌日殺しあった……楽しくもあり、つまらなくもあったよ」
男の眼は何か遠くを見ているようであった。丁度そのタイミングでデザートのシャーベットが運ばれ。そしてプリンスが口を開いた
「余はそういうのはいいや、でもなんかひっかかるんだよね」
目の前にあったシャーベットはすでに無くなっている。
「貴公達、覚者に報復って割に、全く目的に適ってないんだよ。古妖を煽ったり世論を煽ったりしても、一般の民が犠牲になるだけ。社会的制裁は表に出てるAAAと――今はFiVEにしか効果がない。他の覚者には全く届かないし、覚者同士の戦いも止まらない。
これじゃ、最初から余達に嫌がらせするのが目的みたいだけど……そうなら余、がっかりだな」
「ふむ……聞きたいかい?」
「まだ飲める? 反論は次のお店で聞くよ」
「二次会か?」
プリンスの提案に目を丸くする荒関。これまで目立った意見を言わなかった成も口を開く。
「宜しければもう一件如何ですか? 熟成肉と日本酒を合わせて出す、良いバルがありましてね。一方的にごちそうになるのは申し訳ありませんし、何より『ここは少々騒がしい』」
「『騒がしい』……か。だからこそ、選んだのだがな。良いだろう、このつまらん男でよろしければ、是非とも付き合わせてもらうよ。物部!」
襖が開き部下が顔を出してきた。
「二次会という事になった、支払いを済ませておいてくれ」
「分かりました」
上司の意を汲み、その場を離れる部下。ツバメは自分の分を支払うと言うが、荒関は取り合わない。
「君は考えすぎだ。君達の組織はこの程度で不利になるような所でないし、何より『面白くない』そして我々にとっても『メリットがない』。深慮は感心するがそれだけでは物事はうごかせないよ」
丁度いい終わるころに物部が戻ってきた。
「荒関さん、準備は終わりました」
その言葉に男は立ち上がり。
「では案内してくれ。我ら隣人たちを君達の場へと」
●二次会
案内されたバルは10人前後も入れば一杯になる小規模な店であった。
店内はすでに貸し切られており、荒関は用意の周到さに肩を竦めた。
「スペインバルと思っていたが、こんな形のもあるのだな。物部と高部は一緒に、宇郷は店の前で待っていてくれ」
指示をする男は周囲の視線に気づき、そして笑う。
「無作法なのは分かっているが保険は掛けさせてくれ。それに『邪魔者』が来たら困るだろ?」
「お好きなように」
老紳士はいつものように笑みを浮かべるとバルの扉を開いた。
ステーキには赤ワインが似合うというが、それは脂身のある部位の話。赤身の肉には白ワインや日本酒が合い。それは熟成されたものでも変わりはない。
「えっと、そっちの王子様の質問に答えないといけないんだったな?」
濃厚な肉の風味に合わせて、ズッシリとした香味の銘柄を半分開けたところで荒関は口を開く。
「答えは三つ。一つは日那乃君の指摘通り。もう一つは別の計画の時間稼ぎ、そして最後はFiVE、私は君達を倒したい、外法と暴力を以て」
男の言葉にプリンスはつまらなそうに肉を食べながら耳を傾ける。
「最初はAAAを考えた。ところが堂々と名を名乗り、妖と戦い、隔者の脅威から人々を守り、憤怒者を止めようとするミリシアが居るではないか。血が騒いだよ」
「みりしあ?」
「民間の武装組織のことを言います」
日那乃の言葉を成が捕捉する。その間にも荒関の言葉は熱を帯びる。
「過去色々と回ってきた。だが、つまらなかった。ところが日本にあったのだよ、切望する相手が、倒したい相手が」
「かまわないのですか? 部下の前で」
老紳士が彼の傍にいる部下へと視線を向ける。だが彼らは意に介した様子はない。
「此処にいるのは私の酔狂を知る人間だけだ、それに『隣人』自体にもFiVEを倒すことを切望する者は多い。何故なら彼らは隣人を失ったときに『仕方がなかった』と片付けられたことに納得が出来なかった人間だからな」
そう言って自分のステーキにナイフを入れ、肉を二つに分ける。
「納得できたなら、彼らは君達と共に居ただろう。だが包帯の御令嬢の言う通り、誰もかれもが弱者なのだよ。故に――」
そのうちの一つにフォークをさし、口に運ぶ。
「私と『良き隣人』は君達を倒し喰らうことを望む。満足かな? 出来れば失望してほしい、そしてやる気だけ旺盛な無能な覚者が来るようにしてほしい。そうしてくれれば私も楽が出来る」
彼の言葉に少年は睨みつけ、和服の女は黙々と酒を傾け、包帯の女は鼻を鳴らし、王子様は目もくれない。
「中々に、諧謔を嗜む方とお見受けしますね、荒関君」
だからこそ、老紳士は口を開き、そして一升瓶とグラスを二つ店員に頼む。
「以前から聞きたかったのですが……覚者を追い詰めたいなら、貴方にはもっと上手いやり方があったはずだ。例えば緑川のような政治家を炊きつけて、覚者が生きづらい世の中を作る、といったようにね」
グラスに酒を注ぎながら成は問う。
「だがしかし、君達の行動は謂わば「意趣返し」だ。相手の大切な隣人を、自分たちと同じように奪う、という」
酒に満たされたグラスを一つは自分の手に、もう一つは荒関に差し出す。
「敢えてこうしているなら……君は相当なロマンチストですな、荒関君」
「……憤怒を持ち、戦い方を求めるものが居た。願望を持ち手足を求めるイレギュラーが居た。打算の結果だ、浪漫などないさ。そうだろうプロフェッサー?」
「君がそう言うのでしたら、そうしておきましょう」
グラスが打ち鳴らされ、そして二人は仰ぐように中のものを流し込んだ。
「世話になった、次は戦いの場で」
グラスをカウンターに置き、それだけを告げると 荒関達は背を向け、バルの扉に手をかけた。
扉は音もなく閉まり、そして静かになった。
「お待ちしておりました。私、『良き隣人』の物部と申します。以後、お見知りおきを」
覚者達が店先に着いたところで店頭に立っていた男が声をかけ、頭を下げた。その手にはやや小型のトランクが握られている。
東京のとある雑居ビルの一角、若者から家族連れまで利用する明らかに大衆向けの居酒屋。そこにFiVEを招待した憤怒者が待っていた。
「どうも初めまして、新田と申します。荒関君はもうお来しに?」
皆を代表して『教授』新田・成(CL2000538)が答え、そして問いかける。物部と名乗った男は頷き、
「はい、既にお待ちになられています。ご案内いたしますのでどうぞ」
手を伸ばして店内へ導くような仕草を見せると踵を返して、誘導する。促されるように歩む覚者。だがそのまま流されるようには動かない。成はエネミースキャンで様子を伺っていた七星剣の隔者を見つけると会釈をし、相手もそれを返す。そして物部のトランクを透視して中にある爆弾を確認する。
『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)は店内を見回す振りをしながら超直感によって他に隔者や憤怒者が居ないことを確かめ、『鬼灯の鎌鼬』椿屋 ツバメ(CL2001351)も店内の構造や非常口の位置などを確認し、頭に叩き込んでいく。
覚者達が視線を巡らす中、物部は小上がりの奥にある唯一の個室の前に座り、引き戸越しに声をかけた。
「荒関さん、お客様がお見えになられました」
「ありがとう、では案内してくれ」
扉越しに聞こえた言葉に憤怒者は襖に手をかけてゆっくりと引いた。
●歓待
「呼びつける形で申し訳ない。初めまして『良き隣人』の代表を務める荒関だ。よろしく頼む」
待っていたのは髪の毛に白いものが混ざり、老齢の兆しを見せる眼鏡の男。痩せているように見えるがそれは身長が高い故、年齢に合わない体躯と物腰は鍛えた人間のそれであった。グレーのスーツの左手首からはコードが伸び、彼の傍にあるトランクにつながっている。
「初めましてナイスな隣人の民の皆さん――」
「お招き頂きありがとうございます。東京は久しぶりですから、嬉しいお誘いです」
プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が何かを言おうとしたのを遮って、再度挨拶をするのは成、荒関は老紳士の顔を見ると考え込み、問う。
「ご老人、カレンでお会いしたことはあったかな?」
「……そこに酒があるのでしたら」
「ならば人違いだ、失礼した。さあ、みんなも座ってくれ。折角の長旅だろう、掘りごたつだ。足は伸ばせるぞ」
「てか、荒関君よ」
深緋・幽霊男(CL2001229)が席に案内しようとする荒関に口を挟む。
「とりあえず部下連れて来てんなら、そいつ等にも何か出してやれよ。労えよ。ついでに、その得物とれよ。飯が味わえんだろ」
「これは手厳しい」
包帯の女の言葉に男は苦笑する。
「けど、君達に囲まれてはうちの者も委縮して、食べる物も喉が通らないだろう。自分の持ち場で好きに飲み食いさせてやってるから勘弁してくれ、それと……」
トランクを持ち上げる荒関。
「これは外せない。君達と違って力が無いからね、こうやって巻き込むことでやっと舞台に上がれるんだ。小人物の浅知恵と嘲笑って勘弁してもらえないだろうか」
眼鏡の位置を直し、笑みを見せる男の眼には試すような何か。それを感じた幽霊男は不機嫌な顔で席に座ると一言。
「なーなーろまんこんちだかって高いのか? うまいのか? たのんでいいのか」
「ワインは不慣れだが、高いのは確かだな。用意しよう。皆さんも飲み物を決めてくれ。飲み放題だから遠慮することは無い」
だが荒関の対面に座り、常に余裕の笑みをたたえたプリンスはメニュー表を見ると
「これノミホにビールついてないじゃん!? 王家は1杯目ビールってしきたりなのに!」
機嫌を損ねた。
「物部……どういうことか説明しろ」
同じく機嫌を損ねた荒関は部下を呼ぶ。
「はい、店のお勧めという事でこのメニューにしました」
「こちらの不手際だ、すまない。好きなものを頼んでくれ」
男の謝罪と共に会食は始まった。
●会談
「まずは、緑川の件で礼を言わせてくれ」
乾杯の後、冷酒を一息に飲み干してから出る言葉は礼の言葉。
「彼女自身は憤怒者とは無関係なんだが、担ぎあげる周りがね……まあ使いにくいと感じ、死んだ方が利益が大きいと読んだのか、情報が入りながら放置を決めていた」
「だったら、なんでこっちに頼んだんだよ」
離れた場所から小唄が問い詰める。
「小唄君……だったね? 穏健派が居ないと私達も仕事が出来ない。戦闘は対話出来る者が居ないとお互い殺しあうまで続くからね」
「荒関君は憤怒者全体がタカ派に固まるのは困るということですか?」
「そう思ってくれて構わない」
成が助け舟を出す。二人の会話に何か苛立ち感じた少年はコーラを一気に飲み干して、矢継ぎ早に質問した。聞きたい事も言いたいことも全てをぶつけるように。
「まず、良き隣人の目的を教えてよ! 何で古妖を使うのか、そしてどうして一般人を巻き込むのか?」
横に居た桂木・日那乃(CL2000941)はその様子をオレンジジュースを飲みながら見つめ、言葉がひと段落したところで口をひらく。
「良き隣人の目的、覚者を仲間はずれにする、こと? 妖は強くて人を襲う。覚者は妖と戦える。戦えば覚者が力を持ってることをみんなが見る。 妖も覚者も怖がられる?」
彼女の言葉に荒関は興味深げにテーブルから身を乗り出す。
「封印された古妖を使ったのは、妖のかわり。妖を利用するのは難しいから」
「正解だよ、日那乃君。我々の目的は君達を足場から崩し、孤立させること。そして古妖の運用もその通りだ、いつ出るか分からないモノよりも使いやすいからね」
「そんなやり方、絶対間違ってる。仮にそれで覚者を排斥出来たとしても、その後待ってるのは一般人の犠牲を多く出したあなた達への弾圧だ! 英雄扱いされる事は、絶対ない!!」
少年がテーブルを叩き、叫ぶ。倒れた硝子の猪口を起こした初老の男はそれを冷酒で満たし、告げる。
「君の前に居るのは英雄ではないよ。悪の組織の首魁だ。それで良いんじゃないか?」
「小唄君、君の気持ちは届かない。彼らの気持ちが我々に届かぬのと同様に」
老紳士がもっきり酒のグラスを傾けながら、少年を制した。舌に転がる酒精は予想よりも飲み口が柔らかく店の評価を改める。遅れて料理も運ばれてきた。
●中座
会話をするものも居れば、話に加わらないものもいる。料理が運ばれてきた段階でツバメと『黒百合』諏訪 奈那美(CL2001411)が席を立つ。
襖を閉めたところで奈那美が物部に魔眼をかけ、その記憶を操作する。一方ツバメは隠していた録音機材のスイッチを入れ、ここに至る経緯や荒関の特徴などを録音する。
「……お客様?」
声がした方を振り向けば、そこに立つのは追加注文した料理を運んでくるアルバイト。部屋自体は個室とはいえ、そこから一歩出れば衆人の目がある店内。故に行動は目に留まり、声をかける者も居る。
「いや、何でもない。お手洗いは何処だろうか?」
ツバメが誤魔化すとアルバイトの店員はすぐに説明し、そして部屋へと入っていった。
二人は安堵の息を漏らすとそのままトイレへと向かっていった。勿論『良き隣人』の人間や他の隔者の状況を確認するのも忘れない。だが潜んでいた憤怒者の一人がメモをすり替えるのに気づくことも出来なかったのはこの後知ることになる。
二人が戻ってくる頃には一通りの料理が運ばれてきており、後はデザートのみと言ったところ。
ツバメは自分の場所に座ると頼んでおいた唐揚げを食べながら、会談の様子を見守ることにし、奈那美は刺身に箸をつけながら、荒関に言葉を投げかける。
「報告書や皆様の話を聞くと貴方がたは浅慮なテロリストとしか言いようがありません。ですが今日お話をする貴方は智慧の浅い方には見えませんでした」
「ふむ……そう見えるなら光栄だね」
男の言葉には嘘はない。
「貴方は少なくともただの憤怒者ではありません」
荒関の眉が動く。
「少なくとも覚者の言葉を聞こうとする意志があります。単なる八つ当たりで事を起こしている、と断定するには少々早計な気がしますわ。それはただの手段なのでは、と」
「古妖覚醒が二回、失敗に終わったのが分かった気がするよ」
ニジマスを肴に残りの冷酒を注ぎながら、男は答える。
「物部、酒を頼んでくれ、次はあのご老人と同じものを」
「部下にも飲み食いさせてるんじゃないのか?」
ワイングラスのふちを指でなぞりながら幽霊男は指摘する。
「こういう席だ。一人くらいは控えさせてくれ。」
「ほぉーおう? そーいえば『良き隣人』について聞いたんじゃが……」
「ふむ、君はどう思った?」
升の中に置いたグラスにあふれるほどの酒を一口飲んでから男が問う。
「無いな」
包帯の女は一蹴した。
「過去を哀れみ、今の己を慰める。そういう奴は、理由が無くても殺し。理由があれば際限なく殺す。唾棄すべき脆弱さだ。全ての人間が強くなれるわけでも。強くあれるわけでもない……だが、つまらんよ。全くもって喰う価値も無い。」
「私としてはそう思ってくれると色々とやりやすいのだがね」
「なんで、まぁ、来たわけだけど。荒関君はどーなん? やっぱ、その程度? なんか語る事とかある? 騙る事でも良いけど。それ如何では、僕のやる気が上がる。神具とか保管してれば、尚上がる。遺跡からでたりしてない? 古妖の開放した時にさ」
「君は一つの型を持っていて。それに合わないモノを好まない。けれど、合うものを求めてやまないタイプだね? 困ったねオジサン、『君をがっかりさせて戦力を削ぐ』という仕事をしたくなるよ。」
鱒を食べ、味噌汁をすするとさらに言葉を続ける。
「神具は保管していないが……すねこすりだったかい? あれで爆弾を作ったよ。今度見せてあげよう」
珍しいものを見つけたかのように振るう男の言葉。テーブルを叩く音がし、小唄が身を乗り出した。
「それが我々の戦い方だよ、そもそも強ければ『我々は生まれない』。採点はいかがかな?」
「君、面白くないね」
幽霊男が見せる冷たい瞳に初老の男は笑みを見せる。
「光栄に思うよ。そう思ってくれなければ私も楽しくない」
●気の向くまま
「同じ鱒を、塩焼きでいただけるかな」
空気を変える一言が華神 刹那(CL2001250)から聞こえた。
「これに合う酒も」
「物部、お嬢さんの希望通りに。酒は希望はあるかな?」
「そちらのお勧めで」
「ならば、さっき頼んだ冷酒で良いかな? 塩焼きならそっちの方が合うはずだ」
やがて運ばれてくる塩焼きを刹那は口に運び、素材の味をかみしめる。そして口に運ぶ冷酒が魚の脂と合い、さらに箸が進むように誘っていく。
酒の味に満足した女は冷酒を持ち、荒関に酌をする。男も礼を述べつつ一口で飲み干した。
「君は他のみんなとは考え方が違うようだな?」
「憤怒者とは存在がそもそも感情論、特段思うこともない。にんげんである、というだけのこと。けどな……」
彼女が狐耳の少年へと視線を向け。
「そこの子供らが辛そうな顔をした。それが、存外気に入らぬ」
「なるほど、これも仕事だ……と言っても理解はするが、その上で気に入らないと言うのだね」
「如何様。こうして談笑し酒を酌み交わし、翌日には同じ相手と斬りあい撃ちあう
その繰り返しが世であり、人であるゆえにな」
彼女の言葉に荒関は硝子の猪口を突き出す、刹那もそれに応じた。
「君にような人間にはよく会ったな。同じバーでビールを飲み、翌日殺しあった……楽しくもあり、つまらなくもあったよ」
男の眼は何か遠くを見ているようであった。丁度そのタイミングでデザートのシャーベットが運ばれ。そしてプリンスが口を開いた
「余はそういうのはいいや、でもなんかひっかかるんだよね」
目の前にあったシャーベットはすでに無くなっている。
「貴公達、覚者に報復って割に、全く目的に適ってないんだよ。古妖を煽ったり世論を煽ったりしても、一般の民が犠牲になるだけ。社会的制裁は表に出てるAAAと――今はFiVEにしか効果がない。他の覚者には全く届かないし、覚者同士の戦いも止まらない。
これじゃ、最初から余達に嫌がらせするのが目的みたいだけど……そうなら余、がっかりだな」
「ふむ……聞きたいかい?」
「まだ飲める? 反論は次のお店で聞くよ」
「二次会か?」
プリンスの提案に目を丸くする荒関。これまで目立った意見を言わなかった成も口を開く。
「宜しければもう一件如何ですか? 熟成肉と日本酒を合わせて出す、良いバルがありましてね。一方的にごちそうになるのは申し訳ありませんし、何より『ここは少々騒がしい』」
「『騒がしい』……か。だからこそ、選んだのだがな。良いだろう、このつまらん男でよろしければ、是非とも付き合わせてもらうよ。物部!」
襖が開き部下が顔を出してきた。
「二次会という事になった、支払いを済ませておいてくれ」
「分かりました」
上司の意を汲み、その場を離れる部下。ツバメは自分の分を支払うと言うが、荒関は取り合わない。
「君は考えすぎだ。君達の組織はこの程度で不利になるような所でないし、何より『面白くない』そして我々にとっても『メリットがない』。深慮は感心するがそれだけでは物事はうごかせないよ」
丁度いい終わるころに物部が戻ってきた。
「荒関さん、準備は終わりました」
その言葉に男は立ち上がり。
「では案内してくれ。我ら隣人たちを君達の場へと」
●二次会
案内されたバルは10人前後も入れば一杯になる小規模な店であった。
店内はすでに貸し切られており、荒関は用意の周到さに肩を竦めた。
「スペインバルと思っていたが、こんな形のもあるのだな。物部と高部は一緒に、宇郷は店の前で待っていてくれ」
指示をする男は周囲の視線に気づき、そして笑う。
「無作法なのは分かっているが保険は掛けさせてくれ。それに『邪魔者』が来たら困るだろ?」
「お好きなように」
老紳士はいつものように笑みを浮かべるとバルの扉を開いた。
ステーキには赤ワインが似合うというが、それは脂身のある部位の話。赤身の肉には白ワインや日本酒が合い。それは熟成されたものでも変わりはない。
「えっと、そっちの王子様の質問に答えないといけないんだったな?」
濃厚な肉の風味に合わせて、ズッシリとした香味の銘柄を半分開けたところで荒関は口を開く。
「答えは三つ。一つは日那乃君の指摘通り。もう一つは別の計画の時間稼ぎ、そして最後はFiVE、私は君達を倒したい、外法と暴力を以て」
男の言葉にプリンスはつまらなそうに肉を食べながら耳を傾ける。
「最初はAAAを考えた。ところが堂々と名を名乗り、妖と戦い、隔者の脅威から人々を守り、憤怒者を止めようとするミリシアが居るではないか。血が騒いだよ」
「みりしあ?」
「民間の武装組織のことを言います」
日那乃の言葉を成が捕捉する。その間にも荒関の言葉は熱を帯びる。
「過去色々と回ってきた。だが、つまらなかった。ところが日本にあったのだよ、切望する相手が、倒したい相手が」
「かまわないのですか? 部下の前で」
老紳士が彼の傍にいる部下へと視線を向ける。だが彼らは意に介した様子はない。
「此処にいるのは私の酔狂を知る人間だけだ、それに『隣人』自体にもFiVEを倒すことを切望する者は多い。何故なら彼らは隣人を失ったときに『仕方がなかった』と片付けられたことに納得が出来なかった人間だからな」
そう言って自分のステーキにナイフを入れ、肉を二つに分ける。
「納得できたなら、彼らは君達と共に居ただろう。だが包帯の御令嬢の言う通り、誰もかれもが弱者なのだよ。故に――」
そのうちの一つにフォークをさし、口に運ぶ。
「私と『良き隣人』は君達を倒し喰らうことを望む。満足かな? 出来れば失望してほしい、そしてやる気だけ旺盛な無能な覚者が来るようにしてほしい。そうしてくれれば私も楽が出来る」
彼の言葉に少年は睨みつけ、和服の女は黙々と酒を傾け、包帯の女は鼻を鳴らし、王子様は目もくれない。
「中々に、諧謔を嗜む方とお見受けしますね、荒関君」
だからこそ、老紳士は口を開き、そして一升瓶とグラスを二つ店員に頼む。
「以前から聞きたかったのですが……覚者を追い詰めたいなら、貴方にはもっと上手いやり方があったはずだ。例えば緑川のような政治家を炊きつけて、覚者が生きづらい世の中を作る、といったようにね」
グラスに酒を注ぎながら成は問う。
「だがしかし、君達の行動は謂わば「意趣返し」だ。相手の大切な隣人を、自分たちと同じように奪う、という」
酒に満たされたグラスを一つは自分の手に、もう一つは荒関に差し出す。
「敢えてこうしているなら……君は相当なロマンチストですな、荒関君」
「……憤怒を持ち、戦い方を求めるものが居た。願望を持ち手足を求めるイレギュラーが居た。打算の結果だ、浪漫などないさ。そうだろうプロフェッサー?」
「君がそう言うのでしたら、そうしておきましょう」
グラスが打ち鳴らされ、そして二人は仰ぐように中のものを流し込んだ。
「世話になった、次は戦いの場で」
グラスをカウンターに置き、それだけを告げると 荒関達は背を向け、バルの扉に手をかけた。
扉は音もなく閉まり、そして静かになった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
