敵の敵は……?
●隣人からのお願い
それは久方 真由美(nCL2000003)が中 恭介(nCL2000002)の執務室に訪れた時に起こった。
「中さん、実は夢見を見たので相談に……」
「ああ……すまない真由美君、電話に出た後で良いかな?」
「はい、まだ急を要するものではないので」
真由美の言葉を受けて恭介は鳴り続ける電話を取る。
「中だ」
『初めましてFiVEの方、私は……『良き隣人』と言えば分かるかな?』
電話口から名乗る声に恭介はデスクのメモに『逆探知』とだけ書き込み彼女が動くのを確認すると会話に応じた。
「憤怒者組織の『良き隣人』か、よくここの電話番号が分かったな」
『世の中には公開されていると色々と調べやすくてね』
「それで、何の用だ? 私個人としては武装解除と出頭の電話だと有り難いのだが」
逆探知のために慣れない冗談も用いて引き延ばしにかかる恭介、一方電話の主は平然と話を続ける。
『そうしたいのは山々だが、組織にも事情があってね。そう、今回はそんな事情でお願いがあるんだ』
「お願い?」
予想外の内容に声のトーンが上り、内心冷汗をかく。
『三日後に東京で憤怒者寄りの政治団体の集会があるんだが、そこに七星剣が攻撃を行うという情報が入ってね、そちらに対処をお願いしたい』
「……内容がよく分からないのだが、詳しく話してくれないか?」
『こちらとしてもハト派の仲間を失うのは惜しくてね、かと言ってこっちが戦力を出せば騒ぎになってイメージダウンも免れない。なのでそちらにお願いをしにこうやって電話をかけた次第だ』
「なるほど、こちらが断れないと踏んでの行動か」
『そうだ君達は断れない。五行犯罪の守護者である限りはね。詳細は……いや、君達なら予測できるから大丈夫だな。それと……この電話は一般回線を拝借して手も加えてある。逆探知は無駄だと思ってくれ。それじゃ』
「――待て!」
だが恭介の言葉もむなしく電話は切られる。同じタイミングで真由美も戻ってきた。
「真由美君、逆探知は?」
首を振る夢見の女の姿に恭介は椅子に座り直し、深く息を吐く。
「今回の件の裏付けを取ろう」
「その件ですが……」
真由美の言葉に恭介は面を上げる。
「今回見た夢見の内容がそれになります」
●敵の敵は七星剣
「皆さん、お疲れ様です。今回は政治集会への攻撃を行う七星剣の撃退をお願いします」
覚者の集まる中、真由美は政治集会の広告と地図、敵勢力のデータを用意する。
「狙われるのは覚者管理政策を主張する女性政治家の緑川氏。集会は路上にて行われ、襲撃開始時点で支援者が20名ほど集まっています」
次に真由美は敵勢力のデータを抜き出す。
「次に七星剣ですが、人数は9名。『ドクターガトリング』と名乗る付喪の覚者をリーダーに翼人が4名、変化が4名です詳細は紙の方をご覧ください」
説明を終えた真由美は全員に向き直ると
「今回の件に関しては憤怒者組織『良き隣人』からの情報提供もあり、対象も憤怒者よりの政治家です。けれど見過ごすわけには行きません、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた。
それは久方 真由美(nCL2000003)が中 恭介(nCL2000002)の執務室に訪れた時に起こった。
「中さん、実は夢見を見たので相談に……」
「ああ……すまない真由美君、電話に出た後で良いかな?」
「はい、まだ急を要するものではないので」
真由美の言葉を受けて恭介は鳴り続ける電話を取る。
「中だ」
『初めましてFiVEの方、私は……『良き隣人』と言えば分かるかな?』
電話口から名乗る声に恭介はデスクのメモに『逆探知』とだけ書き込み彼女が動くのを確認すると会話に応じた。
「憤怒者組織の『良き隣人』か、よくここの電話番号が分かったな」
『世の中には公開されていると色々と調べやすくてね』
「それで、何の用だ? 私個人としては武装解除と出頭の電話だと有り難いのだが」
逆探知のために慣れない冗談も用いて引き延ばしにかかる恭介、一方電話の主は平然と話を続ける。
『そうしたいのは山々だが、組織にも事情があってね。そう、今回はそんな事情でお願いがあるんだ』
「お願い?」
予想外の内容に声のトーンが上り、内心冷汗をかく。
『三日後に東京で憤怒者寄りの政治団体の集会があるんだが、そこに七星剣が攻撃を行うという情報が入ってね、そちらに対処をお願いしたい』
「……内容がよく分からないのだが、詳しく話してくれないか?」
『こちらとしてもハト派の仲間を失うのは惜しくてね、かと言ってこっちが戦力を出せば騒ぎになってイメージダウンも免れない。なのでそちらにお願いをしにこうやって電話をかけた次第だ』
「なるほど、こちらが断れないと踏んでの行動か」
『そうだ君達は断れない。五行犯罪の守護者である限りはね。詳細は……いや、君達なら予測できるから大丈夫だな。それと……この電話は一般回線を拝借して手も加えてある。逆探知は無駄だと思ってくれ。それじゃ』
「――待て!」
だが恭介の言葉もむなしく電話は切られる。同じタイミングで真由美も戻ってきた。
「真由美君、逆探知は?」
首を振る夢見の女の姿に恭介は椅子に座り直し、深く息を吐く。
「今回の件の裏付けを取ろう」
「その件ですが……」
真由美の言葉に恭介は面を上げる。
「今回見た夢見の内容がそれになります」
●敵の敵は七星剣
「皆さん、お疲れ様です。今回は政治集会への攻撃を行う七星剣の撃退をお願いします」
覚者の集まる中、真由美は政治集会の広告と地図、敵勢力のデータを用意する。
「狙われるのは覚者管理政策を主張する女性政治家の緑川氏。集会は路上にて行われ、襲撃開始時点で支援者が20名ほど集まっています」
次に真由美は敵勢力のデータを抜き出す。
「次に七星剣ですが、人数は9名。『ドクターガトリング』と名乗る付喪の覚者をリーダーに翼人が4名、変化が4名です詳細は紙の方をご覧ください」
説明を終えた真由美は全員に向き直ると
「今回の件に関しては憤怒者組織『良き隣人』からの情報提供もあり、対象も憤怒者よりの政治家です。けれど見過ごすわけには行きません、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.女性政治家、緑川の保護
2.七星剣の撃退(相手側の撤退など含める)
3.上記二つの条件を満たす事
2.七星剣の撃退(相手側の撤退など含める)
3.上記二つの条件を満たす事
どうも塩見です、今回は憤怒者寄りの政治家を守るために七星剣との戦闘になります。詳細は以下の通りです。
●場所
駅近くの三車線道路の一角。
ワゴン車を駐車し、その上で歩道に向かって演説を行っています。
周辺には野次馬の他、支援者などが確認できるだけでも20名居ます。
歩道の隣は景観の為に緑地となっておりますので、家屋が巻き込まれる等なく、戦闘での支障は出ません。
●タイミング
同じ車線にワゴン車が2台停まり、そこから隔者が9名出てくるところから介入可能です。
※人物他
●緑川
覚者管理登録制度を公約に動く政治家です。
七星剣などの覚者の武装勢力化を憂慮し、覚者の登録及び月一回の専門の施設での登録更新、職業の制限、海外移住の推奨を推し進めています。
憤怒者組織とは公式には繋がりは持っていません。
●支持者と野次馬
演説を聞いている支持者と野次馬の方々です。
何もしなければ七星剣の犠牲の羊となりますので、何らかの方法で避難が必要です。
●七星剣『ドクターガトリング』
効率を第一に考える隔者です。その性格は神具をガトリング型機関銃に仕立てるところからも表れます。
効率の良く殺すためにやや過剰なレベルのメンバーを選び投入しました。
戦闘において非効率と判断した場合は撤退も考えます。
・付喪、火行
・機関銃(ガトリング)
・火纏
・火焔連弾
・圧撃
●七星剣変化隊員4名
移動における効率を考えて全員十代の少年に変化しますが、実年齢は不明です。
能力的にはFiVEの平均以下の強さです。
・変化、天行
・サーベル所持
・B.O.T.
・召雷
・纏霧
・填気
●七星剣翼人隊員4名
一般人の包囲など機動力を活かして行動します。
能力的にはFiVEの平均以下の強さです。
・翼人、木行
・サーベル所持
・エアブリット
・棘一閃
・非薬・鈴蘭
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年04月24日
2016年04月24日
■メイン参加者 8人■

●政策、信条、信念
人々の集まる駅近くの道路、女性政治家緑川は停車したワゴン車の上に立ち、自らの政策を語る。
人々の多数は興味なくに通り過ぎ、幾人かは興味を持って車に近づく。熱心な支持者は彼らは政策の書かれた紙を渡し、支持を願う。それはよくある政治運動の光景。
そこへ近づく三台の車、二台の黒塗りのワゴン車は緑川の立つ車の後ろに着け、四名の変化と四名の翼人、そして右腕がガトリング砲になった中年の付喪の隔者が飛び出してくる。
そしてもう一台のカーゴトラックは反対車線からタイヤを鳴らしながら転回しワゴン車の前方に停車、後部ハッチを開き、八人の覚者を戦場に送り出した。
(大人たちは、分かっているのだろうか。この歪な社会を作り上げているのは、自分たちだということを)
葦原 赤貴(CL2001019)が振り上げた燦然たる銀光の残滓より出でる光が極大化し召炎波の刃を作り上げる。
「星を騙る屑なぞ、蹂躙してやる……!」
振り下ろす炎は呆然とする人々の目の前を通過し、隔者を呑み込む。その光景に緑川は表情を固くする。
「速やかに避難してください。緑川さんは私が保護します」
『教授』新田・成(CL2000538)が杖で反対側を指し、ワーズワースによって力を持った言葉が呆然とする人々の心を打ち、
(うーん。管理登録とか海外居住とかっていうと、私的には何で? って言いたくなるけど)
機化硬で身を固めた『生命の盾持ち』栗落花 渚(CL2001360)が人々を誘導していく。避難が進むのを確認した成はワゴン車の上に駆け上がり、守るべき女性に手を差し伸べる。
「ご安心を。あれは我々が退けます」
「……是非、そうしていただけるかしら」
硬い声で緑川は答えると彼の手を取り、ワゴン車から降り始めた。
●効率、非効率
津波のような炎の奔流。それが消えた時、現れた隔者達は熱傷を物ともせずに前に進む。
「これは効率的な技だな、今度ラーニングしよう。お前達、生きているか?」
「全員無事ですドクター」
「それはよろしい。では効率よく終わらせよう」
ドクターと呼ばれた男――ドクターガトリングは軽口と共に自らの右腕と化した回転式機関砲のモーターを駆動させる。
そこに女が一人飛び掛かる。名は華神 刹那(CL2001250)。
(はは、あの連中、直接電話してきおったわ。酔狂な暇人どもは、どうせ今回もどこぞで見ておるのであろうよ)
走りながら此処に至る経緯を思い出し、心の中で笑う。だがそれも疾走の最中に消えた行き、成すべきことへと集中する。二連撃が同時に見える程の飛燕を以て首を刈りに行く刹那。隔者は回転する五連銃身を刀身に当て、駆動を活かしてバレルを転がすと鍔迫り合いに持ち込んだ。
「悪くない攻めだ」
直後鳴る発砲音。硝煙が刹那の鼻腔を刺激し、熱を持った薬莢が頬を焼く。意識が動く一瞬の隙に身を翻したガトリングの銃口が彼女の眼前に迫る。銃声、髪の毛が数本舞い、女を身を伏せるのを見て付喪が後ろに飛ぶ。入れ替わるように八名の隔者が走り、そして飛ぶ。
「させない! 雷獣っ!」
そこへ御白 小唄(CL2001173)の言葉が雷となって翼人へと降り注ぐ。
(く、っそ……良き隣人め。)
苛立ちが獣憑の心を騒めかせる。
(……わかってる、やらなきゃいけないんだ。だって、僕たちはFiVEなんだから)
使命で心に蓋をして少年は前を向く。
「隔者が仕掛けた。憤怒者が受けた。守るのは覚者となれば、どうせ今回は負け戦だ。七星剣にしろ。憤怒者にしろ。今のうちに精々いい気になっていろ」
隣で深緋・幽霊男(CL2001229)がジキルハイドのフリントに親指をかけ、代弁するかのように騙る。
「などと捨て台詞を吐いておく。悪役っぽく」
包帯まみれの顔から見える悪戯な笑み。フリントが落ち、変化の隔者へと鉛のシャワーが注がれる。そして躍り込む人影一つ。
「オトナのジジョーなぁ……難しい事ぁ俺にはわからねぇな。だからシンプルにいこうぜ! 邪魔な奴はぶちのめす! つー訳だからさっさと死ねよ雑魚ども!」
『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)の傲慢極まりない台詞と共に振り下ろされる一振りの刀、燕を思わせる連撃が変化を一人斬り伏せた。
だが、彼らとて黙って立っている存在ではない。
変化の一人が纏霧で周囲を覆い、戦力の弱体化を狙うと残りの二人が放つのはB.O.T、ガード不可能の貫通攻撃。
二つの衝撃波が刀嗣を貫通し、成へそして彼が庇う緑川へと襲う。力の弱い隔者の減衰した衝撃波と言えど、非覚者である人間の身には重い一撃。吹き飛ばされた女は大地に転がり、胃の中身を吐く。殺到する翼人の隔者、雷獣の痺れで一人は動けないものの残り三名が襲いかかる。
それを阻むのは桂木・日那乃(CL2000941)。一人の進路をブロックしながら回復の雨を降らせる。
「『良き隣人』が緑川ってひとが襲われるの知ってるのは、『良き隣人』の中で何か、ある?」
一言一言、区切るように呟く少女に翼人が言葉を発さずにサーベルを振る。その間に二人の隔者が倒れた緑川を狙っていく。
迫りくるサーベルの刃を杖一本で逸らす成。しかし庇うが故、攻撃を避けることは出来ない、二つの騎兵刀の刃が両肩を傷つけた。
●話力、火力、戦闘力
雨が身体に当たり衝撃で受けた痛みは消え去り、呼吸が落ち着く。
身を起こして緑川が見たのは、自らを庇って傷つく老紳士の姿。
狙われているのは自分、彼らは味方で敵は目前に。何をすべきか? 政治家としての脳が回転し言葉を生み出す。
「貴方達、どこを見てるの? 私は生きてるわよ」
凛と響く言葉、スキルとは違う何かが隔者の耳を打つ。
腕を出して彼女を制止する成の眉がわずかに上がる。
「効率的に厄介だな」
ガトリングはそう呟くと自らに飛ぶ刺突を右腕を使って打ち払ってから緑川に向かって火焔二発。庇った男のインバネスを焼き、三つ揃いを焦がす。
「少し黙っていただけませんか?」
熱傷の痛みに耐えながらの老紳士の言葉。
「失礼したわ。でも、お時間稼げたでしょう?」
「ああ、不本意だがな」
代わりに答えた赤貴が大剣を振り回す。全ての敵へと手を伸ばす意思は再び炎となって選挙用のワゴン車ごと隔者達を呑み込んでいく。
その間隙を突いて渚が鬼の金棒を叩き込んで成の前に立った。
炎が消え、小唄が地を這う、跳ね上がるような狐憑の蹴りが一撃、二撃と打ちこまれ、そして反動を活かして跳ぶ。
「これ以上」
次々と隔者の間を渡り、蹴りを叩き込む少年。
「行かせるかっ!」
言葉と共に着地すると、左右からカトラスと日本刀を持った男女が迫り変化の一人へ合わせて四太刀の飛燕。赤が舞い、飛沫がやや色白な二人の肌に紅を差す。
「もうちっと気合いれろよ。雑魚にしても程度が低すぎるぞテメェら」
「って言ってるよ?」
汚れた顔で不敵に笑う男と女、それを潤しの雨が洗い流していく。
残った二人の変化が衝撃波を放つ、それは小唄と幽霊男を貫き、緑川に向かって牙をむく。
「せめて、覚者には七星剣みたいなのばっかじゃないって分かってもらえるように頑張らないと!」
渚が射線に立ち、自らを盾として衝撃を減衰させる。B.O.Tといえど三人重なればその衝撃は霧散する。そう考えての行動。
最後の盾である成は杖を構え衝撃波を受け止める。靴底がアスファルトを擦り、耳障りな音が鳴る。
「ふむ、非効率だな――おい」
ガトリングは変化の傍にいた翼人を呼び。
「倒れた二人を車に投げ込め、翼人班三人! 集中攻撃だ」
隔者は指示に従い、少年の姿をした二人の変化の襟首をつかみ、車まで飛んでいった。
●効率、無想、凶刃、使命
「やはり変化は効率がいい……ん?」
運ばれていく姿を横目に呟くガトリングが目の前の女の様子に気づく。
「効率よく、効率よく、な。はは」
笑う刹那の瞳孔は開き、超視力と超直観が見えるもの全てを捉える。
彼女が向かう先、それは効率化の極致にあるかもしれない、そう考えると自然笑みが漏れた。
「女、目に頼りすぎだ。視覚に依存するのは効率的ではない」
動く先に『置いた』刃を弾く付喪の言葉は教え諭すよう。
「でないと――」
「『徹(とお) りゃ ん せ』」
逃がさないとばかりに手を伸ばしての氷巖華、鋭利な氷柱が形成されつつある手に隔者の手が重なり氷が孔を開ける。
「こうなる」
圧撃による熱圧縮、触れ合った手はお互いに弾かれて、衝撃で刹那は背中を打つ。
「女――いや、非効率だ、名を聞こうか?」
「刹那……華神 刹那」
名乗り立ち上がる刹那。名を聞いた付喪は言葉を噛みしめ、口を開く。
「セツナか……来るか? こちらに? 効率を求めて」
それは七星への勧誘。けれど、そこに白い凶刃が水を差す。
「どうした? そんなもんか華神」
ガトリングの背後から振り下ろされる唐竹割、横に飛んだ隔者へとさらに追撃の一太刀。
「ガト野郎もナンパとは余裕じゃねえか!」
「ヘッドハンティングと言ってくれ」
贋作虎徹を振り回す刀嗣にガトリングは回転機関砲のバレルを当てモーターの回転で刀身を滑らせて軌道をそらす
「関係ネーヨ。それよりテメェ運が悪かったな。俺様がいる場所に出てくるなんざよぉ」
剣先と銃口が当たる、金属音がなり、回転する銃口に刀が取られ刀嗣の手首が捻じられ、その隙を逃さず隔者はバックステップで間合いを作る。
同時に幽霊男の持つカトラスが機関銃としての正体を見せ始めた。
引鉄に連動した火打ち石が鳴り、撃針が雷管を叩く。火薬の奔流が鉛を押し出し螺旋軌道に乗せて外界へと解き放たれると。奔流は新たな力となりて次の鉛を呼び込み再び針が雷管を打つ。
それは鉄量という名の暴力、負傷が重なった変化には耐えうるものではなく、二人とも地に伏せる。
変化が倒れたことで小唄と赤貴、二人の少年が走る。一人は背中を見せる翼人達へ、もう一人は付喪へ。
赤貴が走りながら気の弾丸を掃射、気弾は次々と翼人の背後を貫いていく。
その様子を見ていたガトリングの視界に獣憑が飛び込んだ。
「これ以上はさせない! やりたければ僕を倒していけ!」
「分からんな?」
跳ね上げるような少年の拳に蹴りを合わせて突き放しつつ付喪が疑問を口にする。
「彼女は私や君達にとって良い人物ではないはずだ、それを守るというのは非効率極まりないのではないか?」
「何でこんな人たちを守らないといけないのかって?」
少年が笑い、そして叫ぶ。
「そんなの、決まってるじゃん。一般人だからだよ。考え方がどうだろうと区別なんかしない。僕は、力を持たない一般人を守る! 見返りなんかいらない。好奇の目を向けられても、石を投げられたって僕は構わない!」
話すのはもはや少年ではなく
「僕はもう、目の前で助けられずに誰かが死ぬのが嫌なんだ……!!」
心に使命を持った男であった。
●政治、由来、砲火
隔者の繰り出すサーベルを宙返りで回避する日那乃の目に小唄が叫ぶ姿が映る。
どうして彼はここまで何かの為に身体を張れるのだろう? 分からない、でも今はそれを考えている暇はない。回復の雨を降らせて消耗する皆が戦える状況を作る役目がある。
雨に打たれた成の息は荒い。回復があっても複数の攻撃を一手に受けたことで体力は大きく削られていた。だが渚が介入したことで負担が減り今は積極的に動くことが出来る。杖を親指で押し、仕込みを露出させると腰だめに構える。
隔者がサーベルを持って襲い掛かる、老紳士は居合の要領で杖から仕込みを抜刀し、騎兵刀と打ち合わせる。直後、衝撃波が翼人を襲い、その身を吹き飛ばす。
成もまた現の因子の持ち主、抜剣から放たれたB.O.T.を隔者に叩き込んだのだ。その背後を撃ち抜くのは走り込む赤貴の烈波。前後から攻撃を受けた翼人は地に伏せ、他の翼人も背後からの掃射に体勢を崩す。
敵の動きが鈍ったのを好機と見て渚が施した癒しの滴で息を整える成。滑り込みながら彼らの元にたどり着いた赤貴が蔵王によって土を鎧のように纏うと
「代われ、爺さん。後は俺がガードする」
「任せましょう」
二つ返事で成が前に出た。丁度、日那乃についていた翼人がこちらに向かってくる。迎撃をしないと行けない。
「生意気な覚者のガキが目の前で死のうが、憤怒者は気にならないんだろう?」
赤貴は緑川を一目見ると皮肉を込めて言い放つ。
「馬鹿を言わないで」
目の前に立つ少年の言葉に切り返す緑川。
「貴方みたいな子供に戦闘をさせないために、私は政治家をやっているのよ」
「……妖の封印を解いては暴れさせているオマエらの仲間から、覚者同士潰し合えと情報が来た」
「――!?」
少年の言葉に表情が凍り付く目の前で守る覚者達を見つめながら緑川は力なく呟く。
「そう……どうやら私は政治の道具にされたようね」
赤貴は一度だけ彼女を見ると、戦いが終わるまで彼女に視線を向ける事は無かった。
倒れ伏した変化二人を翼人が回収に動く。彼らの前に立ちガトリングは一人呟いた。
「これ以上の戦闘は非効率のようだな」
「機関銃で効率言うなら物理を強化し、通りが悪い奴は他に任せりゃいいじゃろ。部下が好きに運用できる立場なら尚更な」
四人の覚者が飛び掛かる。幽霊男がカトラスで刺突を図るのを右腕で跳ね上げる、直後鳴る銃声、剣銃一体の飛燕が対象を失い弾丸は空を貫く。
「まぁ、すぐにできなくなると思うが。使われる方にまわって」
皮肉に対して返すのは肩をぶつけて距離を作る事、次に動く前に小唄の雷獣が足を止め、そこに刀嗣の刃が疾る。
「そういやテメェ、逢魔ヶ時がどうしてるか知ってるか? あー、やっぱいいわ」
袈裟懸けの一撃を半身を逸らして避けたところを横薙ぎに斬り返す。ガトリングは後ろに下がるが間に合わず皮一枚を持っていかれる。刀嗣の剣先が赤く濡れる。
「テメェ見てぇな木っ端の雑魚がんな事知ってる訳ぁねぇよな」
「すまんな縦割り行政なんだ」
答える隔者、そして入れ替わるように走る刹那、狙うは彼の首、迫るは左右から来る飛燕の刃。
「『刃狭身ノ型』」
呟き、振るった刃がガトリングの首の「片側」を斬り、鮮血がアスファルトにこぼれる。だが刹那の腕は隔者の首と機関砲で食い止められ、二太刀目への流れを封じられた。
「一回喰らうくらいの気で行けば、連撃とて効率的に封じられる」
腕を払い数歩下がる、隔者の足元を赤い糸のように一筋血が流れる。
「そして待っていた、君達が一斉にかかってくる――密集するときを」
五つに束ねた銃身が機械駆動で回り始める。銃口が覚者に向けられると弾丸が強制的に薬室へ送られ、撃鉄が薬莢を叩く。吐き出された弾丸が、彼らの足元で跳ね、動きを止め。次に武器を射貫き衝撃で体勢を崩させる。そして――
「こうやって効率的に射撃するために!」
発射される暴力が効率良く覚者へと撃ち込まれた。彼らの身に叩き込まれる圧倒的鉄量。立っていられたのは彼らが物理の防御力に長けていた者故。だが防御体力に劣った刹那のみが耐えきれず膝を着き、命を削って立ち上がる。
「……撤退だ、引き揚げろ!」
空薬莢が大地を叩く音が終わると同時に隔者が叫び、部下が呼応する。ガトリングも覚者に追撃の意思がないと認めると銃口を下し、走り寄るワゴン車に飛び乗った。
その視線は一人の覚者へと向けられ、そして車の中へと消えていった。
●無法、提案、手紙
砕けたアスファルト、血に染まった大地、燃えてしまったワゴン車、緑川の目に映る光景は凄惨極まりない。
「思想信条の自由は尊ばれるべきですし、制御できぬ力を恐れるのもまた、人の本能として自然な考えです」
隣に成が立ち、話しかける。
「仮に覚者管理法が成立するなら、私は従うでしょう。ですが。」
老紳士は彼女の方を振り向き
「貴方を襲撃した手合は、それに従いますか?」
問いかける。
「…………」
緑川は答えない。
そこへ刀嗣が割り込むように入ってきた。
「アンタの言ってる事授業で習った事に似てるなあー、なんつったよ新田のジジイ? ア……?」
「アパルトヘイトです」
「あー、そうアパルトヘイトだ。それだそれ。無駄だと思うけど精々頑張れよ。七星だの憤怒者だのが法律なんざ守るたぁ思えねえがな、俺だってクソみてぇな押し付けなんざ従う気はねぇよ」
彼の言葉は一つの真実。緑川もそれが分からないほど訳では無い。
「考えることは一杯ね」
呟きながら嘆息一つ。
「それじゃそろそろいいかしら? 礼は改めてさせていただくわ」
「どういたしまして、貴方が『良き隣人』に利用される傀儡ではない事を期待します」
成の言葉に緑川は笑みを漏らして、そして背を向けた。
「FiVEの方ですよね?」
事後処理に当たる幽霊男と小唄へ一人の少年が手紙を持ってやってきた。
「隣人って人から、FiVEに渡してくれって、お礼の手紙だって」
小唄の表情が固まる。少年は恐怖で肩をすくめるが幽霊男がなだめ、受け取った手紙を開く。
『彼女を助けてくれてありがとう、次は戦場で
良き隣人代表 荒関 務』
「……だってさ、お駄賃にしては安いな」
「……本当、俺達を良いように使いやがって!」
憤る少年、それを見る包帯から覗く顔には悪戯っぽい笑みと冷たい目。
「どうする?」
「決まってるさ! 何度でも止めて引きずりだす!」
小唄の表情を見て、幽霊男が笑い。
「だってさ?」
誰かに向けて問うた。
人々の集まる駅近くの道路、女性政治家緑川は停車したワゴン車の上に立ち、自らの政策を語る。
人々の多数は興味なくに通り過ぎ、幾人かは興味を持って車に近づく。熱心な支持者は彼らは政策の書かれた紙を渡し、支持を願う。それはよくある政治運動の光景。
そこへ近づく三台の車、二台の黒塗りのワゴン車は緑川の立つ車の後ろに着け、四名の変化と四名の翼人、そして右腕がガトリング砲になった中年の付喪の隔者が飛び出してくる。
そしてもう一台のカーゴトラックは反対車線からタイヤを鳴らしながら転回しワゴン車の前方に停車、後部ハッチを開き、八人の覚者を戦場に送り出した。
(大人たちは、分かっているのだろうか。この歪な社会を作り上げているのは、自分たちだということを)
葦原 赤貴(CL2001019)が振り上げた燦然たる銀光の残滓より出でる光が極大化し召炎波の刃を作り上げる。
「星を騙る屑なぞ、蹂躙してやる……!」
振り下ろす炎は呆然とする人々の目の前を通過し、隔者を呑み込む。その光景に緑川は表情を固くする。
「速やかに避難してください。緑川さんは私が保護します」
『教授』新田・成(CL2000538)が杖で反対側を指し、ワーズワースによって力を持った言葉が呆然とする人々の心を打ち、
(うーん。管理登録とか海外居住とかっていうと、私的には何で? って言いたくなるけど)
機化硬で身を固めた『生命の盾持ち』栗落花 渚(CL2001360)が人々を誘導していく。避難が進むのを確認した成はワゴン車の上に駆け上がり、守るべき女性に手を差し伸べる。
「ご安心を。あれは我々が退けます」
「……是非、そうしていただけるかしら」
硬い声で緑川は答えると彼の手を取り、ワゴン車から降り始めた。
●効率、非効率
津波のような炎の奔流。それが消えた時、現れた隔者達は熱傷を物ともせずに前に進む。
「これは効率的な技だな、今度ラーニングしよう。お前達、生きているか?」
「全員無事ですドクター」
「それはよろしい。では効率よく終わらせよう」
ドクターと呼ばれた男――ドクターガトリングは軽口と共に自らの右腕と化した回転式機関砲のモーターを駆動させる。
そこに女が一人飛び掛かる。名は華神 刹那(CL2001250)。
(はは、あの連中、直接電話してきおったわ。酔狂な暇人どもは、どうせ今回もどこぞで見ておるのであろうよ)
走りながら此処に至る経緯を思い出し、心の中で笑う。だがそれも疾走の最中に消えた行き、成すべきことへと集中する。二連撃が同時に見える程の飛燕を以て首を刈りに行く刹那。隔者は回転する五連銃身を刀身に当て、駆動を活かしてバレルを転がすと鍔迫り合いに持ち込んだ。
「悪くない攻めだ」
直後鳴る発砲音。硝煙が刹那の鼻腔を刺激し、熱を持った薬莢が頬を焼く。意識が動く一瞬の隙に身を翻したガトリングの銃口が彼女の眼前に迫る。銃声、髪の毛が数本舞い、女を身を伏せるのを見て付喪が後ろに飛ぶ。入れ替わるように八名の隔者が走り、そして飛ぶ。
「させない! 雷獣っ!」
そこへ御白 小唄(CL2001173)の言葉が雷となって翼人へと降り注ぐ。
(く、っそ……良き隣人め。)
苛立ちが獣憑の心を騒めかせる。
(……わかってる、やらなきゃいけないんだ。だって、僕たちはFiVEなんだから)
使命で心に蓋をして少年は前を向く。
「隔者が仕掛けた。憤怒者が受けた。守るのは覚者となれば、どうせ今回は負け戦だ。七星剣にしろ。憤怒者にしろ。今のうちに精々いい気になっていろ」
隣で深緋・幽霊男(CL2001229)がジキルハイドのフリントに親指をかけ、代弁するかのように騙る。
「などと捨て台詞を吐いておく。悪役っぽく」
包帯まみれの顔から見える悪戯な笑み。フリントが落ち、変化の隔者へと鉛のシャワーが注がれる。そして躍り込む人影一つ。
「オトナのジジョーなぁ……難しい事ぁ俺にはわからねぇな。だからシンプルにいこうぜ! 邪魔な奴はぶちのめす! つー訳だからさっさと死ねよ雑魚ども!」
『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)の傲慢極まりない台詞と共に振り下ろされる一振りの刀、燕を思わせる連撃が変化を一人斬り伏せた。
だが、彼らとて黙って立っている存在ではない。
変化の一人が纏霧で周囲を覆い、戦力の弱体化を狙うと残りの二人が放つのはB.O.T、ガード不可能の貫通攻撃。
二つの衝撃波が刀嗣を貫通し、成へそして彼が庇う緑川へと襲う。力の弱い隔者の減衰した衝撃波と言えど、非覚者である人間の身には重い一撃。吹き飛ばされた女は大地に転がり、胃の中身を吐く。殺到する翼人の隔者、雷獣の痺れで一人は動けないものの残り三名が襲いかかる。
それを阻むのは桂木・日那乃(CL2000941)。一人の進路をブロックしながら回復の雨を降らせる。
「『良き隣人』が緑川ってひとが襲われるの知ってるのは、『良き隣人』の中で何か、ある?」
一言一言、区切るように呟く少女に翼人が言葉を発さずにサーベルを振る。その間に二人の隔者が倒れた緑川を狙っていく。
迫りくるサーベルの刃を杖一本で逸らす成。しかし庇うが故、攻撃を避けることは出来ない、二つの騎兵刀の刃が両肩を傷つけた。
●話力、火力、戦闘力
雨が身体に当たり衝撃で受けた痛みは消え去り、呼吸が落ち着く。
身を起こして緑川が見たのは、自らを庇って傷つく老紳士の姿。
狙われているのは自分、彼らは味方で敵は目前に。何をすべきか? 政治家としての脳が回転し言葉を生み出す。
「貴方達、どこを見てるの? 私は生きてるわよ」
凛と響く言葉、スキルとは違う何かが隔者の耳を打つ。
腕を出して彼女を制止する成の眉がわずかに上がる。
「効率的に厄介だな」
ガトリングはそう呟くと自らに飛ぶ刺突を右腕を使って打ち払ってから緑川に向かって火焔二発。庇った男のインバネスを焼き、三つ揃いを焦がす。
「少し黙っていただけませんか?」
熱傷の痛みに耐えながらの老紳士の言葉。
「失礼したわ。でも、お時間稼げたでしょう?」
「ああ、不本意だがな」
代わりに答えた赤貴が大剣を振り回す。全ての敵へと手を伸ばす意思は再び炎となって選挙用のワゴン車ごと隔者達を呑み込んでいく。
その間隙を突いて渚が鬼の金棒を叩き込んで成の前に立った。
炎が消え、小唄が地を這う、跳ね上がるような狐憑の蹴りが一撃、二撃と打ちこまれ、そして反動を活かして跳ぶ。
「これ以上」
次々と隔者の間を渡り、蹴りを叩き込む少年。
「行かせるかっ!」
言葉と共に着地すると、左右からカトラスと日本刀を持った男女が迫り変化の一人へ合わせて四太刀の飛燕。赤が舞い、飛沫がやや色白な二人の肌に紅を差す。
「もうちっと気合いれろよ。雑魚にしても程度が低すぎるぞテメェら」
「って言ってるよ?」
汚れた顔で不敵に笑う男と女、それを潤しの雨が洗い流していく。
残った二人の変化が衝撃波を放つ、それは小唄と幽霊男を貫き、緑川に向かって牙をむく。
「せめて、覚者には七星剣みたいなのばっかじゃないって分かってもらえるように頑張らないと!」
渚が射線に立ち、自らを盾として衝撃を減衰させる。B.O.Tといえど三人重なればその衝撃は霧散する。そう考えての行動。
最後の盾である成は杖を構え衝撃波を受け止める。靴底がアスファルトを擦り、耳障りな音が鳴る。
「ふむ、非効率だな――おい」
ガトリングは変化の傍にいた翼人を呼び。
「倒れた二人を車に投げ込め、翼人班三人! 集中攻撃だ」
隔者は指示に従い、少年の姿をした二人の変化の襟首をつかみ、車まで飛んでいった。
●効率、無想、凶刃、使命
「やはり変化は効率がいい……ん?」
運ばれていく姿を横目に呟くガトリングが目の前の女の様子に気づく。
「効率よく、効率よく、な。はは」
笑う刹那の瞳孔は開き、超視力と超直観が見えるもの全てを捉える。
彼女が向かう先、それは効率化の極致にあるかもしれない、そう考えると自然笑みが漏れた。
「女、目に頼りすぎだ。視覚に依存するのは効率的ではない」
動く先に『置いた』刃を弾く付喪の言葉は教え諭すよう。
「でないと――」
「『徹(とお) りゃ ん せ』」
逃がさないとばかりに手を伸ばしての氷巖華、鋭利な氷柱が形成されつつある手に隔者の手が重なり氷が孔を開ける。
「こうなる」
圧撃による熱圧縮、触れ合った手はお互いに弾かれて、衝撃で刹那は背中を打つ。
「女――いや、非効率だ、名を聞こうか?」
「刹那……華神 刹那」
名乗り立ち上がる刹那。名を聞いた付喪は言葉を噛みしめ、口を開く。
「セツナか……来るか? こちらに? 効率を求めて」
それは七星への勧誘。けれど、そこに白い凶刃が水を差す。
「どうした? そんなもんか華神」
ガトリングの背後から振り下ろされる唐竹割、横に飛んだ隔者へとさらに追撃の一太刀。
「ガト野郎もナンパとは余裕じゃねえか!」
「ヘッドハンティングと言ってくれ」
贋作虎徹を振り回す刀嗣にガトリングは回転機関砲のバレルを当てモーターの回転で刀身を滑らせて軌道をそらす
「関係ネーヨ。それよりテメェ運が悪かったな。俺様がいる場所に出てくるなんざよぉ」
剣先と銃口が当たる、金属音がなり、回転する銃口に刀が取られ刀嗣の手首が捻じられ、その隙を逃さず隔者はバックステップで間合いを作る。
同時に幽霊男の持つカトラスが機関銃としての正体を見せ始めた。
引鉄に連動した火打ち石が鳴り、撃針が雷管を叩く。火薬の奔流が鉛を押し出し螺旋軌道に乗せて外界へと解き放たれると。奔流は新たな力となりて次の鉛を呼び込み再び針が雷管を打つ。
それは鉄量という名の暴力、負傷が重なった変化には耐えうるものではなく、二人とも地に伏せる。
変化が倒れたことで小唄と赤貴、二人の少年が走る。一人は背中を見せる翼人達へ、もう一人は付喪へ。
赤貴が走りながら気の弾丸を掃射、気弾は次々と翼人の背後を貫いていく。
その様子を見ていたガトリングの視界に獣憑が飛び込んだ。
「これ以上はさせない! やりたければ僕を倒していけ!」
「分からんな?」
跳ね上げるような少年の拳に蹴りを合わせて突き放しつつ付喪が疑問を口にする。
「彼女は私や君達にとって良い人物ではないはずだ、それを守るというのは非効率極まりないのではないか?」
「何でこんな人たちを守らないといけないのかって?」
少年が笑い、そして叫ぶ。
「そんなの、決まってるじゃん。一般人だからだよ。考え方がどうだろうと区別なんかしない。僕は、力を持たない一般人を守る! 見返りなんかいらない。好奇の目を向けられても、石を投げられたって僕は構わない!」
話すのはもはや少年ではなく
「僕はもう、目の前で助けられずに誰かが死ぬのが嫌なんだ……!!」
心に使命を持った男であった。
●政治、由来、砲火
隔者の繰り出すサーベルを宙返りで回避する日那乃の目に小唄が叫ぶ姿が映る。
どうして彼はここまで何かの為に身体を張れるのだろう? 分からない、でも今はそれを考えている暇はない。回復の雨を降らせて消耗する皆が戦える状況を作る役目がある。
雨に打たれた成の息は荒い。回復があっても複数の攻撃を一手に受けたことで体力は大きく削られていた。だが渚が介入したことで負担が減り今は積極的に動くことが出来る。杖を親指で押し、仕込みを露出させると腰だめに構える。
隔者がサーベルを持って襲い掛かる、老紳士は居合の要領で杖から仕込みを抜刀し、騎兵刀と打ち合わせる。直後、衝撃波が翼人を襲い、その身を吹き飛ばす。
成もまた現の因子の持ち主、抜剣から放たれたB.O.T.を隔者に叩き込んだのだ。その背後を撃ち抜くのは走り込む赤貴の烈波。前後から攻撃を受けた翼人は地に伏せ、他の翼人も背後からの掃射に体勢を崩す。
敵の動きが鈍ったのを好機と見て渚が施した癒しの滴で息を整える成。滑り込みながら彼らの元にたどり着いた赤貴が蔵王によって土を鎧のように纏うと
「代われ、爺さん。後は俺がガードする」
「任せましょう」
二つ返事で成が前に出た。丁度、日那乃についていた翼人がこちらに向かってくる。迎撃をしないと行けない。
「生意気な覚者のガキが目の前で死のうが、憤怒者は気にならないんだろう?」
赤貴は緑川を一目見ると皮肉を込めて言い放つ。
「馬鹿を言わないで」
目の前に立つ少年の言葉に切り返す緑川。
「貴方みたいな子供に戦闘をさせないために、私は政治家をやっているのよ」
「……妖の封印を解いては暴れさせているオマエらの仲間から、覚者同士潰し合えと情報が来た」
「――!?」
少年の言葉に表情が凍り付く目の前で守る覚者達を見つめながら緑川は力なく呟く。
「そう……どうやら私は政治の道具にされたようね」
赤貴は一度だけ彼女を見ると、戦いが終わるまで彼女に視線を向ける事は無かった。
倒れ伏した変化二人を翼人が回収に動く。彼らの前に立ちガトリングは一人呟いた。
「これ以上の戦闘は非効率のようだな」
「機関銃で効率言うなら物理を強化し、通りが悪い奴は他に任せりゃいいじゃろ。部下が好きに運用できる立場なら尚更な」
四人の覚者が飛び掛かる。幽霊男がカトラスで刺突を図るのを右腕で跳ね上げる、直後鳴る銃声、剣銃一体の飛燕が対象を失い弾丸は空を貫く。
「まぁ、すぐにできなくなると思うが。使われる方にまわって」
皮肉に対して返すのは肩をぶつけて距離を作る事、次に動く前に小唄の雷獣が足を止め、そこに刀嗣の刃が疾る。
「そういやテメェ、逢魔ヶ時がどうしてるか知ってるか? あー、やっぱいいわ」
袈裟懸けの一撃を半身を逸らして避けたところを横薙ぎに斬り返す。ガトリングは後ろに下がるが間に合わず皮一枚を持っていかれる。刀嗣の剣先が赤く濡れる。
「テメェ見てぇな木っ端の雑魚がんな事知ってる訳ぁねぇよな」
「すまんな縦割り行政なんだ」
答える隔者、そして入れ替わるように走る刹那、狙うは彼の首、迫るは左右から来る飛燕の刃。
「『刃狭身ノ型』」
呟き、振るった刃がガトリングの首の「片側」を斬り、鮮血がアスファルトにこぼれる。だが刹那の腕は隔者の首と機関砲で食い止められ、二太刀目への流れを封じられた。
「一回喰らうくらいの気で行けば、連撃とて効率的に封じられる」
腕を払い数歩下がる、隔者の足元を赤い糸のように一筋血が流れる。
「そして待っていた、君達が一斉にかかってくる――密集するときを」
五つに束ねた銃身が機械駆動で回り始める。銃口が覚者に向けられると弾丸が強制的に薬室へ送られ、撃鉄が薬莢を叩く。吐き出された弾丸が、彼らの足元で跳ね、動きを止め。次に武器を射貫き衝撃で体勢を崩させる。そして――
「こうやって効率的に射撃するために!」
発射される暴力が効率良く覚者へと撃ち込まれた。彼らの身に叩き込まれる圧倒的鉄量。立っていられたのは彼らが物理の防御力に長けていた者故。だが防御体力に劣った刹那のみが耐えきれず膝を着き、命を削って立ち上がる。
「……撤退だ、引き揚げろ!」
空薬莢が大地を叩く音が終わると同時に隔者が叫び、部下が呼応する。ガトリングも覚者に追撃の意思がないと認めると銃口を下し、走り寄るワゴン車に飛び乗った。
その視線は一人の覚者へと向けられ、そして車の中へと消えていった。
●無法、提案、手紙
砕けたアスファルト、血に染まった大地、燃えてしまったワゴン車、緑川の目に映る光景は凄惨極まりない。
「思想信条の自由は尊ばれるべきですし、制御できぬ力を恐れるのもまた、人の本能として自然な考えです」
隣に成が立ち、話しかける。
「仮に覚者管理法が成立するなら、私は従うでしょう。ですが。」
老紳士は彼女の方を振り向き
「貴方を襲撃した手合は、それに従いますか?」
問いかける。
「…………」
緑川は答えない。
そこへ刀嗣が割り込むように入ってきた。
「アンタの言ってる事授業で習った事に似てるなあー、なんつったよ新田のジジイ? ア……?」
「アパルトヘイトです」
「あー、そうアパルトヘイトだ。それだそれ。無駄だと思うけど精々頑張れよ。七星だの憤怒者だのが法律なんざ守るたぁ思えねえがな、俺だってクソみてぇな押し付けなんざ従う気はねぇよ」
彼の言葉は一つの真実。緑川もそれが分からないほど訳では無い。
「考えることは一杯ね」
呟きながら嘆息一つ。
「それじゃそろそろいいかしら? 礼は改めてさせていただくわ」
「どういたしまして、貴方が『良き隣人』に利用される傀儡ではない事を期待します」
成の言葉に緑川は笑みを漏らして、そして背を向けた。
「FiVEの方ですよね?」
事後処理に当たる幽霊男と小唄へ一人の少年が手紙を持ってやってきた。
「隣人って人から、FiVEに渡してくれって、お礼の手紙だって」
小唄の表情が固まる。少年は恐怖で肩をすくめるが幽霊男がなだめ、受け取った手紙を開く。
『彼女を助けてくれてありがとう、次は戦場で
良き隣人代表 荒関 務』
「……だってさ、お駄賃にしては安いな」
「……本当、俺達を良いように使いやがって!」
憤る少年、それを見る包帯から覗く顔には悪戯っぽい笑みと冷たい目。
「どうする?」
「決まってるさ! 何度でも止めて引きずりだす!」
小唄の表情を見て、幽霊男が笑い。
「だってさ?」
誰かに向けて問うた。
