≪ヒノマル陸軍≫古妖従軍計画・スネカ天狗
●スネカ天狗とヒノマル天狗
岩手は大船渡の氷上山に、ある古妖が住んでいる。
人間とそう大差の無い背格好をした者たちで、特徴と言えば高い鼻と年中山を歩くためのジャケットを着込んでいることくらいだろうか。
彼らには一月のなかばになると山を下り、人間たちに混じって交流を行なう風習があった。
それを『スネカ祭り』という。
彼らスネカ天狗の名前からとられた祭りで、恐い化け物の仮面を被って子供たちを驚かせる……秋田でいうなまはげ祭りと同じものだ。
今年も祭りの準備をすべく、彼らは山頂付近の屋敷に集まり仮面の手入れをしていた。
「長様よ、どうだね。今年は新しい仮面を作ってみちゃあ」
「そりゃあいいぞ長様。先代は古いものが好きだったが、最近の子供にゃあどうも受けん」
「もっと恐いもんがチマタに山ほどあるからのお」
「こらこら」
長様と呼ばれたスネカ天狗は苦笑いをした。
「スネカ祭りはだな、ずっと昔人里の若者たちが悪さに走った時にわしらがおどかして助けたことから始まった平和の祭りじゃ。それをお前さん……」
などと言いながらまんざらでもない。そんな顔で酒の椀を手に取る。
その時だ。
「長様、みんな、大変だ! よその天狗が攻めてきよった!」
屋敷の襖が跳ね開かれ、若いスネカ天狗が飛び込んできた。
彼の身体は矢や刀傷でいっぱいで、転がるように畳みに倒れるとそのままひゅうひゅうと瀕死の息をする。
仲間に手当を任せ、外に飛び出すスネカ天狗。
「こりゃあ……」
空には無数の天狗が円を描いて飛んでいる。
その中央で、槍を握った天狗が高らかに名乗った。
「貴様がスネカの長か。我らはヒノマル天狗。かつてヒノマル陸軍と共にソ連軍を追い払った英雄たちの末裔よ。貴様らには我らヒノマル陸軍への従軍を要求する。従わぬものは死、あるのみ!」
●古妖従軍計画
久方 真由美(nCL2000003)は緊張した面持ちでこれらの内容を語った。
要約するに、古妖ヒノマル天狗が古妖スネカ天狗を襲撃し、自らの軍門に降るよう要求するということだ。
「皆さんもご承知の通り、ヒノマル天狗は七星剣ヒノマル陸軍に与する古妖です。これにつく古妖が増えることはヒノマル陸軍の勢力拡大に他なりません」
スネカ天狗は古くから続く親人派の古妖である。訓練すればそれなりの戦力にはなるだろうが、長らく戦闘に関わらなかったせいでヒノマル天狗に対抗するような力はない。放置すればそのまま従軍させられてしまうだろう。
この現場に駆けつけ、ヒノマル天狗たちを撃退。スネカ天狗を助けることが今回の任務だ。
「ヒノマル天狗は全員が飛行能力をもち、特殊な術を施した弓術や鉈などの武器による斬撃を得意としています。数はおよそ10。戦力は今回の覚者10人チームと同じ程度と思われます」
そこまでの内容をまとめた資料を出し、真由美は小さく頭をさげた。
「どうか、よろしくお願いします」
岩手は大船渡の氷上山に、ある古妖が住んでいる。
人間とそう大差の無い背格好をした者たちで、特徴と言えば高い鼻と年中山を歩くためのジャケットを着込んでいることくらいだろうか。
彼らには一月のなかばになると山を下り、人間たちに混じって交流を行なう風習があった。
それを『スネカ祭り』という。
彼らスネカ天狗の名前からとられた祭りで、恐い化け物の仮面を被って子供たちを驚かせる……秋田でいうなまはげ祭りと同じものだ。
今年も祭りの準備をすべく、彼らは山頂付近の屋敷に集まり仮面の手入れをしていた。
「長様よ、どうだね。今年は新しい仮面を作ってみちゃあ」
「そりゃあいいぞ長様。先代は古いものが好きだったが、最近の子供にゃあどうも受けん」
「もっと恐いもんがチマタに山ほどあるからのお」
「こらこら」
長様と呼ばれたスネカ天狗は苦笑いをした。
「スネカ祭りはだな、ずっと昔人里の若者たちが悪さに走った時にわしらがおどかして助けたことから始まった平和の祭りじゃ。それをお前さん……」
などと言いながらまんざらでもない。そんな顔で酒の椀を手に取る。
その時だ。
「長様、みんな、大変だ! よその天狗が攻めてきよった!」
屋敷の襖が跳ね開かれ、若いスネカ天狗が飛び込んできた。
彼の身体は矢や刀傷でいっぱいで、転がるように畳みに倒れるとそのままひゅうひゅうと瀕死の息をする。
仲間に手当を任せ、外に飛び出すスネカ天狗。
「こりゃあ……」
空には無数の天狗が円を描いて飛んでいる。
その中央で、槍を握った天狗が高らかに名乗った。
「貴様がスネカの長か。我らはヒノマル天狗。かつてヒノマル陸軍と共にソ連軍を追い払った英雄たちの末裔よ。貴様らには我らヒノマル陸軍への従軍を要求する。従わぬものは死、あるのみ!」
●古妖従軍計画
久方 真由美(nCL2000003)は緊張した面持ちでこれらの内容を語った。
要約するに、古妖ヒノマル天狗が古妖スネカ天狗を襲撃し、自らの軍門に降るよう要求するということだ。
「皆さんもご承知の通り、ヒノマル天狗は七星剣ヒノマル陸軍に与する古妖です。これにつく古妖が増えることはヒノマル陸軍の勢力拡大に他なりません」
スネカ天狗は古くから続く親人派の古妖である。訓練すればそれなりの戦力にはなるだろうが、長らく戦闘に関わらなかったせいでヒノマル天狗に対抗するような力はない。放置すればそのまま従軍させられてしまうだろう。
この現場に駆けつけ、ヒノマル天狗たちを撃退。スネカ天狗を助けることが今回の任務だ。
「ヒノマル天狗は全員が飛行能力をもち、特殊な術を施した弓術や鉈などの武器による斬撃を得意としています。数はおよそ10。戦力は今回の覚者10人チームと同じ程度と思われます」
そこまでの内容をまとめた資料を出し、真由美は小さく頭をさげた。
「どうか、よろしくお願いします」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ヒノマル天狗の撃退
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
山中、およびその上空での戦闘となります。
地面には木々が乱立し、スネカ天狗たちは屋敷の中に避難します。
PCたちが現場に駆けつけるのはOP冒頭の状況直後、と想定してください。
スネカ天狗たちはF.i.V.Eの存在は知りませんが、彼らは避難を優先させるので事情説明を後回しにしても問題ないでしょう。
また、F.i.V.Eは名前の秘匿をやめたので名前を出して襲撃をかけてもOKです。ちなみに当然ではありますが、スネカ天狗もヒノマル天狗もF.i.V.Eの名前は知りません。
●戦闘
ヒノマル天狗、スネカ天狗両方とも能力は覚者基準。ですのでアテンドも見えますしステルス等は通じません。
ヒノマル天狗は全員が弓と刃物両方を装備しています。
相手を追尾する矢(遠単)や複数同時に放つ矢(遠列)などの術をもち、斬撃の威力もそれなりに高いようです。
攻撃方法は主に矢。一部が接近しての斬撃を行なうものと予測されます。
相手は飛行しているので、こちらに飛行能力があると『敵ブロックを通過した際に敵後衛に接近する』ができるようになります。
天狗の弓術に関しては、理解度や親和性によってはラーニングの可能性があります。(当然ですがラーニング以外の前提スキルは設定していません)
●ヒノマル天狗に関して
スネカ天狗のように歴史上に名前のある天狗ではありません。
その出自、特徴、『ソ連軍を追い払った』という歴史的にちょっと不思議なポイントの理由も分かっていません。それらの情報を収集するにはPCが頑張る以外にないでしょう。
●同行NPC
文鳥 つらら(nCL2000051)が参加しています。
飛行能力をもち、癒しの滴・癒しの霧を使用する係として初期配置されています。
戦闘能力は比較的低いので、回復支援に専念することになるでしょう。
●古妖に関する知識(補足)
マニュアルには古くから居る妖怪としか書かれていませんが、誤解があることも多いようなのであえて補足を加えます。
古妖は妖怪、精霊、妖精など昔からいる不思議生物たちです。名前のせいで誤解しやすいですが(そして実際混同されていることが多いですが)妖とは全く別のものです。
人間が勝手に『古妖』というカテゴリーを作っているだけで、古妖といっても千差万別。一定の規則で語ることはできません。
そのため魔眼などの対非覚者用スキルが通じるやつもいれば通じないやつもいます。覚者以上の戦闘能力があるやつもいれば非覚者同然のやつもいます。
なので当然、『同じ古妖だから』といった考え方はもっていません。
これらの知識はゲーム全体に共通するものですので、アラタナル世界にいれば自然と手に入る一般知識として扱っていただいて構いません。(勿論勘違いしている人や偏見をもっている人もいます)
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2016年01月19日
2016年01月19日
■メイン参加者 9人■

●スネカ天狗とヒノマル天狗
鋭く放たれた矢が、老いた天狗の肩を貫く。
「長さま!」
「は、はやく建物ン中に……」
背を向けて逃げ出すスネカ天狗たち。それを捕まえようと、数人のヒノマル天狗が急降下をしかけていく。
「無駄だ。抵抗するなら一人ずつ殺す。全員で死ぬか、できるだけ生き残るか。さあ選べ!」
「『全員生き残ってあなたたちを追い返す』だよ」
突然大地を炎が走り、斬りかかろうとしたヒノマル天狗たちを飲み込んでいく。
揺れる陽炎の向こう側から、巫女装束を纏った四条・理央(CL2000070)が現われた。
低空飛行によって滑り込んだ『凛の雫花』宇賀神・慈雨(CL2000259)が、スネカ天狗たちに癒しの霧を、文鳥 つらら(nCL2000051)と一緒にかぶせていく。
「気のいい彼らが道具として使われるなんて」
独りごちて、大地に着地。ヒノマル天狗へと身構える。
「許さないわ七星剣、あなたたちの卑劣な手口だけは!」
「あ、あんたたちは一体……」
突然のことに驚くスネカ天狗たちに、慈雨は一度だけ振り向いて頷いた。
宙返りをかけながらフィールドインしてくる御白 小唄(CL2001173)。
「ここは任せて安全な所に逃げて。説明は後でするからね!」
「た、助かった!」
屋内へ逃げ込んでいくスネカ天狗たち。
小唄は清風の踏み印をきりながら、ヒノマル天狗に見得を切った。
「ヒノマル天狗! 古妖狩人みたいなことをしてるんじゃない! これ以上やるなら、暴力坂を返り討ちにした僕たちF.i.V.Eが相手になるぞ!」
「F.i.V.Eだと?」
「貴様らにも多少聞き覚えがあるだろう!」
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)が飛び込み、ナイフのグリップを狙い澄ましたフォームで叩き込む。打撃は先頭のヒノマル天狗一人にヒットしたが、彼の放った気が周囲の天狗たちをまとめて薙ぎ払う。
空中から弓を構えるヒノマル天狗。着ている服の様子や階級章からしてリーダーのようだ。
「名乗るだけならオウム鳥にでもできる。証明はあるのか。もしくは京都事件のように百人規模の覚者をこの場に今すぐ投入できるとでも?」
「なんだと!? バカにしてんの? 僕らは――」
「シ、黙って」
言い返そうとした小唄の口に、千陽は素早く手を翳した。
「相手はこちらの情報を引き抜こうとしています。うかつに応えれば思うつぼです」
「どうした、F.i.V.Eの名前だけを借りた下請け業者だったか? すまないな、非力な貴様らに不相応な要求をしたようだ」
天狗はあからさまに嘲笑の顔をして見せたが、千陽の『挑発に乗ってはいけません』という呼びかけに小唄や理央たちは頷いた。
そうしている間にも複数の矢が飛来し、先程炎に包まれたばかりの天狗が斬りかかってくる。
「オラァ!」
戦闘配置についた『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)がグレネードランチャーを乱射。爆発の中へ『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が飛び込み、逆手に握った双刀を同時に斬り込む。
「俺はケーサツでもなんでもないけど、平穏を守りたい。それをぶち壊す奴は嫌いだ、だから――使わせて貰うよ、双刀・天地!」
「以下同文だ、かかってこいや……っておい」
駆はランチャーに次弾を装填しながら顔をしかめた。
ダメージを受けた天狗たちが素早く味方と位置を交代し、ダメージの切り替えをはかっていく。こちらが地上で戦闘を行なおうとしているのを察して次々に低空飛行状態に移っていた。
確かにわざわざリスクのある高空飛行状態を続ける必要はないが、そうなってくると初手の襲撃がちょっと惜しい気もした。とはいえ今更言っても仕方ない話である。
「得意満面に飛び回るのはやめるんじゃな? では、さあ、はじめようかの。お前様方」
『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)は問題なしとばかりに薙刀を取り出し、天狗たちへと駆け込んだ。
数本の矢が樹香めがけて飛来。
だがよけるまでもない。薙ぐ刀と書いて薙刀である。洗練された動きで矢をまとめて切り払――おうとした途端、矢が異常な軌道を描いて樹香へと突き刺さった。
まるで薙刀をかわすように急カーブをかけ、膝や胸、背中へと刺さったのだ。
「天狗の弓術とやらか、厄介じゃの……!」
顔をしかめつつも、防御姿勢の天狗に薙ぎ払いをかける樹香。
「でもこんな弓術を間近で見られる機会、滅多にないッスからね! むしろ得したッス!」
『猪突猛進』葛城 舞子(CL2001275)はボウガンをまだ低空飛行へシフトしていない天狗へ向けて発射。先程樹香を打った天狗にヒットし、文字通りに打ち落としていく。
「さておき、弱い人に強襲とか卑怯ッスよ、許せないッス! というわけで助太刀するッス!」
うりゃーと言いながらボウガンを連射する舞子。
リーダーの天狗が彼女の矢を刀で切り払いながら急接近をかけてくる。
が、間に入った樹香が天狗の刀を打ち払った。
同じように間に入る緒形 逝(CL2000156)。
「大体互角……いや、そちらさんがちょっと上くらいかね」
刀をいい加減に握り込み、身を固めて天狗たちへと構える。
「ヒノマル天狗だっけ? 末裔とか言われてもなあ、その辺詳しく説明してくれるんだろうね」
「『よくぞ聞いてくれました』などと説明すると思うか?」
一旦距離をとり、奇妙な型えで刀を構える天狗。
「なんだい、あそこまで偉そうに名乗っといて説明しないのかい」
「いや、別に詳細を話しても構わないが……お前たちの姿勢が情報操作に対して脆弱すぎて、良心が痛む」
「……は?」
千陽は眉間に皺を寄せた。
良心だと?
「今我々が巧妙な嘘をつけば、お前たちは簡単に翻弄されそうだからな。賢い人間を謀るのはいいが……無知な相手を騙すのは、赤子を虐げるような気持ちにならないか?」
「よくわかんないけどバカにすんな! かかってこい!」
勢いだけで会話する奏空である。
とめてもいいが、逝はあえて乗っかることにした。
「そうだそうだ、おじさんたちを馬鹿にしちゃいかんよ。ホントに馬鹿なら騙されてうろうろするだけ。賢かったら嘘を見抜くさね」
「ふむ」
天狗は暫く(あからさまに)考える動作をした後、逝たちへと向き直った。
「では『今より我らは嘘しかつかぬ』。好きなことを質問せよ。必ず答えよう」
「……自己言及のパラドクスとは、意地が悪いなあ」
●血を代償にした質問会
三体の天狗が同時に刀を斬り込んでくる。
それも時代劇で見るような、『さあやっつけてくださいな』といったバラバラな斬り込みではない。仲間の隙を互いに潰しつつ相手の隙をこじ開ける、訓練された集団格闘術である。
「お前様よ! 思いのほかつらいぞ!」
三割がたを払いのけながら数歩ずつ後じさりしていく樹香。
「ま、待ってください! い、いい、いま回復しますから!」
つららが必死に回復をかけるが、流石に威力が低すぎる。
「任せて」
慈雨が手の中にため込んだ治癒液を樹香めがけて発射。体内に強制注入された液体が樹香の切り傷を早回しで自己治癒させていく。
足りない分は自力で補う。樹香は自前の治癒液を丸薬にして飲み込むと、残った傷を自力で治癒させた。そんな彼女の横を無数の矢が飛び抜けていく。
矢は途中で拡散し、つららや慈雨へ襲いかかる。
回復担当を潰そうという魂胆だ。回復の手を緩めた途端、堤防決壊の如く敗北する。
「このままじゃまずいよ。手伝って、四条」
「分かってる、こらえて」
理央は護符をまき散らし、霧を展開。
慈雨や自分たちを中心にカウンターヒールをかけ始める。
天狗たちに回復担当はいないようだが、その分こちらは火力で劣る。押し切られたら負けるだろう。
天狗が『質問をしてこい』などと言ったのは、時間をかけなければならない状況を作るための罠かもしれないが……逆に言えばこの機を乗り切れば収穫を得られるということだ。
「こっちはまだ大丈夫。時任さん、始めて!」
「了解しました」
質問するからといって攻撃の手はゆるめない。ナイフで天狗に攻撃しつつ、集中力の一割ほどを使って質問を開始した。
「貴様らは軍備を整えて何を狙う。やんごなきお方のご意向に背くか? 海を越えさらなる領地の侵略を望むのか? 貴様らの義はなんだ」
拡散する矢を放ちながら冷静に応える天狗。
「一気に質問をするな、まとめて応えるぞ。『全て是』だ。我々は第三次世界大戦を起こしてアジア圏を日本領とする。もう弱者が妖や覚者の被害におびえることは無くなるぞ。日本など七星剣にくれてやれ。米帝の犬と化した天皇などソ連のドラゴンにでも喰わせておけ」
嘘か本当か全く区別が付かない。表情変化や感情変化をつけずに嘘をつく訓練をしているのだろうか。矢継ぎ早に質問を畳みかける。
「次だ。古妖が子を成せるのか」
「自分で調べろ」
「貴様らは天狗の因子をもつ者か」
「そんなものあるわけないだろう」
「ヒノマル陸軍は、満州の関東軍、もしくは樺太の第五方面軍、北軍の出自なのか」
「……」
天狗はそこで初めて、顔を左右非対称に歪めた。
「やはり『その程度』の認識か。教えて置こう。我々大日本帝国陸軍第零特務部隊、通称『妖怪部隊』は北方島群および北海道を欲する旧ソ連部隊と第二次世界大戦中に戦い続けていた。条約によって日本兵とソ連兵の戦闘ができないが、存在しないことになっている氷国のドラゴンやバーバヤーガの軍勢が日本を占領したのなら話は別だ。だがそれを迎撃すれば『迷い込んだソ連人を襲撃した』と言われかねない。故に日露戦争以降存在が確認された日本妖怪たちで構成された妖怪部隊が火を噴くドラゴンや竜騎士たちと戦い、これを迎撃した。しびれをきらしたソ連上層部が間に合わせの雑魚戦力を終戦後に投入したのが樺太戦線だ。理解したか?」
「な……」
急速に増えた情報量に、千陽は頭痛を覚えた。
人に話したら鼻で笑われそうな話だが。仮に事実だとしたら……。
「我々の母艦は妖怪改装空母・大鳳改。ちなみにこれは大気圏を突破して宇宙へ飛び立ち月に前線基地がある」
「も、もういい」
完全に嘘になってきた。話の中にどれだけ嘘があるか、事実があるか、もしくは全てが嘘なのか。全く分からない以上、推理と検証を重ねるしかない。検証するべき情報が増えるのは避けたいのだ。
それに、質問会をしている間にこちらの戦線はかなり崩れてきている。それはヒノマル天狗も同じだが、状況的にはこちらが不利だ。
「過去の面倒くせえ話はどうでもいいんだよ!」
駆がランチャーに特殊空圧弾を装填、発射。天狗たちをまとめて吹き飛ばす。
「ヒノマル陸軍は町一つ平気でぶっ壊すような殺人集団だろうが。そんな奴らに何を望んでるんだ?」
「それも、『その程度』の認識か」
空圧に耐えながら、天狗は息を荒くした。
「必要な時に必要な場所に必要な破壊力を投入する。それが兵士だ。『何のために投入されたのか』『なぜ百人程度で勝てたのか』を考えるんだな。でなければ、いつまでもお前たちは翻弄されたままだ」
「あ?」
また難しいこと言いやがって。駆は舌打ちしてグレネードランチャーを乱射した。
爆弾を切り払って急接近をかけてくる天狗。
高速回転からの斬撃が、駆の胸を切り裂いた。
「飛んで火に入るってね!」
跳び蹴りを繰り出す小唄。
天狗の頭を蹴りつけたかと思うと、そのまま跳ねて別の天狗へと蹴りつける。
ぴょんぴょんと敵の間を飛びまわり、すとんと着地。天狗たちがばたばたと倒れる。
直後、低空飛行で突っ込んできた天狗に体当たりをかけられた。
空中に浚われていく小唄。途中にあった木々を次々にへし折っていく。
「い、痛っ!」
その途中、木の枝から飛びかかった逝が天狗の顔面を切りつけた。
小唄を手放し、回転しながら墜落する天狗。
一方の逝は小唄を抱きかかえて着地した。
「あんた名前は」
「それは、本名を名乗ろう。『風車(かざぐるま)』だ。お前も名乗れ、偽名でも構わん」
「アレクセイ・アレクサンドロヴィチ・ツェレンスカヤ。本名」
「ソ連人か」
「ロシア人ね」
そこへ、奏空が刀の軌跡を描いて飛びかかる。
「その風車さんがなんで七星剣になんて下ってんだよ!」
自身を回転させ、雷を纏った双剣から竜のような電撃を放つ。
「天狗ってのは人間なんかより強くてかっこいいんじゃないのかよ! そんなとこ抜け出して自分の力で頑張ってみろよ!」
「子供の理屈を!」
天狗・風車は斬撃によって雷を切り裂いた。余った電撃が別の天狗たちをはじき飛ばしていく。
「そろそろ、限界か」
天狗・風車は刀を逆手に構えてじりじりと下がっていく。
ボウガンの矢が飛来し、それを刀で切り払う。
舞子の矢だ。
「待つッス! さっきの話、どういうことッスか! 歴史の教科書にも残らないなんて」
「戦争なんてそんなものだ。軍事機密は秘匿される。数十年で解除されるものもあれば、百年は機密保持命令が下るものもある。満州義軍が百年秘匿されたようにな」
「い、意味わかんないッスよ! こちとら十六歳なんスから分かる言葉で――」
「分からなければそれでいい。我らの邪魔にならないと言うだけだ。では、撤退させてもらう」
気づくと、ヒノマル天狗はリーダーの風車を残してほぼ撤退していた。
その風車もまた、空中へ飛翔すると高速でその場から飛び去っていった。
「……あと一歩、だったんスけどね」
舞子はボウガンを下ろし、ため息をついた。
●スネカ天狗
「ヒノマル天狗の弓術ッスけど、ひとつは解析できたッス。モノにはできなかったんスけど、次に見たら確実にいける自信あるッス!」
舞子が話すには、天狗の拡散する矢は妖術を矢に乗せることによって途中でエネルギーの矢を拡散させるというものだった。術式を応用する必要があるか、体術だけで再現できるかはやってみなくては分からないが。
「あと因子がどうのこうのって話ね。これで調べがつくかもしれんね」
逝は刀を掲げて言った。天狗の一人が持っていた刀である。まだよく分からないので、詳細は後で逝本人に聞かねばならないだろう。
その一方で、理央や慈雨たちはつららたちの手伝いをうけてスネカ天狗の治療にあたっていた。
千陽は彼らにも情報協力を求めたが、収穫は無かったようだ。
「なんにせよ、無事で良かったの」
「そう、だな……」
樹香が包帯を巻いてやっている横で、奏空は悲しげに目を伏せていた。
子供の理屈、という言い方に納得ができないからだ。
「なにしょぼくれてんだ。たいしたけが人も出てねえんだから、喜べよ」
予備の包帯を持ってやってくる駆。
「へへっ、僕らが七光りで威張ってるやつなんかに負けるかよ!」
腕組みして胸を張る小唄。その横では舞子がスネカ天狗にサインを求めたり電話番号聞いたりしていた。
スネカ天狗は古くから人に紛れて暮らしていたので、住所も電話番号もある。なんなら人間としての戸籍もあった。ただ『大船太郎』とかいうテキトーな名前だったところからして偽名である。スネカ天狗は代々名前を人に名乗らないしきたりがあるのだそうだ。
治療の手を止めて、休憩用にだされたお茶を飲む慈雨。
「それにしても、天狗たちの装備はやけに普通だったの。もっと古い巻物みたいな姿だと思ったけど」
一見して、ヒノマル天狗は『羽の生えた軍人』であった。木製の弓と普通の刀。比較的顔に赤みがかかっていて、外国人並に鼻が高いのが特徴だろうか。オランダ人かなにかだと言われてもごまかしが利くレベルの顔立ちだ。
お茶を手に頷く理央。
「ヒノマル陸軍とつながりがあるなら、装備も支給されるはずだから……そういう都合かな。刀を調べれば、その辺もわかると思うけど」
ともかく、今日できることはここまでだ。
彼らはスネカ天狗たちと別れ、帰路につくことにした。
次の戦いは、きっともう目の前まできているのだろうから。
鋭く放たれた矢が、老いた天狗の肩を貫く。
「長さま!」
「は、はやく建物ン中に……」
背を向けて逃げ出すスネカ天狗たち。それを捕まえようと、数人のヒノマル天狗が急降下をしかけていく。
「無駄だ。抵抗するなら一人ずつ殺す。全員で死ぬか、できるだけ生き残るか。さあ選べ!」
「『全員生き残ってあなたたちを追い返す』だよ」
突然大地を炎が走り、斬りかかろうとしたヒノマル天狗たちを飲み込んでいく。
揺れる陽炎の向こう側から、巫女装束を纏った四条・理央(CL2000070)が現われた。
低空飛行によって滑り込んだ『凛の雫花』宇賀神・慈雨(CL2000259)が、スネカ天狗たちに癒しの霧を、文鳥 つらら(nCL2000051)と一緒にかぶせていく。
「気のいい彼らが道具として使われるなんて」
独りごちて、大地に着地。ヒノマル天狗へと身構える。
「許さないわ七星剣、あなたたちの卑劣な手口だけは!」
「あ、あんたたちは一体……」
突然のことに驚くスネカ天狗たちに、慈雨は一度だけ振り向いて頷いた。
宙返りをかけながらフィールドインしてくる御白 小唄(CL2001173)。
「ここは任せて安全な所に逃げて。説明は後でするからね!」
「た、助かった!」
屋内へ逃げ込んでいくスネカ天狗たち。
小唄は清風の踏み印をきりながら、ヒノマル天狗に見得を切った。
「ヒノマル天狗! 古妖狩人みたいなことをしてるんじゃない! これ以上やるなら、暴力坂を返り討ちにした僕たちF.i.V.Eが相手になるぞ!」
「F.i.V.Eだと?」
「貴様らにも多少聞き覚えがあるだろう!」
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)が飛び込み、ナイフのグリップを狙い澄ましたフォームで叩き込む。打撃は先頭のヒノマル天狗一人にヒットしたが、彼の放った気が周囲の天狗たちをまとめて薙ぎ払う。
空中から弓を構えるヒノマル天狗。着ている服の様子や階級章からしてリーダーのようだ。
「名乗るだけならオウム鳥にでもできる。証明はあるのか。もしくは京都事件のように百人規模の覚者をこの場に今すぐ投入できるとでも?」
「なんだと!? バカにしてんの? 僕らは――」
「シ、黙って」
言い返そうとした小唄の口に、千陽は素早く手を翳した。
「相手はこちらの情報を引き抜こうとしています。うかつに応えれば思うつぼです」
「どうした、F.i.V.Eの名前だけを借りた下請け業者だったか? すまないな、非力な貴様らに不相応な要求をしたようだ」
天狗はあからさまに嘲笑の顔をして見せたが、千陽の『挑発に乗ってはいけません』という呼びかけに小唄や理央たちは頷いた。
そうしている間にも複数の矢が飛来し、先程炎に包まれたばかりの天狗が斬りかかってくる。
「オラァ!」
戦闘配置についた『オレンジ大斬り』渡慶次・駆(CL2000350)がグレネードランチャーを乱射。爆発の中へ『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が飛び込み、逆手に握った双刀を同時に斬り込む。
「俺はケーサツでもなんでもないけど、平穏を守りたい。それをぶち壊す奴は嫌いだ、だから――使わせて貰うよ、双刀・天地!」
「以下同文だ、かかってこいや……っておい」
駆はランチャーに次弾を装填しながら顔をしかめた。
ダメージを受けた天狗たちが素早く味方と位置を交代し、ダメージの切り替えをはかっていく。こちらが地上で戦闘を行なおうとしているのを察して次々に低空飛行状態に移っていた。
確かにわざわざリスクのある高空飛行状態を続ける必要はないが、そうなってくると初手の襲撃がちょっと惜しい気もした。とはいえ今更言っても仕方ない話である。
「得意満面に飛び回るのはやめるんじゃな? では、さあ、はじめようかの。お前様方」
『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)は問題なしとばかりに薙刀を取り出し、天狗たちへと駆け込んだ。
数本の矢が樹香めがけて飛来。
だがよけるまでもない。薙ぐ刀と書いて薙刀である。洗練された動きで矢をまとめて切り払――おうとした途端、矢が異常な軌道を描いて樹香へと突き刺さった。
まるで薙刀をかわすように急カーブをかけ、膝や胸、背中へと刺さったのだ。
「天狗の弓術とやらか、厄介じゃの……!」
顔をしかめつつも、防御姿勢の天狗に薙ぎ払いをかける樹香。
「でもこんな弓術を間近で見られる機会、滅多にないッスからね! むしろ得したッス!」
『猪突猛進』葛城 舞子(CL2001275)はボウガンをまだ低空飛行へシフトしていない天狗へ向けて発射。先程樹香を打った天狗にヒットし、文字通りに打ち落としていく。
「さておき、弱い人に強襲とか卑怯ッスよ、許せないッス! というわけで助太刀するッス!」
うりゃーと言いながらボウガンを連射する舞子。
リーダーの天狗が彼女の矢を刀で切り払いながら急接近をかけてくる。
が、間に入った樹香が天狗の刀を打ち払った。
同じように間に入る緒形 逝(CL2000156)。
「大体互角……いや、そちらさんがちょっと上くらいかね」
刀をいい加減に握り込み、身を固めて天狗たちへと構える。
「ヒノマル天狗だっけ? 末裔とか言われてもなあ、その辺詳しく説明してくれるんだろうね」
「『よくぞ聞いてくれました』などと説明すると思うか?」
一旦距離をとり、奇妙な型えで刀を構える天狗。
「なんだい、あそこまで偉そうに名乗っといて説明しないのかい」
「いや、別に詳細を話しても構わないが……お前たちの姿勢が情報操作に対して脆弱すぎて、良心が痛む」
「……は?」
千陽は眉間に皺を寄せた。
良心だと?
「今我々が巧妙な嘘をつけば、お前たちは簡単に翻弄されそうだからな。賢い人間を謀るのはいいが……無知な相手を騙すのは、赤子を虐げるような気持ちにならないか?」
「よくわかんないけどバカにすんな! かかってこい!」
勢いだけで会話する奏空である。
とめてもいいが、逝はあえて乗っかることにした。
「そうだそうだ、おじさんたちを馬鹿にしちゃいかんよ。ホントに馬鹿なら騙されてうろうろするだけ。賢かったら嘘を見抜くさね」
「ふむ」
天狗は暫く(あからさまに)考える動作をした後、逝たちへと向き直った。
「では『今より我らは嘘しかつかぬ』。好きなことを質問せよ。必ず答えよう」
「……自己言及のパラドクスとは、意地が悪いなあ」
●血を代償にした質問会
三体の天狗が同時に刀を斬り込んでくる。
それも時代劇で見るような、『さあやっつけてくださいな』といったバラバラな斬り込みではない。仲間の隙を互いに潰しつつ相手の隙をこじ開ける、訓練された集団格闘術である。
「お前様よ! 思いのほかつらいぞ!」
三割がたを払いのけながら数歩ずつ後じさりしていく樹香。
「ま、待ってください! い、いい、いま回復しますから!」
つららが必死に回復をかけるが、流石に威力が低すぎる。
「任せて」
慈雨が手の中にため込んだ治癒液を樹香めがけて発射。体内に強制注入された液体が樹香の切り傷を早回しで自己治癒させていく。
足りない分は自力で補う。樹香は自前の治癒液を丸薬にして飲み込むと、残った傷を自力で治癒させた。そんな彼女の横を無数の矢が飛び抜けていく。
矢は途中で拡散し、つららや慈雨へ襲いかかる。
回復担当を潰そうという魂胆だ。回復の手を緩めた途端、堤防決壊の如く敗北する。
「このままじゃまずいよ。手伝って、四条」
「分かってる、こらえて」
理央は護符をまき散らし、霧を展開。
慈雨や自分たちを中心にカウンターヒールをかけ始める。
天狗たちに回復担当はいないようだが、その分こちらは火力で劣る。押し切られたら負けるだろう。
天狗が『質問をしてこい』などと言ったのは、時間をかけなければならない状況を作るための罠かもしれないが……逆に言えばこの機を乗り切れば収穫を得られるということだ。
「こっちはまだ大丈夫。時任さん、始めて!」
「了解しました」
質問するからといって攻撃の手はゆるめない。ナイフで天狗に攻撃しつつ、集中力の一割ほどを使って質問を開始した。
「貴様らは軍備を整えて何を狙う。やんごなきお方のご意向に背くか? 海を越えさらなる領地の侵略を望むのか? 貴様らの義はなんだ」
拡散する矢を放ちながら冷静に応える天狗。
「一気に質問をするな、まとめて応えるぞ。『全て是』だ。我々は第三次世界大戦を起こしてアジア圏を日本領とする。もう弱者が妖や覚者の被害におびえることは無くなるぞ。日本など七星剣にくれてやれ。米帝の犬と化した天皇などソ連のドラゴンにでも喰わせておけ」
嘘か本当か全く区別が付かない。表情変化や感情変化をつけずに嘘をつく訓練をしているのだろうか。矢継ぎ早に質問を畳みかける。
「次だ。古妖が子を成せるのか」
「自分で調べろ」
「貴様らは天狗の因子をもつ者か」
「そんなものあるわけないだろう」
「ヒノマル陸軍は、満州の関東軍、もしくは樺太の第五方面軍、北軍の出自なのか」
「……」
天狗はそこで初めて、顔を左右非対称に歪めた。
「やはり『その程度』の認識か。教えて置こう。我々大日本帝国陸軍第零特務部隊、通称『妖怪部隊』は北方島群および北海道を欲する旧ソ連部隊と第二次世界大戦中に戦い続けていた。条約によって日本兵とソ連兵の戦闘ができないが、存在しないことになっている氷国のドラゴンやバーバヤーガの軍勢が日本を占領したのなら話は別だ。だがそれを迎撃すれば『迷い込んだソ連人を襲撃した』と言われかねない。故に日露戦争以降存在が確認された日本妖怪たちで構成された妖怪部隊が火を噴くドラゴンや竜騎士たちと戦い、これを迎撃した。しびれをきらしたソ連上層部が間に合わせの雑魚戦力を終戦後に投入したのが樺太戦線だ。理解したか?」
「な……」
急速に増えた情報量に、千陽は頭痛を覚えた。
人に話したら鼻で笑われそうな話だが。仮に事実だとしたら……。
「我々の母艦は妖怪改装空母・大鳳改。ちなみにこれは大気圏を突破して宇宙へ飛び立ち月に前線基地がある」
「も、もういい」
完全に嘘になってきた。話の中にどれだけ嘘があるか、事実があるか、もしくは全てが嘘なのか。全く分からない以上、推理と検証を重ねるしかない。検証するべき情報が増えるのは避けたいのだ。
それに、質問会をしている間にこちらの戦線はかなり崩れてきている。それはヒノマル天狗も同じだが、状況的にはこちらが不利だ。
「過去の面倒くせえ話はどうでもいいんだよ!」
駆がランチャーに特殊空圧弾を装填、発射。天狗たちをまとめて吹き飛ばす。
「ヒノマル陸軍は町一つ平気でぶっ壊すような殺人集団だろうが。そんな奴らに何を望んでるんだ?」
「それも、『その程度』の認識か」
空圧に耐えながら、天狗は息を荒くした。
「必要な時に必要な場所に必要な破壊力を投入する。それが兵士だ。『何のために投入されたのか』『なぜ百人程度で勝てたのか』を考えるんだな。でなければ、いつまでもお前たちは翻弄されたままだ」
「あ?」
また難しいこと言いやがって。駆は舌打ちしてグレネードランチャーを乱射した。
爆弾を切り払って急接近をかけてくる天狗。
高速回転からの斬撃が、駆の胸を切り裂いた。
「飛んで火に入るってね!」
跳び蹴りを繰り出す小唄。
天狗の頭を蹴りつけたかと思うと、そのまま跳ねて別の天狗へと蹴りつける。
ぴょんぴょんと敵の間を飛びまわり、すとんと着地。天狗たちがばたばたと倒れる。
直後、低空飛行で突っ込んできた天狗に体当たりをかけられた。
空中に浚われていく小唄。途中にあった木々を次々にへし折っていく。
「い、痛っ!」
その途中、木の枝から飛びかかった逝が天狗の顔面を切りつけた。
小唄を手放し、回転しながら墜落する天狗。
一方の逝は小唄を抱きかかえて着地した。
「あんた名前は」
「それは、本名を名乗ろう。『風車(かざぐるま)』だ。お前も名乗れ、偽名でも構わん」
「アレクセイ・アレクサンドロヴィチ・ツェレンスカヤ。本名」
「ソ連人か」
「ロシア人ね」
そこへ、奏空が刀の軌跡を描いて飛びかかる。
「その風車さんがなんで七星剣になんて下ってんだよ!」
自身を回転させ、雷を纏った双剣から竜のような電撃を放つ。
「天狗ってのは人間なんかより強くてかっこいいんじゃないのかよ! そんなとこ抜け出して自分の力で頑張ってみろよ!」
「子供の理屈を!」
天狗・風車は斬撃によって雷を切り裂いた。余った電撃が別の天狗たちをはじき飛ばしていく。
「そろそろ、限界か」
天狗・風車は刀を逆手に構えてじりじりと下がっていく。
ボウガンの矢が飛来し、それを刀で切り払う。
舞子の矢だ。
「待つッス! さっきの話、どういうことッスか! 歴史の教科書にも残らないなんて」
「戦争なんてそんなものだ。軍事機密は秘匿される。数十年で解除されるものもあれば、百年は機密保持命令が下るものもある。満州義軍が百年秘匿されたようにな」
「い、意味わかんないッスよ! こちとら十六歳なんスから分かる言葉で――」
「分からなければそれでいい。我らの邪魔にならないと言うだけだ。では、撤退させてもらう」
気づくと、ヒノマル天狗はリーダーの風車を残してほぼ撤退していた。
その風車もまた、空中へ飛翔すると高速でその場から飛び去っていった。
「……あと一歩、だったんスけどね」
舞子はボウガンを下ろし、ため息をついた。
●スネカ天狗
「ヒノマル天狗の弓術ッスけど、ひとつは解析できたッス。モノにはできなかったんスけど、次に見たら確実にいける自信あるッス!」
舞子が話すには、天狗の拡散する矢は妖術を矢に乗せることによって途中でエネルギーの矢を拡散させるというものだった。術式を応用する必要があるか、体術だけで再現できるかはやってみなくては分からないが。
「あと因子がどうのこうのって話ね。これで調べがつくかもしれんね」
逝は刀を掲げて言った。天狗の一人が持っていた刀である。まだよく分からないので、詳細は後で逝本人に聞かねばならないだろう。
その一方で、理央や慈雨たちはつららたちの手伝いをうけてスネカ天狗の治療にあたっていた。
千陽は彼らにも情報協力を求めたが、収穫は無かったようだ。
「なんにせよ、無事で良かったの」
「そう、だな……」
樹香が包帯を巻いてやっている横で、奏空は悲しげに目を伏せていた。
子供の理屈、という言い方に納得ができないからだ。
「なにしょぼくれてんだ。たいしたけが人も出てねえんだから、喜べよ」
予備の包帯を持ってやってくる駆。
「へへっ、僕らが七光りで威張ってるやつなんかに負けるかよ!」
腕組みして胸を張る小唄。その横では舞子がスネカ天狗にサインを求めたり電話番号聞いたりしていた。
スネカ天狗は古くから人に紛れて暮らしていたので、住所も電話番号もある。なんなら人間としての戸籍もあった。ただ『大船太郎』とかいうテキトーな名前だったところからして偽名である。スネカ天狗は代々名前を人に名乗らないしきたりがあるのだそうだ。
治療の手を止めて、休憩用にだされたお茶を飲む慈雨。
「それにしても、天狗たちの装備はやけに普通だったの。もっと古い巻物みたいな姿だと思ったけど」
一見して、ヒノマル天狗は『羽の生えた軍人』であった。木製の弓と普通の刀。比較的顔に赤みがかかっていて、外国人並に鼻が高いのが特徴だろうか。オランダ人かなにかだと言われてもごまかしが利くレベルの顔立ちだ。
お茶を手に頷く理央。
「ヒノマル陸軍とつながりがあるなら、装備も支給されるはずだから……そういう都合かな。刀を調べれば、その辺もわかると思うけど」
ともかく、今日できることはここまでだ。
彼らはスネカ天狗たちと別れ、帰路につくことにした。
次の戦いは、きっともう目の前まできているのだろうから。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『天狗の軍刀』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:緒形 逝(CL2000156)
