【金剛大戦】強さと弱さの果てに
●
七星剣幹部金剛……阿王 吽仁は強さの奴隷であった。
この妖の跋扈する乱世。友も家族も仲間も大切なものは全て、理不尽な暴力によって失われ。殺されたから殺して、殺したから殺され。憎悪はどこまでも止まらず。
いつしか金剛は最強の一角と呼ばれるようになる。
「儂が辿り着いた強さの根源は……憎しみじゃった」
「憎しみ、ですか?」
傍らに佇むのは金剛に下った隔者達を取りまとめる結城征十郎。
彼ら隔者連合は、金剛一派の手となり足となり、それこそ多くの憎しみを生み出す非道を働いてきた。覚者組織を潰し、街を制圧し、血を流し、尊厳を奪い、人々を奴隷のように酷使した。
「人は誰かを憎み憎まれることで強くなる。人は何かを憎悪する義務がある」
空を仰ぐ。
少なくとも。
この時代を生き抜いてきた最強の隔者はそうだった。
「さて、今回の一件で儂はこの世界に少しでも憎しみを渦巻かせることができたのかのう」
「……過去形で語るのは尚早かと」
「そうじゃな。まだ仕上げが残っておる」
不意に金剛が咳き込み、口元を拭う。
尋常ではない吐血量。どす黒い紅の色が、手にべったりとはりついていた。
「やはり、もう長くはないな。数え切れない死者達の呪いかもしれんて」
老人の身体はとうの昔に限界を迎えていた。
それは金剛という強さに、人間の肉体が耐えられないかのように。医学的に言えば、最早立っていられるだけでも奇跡のレベルだという。
「だが、儂は運が良い。最後に喰らい甲斐のある敵と邂逅できた」
「それがファイヴだと?」
「我が愛弟子達を撃退する者まで現れるとなれば、認めるしかあるまいて」
「奪い返された特異点も予定より多いですが」
「構わん。拠点を死守するに越したことはなかったが、十二分に役割は果たした」
二人はとある一点、荒れ果てた大地で足を止める。
一見何もない不毛の地。
しかして、複雑に絡み合った特異点同士を結び付けるのには最適なポジション。
「陣を描くように各軍を進軍させ、各特異点は血と憎しみに塗れた。これより最後の作戦を発動させる」
金剛が己が得物を取り出した。
金剛杵。今まで多くの血をすすってきた特別な鈍器だ。あらん限りの力を籠め、見定めたポイントへと振り降ろす。
「!」
地平が鳴動。
眩い輝きが生まれる。遠く遠くどこまでも。各特異点を結び。やがて標的となる場所へと向かっていく。
「さあ! ファイヴよ、そして世界よ! 我々を蔑み、罵り、見下し……そして憎しむ準備はできたか! 我はその憎しみを飲み砕き、更なる強さを手に入れる!」
とても正気のままではたどりつけぬ境地。
余命残り僅かにして、なお金剛が求めたのは更なる強さであった。
「我は金剛! 七星剣最強の一角! 決して砕けぬ盾であり、何物であろうと砕く剣なり!」
●
金剛軍の士気は高い。
強者が正義、弱者こそが悪。
己が強さを証明するため、最高の戦場を夢見る。
「いいか者共! 我ら金剛軍は――」
「最強なり!!」
「今日をファイヴ最後の日とする!」
割れんばかりの雄叫び。
これから全てを蹂躙せんとする戦意に満ち満ちていた。
「『朱天』を打倒したファイヴ……貴様らと再びあいまみえよう」
本陣右翼部隊長。
茨木が己が愛刀を抜き放つ。
「さて、待ちに待った戦争だ。楽しませてもらうぜ」
本陣左翼部隊長。
F.i.V.E.識別名、『グラップラー』は獰猛な笑みをひらめかせる。
そして、彼ら両翼の前方には隔者連合が指揮する大部隊……征服地で捕まり奴隷として、戦場に駆り出された大量の人々が広がっていた。
●
「……すっかり大所帯になったな」
レジスタンス臨時指揮官、日向朔夜は多忙だった。
金剛勢との連戦により死傷者は膨大な数に上っていたが、それ以上の義勇兵達が各地から自主的に集まってきていた。それらを統率し、五麟市に無数の迎撃トラップを設置する。
「これだけの人が集まるなんて、七星剣や叔父達に対する『憎しみ』はそれほど強いということなんでしょうね」
結城凛は大部隊となったレジスタンス軍を眺めて、複雑な顔でぽつりと呟く。
年端もいかぬ彼女は朔夜の手伝いとしてこちらに身を寄せているが、隔者連合をまとめる結城征十郎とも浅からぬ因縁があった。
「これから俺達は、ファイヴに助力することになる。覚悟は良いか?」
「はい、朔夜さん……どんな結末であろうとこの目で見届けます」
●
「いよいよ七星剣幹部『金剛』との戦いも最終局面に突入した」
五麟学園が。
いや、五麟市全体が淡い光に包まれる。この一帯を中心にして、特異点の力が異常に高まっており。皆が集まるなか、中 恭介(nCL2000002)が説明を始める。
「夢見とうちの研究班の見解では、これは金剛の仕業で間違いないということだ。支配下においていた特異点の力を儀式的に歪めて暴走させ、こちらの地へと影響を及ぼしている」
この特異点の暴走は、五麟市内の人間に強く作用している。
普段とは比べものにならない力が沸き、明かな戦意高揚の効果もあるのだという。特にここの特異点と馴染深いファイヴの覚者の力は強く上昇する。
「金剛は五麟市をかつてない激戦地にするつもりだ」
金剛軍は既に目と鼻の先で軍を展開させている。
敵味方ともに特異点の影響で増幅された力でぶつかり合うことになるということだ。まさしく限界を超えた力と力の戦いだ。
「状況は厳しいが、戦うのは我々だけではない。金剛打倒のために多くの人々が今立ち上がり、各組織からも協力の申し出が来ている。これは君達が金剛軍に一矢報いたことで見出した希望だ」
一時は圧倒的な金剛の力に膝を屈し、ファイヴを直截的に攻撃する者まで現れる事態にまで発展していたが。ここに来て、世論はファイヴ支持へと傾きつつあった。
「ファイヴは今、対金剛の先頭に立っている。君達には、それぞれ編成した部隊のリーダーとして戦ってもらうことになる」
頷き。
恭介は力強く宣言した。
「我々に逃げ場はない。七星剣最強の一角『金剛』との決戦の時だ!」
七星剣幹部金剛……阿王 吽仁は強さの奴隷であった。
この妖の跋扈する乱世。友も家族も仲間も大切なものは全て、理不尽な暴力によって失われ。殺されたから殺して、殺したから殺され。憎悪はどこまでも止まらず。
いつしか金剛は最強の一角と呼ばれるようになる。
「儂が辿り着いた強さの根源は……憎しみじゃった」
「憎しみ、ですか?」
傍らに佇むのは金剛に下った隔者達を取りまとめる結城征十郎。
彼ら隔者連合は、金剛一派の手となり足となり、それこそ多くの憎しみを生み出す非道を働いてきた。覚者組織を潰し、街を制圧し、血を流し、尊厳を奪い、人々を奴隷のように酷使した。
「人は誰かを憎み憎まれることで強くなる。人は何かを憎悪する義務がある」
空を仰ぐ。
少なくとも。
この時代を生き抜いてきた最強の隔者はそうだった。
「さて、今回の一件で儂はこの世界に少しでも憎しみを渦巻かせることができたのかのう」
「……過去形で語るのは尚早かと」
「そうじゃな。まだ仕上げが残っておる」
不意に金剛が咳き込み、口元を拭う。
尋常ではない吐血量。どす黒い紅の色が、手にべったりとはりついていた。
「やはり、もう長くはないな。数え切れない死者達の呪いかもしれんて」
老人の身体はとうの昔に限界を迎えていた。
それは金剛という強さに、人間の肉体が耐えられないかのように。医学的に言えば、最早立っていられるだけでも奇跡のレベルだという。
「だが、儂は運が良い。最後に喰らい甲斐のある敵と邂逅できた」
「それがファイヴだと?」
「我が愛弟子達を撃退する者まで現れるとなれば、認めるしかあるまいて」
「奪い返された特異点も予定より多いですが」
「構わん。拠点を死守するに越したことはなかったが、十二分に役割は果たした」
二人はとある一点、荒れ果てた大地で足を止める。
一見何もない不毛の地。
しかして、複雑に絡み合った特異点同士を結び付けるのには最適なポジション。
「陣を描くように各軍を進軍させ、各特異点は血と憎しみに塗れた。これより最後の作戦を発動させる」
金剛が己が得物を取り出した。
金剛杵。今まで多くの血をすすってきた特別な鈍器だ。あらん限りの力を籠め、見定めたポイントへと振り降ろす。
「!」
地平が鳴動。
眩い輝きが生まれる。遠く遠くどこまでも。各特異点を結び。やがて標的となる場所へと向かっていく。
「さあ! ファイヴよ、そして世界よ! 我々を蔑み、罵り、見下し……そして憎しむ準備はできたか! 我はその憎しみを飲み砕き、更なる強さを手に入れる!」
とても正気のままではたどりつけぬ境地。
余命残り僅かにして、なお金剛が求めたのは更なる強さであった。
「我は金剛! 七星剣最強の一角! 決して砕けぬ盾であり、何物であろうと砕く剣なり!」
●
金剛軍の士気は高い。
強者が正義、弱者こそが悪。
己が強さを証明するため、最高の戦場を夢見る。
「いいか者共! 我ら金剛軍は――」
「最強なり!!」
「今日をファイヴ最後の日とする!」
割れんばかりの雄叫び。
これから全てを蹂躙せんとする戦意に満ち満ちていた。
「『朱天』を打倒したファイヴ……貴様らと再びあいまみえよう」
本陣右翼部隊長。
茨木が己が愛刀を抜き放つ。
「さて、待ちに待った戦争だ。楽しませてもらうぜ」
本陣左翼部隊長。
F.i.V.E.識別名、『グラップラー』は獰猛な笑みをひらめかせる。
そして、彼ら両翼の前方には隔者連合が指揮する大部隊……征服地で捕まり奴隷として、戦場に駆り出された大量の人々が広がっていた。
●
「……すっかり大所帯になったな」
レジスタンス臨時指揮官、日向朔夜は多忙だった。
金剛勢との連戦により死傷者は膨大な数に上っていたが、それ以上の義勇兵達が各地から自主的に集まってきていた。それらを統率し、五麟市に無数の迎撃トラップを設置する。
「これだけの人が集まるなんて、七星剣や叔父達に対する『憎しみ』はそれほど強いということなんでしょうね」
結城凛は大部隊となったレジスタンス軍を眺めて、複雑な顔でぽつりと呟く。
年端もいかぬ彼女は朔夜の手伝いとしてこちらに身を寄せているが、隔者連合をまとめる結城征十郎とも浅からぬ因縁があった。
「これから俺達は、ファイヴに助力することになる。覚悟は良いか?」
「はい、朔夜さん……どんな結末であろうとこの目で見届けます」
●
「いよいよ七星剣幹部『金剛』との戦いも最終局面に突入した」
五麟学園が。
いや、五麟市全体が淡い光に包まれる。この一帯を中心にして、特異点の力が異常に高まっており。皆が集まるなか、中 恭介(nCL2000002)が説明を始める。
「夢見とうちの研究班の見解では、これは金剛の仕業で間違いないということだ。支配下においていた特異点の力を儀式的に歪めて暴走させ、こちらの地へと影響を及ぼしている」
この特異点の暴走は、五麟市内の人間に強く作用している。
普段とは比べものにならない力が沸き、明かな戦意高揚の効果もあるのだという。特にここの特異点と馴染深いファイヴの覚者の力は強く上昇する。
「金剛は五麟市をかつてない激戦地にするつもりだ」
金剛軍は既に目と鼻の先で軍を展開させている。
敵味方ともに特異点の影響で増幅された力でぶつかり合うことになるということだ。まさしく限界を超えた力と力の戦いだ。
「状況は厳しいが、戦うのは我々だけではない。金剛打倒のために多くの人々が今立ち上がり、各組織からも協力の申し出が来ている。これは君達が金剛軍に一矢報いたことで見出した希望だ」
一時は圧倒的な金剛の力に膝を屈し、ファイヴを直截的に攻撃する者まで現れる事態にまで発展していたが。ここに来て、世論はファイヴ支持へと傾きつつあった。
「ファイヴは今、対金剛の先頭に立っている。君達には、それぞれ編成した部隊のリーダーとして戦ってもらうことになる」
頷き。
恭介は力強く宣言した。
「我々に逃げ場はない。七星剣最強の一角『金剛』との決戦の時だ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.七星剣幹部金剛の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●このシナリオの特徴
これまでのファイヴの活躍により、各地から義勇兵が立ち上がりファイヴの元に集まりました。この兵力を使って各部隊を編成します。
ファイヴのメンバーはそれぞれ部隊長となって、自分の部隊を率いることになります。
一部隊につき20人程度の義勇兵の覚者達がつきます。(基本的に火行、水行、木行、土行、天行の使い手が四人ずつつくような形になります)
自分の部隊のメンバーはファイヴの覚者の行動をサポートし、部隊長の指示に従います。
●今回の行動は以下からお選びください。
【A】【B】【C】のどれかを選んだ場合、そこでの目的を達成したのちには基本的には【D】に向かうことになります。
一度選んだ選択肢の戦いの途中で、他の場所に移ることはできません。
【A】隔者連合・結城征十郎の撃退
隔者連合の隔者達は、捕らえた大量の一般人達を無理矢理戦場全体で戦わせています。一般人達は強制的に戦わされており、こちらから攻撃の対象にすることはできません。
ゲーム的な効果で言うと、一般人達が解放されない限りファイヴ側は随時ダメージを受け、各能力にマイナス補正を受けてしまいます。一般人達は、監視役たる隔者連合の隔者を倒すたびに解放されていきます。
また、連合を取り締まる結城征十郎は戦場のどこかに隠れて、隔者連合の隔者達に指示を送っています。これを探し当てて撃退することができれば、隔者連合は指揮統制を失って一気に無力化できます。
【B】右翼部隊の撃退
『夜持』茨木竜一が敵右翼部隊の長。
隔者。火の羅刹。四十代男性。白の道着に身を包み、少数で特異点を守る覚者組織を倒す猛者です。神具は刀状の神具を持っています。
弱者に対し容赦がなく、ただ戦いの身を求めています。師である金剛でさえ、いずれ倒して乗り越える存在と認識しています。
部隊には火行の隔者が多いです。
【C】左翼部隊の撃退
グラップラーが敵左翼部隊の長。
隔者。彩の因子の土行。
体術をメインに戦う男格闘家です。非常に強力な戦闘力を持ちます。
前回ファイヴに虜囚達を救出したときは、直接戦うことがなかったために、今回はやる気満々になっています。
部隊には土行の隔者が多いです。
【D】金剛の撃破
今回は元凶である七星剣幹部金剛を撃破するのが目的です。
金剛が今までの戦いを経て特異点を暴走させたことにより、五麟市内のファイヴ側も金剛側も力を増しています。この特異点の暴走は金剛を倒すことで収束します。
金剛がいるのは敵本陣。
本陣は金剛直属の精兵たちで固められています。【A】【B】【C】に向かった者が少ない場合、本陣のへの攻撃は困難になります。
金剛は土行の使い手であり。七星剣最強の一角の名に恥じない、ずば抜けた攻撃力と耐久力を持ちます。
武器として使う金剛杵は、貫通攻撃となります。
無双布武【未解】というスキルを使います。
●ロケーション
今回は、五麟市が戦場となります。
時刻は正午。
攻め込んできた金剛軍に対しての迎撃戦です。民間人の避難は完了済みです。
戦場となる五麟市は特異点の力の影響を受けています。それにより、五麟市内にいる人間は戦意が高揚し力が増加します。五麟市の特異点と馴染深いファイヴの覚者の力は、特に大きく増加します。
また、戦場の各所には、ファイヴ友軍のレジスタンス軍が設置したトラップが存在します。トラップの場所は、ファイヴの面々には事前に知らされており敵軍にだけ作用します。
●友軍
金剛に対するレジスタンス軍が、ファイヴに助勢してくれます。
軍勢はAAAや各組織の覚者や一般人などの混成となっています。
指揮官は元AAAの精鋭たる日向朔夜。また、ここに参加している結城凛は隔者連合の結城征十郎の姪となります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
金:3枚 銀:5枚 銅:8枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
31/∞
31/∞
公開日
2018年06月13日
2018年06月13日
■メイン参加者 31人■

●
(今まで本当の父親の様にも凛さんに接していた征十郎さん……一体何処までご自身の手を汚してしまうのか……それ程までに凛さんに、ご自身を忘れられるのが怖いから……でしょうか……? 唯一の肉親である凛さんと、いつまでも繋がって居たいから……?)
いつも以上の力が湧き出てくる。
それは敵も味方も同じ。特異点の影響にさらされた戦場で、力と力がぶつかり合う。
『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)は、隔者連合を止めに走る。超直感を常に働かせ、今までの結城征十郎の振る舞い、統率の取り方、隔者達の全体の動きを読みながら探す。
「おら、お前ら戦え!」
「進まないと斬り殺すぞ!」
隔者連合達の怒号が飛び交う。
鎖に繋がれた一般人に無理矢理武器を持たせて戦わせる。そんな構図が、ファイヴ本部がある街で繰り広げられる。
「結城のおっさん捜しだしてぶっ飛ばしてやる! にしても、一般人こんなにたくさん無理矢理従わせるとかやり方が気にいらねーぞ! アンタ達! オレ達はアンタ達を助けに来たんだ! 道空けてくれ!」
ワーズワースを使って叫んで多少なりとも効いてる者は除外。
全く効いてない奴は隔者と見なして、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)は雷獣やB.O.T.改で攻撃する。
「また孤児院がパンクするまで子供置き去りかよ! ふざけんな!」
『ファイブブラック』天乃 カナタ(CL2001451)は、一般人を巻き込まないタイミングで召炎波を使用。金剛に向かう仲間の道作りをする。
「く、す、すまない……俺達は……」
「大丈夫ですよ。これは皆さんが望んで身を投じた戦いじゃないのは分かっていますから」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は妖精結界を展開し、敵方の隊列を崩壊させながらしのびあしで監視役に迫る。
「すぐに開放して差し上げます……! ただ、その前に、監視役さんのところまで通していただきますよ」
「必ず解放するよ!」
錬覇法改の後、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はワーズワースで一般人に声かけ監視役の場所を聞く。
「ファイヴ覚者だ! やれ!」
「隔者はそこか!」
攻撃してくる一般人の抑えを部隊に不殺で引き受けて貰い、守護使役のていさつも使用して監視役発見次第激鱗で撃破する。癒力大活性は自身、仲間及び一般人ごと癒す。
「解放された一般人は、レジスタンスの方で保護するからこちらに回してくれ」
レジスタンスの臨時指揮官たる日向朔夜が、随時ファイヴをフォローする。
手際よく各部隊に必要人員を分け、押す時は押し引く時は引く。また予め設置されトラップの数々も一般人を止めるのに一役買う。
「水行の皆さん、あすかと一緒に癒しパワー全開で頑張りましょうなのよ」
『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)は、レジスタンスとともに壁役と回復部隊として後方支援に徹していた。特異点の暴走により強固となった互いの矛。怪我人や消耗の具合は、ひどくなる一方だ。
「……やっぱり、普通のひとも隔者も、やることは、おんなじ? ん、とりあえず、結城征十郎っていうひと、探す、の、ね」
桂木・日那乃(CL2000941)は体力とBSの回復をしつつ、送受心・改で情報を収集していた。相手は無理矢理戦場に立たせられた一般人達だ。
(結城征十郎ってひと、見なかった? 心で、思ってくれたら、伝わるから)
●
「こんな時にメール、聖か。『インフルなので休みます』って奴め……」
水蓮寺 静護(CL2000471)は息を吐き。
戦闘準備を整える。まさに目と鼻の先に、これから対する敵軍が溢れかえっていた。
「ここに来たのは、ナナンの力が役に立てばいいなぁって思ったのだ!」
『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)は、目を見開いて将たる茨木の様子を観察する。茨木は部隊を二つに分けて、こちらを挟み撃ちにして襲わんとしていた。敵の挟撃が完成する前に、ファイヴも動く。
「後ろに壁をっ。命だいじにな!」
『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)は、自身を先頭に小隊を凸型に編成。敵前面、自分の後ろに土行で壁を構成。その後ろに攻撃主力の火行と天行を配置。水行は三角の中心に置き、回復に専念。後ろからの攻撃対処と全体サポートを木行に任せる。仕上げに自然治癒力を高めて、果敢に敵を蹴散らす。
「前回は茨木に敗れたし……あの時、俺達を逃がす為に命をかけてくれた人達の為にも、今度こそ打ち倒すよ」
「焔陰流21代目(予定)焔陰凛、推して参る!」
「なつね、なんだかとっても怖いけど街の皆を守る為にがんばるの」
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)が、茨木部隊へと狙いをつけて弾を連射させる。『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は、敵部隊を蹴散らして前にでる。野武 七雅(CL2001141)は、主に回復に努めて潤しの雨で優しい雨を降らせながら皆を支援した。
「弱者に制裁を加えるその考え気に入らないわね。わたしはそのようなタイプ一番嫌いだわ」
『月々紅花』環 大和(CL2000477)は、諸々を巻き込む形で雷獣を使う。雷撃が轟き、戦場に激しい光が舞う。
「まだまだ! 我ら最強の金剛軍なり!」
「さすが少数精鋭で揃えてきただけあるわね。なかなかに手強いわ」
攻撃を優先するが、敵もさるもの。
回復が追い付かない場面もたびたび出てくる。向かってくる敵をはねのけ、自分の小隊の水行覚者と一緒に体力をまかなう。
「前回の雪辱戦ですね。……蘇我島さんをお守りしつつ、茨木さんも仕留めて見せます」
「そうだね……此処で倒してしまわないと、前回以上の被害が出ちゃうから……茨木との決着を付けて、一緒に帰ろうね」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)と『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)は、ともに茨木の部隊へと対する。
一度は敗北した相手……このリベンジは、あの時助けられなかった命によって作られてるから。
この戦いの後も、共に歩いていきたいから。
言葉は、口にすることで力になる。だから敢えて口にする。
……そして、返ってきた言葉は、更なる力となる。
「終わったら、蘇我島さんのお家でひとやすみ、ですね」
「うん、めいちゃんもきっと喜ぶよ」
その為にも、二人で生きて帰らないと。
味方に無理をしないよう言い含めて、敵将への道を作る。
●
「壮観だな」
戦場全体を見渡して『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)が、口元に笑みを浮かべる。対して隣りにいる妹の『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)は、眉を顰めていた。
「戦いたくない人を 無理やり連れてくるというのが気に入らない」
「突っ込み過ぎないように」
「わかってるよ。兄さんも途中でへばらないでね」
「善処するよ」
妹の返答に、兄は肩を竦める。
そこに『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)が呑気に笑いかけた。
「おばーちゃん、派手にきたねー頑張るなー。膝関節とか腰痛とは無縁そーだもんね、そりゃあ強いや」
ニコリとした千雪に、蒼羽も笑顔を見せる。
「気合い、入ってるのは分かるけど……気張りすぎは良くないよー?」
「確かに 相手に付き合って熱くなる必要はないよね」
顔を見合わせ。
三人は連携して戦場を駆け抜ける。低空飛行しつつ彩吹が猛スピードの爆刃想脚で攻撃。蒼羽が雷神ノ檻でで敵全体を弱体化させ、千雪は集中して相手を混乱させるように技を使い一般人にはダメージを与えないスキルで対処。覚者達に従って、小隊の者達も助力する。
「鹿ノ島さん、ガードします」
守りを固めた納屋 タヱ子(CL2000019)は、ルートを作る仲間の盾となる。義勇兵達には貫通やノックバックの集中攻撃を指示した。自身の攻撃時は足止めくらいにはなるだろうと、召炎波で敵方を一気に焼き払う。
「悪ぃなタヱ子。背中は任せた。切り開くのはオレがやる」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は、先陣を切るように前衛に立つ。四方蹴りに五織の彩で敵を蹴散らした。いつもの快活さはなりをひそめ、今回は終始無表情。口調もどこかぶっきらぼうだ。
「今日こそ決着をつけるぞ、ファイヴ!」
グラップラーと呼称される男は、縦横無尽に破壊の限りを尽くす。
その拳一つで全てを粉砕し、彼の部隊の士気は異様なほど高くなっていた。
「グラップラー……前回は救出戦でしたし、お目にかからないようにしてましたが今回はこの方を倒さないとなのですね……」
「先日はお会いする間もなく退散いたしまして失礼致しましたわ」
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は、後衛で前へ出る方のサポートを務める。常に低空飛行状態を保ち大震に備えつつ、清廉珀香を仲間へと。『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は杖を高く掲げた。
「その分今日は存分にお相手致しますわ」
迷霧を発動。
敵部隊に虚弱を付与。さらにリスクはあるが、艶舞・慟哭で敵の怒りを呼び込んだ。
●
「金剛軍、殺気だっていますね……これも特異点暴走の影響でしょうか」
上月・里桜(CL2001274)が、守護使役で敵軍勢を偵察する。眼前に広がるのは、今まで幾多もの覚者組織を潰してきた金剛の手勢。それが自分達の街を、今まさに侵略せんとしている。
「巌心流、獅子王 飛馬推して参る!」
「金剛軍、侵略を開始せよ!」
両軍の鬨の声があがる。
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は、用兵の才覚を使用して前衛に立つ。敵が後ろの隊列へ抜けないように注意。敵の攻勢を、斬って払って薙ぐ。
「主力部隊が集結するまでは、まず守勢です」
『教授』新田・成(CL2000538)の部隊員は前衛・中衛・後衛に分かれている。残り体力に応じて前衛担当をローテーションさせその間に回復を行う。自身は紫鋼塞で防御を固めた後、エネミースキャンで敵を把握して最も弱っている標的にB.O.T.改で攻撃する。
「最前線のこここそ仲間の被害が一番大きくなる場所……私はね、ここで意地を張るために今まで鍛えてきたんだよ。だから一歩も退かない」
『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は。保険委員の腕章をビシッと掲げて決めポーズ。大祝詞・戦風を使いつつ戦い、持続が切れたら掛け直して効果を維持する。その近くで離宮院・太郎丸(CL2000131)は、水行の技で回復を担当していた。
「強さだけを求めることに意味はあるのでしょうか……」
金剛軍は本陣を含めて苛烈な前進を行う。
小隊を率いるファイヴ覚者達は、負けじとそれを押し返さんとした。その中で、大胆にも敵大将へと駆ける者達がいた。
「やあオバアチャーン! 余とお茶しばかない?」
「ほう、この金剛を指名するか!」
各部隊員には他部隊到着までの生存を厳守の上で金剛の取り巻きに対応してもらい。『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が、金剛へと接近する。進行のブロックと後衛への攻撃阻止にあたり、この間は機化硬・改を使用して全力防御。金剛の重い一撃を、何とか耐えしのぐ。
(殿のボスアタック決まったね。お手伝い要員としてフォローしないと)
『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)は、後衛ポジで低空飛行を維持しながら行動。仲間へは桜華舞符、自分には戦巫女之祝詞を付与。本隊突入前から既に補助の技を使っており、プリンスの生存に貢献している。
「くくく、やるなファイヴ! それでこそ、この金剛が喰らうに相応しい!」
金剛は喜色満面で、己が得物を振るいその度に戦場が大きく揺れる。
その様を見ていた『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)が、七星剣幹部に対峙する。
「やっと、分かりました。貴女は弱さを許せなかったのではなく、強さを許されたかったのですね」
「……ほう」
「弱さ故に苦しむ人もいます、そういう人の力になりたいと思っていました。ですが、強すぎる力はそれだけで今のこの国では混乱の元であり、排斥される事もあったのでしょう」
「……なかなか面白い解釈じゃな」
老人が目を細める。
その両眼には郷愁の光が僅かにちらついた。
●
(金剛軍の奴らは人の行いの域を超えた。もはや人とは思わない)
振るう刀に迷いはない。
奏空は続々と隔者連合を相手どっては、人々を解放していた。
「一般を巻き込まないようにしないとな」
カナタは地道に波動弾を撃つ。
鷹の目と送受心・改を使って、常に仲間と連絡を取り合っては隔者の位置の把握に努めた。
「こっちに補給を頼む!」
「天行の皆さんは気力充填願います」
あすかは味方の要請に応えて、小隊に指示を送る。
「土行の皆さんは防御に徹してくださいなのよ」
「この覚者が!」
「火行の皆さんは寄ってくる虫を燃やしちゃってください」
防御を固め。
隔者が寄ってくれば、自身も猛の一撃で迎撃する。もちろん回復のサポートは怠らない。
(誰かを憎む権利はあっても、それを強要する権利は誰にもないのよ)
譲れない思いを抱いて、戦場を支える。
それは、日那乃も変わらない。
「水行さんは体力回復、木行さんは清廉珀香、天行さんは気力回復、周りにもかけてくれたら、いい、かも」
回復を優先し、小隊の皆にも手伝ってもらいつつ。
先程解放した一般人から得た情報を、スキルで皆に伝える。
(結城征十郎っていうひと、の、だいたいの居場所、わかった、の、ね)
ここより西のとある空きビル。
送受信・改で連絡を受けた翔とたまきは指示された方角へと走る。
「行かせるか!」
覚者達の動きに気付いた隔者達が立ち塞がるが。
ラーラがペスカに預けた金色の鍵で魔道書の封印を開放する。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
エネミースキャンで敵の位置を把握。
絶好の位置で激しく燃え盛る炎が躍り。敵の妨害を四散させる。結果的に相手が固まってくれたことで、絶好の的となったのだ。敵勢にできた穴を味方達が抜けていった。
「結城のおっさん、出てこいよ!!」
翔は感情探査を使って、恐怖や憎しみではなく嘲りや楽しそうな戦場には似つかわしくない感情を。あるいは大きな怒りのような感情を捜す。すると、ある一画から嘲笑と憤怒が混ざり合った強い想いを感じ取る。
「あそこの屋上です。結城征十郎さんを止めに行きます!」
たまきの直感も反応していた。
目的のビルを指差し、封鎖された入口を破ると上階へと駆け上がる。仮面を被った隔連合のまとめ役は、見晴しのよい頂上で戦場を見渡していた。
「ああ……ようやく来たのか、ファイヴ諸君」
結城征十郎は一人。
護衛すらもいない。
「最悪の風景だ。あの子も……凛もあの中にいるのかな」
「凛さんは征十郎さんを止めてと言いました。もう許しているのです」
「そうか。憎しみを乗り越えたのなら、私もそろそろ用済みだな」
たまきの言葉に。
結城征十郎は仮面越しに笑ったようであった。そして、屋上から気軽な調子で歩き出す。
「凜の為にも! アンタだけは許しちゃいけねー気がするんだ!」
身一つでそのまま飛び降りるつもりだと。
気づいた翔とたまきが瞬時に動く。二人の技がフェンスを越える寸前に決まり……結城征十郎は自分の命をとりとめた。同時に指揮官の気絶により、隔者連合は崩壊をきたし始め。程なく捕まっていた一般人達も解放されることになる。
●
「さすが少数精鋭で揃えてきただけあるわね。なかなかに手強いわ」
茨木軍の猛攻に、大和は懸命に対抗する。攻撃を優先し、回復手が追いついていない時は潤しの雨で場を潤す。気力が枯渇すれば大填気でまかなう。仲間とタイミングを合わせて一人ずつ確実に落としていく。
「七星剣の一角と決着を付ける時か。部下も決して弱くはない、正に命懸けというワケだ」
だが。
「貴様らに割く時間はないのでな!」
静護もタイミングを合わせて、敵勢を水龍牙で一掃していく。
義勇兵達には無茶だけはしないようにあらかじめ言い含め、手勢の足止めを頼んである。
「ここで止まる訳にはいかないからね。今度こそ、茨木を倒して皆で金剛の元へ向かうよ!」
秋人は隔者部隊の中の、回復役を遠距離通常攻撃で優先的に倒す。
隔者部隊を一掃する為に水龍を呼び、BSにかかったら深想水で対応し、体力回復には潤しの雨を使用していく。不意打ちには第六感で備えている。
「不調は癒すからなつねに声をかけてほしいの」
七雅は次々に来る患者を、回復でさばく。
合間合間で、攻撃が足りなかったときは薄氷で応戦する。時間をかけながらも、ファイヴは穴をこじあけて敵将へのルートを何とか繋げようとしていた。
「茨木の元へ!」
「行かせるか、ファイヴ!」
鳳凰聖火風で自然治癒を高めた仲間達が活気づく。
隔者達は道を塞ごうとするが、特異点の力を特に得たファイヴの面々の勢いを抑えることはついにかなわず。一悟らは蔵王を自分にかけて茨木へと突貫をかけた。
「来たか……ファイヴ」
「茨木ちゃんと初めましてのナナンだけど頑張って倒しちゃうねぇ!」
茨木が手にした愛刀で近付く者を迎撃する。それはまさに剣の結界。
ナナンは烈空烈波で派手にぶつかった。その後は五織の彩で何度も打ち合っては、死力と死力が鎬を削る。
「……茨木さん。今度こそ決着を」
「リベンジマッチだ……今日は勝たせてもらうよ」
燐花は天駆からの激麟を、倒れるまで只管に。削ぎ落ちる体力は、癒してくれる仲間に任せる。
恭司は雷獣をメインに使いつつ、体力の回復が足りなければ癒しの霧を。気力が尽きる前に大填気を使用しては、前線の弾幕を絶やさない。
「悪くない連撃だ。だが――」
茨木の得物から無限の剣閃が生まれる。
もはや人の目で反応できるレベルを超え、ファイヴ覚者達に襲いかかる致死の群れ。全てを削り取られるような過程を、真っ向からやり過ごすのは並大抵の所業ではない。
「命は大事に。此処で散るのは勿体無いよ?」
「無理は厳禁。死ぬ前に下がってくださいね」
血気にはやる小隊員を恭司と燐花は下がらせて、茨木の部下の対処と回復支援にあてる。
そういう二人ともに、多くの傷を作っていた。それでも決し諦めずに頭と身体を動かし続ける。
(燐ちゃんが倒れないよう、回復は万全に。彼女は決して死なせない)
(蘇我島さんの体力がある程度戻るまでガードしますね。高火力手を失うのは惜しいですし)
互いが互いを助け。
支え合い。
一縷の望みを見出す。
「同じような武器を持つ者同士、一度は戦うべきだと思っていた」
「これは、まさか……」
灼熱化を施した後
氷巖華で牽制を仕掛けて向こうの出方をうかがっていた静護だったが。相手の剣先の鈍りを確かに感じていた。何合も斬り合い、それは手応えとなって現れる。
「効いている! 茨木の力は確実に衰えている」
エネミースキャンをしていた秋人が味方を鼓舞する。
それは特異点に愛された者の差か。それとも……あるいは。
「こないだはやられてしもたからな。今日は決着つけるで!」
凛が茨木に朱焔を突き付け煌焔で斬りかかる。あの時自分達を逃がす為に盾になってくれた覚者達。信じてくれたあの人達の思いが間違ってなかったと。彼らが決して弱い人間ではなかったと。
「あたしはそれを証明せんといかんのや!」
その思いを抱き、魂を燃やす。
自身が炎、いや焔となる勢いで攻撃力と速度を上げ。
「行くぞ茨木!」
「来るが良いファイヴ!」
渾身の剣戟が茨木から放たれる。
その攻撃を超視力で、いやそれ以上の眼力で見極め。ぎりぎりの態勢でも凌ぎ切り、凛が煌焔でぶった斬る。
「朱天……ここまでの、ようだ……」
突きの剣先に乗せた爆裂天掌が直撃し。
恐るべき剣士の得物は、完全に沈黙した。
●
「さて、弱肉強食なんて獣の論理でしか動けない人の相手をしようか。ああ、この言い分は獣に失礼かな」
「喰うか喰われるか、この世界はそれだけだと気付け!」
前衛の彩吹は、事前に天駆で能力上げ。
超直観も使いグラップラー間合いに飛び込んで参点砕き。体術が封じられれば御の字だ。
「悪いが、あんたの弱い者いじめに付き合ってやる時間は無いんだ……とっとと死ね」
「死ぬのは貴様らの方だ!」
遥がグラップラーに五織の彩・改で重圧をかける。
左翼部隊との戦いでは、敵将に肉薄しファイヴの覚者達が何重にも集中砲火を重ねていた。
「星の唄をご堪能あれ」
いのりが脣星落霜でグラップラー含め全体攻撃を行う。
星のように輝く光の粒。まさしくそれは、危険な星々の歌声。
「力ある者はそれを誇示するのではなく、救いを求める誰かの為に使うべきなのです。貴方や金剛の考えは間違っていますわ!」
「間違っている? それを正すのも結局は力だろうが!」
いのりが威風を込めて言い放ち、攻撃を続けた。
グラップラーも黙ってはいない。
(……敵は憎まないで)
タヱ子は疲弊した味方に癒力大活性で全体の回復連打を行う。
グラップラーは単騎で何人もの相手を同時にこなしてのけて暴れ続け、被害を増大させる。
(グラップラー程の力があれば、他の道でも成功できたのでは……)
相手の奮闘ぶりに目をやりつつ、澄香も傷が酷い味方へと木漏れ日の恵みを施す。身心に乱調をきたした者には、近づいてから深想水で回復を行う。
「小隊員は直接対決は避け、覚者のサポートと一般兵対応を」
蒼羽は義勇兵に露払いを任せて、自身はガンガン敵将へと雷獣で攻め入る。大震で地面が揺れても、態勢を立て直しては十六夜や斬・二の構えで攻撃を見舞った。
そこへ。
「一気に蹴散らす、ファイヴ共!」
グラップラーの拳が連打の嵐となって、覚者達を襲う。
今までで一番の必殺のラッシュ。敵味方関係ないすさまじい暴風雨だった。
「危ないっ」
「千雪下がって」
蒼羽が澄香への攻撃を防ぎ。
彩吹が千雪を庇い。
そして、グラップラーへの霞舞によるカウンターが決まる。
(澄香ちゃんを守って、と妹に言われてたしな)
蒼羽は妹の友人の無事を確認して息を吐く。
彩吹の方は、もっと直截的に守った相手に注文をつけた。
「危ないから下がって。ピアノが弾けなくなったらどうするの」
(僕は彩吹さんを守りたいだけどねー)
言われた千雪は黙ったまま、傷を負った彩吹へと大樹の息吹で回復を行った。
せめて大怪我をさせたくない、という一心だった。
(本人が気にしてくれないなら僕が……とか、言える立場になりたい)
千雪が切なる願いを抱く傍ら。
グラップラーは、手痛い反撃に動きを鈍くしている。更にここを好機ととらえた覚者達が畳み掛けてくる。
「まだまだ!」
グラップラーは最後まで抵抗した。
覚者達は大きな代償を払うことになったが。それでも、檻を狭めるがごとく獲物を弱らせる。
「もっと違う形で貴方とお会いしたかったです……」
度重なる攻撃で、体術を封じられ。
ボロボロになっても目の光を失わないグラップラーに。澄香はそっと声をかける。覚者達は、敵左翼部隊は無力化に成功していた。
●
「こちらでお願いします」
結城凛に連れられて、カナタは学園に戻っていた。
隔者連合との戦いが片付き、次の戦場に行く前にやってみたいことがあったのだが。そこで、事情を察した少女に声を掛けられたのだ。
(婆さんが血で汚しちまった特異点のせいで皆殺気立っちまってる。特異点を浄化出来れば金剛の婆さんも弱るんじゃねーか、と思っていたけど)
カナタが案内されたのは、五麟学園敷地のほぼ中央。
そこには何やら複雑な文様が描かれており、眩い光を放っていた。
「ここは金剛による特異点の暴走を、ファイヴ側で調整していた場所です。各所にパスが通っているので、ここで浄化ができれば他の特異点にも大きな影響を及ぼすことが可能かもしれません」
凛の説明にカナタは覚悟を決めた。
紋様の上に立ち、魂を使う。潤しの雨をベースにイメージ。血の汚れを洗いおとすように。浄化の瞬きが立ち昇る。
●
「隔者連合、それに左翼と右翼も落ちたか。だが、まだこの金剛は健在ぞ!」
金剛の号令に、本陣の兵が呼応する。
神がかった勢いによる進撃。金剛あるところが、金剛軍の中心。これを狩らねば、一気にまた形勢はひっくり返されかねない。なにより、金剛の凶悪な前進は止まることはない。
「これが七星剣最強の一角……ただな。こっちにも守るものがあるんだ。例え力が足りなくとも、俺は最強を志して戦場に踏み留まるんだ」
飛馬の巌心流は守りに重点を置くもの。
敵の前進を少しでも遅らせるべく、複数を狙って地烈を。寄ってくる個別の兵は、白夜を使って攻撃する。
「援護します」
里桜は錬覇法・改を切れないように使用。
自部隊の前衛には紫鋼塞。前衛は防御、適宜中衛と交代。貫通対策に中衛少なめで縦に並ばないように。後衛は周りの部隊も含めて回復・補助を行う。
「憎むことでしか記憶に残らないと思ってたなら、まあ迷惑なお話」
「ボクは在り来たりで平凡の日常が恋しいよ、のんびりお茶してたい」
紡は攻撃と回復、単体と全体を小まめに切り替えながら時間を稼ぐ
殿の軽口の合いの手や突っ込みも忘れない。今回の個人ミッションは仲間の誰も死なせないこと。死にたがりだって、死なせてなんてやんない位の意気込みだ。
そして、相方たるプリンスは防御から攻撃に切り替え。貫殺撃を中心に金剛を集中攻撃する。
「大丈夫か、支援する!」
他の戦場から続々と仲間達が駆けつけてきたのだ。
静護は遠近の攻撃と回復で、金剛本陣と対していた味方を即座にフォローする。
「増援か。ことごとく返り討ちにしてくれる!」
増え続けるファイヴの増員にも金剛は動じない。
事態は文字通りの総力戦に突入していた。
「わたし、この街がとても好きよ。だから許せないわ。お願い、金剛を討取って!」
大和も補助と支援メインで動く。
全ては金剛を打倒するために。敵部隊へと脣星落霜で応戦する。
「おばーちゃんなのにつよい! こわい! なつねのおばーちゃんとは大違いなのぉ! お年寄りには優しくってお父さんにもお母さんにもいわれたけど、このおばーちゃん怖すぎなのぉ! なつねはここでも支援でがんばるの! だからこの町の悲劇を早く終わらせてほしいの!」
七雅とてこの戦いを終わらせたいのは同じ。
自分に残った力を振り絞って、仲間達を応援する。連戦につぐ連戦で皆がぎりぎりだった。
「どうしてお婆ちゃんは、すぐに攻め込んで来なかったのかなぁ? お婆ちゃん達の強さなら、すぐに来てもナナン達を倒せるんじゃ……って嫌な感じがしてたけど……何か理由があるの?」
「はは。それはな、お嬢ちゃん。お嬢ちゃん達が、喰らい甲斐のある相手と認めたからじゃよ。己が強さの糧となる者には、儂は手塩を惜しまん性質でのう!」
そうして、自分は強さを手に入れてきたと。奈南の疑問に、金剛は狂気を帯びた哄笑をあげる。
それが本心なのか否か。
容易に推し量ることはできぬ。
「強さを純粋に求め続ける愚直さ……マジ乙女だぜばあちゃん。けど……」
一悟は鳳凰聖火風を再び使い。
金剛の取り巻きへと炎柱、貫殺撃・改を繰り出す。特異点の暴走により通常よりも強化された技が炸裂する。
「憎んでも良い。手を上げても良い。けれど、最後には……許し合える世の中を望んでいます。七星剣幹部『金剛』に対する私の感情は……憐み、です」
タヱ子も金剛への道を作ることに注力。
いつも以上の力を発揮する。
「皆さん、あの人を止めてあげて下さい。どうしようもなくなってしまった人を」
そして。
金剛を裁くのは私達ではなく法。金剛は殺めず、捕まえて下さい!
と、仲間達に願いを託して次へとつなげる。
「馬鹿な、我々金剛軍が……」
「押されているだと!?」
「何なのだ、こやつらの底知れぬ力は!」
金剛を守護する本陣は百戦錬磨の精鋭揃い。
それがここに来て、ファイヴ勢の猛攻によって戦列を崩し始めていた。元より個人主義の強さを尊ぶ集団だということもあり。突出していた金剛と本陣は、覚者達によって切り離される。
「因果応報……行いは必ず返ってくる。あんたにとってのそれが今って事だ!」
「ならば、それすらも力で捻じ伏せるまで!」
金剛の巨大な鈍器が光を放ち。
奏空は錬覇法改の後、雪月花・花の構えを取る。
目もくらむような金剛の必殺の一撃……通常ならば跡形もなく全てが吹き飛ぶ絶対の死がぶつかり……それを絶対防御が遮断する。そのまま奏空は、間合いを見計り敵将に踏み込み空いた懐に激鱗を放つ。
「ほう、やりおる! ……ゴホッ」
突如、金剛が咳き込み。
吐血する。
それは蓄積されたダメージ。限界をきたした身体。それに、もう一つ。
「呵呵……誰ぞが特異点の浄化を始めおったか」
カナタの魂を賭けた行為が功を奏したのだ。
術者である金剛は、その影響と負担を誰よりも受けていた。
「世の中を強弱でしか見れないあんたに、何も言うことは無い。あんたが死んだ後は、あんたのことなんか綺麗さっぱり忘れるよ」
足取りが危うくなった金剛へ。
遥が他の仲間と攻撃のタイミングを合わせ、達人戦闘術からの爆鍛拳を放つ。
「何も残さず、消えうせろ」
「ぐ!」
鉄壁以上の防御を誇っていた金剛の身体が。
大きく揺らぐ。
「ここが好機ですな」
エネミースキャンをしていた成が頷く。
全員攻勢に転じ、取り巻きを突破し金剛に肉薄。B.O.T.改を連発し。邪魔な遮蔽物が庇うなら鉄甲掌・還で遮蔽越しに攻撃する。
「我が空を乱したとて、未だ天には至らず!」
金剛の吐血は止まらず。
誰の目にも人として限界を超えていることは明らか。
にもかかわらず、その技と力は衰えることを知らない。拳が咲き乱れ、鈍器が大地を削り、ファイヴの覚者達は莫大な被害を強いられる。
「金剛さん……あなたの強さは悲しいね。誰も救われないじゃん……あなたが強いのは分かってるよ。だけど、私たちだって負けるわけにはいかないんだ」
渚は命力翼賛と天使の羽根で、味方を金剛の暴虐から守る。
太郎丸も癒しの雨などを使い分けて、精一杯対金剛の構図を維持する。
「体力や気力が切れかかっている人は、こちらに来てください」
ここまで来て余裕のある者など存在しない。
誰もが死地の中にいた。
半歩間違えれば棺桶に足を突っ込むことになる。そんな場所で、有為はあまりにも危険で大胆不敵な手を打つ。
「受けよ、我が奥義――無双布武!」
金剛が全てを殲滅せんと、金剛杵を振り上げる。
圧倒的なプレッシャー。
それこそ一撃で全てをくつがえす御業。それに対し。
(日本最強の覚者。弱者を虐げる行為を「許してくれる」絶対者。決して届かぬ理想を追い求める夢追人。FiVEは共にあるものであり、潰えても後に続くものはあるでしょう。貴女こそが、彼らにとっての最後の希望だった)
有為は。
(ロジックの話です。単純に強さで勝つだけでは本当に勝ったと言えないかもしれない)
ならば、最後の魂を注ぎ込み。
金剛を強化する。
「! この力は!?」
金剛の身体が、優しい輝きに包まれる。
これこそがファイヴの覚者だけが持つ強さ。金剛はその本質を体験した、初めての隔者だったかもしれない。
(主曰く、受けるより与える事が幸いである)
未練はあるけれど、ただ失う事の方を恐れるのなら。
最後の魂を使い、力尽きた身体が前のめりに倒れる。崩れ落ちる意識が混濁しても。死の直前、有為は自分が賭けに勝ったことを悟った。
「やりおった、やりおった、やりおったなっ、覚者!!!!!」
金剛の絶叫が響き渡る。
押し潰される。
金剛という強さが、金剛自身を押し潰す。全身が軋み、発動途中であった奥義そのものが制御を失う。暴走したそれは最早理解も模倣も不能な現象へと成り果てた。
「殿、金剛媼の必殺技からは守ってね、回復はしたげるからさ」
回復術式を大奮発していた紡は、倒れた有為をちらりと見やる。ついにファイヴにも犠牲者が出てしまった。たとえ自ら望んだことだとしても……首を横に振って信号弾をあげる。
それはプリンスの作戦の合図であった。
「ソレは覚えてるよ、オバアチャーン。誰かに覚えてて欲しかったんだよね」
自身も送受信で出来る限り連携できるように、プリンスは根回しする。
八卦の構えを使える全員でこれに合わせて凌ぎ、一斉のカウンターを叩き込む。
「憎んだりしなくても、みんな割と覚えてるもんだよ」
「やっぱりお前のやり方には納得できねー。例えそうなっちまうまでの何かがあったんだとしても、許されることじゃねーんだ」
プリンスが。
飛馬が。
仲間達が。
圧倒的な敵の力を、利用して盛大な逆撃を行う。何重にも重なった衝撃が、金剛にも跳ね返り戦場には極大の閃光が乱舞する。
「……この地に染み込んだ憎しみは、特異点の暴走が収まっても残って災いとなるでしょう。私は、寄り添いましょう。いつか染み込んだ憎しみが薄れる時まで……」
最後の一撃のため。
暴走した特異点の力を貸して貰うため。
里桜はありったけの魂を燃やす。やはり、どこからか聞こえてくるのは呪詛の言葉。それは特異点に染みこんでしまった犠牲者の無念の声か。
(憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い!)
耳を塞ぎたくなる憎悪の調べ。
だが、ほんの少しだけ。
他の声が……聞こえた気がした。
(もう終わりにしよう……もう次に進もう)
あらゆる想いの込められた一打が。
標的へと突き刺さる。
「くく……呵呵呵呵! いいぞ、来い!! 貴様らの全て、この金剛が飲み込んでくれる!!!」
大地が根底から割れる。
とうに身心はことぎれ。
特異点の浄化による多大な負荷を受け。
魂の力により自分の強さに磨り潰されて。
覚者達の総攻撃に晒された金剛は、それでも一歩も退かずそのまま踏みとどまった。
「八神の坊や……先にいって、いるよ」
金剛の正確な死因と死亡時間は分からない。
最初から抱えていた身心の不備が先に来たか。覚者の砲火の末に果てたか。もしくは……どれにしても、この老人は此度の戦場を生き残る術を最初から有していなかった。
特異点の暴走が次第におさまり。
光は静かな終息を迎える。
仁王立ちのまま息を引き取った、七星剣最強の一角の姿は今にもまた動き出しそうだった。
(今まで本当の父親の様にも凛さんに接していた征十郎さん……一体何処までご自身の手を汚してしまうのか……それ程までに凛さんに、ご自身を忘れられるのが怖いから……でしょうか……? 唯一の肉親である凛さんと、いつまでも繋がって居たいから……?)
いつも以上の力が湧き出てくる。
それは敵も味方も同じ。特異点の影響にさらされた戦場で、力と力がぶつかり合う。
『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)は、隔者連合を止めに走る。超直感を常に働かせ、今までの結城征十郎の振る舞い、統率の取り方、隔者達の全体の動きを読みながら探す。
「おら、お前ら戦え!」
「進まないと斬り殺すぞ!」
隔者連合達の怒号が飛び交う。
鎖に繋がれた一般人に無理矢理武器を持たせて戦わせる。そんな構図が、ファイヴ本部がある街で繰り広げられる。
「結城のおっさん捜しだしてぶっ飛ばしてやる! にしても、一般人こんなにたくさん無理矢理従わせるとかやり方が気にいらねーぞ! アンタ達! オレ達はアンタ達を助けに来たんだ! 道空けてくれ!」
ワーズワースを使って叫んで多少なりとも効いてる者は除外。
全く効いてない奴は隔者と見なして、『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)は雷獣やB.O.T.改で攻撃する。
「また孤児院がパンクするまで子供置き去りかよ! ふざけんな!」
『ファイブブラック』天乃 カナタ(CL2001451)は、一般人を巻き込まないタイミングで召炎波を使用。金剛に向かう仲間の道作りをする。
「く、す、すまない……俺達は……」
「大丈夫ですよ。これは皆さんが望んで身を投じた戦いじゃないのは分かっていますから」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は妖精結界を展開し、敵方の隊列を崩壊させながらしのびあしで監視役に迫る。
「すぐに開放して差し上げます……! ただ、その前に、監視役さんのところまで通していただきますよ」
「必ず解放するよ!」
錬覇法改の後、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)はワーズワースで一般人に声かけ監視役の場所を聞く。
「ファイヴ覚者だ! やれ!」
「隔者はそこか!」
攻撃してくる一般人の抑えを部隊に不殺で引き受けて貰い、守護使役のていさつも使用して監視役発見次第激鱗で撃破する。癒力大活性は自身、仲間及び一般人ごと癒す。
「解放された一般人は、レジスタンスの方で保護するからこちらに回してくれ」
レジスタンスの臨時指揮官たる日向朔夜が、随時ファイヴをフォローする。
手際よく各部隊に必要人員を分け、押す時は押し引く時は引く。また予め設置されトラップの数々も一般人を止めるのに一役買う。
「水行の皆さん、あすかと一緒に癒しパワー全開で頑張りましょうなのよ」
『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)は、レジスタンスとともに壁役と回復部隊として後方支援に徹していた。特異点の暴走により強固となった互いの矛。怪我人や消耗の具合は、ひどくなる一方だ。
「……やっぱり、普通のひとも隔者も、やることは、おんなじ? ん、とりあえず、結城征十郎っていうひと、探す、の、ね」
桂木・日那乃(CL2000941)は体力とBSの回復をしつつ、送受心・改で情報を収集していた。相手は無理矢理戦場に立たせられた一般人達だ。
(結城征十郎ってひと、見なかった? 心で、思ってくれたら、伝わるから)
●
「こんな時にメール、聖か。『インフルなので休みます』って奴め……」
水蓮寺 静護(CL2000471)は息を吐き。
戦闘準備を整える。まさに目と鼻の先に、これから対する敵軍が溢れかえっていた。
「ここに来たのは、ナナンの力が役に立てばいいなぁって思ったのだ!」
『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)は、目を見開いて将たる茨木の様子を観察する。茨木は部隊を二つに分けて、こちらを挟み撃ちにして襲わんとしていた。敵の挟撃が完成する前に、ファイヴも動く。
「後ろに壁をっ。命だいじにな!」
『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)は、自身を先頭に小隊を凸型に編成。敵前面、自分の後ろに土行で壁を構成。その後ろに攻撃主力の火行と天行を配置。水行は三角の中心に置き、回復に専念。後ろからの攻撃対処と全体サポートを木行に任せる。仕上げに自然治癒力を高めて、果敢に敵を蹴散らす。
「前回は茨木に敗れたし……あの時、俺達を逃がす為に命をかけてくれた人達の為にも、今度こそ打ち倒すよ」
「焔陰流21代目(予定)焔陰凛、推して参る!」
「なつね、なんだかとっても怖いけど街の皆を守る為にがんばるの」
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)が、茨木部隊へと狙いをつけて弾を連射させる。『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)は、敵部隊を蹴散らして前にでる。野武 七雅(CL2001141)は、主に回復に努めて潤しの雨で優しい雨を降らせながら皆を支援した。
「弱者に制裁を加えるその考え気に入らないわね。わたしはそのようなタイプ一番嫌いだわ」
『月々紅花』環 大和(CL2000477)は、諸々を巻き込む形で雷獣を使う。雷撃が轟き、戦場に激しい光が舞う。
「まだまだ! 我ら最強の金剛軍なり!」
「さすが少数精鋭で揃えてきただけあるわね。なかなかに手強いわ」
攻撃を優先するが、敵もさるもの。
回復が追い付かない場面もたびたび出てくる。向かってくる敵をはねのけ、自分の小隊の水行覚者と一緒に体力をまかなう。
「前回の雪辱戦ですね。……蘇我島さんをお守りしつつ、茨木さんも仕留めて見せます」
「そうだね……此処で倒してしまわないと、前回以上の被害が出ちゃうから……茨木との決着を付けて、一緒に帰ろうね」
『想い重ねて』柳 燐花(CL2000695)と『想い重ねて』蘇我島 恭司(CL2001015)は、ともに茨木の部隊へと対する。
一度は敗北した相手……このリベンジは、あの時助けられなかった命によって作られてるから。
この戦いの後も、共に歩いていきたいから。
言葉は、口にすることで力になる。だから敢えて口にする。
……そして、返ってきた言葉は、更なる力となる。
「終わったら、蘇我島さんのお家でひとやすみ、ですね」
「うん、めいちゃんもきっと喜ぶよ」
その為にも、二人で生きて帰らないと。
味方に無理をしないよう言い含めて、敵将への道を作る。
●
「壮観だな」
戦場全体を見渡して『地を駆ける羽』如月・蒼羽(CL2001575)が、口元に笑みを浮かべる。対して隣りにいる妹の『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)は、眉を顰めていた。
「戦いたくない人を 無理やり連れてくるというのが気に入らない」
「突っ込み過ぎないように」
「わかってるよ。兄さんも途中でへばらないでね」
「善処するよ」
妹の返答に、兄は肩を竦める。
そこに『呑気草』真屋・千雪(CL2001638)が呑気に笑いかけた。
「おばーちゃん、派手にきたねー頑張るなー。膝関節とか腰痛とは無縁そーだもんね、そりゃあ強いや」
ニコリとした千雪に、蒼羽も笑顔を見せる。
「気合い、入ってるのは分かるけど……気張りすぎは良くないよー?」
「確かに 相手に付き合って熱くなる必要はないよね」
顔を見合わせ。
三人は連携して戦場を駆け抜ける。低空飛行しつつ彩吹が猛スピードの爆刃想脚で攻撃。蒼羽が雷神ノ檻でで敵全体を弱体化させ、千雪は集中して相手を混乱させるように技を使い一般人にはダメージを与えないスキルで対処。覚者達に従って、小隊の者達も助力する。
「鹿ノ島さん、ガードします」
守りを固めた納屋 タヱ子(CL2000019)は、ルートを作る仲間の盾となる。義勇兵達には貫通やノックバックの集中攻撃を指示した。自身の攻撃時は足止めくらいにはなるだろうと、召炎波で敵方を一気に焼き払う。
「悪ぃなタヱ子。背中は任せた。切り開くのはオレがやる」
『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は、先陣を切るように前衛に立つ。四方蹴りに五織の彩で敵を蹴散らした。いつもの快活さはなりをひそめ、今回は終始無表情。口調もどこかぶっきらぼうだ。
「今日こそ決着をつけるぞ、ファイヴ!」
グラップラーと呼称される男は、縦横無尽に破壊の限りを尽くす。
その拳一つで全てを粉砕し、彼の部隊の士気は異様なほど高くなっていた。
「グラップラー……前回は救出戦でしたし、お目にかからないようにしてましたが今回はこの方を倒さないとなのですね……」
「先日はお会いする間もなく退散いたしまして失礼致しましたわ」
『居待ち月』天野 澄香(CL2000194)は、後衛で前へ出る方のサポートを務める。常に低空飛行状態を保ち大震に備えつつ、清廉珀香を仲間へと。『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268)は杖を高く掲げた。
「その分今日は存分にお相手致しますわ」
迷霧を発動。
敵部隊に虚弱を付与。さらにリスクはあるが、艶舞・慟哭で敵の怒りを呼び込んだ。
●
「金剛軍、殺気だっていますね……これも特異点暴走の影響でしょうか」
上月・里桜(CL2001274)が、守護使役で敵軍勢を偵察する。眼前に広がるのは、今まで幾多もの覚者組織を潰してきた金剛の手勢。それが自分達の街を、今まさに侵略せんとしている。
「巌心流、獅子王 飛馬推して参る!」
「金剛軍、侵略を開始せよ!」
両軍の鬨の声があがる。
『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は、用兵の才覚を使用して前衛に立つ。敵が後ろの隊列へ抜けないように注意。敵の攻勢を、斬って払って薙ぐ。
「主力部隊が集結するまでは、まず守勢です」
『教授』新田・成(CL2000538)の部隊員は前衛・中衛・後衛に分かれている。残り体力に応じて前衛担当をローテーションさせその間に回復を行う。自身は紫鋼塞で防御を固めた後、エネミースキャンで敵を把握して最も弱っている標的にB.O.T.改で攻撃する。
「最前線のこここそ仲間の被害が一番大きくなる場所……私はね、ここで意地を張るために今まで鍛えてきたんだよ。だから一歩も退かない」
『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は。保険委員の腕章をビシッと掲げて決めポーズ。大祝詞・戦風を使いつつ戦い、持続が切れたら掛け直して効果を維持する。その近くで離宮院・太郎丸(CL2000131)は、水行の技で回復を担当していた。
「強さだけを求めることに意味はあるのでしょうか……」
金剛軍は本陣を含めて苛烈な前進を行う。
小隊を率いるファイヴ覚者達は、負けじとそれを押し返さんとした。その中で、大胆にも敵大将へと駆ける者達がいた。
「やあオバアチャーン! 余とお茶しばかない?」
「ほう、この金剛を指名するか!」
各部隊員には他部隊到着までの生存を厳守の上で金剛の取り巻きに対応してもらい。『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が、金剛へと接近する。進行のブロックと後衛への攻撃阻止にあたり、この間は機化硬・改を使用して全力防御。金剛の重い一撃を、何とか耐えしのぐ。
(殿のボスアタック決まったね。お手伝い要員としてフォローしないと)
『天を舞う雷電の鳳』麻弓 紡(CL2000623)は、後衛ポジで低空飛行を維持しながら行動。仲間へは桜華舞符、自分には戦巫女之祝詞を付与。本隊突入前から既に補助の技を使っており、プリンスの生存に貢献している。
「くくく、やるなファイヴ! それでこそ、この金剛が喰らうに相応しい!」
金剛は喜色満面で、己が得物を振るいその度に戦場が大きく揺れる。
その様を見ていた『アイティオトミア』氷門・有為(CL2000042)が、七星剣幹部に対峙する。
「やっと、分かりました。貴女は弱さを許せなかったのではなく、強さを許されたかったのですね」
「……ほう」
「弱さ故に苦しむ人もいます、そういう人の力になりたいと思っていました。ですが、強すぎる力はそれだけで今のこの国では混乱の元であり、排斥される事もあったのでしょう」
「……なかなか面白い解釈じゃな」
老人が目を細める。
その両眼には郷愁の光が僅かにちらついた。
●
(金剛軍の奴らは人の行いの域を超えた。もはや人とは思わない)
振るう刀に迷いはない。
奏空は続々と隔者連合を相手どっては、人々を解放していた。
「一般を巻き込まないようにしないとな」
カナタは地道に波動弾を撃つ。
鷹の目と送受心・改を使って、常に仲間と連絡を取り合っては隔者の位置の把握に努めた。
「こっちに補給を頼む!」
「天行の皆さんは気力充填願います」
あすかは味方の要請に応えて、小隊に指示を送る。
「土行の皆さんは防御に徹してくださいなのよ」
「この覚者が!」
「火行の皆さんは寄ってくる虫を燃やしちゃってください」
防御を固め。
隔者が寄ってくれば、自身も猛の一撃で迎撃する。もちろん回復のサポートは怠らない。
(誰かを憎む権利はあっても、それを強要する権利は誰にもないのよ)
譲れない思いを抱いて、戦場を支える。
それは、日那乃も変わらない。
「水行さんは体力回復、木行さんは清廉珀香、天行さんは気力回復、周りにもかけてくれたら、いい、かも」
回復を優先し、小隊の皆にも手伝ってもらいつつ。
先程解放した一般人から得た情報を、スキルで皆に伝える。
(結城征十郎っていうひと、の、だいたいの居場所、わかった、の、ね)
ここより西のとある空きビル。
送受信・改で連絡を受けた翔とたまきは指示された方角へと走る。
「行かせるか!」
覚者達の動きに気付いた隔者達が立ち塞がるが。
ラーラがペスカに預けた金色の鍵で魔道書の封印を開放する。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
エネミースキャンで敵の位置を把握。
絶好の位置で激しく燃え盛る炎が躍り。敵の妨害を四散させる。結果的に相手が固まってくれたことで、絶好の的となったのだ。敵勢にできた穴を味方達が抜けていった。
「結城のおっさん、出てこいよ!!」
翔は感情探査を使って、恐怖や憎しみではなく嘲りや楽しそうな戦場には似つかわしくない感情を。あるいは大きな怒りのような感情を捜す。すると、ある一画から嘲笑と憤怒が混ざり合った強い想いを感じ取る。
「あそこの屋上です。結城征十郎さんを止めに行きます!」
たまきの直感も反応していた。
目的のビルを指差し、封鎖された入口を破ると上階へと駆け上がる。仮面を被った隔連合のまとめ役は、見晴しのよい頂上で戦場を見渡していた。
「ああ……ようやく来たのか、ファイヴ諸君」
結城征十郎は一人。
護衛すらもいない。
「最悪の風景だ。あの子も……凛もあの中にいるのかな」
「凛さんは征十郎さんを止めてと言いました。もう許しているのです」
「そうか。憎しみを乗り越えたのなら、私もそろそろ用済みだな」
たまきの言葉に。
結城征十郎は仮面越しに笑ったようであった。そして、屋上から気軽な調子で歩き出す。
「凜の為にも! アンタだけは許しちゃいけねー気がするんだ!」
身一つでそのまま飛び降りるつもりだと。
気づいた翔とたまきが瞬時に動く。二人の技がフェンスを越える寸前に決まり……結城征十郎は自分の命をとりとめた。同時に指揮官の気絶により、隔者連合は崩壊をきたし始め。程なく捕まっていた一般人達も解放されることになる。
●
「さすが少数精鋭で揃えてきただけあるわね。なかなかに手強いわ」
茨木軍の猛攻に、大和は懸命に対抗する。攻撃を優先し、回復手が追いついていない時は潤しの雨で場を潤す。気力が枯渇すれば大填気でまかなう。仲間とタイミングを合わせて一人ずつ確実に落としていく。
「七星剣の一角と決着を付ける時か。部下も決して弱くはない、正に命懸けというワケだ」
だが。
「貴様らに割く時間はないのでな!」
静護もタイミングを合わせて、敵勢を水龍牙で一掃していく。
義勇兵達には無茶だけはしないようにあらかじめ言い含め、手勢の足止めを頼んである。
「ここで止まる訳にはいかないからね。今度こそ、茨木を倒して皆で金剛の元へ向かうよ!」
秋人は隔者部隊の中の、回復役を遠距離通常攻撃で優先的に倒す。
隔者部隊を一掃する為に水龍を呼び、BSにかかったら深想水で対応し、体力回復には潤しの雨を使用していく。不意打ちには第六感で備えている。
「不調は癒すからなつねに声をかけてほしいの」
七雅は次々に来る患者を、回復でさばく。
合間合間で、攻撃が足りなかったときは薄氷で応戦する。時間をかけながらも、ファイヴは穴をこじあけて敵将へのルートを何とか繋げようとしていた。
「茨木の元へ!」
「行かせるか、ファイヴ!」
鳳凰聖火風で自然治癒を高めた仲間達が活気づく。
隔者達は道を塞ごうとするが、特異点の力を特に得たファイヴの面々の勢いを抑えることはついにかなわず。一悟らは蔵王を自分にかけて茨木へと突貫をかけた。
「来たか……ファイヴ」
「茨木ちゃんと初めましてのナナンだけど頑張って倒しちゃうねぇ!」
茨木が手にした愛刀で近付く者を迎撃する。それはまさに剣の結界。
ナナンは烈空烈波で派手にぶつかった。その後は五織の彩で何度も打ち合っては、死力と死力が鎬を削る。
「……茨木さん。今度こそ決着を」
「リベンジマッチだ……今日は勝たせてもらうよ」
燐花は天駆からの激麟を、倒れるまで只管に。削ぎ落ちる体力は、癒してくれる仲間に任せる。
恭司は雷獣をメインに使いつつ、体力の回復が足りなければ癒しの霧を。気力が尽きる前に大填気を使用しては、前線の弾幕を絶やさない。
「悪くない連撃だ。だが――」
茨木の得物から無限の剣閃が生まれる。
もはや人の目で反応できるレベルを超え、ファイヴ覚者達に襲いかかる致死の群れ。全てを削り取られるような過程を、真っ向からやり過ごすのは並大抵の所業ではない。
「命は大事に。此処で散るのは勿体無いよ?」
「無理は厳禁。死ぬ前に下がってくださいね」
血気にはやる小隊員を恭司と燐花は下がらせて、茨木の部下の対処と回復支援にあてる。
そういう二人ともに、多くの傷を作っていた。それでも決し諦めずに頭と身体を動かし続ける。
(燐ちゃんが倒れないよう、回復は万全に。彼女は決して死なせない)
(蘇我島さんの体力がある程度戻るまでガードしますね。高火力手を失うのは惜しいですし)
互いが互いを助け。
支え合い。
一縷の望みを見出す。
「同じような武器を持つ者同士、一度は戦うべきだと思っていた」
「これは、まさか……」
灼熱化を施した後
氷巖華で牽制を仕掛けて向こうの出方をうかがっていた静護だったが。相手の剣先の鈍りを確かに感じていた。何合も斬り合い、それは手応えとなって現れる。
「効いている! 茨木の力は確実に衰えている」
エネミースキャンをしていた秋人が味方を鼓舞する。
それは特異点に愛された者の差か。それとも……あるいは。
「こないだはやられてしもたからな。今日は決着つけるで!」
凛が茨木に朱焔を突き付け煌焔で斬りかかる。あの時自分達を逃がす為に盾になってくれた覚者達。信じてくれたあの人達の思いが間違ってなかったと。彼らが決して弱い人間ではなかったと。
「あたしはそれを証明せんといかんのや!」
その思いを抱き、魂を燃やす。
自身が炎、いや焔となる勢いで攻撃力と速度を上げ。
「行くぞ茨木!」
「来るが良いファイヴ!」
渾身の剣戟が茨木から放たれる。
その攻撃を超視力で、いやそれ以上の眼力で見極め。ぎりぎりの態勢でも凌ぎ切り、凛が煌焔でぶった斬る。
「朱天……ここまでの、ようだ……」
突きの剣先に乗せた爆裂天掌が直撃し。
恐るべき剣士の得物は、完全に沈黙した。
●
「さて、弱肉強食なんて獣の論理でしか動けない人の相手をしようか。ああ、この言い分は獣に失礼かな」
「喰うか喰われるか、この世界はそれだけだと気付け!」
前衛の彩吹は、事前に天駆で能力上げ。
超直観も使いグラップラー間合いに飛び込んで参点砕き。体術が封じられれば御の字だ。
「悪いが、あんたの弱い者いじめに付き合ってやる時間は無いんだ……とっとと死ね」
「死ぬのは貴様らの方だ!」
遥がグラップラーに五織の彩・改で重圧をかける。
左翼部隊との戦いでは、敵将に肉薄しファイヴの覚者達が何重にも集中砲火を重ねていた。
「星の唄をご堪能あれ」
いのりが脣星落霜でグラップラー含め全体攻撃を行う。
星のように輝く光の粒。まさしくそれは、危険な星々の歌声。
「力ある者はそれを誇示するのではなく、救いを求める誰かの為に使うべきなのです。貴方や金剛の考えは間違っていますわ!」
「間違っている? それを正すのも結局は力だろうが!」
いのりが威風を込めて言い放ち、攻撃を続けた。
グラップラーも黙ってはいない。
(……敵は憎まないで)
タヱ子は疲弊した味方に癒力大活性で全体の回復連打を行う。
グラップラーは単騎で何人もの相手を同時にこなしてのけて暴れ続け、被害を増大させる。
(グラップラー程の力があれば、他の道でも成功できたのでは……)
相手の奮闘ぶりに目をやりつつ、澄香も傷が酷い味方へと木漏れ日の恵みを施す。身心に乱調をきたした者には、近づいてから深想水で回復を行う。
「小隊員は直接対決は避け、覚者のサポートと一般兵対応を」
蒼羽は義勇兵に露払いを任せて、自身はガンガン敵将へと雷獣で攻め入る。大震で地面が揺れても、態勢を立て直しては十六夜や斬・二の構えで攻撃を見舞った。
そこへ。
「一気に蹴散らす、ファイヴ共!」
グラップラーの拳が連打の嵐となって、覚者達を襲う。
今までで一番の必殺のラッシュ。敵味方関係ないすさまじい暴風雨だった。
「危ないっ」
「千雪下がって」
蒼羽が澄香への攻撃を防ぎ。
彩吹が千雪を庇い。
そして、グラップラーへの霞舞によるカウンターが決まる。
(澄香ちゃんを守って、と妹に言われてたしな)
蒼羽は妹の友人の無事を確認して息を吐く。
彩吹の方は、もっと直截的に守った相手に注文をつけた。
「危ないから下がって。ピアノが弾けなくなったらどうするの」
(僕は彩吹さんを守りたいだけどねー)
言われた千雪は黙ったまま、傷を負った彩吹へと大樹の息吹で回復を行った。
せめて大怪我をさせたくない、という一心だった。
(本人が気にしてくれないなら僕が……とか、言える立場になりたい)
千雪が切なる願いを抱く傍ら。
グラップラーは、手痛い反撃に動きを鈍くしている。更にここを好機ととらえた覚者達が畳み掛けてくる。
「まだまだ!」
グラップラーは最後まで抵抗した。
覚者達は大きな代償を払うことになったが。それでも、檻を狭めるがごとく獲物を弱らせる。
「もっと違う形で貴方とお会いしたかったです……」
度重なる攻撃で、体術を封じられ。
ボロボロになっても目の光を失わないグラップラーに。澄香はそっと声をかける。覚者達は、敵左翼部隊は無力化に成功していた。
●
「こちらでお願いします」
結城凛に連れられて、カナタは学園に戻っていた。
隔者連合との戦いが片付き、次の戦場に行く前にやってみたいことがあったのだが。そこで、事情を察した少女に声を掛けられたのだ。
(婆さんが血で汚しちまった特異点のせいで皆殺気立っちまってる。特異点を浄化出来れば金剛の婆さんも弱るんじゃねーか、と思っていたけど)
カナタが案内されたのは、五麟学園敷地のほぼ中央。
そこには何やら複雑な文様が描かれており、眩い光を放っていた。
「ここは金剛による特異点の暴走を、ファイヴ側で調整していた場所です。各所にパスが通っているので、ここで浄化ができれば他の特異点にも大きな影響を及ぼすことが可能かもしれません」
凛の説明にカナタは覚悟を決めた。
紋様の上に立ち、魂を使う。潤しの雨をベースにイメージ。血の汚れを洗いおとすように。浄化の瞬きが立ち昇る。
●
「隔者連合、それに左翼と右翼も落ちたか。だが、まだこの金剛は健在ぞ!」
金剛の号令に、本陣の兵が呼応する。
神がかった勢いによる進撃。金剛あるところが、金剛軍の中心。これを狩らねば、一気にまた形勢はひっくり返されかねない。なにより、金剛の凶悪な前進は止まることはない。
「これが七星剣最強の一角……ただな。こっちにも守るものがあるんだ。例え力が足りなくとも、俺は最強を志して戦場に踏み留まるんだ」
飛馬の巌心流は守りに重点を置くもの。
敵の前進を少しでも遅らせるべく、複数を狙って地烈を。寄ってくる個別の兵は、白夜を使って攻撃する。
「援護します」
里桜は錬覇法・改を切れないように使用。
自部隊の前衛には紫鋼塞。前衛は防御、適宜中衛と交代。貫通対策に中衛少なめで縦に並ばないように。後衛は周りの部隊も含めて回復・補助を行う。
「憎むことでしか記憶に残らないと思ってたなら、まあ迷惑なお話」
「ボクは在り来たりで平凡の日常が恋しいよ、のんびりお茶してたい」
紡は攻撃と回復、単体と全体を小まめに切り替えながら時間を稼ぐ
殿の軽口の合いの手や突っ込みも忘れない。今回の個人ミッションは仲間の誰も死なせないこと。死にたがりだって、死なせてなんてやんない位の意気込みだ。
そして、相方たるプリンスは防御から攻撃に切り替え。貫殺撃を中心に金剛を集中攻撃する。
「大丈夫か、支援する!」
他の戦場から続々と仲間達が駆けつけてきたのだ。
静護は遠近の攻撃と回復で、金剛本陣と対していた味方を即座にフォローする。
「増援か。ことごとく返り討ちにしてくれる!」
増え続けるファイヴの増員にも金剛は動じない。
事態は文字通りの総力戦に突入していた。
「わたし、この街がとても好きよ。だから許せないわ。お願い、金剛を討取って!」
大和も補助と支援メインで動く。
全ては金剛を打倒するために。敵部隊へと脣星落霜で応戦する。
「おばーちゃんなのにつよい! こわい! なつねのおばーちゃんとは大違いなのぉ! お年寄りには優しくってお父さんにもお母さんにもいわれたけど、このおばーちゃん怖すぎなのぉ! なつねはここでも支援でがんばるの! だからこの町の悲劇を早く終わらせてほしいの!」
七雅とてこの戦いを終わらせたいのは同じ。
自分に残った力を振り絞って、仲間達を応援する。連戦につぐ連戦で皆がぎりぎりだった。
「どうしてお婆ちゃんは、すぐに攻め込んで来なかったのかなぁ? お婆ちゃん達の強さなら、すぐに来てもナナン達を倒せるんじゃ……って嫌な感じがしてたけど……何か理由があるの?」
「はは。それはな、お嬢ちゃん。お嬢ちゃん達が、喰らい甲斐のある相手と認めたからじゃよ。己が強さの糧となる者には、儂は手塩を惜しまん性質でのう!」
そうして、自分は強さを手に入れてきたと。奈南の疑問に、金剛は狂気を帯びた哄笑をあげる。
それが本心なのか否か。
容易に推し量ることはできぬ。
「強さを純粋に求め続ける愚直さ……マジ乙女だぜばあちゃん。けど……」
一悟は鳳凰聖火風を再び使い。
金剛の取り巻きへと炎柱、貫殺撃・改を繰り出す。特異点の暴走により通常よりも強化された技が炸裂する。
「憎んでも良い。手を上げても良い。けれど、最後には……許し合える世の中を望んでいます。七星剣幹部『金剛』に対する私の感情は……憐み、です」
タヱ子も金剛への道を作ることに注力。
いつも以上の力を発揮する。
「皆さん、あの人を止めてあげて下さい。どうしようもなくなってしまった人を」
そして。
金剛を裁くのは私達ではなく法。金剛は殺めず、捕まえて下さい!
と、仲間達に願いを託して次へとつなげる。
「馬鹿な、我々金剛軍が……」
「押されているだと!?」
「何なのだ、こやつらの底知れぬ力は!」
金剛を守護する本陣は百戦錬磨の精鋭揃い。
それがここに来て、ファイヴ勢の猛攻によって戦列を崩し始めていた。元より個人主義の強さを尊ぶ集団だということもあり。突出していた金剛と本陣は、覚者達によって切り離される。
「因果応報……行いは必ず返ってくる。あんたにとってのそれが今って事だ!」
「ならば、それすらも力で捻じ伏せるまで!」
金剛の巨大な鈍器が光を放ち。
奏空は錬覇法改の後、雪月花・花の構えを取る。
目もくらむような金剛の必殺の一撃……通常ならば跡形もなく全てが吹き飛ぶ絶対の死がぶつかり……それを絶対防御が遮断する。そのまま奏空は、間合いを見計り敵将に踏み込み空いた懐に激鱗を放つ。
「ほう、やりおる! ……ゴホッ」
突如、金剛が咳き込み。
吐血する。
それは蓄積されたダメージ。限界をきたした身体。それに、もう一つ。
「呵呵……誰ぞが特異点の浄化を始めおったか」
カナタの魂を賭けた行為が功を奏したのだ。
術者である金剛は、その影響と負担を誰よりも受けていた。
「世の中を強弱でしか見れないあんたに、何も言うことは無い。あんたが死んだ後は、あんたのことなんか綺麗さっぱり忘れるよ」
足取りが危うくなった金剛へ。
遥が他の仲間と攻撃のタイミングを合わせ、達人戦闘術からの爆鍛拳を放つ。
「何も残さず、消えうせろ」
「ぐ!」
鉄壁以上の防御を誇っていた金剛の身体が。
大きく揺らぐ。
「ここが好機ですな」
エネミースキャンをしていた成が頷く。
全員攻勢に転じ、取り巻きを突破し金剛に肉薄。B.O.T.改を連発し。邪魔な遮蔽物が庇うなら鉄甲掌・還で遮蔽越しに攻撃する。
「我が空を乱したとて、未だ天には至らず!」
金剛の吐血は止まらず。
誰の目にも人として限界を超えていることは明らか。
にもかかわらず、その技と力は衰えることを知らない。拳が咲き乱れ、鈍器が大地を削り、ファイヴの覚者達は莫大な被害を強いられる。
「金剛さん……あなたの強さは悲しいね。誰も救われないじゃん……あなたが強いのは分かってるよ。だけど、私たちだって負けるわけにはいかないんだ」
渚は命力翼賛と天使の羽根で、味方を金剛の暴虐から守る。
太郎丸も癒しの雨などを使い分けて、精一杯対金剛の構図を維持する。
「体力や気力が切れかかっている人は、こちらに来てください」
ここまで来て余裕のある者など存在しない。
誰もが死地の中にいた。
半歩間違えれば棺桶に足を突っ込むことになる。そんな場所で、有為はあまりにも危険で大胆不敵な手を打つ。
「受けよ、我が奥義――無双布武!」
金剛が全てを殲滅せんと、金剛杵を振り上げる。
圧倒的なプレッシャー。
それこそ一撃で全てをくつがえす御業。それに対し。
(日本最強の覚者。弱者を虐げる行為を「許してくれる」絶対者。決して届かぬ理想を追い求める夢追人。FiVEは共にあるものであり、潰えても後に続くものはあるでしょう。貴女こそが、彼らにとっての最後の希望だった)
有為は。
(ロジックの話です。単純に強さで勝つだけでは本当に勝ったと言えないかもしれない)
ならば、最後の魂を注ぎ込み。
金剛を強化する。
「! この力は!?」
金剛の身体が、優しい輝きに包まれる。
これこそがファイヴの覚者だけが持つ強さ。金剛はその本質を体験した、初めての隔者だったかもしれない。
(主曰く、受けるより与える事が幸いである)
未練はあるけれど、ただ失う事の方を恐れるのなら。
最後の魂を使い、力尽きた身体が前のめりに倒れる。崩れ落ちる意識が混濁しても。死の直前、有為は自分が賭けに勝ったことを悟った。
「やりおった、やりおった、やりおったなっ、覚者!!!!!」
金剛の絶叫が響き渡る。
押し潰される。
金剛という強さが、金剛自身を押し潰す。全身が軋み、発動途中であった奥義そのものが制御を失う。暴走したそれは最早理解も模倣も不能な現象へと成り果てた。
「殿、金剛媼の必殺技からは守ってね、回復はしたげるからさ」
回復術式を大奮発していた紡は、倒れた有為をちらりと見やる。ついにファイヴにも犠牲者が出てしまった。たとえ自ら望んだことだとしても……首を横に振って信号弾をあげる。
それはプリンスの作戦の合図であった。
「ソレは覚えてるよ、オバアチャーン。誰かに覚えてて欲しかったんだよね」
自身も送受信で出来る限り連携できるように、プリンスは根回しする。
八卦の構えを使える全員でこれに合わせて凌ぎ、一斉のカウンターを叩き込む。
「憎んだりしなくても、みんな割と覚えてるもんだよ」
「やっぱりお前のやり方には納得できねー。例えそうなっちまうまでの何かがあったんだとしても、許されることじゃねーんだ」
プリンスが。
飛馬が。
仲間達が。
圧倒的な敵の力を、利用して盛大な逆撃を行う。何重にも重なった衝撃が、金剛にも跳ね返り戦場には極大の閃光が乱舞する。
「……この地に染み込んだ憎しみは、特異点の暴走が収まっても残って災いとなるでしょう。私は、寄り添いましょう。いつか染み込んだ憎しみが薄れる時まで……」
最後の一撃のため。
暴走した特異点の力を貸して貰うため。
里桜はありったけの魂を燃やす。やはり、どこからか聞こえてくるのは呪詛の言葉。それは特異点に染みこんでしまった犠牲者の無念の声か。
(憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い!)
耳を塞ぎたくなる憎悪の調べ。
だが、ほんの少しだけ。
他の声が……聞こえた気がした。
(もう終わりにしよう……もう次に進もう)
あらゆる想いの込められた一打が。
標的へと突き刺さる。
「くく……呵呵呵呵! いいぞ、来い!! 貴様らの全て、この金剛が飲み込んでくれる!!!」
大地が根底から割れる。
とうに身心はことぎれ。
特異点の浄化による多大な負荷を受け。
魂の力により自分の強さに磨り潰されて。
覚者達の総攻撃に晒された金剛は、それでも一歩も退かずそのまま踏みとどまった。
「八神の坊や……先にいって、いるよ」
金剛の正確な死因と死亡時間は分からない。
最初から抱えていた身心の不備が先に来たか。覚者の砲火の末に果てたか。もしくは……どれにしても、この老人は此度の戦場を生き残る術を最初から有していなかった。
特異点の暴走が次第におさまり。
光は静かな終息を迎える。
仁王立ちのまま息を引き取った、七星剣最強の一角の姿は今にもまた動き出しそうだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
麻弓 紡(CL2000623)
賀茂 たまき(CL2000994)
鈴白 秋人(CL2000565)
天乃 カナタ(CL2001451)
成瀬 翔(CL2000063)
秋津洲 いのり(CL2000268)
離宮院・太郎丸(CL2000131)
桂木・日那乃(CL2000941)
新田・成(CL2000538)
工藤・奏空(CL2000955)
如月・彩吹(CL2001525)
如月・蒼羽(CL2001575)
天野 澄香(CL2000194)
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
栗落花 渚(CL2001360)
水蓮寺 静護(CL2000471)
鼎 飛鳥(CL2000093)
野武 七雅(CL2001141)
真屋・千雪(CL2001638)
賀茂 たまき(CL2000994)
鈴白 秋人(CL2000565)
天乃 カナタ(CL2001451)
成瀬 翔(CL2000063)
秋津洲 いのり(CL2000268)
離宮院・太郎丸(CL2000131)
桂木・日那乃(CL2000941)
新田・成(CL2000538)
工藤・奏空(CL2000955)
如月・彩吹(CL2001525)
如月・蒼羽(CL2001575)
天野 澄香(CL2000194)
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
栗落花 渚(CL2001360)
水蓮寺 静護(CL2000471)
鼎 飛鳥(CL2000093)
野武 七雅(CL2001141)
真屋・千雪(CL2001638)
重傷
称号付与
なし
特殊成果
なし
