<大妖一夜>AAAの英雄
<大妖一夜>AAAの英雄



 大妖、AAA襲撃。
 十数年前に『紅蜘蛛』継美を倒したAAAに興味を持ち、大妖の三体が動き出す。
『斬鉄』大河原 鉄平は暇つぶしに。
『新月の咆哮』ヨルナキは狩りの続きのために。
『黄泉路行列車』ケモノ四〇六号は付き添いで。
 そして『後ろに立つ少女』辻森 綾香は中立の立場をとる。
 気まぐれともいえる大妖の動き。それに伴い動き出す妖達。
 後に<大妖一夜>と呼ばれる一夜限りの襲撃の始まりである。

 天災ともいえる妖の襲撃。それに対抗するには例え覚者とはいえ力不足だ。
 ただでさえ疲弊しているAAAはこれで壊滅的なダメージを受けるだろう。
 なんて皮肉。電波障害が解決したが故に、その光景は電波に乗って全国に広がることになる。
 日本全国の人間が今まで自分達を守ってくれたAAAの最後をリアルタイムで知ることになる。
 誰もが諦観する中、FiVEが動き出す。
 わずかでもAAAの職員を救うために。


「うわああああああ!!」
「こ、こっちにも妖が!」
「駄目だ、逃げ場がないっ!?」
 AAA京都支部は、各所で混乱に包まれていた。
 大妖達とそれに伴う大量の妖の襲撃により、あちこちから悲鳴があがる。被害は甚大なもので、反撃を行っていたAAA隊員達も一人また一人と斃れていく。
「ど、どけ! 私が逃げる邪魔だ!!」
 そんな中、部下も仲間も即座に見捨てて一目散に逃げる男がいた。
 AAAの篠原四等。疲弊したAAA組織内で、私腹を肥やすことに専念して出世してきた人物であった。
「篠原四等! 不用意に飛び出してはっ」
「う、うるさい、黙れ! 現場組ごときが、命令するな!」
 何とか奮戦するAAA隊員達が制止するが、篠原は声高にはねつける。
 四等ともなれば部隊指示を行う立場なのだが、そんな責任は最初から放棄してしまっている。ほとんどパニックになって逃げ惑う。
「グウウウウ!」
「ひ、ひい! だ、誰かっ。わ、私を助けろ!!」
 そんな篠原に妖の群れが襲いかかった。
 これまで要領よく現場の戦闘は回避してきたこともあって、彼は戦いに関して著しく不慣れであった。周りも自分のことで手一杯でフォローが間に合わない。篠原は無様にも腰を抜かして、あわや絶体絶命となり――
「四等か。随分出世したものだな……篠原」
 間一髪。
 予想外の方向からの鋭い銃声とともに。
 精密な射撃が浴びせられ。妖達がことごとく射抜かれる。人並み外れた恐るべき腕前だ。
「お、お前は……」
「――」
 己を救った射手を、篠原は震えながら指差す。
 暗がりから月明かりに照らされて、凄まじい殺気を放つ人影が浮かぶ。 
「日向一等!」
 沸き立ったのは篠原ではなく、周りのAAA隊員達であった。
 日向朔夜。
 目覚ましい数々の武勲を立てながらも、第三次妖討伐抗争中に行方不明となっていた英雄。その姿に誰もが釘付けとなる。
「元一等だ。俺はもうAAAじゃない」
 朔夜は冷静に訂正し。
 そんな英雄の元に、隊員達は自然と集まる。
「ひ、日向朔夜! 何をしにきたっ。お、お前はAAAを裏切ったはずだ!!」
「……その古巣自体が、最期を迎えそうとあって少しな」
 篠原の糾弾にも。
 朔夜は無感情で。
 この僅かな間にも、また妖達が猛威を振るいAAAは窮地に陥っている。
「俺のことより、この状況を収拾するのが先じゃないのか。篠原四等殿?」
「し、知るか! わ、私は逃げる、逃げるんだよ!!」
「……AAAも落ちたな」
 流れるような動作で、朔夜は篠原の首筋を叩く。
 AAAの四等はあっさりと気絶した。
「無闇に逃げたら間違いなく全員死ぬぞ。そこでちょっと寝てろ」
 篠原は何が起こったか分からぬ顔で横になり。
 隊員達は、朔夜の顔をうかがう。
「日向一等、これからどうなさるので?」
「だから元だと言っているだろう……だが、さすがに捨ておけないか。過去に見慣れたヨルナキに与する連中までいるときてはな」
 元AAAの英雄は、無造作に早撃ちする。
 死角から襲いかかろうとした妖達が、また倒れた。
「……ヒュウガ! ……ヒュウガ!」
「ウルルルウルルルルルッル!」
「ヒュウガ……コロ、コロ、コロス!」
 妖達は戦意を剥き出しにして囲まんとする。怪物たちの中には古傷がうずき、朔夜を目の仇にしているものも多い。
 それを斬殺、爆殺、銃殺し、元AAAは道を切り開く。
「後ろの橋まで後退する。装甲の厚い隊員で横隊陣形を敷いて防御壁をつくり、負傷者を下げろ。工兵は今から言う仕掛けを取り付けろ。まだ機動力の残っている者は――」
 この逆境の中でも、一切揺れることなく。
 迅速かつ的確に命令を飛ばす。その偉容は確かに、AAAの英雄のそれであり。
 隊員達は、一も二もなく朔夜へと従う。ここを抑えれば他の被害も減り、生きてくる局面が必ずある。
「しかし、この戦い。勝つにしろ、負けるにしろ……手が足りないか」

 彼らはまだ知らない。
 救いの手が。FiVEがすぐそこまで救援に来ていることを。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.13ターン妖を足止めする
2.13ターンの間に、最低20体の妖を撃破する
3.AAA隊員を出来る限り救出する
 今回は、AAA京都支部襲撃に関連するシナリオとなります。

●敵情報
 橋上でランク1からランク2の妖が、途絶えることなく襲ってきます。
 倒しても倒しても、ターンごとに増援が現れます。
 最も多いのは大妖ヨルナキに従う動物型の妖達のようです。それらを橋の上で足止めして、一定数押し返す必要があります。

(主な攻撃方法)
 攻撃1  A:物近単 【弱体】
 攻撃2  A:物遠単
 攻撃3  A:物近列

●現場
 橋の上で、日向朔夜に率いられたAAA隊員達が妖を足止めしています。
 そこにファイヴが救援に駆けつけます。
 妖は数が多いですが、幅に限りのある橋の上とあって一定の数しか同時には戦えない状況です。一列に並べるのは五人までです。 
 朔夜に命じられたAAAの工兵が、仕掛けを設置して妖達ごと橋を爆破しようとしています。

●日向朔夜
 元AAAの精鋭。
 現在は職業的暗殺者として野に下っており。第三次妖討伐抗争中に行方不明になっていました。
 覚者ではありませんが、対妖戦のエキスパートです。このエリアの指揮を篠原の代わりにとっています。
 大妖ヨルナキに従う妖達には恨まれているようで、それらの妖達には最もターゲットとされています。

(主な攻撃方法)
 リボルバー A:物遠単  【出血】
 手榴弾   A:物遠敵全 【溜め1】
 鋼糸     A:物遠列  【鈍化】

●篠原
 AAAの四等。
 弱体化したAAA内において、要領よく私腹を肥やして出世してきた男。
 戦闘能力は皆無に近く。現在、朔夜に気絶させられてのびてしまっています。

●AAA隊員
 負傷者多数。動けない者が多く、救助が必要な状況です。
 日向朔夜の指示に従い、ある者は妖を足止めをし、ある者は橋を爆破する準備をし、ある者は怪我人の治療にあたっています。

●重要な備考
 <大妖一夜>タグがついたシナリオは依頼成功数が、同タグ決戦シナリオに影響します。
 具体的には成功数に応じて救出したAAAが援護を行い、重傷率の下降と情報収集の成功率が上昇します。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2017年05月12日

■メイン参加者 10人■

『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)


「暗いですね」
「まもり、ともしびを頼むよ」
 『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が、懐中電灯を手にし。『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)の守護使役が光を灯す。薄暗い世界のなか、AAA京都支部は戦場となっていた。
「AAAがこんなに簡単に……、大妖……、妖って、何なのかしら……?」 
「気まぐれひとつで日本にここまでの打撃を与えるという大妖。本当に無茶苦茶な存在だ」
 上月・里桜(CL2001274)と『狗吠』時任・千陽(CL2000014)の眼前にも惨状が広がっている。充満するのはむせかえるような血の匂い。
「ひどいな」
「これは急がないといけませんね」
「間に合えばいいですけど」
 『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)は煙を払い。『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)と『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)も足を速めた。
「妖が集まっているのは――」
「あっちの橋の方だ」
 暗視を使った『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)、『真のヒーロー』成瀬 翔(CL2000063)が敵影をとらえる。長く伸びた橋上に展開するのは、夥しい妖と――
「日向一等、ご指示を!」
「……元一等だ」
 奮戦するAAAの部隊。
 指揮をとるはAAAの英雄だった男、日向朔夜。
「F.i.V.E.所属の者です。あなたが指揮官の方……ですか?」
 さっそく三峯・由愛(CL2000629)が声を掛けると。
 朔夜は無愛想に、泡を吹く篠原を示す。
「指揮官はそこに転がっている最中だ」
「……えっ、そののびている人、ですか? ……ええと、日向さんが指揮を執っていらっしゃるようなのでお聞きします。作戦はありますか?」
 覚者達を見やる朔夜。
 その視線は、どこまでも冷たい。
「や、日向ちゃんじゃないの。ご機嫌は如何かね? 遊びに来たわよ……誰だって? そうさねえ……『ファイヴからの増援』って事だけ覚えてくれたら良い。今、それ以外は必要じゃない」
「日向、状況は? 猫の手をかりたいとは今の状況のことでしょう? AAAのみなさんも。助けにきました。必ず生きて戻りましょう」
 逝がおどけるように。
 絶望を希望に変えるために、千陽が応える。
「増援とはな……本気か?」
「朔夜さんが、仲間を助けようとしているのに、手伝わない訳ないでしょう?」
 元AAAの問いに、里桜も応対する。
 判断は迅速だった。
「敵ごとこの橋を爆破する準備を進めている。細かいことはこちらが担当するから、お前達は――」
「橋を爆破するのであれば、準備が整うまで私達が妖を抑えます。完了次第、私達も橋から離脱します。それまで、絶対に守ってみせますっ!」
 皆まで言わせず。
 意気込んだ由愛が先陣を切って飛び出す。機化硬で自身を強化し、さっそく味方の盾となって妖の抑えとなる。
「結城グループ本社ビルでの1件は邪魔立てしたけどさ……俺、こういうのは嫌いじゃないぜ? 朔夜にーちゃん」
「元の仲間達を見捨てることができなかったんだろ。やっぱ日向っていい奴だよな。どっちにしても助けるつもりだったけど、何となくテンションが上がる。よし! 気合い入れてやってやるぜ!」
「……相変わらずだな」
 飛馬が敵前列へと地烈を放ち。翔は雷龍の舞で、戦場全体に雷を落とす。ちょっとでもひるんでくれれば儲けものだ。朔夜はそんな二人に目をほんの少し細める。
「俺達が前衛をつとめるから、後ろで回復してて。回復が終わったら余裕あったら、他の倒れてるAAAの隊員の救助と後衛辺りから援護してくれると有難い。俺達もそんなに余裕ないから」
 梛も前衛に移動し、仇華浸香を使う。
 ついでに弱体もしてくれるといいけどと、連続使用していく。
「AAAの隊員さんは一度下がってください。わたしが傷を治します。正直に言いますが、傷ついたまま戦えるほど敵は甘くありませんし、無理を押した状態で大妖を向こうに回して戦線を維持できるほど強くもありません。仲間が戦線を支えますから早く!」
「朔夜さん交代の指示を。傷を負った方はこちらに」
 御菓子と里桜は、傷付いたAAA隊員達に潤しの滴や潤しの雨を施す。
 このエリアにも負傷者や動けない者は多い。ファイヴとAAAは順次交代していった。
「橋の爆破までの時間を稼ぐ……そういうことですね。体を張っての足止めは得意じゃありませんが、押し迫る敵を退ける術なら心得ています」
 錬覇法で英霊の力を引き出し。
 ラーラの召炎帝がうなる。暴れ狂う炎の奔流が、怒れる獅子の姿で敵陣を襲い。妖達は激しい炎に包まれ幾体かが消し炭となり、それでも勢いは途絶えることなく次々と襲いかかってくる。
「コロス! コロス!」
「ヒュウガ! ヒュウガ!」
「大妖に率いられるとまさに軍って感じですね……その相手から恨まれるって……一体……どんな戦いぶりだったんでしょうか……?」
 錬覇法に蔵王・戒と、まずは自身の底上げを行う結鹿は。
 朔夜を横目でちらっと見てしまう。
(AAAの隊員さんがあれだけ従っている様子だと、相当なんでしょうね……頭から信じていますもんね)
 視線の先。
 日向朔夜は最も妖達の標的になりながらも、AAAの隊員達を一糸乱れず操っていた。その手腕は恐ろしく手慣れたものだ。
「あゝ……やる事が有るならやっておくれ。時間が入り用なら、作るから。おっさんは悪食に食事させるのが目的なのよ。他の子は純粋に助けに来ただけでしょ?」
 逝が妖刀ノ楔を、最前列に撃ち込む。
 狙い通り、何匹からの妖が橋の上でどん詰まった。その間にも着々と人員整理と爆破準備は進む。
(今日本は悪意に不安に陥っている。その不安こそが目的であるとするならば……とにもかくにも、絶望は死に至る病だ。一人でも多くAAAを助ける。ひいては日本という国のために)
 篠原を早々に確保して後方に預け。
 負傷した隊員を下げ。
 千陽は烈空波で敵を掃射する。真空を斬り裂く気弾で次々と弾幕を張り。介入と同時にセットしたタイマーは確実に時を刻んでいった。


「ここは俺らが食い止めるAAAのみんなは一旦下がって体勢を立て直してくれ! 妖を食い止めて橋ごと心中……なんて、バカなこと考えるんじゃねーぞ」
 己の守護使役のともしびが暗闇から映すのは、大量の妖達。
 飛馬はそれを前にして、出来る限り踏みとどまった。敵の多い箇所へと、太刀の連撃を浴びせる。
「使える物は何でも使いなさい、生きて帰れねば何も続かないぞう?」
 逝は動けなくなっている者達を、優先して後ろに送った。
 岩を鎧のようにまとわせ防御力をあげているが、それでも相手は数で押してくる。それらを琴富士の強打で押さえる。
「さあ、こっちだ」
 仲間が救助を行っている間。
 梛は妖を挑発して、自分達の方へと注意を引く。術式を発動し、少しでも相手の侵攻を弱めようとする。
(助けますっ、一人でも多く! 私の力で救える命があるのなら、頑張りますっ)
 演舞・清爽で身体能力を向上させ。
 由愛も迷霧や艶舞・寂夜を使って、虚弱や睡眠付与を狙う。「助けたい」から「助ける」。頑張る理由は出来ている。
「オレ達の仕事は妖の足止め、押し返しだな! AAAのみんなは下がって、怪我の治療してくれ! 日向は後衛に行ってろよ! 後ろからでも攻撃届くだろ!」
「……仕方あるまい」
「あ、朔夜さん。一応蒼鋼壁をかけておきましょうか?」
「……好きにしてくれ」
 手当り次第に、翔は雷獣を撃ち込んでいった。
 敵の動きが僅かに止まり、その間にAAAの隊員達は負傷者に肩を貸して退く。覚者達の尽力により、予想より素早く態勢が整えられる。里桜に術をかけてもらった後に朔夜自身も後ろへ下がった。
「みんなも同じですよ。無理していいことなんてありません。戦線を維持するためにも、早め早めの回復の声かけをおねがいしますね」
 怪我人の退避のため、覚者達も少なからぬ消耗を強いられている。
 御菓子は傷を押して無理しないように意識づけしつつ、自身も周囲に気を配って早め早めに回復を行えるようにしていた。
(朔夜さんとAAAのみなさんの間にあったこと……聞いた限りしか私は知りませんが、古巣の危機に駆け付けたくなる……その気持ちはすごくよく分かりますし、応援したいって思うんです)
 エネミースキャンで相手の消耗度合を確認し。
 ラーラは炎を舞わせ続ける。何度も何度も、召炎帝で波状攻撃を仕掛け。出来る限り多くの敵を巻き込む。戦場の熱が加速度的に増す。
「わたしも負けないようにがんばんないといけませんね……なんといってもAAAはもちろん、京都やそれこそ日本を守る戦いにもなるんですから」
 無限とも思える数で襲ってくる妖達を、結鹿は氷巖華で迎撃する。
 鋭利な氷柱が、狼型の妖を突き刺し。身体を貫通された敵は力尽きて倒れる。最も妖に狙われる朔夜が下がったことにより、ファイヴの面々の負担も大きくなっていた。
「京都支部は落とさせはしません」
 千陽が無頼漢でプレッシャーをかけた。
 気の放出に妖達が気圧される。これ以上、後ろには向かわせないように。最大限の努力を続ける。
「コロス、コロス、コロス!」
「さーて。悪いな、こっから先は通行止めなんだ。通すわけには行かないぜ?」
 巨大な爪を突き立ててくる黒獣を、飛馬は流れるようにいなし。
 二本の剣で斬り返す。どのような敵も跳ね返し、この四肢をもって進入禁止であるということ体現する。
「巌心流は守りの剣……だけどな、それは攻撃できないってことじゃねー。守りを知り尽くしてるってのはな、攻撃の正解を知ってんのと同じなんだ」
 また一匹。
 白刃の餌食になって、妖が消滅する。妖達にとってここは鬼門の関所となっていた。 
「持てる力で、きっと守ってみせます。それが私の役目ですっ!」
 由愛は果敢に味方をガードする。
 傷だらけの仲間を守るため、自身が更に傷だらけになり。それでも、鉄壁の防御を敷いて守り抜く。気迫がどこまでも伝わってくる。
「……とにかく、今は一人でも多く生き残れるように……」
 里桜はそんな前衛を中心に、体力を回復させる。早めに治すように努めた。
 ちなみに守護使役にはていさつ全体の様子を見ていてもらっている。ふと、未だ気絶している篠原が見えた。
(篠原四等さんは、一応注意を)
 ……こういう方なら、もしかして色々ご存知なのかしら?
 と思わないでもないが、とりあえず今は目の前のことだ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
「トドメは頼もしい前衛が刺してくれっだろ!」
 力ある言葉ともに、ラーラが紅蓮の炎を巻けば。
 翔はB.O.T.で敵を串刺していった。瞬時の他の面々も連動する。
「――チャンスですね」
「遠距離は他の仲間に任せて、ひたすら近接域の妖を喰う事に専念するわよ」
 弱った敵へと、千陽の射撃が的確に降り注ぎ。
 逝が直刀を振るって、十把一絡げに妖達を喰い殺す。
 刹那訪れる息をつく間。しかし、暗闇の奥からまた血気にはやった怪物達が姿を現した。
「ガァアア!」
「本当、しつこい」
 梛は全力防御をして、フレッシュな敵の攻撃に耐えてみせた。
 並びに大樹の息吹で自身と仲間の傷を回復する。弱体化させた個体と、新しく加わった個体が入り混じりなかなかに攻守のバランスが難しい。
「ふぅ……きりがないですね……」
 結鹿は思わずため息をついてしまう。
 ただし、それは降参の意を表すわけではない。
「でも負けるわけにはいきません。橋の仕掛けが完成するまで、一歩たりとも下がるわけにはいきません。がんばんなきゃ」
 手にした武器を持ち直し。
 切っ先をまっすぐに化け物達に突き付けた。その熱意に反応するように、彼女の周囲に触れただけで凍えるような冷気が帯びる。そんな様を、御菓子は単純ならざる思いで見守った。
(結鹿ちゃん、ほんとうに心配。姉としては大妖と戦うかもしれないような戦場に、正直に言えば来てほしくなかったわ。けれどAAAを、京都を守るために駆け付けられる妹の心の清廉さは誇らしくもあるから複雑な気持ち……)


「おいで、悪食が腹を空かせている。魂の貴賎は問わない、量が要る。注文は多くないだろう。アハハ! 大人しく腹に収まっておくれよ!」
 逝がしっかりと大地を踏みしめ。
 下がることなく、直刀を一閃する。悪食が妥協出来るまで妖を喰い殺し続けるつもりなのだ。そして、未だ妥協はできそうにない。
「にしても、こいつら、なんでこんなに次々湧いてくるんだ!? どっかに元があるはずだよな。早いとこここを何とかしてその大元に向かうっきゃねーな! ぜってーやっつけてやる!」
 回復役の手間を少しでも手助けしたい、と。翔は演舞・舞音で前衛をリカバーする。覚者達と妖とのせめぎ合いは時間の経過とともに激化し、お互いの損傷は深く広がっていた。
「……すいません、一旦下がります」
「はい、スイッチしますね」
「大丈夫、すぐに治療しますから」
 ずっと敵の総攻撃をガードしていた由愛も、蓄積されたダメージにより前衛から後ろへ退く。代わりに前にでた結鹿は、目にも止まらぬ三段突きを披露し。名誉の負傷を負った仲間には、御菓子が深想水や超純水などでケアする。
「ギリギリだね、多くの意味で」
 梛は自身と仲間と敵の傷を鑑みて、評する。
 生命力を凝縮する雫を生成しては味方に与え、香徒花の香りを更に引き出して敵を撃破する。皆が足止めと押し込みに四苦八苦し、前と後ろの隊列も目まぐるしく変化する。
 そんな中、ラーラの超視力は敵の不審な動きをとらえる。
 橋に仕掛けをして動き回っていた工兵達へと近付いている一団がいたのだ。
「……奴ら気付いたか」
「大丈夫です。作戦の遂行は邪魔立てさせません」
 いち早くラーラが火焔連弾を放ち、炎の塊が連続で邪魔をしようとする妖の鼻先へと落ちる。続いて朔夜が手榴弾を使用する動作に入ると、すかさず千陽がフォローするために背中側を守った。
「随分と思い切った部下の対処ですね、日向一等殿。いえ、このやり方は随分参考になります。困らされたときにはぜひ使わせていただくことにします」
「……あまりお薦めはしないがな」
 苦笑する千陽に、朔夜は頬をかき。
 転がっていった手榴弾が大爆発。工兵にちょっかいを出そうした妖達が吹き飛び一掃される。
「ヒュウガ!! コロコロ……コロス!!」
「てめーらは朔夜にーちゃんの方ばっか見てんのな。そういうの、前方不注意、飛び出し厳禁って言うんだぜ」
 爆発音に反応するように殺意を高めて飛び出す妖達を。
 待ち構えていた飛馬は、剣戟で斬り捨てた。予想外の方向からの攻勢に、獣の怪物は成す術もなく四散する。
「朔夜さん、また同じことが起こらないとも限りません。工兵の方達の護衛を」
「ああ。今、手の空いている者を向かわせた」
 用心深くエネミースキャンで相手を監視する里桜の提案に、朔夜は頷いて応える。
 回復が済み動けるAAA隊員達が、組織され駆けだした。
「おっさん達に、回復頼んでいいかな」
「はい、任せてください」
 逝の要請に、御菓子が即答する。
 ソング アンド ダンス。音楽で勇気を奮い立たせられるように、元気に奏でられた音の雨。力を得た仲間達は最後の力を振り絞る。
「あと少し、敵を押し戻したほうが良いね」
「残り時間も少ないです。皆さん、下がる準備もしておいてください」
 梛の超直観が正確に現状をとらえ促し。
 千陽も周知を徹底する。
「一気に削るぜ」
「援護します」
 翔がハイバランサーで欄干の上を疾走し、龍の形を模した雷を降らせる。ラーラは特大の炎をぶつけた。雷と炎が激しく閃光する。
「力の限り――」
「いきます」
 結鹿の氷穿牙が。
 由愛の地烈が。
 ダイアモンドの尾を陽光に煌めかせて真っ直ぐに敵を突き刺し。地を這うような連撃が相手の息の根を止める。
「そろそろ、か。なら、これで」
 危険予知で爆破のタイミングを確認した飛馬が、二振りの刀身で最後の露払いを行い。
 里桜と千陽は仕上げをする。
「離脱しやすくします」
「邪魔だからね。吹き飛ばす」
 大震。
 足場が揺れ動き、妖達はバランスを崩して後退する。その隙に、覚者達も急速撤退を成し遂げ……タイマー音が鳴り響いた。
「全員、衝撃に備えろ」
 朔夜の言葉が終わらぬうち。
 世界が白に染まった。絶叫を掻き消し。鼓膜が破れそうな破裂音が駆け回る。あまりの風圧に身体が浮き上がりそうになるのを何とか拒む。
 どれだけの時が経ったか。
 ようやく視界が回復したときには戦場だった橋も、溢れていた妖達も何もかも消え去っていた。


「まさかと思うんですけど……AAAを助けたからってファイヴが恨まれたりしないですよね……これ以上、殺したり殺されたりを繰り返したくないですね……」
 無意識に呟く結鹿の頭を、御菓子はお疲れ様の意味を込めて撫で上げた。勿論油断なく辺りを見張り、守護使役は飛ばしてある。
「……色々と始まったみたいだね」
 何かを感じ取るように梛は目を閉じた。
 里桜はいつの間にか、元AAAが姿を消していることに気付く。
「……余計なことかもしれませんけれど。朔夜さんは、生きていていいのですよ。……私が言えるような事ではありませんけれど……」
 何にせよ。
 助かった者がいる。傷付いた者がいる。由愛達は負傷者を逃がす手伝いを始めた。
「最善を尽くしたつもりですが……もっと早く着いていれば助けられた命があったかもしれないですね……離脱しましょう。皆さんだけでも、助けることができて良かった……」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 参加者の皆さんのおかげで、AAA隊員達の多くが救助されました。
 橋を爆破したことによる損害は篠原四等が(自分のためにも)何とかしてくれるでしょう。
 ご参加ありがとうございました。




 
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