二を壊し 百を護るが村の為
二を壊し 百を護るが村の為


●村の番犬、二人
 某県にある海沿いの漁村。特産品もないその村は、人口こそ減少傾向だが活気のある街だ。
 この村も妖の脅威に晒されているのだが、この街には二人の守護者がいた。
 利根川睦美と利根川里美。双子の姉妹の覚者が幼いころからこの街を守っていたのだ。
 双子の持つ鉈は数多の妖の血にまみれ、それ以上の血を浴びているのだが二人の心は壊れることはなかった。
 ただ村の為に、妖と戦い続けた。戦い続けさせられた。
 妖が何処に現れるかわからないから、二人は学校に行かせてもらえなかった。
 妖が何時現れるかわからないから、二人は満足に寝れなかった。
 妖が何故現れるかわからないから、二人は徹底的に管理された。
 二人の『家』は村の真ん中。村長の敷地内に置いてある小さな納屋。
 逃げられぬように厳重に鍵を閉め、日に数度はしつけの為に棒でたたく。そうすることで反抗心を奪った。大丈夫、覚者は頑丈だから。壊れなければ問題ないと。
 双子が成長するにつれて納屋は檻となり、叩く棒もスタンガンに変わっていく。
 戦いに摩耗して、二人の心は壊れることはなかった。
 当たり前だ。もう初めから壊れる心などないのだから。

 非人道的だと罵る声は確かにあった。だが妖から村を護る為だと言われれば誰も反論できなかった。誰もが妖に挑めるほど強くはない。妖の脅威は身にしみてわかっているのだから。
 百は二よりも大きい。当たり前のことだ。
 だから百数名の村人を守るために、二人の子供が犠牲になる。これが正しいのだ。
 村の平和は実に八年も続いた。
 八年目に睦美が妖との戦いで息絶えて妖化し、里美が破綻者となった――

●FiVE
「生物系妖と、破綻者の打破です」
 久方 真由美(nCL2000003)は静かに任務を告げた。
 抑えた声とかすかに震える肩だけが、真由美の感情を示していた。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.『睦美』と『里美』の打破
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 平和とは、どんな時代だって血の上に作られているのです。

●敵情報
・睦美(×1)
 生物系妖。ランク2。元獣憑(戌)の覚者です。享年十六歳。生前は体術を中心に戦っていたらしく、それを模した攻撃を行います。
 生きているもの全てに襲い掛かります。唯一の例外が『里美』です。

 攻撃方法
 全力攻撃 物近単  力を込めて思いっきり殴ります。《格闘》〔必殺〕
 通し   物近貫2 拳を押し当てて、『気』を通します。(50%、100%)
 切り裂き 物近列  爪で切り裂きます。〔出血〕

・里美(×1)
 破綻者。深度2。獣憑(戌)の覚者です。十六才。術式を中心に戦っていました。
 睦美の死と妖化を知り、破綻者になりました。生きる希望を失い、ただ暴れまわっています。唯一『睦美』だけには襲い掛かりません。
 元に戻すことはできますが、一度戦闘不能に追い込む必要があります。戦闘圏外でFiVEの治療スタッフが控えています。
『生きていればいつかいいことがある』的な言葉は今の彼女には逆効果です。いつか、を信じた結果が『今』なのですから。
『猛の一撃(【致命】はありません)』『灼熱化』『圧撃・改』『炎柱』などを活性化しています。

●NPC
・漁村の人達
 睦美の死亡と里美の破綻に戸惑っています。
 そして里美が破綻者から戻るのなら、村を守るために村に戻してほしいというのが彼らの意見です。そうなれば番犬が一人になったため、更にも増して過酷な『管理』になることが予想できます。
 里美をFiVEで引き取ることはできますが、そうすれば遠くない未来にこの村は妖に蹂躙されるでしょう。

●場所情報
 漁村。時刻は昼。足場や広さは戦場に影響なし。
 漁村の人達はいますが、声をかければすぐに戦闘県外に離脱します。双子が戦っていた妖は既に伏しています。おびただしい数の妖の死骸が双子の元に転がっています。
 戦闘開始時、『睦美』と『里美』は同じ列に居ます。覚者との距離は十メートルとします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年12月25日

■メイン参加者 8人■

『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『天からの贈り物』
新堂・明日香(CL2001534)
『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『行く先知らず』
酒々井・千歳(CL2000407)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)

●誰かを犠牲にして多数が助かるか、少数を痛みから解放して多数を苦しめるか。
「難しい問題だね」
 涼し気な表情で『行く先知らず』酒々井・千歳(CL2000407)は口を開く。多数の命を守ることは道徳的に正しい。だが命の価値は当人の主観によって変わる。内面の感情を示すように、強く刀を握りしめた。
「何が正しいかなんて、立場によって変わるもんだ」
『慧眼の癒し手』香月 凜音(CL2000495)は気だるげに言葉を紡ぐ。万人に共通の『正義』などない。あったとしてもそれはあっさり覆ることもある。そこを論議することに今は意味がない。今やるべきことは、妖と破綻者を止めることだ。
「現状、オレはまだFiVEの兵士だ。組織の制限を逸脱する殺しはしない」
 静かに葦原 赤貴(CL2001019)がFiVEの覚者に告げる。赤貴が村人を見る目は冷たい。双子に番犬であることを強いて、共通の外敵と戦うことを押し付けた村人達。そんな連中とはまともに話し合うつもりもない、とばかりに顔をそらした。
「しっかしこいつら、見境無く暴れてる割には互いには手を出さないのな」
 暴れる妖と破綻者を見ながら『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が感心したように頷いた。理性なき妖や破綻者。普通なら互いにつぶし合うのに。村人に襲い掛からないのもまた不思議だ。そこまで考えた後に、拳を握る。そんなことは今、どうでもいいとばかりに。
「それだけ、互いを深く想っていたのでしょうね」
 潮風を頬に感じながら『雷切』七海 灯(CL2000579)は深く息を吐く。妖になった睦美と、それを見て破綻した里美。その強い絆を見て、二人には別の未来があったかもしれないと思ってしまう。詮無きことだが、思わざるを得なかった。
「……正直、言葉がないです」
 沈痛な思いで『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)が拳を握って告げる。『大も小もすべて救う』……そう誓った小唄には目の前の現実は厳しい光景だった。覚者の力では救えない事がある。分かってはいるが、それを突きつけられると心が痛む。
「二人を本当の意味で救う事は、無理なんだろうな」
 妖と破綻者を見ながら『そして彼女は救いを知る』新堂・明日香(CL2001534)は瞑目する。時は戻らない。死人は蘇らない。双子の受けた過去は消えることはなく、現実も残酷だ。それでも、と目を開けた。まだ『救い』はあると意思を込めて。
「もっと早く、救けにきてあげたかった、です……」
『慈悲の黒翼』天野 澄香(CL2000194)が俯きながら呟く。もう少し早ければ妖になる前に救えたかもしれない。村人の『管理』に口を挟めたかもしれない。二人の笑顔が守れたかもしれない。だがそうはならなかった。誰の咎でもないが、そうはならなかったのだ。
「お前らがいたら邪魔だ。片づけはするから消えろ」
 凜音の言葉に反応するように、村人達が戦闘圏外に離れていく。
 唸り声のような声を上げ、覚者に迫る妖と破綻者。それを確認して、覚者達は神具を構える。
 それぞれの思いを胸に秘め、覚者達は戦いに挑む。

●平和は常に血の上に成り立っている。その犠牲は少ないほどいい。
 思う所は色々あるが、今は闘いに集中しよう。妖も破綻者も、気を抜いて戦える相手ではないのだ。
「睦美さんを弔ってあげましょう? ここじゃない、どこか綺麗な場所へ」
 破綻者に語り掛けながら灯は神具を構える。鎖分銅と鎌。相手との距離を測りながら、真摯な瞳で破綻者に声をかけていた。声が届いているかはわからない。破綻からか、深い絶望からか。それでも構わずに語り続ける。
 火行の源素を活性化させて身体速度を増し、鎖分銅を破綻者の腕にからめる。相手の動きを先んじて封じ、出足をくじく。打撃力ではなく相手の動きを止めるのが灯の戦い方だ。だが今回は、それ以上に破綻者に語り掛ける時間が欲しかった。
「一緒に色んなところへ行って、色々経験して。見つけましょう、睦美さんが安心して眠れる場所を」
「睦美ちゃんを本当に弔ってあげられるのは、もう貴女だけなんですよ」
 黒の翼を広げ、澄香が言葉を継ぐ。祈るだけなら誰でもできるだろう。葬式をあげる事ならこの村人でも可能だ。だが真の意味で利根川睦美を弔えるのは、もはや世界でただ一人なのだ。その事実が悲しくて、ぎゅっとこぶしを握る。
 感情を抑えるように破綻者に神具を向ける澄香。植物の香を凝縮し、一気に散布する。高密度の香が破綻者と妖の動きを鈍くしていく。痛みを感じるようなそぶりがないのは、破綻しているからか痛みに慣れているからか。だが確実に体力は奪っていた。
「里美ちゃんに生きて欲しいです。エゴかも知れないけど、それでも」
「オレたちは、救いというにはあまりに遅かった」
 破綻者の方を見ず、妖の方に神具を向けながら赤貴が口を開く。言葉は双子に向けて。それは覆すことが出来ない事実。現実はいつだって非情で、どれだけ頑張ってもとりこぼしてしまう。
『沙門叢雲』を振るい、大地を隆起させる。隆起した大地で妖の足を止めながら、赤貴は強く刃を噛みしめた。救いはない。だけど、未来はあると。
「一部であったとしても、取り戻したいとは思わないか。掴みとったものを、睦美に伝えたいとは思わないか!?
 死者に未来はなく、他人である生者の声は届かない。伝えられるとしたら、半身であったろうオマエだけだ!」
「……頑張ろうね、雪ちゃん」
 愛する守護使役に声をかけて明日香が戦場に目を向けた。自分にとっての『雪ちゃん』のように、あの双子は互いを信頼していたのだろう。そしてそれが失われたのだ。……自分ならどうなるだろうかと、ふと考えてしまう。
 仲間達に触れ、祝詞を唱える明日香。戦の加護を与える祝詞は、覚者達に力を与えていく。信じあえる仲間。あの二人にも仲間がいればまだ救いはあったのかもしれない。戦力的にも、精神的にも。救いは今は届かなかった。だけど――
「あたしは、救いがあるべきだと思う。いつか、じゃない。今、この時に」
「問題は『救い』の定義かな。……それこそ、彼女に聞いてみないとわからないことだけど」
 抜刀し、千歳が破綻者に向かう。生きることが救いか、死ぬことが救いか。それは当人にしかわからない。ましてや重なる虐待と絶望で心を失っているのだ。先ずはそこからどうにかしないといけない。その為に、刃を振るおう。
 櫻火真陰流。その基本の構えを取る。天才ではない男が、挫折しながら続けた刀技。慢心せず、激昂せず、いつもと同じように心穏やかに構えを取った。内なる怒りを鎮めながら踏み込み、刀を振るう。翻る燕のように刀は破綻者を切り裂いていく。
「それこそ介錯した方がいいのならそうする。すべてはこの場を納めてからだ」
「姉ちゃんと一緒の墓に埋めるくらいはするし、好きな場所選んでいいぞ」
 拳を握りながら遥が破綻者に語り掛ける。戦闘が好きな遥は村や双子の環境に興味を持てなかった。むしろ破綻者と妖という異色のコンビに惹かれている。元々戦い続けてきた覚者の破綻故の強さ。それに体震わせていた。
 精霊顕現の紋様が光り、そこに源素が集中する。精霊顕現の基礎の技。その一撃を破綻者にぶつける。並の覚者なら痛打の一撃を受けても、破綻者は揺るがない。相手の強さこそ遥の戦う原動力。そこに相手がいるからこそ、拳を握るのだ。
「あ、でも墓参りは期待すんなよ? お前ら姉妹のことをほんとに知ってるの、今はもうお前だけだし」
「流石に心理までは読めないか」
 ため息をつく凜音。敵をスキャンする技で妖の心が読めれば、と思ったが調べることはできなかった。ダメ元だったので落胆はないが、妖が破綻者に攻撃しないという事実が全てを物語っている。それで十分なのかもしれない。
 気分を切り替えるように息を吐き出し、源素の力を集める凜音。体内で水の源素を循環させ、純度を増す。清らかな水を雨に変え、仲間達に降り注がせた。神秘の力を載せた雨は傷を冷やし、そして塞いでいく。
「終わったら、まずはゆっくり眠れ。眠って飯を食って、身体を癒せ。癒しながら、これからを考えればいい。考え付かないなら考え付くまで食べて、眠ればいい」
 八年間の虐待がわずか数分の会話で癒せるなんて思わない。今里美に必要なのは、休める場所と泣ける場所だ。檻の中ではなく、暖かいベットで。
 妖と破綻者のコンビは、もともとが双子の覚者という事もあって秀逸だった。破綻者の火柱が覚者を襲い、妖の爪が肉を裂く。
「……くっ!」
「まだ倒れるわけにはいかないよ」
 小唄が倒れ、千歳が命数を削るほどの傷を受ける。だが覚者達は連携だった動きで破綻者と妖を追い詰めていく。
 先ず破綻者を倒し、そして妖を。
 里美を伏したのは、睦美が死ぬ場面を見せたくなかったから。
 そこにどのような思いが含まれているのだろうか。戦略上は精神的な傷を与えることで、破綻の深度が増すことを防ぐためかもしれない。そうなれば戦いは厳しいものになっていただろう。だが、それ以外の意味もあったかもしれない。
「これで終わりです」
 タロットカードの『世界』と『節制』を手に澄香が妖に迫る。既に疲弊した妖はその一撃を避けることが出来なかった。
「……さようなら。せめて安らかに眠ってください」
 別れの言葉が届いたのだろうか。絶叫することなく、無言で妖は倒れ伏した。

●正義と仁義。同一のようで、非なるモノ。
 戦闘終了後、破綻者の里美は控えていたFiVEスタッフの治療を受けていた。
 精神的には安定しており、元に戻るだろうという治療スタッフのお墨付きだ。
「睦美の無念を伝えられるとしたら、半身であったろうオマエだけだ」
 治療を受ける里美に赤貴は平坦な声で告げる。押さえた声にどれだけの感情が込められているか。余人には知る由もないだろう。だが言葉には確かに想いがあった。無愛想ながらも、確かに葦原 赤貴という一個人の感情が確かにあった。
「二人分を取り戻したければ、檻を壊して立ち上がれ!」
「ちなみに、生きるってーならお前、村出て暮らすことになるぜ? 学校で勉強したり、友達と遊んだり、仕事したりすることになるんだろ」
 楽観的に遥が治療を受けている里美に告げる。戦いが終われば、遥からすれば『戦友』だ。憎む理由はない。そもそも遥は憎しみで拳を振るわない。ただ強敵がいるから戦うのだ。戦いが終われば、そこにあるのは利根川里美一個人でしかない。
「少なくとも閉じ込められたり殴られたりはしなくなるわな。そうなりゃ、オレとは学友になるのかな?」
 そこに他意はない。心の底から、そんな未来もあるかもしれないという想いからである。
 他人との繋がり。閉塞された者にとって、それは確かな希望となっていた。

「いやいや。ありがとうございました。流石は名高いFiVEの覚者様」
「利根川の娘たちもそれなりに強いと思っていましたが、貴方達にはかないません」
 村人達は夢見の情報を知らない。つまり、自分達が双子に行っていたことが知れているとは思っていない。故に『村を救った』覚者に好意的な表情と声を向ける。
 そんな村人達に、覚者達は詰問するように迫った。
「里美ちゃんをこの村に残すつもりはありません」
 破綻者治療の為にFiVEが預かっている里美。それを村に帰すつもりはない。この言葉は、覚者共通の意見だった。治療されている里美と、そして睦美の遺体を庇うように明日香は立ちふさがる。その視線には憎悪すらあった。
「何を言っているのですか。利根川の娘たちはこの村の住人。それを奪っていくなどとは誘拐ですぞ。幾らFiVEでもご無体な事かと」
「よく言う! 村の守りを二人だけに頼ってたクセに檻に閉じ込めるとか、逆らわないように殴るとか! あなた達本当に人間ですか!?」
「な、何故それを……いや、何か勘違いされているのではないですか。そのような証拠がどこにあると?」
「確かに法的には『夢見が見た』では証拠にはなりませんね」
 誤魔化そうとする村人に対し、ぴしゃりと言い放つ澄香。知り合いの弁護士に聞いていた法知識だ。証拠の立証はの二の次でいい。虐待から誰かを守りたいのなら、先ず虐待の事実を示せ。この場合は――里美の身体に刻まれた村人からの傷痕。
「暴行、監禁、虐待……! 犯罪が行われると判ってて返すと思いますか? 恥を知りなさい!
 妖が怖いなら報酬をだして覚者を雇うなりもっと安全な場所へ移転するなり、他の手段があったはずなんですから!」
「そ、そのようなお金などありません。どうかこのことには目をつむってもらえませんか。このままでは私達は生活ができません」
「一度崩れてしまったら後は崩れるだけです」
 静かに。心の中に秘めた感情を押さえるように静かに千歳が告げる。百の為に二が犠牲になる。その理屈は理解できなくもない。だが理解と感情は別物だ。少なくとも、家畜のような扱いを受ける者を見過ごせるほど、千歳は冷たくはなれない。
「この村の守りも。これまで二人で守って来た場所を一人でどう守るんです? 多少困難でも、新しい道を選んでくれる事を願いますよ。覚者としてね」
「……それは……っ!」
「貴方達は彼女達との関係を最初から間違えています」
 拳を握り、しかし声を押さえて灯が告げる。今この言葉を告げても何も変わらない。だけど、言わざるを得なかった。きっと村人の誰もが同じことを思っていたことなのに。
「貴方達は彼女達を幼い頃から閉じ込め戦いを強制した。彼女達が村を想い、自発的に守りたいと思わせることをしなかった。
 それは……貴方達がこの村に、命を懸けて守る価値などないと思っているからじゃないですか?」
「そのような事は……!」
「お前たちの大事なのは、自分か? 村という場所か?」
 凜音は村人達に向けて問いかける。答えは期待していない。自分がやるべきことはやり切った。後は村人たちの選択だ。その先にどうなろうが知ったことではない。確実に言えることは、この村に里美を置いておくつもりはない。
「自分たちの事は自分で考えな。里美はFiVEで保護する」
 言い放つ覚者達を前に、言葉を失う村人達。彼らも罪悪感があったのか、それ以上の主張は行わなかった。――あるいは、保身が上立ったたのかもしれない。覚者八人に対抗する戦力などないのだから。
 無言でうなだれる村人達。それは覚者達の言葉に反論を無くしたのか、自分達の罪に負けたのか。ただ言葉なく俯いていた。

●後日談
 利根川睦美と里美への行為は檻やスタンガンと言った物証をはじめ、村人からの複数の証言もあってあっさり立証された。
「謝っても許されないのはわかってるけど……ごめんな……」
「FiVEに皆さん、里美ちゃんを幸せにしてあげて……!」
 村人の中にもこの『管理』に不満を持っていた人がいたのだろう。里美を保護してくれた覚者達に嗚咽しながら謝罪し、保護に対して礼を言う村人も少なからずいた。
 守り手を失った村がどうなるかは、喧々囂々している。覚者達は移動を勧めたが、村に愛着がある者や移動する先のない者もいるために難航している。どちらにせよしばらく時間がかかりそうだ。
 里美の治療は思ったよりも早く進み、快癒に向かっている。里美に『睦美の弔い』を示したのが心に届いたのだというのが、一番有力だ。
 八年間の生活で蝕まれた里美の心は、すぐには回復しない。人の手に過剰に怯え、檻を想起させる金属音に震え、反感を許されなかったためか言葉も少ない。これに関しては時間をかけてゆっくりと癒していくしかないのだろう。立ち替わりやってくる覚者達の見舞いは、彼女の心の治療に確かに役に立っていた。
 里美の傍らには、睦美の遺灰の入った箱がある。その箱に里美はそっと触れた。里美の瞳から、一筋の涙が流れてシーツに落ちる。

「いつか、二人で……」
 その声には、確かに生きる希望が含まれていた。
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『希望を照らす灯』
取得者:七海 灯(CL2000579)
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 このアラタナル世界のどこかで起こっているだろう閉鎖的な村の御話でした。

 里美への様々な呼びかけ、ありがとうございます。
 皆様の言葉あってのこの締めとなりました。
 
 MVPは里美の心に最も届いた言葉を発した七海様に。
 遠くない未来、里美が睦美を弔いに行ける日が来るでしょう。

 ともあれお疲れさまでした。先ずは体を癒してください。
 それではまた、五麟市で。




 
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