過去ログ

――シャンバラ皇国コンスタンツェ小管区・海岸部。

[2019/03/27]

「何とか、逃げ切れたようだな」

 寄せては返す波の音を聞きながら、アデル・ハビッツ(CL3000496) がやってきたマリアンナ・オリヴェル(nCL3000042) に向かって告げた。

「ええ、ここまで来れば、多分、大丈夫よね」
「確実とは言い難いが、おおよそ追いつかれることはないだろうな」

 確実ではない。
 彼はそう言うが、だが体を張って追っ手を食い止めてくれたのは他ならぬアデルであった。
 マリアンナはそれを知っている。

「傷はどう?」
「大したことはない。少し休めばすぐに動ける」

 嘘だ、と、マリアンナは思った。
 聖央都ウァティカヌスの地下にある“獄層”から逃げる際、アデルは多数の聖堂騎士を足止めすべく戦った。
 敵の数は圧倒的で、多勢に無勢どころの話ではなかったはずだ。
 実際、近寄ったマリアンナはアデルの体が震えていることの気づいていた。
 今も彼の身は痛みに晒されているはず。それを我慢しているのだろう。

「親とはもう話したのか」
「……うん。少しだけ」

 波の音を聞きながら、マリアンナはうなずくと振り返った。
 その視線の先には、“獄層”から連れ出した多くのヨウセイ達が喜び合う姿があった。
 ずっと地下に押し込められていた彼らは再びこうして陽の下に出てくることができた。それを喜んでいるのだろう。

「ゲオルグ・クラーマーの脅迫はこれで意味を無くした」
「……そうね」

 今も通商連の船上で行われているであろう講和会談。
 講和を呑まねば“獄層”のヨウセイを全員罰すると言っていた。
 要するに脅迫だ。彼は“獄層”のヨウセイを人質にしようとしていたのだ。
 だが、その目論見もこうして破れた。

「これでまた状況が変わる。……いや、いよいよ詰まるかもしれない」
「それは……」

 アデルの言葉に、マリアンナは顔色を変えた。
 おそらく、ゲオルグの狙いは時間稼ぎにあったはずだ。
 講和会談で時間を稼ぎ、アルス・マグナで王都を攻撃して一網打尽にする。

 ゲオルグの狙いはそこにあったはずだ。
 そして“獄層”のヨウセイ達は、イ・ラプセルが講和会談を突っぱねられないようにするための大事な人質だった。
 それが失われることで状況はどう変わるか――当然、シャンバラが時間を稼げなくなる。

「――もうすぐなのね」
「ああ。もはや状況は定まったと見ていい。もうすぐだ」

 もうすぐ、シャンバラとの決戦が始まる。


関連依頼:
【S級指令】ドヴェルグの通り路へ(担当ST:吾語

アデル・ハビッツ (VC:柿坂 八鹿
マリアンナ・オリヴェル (VC:あにゅ