過去ログ

鉄血

[2019/04/03]

「ミトラースももう終りね」
 ヴィスマルク皇后が盤面上の白いヴィショップを黒い女王ではじき、転がした。
「イ・ラプセルに講和会議を申し込んで、その隙をイ・ラプセルにつかれてたのでしょう?」
 袋耳からの情報は断片的ではあるが、いくつか重ねればその全容は見えてくる。
「北は我々、東南はイ・ラプセル、西はヘルメリアに囲まれた」
 黒いキングを指先で弄びながらヴィスマルク5世は続ける。
「シャンバラは決戦準備を整えているけれど。このアルス・マグナはどの国に打ち込んだとしても、その間隙をつかれて……終わり」
 ばぁん。と両の手で爆発するようなゼスチャアをした皇后はころころと笑う。
「ねえ、■■様、私達は手を拱いてるの? イ・ラプセルが攻め込むのであれば好機よ。
 ――ミトラースを殺す最高の好機だわ」
「当然だ■■■■」
 ヴィスマルクは既にギネヴィア小管区周辺を制圧している。住民たちの反抗はあったが大したことはない。アストラント小管区にもヴィスマルクのその手は伸びている。
「やはりニルヴァンも『欲しい』な」
 ヴィスマルク5世は地図上のとある拠点で指をとめた。そこにはニルヴァン小管区がある場所だ。
「欲しいのはもちろんだけど、私としては権能を奪いたいのよね。
 あいつの権能、鉄血(あのこ)の代わりにしたいところだし」
 皇后は中聖央都ウァティカヌスをトントンと爪先で叩く。
「しかして、イ・ラプセルは例の水鏡で我々の行動を」
「読む、のでしょうね。講和会議に紛れ込ませていた通商連の子が言うには『現在の状況を感知するもの』らしいけど」
「それだけでは説明できない程の正確さがある」
「そうよね。ねえ、あの道化師をシメて、吐かせましょうか?」
 皇后は両手を叩いて名案を思いついたと笑う。
「あの道化師はまことしやかな嘘をつく。たとえ答えたとしても当てにはならん」
「むー、ほんとに役にたたないんだから! 私達の手は読まれるわけよね? ならどうするの?」
「対応しきれない状況を作ればいい。ヘルメリアもこの機に動かないわけはないだろう。
 利用させてもらうさ」
 そう言ってヴィスマルク5世はくつくつと笑った。

ヴィスマルク5世(VC: 神崎恭一
ヴィスマルク皇后(未登録VC: H8K2)