過去ログ

プロメテウス

[2019/02/20]

「助けてヘルメス」
「なんだい? トリスメギストス。藪から棒に。困るんだよね。午後のティータイムはバベッジの唯一のごきげんな時間なんだけどな」
「聖域の話は知ってるだろ?」
「もちろんだ。我が『耳』が察知している」
 ティータイムを邪魔され、少々不機嫌なチャールズ・バベッジが答えた。
「で、だ。プロメテウスで撃ってみない? じゃないと、僕ぁ、あの皇后の命令で特攻しなければならないのさ」
「ははっ、それは汚い花火が見れそうだね。楽しみだ」
「だからさあ、プロメテウスで撃ってよー、ヘルメスー」
「君たちが、僕のプロメテウスを壊したんじゃないか? アレの開発費を捻出する畑は君が焼いちゃったし」
「ヘルメスって結構根にもつよね。一部じゃん、まだ残ってるしまた開発したのくらい知ってるっつの」
「汝が散ろうがヘルメリアの腹は痛まない」
「わー、本気でご機嫌斜めだね『蒸気王』様は」
「――が」
 おや、と『蒸気王』の言葉に言葉を止めるクローリー。
「イ・ラプセルの介入で聖堂騎士団は削られた。赤の砕竜部隊が壊滅した今、強襲を仕掛けるいい機会だ」
 ――王は決断し、号令は下った。
 兵たちは迅速に動き、特殊車両『キュニョーの砲車』の砲塔はシャンバラの王都、ウァティカヌスに向けられる。
「SA-PR/C(サターン-プロメテウス/カーネーイジ)、射出!」

 プロメテウス――
 砲弾にパッケージされて撃ち出される人型兵器で、ヘルメリア軍の花形だ。3メートルを超す巨躯と弾丸内に内包された多数の兵器により、制圧戦に置いてはヴィスマルクの戦車部隊に勝るとも言われている。何よりも電撃戦に置いては海を超えての攻撃が可能であり、ヘルメリア最南端からウァティカヌス近くまで障害なく射出できる。
<カーネイジ、作戦開始>
 銀の鋼が陽光を受けて輝く。戦車の主砲を三つ重ねたような巨大な銃を構え、その引き金を引く。弾丸は轟音と共にウァティカヌスに向かって飛ぶ。王都の壁を崩し、警告と共に突撃する予定だったが――
<着弾確認。目標のダメージは――馬鹿な……!?>
 通信機から聞こえてくるプロメテウスのパイロットの声は、驚愕の色だった。
<ダメージは……皆無。傷一つついていない>
 砦の城壁をやすやすと崩す砲撃だが、ウァティカヌスに届いてすらいない。
<これが『聖域』――>
 驚くパイロットだが、同時に闘志がわいてくる。プロメテウスの兵装はこれだけではない。
 蒸気を排出しながら次の兵装を構えるプロメテウス。
 ヘルメリアの矛とシャンバラの盾。後に『機聖の矛盾』と呼ばれる戦いの火ぶたが切って落とされた――

アレイスター・クローリー (VC: えまる・じょん
ヘルメス(VC: 誤侍郎
チャールズ・バベッジ(VC: 柿坂 八鹿