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お嬢様は可愛いペットが飼いたい!

●
最近のお嬢様は、なんだか元気がないように見える。
無理もない。勉学に稽古と忙しいお嬢様が、心休まる時間はあまりに少ないのだから。
それに、私は見てしまった。
窓の外の月を見ながらひとり、『もう疲れた、癒しが欲しい』と呟くお嬢様の姿を。
普段どんなに厳しい稽古にも弱音を吐かないお嬢様が弱音を溢したのだ。
嗚呼、おいたわしや、お嬢様。いまやお嬢様の心の弱さを知るのは私ひとり。
この家の、いや、お嬢様に仕えるメイドとして、私だけはお嬢様の力にならねば。
そうして私はそれとなくお嬢様が求める癒しを聞き出した。
『可愛いペットが飼いたい』。なんて子供らしい願いなのでしょう。
そんなささやかな願いすら気付かなかったなんて。待っていてくださいお嬢様。
私だけの力では叶えることは出来なくとも、必ずお嬢様のその願いを叶えてみせましょう。
――――――――――とあるメイドの書記より。
●
「まあ座ってよ、これは俺の奢りってコトで☆ あ、未成年の子はジュースだよ!」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)に呼び出された自由騎士たちは、ヨアヒムに勧められるままにグラスを取る。
「君たちに、お嬢様のお願いを叶えてあげてほしいんだよね」
そう言ってウインクを飛ばすヨアヒム。なんだかちょっとモヤっとしたけど、まあ、話は最後まで聞こう。
「お嬢様の家なんだけど、勉学に稽古にと、忙しい上になかなか厳しいらしくてね。
日々の癒しを求めているそうなんだ。それで、可愛いペットが飼いたい、と。
その話をしてくれたメイドさんがもう、ほんと、めっちゃ可愛くてね!? 清純系!」
ヨアヒムの趣味はおいといて。ああ、自由騎士によく持ち込まれるお手伝い系のお仕事かな?
「それで、お嬢様が飼いたい!って言ったのが、クァールって言う幻想種」
うん、ちょっとよく聞こえなかった。幻想種って言った? 気のせいだよね?
「で、そのクァールって言うのがこれなんだけど!」
可愛い猫ちゃんかもしれない、なんて淡い期待を持ちながら、ヨアヒムが差し出した写真を覗き込む自由騎士たち。
写っていたのは、鋭い牙に鋭い爪、そしてなんだか不気味な長い触角を持つ、大きな猫に似た獣の姿。あっ、これ人とか襲うやつですね。
「これを捕まえてきて欲しいんだ! 君たちなら出来ると思ったんだけど、どうかな?」
話は分かった。おっけー、解散。ヨアヒムさんの次の噂話にご期待ください。
何も言わずに席を立とうとした自由騎士たちを、ヨアヒムが慌てて引き止める。
「ほら、俺たち自由騎士に任せて☆とか言っちゃった手前、引き下がれないんだって!」
自由騎士たちの様々な思いを込めた視線がヨアヒムに刺さる。よーし、とりあえず話の続きはもう一杯追加してからだ。
最近のお嬢様は、なんだか元気がないように見える。
無理もない。勉学に稽古と忙しいお嬢様が、心休まる時間はあまりに少ないのだから。
それに、私は見てしまった。
窓の外の月を見ながらひとり、『もう疲れた、癒しが欲しい』と呟くお嬢様の姿を。
普段どんなに厳しい稽古にも弱音を吐かないお嬢様が弱音を溢したのだ。
嗚呼、おいたわしや、お嬢様。いまやお嬢様の心の弱さを知るのは私ひとり。
この家の、いや、お嬢様に仕えるメイドとして、私だけはお嬢様の力にならねば。
そうして私はそれとなくお嬢様が求める癒しを聞き出した。
『可愛いペットが飼いたい』。なんて子供らしい願いなのでしょう。
そんなささやかな願いすら気付かなかったなんて。待っていてくださいお嬢様。
私だけの力では叶えることは出来なくとも、必ずお嬢様のその願いを叶えてみせましょう。
――――――――――とあるメイドの書記より。
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「まあ座ってよ、これは俺の奢りってコトで☆ あ、未成年の子はジュースだよ!」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)に呼び出された自由騎士たちは、ヨアヒムに勧められるままにグラスを取る。
「君たちに、お嬢様のお願いを叶えてあげてほしいんだよね」
そう言ってウインクを飛ばすヨアヒム。なんだかちょっとモヤっとしたけど、まあ、話は最後まで聞こう。
「お嬢様の家なんだけど、勉学に稽古にと、忙しい上になかなか厳しいらしくてね。
日々の癒しを求めているそうなんだ。それで、可愛いペットが飼いたい、と。
その話をしてくれたメイドさんがもう、ほんと、めっちゃ可愛くてね!? 清純系!」
ヨアヒムの趣味はおいといて。ああ、自由騎士によく持ち込まれるお手伝い系のお仕事かな?
「それで、お嬢様が飼いたい!って言ったのが、クァールって言う幻想種」
うん、ちょっとよく聞こえなかった。幻想種って言った? 気のせいだよね?
「で、そのクァールって言うのがこれなんだけど!」
可愛い猫ちゃんかもしれない、なんて淡い期待を持ちながら、ヨアヒムが差し出した写真を覗き込む自由騎士たち。
写っていたのは、鋭い牙に鋭い爪、そしてなんだか不気味な長い触角を持つ、大きな猫に似た獣の姿。あっ、これ人とか襲うやつですね。
「これを捕まえてきて欲しいんだ! 君たちなら出来ると思ったんだけど、どうかな?」
話は分かった。おっけー、解散。ヨアヒムさんの次の噂話にご期待ください。
何も言わずに席を立とうとした自由騎士たちを、ヨアヒムが慌てて引き止める。
「ほら、俺たち自由騎士に任せて☆とか言っちゃった手前、引き下がれないんだって!」
自由騎士たちの様々な思いを込めた視線がヨアヒムに刺さる。よーし、とりあえず話の続きはもう一杯追加してからだ。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.幻想種『クァール』の捕獲
げっ歯類が好きなあまのいろはです。飼いたい。
今回は、お嬢様のちょっとした(?)ワガママを叶えるお仕事!
●幻想種『クァール』×3
成獣にまで育っていない、はぐれクァール。3匹のうち1匹を捕らえれば成功です。
巨大な黒猫のような幻想種。ヒゲの変わりに、長い触覚が生えています。
知能は人並みで、性格は好奇心旺盛ですが凶暴。長い触角から電撃を放ちます。
ダメージ、命中はそこそこですが、反応速度と会心率が高いです。主な攻撃は以下。
・引っ掻く(A/攻近単/追加:ピヨ) 鋭い爪で引っ掻いてきます。
・噛み付く(A/攻近単/追加:ノックB) 鋭い牙で噛み付いてきます。
・放電(A/攻遠複/BS:パラライズ1) 長い触角から電撃を放ちます。
●お嬢様
有力貴族のお嬢様。勉強と稽古に忙しく、心の癒しを求めています。
上記の通り勉強に稽古に励んでいるので、シナリオに登場することはありません。
●場所
イ・ラプセル西方の山岳地帯。地形は段差の多い岩場ですが、見晴らしは良好。
時間帯は昼でも夜でも構いませんが、夜間は周囲に光源はありません。暗いです。
特に時間帯の指示がない場合は、昼の行動になります。
●補足
クァール捕獲用の縄や網などの基本的な道具は、お嬢様から支給されています。
捕獲後のクァールをどうやって手懐けるのかは不明ですが、
お嬢様が責任をもって、お嬢様パワーとか財力とか腕力でなんとかするようです。
深く考えてはいけない。
情報は以上となります。よろしくお願いいたいます。
今回は、お嬢様のちょっとした(?)ワガママを叶えるお仕事!
●幻想種『クァール』×3
成獣にまで育っていない、はぐれクァール。3匹のうち1匹を捕らえれば成功です。
巨大な黒猫のような幻想種。ヒゲの変わりに、長い触覚が生えています。
知能は人並みで、性格は好奇心旺盛ですが凶暴。長い触角から電撃を放ちます。
ダメージ、命中はそこそこですが、反応速度と会心率が高いです。主な攻撃は以下。
・引っ掻く(A/攻近単/追加:ピヨ) 鋭い爪で引っ掻いてきます。
・噛み付く(A/攻近単/追加:ノックB) 鋭い牙で噛み付いてきます。
・放電(A/攻遠複/BS:パラライズ1) 長い触角から電撃を放ちます。
●お嬢様
有力貴族のお嬢様。勉強と稽古に忙しく、心の癒しを求めています。
上記の通り勉強に稽古に励んでいるので、シナリオに登場することはありません。
●場所
イ・ラプセル西方の山岳地帯。地形は段差の多い岩場ですが、見晴らしは良好。
時間帯は昼でも夜でも構いませんが、夜間は周囲に光源はありません。暗いです。
特に時間帯の指示がない場合は、昼の行動になります。
●補足
クァール捕獲用の縄や網などの基本的な道具は、お嬢様から支給されています。
捕獲後のクァールをどうやって手懐けるのかは不明ですが、
お嬢様が責任をもって、お嬢様パワーとか財力とか腕力でなんとかするようです。
深く考えてはいけない。
情報は以上となります。よろしくお願いいたいます。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年12月04日
2018年12月04日
†メイン参加者 8人†
●
しっかりとした網、頑丈そうなロープに、大きなシャベル。他にも捕まえた後の籠だとか、運搬用の台車だとか、様々な道具が山岳地帯に運び込まれてくる。
これらは『可愛いペットが飼いたい!』という、どこかのお嬢様のささやかな願いを叶えるために用意されたものだ。
可愛いペットとしてお嬢様が望んだものが、猫だとか犬だとか、そういう普通の生き物だったならば、可愛い話で済んだんだけどなあ。
そんなことを考える自由騎士たちの思考を現実に無理矢理戻すように、山岳地帯に獣の鳴き声が響き渡る。
未だ姿を見せぬ声の主は、幻想種クァール。お嬢様が望んだ可愛いペットの正体でもあった。
「すっごい鳴き声なんだぞ!」
「人の好みに文句をつける気はないが、電撃を放ってくるような凶暴な幻想種を飼いたいとは」
「変わり種を欲しがる好き者が世にいるのは分かっているが……」
声のした方向へ、がおーと威嚇してみせる『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)の横で、『スケープゴート』ウィルフリード・サントス(CL3000423)と、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)も、思わず苦い顔。
「……金持ちの考えることはよくわからんな」
「お金持ちのお嬢様はワガママを言うものなんだぞ……」
やれやれと首を振ったウィルフリードに、サシャはうんうんと頷いた。そんな話をしている間にも、またどこからかクァールの鳴き声が聞こえる。
「むむむむむむむむ……」
そんななか、『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)は、山岳地帯に座り込んで頭を抱えていた。ジーニアスの横で『孤高の技巧屋』虎鉄・雲母(CL3000448)も、難しい顔をしている。ふたりが頭を抱える理由はクァールの鳴き声がうるさいから、ではなく。
「むむむむむ、ダメだー!」
ジーニアスは、ゆらゆら動かしていた尻尾をへたりと垂らすと、お手上げ!とばかりに両手を放り投げてばったりと後ろに倒れこんだ。
ふたりの周りには、持ち込まれた道具や、彼らが持ち込んだ工具などが散らばっている。ふたりは、蒸気機関取扱技術とスチームノウエッジのスキルを用いて、罠を作ろうとしていたのだ。
しかし、お嬢様から支給されたのはあくまでも基本的な道具ばかり。蒸気機関の罠を作り出すには、ゼロから設計図を作り上げて組み立てなければならないことになる。
ふたりの力を併せても、この場で蒸気機関の罠を作り出すには、道具も時間も足りなかった。
「一息入れたらどうですか?」
『飢えた白狼』リンネ・スズカ(CL3000361)が、難しい顔をしたままのふたりの顔を覗き込む。
「そっちはどうだ?」
リンネの声に顔を上げた虎鉄が問う。リンネは軽く頬を掻きながら答えた。
「罠の設置に向いている場所は、調べましたが……。好物などは分かりませんでしたね」
地形などは自力で調べることが出来るが、幻想種のことを詳しく知っているひとに運良く出会い、情報を集めることが出来るかと言えば、難しい。
とりあえず食べ物として南国フルーツは持ってきてみたけれど、好物かと聞かれると疑問である。
「うーん、事前に分かればアタシが作っておびき出すとかも出来そうだったんだけどねぇ」
そう言うのは、特大フライパンを手にどっしりと構えたトミコ・マール(CL3000192)。残念そうな顔をしたのも束の間、トミコは腕まくりをしてから、いつもの笑顔を浮かべた。
「ま、依頼として受けたからにはしっかりとこなさないとね」
「でも、少し困ったことになりましたね。このままクァールに挑むというのは……」
ペットとして所望されたクァールだ。出来るだけ傷つけず渡したい。自由騎士たちの多くは、そう考えていた。
「なるべく傷つけずに捕獲できるよう努力はするつもりだが、これでは戦闘も仕方ないな」
ウィルフリードもすこし難しい顔をしながら言う。
あまり傷つけず捕獲出来るならそれが一番だが、やっぱり命は大事。自分たちがクァールによって全滅、なんてことになったら、元も子もない。
困惑している自由騎士たちのやりとりを聞きながら、岩に腰を下ろした蔡 狼華(CL3000451)は、どこ吹く風。
「なんや、難儀なことになってはるねえ」
自らの膝に頬杖を付き、話を聞きながら足をぷらぷら。彼の動きに合わせて、着物の間から白く華奢な足がちらりゆらりと覗いている。
狼華は、何かを考えるように小首を傾げて見せてから、動じる様子もなくさらりと告げた。
「しゃあないから、落とし穴でも掘ったらどうやろか」
出来ないことを悩んでいても仕方がない。ならば、今出来ることをするしかない。代替案として上げられたのは、原始的な落とし穴を作ることだった。
「うちはその、ナントカっちゅー幻想種がどないなっても構へんけど……」
仕事として銭貰う以上、完璧にこなさへんとね、と狼華は続ける。
自由騎士たちも同じように思ったのだろう。ならば、善は急げだ。自由騎士たちは次々にシャベルを手に取った。
しかし、発案者の狼華は岩の上に座り込んだまま。自分に向けられる視線に気付いたのか、狼華はゆるゆると緩慢な動きで首を僅かに傾げた。
「うち、肉体労働は向いてへんのよ、堪忍ね」
黒い髪をしゃらりと揺らしながら。狼華は、赤い舌をぺろりと見せて、悪戯っぽく微笑んだ。
●
ざくざくざくざくざく。穴を掘る音が山岳地帯に響く。
どれくらいの時間、穴を掘っていただろう。お嬢様の心を癒す前に、自分たちが疲労で倒れそうだ。けれど、手を止めている訳にもいかない。
自由騎士たちは、無心で掘って掘って掘り続けて―――――……。
そうして完成した落とし穴はふたつ。クァールでもすっぽり入るであろう深さの、大きな大きな落とし穴だ。自由騎士たちは皆、シャベルを置いて、思わず一息。
「ふう、特大フライパンをこんな使い方するとは思わなかったよ」
「よし、これでOKだろう。あとは獲物を追い込むだけだ」
「……捕獲前に、こんなに力仕事をすることになるとは」
「みんな、お疲れ様やねえ。さて、上手い事罠に引っかかってくれよるかねぇ……?」
「狼華様、本当に監督役に徹しましたね……」
特大フライパンをどしりと置いたトミコ。完成した落とし穴を見る虎鉄の横で、ウィルフリードが腰を下ろす。にこにこ微笑む狼華を、白い髪も砂埃で汚したリンネが見遣る。
紆余曲折あったものの、とりあえず、準備は整った。あとは、クァールを追い詰め、この落とし穴に落とすだけ。さて、肝心のクァールはどこに。
「ずーっと声もしているし、あっちだと思うんだぞ!」
サシャがびっと岩山の向こうを指差した。クァールに気付かれないように移動して、こっそり様子を伺ってみれば。
そこに、居た。鋭い牙に鋭い爪、そしてなんだか不気味な長い触角。黒い毛並みは柔らかそうだけれど、普通の動物からかけ離れたその姿は、紛うことなき幻想種だった。
「……これはこれは、思ったよりも凶悪そうな」
その姿を見たテオドールがひとり呟いた、その時。クァールが吼えた。至近距離で聞くその鳴き声は、びりびりと身体に響く。
「うーん、この1匹って決めたほうが良さそうだぞ……」
クァールが動くたびに転がり落ちてくる石を見ながら、サシャが言う。彼女の言う通り、囲まれたらひとたまりもなさそうだ。
「……そうですね。では、身体がすこし小さいあの個体に狙いを定めましょう」
リンネがつい、とクァールに見える位置に岩陰から飛び出した。そして、クァールを見詰めて動物交流で意思疎通を試みる。しかし、クァールの反応はない。
「……挑発しようと思いましたが、通じないようですね」
いくら動物のような見た目でも、幻想種は幻想種である。動物交流で意思疎通することは出来ない。意識を引く作戦は、失敗に終わったかのように思われた。だが。
「…………こっち見てます?」
クァールが、リンネを見ている、気がする。いや、気のせいではない。今にも飛び掛かれるように姿勢を低くしたクァールが、ゆらゆら不気味に尻尾を揺らしながら、リンネを見ている。
―――――クァールが反応したのは、そう、リンネのふわふわの耳と尻尾。きっと、なんだかよく分からないけれど、オモチャのように見えたのだろう。
「来ました!?」
「おっと! アンタの相手はアタシだよっ!!」
リンネに飛び掛ろうとしたクァールの前に、トミコが特大フライパンを盾に立ち塞がる。飛び掛ろうとした勢いそのままに特大フライパンにぶつかったクァールは、痛そうにごろんごろんと岩肌に転がった。
大きな音がしたものだから、他のクァールも自由騎士たちの存在に気付いたようだ。
クァールの視線がリンネの他にも居る、もふもふとした自由騎士、―――ジーニアス、サシャ、ウィルフリードを見詰めている。
「………おいらたちも、見られてる?」
「ばっちり見られてるんだぞ! 気のせいじゃないぞ!」
「自分たちを食べても美味しくないですよ」
悲しきかな、言葉は通じない。けれど、クァールの視線は確かに何かを訴えている。「おいしそう」だとか「おもしろそう」だとか、そんなような感じのことを。
「来たあああー!?」
クァールたちがもふもふ自由騎士たちへ向かって駆けて来る。さあ、命を掛けるかもしれない、鬼ごっこの始まりだ!
狙われた自由騎士たちは、走る、走る。唯一運が良かったことと言えば、クァールが連携をして狙ってこないことだろう。
そのおかげで自由騎士たちは傷を負いつつも、若干の余裕がある行動が出来ていた。
トミコがクァールの進路を塞ぐ。狼華やテオドール、ウィルフリードやジーニアスがクァールやその近くの岩を攻撃し、意識を逸らす。傷付いた者がいれば、サシャやリンネ、虎鉄が回復させる。
けれど、追われてばかりではいられない。逃げながらも近くに自由騎士がいないことを確認したウィルフリードは、クァールへと向き直った。
「予定と違う使い方になるが、仕方ない」
ウィルフリードが、駆け寄ってくるクァールへとオーバーブラストを叩き込む。衝撃波に巻き込まれたクァールは、吹き飛ばされてごろんごろんと転がっていく。
クァールは暫くして身体を起こすと、みゃぁと悲しげな声で鳴いて、自由騎士たちに背を向けて逃げ出した。
「あっ、この猫! 逃げる気なん!?」
狼華が攻撃で進路を妨害しようとしたのを、テオドールが止めた。吹き飛ばされたクァールはこれと決めた1匹ではなかった為、逃がしてもいいとテオドールは判断したのだ。
「数は減ったほうがいいだろう。こちらも動きやすくなる」
そんな会話をするテオドールたちを見詰めたままのクァールは、牙を見せてぐるると鳴いている。鋭い牙を光らせて鳴くクァールを、狼華は忌々しそうにちらりと一瞥。
「この猫! 噛み付き引っ掻きはご法度よ! うちのタマの肌に傷つけたら許さへんからな!」
そう言いながら、しっしと手を振る。クァールはその場を動きはしなかったが、長い触角が光ったと思った、次の瞬間。
ばちりと激しい音がして、電撃が自由騎士たちを襲った。引っかかれた訳ではないものの、肌をちりりと焦がした狼華は僅かに顔を歪めた。
「う、動けないんだぞ…!!」
運悪く電撃の直撃を受けてしまったサシャに、クァールが飛び掛っていく。鋭い爪がサシャに襲い掛かる、と思われたが。
クァールたちはじゃれつくように、もみくちゃもみくちゃ。あれ、もしかして仲間と認識されたのかな?
「あとはみんなに、任せる……ぞ……」
もみくちゃにされたサシャはそれだけを言い残して、ぱたり。クァールの間から伸ばされた手は、救いを求める手なのか、ハイタッチを求めた手なのかは分からなかった。
別の場所でクァールの攻撃を防いでいたトミコにも、サシャがクァールにもみくちゃにされていく様は見えていた。
「よし、もう1匹も減らしたほうがいいねっ!」
防御に回っていたトミコだったが、一転。クァールの爪をがっちりと受け止めると、特大フライパンを大きく振りかぶった。
「アタシのフライパンは、そんな攻撃じゃぁびくともしないよっ、お返しさっ」
特大フライパンを振り下ろした衝撃がクァールを襲う。吹き飛ばされたクァールは、目を白黒させている。衝撃に驚いたクァールは、逃げた1匹と同じように逃げることを選んだ。
こうなると、残るクァールは1匹だ。このクァールだけは逃がすわけにはいかない。
最後の1匹は、今もサシャをもみくちゃにしている。尊い犠牲となったサシャの為にも、なんとしてでもこのクァールを捕まえなければ。
「しんでないんだぞ」
もみくちゃにされているサシャの、力ない主張が聞こえた。
●
自由騎士たちは声を掛けあい、マキナ=ギアの通信も使って、じりじりと虎鉄が待機する罠へと誘導していく。
じりじりと罠に誘導されつつある、最後のクァール。まだまだ遊び足りないとでも言うように尻尾を振る姿は、自分が罠に嵌められようとしていることを、まだ気付いていないように見える。
尻尾を揺らしていたクァールと、ジーニアスの視線がばちりとぶつかる。どうやら、最後の1匹が定めたのは、もふもふ毛並みのジーニアス。
「…………おいら、狙われてるよねえー……?」
クァールが走り出すより先に、ラピットジーンを使用しているジーニアスは、持ちうる力すべてを使って猛ダッシュ。それを見たクァールは、すかさずジーニアスの後を追った。
「似てるけど! おいら猫じゃなくてユキヒョウだー!」
ジーニアスの悲しい叫びが山岳地帯に響く。しかし、追いかけられながらも罠のある場所へと逃げることは忘れない。
「ジニー、こっちだ!」
追われるジーニアスに向かって、虎鉄が呼び掛けた。岩影に隠れるようにしている虎鉄は、手に何かを握っている。
そして、ジーニアスが虎鉄のもとへ辿り着く直前、握っていた何かをぐいと勢い良く引っ張った。
「今だ、くぐれ!!」
虎鉄が引っ張ったものは、テオドールが事前に岩肌に隠していたロープ。ピンと張られたロープの下を、ジーニアスが身体を丸めて滑り込む。
けれど、ロープの存在を知らないクァールは、ロープに向かって一直線。ロープに絡まったクァールの大きな身体が、ぽぉん、と宙に投げ出された。
宙に投げ出されたクァールはそのまま、ごろごろと岩肌を転がり落ちていく。ガラガラと岩が崩れ落ちる大きな音と、濛々と立ち上がる砂煙。
「かんいっぱーつ! 落ちたかな!?」
クァールの姿は、まだ砂煙で見えない。けれど、落とし穴のある場所へと、自由騎士たちが一斉に駆け寄っていく。
「やりましたか!?」
「……む、これでは何も見えない」
「近くにクァールの姿はない、きっと……!」
げほげほと咳き込みながらも、砂煙が収まるのを待つ。暫くして視界が開ければ、自由騎士たちは一斉に落とし穴のなかを覗き込んだ。すると。
―――そこには、すっかりと伸びているクァールの姿。きっと、転がり落ちた時、打ち所が悪かったのだろう。
「アンタも運が悪いな……。まぁ、せいぜい媚び売って可愛がってもらいなさんし……」
穴のなかを覗き込んだ狼華は、どこか哀愁を漂わせながらそう言うのだった。
捕獲されたクァールの自由騎士たちへの警戒心は強く、捕まってからも抵抗を見せていたが、暫くすると諦めたのか、いくらかは大人しくなっていた。
「誰も取って食おうって訳じゃないんだ。心配しなくていいよ」
トミコの言葉に落ち着いたのかは定かではないが、クァールは檻のなかでちいさく丸まる。回復もしてもらったおかげで、黒い毛並みは元通り艶々だ。そんなクァールの檻の前に、サシャが立つ。
「見た目がどーというのは何も言わないけど、性格が可愛くないぞ! 狂暴だぞ!」
そう言いながら檻のなかへと手を伸ばすと、その首にきゅぅっとリボンを結ぶ。クァールはすこし迷惑そうにぐぁっと口を開けて抗議したようだったが、サシャは気にしなかった。
「ちょっとはお淑やかにするといいぞ!」
ぐっとサムズアップ。可愛いかどうかはさておき、うんうん、馬子にも衣装って言うもんね。
「お嬢様に体の休憩もしっかり取る事をお勧めしようと思いましたが……。
……、………今日はそれどころではないですね。休憩が必要なのは私たちのようです……」
檻にするりと触れながら。リンネはふう、と大きな溜息を吐いた。予想外の肉体労働まであったのだ。リンネだけでなく、自由騎士たちは皆疲れていた。
「……クァールの電撃って、肩こりなどに効いたりしないか?」
「おや。疲れを取るなら、うちがもっといい方法を教えてあげるんに」
冷静に考えて強すぎて無理だろうが、と続けるウィルフリードを見ながら、狼華は切れ長の瞳をゆるりと細めて微笑んだ。
「………疲れたが、クァールも俺たちも無事でよかった」
「まあ、終わりよければすべて良し、だよね! 可愛がってもらうんだよー!」
サポートの手も借りてお嬢様の元へ運ばれていくクァールの姿を見送りながら、虎鉄はタバコを一服。ジーニアスがクァールに向かってぶんぶんと手を振るたびに、ゆらゆらと煙が揺れた。
てんやわんやの大騒ぎだったけれど、クァールは無事捕獲された。傷付いた者も居るけれど、命の危機があるほどではない。一仕事終えた自由騎士たちは、今日はもうゆっくり休もうと心に決めたのだった。
しっかりとした網、頑丈そうなロープに、大きなシャベル。他にも捕まえた後の籠だとか、運搬用の台車だとか、様々な道具が山岳地帯に運び込まれてくる。
これらは『可愛いペットが飼いたい!』という、どこかのお嬢様のささやかな願いを叶えるために用意されたものだ。
可愛いペットとしてお嬢様が望んだものが、猫だとか犬だとか、そういう普通の生き物だったならば、可愛い話で済んだんだけどなあ。
そんなことを考える自由騎士たちの思考を現実に無理矢理戻すように、山岳地帯に獣の鳴き声が響き渡る。
未だ姿を見せぬ声の主は、幻想種クァール。お嬢様が望んだ可愛いペットの正体でもあった。
「すっごい鳴き声なんだぞ!」
「人の好みに文句をつける気はないが、電撃を放ってくるような凶暴な幻想種を飼いたいとは」
「変わり種を欲しがる好き者が世にいるのは分かっているが……」
声のした方向へ、がおーと威嚇してみせる『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)の横で、『スケープゴート』ウィルフリード・サントス(CL3000423)と、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)も、思わず苦い顔。
「……金持ちの考えることはよくわからんな」
「お金持ちのお嬢様はワガママを言うものなんだぞ……」
やれやれと首を振ったウィルフリードに、サシャはうんうんと頷いた。そんな話をしている間にも、またどこからかクァールの鳴き声が聞こえる。
「むむむむむむむむ……」
そんななか、『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)は、山岳地帯に座り込んで頭を抱えていた。ジーニアスの横で『孤高の技巧屋』虎鉄・雲母(CL3000448)も、難しい顔をしている。ふたりが頭を抱える理由はクァールの鳴き声がうるさいから、ではなく。
「むむむむむ、ダメだー!」
ジーニアスは、ゆらゆら動かしていた尻尾をへたりと垂らすと、お手上げ!とばかりに両手を放り投げてばったりと後ろに倒れこんだ。
ふたりの周りには、持ち込まれた道具や、彼らが持ち込んだ工具などが散らばっている。ふたりは、蒸気機関取扱技術とスチームノウエッジのスキルを用いて、罠を作ろうとしていたのだ。
しかし、お嬢様から支給されたのはあくまでも基本的な道具ばかり。蒸気機関の罠を作り出すには、ゼロから設計図を作り上げて組み立てなければならないことになる。
ふたりの力を併せても、この場で蒸気機関の罠を作り出すには、道具も時間も足りなかった。
「一息入れたらどうですか?」
『飢えた白狼』リンネ・スズカ(CL3000361)が、難しい顔をしたままのふたりの顔を覗き込む。
「そっちはどうだ?」
リンネの声に顔を上げた虎鉄が問う。リンネは軽く頬を掻きながら答えた。
「罠の設置に向いている場所は、調べましたが……。好物などは分かりませんでしたね」
地形などは自力で調べることが出来るが、幻想種のことを詳しく知っているひとに運良く出会い、情報を集めることが出来るかと言えば、難しい。
とりあえず食べ物として南国フルーツは持ってきてみたけれど、好物かと聞かれると疑問である。
「うーん、事前に分かればアタシが作っておびき出すとかも出来そうだったんだけどねぇ」
そう言うのは、特大フライパンを手にどっしりと構えたトミコ・マール(CL3000192)。残念そうな顔をしたのも束の間、トミコは腕まくりをしてから、いつもの笑顔を浮かべた。
「ま、依頼として受けたからにはしっかりとこなさないとね」
「でも、少し困ったことになりましたね。このままクァールに挑むというのは……」
ペットとして所望されたクァールだ。出来るだけ傷つけず渡したい。自由騎士たちの多くは、そう考えていた。
「なるべく傷つけずに捕獲できるよう努力はするつもりだが、これでは戦闘も仕方ないな」
ウィルフリードもすこし難しい顔をしながら言う。
あまり傷つけず捕獲出来るならそれが一番だが、やっぱり命は大事。自分たちがクァールによって全滅、なんてことになったら、元も子もない。
困惑している自由騎士たちのやりとりを聞きながら、岩に腰を下ろした蔡 狼華(CL3000451)は、どこ吹く風。
「なんや、難儀なことになってはるねえ」
自らの膝に頬杖を付き、話を聞きながら足をぷらぷら。彼の動きに合わせて、着物の間から白く華奢な足がちらりゆらりと覗いている。
狼華は、何かを考えるように小首を傾げて見せてから、動じる様子もなくさらりと告げた。
「しゃあないから、落とし穴でも掘ったらどうやろか」
出来ないことを悩んでいても仕方がない。ならば、今出来ることをするしかない。代替案として上げられたのは、原始的な落とし穴を作ることだった。
「うちはその、ナントカっちゅー幻想種がどないなっても構へんけど……」
仕事として銭貰う以上、完璧にこなさへんとね、と狼華は続ける。
自由騎士たちも同じように思ったのだろう。ならば、善は急げだ。自由騎士たちは次々にシャベルを手に取った。
しかし、発案者の狼華は岩の上に座り込んだまま。自分に向けられる視線に気付いたのか、狼華はゆるゆると緩慢な動きで首を僅かに傾げた。
「うち、肉体労働は向いてへんのよ、堪忍ね」
黒い髪をしゃらりと揺らしながら。狼華は、赤い舌をぺろりと見せて、悪戯っぽく微笑んだ。
●
ざくざくざくざくざく。穴を掘る音が山岳地帯に響く。
どれくらいの時間、穴を掘っていただろう。お嬢様の心を癒す前に、自分たちが疲労で倒れそうだ。けれど、手を止めている訳にもいかない。
自由騎士たちは、無心で掘って掘って掘り続けて―――――……。
そうして完成した落とし穴はふたつ。クァールでもすっぽり入るであろう深さの、大きな大きな落とし穴だ。自由騎士たちは皆、シャベルを置いて、思わず一息。
「ふう、特大フライパンをこんな使い方するとは思わなかったよ」
「よし、これでOKだろう。あとは獲物を追い込むだけだ」
「……捕獲前に、こんなに力仕事をすることになるとは」
「みんな、お疲れ様やねえ。さて、上手い事罠に引っかかってくれよるかねぇ……?」
「狼華様、本当に監督役に徹しましたね……」
特大フライパンをどしりと置いたトミコ。完成した落とし穴を見る虎鉄の横で、ウィルフリードが腰を下ろす。にこにこ微笑む狼華を、白い髪も砂埃で汚したリンネが見遣る。
紆余曲折あったものの、とりあえず、準備は整った。あとは、クァールを追い詰め、この落とし穴に落とすだけ。さて、肝心のクァールはどこに。
「ずーっと声もしているし、あっちだと思うんだぞ!」
サシャがびっと岩山の向こうを指差した。クァールに気付かれないように移動して、こっそり様子を伺ってみれば。
そこに、居た。鋭い牙に鋭い爪、そしてなんだか不気味な長い触角。黒い毛並みは柔らかそうだけれど、普通の動物からかけ離れたその姿は、紛うことなき幻想種だった。
「……これはこれは、思ったよりも凶悪そうな」
その姿を見たテオドールがひとり呟いた、その時。クァールが吼えた。至近距離で聞くその鳴き声は、びりびりと身体に響く。
「うーん、この1匹って決めたほうが良さそうだぞ……」
クァールが動くたびに転がり落ちてくる石を見ながら、サシャが言う。彼女の言う通り、囲まれたらひとたまりもなさそうだ。
「……そうですね。では、身体がすこし小さいあの個体に狙いを定めましょう」
リンネがつい、とクァールに見える位置に岩陰から飛び出した。そして、クァールを見詰めて動物交流で意思疎通を試みる。しかし、クァールの反応はない。
「……挑発しようと思いましたが、通じないようですね」
いくら動物のような見た目でも、幻想種は幻想種である。動物交流で意思疎通することは出来ない。意識を引く作戦は、失敗に終わったかのように思われた。だが。
「…………こっち見てます?」
クァールが、リンネを見ている、気がする。いや、気のせいではない。今にも飛び掛かれるように姿勢を低くしたクァールが、ゆらゆら不気味に尻尾を揺らしながら、リンネを見ている。
―――――クァールが反応したのは、そう、リンネのふわふわの耳と尻尾。きっと、なんだかよく分からないけれど、オモチャのように見えたのだろう。
「来ました!?」
「おっと! アンタの相手はアタシだよっ!!」
リンネに飛び掛ろうとしたクァールの前に、トミコが特大フライパンを盾に立ち塞がる。飛び掛ろうとした勢いそのままに特大フライパンにぶつかったクァールは、痛そうにごろんごろんと岩肌に転がった。
大きな音がしたものだから、他のクァールも自由騎士たちの存在に気付いたようだ。
クァールの視線がリンネの他にも居る、もふもふとした自由騎士、―――ジーニアス、サシャ、ウィルフリードを見詰めている。
「………おいらたちも、見られてる?」
「ばっちり見られてるんだぞ! 気のせいじゃないぞ!」
「自分たちを食べても美味しくないですよ」
悲しきかな、言葉は通じない。けれど、クァールの視線は確かに何かを訴えている。「おいしそう」だとか「おもしろそう」だとか、そんなような感じのことを。
「来たあああー!?」
クァールたちがもふもふ自由騎士たちへ向かって駆けて来る。さあ、命を掛けるかもしれない、鬼ごっこの始まりだ!
狙われた自由騎士たちは、走る、走る。唯一運が良かったことと言えば、クァールが連携をして狙ってこないことだろう。
そのおかげで自由騎士たちは傷を負いつつも、若干の余裕がある行動が出来ていた。
トミコがクァールの進路を塞ぐ。狼華やテオドール、ウィルフリードやジーニアスがクァールやその近くの岩を攻撃し、意識を逸らす。傷付いた者がいれば、サシャやリンネ、虎鉄が回復させる。
けれど、追われてばかりではいられない。逃げながらも近くに自由騎士がいないことを確認したウィルフリードは、クァールへと向き直った。
「予定と違う使い方になるが、仕方ない」
ウィルフリードが、駆け寄ってくるクァールへとオーバーブラストを叩き込む。衝撃波に巻き込まれたクァールは、吹き飛ばされてごろんごろんと転がっていく。
クァールは暫くして身体を起こすと、みゃぁと悲しげな声で鳴いて、自由騎士たちに背を向けて逃げ出した。
「あっ、この猫! 逃げる気なん!?」
狼華が攻撃で進路を妨害しようとしたのを、テオドールが止めた。吹き飛ばされたクァールはこれと決めた1匹ではなかった為、逃がしてもいいとテオドールは判断したのだ。
「数は減ったほうがいいだろう。こちらも動きやすくなる」
そんな会話をするテオドールたちを見詰めたままのクァールは、牙を見せてぐるると鳴いている。鋭い牙を光らせて鳴くクァールを、狼華は忌々しそうにちらりと一瞥。
「この猫! 噛み付き引っ掻きはご法度よ! うちのタマの肌に傷つけたら許さへんからな!」
そう言いながら、しっしと手を振る。クァールはその場を動きはしなかったが、長い触角が光ったと思った、次の瞬間。
ばちりと激しい音がして、電撃が自由騎士たちを襲った。引っかかれた訳ではないものの、肌をちりりと焦がした狼華は僅かに顔を歪めた。
「う、動けないんだぞ…!!」
運悪く電撃の直撃を受けてしまったサシャに、クァールが飛び掛っていく。鋭い爪がサシャに襲い掛かる、と思われたが。
クァールたちはじゃれつくように、もみくちゃもみくちゃ。あれ、もしかして仲間と認識されたのかな?
「あとはみんなに、任せる……ぞ……」
もみくちゃにされたサシャはそれだけを言い残して、ぱたり。クァールの間から伸ばされた手は、救いを求める手なのか、ハイタッチを求めた手なのかは分からなかった。
別の場所でクァールの攻撃を防いでいたトミコにも、サシャがクァールにもみくちゃにされていく様は見えていた。
「よし、もう1匹も減らしたほうがいいねっ!」
防御に回っていたトミコだったが、一転。クァールの爪をがっちりと受け止めると、特大フライパンを大きく振りかぶった。
「アタシのフライパンは、そんな攻撃じゃぁびくともしないよっ、お返しさっ」
特大フライパンを振り下ろした衝撃がクァールを襲う。吹き飛ばされたクァールは、目を白黒させている。衝撃に驚いたクァールは、逃げた1匹と同じように逃げることを選んだ。
こうなると、残るクァールは1匹だ。このクァールだけは逃がすわけにはいかない。
最後の1匹は、今もサシャをもみくちゃにしている。尊い犠牲となったサシャの為にも、なんとしてでもこのクァールを捕まえなければ。
「しんでないんだぞ」
もみくちゃにされているサシャの、力ない主張が聞こえた。
●
自由騎士たちは声を掛けあい、マキナ=ギアの通信も使って、じりじりと虎鉄が待機する罠へと誘導していく。
じりじりと罠に誘導されつつある、最後のクァール。まだまだ遊び足りないとでも言うように尻尾を振る姿は、自分が罠に嵌められようとしていることを、まだ気付いていないように見える。
尻尾を揺らしていたクァールと、ジーニアスの視線がばちりとぶつかる。どうやら、最後の1匹が定めたのは、もふもふ毛並みのジーニアス。
「…………おいら、狙われてるよねえー……?」
クァールが走り出すより先に、ラピットジーンを使用しているジーニアスは、持ちうる力すべてを使って猛ダッシュ。それを見たクァールは、すかさずジーニアスの後を追った。
「似てるけど! おいら猫じゃなくてユキヒョウだー!」
ジーニアスの悲しい叫びが山岳地帯に響く。しかし、追いかけられながらも罠のある場所へと逃げることは忘れない。
「ジニー、こっちだ!」
追われるジーニアスに向かって、虎鉄が呼び掛けた。岩影に隠れるようにしている虎鉄は、手に何かを握っている。
そして、ジーニアスが虎鉄のもとへ辿り着く直前、握っていた何かをぐいと勢い良く引っ張った。
「今だ、くぐれ!!」
虎鉄が引っ張ったものは、テオドールが事前に岩肌に隠していたロープ。ピンと張られたロープの下を、ジーニアスが身体を丸めて滑り込む。
けれど、ロープの存在を知らないクァールは、ロープに向かって一直線。ロープに絡まったクァールの大きな身体が、ぽぉん、と宙に投げ出された。
宙に投げ出されたクァールはそのまま、ごろごろと岩肌を転がり落ちていく。ガラガラと岩が崩れ落ちる大きな音と、濛々と立ち上がる砂煙。
「かんいっぱーつ! 落ちたかな!?」
クァールの姿は、まだ砂煙で見えない。けれど、落とし穴のある場所へと、自由騎士たちが一斉に駆け寄っていく。
「やりましたか!?」
「……む、これでは何も見えない」
「近くにクァールの姿はない、きっと……!」
げほげほと咳き込みながらも、砂煙が収まるのを待つ。暫くして視界が開ければ、自由騎士たちは一斉に落とし穴のなかを覗き込んだ。すると。
―――そこには、すっかりと伸びているクァールの姿。きっと、転がり落ちた時、打ち所が悪かったのだろう。
「アンタも運が悪いな……。まぁ、せいぜい媚び売って可愛がってもらいなさんし……」
穴のなかを覗き込んだ狼華は、どこか哀愁を漂わせながらそう言うのだった。
捕獲されたクァールの自由騎士たちへの警戒心は強く、捕まってからも抵抗を見せていたが、暫くすると諦めたのか、いくらかは大人しくなっていた。
「誰も取って食おうって訳じゃないんだ。心配しなくていいよ」
トミコの言葉に落ち着いたのかは定かではないが、クァールは檻のなかでちいさく丸まる。回復もしてもらったおかげで、黒い毛並みは元通り艶々だ。そんなクァールの檻の前に、サシャが立つ。
「見た目がどーというのは何も言わないけど、性格が可愛くないぞ! 狂暴だぞ!」
そう言いながら檻のなかへと手を伸ばすと、その首にきゅぅっとリボンを結ぶ。クァールはすこし迷惑そうにぐぁっと口を開けて抗議したようだったが、サシャは気にしなかった。
「ちょっとはお淑やかにするといいぞ!」
ぐっとサムズアップ。可愛いかどうかはさておき、うんうん、馬子にも衣装って言うもんね。
「お嬢様に体の休憩もしっかり取る事をお勧めしようと思いましたが……。
……、………今日はそれどころではないですね。休憩が必要なのは私たちのようです……」
檻にするりと触れながら。リンネはふう、と大きな溜息を吐いた。予想外の肉体労働まであったのだ。リンネだけでなく、自由騎士たちは皆疲れていた。
「……クァールの電撃って、肩こりなどに効いたりしないか?」
「おや。疲れを取るなら、うちがもっといい方法を教えてあげるんに」
冷静に考えて強すぎて無理だろうが、と続けるウィルフリードを見ながら、狼華は切れ長の瞳をゆるりと細めて微笑んだ。
「………疲れたが、クァールも俺たちも無事でよかった」
「まあ、終わりよければすべて良し、だよね! 可愛がってもらうんだよー!」
サポートの手も借りてお嬢様の元へ運ばれていくクァールの姿を見送りながら、虎鉄はタバコを一服。ジーニアスがクァールに向かってぶんぶんと手を振るたびに、ゆらゆらと煙が揺れた。
てんやわんやの大騒ぎだったけれど、クァールは無事捕獲された。傷付いた者も居るけれど、命の危機があるほどではない。一仕事終えた自由騎士たちは、今日はもうゆっくり休もうと心に決めたのだった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
★
CWより注釈です。
技能スキルはあくまでも戦闘や状況の補佐ですので、技能スキルでできるかどうか不明な状況で、それを軸に作戦を組み立てるのは危険です。
本文で説明の通り。時間(この時間は依頼で経過する時間はまちまちですが1日前後の依頼では時間は足りません)と材料が必要になります。
ST判定にもよりますが、現場にあると明記されていないアイテムは、アイテムとして装備して持ち込んでいる場合においては、現場にアイテムが無かったとしても可能になることはあります。(蒸気カメラなど機械部品があるもの)
カスタムアイテムの場合も状況によりますが、便利過ぎる誇大解釈は危険です。
もちろんやってみる、という行動を否定しませんが、できることと出来ないことがあることをご了承くださいませ。
また、動物交流はあくまでもケモノビトで可能な動物になります。(虫や鳥もできますが、あくまでもその動物程度の知能になるので、会話ができるわけではないことをご留意ください)
幻想種で話せないものはその範疇外になります。
CWより注釈です。
技能スキルはあくまでも戦闘や状況の補佐ですので、技能スキルでできるかどうか不明な状況で、それを軸に作戦を組み立てるのは危険です。
本文で説明の通り。時間(この時間は依頼で経過する時間はまちまちですが1日前後の依頼では時間は足りません)と材料が必要になります。
ST判定にもよりますが、現場にあると明記されていないアイテムは、アイテムとして装備して持ち込んでいる場合においては、現場にアイテムが無かったとしても可能になることはあります。(蒸気カメラなど機械部品があるもの)
カスタムアイテムの場合も状況によりますが、便利過ぎる誇大解釈は危険です。
もちろんやってみる、という行動を否定しませんが、できることと出来ないことがあることをご了承くださいませ。
また、動物交流はあくまでもケモノビトで可能な動物になります。(虫や鳥もできますが、あくまでもその動物程度の知能になるので、会話ができるわけではないことをご留意ください)
幻想種で話せないものはその範疇外になります。
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