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【シャンバラ】魔女狩りの森

●やつらは虚無の果てまでも
逃げて、逃げて、逃げて、どこまでも逃げて――
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
体力はもはや尽きた。
食料は四日前になくなって、荷物もほとんど海に捨てた。
そうしなければ自分達は海上で追いつかれていたに違いない。
あの執拗な追っ手共は、どこまでも自分達を追ってきたからだ。
そして今もまた、自分は追い詰められつつある。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ここは一体どこなのだろうか。
夜の、深い森の中、木々の連なりはどこまでも同じに見えて、自分がどこにいるのかも分からない。
いや、それ以前の話、か。
彼女は小さく息をつく。
生きるため、逃れるために、さして大きくもない船に乗って辿り着いたここ。
間違いなく異国だろう。
海流の向きも分からず、とにかく逃げるためにひたすら船を漕いできた。
ああ、だが、逃げることにどれだけの意味があったのだろう。
共に逃げた者たちは皆死んでしまった。
希望の見えない船旅は、仲間達から体力と生きる気力を奪ってしまった。
自分も限界が近い。
目がかすみ、手は震え、感覚も薄くなってきていて、
「はぁ、はぁ……」
手に残ったのは長年使ってきた弓と、わずかばかりの矢のみ。
連中を相手にするにはあまりにも心もとない。
魔導は、使おうとすればまだ使えるとは思うが、果たして連中にどこまで効果があるのか。
あの連中に、魔導はあまり効果がない。
そうすると弓で戦うしかないが、それでどこまで抗える。どこまで戦える。
いっそ捕まって楽になるか。
いいや、ダメだ。自分をここまで逃がしてくれた仲間達に申し訳が立たない。
それにあんな連中に頭を下げるなど、死んでも御免だ。
――――!?
足音がした。幾つもの足音は、すでに聞き慣れたものだ。
連中が近くに来ている。もはや逃げきれない。直感的に確信する。
どうする。
どうする。
どうする。
彼女は弓に矢をつがえ、木陰に隠れた。
こうなれば死ぬまでにせめて一人くらいは虚無に還してやる。
あのにっくき、“魔女狩り”共を。
●北の森に起きた異変
「諸君、お集まりいただき恐悦至極。実は水鏡が奇妙な異変を捉えたのである」
集まった自由騎士たちに、『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003) はまずそう言った。
このプラロークの長がそう言うこと自体がまず奇妙だ。
一体、何が起きたのか。
「イ・ラプセルの北部には広大な森が広がっている、そこに異国よりの来訪者が現れる、との予知がでたのである」
異国からの来訪者、とは。
もしやヴィスマルクあたりの工作員だろうか。
現在、イ・ラプセルと明確に交戦状態にあるのはかの国だけである。
極秘裏に工作員を送り込んで内部からイ・ラプセルを争うとする。
ありえない話ではない気はするが――
「来訪者は、シャンバラからやってきたらしいのである」
シャンバラ!
皇国とも称される、得体のしれない宗教国家。
そこに住む者は神民と呼ばれ、神ミトラースの教えが民の根底にまで根付いている狂信の国であるとも噂されている国だ。
「しかもどうやら来訪者は二つの勢力に分かれて争っているらしいのである」
一体何が起きているのか。
確かにクラウスの言う通り、これはなかなか奇妙な事態だ。
「だがどうあれ、ことはここイ・ラプセルで起きるのである」
それもまたクラウスの言う通りだ。
「諸君らには、我が国に侵入した異国の来訪者を捕縛してほしいのである」
「相手が抵抗した場合は?」
「その場合は交戦も許可するが、殺害はしないこと。できる限り生きたまま捕縛してほしいのである」
遠き異国、宗教国家シャンバラ。
そこからやってきた来訪者同士の戦いに介入すべく、自由騎士達は森に向かった。
逃げて、逃げて、逃げて、どこまでも逃げて――
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
体力はもはや尽きた。
食料は四日前になくなって、荷物もほとんど海に捨てた。
そうしなければ自分達は海上で追いつかれていたに違いない。
あの執拗な追っ手共は、どこまでも自分達を追ってきたからだ。
そして今もまた、自分は追い詰められつつある。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ここは一体どこなのだろうか。
夜の、深い森の中、木々の連なりはどこまでも同じに見えて、自分がどこにいるのかも分からない。
いや、それ以前の話、か。
彼女は小さく息をつく。
生きるため、逃れるために、さして大きくもない船に乗って辿り着いたここ。
間違いなく異国だろう。
海流の向きも分からず、とにかく逃げるためにひたすら船を漕いできた。
ああ、だが、逃げることにどれだけの意味があったのだろう。
共に逃げた者たちは皆死んでしまった。
希望の見えない船旅は、仲間達から体力と生きる気力を奪ってしまった。
自分も限界が近い。
目がかすみ、手は震え、感覚も薄くなってきていて、
「はぁ、はぁ……」
手に残ったのは長年使ってきた弓と、わずかばかりの矢のみ。
連中を相手にするにはあまりにも心もとない。
魔導は、使おうとすればまだ使えるとは思うが、果たして連中にどこまで効果があるのか。
あの連中に、魔導はあまり効果がない。
そうすると弓で戦うしかないが、それでどこまで抗える。どこまで戦える。
いっそ捕まって楽になるか。
いいや、ダメだ。自分をここまで逃がしてくれた仲間達に申し訳が立たない。
それにあんな連中に頭を下げるなど、死んでも御免だ。
――――!?
足音がした。幾つもの足音は、すでに聞き慣れたものだ。
連中が近くに来ている。もはや逃げきれない。直感的に確信する。
どうする。
どうする。
どうする。
彼女は弓に矢をつがえ、木陰に隠れた。
こうなれば死ぬまでにせめて一人くらいは虚無に還してやる。
あのにっくき、“魔女狩り”共を。
●北の森に起きた異変
「諸君、お集まりいただき恐悦至極。実は水鏡が奇妙な異変を捉えたのである」
集まった自由騎士たちに、『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003) はまずそう言った。
このプラロークの長がそう言うこと自体がまず奇妙だ。
一体、何が起きたのか。
「イ・ラプセルの北部には広大な森が広がっている、そこに異国よりの来訪者が現れる、との予知がでたのである」
異国からの来訪者、とは。
もしやヴィスマルクあたりの工作員だろうか。
現在、イ・ラプセルと明確に交戦状態にあるのはかの国だけである。
極秘裏に工作員を送り込んで内部からイ・ラプセルを争うとする。
ありえない話ではない気はするが――
「来訪者は、シャンバラからやってきたらしいのである」
シャンバラ!
皇国とも称される、得体のしれない宗教国家。
そこに住む者は神民と呼ばれ、神ミトラースの教えが民の根底にまで根付いている狂信の国であるとも噂されている国だ。
「しかもどうやら来訪者は二つの勢力に分かれて争っているらしいのである」
一体何が起きているのか。
確かにクラウスの言う通り、これはなかなか奇妙な事態だ。
「だがどうあれ、ことはここイ・ラプセルで起きるのである」
それもまたクラウスの言う通りだ。
「諸君らには、我が国に侵入した異国の来訪者を捕縛してほしいのである」
「相手が抵抗した場合は?」
「その場合は交戦も許可するが、殺害はしないこと。できる限り生きたまま捕縛してほしいのである」
遠き異国、宗教国家シャンバラ。
そこからやってきた来訪者同士の戦いに介入すべく、自由騎士達は森に向かった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.“弓を持った少女”の確保
2.“魔女狩り”の無力化
2.“魔女狩り”の無力化
夏も終わりに近づいて、しかし暑いから涼しい森にでも行きたい。
吾語です。
今回は何やらいきなりな急展開。
北の森で発生している戦闘に介入していただくことになります。
●登場勢力
・弓を持った少女
OPにも登場した弓を持った少女です。
弓矢を用いて戦い、魔導も使用できるようです。
しかし矢の残りが少なく、魔女狩りには魔導も効果が薄いとのこと。
戦いに介入しなければあっという間に魔女狩りに殺されてしまいます。
・魔女狩り×4
頭に白い頭巾をかぶって顔を隠している四人の男達です。
軽戦士、重戦士、ガンナー、ドクターの四つのスタイルから構成されています。
海を越えてなお弓を持った少女を狙い続けるしつこすぎる連中です。
戦いに介入しなければ少女を殺して自分の国に帰るでしょう。
●戦場
夜の深い森の中です。
遮蔽が多いので隠れたりすることは簡単にできます。
●状況
リプレイは両者の戦闘が発生する直前から開始となります。
少女と魔女狩り、どちらに接触するか、それとも介入しないかは自由です。
ただし、両者の仲裁を行なうことはできませんのでご注意ください。
少女は魔女狩りを絶対に許しません。
魔女狩りは少女を絶対に生きて帰そうとしません。
吾語です。
今回は何やらいきなりな急展開。
北の森で発生している戦闘に介入していただくことになります。
●登場勢力
・弓を持った少女
OPにも登場した弓を持った少女です。
弓矢を用いて戦い、魔導も使用できるようです。
しかし矢の残りが少なく、魔女狩りには魔導も効果が薄いとのこと。
戦いに介入しなければあっという間に魔女狩りに殺されてしまいます。
・魔女狩り×4
頭に白い頭巾をかぶって顔を隠している四人の男達です。
軽戦士、重戦士、ガンナー、ドクターの四つのスタイルから構成されています。
海を越えてなお弓を持った少女を狙い続けるしつこすぎる連中です。
戦いに介入しなければ少女を殺して自分の国に帰るでしょう。
●戦場
夜の深い森の中です。
遮蔽が多いので隠れたりすることは簡単にできます。
●状況
リプレイは両者の戦闘が発生する直前から開始となります。
少女と魔女狩り、どちらに接触するか、それとも介入しないかは自由です。
ただし、両者の仲裁を行なうことはできませんのでご注意ください。
少女は魔女狩りを絶対に許しません。
魔女狩りは少女を絶対に生きて帰そうとしません。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年09月11日
2018年09月11日
†メイン参加者 8人†
●異端を吼える
自由騎士達が森に到着する頃、場面はまさに佳境を迎えつつあった。
「追い詰めたぞ、魔女め」
「……ぐ」
森の中でも特に太い木の根元、幹を背にして立つ少女を四人の男が囲んでいる。
少女の手には古びた弓。だが腰の矢筒に矢は残っていない。
「――こ、この!」
だが少女は弓を構えて先頭の男を狙った。
残された僅かな魔力が矢を形成し、男めがけて放たれる。
「無駄なマネを」
しかし、白い頭巾で顔を覆ったその男は避けることもなくその身で矢を受け止めた。
「神の恩寵を賜りし我らに、そんな弱々しい魔導が通じると思ったか」
ホコリを払うが如き所作で、男が頭巾の奥で笑う。
少女はすぐさま身を翻して逃げようとするが、その先には杖を持った白頭巾がいる。
「逃がすと思うか、魔女め」
「魔女め」
「神の敵め」
「罪ある女め」
口々に罵ってくる男達に、少女は感情を爆発させる。
「黙れ! 私だってオラクルだ。神の加護を受けているんだ!」
だが吐いてしまったその言葉は、男達を逆上させるだけだった。
「何という破廉恥な!」
「畏れ多い、畏れ多いぞ!」
「魔女如きが神の加護などと、言うに事欠いて!」
「殺せ、こいつを殺して教会に持っていくぞ!」
もはや自分の死はさだまっている。そう覚悟して、少女は声を大にしてさらに罵った。
「おまえ達は人じゃない! おまえ達は犬だ! 神の犬だ!」
「「光栄至極」」
男達はそれをあっさり受け入れた。ダメだ、言葉が通じない。少女は奥歯を軋ませた。
こんな連中に殺される。こんな場所で殺される。私は――
「そこまでにしてもらおうか!」
新たな声が割り込んできたのは、まさにそのときであった。
少女も、そして頭巾の男達も、揃って驚き辺りを見る。するとすぐに声の主は判明した。
「ここはイラプセルの領土だ。アクアディーネの土地を血で汚すことは許さねーぜ!」
前に出てそう告げたのは、自由騎士が一人『エルローの七色騎士』柊・オルステッド(CL3000152)であった。
「異国のオラクル風情が、何を偉そうに言うか!」
「黙りなさい。私達の国に勝手に入ってきて、自分の理屈が通用すると思わないで!」
叫ぶ頭巾の一人を『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が厳しく叱責する。
「何とも、恰好からして怪しい連中だ。……何者だ?」
『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は頭巾で顔を隠す男達を見るなり、そんな感想を呟いた。見た目だけで判断するならどちらが悪者かは明白だ。
「今のところ何者でも構わねぇさ。ただ、ここで勝手な個とされちゃ困るんでね。詳しい話はあとで聞くから、ちょっと武器を下ろしてくれねぇかい? 悪いようにはしないぜ」
『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が男達に武装解除を勧告する。しかし、頭巾の男達は全くそれに従うそぶりを見せない。
それどころか、
「神民でもない亜人がホザくな! 俺達は準神民だぞ!」
「異神にたぶらかされた愚かな輩め! 俺達の聖務を何と心得ているのか!」
彼らは威風堂々と、自分こそが正しいという態度を見せつけてくるのだった。
「我々はこの国の自由騎士なのだがな。糾弾されるべきはどちらか、考えてみよ」
『揺れる豊穣の大地』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が呆れた風に言う。
そんな彼女の姿を見て、男達の間にザワめきが起きた。
「見ろ、キジンだ……」
「異端」
「異端だ……!」
男達の反応は明らかに過敏であった。
自由騎士達はワケが分からず互いに顔を見合わせる。直後、
「殺せ!」
杖を持った男が言った。
「異端の分際で騎士だと、何という邪悪な! 殺せ、不浄をここで清めよ!」
「殺せ、異端を殺せ! 異端の分際で我ら準神民に逆らうなど、我が神への冒涜だ!」
「殺せ、殺して清めよ! 我らの手で不浄の罪を祓うのだ!」
もはや、交渉どころではなかった。
「あれ、これワシのせい?」
「いや、どのみち似たようなことにはなってたと思うぜ」
さすがに焦るシノピリカを、ウェルスがフォローした。
少し話しただけだが、男達の異様なまでの頑迷さは明らかだった。
言葉こそ通じるが、まともな会話は成立しなかっただろう。
ならばこの展開は当然のことといえた。
「せめて、あっちの女の子は確保しないとね!」
ライフルを手に、アンネリーザが戦闘用の位置取りをしようとする。
「殺せ、罪ある者共を殺せ!」
夜に沈む森の中、狂信者の叫びがこだまして、戦いは始まった。
●我が神の敵
「死ね、異端が!」
戦いは銃声から始まった。
頭巾をかぶったガンナーが、シノピリカめがけて銃を撃ったのだ。
「撃ってきおったな!」
弾丸を己の義手で何とか弾き、彼女は愛用のサーベルを構えた。
成り行きはどうあれ先に手を出したのは敵方である。これで自由騎士側も手を出しやすくなった。
ゆえに――
「ちょうど、待つのに飽きてたところなのよね」
声は男達の頭上から聞こえてきた。
「何!?」
枝の上から飛び降りてきたのは、ソラビトの少女――エル・エル(CL3000370)であった。
飛び降り、そして杖を持った頭巾の背後に立った彼女は空に魔力の文字を描く。
魔文字によって導かれた炎が頭巾の男を直撃し、数秒、派手に燃え上がった。
「驚かせるな!」
「なっ」
エルは目を見張る。
頭巾の男は、ほとんどダメージを受けた様子もなく、殴りかかってきたのだ。
魔導が、通用しない?
「魔導はダメ! こいつらは、ミトラースの権能に守られているから!」
弓の少女の叫びを聞いて、自由騎士達は異国の神の力の一端を知る。
シャンバラを統べし神ミトラース。
その権能は、どうやら魔導に対する耐性を高める効果があるらしい。
「それを知ることができれば、やりようはいくらでもありますね」
遮蔽より、隠れていた『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)が飛び出してくる。
狙いは、エルと同じく杖を持った頭巾。
治癒を担当しているのだろうと見当をつけたカスカが、疾風の一閃を繰りだした。
「くぁっ!?」
男の鋭い悲鳴。
立て続けに不意を打たれ、杖の頭巾は全く反応できなかった。
「おのれ、我らは準神民だぞ!」
苦し紛れに男は叫んだ。だが、弓の少女が弱い声でそれを笑う。
「何が、準神民よ……。古式の機械に頼らなきゃ戦えない、下級民のくせに……」
少女が見ているのは、頭巾の一人が手にしているライフルだった。
「言ったな、罪ある女め! 魔女めが……!」
「我らを愚弄するとは……」
「許すまじ。決して許すまじ!」
少女の指摘が図星だったか、頭巾の男達が激昂する。
その一人、長剣を持った頭巾が凄まじい速度でエルめがけて斬りかかろうとした。
「おおっと、そうはいかないぜ!」
しかし、それを前に出たマリア・スティール(CL3000004)が身を挺してガード!
弓の少女の近くに控えていたマリアは男の一撃を受け止め、流そうとする。
「ぐっ!」
だが声がした。
エルの声である。攻撃が届いていないはずの彼女の腕に、浅い傷が走っていた。
「何だと!?」
奇ッ怪。攻撃は防いだはずだが、防げていなかった。いや、防げていた。
ならば何故。
だが残る頭巾の男達が次々に動き出す。
この状況下で考えるヒマなどあるはずがなかった。
「ぬおおおおおお!」
大柄な頭巾が、手にした斧を思い切りよく振り回してきた。
狙っているのは変わらずシノピリカだ。しかし、マークしていたオルステッドが阻む。
「させねぇよ!」
阻んだ。そのはずだった。斧の一撃を、彼女は己の武器で受けたのだ。
「うぐぁ!」
だが激突音と共にシノピリカの悲鳴が聞こえた。
驚いてオルステッドが振り向けば、そこには不意を打たれて転がるシノピリカがいた。
馬鹿な。防いだ。阻んだはずだ。それなのに、何故!
「おお、尊きミトラースよ!」
「我らが神、ただ一つなるミトラースよ! 我らに力を!」
男達は叫びながら、攻勢を強め始める。
自由騎士達は戸惑った。防いでも防げない。阻んでも阻めない。
明らかに、今の自分達には理解できない現象が起きている。
「――権能。これもミトラースの権能なのか!?」
敵の能力をスキャンしたリュリュが、その事実に驚愕する。
どのような権能か、詳しくは分からないが、ミトラースの権能の一端であるらしい。
「我らが神の御力を思い知れ、異郷の卑族共!」
「タネが割れれば、こっちだって!」
向かい合う、二人の射手。
敵方とアンネリーザと、ライフルを持った二人が同時に引き金を引く。
銃声は重なり、後方に控えていたウェルスとアンネリーザが同時に痛みを覚えた。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
しかし、悲鳴は男のもの。一発の威力は、アンネリーザの方に上だったようだ。
またウェルスが舌を打った。
「ダメージが深いヤツ、我慢してないで声を出してくれ!」
取り急ぎ、自分ではなくアンネリーザに治癒の魔導を施して彼は叫ぶ。
混乱は、思いのほか戦況に大きく影を落としていた。
これがまだ戦いの素人であったならば、数の差があろうとも頭巾たちはさらに勢いに乗っただろう。
しかしそこは自由騎士、まだ浅いながらも大きな修羅場をくぐっている。
「考えるのはやめだ、とにかくこの場をどうにかすんぞ!」
マリアが拳をガキンと打ち合わせた。
「我らの邪魔をするか、ならば貴様らも神敵だ! 我らが神の道を阻む邪悪共め!」
叫ぶライフルの頭巾に、だが叫び返したのはエルだった。
「女の子一人に寄ってたかって暴力を振るう連中が、えらそうなこと言わないで!」
「そいつは魔女だ! 捕らえるべき邪悪だ!」
「うぅ……」
がなる男に指を突き付けられて、弓の少女は身を縮こまらせた。
先ほどまでの威勢はすっかりなくなっている。体力が尽きかけているのだろう。
「息巻いているところ申し訳ありませんが――」
刀を構えたカスカが、少女の前に立つ。
「刃を交えならば、何人たりとも敵畜生。何を言われようともそれは揺るぎませんので」
「我らを畜生と罵るか!」
きっぱりと言い切ったカスカに、頭巾の男達は憤慨した。
しかしそれを、シノピリカがさらに続けて切り捨てる。
「我らが領地に踏み込んでの狼藉の数々、お主らこそが我らが神の敵であろうに!」
「抜かせ! 神とはミトラース! 天に一つなるミトラースのみ!」
いくら言葉を交わそうとも、自由騎士と魔女狩りは決して相容れない。
ただそれを確かめ合うだけの不毛な会話。
そして終われば待っているのは、刃を用いた激突のみ。
「イ・ラプセル自由騎士団、我が神アクアディーネの名において責務を執行する!」
●戦いは終わって
敵の権能の正体が知れない。
だから自由騎士達は、いっそそれを無視することにした。
「敵の攻撃は防げない! だから、一気に潰しちまえ!」
「承知!」
マリアの叫びに応じ、シノピリカが武器を思い切り地面に叩きつけた。
吹き上げた土砂が、長剣と斧の頭巾を巻き込んで吹き飛ばす。
「異端め、異端めェェェェェェェェェ!」
見ていたライフルの頭巾が憤怒も露わに怒鳴り散らした。
彼らにしてみると、シノピリカ達キジンというのはよほど許せない存在であるらしい。
しかし激情に駆られているからこそ、男達の視野は狭くなる。
「隙だらけよ!」
「しまっ――!?」
だが遅く、アンネリーザの狙撃に男は肩を撃ち抜かれた。
「おい、大丈夫か!」
杖を持った頭巾が駆け寄ろうとするが、いきなり現れた動く骸骨がそれを邪魔する。
「スパルトイ……、猪口才な!」
「思い通りにさせるわけがないだろう?」
空を舞うリュリュが、男を見下ろして言った。
「チクショウがァァァァァァァァァァァ!」
斧の頭巾が獲物をシノピリカに叩きつけた。
シノピリカはそれを何とか受けきるも、近くにいたオルステッドが衝撃に吹き飛ぶ。
「こ、の……!」
だが耐えきった。来ると分かっていれば、それは堪えられるのだ。
「痛ェじゃねぇか!」
反撃とばかりのオルステッドの瞬速剣舞。躍る刃が斧の頭巾の脇腹を切り裂いた。
「うごォォォ!?」
痛みを耐えきれず、斧の頭巾がその場に崩れ落ちた。無論、死んではいない。
「チィッ!」
長剣の頭巾が苛立たしげに舌を打ち、オルステッドを狙おうとする。
「思い通りにはさせないって、言ったわ!」
しかし閃く炎の魔文字。
それは頭巾たちにはさしたるダメージは与えられない。だが、牽制程度にはなる。
「うお!?」
驚き、体勢を崩した長剣の頭巾へ立て続けに二発、肩と太ももに弾丸がめり込んだ。
「――俺だってこの程度のことはできるんだぜ?」
ウェルスであった。
「ぐがあああああああああああああ!」
長剣の頭巾もまた激痛からのたうち回る。その姿を見て、カスカは確信した。
「戦い慣れていませんね?」
「……チッ!」
杖の頭巾がその言葉に顔を背ける。間違いなく、図星であった。
戦うすべは心得ながらも、自分達を追い込むような敵と戦った経験はほとんどない。
男達の戦い方はその事実を暗に示していた。
「そろそろ、観念したらどう?」
追い詰められた頭巾の男達に、アンネリーザが降伏勧告をする。
すでに、男達は自由騎士に囲まれている状況だった。
仮に自殺を選ぼうとしても、それより早く自由騎士達は彼らを取り押さえるだろう。
――詰んでいる。
男達も、それは理解したらしい。彼らは揃って武器を下ろした。
「よし、じゃあまずは近くの街まで――」
言いかけた、直後であった。
「避けて!」
弓の少女が叫んだ。声を向けられたのは、マリア!
「な、こなくそ!」
マリアは身をひねってその場から飛び退く。直後、炎の魔文字がそこに炸裂した。
「いたぞ! あそこだ!」
この場にいる、誰のものでもない声。
自由騎士達が振り向けば、そこには新たな頭巾の男達が数人、いや、足音はさらに多い。
四人だけではなかったのだ。
「来てくれたか!」
ライフルの頭巾が歓喜の声をあげた。
自由騎士達は思わぬ増援に浮足立ってしまう。
「まさか、こいつらは先遣隊でしかなかったのか!?」
驚くリュリュを突き飛ばし、斧と長剣の男が走り出した。
「邪悪なる神敵共、この痛みは忘れん。忘れんぞ!」
「おい、逃げるでない!」
シノピリカが逃げる頭巾を追おうとする。しかし、その足元に銃弾が撃ち込まれた。
敵の気配は次々と増えていく。
夜の闇ではっきりとは分からないが、かなりの人数だ。
下手をすれば、こちらが包囲殲滅されかねない。
その危惧が、自由騎士達をその場に縛り付けてしまう。
結果、頭巾の男達は逃げることに成功した。
足音と気配が徐々に遠ざかっていく。今から追いかけても無駄だろう。
「……やられたな」
夜の森に静寂が戻ってくる。
あの頭巾の男達は、四人であったならばこの場にいる自由騎士達で制圧できただろう。
しかし、海を渡ってきたのは四人だけではなかった。
おそらくは数十人規模。それだけの魔女狩りが、このイ・ラプセルの地を踏んだのだ。
間違いなく、大事件である。
それでも――
「だが、こっちも間に合ってよかったかな」
言うリュリュの視線の先には、木の根元に座り込んでいる弓の少女がいた。
妙にとがった耳を持つ少女をいたわるようにして、自由騎士は手を差し伸べた。
「名前を、教えてくれんか?」
シノピリカに尋ねられて、少女は弱々しくかすれた声で答えた。
「……マリアンナ」
自由騎士達が森に到着する頃、場面はまさに佳境を迎えつつあった。
「追い詰めたぞ、魔女め」
「……ぐ」
森の中でも特に太い木の根元、幹を背にして立つ少女を四人の男が囲んでいる。
少女の手には古びた弓。だが腰の矢筒に矢は残っていない。
「――こ、この!」
だが少女は弓を構えて先頭の男を狙った。
残された僅かな魔力が矢を形成し、男めがけて放たれる。
「無駄なマネを」
しかし、白い頭巾で顔を覆ったその男は避けることもなくその身で矢を受け止めた。
「神の恩寵を賜りし我らに、そんな弱々しい魔導が通じると思ったか」
ホコリを払うが如き所作で、男が頭巾の奥で笑う。
少女はすぐさま身を翻して逃げようとするが、その先には杖を持った白頭巾がいる。
「逃がすと思うか、魔女め」
「魔女め」
「神の敵め」
「罪ある女め」
口々に罵ってくる男達に、少女は感情を爆発させる。
「黙れ! 私だってオラクルだ。神の加護を受けているんだ!」
だが吐いてしまったその言葉は、男達を逆上させるだけだった。
「何という破廉恥な!」
「畏れ多い、畏れ多いぞ!」
「魔女如きが神の加護などと、言うに事欠いて!」
「殺せ、こいつを殺して教会に持っていくぞ!」
もはや自分の死はさだまっている。そう覚悟して、少女は声を大にしてさらに罵った。
「おまえ達は人じゃない! おまえ達は犬だ! 神の犬だ!」
「「光栄至極」」
男達はそれをあっさり受け入れた。ダメだ、言葉が通じない。少女は奥歯を軋ませた。
こんな連中に殺される。こんな場所で殺される。私は――
「そこまでにしてもらおうか!」
新たな声が割り込んできたのは、まさにそのときであった。
少女も、そして頭巾の男達も、揃って驚き辺りを見る。するとすぐに声の主は判明した。
「ここはイラプセルの領土だ。アクアディーネの土地を血で汚すことは許さねーぜ!」
前に出てそう告げたのは、自由騎士が一人『エルローの七色騎士』柊・オルステッド(CL3000152)であった。
「異国のオラクル風情が、何を偉そうに言うか!」
「黙りなさい。私達の国に勝手に入ってきて、自分の理屈が通用すると思わないで!」
叫ぶ頭巾の一人を『梟の帽子屋』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が厳しく叱責する。
「何とも、恰好からして怪しい連中だ。……何者だ?」
『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は頭巾で顔を隠す男達を見るなり、そんな感想を呟いた。見た目だけで判断するならどちらが悪者かは明白だ。
「今のところ何者でも構わねぇさ。ただ、ここで勝手な個とされちゃ困るんでね。詳しい話はあとで聞くから、ちょっと武器を下ろしてくれねぇかい? 悪いようにはしないぜ」
『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が男達に武装解除を勧告する。しかし、頭巾の男達は全くそれに従うそぶりを見せない。
それどころか、
「神民でもない亜人がホザくな! 俺達は準神民だぞ!」
「異神にたぶらかされた愚かな輩め! 俺達の聖務を何と心得ているのか!」
彼らは威風堂々と、自分こそが正しいという態度を見せつけてくるのだった。
「我々はこの国の自由騎士なのだがな。糾弾されるべきはどちらか、考えてみよ」
『揺れる豊穣の大地』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が呆れた風に言う。
そんな彼女の姿を見て、男達の間にザワめきが起きた。
「見ろ、キジンだ……」
「異端」
「異端だ……!」
男達の反応は明らかに過敏であった。
自由騎士達はワケが分からず互いに顔を見合わせる。直後、
「殺せ!」
杖を持った男が言った。
「異端の分際で騎士だと、何という邪悪な! 殺せ、不浄をここで清めよ!」
「殺せ、異端を殺せ! 異端の分際で我ら準神民に逆らうなど、我が神への冒涜だ!」
「殺せ、殺して清めよ! 我らの手で不浄の罪を祓うのだ!」
もはや、交渉どころではなかった。
「あれ、これワシのせい?」
「いや、どのみち似たようなことにはなってたと思うぜ」
さすがに焦るシノピリカを、ウェルスがフォローした。
少し話しただけだが、男達の異様なまでの頑迷さは明らかだった。
言葉こそ通じるが、まともな会話は成立しなかっただろう。
ならばこの展開は当然のことといえた。
「せめて、あっちの女の子は確保しないとね!」
ライフルを手に、アンネリーザが戦闘用の位置取りをしようとする。
「殺せ、罪ある者共を殺せ!」
夜に沈む森の中、狂信者の叫びがこだまして、戦いは始まった。
●我が神の敵
「死ね、異端が!」
戦いは銃声から始まった。
頭巾をかぶったガンナーが、シノピリカめがけて銃を撃ったのだ。
「撃ってきおったな!」
弾丸を己の義手で何とか弾き、彼女は愛用のサーベルを構えた。
成り行きはどうあれ先に手を出したのは敵方である。これで自由騎士側も手を出しやすくなった。
ゆえに――
「ちょうど、待つのに飽きてたところなのよね」
声は男達の頭上から聞こえてきた。
「何!?」
枝の上から飛び降りてきたのは、ソラビトの少女――エル・エル(CL3000370)であった。
飛び降り、そして杖を持った頭巾の背後に立った彼女は空に魔力の文字を描く。
魔文字によって導かれた炎が頭巾の男を直撃し、数秒、派手に燃え上がった。
「驚かせるな!」
「なっ」
エルは目を見張る。
頭巾の男は、ほとんどダメージを受けた様子もなく、殴りかかってきたのだ。
魔導が、通用しない?
「魔導はダメ! こいつらは、ミトラースの権能に守られているから!」
弓の少女の叫びを聞いて、自由騎士達は異国の神の力の一端を知る。
シャンバラを統べし神ミトラース。
その権能は、どうやら魔導に対する耐性を高める効果があるらしい。
「それを知ることができれば、やりようはいくらでもありますね」
遮蔽より、隠れていた『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)が飛び出してくる。
狙いは、エルと同じく杖を持った頭巾。
治癒を担当しているのだろうと見当をつけたカスカが、疾風の一閃を繰りだした。
「くぁっ!?」
男の鋭い悲鳴。
立て続けに不意を打たれ、杖の頭巾は全く反応できなかった。
「おのれ、我らは準神民だぞ!」
苦し紛れに男は叫んだ。だが、弓の少女が弱い声でそれを笑う。
「何が、準神民よ……。古式の機械に頼らなきゃ戦えない、下級民のくせに……」
少女が見ているのは、頭巾の一人が手にしているライフルだった。
「言ったな、罪ある女め! 魔女めが……!」
「我らを愚弄するとは……」
「許すまじ。決して許すまじ!」
少女の指摘が図星だったか、頭巾の男達が激昂する。
その一人、長剣を持った頭巾が凄まじい速度でエルめがけて斬りかかろうとした。
「おおっと、そうはいかないぜ!」
しかし、それを前に出たマリア・スティール(CL3000004)が身を挺してガード!
弓の少女の近くに控えていたマリアは男の一撃を受け止め、流そうとする。
「ぐっ!」
だが声がした。
エルの声である。攻撃が届いていないはずの彼女の腕に、浅い傷が走っていた。
「何だと!?」
奇ッ怪。攻撃は防いだはずだが、防げていなかった。いや、防げていた。
ならば何故。
だが残る頭巾の男達が次々に動き出す。
この状況下で考えるヒマなどあるはずがなかった。
「ぬおおおおおお!」
大柄な頭巾が、手にした斧を思い切りよく振り回してきた。
狙っているのは変わらずシノピリカだ。しかし、マークしていたオルステッドが阻む。
「させねぇよ!」
阻んだ。そのはずだった。斧の一撃を、彼女は己の武器で受けたのだ。
「うぐぁ!」
だが激突音と共にシノピリカの悲鳴が聞こえた。
驚いてオルステッドが振り向けば、そこには不意を打たれて転がるシノピリカがいた。
馬鹿な。防いだ。阻んだはずだ。それなのに、何故!
「おお、尊きミトラースよ!」
「我らが神、ただ一つなるミトラースよ! 我らに力を!」
男達は叫びながら、攻勢を強め始める。
自由騎士達は戸惑った。防いでも防げない。阻んでも阻めない。
明らかに、今の自分達には理解できない現象が起きている。
「――権能。これもミトラースの権能なのか!?」
敵の能力をスキャンしたリュリュが、その事実に驚愕する。
どのような権能か、詳しくは分からないが、ミトラースの権能の一端であるらしい。
「我らが神の御力を思い知れ、異郷の卑族共!」
「タネが割れれば、こっちだって!」
向かい合う、二人の射手。
敵方とアンネリーザと、ライフルを持った二人が同時に引き金を引く。
銃声は重なり、後方に控えていたウェルスとアンネリーザが同時に痛みを覚えた。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
しかし、悲鳴は男のもの。一発の威力は、アンネリーザの方に上だったようだ。
またウェルスが舌を打った。
「ダメージが深いヤツ、我慢してないで声を出してくれ!」
取り急ぎ、自分ではなくアンネリーザに治癒の魔導を施して彼は叫ぶ。
混乱は、思いのほか戦況に大きく影を落としていた。
これがまだ戦いの素人であったならば、数の差があろうとも頭巾たちはさらに勢いに乗っただろう。
しかしそこは自由騎士、まだ浅いながらも大きな修羅場をくぐっている。
「考えるのはやめだ、とにかくこの場をどうにかすんぞ!」
マリアが拳をガキンと打ち合わせた。
「我らの邪魔をするか、ならば貴様らも神敵だ! 我らが神の道を阻む邪悪共め!」
叫ぶライフルの頭巾に、だが叫び返したのはエルだった。
「女の子一人に寄ってたかって暴力を振るう連中が、えらそうなこと言わないで!」
「そいつは魔女だ! 捕らえるべき邪悪だ!」
「うぅ……」
がなる男に指を突き付けられて、弓の少女は身を縮こまらせた。
先ほどまでの威勢はすっかりなくなっている。体力が尽きかけているのだろう。
「息巻いているところ申し訳ありませんが――」
刀を構えたカスカが、少女の前に立つ。
「刃を交えならば、何人たりとも敵畜生。何を言われようともそれは揺るぎませんので」
「我らを畜生と罵るか!」
きっぱりと言い切ったカスカに、頭巾の男達は憤慨した。
しかしそれを、シノピリカがさらに続けて切り捨てる。
「我らが領地に踏み込んでの狼藉の数々、お主らこそが我らが神の敵であろうに!」
「抜かせ! 神とはミトラース! 天に一つなるミトラースのみ!」
いくら言葉を交わそうとも、自由騎士と魔女狩りは決して相容れない。
ただそれを確かめ合うだけの不毛な会話。
そして終われば待っているのは、刃を用いた激突のみ。
「イ・ラプセル自由騎士団、我が神アクアディーネの名において責務を執行する!」
●戦いは終わって
敵の権能の正体が知れない。
だから自由騎士達は、いっそそれを無視することにした。
「敵の攻撃は防げない! だから、一気に潰しちまえ!」
「承知!」
マリアの叫びに応じ、シノピリカが武器を思い切り地面に叩きつけた。
吹き上げた土砂が、長剣と斧の頭巾を巻き込んで吹き飛ばす。
「異端め、異端めェェェェェェェェェ!」
見ていたライフルの頭巾が憤怒も露わに怒鳴り散らした。
彼らにしてみると、シノピリカ達キジンというのはよほど許せない存在であるらしい。
しかし激情に駆られているからこそ、男達の視野は狭くなる。
「隙だらけよ!」
「しまっ――!?」
だが遅く、アンネリーザの狙撃に男は肩を撃ち抜かれた。
「おい、大丈夫か!」
杖を持った頭巾が駆け寄ろうとするが、いきなり現れた動く骸骨がそれを邪魔する。
「スパルトイ……、猪口才な!」
「思い通りにさせるわけがないだろう?」
空を舞うリュリュが、男を見下ろして言った。
「チクショウがァァァァァァァァァァァ!」
斧の頭巾が獲物をシノピリカに叩きつけた。
シノピリカはそれを何とか受けきるも、近くにいたオルステッドが衝撃に吹き飛ぶ。
「こ、の……!」
だが耐えきった。来ると分かっていれば、それは堪えられるのだ。
「痛ェじゃねぇか!」
反撃とばかりのオルステッドの瞬速剣舞。躍る刃が斧の頭巾の脇腹を切り裂いた。
「うごォォォ!?」
痛みを耐えきれず、斧の頭巾がその場に崩れ落ちた。無論、死んではいない。
「チィッ!」
長剣の頭巾が苛立たしげに舌を打ち、オルステッドを狙おうとする。
「思い通りにはさせないって、言ったわ!」
しかし閃く炎の魔文字。
それは頭巾たちにはさしたるダメージは与えられない。だが、牽制程度にはなる。
「うお!?」
驚き、体勢を崩した長剣の頭巾へ立て続けに二発、肩と太ももに弾丸がめり込んだ。
「――俺だってこの程度のことはできるんだぜ?」
ウェルスであった。
「ぐがあああああああああああああ!」
長剣の頭巾もまた激痛からのたうち回る。その姿を見て、カスカは確信した。
「戦い慣れていませんね?」
「……チッ!」
杖の頭巾がその言葉に顔を背ける。間違いなく、図星であった。
戦うすべは心得ながらも、自分達を追い込むような敵と戦った経験はほとんどない。
男達の戦い方はその事実を暗に示していた。
「そろそろ、観念したらどう?」
追い詰められた頭巾の男達に、アンネリーザが降伏勧告をする。
すでに、男達は自由騎士に囲まれている状況だった。
仮に自殺を選ぼうとしても、それより早く自由騎士達は彼らを取り押さえるだろう。
――詰んでいる。
男達も、それは理解したらしい。彼らは揃って武器を下ろした。
「よし、じゃあまずは近くの街まで――」
言いかけた、直後であった。
「避けて!」
弓の少女が叫んだ。声を向けられたのは、マリア!
「な、こなくそ!」
マリアは身をひねってその場から飛び退く。直後、炎の魔文字がそこに炸裂した。
「いたぞ! あそこだ!」
この場にいる、誰のものでもない声。
自由騎士達が振り向けば、そこには新たな頭巾の男達が数人、いや、足音はさらに多い。
四人だけではなかったのだ。
「来てくれたか!」
ライフルの頭巾が歓喜の声をあげた。
自由騎士達は思わぬ増援に浮足立ってしまう。
「まさか、こいつらは先遣隊でしかなかったのか!?」
驚くリュリュを突き飛ばし、斧と長剣の男が走り出した。
「邪悪なる神敵共、この痛みは忘れん。忘れんぞ!」
「おい、逃げるでない!」
シノピリカが逃げる頭巾を追おうとする。しかし、その足元に銃弾が撃ち込まれた。
敵の気配は次々と増えていく。
夜の闇ではっきりとは分からないが、かなりの人数だ。
下手をすれば、こちらが包囲殲滅されかねない。
その危惧が、自由騎士達をその場に縛り付けてしまう。
結果、頭巾の男達は逃げることに成功した。
足音と気配が徐々に遠ざかっていく。今から追いかけても無駄だろう。
「……やられたな」
夜の森に静寂が戻ってくる。
あの頭巾の男達は、四人であったならばこの場にいる自由騎士達で制圧できただろう。
しかし、海を渡ってきたのは四人だけではなかった。
おそらくは数十人規模。それだけの魔女狩りが、このイ・ラプセルの地を踏んだのだ。
間違いなく、大事件である。
それでも――
「だが、こっちも間に合ってよかったかな」
言うリュリュの視線の先には、木の根元に座り込んでいる弓の少女がいた。
妙にとがった耳を持つ少女をいたわるようにして、自由騎士は手を差し伸べた。
「名前を、教えてくれんか?」
シノピリカに尋ねられて、少女は弱々しくかすれた声で答えた。
「……マリアンナ」
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
遅れてしまい大変申し訳ありませんでした!
地震、大変でしたねー。
何とか諸々復旧して、ようやく仕上げることができました。
謎の弓の少女マリアンナちゃんの確保成功です。
これからにつきましては、今後の展開をお待ちください!
お疲れさまでした!
地震、大変でしたねー。
何とか諸々復旧して、ようやく仕上げることができました。
謎の弓の少女マリアンナちゃんの確保成功です。
これからにつきましては、今後の展開をお待ちください!
お疲れさまでした!
FL送付済