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人込みの中に潜む小さな?危険

「兄貴、大量ですぜ!」
人気のない路地裏で、怪しいローブを纏った男が広げたのは無数の財布。中身を抜き取ると兄貴と呼ばれた男は財布を品定めして、いくつかのグループに分けていく。
「こっちは売れるな。こっちは燃やしておけ、盗んだ証拠になっちまったら面倒だ」
「へい」
ゲスゲスした笑みを浮かべる弟分はそれぞれを別の袋にしまうと、雑踏の中に紛れていく。その背を見送ったもう一人の男は、金を数えて長いため息を溢した。
「もう少しだ……もう少しで……」
「という具合に、市場で盗人が出たそうです」
集まった自由騎士に事の次第を説明するアイリスに、何故騎士団に言わないのか。というのは愚問である。だって騎士がいたら普通に分かるから、そもそも盗人が動かないやん。
「皆さまは往来の人々に混じってお買い物をして、さも一般人です、という雰囲気を醸し出してください。どうやらこの盗人は襲う相手を選ぶらしく、お金を持っていて、かつ盗まれてもすぐには気づかない買い物客ばかりを狙っているようなのです」
ちょっと生活に余裕のある老人とか、家族が多くて一度にたくさん買うから視界が悪くなったり両手が塞がったりする主婦とか、盗まれてもすぐには気づけないか、気づいても動けない人ばかりがターゲットにされるんだとか。
「意図的に囮になる必要はありませんが、ちょっと鈍そうな雰囲気を出していると盗人が釣れるかもしれませんが、やりすぎて対応が遅れてしまっては意味がありませんからね」
めっ! と念押しするアイリスの幻覚が背後に見えるが、本人はあくまでも、人形の如く微動だにしない。
「それでは皆さま、ご武運を」
送り出された自由騎士達は早速市場に向かおうとして、鎧を着ていた自由騎士だけまずは私服になるべく家に帰るのだった。
人気のない路地裏で、怪しいローブを纏った男が広げたのは無数の財布。中身を抜き取ると兄貴と呼ばれた男は財布を品定めして、いくつかのグループに分けていく。
「こっちは売れるな。こっちは燃やしておけ、盗んだ証拠になっちまったら面倒だ」
「へい」
ゲスゲスした笑みを浮かべる弟分はそれぞれを別の袋にしまうと、雑踏の中に紛れていく。その背を見送ったもう一人の男は、金を数えて長いため息を溢した。
「もう少しだ……もう少しで……」
「という具合に、市場で盗人が出たそうです」
集まった自由騎士に事の次第を説明するアイリスに、何故騎士団に言わないのか。というのは愚問である。だって騎士がいたら普通に分かるから、そもそも盗人が動かないやん。
「皆さまは往来の人々に混じってお買い物をして、さも一般人です、という雰囲気を醸し出してください。どうやらこの盗人は襲う相手を選ぶらしく、お金を持っていて、かつ盗まれてもすぐには気づかない買い物客ばかりを狙っているようなのです」
ちょっと生活に余裕のある老人とか、家族が多くて一度にたくさん買うから視界が悪くなったり両手が塞がったりする主婦とか、盗まれてもすぐには気づけないか、気づいても動けない人ばかりがターゲットにされるんだとか。
「意図的に囮になる必要はありませんが、ちょっと鈍そうな雰囲気を出していると盗人が釣れるかもしれませんが、やりすぎて対応が遅れてしまっては意味がありませんからね」
めっ! と念押しするアイリスの幻覚が背後に見えるが、本人はあくまでも、人形の如く微動だにしない。
「それでは皆さま、ご武運を」
送り出された自由騎士達は早速市場に向かおうとして、鎧を着ていた自由騎士だけまずは私服になるべく家に帰るのだった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.スリの捕縛
真面目な依頼かと思った?
残念! 残念の残念な残念依頼でした!!
まずは休日をお楽しみください
市場で買い食いしたり、ちょっと珍しい物を見たり……
そんな感じで日常を楽しんでいると、近くで、もしくは皆さま本人がスリの被害に遭います
そこで盗人をとっ捕まえるという鬼ごっこな依頼です
なお、盗人は追い詰めると向かい合ってきますが、数は二人
片方は短剣、片方はスリンガー(パチンコって言った方がいい?)を持っていて、前後に分かれるようです
流れは休日、鬼ごっこ、戦闘になることが予想されます
ではでは、皆さまの色んな側面が見られるプレイングに期待してお待ちしております
残念! 残念の残念な残念依頼でした!!
まずは休日をお楽しみください
市場で買い食いしたり、ちょっと珍しい物を見たり……
そんな感じで日常を楽しんでいると、近くで、もしくは皆さま本人がスリの被害に遭います
そこで盗人をとっ捕まえるという鬼ごっこな依頼です
なお、盗人は追い詰めると向かい合ってきますが、数は二人
片方は短剣、片方はスリンガー(パチンコって言った方がいい?)を持っていて、前後に分かれるようです
流れは休日、鬼ごっこ、戦闘になることが予想されます
ではでは、皆さまの色んな側面が見られるプレイングに期待してお待ちしております
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
5個
1個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年03月30日
2019年03月30日
†メイン参加者 8人†
●自由騎士の休息
「おじさん! ボク苺で!!」
「えっと……じゃあ俺も同じの!」
「はいよぉ」
『おうじょのともだち』シア・ウィルナーグ(CL3000028)と『刃狗』篁・三十三(CL3000014)の注文に、屋台を出していたクレープ屋のオッサンはゆっくりと、しかし手際よく薄く生地を伸ばす。
「ところでクレープって何?」
「んとねー、果物とか生クリームを薄い生地で包んであって……」
できあがるまで言葉を交わす二人。晴れたある日の市場の中、人々の行きかう道を、はぐれぬように手を繋いでぶんぶん振りながら、クレープ片手にお子さま二人は露店を冷やかし回る。おかしい、幼いって程の歳ではないはずなのだが……。
「あら、今年の流行の形ね! ねえ、色違いはないの?」
シアと三十三が足を止めた人だかりの向こうで、ヴァイオラ・ダンヒル(CL3000386)がアクセサリを選んでいた。で、なーんでここで人だかりなんぞができていたかと言うと。
「そうよね……この服にはこっちよね……」
白のブラウスに青のスカート、ブラウンの編み上げブーツにシロツメクサの耳飾りをアクセントにしたかと思えば。
「あぁ、でもこれだとちょっとはためくから……」
赤いパンツに黒のトップで白のヒールを合わせて、胸元に金細工の首飾りを煌めかせてみたり。
「逆に子どもっぽくして見ても……」
縞柄のシャツにオーバーオール、革靴にハンチング帽をやや目深に被って……等々、店先でファッションショーやり始めたからだったりする。
「迷ってしまうわね。店員さん、あなたのご意見も聞かせて頂戴」
「そんなそんな、恐れ多いです……」
自分の身に着ける物にはとことんこだわるヴァイオラに、むしろ店員の方が押されてしまって、気が付けば見物客が集まる始末。
「真面目にやってた方が馬鹿を見るってやつ、わたし大嫌いでして。真面目ぶった思考停止者はどうでもいいとしても騙される、盗まれる方が悪いとかの論調は万死に値千金じゃねーですか?」
ねっ!? と同意を求めるコジマ・キスケ(CL3000206)だが、隣には誰もおらず、通りがかった少年が可哀想な人を見る目で薄く微笑み、パン屋の中へ消えていった。
「ユリカさぁああああん!?」
ヴァイオラのファッションショーに釣られて止まっていたユリカ・マイ(CL3000516)の所までツカツカと足早に戻り、真っ赤になったコジマは両手を握って。
「なんで一緒に歩いててくれないんですか!? ずっと隣にいると思ってて、恥ずかしい思いしたじゃないですかー!!」
「あ、すみません。なんの集まりかなって、気になってしまって……あ、あれは何でしょう?」
謝ったそばから、路上の大道芸に誘引されていくユリカだったが、シアと三十三がすれ違い、鼻をクンクン。
「こちらからは甘い香りが! あの行列は!?」
「……って、おのぼりさんかい!?」
近くの喫茶店へ続く行列の先を見ようと、左右に体を揺らして視点を変えるユリカにツッコミを入れて、コジマがため息。
「はぁあああぁあん」
ため息とも艶めかしい吐息ともつかぬものを垂れ流しにして、『あるくじゅうはちきん』ローラ・オルグレン(CL3000210)は自分の頬をぺちぺち。とろんとした視線を軒先を連ねる露天に流し、やや薄暗い店へと入る。
「あれぇ、珍しいねぇ?」
「……まぁな」
寡黙な店員に、馴れ馴れしく話しかけるローラ。もちろんこの店は怪しい店などではなく。
「香水が傷むからってぇ、明るい所にはお店出さないのにぃ」
ちょっと拘るお店だった。
「あ、新作出てるぅ!」
「……おい」
財布を取り出したローラに、店員は射抜くような目を向けて。
「ここ最近、スリがうろついてるらしい。そんな腑抜けたツラ晒して財布見せびらかしてたら、持ってかれるぞ」
「えーそうかなぁ?」
小首を傾げ、ローラは妖しく微笑んだ。
「ほらぁ、同じ穴の『ワンちゃん』、みたいなぁ? ローラ、そこまで油断しないよぉ」
ふざけた言い回しに、何かを察した店員は首を揺らして。
「踏み込むなら、覚悟はしておけ」
「どういう事ぉ?」
ローラに一つ、二つ告げると一番できのいい香水を押し付け、店員はそれ以上は何も語ろうとはしなかった。
「……」
コツリ、コツリ、『演技派』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は革靴の踵を鳴らし、市場の喧騒に潜むように進む。折角の休日に、血のつながらない姉に説教される為、普段は吸えない葉巻に火をつけようとして、横をクレープを手にした子ども達が駆け抜けていく。その甲高い笑い声に葉巻を見下ろし、そっと箱に戻した。
「えぇと、あとは……」
両腕で紙袋を抱えて、中身と買い物メモを照らし合わせながら歩く『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。時折荷物を持ち直しながら歩く彼女と、肩がぶつかる男が一人。
「失礼、大丈夫ですか?」
「えぇ、こちらこそすみません。思ったより大荷物になってしまって……」
目深に被った帽子の下から会釈する男にアンジェリカは苦笑して両腕の荷物を示して、再び二人は逆方向へと歩き出す。
「……」
何もなかった、はずだ。ちらと、一瞬だけではあったが視線を投げたルークの眼には、アンジェリカが肩から提げた、財布代わりの巾着に手を伸ばしたところは見えたが、それは彼女が抱えた荷物を落とさないよう、支えようとした、ともとれる。現に、アンジェリカの財布は彼女の肩から提がったままなのだ。つまり、ただの不注意による事故なのだが。
(臭うな……)
踵を返し、人込みを陰に男の後をつけるルークに対し、アンジェリカは近くのベンチに腰と荷物を降ろし、財布を開く。もしさっきの男がスリなら……。
「あら?」
その中身に、アンジェリカはキツネにつままれたような顔をするのだった。
●街中の鬼ごっこ
人々の喧騒でごった返す市場の横で、切り取られたように静かな路地裏。二人の男がぼそぼそと話し、一方が頭を下げればもう一方は首を振る。
二人が路地裏を出ようとした時、その先で一人の男が壁を蹴りつけて道を阻んだ。
「お二人さん、ちょいとばかし時間をもらえるか?」
前に出ようとする男を、もう一人が手で制して。二人を見据えるルークの指先が、男が隠し持った複数の財布を指し示す。
「そんなにたくさんの財布を持って、買い物しづらくないか?」
舌打ち一つ。それを合図に二人が走り出すと二手に分かれて人込みに消える。
「行ったぞ。市場のクレープ屋前から南北に分かれて逃走中」
「ひょーはひ、ほへはひひはひふはふ」
「私達は南に向かいます!」
クレープ食ってて何言ってるか分からない三十三とシア、ユリカとコジマに分かれて逃げた犯人を追う自由騎士達。まずは南ルート。
「コジマさん、先に行ってください! この先は港になってて、逃げ道がないはずなんです! だとすれば……」
「東西に逃げるか、船に乗るはずって事ですね!」
ドヤッとするコジマに、ユリカは首を振って。
「船はありえません! 二手に分かれたって事は、相手はどこかで『合流しようとする』はずなんです! そしてもう一人は北に逃げたって事は、町外れに隠れ家があって、街中を大回りしてそちらに向かうはずです!」
「OK、後を追っかけてどっちに向かってるか探ればいいって事ですね!」
逃走ルートに目星をつけて誘導するユリカに導かれて、コジマはグッと地面を踏みしめた。
「待ぁあああてぇええええ!!」
人込みの中を高速で駆け抜け、左右に体を傾ける最小限の動きですり抜けてくるコジマ。通行人という障害物があることを差し引いても、ザッと常人の二倍はあろうかというコジマにギョッとした犯人は開けた場所に出てしまえば、それ以上の速度で追って来ると察したのだろう。狭い路地に入って壁を蹴って駆けあがると店の屋根に上がる。しかし、このままでは障害物が少ない事は百も承知。速攻で追いつかれる前に、反対側の市場に飛び降りる、と見せかけて建物の縁に掴まり体を振って、弧を描くように飛ぶと追って来たコジマとは逆方向の路地へ飛び込んだ……しかし。
「見つけました!」
「もう一人いやがったのか!?」
逃げ込んだ先の路地を駆け抜けた先で、速度の関係で後から来たユリカに発見されて再び人込みの中を逃走。
「コジマさん戻ってください! 攪乱されて逆方向に走ってますよ!」
「そうなんですか!?」
目標が見つからな過ぎて港まで来ていたコジマはマキナギアの通信で呼び戻され、急制動。しかし止まり切れず、喧嘩してた酔っ払いを二人まとめて吹っ飛ばし、両成敗と言わんばかりにドッポーンさせてからユリカ、及び犯人に向けて走り出した。
一方その頃北側はというと。
「逃がさないよっ!」
「わんわん!」
逃走する犯人を追うシアと、彼女の頭に乗っかった仔犬……もとい、三十三。仕方ないよね、三十三は連絡役や、斥候としてのスキルを活性化してて、追跡戦に向いてないんだもん。せめてもの救いは、小さくなる事でシアの負担にならなかった事だろうか?
「チィ、ガキのくせに速ぇ……自由騎士か!」
こちらの正体に気づいた男は路地裏に飛び込んだ。すると、シアはそこを素通りするではないか。
「わぉん!?」
「あそこは行き止まりのはずなの!」
驚いて後ろを見る三十三に、シアが言うには。
「多分、あの奥にある壁を登って、建物の上を走ってるんだと思う。だとしたら……」
市場を抜けて、住宅街に入ったシアが家々の屋根の上を警戒しながら走っていると。
「見つけたっ!」
「なっ……」
家を飛び移って、人気のない路地に飛び降りた犯人と対峙する。だが、相手も一筋縄ではいかない。シアが肉薄するのに合わせて壁を三角飛びして、小柄な彼女の上を跳び越えると再び走り出す。しかし、開けた住宅街にでた事で、単純な追いかけっこになった今、彼我の距離はジワジワと詰められていく……。
●窮鼠、騎士を齧りたかった
「兄貴ぃいい!?」
「おま……連れて来ちまってるじゃねぇか!!」
もはや半泣きの男がコジマとユリカに追われて走って来て、シアに捕まるか否かというギリギリの男は目を見開いた。
「と、とにかく逃げるぞ! あそこまで行ければ……」
住宅街の向こう、共同墓地や廃墟が並ぶ、町外れに至って二人を待ち構えていたのは。
「いらっしゃーい」
ローラを筆頭にして、先回りしていた自由騎士達だった。
「何の冗談だこれは……」
挟み撃ちに遭った男がたじろぐと、ルークが帽子を押さえてその陰から眼光を投げる。
「市場の連中に聞いたのさ。スリがあった時に見かける顔がないか、てな」
「そしたらぁ、最近スラムの人が顔を見せるようになったって言われてぇ」
甘ったるい声でじりじりとローラが距離を詰め、警戒する男達。背中合わせの二人を取り囲んだ布陣は、自由騎士達の逃がすまいという意思を感じさせる。
「イ・ラプセルにスラムなんざ数えるほどしかないからな。後はそっちの猟犬組に向かう方角を聞いて、先回りさせてもらった」
ルークに後ろの自由騎士達を示されて、追い回されていたのは自分達を捕まえる為ではなく、アジトを割る為だと今更察した男は歯噛みするが、時既に遅し。
「観念して罪を償い、真っ当な道を歩き直しましょう!」
ユリカが盾を構えれば、内蔵機構を持った盾が歯車を回転させて、表面を薄い魔力の被膜が包み込む。臨戦態勢に入ったユリカを警戒してそちらに注意を向けた隙にローラがステップを刻んで、くる、くるり。
「いっくよぉ?」
ゆっくりと回り始めるローラは服の裾を靡かせて、波に揺れる帆船の如く、柔らかく動く指先が魔力の軌跡をなぞる。クルリ、クルリ、光の渦を描くローラの回転は、徐々にボルテージを上げて……。
「兄貴……なんか……気持ち悪く……」
「何言ってんだお前、この程度でオロロロロ」
「兄貴ィー!?」
船酔いに似た不快感に呑まれ、身動き取れなくなった二人組へシアが『既に』襲いかかっている。
「とりゃー!!」
踏み込みと同時に重心を前に。空気抵抗を斬り裂くように、二振りの刺突剣を前に構えて肉薄。獲物が勘付く前に射程に捉えて、その眉間目がけて突き出した切先を『左右に避けた』。
「ゴッフ!?」
スリの男の顔面に、幼女(?)の跳び膝蹴りが突き刺さる!!
「あ、兄貴ー!? くそ、お前らただじゃ……」
ガァン! 男が取り出したスリンガーを、ルークの銃弾が弾き飛ばした。
「ま、まだ……」
すぐさま落とされた武器を拾おうとする男だったが、その後頭部を一発の銃弾が掠め、男は痙攣しながら地面でのたうち始めてしまう。
「てめ……何を……」
「こういう時、峰打ちって言っておけばいいのかしら?」
地面でビクンビクンしてる弟分に、顔がへこんだ状態の男が睨みを利かせようとするとヴァイオラがどこ吹く風で銃口の硝煙を吹き消して……。
「はい、そこまで!」
ドゴッ! 峰でも下手すると命を啜りかねない妖刀を手にした三十三。刀を鞘に納めたまま、鈍器として叩きつけて男を気絶させてしまった。
●自由騎士を前にゴロツキが勝てるわけがなかった
「事情は知ったこっちゃないですが、露骨にやり過ぎなんですよ……だからわたしらが出張る羽目になってしまったわけで」
フルボッコになった二人組を縛り上げるコジマ。半眼ジト目を向けつつも、ついでに彼らに癒しの雨を降らせておく。まぁ、顔がへこんでたり後頭部が膨れ上がってたりしてて、ひっでぇ見た目になってるからな……。
「どうしてこんなことをしているの? お金が入り用なら普通に働いたらどうなのかしら?」
「同じ場所でスリを連発なんて、バレやすくてヤバいことぐらいすぐ分かるハズだなんだよねぇ。それでもやるってことは大抵、今すぐどーしても大金が必要な事情があるんだよぉ」
ヴァイオラの問いに二人は答えず、横からローラが口を挟んだ。
「つまり……どういう事?」
首を傾げるシアに、ローラが微笑んで。
「シアさんもオトナになったら分かるよぉ」
「えー」
ごまかされた雰囲気にシアは両頬を膨らませるが、三十三は視点を変えて。
「事情によっては力になってあげたいんだけど……どうしてこんなことを?」
吐けば助けてやる。言外に含ませた三十三に男が返したのは。
「お前は後何回、同じことが言える?」
「え……?」
子どもの三十三には、その問いは重すぎた。訳が分からず面食らった彼に代わり、小さく「やはりか」とこぼしたルークは吹っ切るように帽子を目深に被ってから。
「お前らがスった財布の中に、銀の髪飾りが入っていた物があるはずだ。それはどうした?」
「銀? 鉄屑の間違いだろ?」
鼻で笑う下っ端の男に、ルークの眼光が引き絞られる。
「知ってはいるんだな?」
「さぁな。仮にそうだとして、んなもん俺たちがずっと持ってると思うか?」
「だろうな」
吐き捨てたルークが引っ込んで、最後に彼らと向き合ったのは、アンジェリカ。
「あなた方のお心遣いに感謝いたします」
『えっ』
両手を合わせて、膝をついたアンジェリカに自由騎士一同が固まった。
「待って待ってどういうこと!?」
「この人達悪い人達なんだよね?」
ついていけない三十三とシアに、アンジェリカが見せたのは一枚の紙幣。
「これが、私の財布に入っていたんです」
そこで察した。アンジェリカが肩から提げた財布は囮用で、小石と小銭しか入っていなかったはずだ。つまり。
「昔教会に世話になった恩返しのつもりか?」
見下すようなルークの視線に、男達は閉口する。その後、二人は騎士団に引き取られていった……。
「さ、ユリカさん!」
仕事が終わって漂う、複雑な空気を引き裂いたのはコジマ。
「ここから先は休日ですよ!!」
「休日って……」
困惑する彼女の手をガッと掴み。
「自分が守るものを見て知っておくのも、騎士の務めです! まずは行きつけのレストランが……」
コジマに引きずられるようにして、ユリカが町に連れ去られていく。
「そうね、やるべきことは果たしたものね」
グッと伸びをして、気を取り直したヴァイオラは中途半端に終わったショッピングの続きの為にスラムを離れて、その後を追うようにシアと三十三も家路につく。
「……で、お前らは何をしてるんだ?」
「多分、ルークさんと同じ事考えてるよぉ?」
「そう言う事です」
にまーっと笑うローラに、やんわり微笑むアンジェリカ。苦虫を噛んだルークがスラムの物陰を覗き込むと。
「悪いが、そいつを返してくれるか?」
真新しい髪飾りをつけた少女が蹲っていた。薄汚れた姿にボロボロの衣服。その中で異彩を放つそれは不自然で。
「もちろんタダとは言わない」
「あの人たちは、どうなるの?」
不相応に多い金額を支払おうとするルークに、少女は髪飾りを差し出した。
「お金はいらないから……」
「あの人達はねぇ、遠くにお仕事に行くんだよぉ」
ローラが、しれっと嘘をつく。
「しばらく会えないかもしれないけどぉ、いい子にしてたら、また来てくれるかもよぉ?」
「それまでは、うちにいらっしゃい。ご飯とお布団くらいは用意しますから」
自らの聖職服が汚れるのも構わず、アンジェリカは少女を抱き上げた。
「……依頼達成、と」
髪飾りを懐にしまい、ルークはスラムを見る。豊かなイ・ラプセルといえど、決して貧しい地域がないわけではない。少女がくるまっていたのであろうボロ布を見やり、ルークは長い、長いため息をついた。
「おじさん! ボク苺で!!」
「えっと……じゃあ俺も同じの!」
「はいよぉ」
『おうじょのともだち』シア・ウィルナーグ(CL3000028)と『刃狗』篁・三十三(CL3000014)の注文に、屋台を出していたクレープ屋のオッサンはゆっくりと、しかし手際よく薄く生地を伸ばす。
「ところでクレープって何?」
「んとねー、果物とか生クリームを薄い生地で包んであって……」
できあがるまで言葉を交わす二人。晴れたある日の市場の中、人々の行きかう道を、はぐれぬように手を繋いでぶんぶん振りながら、クレープ片手にお子さま二人は露店を冷やかし回る。おかしい、幼いって程の歳ではないはずなのだが……。
「あら、今年の流行の形ね! ねえ、色違いはないの?」
シアと三十三が足を止めた人だかりの向こうで、ヴァイオラ・ダンヒル(CL3000386)がアクセサリを選んでいた。で、なーんでここで人だかりなんぞができていたかと言うと。
「そうよね……この服にはこっちよね……」
白のブラウスに青のスカート、ブラウンの編み上げブーツにシロツメクサの耳飾りをアクセントにしたかと思えば。
「あぁ、でもこれだとちょっとはためくから……」
赤いパンツに黒のトップで白のヒールを合わせて、胸元に金細工の首飾りを煌めかせてみたり。
「逆に子どもっぽくして見ても……」
縞柄のシャツにオーバーオール、革靴にハンチング帽をやや目深に被って……等々、店先でファッションショーやり始めたからだったりする。
「迷ってしまうわね。店員さん、あなたのご意見も聞かせて頂戴」
「そんなそんな、恐れ多いです……」
自分の身に着ける物にはとことんこだわるヴァイオラに、むしろ店員の方が押されてしまって、気が付けば見物客が集まる始末。
「真面目にやってた方が馬鹿を見るってやつ、わたし大嫌いでして。真面目ぶった思考停止者はどうでもいいとしても騙される、盗まれる方が悪いとかの論調は万死に値千金じゃねーですか?」
ねっ!? と同意を求めるコジマ・キスケ(CL3000206)だが、隣には誰もおらず、通りがかった少年が可哀想な人を見る目で薄く微笑み、パン屋の中へ消えていった。
「ユリカさぁああああん!?」
ヴァイオラのファッションショーに釣られて止まっていたユリカ・マイ(CL3000516)の所までツカツカと足早に戻り、真っ赤になったコジマは両手を握って。
「なんで一緒に歩いててくれないんですか!? ずっと隣にいると思ってて、恥ずかしい思いしたじゃないですかー!!」
「あ、すみません。なんの集まりかなって、気になってしまって……あ、あれは何でしょう?」
謝ったそばから、路上の大道芸に誘引されていくユリカだったが、シアと三十三がすれ違い、鼻をクンクン。
「こちらからは甘い香りが! あの行列は!?」
「……って、おのぼりさんかい!?」
近くの喫茶店へ続く行列の先を見ようと、左右に体を揺らして視点を変えるユリカにツッコミを入れて、コジマがため息。
「はぁあああぁあん」
ため息とも艶めかしい吐息ともつかぬものを垂れ流しにして、『あるくじゅうはちきん』ローラ・オルグレン(CL3000210)は自分の頬をぺちぺち。とろんとした視線を軒先を連ねる露天に流し、やや薄暗い店へと入る。
「あれぇ、珍しいねぇ?」
「……まぁな」
寡黙な店員に、馴れ馴れしく話しかけるローラ。もちろんこの店は怪しい店などではなく。
「香水が傷むからってぇ、明るい所にはお店出さないのにぃ」
ちょっと拘るお店だった。
「あ、新作出てるぅ!」
「……おい」
財布を取り出したローラに、店員は射抜くような目を向けて。
「ここ最近、スリがうろついてるらしい。そんな腑抜けたツラ晒して財布見せびらかしてたら、持ってかれるぞ」
「えーそうかなぁ?」
小首を傾げ、ローラは妖しく微笑んだ。
「ほらぁ、同じ穴の『ワンちゃん』、みたいなぁ? ローラ、そこまで油断しないよぉ」
ふざけた言い回しに、何かを察した店員は首を揺らして。
「踏み込むなら、覚悟はしておけ」
「どういう事ぉ?」
ローラに一つ、二つ告げると一番できのいい香水を押し付け、店員はそれ以上は何も語ろうとはしなかった。
「……」
コツリ、コツリ、『演技派』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は革靴の踵を鳴らし、市場の喧騒に潜むように進む。折角の休日に、血のつながらない姉に説教される為、普段は吸えない葉巻に火をつけようとして、横をクレープを手にした子ども達が駆け抜けていく。その甲高い笑い声に葉巻を見下ろし、そっと箱に戻した。
「えぇと、あとは……」
両腕で紙袋を抱えて、中身と買い物メモを照らし合わせながら歩く『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。時折荷物を持ち直しながら歩く彼女と、肩がぶつかる男が一人。
「失礼、大丈夫ですか?」
「えぇ、こちらこそすみません。思ったより大荷物になってしまって……」
目深に被った帽子の下から会釈する男にアンジェリカは苦笑して両腕の荷物を示して、再び二人は逆方向へと歩き出す。
「……」
何もなかった、はずだ。ちらと、一瞬だけではあったが視線を投げたルークの眼には、アンジェリカが肩から提げた、財布代わりの巾着に手を伸ばしたところは見えたが、それは彼女が抱えた荷物を落とさないよう、支えようとした、ともとれる。現に、アンジェリカの財布は彼女の肩から提がったままなのだ。つまり、ただの不注意による事故なのだが。
(臭うな……)
踵を返し、人込みを陰に男の後をつけるルークに対し、アンジェリカは近くのベンチに腰と荷物を降ろし、財布を開く。もしさっきの男がスリなら……。
「あら?」
その中身に、アンジェリカはキツネにつままれたような顔をするのだった。
●街中の鬼ごっこ
人々の喧騒でごった返す市場の横で、切り取られたように静かな路地裏。二人の男がぼそぼそと話し、一方が頭を下げればもう一方は首を振る。
二人が路地裏を出ようとした時、その先で一人の男が壁を蹴りつけて道を阻んだ。
「お二人さん、ちょいとばかし時間をもらえるか?」
前に出ようとする男を、もう一人が手で制して。二人を見据えるルークの指先が、男が隠し持った複数の財布を指し示す。
「そんなにたくさんの財布を持って、買い物しづらくないか?」
舌打ち一つ。それを合図に二人が走り出すと二手に分かれて人込みに消える。
「行ったぞ。市場のクレープ屋前から南北に分かれて逃走中」
「ひょーはひ、ほへはひひはひふはふ」
「私達は南に向かいます!」
クレープ食ってて何言ってるか分からない三十三とシア、ユリカとコジマに分かれて逃げた犯人を追う自由騎士達。まずは南ルート。
「コジマさん、先に行ってください! この先は港になってて、逃げ道がないはずなんです! だとすれば……」
「東西に逃げるか、船に乗るはずって事ですね!」
ドヤッとするコジマに、ユリカは首を振って。
「船はありえません! 二手に分かれたって事は、相手はどこかで『合流しようとする』はずなんです! そしてもう一人は北に逃げたって事は、町外れに隠れ家があって、街中を大回りしてそちらに向かうはずです!」
「OK、後を追っかけてどっちに向かってるか探ればいいって事ですね!」
逃走ルートに目星をつけて誘導するユリカに導かれて、コジマはグッと地面を踏みしめた。
「待ぁあああてぇええええ!!」
人込みの中を高速で駆け抜け、左右に体を傾ける最小限の動きですり抜けてくるコジマ。通行人という障害物があることを差し引いても、ザッと常人の二倍はあろうかというコジマにギョッとした犯人は開けた場所に出てしまえば、それ以上の速度で追って来ると察したのだろう。狭い路地に入って壁を蹴って駆けあがると店の屋根に上がる。しかし、このままでは障害物が少ない事は百も承知。速攻で追いつかれる前に、反対側の市場に飛び降りる、と見せかけて建物の縁に掴まり体を振って、弧を描くように飛ぶと追って来たコジマとは逆方向の路地へ飛び込んだ……しかし。
「見つけました!」
「もう一人いやがったのか!?」
逃げ込んだ先の路地を駆け抜けた先で、速度の関係で後から来たユリカに発見されて再び人込みの中を逃走。
「コジマさん戻ってください! 攪乱されて逆方向に走ってますよ!」
「そうなんですか!?」
目標が見つからな過ぎて港まで来ていたコジマはマキナギアの通信で呼び戻され、急制動。しかし止まり切れず、喧嘩してた酔っ払いを二人まとめて吹っ飛ばし、両成敗と言わんばかりにドッポーンさせてからユリカ、及び犯人に向けて走り出した。
一方その頃北側はというと。
「逃がさないよっ!」
「わんわん!」
逃走する犯人を追うシアと、彼女の頭に乗っかった仔犬……もとい、三十三。仕方ないよね、三十三は連絡役や、斥候としてのスキルを活性化してて、追跡戦に向いてないんだもん。せめてもの救いは、小さくなる事でシアの負担にならなかった事だろうか?
「チィ、ガキのくせに速ぇ……自由騎士か!」
こちらの正体に気づいた男は路地裏に飛び込んだ。すると、シアはそこを素通りするではないか。
「わぉん!?」
「あそこは行き止まりのはずなの!」
驚いて後ろを見る三十三に、シアが言うには。
「多分、あの奥にある壁を登って、建物の上を走ってるんだと思う。だとしたら……」
市場を抜けて、住宅街に入ったシアが家々の屋根の上を警戒しながら走っていると。
「見つけたっ!」
「なっ……」
家を飛び移って、人気のない路地に飛び降りた犯人と対峙する。だが、相手も一筋縄ではいかない。シアが肉薄するのに合わせて壁を三角飛びして、小柄な彼女の上を跳び越えると再び走り出す。しかし、開けた住宅街にでた事で、単純な追いかけっこになった今、彼我の距離はジワジワと詰められていく……。
●窮鼠、騎士を齧りたかった
「兄貴ぃいい!?」
「おま……連れて来ちまってるじゃねぇか!!」
もはや半泣きの男がコジマとユリカに追われて走って来て、シアに捕まるか否かというギリギリの男は目を見開いた。
「と、とにかく逃げるぞ! あそこまで行ければ……」
住宅街の向こう、共同墓地や廃墟が並ぶ、町外れに至って二人を待ち構えていたのは。
「いらっしゃーい」
ローラを筆頭にして、先回りしていた自由騎士達だった。
「何の冗談だこれは……」
挟み撃ちに遭った男がたじろぐと、ルークが帽子を押さえてその陰から眼光を投げる。
「市場の連中に聞いたのさ。スリがあった時に見かける顔がないか、てな」
「そしたらぁ、最近スラムの人が顔を見せるようになったって言われてぇ」
甘ったるい声でじりじりとローラが距離を詰め、警戒する男達。背中合わせの二人を取り囲んだ布陣は、自由騎士達の逃がすまいという意思を感じさせる。
「イ・ラプセルにスラムなんざ数えるほどしかないからな。後はそっちの猟犬組に向かう方角を聞いて、先回りさせてもらった」
ルークに後ろの自由騎士達を示されて、追い回されていたのは自分達を捕まえる為ではなく、アジトを割る為だと今更察した男は歯噛みするが、時既に遅し。
「観念して罪を償い、真っ当な道を歩き直しましょう!」
ユリカが盾を構えれば、内蔵機構を持った盾が歯車を回転させて、表面を薄い魔力の被膜が包み込む。臨戦態勢に入ったユリカを警戒してそちらに注意を向けた隙にローラがステップを刻んで、くる、くるり。
「いっくよぉ?」
ゆっくりと回り始めるローラは服の裾を靡かせて、波に揺れる帆船の如く、柔らかく動く指先が魔力の軌跡をなぞる。クルリ、クルリ、光の渦を描くローラの回転は、徐々にボルテージを上げて……。
「兄貴……なんか……気持ち悪く……」
「何言ってんだお前、この程度でオロロロロ」
「兄貴ィー!?」
船酔いに似た不快感に呑まれ、身動き取れなくなった二人組へシアが『既に』襲いかかっている。
「とりゃー!!」
踏み込みと同時に重心を前に。空気抵抗を斬り裂くように、二振りの刺突剣を前に構えて肉薄。獲物が勘付く前に射程に捉えて、その眉間目がけて突き出した切先を『左右に避けた』。
「ゴッフ!?」
スリの男の顔面に、幼女(?)の跳び膝蹴りが突き刺さる!!
「あ、兄貴ー!? くそ、お前らただじゃ……」
ガァン! 男が取り出したスリンガーを、ルークの銃弾が弾き飛ばした。
「ま、まだ……」
すぐさま落とされた武器を拾おうとする男だったが、その後頭部を一発の銃弾が掠め、男は痙攣しながら地面でのたうち始めてしまう。
「てめ……何を……」
「こういう時、峰打ちって言っておけばいいのかしら?」
地面でビクンビクンしてる弟分に、顔がへこんだ状態の男が睨みを利かせようとするとヴァイオラがどこ吹く風で銃口の硝煙を吹き消して……。
「はい、そこまで!」
ドゴッ! 峰でも下手すると命を啜りかねない妖刀を手にした三十三。刀を鞘に納めたまま、鈍器として叩きつけて男を気絶させてしまった。
●自由騎士を前にゴロツキが勝てるわけがなかった
「事情は知ったこっちゃないですが、露骨にやり過ぎなんですよ……だからわたしらが出張る羽目になってしまったわけで」
フルボッコになった二人組を縛り上げるコジマ。半眼ジト目を向けつつも、ついでに彼らに癒しの雨を降らせておく。まぁ、顔がへこんでたり後頭部が膨れ上がってたりしてて、ひっでぇ見た目になってるからな……。
「どうしてこんなことをしているの? お金が入り用なら普通に働いたらどうなのかしら?」
「同じ場所でスリを連発なんて、バレやすくてヤバいことぐらいすぐ分かるハズだなんだよねぇ。それでもやるってことは大抵、今すぐどーしても大金が必要な事情があるんだよぉ」
ヴァイオラの問いに二人は答えず、横からローラが口を挟んだ。
「つまり……どういう事?」
首を傾げるシアに、ローラが微笑んで。
「シアさんもオトナになったら分かるよぉ」
「えー」
ごまかされた雰囲気にシアは両頬を膨らませるが、三十三は視点を変えて。
「事情によっては力になってあげたいんだけど……どうしてこんなことを?」
吐けば助けてやる。言外に含ませた三十三に男が返したのは。
「お前は後何回、同じことが言える?」
「え……?」
子どもの三十三には、その問いは重すぎた。訳が分からず面食らった彼に代わり、小さく「やはりか」とこぼしたルークは吹っ切るように帽子を目深に被ってから。
「お前らがスった財布の中に、銀の髪飾りが入っていた物があるはずだ。それはどうした?」
「銀? 鉄屑の間違いだろ?」
鼻で笑う下っ端の男に、ルークの眼光が引き絞られる。
「知ってはいるんだな?」
「さぁな。仮にそうだとして、んなもん俺たちがずっと持ってると思うか?」
「だろうな」
吐き捨てたルークが引っ込んで、最後に彼らと向き合ったのは、アンジェリカ。
「あなた方のお心遣いに感謝いたします」
『えっ』
両手を合わせて、膝をついたアンジェリカに自由騎士一同が固まった。
「待って待ってどういうこと!?」
「この人達悪い人達なんだよね?」
ついていけない三十三とシアに、アンジェリカが見せたのは一枚の紙幣。
「これが、私の財布に入っていたんです」
そこで察した。アンジェリカが肩から提げた財布は囮用で、小石と小銭しか入っていなかったはずだ。つまり。
「昔教会に世話になった恩返しのつもりか?」
見下すようなルークの視線に、男達は閉口する。その後、二人は騎士団に引き取られていった……。
「さ、ユリカさん!」
仕事が終わって漂う、複雑な空気を引き裂いたのはコジマ。
「ここから先は休日ですよ!!」
「休日って……」
困惑する彼女の手をガッと掴み。
「自分が守るものを見て知っておくのも、騎士の務めです! まずは行きつけのレストランが……」
コジマに引きずられるようにして、ユリカが町に連れ去られていく。
「そうね、やるべきことは果たしたものね」
グッと伸びをして、気を取り直したヴァイオラは中途半端に終わったショッピングの続きの為にスラムを離れて、その後を追うようにシアと三十三も家路につく。
「……で、お前らは何をしてるんだ?」
「多分、ルークさんと同じ事考えてるよぉ?」
「そう言う事です」
にまーっと笑うローラに、やんわり微笑むアンジェリカ。苦虫を噛んだルークがスラムの物陰を覗き込むと。
「悪いが、そいつを返してくれるか?」
真新しい髪飾りをつけた少女が蹲っていた。薄汚れた姿にボロボロの衣服。その中で異彩を放つそれは不自然で。
「もちろんタダとは言わない」
「あの人たちは、どうなるの?」
不相応に多い金額を支払おうとするルークに、少女は髪飾りを差し出した。
「お金はいらないから……」
「あの人達はねぇ、遠くにお仕事に行くんだよぉ」
ローラが、しれっと嘘をつく。
「しばらく会えないかもしれないけどぉ、いい子にしてたら、また来てくれるかもよぉ?」
「それまでは、うちにいらっしゃい。ご飯とお布団くらいは用意しますから」
自らの聖職服が汚れるのも構わず、アンジェリカは少女を抱き上げた。
「……依頼達成、と」
髪飾りを懐にしまい、ルークはスラムを見る。豊かなイ・ラプセルといえど、決して貧しい地域がないわけではない。少女がくるまっていたのであろうボロ布を見やり、ルークは長い、長いため息をついた。