MagiaSteam
アデレード腕自慢動乱




「自由騎士団も発足から1周年か……そろそろ狩り時やもしれぬな」
 港町アデレードの通りを着流しの男が闊歩する。腰には一降りの打刀。そして全身から漲る殺意にも似た戦闘衝動。
 男は無頼の戦闘狂だった。何者にも属さず、何者にも縛られず、戦いたい時に戦いたい者と戦う。
 かの自由騎士団は1年前はまだか弱い雛のようであった。しかし今は違う。数々の戦いを経て、そこに所属するオラクル達は心身ともに急激な成長を遂げている。
 今のオラクルは丸々と肥えた鶏。戦うに値する極上の獲物だ。
 男は往来で刀を抜き放つ。男の突然の奇行に周囲から悲鳴と怒声が上がった。
「ここらで騒ぎを起こせば直ぐにでも騎士の連中が飛んでくるだろう。どれ、準備運動がてらひと暴れさせてもらうとしようか」


 着流しの男が暴れ始めたのとほぼ同時刻、アデレードの至る所で迷惑な腕自慢達がまるで打ち合わせでもしていたかのように暴れ始めていた。

「ガハハハ! イ・ラプセルの自由騎士がなんぼのもんじゃーい! 俺様が最強なんじゃい!」
 ある所では筋骨隆々の重戦士が我こそは最強なりと、そこら辺の騎士っぽい人間を捕まえては勝負を引っかけている。

「キヒヒ……制限時間内にどれだけ自由騎士を撃ち倒せるか……自由騎士ハントゲームスタートだぁ」
 またある所では、ゲーム感覚で自由騎士団に攻撃を仕掛けるガンナーが。

「俺より強いヤツに会いに来た。噂のオラクル騎士団を呼んでくれ」
「え!? なんで全裸!?」
「俺は己の肉体以外のものには頼らないからだ。オラクルを呼んでくれ」
「変態が出たぞ! 早く自由騎士に連絡を!」
 全裸の変態格闘家が。

「ここは通行止めなんだな。どうしても通りたければオイラをぶっ飛ばしてみせるんだな」
 防御力に絶対の自信を持った厄介な防御タンクが。

「アタイのダンスは世界を魅了する! 自由騎士なんて所詮は戦うしか脳のない野蛮人さ! あんな奴らよりアタシの方が何百倍も……凄い!」
 一芸を極めた踊り子が。

 シャンバラ皇国との戦争に勝利して勇名を轟かせる自由騎士団に喧嘩を売るために、港町を舞台にバカ騒ぎを巻き起こしていた。


「アデレードの各所で無所属のオラクルが暴れているようだな」
 『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は招集したオラクル達に騒動が起きている場所と、問題を起こしている犯人たちの情報を手短に伝えた。
「相手もなかなかの猛者揃いのようだがお前達ならば問題はないだろう。むしろちょうど良い訓練になるのではないか?」
 とはいえ、とフレデリックは言葉を続ける。
「騎士団への侮辱は、この国の軍事への侮辱と同義。しっかりと叩き潰して王国の威を示して欲しい」
 言われるまでもない。オラクル達は騒動を収めるべく即座にその場を後にした。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
へいん
■成功条件
1.各所で暴れる腕自慢達を倒す。
マギスチ1周年おめでとうございます! へいんです!
久々にシナリオ出しますが宜しくお願いします!
なんか純戦闘的なアレです。
散らばって各個撃破するもよし。全員でまとまって順番に叩いて回るもよし。
良い感じにやっちゃってください。
ただしあまり時間を掛けすぎると被害が広がる可能性が大いにあるので、危険度の高そうな輩は先んじて倒しておくことをオススメします。

■場所
・港町アデレードの町中。
 昼間なので一般人も普通に歩いてたりします。

■エネミーデータ
・着流しの男
 ノウブル。軽戦士。バランスの取れた正当派戦士。
 暴れてはいるが一般人は傷つけないように気をつけている様子。
 ラピッドジーンで身体能力を向上し、打刀による通常攻撃とデュアルアクセルで攻撃してきます。
 順当に強いです。が、歴戦の自由騎士ならなんてことはないはず。
 狩人気取りの鼻っ面をたたき折ってやろう。

・筋骨隆々の重戦士
 キジン。ザ・脳筋の重戦士。パワフルだが動きは鈍い。とにかく手当たり次第に暴れている。
 ひたすらバッシュを連発して相手をミンチにしようとスレッジハンマーを振り回してくる。
 命中が極端に低いので回避重視で戦えばよほどのことがない限りは大丈夫だろう。
 当たったら痛いじゃすまないので気をつけよう。

・ハントゲームを楽しむガンナー
 ノウブル。ガンナースタイル。
 人混みに紛れ、物陰に潜み、ひたすら見つからないようにオラクルを狙ってくる。
 接近戦は弱い。一度捕まえてしまえばこちらのものだろう。
 一般人が流れ弾に当たらないよう注意。

・全裸の格闘家
 オニヒト。肉体自慢の格闘スタイル。全裸。歩く軽犯罪。
 柳凪により物理衝撃を緩和してくるので結構硬い。
 ただし魔抗力が極端に低い。あと可愛い女の子を見ると特定の部分が硬くなる。

・道塞ぐ防御タンク
 半機人化(ハーフ)のキジン。防御力に自信のある防御タンク。
 よりにもよって人通りの多い通りを狙って塞いでいる。
 全力防御しかしてこない。一切の回避手段を持ち合わせていないし躱す気もない。あらゆる攻撃が絶対に命中するだろう。
 最高の一撃をお見舞いして彼の自信を粉々に粉砕しよう。

・自称、世界を魅了する踊り子。
 ノウブル。非オラクルの一般人。ダンスが得意。
 自由騎士団が戦うしか脳のない集団ではないことを証明しよう。
 手段は問わない。彼女を納得させて騎士団を野蛮人の集まりと呼んだ発言を撤回させよう。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
12モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年05月24日

†メイン参加者 8人†




 潮風香る港町、アデレード。平時からバザーやお祭りなどで賑やかな港町は今日はいつにもまして賑やかに……もとい騒がしくなっていた。
「さあもっと悲鳴を上げろ!」
 町中で刀を振り回す男が声を張り上げている。男の要望通り、突然の凶行に人々は恐れ戦き悲鳴を上げていた。
 しかし男の本当の目的は悲鳴に非ず。それを聞きつけてやってくるであろう騎士たちが本当の目的だ。だが騎士はまだ来ない。ならば恨みはないが一般人にも多少は血を見てもらう必要があるのかもしれないな、と男は思案する。だが男の心配は杞憂であった。
「随分と腕に自信があるみてぇじゃねぇか。いいぜ。このアン・J・ハインケルが相手になってやるよ」
 名乗りが上がり、人の群れが二つに割れて一人の女が姿を現す。オラクル自由騎士団が一人、『竜弾』アン・J・ハインケル(CL3000015)だ。
「来たか。この俺相手にどれほど耐えるか見ものだな」
「へぇ、あんたはそんなに強いのかい?」
「無論だ」
「なら遠慮はいらねぇな。楽しもうじゃねぇか!」


 アンが名乗りを上げたちょうどその頃、港町の別の一角でも名乗りを上げる声があった。
「我が名は自由騎士アダム・クランプトン! さぁ獲物はここだ! 狩人ならば一撃で仕留めてみせよ!」
『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)だ。オラクル狩りをしているガンナーの注意を惹くために名乗りを上げていた。これで周囲の民に被害が及ぶ可能性は低くなる。アダムにとってより優先すべきは民の平穏だ。王国の威を示す事よりも、民の平穏を守る事こそが騎士の務めだと、アダムはそう思っていた。
 住民が自分から距離を取った事を確認してから、アダムは柳凪で身を固め、さらに全力防御で敵の攻撃を待ち構える。狩人は果たしてアダムの誘いに乗ってくるのか、否か――。
「キヒヒ……バァン」
「!!」
 港町に銃声が響き渡る。その炸裂音が轟くと同時、アダムの体に鈍い衝撃が走った。


「アデレード来るの久しぶりー……でも見物してるヒマはないね、急ごう!」
『元気爆発!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は元気いっぱいに声を弾ませ、だが直ぐに気を引き締め直す。その想いに同調するように『裏街の夜の妖精』ローラ・オルグレン(CL3000210)は頷いた。
「ローラみたいなアデレードの地元民には割と結構本気で迷惑だから、さっさとお帰りお願いするよ~」
「うん! 私とローラのタッグで思い知らせてやろう!」
 そんな二人の耳に絹をさくような悲鳴が飛び込んでくる。顔を見合わせた二人は急ぎ現場へと急行した。
「俺より強いヤツはまだ来ないのか!」
 駆けつけた先には全裸がいた。アレが悲鳴の原因なのだろう。その変態の前にカーミラとローラが踊り出る。
「強いヤツ、来たよ! 私が相手だ!」
 華やかなオーラを放ちながらカーミラが立ちはだかる。一方ローラは変態格闘家に向けて冷ややかな眼差しを向けた。
「強いヤツねぇ。そんなに強いヒトと戦いたいってんなら、こないだの戦争にも参加すればよかったのにね」
 先のシャンバラとの戦争には多くの強者が参戦し、死闘を繰り広げていた。だというのに、この全裸は戦争不参加だ。
「結構いるよねぇ、こーゆータイプ。普段はやたらと強気なくせに、自分のナワバリからはゼッタイ出ようとしないやつぅ~」
「威勢のいい女だな、興奮してきた」
 ローラの挑発を受けた変態の一部分が大きくなり始める。どうやらそういう性癖もあるらしかった。
「てゆーか……ぷぷっ、ナニそれ……ちっちゃ」
「……」
 しかし股間のモノを指さされて公然と罵倒されてしまう。
「なんか硬そうになってる! パワーアップしてるのかな?」
「……」
 カーミラにしてもよく分かってなさそうな反応でそれはそれで傷つく。しおしおと萎えていくアレ。どうにもローラの予想以上に効果は覿面らしかった。


「ガハハハ! この国の奴らも大した事ないのぅ!」
 アデレードの一角でキジンの重戦士が豪快な笑い声を上げていた。男の足元には彼との喧嘩に負けた敗者たちが転がっている。それを足蹴にしながら、男は大笑いを繰り返していた。
 そんな男の足元に、突如として白く輝く魔法陣が展開される。
「何事じゃ……!?」
 男の体に軽視出来ないダメージが流れ、そして体の動きが束縛される。
 なにが起きたのか分からず混乱する重戦士。そんな重戦士に大柄の虎のケモノビトが歩み寄る。『血濡れの咎人』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)だ。
 出会い頭の不意打ち、ロンベルの決戦術式・白陣闘技場が完全に決まっていた。敵の移動を阻害し、そして正面から全力で殴り合うための術式。
「さて久しぶりの運動だ。肩慣らしには丁度良さそうだし、大暴れするか!」
 相手の素性も何も興味はない。ただ強いと豪語する相手そこにいて、そして自分がここにいる。ロンベルにとって戦う理由はそれ一つで十分だ。
「くそ! これはお前の仕業か!?」
「あぁ、そうだ。楽しい一分にしようぜ、キジン野郎!」


「春は変な人が現れるってゆーけどもう五月なんだけどなー」
 季節感を意識しない変人達の出現に突っこみを入れる『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)は、ガントレットの感覚を確かめて戦いの準備を整える。
「ともあれ人に迷惑かける困ったちゃんはしっかり懲らしめてやらないとだね!」
「……ガツンとやる」
 ふんす、と鼻息荒くやる気を見せるのは『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)。
 普段は感情表現希薄なリムリィも今は少し感情が昂っているようだ。強者と戦いもっと強くなり、義姉や孤児院の皆の力になりたい。そんな想いを胸にリムリィは武器を強く握り締める。
「おっと、ここは通行止めなんだな」
 そうして防御タンクによって通行止めにされている区画へと二人は辿り着いた。
「こら! 町の人が困ってるでしょ! いい大人なんだから悪さはやめてさっさと家に帰りなよ」
 ビシッと指を突き付けて言い放つカノン。隣ではリムリィが超巨大な槌頭を構えている。そんな二人を見て男は鼻で笑った。
「ふん、力づくでやってみるんだな」
 馬鹿にした口調で男が言う。その態度にカノンは腕をグルグルと回してプンスカご立腹だ。
「それならお望み通りぶっ飛ばしてやるんだから!」
「お前らの細腕じゃあ、オイラの硬さにかないっこないね」
「ふぅん……」
 リムリィの瞳が怪しく光る。
「そっか、おもいっきりやっていいんだ。それはすこし……ううん、けっこうたのしみ、かも」
 大槌を構えるリムリィの言葉に、男は背筋に寒いモノを感じた気がした。


「騎士団への侮辱は、この国の軍事への侮辱と同義……か」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は独りごちると拳を強く握りしめた。エドワード陛下直属である自由騎士への侮辱。それすなわち陛下への侮辱と同義。
「これは見過ごせないわね。全員、ぶちのめす必要があるわ」
 とはいえエルシーの担当は騎士団を野蛮人と罵る踊り子。暴力を批判する相手に暴力を振るうのは如何なものか。
「う~ん、どうしたものかしらね……」
 などと悩んでいる間に現場に到着してしまった。踊り子は騎士団へのヘイトスピーチをかましながらダンスを披露している。直接的な危害はないが放置はできないだろう。
「仕方ない、なるようになるか」
 悩みを打ち切り、エルシーは衆目を独り占めにする踊り子の眼前へと歩み出た。
「はじめまして、踊り子さん。私は自由騎士のエルシー。野蛮人よ」
 エルシーの自己紹介に、踊り子は一瞬面喰らった顔をしたが、直ぐに挑発的な表情を浮かべる。
「野蛮な騎士様がアタイに何の用? 力づくで止めに来たのかしら?」
 やってみろと言わんばかりの踊り子。だが、エルシーにそんなつもりは毛頭ない。
「アデレードの皆をどちらがより魅了できるか、ダンス勝負よ!」
 どーん、と勢いよく、エルシーは宣言したのだった。


 アンと着流しの男の戦いは、アンがやや優勢といった所だった。
 着流しの男の斬撃がアンの体に傷を付ける。が、手応えは鈍い。柳凪による防御上昇が確実にダメージを散らしているのだ。一方でアンの攻撃は確実に男の体力を削っている。
「そこだ!」
 剣戟を受けつつも繰り出されたピンポイントシュートが、男の刀を持つ手を正確に射貫く。
「くっ……」
何度も手を狙い撃たれた男の動作は鈍い。その隙を見逃すアンではない。すかさずサテライトエイムを発動し、次なる攻撃の準備をする。着流しの男はそれを阻止しようと打刀を振るうがその攻撃は力無い。
「どうしたどうした? 手元がお留守だぜ?」
 煽りと共に放たれるは、神速の二連射撃。ダブルシェルによる一撃をまともに受けた男は、しかしまだ倒れない。ボロボロの両手で刀を握り直し、再度アンへと斬りかかってくる。恐らくこれは最後の足掻きだろう。
「やるじゃねえか。なら、とっておきを見せてやる!」
 ならばと、アンも最後の一撃で迎え撃つ。
 アンが引き金を引き絞る。その瞬間、港町に竜の嘶きにも似た銃声が轟いた。
「アン・J・ハインケル……だったな。覚えておこう」
 事が終わり仰向けに倒れる着流しの男。アンは竜弾の反動でとれた帽子を被り直しながら背を向ける。
「強ぇから勝つんじゃねぇ。勝った奴が……勝って生き続けてる奴が強ぇんだ。そうして勝っている奴を戦いもせずに弱いと見なして見下してるような奴は、強くもなれねぇままいつか負けて死ぬ。それが現実さ」


 ガンナーの銃撃を受けたアダムは、防御が万全だった事もあって大きな被害を受けずに済んでいた。だがこのままジッとしていれば次の攻撃を受けてしまう。アダムは即座に行動に移る。まずは銃撃の飛んできた方向へと移動を始めた。
(攻撃はこちらの方角からだ。問題は誰が狩人か、だ)
 狩人は人混みに紛れて自分を狙撃してきた。発見難しい。しかしアダムは冷静に思考する。
(相手は狩りを楽しんでいる。ならば)
 視線。表情。傷を負わされたアダムを見て、嫌らしく笑う者――見つけた。
「そこだね」
 群衆に紛れる狩人と視線が交錯したと同時、アダムは影となって姿を消した。狩人が獲物を見失い、慌てて周囲をキョロキョロと見渡す。その仕草はアダムに確信を抱かせるに十分たるもの。影狼にて間合いを詰めたアダムは、あっさりと男を組み伏した。
「ゲームセットだ、狩人さん」
「キヒヒ……ゲームオーバーか」
 悪びれる様子もない狩人に、アダムは静かに語りかける。
「君は僕なんかよりもずっと手強い獲物の狩りをやってみたくはないかい?」
「は?」
 それは狩人にとって予想外の言葉。
「この国の外にはそれこそ大勢いる。だから罪を改めたなら騎士団においで。僕と共に遊びの狩りではなく国盗りというもっと大きな狩りをやろう」
 それにさ、とアダムは言葉を付け足す。
「同じ騎士になればいつでも訓練と称し僕が獲物になってあげるさ」
 狩人は項垂れるしかなかった。器が、違いすぎる。真に騎士たる者の器に、狩人は己の所業を悔い改めさせられたのだった。


「ほらほら、どんどんいくよ変態さん!」
 ローラがツイスタータップで変態の目を惑わす。混乱した変態はうっかり自分を殴ってしまい、その衝撃で正気に戻った。
「全裸で変態な上にドMなんだ~」
 パンツ丸出しの痴女が言うか! と変態はツッコミたかったが、勢いよくカーミラの膝が突っ込んできたので口さえ開けなかった。
「うおー! だりゃー!」
 穆王八駿。変態はカーミラの影さえ見切れずにモロに飛び膝蹴りを食らってしまう。柳凪でダメージを軽減しているとはいえ、初っ端から容赦なさすぎる攻撃だ。変態も反撃に出るが2対1では分が悪い。
「おりゃ! とう!」
 パンチにキック。牛角による頭突きや跳び蹴り。それらを体格を活かした小回りで浴びせてくるのでやりにくい事この上ないのだ。もっともダメージ自体は浅かったが。こういうの対策に回天號砲でも覚えようかな、とカーミラは暢気に思考する。
 そんな戦いのさなかで変態は新たなる感情の発芽させた。
「良い」
 美少女二人に痛めつけられ、詰られる。これはこれで良いものだ。変態の股間が再びムクムクしだす。
「へ~」
 何故かちょっとだけ嬉しそうなローラ。そして。
「むっ! また硬くなったな!」
 特定の部分が硬くなる=パワーアップ。そんな図式がカーミラの中で出来上がっていた。そして強化された部位を潰しにかかるのも、また必然。
「全力パンチだ! ぶっ潰れろー!」
 今日一番の震撃が繰り出され、そして変態は女の子になった。


 ロンベルとキジンの殴り合いは既に1分以上が経っていた。お互いに一切回避を考えない全力のぶつかり合い。流石に両者とも息が上がっている。が、まだ二人とも倒れていない。
「いいねぇ!」
 ロンベルは口内の血を吐き捨ててから獰猛に笑う。これこそ戦いの真骨頂だと言わんばかりの表情だ。対するキジンの男も豪快に笑う。
「ガハハ! お前、面白いわい!」
 キジンの大槌がロンベルの肉体を打ち据えた。ロンベルの全身が悲鳴を上げる。が、ロンベルは笑みを絶やさない。
「楽しいなぁ! 全力の殴り合いって奴はよぉ!」
 ロンベルが戦斧を振るい、キジンの男もそれを避けずに受ける。まるで狂人同士の戦いだ。そんなやり取りも終わりを迎える。先に膝を付いたのはキジンの男の方だった。
「参った! 俺様の負けじゃい!」
 ロンベル渾身の一撃を受けたキジンはもう限界のようだった。最後まで本気で攻撃したが相手は死にはしていない。どうやら不殺の権能の効果は確かなようだった。シャンバラから来たロンベルはそれを確認してから、その場にドサッと座り込む。楽しかったが痛いもんは痛い。
「まあ、あとはふん縛って、憲兵にでも引き渡すか――と」
 その時、港町の何処かで轟音が響いた。
「他もどうやら決着が付いたらしいな」


 耳が痛くなるほどの衝撃音。リムリィが防御タンクを思いっきり殴りつけた音だ。
「わたしのバッシュはけっこういたい」
「う……全然大した事……な、ないんだな!」
 男は強がりを口にしたが、実際リムリィの攻撃力に割とビビッていた。それが失言だったと気づいたのはリムリィの目が怪しく光ってからだ。
「次はカノンの番だね!」
 と、律儀に順番を守って攻撃手が変わった。次も少女だが、もう嫌な予感しかしない。カノンはまず龍氣螺合にて攻撃の準備を整える。
「はぁ!」
 一手目は震撃を用いたアッパー。男はこれを両腕を合わせて全力でガードする。
「もう一発!」
 続く二手目もまたアッパー。それも一撃目をガードした際に、両腕の間に僅かに空いた隙間を狙っての攻撃だ。即座に隙間を固め、これもなんとか受け止める。
「がら空きだよ!」
「!?」
 三手目。アッパーの連続によって意識を下に向けていた男の死角より、カノンの右拳が迫っていた。顔面狙いの一撃、カノン必殺の神音。
「どう? まだやる?」
「こ、降参なんだな……」
 起き上がった男にもう戦意がない事を感じ、カノンは両手を腰に当てて胸を張った。張る胸はないが。
「ほら、街の人に迷惑かけてごめんなさい、ってちゃんと謝るんだよ!」
 と、締めの空気が流れ始めたのだったが。
「……あは。あははっ……。あはははははっ!」
 リムリィの笑いがそれを断ち切った。
「かたいね! こわれない! たーのしー!」
 戦闘スイッチが完全に入ってしまい暴走しているようだった。
「これもたえられる? わたしのさいこうのいちげき!」
 リムリィがハンマーヘッド・ヒポポを構える。狂気を湛えた笑顔と、頬を流れる血の涙。
「ぜんりょくぜんれいのぉ――D.I.Rッ!」
 男は泣きそうになりながら防御した。だがこれも自業自得。
「……ん、たのしかった。もっとかたくなったら。またあそぼ?」
 絶対嫌だと男は地に伏しながら思った。


 各地の戦いは終わりを迎え、そして港町アデレードの陽は傾き始めていた。
 喧嘩騒ぎは決着が付いたようだが、最後の勝負はまだ続いていた。
「これが自由騎士のダンスよ!」
 茜色を浴びてより紅く輝く髪を靡かせて、エルシーが熱く、そして優雅に舞い、踊る。太陽と海のワルツ。それは本来戦闘のためのスキル。だが同時にダンサーに与えられた舞でもある。
 磨き上げられた武の煌めきに、観衆からは拍手と歓声が次々に飛んでくる。
「アタイだって負けてられない!」
 対する踊り子も情熱的なダンスで観衆を魅了する。自称とは言え世界を魅了すると言うだけあって、彼女もなかなかの芸達者だった。
「やるわね、踊り子さん!」
「アンタも……やるじゃないの」
 二人のダンスは時にぶつかり合い、そして時に互いを認め合うようにセッションを重ねていく。踊り子の女はもう気が付いていた。自由騎士が野蛮人の集まりだという事がただの偏見であったという事に。この勝負はエルシーの勝利で決まっていたのだ。
 でも今はそんなことよりも、この緋色の髪をした美しい騎士と、いつまでも共に舞っていたかった。
「任務は達成出来てるみたいだけど、みんなまだ帰るつもりはないみたいね」
 呆れたように笑うエルシーの視線の先には、戦いを終えた他の自由騎士達が集まっていた。騎士達も、そして港町の住人達も、踊り子達の舞を肴に宴会を開いている。
 アデレードの港町は今日もいつもと変わらず賑やかだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

お疲れ様です。
各個撃破お見事でした!

MVPはあえて正面から殴り合いに行ったあなたへ。

また機会ありましたらお願いします。
FL送付済