MagiaSteam
変わらぬ過去と前へ進む現在




「折り入って皆さんにご同行いただきたいと思ったのはですな──」
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)は神妙な顔である共通点を持つ自由騎士たちに話しを持ちかけた。

 とある、森に不思議な場所がある。
 その場所に行くと、みな一様に夢を見るという。その夢の内容は自身の過去。それは自身にとってとても大切なものであったり、未だ後悔しできれば忘れてしまいたいものであったり、様々。そしてその過去を第三者のように俯瞰視する夢だ。
 過去自体が変わる事も覆るも決して無い。けれどもその過去をもう改めて今、経験する事によって得られるものはきっとあるはずとジローは言う。

「実はワタシにも乗り越えたい過去(モノ)がありましてな……」
 普段のジローとは違う雰囲気が漂う。
「もちろんコレは強制ではありませんし、自由騎士への依頼でもないですぞ。ごく個人的な用事として可能ならご同行いただければと思っておりますぞ」

 軽く微笑みながらそういうと現地へ向かおうとするジロー。
 その後ろには同じく、己が過去と再会を望む数名の自由騎士が、いた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.夢の中で自身の過去に触れる
年度末進行ももうすぐ……終わる……っ。スケジュール取りに苦労している麺です。皆さんもお忙しい時期でしょうか。

ジローからの過去へのお誘いです。
メタ的に言ってしまえばキャラクターの過去の掘り下げを行ってよりキャラクターに深みを演出して魅力的に出来るといいなと考えました。大切な思い出でも、壮絶な過去でも、ちょっとした悔いでも、何気ない過去でも何でもOKです。
なぜ夢を見る事が自国防衛なのか。それは皆さんが過去を顧みることで何かを得ればそれが国のためにもきっとなると考えたためです。皆さんの過去を麺にも共有させてくださいませ。

●ロケーション

 とある森の中。到着後しばらくするととても良い心地になり、皆さん眠りに尽きます。
 実はコレはとある幻想種の力によるものですが、今回は登場しません。
 敵などは存在しませんので安心して眠りにつき、存分に夢をご堪能頂けます。
 夢を見る時間は1時間程度。あまりに長い期間に及ぶ過去の場合はダイジェストになってしまいます。
 皆さんには自身が過去に体験した事柄を夢で見ていただきます。
 夢の中では本人としてではなく、第三者的な俯瞰でその場面を眺めています。介入は出来ません。
 その場面を見ながら当時自分がとった行動や発した言葉に対してコメントするなども可能です。

●登場人物

・過去の貴方や貴方の周りの人々


●参加NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)

ご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  5個  1個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2019年04月01日

†メイン参加者 6人†

『蒼光の癒し手(病弱)』
フーリィン・アルカナム(CL3000403)
『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)
『困った時のウィリアムおじさん』
ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)
『英雄は殺させない』
マリア・スティール(CL3000004)
『水銀を伝えし者』
リュリュ・ロジェ(CL3000117)



 朧げな記憶。遠い過去。ここはそれらを追体験する不思議な場所。
 そしてそれは紛れも無い現実の出来事。
 だが人の記憶は曖昧なものだ。遠い過去や大きなショックを伴う過去ほど、自身の記憶と実際の過去が大きく乖離している事もありえるのだ。

 さぁ、過去の出来事を追体験しよう──。

●『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)

 ベッドで苦しそうに荒い息をする女性。その傍らには医師と看護師。そしてただ立ち尽くす男。

 ──あれは……私か。そうだな……私が見るならきっとこの瞬間だと思っていたよ……なぁ、シルヴィア。

 高熱に魘されていたシルヴィア。意識も絶え絶えでまともに話すことも出来ない状態が長く続いていた。
「出来る手は尽くしましたが……」
 最後の時間です──そう言うと医師たちは部屋を出る。最後の時間を2人で過ごせるよう計らったのだ。だがそれは確実な最後を迎えるという事でもある。
 苦しげなシルヴィアがふと目を開ける。
「あなた……」
 もう視界も確かなものでは無いのであろう。すぐ傍にいるテオドールを探すように目を泳がせる。
「ここにいる」
 テオドールが強くその手を握る。少し安心したのかシルヴィアの表情が和らぐ。
「ごめんなさい……」
 妻としての義務を果たせなかった事、迷惑をかけてしまっているだろう事。短いその言葉にはどれだけの意味が含まれているのか──それを理解するテオドールの胸は一層締め付けられる。
「代わりは探して……そうして……しっかり愛してあげてね……どうせ……貴方は自分を責めてしまうのだから……」
 自分の命が今まさに消えようとしている。こんな状態になっても自分より残されるテオドールの事を心配する。そんな妻を何も言わず見つめるテオドール。
「……立ち止まらないでね」
 シルヴィアの言葉に、ハッと目を見開くテオドール。
 二人の目が合う。穏やかに微笑むシルヴィアの瞳には不安や後悔は感じられない。全てを受け入れた者のどこか遠くを見るような──。
「……少し疲れたみたい……先に休むわ……ね。じゃあ……ま……た」
 シルヴィアは最後までさよならとは言わなかった。

 ──そうか。私は……自責の念で……こんなにも大事な言葉を忘れていたのか……。

●『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)

 ──ここは……?

 見覚えがある部屋。そこにはベッドから身を起こし、窓の外を眺める小さな女の子。
 
 ──なんという美幼女! これは将来有望ですっ♪ ……なーんて、冗談はさておき、あれ、小さい頃の私ですよね。
 
 目線の先には優雅に空を飛ぶ鳥達。
「とり、むかつく……なにをいいきになってとんで……じゆうにとんで……けふっ」
 
 ──やさぐれてますね~私。まぁ無理もありませんけど。この頃は私にとって一番辛い時期でしたから。

 生まれつき身体が弱かった私。
 幼い頃は何度も、何度も、生死の境を彷徨っていた。それがその時の私の日常。私の普通。
 それでも忍び寄る死の気配に抗い、懸命にしがみついていた。生きてさえいればきっと、という希望に。
 だがそれは長く辛い日々に挑み続けるという事。
「きっとだいじょうぶ……わたしのがんばりはかみさまがみていてくれてる」
「かみさま……わたしがんばってるよ……」
「くるしい……つらいよ……なんで……なんでわたしだけ……」
「だれか……たすけて……たすけてよぉ……」
 繰り返される苦しみの中で、幼い私の中の希望の光はどんどん細っていく。
「こんなことなら……もうセフィロトのうみにかえりたい……きえてしまいたい……」
 ついには生きる意味さえも見出せなくなっていく。

「……わたししぬのかな」

 それは絶対に言いたくなかった言葉。絶対に言わないと決めた言葉。どんな事があっても絶対に口にはしなかった言葉。
 消え行く希望。迫り来る死の恐怖。そんな日々は幼い私の最後の抵抗まで意図も容易く崩潰させた。
 ぽろぽろ。ぽろぽろ。
 頬を伝うのは大粒の涙。拭っても、拭ってもとめどなく溢れる涙。
「……やっぱりやだっ! わたしまだなんにもしてないのに! しにたくない! しにたくないの……しにたくないよぉ……」
 
 ──……。

 そして不安に押しつぶされ、涙も枯れ果てた絶望のふち。ようやく少女に救いの手が差し伸べられる。
 絶え難きに耐え、偲び難きを偲んだ日々がようやく報われる時。
 それは神に祝福された存在──オラクルとしての覚醒。
「あ……れ……? きょうはくるしくない……」
 それからの少女の生き方は大きく変わる。自身の中に感じるこれまでに無い何かの感覚。不思議と馴染んでいる新しい力。
 それからの日々は自身の苦しみを開放してくれたこの力をいかに制御するか。そしてそれをいかに活用するかに没頭する毎日。いつしか少女を覆いつくそうとしていた死の恐怖は消え去り、代わりに芽生えたのは渇望。自らを生かしたこの力をもっと、もっと知りたいという渇望。それはまさに新しい希望であった。

 これが魔導の習熟を第一に、身体は貧弱な自由騎士が生まれたきっかけ。
 これが生きる事を諦めなかった私の大きな大きな転機。
 
 ──そう。私は生きる。例えどんなにかっこ悪くとも。どんなに尤もなかろうと。例え這いつくばってでも私は生きる。精一杯生きる事こそが私の望みなのだから。

●『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)

 気付けばそこは見覚えのある景色。
 山奥の小さな村。小さな家。その庭先。そこにいたのはまるで熊のような体躯の赤い髪の大男と、穏やかな笑顔を浮かべる黄金色の瞳をした小柄な女性。
 ──っ!! その姿を見たカノンは身体を震わせ思わず涙ぐむ。それはもう思い出の中でしか会えない2人。大好きだったとーさまとかーさまの姿。
 思わず声を掛けようとしたカノンの後ろから声がした。 
「とーさま! かーさま!」
 2人に嬉しそうに駆け寄るのは小さな女の子。それは幼き日の自分。
 父親に肩車してもらいご機嫌の自分。
「カノンは父さんよりも背が高くなったなー」
 そういって笑うとーさまに、小さなカノンがはしゃいで笑う。そしてそれを見て微笑むかーさま。
「そうそう、蒼馬さんから手紙がきてたわ。今度いらっしゃるって」
 ソウマ。センセーの事だ。
「ソウマくるのっ!? やったー!!」
 両手を挙げて喜ぶ小さなカノン。そんな様子を見ながらかーさまは、ほんの少しだけ意地悪そうな顔をしてとーさまに聞こえるように言う。
「カノンは蒼馬さんのお嫁さんになりたいのよね?」
 その言葉に反応したのはとーさま。
「何ぃ!? いくらアイツでもカノンはやらんぞ!!」
 突然の告白に心底慌てるとーさま。そんな様子をくすくすと笑いながら見ているかーさま。
「お父さんはああ言ってるけど、本当に好きならその思いを貫きなさい、カノン。お母さんも自分の思いを貫いてお父さんと一緒になったのよ。だから今、お父さんとカノンといられてお母さんは幸せなのよ」
 そういって微笑んだかーさま。
「おいおい。カノ~~~ン。まだお嫁に行くなんて言わないでくれよぉ~」
 大きな身体を小さく丸めて泣きそうな顔のとーさま。
 カノンは母の顔を改めて見る。あの時のカノンにはわからなかったけど……こんなに……こんなにも本当に幸せそうな顔をしていたんだ。
 そう、カノン思い出したよ。小さな子供の小さな夢。そしてかーさまが心から言ってくれたこの言葉が今のカノンを支えているよ。
 思いを貫く。何があっても、きっと──。

「きっと……叶えてみせるから……」
 カノンが目覚め、頬に感じたのは一筋の涙。そして改めて強く認識したのは、かーさまから受け継いだ強く揺ぎ無い気持ち。
 思いを貫く──その根幹はカノンが両親から惜しみなく注がれた、大きな……それは大きな愛であった。

●『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)

 目の前には修行に励む少年。そしてその傍らには男が立っている。

 ──あれは……私だ。ああ、そうか。私の過去はあの人無しにはありえないものな。

「やぁっ!! とおっ!!!」
 一心不乱に槍を突く幼き日のウィリアム。

 ──この頃の私は単純に強い人に憧れる子供らしい子供だったな。まだ未知を解き明かす喜びも知らない頃だ。

「いつかきっと師匠(せんせい)のように強くなる。この槍でっ!」
 元気よくそう宣言するウィリアム。師を慕い、子犬のように従順な少年に男が見せたのは、喜んでいるいるような……それでいて少し困っているような複雑な表情。
「ありがとうな、坊(ぼん)。でも俺はそんなに大した奴じゃねぇ。故郷も守れず、こんな遠くまで来ちまった盆暗さ」
 そう言うと男はウィリアムの頭をくしゃくしゃと撫でる。

 ──槍を教えてくれた一人目の師匠。そして……私の英雄。もう顔も声も朧気だったが……そういえばこんな人だった。

 そして場面は変わる。あの瞬間へと。

「泣くな、坊。俺にしちゃ、意外と、悪くない終わり方だ。今度は、ちゃんと、守れたからなぁ」
 誰が見ても助からない程の重傷を負った男。その傍らには男に倒されたと思われる巨大なイブリース。そして……ただ泣きつづけるウィリアムの姿。
 山での修行を行っていた少年と男に突如として襲い掛かったイブリース。
 動揺するウィリアムを庇い、深手を負いながらも男はイブリースを倒すことに成功する。
 だがその代償は大きかった。勇猛果敢に戦った男の命の灯火は今消えようとしていた。
「だって……えぐっ……師匠が……えぐっ……師匠がぁ……」
 拭っても拭っても止まらない涙。まだ幼い少年も本能的に理解している。ほんの僅か先に永遠の別れがある事を。
「坊、強くなれよ。俺みたいな、じゃなくて。俺よりもずっと、強くなるんだ。武術もそうだが、頭も鍛えねぇとなぁ。何でも出来るようになっときゃ、損は無ぇ」
 男は最後の力でウィリアムの手を取り、その瞳を見つめる。男は少年の言葉を待っていた。
「ぐすっ……うん……わかった……絶対に強くなる……師匠を超える強い男になるっ!!」
 少年の言葉に安心したのか、男はゆっくりと瞳を閉じる。
「あぁ……そうだ。男と男の……約そ……く……だ……ぞ」
 男の手が少年の手から零れ落ちる。
「師匠ーーーーーーーーーっ!!!!!」
 過去を悔やみ続け、自らを慕う少年に未来(きぼう)を見た男の最後の顔は──とても満足げで……とても安らかなものだった。

●『果たせし十騎士』マリア・スティール(CL3000004)

 動機は些細な事だった。
 一言で言えば興味本位。まじめな顔のジローが珍しかったから──なんてのがマリアがついてきた理由だった。
「昔の事は気にしないタチなんだけど」
 そんな事を言いながらもマリアの脳裏にある出来事が浮かぶ。
 曖昧な記憶。それは両親に捨てられたマリアが、キジンになったきっかけの出来事。

 ──オレはオレを捨てた親を追いかけていた……と、思う。必死で追いかけて。追いかけて。追いかけて。そしてオレは馬車に挽かれたんだ。
 
「ママー!! ママー!!」
 港の近く、深い朝霧の早朝。小さな女の子が道を歩いている。
 もうずいぶんと泣きながら歩いていたのだろう。裸足の足は擦り切れて血が滲み、顔は涙でくしゃくしゃになっていた。

 ──あれは……間違いなくオレだ。って……あーオレって女子だったんだな。

 マリアは自身の性別を知らなかった。いや意識しなかったというのが正解だろうか。幼い頃に身体の殆どの部位が機械化したマリアにとって、性別など些細な事でしかなかったからだ。事実伸ばした長い髪は性を意識したものではない。高く売れるから──いつかのマリアは笑いながらそう言っていた。
 だがそれも本能的なものだったのかもしれない。

 ──っと、そんな事より追いかけている相手だよ。それがきっとオレの親で……

 夢の中のマリアが意識を広げる。
 幼いマリアの歩く遥か先。そこに数人の人影。手かせを付けられ、鎖でつながれた若い男女と数人の男達。

 ──オレは……捨てられたんじゃ……ない?

 マリアのこれまでの記憶。その中での両親は自分を捨てて出て行った、凡そ愛情など欠片も無い最低な人たちだった。
 だが真実は違っていた。いっそ捨てられたと思えば──突然引き離された悲しみが心を壊してしまわぬよう、そしてその後も強く生きるため、マリア自身がいつの間にか記憶を改竄していたのだ。
「おいっ! もたもたするな。速く歩け」
 2人は泣いていた。2人を追いかけるように聞こえていたわが子の鳴き声はもう聞こえない。
 けれどもきっとまだついて来ているであろう我が子を思い、血が滲むほど唇を噛みしめながら振り返る。
「マリア……強く生きてくれ……」
「私の愛しい子……うぅ……マリアァァァーーーーーーウッ!?」
 どす、と鈍い音がした。男の1人が子の名を叫ぶ女の腹に拳をめり込ませたのだ。
「騒ぐな。殺されたいのか」
 女はふるふると首を振る。そうして俯き、もう二度と会えないであろう愛しいわが子を思って、声を押し殺しながら大粒の涙を流しつづけていた。

「……!? ママ!?」
 声が聞こえた気がした。思わず走り出すマリア。だが──
 ガシャァァァン。大きな衝突音と共にマリアの夢は終わりを告げた。

 ──あぁ、オレはこうやって事故にあったのか。そして今に繋がるんだな。

●『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)

 ──ここは……俺の故郷……か。

 目の前に現れたのはリュリュの故郷。季節は秋の収穫祭。
 人々は忙しそうに祭りの準備をしている。

 ──作物の収穫と豊作を祝い、またこれからの一年を――いや待て、これはあまり……よくない思い出な気がする。

 目の前には何故か女の子用の服を着て、他の子供達にやいのやいのとからかわれている少年の姿。
 幼き日のリュリュだ。
 
 ──ああ……この年の祭りは俺だけ女の子用の服を着せられたんだ。何でだったか……ああ、祭りの前に汚してしまって変わりに母さんのお古を着ることになったんだったな。

 もともとリュリュという名前は女の子みたいだとからかわれることも多かった。
 そんなリュリュが更に女の子用の服を着ている。他の子供からすれば格好のターゲットだ。
「やっぱり女だった!」
「やーいやーい! リュリュちゃんは女の子ー」
「リュ・リュ・ちゃん♪」
 周りの子達の言葉一つ一つが見えない刃となり、リュリュに突き刺さる。
 リュリュは泣きながら走り出す。
「こらっ!! お前達」
 それに気付いた大人が一括すると雲の子を散らすように子供達は逃げていった。
「まったく……。うーん、可愛いモンだがなぁ……」
 大人にとってはどれだけの事。だが幼いリュリュには耐え難いもの。
 そしてリュリュはそのまま家に帰り、祭りに参加することはなかった。
 
 ──自分の名前が心底嫌になったのは、この時だったな。……全く、何てものを見せられてるんだ。

 その後も、状況は代わりはしなかった。相変わらず女の子のような扱いをされる日々。
 そんな中でリュリュが思い描いたのはカッコいい大人の自分。「リュリュ」という名前が似合わない男らしい自分。
 いつかそんな男になると誓ったあの頃の自分が、今目の前にいる。

 ──よく考えたら、女みたいな顔立ちの子供が成長したところで、筋骨隆々の逞しい大人になれるはずがなかったな。

 そして夢は覚める。リュリュの心にちくりと何かが刺さった気がした。

●兵どもが夢のあと

「ミタホーンテン卿、今日は誘ってくれて感謝するよ」
 そうジローに話すテオドールの顔は晴れ晴れとしたものだった。
 ずっと曖昧だった記憶。鬱葱とした霧の中にあった最後の記憶。その霧が晴れたテオドールが得たものは、誰よりも大切だった人の、誰よりも強く温かい想いだった。
「本当に……良い妻だった」

「……違ったんだな。まぁだからといって探そうって気はしねーけど」
 マリアが見た過去。捨てられたとばかり思い、生きてきたこれまでの人生。
 だが現実は違った。きっと幼いマリアは1人で生きていくためにそう自分を言い聞かすしかなかったのだろう。だが両親はマリアを確かに愛していたのだ。
 マリアの表情はいつもと変わらない。だがその心は少し……ほんの少しだけ救われたような気がしていた。

「師匠。お言葉に従い、頭も鍛えましたよ。今では研究の方がちょっと楽しいくらいです」
 ウィリアムの心に色鮮やかに甦ったのは今はなき師匠の姿。そして交わした約束。
「私は強くなれているでしょうか。貴方のように誰かを守る為に命を燃やせる男に……少しでも近づけているでしょうか──」

 リュリュは無言で帰り支度をする。それは今の自身の根底を今一度見直した事に、複雑な心境を隠しきれないようだった。

「さぁ帰りましょうか」
 フーリィンがみなに声を掛ける。
「そだねっ!!」
 カノンが元気よく答える。

 それぞれが見た夢。
 それが今一度自分を見つめなおし、前へ進むための糧にならん事を──

†シナリオ結果†

大成功

†詳細†

特殊成果
『夢の欠片』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

†あとがき†

さては麺は涙腺が弱い事を知っての……狼藉……ずるいぞぅ……っ(ずびー)
ちなみにジローの見たかった過去は、亡き友との最後だったようです。

ご参加ありがとうございました。
FL送付済