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石像はどこに?或いは、解き明かせ、メイド圧殺事件…

●盗まれた像
とある屋敷から家宝として祭られていた小さな像が盗まれた。
その像は、大昔の儀式で使われていた石造りのもので、大きさはちょうど片手で持てる程度。
古いものであり、歴史的な価値もある。
売ればいい値になるだろう、ということで屋敷に勤めていたメイドの1人が辞めかけの駄賃とばかりに盗んで行ったのだ。
価値のあるものとはいえ、石像は石像。
屋敷中に飾られた価値ある物の中では、かなり安い部類に入る。
だが、屋敷の女主人であるアンリカという女性は少々慌てた様子であった。
「あんな曰く付きの代物を盗んで行くなんて、何かあったらどうするのかしらね?」
と、髪を指でいじりながら彼女はそうため息をこぼす。
黒いドレスに白い肌。
銀の髪を揺らめかせた年齢不詳所の美女である。
そんなアンリカのもとに、件のメイドが故郷の家で圧死体で見つかったという知らせが届いたのは、それから数日後のことであった。
メイドが死ぬ瞬間を見ていた男が言うには、彼女は巨大な何かに踏みつぶされて死んだのだという。
そしてその瞬間、メイドの姿は男の視界から消えた。
まるで目の前に壁ができたかのようだった、と彼は言う。
骨も、肉も、内臓も。
すべてが潰れ、混ざり合った、それはそれはひどい死に様だったらしい。
現場に残されていたのはメイドの死体と、大量の土くれ。
果たして、彼女の身に何が起きたのか。
「仕方がないわね。状況を知って、放置しておくのも寝ざめが悪いし」
なんて、言って。
アンリカは、かつて知り合った「自由騎士」たちへ事件の調査を依頼することに決めたのだった。
●依頼発注
「まぁ、十中八九、件の石像が原因よね。って言っても、解決方法まではわからないだけどね」
と、困ったように頬を掻きながら『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)はそう告げる。
「還リビトではなさそうだし、イブリースって線が濃厚かしら? まさか本当に石像の呪いってこともないだろうし……あるいは、人災?」
巨大な影に踏みつぶされたという証言が嘘で、石像を奪うために目撃者がメイドを殺して、何かで潰したという可能性だ。
恐ろしきは人間の欲……自由騎士たちもバーバラも、そのことはよく知っている。事実、アンリカに報告された内容に「石像の在り処」は含まれていない。
「ほかにヒントになりそうなのは、時間が夜だったこと、現場には土くれが残されていたこと、大重量の巨大な何かにメイドは潰されて死んだこと、巨大な壁のようなものを見た気がすること……今のところこれぐらいかしら?」
うぅん、と顎に手を当ててバーバラはしばし思案する。
「儀式に使われていたという話だし、予想される状態異常は[カース]……それ以外だと、私の勘では[グラビティ]あたりが濃厚ね」
戦闘が必要となるかは不明だが、備えあれば憂いなしともいう。
「それなりに大威力の攻撃手段は必要かもね? とにかくまずは調査から。お願いできる?」
と、そう言って。
バーバラは、仲間たちをとある村へと送り出す。
とある屋敷から家宝として祭られていた小さな像が盗まれた。
その像は、大昔の儀式で使われていた石造りのもので、大きさはちょうど片手で持てる程度。
古いものであり、歴史的な価値もある。
売ればいい値になるだろう、ということで屋敷に勤めていたメイドの1人が辞めかけの駄賃とばかりに盗んで行ったのだ。
価値のあるものとはいえ、石像は石像。
屋敷中に飾られた価値ある物の中では、かなり安い部類に入る。
だが、屋敷の女主人であるアンリカという女性は少々慌てた様子であった。
「あんな曰く付きの代物を盗んで行くなんて、何かあったらどうするのかしらね?」
と、髪を指でいじりながら彼女はそうため息をこぼす。
黒いドレスに白い肌。
銀の髪を揺らめかせた年齢不詳所の美女である。
そんなアンリカのもとに、件のメイドが故郷の家で圧死体で見つかったという知らせが届いたのは、それから数日後のことであった。
メイドが死ぬ瞬間を見ていた男が言うには、彼女は巨大な何かに踏みつぶされて死んだのだという。
そしてその瞬間、メイドの姿は男の視界から消えた。
まるで目の前に壁ができたかのようだった、と彼は言う。
骨も、肉も、内臓も。
すべてが潰れ、混ざり合った、それはそれはひどい死に様だったらしい。
現場に残されていたのはメイドの死体と、大量の土くれ。
果たして、彼女の身に何が起きたのか。
「仕方がないわね。状況を知って、放置しておくのも寝ざめが悪いし」
なんて、言って。
アンリカは、かつて知り合った「自由騎士」たちへ事件の調査を依頼することに決めたのだった。
●依頼発注
「まぁ、十中八九、件の石像が原因よね。って言っても、解決方法まではわからないだけどね」
と、困ったように頬を掻きながら『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)はそう告げる。
「還リビトではなさそうだし、イブリースって線が濃厚かしら? まさか本当に石像の呪いってこともないだろうし……あるいは、人災?」
巨大な影に踏みつぶされたという証言が嘘で、石像を奪うために目撃者がメイドを殺して、何かで潰したという可能性だ。
恐ろしきは人間の欲……自由騎士たちもバーバラも、そのことはよく知っている。事実、アンリカに報告された内容に「石像の在り処」は含まれていない。
「ほかにヒントになりそうなのは、時間が夜だったこと、現場には土くれが残されていたこと、大重量の巨大な何かにメイドは潰されて死んだこと、巨大な壁のようなものを見た気がすること……今のところこれぐらいかしら?」
うぅん、と顎に手を当ててバーバラはしばし思案する。
「儀式に使われていたという話だし、予想される状態異常は[カース]……それ以外だと、私の勘では[グラビティ]あたりが濃厚ね」
戦闘が必要となるかは不明だが、備えあれば憂いなしともいう。
「それなりに大威力の攻撃手段は必要かもね? とにかくまずは調査から。お願いできる?」
と、そう言って。
バーバラは、仲間たちをとある村へと送り出す。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.石像の行方調査
2.石像の破壊または回収
2.石像の破壊または回収
●ターゲット
石像(???)×1
大昔の儀式に使われていた石像。
片手で持てる程度の大きさ。
古いもので、あちこち崩れかけているがどうやら人を模しているらしい。
メイドを圧殺したことから、何らかの攻撃手段を有しているようだ。
予想される石像の攻撃には[カース2][グラビティ1]が付与されている模様。
●場所
とある小さな村。
メイドの家を含め、20世帯ほどが暮らしている。
メイドの死後、巻き添えをおそれ村人たちは近くの別の村へ避難している。
件の石像は行方不明。村のどこかにあるだろうとのこと。
現在、メイドの死に際して得られた情報は下記。
・時間は夜だった
・現場には大量の土くれが残されていた
・メイドは大重量の巨大な何かに潰されて死んでいた
・目撃者は巨大な何かと、目の前を遮る壁のようなものを見た気がすること
石像(???)×1
大昔の儀式に使われていた石像。
片手で持てる程度の大きさ。
古いもので、あちこち崩れかけているがどうやら人を模しているらしい。
メイドを圧殺したことから、何らかの攻撃手段を有しているようだ。
予想される石像の攻撃には[カース2][グラビティ1]が付与されている模様。
●場所
とある小さな村。
メイドの家を含め、20世帯ほどが暮らしている。
メイドの死後、巻き添えをおそれ村人たちは近くの別の村へ避難している。
件の石像は行方不明。村のどこかにあるだろうとのこと。
現在、メイドの死に際して得られた情報は下記。
・時間は夜だった
・現場には大量の土くれが残されていた
・メイドは大重量の巨大な何かに潰されて死んでいた
・目撃者は巨大な何かと、目の前を遮る壁のようなものを見た気がすること
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
5/8
5/8
公開日
2020年03月19日
2020年03月19日
†メイン参加者 5人†
●
とある小さな村で、少女が1人命を落とした。
現場に残されたのは巨大かつ、大質量の何かに押し潰された哀れな遺体。
その傍ら散らばる大量の土。
一方、現場から消えてしまったものは1つの石像。
それはメイドが元の雇い主である富豪アンリカの元から盗み出したものだった。
その像は、大昔の儀式で使われていたものだという。
果たして、件のメイドは何に殺害されたのか。
目撃者が見た巨大な“何か”の正体とは……。
村人たちは、メイドを殺した“何か”を恐れ、近くの村へ避難している。
まるで廃墟のような村へ、足を踏み入れたのは5人の自由騎士だった。
先頭を歩く赤毛の女性『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が、髪を掻きあげため息を零す。
「アンリカさんに話を聞いたけど、これといった情報は得られなかったわ。少なくともアンリカさんの屋敷にあった間は、ごく普通の石像だったそうだけど」
「だが現に石像は行方不明……普通の石像が勝手に移動するはずがない。という事はイブリース化していると考えるのが打倒だろう」
村の様子を睥睨しつつ『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は言葉を紡ぐ。
石像の在り処を探しているのだろうが、一見して村に変化や異常は見られない。活動には何かしらの条件があるのだろうか、などとオルパは思案した。
「ま、とにかく事件現場に行ってみようよ」
そう言って『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は村の一角を指さして見せる。
そちらへ目を向け、オルパはわずかに顔をしかめた。
メイドの死から時間は経過しているはずだが、その方向からは確かに濃い血の匂いが漂っていた。
「バーバラ氏もイブリースの仕業とみているから、その線で捜査を進めるべきだろうな」
と、そう呟いてキース・オーティス(CL3000664)は腰のレイピアに手をかけた。その表情からは、わずかな緊張が伺える。
実戦経験の少ない彼にとって、正体不明の“何か”は油断ならない相手なのであった。
事件現場……つまりはメイドの家である。
その場に残された大量の土くれを手に取ってセアラ・ラングフォード(CL3000634)は顔を近づける。
「土自体はごく普通の……いえ、これは家の壁に使われている土?」
家屋の中に散らばった大量の土と、床に残った血の痕跡。
壁の一部は崩落している。
おそらく、件の目撃者は砕けた壁の向こうから“何か”の犯行現場を目にしたのだろう。
家の中はめちゃくちゃだ。テーブルや椅子、花瓶に食器、棚に至るまでが砕けて床に散らばっていた。
家屋の内部を観察する仲間たちを押しのけるようにして、ジーニーは血痕の傍へと近づいていく。
「こういうのは、直接自分で見るのがてっとり早いって。『見ると聞くとは大違い』って言うしさ!」
と、そう宣言し、彼女はカッと目を見開いた。
●
ジーニーが行使したスキルの名は【慚愧の瞳】と呼ばれるものだ。
人が死したその場所で、犠牲者の最後の1分間の記憶を垣間見ることを可能とする。
「それじゃ行くぜ。我が瞳よ、この場に残された記憶を我に見せよ!」
左の目を手で覆い、赤い右目を光らせる。
瞬間、ジーニーの脳裏へ死者の記憶が流れ込む。
暗い部屋。
ガタン、と物音に反応し目を覚ましたメイドの視界に巨大な影が映り込む。
月明りに浮かぶシルエットは人のそれに似ていた。
だが、その背丈は3メートルを超えている。
短い脚に、太い胴体。胴と一体化したような平たく潰れた頭部。
そして、床に届くほどに長い腕。
「あ……え?」
悲鳴をあげる暇もなく。
メイドの頭部目掛け、巨大な拳が振り下ろされた。
「うぇ……ぐちゃ、って。自分の頭が潰れる音を聞いちゃったぜ」
顔をしかめ、ジーニーはそう呟いた。
それから、メイドの見た最後の記憶を仲間たちへと伝える。
「3メートルほどの巨体……例えば、ここに散らばった土を積み上げればそれぐらいの大きさになるのではないか?」
床に散らばった土と、崩落した壁を交互に見やりキースは言う。
その言葉を受け、セアラはある仮説を立てた。
「石像は、土を纏う……あるいは操っている?」
だとするならば、その大きさは自由自在ということになる。
「だが、今のところ活動はしていないようだった」
「とりあえず、夜まで待機していましょうか」
オルパとエルシーはそう結論を出し、メイドの家から外に出る。
血の匂いに包まれながら、のんびりとする趣味はないのだ。
今のうちに、石像の所在を探しておこう、とそういった目的もある。
西の空へ日が沈む。
夜の訪れ。
5人はメイドの家を出て、村の捜索を開始した。
日中、村中を散策して回ったが件の石像は発見できなかった。
「石像が動き出すのは、夜に限定しているかもしれん」
オルパの仮定は、果たして正か。
捜索を始めて1時間ほど……小さな村を4周ほど回ったところで、異変は起きた。
ズズ、と。
突如大きく、地面が揺れた。
「来ます……戦闘のご用意を!」
そう言ってセアラは胸の前で手を組んだ。
まるで何かに祈るかのような姿勢。セアラの周囲に、淡い燐光が舞い踊る。それは自然に存在する無形の魔力を癒しの力へと変じたものだ。
ふわり、と燐光は風に運ばれるようにして仲間たちへと降り注ぐ。
セアラの言葉を聞くまでもなく、仲間たちは各々の戦闘態勢を整える。
「痺れを切らして出て来たか……それとも、何か条件を満たしたか?」
左右の手にレイピアとマンゴーシュを握ったキースが、音の出どころ……つまりは村の中央広場の方向へと視線を向けた。
中央広場の地面が抉れ……否、土が何かに吸い寄せられるようにして一か所へと集まっているのだ。
堆積した土砂が形作るは歪な人型。
現れたのは、4メートル近い巨躯を持った土くれの巨人。
「きっと村のどこかに石像はあるはずと思っていましたが……なるほど、地面の中に埋まっていたのね」
朱色の籠手で覆われた拳を打ち鳴らし、エルシーは姿勢を低くする。
見るものが見れば、その全身にじわじわと力が充填されていることがわかるだろう。
例えるならば、今の彼女は限界まで引き絞られた弓矢のような状態である。
土の巨象の現れと共に、動き出した者たちがいた。
「先制はいただくぞ」
抉れた地面を避けるように、大きく迂回し巨象の背後へと回り込んだオルパは、2本のダガーでその背中から頭部にかけてを切り裂いた。
スキルで補助されたこともあり狙いは正確……けれど。
「ちっ、硬いな」
ダガーでは、土の一部を削る程度のダメージしか与えられない。ましてや、おそらくは巨象の本体は内部に埋もれた件の石像。
土の体はいわば鎧か外装のようなものなのだろう。
生憎と状態異常の付与にも失敗したようだが、それでも巨象の気を引くことには成功した。
ゆっくりと、オルパへ向き直る巨象の足元に金髪を靡かせジーニーが迫る。
足を地面に固定し、戦斧を大きく背後へと振りかぶったその姿はまさに戦鬼。
「敵が現れたってんなら、とにかく突撃して考えるのはあと!」
咆哮と共に、ジーニーが斧を振り抜いた。
風が唸る。
全身にみなぎる闘気を乗せた渾身の一撃が、巨象の短い脚を穿った。
ズドン、と地面が揺れるほどの衝撃。
片足を失った巨象が傾ぐ。
長い腕をジーニー目掛け振り下ろすが……。
「私を圧殺できるものならやってみな! パワー勝負なら負けないぜ!」
引き戻した斧を使って、彼女は巨象の拳を受け止めた。
いかにジーニーの力が常軌を逸しているとはいえ、やはり質量の差はいかんともし難いものがある。
巨象の拳を叩きつけられたジーニーは、地面に半ば埋もれるようにして倒れ伏していた。
意識はあるようだが、その額からは血が流れている。
「体が重たい……」
呻くようにそう呟いたジーニーの目の前で、巨象の足が再生していく。
月を背にしたシルエット。
なるほどこれが……とジーニーは思う。
圧殺されたメイドが最後に見た光景と、目の前のそれは酷似していた。
巨象に取り付くようにして、オルパはダガーを振るい続ける。
頭部を、肩を、背を、腰を。
次々と鋭い刃が抉る。
けれど巨象は止まらない。
元より痛みなど感じる機能が、土の体にあるとは思えない。
ならば、巨象を止める術があるとすれば……それは一つ。
「でかければそれだけ攻撃を当てやすいって事でしょ」
疾駆する赤い影。
咆哮をあびた巨象の体が、ボロボロと崩れる。
駆ける勢いそのままに、エルシーの拳が巨象の腹部を打ち抜いた。
後方へよろけた巨象の胸に、スタンと軽い音を立て着地。獰猛な笑みを浮かべ、さらに追い打ちの拳を放つ。
飛び散った土砂が、エルシーの頬を傷つけるが、彼女はしかし止まらない。
オルパと共に放たれるラッシュが、巨象の体を削っていく。
地面が揺れる。
巨象の拳が地面を叩いた。
衝撃に、オルパとエルシーの姿勢が崩れる。
その一瞬の隙を突き、巨象は両の腕を振り回す。
土の腕に弾かれて、2人の体が宙を舞う。空中で身動きの取れない2人を狙って、巨象はその剛腕を振るった。
その瞬間……。
「イブリース相手だ。正々堂々もあるまいよ」
淡々と紡がれる低い声。
鋭く閃くレイピアが、オルパの攻撃で削られていた巨象の肩を刺し貫いた。
殴打の勢いを支えきれず、巨象の腕が根元から落ちる。
混戦の最中、側面より巨象へ迫ったキースの刺突が仲間たちの窮地を救ったのであった。
だが、しかし……。
「ぐっ……」
巨象は即座に、ターゲットをキースへ移す。
キースが受けた攻撃は、ただただ単純な体当たり。
実戦経験の乏しさからか、キースは不意の攻撃をさばききることができず、その身は地面に叩きつけられた。
「まだまだ経験を積まねばな……」
口の端から血を零しながら、キースはゆっくりと立ち上がる。
取り落としたレイピアを拾い上げ、その視線を巨象へと向けた。
彼の戦意は、いまだに健在。
戦線に復帰した仲間たちと共に、再び巨象へと立ち向かう。
薄く目を閉じ、セアラは静かに祈りを捧げる。
どうか仲間たちの傷を癒し、この村に再び平和な時を取り戻さんことを……と。
セアラの周囲を渦巻く魔力は、淡い燐光へと変わり。
風に舞うように……ゆっくりと仲間たちの体へ吸い込まれていった。
傷を癒し、戦線を支えるのが彼女の役割だ。
「次は異常の回復を」
そう呟いて、再度の祈り。
仲間たちの体を蝕む悪影響を取り除き、ふぅ、と小さな吐息をこぼす。どうやら状態異常の解除には成功したようだ。
そこで、ふと彼女は気づいた。
「……月?」
巨象や仲間たちを照らす白い光は、夜空から降り注いでいるものだ。
それは月の光。
巨象が現れるその時まで、そういえば月は出ていなかったのではないか?
そう思い、セアラは視線を足元へと落とす。
そこにはエルシーが放置していった、火の着いたカンテラが転がっていた。
●
巨象の動作は鈍い。
その身は土の塊だ。愚鈍であることは、当然ともいえる。
だが、しかし機敏な動作と引き換えに手に入れた巨体と重さは脅威である。
要するに、巨人の攻撃はダメージが大きいのである。
「ですが、再生は間に合っていない様子……このまま削り切れば」
仲間たちへと回復術を行使しつつ、セアラは冷静に戦況を分析する。
既に巨象の両足は失われて久しい。
腕も片方落ちている。
胴体にはまだ大量の土が残っているが、それさえ削り切れれば本体である石像へと届くはずだ、と彼女は認識した。
「皆さん、頑張って……できればなるべく速やかに」
エルシーの身を苛む【カース】の状態異常を解除しながら、セアラはそう呟いた。
回復役に徹していた彼女の魔力は、そろそろ限界に近かった。
果たして、セアラの祈りが通じたわけでもあるまいが。
「よっしゃ、行くぜ! 石像まで壊れちまったら、ごめんな!」
にぃ、と獰猛な笑みを浮かべてジーニーは叫ぶ。
その身は痣だらけ。そして血まみれ。
ダメージを受け続け、そして回復を拒み続けた彼女の体力は既に残り僅かであった。
だが、しかし。
だからこそ発動可能な【バーサーク】というスキルを彼女は取得している。
纏う闘気が上昇し、ジーニーの全身に力が漲る。
まるで理性を失ったかのように。
雄たけびと共に、ただがむしゃらに戦斧を振り回す。
「無茶苦茶するわね。石像は無傷でお返ししたいのだけど」
と、口ではそう言いつつも、エルシーもまたジーニーの猛攻に呼応するように殴打の嵐を巨象の胴へと叩き込む。
砕け散る土砂が頬を傷つけ、腹部を打つが、彼女は決して後退しない。
そんな2人へ向けて振り下ろされる巨象の剛腕は、キースのマゴーシュが受け流す。
「こちらは任せてもらおう。2人は攻撃に集中してくれ」
「「言われなくとも!」」
と、同時に叫び2人のラッシュは加速した。
わずかに離れた位置から、戦況を観察するオルパは静かに集中を高めている。
巨象の本体が顕になったその時、即座にトドメを刺すためだ。
「可憐な女性に戦わせてばかりなのは、気が引けるがな」
と、苦笑とともに言葉を零したその直後。
「あああああああ!」
エルシーの咆哮が、巨象の胴を大きく抉る。
そして……。
「これで終わりにしようじゃないか」
タン、と地面を蹴り飛ばし。
むき出しになった石像へ向け、オルパはダガーを振りぬいた。
かくして石像は真っ二つに割れ、土の巨象は崩れ落ちる。
「歴史的な遺物だったそうですが……これでは」
割れた巨象を拾い上げ、セアラはそう呟いた。
元の持ち主になんと報告したものか……と、頭を悩ませるのである。
とある小さな村で、少女が1人命を落とした。
現場に残されたのは巨大かつ、大質量の何かに押し潰された哀れな遺体。
その傍ら散らばる大量の土。
一方、現場から消えてしまったものは1つの石像。
それはメイドが元の雇い主である富豪アンリカの元から盗み出したものだった。
その像は、大昔の儀式で使われていたものだという。
果たして、件のメイドは何に殺害されたのか。
目撃者が見た巨大な“何か”の正体とは……。
村人たちは、メイドを殺した“何か”を恐れ、近くの村へ避難している。
まるで廃墟のような村へ、足を踏み入れたのは5人の自由騎士だった。
先頭を歩く赤毛の女性『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が、髪を掻きあげため息を零す。
「アンリカさんに話を聞いたけど、これといった情報は得られなかったわ。少なくともアンリカさんの屋敷にあった間は、ごく普通の石像だったそうだけど」
「だが現に石像は行方不明……普通の石像が勝手に移動するはずがない。という事はイブリース化していると考えるのが打倒だろう」
村の様子を睥睨しつつ『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は言葉を紡ぐ。
石像の在り処を探しているのだろうが、一見して村に変化や異常は見られない。活動には何かしらの条件があるのだろうか、などとオルパは思案した。
「ま、とにかく事件現場に行ってみようよ」
そう言って『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は村の一角を指さして見せる。
そちらへ目を向け、オルパはわずかに顔をしかめた。
メイドの死から時間は経過しているはずだが、その方向からは確かに濃い血の匂いが漂っていた。
「バーバラ氏もイブリースの仕業とみているから、その線で捜査を進めるべきだろうな」
と、そう呟いてキース・オーティス(CL3000664)は腰のレイピアに手をかけた。その表情からは、わずかな緊張が伺える。
実戦経験の少ない彼にとって、正体不明の“何か”は油断ならない相手なのであった。
事件現場……つまりはメイドの家である。
その場に残された大量の土くれを手に取ってセアラ・ラングフォード(CL3000634)は顔を近づける。
「土自体はごく普通の……いえ、これは家の壁に使われている土?」
家屋の中に散らばった大量の土と、床に残った血の痕跡。
壁の一部は崩落している。
おそらく、件の目撃者は砕けた壁の向こうから“何か”の犯行現場を目にしたのだろう。
家の中はめちゃくちゃだ。テーブルや椅子、花瓶に食器、棚に至るまでが砕けて床に散らばっていた。
家屋の内部を観察する仲間たちを押しのけるようにして、ジーニーは血痕の傍へと近づいていく。
「こういうのは、直接自分で見るのがてっとり早いって。『見ると聞くとは大違い』って言うしさ!」
と、そう宣言し、彼女はカッと目を見開いた。
●
ジーニーが行使したスキルの名は【慚愧の瞳】と呼ばれるものだ。
人が死したその場所で、犠牲者の最後の1分間の記憶を垣間見ることを可能とする。
「それじゃ行くぜ。我が瞳よ、この場に残された記憶を我に見せよ!」
左の目を手で覆い、赤い右目を光らせる。
瞬間、ジーニーの脳裏へ死者の記憶が流れ込む。
暗い部屋。
ガタン、と物音に反応し目を覚ましたメイドの視界に巨大な影が映り込む。
月明りに浮かぶシルエットは人のそれに似ていた。
だが、その背丈は3メートルを超えている。
短い脚に、太い胴体。胴と一体化したような平たく潰れた頭部。
そして、床に届くほどに長い腕。
「あ……え?」
悲鳴をあげる暇もなく。
メイドの頭部目掛け、巨大な拳が振り下ろされた。
「うぇ……ぐちゃ、って。自分の頭が潰れる音を聞いちゃったぜ」
顔をしかめ、ジーニーはそう呟いた。
それから、メイドの見た最後の記憶を仲間たちへと伝える。
「3メートルほどの巨体……例えば、ここに散らばった土を積み上げればそれぐらいの大きさになるのではないか?」
床に散らばった土と、崩落した壁を交互に見やりキースは言う。
その言葉を受け、セアラはある仮説を立てた。
「石像は、土を纏う……あるいは操っている?」
だとするならば、その大きさは自由自在ということになる。
「だが、今のところ活動はしていないようだった」
「とりあえず、夜まで待機していましょうか」
オルパとエルシーはそう結論を出し、メイドの家から外に出る。
血の匂いに包まれながら、のんびりとする趣味はないのだ。
今のうちに、石像の所在を探しておこう、とそういった目的もある。
西の空へ日が沈む。
夜の訪れ。
5人はメイドの家を出て、村の捜索を開始した。
日中、村中を散策して回ったが件の石像は発見できなかった。
「石像が動き出すのは、夜に限定しているかもしれん」
オルパの仮定は、果たして正か。
捜索を始めて1時間ほど……小さな村を4周ほど回ったところで、異変は起きた。
ズズ、と。
突如大きく、地面が揺れた。
「来ます……戦闘のご用意を!」
そう言ってセアラは胸の前で手を組んだ。
まるで何かに祈るかのような姿勢。セアラの周囲に、淡い燐光が舞い踊る。それは自然に存在する無形の魔力を癒しの力へと変じたものだ。
ふわり、と燐光は風に運ばれるようにして仲間たちへと降り注ぐ。
セアラの言葉を聞くまでもなく、仲間たちは各々の戦闘態勢を整える。
「痺れを切らして出て来たか……それとも、何か条件を満たしたか?」
左右の手にレイピアとマンゴーシュを握ったキースが、音の出どころ……つまりは村の中央広場の方向へと視線を向けた。
中央広場の地面が抉れ……否、土が何かに吸い寄せられるようにして一か所へと集まっているのだ。
堆積した土砂が形作るは歪な人型。
現れたのは、4メートル近い巨躯を持った土くれの巨人。
「きっと村のどこかに石像はあるはずと思っていましたが……なるほど、地面の中に埋まっていたのね」
朱色の籠手で覆われた拳を打ち鳴らし、エルシーは姿勢を低くする。
見るものが見れば、その全身にじわじわと力が充填されていることがわかるだろう。
例えるならば、今の彼女は限界まで引き絞られた弓矢のような状態である。
土の巨象の現れと共に、動き出した者たちがいた。
「先制はいただくぞ」
抉れた地面を避けるように、大きく迂回し巨象の背後へと回り込んだオルパは、2本のダガーでその背中から頭部にかけてを切り裂いた。
スキルで補助されたこともあり狙いは正確……けれど。
「ちっ、硬いな」
ダガーでは、土の一部を削る程度のダメージしか与えられない。ましてや、おそらくは巨象の本体は内部に埋もれた件の石像。
土の体はいわば鎧か外装のようなものなのだろう。
生憎と状態異常の付与にも失敗したようだが、それでも巨象の気を引くことには成功した。
ゆっくりと、オルパへ向き直る巨象の足元に金髪を靡かせジーニーが迫る。
足を地面に固定し、戦斧を大きく背後へと振りかぶったその姿はまさに戦鬼。
「敵が現れたってんなら、とにかく突撃して考えるのはあと!」
咆哮と共に、ジーニーが斧を振り抜いた。
風が唸る。
全身にみなぎる闘気を乗せた渾身の一撃が、巨象の短い脚を穿った。
ズドン、と地面が揺れるほどの衝撃。
片足を失った巨象が傾ぐ。
長い腕をジーニー目掛け振り下ろすが……。
「私を圧殺できるものならやってみな! パワー勝負なら負けないぜ!」
引き戻した斧を使って、彼女は巨象の拳を受け止めた。
いかにジーニーの力が常軌を逸しているとはいえ、やはり質量の差はいかんともし難いものがある。
巨象の拳を叩きつけられたジーニーは、地面に半ば埋もれるようにして倒れ伏していた。
意識はあるようだが、その額からは血が流れている。
「体が重たい……」
呻くようにそう呟いたジーニーの目の前で、巨象の足が再生していく。
月を背にしたシルエット。
なるほどこれが……とジーニーは思う。
圧殺されたメイドが最後に見た光景と、目の前のそれは酷似していた。
巨象に取り付くようにして、オルパはダガーを振るい続ける。
頭部を、肩を、背を、腰を。
次々と鋭い刃が抉る。
けれど巨象は止まらない。
元より痛みなど感じる機能が、土の体にあるとは思えない。
ならば、巨象を止める術があるとすれば……それは一つ。
「でかければそれだけ攻撃を当てやすいって事でしょ」
疾駆する赤い影。
咆哮をあびた巨象の体が、ボロボロと崩れる。
駆ける勢いそのままに、エルシーの拳が巨象の腹部を打ち抜いた。
後方へよろけた巨象の胸に、スタンと軽い音を立て着地。獰猛な笑みを浮かべ、さらに追い打ちの拳を放つ。
飛び散った土砂が、エルシーの頬を傷つけるが、彼女はしかし止まらない。
オルパと共に放たれるラッシュが、巨象の体を削っていく。
地面が揺れる。
巨象の拳が地面を叩いた。
衝撃に、オルパとエルシーの姿勢が崩れる。
その一瞬の隙を突き、巨象は両の腕を振り回す。
土の腕に弾かれて、2人の体が宙を舞う。空中で身動きの取れない2人を狙って、巨象はその剛腕を振るった。
その瞬間……。
「イブリース相手だ。正々堂々もあるまいよ」
淡々と紡がれる低い声。
鋭く閃くレイピアが、オルパの攻撃で削られていた巨象の肩を刺し貫いた。
殴打の勢いを支えきれず、巨象の腕が根元から落ちる。
混戦の最中、側面より巨象へ迫ったキースの刺突が仲間たちの窮地を救ったのであった。
だが、しかし……。
「ぐっ……」
巨象は即座に、ターゲットをキースへ移す。
キースが受けた攻撃は、ただただ単純な体当たり。
実戦経験の乏しさからか、キースは不意の攻撃をさばききることができず、その身は地面に叩きつけられた。
「まだまだ経験を積まねばな……」
口の端から血を零しながら、キースはゆっくりと立ち上がる。
取り落としたレイピアを拾い上げ、その視線を巨象へと向けた。
彼の戦意は、いまだに健在。
戦線に復帰した仲間たちと共に、再び巨象へと立ち向かう。
薄く目を閉じ、セアラは静かに祈りを捧げる。
どうか仲間たちの傷を癒し、この村に再び平和な時を取り戻さんことを……と。
セアラの周囲を渦巻く魔力は、淡い燐光へと変わり。
風に舞うように……ゆっくりと仲間たちの体へ吸い込まれていった。
傷を癒し、戦線を支えるのが彼女の役割だ。
「次は異常の回復を」
そう呟いて、再度の祈り。
仲間たちの体を蝕む悪影響を取り除き、ふぅ、と小さな吐息をこぼす。どうやら状態異常の解除には成功したようだ。
そこで、ふと彼女は気づいた。
「……月?」
巨象や仲間たちを照らす白い光は、夜空から降り注いでいるものだ。
それは月の光。
巨象が現れるその時まで、そういえば月は出ていなかったのではないか?
そう思い、セアラは視線を足元へと落とす。
そこにはエルシーが放置していった、火の着いたカンテラが転がっていた。
●
巨象の動作は鈍い。
その身は土の塊だ。愚鈍であることは、当然ともいえる。
だが、しかし機敏な動作と引き換えに手に入れた巨体と重さは脅威である。
要するに、巨人の攻撃はダメージが大きいのである。
「ですが、再生は間に合っていない様子……このまま削り切れば」
仲間たちへと回復術を行使しつつ、セアラは冷静に戦況を分析する。
既に巨象の両足は失われて久しい。
腕も片方落ちている。
胴体にはまだ大量の土が残っているが、それさえ削り切れれば本体である石像へと届くはずだ、と彼女は認識した。
「皆さん、頑張って……できればなるべく速やかに」
エルシーの身を苛む【カース】の状態異常を解除しながら、セアラはそう呟いた。
回復役に徹していた彼女の魔力は、そろそろ限界に近かった。
果たして、セアラの祈りが通じたわけでもあるまいが。
「よっしゃ、行くぜ! 石像まで壊れちまったら、ごめんな!」
にぃ、と獰猛な笑みを浮かべてジーニーは叫ぶ。
その身は痣だらけ。そして血まみれ。
ダメージを受け続け、そして回復を拒み続けた彼女の体力は既に残り僅かであった。
だが、しかし。
だからこそ発動可能な【バーサーク】というスキルを彼女は取得している。
纏う闘気が上昇し、ジーニーの全身に力が漲る。
まるで理性を失ったかのように。
雄たけびと共に、ただがむしゃらに戦斧を振り回す。
「無茶苦茶するわね。石像は無傷でお返ししたいのだけど」
と、口ではそう言いつつも、エルシーもまたジーニーの猛攻に呼応するように殴打の嵐を巨象の胴へと叩き込む。
砕け散る土砂が頬を傷つけ、腹部を打つが、彼女は決して後退しない。
そんな2人へ向けて振り下ろされる巨象の剛腕は、キースのマゴーシュが受け流す。
「こちらは任せてもらおう。2人は攻撃に集中してくれ」
「「言われなくとも!」」
と、同時に叫び2人のラッシュは加速した。
わずかに離れた位置から、戦況を観察するオルパは静かに集中を高めている。
巨象の本体が顕になったその時、即座にトドメを刺すためだ。
「可憐な女性に戦わせてばかりなのは、気が引けるがな」
と、苦笑とともに言葉を零したその直後。
「あああああああ!」
エルシーの咆哮が、巨象の胴を大きく抉る。
そして……。
「これで終わりにしようじゃないか」
タン、と地面を蹴り飛ばし。
むき出しになった石像へ向け、オルパはダガーを振りぬいた。
かくして石像は真っ二つに割れ、土の巨象は崩れ落ちる。
「歴史的な遺物だったそうですが……これでは」
割れた巨象を拾い上げ、セアラはそう呟いた。
元の持ち主になんと報告したものか……と、頭を悩ませるのである。